JP5256172B2 - 磁心用軟磁性薄片および電磁気部品用磁心 - Google Patents

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本発明は、交流で使用されるモータにおけるステータやロータなどの電磁気部品の磁心の作製に用いられる表面に絶縁被膜を形成した金属磁性材料より成る磁心用軟磁性薄片と、その磁心用軟磁性薄片を圧縮成形して作製される電磁気部品用磁心に関するものである。
従来から交流で使用されるモータにおけるステータやロータなどの電磁気部品の磁心には、電磁鋼板や電気鉄板を積層した磁心が用いられていたが、近年は、より磁気特性に優れ、三次元形状の自由度も高いという理由で、表面に絶縁被膜を形成した純鉄粉や軟磁性鉄基合金粉末等の軟磁性粉末やアモルファス薄片が、磁心(圧粉磁心)の材料として用いられることが多くなってきた。
磁束密度を高くするという観点からは圧粉磁心の材料として純鉄粉を用いることが、透磁率を高くするという観点からは圧粉磁心の材料としてアモルファス薄片を用いることが特に有効であるが、高い磁束密度と高透磁率を両立する圧粉磁心は存在しないのが現状である。
そこで、磁束密度を高くするという観点で、純鉄粉や軟磁性鉄基合金粉末等の軟磁性粉末を用いて圧粉磁心を作製しても、高い透磁率を確保することができるために考えられた技術が、軟磁性粉末を偏平形状にするという技術である。この軟磁性粉末を偏平形状にするという技術については、特許文献1〜8等で既に数多く提案されている。これらの技術によれば、軟磁性粉末を偏平形状にすることで、軟磁性粉末の長軸方向での反磁界が小さくなり、長軸方向の透磁率、すなわち最大透磁率を高くすることができる。しかしながら、これら特許文献に記載されたような偏平形状の軟磁性粉末を用いて圧粉成形して作製された圧粉磁心は、確かに最大透磁率は高くなるものの、反面、最大透磁率を高くすれば高くするほど、ヒステリシス損と渦電流損を合わせた鉄損が大きくなってしまうという実情があり、電磁気部品の磁心として採用するには、必ずしも効率が良いものとはいうことができなかった。
特開平3−72001号公報 特開平6−267723号公報 特開平1−294801号公報 特開平8−260114号公報 特開平8−269501号公報 特開平8−236331号公報 特開昭63−233508号公報 特開2005−209753号公報
本発明は、上記従来の問題を解決せんとしてなされたもので、最大透磁率が高いうえに、電磁気部品の磁心としたときの鉄損も大きくはなく、交流で使用されるモータ、ノイズフィルタ、リアクトルなどの電磁気部品の磁心の材料として好適に用いることができる磁心用軟磁性薄片と、その磁心用軟磁性薄片を圧縮成形して作製される電磁気部品用磁心を提供することを課題とするものである。
請求項1記載の発明は、金属磁性材料でなる薄片とその薄片の表面を被覆する絶縁被膜よりなる磁心用軟磁性薄片であって、前記金属磁性材料でなる薄片の厚みが0.01〜0.12mm、幅が1〜5mm、長さが前記厚みの80倍以上且つ幅の1倍以上であることを特徴とする磁心用軟磁性薄片である。また、請求項2記載の発明は、長さが厚みの80倍以上150倍以下である請求項1記載の磁心用軟磁性薄片である。
請求項2記載の発明は、請求項1または2記載の磁心用軟磁性薄片を圧縮成形して作製されたことを特徴とする電磁気部品用磁心である。
本発明磁心用軟磁性薄片は、最大透磁率が高いうえに、電磁気部品の磁心としたときの鉄損も大きくはなく、交流で使用されるモータ、ノイズフィルタ、リアクトルなどの電磁気部品の磁心の材料として好適に用いることができる。
また、本発明電磁気部品用磁心によると、最大透磁率が高いうえに、ヒステリシス損と渦電流損を合わせた鉄損も大きくはならない。
実施例の試験に用いたリング状の試料切り出し位置を示す成形体の斜視図である。
以下、本発明を実施形態に基づいて更に詳細に説明する。
本発明の磁心用軟磁性薄片は、純鉄や軟磁性鉄基合金(Fe−Al合金、Fe−Si合金、センダスト、パーマロイ)等の金属磁性材料を、厚みが0.01〜0.12mm、幅が1〜5mm、長さが前記厚みの80倍以上の薄片状に加工した後に、その薄片の表面に絶縁被膜を形成することで製造することができる。
金属磁性材料でなる薄片の厚みを0.01〜0.12mmとした理由は、その厚みが0.12mmを超えると渦電流損が大きくなり、その結果、鉄損が大きくなるからである。一方、厚みが0.01mm未満の薄片は延等で製造することが難しく、また、後でその薄片の表面に形成する絶縁被膜の厚みとの関係でバランスが悪くなるからである。よって、金属磁性材料でなる薄片の厚みは、0.01〜0.12mmの範囲とした。また、金属磁性材料でなる薄片の厚みの好ましい下限は0.05mm、好ましい上限は0.10mmである。
金属磁性材料でなる薄片の幅を1〜5mmとした理由は、その幅が5mmを超えると電磁気部品用磁心を製造するための成形金型の細部へ充填することが難しくなるためである。一方、その幅が1mm未満であれば、金属磁性材料でなる薄片を構成する結晶粒の結晶粒径が小さくなりヒステリシス損が大きくなって、その結果、鉄損が大きくなるからである。
金属磁性材料でなる薄片の長さを厚みの80倍以上とした理由は、金属磁性材料でなる薄片の長手方向の最大透磁率が高くなるためで、その長さを厚みの80倍以上とすることで、金属磁性材料の透磁率は十分高くなる。従って、その薄片の長さの上限は本発明では規定しないが、電磁気部品用磁心を製造するための成形金型に充填することを考慮すると、金属磁性材料でなる薄片の長さは、厚みの150倍程度が上限であると考えることができる。
また、薄片を形成する金属磁性材料として軟磁性鉄基合金を用いた場合、磁束密度を考慮すると鉄の含有量は90質量%以上である必要がある。
また、金属磁性材料でなる薄片の形状は、幅方向の断面形状で湾曲していることが望ましい。このように金属磁性材料でなる薄片が湾曲していることで、圧縮成形により薄片を電磁気部品用磁心としたときの保形性が向上する。
この金属磁性材料でなる薄片は、線材を複数回に分けて圧延することで所望の厚みの帯状とし、適宜大きさに切断すること等により製造することができる。
この金属磁性材料でなる薄片の表面に絶縁被膜が形成されて本発明の磁心用軟磁性薄片は構成されている。絶縁被膜としては、リン酸系化成被膜等のリン酸を主成分とする被膜やクロム系化成被膜などの無機物、或いは様々な樹脂を用いて形成することができる。樹脂としては、例えば、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、スチレン樹脂、アクリル樹脂、スチレン/アクリル樹脂、エステル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエチレンなどのオレフィン樹脂、カーボネート樹脂、ケトン樹脂、フッ化メタクリレートやフッ化ビニリデンなどのフッ素樹脂、PEEKなどのエンジニアリングプラスチックまたはその変性品などを被膜として用いることができる。
このような絶縁被膜の中でも、金属磁性材料でなる薄片の表面にリン酸系化成被膜を形成することが推奨される。リン酸系化成被膜は、オルトリン酸(HPO)などの化成処理によって生成するガラス状の被膜であり、特に電気絶縁性に優れている。このリン酸系化成被膜の膜厚は1〜250nmが好ましい。膜厚が1nmより薄いと絶縁効果が発現し難く、250nmを超えると絶縁効果が飽和するうえ、成形される電磁気部品用磁心の高密度化を阻害するためである。また、その付着量は、0.01〜0.8質量%程度が好ましい。尚、リン酸系化成被膜には、Na、S、Si、W、Mg、B、Co等の元素を含有させることができる。これらの元素は、高温での歪取焼鈍中にリン酸系化成被膜中の酸素がFeと反応し、半導体を形成することを阻害し、歪取焼鈍による比抵抗の低下を抑制するのに有効に作用する。
金属磁性材料でなる薄片の表面に、リン酸系化成被膜を形成するには、水性溶媒にオルトリン酸(HPO)などを溶解して、固形分0.1〜10質量%程度の処理液とし、金属磁性材料でなる薄片:100質量部に対して、その処理液を1〜10質量部添加して、ミキサー、ボールミル等の混合機で混合し、大気中、減圧下、或いは真空下で、150〜250℃で乾燥すれば形成できる。
また、このリン酸系化成被膜の表面に、シリコーン樹脂被膜が形成されていることが推奨される。シリコーン樹脂被膜は単独で形成したものであっても良いが、何れにしろ、電気絶縁性の熱的安定性を向上させるうえに、成形される電磁気部品用磁心の機械的強度も高めるという作用を有する。このシリコーン樹脂は、硬化が遅くなると粉末がべとついて被膜形成後のハンドリング性が悪くなる二官能性のD単位(RSiX:Xは加水分解性基)よりは、三官能性のT単位(RSiX:Xは加水分解性基)を多く含有する方が好ましい。また、四官能性のQ単位(SiX:Xは加水分解性基)が多く含まれていると、予備硬化の際に粉末同士が強固に結着してしまい、後の成形が行えなくなるので好ましくない。よって、T単位が60モル%以上、好ましくは80モル%以上、最も好ましくは全てがT単位のシリコーン樹脂被膜が形成されていることが推奨される。尚、シリコーン樹脂としては、前記Rがメチル基またはフェニル基となっているメチルフェニルシリコーン樹脂が一般的である。
このシリコーン樹脂被膜の膜厚は1〜200nmが好ましい。より好ましい膜厚は1〜100nmである。また、その付着量は、リン酸系化成被膜が形成された金属磁性材料でなる薄片と、シリコーン樹脂被膜の合計を100質量%としたとき、0.05〜0.3質量%であることが好ましい。0.05質量%より少ないと絶縁性に劣り、0.3質量%より多いと圧粉磁心の高密度化ができにくくなる。
また、シリコーン樹脂被膜とリン酸系化成被膜を合わせた厚みは250nm以下であることが好ましい。合計膜厚が250nmを超えると磁束密度の低下が大きくなることがある。尚、リン酸系化成被膜をシリコーン樹脂被膜より厚めに形成すれば、鉄損を小さくすることができる。
リン酸系化成被膜の表面に、シリコーン樹脂被膜を形成するには、アルコール類やトルエン、キシレン等の石油系有機溶剤などにシリコーン樹脂を溶解させて、固形分が2〜10質量%になるように調製した樹脂溶液を、リン酸系化成被膜が表面に形成された金属磁性材料でなる薄片:100質量部に対して、その樹脂溶液を0.5〜10質量部添加して、混合して乾燥すれば形成できる。
以上、説明した構成の磁心用軟磁性薄片を用いて圧縮成形することで、本発明の電磁気部品用磁心を作製することができる。この圧縮成形の方法については特に限定することはないが、従来の軟磁性粉末を圧粉成形する場合と同様に、例えば、磁心用軟磁性薄片を成形金型のキャピティーに充填してプレスで圧縮成形することで、電磁気部品用磁心を製造することができる。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適宜変更を加えて実施することも可能であり、それらは何れも本発明の技術的範囲に含まれる。
金属磁性材料として純鉄製の材料を用いてφ5.5mm×L(7.75kg/coil)の線材を作製して素材とし、線材圧延機にて複数回の圧延を繰返して最後にスキンパスを行ってφ4.26mmの線材とした。そのφ4.26mmの線材に対し、鍛鋼ロールを用いて複数回の圧延を行い、最後にスキンパスを行って板厚0.83mmの帯状の板材とした。その帯状の板材を1/2Lに分断し、超硬ロールで複数回のスキンパスを含めた圧延を行って最終的に、板厚が0.05mm、0.10mm、0.20mmの帯状の板材を夫々得た。それら各板厚の帯状の板材を適宜寸法(長さ1〜20mm、幅1〜5mm)に切断し、表1に記載のNo.1〜12の試験用の薄片を作製し、発明例並びに比較例とした。
一方、純鉄粉をボールミル加工で最大粒子直径が0.5mmの偏平形状に加工して、厚さ0.01mm、アスペクト比(短軸/長軸)が50の偏平形状の鉄粉とし、水素ガス雰囲気中950℃×2時間の歪取り焼鈍を施してNo.13の比較例とした。
次に、これら発明例および比較例の薄片(No.13の偏平形状の鉄粉を含む)の表面に絶縁被膜を形成した。その絶縁被膜の形成は、水1リットル当たり、リン酸(163g)、MgO(31g以下)、ホウ酸(30g)を含む水溶液を、薄片或いは鉄粉1kgに対して、50ccの割合で混合して、この混合体を大気中200℃で30分間乾燥させることにより実施した。更に、有機溶媒に溶かしたシリコーン樹脂を固形成分で0.3質量%混合して表面に絶縁被膜を形成した。
圧縮成形は型潤滑成形で行い、ステアリン酸カルシウムをアルコールに懸濁して成形金型の壁面に塗布した。この成形金型の内部に、前記した薄片或いは鉄粉を充填し、プレス圧をかけて圧縮成形して図1に示すφ50mm×t50mmの成形体を得た。尚、成形時の面圧は12ton/cmであり、圧粉成形体の密度が7.60g/cmになるようにプレス圧を調整して成形を行った。成形後、窒素ガス雰囲気中550℃×30分の歪取り焼鈍を施した。
次に、この圧縮成形で得られた成形体を大気中230℃で10分間熱処理して、樹脂の硬化を行った。その後、成形体からワイヤーカットで、図1に示すように、φ36mm×φ24mm×t5mmのリング形状の試料を切り出した。
測定は、理研電子製の直流磁気測定B−Hカーブトレーサ(BHN−50)を用いて、最大励磁磁場500eで測定し、最大透磁率を評価した。尚、試料の1次巻数は200回、2次巻数は20回とした。また、鉄損はJIS C2550に制定されたエプスタイン試験器を用いてエプスタイン試験を行い、周波数が400Hzで、最大磁束密度が1.0Tとなる励磁条件で質量鉄損を測定した。得られた測定結果を表1に示す。
Figure 0005256172
薄片の厚みが0.01〜0.12mm、幅が1〜5mm、長さが前記厚みの80倍以上(表1にはアスペクト比と記載)という本発明の要件を満足する発明例のNo.3〜No.8では、本試験で得られた最大透磁率は2890〜3520であり、また、鉄損は20.1〜22.5W/kgであった。
これに対し、薄片の長さが厚みの10倍と50倍であり、本発明の要件を満足しない比較例のNo.1とNo.2では、本試験で得られた最大透磁率が1220と1530で、鉄損は23.4W/kgと22.8W/kgであった。この結果は、薄片の長さが短い場合、高い透磁率を確保することができないことを示している。また、発明例に比べて鉄損も大きくなる傾向が認められた。
No.9〜No.12は、薄片の厚みが0.2mmと厚い本発明の要件を満足しない比較例であり(No.9とNo.10は薄片の長さも本発明の要件を満足しない。)、本試験で得られた最大透磁率が1280〜3020(薄片の長さも本発明の要件を満足するNo.11とNo.12に限ると最大透磁率は2920と3020)で、鉄損は38.0〜40.5W/kgであった。この結果は、薄片の厚みが厚い場合、鉄損が大きくなることを示している。
因みに、従来技術でもある偏平形状の鉄粉を用いて成形したNo.13の圧粉成形体は、本試験で得られた最大透磁率は720、鉄損は35.1W/kgである。以上の結果は、金属磁性材料でなる薄片とその薄片の表面を被覆する絶縁被膜よりなる磁心用軟磁性薄片を用いて電磁気部品用磁心を作製すると、最大透磁率が高く、鉄損が小さくなることを示している。
尚、今回は比較試験を実施していないが、文献等によるとアモルファス薄片の飽和磁束密度は高くても1.6T程度であり、圧粉成形体とすると1.55T程度になり、金属磁性材料でなる薄片とその薄片の表面を被覆する絶縁被膜よりなる磁心用軟磁性薄片を用いて作製した電磁気部品用磁心は、偏平形状の鉄粉を用いて圧粉成形したNo.13の試験結果も併せて比較すると、磁束密度も十分に高いことが分かる。
以上の試験結果から、本発明の要件を満足する磁心用軟磁性薄片を圧縮成形して電磁気部品用磁心を作製することで、最大透磁率が高いうえに、電磁気部品の磁心としたときの鉄損も大きくはなく、交流で使用されるモータ、ノイズフィルタ、リアクトルなどの電磁気部品の磁心の材料として好適に用いることができることが確認できた。

Claims (3)

  1. 金属磁性材料でなる薄片とその薄片の表面を被覆する絶縁被膜よりなる磁心用軟磁性薄片であって、
    前記金属磁性材料でなる薄片の厚みが0.01〜0.12mm、幅が1〜5mm、長さが前記厚みの80倍以上且つ幅の1倍以上であることを特徴とする磁心用軟磁性薄片。
  2. 長さが厚みの80倍以上150倍以下である請求項1記載の磁心用軟磁性薄片。
  3. 請求項1または2記載の磁心用軟磁性薄片を圧縮成形して作製されたことを特徴とする電磁気部品用磁心。
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