JP6968321B1 - ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物の製造方法 - Google Patents
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Abstract
Description
また、PAS樹脂組成物の溶融粘度が低いと流動性が高いため、射出成形時において射出成形機のノズル先端からPAS樹脂組成物が漏れることがある。PAS樹脂組成物の漏れ量が多いと、漏れ出た樹脂組成物を除去してから新たに成形する必要があるため、PAS樹脂組成物を用いた成形品の生産効率が低く、成形品の連続成形性が問題となっている。
以上より、低溶融粘度のPAS樹脂とアルコキシシラン化合物とを併用した場合、PAS樹脂組成物の靭性及び連続成形性の低下が危惧される。
上記目的を達成する本発明の一態様は、以下のとおりである。
前記マスターバッチ中の前記アルコキシシラン化合物の一部を縮合させ、前記アルコキシシラン化合物の縮合物の比率を前記アルコキシシラン化合物の5質量%より大きく60質量%以下とする工程B、及び
前記工程Bで得られたマスターバッチであって、前記アルコキシシラン化合物の縮合物の比率が前記範囲内のマスターバッチと他の成分とを含有する原料を溶融混練する工程C、
を含む、ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物の製造方法。
すべてのポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対する、前記アルコキシシラン化合物と前記アルコキシシラン化合物の縮合物との総量が0.2質量部以上3.0質量部以下になるように、前記工程Cにおいて、前記工程Bで得られたマスターバッチと、前記工程Dで準備したポリアリーレンサルファイド樹脂とを含有する原料を溶融混練する、前記(1)に記載のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物の製造方法。
本実施形態のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物の製造方法は、温度310℃及びせん断速度1200sec−1で測定した溶融粘度が5Pa・s以上80Pa・s未満であるポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対して、0.2質量部以上50質量部以下のアルコキシシラン化合物を混合してマスターバッチを調製する工程Aを含む。また、マスターバッチ中のアルコキシシラン化合物の一部を縮合させ、アルコキシシラン化合物の縮合物の比率をアルコキシシラン化合物の5質量%より大きく60質量%以下とする工程Bを含む。さらに、工程Bで得られたマスターバッチであって、アルコキシシラン化合物の縮合物の比率が前記範囲内のマスターバッチと他の成分とを含有する原料を溶融混練する工程Cを含む。
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、PAS樹脂の溶融粘度が5Pa・s以上80Pa・s未満である場合において、アルコキシシラン化合物の縮合物を含むマスターバッチをPAS樹脂組成物の原料の一部として用いるとPAS樹脂組成物の溶融粘度が増大し、靭性が向上することを見出した。すなわち、低溶融粘度のPAS樹脂を用いたPAS樹脂組成物においては、アルコキシシラン化合物の縮合物が多いほど、溶融粘度が増大する傾向にあるという、従来とは逆の傾向を見出したのである。そして、靭性が向上したPAS樹脂組成物を成形用の原料として用いることで機械的特性等の高い物性を備える成形品を得ることができる。さらに本発明者は、アルコキシシラン化合物の縮合物は、一方で、射出成形時において、成形後、次の成形サイクル開始までに射出成形機のノズル先端から漏れる、PAS樹脂組成物量が増加する要因でもあることを見出した。そこで、本実施形態においては、アルコキシシラン化合物の縮合物の比率を規定することで、PAS樹脂組成物の靭性及び連続成形性の向上を図っている。
以下、各工程について説明する。
工程Aにおいては、温度310℃及びせん断速度1200sec−1で測定した溶融粘度が5Pa・s以上80Pa・s未満であるPAS樹脂100質量部に対して、0.2質量部以上50質量部以下のアルコキシシラン化合物を混合してマスターバッチを調製する。
以下に、工程Aで用いる原料について説明する。
(ポリアリーレンサルファイド樹脂)
PAS樹脂は、構造単位として、−(Ar−S)−を主として構成された樹脂である(Arはアリーレン基を表す)。本実施形態では、一般的に知られている分子構造のポリアリーレンサルファイド樹脂を使用することができる。例えば、アリーレン基として、p−フェニレン基、m−フェニレン基、及びo−フェニレン基等のフェニレン基、p,p’−ビフェニレン基、p,p’−ジフェニレンエーテル基、p,p’−ジフェニレンカルボニル基、p,p’−ジフェニレンスルホン基、及びナフチレン基等を使用することができる。
PAS樹脂は、−(Ar−S)−で表される構造単位の中で、同一の構造単位を用いたホモポリマーのほか、用途によっては異種の構造単位を含むコポリマーとすることができる。
p−フェニレンサルファイド基を70mol%以上含むポリマーがより好ましく、80mol%以上含むポリマーがさらに好ましい。なお、フェニレンサルファイド基を有するPAS樹脂は、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS樹脂)である。
なお、本実施形態においては、溶融粘度が80Pa・s未満のPAS樹脂とアルコキシシラン化合物とを用いた場合に起こり得る、靭性及び連続成形性が低下するという課題の解決を図ったものである。従って、溶融粘度が80Pa・s以上のPAS樹脂は本実施形態の対象外である。
アルコキシシラン化合物としては、特に限定されるものではなく、例えば、エポキシアルコキシシラン、アミノアルコキシシラン、ビニルアルコキシシラン、メルカプトアルコキシシラン等が挙げられ、これらの1種又は2種以上が用いられる。なお、アルコキシ基の炭素数は1〜10が好ましく、特に好ましくは1〜4である。
工程Bにおいては、マスターバッチ中のアルコキシシラン化合物の一部を縮合させ、アルコキシシラン化合物の縮合物の比率をアルコキシシラン化合物の5質量%より大きく60質量%以下とする。
また、上記(1)〜(3)の手法等により、アルコキシシラン化合物の縮合物を生成した後、新たにアルコキシシラン化合物を添加して、縮合物量比を下げることによっても、アルコキシシラン化合物の縮合物量を調整することができる。例えば、縮合物の比率が60質量%を超えても、さらにアルコキシシラン化合物を添加して、縮合物の比率を、最終的に5質量%より大きく60質量%以下に調整することができる。
なお、アルコキシシラン化合物はアセトンに可溶である一方で、アルコキシシラン化合物の縮合物は、アセトンに不溶である。
縮合物比(質量%)=(マスターバッチに含まれる、アルコキシシラン化合物中の縮合物の質量/マスターバッチ調製時に配合したアルコキシシラン化合物の質量)×100={[{質量D−(質量A+質量B)}−質量C×(1−E−F)]/(質量C×E)}×100
あるいは、工程A及び工程Bを終えた後、工程Cまでの期間が長い場合において、工程Bで得られたマスターバッチ中の縮合物の比率が変化しないように乾燥状態で保存することが好ましい。
もっとも、マスターバッチ中の縮合物の比率が変化した場合であっても、押出機へ投入する際のマスターバッチ中の縮合物量が規定範囲を満たしていればよい。例えば、 マスターバッチ中の縮合物中の縮合物の比率が増大した場合、押出機に投入する際、新たにアルコキシシラン化合物を添加して縮合物量の比率を下げることができる。
工程Cにおいては、工程Bで得られたマスターバッチと工程Bで得られたマスターバッチであって、アルコキシシラン化合物の縮合物の比率が前記範囲内のマスターバッチと他の成分とを含有する原料を溶融混練する。
他の成分は、PAS樹脂及びマスターバッチを配合して溶融混練する際に添加してもよい。また、当該他の添加剤等及びマスターバッチをドライブレンド等の方法で混合し、得られた混合物とPAS樹脂を配合し溶融混練してもよい。
工程Dにおいては、工程Aで用いたポリアリーレンサルファイド樹脂と同一の又は異なる新たなポリアリーレンサルファイド樹脂を準備する。そして、すべてのポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対する、アルコキシシラン化合物とアルコキシシラン化合物の縮合物との総量が0.2質量部以上3.0質量部以下になるように、工程Cにおいて、工程Bで得られたマスターバッチと、工程Dで準備したポリアリーレンサルファイド樹脂とを含有する原料を溶融混練する。尚、すべてのPAS樹脂とは、工程Aにおいてマスターバッチの調製に用いたPAS樹脂、及び工程Dで用いる新たなPAS樹脂である。
本実施形態においては、機械的物性の向上を図る観点から、PAS樹脂組成物中に無機充填剤を含むことが好ましい。無機充填剤としては、繊維状無機充填剤、板状無機充填剤、粉粒状無機充填剤が挙げられ、これらのうち1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
炭酸カルシウムの上市品の例としては、東洋ファインケミカル(株)製、ホワイトンP−30(平均粒子径(50%d):5μm)等が挙げられる。また、ガラスビーズの上市品の例としては、ポッターズ・バロティーニ(株)製、EGB731A(平均粒子径(50%d):20μm)、ポッターズ・バロティーニ(株)製、EMB−10(平均粒子径(50%d):5μm)等が挙げられる。
粉粒状無機充填剤においても、繊維状無機充填剤と同様に表面処理されていてもよい。
ガラスフレークの上市品の例としては、日本板硝子(株)製、REFG−108(平均粒子径(50%d):623μm)、(日本板硝子(株)製、ファインフレーク(平均粒子径(50%d):169μm)、日本板硝子(株)製、REFG−301(平均粒子径(50%d):155μm)、日本板硝子(株)製、REFG−401(平均粒子径(50%d):310μm)等が挙げられる。
タルクの上市品の例としては、松村産業(株)製 クラウンタルクPP、林化成(株)製 タルカンパウダーPKNN等が挙げられる。
板状無機フィラーにおいても、繊維状無機充填剤と同様に表面処理されていてもよい。
PAS樹脂組成物は、本実施形態による効果(具体的には、優れた靭性及び連続成形性)を阻害しない範囲で、その目的に応じた所望の特性を付与するために、一般に熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂に添加される公知の添加剤を、要求性能に応じ含有することができる。添加剤としては、バリ抑制剤(但し、アルコキシシラン化合物を除く)、離型剤、潤滑剤、可塑剤、難燃剤、染料や顔料等の着色剤、結晶化促進剤、結晶核剤、各種酸化防止剤、熱安定剤、耐候性安定剤、腐食防止剤等を挙げることができる。バリ抑制剤(但し、アルコキシシランを除く)としては、例えば、国際公開第2006/068161号や国際公開第2006/068159号等に記載されているような、溶融粘度が非常に高い分岐型ポリフェニレンサルファイド系樹脂等を挙げることができる。離型剤としては、ポリエチレンワックス、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド等を挙げることができる。結晶核剤としては、窒化ホウ素、タルク、カオリン、カーボンブラック、カーボンナノチューブ等を挙げることができる。腐食防止剤としては、酸化亜鉛、炭酸亜鉛等を挙げることができる。上記添加剤の含有量は、全樹脂組成物中5質量%以下にすることができる。
PPS樹脂((株)クレハ製、フォートロンKPS(溶融粘度:30Pa・s(せん断速度:1200sec−1、310℃))100質量部と、アルコキシシラン化合物(γ−アミノプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業(株)製「KBE−903P」))11.5質量部と、を混合してマスターバッチを調製し、温度40℃、湿度80%の環境に10分間さらした。マスターバッチにおけるアルコキシシラン化合物中の縮合物比は、18質量%であった。なお、以降に記載する縮合物量は上述同様、温度40℃、湿度80%の環境においてさらす時間を適宜変更することで調製した。
次に、PPS樹脂((株)クレハ製、フォートロンKPS(溶融粘度:30Pa・s(せん断速度:1200sec−1、310℃))100質量部、上記で調整したマスターバッチ10.7質量部、ガラス繊維(オーウェンス コーニング ジャパン合同会社製、チョップドストランド、直径10.5μm、長さ3mm)74質量部(ガラス繊維は押出機のサイドフィード部より別添加)シリンダー温度320℃の二軸押出機に投入して溶融混練することで、樹脂組成物を得た。
上記PPS樹脂の溶融粘度は以下のようにして測定した。
(株)東洋精機製作所製キャピログラフを用い、キャピラリーとして1mmφ×20mmLのフラットダイを使用し、バレル温度310℃、せん断速度1200sec−1での溶融粘度を測定した。
マスターバッチにおけるアルコキシシラン化合物中の縮合物比を表1に示す比率にした以外は実施例1と同様の条件で各樹脂組成物を得た。
得られた各樹脂組成物において、(株)東洋精機製作所製キャピログラフを用い、キャピラリーとして1mmφ×20mmのフラットダイを使用し、バレル温度310℃、せん断速度1000sec−1での溶融粘度を測定した。
得られた各樹脂組成物を用い、射出成形にて、シリンダー温度320℃、金型温度150℃で厚さ2mmのダンベル試験片(厚さ以外はISO3167に準拠)を作製した。この試験片を用い、ISO527−1,2に準拠して、引張歪を測定した。
得られた各樹脂組成物において、射出成形後における射出成形機(東芝機械株式会社製「EC60Ni1.5A」)のノズル先端から漏れる樹脂組成物量について評価した。評価方法を以下に示す。
各実施例において、PPS樹脂を、(株)クレハ製、フォートロンKPS(溶融粘度:60Pa・s(せん断速度:1200sec−1、310℃))に変更したこと、及びマスターバッチにおけるアルコキシシラン化合物中の縮合物比を表2に示す比率にした以外は実施例1と同様の条件で各樹脂組成物を得た。また、実施例1と同様の評価を行った。評価結果を表2に示す。
PPS樹脂を、(株)クレハ製、フォートロンKPS(溶融粘度:100Pa・s(せん断速度:1200sec−1、310℃))に変更したこと、及びマスターバッチにおけるアルコキシシラン化合物中の縮合物比を表3に示す比率にした以外は実施例1と同様の条件で各樹脂組成物を得た。また、実施例1と同様の評価を行った。評価結果を表3に示す。
Claims (5)
- 温度310℃及びせん断速度1200sec−1で測定した溶融粘度が5Pa・s以上80Pa・s未満であるポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対して、0.2質量部以上50質量部以下のアルコキシシラン化合物を混合してマスターバッチを調製する工程A、
前記マスターバッチ中の前記アルコキシシラン化合物の一部を縮合させ、前記アルコキシシラン化合物の縮合物の比率を前記アルコキシシラン化合物の5質量%より大きく60質量%以下とする工程B、及び
前記工程Bで得られたマスターバッチであって、前記アルコキシシラン化合物の縮合物の比率が前記範囲内のマスターバッチと他の成分とを含有する原料を溶融混練する工程C、
を含む、ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物の製造方法。 - 前記工程Aで用いたポリアリーレンサルファイド樹脂と同一の又は異なる新たなポリアリーレンサルファイド樹脂を準備する工程Dをさらに含み、
すべてのポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対する、前記アルコキシシラン化合物と前記アルコキシシラン化合物の縮合物との総量が0.2質量部以上3.0質量部以下になるように、前記工程Cにおいて、前記工程Bで得られたマスターバッチと、前記工程Dで準備したポリアリーレンサルファイド樹脂とを含有する原料を溶融混練する、請求項1に記載のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物の製造方法。 - 前記アルコキシシラン化合物がエポキシアルコキシシラン、アミノアルコキシシラン、ビニルアルコキシシラン、及びメルカプトアルコキシシランからなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1又は2に記載のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物の製造方法。
- 前記アルコキシシラン化合物がγ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−ジアリルアミノプロピルトリメトキシシラン、γ−ジアリルアミノプロピルトリエトキシシランからなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物の製造方法。
- 前記ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物に含まれるポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対して、10質量部以上190質量部以下の無機充填剤をさらに含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物の製造方法。
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