例示的な実施形態に係る眼科装置及びプログラムについて図面を参照しながら詳細に説明する。実施形態に係る眼科装置は、OCTを生体眼に適用して取得されたデータを解析する機能を有する。この解析機能は、例えばノーマティブデータ比較解析を実行可能である。本明細書にて引用された文献の開示内容を含む任意の公知技術を、実施形態に援用することが可能である。
以下に説明する例示的な実施形態では、フーリエドメインOCT(特にスウェプトソースOCT)を用いて生体眼の眼底を計測することが可能な眼科装置について説明する。OCTのタイプはスウェプトソースには限定されず、例えばスペクトラルドメインOCT又はタイムドメインOCTであってもよい。実施形態の眼科装置はOCT装置と眼底カメラを組み合わせた装置であるが、眼底カメラ以外の眼底撮影装置とOCT装置とを組み合わせてもよい。そのような眼底撮影装置の例として、走査型レーザー検眼鏡(SLO)、スリットランプ顕微鏡、眼科手術用顕微鏡などがある。
〈第1実施形態〉
〈構成〉
図3に示すように、眼科装置1は、眼底カメラユニット2、OCTユニット100及び演算制御ユニット200を含む。眼底カメラユニット2には、被検眼の正面画像を取得するための光学系や機構が設けられている。OCTユニット100には、OCTを実行するための光学系や機構の一部が設けられている。OCTを実行するための光学系や機構の他の一部は、眼底カメラユニット2に設けられている。演算制御ユニット200は、各種の演算や制御を実行する1以上のプロセッサを含む。これらに加え、被検者の顔を支持するための部材(顎受け、額当て等)や、OCTの対象部位を切り替えるためのレンズユニット(例えば、前眼部OCT用アタッチメント)等の任意の要素やユニットが眼科装置1に設けられてもよい。
本明細書において「プロセッサ」は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、プログラマブル論理デバイス(例えば、SPLD(Simple Programmable Logic Device)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)、FPGA(Field Programmable Gate Array))等の回路を意味する。プロセッサは、例えば、記憶回路や記憶装置に格納されているプログラムを読み出し実行することで、実施形態に係る機能を実現する。
〈眼底カメラユニット2〉
眼底カメラユニット2には、被検眼Eの眼底Efを撮影するための光学系が設けられている。取得される眼底Efの画像(眼底像、眼底写真等と呼ばれる)は、観察画像、撮影画像等の正面画像である。観察画像は、近赤外光を用いた動画撮影により得られる。撮影画像は、可視領域のフラッシュ光を用いた静止画像である。
眼底カメラユニット2は、照明光学系10と撮影光学系30とを含む。照明光学系10は被検眼Eに照明光を照射する。撮影光学系30は、被検眼Eからの照明光の戻り光を検出する。OCTユニット100からの測定光は、眼底カメラユニット2内の光路を通じて被検眼Eに導かれ、その戻り光は、同じ光路を通じてOCTユニット100に導かれる。
照明光学系10の観察光源11から出力された光(観察照明光)は、凹面鏡12により反射され、集光レンズ13を経由し、可視カットフィルタ14を透過して近赤外光となる。更に、観察照明光は、撮影光源15の近傍にて一旦集束し、ミラー16により反射され、リレーレンズ系17、リレーレンズ18、絞り19、及びリレーレンズ系20を経由する。そして、観察照明光は、孔開きミラー21の周辺部(孔部の周囲の領域)にて反射され、ダイクロイックミラー46を透過し、対物レンズ22により屈折されて被検眼E(眼底Ef)を照明する。観察照明光の被検眼Eからの戻り光は、対物レンズ22により屈折され、ダイクロイックミラー46を透過し、孔開きミラー21の中心領域に形成された孔部を通過し、ダイクロイックミラー55を透過し、撮影合焦レンズ31を経由し、ミラー32により反射される。更に、この戻り光は、ハーフミラー33Aを透過し、ダイクロイックミラー33により反射され、結像レンズ34によりイメージセンサ35の受光面に結像される。イメージセンサ35は、所定のフレームレートで戻り光を検出する。なお、撮影光学系30のフォーカスは、眼底Ef又は前眼部に合致するように調整される。
撮影光源15から出力された光(撮影照明光)は、観察照明光と同様の経路を通って眼底Efに照射される。被検眼Eからの撮影照明光の戻り光は、観察照明光の戻り光と同じ経路を通ってダイクロイックミラー33まで導かれ、ダイクロイックミラー33を透過し、ミラー36により反射され、結像レンズ37によりイメージセンサ38の受光面に結像される。
液晶ディスプレイ(LCD)39は固視標(固視標画像)を表示する。LCD39から出力された光束は、その一部がハーフミラー33Aに反射され、ミラー32に反射され、撮影合焦レンズ31及びダイクロイックミラー55を経由し、孔開きミラー21の孔部を通過する。孔開きミラー21の孔部を通過した光束は、ダイクロイックミラー46を透過し、対物レンズ22により屈折されて眼底Efに投射される。
LCD39の画面上における固視標画像の表示位置を変更することにより、固視標による被検眼Eの固視位置を変更できる。固視位置の例として、黄斑部を中心とする画像を取得するための固視位置や、視神経乳頭を中心とする画像を取得するための固視位置や、黄斑部と視神経乳頭との間の眼底中心を中心とする画像を取得するための固視位置や、黄斑から大きく離れた部位(眼底周辺部)の画像を取得するための固視位置などがある。このような典型的な固視位置の少なくとも1つを指定するためのグラフィカルユーザーインターフェース(GUI)等を設けることができる。また、固視位置(固視標の表示位置)をマニュアルで移動するためのGUI等を設けることができる。
固視位置を変更可能な固視標を被検眼Eに提示するための構成はLCD等の表示デバイスには限定されない。例えば、複数の発光部(発光ダイオード等)がマトリクス状(アレイ状)に配列された固視マトリクスを表示デバイスの代わりに採用することができる。この場合、複数の発光部を選択的に点灯させることにより、固視標による被検眼Eの固視位置を変更することができる。他の例として、移動可能な1以上の発光部によって、固視位置を変更可能な固視標を生成することができる。
アライメント光学系50は、被検眼Eに対する光学系のアライメントに用いられるアライメント指標を生成する。発光ダイオード(LED)51から出力されたアライメント光は、絞り52、絞り53、及びリレーレンズ54を経由し、ダイクロイックミラー55により反射され、孔開きミラー21の孔部を通過し、ダイクロイックミラー46を透過し、対物レンズ22を介して被検眼Eに投射される。アライメント光の被検眼Eからの戻り光(角膜反射光等)は、観察照明光の戻り光と同じ経路を通ってイメージセンサ35に導かれる。その受光像(アライメント指標像)に基づいてマニュアルアライメントやオートアライメントを実行できる。
従来と同様に、本例のアライメント指標像は、アライメント状態により位置が変化する2つの輝点像からなる。被検眼Eと光学系との相対位置がxy方向に変化すると、2つの輝点像が一体的にxy方向に変位する。被検眼Eと光学系との相対位置がz方向に変化すると、2つの輝点像の間の相対位置(距離)が変化する。z方向における被検眼Eと光学系との間の距離が既定のワーキングディスタンスに一致すると、2つの輝点像が重なり合う。xy方向において被検眼Eの位置と光学系の位置とが一致すると、所定のアライメントターゲット内又はその近傍に2つの輝点像が提示される。z方向における被検眼Eと光学系との間の距離がワーキングディスタンスに一致し、且つ、xy方向において被検眼Eの位置と光学系の位置とが一致すると、2つの輝点像が重なり合ってアライメントターゲット内に提示される。
オートアライメントでは、データ処理部230が、2つの輝点像の位置を検出し、主制御部211が、2つの輝点像とアライメントターゲットとの位置関係に基づいて後述の移動機構150を制御する。マニュアルアライメントでは、主制御部211が、被検眼Eの観察画像とともに2つの輝点像を表示部241に表示させ、ユーザーが、表示された2つの輝点像を参照しながら操作部242を用いて移動機構150を動作させる。
フォーカス光学系60は、被検眼Eに対するフォーカス調整に用いられるスプリット指標を生成する。撮影光学系30の光路(撮影光路)に沿った撮影合焦レンズ31の移動に連動して、フォーカス光学系60は照明光学系10の光路(照明光路)に沿って移動される。反射棒67は、照明光路に対して挿脱される。フォーカス調整を行う際には、反射棒67の反射面が照明光路に傾斜配置される。LED61から出力されたフォーカス光は、リレーレンズ62を通過し、スプリット指標板63により2つの光束に分離され、二孔絞り64を通過し、ミラー65により反射され、集光レンズ66により反射棒67の反射面に一旦結像されて反射される。更に、フォーカス光は、リレーレンズ20を経由し、孔開きミラー21に反射され、ダイクロイックミラー46を透過し、対物レンズ22を介して被検眼Eに投射される。フォーカス光の被検眼Eからの戻り光(眼底反射光等)は、アライメント光の戻り光と同じ経路を通ってイメージセンサ35に導かれる。その受光像(スプリット指標像)に基づいてマニュアルフォーカシングやオートフォーカシングを実行できる。
孔開きミラー21とダイクロイックミラー55との間の撮影光路に、視度補正レンズ70及び71を選択的に挿入することができる。視度補正レンズ70は、強度遠視を補正するためのプラスレンズ(凸レンズ)である。視度補正レンズ71は、強度近視を補正するためのマイナスレンズ(凹レンズ)である。
ダイクロイックミラー46は、眼底撮影用光路とOCT用光路(測定アーム)とを合成する。ダイクロイックミラー46は、OCTに用いられる波長帯の光を反射し、眼底撮影用の光を透過させる。測定アームには、OCTユニット100側から順に、コリメータレンズユニット40、リトロリフレクタ41、分散補償部材42、OCT合焦レンズ43、光スキャナ44、及びリレーレンズ45が設けられている。
リトロリフレクタ41は、図3に示す矢印の方向に移動可能とされ、それにより測定アームの長さが変更される。測定アーム長の変更は、例えば、眼軸長に応じた光路長補正や、干渉状態の調整などに利用される。
分散補償部材42は、参照アームに配置された分散補償部材113(後述)とともに、測定光LSの分散特性と参照光LRの分散特性とを合わせるよう作用する。
OCT合焦レンズ43は、測定アームのフォーカス調整を行うために測定アームに沿って移動される。撮影合焦レンズ31の移動、フォーカス光学系60の移動、及びOCT合焦レンズ43の移動を連係的に制御することができる。
光スキャナ44は、実質的に、被検眼Eの瞳孔と光学的に共役な位置に配置される。光スキャナ44は、測定アームにより導かれる測定光LSを偏向する。光スキャナ44は、例えば、2次元走査が可能なガルバノスキャナである。
〈OCTユニット100〉
図4に例示するように、OCTユニット100には、スウェプトソースOCTを実行するための光学系が設けられている。この光学系は干渉光学系を含む。この干渉光学系は、波長可変光源(波長掃引型光源)からの光を測定光と参照光とに分割し、被検眼Eからの測定光の戻り光と参照光路を経由した参照光とを干渉させて干渉光を生成し、この干渉光を検出する。干渉光学系により得られた検出結果(検出信号)は、干渉光のスペクトルを表す信号であり、演算制御ユニット200に送られる。
光源ユニット101は、例えば、出射光の波長を高速で変化させる近赤外波長可変レーザーを含む。光源ユニット101から出力された光L0は、光ファイバ102により偏波コントローラ103に導かれてその偏光状態が調整される。更に、光L0は、光ファイバ104によりファイバカプラ105に導かれて測定光LSと参照光LRとに分割される。測定光LSの光路は測定アームなどと呼ばれ、参照光LRの光路は参照アームなどと呼ばれる。
参照光LRは、光ファイバ110によりコリメータ111に導かれて平行光束に変換され、光路長補正部材112及び分散補償部材113を経由し、リトロリフレクタ114に導かれる。光路長補正部材112は、参照光LRの光路長と測定光LSの光路長とを合わせるよう作用する。分散補償部材113は、測定アームに配置された分散補償部材42とともに、参照光LRと測定光LSとの間の分散特性を合わせるよう作用する。リトロリフレクタ114は、これに入射する参照光LRの光路に沿って移動可能であり、それにより参照アームの長さが変更される。参照アーム長の変更は、例えば、眼軸長に応じた光路長補正や、干渉状態の調整などに利用される。
リトロリフレクタ114を経由した参照光LRは、分散補償部材113及び光路長補正部材112を経由し、コリメータ116によって平行光束から集束光束に変換され、光ファイバ117に入射する。光ファイバ117に入射した参照光LRは、偏波コントローラ118に導かれてその偏光状態が調整され、光ファイバ119を通じてアッテネータ120に導かれてその光量が調整され、光ファイバ121を通じてファイバカプラ122に導かれる。
一方、ファイバカプラ105により生成された測定光LSは、光ファイバ127により導かれてコリメータレンズユニット40により平行光束に変換され、リトロリフレクタ41、分散補償部材42、OCT合焦レンズ43、光スキャナ44及びリレーレンズ45を経由し、ダイクロイックミラー46により反射され、対物レンズ22により屈折されて被検眼Eに投射される。測定光LSは、被検眼Eの様々な深さ位置において散乱・反射される。測定光LSの被検眼Eからの戻り光は、往路と同じ経路を逆向きに進行してファイバカプラ105に導かれ、光ファイバ128を経由してファイバカプラ122に到達する。
ファイバカプラ122は、光ファイバ128を介して入射された測定光LSと、光ファイバ121を介して入射された参照光LRとを重ね合わせて干渉光を生成する。ファイバカプラ122は、生成された干渉光を所定の分岐比(例えば1:1)で分岐することで一対の干渉光LCを生成する。一対の干渉光LCは、それぞれ光ファイバ123及び124を通じて検出器125に導かれる。
検出器125は、例えばバランスドフォトダイオードを含む。バランスドフォトダイオードは、一対の干渉光LCをそれぞれ検出する一対のフォトディテクタを有し、これらにより得られた一対の検出結果の差分を出力する。検出器125は、この出力(検出信号)をデータ収集システム(DAQ)130に送る。
データ収集システム130には、光源ユニット101からクロックKCが供給される。クロックKCは、光源ユニット101において、波長可変光源により所定の波長範囲内で掃引される各波長の出力タイミングに同期して生成される。光源ユニット101は、例えば、各出力波長の光L0を分岐して2つの分岐光を生成し、これら分岐光の一方を光学的に遅延させ、これら分岐光を合成し、得られた合成光を検出し、その検出結果に基づいてクロックKCを生成する。データ収集システム130は、検出器125から入力される検出信号のサンプリングをクロックKCに基づいて実行する。データ収集システム130は、このサンプリングの結果を演算制御ユニット200に送る。
本例では、測定アーム長を変更するための要素(例えば、リトロリフレクタ41)と、参照アーム長を変更するための要素(例えば、リトロリフレクタ114、又は参照ミラー)との双方が設けられているが、一方の要素のみが設けられていてもよい。また、測定アーム長と参照アーム長との間の差(光路長差)を変更するための要素はこれらに限定されず、任意の要素(光学部材、機構など)であってよい。
〈制御系〉
眼科装置1の制御系の構成例を図5、図6A及び図6Bに示す。制御部210、画像形成部220及びデータ処理部230は、例えば演算制御ユニット200に設けられる。
〈制御部210〉
制御部210は、各種の制御を実行する。制御部210は、主制御部211と記憶部212とを含む。
〈主制御部211〉
主制御部211は、プロセッサを含み、眼科装置1の各要素(図3〜図6Bに示された要素を含む)を制御する。
撮影光路に配置された撮影合焦レンズ31と照明光路に配置されたフォーカス光学系60とは、主制御部211の制御の下に、図示しない撮影合焦駆動部によって移動される。測定アームに設けられたリトロリフレクタ41は、主制御部211の制御の下に、リトロリフレクタ(RR)駆動部41Aによって移動される。測定アームに配置されたOCT合焦レンズ43は、主制御部211の制御の下に、OCT合焦駆動部43Aによって移動される。測定アームに設けられた光スキャナ44は、主制御部211の制御の下に動作する。参照アームに配置されたリトロリフレクタ114は、主制御部211の制御の下に、リトロリフレクタ(RR)駆動部114Aによって移動される。これら駆動部のそれぞれは、主制御部211の制御の下に動作するパルスモータ等のアクチュエータを含む。
移動機構150は、例えば、少なくとも眼底カメラユニット2を3次元的に移動する。典型的な例において、移動機構150は、±x方向(左右方向)に移動可能なxステージと、xステージを移動するx移動機構と、±y方向(上下方向)に移動可能なyステージと、yステージを移動するy移動機構と、±z方向(奥行き方向)に移動可能なzステージと、zステージを移動するz移動機構とを含む。これら移動機構のそれぞれは、主制御部211の制御の下に動作するパルスモータ等のアクチュエータを含む。
〈記憶部212〉
記憶部212は各種のデータを記憶する。記憶部212に記憶されるデータとしては、OCT画像や眼底像や被検眼情報などがある。被検眼情報は、患者IDや氏名などの被検者情報や、左眼/右眼の識別情報や、電子カルテ情報などを含む。
本実施形態では、予め作成された標準分布データが記憶部212に記憶される。標準分布データは、OCTを利用した画像診断や画像解析において参照される所定の計測値の分布を表すデータである。所定の計測値は、典型的には、網膜の所定の層組織(例えば、神経線維層、神経節細胞層)の厚みである。ただし、所定の計測値は層厚に限定されない。
標準分布データは、例えば、多数の正常眼から取得された所定の計測値のサンプルを統計的に処理して得られた値である。典型的には、標準分布データは、多数の正常眼の眼底にOCTを適用して取得された層厚値のサンプルから算出された正常範囲の分布を表す。正常範囲は、例えば、サンプルの平均値を含むように設定される。このように正常眼に基づき作成された標準分布データはノーマティブデータと呼ばれる。なお、特定疾患を患っている複数の眼に基づいて標準分布データを作成してもよい。
標準分布データは、例えば、眼底の所定部位を含む所定範囲における分布である。典型的には、標準分布データは、中心窩が中心に配置された6mm×6mmの矩形領域を格子状に区分して形成された複数の区画のそれぞれに対して、正常眼の層厚値の正常範囲を割り当てることによって作成される。このような標準分布データを、図6A及び図6Bに示すノーマティブデータ400として採用することができる。ノーマティブデータ400は、公知のデータであってよい。
また、疾患毎に標準分布データを設けて選択的に使用することや、被検者の属性(例えば、年齢層)毎に標準分布データを設けて選択的に使用することや、被検眼の属性(例えば、強度近視眼とそれ以外)毎に標準分布データを設けて選択的に使用することが可能である。
〈画像形成部220〉
画像形成部220は、データ収集システム130から入力された信号(サンプリングデータ)に基づいて、眼底EfのOCT画像データを形成する。OCT画像データは、例えば、Bスキャン画像データ(2次元断層像データ)である。OCT画像データを形成する処理は、従来のフーリエドメインOCTと同様に、ノイズ除去(ノイズ低減)、フィルタ処理、高速フーリエ変換(FFT)などを含む。他のタイプのOCT装置の場合、画像形成部220は、そのタイプに応じた公知の処理を実行する。画像形成部220はプロセッサを含む。なお、この明細書では、「画像データ」と、それに基づく「画像」とを同一視することがある。
〈データ処理部230〉
データ処理部230は、画像形成部220により形成された画像に対して各種の画像処理や解析処理を施す。例えば、データ処理部230は、画像の輝度補正や分散補正等の各種の補正処理を実行可能に構成される。また、データ処理部230は、眼底カメラユニット2により得られた画像(眼底像、前眼部像等)に対して各種の画像処理や解析処理を施すことができる。
データ処理部230は、眼底Efの3次元画像データを形成することができる。3次元画像データとは、3次元座標系により画素の位置が定義された画像データを意味する。3次元画像データの例として、スタックデータやボリュームデータがある。
スタックデータは、複数の走査線に沿って得られた複数の断層像を、走査線の位置関係に基づいて3次元的に配列させて得られた画像データである。すなわち、スタックデータは、元々個別の2次元座標系により定義されていた複数の断層像を、1つの3次元座標系により表現する(つまり、1つの3次元空間に埋め込む)ことにより得られた画像データである。
ボリュームデータは、3次元的に配列されたボクセルを画素とする画像データであり、ボクセルデータとも呼ばれる。ボリュームデータは、スタックデータに補間処理やボクセル化処理などを適用することで形成される。
データ処理部230は、3次元画像データに対してレンダリング処理を施すことで、表示用の画像を形成することができる。適用可能なレンダリング法の例として、ボリュームレンダリング、サーフェスレンダリング、最大値投影(MIP)、最小値投影(MinIP)、多断面再構成(MPR)などがある。
図6A及び図6Bのそれぞれは、データ処理部230の構成の例を示す。データ処理部230は、分布データ作成部231と、補正値算出部232と、倍率補正部233と、データ比較部234とを含む。以下、主として、図6Aに示す例を説明する。
〈分布データ作成部231〉
本実施形態では、眼底Efに対して3次元スキャン(ボリュームスキャンなどとも呼ばれる)が適用される。3次元スキャンとは、眼底Efの3次元領域に対するOCTスキャンである。3次元スキャンの態様は任意であってよく、例えばラスタースキャンが採用される。眼科装置1(画像形成部220及びデータ処理部230)は、3次元スキャンにより収集されたデータ(3次元データ)を処理して3次元画像データを構築する。
分布データ作成部231は、構築された3次元画像データに基づいて、眼底Efにおける所定の計測値の分布データを作成する。前述したように、所定の計測値は、OCTを利用した画像診断や画像解析において参照され、標準分布データが表す計測値と同じである。本例では、所定の計測値が網膜の所定の層組織(例えば、神経線維層、神経節細胞層)の厚みであり、且つ、標準分布データがノーマティブデータ400である場合について説明する。ただし、所定の計測値は層厚に限定されない。分布データ作成部231により作成された分布データが、図6A及び図6Bに示す分布データ300となる。
本例において、分布データ作成部231は、眼底Efの網膜における所定の層組織の厚みの分布を表す層厚分布データを作成する。そのために分布データ作成部231が実行する処理の内容は任意である。
例えば、従来と同様に、分布データ作成部231は、3次元画像データにセグメンテーションを適用して3次元画像データを複数の部分画像データに分割する処理と、これら部分画像データのうちから所定の層組織に相当する部分画像データを特定する処理と、特定された部分画像データに基づいて複数の位置における所定の層組織の厚みを求める処理とを含む。
〈補正値算出部232〉
補正値算出部232は、3次元OCTスキャンによって眼底Efの3次元データを収集するための所定の条件に基づいて倍率補正値を算出する。
補正値算出部232は、被検眼Eの眼軸長の推測値を算出する第1算出部2321と、被検眼Eの視度(屈折力)の推測値を算出する第2算出部2322とを含む。補正値算出部232は、眼軸長の推測値及び視度の推測値の少なくとも一方に基づいて倍率補正値を求める。なお、倍率補正値の算出に用いられる値はこれらに限定されず、被検眼Eに関する任意の特性値であってよい。
本例では、所定の条件は、アライメントに関する条件と、フォーカスに関する条件と、OCT光路長に関する条件とを含む。アライメントに関する条件及びOCT光路長に関する条件は、第1算出部2321による眼軸長の推測値の算出に用いられる。フォーカスに関する条件は、第2算出部2322による視度の推測値の算出に用いられる。
〈第1算出部2321〉
第1算出部2321による眼軸長の推測値の算出について説明する。一例として、特許文献7に記載された方法を適用することが可能である。すなわち、参照アームの光路長をOPLRとし、測定アームの光路長をOPLSとし、ワーキングディスタンスをWDとし、測定光LSが被検眼Eに入射した位置から眼底Efにおける測定光LSの反射位置までの眼内距離をDとすると、これらパラメータの間には次のような関係がある:OPLR=OPLS+WD+D。これより、眼内距離D(つまり眼軸長の推測値D)は次のように表される:D=OPLR−OPLS−WD。
被検眼Eに対する眼科装置1の光学系のアライメントが好適に行なわれた場合、光学系(対物レンズ22)は、被検眼Eから−z方向に既定のワーキングディスタンスWDだけ離れた位置に配置される。このように、本例において、ワーキングディスタンスWDは予め設定された定数であり、アライメントが完了したこと(更には、その後のトラッキングが好適に行われていること)を条件として、光学系と被検眼Eとの距離がワーキングディスタンスWDに等しいと仮定され、この定数WDが適用される。本例では、ワーキングディスタンスWDが、アライメントに関する条件に相当する。
なお、アライメントに関する条件は、ワーキングディスタンスの既定値に限定されない。例えば、被検眼Eを互いに異なる方向から撮影可能な2以上のカメラを利用してアライメントを行う場合のように、被検眼Eと光学系との間の距離(z方向における距離)を求めることが可能な構成が採用される場合、この距離の値をワーキングディスタンスWDの代わりにアライメントに関する条件として用いることができる。
一般に、眼底EfのOCTスキャンを行う前には、OCT画像のフレーム内の所定の位置に眼底Efの画像が表示されるように、干渉光学系の光路長調整が行われる。具体的には、測定アームの光路長及び参照アームの光路長の少なくとも一方が調整される。測定アームの光路長の変更は、例えば、主制御部211による制御の下、リトロリフレクタ41及びリトロリフレクタ駆動部41Aによって行うことができる。また、参照アームの光路長の変更は、主制御部211による制御の下、リトロリフレクタ114及びリトロリフレクタ駆動部114Aによって行うことができる。
リトロリフレクタ41の位置又はリトロリフレクタ駆動部41Aのアクチュエータの動作状態は、例えば、図示しない位置検出器(ポテンショメータ、エンコーダなど)を用いて検出される。或いは、リトロリフレクタ駆動部41aに対する主制御部211の制御内容(制御履歴)に基づいて、リトロリフレクタ41の位置又はリトロリフレクタ駆動部41Aのアクチュエータの動作状態を検出するように構成することもできる。
また、リトロリフレクタ41の位置又はリトロリフレクタ駆動部41Aのアクチュエータの動作状態と、測定アームの光路長の値とを予め対応付けることができる。この対応付けは、例えば、測定アームの設計データに基づき行われる。この対応付けを表す対応情報(テーブル情報、グラフ情報など)が予め作成され、例えば記憶部212に格納される。第1算出部2321は、リトロリフレクタ41の位置の検出結果(又は、リトロリフレクタ駆動部41Aのアクチュエータの動作状態の検出結果)を受け、この位置に対応する光路長の値を対応情報から求める。求められた光路長の値が測定アームの光路長OPLSとして用いられる。
同様の手法によって参照アームの光路長OPLRを求めることができる。参照アームの光路長OPLRと測定アームの光路長OPLSとが、OCT光路長に関する条件に相当する。
なお、測定アームの光路長及び参照アームの光路長の一方のみを変更可能である場合には、光路長が変更可能な一方のアームの光路長は例えば上記の要領で算出され、且つ、光路長が固定された他方のアームの光路長としては既定の値(設計データ)が適用される。
第1算出部2321は、このようにして求められた参照アームの光路長OPLR、測定アームの光路長OPLS、及びワーキングディスタンスWDを、上記の演算式「D=OPLR−OPLS−WD」に代入することによって、眼軸長の推測値Dを算出することができる。
〈第2算出部2322〉
第2算出部2322による視度の推測値の算出について説明する。一般に、眼底EfのOCTスキャンを行う前には、被検眼Eの視度(屈折力)に応じて、測定アームに配置されたOCT合焦レンズ43が、主制御部211の制御の下に、OCT合焦駆動部43Aによって移動される。この処理は、例えば、スプリット指標を用いた眼底カメラユニット2のオートフォーカス(つまり、撮影合焦レンズ31及びフォーカス光学系60の移動)の結果に基づき行われる。例えば、本実施形態のオートフォーカスは、従来と同様に、撮影合焦レンズ31の移動と、フォーカス光学系60の移動と、OCT合焦レンズ43の移動との連係的な制御によって行われる。
OCT合焦レンズ43の位置又はOCT合焦駆動部43Aの動作状態(又は、撮影合焦レンズ31の位置、若しくは、図示しない撮影合焦駆動部の動作状態)は、例えば、図示しない位置検出器(ポテンショメータ、エンコーダなど)を用いて検出される。或いは、OCT合焦駆動部43A(又は、撮影合焦駆動部)に対する主制御部211の制御内容(制御履歴)に基づいて、OCT合焦レンズ43の位置又はOCT合焦駆動部43Aの動作状態(又は、撮影合焦レンズ31の位置、若しくは、図示しない撮影合焦駆動部の動作状態)を検出するように構成することもできる。撮影合焦レンズ31とOCT合焦レンズ43とが互いに独立に動作するように構成してもよい。この場合、予備的なスキャンによって得られた画像の評価値(例えば、コントラスト)に基づきOCT合焦レンズ43の移動量を決定するように構成することができる。
また、OCT合焦レンズ43の位置又はOCT合焦駆動部43Aのアクチュエータの動作状態(又は、撮影合焦レンズ31の位置、若しくは、撮影合焦駆動部のアクチュエータの動作状態)と、眼の視度の値とを予め対応付けることができる。この対応付けは、例えば、光学系(測定アーム又は撮影光学系30)の設計データに基づき行われる。この対応付けを表す対応情報(テーブル情報、グラフ情報など)が予め作成され、例えば記憶部212に格納される。第2算出部2322は、OCT合焦レンズ43の位置の検出結果(又は、OCT合焦駆動部43Aのアクチュエータの動作状態の検出結果、撮影合焦レンズ31の位置の検出結果、若しくは、撮影合焦駆動部のアクチュエータの動作状態の検出結果)を受け、この位置に対応する視度の値を対応情報から求める。求められた視度の値が被検眼Eの視度の推測値として用いられる。
このようにして、補正値算出部232は、3次元OCTスキャンによって眼底Efの3次元データを収集するための所定の条件から、眼軸長の推測値と、視度の推測値とを求めることができる。なお、補正値算出部232は、眼軸長の推測値及び視度の推測値の一方のみを算出するように構成されてもよい。また、補正値算出部232により算出可能な推測値は眼軸長の推測値及び視度の推測値には限定されず、倍率補正値を算出するために使用可能な被検眼Eの任意の特性の推測値であってよい。
更に、補正値算出部232は、3次元データを収集するための所定の条件から算出された1以上の推測値に基づいて倍率補正値を算出することができる。この処理は、例えば、特許文献3又は5に記載された倍率算出方法を利用して実行される。
倍率補正値は、所定の基準値に対する値として算出される。この基準値は、例えば、ノーマティブデータ400の寸法(例えば、6mm×6mm)に応じた値であってよい。この場合、眼底Efの3次元スキャンは、(x方向の寸法6mm)×(y方向の寸法6mm)の範囲を目標として実施される。前述したように、このような目標範囲を想定してスキャンを行ったとしても、被検眼Eの眼軸長や視度の影響により、実際にスキャンされた範囲が目標範囲よりも大きかったり小さかったりすることがある。
補正値算出部232により算出される倍率補正値は、被検眼Eの眼軸長の推測値や視度の推測値を考慮して算出された、目標範囲に対する実際のスキャン範囲の比率に相当する。換言すると、倍率補正値は、実際のスキャン範囲の寸法を目標範囲の寸法に合わせるための補正係数であり、また、目標範囲の寸法を実際のスキャン範囲の寸法に合わせるための補正係数である。
倍率補正値の算出において、前述した1以上の推測値と異なる眼特性値を用いることができる。この眼特性値の例として、角膜曲率半径や眼内レンズ度数などがある。この眼特性値は、例えば、眼科装置1により取得された値、模型眼などの標準値、又は、その他の既定値であってよい。一例として、眼科装置1により被検眼Eの前眼部に対してOCTが適用された場合、この前眼部OCTで得られたデータから角膜曲率半径を求めることができる。他の例として、グルストランド模型眼における角膜曲率半径の値を用いることができる。更に他の例として、被検眼Eに移植されている眼内レンズの度数を電子カルテ等から取得することができる。
〈倍率補正部233〉
倍率補正部233は、分布データ作成部231により作成された分布データ300の寸法と、ノーマティブデータ400の寸法との少なくとも一方を、補正値算出部232により算出された倍率補正値に基づき変更する。換言すると、倍率補正部233は、補正値算出部232により算出された倍率補正値に基づいて、ノーマティブデータ400と分布データ300との間の相対的寸法を変更する。
前述したように、倍率補正値は、分布データ300を作成するために実施された3次元スキャンのスキャン範囲(xy平面における範囲)の寸法を、ノーマティブデータ400の寸法である目標範囲の寸法に合わせるための第1補正係数であり、また、ノーマティブデータ400の寸法である目標範囲の寸法を、分布データ300を作成するために実施された3次元スキャンのスキャン範囲の寸法に合わせるための第2補正係数である。典型的には、第1補正係数と第2補正係数とは逆数の関係にある。
一例において、倍率補正部233は、分布データ300の寸法に倍率補正値(第1補正係数)を乗算することで、分布データ300の寸法をノーマティブデータ400の寸法に合わせることができる。他の例において、倍率補正部233は、ノーマティブデータ400の寸法に倍率補正値(第2補正係数)を乗算することで、ノーマティブデータ400の寸法を分布データ300の寸法に合わせることができる。更に他の例において、倍率補正部233は、分布データ300及びノーマティブデータ400に(互いに異なる)補正係数を乗算することで、分布データ300の寸法とノーマティブデータ400の寸法とを合わせ込むことができる。
〈データ比較部234〉
データ比較部234は、倍率補正部233により少なくとも一方の寸法が変更されたノーマティブデータ400と分布データ300とを比較する。
例えば、倍率補正部233によりノーマティブデータ400の寸法のみが変更された場合、倍率補正部233は、寸法が変更されたノーマティブデータ400と、分布データ300とを比較する。また、倍率補正部233により分布データ300の寸法のみが変更された場合、データ比較部234は、寸法が変更された分布データ300と、ノーマティブデータ400とを比較する。また、倍率補正部233によりノーマティブデータ400の寸法と分布データ300の寸法の双方が変更された場合、データ比較部234は、寸法が変更されたノーマティブデータ400と、寸法が変更された分布データ300とを比較する。いずれの場合においても、データ比較部234は、双方の寸法が略一致されたノーマティブデータ400と分布データ300とを比較する。
データ比較部234が実行する比較処理は、従来のノーマティブデータ比較解析と同じ要領で実行される。典型的な例として、ノーマティブデータ400は、中心窩が中心に配置された所定の寸法(例えば、6mm×6mm)の矩形領域について定義された標準分布データであり、この矩形領域を格子状に区分して形成された複数の区画のそれぞれに、正常眼の層厚値の正常範囲が割り当てられている。ここで、複数の正常範囲が段階的に設けられていてもよい。また、正常範囲からズレ量に応じて1以上の異常度合が設定されていてもよい。
一方、分布データ300は、例えば、ラスタースキャンが適用された眼底Efの矩形領域内の複数の位置(典型的には、ラスタースキャンに含まれる複数のAスキャンの位置)のそれぞれに、その位置における層厚値(計測値)が割り当てられた計測データである。
ノーマティブデータ400の寸法と分布データ300の寸法とは、倍率補正部233によって略一致されている。データ比較部234は、ノーマティブデータ400と分布データ300との間のレジストレーション(位置合わせ)を行う。
更に、データ比較部234は、分布データ300を、ノーマティブデータ400の複数の区分に対応する複数の区分に分割する。
次に、データ比較部234は、分布データ300の複数の区分のそれぞれに含まれる複数の層厚値に基づく統計値を算出する。この統計値は、例えば、平均値、最大値、最小値、最頻値、中央値、及び、レンジ(最大値と最小値との差)のいずれかである。典型的には、統計値は平均値である。
続いて、データ比較部234は、分布データ300の複数の区分のそれぞれの平均値と、この区分に対応するノーマティブデータ400の区分に割り当てられた正常範囲(及び異常範囲)とを比較する。
平均値が正常範囲に属する場合、分布データ300の当該区分における層厚値は正常と判定される。
一方、平均値が正常範囲に属さない場合、分布データ300の当該区分における層厚値は異常と判定される。このとき、予め設定された異常度合と平均値とを比較することで、分布データ300の当該区分における層厚値の異常度合を判定してもよい。換言すると、2以上の異常範囲のうちのいずれの異常範囲に平均値が属するか判定することができる。
また、データ比較部234は、分布データ300の複数の区分のうちの2以上の区分における平均値に基づいて統計値を算出することができる。この統計値は、例えば、最大値、最小値、平均値、最頻値、中央値、レンジ、標準偏差、分散などであってよい。そして、データ比較部234は、分布データ300における2以上の区分に関する統計値と、ノーマティブデータ400において対応する2以上の区分に関する同種の統計値とを比較することで、分布データ300中の2以上の区分における層厚の正常/異常を判定することができる。
データ比較部234による判定結果は、例えば、分布データ300における層厚値の正常、異常、異常度合などを色分けして提示した比較マップとして表示される。
なお、分布データ300の寸法を変更する場合、分布データ300の基となるデータの寸法を変更するようにしてもよい。図6Bは、このような場合に適用可能なデータ処理部230の構成の例を示す。図6Bに示す例では、倍率補正部233は、データ処理部230により構築された3次元画像データ500の寸法を変更する。分布データ作成部231は、寸法が変更された3次元画像データ500に基づいて分布データ300を形成する。データ比較部234は、寸法が変更された3次元画像データ500に基づく分布データ300と、ノーマティブデータ400とを比較する。
他の例において、3次元画像データの基となるデータの寸法を変更するように構成することが可能である。例えば、3次元スキャンにより収集された3次元データの寸法を変更することができる。或いは、3次元データから形成された複数の断層像(例えば、ラスタースキャンでは複数のBスキャン画像)の寸法と、これら断層像の相対的位置関係(配列間隔)とを変更することができる。
このように、分布データ300の基となるデータの寸法を変更する場合においても、結果として分布データ300の寸法が変更される。よって、分布データ300の寸法の変更(倍率補正)には、分布データ300自体の倍率補正だけでなく、分布データ300の基となるデータの倍率補正も含まれる。
〈動作〉
眼科装置1の動作の例を説明する。なお、患者IDの入力、固視標の提示、固視位置の調整など、従来と同様の準備的な処理は、任意の段階で実施されるものとする。
(S1:アライメント)
まず、眼科装置1は、被検眼Eに対する光学系のアライメントを行う。本例では、アライメント指標を用いたオートアライメントが実行される。ここで、干渉光学系(測定アーム)のフォーカス調整を更に行ってもよい。
(S2:断層像を取得)
ステップS1のアライメントが完了したら、眼科装置1は、眼底EfにOCTを適用して断層像を取得する。この処理は、所定のスキャンモードのOCTスキャンを眼底Efに適用するスキャンステップと、このOCTスキャンにより収集されたデータから断層像を形成する画像形成ステップとを含む。スキャンステップは、主制御部211が、OCTユニット100、光スキャナ44などを制御することによって実行される。
このOCTに適用されるスキャンモードは、例えば、後段のステップS6で行われる3次元OCTが適用される眼底Efの領域を通過するBスキャンである。一例として、3次元OCTスキャンの適用範囲が、中心窩を中心とする6mm×6mmの領域である場合、この領域の中心位置を通過するようにBスキャンの位置を設定することができる。また、Bスキャンの本数は、1以上の任意の数であってよい。例えば、それぞれがスキャン領域の中心位置を通過する横スキャン(x方向に沿うBスキャン)と縦スキャン(y方向に沿うBスキャン)とを実行することができる(つまり、クロススキャンであってよい)。
なお、ステップS2のOCTに適用されるスキャンモードは、Bスキャン又は2以上のBスキャンの組み合わせに限定されない。例えば、サークルスキャンや3次元スキャンなど、任意のスキャンモードをステップS2のOCTに適用することができる。
(S3:断層像は良好か?)
眼科装置1(例えば、データ処理部230)は、ステップS2において良好な断層像が取得されたか否か判定する。この判定処理は、例えば、フレーム内における眼底Efの所定組織の画像の位置(特に、z方向における位置)の判定を少なくとも含み、干渉強度判定や画質判定などを更に含んでいてもよい。位置判定の対象となる所定組織は、例えば、眼底Efの表面(内境界膜)である。これらの判定処理は従来と同じ要領で実行される。
良好な断層像が取得されなかったと判定された場合(S3:No)、処理はステップS4に移行する。一方、良好な断層像が取得されたと判定された場合(S3:Yes)、処理はステップS6に移行する。
(S4:干渉光学系の光路長補正)
ステップS3において、良好な断層像が取得されなかったと判定された場合(S3:No)、主制御部211は、測定アームの光路長補正及び参照アームの光路長補正の少なくとも一方を実行する。この光路長補正は、眼底Efの所定組織の画像がフレームの所定範囲内に描出されるように実行される。
光路長の補正量は、例えば、眼底Efの所定組織の描出位置とフレームの所定範囲との間の位置関係に基づき、データ処理部230によって算出される。つまり、フレームの所定範囲に対する眼底Efの所定組織の描出位置のズレに対応した補正量が算出される。
測定アームの光路長補正は、リトロリフレクタ41を移動するためのリトロリフレクタ駆動部41Aを主制御部211が制御することにより行われる。また、参照アームの光路長補正は、リトロリフレクタ114を移動するためのリトロリフレクタ駆動部114Aを主制御部211が制御することにより行われる。
(S5:干渉光学系のフォーカス調整)
次に、主制御部211は、測定アームのフォーカス調整を行う。このフォーカス調整は、例えば、前述した干渉強度判定や画質判定を利用して行われる。また、スプリット指標を利用してフォーカス調整を行ってもよい。
干渉光学系の光路長補正及びフォーカス調整が行われると、処理はステップS3に戻って新たな断層像が取得され、この新たな断層像が良好であるか判定が行われる。ステップS3及びS4は、ステップS3において「Yes」と判定されるまで繰り返される。なお、例えば、繰り返し回数が所定回数に達したとき、又は、繰り返し処理の実行時間が所定時間に達したとき、撮影エラーを出力させることができる。撮影エラーが出力された場合、例えば、ステップS1からやり直したり、マニュアル調整に移行したりすることが可能である。
(S6:3次元OCTを実行)
ステップS3において、良好な断層像が取得されたと判定された場合(S3:Yes)、眼科装置1は、眼底Efに3次元OCTを適用して3次元画像データ500を取得する。この処理は、所定の3次元スキャンモード(例えば、ラスタースキャン)のOCTスキャンを眼底Efに適用するスキャンステップと、このOCTスキャンにより収集された3次元データから3次元画像データ500を形成する画像形成ステップとを含む。
(S7:干渉光学系の光路長を検出)
主制御部211は、ステップS6においてOCTスキャンが適用されたときの干渉光学系の光路長(測定アームの光路長、参照アームの光路長)を検出する。
測定アームの光路長が可変である場合、ステップS6においてOCTスキャンが適用されたときのリトロリフレクタ41の位置に基づいて測定アームの光路長が求められる。同様に、参照アームの光路長が可変である場合、ステップS6においてOCTスキャンが適用されたときのリトロリフレクタ141の位置に基づいて参照アームアームの光路長が求められる。また、測定アーム(又は、参照アーム)の光路長が固定されている場合、例えば、記憶部212に予め記憶された光路長の値が参照される。
(S8:ワーキングディスタンス値を取得)
更に、主制御部211は、ステップS6においてOCTスキャンが適用されたときのワーキングディスタンスの値を取得する。本例では、例えば、記憶部212に予め記憶されたワーキングディスタンスの既定値WDが参照される。
(S9:眼軸長の推測値を算出)
第1算出部2321は、ステップS7で取得された測定アームの光路長及び参照アームの光路長と、ステップS8で取得されたワーキングディスタンス値とに基づいて、被検眼Eの眼軸長の推測値を算出する。
(S10:合焦レンズの位置を検出)
また、主制御部211は、ステップS6においてOCTスキャンが適用されたときのOCT合焦レンズ43の位置を検出する。なお、OCT合焦レンズ43の移動と、撮影合焦レンズ31及びフォーカス光学系60の移動とが連係的に実行される場合、撮影合焦レンズ31の位置(又は、フォーカス光学系60の位置)からOCT合焦レンズ43の位置を求めてもよい。
なお、OCT合焦レンズ43の位置の検出は、OCT合焦レンズ43自体の位置の検出でもよいし、OCT合焦駆動部43Aのアクチュエータの動作状態の検出でもよい。撮影合焦レンズ31の位置の検出や、フォーカス光学系60の位置の検出においても同様である。
(S11:視度の推測値を算出)
第2算出部2322は、ステップS10で取得されたOCT合焦レンズ43の位置情報に基づいて、被検眼Eの視度の推測値を算出する。
(S12:倍率補正値を算出)
補正値算出部232は、ステップS9で算出された眼軸長の推測値と、ステップS11で算出された視度の推測値とに基づいて、倍率補正値を算出する。
(S13:3次元画像データの寸法を補正)
倍率補正部233は、ステップS12で算出された倍率補正値に基づいて、ステップS6で構築された3次元画像データ500の寸法を補正する。
(S14:層厚分布データを作成)
分布データ作成部231は、ステップS13で寸法が補正された3次元画像データ500に基づいて層厚分布データ(分布データ300)を作成する。
(S15:層厚分布データとノーマティブデータを比較)
データ比較部234は、ステップS14で作成された層厚分布データ300と、ノーマティブデータ400とを比較する。
(S16:比較マップを表示)
主制御部211は、ステップS15で得られた比較結果を表す比較マップを作成して表示部241に表示させる(エンド)。
なお、図7に示す動作例は、図6Bに示すデータ処理部230が適用される場合に実行可能である。これに対し、図6Aに示すデータ処理部230が適用される場合には:分布データ作成部231が、3次元画像データ500に基づいて層厚分布データ300を作成し;補正値算出部232が倍率補正値を算出し;倍率補正部233が、層厚分布データ300及びノーマティブデータ400の少なくとも一方の寸法を倍率補正値に基づき変更して、層厚分布データ300の寸法とノーマティブデータ400の寸法とを実質的に一致させ;データ比較部234が、互いの寸法が実質的に一致された層厚分布データ300とノーマティブデータ400との比較を実行し;主制御部211が、この比較結果を表す比較マップを表示部241に表示させる。
〈変型例〉
上記の実施形態では、2つの輝点像からなるアライメント指標像を参照してアライメントを行っているが、眼科装置に適用可能なアライメント法はこれに限定されない。他のアライメント法が適用された眼科装置では、そのアライメント法に応じた方法で眼軸長の推測値を算出することができる。
例えば、被検眼に光束を投射して形成される角膜反射像の虚像(プルキンエ像)を利用したアライメント法がある(例えば、特開2009−028287号公報を参照)。このアライメント法が適用された眼科装置では、プルキンエ像の位置、つまり角膜の位置を基準として、眼軸長の推測値を算出することができる。例えば、第1算出部2321は、アライメント後におけるプルキンエ像と光学系との間の相対位置と、眼底Efの3次元データが収集されたときの干渉光学系の光路長(測定アームの光路長、参照アームの光路長)と、予め設定された角膜曲率半径の標準値とに基づいて、被検眼Eの眼軸長の推測値を算出することができる。
アライメント状態が好適なとき、プルキンエ像が形成される位置は、角膜曲率半径の半分の距離だけ角膜頂点から眼内方向に偏位した位置であることが知られている。ワーキングディスタンスは、プルキンエ像と光学系(対物レンズ22)との間の距離として取得される。本例では、角膜曲率半径の標準値(又は、その半分の値)が記憶部212に予め記憶される。標準値は、例えば、臨床的に得られた統計値、又は、グルストランド模型眼における値などであってよい。
角膜曲率半径(標準値)をRとし、参照アームの光路長をOPLRとし、測定アームの光路長をOPLSとし、ワーキングディスタンスをWDとし、測定光LSが被検眼Eに入射した位置から眼底Efにおける測定光LSの反射位置までの眼内距離をDとすると、これらパラメータの間には次のような関係がある:OPLR=OPLS+WD+D−R/2(図8を参照)。これより、眼内距離D(つまり眼軸長の推測値D)は次のように表される:D=OPLR−OPLS−WD+R/2。なお、図8の符号Pはプルキンエ像を示す。
第1算出部2321は、上記実施形態と同じ要領で求められた参照アームの光路長OPLR、測定アームの光路長OPLS、及びワーキングディスタンスWDに加え、記憶部212から読み出された角膜曲率半径Rを、上記の演算式「D=OPLR−OPLS−WD+R/2」に代入することによって、眼軸長の推測値Dを算出することができる。
他のアライメント法として、被検眼Eを互いに異なる方向から撮影して取得された2以上の前眼部像を利用したアライメント法がある(例えば、特開2013−248376号公報を参照)。このアライメント法が適用された眼科装置では、前眼部の所定部位の位置、例えば瞳孔の位置を基準として、眼軸長の推測値を算出することができる。例えば、第1算出部2321は、アライメント後における被検眼Eの瞳孔と光学系との間の相対位置と、眼底Efの3次元データが収集されたときの干渉光学系の光路長(測定アームの光路長、参照アームの光路長)と、予め設定された角膜厚の標準値と、予め設定された前房深度の標準値とに基づいて、被検眼Eの眼軸長の推測値を算出することができる。
このアライメント法によれば、例えば、xy方向においては、被検眼Eの瞳孔中心(瞳孔重心)に光学系の光軸が一致され、且つ、z方向においては、瞳孔中心と光学系(対物レンズ22)とが所定のワーキングディスタンスとなるように光学系が配置される。本例では、角膜厚の標準値と、前房深度の標準値とが、記憶部212に予め記憶される。これら標準値は、例えば、臨床的に得られた統計値、又は、グルストランド模型眼における値などであってよい。
角膜厚(標準値)をTとし、前房深度(標準値)をCとし、参照アームの光路長をOPLRとし、測定アームの光路長をOPLSとし、ワーキングディスタンスをWDとし、測定光LSが被検眼Eに入射した位置から眼底Efにおける測定光LSの反射位置までの眼内距離をDとすると、これらパラメータの間には次のような関係がある:OPLR=OPLS+WD+D−T−C(図9を参照)。これより、眼内距離D(つまり眼軸長の推測値D)は次のように表される:D=OPLR−OPLS−WD+T+C。なお、図9に示す符号Qは、瞳孔中心(瞳孔重心)を表す。
第1算出部2321は、上記実施形態と同じ要領で求められた参照アームの光路長OPLR、測定アームの光路長OPLS、及びワーキングディスタンスWDに加え、記憶部212から読み出された角膜厚Tと前房深度Cとを、上記の演算式「D=OPLR−OPLS−WD+T+C」に代入することによって、眼軸長の推測値Dを算出することができる。
上記の実施形態では、OCT合焦レンズ43の位置(又は、それと実質的に同等の情報)に基づいて視度の推測値を求めているが、眼科装置に適用可能な手法はこれに限定されない。例えば、眼底Efに光束を投射して形成される指標像を検出し、この指標像に基づいて視度の推測値を算出することが可能である。
この指標像は、前述したスプリット指標像であってよい。従来と同様に、スプリット指標像は、2つの輝線像からなり、眼底Efに対するフォーカス状態の変化に応じて2つの輝線像の相対位置が変化する。好適なフォーカス状態が実現されたとき、2つの輝線像は同じ直線上に配置される。
2つの輝線像は、例えば、眼底Efの観察画像とともに撮影光学系30によって検出される。第2算出部2322は、観察画像を解析することで2つの輝線像を抽出し、2つの輝線像の相対位置(相対的な偏位方向、相対的な偏位量)を求める。
例えば、2つの輝線像の相対位置と、視度の値との関係を表す関係情報が、記憶部212に予め記憶されている。関係情報に記録された視度の値は、例えば、所定の基準視度(例えば、0ディオプタ)に対する視度のズレ量として定義されている。
第2算出部2332は、観察画像から抽出された2つの輝線像の相対位置に対応する視度の値を、上記の関係情報から求める。この視度の値を、被検眼Eの視度の推測値として用いることができる。
〈作用・効果〉
例示的な実施形態に係る眼科装置の作用及び効果について説明する。
本実施形態の眼科装置(1)は、データ収集部と、分布データ作成部と、補正値算出部と、倍率補正部と、データ比較部とを含む。
データ収集部は、被検眼の眼底に光コヒーレンストモグラフィ(OCT)を適用して3次元データを収集する。ここで、OCTスキャンモードの種別は任意であり、その典型的な例としてラスタースキャンがある。
本実施形態にて説明した構成において、データ収集部は、OCTを実行するための要素群を含み、具体的には、OCTユニット100に含まれる要素群、測定アームを形成する要素群などを含む。
分布データ作成部は、データ収集部により収集された3次元データに基づいて、眼底における所定の計測値の分布データを作成する。計測値の種別は任意であり、その典型的な例として、眼底の所定の1以上の組織の厚み、眼底血管の血流パラメータ(血流速度、血流量など)、眼底血管の密度などがある。
本実施形態にて説明した構成において、分布データ作成部は、データ収集部により収集された3次元データから複数の断層像データを形成する画像形成部220、これら断層像データから3次元画像データを構築するデータ処理部230の要素、この3次元画像データから分布データを作成する分布データ作成部231などを含む。
補正値算出部は、データ収集部が3次元データを収集するための所定の条件に基づいて倍率補正値を算出する。この条件の種別は任意であり、その典型的な例として、アライメントに関する条件、フォーカスに関する条件、OCT光学系(干渉光学系)の光路長に関する条件などがある。ここで、光路長に関する条件としては、干渉光学系の測定アームの光路長及び参照アームの光路長がある。本実施形態にて説明した構成において、補正値算出部は、補正値算出部232を含む。
倍率補正部は、分布データが表す所定の計測値について予め作成された標準分布データの寸法と分布データの寸法との少なくとも一方を、補正値算出部により算出された倍率補正値に基づき変更する。ここで、分布データの寸法を変更する場合、分布データ自体の寸法を変更してもよいし、分布データの基になったデータ(例えば、3次元データ、断層像データ、3次元画像データなど)の寸法を補正してもよい。標準分布データの種別は任意であり、その典型的な例として、正常眼(健常眼)のサンプルに基づき作成されたノーマティブデータ、特定の疾患の診断を受けた眼のサンプルに基づき作成された病眼データ(例えば、強度近視眼データ、緑内障眼データ、加齢黄斑変性症眼データなど)、特定の属性(年齢層、性別、人種、病歴など)を有する人の眼のサンプルに基づき作成されたデータなどがある。本実施形態にて説明した構成において、倍率補正部は、倍率補正部233を含む。
データ比較部は、倍率補正部により少なくとも一方の寸法が変更された標準分布データと分布データとを比較する。この比較処理は、典型的には、分布データ中の各データ(計測値)に対応する標準分布データ中のデータ(標準計測値)を特定する処理と、互いに対応関係にある計測値と標準計測値とを比較する処理とを含む。本実施形態にて説明した構成において、データ比較部は、データ比較部234を含む。
このように構成された例示的な実施形態によれば、他の装置で取得されたデータを参照することなく、分布データと標準分布データとの間の相対的な寸法調整(つまり、倍率補正)を行うことができる。したがって、他の装置で取得されたデータを用いて倍率補正を行う従来の技術と異なり、健康診断や検診などのスクリーニング検査に本実施形態を適用することが可能である。また、外部装置を有しない施設で行われる検査に本実施形態を適用することも可能である。
例示的な実施形態において、被検眼の眼軸長の推測値から倍率補正値を求めることが可能である。そのために適用可能な構成の典型的な例において、補正値算出部は、データ収集部が3次元データを収集するための所定の条件に基づいて被検眼の眼軸長の推測値を算出する第1算出部を含んでいてよい。更に、補正値算出部は、少なくとも眼軸長の推測値に基づいて倍率補正値を算出するように構成されていてよい。ここで、眼軸長の推測値は、眼軸長を直接に計測する手法(例えば、眼軸長測定装置)で得られた値ではなく、間接的な計測手法によって得られた値である。本実施形態にて説明した構成において、第1算出部は、第1算出部2321を含む。
このような例示的な構成によれば、他の装置で取得された被検眼の眼軸長の計測値を参照することなく、データ収集部が3次元データを収集するための所定の条件に基づいて算出された眼軸長の推測値を用いて倍率補正を行うことが可能である。
更に、例示的な実施形態において、眼科装置は、被検眼に対するデータ収集部のアライメントを行うためのアライメント部を含んでいてよい。加えて、データ収集部は、干渉光学系と、光路長変更部とを含んでいてよい。干渉光学系は、従来のOCT光学系と同様に、光源からの光を測定光と参照光とに分割し、測定光を眼底に投射し、測定光の被検眼からの戻り光と参照光とを重ね合わせて干渉光を生成し、干渉光を検出するように構成されていてよい。光路長変更部は、測定光及び参照光の少なくとも一方の光路長を変更するように構成されていてよい。そして、第1算出部は、少なくともアライメントの結果と測定光の光路長と参照光の光路長とに基づいて眼軸長の推測値を算出するように構成されていてよい。ここで、アライメントの結果とは、例えば、アライメントにより達成された状態を表す任意のパラメータであってよい。
本実施形態にて説明した構成において、アライメント部は、アライメント光学系50、照明光学系10、撮影光学系30などを含む。また、干渉光学系は、光源ユニット101からの光を測定光LSと参照光LRとに分割する要素(ファイバカプラ105)と、測定光LSを眼底Efに投射する要素群(つまり、測定アームを形成する要素群)と、測定光LSの被検眼Eからの戻り光と参照光LRとを重ね合わせて干渉光LCを生成する要素(ファイバカプラ122)と、干渉光LCを検出する要素(検出器125)とを含む。
このような例示的な構成によれば、アライメントに関する条件とOCT光路長に関する条件とに基づいて被検眼の眼軸長の推測値を算出するように構成されているので、他の装置で取得された被検眼の眼軸長の計測値を参照することなく倍率補正を行うことが可能である。
例示的な実施形態において、アライメント部は、被検眼に光束を投射して形成されるプルキンエ像に基づいてアライメントを行うように構成されていてよい。更に、第1算出部は、アライメント後におけるプルキンエ像とデータ収集部との間の相対位置と、データ収集部により3次元データが収集されたときの測定光の光路長及び参照光の光路長と、予め設定された角膜曲率半径の標準値とに基づいて、被検眼の眼軸長の推測値を算出するように構成されていてよい。
ここで、アライメント後におけるプルキンエ像とデータ収集部との間の相対位置は、例えば、プルキンエ像に基づくアライメントによって達成された状態におけるプルキンエ像とデータ収集部との間の相対位置、又は、プルキンエ像に基づくアライメントによって達成された状態を維持するためのトラッキングが行われているときのプルキンエ像とデータ収集部との間の相対位置であってよい。角膜曲率半径の標準値は、角膜曲率半径の標準値の半分の値であってもよい。また、標準値は、例えば、臨床的に得られた統計値、又は、模型眼における値などであってよい。
このような例示的な構成によれば、プルキンエ像に基づくアライメントに関する条件(例えば、プルキンエ像と光学系との間の距離として設定されたワーキングディスタンス)と、OCT光路長に関する条件と、角膜曲率半径の標準値とに基づいて、被検眼の眼軸長の推測値を算出するように構成されているので、他の装置で取得された被検眼の眼軸長の計測値を参照することなく倍率補正を行うことが可能である。
例示的な実施形態において、アライメント部は、被検眼を互いに異なる方向から撮影して取得された2以上の前眼部像に基づいてアライメントを行うように構成されていてよい。更に、第1算出部は、アライメント後における被検眼の瞳孔とデータ収集部との間の相対位置と、3次元データが収集されたときの測定光の光路長及び参照光の光路長と、予め設定された角膜厚の標準値と、予め設定された前房深度の標準値とに基づいて、被検眼の眼軸長の推測値を算出するように構成されていてよい。
ここで、アライメント後における被検眼の瞳孔とデータ収集部との間の相対位置は、例えば、前眼部のステレオ撮影を利用したアライメントによって達成された状態における瞳孔とデータ収集部との間の相対位置、又は、前眼部のステレオ撮影を利用したアライメントによって達成された状態を維持するためのトラッキングが行われているときの瞳孔とデータ収集部との間の相対位置であってよい。角膜厚の標準値及び前房深度の標準値は、例えば、臨床的に得られた統計値、又は、模型眼における値などであってよい。
このような例示的な構成によれば、前眼部のステレオ撮影を利用したアライメントに関する条件(例えば、瞳孔中心と光学系との間の距離として設定されたワーキングディスタンス)と、OCT光路長に関する条件と、角膜厚の標準値と、前房深度の標準値とに基づいて、被検眼の眼軸長の推測値を算出するように構成されているので、他の装置で取得された被検眼の眼軸長の計測値を参照することなく倍率補正を行うことが可能である。
例示的な実施形態において、被検眼の視度の推測値から倍率補正値を求めることが可能である。そのために適用可能な構成の典型的な例において、補正値算出部は、データ収集部が3次元データを収集するための所定の条件に基づいて被検眼の視度の推測値を算出する第2算出部を含んでいてよい。更に、補正値算出部は、少なくとも視度の推測値に基づいて倍率補正値を算出するように構成されていてよい。ここで、視度の推測値は、視度(眼屈折力)を直接に計測する手法(例えば、レフラクトメーター)で得られた値ではなく、間接的な計測手法によって得られた値である。本実施形態にて説明した構成において、第2算出部は、第2算出部2322を含む。
このような例示的な構成によれば、他の装置で取得された被検眼の視度の計測値を参照することなく、データ収集部が3次元データを収集するための所定の条件に基づいて算出された視度の推測値を用いて倍率補正を行うことが可能である。
更に、例示的な実施形態において、データ収集部は、前述した干渉光学系を含んでいてよい。加えて、眼科装置は、干渉光学系のフォーカス調整を行うためのフォーカス調整部を含んでいてよい。また、第2算出部は、干渉光学系のフォーカス状態に基づいて被検眼の視度の推測値を算出するように構成されていてよい。ここで、干渉光学系のフォーカス状態とは、例えば、フォーカス調整により達成された状態を表す任意のパラメータであってよい。本実施形態にて説明した構成において、フォーカス調整部は、フォーカス光学系60、照明光学系10、撮影光学系30などを含む。
このような例示的な構成によれば、フォーカスに関する条件に基づいて被検眼の視度の推測値を算出するように構成されているので、他の装置で取得された被検眼の視度の計測値を参照することなく倍率補正を行うことが可能である。
更に、例示的な実施形態において、フォーカス調整部は、測定光の光路に配置された合焦レンズと、測定光の光路に沿って合焦レンズを移動する駆動部とを含んでいてよい。加えて、第2算出部は、少なくとも測定光の光路における合焦レンズの位置に基づいて視度の推測値を算出するように構成されていてよい。本実施形態にて説明した構成において、合焦レンズはOCT合焦レンズ43であり、且つ、駆動部はOCT合焦駆動部43Aである。
このような例示的な構成によれば、フォーカスに関する条件としての合焦レンズの位置に基づいて被検眼の視度の推測値を算出するように構成されているので、他の装置で取得された被検眼の視度の計測値を参照することなく倍率補正を行うことが可能である。
また、例示的な実施形態において、フォーカス調整部は、眼底に光束を投射して形成される指標像を検出するように構成されていてよい。加えて、第2算出部は、検出された指標像に基づいて視度の推測値を算出するように構成されていてよい。本実施形態にて説明した構成において、指標像はスプリット指標像(2つの輝線像)である。
このような例示的な構成によれば、フォーカスに関する条件としての指標像の検出結果に基づいて被検眼の視度の推測値を算出するように構成されているので、他の装置で取得された被検眼の視度の計測値を参照することなく倍率補正を行うことが可能である。
〈他の実施形態〉
他の実施形態において、眼科装置はOCT機能を有していなくてもよい。この眼科装置は、少なくとも、外部からデータを受け付ける受付部と、このデータを処理するプロセッサとを含む。その具体例として、コンピュータ(情報処理装置)、眼科検査装置、眼科撮影装置などがある。このような眼科装置の構成例を図10A、図10B、及び図11に示す。
図10Aに示す眼科装置600は、分布データ作成部631と、補正値算出部632と、倍率補正部633と、データ比較部634と、受付部640とを含む。
受付部640は、被検眼の眼底にOCTを適用して収集された3次元データと、この3次元データを収集するための所定の条件とを受け付ける。3次元データと所定の条件とは、例えば、前述した眼科装置1と同様のOCT機能を有する眼科装置(外部眼科装置と呼ぶ)によって取得される。眼科装置600は、例えば、通信回線、記録媒体、若しくは他の装置、又はこれらの任意の組み合わせを介して、外部眼科装置から3次元データと所定の条件とを受け付けることができる。
通信回線の形態は任意であってよく、例えば、有線回線、無線回線、専用線、インターネット、WAN、LANなどのうちのいずれか1以上を含んでよい。通信回線を介してデータを取得する場合、受付部640は、外部装置との間でデータ通信を行うための通信インターフェイスを含む。
記録媒体の種別は任意であってよく、例えば、磁気テープ、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、フラッシュメモリ、ソリッドステートドライブなど、任意の非一時的な(non-transitory)記録媒体であってよい。記録媒体を介してデータを取得する場合、受付部640は、記録媒体からデータを読み取る装置を含む。
分布データ作成部631は、受付部640により受け付けられた3次元データに基づいて、眼底における所定の計測値の分布データ660を作成する。この処理は、前述した分布データ作成部231と同じ要領で実行される。
補正値算出部632は、受付部640により受け付けられた所定の条件に基づいて倍率補正値を算出する。この処理は、前述した補正値算出部232と同じ要領で実行される。
倍率補正部633は、分布データ660が表す所定の計測値について予め作成された標準分布データ(ノーマティブデータ670)の寸法と分布データ660の寸法との少なくとも一方を倍率補正値に基づき変更する。この処理は、前述した倍率補正部233と同じ要領で実行される。
データ比較部634は、倍率補正部633により少なくとも一方の寸法が変更されたノーマティブデータ670と分布データ660とを比較する。この処理は、前述したデータ比較部234と同じ要領で実行される。
このように構成された例示的な実施形態によれば、他の装置で取得されたデータを参照することなく、分布データと標準分布データとの間の倍率補正を行うことが可能である。
前述した眼科装置1について説明された任意の事項を、本実施形態に係る眼科装置600に組み合わせることが可能である。
図10Bに示す眼科装置700は、分布データ作成部731と、補正値算出部732と、倍率補正部733と、データ比較部734と、受付部740とを含む。
受付部740は、前述した受付部640と同様に構成され、被検眼の眼底にOCTを適用して収集された3次元データ750と、3次元データ750を収集するための所定の条件とを受け付ける。
補正値算出部732は、受付部740により受け付けられた所定の条件に基づいて倍率補正値を算出する。この処理は、前述した補正値算出部232と同じ要領で実行される。
倍率補正部733は、受付部740により受け付けられた3次元データ750の寸法を倍率補正値に基づき変更する。この処理は、前述した倍率補正部233と同じ要領で実行される。
分布データ作成部731は、倍率補正部733により寸法が変更された3次元データ750に基づいて、眼底における所定の計測値の分布データ760を作成する。この処理は、前述した分布データ作成部231と同じ要領で実行される。
データ比較部734は、分布データ作成部731により作成された分布データ760と、分布データ760が表す所定の計測値について予め作成された標準分布データ(ノーマティブデータ770)とを比較する。この処理は、前述したデータ比較部234と同じ要領で実行される。
このように構成された例示的な実施形態によれば、他の装置で取得されたデータを参照することなく、分布データと標準分布データとの間の倍率補正を行うことが可能である。
前述した眼科装置1について説明された任意の事項を、本実施形態に係る眼科装置700に組み合わせることが可能である。
実施形態に係るプログラムは、被検眼の眼底にOCTを適用して収集された3次元データと、この3次元データを収集するための所定の条件とを受け付けたコンピュータを、図10A(又は図10B)に示す分布データ作成部631(731)、補正値算出部632(732)、倍率補正部633(733)、及びデータ比較部634(734)として機能させる。このようなプログラムを非一時的な記録媒体に格納することができる。
図11に示す眼科装置800は、補正値算出部832と、倍率補正部833と、データ比較部834と、受付部840とを含む。
受付部840は、被検眼の眼底にOCTを適用して収集された3次元データに基づき作成された眼底における所定の計測値の分布データ860と、この3次元データを収集するための所定の条件とを受け付ける。受付部840は、前述した受付部640と同様に構成される。
補正値算出部832は、受付部840により受け付けられた所定の条件に基づいて倍率補正値を算出する。この処理は、前述した補正値算出部232と同じ要領で実行される。
倍率補正部833は、受付部840により受け付けられた分布データ860が表す所定の計測値について予め作成された標準分布データ(ノーマティブデータ870)の寸法と分布データ860の寸法との少なくとも一方を倍率補正値に基づき変更する。この処理は、前述した倍率補正部233と同じ要領で実行される。
データ比較部834は、倍率補正部833により少なくとも一方の寸法が変更されたノーマティブデータ870と分布データ860とを比較する。この処理は、前述したデータ比較部234と同じ要領で実行される。
このように構成された例示的な実施形態によれば、他の装置で取得されたデータを参照することなく、分布データと標準分布データとの間の倍率補正を行うことが可能である。
前述した眼科装置1について説明された任意の事項を、本実施形態に係る眼科装置800に組み合わせることが可能である。
実施形態に係るプログラムは、被検眼の眼底にOCTを適用して収集された3次元データと、この3次元データを収集するための所定の条件とを受け付けたコンピュータを、図11に示す補正値算出部832、倍率補正部833、及びデータ比較部834として機能させる。このようなプログラムを非一時的な記録媒体に格納することができる。
外部眼科装置と眼科装置600(700)の双方が倍率補正機能を有する場合、外部眼科装置が3次元データに倍率補正を適用したか否かを示す情報を眼科装置600(700)に入力することができる。この情報は、例えば、3次元データ及び所定の条件に付帯される。外部眼科装置により既に倍率補正が行われた場合、眼科装置600(700)は、当該3次元データ又はそれに基づく分布データに対する倍率補正は行わない。或いは、眼科装置600(700)は、外部眼科装置が当該3次元データに適用した倍率補正が適正であるか確認することができる。一方、外部眼科装置による倍率補正が行われなかった場合、眼科装置600(700)は、当該3次元データ又はそれに基づく分布データに対する倍率補正を実行する。
同様に、外部眼科装置と眼科装置800の双方が倍率補正機能を有する場合、外部眼科装置が分布データに倍率補正を適用したか否かを示す情報を眼科装置800に入力することができる。この情報は、例えば、分布データ及び所定の条件に付帯される。外部眼科装置により既に倍率補正が行われた場合、眼科装置800は、当該分布データに対する倍率補正は行わない。或いは、眼科装置800は、外部眼科装置が当該分布データに適用した倍率補正が適正であるか確認することができる。一方、外部眼科装置による倍率補正が行われなかった場合、眼科装置800は、当該分布データに対する倍率補正を実行する。
〈第2実施形態〉
分布データが表す眼底の範囲が標準分布データの定義範囲と大きく異なる場合など、第1実施形態で説明した倍率補正では対応できない場合がある。本実施形態は、例えばこのような場合に適用可能である。
本実施形態に係る眼科装置1000は、データ収集部1100と、分布データ作成部1200と、データ補填部1300と、データ比較部1400とを含む。
データ収集部1100は、被検眼の眼底にOCTを適用して3次元データを収集する。この処理は、第1実施形態に係る眼科装置1のデータ収集部と同じ要領で実行される。
分布データ作成部1200は、データ収集部1100により収集された3次元データに基づいて、眼底における所定の計測値の分布データを作成する。この処理は、第1実施形態における分布データ作成部231と同じ要領で実行される。
分布データが表す所定の計測値について予め作成された標準分布データの一部に対応するデータを分布データが含まない場合、データ補填部1300は、所定の情報に基づいてこの分布データを補填する。典型的な例において、所定の計測値は眼底の層厚値であり、分布データは層厚分布データであり、標準分布データは層厚のノーマティブデータである。
標準分布データの一部に対応するデータを分布データが含むか否かの判定は、任意のパラメータを用いた任意の処理によって実行することができる。例えば、被検眼の眼軸長が非常に短く、分布データが表す範囲が標準分布データの定義範囲よりも実質的に小さい場合がある。このようなケースを考慮し、被検眼について事前に測定された眼軸長の値と既定閾値とを比較し、眼軸長の測定値が既定閾値以下である場合に、補填処理を行うように構成することができる。或いは、第1実施形態と同じ要領で取得された眼軸長の推測値と既定閾値とを比較し、眼軸長の推測値が既定閾値以下である場合に、補填処理を行うように構成することができる。なお、OCTスキャンが適用された範囲外の位置における計測値を取得したい場合などにも、補填処理を適用することが可能である。
補填処理の例を説明する。一例において、補填処理は、臨床データや解剖データに基づき予め作成された演算式を用いて実行される。この演算式は、例えば、眼軸長の値、視度の値、眼底の所定部位(例えば、中心窩、視神経乳頭)からの距離、眼底の所定部位に対する方向、眼底の形状(例えば、眼底表面の湾曲、所定組織の形状)など、1以上の任意のパラメータを変数として定義される。更に、この演算式は、臨床データや解剖データに基づき算出された係数を含んでいてよい。
データ補填部1300は、被検眼について事前に行われた検査で得られたデータ(例えば、測定データ、撮影データ、解析データ)、3次元データを収集するための所定の条件、画像データを取得するための所定の条件などから、1以上の所定のパラメータのそれぞれについての値を求め、求められた1以上のパラメータ値を上記演算式の変数として設定する。データ補填部1300は、1以上のパラメータ値が代入された上記演算式から、OCTスキャンが適用された範囲外の位置における計測値を算出することができる。
データ補填部1300が実行可能な処理の他の例を説明する。本例では、人工知能技術が利用される。本例のデータ補填部1300は、例えば、知識獲得プロセッサと、推論プロセッサとを含む。なお、知識獲得プロセッサは外部のコンピュータに設けられていてもよい。
知識獲得プロセッサ及び/又は推論プロセッサは、例えば、眼科装置1000及び他の眼科装置により取得された多数の分布データ、多数の画像データ、多数の解析データ、その他の情報(例えば、被検者情報、電子カルテ情報、読影レポートなど、任意の医療情報)などを処理することが可能である。
知識獲得プロセッサは、事前に収集されたデータに基づいて機械学習及びデータマイニングの少なくとも一方を実行することにより知識を獲得する。獲得される知識は、眼底に関する所定の計測値(例えば、層厚値)の分布に関する知識を含む。
機械学習及び/又はデータマイニングに用いられるデータは、任意の医学的知識、他の学問に関する知識、学問以外の領域に関する知識を含んでよい。このような知識は、例えば、次のいずれかを含んでいてもよい:専門書(医学書など)に基づく知識;論文(医学論文など)に基づく知識;公的組織又は民間組織により作成された情報(診療ガイドラインなど)に基づく知識;辞書(医学辞書など)に基づく知識;コーパス(医学コーパスなど)に基づく知識;知識ベース(医学知識ベース)に基づく知識;他の機械学習により得られた知識;他のデータマイニングにより得られた知識;これら以外の情報及び/又は方法で得られた知識;これらのうちのいずれか2以上の組み合わせからの得られた知識。
また、機械学習及び/又はデータマイニングに用いられるデータは、上記のような知識を得るために使用された情報やデータを含んでよい。例えば、機械学習及び/又はデータマイニングに用いられるデータは、医学書、医学論文、診療ガイドライン、医学辞書、医学コーパス、医学知識ベース、機械学習のためのデータセット(学習データ、訓練データなど)、データマイニングのためのデータセット(ビッグデータなど)などを含んでいてもよい。
なお、知識とは、例えば、認識及び明示的表現が可能な情報を含み、経験的知識(経験や学習により獲得した知識)及び理論的知識(専門的情報の理論的背景知識や体系)の少なくとも一方を含む。典型的な知識として、事実、ルール、法則、判断基準、常識、ノウハウ、辞書、コーパスなどがある。また、知識には、人工知能プロセッサ(人工知能エンジンなどとも呼ばれる)が実行する処理に関する情報が含まれてもよい。例えば、知識は、ニューラルネットワークにおける重みパラメータやバイアスパラメータを含んでいてよい。
機械学習において、知識獲得プロセッサは、例えば、上記のようにして収集されたデータを(主として統計的に)解析することで、このデータから規則、ルール、知識表現、判断基準などを抽出し、抽出された情報に基づいて後述の推論のアルゴリズムを発展させる。
知識獲得プロセッサに適用可能な機械学習アルゴリズムは任意である。機械学習アルゴリズムの例として、教師あり学習、教師なし学習、半教師あり学習、トランスダクション、マルチタスク学習などがある。また、知識獲得プロセッサにより実行される機械学習に適用可能な技法として、決定木学習、相関ルール学習、ニューラルネットワーク、遺伝的プログラミング、帰納論理プログラミング、サポートベクターマシン、クラスタリング、ベイジアンネットワーク、強化学習、表現学習などがある。
データマイニングにおいて、知識獲得プロセッサは、統計学、パターン認識、人工知能などのデータ解析技法を上記のようなデータに適用することによって知識を獲得する。
知識獲得プロセッサにより実行されるデータマイニングに適用可能な解析手法として、頻出パターン抽出、クラス分類、回帰分析、クラスタリングなどがある。
知識獲得プロセッサは、任意の画像処理や解析処理を実行可能であってよい。画像処理の例として、画像の拡大・縮小、圧縮・伸長、回転、2値化、グレイスケール化、疑似カラー化、コントラスト調整、平滑化、ヒストグラム、色情報抽出、ガンマ補正、色補正、輪郭抽出(エッジ検出)、ノイズ除去、寸法計測、特徴抽出、パターン認識、レンダリング、断面変換、特性マップ作成などがある。解析処理の例として、セグメンテーション、所定組織の画像領域の特定、所定組織の厚み(層厚値)の算出、眼底の位置と層厚値との間の関係の導出、眼底の複数の位置における複数の層厚値の間の関係の導出などがある。
本実施形態において、知識獲得プロセッサは、少なくとも、OCT装置により取得された眼底の3次元画像データに基づいて、機械学習及びデータマイニングの少なくとも一方を実行することができる。
知識獲得プロセッサにより獲得された知識は、所定の記憶装置に保存される。この記憶装置には、知識獲得プロセッサにより獲得された知識だけでなく、前述した各種の知識や、知識獲得処理にて使用されたデータが保存されてもよい。
推論プロセッサは、例えば、データ収集部1100により収集された3次元データ、この3次元データに基づき構築された3次元画像データ、この3次元画像データに基づき作成された分布データのいずれかと、知識獲得プロセッサにより獲得された知識とに基づいて、推論を実行する。
この推論は、分布データが含まないデータを求める処理である。例えば、分布データが得られた眼底の範囲の外部の位置における所定の計測値(例えば、層厚値)を、当該分布データから求める処理である。更に、この推論は、分布データが得られた眼底の範囲の外部の位置であって標準分布データの定義範囲内の位置における所定の計測値を、当該分布データから求める処理であってよい。このような推論によって、当該分布データに対する補填処理が実行される。つまり、当該分布データを取得するためのOCTスキャンの範囲の外部における計測値を推測することができる。それにより、例えば、標準分布データの定義範囲の一部に対応するデータのみを含む分布データから、標準分布データの定義範囲の全体に対応する分布データを作成することができる。
知識獲得プロセッサが機械学習を実行するように構成されている場合、推論プロセッサは、機械学習により発展された推論アルゴリズムを利用して推論を行うことが可能である。
知識獲得プロセッサがデータマイニングを実行するように構成されている場合、推論プロセッサは、データマイニングにより獲得された知識を利用して推論を行うことができる。
知識獲得プロセッサが機械学習及びデータマイニングの双方を実行するように構成されている場合、推論プロセッサは、機械学習により発展された推論アルゴリズム及びデータマイニングにより獲得された知識の少なくとも一方を利用して推論を行うことができる。
なお、推論とは、例えば、既知情報から未知情報を導くことを意味する。推論には、演繹推論(deduction)、帰納推論(induction)、発想推論(abduction)、完全な知識に基づく推論、不完全な知識に基づく推論、オブジェクト知識レベルの推論、メタ知識レベルの推論などが含まれる。推論は、医学的な知識、他の分野における専門知識、一般的な知識、人工知能技術により獲得された知識などを利用して実行される。
データ比較部1400は、データ補填部1300により補填された分布データと標準分布データとを比較する。この処理は、第1実施形態におけるデータ比較部234と同じ要領で実行される。
このように構成された例示的な実施形態によれば、第1実施形態に係る処理を好適に適用できない場合であっても、分布データに補填処理を適用してノーマティブデータ比較解析などを行うことが可能である。また、OCTスキャンが適用されていない位置における計測値を取得したい場合などにおいても、分布データに補填処理を適用することが可能である。
他の実施形態において、眼科装置はOCT機能を有していなくてもよい。この眼科装置は、少なくとも、外部からデータを受け付ける受付部と、このデータを処理するプロセッサとを含む。その具体例として、コンピュータ(情報処理装置)、眼科検査装置、眼科撮影装置などがある。
このような眼科装置の一例において、受付部は、被検眼の眼底にOCTを適用して収集された3次元データを受け付ける。分布データ作成部は、この3次元データに基づいて、眼底における所定の計測値の分布データを作成する。分布データが表す所定の計測値について予め作成された標準分布データの一部に対応するデータを分布データが含まない場合、データ補填部は、所定の情報に基づいて分布データを補填する。データ比較部は、補填後の分布データと標準分布データとを比較する。
他の例に係る眼科装置において、受付部は、被検眼の眼底にOCTを適用して収集された3次元データに基づき作成された眼底における所定の計測値の分布データを受け付ける。分布データが表す所定の計測値について予め作成された標準分布データの一部に対応するデータを分布データが含まない場合、データ補填部は、所定の情報に基づいて分布データを補填する。データ比較部は、補填後の分布データと標準分布データとを比較する。
第1実施形態において説明された任意の事項を、本実施形態に係る眼科装置に組み合わせることが可能である。
本実施形態に係る処理をコンピュータに実行させるプログラムを構築することができる。
第1の例に係るプログラムは、被検眼の眼底にOCTを適用して収集された3次元データを受け付けたコンピュータを、以下のプロセッサのそれぞれとして機能させる:この3次元データに基づいて、眼底における所定の計測値の分布データを作成する分布データ作成部;分布データが表す所定の計測値について予め作成された標準分布データの一部に対応するデータを分布データが含まない場合に、所定の情報に基づいて分布データを補填するデータ補填部;補填後の分布データと標準分布データとを比較するデータ比較部。
第2の例に係るプログラムは、被検眼の眼底にOCTを適用して収集された3次元データに基づき作成された眼底における所定の計測値の分布データを受け付けたコンピュータを、以下のプロセッサのそれぞれとして機能させる:所定の計測値について予め作成された標準分布データの一部に対応するデータを分布データが含まない場合に、所定の情報に基づいて分布データを補填するデータ補填部;補填後の分布データと標準分布データとを比較するデータ比較部。
以上に説明した構成は、この発明の実施態様の例に過ぎない。よって、この発明の要旨の範囲内における任意の変形(省略、置換、付加等)を施すことが可能である。