JP6971587B2 - 光学素子及びその製造方法、光学機器 - Google Patents
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Description
(イ)光線有効部に、入射した光の透過率を向上させ、反射率を低減する反射防止手段を形成して有害光の発生を防止する。
(ロ)非光線有効部となるコバ部に、光の吸収率を向上させ、反射率を低減する反射防止手段を形成して有害光の発生を防止する。
従来から、(イ)の方法としては、誘電体薄膜を多層積層した、一般にマルチコートと呼ばれる反射防止膜を形成する方法が広く利用されている。それ以外の方法として、アルミニウムの水酸化酸化物であるベーマイトを基材上に成長させて反射防止効果を得ることも知られている。後者の方法では、真空成膜法或いは液相法(ゾルゲル法)により成膜し、乾燥又は焼成して得られた酸化アルミニウム膜を、水蒸気処理或いは温水へ浸漬することにより、表層をベーマイト化して使用波長以下の微細凹凸構造を形成し、反射防止膜を得ている。
(ロ)の方法としては、遮光膜をコバ部に形成する方法が一般的に用いられている。また、散乱による遮光機能アップと遮光膜の密着力アップのために、コバ部を算術平均粗さRaが1μmから50μm程度の粗面としている。また、該粗面上に形成される遮光膜の端部と該粗面の端部とを完全に一致させることが実質的に不可能であるため、該遮光膜は、その端部を平滑面の一部にまで延設して形成されている。
また、(イ)の光線有効部と(ロ)の非光線有効部との境界部では反射防止膜と遮光膜の間で膜のない隙間ができてしまうと、強い有害光が発生してしまうため、それを防止するために反射防止膜と遮光膜とが互いに積層するように形成されている。反射防止膜と遮光膜の積層する順番としては、反射防止膜と光学素子の基材との屈折率差を小さくすることでより反射を抑えることができるため、該基材の上に反射防止膜を形成し、その上に遮光膜を形成する方法が一般的に用いられてきた。
近年、更なる反射防止膜の高性能化のために、上記マルチコート反射防止膜ではなく使用波長以下の微細な凹凸構造を有する反射防止膜を形成する方法も利用されるようになってきた。特許文献1には、光線有効部の反射防止手段として表面に微細凹凸構造を有する反射防止膜を備え、光線有効部の周囲の非光線有効部に遮光膜を形成し、該遮光膜の端部を光線有効部にまで延設して反射防止膜の端部上に積層させた構成が開示されている。
本発明の課題は、上記問題を解決し、微細凹凸構造を有する反射防止膜と遮光膜とを平滑面上で互いの端部が重なるように形成した光学素子において、反射防止膜の膜浮きや膜剥がれを抑制することにある。また、本発明の課題は、係る光学素子を用いることにより、光学機器におけるゴーストやフレアを抑制することにある。
前記レンズ基材の前記第1面の上と、前記第2面の上と、に連続して形成され、前記レンズ基材とは反対側の表面に微細凹凸構造を有し、反射防止膜として機能する第1膜と、
少なくとも前記第2面の上と、前記第1面の一部の上と、に連続して形成され、前記第1膜の一部を覆う、遮光膜として機能する不透明な第2膜と、を有する光学素子であって、
前記第1膜のうち前記第1面の上にて前記第2膜で覆われた第1領域における、前記微細凹凸構造の高さが、前記第1膜のうち前記第1面の上にて前記第2膜で覆われていない第2領域における、前記微細凹凸構造の高さよりも小さく、かつ、50nm以下であることを特徴とする。
本発明の第二は、光学素子の製造方法であって、
平滑面である第1面と、前記第1面よりも粗い第2面と、を少なくとも一方の表面に有するレンズ基材の上に、前記第1面と、前記第2面の一部と、に連続して、表面に微細凹凸構造を有する第1膜を形成する工程と、
少なくとも前記第2面の上と、前記第1面の一部の上と、に前記第1膜の一部を覆うように、遮光塗料を塗布する工程と、
前記第1面上の前記第1膜上に塗布された前記遮光塗料に弾性部材を接触させた後、前記遮光塗料を硬化させて第2膜を形成する工程と、を有し、
前記第1膜は反射防止膜として機能し、前記第1面上で前記第1膜と前記第2膜とが重なった領域において、前記微細凹凸構造の高さが50nm以下であることを特徴とする。
本発明の第三は、上記本発明の第一の光学素子を備えたことを特徴とする光学機器である。
本発明の光学素子は、図1に示すように、レンズ基材(基材)1の一方の表面に平滑面(第1面)1aと、該平滑面1aの外周を囲む粗面(第2面)1bと、を有する。平滑面1aは光線有効部であり、粗面1bは非光線有効部であるコバ部である。また、図1の実施形態の平面形状は円形である。本発明においては、平滑面1aと、粗面1bの一部と、に連続して反射防止膜(第1膜)3が形成されており、反射防止膜3は、図2に示すように、レンズ基材1とは反対側の表面に微細凹凸構造を有している。また、粗面1bと、平滑面1aの一部と、に連続して遮光膜(第2膜)2が形成されており、該遮光膜2の端部は反射防止膜3の外周縁を覆っている。よって、平滑面上において、反射防止膜3の端部と遮光膜2の端部とが互いに重なっている。尚、本実施形態においては、レンズ基材1の側面も粗面1cとし、係る粗面1cにも遮光膜2を形成することで、係る側面における有害光の発生を抑制している。
遮光膜2の形成方法としては、使用波長において不透明な遮光塗料を塗布、乾燥させ硬化させることで形成する。塗布方法としては、刷毛塗りやインクジェット、ジェットディスペンサー、ダイコート等から適宜選択される。乾燥・硬化方法としては熱プロセスが好ましいが、同様の遮光膜が得られる方法であれば特に限定されない。
(1)SEM、STEM、TEMのいずれかの画像より、左から右にかけてレンズ基材1、反射防止膜3の下部、反射防止膜3の上部(微細凹凸構造)、遮光膜2の順に直列で並ぶように該当場所を切り出す。
(2)画像ソフト(Imaeg J)を用いて、切り出した画像の輝度値を縦割で平均化し、横軸に長さ(膜厚)、縦軸に平均化された輝度値を取るグラフを得る。
(3)画像とグラフを照らし合わせながら、微細凹凸構造を含む反射防止膜3の全体膜厚と微細凹凸構造部分の高さを算出する。
図1に示した形状を有するレンズ基材1として、(株)オハラ製「S−LaH53」(屈折率nd=1.8)からなり、外径が66mm、内径が34mm、外周及び側面に算術平均粗さRaが1乃至50μmの粗面1b、1cを有するレンズを用いた。係るレンズをアルカリ洗剤中で超音波洗浄した後、オーブン中で乾燥し、その後、該レンズに酸化アルミニウム前駆体ゾルを適量滴下し、回転数を3000rpmとして20秒間スピンコートを行った。その後2−エチルブタノール溶剤をスポンジ(商品名:ソフラス)に染み込ませた後、粗面1bの外周縁部を拭き取り、その後140℃の熱風循環オーブンで30分焼成し、非晶性酸化アルミニウム膜を被膜した。その後、75℃の温水に20分浸漬することで、微細凹凸構造を有する反射防止膜3を形成した。
先ず、遮光塗料の主剤について説明する。プロピレングリコールモノメチルエーテル42.9g、分散剤、屈折率(nd)が2.2以上のチタニア微粒子(テイカ(株)製「MT−05」)14.3gをビーズミル(寿工業(株)製「ウルトラアペックスミル」)と直径50μmのビーズを用いて分散させた。これにより、得られた個数平均粒子径が20nmのチタニア微粒子のスラリー57.2g、エポキシ樹脂A21g、カップリング剤1g、着色剤13g、プロピレングリコールモノメチルエーテル40gをそれぞれ計量してボールミルポットの中に入れた。続いて、ボールミルポットの中に直径20mmの磁性ボールを5個入れ、ロールコーターにセットし、48時間攪拌し、遮光塗料の主剤を得た。尚、エポキシ樹脂Aとしては、4,4’−イソプロピリデンジフェノールと1−クロロ−2,3−エポキシプロパンの重縮合物(三菱化学(株)製「エピコート828」)を用いた。カップリング剤はエポキシ系シランカップリング剤(信越シリコーン製「KBM403」)を用いた。また、着色剤としては、黒色染料、赤色染料、黄色染料、青色染料を混合して用いた。黒色染料については、オリエント化学工業(株)製「VALIFAST BLACK 1821」を、赤色染料については、オリエント化学(株)製「VALIFAST RED 3320」を用いた。黄色染料については、オリエント化学(株)製「OIL YELLOW 129、VALIFAST YELLOW 3108」を、青色染料については、オリエント化学(株)製「VALIFASTBLUE1605」を用いた。
得られた光学素子の平滑面1aの端部において、遮光膜2の端部から粗面1bに向けて200乃至300nmの位置で画像が取得できた場所における、反射防止膜3の全体膜厚と微細凹凸構造部分の高さをFIB加工後の断面STEM画像により測定した。反射防止膜3の全体膜厚は141.8nm、微細凹凸構造部分の高さは49.6nmであった。また、遮光膜2が積層されていない平滑面1a上の反射防止膜3の全体膜厚は324nmであり、測定部分における反射防止膜3を含む遮光膜の膜厚は1.2μmであった。
得られた光学素子を温度60℃湿度90%となる環境下に1000時間置く高温高湿の信頼性試験を行った後、FIB加工後の断面STEM画像において平滑面1aの端部を確認したところ、膜浮き・膜剥がれが共に起きていないことが確認できた。
酸化アルミニウム前駆体ゾルをレンズ上にスピンコートする際の回転数を4500rpmにした以外は実施例1と同様の条件で光学素子を作製し、実施例1と同様にして各箇所の測定・算出を行った。また、実施例1と同様にして信頼性試験を行い、平滑面1aの端部を確認したところ、膜浮き・膜剥がれともに起きていないことが確認できた。
酸化アルミニウム前駆体ゾルをレンズ上にスピンコートする際の回転数を2000rpmにした以外は実施例1と同様の条件で光学素子を作製し、実施例1と同様にして各箇所の測定・算出を行った。また、実施例1と同様にして信頼性試験を行い、平滑面1aの端部を確認したところ、膜浮き・膜剥がれともに起きていないことが確認できた。
遮光塗料としてキヤノン化成(株)製「GT−7」を用いて、レンズへの塗布時に粗面1b、1cに対しては刷毛塗りを行った以外は実施例1と同様の条件で光学素子を作製し、実施例1と同様にして各箇所の測定・算出を行った。また、実施例1と同様にして信頼性試験を行い、平滑面1aの端部を確認したところ、膜浮き・膜剥がれともに起きていないことが確認できた。
遮光塗料としてキヤノン化成(株)製「GT−7II」を用いた以外は実施例4と同様の条件でレンズを作製し、実施例1と同様にして各箇所の測定・算出を行った。また、実施例1と同様にして信頼性試験を行い、平滑面1aの端部を確認したところ、膜浮き・膜剥がれともに起きていないことが確認できた。
遮光塗料としてキヤノン化成(株)製「GT−1000」を用いた以外は実施例4と同様の条件でレンズを作製し、実施例1と同様にして各箇所の測定・算出を行った。また、実施例1と同様にして信頼性試験を行い、平滑面1aの端部を確認したところ、膜浮き・膜剥がれともに起きていないことが確認できた。
遮光塗料として大橋化学工業(株)製「OK−602−C」を用いた以外は実施例4と同様の条件でレンズを作製し、実施例1と同様にして各箇所の測定・算出を行った。また、実施例1と同様にして信頼性試験を行い、平滑面1aの端部を確認したところ、膜浮き・膜剥がれともに起きていないことが確認できた。
レンズへの遮光塗料の塗布方法を刷毛塗りのみで行い、弾性部材を用いなかった以外は実施例1と同様の条件でレンズを作製し、実施例1と同様にして各箇所の測定・算出を行った。また、実施例1と同様にして信頼性試験を行い、平滑面1aの端部を確認したところ、膜剥がれが発見された。
酸化アルミニウム前駆体ゾルをレンズ上にスピンコートする際の回転数を2500rpmにした以外は比較例1と同様の条件で光学素子を作製し、実施例1と同様にして各箇所の測定・算出を行った。また、実施例1と同様にして信頼性試験を行い、平滑面1aの端部を確認したところ、膜剥がれが発見された。
酸化アルミニウム前駆体ゾルをレンズ上にスピンコートする際の回転数を4500rpmにした以外は比較例1と同様の条件で光学素子を作製し、実施例1と同様にして各箇所の測定・算出を行った。また、実施例1と同様にして信頼性試験を行い、平滑面1aの端部を確認したところ、膜剥がれが発見された。
遮光塗料としてキヤノン化成(株)製「GT−7II」を用いた以外は実施例4と同様の条件でレンズを作製し、実施例1と同様にして各箇所の測定・算出を行った。また、実施例1と同様にして信頼性試験を行い、平滑面1aの端部を確認したところ、膜剥がれが発見された。
Claims (11)
- 平滑面である第1面と、前記第1面よりも粗い第2面と、を少なくとも一方の表面に有するレンズ基材と、
前記レンズ基材の前記第1面の上と、前記第2面の上と、に連続して形成され、前記レンズ基材とは反対側の表面に微細凹凸構造を有し、反射防止膜として機能する第1膜と、
少なくとも前記第2面の上と、前記第1面の一部の上と、に連続して形成され、前記第1膜の一部を覆う、遮光膜として機能する不透明な第2膜と、を有する光学素子であって、
前記第1膜のうち前記第1面の上にて前記第2膜で覆われた第1領域における、前記微細凹凸構造の高さが、前記第1膜のうち前記第1面の上にて前記第2膜で覆われていない第2領域における、前記微細凹凸構造の高さよりも小さく、かつ、50nm以下であることを特徴とする光学素子。 - 前記第2領域における、前記第1膜の厚さが251乃至413nmであることを特徴とする請求項1に記載の光学素子。
- 前記第1膜のうち前記第2面の上にて前記第2膜で覆われた第3領域における、前記第1膜の厚さが、前記第2領域における、前記第1膜の厚さよりも小さいことを特徴とする請求項1又は2に記載の光学素子。
- 前記第2面の上における、前記第2膜の厚さが3乃至50μmであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の光学素子。
- 前記第1面上の前記第2膜の端部から50μmの地点での前記第2膜の膜厚が3μm以上であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の光学素子。
- 前記第1膜の主成分がアルミナであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の光学素子。
- 前記第2面の算術平均粗さRaが1乃至50μmであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の光学素子。
- 前記レンズ基材の材料がガラスであることを特徴する請求項1乃至7のいずれか一項に記載の光学素子。
- 光学素子の製造方法であって、
平滑面である第1面と、前記第1面よりも粗い第2面と、を少なくとも一方の表面に有するレンズ基材の上に、前記第1面と、前記第2面の一部と、に連続して、表面に微細凹凸構造を有する第1膜を形成する工程と、
少なくとも前記第2面の上と、前記第1面の一部の上と、に前記第1膜の一部を覆うように、遮光塗料を塗布する工程と、
前記第1面上の前記第1膜上に塗布された前記遮光塗料に弾性部材を接触させた後、前記遮光塗料を硬化させて第2膜を形成する工程と、を有し、
前記第1膜は反射防止膜として機能し、前記第1面上で前記第1膜と前記第2膜とが重なった領域において、前記微細凹凸構造の高さが50nm以下であることを特徴とする光学素子の製造方法。 - 請求項1乃至8のいずれか一項に記載の光学素子を備えたことを特徴とする光学機器。
- 前記光学機器が、カメラ、双眼鏡、顕微鏡および半導体露光装置のいずれかであることを特徴とする請求項10に記載の光学機器。
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