以下に、好ましい実施の形態を挙げて、さらに本発明を詳細に説明する。本発明においては、化合物が塩である場合は、インク中では塩はイオンに解離して存在しているが、便宜上、「塩を含有する」と表現する。また、インクジェット用の水性インクのことを、単に「インク」と記載することがある。物性値は、特に断りのない限り、常温(25℃)における値である。
また、本発明において、常温(25℃)で固体であっても、水に溶解させて水溶液とした場合に、色材などの成分を溶解又は分散させる溶媒となりうるものであれば、水溶性有機溶剤に含まれるものとする。
ブラック色材の分子構造と画像の光学濃度とは、以下のような関係を有すると考えられる。一般的に、可視光領域(概ね380nm以上830nm以下)における光の反射率が低い画像は光学濃度が高く認識されやすい。また、CIE(国際照明委員会)により規定された「標準明所分光視感効率曲線」にあるように、人間が最も明るく感じる、すなわち光学濃度が低く感じる波長は、555nm付近である。したがって、画像の光学濃度を高めるためには、可視光領域のなかでも特に、画像で555nm付近の光の反射率が低い、すなわち、画像で555nm付近の吸収特性の高いブラック色材を用いることが重要である。
インクに含有させる色材として用いる一般式(1)で表される化合物は、ヘテロ原子を含む芳香環(複素芳香環)を有する、トリスアゾ構造又はテトラキスアゾ構造を基本骨格とし、置換基としてトリアジン環が導入されている。トリアジン環は窒素原子を3つ含む不飽和の6員環構造であることから、その置換基内に多数のπ電子を有しているため、分子内での共役系を伸長する。そのため、画像の吸収スペクトルの最大吸収波長は長波長側にシフトし、吸収スペクトルもブロードとなっている。そのため、長波長領域での吸収が増大することから、従来技術に比べ、黒画像の色相が緑味に近づき、好ましい色相となる。加えて、一般式(1)で表される化合物は、その分子内にヘテロ原子を含む芳香環を有することから、分子内の分極率が向上し、それに伴って記録媒体の表面近傍に残りやすくなるため、発色性も向上する。しかし、一般式(1)で表される化合物を使用したインクにおいても、発色性、色相のさらなる改善を必要とした。
一方、一般式(1)で表される化合物が有するトリアジン環は、電気陰性度の大きい窒素原子を6員環構造の内部に3つ含むため、置換基として用いた場合は電子求引基として作用する。そのため、一般式(1)で表される化合物では、アゾ結合上の電子密度が低下し、結合が切れやすくなることからインク中の他の化合物による反応により分解物を生じやすいという課題があった。
そこで、本発明者らは、色材として一般式(1)で表される化合物を含有するインクを用いて、インクの保存安定性、並びに画像の発色性及び色相をいずれも満足させる検討を行った。その結果、一般式(1)で表される化合物とともに、特定の水溶性有機溶剤を、特定の比率で含有させたインクを用いることにより、インクの保存安定性、並びに画像の発色性及び色相をいずれも高いレベルで満足できることを見出した。インクに含有させる水溶性有機溶剤としては、2つ以上のヒドロキシ基を有し、かつ、LogP値が−1.88以上−1.09以下である水溶性有機溶剤(本明細書において、「第1水溶性有機溶剤」と記載することがある。)を用いる。そして、この第1水溶性有機溶剤を、色材(一般式(1)で表される化合物)の含有量(質量%)に対する質量比率で、5.0倍以上30.0倍以下の含有量でインクに含有させる。こうしたインクを用いることで、上述の効果が得られる理由を本発明者らは以下のように推測している。
まず、インクの保存安定性が向上したメカニズムについて説明する。本発明者らの検討の結果、ヒドロキシ基を2つ以上有する水溶性有機溶剤を使用した際には、一般式(1)で表される化合物を含有するインクの保存安定性が向上することがわかった。これは、前記水溶性有機溶剤が一般式(1)で表される化合物と水素結合を形成し、アゾ結合近傍が立体的に保護されて、一般式(1)で表される化合物の分解が抑制されるためと考えられる。一方、ヒドロキシ基を有しない水溶性有機溶剤や、ヒドロキシ基を1つしか有しない水溶性有機溶剤を使用した際には、一般式(1)で表される化合物の保存安定性は改善しなかった。これは、十分な立体保護の効果を得るためには、前記水溶性有機溶剤が一般式(1)で表される化合物のアゾ結合における2つの窒素原子と水素結合を形成する必要があるためと推定される。
次に発色性向上のメカニズムについて説明する。本発明者らの検討の結果、LogP値が−1.88以上−1.09以下である水溶性有機溶剤を使用した際には、画像の発色性が向上することがわかった。LogP値は有機化合物の極性を示す指標であり、値が小さいほど極性が高いことを示す。これは、高極性な水溶性有機溶剤を使用することにより一般式(1)で表される化合物の分極が大きくなり、記録媒体中のカチオンとの反応性が高まったことで分子間での凝集が促進され、記録媒体の表面近傍に残りやすくなったためと考えられる。一方、LogP値が−1.09超である水溶性有機溶剤や、LogP値が−1.88未満である水溶性有機溶剤を使用した際には、画像の発色性が向上しなかった。LogP値が−1.09超である水溶性有機溶剤を使用する場合では、一般式(1)で表される化合物の分極が不十分であり、その化合物が記録媒体の厚さ方向の深くにまで浸透してしまうためと考えられる。また、LogP値が−1.88未満である水溶性有機溶剤を使用する場合では、一般式(1)で表される化合物が前記水溶性有機溶剤による溶媒和の影響を大きく受け、記録媒体の厚さ方向の深くにまで浸透してしまうためと考えられる。
以上より、本発明者らは、インクの保存安定性と画像の発色性を向上させるためには、ヒドロキシ基を2つ以上有し、かつ、LogP値が−1.88以上−1.09以下である第1水溶性有機溶剤を使用することが重要であることを見出した。本発明者らは、さらなる検討を行った結果、インクの保存安定性と画像の発色性との両立を図るために、色材(一般式(1)で表される化合物)、及び第1水溶性有機溶剤を適切な質量比率で併用することが重要であることを見出した。具体的には、第1水溶性有機溶剤の含有量(質量%)が、色材(一般式(1)で表される化合物)の含有量(質量%)に対する質量比率で5.0倍以上30.0倍以下であることが必要である。上記の質量比率が30.0倍超であると、第1水溶性有機溶剤による溶媒和が大きく、一般式(1)で表される化合物が記録媒体の厚さ方向の深くにまで浸透してしまうため、発色性が低下する。一方、上記の質量比率が5.0倍未満であると、第1水溶性有機溶剤による溶媒和が不十分であり、一般式(1)で表される化合物におけるアゾ結合が十分に保護されず、保存安定性が低下する。
<インク>
以下、本発明のインクを構成する成分やインクの物性について詳細に説明する。
(一般式(1)で表される化合物)
本発明のインクは、色材(染料)として、下記一般式(1)で表される化合物を含有する。
一般式(1)中、R1、R2、及びR3は、それぞれ独立に、水素原子;カルボン酸基;スルホン酸基;ヒドロキシ基;アセチルアミノ基;ハロゲン原子;シアノ基;ニトロ基;スルファモイル基;炭素数1乃至4のアルキル基;炭素数1乃至4のアルコキシ基;ヒドロキシ基、炭素数1乃至4のアルコキシ基、スルホン酸基、及びカルボン酸基からなる群より選択される少なくとも1種の基で置換された炭素数1乃至4のアルコキシ基;炭素数1乃至4のアルキルスルホニル基;又はヒドロキシ基、スルホン酸基、及びカルボン酸基からなる群より選択される少なくとも1種の基で置換された炭素数1乃至4のアルキルスルホニル基;を表す。
一般式(1)中、R4及びR5は、それぞれ独立に、炭素数1乃至4のアルキルチオ基;ヒドロキシ基、スルホン酸基、及びカルボン酸基からなる群より選択される少なくとも1種の基で置換された炭素数1乃至4のアルキルチオ基;炭素数1乃至4のアルコキシ基;又はヒドロキシ基、スルホン酸基、及びカルボン酸基からなる群より選択される少なくとも1種の基で置換された炭素数1乃至4のアルコキシ基;を表す。
一般式(1)中、R6は、水素原子;カルボン酸基;スルホン酸基;炭素数1乃至4のアルキルカルボニルアミノ基;ハロゲン原子;炭素数1乃至4のアルキル基;炭素数1乃至4のアルコキシ基;又はヒドロキシ基、炭素数1乃至4のアルコキシ基、スルホン酸基、及びカルボン酸基からなる群より選択される少なくとも1種の基で置換された炭素数1乃至4のアルコキシ基;を表す。
一般式(1)中、R7は、スルホン酸基が置換した、アニリノ基又はナフチルアミノ基を表し、さらに、スルホン酸基;カルボン酸基;リン酸基;スルファモイル基;カルバモイル基;ヒドロキシ基;炭素数1乃至6のアルコキシ基;アミノ基;モノ−又はジ−炭素数1乃至6のアルキルアミノ基;モノ−又はジ−アリールアミノ基;アセチルアミノ基;ウレイド基;炭素数1乃至6のアルキル基;ニトロ基;シアノ基;ハロゲン原子;炭素数1乃至6のアルキルスルホニル基;及び炭素数1乃至6のアルキルチオ基;からなる群より選択される少なくとも1種の置換基を有してもよい。
一般式(1)中、R8は、アニリノ基;ナフチルアミノ基;モノ−又はジ−炭素数1乃至6のアルキルアミノ基;モノ−又はジ−アリールアミノ基;アミノ基;炭素数1乃至6のアルキルチオ基;フェニルチオ基;フェノキシ基;炭素数1乃至6のアルコキシ基;又はヒドロキシ基;を表し、さらに、スルホン酸基;カルボン酸基;リン酸基;スルファモイル基;カルバモイル基;ヒドロキシ基;炭素数1乃至6のアルコキシ基;アミノ基;モノ−又はジ−炭素数1乃至6のアルキルアミノ基;モノ−又はジ−アリールアミノ基;アセチルアミノ基;ウレイド基;炭素数1乃至6のアルキル基;ニトロ基;フェニル基;フリル基;ピリジル基;シアノ基;ハロゲン原子;炭素数1乃至6のアルキルスルホニル基;及び炭素数1乃至6のアルキルチオ基;からなる群より選択される少なくとも1種の置換基を有してもよい。
一般式(1)中、R9は、複素芳香環、又は複素芳香環がアゾ基を介して結合した芳香環を表し、これらの環には、炭素数1乃至4のアルキル基;スルホン酸基;カルボン酸基;リン酸基;スルファモイル基;カルバモイル基;ヒドロキシ基;炭素数1乃至4のアルコキシ基;スルホン酸基で置換された炭素数1乃至4のアルコキシ基;シアノ基;アミノ基;及び炭素数1乃至4のアルキルカルボニルアミノ基;からなる群より選択される少なくとも1種の置換基を有してもよい。
一般式(1)で表される化合物におけるカルボン酸基、スルホン酸基、及びリン酸基は、遊離酸型(H型)であってもよく、塩型であってもよい。カルボン酸基などが塩型である場合(塩を形成する場合)のカウンターイオンとしては、アルカリ金属、アンモニウム、及び有機アンモニウムのカチオンを挙げることができる。アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、及びカリウムなどを挙げることができる。有機アンモニウムとしては、メチルアミン、及びエチルアミンなどの炭素数1以上3以下のアルキルアミン類;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、及びトリイソプロパノールアミンなどの炭素数1以上4以下のモノ−、ジ−又はトリ−アルカノールアミン類などを挙げることができる。
一般式(1)中、R1、R2、及びR3で表されるハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、及びヨウ素原子などを挙げることができる。
一般式(1)中、R1、R2、及びR3で表される炭素数1乃至4のアルキル基としては、直鎖又は分岐鎖のアルキル基が挙げられる。そのアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、及びtert−ブチル基などを挙げることができる。
一般式(1)中、R1、R2、及びR3で表される炭素数1乃至4のアルコキシ基としては、直鎖又は分岐鎖のアルコキシ基が挙げられる。無置換の炭素数1乃至4のアルコキシ基(無置換アルコキシ基)としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、及びtert−ブトキシ基などを挙げることができる。
また、R1、R2、及びR3で表される炭素数1乃至4のアルコキシ基は、ヒドロキシ基、炭素数1乃至4のアルコキシ基、スルホン酸基、及びカルボン酸基からなる群より選択される少なくとも1種の基で置換されていてもよい。それらのうちの少なくとも1種の基で置換された炭素数1乃至4のアルコキシ基(置換アルコキシ基)としては、炭素数1乃至4のアルコキシ基における任意の炭素原子に、上記特定の置換基が結合したものが挙げられる。その置換基の数は通常1又は2であり、好ましくは1であり、置換基の位置は特に制限されない。R1乃至R3で表される炭素数1乃至4のアルコキシ基が置換基として有してもよい炭素数1乃至4のアルコキシ基としては、上述の無置換アルコキシ基について例示したものと同様のものを挙げることができる。炭素数1乃至4の置換アルコキシ基としては、例えば、2−ヒドロキシエトキシ基、2−ヒドロキシプロポキシ基、及び3−ヒドロキシプロポキシ基などのヒドロキシアルコキシ基;メトキシエトキシ基、エトキシエトキシ基、n−プロポキシエトキシ基、イソプロポキシエトキシ基、n−ブトキシエトキシ基、メトキシプロポキシ基、エトキシプロポキシ基、n−プロポキシプロポキシ基、イソプロポキシブトキシ基、及びn−プロポキシブトキシ基などのアルコキシアルコキシ基;2−ヒドロキシエトキシエトキシ基などのヒドロキシアルコキシアルコキシ基;カルボキシメトキシ基、2−カルボキシエトキシ基、及び3−カルボキシプロポキシ基などのカルボキシアルコキシ基;並びに3−スルホプロポキシ基、及び4−スルホブトキシ基などのスルホアルコキシ基;などを挙げることができる。
なお、本明細書において、特定の炭素数で規定された基が、所定の置換基を有する場合、その特定の炭素数で規定された基における炭素数は、当該基が無置換の場合の炭素数をいう。したがって、例えば、上述の炭素数1乃至4のアルコキシ基で置換された、炭素数1乃至4のアルコキシ基としては、その基全体で炭素数が4を超えていてもよい。
一般式(1)中、R1、R2、及びR3で表される炭素数1乃至4のアルキルスルホニル基としては、直鎖又は分岐鎖のアルキルスルホニル基が挙げられ、直鎖のものが好ましい。炭素数1乃至4のアルキルスルホニル基としては、例えば、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、n−プロピルスルホニル基、及びn−ブチルスルホニル基などの直鎖のアルキルスルホニル基;並びにイソプロピルスルホニル基、及びイソブチルスルホニル基などの分岐鎖のアルキルスルホニル基を挙げることができる。上記のうち、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、及びイソプロピルスルホニル基が好ましく、メチルスルホニル基がより好ましい。
また、R1、R2、及びR3で表される炭素数1乃至4のアルキルスルホニル基は、ヒドロキシ基、スルホン酸基、及びカルボン酸基からなる群より選択される少なくとも1種の基で置換されていてもよい。それらのうちの少なくとも1種の基で置換された炭素数1乃至4のアルキルスルホニル基(置換アルキルスルホニル基)としては、炭素数1乃至4のアルキルスルホニル基における任意の炭素原子に、上記特定の置換基が結合したものが挙げられる。その置換基の数は通常1又は2であり、好ましくは1であり、置換基の位置は特に制限されない。炭素数1乃至4の置換アルキルスルホニル基としては、例えば、ヒドロキシエチルスルホニル基、及び2−ヒドロキシプロピルスルホニル基などのヒドロキシアルキルスルホニル基;2−スルホエチルスルホニル基、及び3−スルホプロピルスルホニル基などのスルホアルキルスルホニル基;2−カルボキシエチルスルホニル基、及び3−カルボキシプロピルスルホニル基などのカルボキシアルキルスルホニル基;などを挙げることができる。
R1としては、水素原子、カルボン酸基、スルホン酸基、ニトロ基、塩素原子、メチル基、メトキシ基、3−スルホプロポキシ基、及び炭素数1乃至4のアルキルスルホニル基が好ましい。これらのうち、R1としては、水素原子;電子求引性置換基である、カルボン酸基、スルホン酸基、ニトロ基、塩素原子、炭素数1乃至4のアルキルスルホニル基;メチル基;及びメトキシ基がさらに好ましい。R1としては、水素原子、及びスルホン酸基が特に好ましい。
R2としては、水素原子、カルボン酸基、スルホン酸基、ニトロ基、塩素原子、メチル基、メトキシ基、3−スルホプロポキシ基、スルファモイル基、炭素数1乃至4のアルキルスルホニル基、カルボキシアルキルスルホニル基(アルキルの炭素数は1乃至4)、及びスルホアルキルスルホニル基(アルキルの炭素数は1乃至4)が好ましい。これらのうち、R2としては、水素原子;電子求引性置換基である、カルボン酸基、スルホン酸基、ニトロ基、塩素原子、スルファモイル基、炭素数1乃至4のアルキルスルホニル基、カルボキシアルキルスルホニル基(アルキル基の炭素数は1乃至4)、スルホアルキルスルホニル基(アルキル基の炭素数は1乃至4);メチル基;及びメトキシ基がより好ましい。R2としては、スルホン酸基、ニトロ基、メチル基、メトキシ基、スルファモイル基、スルホプロピルスルホニル基、及びカルボキシエチルスルホニル基がさらに好ましく、ニトロ基が特に好ましい。
R3としては、水素原子、カルボン酸基、スルホン酸基、ニトロ基、塩素原子、メチル基、メトキシ基、3−スルホプロポキシ基、及び炭素数1乃至4のアルキルスルホニル基であることが好ましい。これらのうち、R3としては、水素原子;電子求引性置換基である、カルボン酸基、スルホン酸基、ニトロ基、塩素原子、炭素数1乃至4のアルキルスルホニル基;メチル基;メトキシ基;及び3−スルホプロポキシ基がさらに好ましい。R3としては、水素原子が特に好ましい。
また、一般式(1)中のR1、R2、及びR3が結合したベンゼン環において、アゾ基の結合位置を1位とした場合に、R1の結合位置は2位、R2の結合位置は3位又は4位、及びR3の結合位置は5位又は6位であることが好ましい。
一般式(1)中、R4及びR5で表される炭素数1乃至4のアルキルチオ基としては、アルキルが直鎖又は分岐鎖のアルキルチオ基を挙げることができ、これらのうち、アルキルが直鎖のアルキルチオ基が好ましい。炭素数1乃至4のアルキルチオ基としては、例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、n−プロピルチオ基、及びn−ブチルチオ基などの直鎖のアルキルチオ基;イソプロピルチオ基、イソブチルチオ基、sec−ブチルチオ基、及びtert−ブチルチオ基などの分岐鎖のアルキルチオ基などを挙げることができる。
また、R4及びR5で表される炭素数1乃至4のアルキルチオ基は、ヒドロキシ基、スルホン酸基、及びカルボン酸基からなる群より選択される少なくとも1種の基で置換されていてもよい。それらのうちの少なくとも1種の基で置換された炭素数1乃至4のアルキルチオ基(置換アルキルチオ基)としては、炭素数1乃至4のアルキルチオ基における任意の炭素原子に、上記特定の置換基が結合したものが挙げられる。その置換基の数は通常1又は2であり、好ましくは1である。上記特定の置換基の位置は特に制限されないが、上記特定の置換基が、アルキルチオ基における硫黄原子が結合する炭素原子以外の炭素原子に結合したものが好ましい。炭素数1乃至4の置換アルキルチオ基としては、例えば、2−ヒドロキシエチルチオ基、2−ヒドロキシプロピルチオ基、及び3−ヒドロキシプロピルチオ基などのヒドロキシアルキルチオ基;2−スルホエチルチオ基、及び3−スルホプロピルチオ基などのスルホアルキルチオ基;並びに2−カルボキシエチルチオ基、3−カルボキシプロピルチオ基、及び4−カルボキシブチルチオ基などのカルボキシアルキルチオ基;などを挙げることができる。
一般式(1)中、R4及びR5で表される炭素数1乃至4のアルコキシ基としては、直鎖又は分岐鎖のアルコキシ基が挙げられる。無置換の炭素数1乃至4のアルコキシ基(無置換アルコキシ基)としては、上述のR1乃至R3で表される炭素数1乃至4のアルコキシ基について例示したものと同様のものを挙げることができる。
また、一般式(1)中、R4及びR5で表される炭素数1乃至4のアルコキシ基は、ヒドロキシ基、スルホン酸基、及びカルボン酸基からなる群より選択される少なくとも1種の基で置換されていてもよい。それらのうちの少なくとも1種の基で置換された炭素数1乃至4のアルコキシ基(置換アルコキシ基)としては、炭素数1乃至4のアルコキシ基における任意の炭素原子に、上記特定の置換基が結合したものが挙げられる。その置換基の数は、通常1又は2であり、好ましくは1であり、置換基の位置は特に制限されない。炭素数1乃至4の置換アルコキシ基としては、例えば、2−ヒドロキシエトキシ基、2−ヒドロキシプロポキシ基、及び3−ヒドロキシプロポキシ基などのヒドロキシアルコキシ基;2−スルホエトキシ基、及び3−スルホプロポキシ基などのスルホアルコキシ基;並びに2−カルボキシエトキシ基、3−カルボキシプロポキシ基、及び4−カルボキシブトキシ基などのカルボキシアルコキシ基;などを挙げることができる。
R4及びR5としては、それぞれ独立に、スルホン酸基で置換された炭素数1乃至4のアルキルチオ基(スルホアルキルチオ基)、及びカルボン酸基で置換された炭素数1乃至4のアルキルチオ基(カルボキシアルキルチオ基)が好ましい。R4及びR5としては、それぞれ独立にスルホアルキルチオ基(アルキルの炭素数は1乃至4)がさらに好ましく、いずれも3−スルホプロピルチオ基が特に好ましい。
一般式(1)中、R6で表される炭素数1乃至4のアルキルカルボニルアミノ基としては、アルキルが直鎖又は分岐鎖の無置換のものが挙げられ、直鎖のものが好ましい。炭素数1乃至4のアルキルカルボニルアミノ基としては、例えば、アセチルアミノ(メチルカルボニルアミノ)基、プロピオニルアミノ(エチルカルボニルアミノ)基、n−プロピルカルボニルアミノ基、及びn−ブチルカルボニルアミノ基などの直鎖のアルキルカルボニルアミノ基;イソプロピルカルボニルアミノ基、イソブチルカルボニルアミノ基、sec−ブチルカルボニルアミノ基、及びピバロイルアミノ(tert−ブチルカルボニルアミノ)基などの分岐鎖のアルキルカルボニルアミノ基が挙げられる。
一般式(1)中、R6で表されるハロゲン原子、及び炭素数1乃至4のアルキル基としては、それぞれ、上述のR1乃至R3で表されるハロゲン原子、及び炭素数1乃至4のアルキル基について例示したものと同様のものを挙げることができる。
一般式(1)中、R6で表される炭素数1乃至4のアルコキシ基としては、直鎖又は分岐鎖のアルコキシ基が挙げられる。無置換の炭素数1乃至4のアルコキシ基(無置換アルコキシ基)としては、上述のR1乃至R3で表される炭素数1乃至4のアルコキシ基について例示したものと同様のものを挙げることができる。また、R6で表される炭素数1乃至4のアルコキシ基は、ヒドロキシ基、炭素数1乃至4のアルコキシ基、スルホン酸基、及びカルボン酸基からなる群より選択される少なくとも1種の基で置換されていてもよい。それらのうちの少なくとも1種の基で置換された炭素数1乃至4のアルコキシ基(置換アルコキシ基)としては、上述のR1乃至R3の説明で例示した置換アルコキシ基の具体例と同様のものを挙げることができる。
R6としては、炭素数1乃至4のアルキルカルボニルアミノ基、及び炭素数1乃至4のアルキル基が好ましく、炭素数1乃至4の直鎖のアルキルカルボニルアミノ基、及びメチル基がより好ましい。R6としては、アセチルアミノ基、及びn−プロピルカルボニルアミノ基がさらに好ましく、アセチルアミノ基が特に好ましい。
一般式(1)中、R7は、スルホン酸基が置換したアニリノ基、又はスルホン酸基が置換したナフチルアミノ基を表す。これらのアニリノ基及びナフチルアミノ基は、さらに、スルホン酸基;カルボン酸基;リン酸基;スルファモイル基;カルバモイル基;ヒドロキシ基;炭素数1乃至6のアルコキシ基;アミノ基;モノ−又はジ−炭素数1乃至6のアルキルアミノ基;モノ−又はジ−アリールアミノ基;アセチルアミノ基;ウレイド基;炭素数1乃至6のアルキル基;ニトロ基;シアノ基;ハロゲン原子;炭素数1乃至6のアルキルスルホニル基;及び炭素数1乃至6のアルキルチオ基;からなる群より選択される少なくとも1種の置換基を有してもよい。
R7のアニリノ基及びナフチルアミノ基が有してもよい置換基における炭素数1乃至6のアルコキシ基としては、直鎖、分岐鎖又は環状の炭素数1乃至6、好ましくは炭素数1乃至4、より好ましくは炭素数1乃至3のアルコキシ基が挙げられる。これらのうち、直鎖又は分岐鎖のアルコキシ基が好ましく、直鎖のアルコキシ基がより好ましい。炭素数1乃至6のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、n−ブトキシ基、n−ペントキシ基、及びn−ヘキシロキシ基などの直鎖のアルコキシ基;イソプロポキシ基、イソブトキシ基、t−ブトキシ基、イソペントキシ基、及びイソヘキシロキシ基などの分岐鎖のアルコキシ基;シクロプロポキシ基、シクロペントキシ基、及びシクロヘキシロキシ基などの環状のアルコキシ基;などを挙げることができる。
R7のアニリノ基及びナフチルアミノ基が有してもよい置換基におけるモノ−炭素数1乃至6のアルキルアミノ基としては、直鎖又は分岐鎖のモノ−炭素数1乃至6のアルキルアミノ基が挙げられる。好ましくは直鎖又は分岐鎖のモノ−炭素数1乃至4、より好ましくは直鎖又は分岐鎖のモノ−炭素数1乃至3のアルキルアミノ基が挙げられる。モノ−炭素数1乃至6のアルキルアミノ基としては、例えば、メチルアミノ基、エチルアミノ基、n−プロピルアミノ基、及びn−ブチルアミノ基などの直鎖のアルキルアミノ基;イソプロピルアミノ基、イソブチルアミノ基、及びt−ブチルアミノ基などの分岐鎖のアルキルアミノ基;などを挙げることができる。
R7のアニリノ基及びナフチルアミノ基が有してもよい置換基におけるジ−炭素数1乃至6のアルキルアミノ基としては、前記モノ−炭素数1乃至6のアルキルアミノ基で挙げたアルキルを、独立に2つ有するジアルキルアミノ基が挙げられる。ジ−炭素数1乃至6のアルキルアミノ基としては、例えば、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、及びメチルエチルアミノ基などを挙げることができる。
R7のアニリノ基及びナフチルアミノ基が有してもよい置換基におけるモノ−アリールアミノ基としては、モノ−炭素数6乃至10の芳香族アミノ基、好ましくはフェニルアミノ基又はナフチルアミノ基、より好ましくはフェニルアミノ基が挙げられる。
R7のアニリノ基及びナフチルアミノ基が有してもよい置換基におけるジ−アリールアミノ基としては、前記モノアリールアミノ基で挙げたアリールを、独立に2つ有するジアリールアミノ基が挙げられる。好ましくは同一のアリール基、より好ましくはフェニル基を2つ有するものが挙げられ、その具体例としてはジフェニルアミノ基である。
R7のアニリノ基及びナフチルアミノ基が有してもよい置換基における炭素数1乃至6のアルキル基としては、直鎖、分岐鎖又は環状の炭素数1乃至6、好ましくは炭素数1乃至4、より好ましくは炭素数1乃至3のアルキル基が挙げられる。これらのうち、直鎖又は分岐鎖のアルキル基が好ましく、直鎖のアルキル基がより好ましい。炭素数1乃至6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、及びn−ヘキシル基などの直鎖のアルキル基;イソプロピル基、イソブチル基、イソペンチル基、及びイソヘキシル基などの分岐鎖のアルキル基;シクロプロピル基、シクロペンチル基、及びシクロヘキシル基などの環状のアルキル基;などを挙げることができる。
R7のアニリノ基及びナフチルアミノ基が有してもよい置換基におけるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、及び臭素原子が挙げられる。これらのうち、フッ素原子又は塩素原子が好ましく、塩素原子がより好ましい。
R7のアニリノ基及びナフチルアミノ基が有してもよい置換基における炭素数1乃至6のアルキルスルホニル基としては、直鎖又は分岐鎖の炭素数1乃至6、好ましくは炭素数1乃至4、より好ましくは炭素数1乃至3のアルキルスルホニル基が挙げられる。これらのうち、直鎖のアルキルスルホニル基が好ましい。炭素数1乃至6のアルキルスルホニル基としては、例えば、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、及びプロピルスルホニル基などの直鎖のアルキルスルホニル基;イソプロピルスルホニル基などの分岐鎖のアルキルスルホニル基;などを挙げることができる。
R7のアニリノ基及びナフチルアミノ基が有してもよい置換基における炭素数1乃至6のアルキルチオ基としては、直鎖又は分岐鎖の炭素数1乃至6、好ましくは炭素数1乃至4、より好ましくは炭素数1乃至3のアルキルチオ基が挙げられる。これらのうち、直鎖のアルキルチオ基が好ましい。炭素数1乃至6のアルキルチオ基としては、例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、及びブチルチオ基などの直鎖のアルキルチオ基;イソプロピルチオなどの分岐鎖のアルキルチオ基;などを挙げることができる。
R7のアニリノ基及びナフチルアミノ基が有してもよい置換基としては、スルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基、ヒドロキシ基、炭素数1乃至6のアルコキシ基、アセチルアミノ基、ウレイド基、ニトロ基、及び塩素原子が好ましい。これらのなかでも、スルホン酸基、カルボン酸基、ヒドロキシ基、炭素数1乃至6のアルコキシ基、ニトロ基、及び塩素原子がより好ましい。さらに好ましくは、スルホン酸基、カルボン酸基、ヒドロキシ基、メトキシ基、ニトロ基、及び塩素原子であり、スルホン酸基が特に好ましい。
R7としては、1つ又は2つのスルホン酸基が置換したアニリノ基が好ましく、2つのスルホン酸基が置換したアニリノ基がより好ましく、2つのスルホン酸基が互いにパラ位に置換したアニリノ基がさらに好ましい。
一般式(1)中、R8は、アニリノ基;ナフチルアミノ基;モノ−又はジ−炭素数1乃至6のアルキルアミノ基;モノ−又はジ−アリールアミノ基;アミノ基;炭素数1乃至6のアルキルチオ基;フェニルチオ基;フェノキシ基;炭素数1乃至6のアルコキシ基;又はヒドロキシ基;を表す。
R8で表されるモノ−又はジ−炭素数1乃至6のアルキルアミノ基は、前述のR7の説明におけるモノ−又はジ−炭素数1乃至6のアルキルアミノ基と同じ意味を表す。
R8で表されるモノ−又はジ−アリールアミノ基は、前述のR7の説明におけるモノ−又はジ−アリールアミノ基と同じ意味を表す。
R8で表される炭素数1乃至6のアルキルチオ基は、前述のR7の説明における炭素数1乃至6のアルキルチオ基と同じ意味を表す。
R8で表される炭素数1乃至6のアルコキシ基は、前述のR7の説明における炭素数1乃至6のアルコキシ基と同じ意味を表す。
R8で表される上記の基は、さらに、スルホン酸基;カルボン酸基;リン酸基;スルファモイル基;カルバモイル基;ヒドロキシ基;炭素数1乃至6のアルコキシ基;アミノ基;モノ−又はジ−炭素数1乃至6のアルキルアミノ基;モノ−又はジ−アリールアミノ基;アセチルアミノ基;ウレイド基;炭素数1乃至6のアルキル基;ニトロ基;フェニル基;フリル基;ピリジル基;シアノ基;ハロゲン原子;炭素数1乃至6のアルキルスルホニル基;及び炭素数1乃至6のアルキルチオ基;からなる群より選択される少なくとも1種の置換基を有してもよい。
R8で表される基が置換基としてさらに有してもよい炭素数1乃至6のアルコキシ基としては、前述のR7の説明における炭素数1乃至6のアルコキシ基について例示したものと、好ましいものを含めて同様のものを挙げることができる。
R8で表される基が置換基としてさらに有してもよいモノ−炭素数1乃至6のアルキルアミノ基としては、前述のR7の説明におけるモノ−炭素数1乃至6のアルキルアミノ基について例示したものと、好ましいものを含めて同様のものを挙げることができる。また、R8で表される基が置換基としてさらに有してもよいジ−炭素数1乃至6のアルキルアミノ基としては、前述のR7の説明におけるジ−炭素数1乃至6のアルキルアミノ基について例示したものと、好ましいものを含めて同様のものを挙げることができる。
R8で表される基が置換基としてさらに有してもよいモノ−アリールアミノ基としては、前述のR7の説明におけるモノ−アリールアミノ基について例示したものと、好ましいものを含めて同様のものを挙げることができる。また、R8で表される基が置換基としてさらに有してもよいジ−アリールアミノ基としては、前述のR7の説明におけるジ−アリールアミノ基について例示したものと、好ましいものを含めて同様のものを挙げることができる。
R8で表される基が置換基としてさらに有してもよい炭素数1乃至6のアルキル基としては、前述のR7の説明における炭素数1乃至6のアルキル基について例示したものと、好ましいものを含めて同様のものを挙げることができる。
R8で表される基が置換基としてさらに有してもよいハロゲン原子としては、前述のR7の説明におけるハロゲン原子について例示したものと、好ましいものを含めて同様のものを挙げることができる。
R8で表される基が置換基としてさらに有してもよい炭素数1乃至6のアルキルスルホニル基としては、前述のR7の説明における炭素数1乃至6のアルキルスルホニル基について例示したものと、好ましいものを含めて同様のものを挙げることができる。
R8で表される基が置換基としてさらに有してもよい炭素数1乃至6のアルキルチオ基としては、前述のR7の説明における炭素数1乃至6のアルキルチオ基について例示したものと、好ましいものを含めて同様のものを挙げることができる。
R8で表される基がさらに有してもよい置換基としては、スルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基、ヒドロキシ基、炭素数1乃至6のアルコキシ基、アセチルアミノ基、ウレイド基、ニトロ基、フェニル基、及び塩素原子が好ましい。これらのなかでも、スルホン酸基、カルボン酸基、ヒドロキシ基、炭素数1乃至6のアルコキシ基、ニトロ基、及び塩素原子がより好ましい。さらに好ましくは、スルホン酸基、カルボン酸基、ヒドロキシ基、メトキシ基、ニトロ基、及び塩素原子であり、スルホン酸基が特に好ましい。
R8としては、置換基を有するモノ−又はジ−炭素数1乃至6のアルキルアミノ基が好ましく、スルホン酸基、カルボン酸基、ヒドロキシ基、又はフェニル基で置換されたモノ−又はジ−炭素数1乃至6のアルキルアミノ基がより好ましい。R8としては、スルホン酸基で置換されたモノアルキルアミノ基(アルキルの炭素数は1乃至6、より好ましくは1乃至4、さらに好ましくは1乃至3)がさらに好ましく、2−スルホエチルアミノ基が特に好ましい。
一般式(1)中、R9は、複素芳香環、又は複素芳香環がアゾ基を介して結合した芳香環を表し、これらの環は、次の置換基を有してもよい。その置換基は、炭素数1乃至4のアルキル基;スルホン酸基;カルボン酸基;リン酸基;スルファモイル基;カルバモイル基;ヒドロキシ基;炭素数1乃至4のアルコキシ基;スルホン酸基で置換された炭素数1乃至4のアルコキシ基;シアノ基;アミノ基;及び炭素数1乃至4のアルキルカルボニルアミノ基;からなる群より選択される少なくとも1種である。
R9が、前記特定の置換基を有してもよい複素芳香環を表す場合、一般式(1)で表される化合物は、当該複素芳香環とトリアジン環が導入されたトリスアゾ化合物を表す。また、R9が、前記特定の置換基を有してもよい、複素芳香環がアゾ基を介して結合した芳香環を表す場合、一般式(1)で表される化合物は、当該複素芳香環とトリアジン環が導入されたテトラキスアゾ化合物を表す。
R9における複素芳香環は、環構造にヘテロ原子を含む芳香環であり、置換又は無置換の複素芳香族化合物から1個の水素原子を取り除いた1価の基である。ヘテロ原子としては、例えば、窒素原子、酸素原子、及び硫黄原子などを挙げることができる。複素芳香環には、2以上のヘテロ原子が含まれていてもよく、1種又は2種以上のヘテロ原子が含まれていてもよい。ヘテロ原子としては、窒素原子が好ましい。複素芳香環の環構造は、単環構造及び多環構造が挙げられ、2乃至4(より好ましくは2又は3)の環構造が縮環した多環構造であることが好ましく、その1つの環は5員環又は6員環であることがより好ましい。
R9で表される、複素芳香環がアゾ基を介して結合した芳香環のうち、複素環ではないほうの芳香環の環構造は、単環構造及び多環構造が挙げられ、単環構造であることが好ましい。複素芳香環がアゾ基を介して結合した芳香環におけるその芳香族基としては、例えば、置換されていてもよい、フェニル基、及びナフチル基などを挙げることができ、置換フェニル基が好ましい。
R9における環が置換基として有してもよい炭素数1乃至4のアルキル基としては、一般式(1)中のR1乃至R3で表される炭素数1乃至4のアルキル基について例示したものと同様のものを挙げることができる。
R9における環が置換基として有してもよい炭素数1乃至4のアルコキシ基としては、直鎖又は分岐鎖のアルコキシ基が挙げられる。無置換の炭素数1乃至4のアルコキシ基(無置換アルコキシ基)としては、前述の一般式(1)中のR1乃至R3で表される炭素数1乃至4のアルコキシ基について例示したものと同様のものを挙げることができる。また、R9における環が置換基として有してもよい炭素数1乃至4のアルコキシ基は、スルホン酸基で置換されていてもよい。スルホン酸基で置換された炭素数1乃至4のアルコキシ基としては、炭素数1乃至4のアルコキシ基における任意の炭素原子に、スルホン酸基が結合したものが挙げられる。その置換基の数は通常1又は2であり、好ましくは1であり、置換基の位置は特に制限されない。スルホン酸基で置換された炭素数1乃至4のアルコキシ基としては、例えば、2−スルホエトキシ基、3−スルホプロポキシ基、及び4−スルホブトキシ基などを挙げることができる。
R9における環が置換基として有してもよい炭素数1乃至4のアルキルカルボニルアミノ基としては、一般式(1)中のR6で表される炭素数1乃至4のアルキルカルボニルアミノ基について例示したものと、好ましいものを含めて同様のものが挙げられる。
R9は、前記特定の置換基を有してもよいヘテロアリール基、又は前記特定の置換基を有してもよいヘテロアリールアゾ基で置換され、かつ、さらに前記特定の置換基を有してもよいアリール基を表すことが好ましい。
R9としては、前記特定の置換基を有する複素芳香環がアゾ基を介して結合し、かつ、さらに前記特定の置換基を有する芳香環(置換ヘテロアリールアゾ基で置換され、かつ、さらに前記特定の置換基を有する置換アリール基)がより好ましい。R9としては、前記特定の置換基を有する複素芳香環が結合したアゾ基で置換されているとともに、さらに前記特定の置換基を有するフェニル基(置換ヘテロアリールアゾ基で置換され、かつ、さらに前記特定の置換基を有する置換フェニル基)がさらに好ましい。R9としては、一般式(1)においてR9が結合しているアゾ基とはパラ位の位置に前記置換ヘテロアリールアゾ基が置換し、かつ、前記特定の置換基を有する置換フェニル基が特に好ましい。複素芳香族環(ヘテロアリール基)における置換基としては、炭素数1乃至4のアルキル基;スルホン酸基;カルバモイル基;ヒドロキシ基;炭素数1乃至4のアルコキシ基;及びシアノ基;が好ましい。これらのなかでも、メチル基、スルホン酸基、ヒドロキシ基、メトキシ基、及びシアノ基がさらに好ましい。置換アリール基(置換フェニル基)における置換基としては、炭素数1乃至4のアルキル基;スルホン酸基で置換された炭素数1乃至4のアルコキシ基;及び炭素数1乃至4のアルキルカルボニルアミノ基;が好ましい。これらのなかでも、メチル基、及びスルホプロポキシ基がさらに好ましい。
上述した一般式(1)で表される化合物は、下記一般式(2)で表される化合物であることが好ましい。さらには、下記一般式(2)で表される化合物は、下記一般式(3)で表される化合物であることが好ましい。
一般式(2)中、R10は炭素数1乃至4のアルキル基を表す。R11はカルバモイル基、シアノ基、アミノ基、又は炭素数1乃至4のアルキルカルボニルアミノ基を表す。R12は水素原子又は炭素数1乃至4のアルコキシ基を表す。Mはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムを表す。a、b、c、及びdは、それぞれ独立に、1以上4以下の整数を表し、eは1又は2を表す。
一般式(3)中、R11はカルバモイル基、シアノ基、アミノ基、又は炭素数1乃至4のアルキルカルボニルアミノ基を表す。R12は水素原子又は炭素数1乃至4のアルコキシ基を表す。Mはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムを表す。a、b、c、及びdは、それぞれ独立に、1以上4以下の整数を表し、eは1又は2を表す。
一般式(2)中、R10で表される炭素数1乃至4のアルキル基は、前述の一般式(1)中のR9で表される特定の芳香環が置換基として有してもよい炭素数1乃至4のアルキル基と同義である。
一般式(2)及び(3)中、R11で表される炭素数1乃至4のアルキルカルボニルアミノ基は、前述の一般式(1)中のR9で表される特定の芳香環が置換基として有してもよい炭素数1乃至4のアルキルカルボニルアミノ基と同義である。
一般式(2)及び(3)中、R12で表される炭素数1乃至4のアルコキシ基は、前述の一般式(1)中のR9で表される特定の芳香環が置換基として有してもよい炭素数1乃至4のアルコキシ基と同義である。
一般式(2)及び(3)中、Mで表されるアルカリ金属、及び有機アンモニウムとしては、それぞれ、前述のカルボン酸基などが塩型である場合のカウンターイオンについて例示したものと、同様のものを挙げることができる。
一般式(1)で表される化合物の好適例を遊離酸型で表すと、表1乃至3に示す例示化合物1乃至42を挙げることができる。表1においては下記一般式(4)の形式で、表2においては下記一般式(5)の形式で、表3においては下記一般式(6)の形式で、それぞれ例示化合物を示す。表中の「Ph」はフェニル基を表す。勿論、本発明においては、一般式(1)の構造及びその定義に包含されるものであれば、一般式(1)で表される化合物は以下に示す例示化合物に限定されない。本発明においては、以下に示す例示化合物のなかでも例示化合物8〜24が好ましく、例示化合物14〜24がさらに好ましく、例示化合物21〜24が特に好ましい。
インク中の色材の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.5質量%以上5.0質量%以下であることが好ましく、1.6質量%以上4.0質量%以下であることがさらに好ましい。
一般式(1)で表される化合物は、例えば、以下に示す方法にしたがって合成することができる。以下、一般式(1)で表される化合物の好適例として、遊離酸型として下記一般式(7)で表される化合物の合成例を示す。各工程における化合物の構造式は、遊離酸型として表す。下記式(i)乃至(viii)中のR1乃至R8は、一般式(1)中のR1乃至R8と同義である。
下記一般式(i)で表される化合物を常法にしたがってジアゾ化して得られたジアゾ化合物と、下記一般式(ii)で表される化合物とを常法にしたがってカップリング反応させ、下記一般式(iii)で表される化合物を得る。
前記一般式(iii)で表される化合物を常法にしたがってジアゾ化して得られたジアゾ化合物と、下記一般式(iv)で表される化合物とを常法にしたがってカップリング反応させ、下記一般式(v)で表される化合物を得る。
前記一般式(v)で表される化合物を常法にしたがってジアゾ化して得られたジアゾ化合物と、下記一般式(vi)で表される化合物とを常法にしたがってカップリング反応させ、下記一般式(vii)で表される化合物を得る。
前記一般式(vii)で表される化合物を常法にしたがってジアゾ化して得られたジアゾ化合物と、下記一般式(viii)で表される化合物とを常法にしたがってカップリング反応させれば、前記一般式(7)で表される化合物を得ることができる。
一般式(i)で表される化合物のジアゾ化は、公知の方法で実施される。例えば、無機酸媒質中、−5〜30℃、好ましくは0〜15℃で、亜硝酸塩を用いてジアゾ化される。亜硝酸塩としては、亜硝酸ナトリウムなどのアルカリ金属の亜硝酸塩を用いることができる。一般式(i)で表される化合物のジアゾ化物と、一般式(ii)で表される化合物とのカップリング反応も、公知の方法で実施される。例えば、水又は水性有機媒体中、−5〜30℃、好ましくは0〜25℃、酸性から中性のpH値、好ましくはpH1〜6でカップリング反応が実施される。ジアゾ化反応液は酸性である。また、カップリング反応が進行するため、ジアゾ化反応液はさらに酸性化する。このため、塩基を添加することで、反応液のpHを好ましい値に調整する。塩基としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物;炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属の炭酸塩;酢酸ナトリウムなどのアルカリ金属の酢酸塩;アンモニア;有機アミンなどを用いることができる。また、一般式(i)で表される化合物と一般式(ii)で表される化合物とは、ほぼ化学量論量で用いればよい。
一般式(iii)で表される化合物のジアゾ化は、公知の方法で実施される。例えば、無機酸媒質中、−5〜40℃、好ましくは5〜30℃で、亜硝酸塩を用いてジアゾ化される。亜硝酸塩としては、亜硝酸ナトリウムなどのアルカリ金属の亜硝酸塩を用いることができる。一般式(iii)で表される化合物のジアゾ化物と、一般式(iv)で表される化合物とのカップリング反応も、公知の方法で実施される。水又は水性有機媒体中、−5〜40℃、好ましくは10〜30℃、酸性から中性のpH値、好ましくはpH2〜7でカップリング反応が実施される。ジアゾ化反応液は酸性である。また、カップリング反応が進行するため、ジアゾ化反応液はさらに酸性化する。このため、塩基を添加することで、反応液のpHを好ましい値に調整する。塩基としては上記と同じものを用いることができる。また、一般式(iii)で表される化合物と一般式(iv)で表される化合物とは、ほぼ化学量論量で用いればよい。
一般式(v)で表される化合物のジアゾ化は、公知の方法で実施される。例えば、無機酸媒質中、−5〜50℃、好ましくは5〜40℃で、亜硝酸塩を用いてジアゾ化される。亜硝酸塩としては、亜硝酸ナトリウムなどのアルカリ金属の亜硝酸塩を用いることができる。一般式(v)で表される化合物のジアゾ化物と、一般式(vi)で表される化合物とのカップリング反応も、公知の方法で実施される。水又は水性有機媒体中、−5〜50℃、好ましくは10〜40℃、酸性から中性のpH値、好ましくはpH2〜7でカップリング反応が実施される。ジアゾ化反応液は酸性である。また、カップリング反応が進行するため、ジアゾ化反応液はさらに酸性化する。このため、塩基を添加することで、反応液のpHを好ましい値に調整する。塩基としては上記と同じものを用いることができる。一般式(v)で表される化合物と一般式(vi)で表される化合物とは、ほぼ化学量論量で用いればよい。
一般式(vii)で表される化合物のジアゾ化は、公知の方法で実施される。例えば、無機酸媒質中、−5〜50℃、好ましくは10〜40℃で、亜硝酸塩を用いてジアゾ化される。亜硝酸塩としては、亜硝酸ナトリウムなどのアルカリ金属の亜硝酸塩を用いることができる。一般式(vii)で表される化合物のジアゾ化物と、一般式(viii)で表される化合物とのカップリング反応も、公知の方法で実施される。水又は水性有機媒体中、−5〜50℃、好ましくは10〜40℃、弱酸性からアルカリ性のpH値、好ましくはpH5〜10でカップリング反応が実施される。ジアゾ化反応液は酸性である。また、カップリング反応が進行するため、ジアゾ化反応液はさらに酸性化する。このため、塩基を添加することで、反応液のpHを好ましい値に調整する。塩基としては上記と同じものを用いることができる。一般式(vii)で表される化合物と上記一般式(viii)で表される化合物とは、ほぼ化学量論量で用いればよい。
上記合成フローの後に以下の処理を行うことで、塩型の一般式(1)で表される化合物を得ることができる。反応系に所望の塩を加えて塩析する方法が挙げられる。また、反応系に塩酸などの鉱酸を加えて、遊離酸型の化合物を分取した後、得られた化合物を洗浄し、再度、水性の液媒体(好適には水)中で、遊離酸に所望の塩を添加して塩型の化合物を得る方法が挙げられる。
(色材の検証方法)
本発明で用いる色材(一般式(1)で表される化合物)が各インク中に含まれているか否かを検証するには、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いた下記(1)及び(2)の検証方法を適用することができる。
(1)ピークの保持時間
(2)(1)のピークについてのマススペクトルのM/Z(posi)、M/Z(nega)
高速液体クロマトグラフィーの分析条件は、以下に示す通りである。純水で約1,000倍に希釈した液体(インク)を測定用サンプルとする。そして、下記の条件で高速液体クロマトグラフィーでの分析を行い、ピークの保持時間(retention time)を測定する。
・カラム:SunFire C18(日本ウォーターズ製)2.1mm×150mm
・カラム温度:40℃
・流速:0.2mL/min
・PDA:200nm〜700nm
・移動相及びグラジエント条件:表4
また、マススペクトルの分析条件は以下に示す通りである。得られたピークについて、下記の条件でマススペクトルを測定し、最も強く検出されたM/Zをposi及びnegaのそれぞれに対して測定する。
・イオン化法:ESI
・キャピラリ電圧:3.5kV
・脱溶媒ガス:300℃
・イオン源温度:120℃
・検出器:
posi;40V 200〜1500amu/0.9sec
nega;40V 200〜1500amu/0.9sec
上記した方法及び条件下で、一般式(1)で表される化合物の具体例である例示化合物24について測定を行った。その結果、得られた保持時間、M/Z(posi)、及びM/Z(nega)の値を表5に示す。未知のインクについて、上記と同様の方法及び条件下で測定を行って、得られた測定値が表5に示す値に該当する場合、本発明のインクに用いる一般式(1)で表される化合物を含有すると判断することができる。
(第1水溶性有機溶剤)
本発明のインクは、LogP値が−1.88以上−1.09以下であり、かつ、2つ以上のヒドロキシ基を有する第1水溶性有機溶剤を含有する。インク中の第1水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、5.0質量%以上70.0質量%以下であることが好ましい。この第1水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、5.0質量%以上60.0質量%以下であることがより好ましく、10.0質量%以上35.0質量%以下であることがさらに好ましい。また、第1水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、色材(一般式(1)で表される化合物)の含有量(質量%)に対する質量比率で、5.0倍以上30.0倍以下であることを要する。上記の質量比率が30.0倍超であると発色性が低下し、5.0倍未満であると保存安定性が低下する。
水溶性有機溶剤の極性を示す指標とするLogP(Log Pow)について説明する。LogPとは、水とオクタノール(1−オクタノール)の分配係数のことをいう。LogPは対象物質の水へのなじみやすさに関連する物性値であり、この値が大きいほど極性は低くなる。LogPは、LogP=Log10Co/Cw(Coはオクタノール相中の対象物質の濃度を表し、Cwは水相中の対象物質の濃度を表す)の関係式により算出される。LogPは、JIS Z 7260−107に記載の方法で実験的に求めることもできる。また、商品名「ACD/PhysChem Suite」(ACD/Labs製)などの市販の計算ソフトを利用して求めることもできる。後述する実施例においては、商品名「ACD/PhysChem Suite Version 12.00」(ACD/Labs製)を使用して求めた値を採用した。各種の水溶性有機溶剤のLogP値を下記に示す。
第1水溶性有機溶剤の具体例としては、数平均分子量200のポリエチレングリコール(−1.88、2)、テトラエチレングリコール(−1.88、2)、ビス(2−ヒドロキシエチル)スルホン(−1.86、2)、グリセリン(−1.85、3)、トリエチレングリコール(−1.65、2)、ジエチレングリコール(−1.41、2)、1,2,6−ヘキサントリオール(−1.39、3)、エチレングリコール(−1.36、2)、及び1、3−プロパンジオール(−1.09、2)などを挙げることができる。上記具体例の括弧内は、順にその溶剤のLogP値、及びヒドロキシ基数を表す。
本発明のインクは、第1水溶性有機溶剤として、数平均分子量200のポリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコール、及びジエチレングリコールからなる群より選択される少なくとも1種を含有することが好ましい。本発明者らは、これらの第1水溶性有機溶剤をインクに含有させることで、インクの保存安定性に優れるとともに、発色性が高く、かつ、緑味のブラックとなるような優れた色相を有する画像が得られることを見出した。これは、エチレングリコール類に含まれる酸素原子の非共有電子対と一般式(1)で表される化合物が共役系を形成することにより長波長化し、色相が緑味に変化したためと推定される。このとき、分子内のヒドロキシ基数が2未満である場合、分子内の酸素原子の数が不十分であることから共役系を形成することができず、一般式(1)で表される化合物の吸収スペクトルは長波長側にシフトしない。
本発明のインクは、第1水溶性有機溶剤として、ビス(2−ヒドロキシエチル)スルホンを含有することが好ましい。ビス(2−ヒドロキシエチル)スルホンは、電子求引性の特に高いスルホニル基を有する化合物であり、一般式(1)で表される化合物の分極をより高める。そのため、一般式(1)で表される化合物が記録媒体の表面近傍で凝集することで発色性が向上する。
(水性媒体)
本発明のインクには、水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒である水性媒体を用いることができる。水は、脱イオン水(イオン交換水)を用いることが好ましい。インク中の水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、10.0質量%以上90.0質量%以下であることが好ましい。
通常「水溶性有機溶剤」とは液体を指すものであるが、本発明においては、温度25℃で固体であるものも水溶性有機溶剤に含めることとする。水溶性有機溶剤としては、第1水溶性有機溶剤と、必要に応じて使用し得るエチレングリコール類、及びビス(2−ヒドロキシエチル)スルホンに加えて、これら以外の水溶性有機溶剤(その他の水溶性有機溶剤)を併用することができる。その他の水溶性有機溶剤としては、アルコール、多価アルコール、ポリグリコール、グリコールエーテル、含窒素極性溶媒、及び含硫黄極性溶媒など、インクジェット用のインクに使用可能なものを挙げることができる。また、その他の水溶性有機溶剤の1種又は2種以上を用いることができる。インク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、5.0質量%以上90.0質量%以下であることが好ましい。さらには、この水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、5.0質量%以上50.0質量%以下であることがより好ましく、10.0質量%以上50.0質量%以下であることがさらに好ましい。なお、水溶性有機溶剤の含有量は、第1水溶性有機溶剤の含有量を含む値である。水溶性有機溶剤の含有量が上記した範囲を外れると、高いレベルのインクの吐出安定性が十分に得られない場合がある。
水溶性有機溶剤の具体例としては、先に挙げた特定の水溶性有機溶剤も含めると、以下に示すものなどが挙げられる。具体例の括弧内は、順にその溶剤のLogP値、及びヒドロキシ基数を表す。数平均分子量400のポリエチレングリコール(−2.82、2)、数平均分子量200のポリエチレングリコール(−1.88、2)、テトラエチレングリコール(−1.88、2)、ビス(2−ヒドロキシエチル)スルホン(−1.86、2)、グリセリン(−1.85、3)、尿素(−1.66、0)、トリエチレングリコール(−1.65、2)、ジエチレングリコール(−1.41、2)、1,2,6−ヘキサントリオール(−1.39、3)、エチレングリコール(−1.36、2)、1、3−プロパンジオール(−1.09、2)、2−ピロリドン(−1.09、0)、1,2−プロパンジオール(−1.01、2)、トリメチロールプロパン(−0.97、3)、1,4−ブタンジオール(−0.77、2)、N−メチル−2−ピロリドン(−0.64、0)、1,5−ペンタンジオール(−0.56、2)、3−メチル−1,5−ペンタンジオール(−0.21、2)、1,6−ヘキサンジオール(−0.05、2)、イソプロパノール(0.18、1)、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(0.36、1)、1,2−ヘキサンジオール(0.52、2)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(0.60、1)。
(その他の添加剤)
本発明のインクは、上記した成分以外にも必要に応じて、樹脂、界面活性剤、pH調整剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤、蒸発促進剤、キレート化剤、及び樹脂など、種々の添加剤を含有してもよい。
(インクの物性)
本発明のインクの25℃における表面張力は、10mN/m以上60mN/m以下であることが好ましく、20mN/m以上60mN/m以下であることがさらに好ましく、30mN/m以上40mN/m以下であることが特に好ましい。インクの表面張力を上記の範囲内とすることで、インクジェット方式に適用した際に吐出口近傍の濡れによる吐出よれ(記録媒体におけるインクが付与される箇所のズレ)などの発生を有効に抑制することが可能となる。インクの表面張力は、インク中の界面活性剤や水溶性有機溶剤などの含有量を適宜設定することで調整することができる。また、インクジェット方式の記録ヘッドの吐出口から吐出する際に良好な吐出特性が得られるように、インクの粘度を調整することが好ましい。本発明のインクの25℃における粘度は、1.0mPa・s以上5.0mPa・s以下であることが好ましく、1.0mPa・s以上3.0mPa・s以下であることがさらに好ましい。
(その他のインク)
フルカラーの画像などを形成するために、本発明のインクと、本発明のインクとは別の色相を有するその他のインクとを組み合わせて用いることができる。その他のインクとしては、例えば、ブラックインク、シアンインク、マゼンタインク、イエローインク、レッドインク、グリーンインク、及びブルーインクからなる群より選択される少なくとも1種のインクを挙げることができる。また、これらのインクと実質的に同一の色相を有する、いわゆる淡インクをさらに組み合わせて用いることもできる。その他のインクや淡インクに用いられる色材は、公知の染料であっても、新規に合成された染料であってもよい。
<インクカートリッジ>
本発明のインクカートリッジは、インクと、このインクを収容するインク収容部とを備える。そして、このインク収容部に収容されているインクが、上記で説明した本発明のインクである。図1は、本発明のインクカートリッジの一実施形態を模式的に示す断面図である。図1に示すように、インクカートリッジの底面には、記録ヘッドにインクを供給するためのインク供給口12が設けられている。インクカートリッジの内部はインクを収容するためのインク収容部となっている。インク収容部は、インク収容室14と、吸収体収容室16とで構成されており、これらは連通口18を介して連通している。また、吸収体収容室16はインク供給口12に連通している。インク収容室14には液体のインク20が収容されており、吸収体収容室16には、インクを含浸状態で保持する吸収体22及び24が収容されている。インク収容部は、液体のインクを収容するインク収容室を持たず、収容されるインク全量を吸収体により保持する形態であってもよい。また、インク収容部は、吸収体を持たず、インクの全量を液体の状態で収容する形態であってもよい。さらには、インク収容部と記録ヘッドとを有するように構成された形態のインクカートリッジとしてもよい。
<インクジェット記録方法>
本発明のインクジェット記録方法は、上記で説明した本発明のインクをインクジェット方式の記録ヘッドから吐出して記録媒体に画像を記録する方法である。インクを吐出する方式としては、インクに力学的エネルギーを付与する方式や、インクに熱エネルギーを付与する方式が挙げられる。本発明においては、インクに熱エネルギーを付与してインクを吐出する方式を採用することが特に好ましい。本発明のインクを用いること以外、インクジェット記録方法の工程は公知のものとすればよい。
図2は、本発明のインクジェット記録方法に用いられるインクジェット記録装置の一例を模式的に示す図であり、(a)はインクジェット記録装置の主要部の斜視図、(b)はヘッドカートリッジの斜視図である。インクジェット記録装置には、記録媒体32を搬送する搬送手段(不図示)、及びキャリッジシャフト34が設けられている。キャリッジシャフト34にはヘッドカートリッジ36が搭載可能となっている。ヘッドカートリッジ36は記録ヘッド38及び40を具備しており、インクカートリッジ42がセットされるように構成されている。ヘッドカートリッジ36がキャリッジシャフト34に沿って主走査方向に搬送される間に、記録ヘッド38及び40から記録媒体32に向かってインク(不図示)が吐出される。そして、記録媒体32が搬送手段(不図示)により副走査方向に搬送されることによって、記録媒体32に画像が記録される。
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、下記の実施例によって何ら限定されるものではない。成分量に関して「部」及び「%」と記載しているものは特に断らない限り質量基準である。
<色材の合成>
以下に示す手順にしたがって各色材を合成した。なお、簡単のために、合成例中の各化合物は原則、遊離酸型として示した。
(分析条件)
水を溶媒として、得られた色材の吸収スペクトルの最大吸収波長(λmax)を以下の条件で測定した。
・分光光度計:自記分光光度計(商品名「U−3300」、日立製作所製)
・測定セル:1cm 石英セル
・サンプリング間隔:0.1nm
・スキャン速度:30nm/min
(化合物A)
(工程1)
水50.0部に下記式(a)で表される2−アミノ−5−ニトロベンゼンスルホン酸12.2部を添加後、25%水酸化ナトリウム水溶液の添加によりpH4.0〜5.0として水溶液を得た。35%塩酸18.3部を添加後、40%亜硝酸ナトリウム水溶液10.5部を添加し、約30分間反応させた。ここにスルファミン酸1.5部を添加して5分間撹拌し、ジアゾ反応液を得た。
一方、水100.0部に下記式(b)で表される化合物11.0部を添加し、25%水酸化ナトリウム水溶液の添加によりpH4.0〜5.0として水溶液を得た。この水溶液を上記にて得られたジアゾ反応液に約5分間かけて滴下した。滴下後、15%炭酸ナトリウム水溶液の添加によりpHを4.0〜6.0に保持しながら3時間反応させた後、塩化ナトリウムを添加した。析出した固体をろ過により分取し、下記式(c)で表される化合物を含むウェットケーキを103.8部得た。
(工程2)
水80.0部に工程1にて得られた式(c)で表される化合物のウェットケーキ全量を添加後、25%水酸化ナトリウム水溶液の添加によりpH6.0〜7.0として水溶液を得た。35%塩酸16.5部を添加後、40%亜硝酸ナトリウム水溶液10.6部を添加し、約30分間反応させた。ここにスルファミン酸7.5部を添加して5分間撹拌し、ジアゾ反応液を得た。
一方、水100.0部に下記式(d)で表される化合物のウェットケーキ64.7部を添加後、25%水酸化ナトリウム水溶液の添加によりpH4.0〜5.0として水溶液を得た。この水溶液を上記にて得られたジアゾ反応液に約5分間かけて滴下した。滴下後、15%炭酸ナトリウム水溶液の添加によりpHを3.0〜3.5に保持しながら3時間反応させた。この液に塩化ナトリウムを添加し、析出した固体をろ過により分取し、下記式(e)で表される化合物を含むウェットケーキを104.0部得た。
(工程3)
水100.0部に工程2にて得られた式(e)で表される化合物のウェットケーキ52.0部を添加し、撹拌して溶解した。35%塩酸7.8部を添加後、40%亜硝酸ナトリウム水溶液2.8部を添加し、約30分撹拌した。ここにスルファミン酸0.8部を添加して5分間撹拌し、ジアゾ反応液を得た。
一方、水80.0部に下記式(f)で表される化合物3.7部を添加し、25%水酸化ナトリウム水溶液の添加によりpH6.0〜7.0として水溶液を得た。この水溶液を上記にて得られたジアゾ反応液に約5分間かけて滴下した。滴下後、15%炭酸ナトリウム水溶液の添加によりpHを3.0〜4.5に保持しながら3時間反応させた。25%水酸化ナトリウム水溶液の添加によりpHを7.0〜7.5とした後、塩化ナトリウムを添加した。析出した固体をろ過により分取し、下記式(g)で表される化合物を含むウェットケーキを29.5部得た。
(工程4)
水80.0部に工程3にて得られた式(g)で表される化合物のウェットケーキ29.5部を添加し撹拌して溶解した。35%塩酸6.3部を添加後、40%亜硝酸ナトリウム水溶液2.3部を添加し、約30分撹拌した。ここにスルファミン酸0.5部を添加し5分間撹拌しジアゾ反応液を得た。
一方、水80.0部に、特許文献4に記載の方法で得られる下記式(h)の化合物4.4部を添加し、5%水酸化ナトリウム水溶液の添加によりpH6.0〜7.0として水溶液を得た。この水溶液に、上記で得たジアゾ反応液を15〜30℃、約30分間かけて滴下した。この際、15%炭酸ナトリウム水溶液を加えて反応液のpHを6.5〜7.5に保持し、同温度、及びpHの調整を維持しながら、さらに2時間反応した。反応液に塩化ナトリウムを加えて塩析し、析出した固体をろ過により分取し、ウェットケーキ21.5部を得た。得られたウェットケーキを水40.0部に溶解し、35%塩酸でpHを7.0〜7.5とした後、メタノール400.0部を添加し、析出した固体をろ過により分取した。得られたウェットケーキを再度水40.0部に溶解後、メタノール300.0部を添加した。析出した固体をろ過により分取し、乾燥することにより、遊離酸型として下記式(A)で表される化合物のナトリウム塩(「化合物A」と称する。)をブラック粉末として12.1部得た。得られた化合物Aの吸収スペクトルの最大吸収波長λmaxは、597nmであった。
(化合物B)
化合物Aの合成例における原料を適宜変更して、遊離酸型として下記式(B)で表される化合物をナトリウム塩(「化合物B」と称する。)として得た。
(化合物C)
化合物Aの合成例における原料を適宜変更して、遊離酸型として下記式(C)で表される化合物をナトリウム塩(「化合物C」と称する。)として得た。
(化合物D)
特許文献4の記載を参考にして、遊離酸型として下記式(D)で表される化合物をナトリウム塩(「化合物D」と称する。)として得た。
(化合物E)
特許文献5の記載を参考にして、遊離酸型として下記式(E)で表される化合物をナトリウム塩(「化合物E」と称する。)として得た。
(化合物F)
特許文献1の記載を参考にして、遊離酸型として下記式(F)で表される化合物をナトリウム塩(「化合物F」と称する。)として得た。
(化合物G)
特許文献2の記載を参考にして、遊離酸型として下記式(G)で表される化合物をナトリウム塩(「化合物G」と称する。)として得た。
(化合物H)
特許文献3の記載を参考にして、遊離酸型として下記式(H)で表される化合物をナトリウム塩(「化合物H」と称する。)として得た。
<インクの調製>
表6−1〜6−4の上段に示す各成分(単位:%)を混合し、十分に撹拌した後、ポアサイズ0.20μmのフィルターで加圧ろ過して各インクを調製した。表6−1〜6−4中の「アセチレノールE100」(川研ファインケミカル製)は、ノニオン性界面活性剤の商品名である。表6−1〜6−4の下段には、インク中の第1水溶性有機溶剤の含有量S(%)、色材の含有量C(%)、及びS/Cの値を示した。なお、表6−1〜6−4中のポリエチレングリコールの数値はその数平均分子量を表す。また、各水溶性有機溶剤の括弧内の数値はそのLogP値を表す。
<評価>
上記で得られた各インクをそれぞれインクカートリッジに充填し、熱エネルギーの作用により記録ヘッドからインクを吐出するインクジェット記録装置(商品名「PIXUS iP8600」、キヤノン製)に搭載した。本実施例においては、1/2400インチ×1/1200インチの単位領域に2.5pLのインクを付与して記録したベタ画像を「記録デューティが100%である」と定義する。温度23℃、相対湿度55%の条件で、光沢紙(商品名「キヤノン写真用紙・光沢 プロ [プラチナグレード]PT201」、キヤノン製)に、記録デューティが100%である画像を記録した。光学濃度、及び色相の評価の際には、分光光度計(商品名「Spectrolino」、Gretag Macbeth製)を用いて、光源:D50、視野:2°の条件で光学濃度を測定した。a*は、CIE(国際照明委員会)により規定されたL*a*b*表色系におけるa*である。本発明においては、下記の各項目の評価基準で、「AA」、「A」、及び「B」を許容できるレベル、「C」を許容できないレベルとした。評価結果を表7に示す。
(発色性)
ベタ画像の光学濃度を測定し、以下に示す評価基準にしたがって発色性を評価した。
A:光学濃度が1.45以上であった。
B:光学濃度が1.35以上1.45未満であった。
C:光学濃度が1.35未満であった。
(色相)
ベタ画像のa*を測定し、以下に示す評価基準にしたがって色相を評価した。a*が小さいほど従来のインクよりも緑味であり、ニュートラルなブラックの色相であることを示す。
AA:a*が0.0未満であった。
A:a*が0.0以上1.0未満であった。
B:a*が1.0以上3.0未満であった。
C:a*が3.0以上であった。
(保存安定性)
上記で得られた各インクについて、UV−Vis吸光スペクトルにおける、色材の最大吸収波長での吸光度を測定した(保存前の吸光度)。このインクを密閉容器に入れ、温度70℃の環境で14日間保存した後、同様に吸光度を測定した(保存後の吸光度)。UV−Vis吸光スペクトルは、分光光度計(商品名「U−3300」、日立製作所製)を用いて測定した。得られた吸光度の値から、吸光度の減少率=(保存前の吸光度−保存後の吸光度)/(保存前の吸光度)×100%を算出し、以下に示す評価基準にしたがって保存安定性を評価した。吸光度の減少率が小さいほど、色材の溶解状態が安定に保たれていることを示す。
A:吸光度の減少率が15%未満であった。
B:吸光度の減少率が15%以上20%未満であった。
C:吸光度の減少率が20%以上であった。