以下、実施形態について図面を参照しながら説明する。また、説明の簡略化のために、導体としてリッツ線を用いたコイルと、導体として角線を用いたコイルと、導体を直接的に不織布によって覆う態様とを個別に説明するとともに、リッツ線を用いたコイルの説明において、コイルの製造方法についても説明する。なお、実質的に共通する部位には同一符号を付している。
<導体としてリッツ線を用いたコイル>
以下、導体としてリッツ線を用いたコイルについて、図1から図9を参照しながら説明する。図1は、実施形態の一例として示すコイル10の概略構成例を示す斜視図であり、図2は、図1のコイル10の部分Aにおける構成を示す断面図である。この図1に示すように、コイル10は、例えば銅からなる細線すなわち素線を撚り合わせて束ねられた巻線用導体たるリッツ線12により構成されている。
コイル10は、リッツ線12が、中心に空洞を有して同心円状に例えば楕円を呈し、渦巻き状に密着して巻回するようにして構成され、全体がレジンにより固められている。図1における部分Aはリッツ線12の基本単位に相当する部分であり、図2はコイル10を構成するリッツ線12の基本構成を示している。
コイル10に用いられるリッツ線12は、互いに絶縁された複数の導電性の素線14(細線)、例えば絶縁被膜を備える複数のエナメル線を撚り合わせて束ねてなる多導体のマグネットワイヤ(巻線用導体)である。図2に示すように、リッツ線12は、複数の素線14を撚り合わせてなる第1単位リッツ線16を備えている。
更に複数の第1単位リッツ線16が撚り合わされることにより、第2単位リッツ線18が構成されている。リッツ線12は、第2単位リッツ線18の周囲を、固縛帯22及び包囲帯24により覆われてなるものである。
固縛帯22としては、例えば、強靭なアラミド繊維テープが用いられる。固縛帯22は紙テープ形状を備えており、第2単位リッツ線18の周囲を巻回することにより、第2単位リッツ線18を構成する第1単位リッツ線16若しくは素線14が解けてしまわないように固縛するために用いられる。
固縛帯22は後述する図4(a)に示すように、巻回する固縛帯22の間に間隙Gが形成されるように、第2単位リッツ線18の周囲を巻回している。この包囲帯24は、固縛帯22により固縛された第2単位リッツ線18の周囲を巻回して覆っている。包囲帯24は、後述する不織布テープ32に後述するレジン液38を含浸させて硬化させたものである。
この場合、不織布テープ32は、後述するコイル10の製造工程において、後述するレジン液38を浸透、透過させることが可能で、第2単位リッツ線18の周囲を巻回可能な素材の一例として挙げたものである。このような特性を有していれば包囲帯24を構成する素材は不織布テープ32に限定されなくてもよい。
第2単位リッツ線18において、複数の素線14の間、若しくは複数の第1単位リッツ線16の間には絶縁性の硬化レジン20(レジン)が隙間なく存在している。また、素線14と固縛帯22及び包囲帯24の間、更には、第1単位リッツ線16と固縛帯22及び包囲帯24の間も、隙間なく硬化レジン20が存在している。
すなわち、第2単位リッツ線18は、複数の素線14、若しくは複数の第1単位リッツ線16を後述するレジン液38で硬化し一体的に固めたものであって、硬化レジン20により立体的に一体化されて固定されたものである。
また、リッツ線12は、素線14、第1単位リッツ線16、第2単位リッツ線18、固縛帯22、及び包囲帯24が硬化レジン20により隙間なく固められている。すなわち、コイル10及びこれを構成するリッツ線12は、素線14の間及びその周囲が硬化レジン20で隙間なく充填されてモールドされた構成を備える。
硬化レジン20すなわち後述するレジン液38としては、熱伝導率すなわち放熱性の高いレジンを採用してもよい。熱伝導率の高いレジンとしては、例えばエポキシ樹脂に、高熱伝導性を発現させる添加剤としてアルミナや窒化ホウ素などのマイクロサイズの高熱伝導性フィラーを添加したものが用いられる。
熱伝導率の高いレジンを採用した場合は、コイル10及びこれを構成するリッツ線12は、複数の素線14の間、複数の第1単位リッツ線16の間、素線14と固縛帯22及び包囲帯24の間、更には、第1単位リッツ線16と固縛帯22及び包囲帯24の間に隙間なく熱伝導率すなわち放熱性が高い硬化レジン20が充填された構成となっている。
従って、形成されるコイル10及びこれを構成するリッツ線12は、その内部が熱伝導率すなわち放熱性が高い硬化レジン20によって隙間なく満たされており、その外周も放熱性が高い硬化レジン20により硬化された包囲帯24により覆われているため、コイル10全体が熱伝導率すなわち放熱性が高いものとなる。
次に、コイル10の製造方法について説明する。図3から図9はコイル10の製造方法を説明するための図であり、製造工程の各途中工程における状態を示す図である。図3はコイル10を構成するリッツ線12の製造過程の途中工程の状態を示す図であり、図3(a)は斜視図、図3(b)は断面図を示す。
図4はコイル10を構成するリッツ線12の製造過程の途中工程の状態を示す図であり、図4(a)は斜視図、図4(b)は断面図を示す。図5はコイル10を構成するリッツ線12の製造過程の途中工程の状態を示す図であり、図5(a)は斜視図、図5(b)及び図5(c)は断面図を示す。
まず、図3(a)及び(b)に示すように、撚り合わせリッツ線30a(リッツ線)を準備する。撚り合わせリッツ線30aは、素線14を撚り合わせて第1単位リッツ線16を作成し、次いで、第1単位リッツ線16を撚り合わせて作成されたものである。撚り合わせリッツ線30aを硬化レジン20で固めたものが第2単位リッツ線18に相当する。
次に、図4(a)及び(b)に示すように、撚り合わせリッツ線30aの周囲を固縛帯22により巻回することにより固縛し、固縛リッツ線30b(リッツ線)を形成する。固縛帯22は撚り合わせリッツ線30aの周囲を、間隙すなわち隙間を形成するようにして巻回される。
この状態では、巻回される固縛帯22の間の間隙から撚り合わせリッツ線30aが露出している。ここで、固縛帯22は例えばアラミド紙テープであるため、後述するレジン液を透過させることができない。
次に、図5(a)及び(b)に示すように、固縛リッツ線30bの周囲を不織布テープ32により巻回することにより包帯リッツ線30c(リッツ線)を形成する。この場合、不織布テープ32は、巻解された不織布テープ32の間に間隙が発生しないように固縛リッツ線30bの周囲を巻回されている。不織布テープ32は後述するレジン液38を浸透、透過させることができる。
ここで、不織布テープ32には、後述するレジン液38の硬化促進剤が含まれている。硬化促進剤としては、例えば、アミン類、イミダゾール類、ホスフィン、DBU(1,8-ジアザビシクロ(5.4.0)ウンデセン-7)及びその有機酸塩、若しくはアンモニウムあるいはホスホニウム化合物などが用いられる。
そして、図3(a)及び(b)に示すように、撚り合わせリッツ線30aの周囲を、不織布テープ32により隙間なく巻回することにより、図5(c)に示す包帯リッツ線30d(リッツ線)を形成することができる。この場合は固縛帯22による固縛を省略できるため、工程が簡略化でき、製造コストの削減に貢献する。
また、この場合のコイル10及びこれを構成するリッツ線12においては、第2単位リッツ線18の周囲が包囲帯24により覆われ、第2単位リッツ線18と包囲帯24の間には固縛帯22が存在しない。その他の構成は同じである。
次に、図6に示すように、包帯リッツ線30cを巻回心材34の周囲に巻回することにより、包帯リッツ線30cをコイル状に形成する。巻回心材34は例えば木材により構成される。包帯リッツ線30cを巻回心材34に巻回しコイル状に形成されたものは、図7に示すようにコイル10bとなる。
次に、コイル10bを巻回心材34から抜いた後、図7に示すように、レジン液38を満たしたレジン容器36内に浸漬する。レジン容器36を大気圧より低い圧力の空間に置くことにより、レジン液38のコイル10b内部への充填が促進される。
ここで、上述したように不織布テープ32は、レジン液38を透過させることができる。また、固縛帯22は図4に示すようにその間に間隙Gが形成されるようにして撚り合わせリッツ線30aの周囲に巻回されている。
従って、レジン液38は不織布テープ32を透過して包帯リッツ線30cの内部に浸入し、更に、巻回された固縛帯22の間隙Gを通って第1単位リッツ線16、素線14の間に浸入する。これにより、第2単位リッツ線18の内部の第1単位リッツ線16又は素線14の間、更には固縛帯22、不織布テープ32とこれら素線14、第2単位リッツ線18等との間は、隙間なくレジン液38で満たされている。
ここで、上述したように、不織布テープ32にはレジン液38の硬化促進剤が含まれている。この硬化促進剤により、コイル10bをレジン液38に浸漬させ、レジン液38が不織布テープ32及び包帯リッツ線30c内部に十分浸透した後に、不織布テープ32におけるレジン液38が硬化促進剤と反応して硬化する。
これにより、後述する図8に示すようにレジンによって硬化された包囲帯24が形成される。ここで、硬化促進剤は不織布テープ32にのみ含まれているため、不織布テープ32部のレジン液38だけが硬化し、不織布テープ32に覆われた内部のレジン液38は硬化しない未硬化のままで残存する。
すなわち、第2単位リッツ線18の内部の第1単位リッツ線16、素線14、及び固縛帯22との間であって、不織布テープ32に覆われた内部領域は、硬化前のレジン液38すなわち未硬化レジン40により満たされている。この状態のコイルを、コイル10dとし、これを構成するリッツ線を包帯リッツ線30eとする。
コイル10dを構成する包帯リッツ線30eは、図8に示すように、未硬化レジン40が、その内部の素線14の間、第1単位リッツ線16の間に満たされ、その外周が、レジン液38により硬化された不織布テープ32すなわち包囲帯24により覆われている状態となっている。
次に、この状態のコイル10dをレジン容器36から取り出したものを図9に示す。コイル10dを構成する包帯リッツ線30eの構造は、上述するように図8に示されている。図8は、図9のB部分の断面構造を示したものである。
この時、コイル10dを構成する包帯リッツ線30eは上述のように、周囲がレジン液38で硬化された包囲帯24により覆われている。このため、コイル10dをレジン容器36から取り出しても、コイル10d内部のレジン液38すなわち未硬化レジン40が外部に漏れ出ないようにすることができ、包囲帯24により覆われた内部に隙間なく保持された状態が確保されている。
次いで、図9に示すように、コイル10dを熱乾燥炉42に投入する。熱乾燥炉42によりコイル10dの全体が熱乾燥され、これによって、コイル10dの未硬化レジン40が硬化する。同時に包囲帯24の硬化も促進される。以上の工程を経て、図1に示すコイル10を製造することができる。
なお、図7に示す工程において、不織布テープ32部のみ硬化促進剤を含ませて、この部分のみのレジン液38を硬化させるのは以下の理由による。仮に、不織布テープ32部分に、レジン液38の硬化促進剤を含ませることがない場合を想定する。
この場合、レジン容器36内のレジン液38にコイル10bを浸漬しても、不織布テープ32部分のレジン液38は硬化しない。この状態で、レジン容器36からコイル10を出すと、不織布テープ32はレジン液38を透過させるため、コイル10内の未硬化レジン40が不織布テープ32を通過して外に漏れ出てしまう。
従って、この状態で、熱乾燥炉42でレジン液38を硬化させると、コイル10を構成するリッツ線12の内部は硬化レジン20が欠落し、素線14、第1単位リッツ線16、第2単位リッツ線18、固縛帯22、及び包囲帯24等の間に隙間が形成される。このような隙間が存在すると、コイル10は絶縁性が低下してしまう。
一方、不織布テープ32に硬化促進剤を含ませない場合にレジン液38を硬化させるには、レジン容器36にコイル10を入れた状態で加熱するなどの方法でレジン液38を硬化させることになる。
しかし、このようにすると、中にコイル10を入れたレジン容器36ごとレジン液38が硬化してしまい、レジン容器36ごとこれらが一体化してしまうためコイル10を取り出すことができない。また、コイル10中央の空洞にも硬化したレジンが満たされてしまい、当該空洞が硬化されたレジンで塞がれてしまう。
以上の理由から、不織布テープ32に硬化促進剤を含ませて、この部分のみレジン液38を硬化させるのである。すなわち、不織布テープ32は、これに硬化促進剤を含ませることによりレジンにより硬化された包囲帯24となり、コイル10bを、レジン液38を満たしたレジン容器36に浸漬し、内部にレジン液38を含浸させた際に、コイル10b内部にレジン液38が隙間なく充填された状態を保持する機能を有する。
これにより、コイル10内部の素線14、第1単位リッツ線16、第2単位リッツ線18、固縛帯22及び包囲帯24間に隙間がなく、絶縁性が向上したコイル10を得ることができる。
上述した態様のコイル10によれば以下の効果を奏する。
のコイル10及びこれを構成するリッツ線12は、素線14の間及びその周囲が硬化レジン20で隙間なく充填されてモールドされた構成を備える。これにより、コイル10の絶縁性が向上され、例えばこれを高周波電気機器に用いた場合にあっても、優れた絶縁性を奏する。
さらに、コイル10及びこれを構成するリッツ線12において、素線14、第1単位リッツ線16、第2単位リッツ線18、固縛帯22、及び包囲帯24が硬化レジン20により一体的かつ隙間なく固められ、立体的に固定された構成を備える。すなわち、コイル10及びこれを構成するリッツ線12は、素線14の間及びその周囲が硬化レジン20で隙間なく充填されて固められモールドされた構成を備える。これにより、コイル10において、隙間や剥離ボイドの発生が抑制され、優れた絶縁性を奏する。
のコイル10及びこれを構成するリッツ線12は、その周囲がレジンで硬化された不織布テープ32からなる包囲帯24により覆われている。これにより、リッツ線12間の絶縁性が向上するとともに、コイル10の機械的強度が向上する。
のコイル10及びこれを構成するリッツ線12において、これに用いられる硬化レジン20すなわちレジン液38として、熱伝導率すなわち放熱性の高いレジンを採用してもよい。この場合、コイル10は優れた放熱性を備えるため、例えばコイル10において異常発熱が発生した場合にもコイル10の破損等を抑制することができる。
のコイル10の製造方法によれば、不織布テープ32にはレジン液38の硬化促進剤が含まれている。この硬化促進剤により、製造途中のコイル10bをレジン液38に浸漬させ、レジン液38が包帯リッツ線30c内部に十分浸透した後に、不織布テープ32におけるレジン液38が硬化促進剤と反応して硬化する。
これにより、コイル10の内部領域が硬化されていないレジン液38すなわち未硬化レジン40により満たされ、その外周が、レジン液38により硬化された不織布テープ32すなわち包囲帯24により覆われている状態となる。
すなわち、コイル10の内部領域の未硬化レジン40の外周が、レジンにより固められた包囲帯24により覆われ、内部に未硬化レジン40が閉じ込められた状態を作り出すことができる。
これにより、製造途中のコイル10をレジン容器36から取り出しても、コイル10の内部領域の未硬化レジン40が漏れ出ないようにすることができる。これにより、素線14の間及びその周囲が硬化レジン20で隙間なく充填されてモールドされた構成を備えるコイル10及びこれを構成するリッツ線12を得ることができる。
以上より、例えばこれを高周波電気機器に用いた場合にあっても、優れた絶縁性を備えるコイル10を製造することができる。
また、以上の説明には、以下の構成が含まれている。
コイルは、導電性の細線を束ねたものがレジンでモールドされた巻線用導体であって、細線の間には前記レジンが隙間なく充填されている巻線用導体からなる。
巻線用導体の周囲はレジンにより硬化された不織布により覆われている。
巻線用導体の周囲は、硬化させる前のレジンを透過しない性質を備えるテープにより巻回されている。
レジンは熱伝導性が高いものを採用している。
レジンには高熱伝導性を発現させる添加剤が添加されている。
また、巻線用導体の周囲をレジン硬化促進剤を含む不織布により巻回する工程の前に、液体レジンを透過しない性質を備えるテープにより、間隔を設けつつ巻回する工程を備える。
レジンには高熱伝導性を発現させる添加剤が添加されている。
<導体として角線を用いたコイル>
以下、導体として角線を用いたコイルについて、図10から図15を参照しながら説明する。なお、製造方法の流れは上記したリッツ線を用いたコイルと共通するため、図1から図9も参照しながら説明する。
図10は、コイル110の部分A(図1参照)における構成を示す断面図である。この部分Aは、複導体線12の基本単位に相当する部分である。コイル110は、例えば銅からなる複導体線12により構成されている。コイル110は、複導体線12が、図1に示すように、中心に空洞を有して同心円状に例えば楕円を呈し、渦巻き状に密着して巻回するようにして構成され、全体がレジンにより固められている。
コイル110に用いられる複導体線12は、互いに絶縁された複数例えば2本の導電性の素線14、例えば絶縁被膜を備える複数のエナメル線からなる巻線用導体である。この複導体線12は、複数の素線114の周囲を固縛帯22および包囲帯24により覆われてなるものである。
固縛帯22としては、例えば、強靭なアラミド繊維テープが用いられる。固縛帯22は紙テープ形状を備えており、各素線114が解けてしまわないように固縛するために用いられる。固縛帯22は後述する図12(a)に示すように、巻回する固縛帯22の間に間隙G(間隔に相当する)が形成されるように複導体線12の周囲を巻回している。
包囲帯24は、固縛帯22により固縛された複導体線12の周囲を巻回して覆っている。包囲帯24は、不織布テープ32にレジン液38を含浸させて硬化させたものである。この場合、不織布テープ32は、コイル110の製造工程において、レジン液38を浸透および透過させることが可能であり、複導体線12の周囲を巻回可能な素材の一例として挙げたものである。このような特性を有していれば包囲帯24を構成する素材は不織布テープ32に限定されなくてもよい。
複数の素線114の間には絶縁性の硬化レジン20が隙間なく存在している。また、素線114と固縛帯22および包囲帯24の間も、隙間なく硬化レジン20が存在している。すなわち、コイル110全体が、内部から外部にわたって硬化レジン20により立体的に一体化されて固定されたものである。また、固縛帯22、および包囲帯24も、硬化レジン20により隙間なく固められている。すなわち、コイル110およびこれを構成する複導体線12は、素線114の間およびその周囲が硬化レジン20で隙間なく充填されてモールドされた構成を備える。
硬化レジン20すなわちレジン液38としては、熱伝導率すなわち放熱性の高いレジンを採用してもよい。熱伝導率の高いレジンとしては、例えばエポキシ樹脂に、高熱伝導性を発現させる添加剤を添加する工程を設け、アルミナや窒化ホウ素などのマイクロサイズの高熱伝導性フィラーを添加したものが用いられる。
熱伝導率の高いレジンを採用した場合は、コイル110およびこれを構成する複導体線12は、複数の素線114の間、素線114と固縛帯22および包囲帯24の間、更には、コイル110の外周面まで熱伝導率すなわち放熱性が高い硬化レジン20が充填された構成となる。
従って、コイル110およびこれを構成する複導体線12は、その内部側および外周側が硬化レジン20により覆われることから、全体として高い熱伝導率すなわち放熱性を示すことになる。また、絶縁する際の欠陥となり易いボイドの残留が極小で、導体部とレジンとの間の密着性が良好であるため、絶縁性能が高いものとなる。
このコイル110は、素線114を複数本例えば2本準備し、図12(a)および(b)に示すように、素線114の周囲を固縛帯22により巻回することにより固縛し、複導体線12を形成する。固縛帯22は、間隙すなわち隙間(G)を形成するようにして巻回される。
この状態では、巻回される固縛帯22の間の間隙から素線114が露出している。ここで、固縛帯22は例えばアラミド紙テープであるため、後述するレジン液を透過させることができない。つまり、固縛帯22は、硬化させる前のレジン液を透過しない性質を備えている。
次に、図13(a)および(b)に示すように、固縛線30bの周囲を不織布テープ32により巻回する。この場合、不織布テープ32は、巻解された不織布テープ32の間に間隙が発生しないように固縛線30bの周囲を巻回されている。不織布テープ32は後述するレジン液38を浸透、透過させることができる。ここで、不織布テープ32には、レジン液38の硬化促進剤が含まれている。これにより、図13(c)に示す複導体線12が形成される。
次に、前述の図6に示したように、複導体線12を巻回心材34の周囲に螺旋状に巻回することにより、複導体線12をコイル状にする。巻回心材34は例えば木材により構成される。そして、コイル110bを巻回心材34から抜いた後、前述の図7に示すように、レジン液38を満たしたレジン容器36内に浸漬する。このとき、レジン容器36を大気圧より低い圧力の空間に置くことにより、レジン液38のコイル110b内部への充填が促進される。
ここで、上述したように不織布テープ32は、レジン液38を透過させることができる。また、固縛帯22は図12に示すようにその間に間隙Gが形成されるようにして素線114の周囲に巻回されている。従って、レジン液38は不織布テープ32を透過して素線114の外周面(表面)にまで浸入し、更に、巻回された固縛帯22の間隙Gを通って素線114の間に浸入する。これにより、素線114の間、更には固縛帯22、不織布テープ32とこれら素線114との間は、隙間なくレジン液38で満たされる。
さて、上記したように、不織布テープ32にはレジン液38の硬化促進剤が含浸されている。そのため、レジン液38に浸漬させ、レジン液38が不織布テープ32および複導体線12内部に十分浸透した後には、不織布テープ32に浸透したレジン液38が硬化促進剤と反応して硬化する。
これにより、レジンによって硬化された包囲帯24が形成される。ここで、硬化促進剤は不織布テープ32にのみ含まれているため、不織布テープ32部のレジン液38だけが硬化し、不織布テープ32に覆われた内部のレジン液38は硬化しない未硬化のままで残存する。
すなわち、図14に示すように、素線114、および固縛帯22との間であって、不織布テープ32に覆われた内部領域は、硬化前のレジン液38すなわち未硬化レジン40により満たされる一方、その外周側は、レジン液38により硬化された不織布テープ32すなわち包囲帯24により覆われている状態となる。
このため、レジン容器36から取り出す際に内部の未硬化レジン40が外部に漏れ出ないようにすることができ、包囲帯24により覆われた内部に隙間なく保持された状態を確保することができる。
次いで、前述の図9に示すように、熱乾燥炉42に投入され、全体が熱乾燥され、内部の未硬化レジン40も硬化する。同時に包囲帯24の硬化も促進される。以上の工程を経て、コイル110が製造される。なお、不織布テープ32部のみ硬化促進剤を含ませて、この部分のみレジン液38を硬化させるのは、前述したように、コイル110内部の素線114、固縛帯22および包囲帯24間に隙間がなく、絶縁性が向上したコイル110を得るためである。
上述した態様のコイル110によれば以下の効果を奏する。
コイル110およびこれを構成する複導体線12は、素線114の間およびその周囲が硬化レジン20で隙間なく充填されてモールドされた構成を備える。これにより、コイル110の絶縁性が向上され、例えばこれを高周波電気機器に用いた場合にあっても、優れた絶縁性を奏する。
さらに、コイル110およびこれを構成する複導体線12において、素線114、固縛帯22、および包囲帯24が硬化レジン20により一体的かつ隙間なく固められ、立体的に固定された構成を備える。すなわち、コイル110およびこれを構成する複導体線12は、素線114の間およびその周囲が硬化レジン20で隙間なく充填されて固められモールドされた構成を備える。これにより、コイル110において、隙間や剥離ボイドの発生が抑制され、優れた絶縁性を奏する。
コイル110およびこれを構成する複導体線12は、その周囲がレジンで硬化された不織布テープ32からなる包囲帯24により覆われている。これにより、複導体線12間の絶縁性が向上するとともに、コイル110の機械的強度が向上する。
コイル110およびこれを構成する複導体線12において、これに用いられる硬化レジン20すなわちレジン液38として、熱伝導率すなわち放熱性の高いレジンを採用してもよい。この場合、コイル110は優れた放熱性を備えるため、例えばコイル110において異常発熱が発生した場合にもコイル110の破損等を抑制することができる。
コイル110の製造方法によれば、不織布テープ32にはレジン液38の硬化促進剤が含まれている。この硬化促進剤により、製造途中のコイル110bをレジン液38に浸漬させ、レジン液38が複導体線12内部に十分浸透した後に、不織布テープ32におけるレジン液38が硬化促進剤と反応して硬化する。
つまり、コイル110の内部領域が硬化されていないレジン液38すなわち未硬化レジン40により満たされ、その外周が、レジン液38により硬化された不織布テープ32すなわち包囲帯24により覆われている状態となる。これにより、製造工程においてコイル110をレジン容器36から取り出しても、コイル110の内部領域の未硬化レジン40が漏れ出ないようにすることができる。
従って、素線114の間およびその周囲が硬化レジン20で隙間なく充填されてモールドされた構成を備えるコイル110およびこれを構成する複導体線12を得ることができ、優れた絶縁性を備えるコイル110を製造することができる。
ところで、ここまでは複数例えば2つの素線114a、14bを束ねることにより断面視が概ね長方形となる平角線を用いる例を示したが、図15(a)に示すように、断面視にて概ね長方形となる1つの素線214を用いてもよい。このような素線214の場合であっても、不織布テープ32を巻回し、実施形態と同様にレジン容器36に浸漬することにより、図15(b)に示すようにレジン液38が素線114の表面まで浸透する。この場合、固縛帯22による固縛は省略しても良い。
そして、熱処理することにより、図15(c)に示すように、優れた絶縁性を備える複導体線12とすることができる。従って、優れた絶縁性を備えるコイル110を製造することができる。
また、上記説明において、実施形態では複導体線12として断面が矩形の平角線を用いた例を例示して説明したが、これに限る意図はない。例えば断面が円形の丸型線を用いることもできる。
<導体を直接的に不織布によって覆う態様>
以下、導体を直接的に不織布によって覆う態様について図16および図17を参照しながら説明する。なお、製造方法の主な流れは導体としてリッツ線を用いたコイルと共通する。
上記した導体としてリッツ線を用いる場合や複数の素線114a、14bを用いる場合には、各導体が解けないように固縛帯22による固縛を行ったが、1つの素線214を用いる場合には、必ずしも固縛帯22による固縛を行う必要はないと考えられる。
また、それ以外の場合でも、固縛帯22による固縛を必要としない状況が考えられる。具体的には、例えば不織布テープ32のような不織布が、導体を固縛できる程度の十分な強度を有している場合には、不織布そのものによって導体を固縛することができることから、固縛帯22による固縛を必要としないと考えられる。
そのため、不織布が十分な強度を持っている場合には、図16(a)に示すように素線314の全長方向に延びており、全長方向においてある程度の長さで素線314を一度に覆うことができるとともに、図16(b)に示すように素線314の表面を覆った状態において両端が重なり合う程度の幅を有する不織布を用いて素線314の表面を覆う構成とすることができる。
つまり、素線314の表面を不織布で包み込む構成とすることができる。この場合、不織布は、不織布テープ32のようにレジン液38を浸透および透過させることが可能なものを採用することができる。
このような不織布を用いる場合においても、前述した導体としてリッツ線を用いる場合と同様に、素線314で構成される巻線用導体を準備し、不織布テープ32によって素線314の表面を包み込むことで素線314を不織布によって直接的に覆い、不織布で包み込まれた巻線用導体を螺旋状に巻回しコイル状にし、コイル状にされた巻線用導体を液体レジンに浸漬して液体レジンを含浸させ、液体レジンを含浸させた巻線用導体を熱乾燥炉で処理することによりレジンを硬化させる製造方法により、コイルを製造することができる。
このような製造方法で製造されたコイルは、端面を除く素線314の表面全体が直接的に不織布テープ32のような不織布に接触していることから、不織布にレジンを含浸させれば、素線314の表面までレジンで充填することができる。従って、良好な絶縁性を得ることができる。
また、素線314をそのまま包み込むことができる布状の不織布テープ32を用いることにより、リボン状の不織布テープ32を巻回する場合と比べると、非常に効率良く素線314の表面に隙間なく不織布を設けることができる。従って、作業性を大きく向上させることができる。
また、複数の不織布で素線314を覆う構成とすることもできる。すなわち、素線314は、比較的全長が長いことが多く、その場合には、1枚の不織布で素線314の全長を一度に包み込もうとすると作業性が低下する可能性がある。そのため、素線314の全長方向に対して複数の不織布を用意し、全長方向に隣り合う不織布同士が密に接触するように、あるいは、隣り合う不織布同士が一部重なり合うように配置し、複数の不織布により素線314を包み込む構成とすることで、容易に素線314の表面全体を覆うことができ、作業性を向上させることができる。
この場合、素線314としては、前述のリッツ線の導体14、複数の角線の導体114、平角状の導体214、および丸型線を用いることができる。これは、不織布の強度が十分であれば、リッツ線や複数の素線114
また、不織布で覆った後、図17に示すように、例えば固縛帯22のような締結部材を巻回することにより、不織布が広がってしまうことを抑制でき、不織布で覆った後の作業性を向上させることができる。この場合、締結部材は、必ずしも固縛体22のような強靱なものでなくてもよい。
(その他の実施形態)
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。