JP6948441B1 - 低Co水素吸蔵合金粉末 - Google Patents

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Abstract

【課題】ニッケル水素電池の負極として用いられるCaCu5型水素吸蔵合金について、Co含有量低減あるいはCo無添加による原料コスト抑制と、水素の繰返し吸蔵放出による合金の微粉化を抑制し、負極の寿命特性を維持することを課題とする。【解決手段】水素吸蔵合金は、CaCu5型結晶構造を有し、一般式MmNiaMnbAlcCod(式中、Mmはミッシュメタルであり、4.30≦a≦4.70、0.25≦b≦0.45、0.35≦c≦0.45、0≦d≦0.14(好ましくは、0.02≦d≦0.14)、5.20≦a+b+c+d≦5.50)で表される成分組成を有し、この水素吸蔵合金の粒子断面の単結晶相をナノインデンターで測定したときに得られるヤング率は120GPa以上127GPa以下である。【選択図】図2

Description

本発明は、ニッケル水素電池の負極として用いられるCaCu5型の結晶構造を有するCo含有量の少ない水素吸蔵合金に関する。更に本発明は、この水素吸蔵合金を負極として使用した電池に関する。
負極に水素吸蔵合金を用いたニッケル水素電池は、1990年代前半に商品化され、その後、広く普及している。
ニッケル水素電池は、商品化当初は携帯電話やノートパソコンの電源として活躍していたが、その後は、徐々に小型で軽量なリチウムイオン電池へと置き換えられ、現在では、低廉さと安全性の高さ、及び、体積当りのエネルギー密度とのバランスの良さなどから、玩具、デジタルカメラ、電動アシスト自転車、電動工具、更にはハイブリッド自動車などに用いられている。
このようなニッケル水素電池に用いられる水素吸蔵合金は、水素と反応して金属水素化物となる合金である。この水素吸蔵合金は、室温付近で多量の水素を可逆的に吸蔵・放出することができる。
水素吸蔵合金としては、LaNi5に代表されるAB5型合金、ZrV0.4Ni1.5に代表されるAB2型合金のほか、AB型、A2B型、AB3型などの様々なタイプの合金が知られている。これらの合金は、水素との親和性が高く水素吸蔵量を高める役割を果たす元素グループ(希土類元素,Ca,Mg,Ti,Zr,V,Nb,Pt,Pd等)と、水素との親和性が比較的低く吸蔵量は少ないが、水素化反応が促進して反応温度を低くする役割を果たす元素グループ(Ni,Mn,Co,Al等)との組合せで構成されている。
これらの中で、CaCu5型結晶構造を有するAB5型水素吸蔵合金、例えば、Aサイトに希土類系の混合物であるミッシュメタル(以下「Mm」という。)を用い、BサイトにNi,Mn,Co,Al等の元素を用いた合金は、他の組成の合金に比べて、比較的安価な材料で負極を形成することができる。
AB5型水素吸蔵合金では、Aサイト原子量に対するBサイト原子量の割合(AB比)、及びNiの一部をCo、Mn、Al等の置換量を調整することにより、それを用いた負極の充放電容量、入出力特性、サイクル寿命などの様々な特性を調整することができる。そのような特徴をもつAB5型水素吸蔵合金は、様々な用途に応じたニッケル水素蓄電池を造り分けすることを可能としている。
ハイブリッド自動車を普及拡大させるためには、ニッケル水素電池の製造コストを低く抑え、負極の寿命特性および入出力特性をさらに向上させる必要がある。この目的を達成するために、AB5型水素吸蔵合金の研究開発が活発に行なわれている。特に高価なレアメタルであるCoの使用量を可能な限り低減したAB5型水素吸蔵合金にて、寿命特性の維持向上を目的として、合金の硬さに注目した検討が行われている。
例えば、特許文献1において、二次電池用水素吸蔵合金として、(R)・(NiCoMnAl(ただしRはLaを75%≧含有する希土類混合金属、MはTi、Zr、Hfから選ばれる何れか1種の金属、x+y=1、0.002≦y<0.01、3.5<a<4.5、0.6≦b<1.0、c≦0.2、0.2≦d≦0.4、5.1≦z<5.3)で表される二次電池用水素吸蔵合金であり、この水素吸蔵合金のマイクロビッカース硬度が、400以上であることが提案されている
また特許文献2において、一般式が(R)・(NiCoMnAl)(ただしRはLaを75%≧含有する希土類混合金属、MはTi、Zr、Hfから選ばれる何れか1種の金属、x+y=1、0.002≦y<0.01、3.5<a<4.5、0.6≦b<1.0、c≦0.2、0.2≦d≦0.4、5.1≦(a+b+c+d+)で表される二次電池用水素吸蔵合金であり、この水素吸蔵合金のマイクロビッカース硬度が、400以上であることが提案されている
また特許文献3において、A1−x(MNi1−y(式中、AはY、Gd、Tb、Dy又はこれらの混合物、RはLa、Ce、Pr、Nd又はこれらの混合物、MはCo、Al、Mn、Fe、Cu、Zr、Ti、Mo、W、B又はこれらの混合元素を示す。x、y及びnは、それぞれ0.01≦x≦0.1、0.01≦y≦0.5、4.9≦n≦5.4である)で表される合金であって、該合金のビッカース硬度(Hv)が900kg/mm以上であることが提案されている。
また、特許文献4には、短絡の原因となる不純物を除去することができる水素吸蔵合金粉末の製造方法が提案されており、この製造方法は、水素吸蔵合金原料を溶解して溶湯とし、これを冷却して得られた水素吸蔵合金インゴットを粉砕した後、磁石を用いて磁着物を排除する磁選を行うことからなる。より具体的にいえば、例えば、一般式MmNiMnAlCoで(ただし、4.0≦a≦4.7、0.3≦b≦0.7、0.20≦c00.50、0<d≦0.80)で表される水素吸蔵合金について、合金原料を溶解して溶湯とし、この溶湯を、例えば水冷型の鋳型に流し込んで、例えば1350〜1550℃の鋳湯温度で鋳造し、所定の冷却速度で冷却する。次いで、必要に応じて、不活性ガス雰囲気中で、例えば1000〜1200℃、3〜6時間熱処理する。次いで、水素吸蔵合金インゴットを粗砕し、その後の磁選工程において、短絡の原因となる不純物を除去することが提案されている(段落0017、0025〜0030参照)。
特開平10−261413号公報 特開2008−210809号公報 特開2001−266864号公報 特開2010−255104号公報
上記の通り、これまでにも検討がなされてきているが、近年レアメタルであるCoの取引価格が高騰するなか、Coを含有するAB5型水素吸蔵合金の原料コストを維持あるいは低減するためには、Coの含有率を可能な限り低減する必要がある。しかし、AB5型水素吸蔵合金のCo含有率を低減すると、水素の吸蔵放出が繰り返されることによる合金の微粉化が促進し、負極の寿命特性が低下する傾向がある。Co含有量の低減と、負極の寿命特性を両立させるための有効な課題解決策は見つかっていない。
特許文献1には、二次電池用水素吸蔵合金として、(R)・(NiCoMnAlでLaを75%以上含有する希土類混合金属、元素Mの添加量を0.02以上0.01未満としており、元素Mの添加量の理由としてこの範囲でないと合金のマイクロビッカース硬度を400以上とすることができず、そのため水素吸蔵・放出時、すなわち、充放電時に合金が割れやすくなり、サイクル寿命の低下につながるとしている。しかし、この水素吸蔵合金のCo量は0.6〜1.0としており、実施例での0.6〜0.9の場合だが、Coが多すぎる課題がある。また、特許文献1には、水素吸蔵合金を負極活物質に用いた際の寿命特性の向上を図るという観点から、水素吸蔵合金の微粉化抑制という課題及びこれを解決するための具体的手段に関する記載はない。
特許文献2では、二次電池用水素吸蔵合金として、(R)・(NiCoMnAl)で希土類金属に占めるLaを75%以上とし、Laサイトに添加する元素Mの添加量を0.02以上0.01未満としており、元素Mの添加量の理由としてこの範囲でないと合金のマイクロビッカース硬度を400以上とすることができず、そのため水素吸蔵・放出時、すなわち、充放電時に合金が割れやすくなり、サイクル寿命を長くするために必要としている。しかし、この水素吸蔵合金のCo量は0.6〜1.0としており、実施例での0.6〜0.9の場合だが、Coが多すぎる課題がある。この特許文献についても、水素吸蔵合金を負極活物質に用いた際の寿命特性の向上を図るという観点から、水素吸蔵合金の微粉化抑制という課題及びこれを解決するための具体的手段に関する記載はない。
特許文献3には、A1−x(MNi1−y(式中、AはY、Gd、Tb、Dy又はこれらの混合物、RはLa、Ce、Pr、Nd又はこれらの混合物、MはCo、Al、Mn、Fe、Cu、Zr、Ti、Mo、W、B又はこれらの混合元素を示す。xは好ましくは0.03〜0.05、yが0.01〜0.5、nは4.9以上5.4以下でHv900kg/mmの水素吸蔵合金が得られるとしている。しかし、この水素吸蔵合金のCo量は実施例によるCo量は0.50から0.75モル%となり、やはりCoが多すぎる課題がある。また、この特許文献にも、水素吸蔵合金を負極活物質に用いた際の寿命特性の向上を図るという観点から、水素吸蔵合金の微粉化抑制という課題及びこれを解決するための具体的手段に関する記載はない。
特許文献4には、水素吸蔵合金の製造工程において、磁選工程を設けて不純物除去を行うことで、短絡の原因となる不純物(鉄及びCr)を効果的に除去できることが開示されているが、水素吸蔵合金を負極活物質に用いた際の寿命特性の向上を図るという観点から、水素吸蔵合金の微粉化抑制という課題及びこれを解決するための具体的手段に関する記載はない。
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、Coを含有するAB5型水素吸蔵合金について、Co含有量の低減により原料コストを抑制したうえで、水素の繰返し吸蔵放出による合金の微粉化を抑制することで、負極活物質に用いたときの寿命特性を維持することを課題としている。
本発明者は、上記課題を解決すべく、鋭意研究し、所定の組成のCoを含有するAB5型水素吸蔵合金において、Co含有量の低減あるいはCo無添加により原料コストを抑制したうえで、粉砕で得られた合金粒子断面の単結晶相の機械的性質と電池特性の関係を詳細に調べた結果、水素吸蔵合金の粒子断面の単結晶相をナノインデンターで測定したときに得られるヤング率と電池特性に強い相関があることを見出し、前記ヤング率を120GPa以上127GPa以下にコントロールすることで、水素吸蔵量の低下がなく、水素の繰返し吸蔵放出による合金の微粉化を抑制でき、負極活物質に用いたときの寿命特性が維持されるAB5型水素吸蔵合金とすることができることを見出し、本発明を完成させた。
本発明の要旨は、次の通りである。
(1)一般式MmNiaMnbAlcCod(式中、Mmはミッシュメタルであり、4.30≦a≦4.70、0.25≦b≦0.45、0.35≦c≦0.45、0≦d≦0.14(ただし、0≦d≦0.06の範囲を除く)、5.20≦a+b+c+d≦5.50)で表され、CaCu5型結晶構造を有する水素吸蔵合金粉末であって、
前記Mmは、LaおよびCeの合計が、Mm全質量に対して90質量%以上100質量%以下の範囲内であり、前記水素吸蔵合金粉末の粒子断面の単結晶相をナノインデンターで測定したときに得られるヤング率が120GPa以上127GPa以下であることを特徴とする水素吸蔵合金粉末
)水素吸蔵量(H/M)が0.85以上1.00以下、かつ、微粉化難度が0.50以上0.60以下であり、平衡圧力が0.040MPa以上0.070MPa以下であることを特徴とする前記(1)に記載の水素吸蔵合金粉末。
)前記(1)又は(2)に記載の水素吸蔵合金を負極活物質としたことを特徴とする負極。
)前記()に記載の負極を用いたことを特徴とする電池。
本発明により、Co含有量の低減により原料コストを抑制したうえで、水素の繰返し吸蔵放出による合金の微粉化を抑制したAB5型水素吸蔵合金を得ることができ、初期特性に優れ、微粉化難度に優れ、寿命特性に優れ、ニッケル水素電池用負極に好適なAB5型水素吸蔵合金を得ることができるという顕著な効果を奏する。
水素吸蔵合金の粉砕粉を樹脂包埋後、研磨して得られた粒子断面についての二次電子像(a)及びEBSDによる方位解析像(b)を示す。なお、EBSDによる方位解析像(b)において、左側の粒子(単結晶相1)、中央上部の粒子(単結晶相2)及右側の粒子(単結晶相3)は、EBSDによる方位解析により、それぞれの粒子の断面が同じ色となっていることから、それぞれの粒子が一つの方位を有すること、すなわち単結晶相からなることを示す。また、粒子の中心部分付近を測定点とすることで単結晶相のヤング率を測定することになる。 実施例1〜4および比較例1〜3における微粉化難度とナノインデンターから得られたヤング率の関係を示すグラフである。
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明者は、Co含有量の少ないAB5型水素吸蔵合金の機械的性質に着目し、水素吸蔵合金粉末(以下、単に「水素吸蔵合金」と記す場合もある。)の粒子断面の単結晶相をナノインデンターで測定したときに得られるヤング率が大きくなるほど微粉化難度に優れることを見出した。前記ヤング率は合金結晶の剛直さを示すものであり、合金結晶の剛直さによって水素吸蔵しても合金結晶が割れ難くなっていると解釈できる。よって、微粉化難度を良好にして、ニッケル水素電池用負極として優れた寿命特性を得るには、前記ヤング率の大きな合金結晶を用いることである。
具体的には、水素吸蔵合金の粒子断面の単結晶相をナノインデンターで測定したときに得られるヤング率が120GPa以上であると、ニッケル水素電池用負極として優れた合金となる。120GPa未満では、水素吸蔵放出を繰り返すと合金結晶の割れが進行し易くなり、即ち、微粉化難度が低下してニッケル水素電池用負極として十分な特性が得られない。前記ヤング率が大きくなれば、より良好な微粉化難度となるが、前記ヤング率が大きくなり過ぎると合金の加工性が悪くなってニッケル水素電池用負極とできる合金粉砕に時間がかかり過ぎる。よって、前記ヤング率の上限は、127GPaとした。
本発明におけるAB5型水素吸蔵合金は、CaCu5型結晶構造を有し、一般式MmNiaMnbAlcCod(Mmはミッシュメタルであり、4.30≦a≦4.70、0.25≦b≦0.45、0.35≦c≦0.45、0≦d≦0.14、5.20≦a+b+c+d≦5.50)で表され、Coのモル比dは、原料コスト低減のため、なるべく少ない方が好ましく、0≦d≦0.14としている。ただ、Co含有量が0.02未満では、前記ヤング率を大きくしても微粉化難度が維持できない場合があるので、好ましくは、0.02≦d≦0.14である。
AB5型水素吸蔵合金において、Aサイトを構成する金属について説明する。
本発明では、Aサイトを構成する金属として、LaまたはLaの一部もしくは全部が希土類金属混合物であるミッシュメタル(Mm)を用いる。Mmでは、LaおよびCeが、Mm全質量に対して90質量%以上100質量%以下の範囲内の割合を占めていることが好ましく、より好ましくは、Laが70〜96質量%、Ceが4〜30質量%の範囲であり、更に好ましくは、Laが74〜94質量%、Ceが6〜26質量%の範囲である。
次にBサイトを構成する金属について説明する。本発明では、Bサイトを構成する金属として、Ni、Mn、Al、及びCoを用いる。これら金属のモル比は以下の条件を満たすことが好ましい。
Niモル比(a) 4.30≦ a ≦4.70
Mnモル比(b) 0.25≦ b ≦0.45
Alモル比(c) 0.35≦ c ≦0.45
Coモル比(d) 0≦ d ≦0.14
AB比 5.20≦(a+ b + c + d ) ≦5.50
更に好ましい条件は、次の通りである。
Niモル比(a) 4.40≦ a ≦4.70
Mnモル比(b) 0.25≦ b ≦0.41
Alモル比(c) 0.38≦ c ≦0.42
Coモル比(d) 0.02≦ d ≦0.11
AB比 5.25≦(a+ b + c + d ) ≦5.46
MmのLa、Ceの比率、Ni、Mn、Alのモル比を前記の通りに設定した理由としては、AB5型水素吸蔵合金の水素吸蔵量(H/M)が、0.85〜1.00とすることにより充放電容量を確保すること、平衡圧力を0.040〜0.070MPaとして初期活性化しやすくすること、PCT曲線におけるプラトー域をなるべく広くすることを考慮したためである。
前記、水素吸蔵合金において、粉砕で得られた100μmの合金粒子断面の単結晶相をナノインデンターで測定したときに得られるヤング率が120GPa以上127GPa以下であることが好ましい。
また、水素吸蔵合金は鋳込み時、結晶成長するが、その合金断面のEBSD観察によるグレインサイズをみると、自由面に対して比較的グレインサイズが小さくなる冷却面であっても平均134μmとなる。水素吸蔵合金の機械的粉砕により得られた粒子は粒界から優先して割れるため、得られた100μm程度の粒子であればほぼ単結晶となっている。この粒子を樹脂包埋し、研磨により得られた100μmの粒子断面の中心部であれば、単結晶相を選択していることになるので、ナノインデンテーションによるヤング率測定はこの部分で測定を行う。
前記、水素吸蔵合金において、水素吸蔵量(H/M)が0.85〜1.00であり、かつ微粉化難度が0.50〜0.60、平衡圧力が0.040〜0.070MPaである。
ここで、微粉化難度とは、「保持温度45℃および水素圧力調整1.82MPaの環境下における水素の吸蔵放出サイクル10回後の水素吸蔵合金粉末の粒度(D50)」を「水素吸蔵合金粉末の初期粒度(D50)」で除した値である。また、平衡圧力は、測定温度45℃水素放出側のH/M=0.5における平衡水素圧力(MPa)のことである。
微粉化難度を0.50〜0.60とした理由は、高すぎると初期活性化し難く、反対に低すぎると、電池の寿命特性が確保されないためである。微粉化難度は水素吸蔵量(H/M)と相間があり、H/Mが多いほど微粉化難度は低め、H/Mが少ないほど微粉化難度は高めになる傾向がある。またH/Mを0.85〜1.00とした理由は、ニッケル水素電池用負極を作製したときに、目標の充放電容量を確保するためである。
本発明の水素吸蔵合金粉末は、上述のCaCu5型結晶構造を有する水素吸蔵合金であって、前記合金粒子断面の単結晶相をナノインデンターで測定したときに得られるヤング率が120GPa以上127GPa以下とすることができる製造方法であれば、どのような方法でもよく、例えば、真空溶融炉や大気溶融炉による溶解法、気相合成法、アーク溶融法、プラズマ溶解法、等で製造できる。前記製造した合金を熱処理したり、粉砕したりしてもよい。
前記製造方法の1例として、秤量工程、混合工程、鋳造工程、熱処理工程、冷却工程および粉砕工程を経て製造する場合を説明する。秤量工程では、所望の合金組成となるように水素吸蔵合金の各原料を秤量する。混合工程では、秤量された複数種類の原料を混合する。鋳造工程において、高周波加熱溶解炉に混合原料を投入し、混合原料を溶解させて溶湯とし所定時間保持した後、この溶湯を鋳型に流し込んで鋳造する。鋳造時の溶湯温度は合金組成にもよるが、例えば、1150℃〜1550℃の範囲の温度(鋳造温度=鋳造開始時の坩堝内溶湯温度)である。この工程は複数種類の原料を完全に混合することを目的にしているが合金が固化するときの体積収縮による内部歪が発生する。この内部歪を極力減らすために合金の鋳込み厚さは35mm以上とし、500℃以下まで冷却される時間を10分以上とすると良い。この鋳込み厚さとすることで合金がゆっくり固まり、内部歪を減らすことが出来る。この時、鋳込んだ合金のヤング率は50GPa以上、110GPa以下となる。
鋳造後の合金は、前述した内部歪を取り去るため熱処理を行う。必要であれば、熱処理工程において非酸化雰囲気下で熱処理してもよい。熱処理温度は、完全に歪を取り除く目的で合金組成に合わせて決められるが、例えば、1060℃〜1150℃とすればよい。
熱処理温度は融点より若干低い温度が好ましいが、低すぎても熱処理時に組織が均質化されず、また、高すぎる温度の場合には偏析相が出現するため、局部的な組成ずれが起こる。結晶組織の均質化や局部的な組成ずれは合金の強直性に影響し、これがヤング率の低下に影響する。これを防ぐため今回の組成範囲では1060℃〜1150℃が好ましい。
また、熱処理時間は、鋳造後のインゴット(水素吸蔵合金片)の大きさにもよるが、例えば、8時間から13時間である。熱処理は組織の均質性に影響する工程であり、この時間が短いと十分な結晶組織の均質性が得られず、このその局部的な均質性の低下が合金の強直性に影響し、ヤング率の低下につながる。
冷却工程では、熱処理された鋳造物が冷却される。冷却方法は、放冷でも強制冷却することもできる。
冷却速度は、合金組成に合わせて必要な合金特性を得るために適宜設定する方がよい。
この工程によりヤング率は120GPa以上127GPa以下となる。
次工程である粉砕工程では、鋳造した合金又は更に熱処理した合金塊を、粗粉砕、微粉砕等により必要な粒度の水素吸蔵合金粉末にする。例えば、500μmの篩目を通過するサイズまで粉砕して水素吸蔵合金粉末とする。
以上のような製造方法では、合金のヤング率は、合金組成、溶湯保持温度・時間、鋳造温度、鋳造した合金の熱処理温度・時間・冷却速度、等を適宜調整することができる。例えば、合金組成においての一例としては、CaCu5型の結晶構造における[Cu]/[Ca]比(ABxのx値)を増加するとヤング率を大きくすることができる。
このようにして得られた水素吸蔵合金粉末は、PCT(水素圧−組成−等温線図)特性評価装置によって、水素吸蔵量(H/M)、平衡圧力を測定する。
本発明におけるナノインデンターによるヤング率測定について説明する。
水素吸蔵合金の直径40から200μmの粉砕粉をナノインデンター観察用に、樹脂に包埋、鏡面研磨し、直径31から32mm、高さ34mm以下となるように調整する。樹脂包埋、研磨の方法であるが、例えば、丸本ストリアス株式会社製の樹脂(#105)80mLと硬化剤(M剤)1.2mLを包埋用の樹脂として用いる。また、樹脂包埋用に用いる容器はStrier製のSeriFormの直径30mm品を用いる。自動研磨装置としてリファインテック株式会社製リファイン・ポリッシャーHVにAMO−210を組み込んだ装置を使用した。条件として樹脂の表面状態に合わせて耐水ペーパー600番から800、1000、2000番まで200N、300rpmでそれぞれ3分程度研磨する。その後、アルミナ1μmとアルミナ0.05μmを100N、200rpmでそれぞれ2分程度研磨し、仕上げとしてバフのみで100N、200rpm、30秒程度仕上げの研磨を行う。この後、国際規格ISO14577に則った方法、具体的には、Nanomechanics社製iMicoro型ナノインデンターに、InForce50ヘッドを装着し、連続剛性測定法(CSM/CSR)により、測点点数として粒子当たり5点、押し込み試験5点、最大押し込み荷重50mN、ヤング率算出深さ30〜40nmでヤング率を測定する。この時、巣や欠落箇所の無い平坦な面を選択して観察することが望ましい。
水素吸蔵合金は鋳込み時、結晶成長するが、その合金断面のEBSD観察によるグレインサイズをみると、自由面に対して比較的グレインサイズが小さくなる冷却面であっても平均134μmとなる。水素吸蔵合金の機械的粉砕により得られた粒子は粒界から優先して割れるため、得られた100μm程度の粒子であればほぼ単結晶となっている。この粒子を樹脂包埋し、研磨により得られた100μmの粒子断面の中心部であれば、単結晶相を選択していることになるので、ナノインデンテーションによるヤング率測定はこの部分で測定を行う(図1(b)参照)。
本発明における微粉化難度の測定方法について説明する。
PCT(水素圧-組成-等温線図)特性はJIS H 7201「水素吸蔵合金の圧力-等温線(PCT線)の測定法」に準じた市販の評価装置具、例えば、株式会社鈴木商館で販売されているPCT特性測定装置とSUS316製、外形12.7mm、長さ91mmのサンプルホルダーを用い、試料5gの測定からより得られた「保持温度45℃および水素圧力調整1.82MPaの環境下における水素の吸蔵放出サイクル10回後の水素吸蔵合金粉末の粒度(D50)」を「水素吸蔵合金粉末の初期粒度(D50)」で除した値を、微粉化難度として指標化した。
以下、本発明の実施例に基づいて説明する。なお、本発明は実施例に限定されるものはない。
(実施例1−4)
MmとしてLaとCe、Ni、Mn、Al、Coの各金属原料を、表1に示した最終的な製品の合金組成となるように秤量した。
それらの原料を高周波溶解炉内のアルミナルツボに入れて27Paまで真空排気した後、アルゴンガスを導入してアルゴンガスの雰囲気とした。
次いで高周波加熱装置で加熱溶解し、溶湯を1550〜1600℃、 20〜30分間の範囲で保持した後、1300〜1400℃の温度範囲の溶湯を水冷鉄鋳型に流し込んで鋳造を行った。この時の鋳込み厚さは40mmであった。
次に鋳込んだ合金を塊状に粉砕後、ステンレス製の容器に入れ、アルゴン雰囲気下1100℃で12.5時間の熱処理を行った。
ついで、熱処理後の900℃付近から500℃付近まで4.45℃/minの冷却速度で降温し、ついで、100℃まで1℃/minの冷却速度で降温させた。
得られた合金は、アルゴンガス雰囲気下でクラッシャーにより粗粉砕し、続いて、不活性雰囲気下でカッティングミルを用いて粉砕し、続いて篩目500μmを通過する粒子サイズ(500μm以下)とした。
以上のようにして、表1に実施例1〜4として示す水素吸蔵合金粉末を作製した。
なお、表1には、熱処理条件も併記した。
(PCT特性の測定)
得られた水素吸蔵合金粉末について、PCT特性評価装置により、水素吸蔵量(H/M)、平衡圧力を測定した。その結果を表2に示す。
(微粉化難度の測定)
PCT特性評価装置を用いて、微粉化難度を測定した。その結果を表2に示す。
(ナノインデンテーション法によるヤング率の測定)
上記のようにして作製した水素吸蔵合金粉末を、直径31mm、高さ30mmとなるよう樹脂包埋、鏡面研磨した試料をナノインデンター(Nanomechanics社iMicro型ナノインデンター、InForce50ヘッド使用)を用い、連続剛性測定法(CSM/CSR)により、測点点数として粒子当たり5点、押し込み試験5点、最大押し込み荷重50mN、ヤング率算出深さ30〜40nmでヤング率の測定を行った。その結果を図2、表2に示す。
水素吸蔵合金は鋳込み時、結晶成長するが、その合金断面のEBSD観察によるグレインサイズをみると、自由面に対して比較的グレインサイズが小さくなる冷却面であっても100〜200μm程度となる。水素吸蔵合金の機械的粉砕により得られた粒子は粒界から優先して割れるため、得られた100μm程度の粒子であればほぼ単結晶となっている。この粒子を樹脂包埋し、研磨により得られた100μmの粒子断面の中心部であれば、単結晶相を選択していることになるので、ナノインデンテーションによるヤング率測定はこの部分で測定を行う(図1(b)参照)。
(比較例1)
組成を表1の比較例1とした以外は、実施例と同じ方法で水素吸蔵合金を作製した。
(比較例2)
表1の比較例2の組成で熱処理時間を5時間とした以外は、実施例と同じ方法で水素吸蔵合金を作製した。
(比較例3)
表1の比較例3の組成で熱処理温度を1050℃とした以外は、実施例と同じ方法で水素吸蔵合金を作製した。
(比較例4)
表1の比較例4の組成で900から500℃までの冷却速度を10℃/minで降温した以外は、実施例と同じ方法で水素吸蔵合金を作製した。
上記比較例1〜4についても、実施例と同様な方法で、水素吸蔵量(H/M)、平衡圧力、微粉化難度、ヤング率を測定した。その結果を表2に示す。
Figure 0006948441
Figure 0006948441


表2、図2から、ヤング率は微粉化難度と相関があることが解かる。本発明の水素吸蔵合金は、比較例(従来)の水素吸蔵合金に比較してヤング率が120GPa以上と高いため微粉化難度が高い結果を示した。更に、H/Mが、0.92以上と比較的高く、平衡圧力も比較的低めであることが確認できた。
このことから、本発明の水素吸蔵合金は、Co含有量が少なく原料コストが低く、初期特性に優れ、微粉化難度に優れ、寿命特性に優れ、ニッケル水素電池用負極に好適な合金であることが確認できた。

Claims (4)

  1. 一般式MmNiMnAlCo(式中、Mmはミッシュメタルであり、4.30≦a≦4.70、0.25≦b≦0.45、0.35≦c≦0.45、0≦d≦0.14(ただし、0≦d≦0.06の範囲を除く)、5.20≦a+b+c+d≦5.50)で表され、CaCu5型結晶構造を有する水素吸蔵合金粉末であって、
    前記Mmは、LaおよびCeの合計が、Mm全質量に対して90質量%以上100質量%以下の範囲内であり、前記水素吸蔵合金粉末の粒子断面の単結晶相をナノインデンターで測定したときに得られるヤング率が120GPa以上127GPa以下であることを特徴とする水素吸蔵合金粉末
  2. 水素吸蔵量(H/M)が0.85以上1.00以下、かつ、微粉化難度が0.50以上0.60以下であり、平衡圧力が0.040MPa以上0.070MPa以下であることを特徴とする請求項に記載の水素吸蔵合金粉末。
  3. 請求項1又は2に記載の水素吸蔵合金粉末を負極活物質としたことを特徴とする負極。
  4. 請求項に記載の負極を用いたことを特徴とする電池。
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