ところが、上記の特許文献に開示の試験装置および試験方法には、以下のような問題点が存在する。具体的には、上記特許文献に開示の試験装置および試験方法では、測定結果の変動幅の大きさに基づいて被測定コイルに「レアーショート不良」が生じているか否かを判定する構成が採用されている。
この場合、この種の装置・方法による前述のような試験(測定)に際しては、測定対象や測定装置の温度、および測定装置に対して供給される電力の状態などの測定環境の変化に起因して測定結果にばらつきが生じることがある。このため、1つの測定対象に対する測定処理を複数回に亘って行ったときに、各測定処理毎の測定環境が相違する状態となって各測定処理毎の測定結果にばらつきが生じることがある。この結果、上記の特許文献に開示の試験装置および試験方法では、実際には「レアーショート不良」が生じていないにもかかわらず、測定環境の変化に起因して測定結果の変動幅が規定値を超えて、「レアーショート不良」が生じていると誤判定されるおそれがある。
この場合、複数回の測定処理における測定結果の変動幅に基づく判定に代えて、「コイル巻数不良」の試験方法のように測定結果と基準値との差に基づいて「レアーショート不良」が生じているか否かを判定した場合においても、基準値を取得するための測定処理時と、良否判定対象の測定対象についての測定処理時とで測定環境が相違した場合には、測定結果が相違し、「レアーショート不良」の有無を誤判定するおそれがある。
また、この種の装置・方法による前述のような試験(測定)においては、たとえ同種の測定対象(同じ型式の被測定コイル等)であっても、各個体毎に測定結果が僅かに相違するため、これらのばらつきを考慮した基準値を得るためには、複数個の良品の測定対象について複数回の測定処理を実行して最適値を特定する必要がある。この場合、複数個の良品の測定対象の個体差に起因する測定結果のばらつきの大きさが、1つの個体(いずれかの測定対象)に不良が生じているか否かによって生じる測定結果の相違量と同程度、或いはそれ以上となることもある。このため、正確な良否判定が可能な基準値の取得自体が困難となる。
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、基準値を取得する処理を別途行うことなく測定対象の良否を正確に判定し得るデータ処理装置およびデータ処理用プログラム、並びにそのようなデータ処理装置を備えて構成された測定システムを提供することを主目的とする。
上記目的を達成すべく、請求項1記載のデータ処理装置は、予め規定されたサンプリング周期で測定された複数の測定値が記録されている波形データに基づいて当該波形データの信号波形に放電波形成分が含まれているか否かを判定する判定処理を実行する処理部を備えたデータ処理装置であって、前記処理部は、前記放電波形成分が含まれているか否かの判定の基準とする測定値範囲を前記波形データに基づいて規定し、かつ当該測定値範囲との対比によって前記放電波形成分が含まれているか否かを判定可能な比較値を当該波形データに基づいて生成すると共に、生成した前記測定値範囲および前記比較値に基づく前記判定処理を実行して判定結果を特定可能な判定結果データを生成する処理において、前記波形データの前記各測定値のなかから連続するNサンプリング内(Nは、予め規定された2以上の自然数)の変化量が予め規定された量以上の第1の値を抽出して第1のデータを生成する第1の処理と、前記第1のデータの前記各第1の値を絶対値化した第2の値を演算して第2のデータを生成する第2の処理と、前記波形データの前記各測定値を、対象の当該測定値を含んで連続するMサンプリング分(Mは、予め規定された2以上の自然数)の当該測定値を平均化した第3の値にそれぞれ置き換えて第3のデータを生成する第3の処理と、前記第3のデータの前記各第3の値のなかから前記連続するNサンプリング内の変化量が前記予め規定された量以上の第4の値を抽出して第4のデータを生成する第4の処理と、前記第4のデータの前記各第4の値の絶対値を正規化した第5の値を演算して第5のデータを生成する第5の処理と、2次元グラフの縦軸および横軸のいずれか予め規定された一方に前記第2のデータの前記各第2の値を対応させると共に当該2次元グラフの縦軸および横軸の他方に当該各第2の値のサンプリングタイミングに対応する前記第5のデータの前記各第5の値を対応させて、当該第2の値および当該第5の値を前記比較値として当該第2の値および当該第5の値の第1の対応点を当該2次元グラフ上にそれぞれプロットする第6の処理と、前記放電波形成分の前記測定値に対応する前記第1の対応点がプロットされない第1の判定領域、および当該放電波形成分の当該測定値に対応する当該第1の対応点がプロットされる第2の判定領域の少なくとも一方の領域を、前記2次元グラフ上の前記各第1の対応点の配置に基づいて予め規定された領域規定手順に従って当該2次元グラフ上に前記測定値範囲として規定する第7の処理とを実行し、前記第7の処理によって規定した前記少なくとも一方の領域と前記各第1の対応点との位置関係に基づいて前記波形データの信号波形に前記放電波形成分が含まれているか否かを特定する。
また、請求項2記載のデータ処理装置は、請求項1記載のデータ処理装置において、前記処理部は、前記第7の処理において、前記2次元グラフの原点を通過する前記各第1の対応点の回帰直線を特定し、特定した当該回帰直線における当該2次元グラフの前記縦軸および横軸の他方の値が1のときの当該2次元グラフの前記縦軸および横軸のいずれか予め規定された一方の値を値Aとして特定し、かつ、当該2次元グラフの原点、当該予め規定された一方の値が当該値Aで当該他方の値が1の第1の点、および当該予め規定された一方の値が0で当該他方の値が1の第2の点の3点を頂点とする三角形領域を特定すると共に、特定した当該三角形領域に基づいて前記少なくとも一方の領域を規定する。
また、請求項3記載のデータ処理装置は、請求項2記載のデータ処理装置において、前記処理部は、前記2次元グラフの前記縦軸および横軸のいずれか予め規定された一方に前記第1のデータの前記各第1の値を対応させると共に当該2次元グラフの前記縦軸および横軸の他方に当該各第1の値のサンプリングタイミングに対応する前記第5のデータの前記各第5の値を対応させて当該第1の値および当該第5の値の第2の対応点を当該2次元グラフ上にそれぞれプロットすると共に、前記縦軸および横軸の他方の値が「0.5」以下の予め規定された値B以下である前記第2の対応点を抽出し、抽出した前記各第2の対応点における前記縦軸および横軸のいずれか予め規定された一方の値の標準偏差nσ(nは、予め規定された任意の自然数)を演算すると共に、前記原点、前記第1の点、前記予め規定された一方の値が前記標準偏差nσと前記値Aとの和で前記他方の値が1の第3の点、および当該予め規定された一方の値が当該標準偏差nσで当該他方の値が0の第4の点の4点を頂点とする第1の矩形領域を特定し、特定した当該第1の矩形領域および前記三角形領域に基づいて前記少なくとも一方の領域を規定する。
また、請求項4記載のデータ処理装置は、請求項1から3のいずれかに記載のデータ処理装置において、前記処理部は、前記第1の判定領域を前記少なくとも一方の領域とするときには前記第1の対応点の総数に占める当該第1の判定領域に含まれない当該第1の対応点の割合を特定すると共に、前記第2の判定領域を当該少なくとも一方の領域とするときには当該第1の対応点の総数に占める当該第2の判定領域に含まれる当該第1の対応点の割合を特定し、特定した割合が予め規定された割合以上のときに、予め規定された報知処理を実行する。
また、請求項5記載のデータ処理装置は、請求項1から3のいずれかに記載のデータ処理装置において、前記処理部は、前記2次元グラフを前記縦軸および横軸の他方の方向でGa個(Gaは、予め規定された2以上の自然数)に分割したGa個の第2の矩形領域を特定し、前記第1の判定領域を当該少なくとも一方の領域とするときには当該第1の判定領域以外の領域に当該第1の対応点が含まれている当該第2の矩形領域の数を特定すると共に、前記第2の判定領域を前記少なくとも一方の領域とするときには当該第2の判定領域に当該第1の対応点が含まれている前記第2の矩形領域の数を特定し、特定した数が予め規定された数以上のときに、予め規定された報知処理を実行する。
また、請求項6記載のデータ処理装置は、請求項1から5のいずれかに記載のデータ処理装置において、前記処理部は、前記第1の対応点をプロットした前記2次元グラフと前記少なくとも一方の領域を示す領域表示とを前記判定処理の判定結果と共に表示部に表示させる。
また、請求項7記載の測定システムは、請求項1から6のいずれかに記載のデータ処理装置と、測定対象についての前記予め規定されたサンプリング周期での測定を実行して前記波形データを出力する測定装置とを備えて構成されている。
また、請求項8記載のデータ処理用プログラムは、予め規定されたサンプリング周期で測定された複数の測定値が記録されている波形データに基づいて当該波形データの信号波形に放電波形成分が含まれているか否かを判定する判定処理をデータ処理装置の処理部に実行させるデータ処理用プログラムであって、前記放電波形成分が含まれているか否かの判定の基準とする測定値範囲を前記波形データに基づいて規定し、かつ当該測定値範囲との対比によって前記放電波形成分が含まれているか否かを判定可能な比較値を当該波形データに基づいて生成すると共に、生成した前記測定値範囲および前記比較値に基づく前記判定処理を実行して判定結果を特定可能な判定結果データを生成する処理において、前記波形データの前記各測定値のなかから連続するNサンプリング内(Nは、予め規定された2以上の自然数)の変化量が予め規定された量以上の第1の値を抽出して第1のデータを生成する第1の処理と、前記第1のデータの前記各第1の値を絶対値化した第2の値を演算して第2のデータを生成する第2の処理と、前記波形データの前記各測定値を、対象の当該測定値を含んで連続するMサンプリング分(Mは、予め規定された2以上の自然数)の当該測定値を平均化した第3の値にそれぞれ置き換えて第3のデータを生成する第3の処理と、前記第3のデータの前記各第3の値のなかから前記連続するNサンプリング内の変化量が前記予め規定された量以上の第4の値を抽出して第4のデータを生成する第4の処理と、前記第4のデータの前記各第4の値の絶対値を正規化した第5の値を演算して第5のデータを生成する第5の処理と、2次元グラフの縦軸および横軸のいずれか予め規定された一方に前記第2のデータの前記各第2の値を対応させると共に当該2次元グラフの縦軸および横軸の他方に当該各第2の値のサンプリングタイミングに対応する前記第5のデータの前記各第5の値を対応させて、当該第2の値および当該第5の値を前記比較値として当該第2の値および当該第5の値の第1の対応点を当該2次元グラフ上にそれぞれプロットする第6の処理と、前記放電波形成分の前記測定値に対応する前記第1の対応点がプロットされない第1の判定領域、および当該放電波形成分の当該測定値に対応する当該第1の対応点がプロットされる第2の判定領域の少なくとも一方の領域を、前記2次元グラフ上の前記各第1の対応点の配置に基づいて予め規定された領域規定手順に従って当該2次元グラフ上に前記測定値範囲として規定する第7の処理とを前記処理部に実行させると共に、前記第7の処理によって規定した前記少なくとも一方の領域と前記各第1の対応点との位置関係に基づいて前記波形データの信号波形に前記放電波形成分が含まれているか否かを特定する処理を前記処理部に実行させる。
請求項1記載のデータ処理装置では、処理部が、放電波形成分が含まれているか否かの判定の基準とする測定値範囲を波形データに基づいて規定し、かつ測定値範囲との対比によって放電波形成分が含まれているか否かを判定可能な比較値を波形データに基づいて生成すると共に、測定値範囲および比較値に基づく判定処理を実行して判定結果を特定可能な判定結果データを生成する。
具体的には、処理部が、波形データを使用して第1の処理から第6の処理までの各処理を順次実行して第2の値および第5の値を比較値として第2の値および第5の値の第1の対応点を2次元グラフ上にそれぞれプロットした後に、放電波形成分の測定値に対応する第1の対応点がプロットされない第1の判定領域、および放電波形成分の測定値に対応する第1の対応点がプロットされる第2の判定領域の少なくとも一方の領域を、2次元グラフ上の各第1の対応点の配置に基づいて予め規定された領域規定手順に従って2次元グラフ上に測定値範囲として規定する第7の処理を実行し、第7の処理によって規定した少なくとも一方の領域と各第1の対応点との位置関係に基づいて波形データの信号波形に放電波形成分が含まれているか否かを特定する。
また、請求項8記載のデータ処理用プログラムでは、上記の各処理をデータ処理装置の処理部に実行させる。
したがって、請求項1記載のデータ処理装置、および請求項8記載のデータ処理用プログラムによれば、測定対象について取得した1つの波形データに基づいて、放電波形成分が存在するか否かを判定するための測定値範囲(第1の判定領域および/または第2の判定領域)を規定し、かつ測定値範囲との比較によって放電波形成分が存在するか否かを判定可能な比較値(第2の値および第5の値)を特定することができる。このため、複数回の測定処理が不要となり、複数の測定対象についての個体差の影響や、測定処理毎の測定環境の相違に起因する測定値のばらつきの影響を受けることがなくなるため、放電現象が発生しているか否かの判定精度を十分に向上させることができるだけでなく、判定用の基準値(閾値)を生成する処理を別個に行う必要もなくなることから、利用者の負担を十分に軽減することができる。
また、請求項2記載のデータ処理装置では、処理部が、第7の処理において、2次元グラフの原点を通過する各第1の対応点の回帰直線を特定し、特定した回帰直線における2次元グラフの縦軸および横軸の他方の値が1のときの2次元グラフの縦軸および横軸のいずれか予め規定された一方の値を値Aとして特定し、かつ、2次元グラフの原点、予め規定された一方の値が値Aで他方の値が1の第1の点、および予め規定された一方の値が0で他方の値が1の第2の点の3点を頂点とする三角形領域を特定すると共に、特定した三角形領域に基づいて少なくとも一方の領域を規定する。
したがって、請求項2記載のデータ処理装置、およびそのような処理を実行させるデータ処理用プログラムによれば、放電波形成分の値に対応する第1の対応点がプロットされる可能性が極めて低い三角形領域を確実かつ容易に特定することができ、この三角形領域に基づいて、第1の判定領域および/または第2の判定領域を容易に特定して規定することができる。
さらに、請求項3記載のデータ処理装置では、処理部が、2次元グラフの縦軸および横軸のいずれか予め規定された一方に第1のデータの各第1の値を対応させると共に2次元グラフの縦軸および横軸の他方に各第1の値のサンプリングタイミングに対応する第5のデータの各第5の値を対応させて第1の値および第5の値の第2の対応点を2次元グラフ上にそれぞれプロットすると共に、縦軸および横軸の他方の値が「0.5」以下の予め規定された値B以下である第2の対応点を抽出し、抽出した各第2の対応点における縦軸および横軸のいずれか予め規定された一方の値の標準偏差nσを演算すると共に、原点、第1の点、予め規定された一方の値が標準偏差nσと値Aとの和で他方の値が1の第3の点、および予め規定された一方の値が標準偏差nσで他方の値が0の第4の点の4点を頂点とする第1の矩形領域を特定し、特定した第1の矩形領域および三角形領域に基づいて少なくとも一方の領域を規定する。
したがって、請求項3記載のデータ処理装置、およびそのような処理を実行させるデータ処理用プログラムによれば、特定した第1の矩形領域および三角形領域に基づいて第1の判定領域および/または第2の判定領域を容易に特定することができ、波形データの信号波形に放電波形成分が含まれているか否かを高精度に判定可能な第1の判定領域および/または第2の判定領域の領域データを確実に規定することができる。
また、請求項4記載のデータ処理装置では、処理部が、第1の判定領域を少なくとも一方の領域とするときには第1の対応点の総数に占める第1の判定領域に含まれない第1の対応点の割合を特定すると共に、第2の判定領域を少なくとも一方の領域とするときには第1の対応点の総数に占める第2の判定領域に含まれる第1の対応点の割合を特定し、特定した割合が予め規定された割合以上のときに、予め規定された報知処理を実行する。
また、請求項5記載のデータ処理装置では、処理部が、2次元グラフを縦軸および横軸の他方の方向でGa個に分割したGa個の第2の矩形領域を特定し、第1の判定領域を少なくとも一方の領域とするときには第1の判定領域以外の領域に第1の対応点が含まれている第2の矩形領域の数を特定すると共に、第2の判定領域を少なくとも一方の領域とするときには第2の判定領域に第1の対応点が含まれている第2の矩形領域の数を特定し、特定した数が予め規定された数以上のときに、予め規定された報知処理を実行する。
したがって、請求項4,5記載のデータ処理装置、およびそのような処理を実行させるデータ処理用プログラムによれば、波形データの信号波形に放電波形成分が含まれているか否かの判定結果を確実かつ容易に認識させることができる。
さらに、請求項6記載のデータ処理装置では、処理部が、第1の対応点をプロットした2次元グラフと少なくとも一方の領域を示す領域表示とを判定処理の判定結果と共に表示部に表示させる。したがって、請求項6記載のデータ処理装置、およびそのような処理を実行させるデータ処理用プログラムによれば、波形データの信号波形に放電波形成分が含まれているか否かの判定結果を一層確実かつ一層容易に認識させることができる。
また、請求項7記載の測定システムでは、請求項1から6のいずれかに記載のデータ処理装置と、測定対象についての予め規定されたサンプリング周期での測定を実行して波形データを出力する測定装置とを備えて構成されている。したがって、請求項7記載の測定システムによれば、波形データの取得(生成)から放電波形成分の有無の判定および判定結果データの生成までの一連の処理を1つのシステムで実行することができる。
以下、データ処理装置、測定システムおよびデータ処理用プログラムの実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
最初に、測定システム1の構成について説明する。図1に示す測定システム1は、「測定システム(検査システム)」の一例である「インパルス試験システム」であって、検査対象(測定対象)Xの良否を検査可能に構成されている。この測定システム1は、「測定装置」の一例である測定装置2と、「データ処理装置」の一例であるデータ処理装置3とを備えて構成されている。なお、検査対象Xは、「測定対象」の一例であって、本例では、一例として巻線部品(コイル)を検査対象Xとして各種の処理を実行する例について説明する。
測定装置2は、一例として、データ処理装置3の制御に従い、検査対象Xを対象とする各種の測定処理を実行可能に構成されている。具体的には、測定装置2は、測定信号発生部11、A/D変換部12、処理部13および記憶部14などを備えている。測定信号発生部11は、処理部13の制御に従って検査対象Xの両端間に測定信号としてのインパルス電圧を印加する。A/D変換部12は、一例として、処理部13の制御に従い、指定された周期(「予め規定されたサンプリング周期:測定周期)で測定対象を流れる電流の電流値をA/D変換(サンプリング:測定)して測定値Ds(サンプリング値:「測定値」の一例)を処理部13に順次出力する。なお、電流値のサンプリングに代えて、指定された周期で測定対象の両端間の電圧値をA/D変換(サンプリング:測定)して測定値Dsを出力する構成を採用することもできる。
処理部13は、測定装置2を総括的に制御する。具体的には、処理部13は、測定信号発生部11を制御して測定対象にインパルス電圧を印加させると共に、A/D変換部12を制御して任意の周期で電流値のA/D変換処理(サンプリング処理)を実行させる。また、処理部13は、A/D変換部12から出力される測定値Dsを記憶部14に記憶させ、かつ測定値Dsに基づいて波形データD0(「波形データ」の一例)を生成して記憶部14に記憶させると共に、生成した波形データD0をデータ処理装置3に出力する。記憶部14は、処理部13の動作プログラムや、上記の測定値Ds(波形データD0)などを記憶する。なお、実際の測定装置2には、測定装置2の動作条件を指示するための各種の操作スイッチや、測定条件の設定画面および測定値の表示画面などを表示する表示部を備えて構成されているが、これらについての図示および説明を省略する。
一方、データ処理装置3は、後述するように測定装置2から取得した波形データD0に基づいて検査対象Xの良否を検査する。この場合、本例の測定システム1では、一例として、「データ処理用プログラム」に相当するデータ処理用プログラムDpが既存のパーソナルコンピュータにインストールされてデータ処理装置3が構成されている。具体的には、このデータ処理装置3は、操作部21、表示部22、処理部23および記憶部24を備えている。操作部21は、キーボード、およびマウスやタッチパネルなどのポインティングデバイスを備え(図示せず)、これらに対する操作に応じた操作信号を処理部23に出力する。表示部22は、「表示部」の一例であって、処理部23の制御に従い、測定結果や検査結果(良否判定の結果)などを示す各種の表示画面を表示する。
処理部23は、「処理部」の一例であって、データ処理装置3を総括的に制御する。具体的には、処理部23は、後述するようにデータ処理用プログラムDpに従い、測定装置2を制御して検査対象Xを対象とする測定処理を実行させると共に、測定装置2から出力される波形データD0に基づいて検査対象Xの良否を検査する検査処理(良否の判定処理)を実行して検査結果データDr(「判定結果データ」の一例)を生成する。記憶部24は、データ処理用プログラムDp(処理部23の動作プログラムのデータ)、測定システム1から出力される波形データD0、および処理部23によって生成される各種のデータを記憶する。
次に、測定システム1による検査対象Xの検査方法について、添付図面を参照して説明する。なお、データ処理装置3にデータ処理用プログラムDpをインストールする作業や、測定装置2とデータ処理装置3とを接続する作業については既に完了しているものとする。
検査対象Xの検査に際しては、まず、検査対象Xについての測定装置2による測定処理を実行する。具体的には、検査対象Xを測定装置2に接続すると共に、データ処理装置3の操作部21を操作して測定処理の開始を指示する。これに応じて、処理部23は、データ処理用プログラムDpに従って測定装置2を制御して検査対象Xについての測定処理を開始させる。
この際に、測定装置2では、処理部13が、まず、A/D変換部12を制御してデータ処理装置3(処理部23)から指示されたサンプリング周期での電流値のサンプリング(測定)を開始させる。これにより、A/D変換部12から検査対象Xについての測定値Ds(検査対象Xを流れる電流の電流値)が順次出力されて記憶部14に記憶される。また、処理部13は、測定信号発生部11を制御して検査対象Xにインパルス電圧を印加させる。この際には、検査対象Xを流れる電流についての測定値Ds(電流値)が、図2に示す波形W0(「波形データの信号波形」の一例)のように変化する。
次いで、処理部13は、一例として、検査対象Xに対するインパルス電圧の印加を開始させる直前の時点から、処理部23によって指示された時間が経過した時点において、この時間内にA/D変換部12から出力された複数の測定値Ds,Ds・・を記録して波形データD0を生成し、生成した波形データD0を記憶部14に記憶させる。また、処理部13は、生成した波形データD0をデータ処理装置3に出力する。また、データ処理装置3では、処理部23が、測定装置2から出力された波形データD0を検査対象Xに関連付けて記憶部24に記憶させる。これにより、検査対象Xについての測定処理が完了する。
一方、データ処理装置3では、波形データD0の取得が完了したときに、処理部23が、データ処理用プログラムDpに従い、検査対象Xが良品か不良品かを検査する検査処理を開始する。
この検査処理において、処理部23は、まず、波形データD0の各測定値Dsのなかから連続するNサンプリング内の変化量が予め規定された量以上の測定値(「第1の値」の一例)を抽出して波形データD1(「第1のデータ」の一例)を生成する「第1の処理」を実行する。具体的には、処理部23は、一例として、ハイパスフィルタや1次元のラプラシアンフィルタ等を用いたフィルタリング処理により、波形データD0の各測定値Dsのなかから連続するN=2サンプリング内の変化量が規定量を超える測定値Dsを抽出して波形データD1を生成する。これにより、図3に示す波形W1のように、波形データD0の生成時(測定処理時)に検査対象Xに生じた放電現象の成分や、大きなノイズ等の成分に対応する急峻な変化の波形成分の測定値が波形データD1として取得され、「第1の処理」が完了する。
次いで、処理部23は、波形データD1の各測定値を絶対値化した値(「第2の値」の一例)を演算して波形データD2(「第2のデータ」の一例)を生成する「第2の処理」を実行する。これにより、図4に示す波形W2のような波形データD2が生成され、「第2の処理」が完了する。
続いて、処理部23は、波形データD0の各測定値Dsを、対象の測定値Dsを含んで連続するMサンプリング分の測定値Dsを平均化した値(「第3の値」の一例)にそれぞれ置き換えて波形データD3(「第3のデータ」の一例)を生成する「第3の処理」を実行する。具体的には、処理部23は、一例として、波形データD0の各測定値Dsのうちのnサンプリング目の測定値Dsを測定値Dsnとし、かつ上記の「M」の値を「3」に規定したときに、測定値Dsnの1サンプリング前の測定値Ds(n−1)と、測定値Dsnの1サンプリング後の測定値Ds(n+1)と、測定値Dsnとの合計値を「M=3」で除した値(連続する3サンプリング分の測定値Dsの値の平均値)を「第3の値」として演算して波形データD3を生成する。
これにより、図5に破線で示す波形W3のように、波形データD0において、上記の「第1の処理」において抽出した「放電現象の成分や、大きなノイズ等の成分に対応する急峻な変化の波形成分」の影響が十分に軽減された測定値の波形データD3が生成され、「第3の処理」が完了する。なお、同図では、「第3の処理」についての理解を容易とするために、図2に示す波形W0における時間軸方向の一部を拡大し、その波形W0の測定値Dsに基づいて演算される値の波形W3を波形W0に重ねて図示している。また、「第3の処理」については、上記の例にようにM=3値の3点平均値を求める処理に限定されず、M=3以外の複数値の平均値を求める処理や、ハミング窓等を用いた平均化処理を「第3の処理」として実行してもよい。
続いて、処理部23は、波形データD3の各測定値のなかから連続するNサンプリング内の変化量が予め規定された量以上の測定値(「第4の値」の一例)を抽出して波形データD4(「第4のデータ」の一例)を生成する「第4の処理」を実行する。具体的には、処理部23は、前述した「第1の処理」において使用したフィルタと同じフィルタを用いたフィルタリング処理により、波形データD3の各測定値のなかから連続するN=2サンプリング内の変化量が規定量を超える測定値を抽出して波形データD4を生成する。これにより、図6に示す波形W4のように、上記の「第3の処理」において「急峻な変化の波形成分」の影響が十分に軽減された波形データD3について、「第1の処理」において使用したフィルタと同じフィルタを用いてフィルタリングされた波形データD4が生成され、「第4の処理」が完了する。
次いで、処理部23は、波形データD4の各値の絶対値を正規化した値(「第5の値」の一例)を演算して波形データD5(「第5のデータ」の一例)を生成する「第5の処理」を実行する。これにより、図7に示す波形W5のような波形データD5が生成され、「第5の処理」が完了する。
続いて、処理部23は、「第6の処理」を開始する。この「第6の処理」では、処理部23は、図8に示すように、一例として、2次元グラフの縦軸に波形データD2の値(第2の値)を対応させると共に(「縦軸および横軸のいずれか予め規定された一方」を「縦軸」とした例)、2次元グラフの横軸に波形データD2の各値のサンプリングタイミングに対応する波形データD5の各値(第5の値)を対応させて(「縦軸および横軸の他方」を「横軸」とした例)、波形データD2の値、および波形データD5の値(「比較値」の一例)の対応点(「第1の対応点」の一例)を2次元グラフ上にそれぞれプロットする。なお、同図では、両値の対応点(第1の対応点)を「◆」で表している。
この際には、前述した「第2の処理」において生成された波形データD2の値、すなわち、波形データD0の測定値Dsのうちの「放電成分と判定されるべき変化量と同程度に短時間で大きく変化した値」が平均化されて絶対値化された値(第2の値)と、「第5の処理」において生成された波形データD5の値、すなわち、波形データD0の測定値Dsのうちの「放電成分と判定されるべき変化量と同程度に短時間で大きく変化した値」が平均化された値の絶対値が正規化された値(第5の値)との対応点が「第1の対応点」として2次元グラフ上にそれぞれプロットされる。
つまり、2次元グラフ上の各「第1の対応点」は、波形データD0の波形W0に放電波形成分が含まれていたときには、放電波形成分に対応して大きな値となっている波形データD2の影響を受けて縦軸方向の上方寄りの部位にプロットされ、波形データD0の波形W0に放電波形成分が含まれていないときには、放電波形成分が存在しないことで小さな値となっている波形データD2の影響を受けて縦軸方向の下方寄りの部位にプロットされることとなる。したがって、処理部23は、上記の「第6の処理」においてプロットした各「第1の対応点」の2次元グラフ上の配置に基づき、予め規定された「領域規定手順」に従って2次元グラフ上に「測定値範囲」としての「判定領域」を規定する(「第7の処理」の実行)。
なお、この「第7の処理」の具体的な手順については、後に詳細に説明するが、本例の測定システム1(データ処理装置3)では、図9,10に示すように、波形データD0の波形W0に放電波形成分が含まれているときに、その放電波形成分に対応する値の「第1の対応点」がプロットされない判定領域Aa(「測定値範囲」としての「第1の判定領域」の一例)と、波形データD0の波形W0に放電波形成分が含まれているときに、その放電波形成分に対応する値の「第1の対応点」がプロットされる判定領域Ab(「測定値範囲」としての「第2の判定領域」の一例)との少なくとも一方を規定する処理を「第7の処理」として実行する。この際に、本例の測定システム1(データ処理装置3)では、両図に示すように、「第1の対応点」をプロットした上記の2次元グラフ上に規定した判定領域Aaおよび/または判定領域Abを重ねて表示部22に表示させる。
次いで、処理部23は、検査対象Xについて測定した波形データD0の波形W0に放電波形成分が含まれているか否かの「判定処理(すなわち、検査対象Xが良品であるか不良品であるかの検査処理)」を実行する。具体的には、処理部23は、まず、上記の「第1の対応点」と判定領域Aa、および/または判定領域Abとの位置関係を特定する。この際に、すべての「第1の対応点」が判定領域Aa内にプロットされているとき(すべての「第1の対応点」が判定領域Ab外にプロットされているとき)に、処理部23は、波形データD0の波形W0に放電波形成分が含まれていないと判定する。また、幾つかの「第1の対応点」が判定領域Aa外にプロットされているとき(幾つかの「第1の対応点」が判定領域Ab内にプロットされているとき)に、処理部23は、波形データD0の波形W0に放電波形成分が含まれていると判定する。
この後、処理部23は、上記の放電波形成分の有無の判定処理とは別個に行う他の検査項目に関する判定処理の結果と共に、放電波形成分の有無の判定処理の判定結果を検査対象Xに関連付けて記録して検査結果データDrを生成する。また、すべての検査項目において不良なしと判定したときには、検査対象Xが良品であるとの事項を検査結果データDrに記録すると共に、いずれかの検査項目において不良ありと判定したときには、検査対象Xが不良品であるとの事項を検査結果データDrに記録する。以上により、検査対象Xについての一連の検査処理が完了する。
次に、検査対象Xについての上記の一連の処理のうちの「第7の処理(2次元グラフ上に判定領域Aa,Abを規定する処理)」について、添付図面を参照して詳細に説明する。
上記の「第7の処理」において判定領域Aa(または、判定領域Ab)を規定するときに、処理部23は、まず、「第6の処理」においてプロットした「第1の対応点」の位置を特定すると共に、図11に示すように、2次元グラフの原点P0を通過する「各第1の対応点の回帰直線」を特定する。この際には、一例として、同図に示す一点鎖線Lが「回帰直線」として特定される。次いで、処理部23は、特定した回帰直線(一点鎖線L)における2次元グラフの横軸(「縦軸および横軸の他方」の一例)の値が「1」のときの2次元グラフの縦軸(縦軸および横軸のいずれか予め規定された一方」の一例)の値(本例では、約0.08:「値A」の一例)を特定する。
続いて、2次元グラフの原点P0、縦軸の値が「値A」で横軸の値が「1」の点P1(「第1の点」の一例)、および縦軸の値が「0」で横軸の値が「1」の点2(「第2の点」の一例)の3点を頂点とする三角形領域A1を特定すると共に、特定した三角形領域A1に基づき、図9,10に示すように判定領域Aaおよび/または、判定領域Abを規定する。
具体的には、処理部23は、図12に示すように、2次元グラフの縦軸(「縦軸および横軸のいずれか予め規定された一方」の一例)に波形データD1の値(第1の値)を対応させると共に、2次元グラフの横軸(「縦軸および横軸の他方」の一例)に波形データD1の各値のサンプリングタイミングに対応する波形データD5の値(第5の値)を対応させて波形データD1の値、および波形データD5の値の対応点(「第2の対応点」の一例)を2次元グラフ上にそれぞれプロットする。なお、同図では、両値の対応点(第2の対応点)を「■」で表している。
この場合、波形データD0のような減衰振動波形(過渡現象の波形)の値に基づく「第2の対応点」は、変化率が小さい値が多くなるため、同図の2次元グラフの例では、横軸方向の原点側の部位に数多くの「第2の対応点」がプロットされることとなる。また、横軸方向の原点側の部位にプロットされた各「第2の対応点」は、対応する「第1の値」の自体が小さいことから、その分布が2次元グラフ上において縦軸方向に大きく分離せずに密集した状態となる。
したがって、処理部23は、一例として、横軸の値が「0.1(「縦軸および横軸の他方の値が「0.5」以下の予め規定された値B」の一例)」以下である「第2の対応点」、すなわち、各「第2の対応点」のうちの大半を占める通常の測定値Dsに対応する「第2の対応点」(放電波形成分や大きなノイズ成分が存在する場合に、そのような特異な測定値Dsを除く測定値Dsに対応する「第2の対応点」)を抽出する。なお、上記の「値B」については、「0.5」以下の「0.1」以外の任意の正数とすることができる。
次いで、処理部23は、抽出した各「第2の対応点」における縦軸の値の標準偏差nσを演算する。この場合、「n」については、測定値Dsの数(サンプリング数)に応じて任意の自然数を予め規定しておく。具体的には、一例として、波形データD0における測定値Dsの数が「10,000」であって、この波形データD0の波形W0に放電波形成分が存在しないときに、標準偏差nσ=3σの範囲内に含まれる測定値Dsは、「10,000×約99.73%≒9,973値」で「10,000−9,973=27値」が標準偏差nσの範囲外となる可能性があり、標準偏差nσ=4σの範囲内に含まれる測定値Dsは、「10,000×約99.994%≒9,999.4値」で「10,000−9,999.4=0.6値」が標準偏差nσの範囲外となる可能性がある。
また、標準偏差nσ=5σの範囲内に含まれる測定値Dsは、「10,000×約99.9999%≒9,999.99値」で「10,000−9,999.99=0.01値」が標準偏差nσの範囲外となる可能性があり、標準偏差nσ=6σの範囲内に含まれる測定値Dsは、「10,000×約99.999999%≒9,999.9999値」で「10,000−9,999.999999=0.000001値」が標準偏差nσの範囲外となる可能性がある。したがって、この「第7の処理」においては、標準偏差nσ(n≧3)、好ましくは、標準偏差5σ、または標準偏差6σを演算することで、放電波形成分が存在するとの誤判定が生じさせる可能性が十分に低い判定領域Aa(または、判定領域Ab)を規定することが可能となる。
続いて、処理部23は、図9,10に示すように、前述した原点P0、および点P1と、縦軸の値が標準偏差nσと「値A(本例では、約0.08)」との和で横軸の値が「1」の点P3(「第3の点」の一例)と、縦軸の値が標準偏差nσで横軸の値が「0」の点P4(「第4の点」の一例)との4点を頂点とする矩形領域A2(「第1の矩形領域」の一例)を特定する。また、処理部23は、処理部23は、判定領域Aaを規定するときには、上記の三角形領域A1と矩形領域A2とを足し合わせた領域を判定領域Aaとして規定すると共に、判定領域Abを規定するときには、2次元グラフにおいて上記の三角形領域A1および矩形領域A2を除く領域を判定領域Abとして規定する。以上により、判定領域Aaおよび/または判定領域Abを規定する「第7の処理」が完了する。
この場合、波形データD0の波形W0に放電波形成分が含まれていないときには、図9に示すように、波形データD2の値および波形データD5の値の「第1の対応点(同図に示す「◆」の点)」を2次元グラフ上にそれぞれプロットしたときに、すべての「第1の対応点」が判定領域Aa内(判定領域Ab外)にプロットされる。これに対して、波形データD0の波形W0に放電波形成分が含まれていたときには、図10に示すように、波形データD2の値および波形データD5の値の「第1の対応点」を2次元グラフ上にそれぞれプロットしたときに、幾つかの「第1の対応点」(放電波形成分の測定値Dsに対応する「第1の対応点」)が判定領域Aa外(判定領域Ab内)にプロットされる。したがって、上記のような手順で判定領域Aa、および/または判定領域Abを規定することにより、波形データD2,D5に基づき、波形データD0の波形W0に放電波形成分が含まれているか否かを好適に判定できる。
次に、前述の検査対象Xについての前述した一連の処理のうちの「判定処理」(波形データD0の波形W0に放電波形成分が含まれているか否かの判定:検査処理)について、添付図面を参照して詳細に説明する。
波形データD2,D5と、判定領域Aaおよび/または判定領域Abとに基づいて波形データD0の波形W0に放電波形成分が含まれているか否かを判定する場合、「第7の処理」において判定領域Aaを過剰に狭く規定したとき(判定領域Abを過剰に広く規定したとき)に、放電波形成分ではないノイズ成分等が放電波形成分であると誤判定されるおそれがある。したがって、本例の測定システム1(データ処理装置3)では、「判定処理」において放電波形成分の有無を判定したときに、以下のような「報知処理」を行うことで、判定領域Aa,Abが好適に規定されているか否かを利用者に把握させる構成が採用されている。
具体的には、一例として、処理部23は、まず、判定領域Aa(第1の判定領域)を「少なくとも一方の領域」とするときには、「第1の対応点」の総数に占める判定領域Aaに含まれない「第1の対応点」の割合を特定すると共に、判定領域Ab(第2の判定領域)を「少なくとも一方の領域」とするときには、「第1の対応点」の総数に占める判定領域Abに含まれる「第1の対応点」の割合を特定する。つまり、各「第1の対応点」に占める「放電波形成分に対応すると判定される第1の対応点」の割合を特定する。
次いで、特定した割合が「予め規定された割合(一例として、10%)」以上のときに、「放電波形成分と判定されるポイント数が10%を超えました」とのメッセージを表示部22に表示させる(「予め規定された報知処理」の一例)。したがって、このメッセージを見た利用者は、波形データD0の測定時にそれほど多くの放電現象が発生している筈がないと判断したときには、判定領域Aaを狭く規定し過ぎた(判定領域Abを広く規定し過ぎた)と判断し、判定領域Aa、および/または判定領域Abの広さを手動で調整したり、上記の一連の手順における各係数を変更して新たな判定領域Aa、および/または判定領域Abを規定させたりする。なお、上記の「予め規定された割合」は、「0%」よりも大きく「100%」よりも小さい範囲内で「10%」以外の任意の割合に規定することができる。
また、「報知処理」としては、上記の処理に代えて、以下のような処理を行うこともできる。具体的には、一例として、処理部23は、「判定処理」において、図13に示すように、まず、2次元グラフを横軸(「縦軸および横軸の他方」の一例)の方向で10個(「Ga=10個」の例)に分割したGa=10個の矩形領域A10〜A19(「第2の矩形領域」の一例)を特定する。次いで、処理部23は、判定領域Aaを「少なくとも一方の領域」とするときには判定領域Aa以外の領域に「第1の対応点」が含まれている矩形領域A10〜A19の数を特定すると共に、判定領域Abを「少なくとも一方の領域」とするときには判定領域Abに「第1の対応点」が含まれている矩形領域A10〜A19の数を特定する。つまり、矩形領域A10〜A19のうちの「放電波形成分に対応すると判定される第1の対応点」が存在する領域の数を特定する。この際に、同図に示す例では、該当する領域が矩形領域A10の1つであると特定される。
続いて、処理部23は、特定した領域の数が「予め規定された数(一例として、Ga=10/2=5)」以上のときに、「放電波形成分と判定されるポイントが位置する領域が50%を超えました」とのメッセージを表示部22に表示させる(「予め規定された報知処理」の他の一例)。なお、同図に示す例では、特定された領域の数が1つだけのため、上記のようなメッセージが表示されることなく、前述したような判定結果が表示部22に表示されるが、上記のようなメッセージが表示された場合、そのメッセージを見た利用者は、波形データD0の測定時にそれほど多くの放電現象が発生している筈がないと判断したときには、判定領域Aaを狭く規定し過ぎた(判定領域Abを広く規定し過ぎた)と判断し、判定領域Aa、および/または判定領域Abの広さを手動で調整したり、上記の一連の手順における各係数を変更して新たな判定領域Aa、および/または判定領域Abを規定させたりする。なお、上記の「Ga個」は、10個以外で2以上の任意の自然数に規定することができる。また、「予め規定された数」についても、5個以外でGa個以下の任意の自然数に規定することができる。
このように、このデータ処理装置3では、処理部23が、放電波形成分が含まれているか否かの判定の基準とする「測定値範囲」を波形データD0に基づいて規定し、かつ「測定値範囲」との対比によって放電波形成分が含まれているか否かを判定可能な「比較値」を波形データD0に基づいて生成すると共に、「測定値範囲」および「比較値」に基づく「判定処理(検査処理)」を実行して判定結果を特定可能な検査結果データDrを生成する。
具体的には、処理部23が、波形データD0を使用して「第1の処理」から「第6の処理」までの各処理を順次実行して「第2の値(波形データD2の値)」および「第5の値(波形データD5の値)」を「比較値」として「第2の値」および「第5の値」の「第1の対応点」を2次元グラフ上にそれぞれプロットした後に、放電波形成分の測定値Dsに対応する「第1の対応点」がプロットされない判定領域Aa、および放電波形成分の測定値Dsに対応する「第1の対応点」がプロットされる判定領域Abの少なくとも一方の領域を、2次元グラフ上の各「第1の対応点」の配置に基づいて予め規定された領域規定手順に従って2次元グラフ上に「測定値範囲」として規定する「第7の処理」を実行し、「第7の処理」によって規定した判定領域Aaおよび/または判定領域Abと各「第1の対応点」との位置関係に基づいて波形データD0の波形W0に放電波形成分が含まれているか否かを特定する。
また、このデータ処理用プログラムDpでは、上記の各処理をデータ処理装置3の処理部23に実行させる。
したがって、このデータ処理装置3およびデータ処理用プログラムDpによれば、検査対象Xについて取得した1つの波形データD0に基づいて、放電波形成分が存在するか否かを判定するための「測定値範囲」(判定領域Aaおよび/または判定領域Ab)を規定し、かつ「測定値範囲」との比較によって放電波形成分が存在するか否かを判定可能な「比較値」(「第2の値」および「第5の値」)を特定することができる。このため、複数回の測定処理が不要となり、複数の検査対象Xについての個体差の影響や、測定処理毎の測定環境の相違に起因する測定値Dsのばらつきの影響を受けることがなくなるため、放電現象が発生しているか否かの判定精度を十分に向上させることができるだけでなく、判定用の基準値(閾値)を生成する処理を別個に行う必要もなくなることから、利用者の負担を十分に軽減することができる。
また、このデータ処理装置3では、処理部23が、「第7の処理」において、2次元グラフの原点P0を通過する各「第1の対応点」の回帰直線(図9〜11における一点鎖線L)を特定し、特定した回帰直線における2次元グラフの横軸の値が「1」のときの2次元グラフの縦軸の値を「値A」として特定し、かつ、2次元グラフの原点P0、縦軸の値が「値A」で横軸の値が「1」の点P1、および縦軸の値が「0」で横軸の値が「1」の点P2の3点を頂点とする三角形領域A1を特定すると共に、特定した三角形領域A1に基づいて判定領域Aaおよび/または判定領域Abを規定する。
したがって、このデータ処理装置3およびデータ処理用プログラムDpによれば、放電波形成分の値に対応する「第1の対応点」がプロットされる可能性が極めて低い三角形領域A1を確実かつ容易に特定することができ、この三角形領域A1に基づいて、判定領域Aaおよび/または判定領域Abを容易に特定して規定することができる。
さらに、このデータ処理装置3では、処理部23が、2次元グラフの縦軸に波形データD1の各「第1の値」を対応させると共に2次元グラフの横軸に各「第1の値」のサンプリングタイミングに対応する波形データD5の各「第5の値」を対応させて「第1の値」および「第5の値」の「第2の対応点」を2次元グラフ上にそれぞれプロットすると共に、横軸の値が「0.5」以下の予め規定された「値B」以下である「第2の対応点」を抽出し、抽出した各「第2の対応点」における縦軸の値の標準偏差nσを演算すると共に、原点P0、点P1、縦軸の値が標準偏差nσと「値A」との和で横軸の値が「1」の点P3、および縦軸の値が標準偏差nσで横軸の値が「0」の点P4の4点を頂点とする矩形領域A2を特定し、特定した矩形領域A2および三角形領域A1に基づいて判定領域Aaおよび/または判定領域Abを規定する。
したがって、このデータ処理装置3およびデータ処理用プログラムDpによれば、特定した矩形領域A2および三角形領域A1に基づいて判定領域Aaおよび/または判定領域Abを容易に特定することができ、波形データD0の波形W0に放電波形成分が含まれているか否かを高精度に判定可能な判定領域Aaおよび/または判定領域Abの領域データを確実に規定することができる。
また、このデータ処理装置3では、処理部23が、判定領域Aaを「少なくとも一方の領域」とするときには「第1の対応点」の総数に占める判定領域Aaに含まれない「第1の対応点」の割合を特定すると共に、判定領域Abを「少なくとも一方の領域」とするときには「第1の対応点」の総数に占める判定領域Abに含まれる「第1の対応点」の割合を特定し、特定した割合が予め規定された割合以上のときに、予め規定された「報知処理」を実行する。
また、このデータ処理装置3では、処理部23が、2次元グラフを横軸の方向でGa個に分割したGa個の矩形領域A10〜A19を特定し、判定領域Aaを「少なくとも一方の領域」とするときには判定領域Aa以外の領域に「第1の対応点」が含まれている矩形領域A10〜A19の数を特定すると共に、判定領域Abを「少なくとも一方の領域」とするときには判定領域Abに「第1の対応点」が含まれている矩形領域A10〜A19の数を特定し、特定した数が予め規定された数以上のときに、予め規定された「報知処理」を実行する。
したがって、このデータ処理装置3およびデータ処理用プログラムDpによれば、波形データD0の波形W0に放電波形成分が含まれているか否かの判定結果を確実かつ容易に認識させることができる。
さらに、このデータ処理装置3では、処理部23が、「第1の対応点」をプロットした2次元グラフと「少なくとも一方の領域」を示す「領域表示」とを「判定処理」の判定結果と共に表示部22に表示させる。したがって、このデータ処理装置3およびデータ処理用プログラムDpによれば、波形データD0の波形W0に放電波形成分が含まれているか否かの判定結果を一層確実かつ一層容易に認識させることができる。
また、この測定システム1では、上記のいずれかのデータ処理装置3と、検査対象Xについての予め規定されたサンプリング周期での測定を実行して波形データD0を出力する測定装置2とを備えて構成されている。したがって、この測定システム1によれば、波形データD0の取得(生成)から放電波形成分の有無の判定および検査結果データDrの生成までの一連の処理を1つのシステムで実行することができる。
なお、「データ処理装置」および「測定システム」の構成や、「データ処理用プログラム」による処理の手順は、上記のデータ処理装置3の構成、およびデータ処理装置3を備えて構成された測定システム1の構成の例や、データ処理用プログラムDpの記述の内容の例に限定されない。例えば、「第1の対応点」から「第2の対応点」のプロット時に、「縦軸および横軸のいずれか予め規定された一方」を「縦軸」とし、かつ「縦軸および横軸の他方」を「横軸」とした例について説明したが、「縦軸および横軸のいずれか予め規定された一方」を「横軸」とし、「縦軸および横軸の他方」を「縦軸」としてプロットしてもよい。
また、「判定処理」の判定結果をデータ処理装置3の構成要素である表示部22に表示させる構成を例に挙げて説明したが、外部装置としての表示装置(表示部)に判定結果を表示させる構成を採用することもできる。さらに、測定装置2と、測定装置2とは別体のデータ処理装置3とを備えて測定システム1を構成した例について説明したが、「測定装置」および「データ処理装置」を一体化した装置を「測定システム」として構成することもできる。加えて、「測定対象」としての巻線部品についてのデータを処理して検査する例について説明したが、「データ処理装置」によるデータ処理の対象や、「測定システム」による検査の対象はこれに限定されず、コンデンサや抵抗体などの各種の電子部品や、回路基板上の任意の検査ポイント間についての「波形データ」に基づいて判定処理(検査処理)を実行することができる。