JP6940674B2 - 圧粉成形体の製造方法 - Google Patents
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Description
この圧粉成形体は、前記圧粉成形体の表面の少なくとも一部を覆っており、平均厚さが0.5μm以上10.0μm以下である鉄系酸化膜を備える。
更に、この圧粉成形体は、前記圧粉成形体の体積に対する表面積の割合を表面積/体積とし、前記圧粉成形体を100体積%として前記鉄系酸化膜中に存在するFe3O4の含有量が以下の(1)〜(3)のいずれか一つを満たす。
(1)前記表面積/体積が0.40mm−1以下の場合、0.085体積%未満である。
(2)前記表面積/体積が0.40mm−1超0.60mm−1以下の場合、0.12体積%以下である。
(3)前記表面積/体積が0.60mm−1超の場合、0.15体積%以下である。
(成形工程)鉄基粒子と前記鉄基粒子の表面を覆う絶縁被覆とを備える被覆軟磁性粉末と、潤滑剤とを含む原料粉末を圧縮して、圧縮物を形成する工程。
(熱処理工程)前記圧縮物に熱処理を施して、磁心に用いたときの磁路断面の断面周長が20mm超である圧粉成形体を形成する工程。
前記潤滑剤は、分解開始温度が170℃以上であるものを含むと共に、その合計含有量を前記原料粉末の質量を100%として0.10質量%以上0.60質量%以下とする。
前記熱処理の条件は、雰囲気を、酸素濃度が0.01体積%以上5.0体積%以下である低酸素雰囲気とし、温度を520℃超700℃以下とする。
最初に本発明の実施態様を列記して説明する。
(1)本発明の一態様に係る圧粉成形体は、鉄基粒子と、上記鉄基粒子の表面を覆う絶縁被覆とを備える複数の被覆軟磁性粒子が集合されたものであり、上記圧粉成形体を磁心に用いたときの磁路断面の断面周長が20mm超である。
この圧粉成形体は、上記圧粉成形体の表面の少なくとも一部を覆っており、平均厚さが0.5μm以上10.0μm以下である鉄系酸化膜を備える。
更に、この圧粉成形体は、上記圧粉成形体の体積に対する表面積の割合を表面積/体積とし、上記圧粉成形体を100体積%として上記鉄系酸化膜中に存在するFe3O4の含有量が以下の(1)〜(3)のいずれか一つを満たす。
(1)上記表面積/体積が0.40mm−1以下の場合、0.085体積%未満である。
(2)上記表面積/体積が0.40mm−1超0.60mm−1以下の場合、0.12体積%以下である。
(3)上記表面積/体積が0.60mm−1超の場合、0.15体積%以下である。
上記の圧粉成形体は、磁路断面の断面周長が20mm超であり、断面周長に応じた比較的長い渦電流ループが形成され易い大きさを有するといえる。上記の圧粉成形体は自身の大きさから渦電流損が大きくなり易いものといえる。しかし、上記の圧粉成形体では、鉄基粒子同士が主として絶縁被覆によって電気的に絶縁される。また、上記の圧粉成形体の表面の少なくとも一部、特に上述の脱型時に導通箇所が生じ易い金型との摺接面の少なくとも一部を構成する鉄基粒子同士が、鉄基粒子よりも電気絶縁性に優れる鉄系酸化膜によって電気的に絶縁される。上記の圧粉成形体は、絶縁被覆と鉄系酸化膜とによって表面の絶縁性が高められているといえる。かつ、上記の圧粉成形体は、鉄基粒子よりも比抵抗が十分に高いものの、絶縁材としては比抵抗が低めであるFe3O4の含有量が少なく、表面積/体積に応じて特定の範囲を満たす。後述する試験例に示すように製造条件にもよるが同じ大きさや密度のものを比較すれば、基本的には、上記の圧粉成形体は、上述の大気処理の場合よりもFe3O4が少なく、好ましくは上述の窒素処理+酸処理の場合よりもFe3O4が少ない。従って、上記の圧粉成形体は、渦電流損を低減できる。
上記の圧粉成形体は、強磁性体であって純鉄よりも保磁力が大きいFe3O4を鉄系酸化膜中に含む場合にも、その含有量が特定の範囲であり、大気雰囲気の場合よりも少ない傾向にある。そのため、上記の圧粉成形体は、Fe3O4の含有によるヒステリシス損の増大を抑制でき、ヒステリシス損を大気処理の場合と同等程度以下にできる。特に、上記の圧粉成形体は、表面積/体積が小さいほどFe3O4の含有量が少ないため、圧粉成形体の表面にFe3O4が過剰に存在することによるヒステリシス損の増大を招き難い。
(成形工程)鉄基粒子と前記鉄基粒子の表面を覆う絶縁被覆とを備える被覆軟磁性粉末と、潤滑剤とを含む原料粉末を圧縮して、圧縮物を形成する工程。
(熱処理工程)上記圧縮物に熱処理を施して、磁心に用いたときの磁路断面の断面周長が20mm超である圧粉成形体を形成する工程。
上記潤滑剤は、分解開始温度が170℃以上であるものを含むと共に、その合計含有量を前記原料粉末の質量を100%として0.10質量%以上0.60質量%以下とする。
上記熱処理の条件は、雰囲気を、酸素濃度が0.01体積%以上5.0体積%以下である低酸素雰囲気とし、温度を520℃超700℃以下とする。
被覆軟磁性粉末を用いるため、鉄基粒子間に絶縁被覆が介在する圧粉成形体が得られる。特定の潤滑剤を利用するため、成形時などで被覆粉末粒子同士が擦れ合って絶縁被覆が損傷することも防止し易い。熱処理温度が高過ぎず、絶縁被覆の熱損傷も抑制できる。また、特定の低酸素雰囲気かつ特定の温度で圧縮物に熱処理を施すことで、圧縮物を構成する鉄基粒子中のFeと雰囲気中の酸素との結合により鉄系酸化物を生成して、圧縮物の表面の少なくとも一部が鉄系酸化膜に覆われた圧粉成形体を製造できる。この鉄系酸化膜は、圧縮物において絶縁被覆が剥離して鉄基粒子が露出した箇所、代表的には圧縮物の表面における金型との摺接面の少なくとも一部を構成する鉄基粒子間にも介在して鉄基粒子同士を絶縁する。更に、熱処理を特定の条件で行うため、上述のように比抵抗が比較的低いFe3O4を過剰に生成せず、その含有量を特定の範囲にすることができる(上記の圧粉成形体参照)。
これらの点から絶縁性に優れる圧粉成形体が得られるからである。
低酸素雰囲気中の酸素濃度を特定の範囲とするため、強磁性体であるFe3O4を過剰に生成せず、上述のようにFe3O4の含有量を特定の範囲にすることができるからである。また、熱処理温度が比較的高く、成形工程で鉄基粒子に導入された歪みを十分に除去できつつ、絶縁被覆の熱損傷を防止できるからである。
以下、本発明の実施形態に係る圧粉成形体、電磁部品、圧粉成形体の製造方法を順に説明する。
図1,図2を参照して実施形態に係る圧粉成形体10を説明する。図1は、図2に示す(I)−(I)切断線(磁束に直交する平面)で切断した断面図である。
圧粉成形体10は、主として軟磁性粉末から構成される成形体であり、軟磁性粉末を主体とする原料粉末を所定の形状に圧縮した後、熱処理が施されて製造される。圧粉成形体10は、図2に示すような電磁部品1に備えられる磁心3の少なくとも一部に用いられて、磁路を形成する。図2は、複数の圧粉成形体10(コア片31m,32)を組み合わせて環状の閉磁路を形成する場合を例示する。圧粉成形体10は種々の形状をとる(後述の電磁部品の項参照)。
・鉄基粒子
被覆軟磁性粒子を構成する鉄基粒子は、Feを主体とする鉄基材料から構成される。鉄基材料は、純鉄(純度99質量%以上、残部が不可避的不純物)、Feを50質量%超含む鉄基合金が挙げられる。鉄基合金は、例えば、Fe−Si−Al系合金、Fe−Si系合金、Fe−Al系合金などが挙げられる。特に、純鉄は、透磁率及び磁束密度が高い、塑性変形性に優れて圧粉成形体10の密度や強度を高め易い、高純度であればヒステリシス損を低減できる、といった点で好ましい。
被覆軟磁性粒子を構成する絶縁被覆は、鉄基粒子間に介在して絶縁性を高め、渦電流損の低減に寄与する。絶縁被覆を構成する絶縁材料は、例えば以下が挙げられる。絶縁被覆は、単層構造、複数の異なる絶縁材料から構成される多層構造のいずれでもよい。
(1)金属元素を含む化合物:Fe,Al,Ca,Mn,Zn,Mg,V,Cr,Y,Ba,Sr,及び希土類元素(Yを除く)などから選択された1種以上の金属元素と、酸素、窒素、及び炭素から選択された1種以上とを含む金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物など、その他、ジルコニウム化合物、アルミニウム化合物など
(2)非金属元素を含む化合物:燐化合物、珪素化合物など
(3)金属塩化合物:燐酸金属塩化合物(代表的には、燐酸鉄、燐酸マンガン、燐酸亜鉛、燐酸カルシウムなど)、硼酸金属塩化合物、珪酸金属塩化合物、チタン酸金属塩化合物など
(4)樹脂:ポリアミド系樹脂(ナイロン6、ナイロン66など)、シリコーン樹脂など
(5)高級脂肪酸塩
燐酸鉄などの燐酸金属塩化合物は、鉄との密着性に優れる上に変形性に優れており、成形時に鉄基粒子の変形に追従して変形して損傷し難い。そのため、圧粉成形体10は健全な絶縁被覆を有して、渦電流を低減し易い。
圧粉成形体10を構成する被覆軟磁性粒子の平均粒径は、例えば、50μm以上400μm以下が挙げられる。上記平均粒径が50μm以上であれば、高密度な圧粉成形体10とし易く、400μm以下であれば、渦電流損を小さくし易く低損失な磁心3を構築できる圧粉成形体10とすることができる。上記平均粒径は、50μm以上150μm以下、50μm以上100μm未満、更に50μm以上80μm以下とすることができる。上記平均粒径は、原料に用いる被覆粉末の大きさに依存し、実質的に等しい傾向にあることから、原料段階で上記平均粒径を所望の値に調整するとよい。上記平均粒径を求めるには、圧粉成形体10の断面をとり、この断面の走査型電子顕微鏡の観察像などを市販の画像解析ソフトなどで解析して各粒子を抽出し、各粒子の等価面積円の直径を粒径とし、1000個以上の粒径の平均をとることが挙げられる。
圧粉成形体10は、上述の被覆軟磁性粒子を主体とする(圧粉成形体10を100%として90質量%以上)。その他、成形時に用いた潤滑剤や添加剤、又はこれらが熱処理によって変性されたものや、気孔の含有を許容するが、これらが少ないほど高密度な圧粉成形体10になり易く好ましい。
圧粉成形体10は断面周長Lが20mm超であることを特徴の一つとする。断面周長Lは、圧粉成形体10を磁心3に用いた場合に磁束に直交する平面で切断したときの断面を囲む輪郭線の長さであり、圧粉成形体10における磁束に平行に配置される外周面の周長に等しい。図1,図2に示すような直方体状の圧粉成形体10(コア片31m)では、磁路断面S10が長方形状となるため(図1)、断面周長Lはこの長方形の輪郭線の合計長さに等しい。
圧粉成形体10は、その表面の少なくとも一部を覆う鉄系酸化膜13を備えることを特徴の一つとする。鉄系酸化膜13を構成する鉄系酸化物は、鉄基粒子よりも電気絶縁性に優れる。このような鉄系酸化物が圧粉成形体10の表面に存在して、この表面の絶縁性を高められる。鉄系酸化物は、特に鉄基粒子間に介在して鉄基粒子間の絶縁性を高められ、鉄基粒子間を渡る渦電流パスを遮断できる。
上述の渦電流パスの遮断の観点からは、鉄系酸化膜13の存在領域は、圧粉成形体10の表面のうち、磁心3に用いられた場合に磁束に平行に配置される外周面の少なくとも一部を含むことが好ましい。特に、上記外周面の周方向に沿った渦電流ループを分断するように設けられることが好ましい。例えば、図2に示す直方体状の圧粉成形体10として、磁束に直交に配置される一端面から、この一端面に対向する他端面に亘って、鉄系酸化膜13を備えることが挙げられる。上記外周面にこのような分断領域を備えることで、圧粉成形体10の表面に生じ得る渦電流ループを短くできる。具体的には渦電流ループの長さを断面周長L未満にすることができ、渦電流損を低減できる。上記外周面の実質的に全面を覆う鉄系酸化膜13を備えると、上記外周面に流れる渦電流を十分に小さくでき、渦電流損をより低減できる。圧粉成形体10の実質的に全面を覆う鉄系酸化膜13を備えると、圧粉成形体10の表面に流れる渦電流をより効果的に小さくでき、渦電流損を更に低減できる。また、この場合には、後述するように製造性にも優れる。
鉄系酸化膜13は、圧粉成形体10の体積に対する表面積の割合を表面積/体積とするとき、圧粉成形体10の表面/体積に応じて、Fe3O4(四酸化三鉄、マグネタイト)の含有量が特定の範囲であることを特徴の一つとする。ここで、Fe3O4は鉄基粒子よりも比抵抗が大きく、鉄基粒子間に介在することで鉄基粒子間の絶縁性を高められて渦電流損を低減できる。しかし、Fe3O4は絶縁材としては比抵抗が比較的小さく、Fe3O4を多く含むと渦電流損の増大を招く。また、強磁性体であって、純鉄よりも保磁力が大きいFe3O4を含むことはヒステリシス損の増大を招く。結果として、Fe3O4を含むことは鉄損の増大を招き得る。しかし、後述する試験例に示すように、圧粉成形体10の全体に対するFe3O4の含有量が特定の範囲内であれば、Fe3O4の含有による渦電流損の増大及びヒステリシス損の増大を実質的に招かず、含有量によっては渦電流損やヒステリシス損を低減できる場合があるとの知見を得た。また、表面積/体積が小さいほど、渦電流損は、Fe3O4の多寡の影響を受け易いとの知見を得た。上記知見に基づき、表面積/体積に応じて、圧粉成形体10におけるFe3O4の含有量を以下のように規定する。以下のFe3O4の含有量は、圧粉成形体10の体積を100%としたときの割合である。
(1)表面積/体積が0.40mm−1以下の場合、0.085体積%未満
(2)表面積/体積が0.40mm−1超0.60mm−1以下の場合、0.12体積%以下
(3)表面積/体積が0.60mm−1超の場合、0.15体積%以下
0.005体積%以上0.08体積%以下、0.005体積%以上0.075体積%以下、0.01体積%以上0.07体積%以下、0.01体積%以上0.067体積%未満、0.01体積%以上0.06体積%以下、0.01体積%以上0.05体積%以下、更に0.01体積%以上0.045体積%以下
(2)表面積/体積が0.40mm−1超0.60mm−1以下の場合
0.01体積%以上0.10体積%以下、0.015体積%以上0.095体積%以下、0.02体積%以上0.09体積%以下、更に0.02体積%以上0.08体積%以下
(3)表面積/体積が0.60mm−1超の場合
0.03体積%以上0.145体積%以下、0.035体積%以上0.14体積%以下、0.04体積%以上0.13体積%以下、更に0.04体積%以上0.1体積%以下
鉄系酸化膜13は、その平均厚さが0.5μm以上10.0μm以下であることを特徴の一つとする。上記平均厚さが0.5μm以上であれば、上述のように絶縁性に優れる鉄系酸化膜13が十分に存在して、鉄系酸化膜13の具備による渦電流損の低減効果を良好に得られる。上記平均厚さが厚いほど渦電流損の低減効果を得易いことから、上記平均厚さを0.6μm以上、0.7μm以上、更に1.0μm以上とすることができる。上記平均厚さが10.0μm以下であれば、Fe3O4の含有量も少なくなり易く、Fe3O4の過剰含有によるヒステリシス損や渦電流損の増大の抑制効果を良好に得られる。上記平均厚さが薄いほど上記の効果を得易いことから、上記平均厚さを9.0μm以下、8.0μm以下、7.5μm以下、更に7.0μm以下とすることができる。
圧粉成形体10は、その相対密度が90.0%以上であれば、鉄基粒子を十分に含んで緻密で高密度である上に磁気特性に優れる。また、製造過程の圧縮物も高密度といえ、Fe3O4の過剰生成を抑制しつつ、鉄系酸化膜13の具備による低損失な磁心3を構築できる圧粉成形体10とすることができる。上記相対密度が大きいほど、緻密であり、製造過程でのFe3O4の過剰生成を抑制し易いため、上記相対密度を91.0%以上、92.0%以上、92.5%以上、更に93.0%以上とすることができる。上記相対密度が99.0%以下であれば、製造過程で成形圧力を過度に大きくする必要が無く、過大な成形圧力の負荷による被覆粉末粒子同士の過度の擦過に起因する絶縁被覆の損傷を抑制して、健全な絶縁被覆を備えて絶縁性に優れる圧粉成形体10とすることができる。絶縁被覆の損傷防止の観点から、上記相対密度を98.5%以下、98.0%以下、更に97.5%以下とすることができる。
圧粉成形体10は、低損失な磁心3を構築できる。また、製造過程で特定の熱処理を行うことで熱処理後に酸処理を行うことなく製造できるため、圧粉成形体10は製造性にも優れる。後述する試験例にてこれらの効果を具体的に説明する。
図2を参照して実施形態に係る電磁部品1を説明する。
電磁部品1は、巻線2wを巻回してなるコイル2と、コイル2が配置される磁心3とを備える。特に、実施形態の電磁部品1は、磁心3の少なくとも一部に実施形態の圧粉成形体10を備える。電磁部品1は、リアクトル、トランス、モータ、チョークコイル、アンテナ、燃料インジェクタ、点火コイルなどが挙げられる。
実施形態に係る圧粉成形体の製造方法は、原料粉末を圧縮して、圧縮物を形成する成形工程と、上記圧縮物に熱処理を施して、圧粉成形体を形成する熱処理工程とを備える。特に、この製造方法では、特定の原料粉末を用いて特定の大きさのものを製造すると共に、熱処理を特定の条件で行い、熱処理後に酸処理などを行わない。そのため、実施形態の圧粉成形体の製造方法によれば、工程数が少なく製造性に優れながら、低損失な磁心を構築できる圧粉成形体を製造できる。
以下、工程ごとに詳細に説明する。
この工程では、用意した原料粉末を所定の形状の金型に供給して圧縮し、脱型して圧縮物を得る。原料粉末には、上述の鉄基粒子の項で説明した鉄基材料から構成される鉄基粒子とこの鉄基粒子の表面を覆う絶縁被覆とを備える被覆軟磁性粉末と、潤滑剤とを含むもの用いることを特徴の一つとする。
・被覆粉末
被覆軟磁性粉末は、鉄基粒子の表面に、上述の絶縁被覆の項で説明した絶縁材料などによって絶縁被覆を形成することで得られる。鉄基粒子(鉄基粉末)の製造や絶縁被覆の形成には、公知の手法が利用できる。市販の被覆粉末を利用することもできる。なお、原料段階の絶縁被覆が熱処理時に変性されるなどして、熱処理後の圧粉成形体10に備える絶縁被覆とは構成材料が異なる場合がある。熱処理後の絶縁被覆の構成材料が所望の材料となるように原料段階の絶縁被覆の材料を選択するとよい。
原料粉末に潤滑剤を含むことで、成形時などで被覆粉末粒子同士の擦れ合い、脱型時の被覆粉末粒子と金型との擦れ合いなどを低減して、絶縁被覆の損傷を低減できる。特に大気中での分解開始温度が170℃以上である潤滑剤を含むと、熱処理時における圧縮物の過剰酸化を防止し易く、Fe3O4を特定量含む鉄系酸化膜13を備える圧粉成形体10を得易い。熱処理時、圧縮物を加熱することで潤滑剤が気化などして除去されてできた空隙に雰囲気ガスが侵入すると内部酸化が進行する。分解開始温度が高ければ、十分に高温になってから上記空隙ができるため、内部酸化の進行を抑制できるからである。分解開始温度が180℃以上、190℃以上、更に200℃以上の潤滑剤を含むと、上記内部酸化の進行をより防止し易い。一方、分解開始温度が高過ぎると、熱処理時に除去し難くなることから、分解開始温度が500℃以下、475℃以下、更に450℃以下の潤滑剤が好ましい。このような潤滑剤として、エチレンビスステアリン酸アミド、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、パルミチン酸アミド、ベヘン酸アミド、エルカ酸アミド、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸アルミニウムなどが挙げられる。上記に列挙した以外の潤滑剤、例えば、金属石鹸、脂肪酸アミド、高級脂肪酸アミド、無機物、脂肪酸金属塩などを含むことができる。なお、潤滑剤の分解開始温度は、熱処理時の雰囲気によって変化することがある。実施形態の圧粉成形体の製造方法では、熱処理時の雰囲気を大気よりも酸素濃度が低い特定の低酸素雰囲気で行う(詳細は後述)。大気中での分解開始温度は、概ね低酸素雰囲気での分解開始温度よりも低い傾向にあることから、ここでは大気中での分解開始温度とする。
所望の形状の圧縮物(熱処理後には圧粉成形体10)が得られるように、金型のキャビティの形状、大きさを選択するとよい。ここでは、特に、磁心3に用いたときの磁路断面S10の断面周長Lが20mm超である圧縮物(圧粉成形体10)を成形する。
この工程では、成形工程で得られた圧縮物に熱処理を施して、成形時に鉄基粒子に導入された歪を除去すると共に、圧縮物を構成する鉄基粒子に含まれるFeと雰囲気中の酸素とを結合して、圧縮物の表面の少なくとも一部に鉄系酸化膜を形成する。また、上述のように潤滑剤の除去も行う。
原料粉末に、鉄基粒子と絶縁被覆とを備える被覆軟磁性粉末を用いて種々の条件で種々の大きさの圧縮物を作製し、得られた圧縮物に種々の条件で熱処理を施して圧粉成形体を作製し、得られた圧粉成形体の損失を調べた。
純鉄(Feが99質量%以上、残部不可避不純物)から構成され、平均粒径が53μmである純鉄粉を用意した。上記平均粒径は、市販のレーザ回折・散乱式粒子径・粒度分布測定装置を用いて測定した50%粒径(質量)である。
純鉄粉の粒子(鉄基粒子)の表面にボンデ処理によって燐酸鉄から構成される内層(厚さ約100nm)を形成した後、内層上に化成処理によってSi及びO(酸素)を主成分とする外層(厚さ約30nm)を形成する。
潤滑剤には、大気中での分解開始温度が215℃であるエチレンビスステアリン酸アミドを用意した。原料粉末の質量を100%としたときの潤滑剤の含有量(質量%)を表1〜表4に示す。
その他、いずれの試料も成形は大気雰囲気で行い、金型温度は常温とする。
pH1で温度が26℃の濃塩酸が入った液槽に、濃塩酸を攪拌しながら、熱処理材の表面の一部(摺接面)を20分間浸ける。熱処理材における酸処理を施した領域の幅は、断面周長Lに対して7%であり、酸処理を施した領域の高さは、磁心に用いた場合に磁束方向に平行に配置される面の高さと同一とする。熱処理材における酸処理を施さない領域にはマスキングを施す。上述の酸処理後に処理対象を水で洗浄してから、マスキングを除去する。
被覆層の厚さは、各試料の圧粉成形体の断面をとり、断面をレーザ顕微鏡で観察し、観察像における被覆層について任意の100点を選択して厚さを調べ、100点の平均を表1〜表4に示す。圧粉成形体に対する被覆層の体積割合は、圧粉成形体の表面の全面に均一的な厚さで被覆層が存在すると仮定し、上述の100点の平均厚さを被覆層の厚さとして被覆層の体積を求め、被覆層の体積を圧粉成形体の体積で除することで求める。ここでは、10視野をとり、視野ごとに10点の測定点をとって、100点とした。なお、測定点の被覆層には、絶縁被覆を含む場合がある。ここでは、絶縁被覆が十分に薄いことから、絶縁被覆を含めた厚さを被覆層の厚さとして測定する。
この試験では、試料ごとに複数の圧粉成形体を組み付けて環状の磁心とし、銅線を巻回してなる一次巻きコイル(72ターン)、二次巻きコイル(20ターン)を上記磁心に配置したものを作製して、測定用部材とする。この測定用部材と、AC−BHカーブトレーサ(理研電子株式会社製 BHU−60)とを用いて、励起磁束密度Bmを0.1T(=1kG)とし、測定周波数を10kHzとしたときのヒステリシス損、渦電流損を求める。
窒素雰囲気で熱処理を行った試料については、熱処理後に酸処理を行っていない圧粉成形体、及び熱処理後に酸処理も行った圧粉成形体のそれぞれについて損失を調べた。表1〜表4において「酸無」とは、酸処理を行っていない場合、「酸有」とは、酸処理も行った場合を意味する。
この試験では、基準試料の鉄損、ヒステリシス損、渦電流損をそれぞれ100%とし、基準試料に対する相対値を表1〜表4に示す。相対値が小さいほど、損失低減効果が大きいといえる。
表1,表2に示すように、窒素雰囲気で熱処理を行った試料No.1−101〜1−104は、熱処理後に酸処理を行わないと、特に渦電流損が大きいために鉄損が大きく(酸無参照)、熱処理後に酸処理を行うことで渦電流損を低減できて鉄損を小さくできることが分かる(酸有参照)。しかし、熱処理に加えて、酸処理が必要であり、工程数が多い。マスキングを行うことで、工程数が更に多い。
これらの理由として、試料No.1−121〜1−124は、Fe3O4が多過ぎること、特に表面積/体積が大きくなるとFe3O4の絶対量が多くなることなどが考えられる。
特に、断面周長Lが40mm以上、かつ表面積/体積が0.6mm−1以下の場合(試料No.1−1〜1−15)、更には0.40mm−1以下の場合(試料No.1−1〜1−10)は、試料No.1−121〜1−124よりも渦電流損の低減効果が大きい傾向にある。この理由は、断面周長がより長いことで渦電流ループが長くなり易い大きさであり、表面積/体積が小さいことでFe3O4の影響を受け易いものの、試料No.1−1〜1−15ではFe3O4が十分に少なく、試料No.1−1〜1−10では更に少ないため、と考えられる。
表3に示すように相対密度が比較的高い試料No.1−21,1−22は、試料No.1−105(酸有),1−106(酸有)に比較して鉄損が小さい。相対密度が比較的低い試料No.1−23〜1−25は、試料No.1−107(酸無)〜1−109(酸無)に比較して鉄損が小さく、相対密度が大きいほど鉄損が小さい。特に、相対密度が90.0%以上(ここでは更に90.5%以上)である試料No.1−21〜1−24は、大気雰囲気で熱処理を行った試料No.1−125〜1−128及び試料No.1−105(酸有)〜1−108(酸有)に比較して鉄損が小さい。この理由は、相対密度がある程度高いことで、熱処理時に圧縮物の内部酸化が進行し難くなり、Fe3O4の過剰含有を抑制できたため(ここでは0.05体積%以下にできたため)と考えられる。相対密度が低い試料No.1−25は熱処理時に内部酸化が進行して、Fe3O4の含有量が試料No.1−24よりも多くなり、渦電流損、ヒステリシス損が大きくなり易くなったと考えられる。
表4に示すように、熱処理温度が高いほどヒステリシス損が低い。具体的には、熱処理温度を520℃超とした試料No.1−28〜1−35は、大気雰囲気で熱処理を行った試料No.1−130〜1−132と比較して、温度を高めるほどヒステリシス損を低減できることが分かる。特に、熱処理温度を550℃超700℃以下とした試料No.1−28〜1−32は、試料No.1−102(酸有、表1)よりも鉄損(絶対値)が小さく、同じ温度で熱処理を行った試料No.1−110(酸有)よりも、鉄損が小さい試料もある。この理由は、熱処理時の昇温過程で、圧縮物の内部酸化が進行するものの、温度がある程度高いと内部の酸化物が消滅し、表面にのみ酸化物が残存して、鉄系酸化膜を適切に含有できるためと考えられる。熱処理温度が550℃以下と低めである試料No.1−34,1−35は、上述のように内部の酸化物が消滅できずに酸化物が多く残存したことで、上述の熱処理温度が高い試料と比較して渦電流損やヒステリシス損が大きくなり易かったと考えられる。
熱処理温度を700℃超とした試料No.1−33は、ヒステリシス損が低いものの、渦電流損が大きい。この理由は、高温により絶縁被覆が熱損傷を受けたためと考えられる。
この試験から熱処理の温度は、520℃超700℃以下、更に550℃超700℃以下が好ましいといえる。
例えば、試験例に示す鉄基粒子の組成や粒径、絶縁被覆の組成や厚さ、原料粉末の大きさ、圧粉成形体の密度などを適宜変更できる。
1 電磁部品
2 コイル 2w 巻線 2a,2b 巻回部 2r 連結部
3 磁心 31 内側コア部 31m コア片 31g ギャップ材
32 外側コア部(コア片)
Claims (1)
- 鉄基粒子と前記鉄基粒子の表面を覆う絶縁被覆とを備える被覆軟磁性粉末と、潤滑剤とを含む原料粉末を圧縮して、圧縮物を形成する工程と、
前記圧縮物に熱処理を施して、磁心に用いたときの磁路断面の断面周長が20mm超である圧粉成形体を形成する工程とを備え、
前記潤滑剤は、分解開始温度が170℃以上であるものを含むと共に、その合計含有量を前記原料粉末の質量を100%として0.10質量%以上0.60質量%以下とし、
前記熱処理の条件は、雰囲気を、酸素濃度が0.015体積%以上0.5体積%以下である低酸素雰囲気とし、温度を520℃超700℃以下とする、
圧粉成形体の製造方法。
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