本発明の実施形態の一例としての測位装置10について、図を用いて説明する。図1は、本実施形態の測位装置10を含む衛星測位システム100の概略的な構成を示す図である。衛星測位システム100は、全球測位衛星システム(以降、GNSS:Global Navigation Satellite System)を援用してなるシステムである。衛星測位システム100は、測位装置10が複数の測位衛星20のそれぞれから送信されてくる測位信号を用いて現在位置を算出するシステムである。衛星測位システム100は、図1に示すように、測位装置10の他に、複数の測位衛星20や、中央生成局30、地方生成局40、準天頂衛星50を備える。
なお、本実施形態では、GNSSとしてGPS(Global Positioning System)を想定して以下の構成を説明するが、これに限らない。GNSSとしては、GPSの他に、Galileo、GLONASS、BeiDou等がある。衛星測位システム100は、GLONASSなどであっても良い。また、衛星測位システム100は、複数種類のGNSSを組み合わせたシステムであっても良い。例えば測位装置10は、GPSを構成する測位衛星20から送信される測位信号と、GLONASSを構成する測位衛星20から送信される測位信号の両方を用いて測位演算処理を実施するものであっても良い。
測位装置10は、概略的に、複数の測位衛星20や準天頂衛星50から送信される測位信号を受信することによって現在位置を逐次する装置である。測位装置10は、車両Hvに搭載されており、測位装置10の測位結果(つまり現在位置情報)は、例えば自動運転や経路案内等の所定のアプリケーションソフトウェア(以降、アプリ)を実行する装置で利用される。
なお、本実施形態において車両Hvは、四輪自動車とするが、これに限らない。各車両は二輪自動車や三輪自動車等であってもよい。二輪自動車は原動機付き自転車を含んでもよい。また、測位装置10は車両以外に搭載されていても良い。例えば測位装置10は、スマートフォンやタブレット端末、ウェアラブル端末などといった、ユーザによって携帯される通信端末(以降、携帯端末)に搭載されていても良い。
測位衛星20は、GPSを構成する人工衛星(具体的にはGPS衛星)であって、地球の周りに設定された所定の衛星軌道上を、所定の軌道周期(例えば12時間)で周回する。なお、図1では図の簡略化のため複数の測位衛星20のうち2つを示している。衛星測位システム100全体としては多数(例えば20機以上)の測位衛星20を備える。
測位衛星20は、送信時刻等を示すデータを、測位衛星20毎に固有のC/Aコードを用いて位相変調した信号(以降、測位信号)を逐次(例えば50ミリ秒毎に)送信する。測位信号は、送信時刻の他に、例えば、衛星時計の誤差を示すデータや、衛星自身の現在位置を示すエフェメリスデータ、全測位衛星の概略的な軌道情報を示すアルマナックデータなどを示す。種々のデータは順次送信される。C/Aコードは測位衛星20毎に固有であるため、C/Aコードは、送信元を示す情報として機能する。便宜上、測位装置10が測位信号を受信できている測位衛星20のことを、捕捉衛星とも記載する。
中央生成局30は、測位装置10での測位精度を高めるための各測位衛星20に関する世界中で共通して使用可能な補正情報であるグローバル補正情報を生成するセンターである。中央生成局30は地上に設置されている。グローバル補正情報とは、例えば、測位衛星20の精密な位置(いわゆる精密衛星座標)や、衛星時計の誤差(いわゆるクロック誤差)、搬送波位相バイアス(FCB:Fractional cycle bias)などである。
グローバル補正情報は、測位衛星20単位で生成される。或る測位衛星20についてのグローバル補正情報を示す配信用のデータ(以降、グローバル補正情報パケット)は、例えば図2に示すように、対象とする測位衛星20を示す対象衛星番号や、当該グローバル補正情報の生成時刻、精密衛星座標、時計誤差、位相バイアスなどの項目を備えているものとする。対象衛星番号は、複数の測位衛星20のそれぞれを区別するための情報であって、例えば、PRN(Pseudo Random Noise)IDとすればよい。なお、精密衛星座標、時計誤差、位相バイアスなど(いわゆる衛星暦補正量)が、実体的にグローバル補正情報として機能する情報である。
中央生成局30は、生成した測位衛星毎のグローバル補正情報(具体的にはグローバル補正情報パケット)を、広域通信網等の地上回線を介して地方生成局40や測位装置10に順次配信する。なお、ここでの広域通信網とは携帯電話網やインターネット等の、電気通信事業者によって提供される公衆通信ネットワークを指す。
なお、中央生成局30が生成したグローバル補正情報は、広域通信網以外にも、路側機を用いた狭域無線通信(いわゆる路車間通信)によって測位装置10に配信されても良いし、例えばデジタルラジオ放送等で使用される所定の周波数の電波を用いて放送されてもよい。路車間通信や放送波等といった、衛星回線以外の配信手段が地上回線に該当する。
また、中央生成局30は、測位衛星20毎のグローバル補正情報を準天頂衛星50にも送信する。準天頂衛星50は後述するように、測位衛星20毎のグローバル補正情報を所定の周波数帯の電波を用いて(つまり衛星回線によって)順次配信する。すなわち、測位衛星20毎のグローバル補正情報は衛星回線によっても順次配信される。
地方生成局40は、測位衛星20から送信される測位信号の受信状況に基づいて、地方生成局40の設置地点を基準として定まる特定の地域(以降、サービスエリア)において有効な補正情報であるローカル補正情報を生成し、広域無線通信網等を介して測位装置10に配信する設備である。地方生成局40は地上に設置されている。地方生成局40は例えば、地方生成局40の周りに配置された衛星電波モニタ局が測位信号を受信することによって生成する観測データを収集し、その収集した観測データに基づいてローカル補正情報を生成する。なお、地方生成局40自身もまた測位演算処理を実施する機能を備える。地方生成局40は、図1では1つしか図示していないが、システム全体としては複数存在しうる。
地方生成局40が生成するローカル補正情報は、換言すれば、地方生成局40の上空の大気の由来する誤差成分(つまり地域特有の誤差成分)を補正(換言すれば抑制)するための情報である。ローカル補正情報とは、例えば電離層補正量や対流圏補正量である。電離層補正量は、例えば電離層の厚みに応じて生じる擬似距離や搬送波位相の誤差といった、電離層での遅延の影響を補正するパラメータである。対流圏補正量は、対流圏での遅延の影響(例えば擬似距離や搬送波位相の誤差)を補正するパラメータである。
ローカル補正情報もまたグローバル補正情報と同様に、測位衛星20単位で生成される。或る測位衛星20についてのローカル補正情報を示す配信用のデータ(以降、ローカル補正情報パケット)は、例えば図3に示すように、対象衛星番号や、当該ローカル補正情報の生成時刻、生成地点座標、生成局座標偏差、電離層補正量、対流圏補正量などの項目を備えているものとする。ローカル補正情報パケットが備える種々の情報のうち、電離層補正量、対流圏補正量など(いわゆる大気補正量)が実体的にローカル補正情報として機能する情報である。
生成地点座標は、当該ローカル補正情報を生成した地方生成局40の位置座標である。なお、生成地点座標は、地方生成局40が測位演算処理を逐次(例えば100ミリ秒ごとに)実施することで決定されれば良い。生成局座標偏差は、地方生成局40自身が測位演算処理を実施した結果として定まる地方生成局40の位置座標の一定時間(例えば10秒)当りのばらつきを示すパラメータである。例えば生成局座標偏差は、現時点から過去一定時間以内における地方生成局40の測位演算処理の結果を母集団とする標準偏差とすれば良い。勿論、標準偏差以外にも、統計学においてデータのばらつき度合いを示す他の指標(例えば分散等)を生成局座標偏差として採用することができる。
生成時刻や、生成地点座標、生成局座標偏差などの情報は、別途後述するように、測位装置10にとって当該ローカル補正情報がどれくらい信頼できる情報であるかを示す判断するための情報として機能する。
地方生成局40は、生成した測位衛星毎のローカル補正情報(具体的にはローカル補正情報パケット)を、例えば広域無線通信網等の地上回線を介して測位装置10に順次配信する。また、地方生成局40は、測位衛星20毎のローカル補正情報を衛星回線を用いて準天頂衛星50にも送信する。準天頂衛星50は後述するように、測位衛星20毎のローカル補正情報を衛星回線によって順次配信する。すなわち、測位衛星20毎のローカル補正情報もまた衛星回線によって順次配信される。
なお、以上で述べたグローバル補正情報及びローカル補正情報が何れも、測位衛星20から送信される測位信号を用いた測位を高精度化するための情報、すなわち補正情報に相当する。そのため、グローバル補正情報とローカル補正情報とを区別しない場合には補正情報と記載する。
準天頂衛星50は、準天頂衛星システム(QZSS :Quasi-Zenith Satellite System)を構成する人工衛星である。準天頂衛星50は、測位装置10が使用される地域を含む、特定の地域の上空に長時間とどまる軌道(いわゆる準天頂軌道)を周回している。なお、図1においては準天頂衛星50を1つしか図示していないが、複数存在しても良い。
準天頂衛星50は、例えばGPSと一体運用可能に構成されており、測位衛星20としてのGPS衛星が送信する測位信号と同様の測位信号を逐次送信する。また、準天頂衛星50は、衛星回線を用いて所定の測位衛星20についての補正情報を所定の周期で同報送信する。準天頂衛星50が送信する補正情報は、中央生成局30や地方生成局40で生成されて送信されてきたものである。補正情報は、周知のSBAS補強メッセージが示す情報と同様とすることができる。
このように準天頂衛星50は、測位衛星20として機能するとともに、補正情報を配信装置としての役割を担う人工衛星である。準天頂衛星50は測位衛星20として作動するため、以降に記載する測位衛星20には、特別の注釈をしていない場合には、準天頂衛星50も含まれるものとする。
なお、本実施形態では衛星測位システム100が準天頂衛星50を備える態様を開示するが、準天頂衛星50は備えていなくとも良い。また、準天頂衛星50の代わりに、補正情報は配信する一方、測位信号は送信しない人工衛星を備えていても良い。
<測位装置10の構成>
次に図4等を用いて測位装置10の構成について説明する。図4に示すよう測位装置10は、制御部11、衛星回線受信部12、地上回線受信部13、及び測位信号受信部14を備える。また、測位装置10は、車両内に構築されている通信ネットワーク(以降、LAN:Local Area Network)を介して、自動運転ECU90と双方向通信可能に接続されている。なお、部材名称中のECUは、Electronic Control Unitの略であり、電子制御装置を意味する。
自動運転ECU90は、所定の走行計画に沿って車両Hvが走行するように、運転席乗員の代わりに車両Hvの操舵、加速、減速等を自動で実施する機能(すなわち自動運転機能)を提供するECUである。自動運転ECU90は、コンピュータを主体に構成されている。自動運転ECU90は、測位装置10から提供される車両Hvの現在位置情報に基づいて車両Hvを自動走行させる処理を実施する。車両Hvの走行を自動で実施する方法については周知の方法が採用されれば良い。ここではその詳細な説明は省略する。なお、ここでは、一例として測位結果としての位置情報は自動運転機能を提供するアプリケーションに供されるが、測位結果の出力先(換言すれば受け手)はこれに限らない。測位装置10が逐次特定する現在位置情報は、種々のアプリケーションで利用可能である。
測位装置10を構成する1つの要素である制御部11は、コンピュータとして構成されている。すなわち、制御部11は、種々の演算処理を実行するCPU、不揮発性のメモリであるフラッシュメモリ、揮発性のメモリであるRAM、I/O、及びこれらの構成を接続するバスラインなどを備える。CPUは例えばマイクロプロセッサ等を用いて実現されればよい。CPUの代わりにMPUが用いられていても良い。なお、I/Oは、制御部11が外部装置(例えば自動運転ECU90)とデータの入出力をするためのインターフェースである。I/Oは、ICやデジタル回路素子、アナログ回路素子などを用いて実現されればよい。
フラッシュメモリには、通常のコンピュータを制御部11として機能させるためのプログラム(以降、測位プログラム)が格納されている。なお、上述の測位プログラムは、非遷移的実体的記録媒体(non- transitory tangible storage medium)に格納されていればよく、その具体的な格納媒体は、フラッシュメモリに限らない。CPUが測位プログラムを実行することは、測位プログラムに対応する方法が実行されることに相当する。制御部11は、CPUが測位プログラムを実行することで発揮される機能については別途後述する。
衛星回線受信部12は、衛星回線で送信されてくるグローバル補正情報やローカル補正情報(つまり補正情報)を受信する通信モジュールである。衛星回線受信部12は、衛星回線を実現する周波数帯の電波を受信するためのアンテナ(以降、衛星回線用アンテナ)や、衛星回線用アンテナから出力される信号を増幅したり復調したりするための回路モジュールを用いて実現されている。
地上回線受信部13は、地上回線で送信される補正情報を受信する通信モジュールである。地上回線受信部13は、地上回線を実現する周波数帯の電波を受信するためのアンテナ(以降、地上回線用アンテナ)や、地上回線用アンテナから出力される信号を増幅したり復調したりするための回路モジュールを用いて実現されている。なお、地上回線を提供するシステムが複数種類存在する場合には、各システムに対応する地上回線受信部13を備えていれば良い。例えば地上回線を提供するシステムとして、路車間通信で補正情報を配信するシステムと、広域無線通信によって補正情報を配信するシステムとが存在する場合には、地上回線受信部13として、路車間通信用の通信モジュールと、広域無線通信用の通信モジュールと、を備えていればよい。
測位信号受信部14は、測位衛星20から送信される測位信号を受信して、当該受信信号から定まる送信元の測位衛星20についての観測データを制御部11に提供する構成である。測位信号受信部14は、測位信号を受信するための測位用アンテナや、受信信号をベースバンド帯の信号に変換するための周波数変換回路などを備えている。
観測データは、受信した測位信号から定まる捕捉衛星についてのデータである。ここでは一例として、測位信号受信部14は、観測データとして、衛星番号、観測時刻、ドップラーシフト量、衛星座標、擬似距離、搬送波位相等を示すデータを生成して出力するものとする。観測時刻は当該観測データを生成するための測位信号を受信した時刻とすればよい。ドップラーシフト量は、ドップラー効果によって生じる搬送波周波数と受信周波数の差を表すパラメータである。衛星座標は、測位衛星20の衛星軌道上における現在位置を示す情報である。擬似距離は、測位信号が測位衛星20から送信された時刻(以降、送信時刻)と測位信号受信部14で受信された時刻(以降、受信時刻)の差から定まる距離である。なお、送信時刻と受信時刻の差は、C/Aコードの位相のずれ量に基づいて算出されればよい。
なお、観測データとしては上述した全ての情報を含んでいる必要はなく、観測データが含むべき具体的な項目は適宜設計されれば良い。また、観測データには、アルマナックデータや、衛星座標の算出に用いたエフェメリスデータ等が含まれていても良い。観測データは、測位演算処理に必要な情報を含んでいればよい。
測位信号受信部14は、測位用アンテナで受信した測位信号に基づいて、衛星測位システム100が備える複数の測位衛星20のうち、測位信号を受信できている測位衛星20(つまり捕捉衛星)を特定する。また、測位信号受信部14は、測位信号を受信する度に、その測位信号から定まる観測データを生成する。そして、所定の周期(例えば50ミリ秒〜200ミリ秒ごとに)、捕捉衛星ごとの観測データを制御部11に出力する。
<制御部11の機能について>
制御部11は、CPUが測位プログラムを実行することで図4に示す種々の機能を提供する。すなわち、制御部11は機能ブロックとして、統合保存処理部F1、及び、測位演算部F2を備える。また、制御部11は、図示しない書き換え可能な記憶媒体を用いて実現される構成として、補正情報記憶部M1を備える。補正情報記憶部M1は、衛星回線受信部12や地上回線受信部13から提供される補正情報を保存する記憶領域である。補正情報記憶部M1の記憶内容は、統合保存処理部F1によって管理(すなわち追加、削除等)される。
なお、上述した機能ブロックの一部又は全部は、ハードウェアとして実現されてもよい。ハードウェアとして実現する態様には、一つ或いは複数のIC等を用いて実現する態様も含まれる。さらに、上記の機能ブロックの一部又は全部は、CPUによるソフトウェアの実行とハードウェア部材の協働によって実現されてもよい。
統合保存処理部F1は、衛星回線受信部12が受信した測位衛星20毎の補正情報と、地上回線受信部13が受信した測位衛星20毎の補正情報とを統合(換言すれば統括)して、補正情報記憶部M1に保存する処理を実施する構成である。統合保存処理部F1は、図5に示すようにローカル補正情報と、グローバル補正情報とを区別して(すなわち情報種別で区別して)保存する。測位衛星20毎のグローバル補正情報は、例えば衛星番号順にソートされたリスト形式で保持されれば良い。測位衛星20毎のローカル補正情報も同様である。この統合保存処理部F1は、より細かい機能(つまりサブ機能)として、重複検査部F11、取得情報評価部F12、及び保存情報評価部F13を備える。
重複検査部F11は、衛星回線受信部12又は地上回線受信部13から補正情報が新たに入力された場合に、その新たな補正情報(以降、新規取得情報)と重複する補正情報が補正情報記憶部M1に保存されているか否かを検査(換言すれば判定)する構成である。新規取得情報と重複する保存済みの補正情報とは、新規取得情報が対象とする測位衛星20と同一の測位衛星20についての補正情報であって、種別も同一の補正情報である。
例えば新規取得情報として衛星番号がAの測位衛星20についてのグローバル補正情報が入力された場合、当該新規取得情報と内容が重複する補正情報とは、過去に取得した衛星番号がAの測位衛星20についてのグローバル補正情報である。すなわち、重複する補正情報であるかどうかは、対象衛星が同じであるか、情報の種別(より具体的には項目)が同じであるかによって判断される。
重複検査部F11は新規取得情報と内容が重複する補正情報を発見した場合には、その旨を取得情報評価部F12及び保存情報評価部F13に通知する。重複検査部F11は、新規取得情報と重複する補正情報を発見しなかった場合には、当該新規取得情報を、その種別に応じた記憶領域へと保存する。また、新規取得情報がローカル補正情報であり且つ重複する補正情報が存在しなかった場合には、当該新規取得情報としてのローカル補正情報を、ローカル補正情報リストに追加する。
なお、重複検査部F11は、上記以外の処理として、有効期限切れの補正情報を補正情報記憶部M1から削除する処理を実施する。補正情報の有効期間は、生成時刻を起算時点として設定される。有効期間の長さは、補正情報の種別に応じて異なる。例えばローカル補正情報に対する有効期間TxRは、グローバル補正情報の有効期間TxGよりも長い値に設定される。より具体的には、電離層等の大気の影響は1時間程度は略一定と見なすことができるため、ローカル補正情報の有効期間TxRは1時間とする。また、各測位衛星20は常に動き続ける存在であるため、グローバル補正情報の有効期間TxGは1分とする。故に、重複検査部F11は、生成時刻から有効期間TxR以上経過しているローカル補正情報については補正情報記憶部M1から削除する。また、重複検査部F11は、生成時刻から有効期間TxG以上経過しているグローバル補正情報については補正情報記憶部M1から削除する。
なお、ローカル補正情報の有効期間TxRの具体的な値は適宜設計されればよく、その値は1時間に限らない。30分や、2時間などであっても良い。なお、有効期間TxRは、電離層や対流圏の影響度合いが変化する速度(換言すれば大気の状態が変化する速度)に応じて設定されることが好ましい。具体的には、電離層や対流圏の影響度合いが変化する速度が大きいほど、有効期間TxRは短い値に設定されることが好ましい。グローバル補正情報の有効期間TxGの具体的な値もまた適宜設計されればよい。その具体的な値は1分に限らない。30秒や、2分などであってもよい。グローバル補正情報の有効期間TxGは、高精度な測位演算を実施するために使用する測位衛星20の位置情報として許容される誤差(換言すれば精度)に応じた値に設定されることが好ましい。
取得情報評価部F12は、重複検査部F11によって新規取得情報と重複する補正情報が発見された場合に、新規取得情報としての補正情報の信頼度Rを評価(具体的には算出)する構成である。取得情報評価部F12は、新規取得情報の種別に応じた評価式を用いて信頼度Rを算出する。すなわち、新規取得情報の種別に応じて評価方法は異なる。
具体的には、評価対象とする補正情報(つまり新規取得情報)がグローバル補正情報である場合には、図6に示すように、生成時刻からの経過時間Tが所定の品質保持時間TwG以上となるまでは信頼度R1を最大値としての1に設定する。また、生成時刻からの経過時間Tが品質保持時間TwG以上となっている場合には、経過時間Tが長くなるにつれて信頼度R1をより低い値に設定する(つまり低下させていく)。ここでは一例として、生成時刻からの経過時間Tが有効期間TxGとなるタイミングで最小値としての0となるように、信頼度R1は、品質保持時間TwG以上となっている領域においては、直線的に単調減少させるものとする。すなわち、グローバル補正情報の信頼度R1は下記の式によって算出されるものとする。
(i)0<T≦TwG
Rg=1 …(式1)
(ii)TwG<T≦TxG
Rg=1−(T−TwG)/(TxG−TwG) …(式2)
なお、他の態様として信頼度R1は経過時間Tが大きくなるに連れて、曲線状又は階段状に減少していくように設計されていても良い。取得情報評価部F12は、グローバル補正情報に対する信頼度R1を生成時刻からの経過時間Tに応じて一意的に定めるように構成されていればよい。品質保持時間TwGは適宜設計されれば良く、例えば有効期間TxGの10分の1(すなわち6秒)などに設定されればよい。もちろん他の態様として、品質保持時間TwGは有効期間TxGの20分の1や、60分の1に相当する値に設定されていても良い。グローバル補正情報の信頼度R1とは、当該情報の新鮮さを示すものである。
また、取得情報評価部F12は、新規取得情報がローカル補正情報である場合には、式3として下記に示すように、信頼度R1は、3種類のパラメータα、β、γをかけ合わせた値とする。
R1=α×β×γ …(式3)
上記式におけるパラメータαは、生成時刻からの経過時間Tに応じて値が定まる変数パラメータ(以降、経時パラメータ)である。経時パラメータαは、最大値を1として、図7に示すように、生成時刻からの経過時間Tが長くなるにつれて値がより小さい値となるように設定される(つまり低下させていく)。具体的には、生成時刻からの経過時間Tが所定の品質保持時間TwR以上となるまでは値を最大値としての1に設定する。また、生成時刻からの経過時間Tが品質保持時間TwR以上となっている場合には、経過時間Tが有効期間TxRとなるタイミングで最小値としての0となるように、直線的に単調減少させていく。すなわち、経時パラメータαは下記の式によって算出されるものとする。
(i)0<T≦TwR
α=1 …(式4−1)
(ii)TwR<T≦TxR
α=1−(T−TwR)/(TxR−TwR) …(式4−2)
なお、本実施形態では有効期間TxRや品質保持時間TwR等の値は固定の値として測位プログラムに組み込まれているものとするが、これに限らない。他の態様として、地方生成局40は、有効期間TxR等の情報をローカル補正情報とともに配信し、測位装置10は当該地方生成局40から配信される有効期間TxR等を用いて経時パラメータαを算出するように構成されていても良い。つまり、地方生成局40は、品質保持時間TwRや有効期間TxRを示す情報を含むローカル補正情報パケットを配信するように構成されていても良い。そのような態様によれば、地方生成局40側で大気の状況に応じた有効期間TxR等を設定できるため、測位装置10はより一層正確な信頼度R1を算出できるようになる。例えば地方生成局40は、磁気嵐が発生していて電離層補正量の経時変動量が通常時に比べて大きい場合には、相対的に短い時間に設定した有効期間TxRを配信することができ、より適正な信頼度R1を算出させることができる。
また、上記式3におけるパラメータβは、新規取得情報を生成した地方生成局40から自装置までの距離Dに応じて値が定まる変数パラメータ(以降、距離パラメータ)である。新規取得情報を生成した地方生成局40の位置は、ローカル補正情報パケットにおいて生成地点座標として示されている座標を使用すればよい。また、自装置の現在位置は前時刻における測位演算結果等を使用すればよい。
取得情報評価部F12は、地方生成局40から自装置までの距離Dが長いほど、つまり、地方生成局40から自装置が離れているほど、距離パラメータβの値が小さい値に算出する。これは次の技術的思想による。前述の通り、ローカル補正情報は、地方生成局40の設置地点を基準として定まる特定の地域において有効な補正情報であるため、生成地点から離れるほど、その精度(換言すれば信頼性)は低下する。つまり、生成地点座標は、測位装置10が、当該ローカル補正情報がどれくらい信頼できる情報であるかを判断するための指標となる。
取得情報評価部F12は、上記の技術的思想に基づき、図8に示すように、地方生成局40から自装置までの距離Dが所定の品質保持距離Dw以上となるまではβ=1に設定する。また、距離Dが品質保持距離Dw以上となっている場合には、距離Dが所定の有効距離Dxとなるタイミングで最小値としての0となるように、直線的に単調減少させていく。
なお、有効距離Dxや品質保持距離Dwの具体的な値は、地方生成局40のサービスエリアの大きさに応じて適宜設計されれば良い。例えば有効距離Dxは地方生成局40のサービスエリア外となる距離(例えば200km)とすればよい。このような設定によれば自装置が地方生成局40のサービスエリア外に存在する場合には、当該地方生成局40からのローカル補正情報に対する信頼度R1を0に設定することができる。その結果、サービスエリア外に存在するにも関わらず、当該サービスエリア内で有効なローカル補正情報を使用して測位演算処理を実行する恐れを低減することができる。なお、品質保持距離Dwは、有効距離Dxよりも小さい範囲において適宜設計されれば良く、例えば品質保持距離Dwは、有効距離Dxの20分の1(つまり10km)や、10分の1、5分の1等に相当する値に設定されれば良い。
なお、本実施形態では品質保持距離Dwや有効距離Dx等の値は固定の値として測位プログラムに組み込まれているものとするが、これに限らない。他の態様として、地方生成局40は、有効距離Dx等の情報をローカル補正情報とともに配信し、測位装置10は当該地方生成局40から配信される有効距離Dxを用いて距離パラメータβを算出するように構成されていても良い。つまり、地方生成局40は、品質保持距離Dwや有効距離Dxを示す情報を含むローカル補正情報パケットを配信するように構成されていても良い。そのような態様によれば、地方生成局40側で大気の状況に応じて有効距離Dx等を制御できるため、測位装置10でもより一層正確な信頼度R1を算出できるようになる。
さらに、上記式3におけるパラメータγは、新規取得情報に示される生成局座標偏差σに応じて値が定まる変数パラメータ(以降、偏差パラメータ)である。取得情報評価部F12は、生成局座標偏差σが大きいほど、偏差パラメータβの値を小さい値に設定する。これは次の技術的思想による。
前述の通り、生成局座標偏差σは、過去一定時間での地方生成局40での測位結果のばらつき度合いを示すパラメータである。そのため、生成局座標偏差σが相対的に大きいということは、地方生成局40での測位結果のばらつきが大きく、電離層や対流圏に由来する誤差成分を正確に特定できていない恐れを高いことを意味する。つまり、生成極座標偏差もまた、測位装置10が、当該ローカル補正情報がどれくらい信頼できる情報であるかを判断するための指標となる。
取得情報評価部F12は、上記の技術的思想に基づき、図9に示すように、生成局座標偏差σが所定の品質保持偏差σw以下である場合にはγ=1に設定する。また、生成局座標偏差σが品質保持偏差σw以上となっている場合には、生成局座標偏差σが所定の有効偏差σxとなるタイミングで最小値としての0となるように、直線的に単調減少させていく。なお、α、β、γの最小値は0ではなく、0よりも大きく1よりも小さい所定の値(例えば0.1)に設定されていても良い。
ところで、取得情報評価部F12や保存情報評価部F13は、式3として示したように、上述した3つのパラメータα、β、γを掛け合わせることでローカル補正情報に対する信頼度R1を算出するため、仮に生成時刻からの経過時間Tが小さい事に由来して経時パラメータαが1に近い値であっても、信頼度R1が高い値となるとは限らない。距離パラメータβや、偏差パラメータγが相対的に小さい値となっている場合には、信頼度R1は小さい値に設定される。
保存情報評価部F13は、重複検査部F11によって新規取得情報と重複する補正情報(以降、保存済み重複情報)が発見された場合に、当該保存済み重複情報の信頼度R2を評価(具体的には算出)する構成である。なお、保存済み重複情報の信頼度R2を評価する方法自体は、取得情報評価部F12で説明した方法と同様であるため、詳細な説明は省略する。概略的には、保存済み重複情報の種別に応じた評価式を用いて、信頼度R2を算出する。便宜上、取得情報評価部F12が算出した信頼度R1と、保存情報評価部F13が算出した信頼度R2とを区別しない場合には、信頼度Rと記載する。
統合保存処理部F1は、取得情報評価部F12が算出した信頼度R1と、保存情報評価部F13が算出した信頼度R2とを比較して、信頼度Rが高い方の補正情報を補正情報記憶部M1に保存する。その際、信頼度Rが低い方の補正情報は破棄される。
なお、新規取得情報がローカル補正情報である場合、新規取得情報に対して設定される経時パラメータαは相対的に高い値となるが、必ずしも新規取得情報に対する信頼度R1が保存済み重複情報に対する信頼度R2よりも高くなるとは限らない。新規取得情報に対する距離パラメータβや、偏差パラメータγが相対的に小さい値となっている場合には、信頼度R1は信頼度R2よりも小さい値となり得るためである。例えば新規取得情報に対する(α,β,γ)が(1.0,0.7,0.4)であり、保存済み重複情報に対する(α,β,γ)が(0.5,0.8,1.0)である場合には、R1=0.28よりもR2=0.4のほうが高くなる。そのような場合、新規取得情報が破棄されて、保存済み重複情報が維持される。このように統合保存処理部F1は、新規取得情報がローカル補正情報であって、かつ、重複する情報が存在する場合には、情報が新しいかだけでなく、距離的な確からしさや、地方生成局40での電波の受信状況に基づいて、信頼度を評価して情報の取捨選択を行う。
測位演算部F2は、測位信号受信部14から観測データが入力された場合に、測位信号受信部14から入力された観測データと、補正情報記憶部M1に保存されている補正情報を用いて、測位演算処理を実施する。例えば測位演算部F2は、捕捉衛星のうち、少なくともグローバル補足情報を取得済みの捕捉衛星についての観測データを用いて測位演算処理を実施する。また、その中にローカル補正情報を取得できている捕捉衛星が存在する場合には、当該ローカル補正情報を適用して測位演算処理を実施する。
測位演算処理の具体的な方式としては例えば、PPP−AR(より具体的にはMADOCA−PPP)等を採用することができる。なお、PPPは、Precise Point Positioning(つまり単独搬送波位相測位)の略であり、ARは、Ambiguity Resolutionの略である。MADOCAは、Multi-gnss Advanced Demonstration tool for Orbit and Clock Analysisの略である。
測位演算処理の具体的な方法は、その他、DGPS等の周知の種々の方法を援用することができるため、ここではその詳細な説明は省略する。測位演算部F2による測位演算処理の結果(つまり測位結果)は、RAM等に保存されるとともに、自動運転ECU90に出力される。なお、測位演算処理は測位信号受信部14から観測データが入力される度に実行されれば良い。
<補正情報更新処理>
次に図10に示すフローチャートに基づき、衛星回線受信部12又は地上回線受信部13から補正情報が入力されたことをトリガとして統合保存処理部F1が実施する保存情報更新処理について説明する。保存情報更新処理は、補正情報記憶部M1に保存している情報を更新するための処理である。図10に示すフローチャートを構成する各ステップは主として統合保存処理部F1によって実行される。また、保存情報更新処理は、測位演算部F2による測位演算処理とは独立して実施される。
まずステップS101では重複検査部F11が、補正情報記憶部M1を参照し、新規取得情報と重複する補正情報が存在するか否かを判定する。補正情報記憶部M1内に新規取得情報と重複する補正情報が存在しない場合にはステップS101が否定判定されてステップS102に移る。ステップS102では新規取得情報を補正情報記憶部M1に追加保存して本フローを終了する。一方、補正情報記憶部M1内に新規取得情報と重複する補正情報が存在する場合にはステップS101が肯定判定されてステップS103に移る。
ステップS103では、取得情報評価部F12が新規取得情報に対する信頼度R1を算出するとともに、保存情報評価部F13が保存済み重複情報に対する信頼度R2を算出してステップS104に移る。ステップS104では統合保存処理部F1が、新規取得情報に対する信頼度R1のほうが保存済み重複情報に対する信頼度R2よりも高いか否かを判定する。
新規取得情報に対する信頼度R1のほうが保存済み重複情報に対する信頼度R2よりも高い場合にはステップS104が肯定判定されてステップS105に移る。一方、新規取得情報に対する信頼度R1のほうが保存済み重複情報に対する信頼度R2よりも高くない場合にはステップS104は否定判定されてステップS106に移る。
ステップS105では統合保存処理部F1が、補正情報記憶部M1内の保存済み重複情報を削除して、新規取得情報を保存する。つまり、保存済み重複情報を新規取得情報で置き換える。ステップS105での処理が完了したら本フローを終了する。ステップS106では、新規取得情報を破棄して本フローを終了する。
<実施形態の効果>
以上の統合保存処理部F1による補正情報の保存処理によれば、補正情報を衛星回線で取得したか、地上回線で取得したかを区別せずに補正情報記憶部M1に保存される。そして、測位演算部F2は、補正情報記憶部M1に保存されている補正情報を利用して測位演算処理を実施する。すなわち、種々の補正情報を、補正情報の取得経路で区別せずに取り扱う。
故に、仮に図11に示すように、衛星回線では或る3つの捕捉衛星(便宜上、捕捉衛星A、B、Cとする)についてのグローバル補正情報しか取得できておらず、地上回線では一部が異なる3つの捕捉衛星(便宜上、捕捉衛星B、C、Dとする)についてのグローバル補正情報しか取得できていない場合であっても、総合的にはグローバル補正情報を取得済みの捕捉衛星の数は4機に至る。なお、図11等に示す捕捉衛星A〜Gはいずれも測位信号を受信できている測位衛星20を表している。
ところで、特許文献1に開示の構成(以降、比較構成)では、衛星回線で取得した補正情報と、地上回線で取得したグローバル補正情報とを、それぞれ独立して取り扱う。そのため、例えば衛星回線では捕捉衛星A、B、Cの3つの捕捉衛星についてのグローバル補正情報しか取得できておらず、かつ、地上回線では捕捉衛星B、C、Dの3つの捕捉衛星について補正情報しか取得できていない場合には、2つの測位処理部のどちらも測位演算処理ができない場合がある。測位装置10の性能として、測位誤差を数m程度以下に抑えた測位結果が要求される場合、グローバル補正情報を未取得な測位衛星20についての観測データは、測位演算処理には利用できないためである。
対して、本実施形態によれば、上述の状況であっても、グローバル補正情報を取得済みの捕捉衛星の数は4機に至るため、測位誤差を数m程度以下に抑える測位(以降、準高精度測位)を実施可能である。このように本実施形態によれば準高精度測位を実施可能な状況を拡張することができる。換言すれば準高精度測位の実施率を高めることができる。
また、仮に衛星回線では捕捉衛星A、B、C、Fの4つの捕捉衛星についてのグローバル補正情報しか取得できておらず、地上回線では捕捉衛星B、C、D、Gの4つの捕捉衛星についてのグローバル補正情報しか取得できていない場合、比較構成では、各測位処理部において補正情報を適用可能な測位衛星20の数は必要最低限の数(つまり4機)ずつしか存在しない。故に、上記状況における比較構成の測位結果は必ずしも精度が良いとは限らない。
対して、本実施形態によれば、図12に示すように、衛星回線では捕捉衛星A、B、C、Fの4つの捕捉衛星についてのグローバル補正情報しか取得できておらず、地上回線では捕捉衛星B、C、D、Gの4つの捕捉衛星についてのグローバル補正情報しか取得できていない状況においても、総合的には、グローバル補正情報を取得済みの捕捉衛星の数は6機に至る。このように本実施形態の構成によれば、グローバル補正情報の利用効率を高めて、グローバル補正情報を用いた測位演算に利用可能な測位衛星20の数を増やすことができる。また、一般的に、測位演算処理に用いる測位衛星20の数は多いほど、測位精度は向上することが期待できる。故に、本実施形態の構成によれば、特許文献1に開示の構成に比べて測位精度を向上させることができる。
さらに、本実施形態では衛星回線や地上回線で同一の測位衛星20に対する(換言すれば重複する)グローバル補正情報を取得した場合には、相対的に信頼度Rが高い方の情報を残し、他方を破棄する。例えば図13に示すように地上回線で取得した捕捉衛星B、Cについてのグローバル補正情報よりも、衛星回線で取得した捕捉衛星B、Cについてのグローバル補正情報のほうが信頼度Rが高い場合には、衛星回線で取得した捕捉衛星B、Cについてのグローバル補正情報を補正情報記憶部M1に保存する。
このような制御態様によれば、最終的に補正情報記憶部M1に残る補正情報は相対的に品質が高い情報となるため、測位精度をより一層高めることができる。なお、上段落ではそれぞれ異なる回線で取得したグローバル補正情報の信頼度を比較する態様を例示したが、同じ種類の回線で同一衛星についてのグローバル補正情報を異なる時点で取得した場合も同様にそれぞれの信頼度Rを算出して取捨選択すればよい。
なお、図11〜図13ではグローバル補正情報を対象とした本実施形態の効果について述べたが、補正情報の種別がローカル補正情報である場合も同様の保存処理を行う。換言すれば、種々の捕捉衛星についてのローカル補正情報を、当該情報の取得経路で区別せずに取り扱う。故に、ローカル補正情報に対しても同様の効果が得られ、測位精度を向上させる。
例えば図14に示すように、衛星回線では或る捕捉衛星A、Bについてのローカル補正情報しか取得できておらず、地上回線では捕捉衛星B、C、Dについてのローカル補正情報しか取得できていない場合であっても、総合的にはローカル補正情報を取得済みの捕捉衛星の数は4機に至る。
一方、比較構成では、衛星回線で取得したローカル補正情報と、地上回線で取得したローカル補正情報とを、それぞれ独立して取り扱うため、上記のような状況では、2つの測位処理部のどちらも測位演算処理ができない場合がある。測位装置10の性能として、測位誤差を数cm程度に抑えた測位結果が要求される場合、ローカル補正情報を未取得な測位衛星20についての観測データは、測位演算処理には利用できないためである。
本実施形態によれば、上記の状況であってもローカル補正情報を取得済みの捕捉衛星の数は4機に至るため、測位誤差を数cm程度に抑えた測位(以降、高精度測位)を実施可能となる。このように本実施形態によれば、ローカル補正情報の利用効率を高めることができ、その結果として、高精度測位を実施可能な状況を拡張することができる。換言すれば高精度測位の実施率を高めることができる。
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、以降で述べる種々の変形例も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
なお、前述の実施形態で述べた部材と同一の機能を有する部材については、同一の符号を付し、その説明を省略する。また、構成の一部のみに言及している場合、他の部分については先に説明した実施形態の構成を適用することができる。
[変形例1]
上述した実施形態の測位演算部F2は、グローバル補正情報については必須とする一方、ローカル補正情報については任意の要素とする方式の測位演算処理を実施する。換言すれば、測位演算部F2の構成として、ローカル補正情報を取得できている捕捉衛星の数に関わらずに実行可能な1種類の測位方式によって測位演算処理を実施する態様を開示した。しかしながら、測位演算部F2の構成はこれに限らない。測位演算部F2は、ローカル補正情報を取得できている捕捉衛星の数に応じて、測位演算処理の方式を使い分けるように構成されていても良い。以下、そのような態様を変形例1として説明する。
変形例1の測位演算部F2は、前提として、ローカル補正情報を未取得な測位衛星20についての観測データは測位演算処理に利用できない方式である第1測位方式と、ローカル補正情報を未取得な測位衛星20についての観測データも、グローバル補正情報さえ取得済みであれば測位演算処理に利用可能な方式である第2測位方式と、の両方を実行可能に構成されているものとする。第1測位方式としては、例えばPPP−RTKと称される方式、より具体的にはセンチメータ級測位補強サービス(以降、CLAS:Centimeter Level. Augmentation Service)を用いる方式を採用することができる。第2測位方式としては例えば前述のMADOCA−PPPを採用することができる。なお、RTKは、Real-Time Kinematicの略である。
変形例1における測位演算部F2は、例えば図15に示すフローチャートに従って、測位演算処理を実施する。図15に示すフローチャートは、例えば測位信号受信部14から捕捉衛星毎の観測データが入力されたことをトリガとして開始されれば良い。なお、本変形例1の統合保存処理部F1は前述の実施形態と同様に作動しているものとする。図15に示すフローチャートの各ステップは測位演算部F2によって実施される。
まずステップS201では測位演算部F2が、補正情報記憶部M1を参照し、ローカル補正情報を取得できている捕捉衛星の数が十分であるか否かを判定する。なお、ローカル補正情報を取得できている捕捉衛星の数が十分であるか否かは、ローカル補正情報を取得できている捕捉衛星の数が所定の規定数(例えば5)以上となっているか否かによって判断されれば良い。
すなわち、ローカル補正情報を取得できている捕捉衛星の数が規定数以上である場合には、ローカル補正情報を取得できている捕捉衛星の数が十分であると判断してステップS202に移る。一方、ローカル補正情報を取得できている捕捉衛星の数が規定数未満である場合には、ローカル補正情報を取得できている捕捉衛星の数が十分ではないと判断してステップS203に移る。
ステップS202では、ローカル補正情報を必須とする測位方式(つまり第1測位方式)で測位演算処理を実施してステップS204に移る。すなわち、補正情報記憶部M1の保存されている各補正情報、及び、ローカル補正情報を取得できている捕捉衛星の観測データを用いてステップS203では、ローカル補正情報を任意の要素とする測位方式(つまり第2測位方式)で測位演算処理を実施してステップS204に移る。
ステップS204ではステップS203又はS204での測位演算処理の結果として定まる現在位置情報を、所定のアプリケーション(ここでは自動運転ECU90)に出力して本フローを終了する。
このような態様によれば、ローカル補正情報を取得できている測位衛星20が十分に存在する場合には、より精度が高い測位方式で測位することができる。また、ローカル補正情報を取得できている測位衛星20の数が十分ではない場合であっても、測位結果自体は出力可能である。このようにローカル補正情報の取得状況に応じて採用する測位方式を切り替えて作動するため、ローカル補正情報の取得状況に対する柔軟性(換言すればロバスト性)を高めることができる。
なお、測位結果の出力先のアプリケーションには、測位結果がどれくらいの精度を有するものであるかを示す情報(以降、精度指標情報)を測位結果と対応付けて出力することが好ましい。精度指標情報は、例えば測位方式として、第1測位方式と第2測位方式のどちらの測位方式で測位した結果であるかを示す採用方式情報や、測位処理に用いた測位衛星の数を示す情報とすればよい。また、測位演算処理に用いた観測データのSN比もまた精度指標情報として含めてもよい。
そのように測位結果と精度指標情報とを対応付けて出力する構成によれば、測位結果の受け手は、当該現在位置情報がどの程度の精度を有するものであるかを認識することができる。また、その結果としてのアプリケーション側は、受け取った現在位置情報の精度に応じて処理内容を変更するなどの処置を講ずることが可能となる。
[変形例2]
以上では、ローカル補正情報の信頼度Rを、経時パラメータα、距離パラメータβ、及び偏差パラメータγの3つのパラメータを乗算することで決定する態様を開示したが、これに限らない。他の態様として、ローカル補正情報の信頼度Rは、経時パラメータαと、距離パラメータβとを掛け合わせた値であってもよい。また、ローカル補正情報の信頼度Rは、経時パラメータαと、偏差パラメータγとを掛けあわせた値であってもよい。さらには、ローカル補正情報の信頼度Rも、グローバル補正情報の信頼度Rと同様に生成時刻からの経過時間のみによって決定しても良い。つまり、ローカル補正情報の信頼度Rとして、経時パラメータαの値をそのまま採用しても良い。
なお、生成時刻からの経過時間Tの概念は、補正情報の信頼度Rを求める上で有用であるため、経時パラメータαは用いることが好ましい。但し、生成時刻からの経過時間Tの概念は必ずしも乗算用のパラメータとして直接的に残す必要はない。例えば取得情報評価部F12及び保存情報評価部F13は、下記(i)(ii)に表すように、生成時刻からの経過時間Tが有効期間TxR以内である場合にはローカル補正情報の信頼度Rを距離パラメータβと偏差パラメータγを乗算した値とする一方、経過時間Tが有効期間TxRを超過している場合にはローカル補正情報の信頼度Rは最小値としての0に設定するように構成してもよい。つまり、経過時間Tは、どのような評価式を採用するかを切り替えるためのパラメータとして利用しても良い。
(i)T≦TxR R=β×γ
(ii)T>TxR R=0
以上の構成によっても上述した実施形態と同様の効果を奏させることができる。
[変形例3]
ローカル補正情報の信頼度Rを算出する際に用いる経時パラメータαの有効期間TxRは、時間帯に応じて動的に変更してもよい。例えば、電離層の状態(厚みや密度)の単位時間当りの変化度合いは夜間よりも昼間のほうが大きい傾向があることに着眼し、電離層補正量を含むローカル補正情報の有効期間TxRを、昼間と夜間とで異なる値に設定して運用してもよい。以下、上記の技術的思想に基づく構成を変形例3として以下説明する。
変形例3の取得情報評価部F12及び保存情報評価部F13は、ローカル補正情報の生成時刻が属する時間帯に応じて有効期間TxRを異なる値に設定し、経過時間Tに応じた経時パラメータαの値を算出する。具体的には、ローカル補正情報の生成時刻が、例えば昼間に相当する午前10時から午後3時までの第1時間帯に該当する場合には、有効期間TxRとして相対的に短い時間に設定された第1有効期間Tx1を適用して経過時間Tに応じた経時パラメータαを算出する。一方、夜間に相当する午後7時から翌朝6時までの第3時間帯に該当する場合には、有効期間TxRとして相対的に長い時間に設定された第3有効期間Tx3を適用して経過時間Tに応じた経時パラメータαを算出する。
また、その他の時間帯、具体的には午前6から午前10時までと、午後3時から午後6時までの第2時間帯に該当する場合には、第1有効期間Tx1と第3有効期間Tx3の中間的な値に設定された第2有効期間Tx2を有効期間TxRとして適用し、経過時間Tに応じた経時パラメータαを算出する。図16はそのような制御態様の一例を示した図である。図中の一点鎖線はローカル補正情報の生成時刻が第1時間帯に該当する場合の経過時間Tと経時パラメータαとの対応関係を示しており、二点鎖線は、ローカル補正情報の生成時刻が第2時間帯に該当する場合の経過時間Tと経時パラメータαとの対応関係を示している。そして実線が、ローカル補正情報の生成時刻が第3時間帯に該当する場合の経過時間Tと経時パラメータαとの対応関係を示している。
なお、第1有効期間Tx1や、第2有効期間Tx2、第3有効期間Tx3の具体的な値は適宜設計されれば良い。例えば第2有効期間Tx2は前述の実施形態と同様に1時間程度に設定されれば良い。第1有効期間Tx1は第2有効期間Tx2よりも短く、第3有効期間Tx3は第2有効期間Tx2よりも長い時間に設定されていればよい。各時間帯における品質保持時間TwRに相当する時間も適宜設計されれば良い。なお、品質保持時間TwGに相当する要素はなくともよい。
上述した変形例3の構成は、ローカル補正情報が生成された時間帯に応じて、経過時間Tによる信頼度Rの低下速度を変える構成に相当する。このような構成によれば、一日のなかでの電離層の厚みや密度の経時的な変化の速度に応じた有効期間TxRを用いて経時パラメータαの値が決定される。そのため、取得情報評価部F12及び保存情報評価部F13は、より一層適正な信頼度Rを算出できる。なお、ここでの低下速度とは、一定時間当りの値の低下量であり、図16での直線の傾きに相当する。
[変形例4]
ローカル補正情報の信頼度Rを算出する際に用いる経時パラメータαの有効期間TxRは、測位装置10が使用されるエリアの緯度に応じた値に設定されるように構成されていてもよい。例えば、単位時間あたりの電離層の状態の変化度合いは緯度が小さいほど(つまり赤道に近いほど)大きいことに着眼し、ローカル補正情報の有効期間TxRを、測位装置10が存在する緯度に応じて異なる値に設定して運用してもよい。以下、上記の技術的思想に基づく構成を変形例4として以下説明する。
変形例4の取得情報評価部F12及び保存情報評価部F13は、測位装置10の緯度に応じて有効期間TxRを異なる値に設定し、経過時間Tに応じた経時パラメータαの値を算出する。測位装置10の緯度は、前回の測位結果が示す緯度とすれば良い。
具体的には、測位装置10の緯度の絶対値が、例えば30°未満である場合には、有効期間TxRとして相対的に短い時間に設定された有効期間Txaを適用して経過時間Tに応じた経時パラメータαを算出する。また、測位装置10の現在の緯度の絶対値が30°以上60°未満に該当する場合には、有効期間TxRとして有効期間Txaよりも長い時間に設定された有効期間Txbを適用して経過時間Tに応じた経時パラメータαを算出する。
さらに、測位装置10の現在の緯度の絶対値が60°以上である場合には、有効期間TxRとして有効期間Txbよりも長い時間に設定された有効期間Txcを適用して経過時間Tに応じた経時パラメータαを算出する。なお、有効期間Txa、Txb、Txcの具体的な値は適宜設計されれば良い。例えば有効期間Txbは前述の実施形態と同様に1時間程度に設定されれば良い。
図17はそのような制御態様の一例を示した図である。図中の一点鎖線は測位装置10の緯度の絶対値が30°未満である場合の経過時間Tと経時パラメータαとの対応関係を示しており、二点鎖線は、測位装置10の緯度の絶対値が30°以上60°未満である場合の経過時間Tと経時パラメータαとの対応関係を示している。そして実線が、測位装置10の緯度の絶対値が60°以上である場合の経過時間Tと経時パラメータαとの対応関係を示している。
上述した変形例4の構成は、測位装置10の現在位置の緯度に応じて、経過時間Tによる信頼度Rの低下速度を変える構成に相当する。上述した変形例4の構成によれば、測位装置10が使用されるエリアの緯度に応じた有効期間TxRを用いて経時パラメータαの値が決定される。そのため、取得情報評価部F12及び保存情報評価部F13は、より一層適切な信頼度Rを算出できる。なお、ここでの低下速度とは、一定時間当りの値の低下量であり、図17での直線の傾きに相当する。