<被塗物>
本発明方法が適用される錆面とは、表面に錆を有する素材であれば制限はない。素材としては鉄鋼などの金属材料が挙げられるが、亜鉛、アルミなどの非鉄金属にも適用可能である。
本発明方法が適用される被塗物の具体例としては、金属を材料として使用する構造物、板・棒・管などに加工した加工品などが挙げられ、例えば、塔、橋梁、タンクなどの土木構造物;石油・ガス掘削プラント等の各種プラントなどの構造物;家屋、ビルなどの建築構造物;ガードフェンス、産業機械などの屋外器具などが挙げられる。これら被塗物は、錆が発生したものであれば旧塗膜が設けられたものであってもよい。
また、本発明方法における錆面は、スクレーパーやワイヤブラシ等の手工具あるいはディスクサンダー、ワイヤーカップ、電動タガネ等の電動工具等で錆を部分的に除去する処理を行ったものであってもよい。
錆の発生程度としては、特に限定されるものではないが、例えば、錆発生面積率が3%以上、特に10%以上、さらに特に50%以上であることができる。
錆発生面積率とは、被塗物の面積に対する錆発生部位の面積の百分率であり、素地調整後の写真を無作為に5箇所撮影し、各写真における錆発生部位の面積を算出し、平均することにより求めることができる。
本発明方法では、多量に錆が発生した被塗物に対してその効果を発揮することができる。このため、錆の部分除去工程を手工具により短時間で行う、あるいは錆の部分除去工程そのものを省略することができる。このような利点は、例えば火気厳禁で動力工具が使用できないエリアにある被塗物に対して本発明方法を適用した場合に特に有用である。
<下地処理工程(1)>
本発明においては錆面に直接塗装するための下地処理液として、有機溶剤(a1)及び水を含み、全処理液中に占める有機溶剤(a1)の量が0.1〜65質量%である下地処理液(A)を用いる。
<下地処理液(A)>
下地処理液(A)の必須成分である有機溶剤(a1)としては、具体的には、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール等のアルコール化合物;ジオキサン、テトラヒドロフラン、3−メチル-3−メトキシブタノール等のエーテル化合物;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノn−プロピルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノn−ブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコールモノtert−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノn−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノn−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノイソプロピルエーテル等のグリコールエーテル化合物;
ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノn−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノイソプロピルエーテル等のジプロピレングリコールエーテル化合物;
酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、3−メトキシブチルアセテート等のエステル化合物;
メチルイソプロピルケトン、ジイソブチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン、エチルブチルケトン、エチルプロピルケトン、ジプロピルケトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン化合物等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。前記有機溶剤としては長期の防食性、低温造膜性などの点から沸点が200℃未満、特に80〜190℃のものを使用することが好ましい。また、20℃において水100g中に少なくとも10g、好ましくは20g溶解する有機溶剤を使用することが好ましい。
本発明方法において下地処理液(A)中に占める有機溶剤(a1)の量としては、0.1〜65質量%であり、特に1〜50質量%の範囲内が適している。
有機溶剤(a1)の量が0.1質量%未満では、水性防食塗料の造膜性が不十分であり、一方65質量%を超えると水性防食塗料(B)を塗装後の指蝕乾燥性が低下し、防食性も不十分となり好ましくない。
下地処理液(A)は有機溶剤(a1)に加えて水を含む。水としては、水道水、脱イオン水のいずれも用いることができるが、通常は脱イオン水がよい。
また、下地処理液(A)中の水の量としては、35質量%以上、特に45〜98質量%の範囲内が適している。
下地処理液(A)は、本発明範囲内にある限り、後述の水性防食塗料(B)を含むことも可能である。この場合下地処理液(A)は水性防食塗料(B)よりも不揮発分濃度が低いという点で水性防食塗料(B)とは異なる。錆層への浸透性の観点から、下地処理液(A)が水性防食塗料(B)を含む場合の不揮発分濃度としては2〜50質量%、特に5〜40質量%の範囲内に調整されることが適当である。
本明細書において不揮発分とは、揮発成分を除いた残存物を意味するものであり、残存物としては常温で固形状であっても液状であっても差し支えない。例えば試料を105℃、3時間処理して揮発成分を除去した時の残存成分をいう。
<下地処理液(A)の塗装>
上記下地処理液(A)は錆面にエアスプレー、エアレススプレー、刷毛塗り、ローラーなどの塗装器具で塗装し含浸させる。下地処理液(A)の塗布量としては50〜550g/m2の範囲内であり、100〜400g/m2の範囲内であると尚よい。
塗布量がこの範囲外では、次工程である水性防食塗料(B)を塗装して得られる塗膜の防食性、耐湿性、付着性などの物性が不十分となり、好ましくない。
本明細書において塗布量(g/m2)は、基材上に塗布するために使用した下地処理液(A)の質量を、塗布面積で除することにより算出される値である。基材上に塗布するために使用した下地処理液(A)の質量は、塗装前後の塗装器具の質量及び使用した下地処理液(A)の減量分を測定することにより求めることができる。
下地処理液(A)塗装後は完全乾燥に至るまでに、水性防食塗料(B)の塗装を行うことが好ましい。下地処理液(A)塗装後、完全乾燥させてしまうと、下地処理工程(1)を行った効果を発揮することができないからである。
本明細書において、完全乾燥とは揮発成分が残っていない状態をいい、下地処理液(A)の塗布量を上記範囲に調整することでその状態にすることができる。特に本発明では水性防食塗料(B)を塗装する時に、有機溶剤(a1)と水が錆面に残っている状態にあることが重要である。これは錆の巣穴に下地処理液(A)が存在することによって、錆表面に塗装された水性防食塗料(B)を錆の巣穴に引き込むことができ、水性防食塗料(B)を錆の奥深くまで十分浸透させるのに役立つためと推察される。
本発明において下地処理液(A)の塗装は塗布量が本発明範囲内にあれば、水性防食塗料(B)をすぐに塗装することができるが、場合によって、あるいは必要に応じて常温で放置、もしくは処理液(A)による下地処理部の一部を強制乾燥させることも可能である。常温で放置する場合、具体的な放置時間としては、塗装環境や季節によって異なるが、一例としては例えば1分〜1時間放置することが挙げられる。
<下塗り塗装工程(2)>
本発明の防食塗装方法における下塗り塗装工程(2)は、上記下地処理工程(1)で処理された下地処理部に水性防食塗料(B)を塗装する工程である。
<水性防食塗料(B)>
下塗り塗装工程で用いられる水性防食塗料(B)としては、水を主たる媒体とする塗料であれば水分散型又は水溶性などのいずれの形態の塗料も使用可能である。特に、油変性樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、ビニル樹脂、アクリル樹脂などの樹脂の1種もしくは2種以上の混合物を樹脂成分とする常温乾燥型の水性塗料が好ましい。これらの中でも2液型のエポキシ樹脂系塗料が防食性の点から適している。
上記エポキシ樹脂系塗料とは、そのバインダー成分の一部としてエポキシ基含有樹脂を5%以上含む塗料をいう。
本発明方法では、水性防食塗料(B)が2液型であり、主剤成分に、エポキシ樹脂及びポリアミン化合物を製造原料とするアミノ基含有樹脂エマルションを含み、硬化剤成分にエポキシ基含有樹脂エマルションを含む塗料であることが好ましい。
<アミノ基含有樹脂エマルション>
本発明の水性防食塗料(B)で用いられるアミノ基含有樹脂エマルションとしては、エポキシ樹脂(b1)及びポリアミン化合物(b2)を製造原料とする樹脂であることが適しており、樹脂の全アミン価としては20〜120mgKOH/gの範囲内が好ましい。
《エポキシ樹脂(b1)》
アミノ基含有樹脂エマルションの製造原料としてのエポキシ樹脂(b1)としては、分子中に少なくとも1個、好ましくは2個以上のエポキシ基を有する樹脂であり、少なくとも160、好ましくは180〜2500の範囲内のエポキシ当量を有するものが適している。
エポキシ樹脂(b1)として具体的には、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂;上記ビスフェノール型エポキシ樹脂を二塩基酸等で変性したエポキシエステル樹脂;クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;脂環式エポキシ樹脂;ポリグリコール型エポキシ樹脂;水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂;エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、グリセリンポリグリシジルエーテル、ジグリセリンポリグリシジルエーテル、ポリグリセリンポリグリシジルエーテル等の脂肪族型エポキシ樹脂、グリシジル(メタ)アクリレートなどのエポキシ基含有アクリルモノマーを構成成分とするエポキシ基含有アクリル樹脂等が挙げられる。エポキシ樹脂としては、未変性のエポキシ樹脂が好ましい。これらはそれぞれ単独でもしくは2種以上組み合わせて使用することができる。
上記エポキシ樹脂(b1)の市販品としては、例えば、「jER827」、「jER828」、「jER828EL」、「jER828XA」、「jER834」(以上、三菱ケミカル社製)、「EPICLON840」、「EPICLON840−S」、「EPICLON850」、「EPICLON850−S」、「EPICLON850−CRP」、「EPICLON850−LC」(以上、DIC社製)、「エポトートYD−127」、「エポトートYD−128」(以上、東都化成社製)、「リカレジンBPO−20E」、「リカレジンBEO−60E」(以上、新日本理化社製)等のビスフェノールA型エポキシ樹脂;「jER806」、「jER807」(以上、三菱ケミカル社製)、「EPICLON830」、「EPICLON830−S」、「EPICLON835」(以上、DIC社製)、「エポトートYDF−170」(東都化成社製)等のビスフェノールF型エポキシ樹脂;「jER4250」(三菱ケミカル社製)等のビスフェノールA型ビスフェノールF型フェノキシ樹脂、「jER152」(三菱ケミカル社製)等のノボラック型エポキシ樹脂;「jERYX8000」、「jERYX8034」(以上、三菱ケミカル社製)、「エポトートST−3000」(東都化成社製)、「リカレジンHBE−100」(新日本理化社製)「デナコールEX−252」(以上、ナガセケムテックス社製)、「SR−HBA」(阪元薬品工業社製)等の水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂;「YED205」、「YED216M」、「YED216D」(以上、三菱ケミカル社製)、「エポトートYH−300」、「エポトートYH−301」、「エポトートYH−315」、「エポトートYH−324」、「エポトートYH−325」(以上、東都化成社製)、「デナコールEX−211」、「デナコールEX−212」、「デナコールEX−212L」、「デナコールEX−214L」、「デナコールEX−216L」、「デナコールEX−313」、「デナコールEX−314」、「デナコールEX−321」、「デナコールEX−321L」、「デナコールEX−411」、「デナコールEX−421」、「デナコールEX−512」、「デナコールEX−521」、「デナコールEX−611」、「デナコールEX−612」、「デナコールEX−614」、「デナコールEX−614B」、「デナコールEX−622」、「デナコールEX−810」、「デナコールEX−811」、「デナコールEX−850」、「デナコールEX−850L」、「デナコールEX−851」、「デナコールEX−821」、「デナコールEX−830」、「デナコールEX−832」、「デナコールEX−841」、「デナコールEX−861」「デナコールEX−911」、「デナコールEX−941」、「デナコールEX−920」、「デナコールEX−931」(以上、ナガセケムテックス社製)、「SR−NPG」、「SR−16H」、「SR−16HL」、「SR−TMP」、「SR−PG」、「SR−TPG」、「SR−4PG」、「SR−2EG」、「SR−8EG」、「SR−8EGS」、「SR−GLG」、「SR−DGE」、「SR−DGE」、「SR−4GL」、「SR−4GLS」、「SR−SEP」(以上、阪元薬品工業社製)等の脂肪族型エポキシ樹脂等が挙げられる。
上記エポキシ樹脂(b1)は、上記例示のエポキシ樹脂を、2官能性のポリエステルポリオール類、2官能性ポリエーテルポリオール類、ビスフェノール類、2塩基性カルボン酸類等とエポキシ基が過剰となるように反応して得られるエポキシ樹脂も包含される。
《ポリアミン化合物(b2)》
上記アミノ基含有樹脂エマルションを構成するポリアミン化合物(b2)としては、分子両末端に1級アミノ基を有し、少なくとも1個の2級アミノ基を有するポリアミン化合物(b2−1)であることが望ましい。
このようなポリアミン化合物(b2−1)としては、例えば、ジメチレントリアミン、ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、ジブチレントリアミン、ビス(ヘキサメチレン)トリアミンなどのジアルキレントリアミン;トリエチレンテトラミン、トリプロピレンテトラミンなどのトリアルキレンテトラミン;テトラエチレンペンタミン、テトラプロピルペンタミンなどのテトラアルキレンペンタミン;ペンタアルキレンヘキサミン;ヘキサアルキレンヘプタミンなどが挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を併用して用いることができる。
特に本発明では、主剤成分(I)の製造及び貯蔵安定性及び錆面上の防食性の観点から上記ポリアミン化合物(b2−1)がジアルキレントリアミンであることが好ましく、炭素数が2〜8、好ましくは3〜6のアルキレン基を有するジアルキレントリアミンが特に適している。
また、上記ポリアミン化合物(b2−1)以外に適用可能なポリアミンとしては、例えばモノメチルアミン、ジメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジヘキシルアミン、ジオクチルアミン、モノイソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、モノブチルアミン、モノオクチルアミン、メチルブチルアミン、ジブチルアミンなどのモノ−アルキルアミン又はジ−アルキルアミン;モノエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノ(2−ヒドロキシプロピル)アミン、ジ(2−ヒドロキシプロピル)アミン、N−ブチルエタノールアミン、ジプロパノールアミン、モノメチルアミノエタノール、N−(2−ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン、3−メチルアミン−1,2−プロパンジオール、3−tert−ブチルアミノ−1,2−プロパンジオール、N−メチルグルカミン、N−オクチルグルカミンなどのアルカノールアミン;ポリメチレンジアミン、ポリエーテルジアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、ビス(4−アミノブチル)アミンなどのアルキレンポリアミン;メンセンジアミン、イソホロンジアミン、ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン、メタキシリレンジアミン、メタフェニレンジアミン、ナフチレンジアミン、ジメチルアミノメチルベンゼンなどの芳香族又は脂環族ポリアミン;ピペラジン、1−メチルピペラジン、3−ピロリジノール、3−ピぺリジノール、4−ピロリジノールなどの複素環を有するポリアミン;上記ポリアミン1モルに対しエポキシ基含有化合物を付加させることによって得られるエポキシ付加ポリアミン;上記ポリアミンと芳香族酸無水物、環状脂肪族酸無水物、脂肪族酸無水物、ハロゲン化酸無水物及び/又はダイマー酸との縮合によって生成するポリアミド樹脂の分子中に1個以上の1級又は2級アミンを含有するポリアミドポリアミン;上記ポリアミン中の1個以上の1級又は2級アミンとケトン化合物とを反応せしめたケチミン化アミン;などが挙げられる。これらは1種を単独でまたは2種以上を併用して用いることができる。
エポキシ樹脂(b1)及びポリアミン化合物(b2)の使用割合としては、エポキシ樹脂(b1)1モルに対してポリアミン化合物(b2)が0.2〜3.0モル、好ましくは0.5〜2.5モルとなるような割合にあることが適している。
《ケトン化合物(b3)》
また、上記アミノ基含有樹脂エマルションは、エポキシ樹脂(b1)及びポリアミン化合物(b2)に加えてケトン化合物(b3)を製造原料とする樹脂であることが好ましい。
ケトン化合物(b3)としては、メチルイソプロピルケトン、ジイソブチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン、エチルブチルケトン、エチルプロピルケトン、ジプロピルケトン、メチルエチルケトンなどが挙げられる。これらを単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。中でも、メチルイソブチルケトンが好ましい。
ケトン化合物(b3)を使用する場合、その場合の使用割合としては、ポリアミン化合物(b2)中の一級アミノ基1モルに対して0.2〜3.0モル、好ましくは0.5〜2.5モルとなるような割合にあることが適している。
《反応性軟化剤(b4)》
また、上記アミノ基含有樹脂エマルションは、アミノ基と反応可能な反応性基を有する反応性基含有軟化剤(b4)を製造原料とする反応性基含有軟化剤(b4)変性樹脂エマルションであることが適している。後述の硬化剤成分(II)が軟化剤(b5)を含むとともにアミノ基含有樹脂エマルションに含まれる官能基が反応性基含有軟化剤(b4)と一部反応してなることによって、本発明組成物により形成される塗膜の防食性向上に効果がある。
上記反応性基含有軟化剤(b4)としては、炭素数が4以上のアルキル基とアミノ基と反応可能な官能基を有する化合物であることができる。
反応性基含有軟化剤(b4)はカルボキシル基及び/又はグリシジル基等の官能基を有する化合物であることができ、その具体例としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、グリセリンポリグリシジルエーテル、ジグリセリンポリグリシジルエーテル、ポリグリセリンポリグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、ベンジルグリシジルエーテル、クレジルグリシジルエーテル、tert−ブチルフェニルグリシジルエーテルなどのアルキルグリシジルエーテル化合物;
酪酸グリシジルルエステル、ステアリン酸グリシジルルエステル、ネオデカン酸グリシジルエステル、エポキシ化大豆油、エポキシブチルステアレート、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジ2−エチルヘキシル、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジイソデシル、エポキシトリグリセライド、エポキシ化オレイン酸オクチル、エポキシ化オレイン酸デシル等のアルキルグリシジルエステル化合物;
ヤシ油脂肪酸、綿実油脂肪酸、麻実油脂肪酸、米ぬか油脂肪酸、魚油脂肪酸、トール油脂肪酸、大豆油脂肪酸、アマニ油脂肪酸、桐油脂肪酸、ナタネ油脂肪酸、ヒマシ油脂肪酸、脱水ヒマシ油脂肪酸、サフラワー油脂肪酸等の長鎖アルキル脂肪酸;等
を挙げることができる。
アミノ基含有樹脂エマルションの製造において、反応性基含有軟化剤(b4)を製造原料として使用する場合、その場合の使用割合としては、ポリアミン化合物(b2)に含まれる1級アミノ基1モルに対して当該化合物(b4)に含まれるアミノ基と反応可能な官能基が0.1〜0.8モル、好ましくは0.2〜0.6モルの範囲内にあることが適している。
反応性基含有軟化剤(b4)のポリアミン化合物(b2)に対する反応割合が上記範囲内にあることによって、本発明水性塗料組成物から形成される塗膜が造膜性に優れ、優れた防食性を発揮することができる。
本発明では、アミノ基含有樹脂エマルションは、上記成分(b1)及び(b2)、並びに必要に応じて(b3)及び/または(b4)を製造原料とすることができ、また、界面活性剤等その他成分を必要に応じて製造原料とすることができる。その製造方法は特に制限はされず、ポリアミン化合物(b2)の1級アミノ基をケトン化合物(b3)と反応させケチミン化した後に2級アミノ基とエポキシ樹脂(b1)のエポキシ基とを反応させ、次いで、水希釈する際に加水分解によってケチミンを1級アミノ基に戻す製造方法等が挙げられる。
上記製造方法によれば、アミノ基含有樹脂エマルションは、水存在下で樹脂末端に水分散基である1級アミノ基を有することができ、錆面上の防食性に優れた防食塗膜を形成するのに役立つ。
上記必要に応じて使用される界面活性剤としては、特に限定されるものではなく、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルエステル類、ソルビタンアルキルエステル類、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル類、グリセリンエステル類およびその誘導体、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルエーテル硫酸塩、アルケニルエーテル硫酸塩、アルキル硫酸塩、アルケニル硫酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、α−スルホ脂肪酸又はエステル塩、アルカンスルホン酸塩、飽和脂肪酸塩、不飽和脂肪酸塩、アルキルエーテルカルボン酸塩、アルケニルエーテルカルボン酸塩、アミノ酸型界面活性剤、N−アシルアミノ酸型界面活性剤、アルキルリン酸エステル又はその塩、アルケニルリン酸エステル又はその塩等のアニオン性界面活性剤;第4級アンモニウム塩等のカチオン性界面活性剤;カルボキシル型両性界面活性剤、スルホベタイン型両性界面活性剤等の両性界面活性剤等が挙げられる。
上記界面活性剤を配合する場合、樹脂製造段階に限らず、塗料製造工程のどの段階で行ってもよい。配合量としては塗料状態での貯蔵安定性及び形成塗膜の防食性の観点から、アミノ基含有樹脂エマルション及びエポキシ基含有樹脂エマルションの不揮発分合計100質量部を基準として1〜15質量部、特に3〜8質量部の範囲内が適当である。
また、化合物(b4)を製造原料として用いる場合には、アミノ基含有樹脂エマルションの製造においていずれの段階で用いることが可能であるが、ポリアミン化合物(b2)の1級アミノ基をケトン化合物(b3)と反応させケチミン化した後に2級アミノ基とエポキシ樹脂(b1)のエポキシ基を反応させ、次いで、水希釈する際に加水分解によってケチミンを1級アミンに戻し、次いで化合物(b4)を反応させる方法が好ましい。
上記アミノ基含有樹脂エマルションは、中和されていてもよいアミノ基の存在により水系媒体に対して良好に分散される。水分散体とした場合は一般に平均粒子径が50〜500nm、特に100〜300nmの範囲内にあることが、常温乾燥での造膜性と硬化性の観点から適している。
中和に用いられる中和剤としては、例えば蟻酸、酢酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、リンゴ酸、クエン酸、グルタール酸、アジピン酸、マレイン酸、乳酸、プロピオン酸、ヒドロキシエタンジホスホン酸、メタンスルホン酸などの有機酸;塩酸、リン酸、硫酸、ジルコふっ化水素酸、ケイふっ化水素酸、硝酸等の無機酸;等の酸化合物を挙げることができる。
上記アミノ基含有樹脂エマルションは、全アミン価が20〜120mgKOH/g、好ましくは40〜100mgKOH/gの範囲内にあることが適している。
また、アミノ基含有樹脂エマルションは、重量平均分子量が1000〜20000、好ましくは2000〜8000の範囲内にあることが、常温乾燥性、防食性、耐湿性などの塗膜物性の点から適している。
本明細書において、平均粒子径は、測定温度20℃において、コールターカウンター法によって測定された体積平均粒子径の値である。コールターカウンター法による測定は、例えば、「COULTER N4型」(ベックマン・コールター社製、商品名)を用いて行うことができる。
また、アミン価はJIS K 7237−1995に準じて測定する。全て樹脂不揮発分当たりのアミン価(mgKOH/g)である。
重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)を用いて測定した保持時間(保持容量)を、同一条件で測定した分子量既知の標準ポリスチレンの保持時間(保持容量)によりポリスチレンの分子量に換算して求めた値である。カラムは、「TSKgel G−4000H×L」、「TSKgel G−3000H×L」、「TSKgel G−2500H×L」、「TSKgel G−2000H×L」(いずれも東ソー(株)社製、商品名)の4本を用い、移動相;テトラヒドロフラン、測定温度;40℃、流速;1ml/分、検出器;RIの条件で行ったものである。
<エポキシ基含有樹脂エマルション>
本発明において、エポキシ基含有樹脂エマルションの製造原料としては上記エポキシ樹脂(b1)の説明で列記したエポキシ基含有化合物を例示することができる。
中でも上記アミノ基含有樹脂エマルションに含まれるアミノ基と反応し得るエポキシ基を多数有し、硬化性に優れた塗膜が得られる観点からエポキシ基含有樹脂エマルションはその成分の一部としてノボラック型エポキシ樹脂を含有していることが好適である。
また、前記エポキシ樹脂エマルションのエポキシ当量としては、主剤成分(I)と硬化剤成分(II)との相溶性の観点からアミノ基含有樹脂エマルションにおけるエポキシ樹脂(b1)よりも低いことが適しており、具体的には、少なくとも50、好ましくは100〜500の範囲内にあることが適している。
また、本発明においてはエポキシ基含有樹脂エマルションの樹脂の重量平均分子量は、アミノ基含有樹脂エマルションより低いことが適している。これにより、水性防食塗料(B)の主剤成分(I)と硬化剤成分(II)との相溶性がより一層向上すると考えられる。エポキシ基含有樹脂エマルションの樹脂の重量平均分子量は、特に限定されるものではなく、具体的には300〜10000、好ましくは500〜5000の範囲内にあることが適している。
上記エポキシ基含有樹脂エマルションは、アニオン性、ノニオン性又はカチオン性の親水性基を有する分散安定剤もしくは界面活性剤により分散されてなるか、エポキシ基含有樹脂自身がこれら親水性基を有していることが適しており、これらの存在により、エポキシ基含有樹脂エマルションは水系媒体へ良好に分散されてなることができる。
上記アニオン性の親水性基の例としては、酸性基が挙げられる。該酸性基の例としては、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、フェノール性水酸基等が挙げられる。
前記ノニオン性の親水性基の例としては、ポリオキシアルキレン基、ポリグリセリン基等が挙げられる。
前記カチオン性の親水性基の例としては、1〜3級のアミノ基、アンモニウム基、ピリジニウム基、スルホニウム基、ホスホニウム基等が挙げられる。
上記エポキシ基含有樹脂エマルションの平均粒子径としては水系媒体中に分散されてなる場合、50〜1500nm、好ましくは200〜1000nmの範囲内にあることができる。平均粒子径がこの範囲内にあることにより、主剤成分(I)及び硬化剤成分(II)混合後の組成物の造膜性が優れるという効果がある。特に本発明では水性防食塗料(B)の造膜性の点からアミノ基含有樹脂エマルションの水分散体の平均粒子径よりもエポキシ基含有樹脂エマルションの平均粒子径が大きいことが適している。
上記エポキシ基含有樹脂エマルションは市販品を使用することもできる。その具体例としては、ウォーターゾールシリーズ(DIC社製、商品名)、モデピクスシリーズ(荒川化学社製、商品名)、アデカレジン(ADEKA社製、商品名)、「ユカレジンKE−278」、「ユカレジンKE−002」「ユカレジンKE−307−2」(吉村油化学社製、商品名)等を挙げることができる。
《軟化剤(b5)》
また、上記水性防食塗料(B)においては、低温環境での造膜性等の点から、軟化剤(b5)を含むことが適している。軟化剤(b5)としては、エポキシ基含有樹脂エマルションと混合安定性の良好な化合物が好適に用いられる。
本明細書においてエポキシ基含有樹脂エマルションと軟化剤(b5)の混合安定性が良好である状態とは、両者を等量混合し、目視で均一になるまで攪拌し、20℃で24時間放置したときに両者が分離しない状態であることをいう。
このような軟化剤(b5)としては、常温で液状であり、重量平均分子量がエポキシ基含有樹脂エマルションの樹脂と同等以下である有機化合物が適している。具体的には、グリコールエーテル化合物、アルキルエステル化合物、エポキシ化合物等が挙げられる。
グリコールエーテル化合物としては、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、2−エチルヘキシルグリコール等を挙げることができる。
アルキルエステル化合物としては、ジブチルアジペート、DBE(二塩基酸エステル)、ジブチルフタレート、ジー2−エチルヘキシルフタレート、ジイソノニルフタレート、ジイソデシルフタレート、ジヘプチルフタレート、ジ−n−オクチルフタレート、ブチルベンジルフタレート、エチルフタリルエチルグリコレート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジブチルジグリコールアジペート、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールジイソブチレート、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール2−エチルヘキサノエートイソブチレート、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール ジ2−エチルヘキサノエート等を挙げることができる。
エポキシ化合物としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、グリセリンポリグリシジルエーテル、ジグリセリンポリグリシジルエーテル、ポリグリセリンポリグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、ベンジルグリシジルエーテル、クレジルグリシジルエーテル、tert−ブチルフェニルグリシジルエーテルなどのアルキルグリシジルエーテル化合物;酪酸グリシジルルエステル、ステアリン酸グリシジルルエステル、ネオデカン酸グリシジルエステル、エポキシ化大豆油、エポキシブチルステアレート、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジ2−エチルヘキシル、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジイソデシル、エポキシトリグリセライド、エポキシ化オレイン酸オクチル、エポキシ化オレイン酸デシル等のアルキルグリシジルエステル化合物などを挙げることができる。以上の化合物は単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
上記した中でもエポキシ化合物を使用することが防食性の点から適している。
本発明において硬化剤成分(II)全体に占める軟化剤(b5)の割合としては、1〜30質量%、特に5〜20質量%の範囲内が適当である。
《防錆顔料成分(b6)》
上記水性防食塗料(B)において、主剤成分(I)及び/又は硬化剤成分(II)、好ましくは主剤成分(I)は防錆顔料成分(b6)をさらに含むことが好ましい。
本発明において、防錆顔料成分(b6)は、腐食環境において、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、カルシウムイオン、亜鉛イオン、ケイ酸イオン、リン酸イオン、バナジン酸イオン及びモリブデン酸イオンから選ばれる少なくとも1種のイオンを溶出可能な防錆顔料(b6−1)を含むことが好ましい。防錆顔料成分(b6)が上記特定の防錆顔料(b6−1)を含むことによって、錆面上又は金属基材上に塗装された塗膜が欠損した場合に上記イオンが溶出し、当該欠損部に作用することで防食性をより効果的に発揮することができる。
本発明において、防錆顔料(b6−1)のイオン溶出の有無は例えば防錆顔料(b6−1)を塩化ナトリウム水溶液に溶出させ、その溶出量をICP発光分光分析によって測定することによって調べることが可能である。より具体的には、濃度が5質量%塩化ナトリウム水溶液に対して10質量%分の防錆顔料(b6−1)を添加し25℃で6時間撹拌、24時間静置後沈殿物を除去した上澄み液を、ICP発光分光分析によって測定した溶解元素量の有無によって検出する方法等がある。
本発明においては上記主剤成分(I)がアミノ基含有樹脂エマルションと共に防錆顔料成分(b6)を含む形態によって、防錆顔料成分(b6)を十分な量で含んでいても主剤成分(I)の製造及び貯蔵安定性が良好であり、水性防食塗料(B)から形成される塗膜が安定した防食性を発揮することができる。
上記防錆顔料成分(b6)に含まれ得る防錆顔料(b6−1)の具体例としては、上記イオンを溶出可能な成分であれば単独化合物、複合化合物、これら化合物を複数併用した組成物等その形態に制限はなく、具体的には、リン酸亜鉛、リン酸マグネシウム、リン酸マグネシウム・アンモニウム共析物、リン酸一水素マグネシウム、リン酸二水素マグネシウム、リン酸マグネシウム・カルシウム共析物、リン酸マグネシウム・コバルト共析物、リン酸マグネシウム・ニッケル共析物、リン酸カルシウム、リン酸カルシウムアンモニウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸塩化フッ化カルシウム、リン酸アルミニウム、リン酸水素アルミニウム等のリン酸系金属化合物;
亜リン酸マグネシウム、亜リン酸カルシウム、亜リン酸マグネシウム・カルシウム共析物、塩基性亜リン酸亜鉛、亜リン酸バリウム、亜リン酸マンガン、次亜リン酸カルシウム等の亜リン酸系金属化合物;
ケイ酸カルシウム、ケイ酸亜鉛、ケイ酸アルミニウム、オルトケイ酸アルミニウム、水化ケイ酸アルミニウム、アルミノケイ酸塩、ホウケイ酸塩、ベリロケイ酸塩、ケイ酸アルミニウムカルシウム、ケイ酸アルミニウムナトリウム、ケイ酸アルミニウムベリリウム、ケイ酸ナトリウム、オルトケイ酸カルシウム、メタケイ酸カルシウム、ケイ酸カルシウムナトリウム、ケイ酸ジルコニウム、オルトケイ酸マグネシウム、メタケイ酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウムカルシウム、ケイ酸マンガン、ケイ酸バリウム等のケイ酸金属塩;マグネシウムイオン交換シリカ、カルシウムイオン交換シリカ等の金属イオン交換シリカ系化合物;
トリポリリン酸ニ水素アルミニウム、トリポリリン酸マグネシウム、トリポリリン酸アルミニウム、トリポリリン酸二水素亜鉛等の縮合リン酸系金属化合物;
五酸化バナジウム、バナジン酸カルシウム、バナジン酸マグネシウム及びメタバナジン酸アンモニウム、酸化マンガンと酸化バナジウムとの焼成物、リン酸カルシウムと酸化バナジウムとの焼成物等のバナジウム系金属化合物;
モリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸カルシウム、リンモリブデン酸アルミニウム等のモリブデン酸系金属化合物;
亜鉛、酸化亜鉛等の亜鉛系化合物;
シリカ、コロイダルシリカ等のシリカ系化合物;
酸化鉄と酸化マグネシウムとの複合酸化物、酸化鉄と酸化カルシウムとの複合酸化物、酸化鉄と酸化亜鉛との複合酸化物等の複合金属酸化物;
等を挙げることができる。前記したようにこれらは単独で又は2種以上組み合わせたものであってもよいし、2種以上を複合した複合物であることもできる。また、これら例示の化合物をシリカ、ケイ酸カルシウム等のケイ酸化合物や酸化マグネシウム等による変性物もしくは処理物も防錆顔料(b6−1)に包含される。
特に本発明では防錆顔料(b6−1)が、ケイ酸イオン及び/又はリン酸イオン並びに、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、カルシウムイオン及び亜鉛イオンから選ばれる少なくとも1種の金属イオンを溶出可能な成分であることが、点錆抑制性並びに錆面及び金属面露出部に対する防食性に優れており、適している。すなわち、本発明では防錆顔料(b6−1)が[1]ケイ酸イオンを溶出可能な成分であり、かつ、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、カルシウムイオン及び亜鉛イオンから選ばれる少なくとも1種の金属イオンを溶出可能な成分、[2]リン酸イオンを溶出可能な成分であり、かつ、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、カルシウムイオン及び亜鉛イオンから選ばれる少なくとも1種の金属イオンを溶出可能な成分、又は[3]ケイ酸イオン及びリン酸イオンを溶出可能な成分であり、かつ、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、カルシウムイオン及び亜鉛イオンから選ばれる少なくとも1種の金属イオンを溶出可能な成分のいずれかであることが、適している。
特に防錆顔料(b6−1)は、ケイ酸イオン及びリン酸イオン並びに、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、カルシウムイオン及び亜鉛イオンから選ばれる少なくとも1種の金属イオンを溶出可能な成分である態様が特に適している。すなわち、ケイ酸イオン及びリン酸イオンを溶出可能な成分であり、かつ、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、カルシウムイオン及び亜鉛イオンから選ばれる少なくとも1種の金属イオンを溶出可能な成分であることが、特に適している。
このような防錆顔料(b6−1)としては、ケイ酸イオン及び/又はリン酸イオンと上記した如き金属イオンを共に溶出可能であれば、その形態は制限されず、単独化合物又は複合化合物であってもよいし、前記化合物類を複数組み合わせた組成物であってもよい。例えば、トリポリリン酸二水素アルミニウムの酸化マグネシウム処理物とマグネシウムイオン交換シリカとの組み合わせは、ケイ酸イオン及びリン酸イオン並びに、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、カルシウムイオン及び亜鉛イオンから選ばれる少なくとも1種の金属イオンを溶出可能な防錆顔料(b6−1)の一例である。
かかる防錆顔料(b6−1)のうちケイ酸イオンを溶出可能な防錆顔料は、腐食環境下でケイ酸イオンを溶出可能なケイ酸系化合物を含んでいればよい。例えば、シリカ、コロイダルシリカ、上記防錆顔料(b6−1)の説明で列記した化合物をケイ酸化合物による変性物、マグネシウムイオン交換シリカ、カルシウムイオン交換シリカ、バナジウムイオン交換シリカ等の金属イオン交換シリカ系化合物等を挙げることができる。これらを単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
リン酸イオンを溶出可能な防錆顔料は、腐食環境下でリン酸イオンを溶出可能なリン酸系化合物を含んでいればよい。例えば、リン酸マグネシウム、リン酸マグネシウム・アンモニウム共析物、リン酸一水素マグネシウム、リン酸二水素マグネシウム、リン酸マグネシウム・カルシウム共析物、リン酸マグネシウム・コバルト共析物、リン酸マグネシウム・ニッケル共析物、亜リン酸マグネシウム、亜リン酸マグネシウム・カルシウム共析物、トリポリリン酸マグネシウム、トリポリリン酸二水素アルミニウムの酸化マグネシウム処理物、トリポリリン酸二水素亜鉛の酸化マグネシウム処理物、バナジン酸リン等を挙げることができる。これらは単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
マグネシウムイオンを溶出可能な防錆顔料は、腐食環境下でマグネシウムイオンを溶出可能なマグネシウム化合物を含んでいればよい。具体的には例えば、上記防錆顔料(b6−1)の説明で列記したごとき化合物を酸化マグネシウムで処理した化合物、リン酸マグネシウム、リン酸マグネシウム・アンモニウム共析物、リン酸一水素マグネシウム、リン酸二水素マグネシウム、リン酸マグネシウム・カルシウム共析物、リン酸マグネシウム・コバルト共析物、リン酸マグネシウム・ニッケル共析物、亜リン酸マグネシウム、亜リン酸マグネシウム・カルシウム共析物、マグネシウムイオン交換シリカ、トリポリリン酸マグネシウム、バナジン酸マグネシウム、メタケイ酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウムカルシウム、酸化鉄と酸化マグネシウム複合酸化物、バナジン酸マグネシウム等を挙げることができる。これらを単独でまたは2種以上組み合わせて使用することができる。
アルミニウムイオンを溶出可能な防錆顔料は、腐食環境下でアルミニウムイオンを溶出可能なアルミニウム化合物を含んでいればよい。例えば、リン酸アルミニウム、リン酸水素アルミニウム、トリポリリン酸ニ水素アルミニウム、トリポリリン酸アルミニウム、モリブデン酸アルミニウム、ケイ酸アルミニウム、オルトケイ酸アルミニウム、水化ケイ酸アルミニウム、アルミノケイ酸塩、ケイ酸アルミニウムカルシウム、ケイ酸アルミニウムナトリウム、ケイ酸アルミニウムベリリウム、リンモリブデン酸アルミニウム、バナジン酸アルミニウム等を挙げることができる。これらを単独でまたは2種以上組み合わせて使用することができる。
カルシウムイオンを溶出可能な防錆顔料は、腐食環境下でカルシウムイオンを溶出可能なカルシウム化合物を含んでいればよい。例えば、リン酸マグネシウム・カルシウム共析物、リン酸カルシウム、リン酸カルシウムアンモニウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸塩化フッ化カルシウム、亜リン酸カルシウム、亜リン酸マグネシウム・カルシウム共析物、次亜リン酸カルシウム、カルシウムイオン交換シリカ、バナジン酸カルシウム、リン酸カルシウムと酸化バナジウムとの焼成物、モリブデン酸カルシウム、酸化鉄と酸化カルシウム複合酸化物、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウムカルシウム、オルトケイ酸カルシウム、メタケイ酸カルシウム、ケイ酸カルシウムナトリウム、ケイ酸マグネシウムカルシウム、バナジン酸カルシウム等を挙げることができる。これらを単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
亜鉛イオンを溶出可能な防錆顔料は、腐食環境下で亜鉛イオンを溶出可能な亜鉛化合物を含んでいればよい。例えば、亜鉛、酸化亜鉛、リン酸亜鉛、塩基性亜リン酸亜鉛、トリポリリン酸二水素亜鉛、ケイ酸亜鉛、バナジン酸亜鉛、酸化鉄と酸化亜鉛との複合酸化物等の複合金属酸化物等を挙げることができる。これらを単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
上記本発明に用いられる防錆顔料成分(b6)は、防錆顔料(b6−1)以外のその他の防錆顔料を必要に応じて含むことができる。かかるその他の防錆顔料の具体例としては、5酸化バナジウム、水酸化コバルト等のコバルト系化合物;メタホウ酸バリウム等のホウ酸系化合物;リン化鉄、リン化マンガン、リン化ニッケル、リン化コバルト、リン化銅等のリン化物等を挙げることができる。
その他の防錆顔料を使用する場合、その場合の使用量としては、上記防錆顔料成分(b6)中に30質量%以下にすることができる。
防錆顔料成分(b6)は、単独もしくは複数の組み合わせの市販品を用いることができる。かかる市販品としては、例えば「EXPERT NP−1000」、「EXPERT NP−1020C」、「EXPERT NP−1100」、「EXPERT NP−1102」(以上、東邦顔料工業社製、商品名)、「LFボウセイ CP−Z」、「LFボウセイ MZP−500」、「LFボウセイ CRFC−1」、「LFボウセイ M−PSN」、「LFボウセイ MC−400WR」、「LFボウセイ PM−300」、「LFボウセイ PM−308」(以上、キクチカラー社製、商品名)、「K−WHITE140」「K−WHITE Ca650」、「K−WHITE450H」、「K−WHITE G−105」、「K−WHITE #105」、「K−WHITE #82」(以上、テイカ社製、商品名)、「SHIELDEX C303」、「SHIELDEX AC−3」、「SHIELDEXC−5」(以上、いずれもW.R.Grace&Co.社製)、「サイロマスク52」、「サイロマスク52M」、「サイロマスク22MR-H」、「サイロマスクMg」(富士シリシア社製)、「ノビノックスACE−110」(SNCZ社製・フランス)等を挙げることができる。
上記防錆顔料成分(b6)の配合量としては、アミノ基含有樹脂エマルション不揮発分質量100質量部を基準として1〜100質量部、好ましくは5〜90質量部、さらに好ましくは10〜80質量部の範囲内にあることが適している。
《繊維状無機化合物(b7)》
上記水性防食塗料(B)において、主剤成分(I)及び/又は硬化剤成分(II)、好ましくは主剤成分(I)が繊維状無機化合物(b7)をさらに含むことが好ましい。
理由は定かではないが繊維状無機化合物(b7)によって錆面に対する付着性及び防食性の向上する効果がある。
上記繊維状無機化合物(b7)はその材質、製法、産地等には特に制限はなく、その具体例としては例えば、ガラス繊維、炭化珪素、窒化珪素、ウオラストナイト、セピオライト、クリソタイル、アモサイト、トレモライト、ゼオライト、カルシウムメタシリケート、ゾノライト、チタン酸カリウム、ロックウール、アルミニウムシリケート、カーボンファイバー、アラミドファイバー、ホウ酸アルミニウム、針状炭酸カルシウム、針状塩基性硫酸マグネシウム、ガラスフレーク、針状酸化亜鉛、アラゴナイト型軽質炭酸カルシウム、紡錘型軽質炭酸カルシウム、サチンホワイト等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
本発明では上記繊維状無機化合物(b7)としてアスペクト比が3.5以上、好ましくは4〜25の範囲内にあるものを使用すると尚よい。
アスペクト比とは無機針状顔料の長軸径/短軸径の値であり、ここでいう短軸径および長軸径とは、電子顕微鏡観察により一定面積内に存在する100個の一次粒子各々の短軸径および長軸径を測長し、それぞれの数平均値を求めたものである。
また、繊維状無機化合物(b7)の平均繊維長としては5〜300μm、特に10〜200μmの範囲内がよい。本明細書において平均繊維長は、アスペクト比の測定において得られた長軸径の平均値とする。
本発明において、繊維状無機化合物(b7)の配合量としては、塗料中に含まれる樹脂の合計不揮発分100質量部を基準として0.1〜30質量部、好ましくは5〜25質量部の範囲内にあることが適している。
《ポリカルボジイミド化合物(b8)》
また、上記主剤成分(I)及び/又は硬化剤成分(II)、好ましくは硬化剤成分(II)はポリカルボジイミド化合物(b8)をさらに含むことが好ましい。
水性防食塗料(B)にポリカルボジイミド化合物(b8)が含まれることによって、形成される塗膜の耐湿性向上に効果がある。
かかるポリカルボジイミド化合物(b8)としては分子中に−N=C=N−基を有する高分子であり、例えば、カルボジイミド化触媒の存在下でジイソシアネートの脱炭酸縮合反応によって製造することができる。カルボジイミド化触媒としては、スズ、酸化マグネシウム、カリウムイオン、18−クラウン−6、3−メチル−1−フェニル−2−ホスホレンオキシド等、及びこれらの組み合わせが挙げられる。これらは単独でまたは2種以上組み合わせて使用できる。
ジイソシアネートとしては、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4´−ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、メチルシクロヘキシルジイソシアネート、4,4´−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、2,4,6−トリイソプロピルフェニルジイソシアネート、1,12−ジイソシアネートドデカン、2,4,−ビス−(8−イソシアネートオクチル)−1,3−ジオクチルシクロブタン、n−ペンタン−1,4−ジイソシアネート等の多官能イソシアネート類の1種または2種以上を脱二酸化炭素縮合反応させることにより、カルボジイミド化し、水希釈性を付与するために末端の残存イソシアネート基を親水性基で封止したものである。
封止する親水基としては、アルキルスルホン酸塩の残基、ジアルキルアミノアルコールの残基の四級塩、アルコキシ基末端を封鎖されたポリオキシアルキレンの残基などがあげられる。
ポリカルボジイミド化合物としては、例えば、「カルボジライトV−02」、「カルボジライトV−04」、「カルボジライトV−02−L2」、「カルボジライトE−02」、「カルボジライトE−03A」、「Elastostab H01」(以上、製品名、日清紡ケミカル株式会社製)等の市販品を使用することができる。
ポリカルボジイミド化合物(b8)の配合量としては、水性塗料組成物に含まれる樹脂不揮発分100質量部を基準として、0.1〜10質量部、好ましくは0.5〜5質量部の範囲内にあることが塗膜の吸水率及び防食性の点から適している。
上記水性防食塗料(B)においては、着色顔料、体質顔料、顔料分散剤、有機溶剤、表面調整剤、消泡剤、増粘剤、硬化触媒、界面活性剤、沈降防止剤、可塑剤、反応性希釈剤、凍結防止剤、皮張り防止剤、pH調整剤、防腐剤等の通常の塗料用添加剤を主剤成分(I)及び/又は硬化剤成分(II)に配合することができる。
これらのうち着色顔料としては、例えば、酸化チタン、カーボンブラック、黄鉛、黄土、黄色酸化鉄、ハンザエロー、ピグメントエロー、クロムオレンジ、クロムバーミリオン、パーマネントオレンジ、アンバー、パーマネントレッド、ブリリアントカーミン、ファストバイオレット、メチルバイオレットレーキ、群青、紺青、コバルトブルー、フタロシアニンブルー、ピグメントグリーン、ナフトールグリーン、アルミペーストなどが挙げられる。これらはそれぞれ単独で又は2種以上組合せて用いることができる。
着色顔料の配合量としては、水性塗料組成物に含まれる樹脂不揮発分100質量部を基準として5〜90質量部、好ましくは10〜50質量部の範囲内にあることが適している。
体質顔料としては、例えば、タルク、シリカ、炭酸カルシウム、マイカ、カオリン、硫酸バリウム、亜鉛華(酸化亜鉛)などが挙げられる。これらはそれぞれ単独で又は2種以上組合せて用いることができる。
体質顔料の配合量としては、水性防食塗料(B)に含まれる樹脂不揮発分100質量部を基準として10〜100質量部、好ましくは20〜70質量部の範囲内にあることが耐水性の点から適している。
《有機溶剤》
上記水性防食塗料(B)は有機溶剤を含むことができる。有機溶剤は水性防食塗料(B)の主剤成分(I)及び/又は硬化剤成分(II)の製造における粘度調整用、あるいは低温造膜性などの塗膜物性の観点から用いられるものである。かかる有機溶剤としては、公知のものを制限なく使用することができるが、下地処理液(A)に含まれる有機溶剤(a1)と同様の化合物を使用することが適している。
有機溶剤の含有量としては、水性防食塗料(B)に含まれる樹脂不揮発分100質量部を基準として0.1〜30質量部、好ましくは3〜25質量部の範囲内にあることができる。
上記主剤成分(I)及び硬化剤成分(II)の配合割合としては、主剤成分(I)に含まれる官能基1当量に対して第2成分に含まれる官能基が0.3〜1.5当量、好ましくは0.5〜1.2当量の範囲内にあることが適している。
<水性防食塗料(B)の塗装>
本発明方法において水性防食塗料(B)の塗装に際して、必要に応じて脱イオン水、上水などの水で希釈して塗装される。この場合、水性防食塗料(B)の不揮発分濃度は、下地処理液(A)よりも高いものであり、5〜80質量%程度であることが好ましく、35〜75質量%程度であることがより好ましい。
本発明の防食塗装方法において、水性防食塗料(B)による下塗り塗膜の乾燥理論膜厚としては、10〜200μm、好ましくは30〜150μmの範囲内にあることができる。
本発明において、乾燥理論膜厚は、下記式によって算出する。
A=(B×NV)/(C×100)
A:理論乾燥膜厚(μm)
B:塗付量(g/m2)
NV:塗料の不揮発分濃度(%)
C:塗料の比重(g/cm3)
乾燥理論膜厚を求めるための塗料の比重は、K 7232−1986 4.2比重カップ法に準じて測定するものとする。
上記水性防食塗料(B)は、エアスプレー、エアレススプレー、刷毛塗り、ローラーなどの従来公知の方法が採用できる。また、乾燥方法としては常温乾燥で1〜48時間、好ましくは2〜16時間が望ましく、必要に応じて強制乾燥または加熱乾燥させることも可能である。
本発明の防食塗装方法では、上記水性防食塗料(B)を用いた下塗り塗装工程(2)により形成された下塗り塗膜上に、該水性防食塗料(B)とは異なる上塗り塗料を単層で或いは複層で塗り重ねることができる。
以下、実施例を挙げて本発明をさらに説明する。ここで、『部』および『%』はそれぞれ『質量部』および『質量%』を意味する。
<有機溶剤希釈水タイプの下地処理液の製造>
製造例1
容器に、イソプロパノール10部、脱イオン水90部を仕込み、攪拌混合して下地処理液(A−1)を得た。
製造例2〜5及び7〜12、15
用いる有機溶剤の種類と量を表1記載のように変更する以外は同様にして下地処理液(A−2)〜(A−5)、(A−7)〜(A−12)及び(A−15)を得た。
<水性防食塗料を含むタイプの下地処理液の製造>
製造例6及び製造例13〜14
有機溶剤に替えて、後述の水性防食塗料(B−1)(主剤成分と硬化剤成分を混合したもの)を使用する以外は同様にして下地処理液(A−6)、(A−13)及び(A−14)を得た。
<アミノ基含有樹脂エマルションの製造>
製造例16
攪拌機、温度計、窒素導入管及び還流冷却機を取り付けたフラスコに、「jER828」(商品名、三菱ケミカル社製、ビスフェノールA型樹脂、エポキシ当量190、数平均分子量375)3200部、ビスフェノールA(分子量228)を1700部、メチルイソブチルケトン(沸点120℃)900部、ベンジルジメチルアミン5.0部を仕込み、不揮発分当たりのエポキシ当量が2500g/当量になるまで120℃で反応させた。
次に、3,3´−ジアミノジプロピルアミンのメチルイソブチルケトンによるケチミン化物590部を加え、120℃で1時間反応させた。 その後、脱イオン水54部、ネオデカン酸グリシジルエステル380部を仕込み、100℃で2時間反応させた。その後、酢酸90部、脱イオン水70部を加えて内液を攪拌混合し、脱イオン水6500部を加えて水分散した後、減圧してメチルイソブチルケトンを除去し、脱イオン水にて固形分を調整し、乳白色で不揮発分が45%の、樹脂末端に1級アミノ基を有するアミノ基含有樹脂エマルション(BA−1)を得た。
エマルション(BA−1)は樹脂の重量平均分子量が7000であり、平均粒子径は250nm、不揮発分当たりのアミン価は60mgKOH/gであった。
製造例17〜20
配合組成を下記表2とする以外は同様にして樹脂エマルション(BA−2)〜(BA−5)を製造した。
<水性防食塗料の製造>
製造例21
容器に、アミノ基含有樹脂エマルション(BA−1)222部(不揮発分100部)、防錆顔料(b6−1)10部、防錆顔料(b6−2)10部、防錆顔料(b6−7)20部、繊維状無機化合物(b7)10部、エチレングリコールモノブチルエーテル(沸点171.2℃)20部、酸化チタン40部、タルク60部を配合し、攪拌混合することにより主剤成分を得た。別の容器に、エポキシ樹脂エマルション(注)を35.2部(不揮発分17.6部)、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル5部、ポリカルボジイミドエマルション7.5部(不揮発分3部)添加し、攪拌混合して硬化剤成分とし、前記主剤成分と混合して水性防食塗料(B−1)を得た。
製造例22〜26
配合組成を下記表3とする以外は製造例21と同様にして水性防食塗料(B−2)〜(B−6)を得た。
尚、表3のアミノ基含有樹脂エマルション、エポキシ基含有樹脂エマルション及びポリカルボジイミドエマルションの配合量は不揮発分表示である。
(*)防錆顔料(b6−1):「K−WHITE G-105」テイカ社製、商品名、トリポリリン酸二水素アルミニウムの酸化マグネシウム処理物、酸化マグネシウム処理量15%、
(*)防錆顔料(b6−2):「LFボウセイ MZP−500」、商品名、キクチカラー社製、リン酸マグネシウム、
(*)防錆顔料(b6−3):「EXPERT NP−1000」東邦顔料工業社製、商品名、リン酸カルシウム、
(*)防錆顔料(b6−4):りん酸亜鉛四水和物、米山薬品社製、試薬、リン酸亜鉛、
(*)防錆顔料(b6−5):「SHIELDEX C303」W.R.Grace & Co.社製、商品名、カルシウムイオン交換シリカ、
(*)防錆顔料(b6−6):「サイロマスクMg」富士シリシア化学社製、商品名、マグネシウムイオン交換シリカ、
(*)防錆顔料(b6−7):「サイロマスク22MR−H」富士シリシア化学社製、商品名、マグネシウムイオン交換シリカ、
(*)繊維状無機化合物(b7):ガラス繊維、アスペクト比20、平均繊維長80μm、
(*)エポキシ樹脂エマルション(注):ノニオン性フェノールノボラック型エポキシ樹脂エマルション、不揮発分50%、不揮発分あたりのエポキシ当量200、重量平均分子量1200、平均粒子径550nm、
(*)ポリカルボジイミドエマルション(b8):不揮発分40%、カルボジイミド当量365。
<錆面上に塗装した試験板の作成>
実施例1〜23及び比較例1〜4
錆面を想定し、幅70mm×長さ150mm×板厚み3mmの軟鋼板をショットブラストしたものを、千葉県千倉町の太平洋沿岸(離岸距離30m)にて4ヶ月、南向き30°の角度にて開放ばくろ試験を行い、錆発生面積が100%の錆鋼板を作製し、ワイヤーブラシを用いた手作業により、錆発生面積が85%の錆鋼板を用意した。この錆鋼板に上記製造例で得られた各下地処理液及び水性防食塗料を塗装して試験板を作成し、下記評価に供した。
(*)5℃造膜性
錆鋼板の板全面に、各下地処理液を、表4記載の塗布量となるように水性塗料用ナイロン刷毛にて塗装をし、5℃で5分間放置した。次いで表4記載の各水性防食塗料を、理論乾燥膜厚が100μmとなるように水性塗料用ナイロン刷毛にて装をし、5℃で24時間乾燥させて試験板を得た。得られた試験板の表面状態を観察し、下記基準にて評価した。
◎:造膜性が非常に良好であり、ヒビワレが全く認められない、
○:造膜性が良好であり、膜の端部にのみごくわずかにヒビワレが認められる、
△:造膜性があり、ガラス板に付着しているものの、全体にヒビワレが認められる、
×:造膜せず、塗膜全体にワレが発生し、塗膜に剥離が認められる。
(*)指蝕乾燥性
上記5℃造膜性試験において、下地処理液及び水性防食塗料の乾燥温度を5℃から23℃に変更する以外は同様にして指蝕乾燥性試験用の試験板を作成し、各試験板の表面を指で触りかつ往復ラビングした状態をもって、べたつき感を下記基準で評価した。
◎:べたつきがなく、指でラビングしても塗膜が剥離しない、
○:べたつきがわずかにあるが指からすぐ離れ、指でラビングしたとき塗膜がやや剥離するが完全に除去はできない、
△:べたつきが顕著にあり、指のラビングによって塗膜の大部分が除去可能、
×:塗膜がやぶれて指につき、ラビングによって容易に塗膜の除去が可能。
(*)耐湿性試験
水性防食塗料を塗装後168時間乾燥した以外については、上記指蝕乾燥性試験用の試験板と同様の試験板を用意し、50℃×98RH%とした恒温高湿器の槽内に吊り下げ、120時間放置した後、下記基準で評価した。
◎:塗面状態が非常に良好であり、フクレ・錆は全く認められない、
○:塗面状態が良好であり、1mm以下のフクレ又は錆がごくわずかに認められる、
△:塗面状態はやや不良であり、1mmを超えるフクレ又は錆が認められる、
×:塗面状態が不良であり、塗面全体にフクレ又は錆が認められる。
(*)防食性試験
錆鋼板の板全面に、各下地処理液を表4記載の塗布量となるように水性塗料用ナイロン刷毛にて塗装をし、23℃で3分間立てかけて放置した。このときの簡易素地調整板の状態は、濃い濡れ色を呈しており、錆表面を指で軽く触ると、錆にしみ込んだ下地処理液により指が湿潤するような状態であった。 次いで表4記載の各水性防食塗料を、理論乾燥膜厚が100μmとなるように水性塗料用ナイロン刷毛にて塗装をし、23℃で24時間乾燥させた。次いで、弱溶剤可溶形エポキシ樹脂系中塗塗料「セラテクトマイルド中塗り(E)」(商品名、関西ペイント社製、主剤/硬化剤質量比17/1)を乾燥膜厚が30μmとなるようにスプレー塗装し、23℃で24時間乾燥させた。次いで、低汚染形弱溶剤可溶イソシアネート硬化ポリウレタン樹脂上塗塗料「セラテクトUマイルド上塗」(商品名、関西ペイント社製、主剤/硬化剤質量比6/1)を乾燥膜厚が25μmとなるようにスプレー塗装し、23℃、湿度50%恒温室内で7日間養生し、錆面上に塗装した試験塗板を得た。このようにして得られた各試験塗板に対し、JIS K 5621に規定されている5%塩化ナトリウム水溶液を使用した複合サイクル腐食試験を1200時間実施し、試験塗板の一般部とカット部の表面観察により下記基準にて評価した。
(一般部)
◎:さびの発生が認められない、
○:試験体に1〜5点の直径5mm未満のさび発生が認められる、
△:試験体に1〜5点のさび発生が認められかつその大きさが5mmを超える、またはさびの大きさに関係なく6〜15点のさび発生が認められる、
×:試験体に15点以上のさび発生が認められる。
(カット部)
◎:カット部より進行するさび、フクレの最大幅がカットをまたいで10mm以下、
○:カット部より進行するさび、フクレの最大値がカットをまたいで10mmを超え20mm以下、
△:カット部より進行するさび、フクレの最大値がカットをまたいで20mmを超え30mm以下、
×:カット部より進行するさび、フクレの最大値がカットをまたいで30mmを超える。