例示的な実施形態に係る血流計測装置について図面を参照しながら詳細に説明する。実施形態の血流計測装置は、OCTを利用して眼底のデータを収集し、血流動態を表す情報(血流情報)を生成する。本明細書にて引用された文献の開示内容を含む任意の公知技術を、実施形態に援用することが可能である。
以下の実施形態では、フーリエドメインOCT(例えば、スウェプトソースOCT)を用いて生体眼の眼底を計測することが可能な血流計測装置について説明する。OCTのタイプはスウェプトソースには限定されず、例えばスペクトラルドメインOCT又はタイムドメインOCTであってもよい。実施形態の血流計測装置はOCT装置と眼底カメラを組み合わせた装置であるが、眼底カメラ以外の眼底撮影装置とOCT装置とを組み合わせてもよい。そのような眼底撮影装置の例として、走査型レーザー検眼鏡(SLO)、スリットランプ顕微鏡、眼科手術用顕微鏡などがある。
〈第1の実施形態〉
〈構成〉
図1に示すように、血流計測装置1は、眼底カメラユニット2、OCTユニット100及び演算制御ユニット200を含む。眼底カメラユニット2には、被検眼の正面画像を取得するための光学系や機構が設けられている。OCTユニット100には、OCTを実行するための光学系や機構の一部が設けられている。OCTを実行するための光学系や機構の他の一部は、眼底カメラユニット2に設けられている。演算制御ユニット200は、各種の演算や制御を実行する1以上のプロセッサを含む。これらに加え、被検者の顔を支持するための部材(顎受け、額当て等)や、OCTの対象部位を切り替えるためのレンズユニット(例えば、前眼部OCT用アタッチメント)等の任意の要素やユニットが血流計測装置1に設けられてもよい。
本明細書において「プロセッサ」は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、プログラマブル論理デバイス(例えば、SPLD(Simple Programmable Logic Device)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)、FPGA(Field Programmable Gate Array))等の回路を意味する。プロセッサは、例えば、記憶回路や記憶装置に格納されているプログラムを読み出し実行することで、実施形態に係る機能を実現する。
〈眼底カメラユニット2〉
眼底カメラユニット2には、被検眼Eの眼底Efを撮影するための光学系が設けられている。取得される眼底Efの画像(眼底像、眼底写真等と呼ばれる)は、観察画像、撮影画像等の正面画像である。観察画像は、近赤外光を用いた動画撮影により得られる。撮影画像は、フラッシュ光を用いた静止画像である。
眼底カメラユニット2は、照明光学系10と撮影光学系30とを含む。照明光学系10は被検眼Eに照明光を照射する。撮影光学系30は、被検眼Eからの照明光の戻り光を検出する。OCTユニット100からの測定光は、眼底カメラユニット2内の光路を通じて被検眼Eに導かれ、その戻り光は、同じ光路を通じてOCTユニット100に導かれる。
照明光学系10の観察光源11から出力された光(観察照明光)は、凹面鏡12により反射され、集光レンズ13を経由し、可視カットフィルタ14を透過して近赤外光となる。更に、観察照明光は、撮影光源15の近傍にて一旦集束し、ミラー16により反射され、リレーレンズ系17、リレーレンズ18、絞り19、及びリレーレンズ系20を経由する。そして、観察照明光は、孔開きミラー21の周辺部(孔部の周囲の領域)にて反射され、ダイクロイックミラー46を透過し、対物レンズ22により屈折されて被検眼E(眼底Ef)を照明する。観察照明光の被検眼Eからの戻り光は、対物レンズ22により屈折され、ダイクロイックミラー46を透過し、孔開きミラー21の中心領域に形成された孔部を通過し、ダイクロイックミラー55を透過し、撮影合焦レンズ31を経由し、ミラー32により反射される。更に、この戻り光は、ハーフミラー33Aを透過し、ダイクロイックミラー33により反射され、集光レンズ34によりイメージセンサ35の受光面に結像される。イメージセンサ35は、所定のフレームレートで戻り光を検出する。なお、撮影光学系30のフォーカスは、眼底Ef又は前眼部に合致するように調整される。
撮影光源15から出力された光(撮影照明光)は、観察照明光と同様の経路を通って眼底Efに照射される。被検眼Eからの撮影照明光の戻り光は、観察照明光の戻り光と同じ経路を通ってダイクロイックミラー33まで導かれ、ダイクロイックミラー33を透過し、ミラー36により反射され、集光レンズ37によりイメージセンサ38の受光面に結像される。
液晶ディスプレイ(LCD)39は固視標(固視標画像)を表示する。LCD39から出力された光束は、その一部がハーフミラー33Aに反射され、ミラー32に反射され、撮影合焦レンズ31及びダイクロイックミラー55を経由し、孔開きミラー21の孔部を通過する。孔開きミラー21の孔部を通過した光束は、ダイクロイックミラー46を透過し、対物レンズ22により屈折されて眼底Efに投射される。
LCD39の画面上における固視標画像の表示位置を変更することにより、固視標による被検眼Eの固視位置を変更できる。固視位置の例として、黄斑部を中心とする画像を取得するための固視位置や、視神経乳頭を中心とする画像を取得するための固視位置や、黄斑部と視神経乳頭との間の眼底中心を中心とする画像を取得するための固視位置や、黄斑から大きく離れた部位(眼底周辺部)の画像を取得するための固視位置などがある。このような典型的な固視位置の少なくとも1つを指定するためのグラフィカルユーザーインターフェース(GUI)等を設けることができる。また、固視位置(固視標の表示位置)をマニュアルで移動するためのGUI等を設けることができる。
固視位置を変更可能な固視標を被検眼Eに提示するための構成はLCD等の表示デバイスには限定されない。例えば、複数の発光部(発光ダイオード等)がマトリクス状(アレイ状)に配列された固視マトリクスを表示デバイスの代わりに採用することができる。この場合、複数の発光部を選択的に点灯させることにより、固視標による被検眼Eの固視位置を変更することができる。他の例として、移動可能な1以上の発光部によって、固視位置を変更可能な固視標を生成することができる。
アライメント光学系50は、被検眼Eに対する光学系のアライメントに用いられるアライメント指標を生成する。発光ダイオード(LED)51から出力されたアライメント光は、絞り52、絞り53、及びリレーレンズ54を経由し、ダイクロイックミラー55により反射され、孔開きミラー21の孔部を通過し、ダイクロイックミラー46を透過し、対物レンズ22を介して被検眼Eに投射される。アライメント光の被検眼Eからの戻り光(角膜反射光等)は、観察照明光の戻り光と同じ経路を通ってイメージセンサ35に導かれる。その受光像(アライメント指標像)に基づいてマニュアルアライメントやオートアライメントを実行できる。
従来と同様に、本例のアライメント指標像は、アライメント状態により位置が変化する2つの輝点像からなる。被検眼Eと光学系との相対位置がxy方向に変化すると、2つの輝点像が一体的にxy方向に変位する。被検眼Eと光学系との相対位置がz方向に変化すると、2つの輝点像の間の相対位置(距離)が変化する。z方向における被検眼Eと光学系との間の距離が既定のワーキングディスタンスに一致すると、2つの輝点像が重なり合う。xy方向において被検眼Eの位置と光学系の位置とが一致すると、所定のアライメントターゲット内又はその近傍に2つの輝点像が提示される。z方向における被検眼Eと光学系との間の距離がワーキングディスタンスに一致し、かつ、xy方向における被検眼Eの位置と光学系の位置とが一致すると、2つの輝点像が重なり合ってアライメントターゲット内に提示される。
オートアライメントでは、データ処理部230が、2つの輝点像の位置を検出し、主制御部211が、2つの輝点像とアライメントターゲットとの位置関係に基づいて後述の移動機構150を制御する。マニュアルアライメントでは、主制御部211が、被検眼Eの観察画像とともに2つの輝点像を表示部241に表示させ、ユーザーが、表示された2つの輝点像を参照しながら操作部242を用いて移動機構150を動作させる。
フォーカス光学系60は、被検眼Eに対するフォーカス調整に用いられるスプリット指標を生成する。撮影光学系30の光路(撮影光路)に沿った撮影合焦レンズ31の移動に連動して、フォーカス光学系60は照明光学系10の光路(照明光路)に沿って移動される。反射棒67は、照明光路に対して挿脱される。フォーカス調整を行う際には、反射棒67の反射面が照明光路に傾斜配置される。LED61から出力されたフォーカス光は、リレーレンズ62を通過し、スプリット指標板63により2つの光束に分離され、二孔絞り64を通過し、ミラー65により反射され、集光レンズ66により反射棒67の反射面に一旦結像されて反射される。更に、フォーカス光は、リレーレンズ20を経由し、孔開きミラー21に反射され、ダイクロイックミラー46を透過し、対物レンズ22を介して被検眼Eに投射される。フォーカス光の被検眼Eからの戻り光(眼底反射光等)は、アライメント光の戻り光と同じ経路を通ってイメージセンサ35に導かれる。その受光像(スプリット指標像)に基づいてマニュアルフォーカシングやオートフォーカシングを実行できる。
孔開きミラー21とダイクロイックミラー55との間の撮影光路に、視度補正レンズ70及び71を選択的に挿入することができる。視度補正レンズ70は、強度遠視を補正するためのプラスレンズ(凸レンズ)である。視度補正レンズ71は、強度近視を補正するためのマイナスレンズ(凹レンズ)である。
ダイクロイックミラー46は、眼底撮影用光路とOCT用光路(測定アーム)とを合成する。ダイクロイックミラー46は、OCTに用いられる波長帯の光を反射し、眼底撮影用の光を透過させる。測定アームには、OCTユニット100側から順に、コリメータレンズユニット40、リトロリフレクタ41、分散補償部材42、OCT合焦レンズ43、光スキャナ44、及びリレーレンズ45が設けられている。
リトロリフレクタ41は、図1に示す矢印の方向に移動可能とされ、それにより測定アームの長さが変更される。測定アームの光路長の変更は、例えば、眼軸長に応じた光路長補正や、干渉状態の調整などに利用される。
分散補償部材42は、参照アームに配置された分散補償部材113(後述)とともに、測定光LSの分散特性と参照光LRの分散特性とを合わせるよう作用する。
OCT合焦レンズ43は、測定アームのフォーカス調整を行うために測定アームに沿って移動される。撮影合焦レンズ31の移動、フォーカス光学系60の移動、及びOCT合焦レンズ43の移動を連係的に制御することができる。
光スキャナ44は、実質的に、被検眼Eの瞳孔と光学的に共役な位置に配置される。光スキャナ44は、測定アームにより導かれる測定光LSを偏向する。光スキャナ44は、例えば、2次元走査が可能なガルバノスキャナである。
〈OCTユニット100〉
図2に例示するように、OCTユニット100には、スウェプトソースOCTを実行するための光学系が設けられている。この光学系は干渉光学系を含む。この干渉光学系は、波長可変光源(波長掃引型光源)からの光を測定光と参照光とに分割し、被検眼Eからの測定光の戻り光と参照光路を経由した参照光とを干渉させて干渉光を生成し、この干渉光を検出する。干渉光学系により得られた検出結果(検出信号)は、干渉光のスペクトルを表す信号であり、演算制御ユニット200に送られる。
光源ユニット101は、例えば、出射光の波長を高速で変化させる近赤外波長可変レーザーを含む。光源ユニット101から出力された光L0は、光ファイバ102により偏波コントローラ103に導かれてその偏光状態が調整される。更に、光L0は、光ファイバ104によりファイバカプラ105に導かれて測定光LSと参照光LRとに分割される。測定光LSの光路は測定アームなどと呼ばれ、参照光LRの光路は参照アームなどと呼ばれる。
参照光LRは、光ファイバ110によりコリメータ111に導かれて平行光束に変換され、光路長補正部材112及び分散補償部材113を経由し、リトロリフレクタ114に導かれる。光路長補正部材112は、参照光LRの光路長と測定光LSの光路長とを合わせるよう作用する。分散補償部材113は、測定アームに配置された分散補償部材42とともに、参照光LRと測定光LSとの間の分散特性を合わせるよう作用する。リトロリフレクタ114は、これに入射する参照光LRの光路に沿って移動可能であり、それにより参照アームの長さが変更される。参照アームの光路長の変更は、例えば、眼軸長に応じた光路長補正や、干渉状態の調整などに利用される。
リトロリフレクタ114を経由した参照光LRは、分散補償部材113及び光路長補正部材112を経由し、コリメータ116によって平行光束から集束光束に変換され、光ファイバ117に入射する。光ファイバ117に入射した参照光LRは、偏波コントローラ118に導かれてその偏光状態が調整され、光ファイバ119を通じてアッテネータ120に導かれてその光量が調整され、光ファイバ121を通じてファイバカプラ122に導かれる。
一方、ファイバカプラ105により生成された測定光LSは、光ファイバ127により導かれてコリメータレンズユニット40により平行光束に変換され、リトロリフレクタ41、分散補償部材42、OCT合焦レンズ43、光スキャナ44及びリレーレンズ45を経由し、ダイクロイックミラー46により反射され、対物レンズ22により屈折されて被検眼Eに投射される。測定光LSは、被検眼Eの様々な深さ位置において散乱・反射される。測定光LSの被検眼Eからの戻り光は、往路と同じ経路を逆向きに進行してファイバカプラ105に導かれ、光ファイバ128を経由してファイバカプラ122に到達する。
ファイバカプラ122は、光ファイバ128を介して入射された測定光LSと、光ファイバ121を介して入射された参照光LRとを重ね合わせて干渉光を生成する。ファイバカプラ122は、生成された干渉光を所定の分岐比(例えば1:1)で分岐することで一対の干渉光LCを生成する。一対の干渉光LCは、それぞれ光ファイバ123及び124を通じて検出器125に導かれる。
検出器125は、例えばバランスドフォトダイオードを含む。バランスドフォトダイオードは、一対の干渉光LCをそれぞれ検出する一対のフォトディテクタを有し、これらにより得られた一対の検出結果の差分を出力する。検出器125は、この出力(検出信号)をデータ収集システム(DAQ)130に送る。
データ収集システム130には、光源ユニット101からクロックKCが供給される。クロックKCは、光源ユニット101において、波長可変光源により所定の波長範囲内で掃引される各波長の出力タイミングに同期して生成される。光源ユニット101は、例えば、各出力波長の光L0を分岐して2つの分岐光を生成し、これら分岐光の一方を光学的に遅延させ、これら分岐光を合成し、得られた合成光を検出し、その検出結果に基づいてクロックKCを生成する。データ収集システム130は、検出器125から入力される検出信号のサンプリングをクロックKCに基づいて実行する。データ収集システム130は、このサンプリングの結果を演算制御ユニット200に送る。
本例では、測定アームの光路長を変更するための要素(例えば、リトロリフレクタ41)と、参照アームの光路長を変更するための要素(例えば、リトロリフレクタ114、又は参照ミラー)との双方が設けられているが、一方の要素のみが設けられていてもよい。また、測定アームの光路長と参照アームの光路長との間の差(光路長差)を変更するための要素はこれらに限定されず、任意の要素(光学部材、機構など)であってよい。
〈制御系〉
血流計測装置1の制御系の構成例を図3及び図4に示す。制御部210、画像形成部220及びデータ処理部230は、演算制御ユニット200に設けられる。
〈制御部210〉
制御部210は、各種の制御を実行する。制御部210は、主制御部211と記憶部212とを含む。
〈主制御部211〉
主制御部211は、プロセッサを含み、血流計測装置1の各部(図1~図4に示された要素を含む)を制御する。
撮影光路に配置された撮影合焦レンズ31と照明光路に配置されたフォーカス光学系60とは、主制御部211の制御の下に、図示しない撮影合焦駆動部によって同期的に移動される。測定アームに設けられたリトロリフレクタ41は、主制御部211の制御の下に、リトロリフレクタ(RR)駆動部41Aによって移動される。測定アームに配置されたOCT合焦レンズ43は、主制御部211の制御の下に、OCT合焦駆動部43Aによって移動される。測定アームに設けられた光スキャナ44は、主制御部211の制御の下に動作する。参照アームに配置されたリトロリフレクタ114は、主制御部211の制御の下に、リトロリフレクタ(RR)駆動部114Aによって移動される。これら駆動部のそれぞれは、主制御部211の制御の下に動作するパルスモータ等のアクチュエータを含む。
移動機構150は、例えば、少なくとも眼底カメラユニット2を3次元的に移動する。典型的な例において、移動機構150は、±x方向(左右方向)に移動可能なxステージと、xステージを移動するx移動機構と、±y方向(上下方向)に移動可能なyステージと、yステージを移動するy移動機構と、±z方向(奥行き方向)に移動可能なzステージと、zステージを移動するz移動機構とを含む。これら移動機構のそれぞれは、主制御部211の制御の下に動作するパルスモータ等のアクチュエータを含む。
主制御部211は、LCD39を制御する。例えば、主制御部211は、LCD39の画面において予め設定された位置に固視標を表示させる。また、主制御部211は、LCD39に表示されている固視標の表示位置(固視位置)を変更することができる。固視標の移動は、連続的移動、断続的移動、離散的移動など、任意の態様で行うことが可能である。本実施形態における固視位置の移動態様については後述する。
固視位置は、例えば、LCD39における固視標画像の表示位置(画素の座標)によって表現される。この座標は、例えば、LCD39の表示画面において予め定義された2次元座標系で表される座標である。固視マトリクスが用いられる場合、固視位置は、例えば、点灯された発光部の位置(座標)によって表現される。この座標は、例えば、複数の発光部の配列面において予め定義された2次元座標系で表される座標である。
〈記憶部212〉
記憶部212は各種のデータを記憶する。記憶部212に記憶されるデータとしては、OCT画像や眼底像や被検眼情報などがある。被検眼情報は、患者IDや氏名などの被検者情報や、左眼/右眼の識別情報や、電子カルテ情報などを含む。
〈画像形成部220〉
画像形成部220は、データ収集システム130から入力された信号(サンプリングデータ)に基づいて、眼底EfのOCT画像データを形成する。画像形成部220は、眼底EfのBスキャン画像データ(2次元断層像データ)と、位相画像データとを形成することができる。これらOCT画像データについては後述する。画像形成部220は、例えば、回路基板やマイクロプロセッサを含む。なお、本明細書では、特に言及しない限り、「画像データ」と、それに基づく「画像」とを区別しない。
本実施形態の血流計測では、眼底Efに対して2種類の走査(主走査及び補足走査)が実行される。
主走査では、位相画像データを取得するために、眼底Efの注目血管に交差する断面(注目断面)を測定光LSで反復的に走査する。
補足走査では、注目断面における注目血管の傾きを推定するために、所定の断面(補足断面)を測定光LSで走査する。補足断面は、例えば、注目血管に交差しかつ注目断面の近傍に位置する断面(第1補足断面)、又は、注目断面に交差しかつ注目血管に沿う断面(第2補足断面)であってよい。
第1補足断面が適用される場合の例を図5Aに示す。本例では、眼底像Dに示すように、眼底Efの視神経乳頭Daの近傍に位置する1つの注目断面C0と、その近傍に位置する2つの補足断面C1及びC2とが、注目血管Dbに交差するように設定される。2つの補足断面C1及びC2の一方は、注目断面C0に対して注目血管Dbの上流側に位置し、他方は下流側に位置する。注目断面C0及び補足断面C1及びC2は、例えば、注目血管Dbの走行方向に対して略直交するように向き付けられる。
第2補足断面が適用される場合の例を図5Bに示す。本例では、図5Aに示す例と同様の注目断面C0が注目血管Dbに略直交するように設定され、かつ、注目断面C0に略直交するように補足断面Cpが設定される。補足断面Cpは、注目血管Dbに沿って設定される。一例として、補足断面Cpは、注目断面C0の位置において注目血管Dbの中心軸を通過するように設定されてよい。
例示的な血流計測において、主走査は、患者の心臓の少なくとも1心周期を含む期間にわたって繰り返し実行される。それにより、全ての心時相における血流動態を求めることが可能となる。なお、主走査を実行する時間は、予め設定された一定の時間であってもよいし、患者ごとに又は検査ごとに設定された時間であってもよい。前者の場合、標準的な心周期よりも長い時間が設定される(例えば2秒間)。後者の場合、患者の心電図等の生体データを参照することができる。ここで、心周期以外のファクターを考慮することも可能である。このファクターの例としては、検査に掛かる時間(患者への負担)、光スキャナ44の応答時間(走査時間間隔)、検出器125の応答時間(走査時間間隔)などがある。
画像形成部220は、断層像形成部221と、位相画像形成部222とを含む。
〈断層像形成部221〉
断層像形成部221は、主走査においてデータ収集システム130より得られたサンプリングデータに基づいて、注目断面における形態の時系列変化を表す断層像(主断層像)を形成する。この処理についてより詳しく説明する。主走査は、上記のように注目断面C0を繰り返し走査するものである。断層像形成部221には、この繰り返し走査に応じて、データ収集システム130からサンプリングデータが逐次に入力される。断層像形成部221は、注目断面C0の各走査に対応するサンプリングデータに基づいて、注目断面C0に対応する1枚の主断層像を形成する。断層像形成部221は、この処理を主走査の反復回数だけ繰り返すことで、時系列に沿った一連の主断層像を形成する。ここで、これら主断層像を複数の群に分割し、各群に含まれる主断層像群を重ね合わせて画質の向上を図ってもよい(画像の加算平均処理)。
更に、断層像形成部221は、補足断面に対する補足走査においてデータ収集システム130により得られたサンプリングデータに基づいて、補足断面の形態を表す断層像(補足断層像)を形成する。補足断層像を形成する処理は、主断層像を形成する処理と同じ要領で実行される。ここで、主断層像は時系列に沿う一連の断層像であるが、補足断層像は1枚の断層像であってよい。また、補足断層像は、補足断面を複数回走査して得られた複数の断層像を重ね合わせて画質の向上を図ったものであってもよい(画像の加算平均処理)。
図5Aに例示する補足断面C1及びC2が適用される場合、断層像形成部221は、補足断面C1に対応する補足断層像と、補足断面C2に対応する補足断層像とを形成する。図5Bに例示する補足断面Cpが適用される場合、断層像形成部221は、補足断面Cpに対応する補足断層像を形成する。
以上に例示したような断層像を形成する処理は、従来のフーリエドメインOCTと同様に、ノイズ除去(ノイズ低減)、フィルタ処理、高速フーリエ変換(FFT)などを含む。他のタイプのOCT装置の場合、断層像形成部221は、そのタイプに応じた公知の処理を実行する。
〈位相画像形成部222〉
位相画像形成部222は、主走査においてデータ収集システム130により得られたサンプリングデータに基づいて、注目断面における位相差の時系列変化を表す位相画像を形成する。位相画像の形成に用いられるサンプリングデータは、断層像形成部221による主断層像の形成に用いられるサンプリングデータと同じである。よって、主断層像と位相画像との間の位置合わせをすることが可能である。つまり、主断層像の画素と位相画像の画素との間に自然な対応関係を設定することが可能である。
位相画像の形成方法の一例を説明する。この例の位相画像は、隣り合うAライン複素信号(つまり、隣接する走査点に対応する信号)の位相差を算出することにより得られる。換言すると、この例の位相画像は、主断層像の画素値(輝度値)の時系列変化に基づいて形成される。主断層像の任意の画素について、位相画像形成部222は、その画素の輝度値の時系列変化のグラフを作成する。位相画像形成部222は、このグラフにおいて所定の時間間隔Δtだけ離れた2つの時点t1及びt2(t2=t1+Δt)の間における位相差Δφを求める。そして、この位相差Δφを時点t1(より一般に、時点t1と時点t2との間の任意の時点)における位相差Δφ(t1)として定義する。予め設定された多数の時点のそれぞれについてこの処理を実行することにより、当該画素における位相差の時系列変化が得られる。
位相画像は、各画素の各時点における位相差の値を画像として表現したものである。この画像化処理は、例えば、位相差の値を表示色や輝度で表現することで実現できる。このとき、時系列に沿って位相が増加した場合の表示色(例えば赤色)と、減少した場合の表示色(例えば青色)とを変更することができる。また、位相の変化量の大きさを表示色の濃度で表現することもできる。このような表現方法を採用することで、血流の向きや大きさを表示色で明示することが可能となる。以上の処理を各画素について実行することにより位相画像が形成される。
なお、位相差の時系列変化は、上記の時間間隔Δtを十分に小さくして位相の相関を確保することにより得られる。このとき、測定光LSの走査において断層像の分解能に相当する時間未満の値に時間間隔Δtを設定したオーバーサンプリングが実行される。
〈データ処理部230〉
データ処理部230は、各種のデータ処理を実行する。例えば、データ処理部230は、画像形成部220により形成された画像に対して各種の画像処理や解析処理を施す。その具体例として、データ処理部230は、画像の輝度補正や分散補正等の各種補正処理を実行する。更に、データ処理部230は、眼底カメラユニット2により得られた画像(眼底像、前眼部像等)や、外部から入力された画像に対して、各種の画像処理や解析処理を施すことができる。
データ処理部230は、眼底Efの3次元画像データを形成することができる。3次元画像データとは、3次元座標系により画素の位置が定義された画像データを意味する。3次元画像データの例として、スタックデータやボリュームデータがある。
スタックデータは、複数の走査線に沿って得られた複数の断層像を、走査線の位置関係に基づいて3次元的に配列させて得られた画像データである。すなわち、スタックデータは、元々個別の2次元座標系により定義されていた複数の断層像を、1つの3次元座標系により表現する(つまり、1つの3次元空間に埋め込む)ことにより得られた画像データである。
ボリュームデータは、3次元的に配列されたボクセルを画素とする画像データであり、ボクセルデータとも呼ばれる。ボリュームデータは、スタックデータに補間処理やボクセル化処理などを適用することで形成される。
データ処理部230は、3次元画像データに対してレンダリングを施すことで、表示用の画像を形成することができる。適用可能なレンダリング法の例として、ボリュームレンダリング、サーフェスレンダリング、最大値投影(MIP)、最小値投影(MinIP)、多断面再構成(MPR)などがある。
データ処理部230は、血流情報を求めるための例示的な要素として、血管領域特定部231と、血流情報生成部232と、断面設定部237と、ケラレ判定部238とを含む。血流情報生成部232は、傾き推定部233と、血流速度算出部234と、血管径算出部235と、血流量算出部236とを含む。
〈血管領域特定部231〉
血管領域特定部231は、主断層像、補足断層像、及び位相画像のそれぞれについて、注目血管Dbに対応する血管領域を特定する。この処理は、各画像の画素値を解析することによって実行することが可能である(例えば閾値処理)。
なお、主断層像と補足断層像は解析処理の対象として十分な解像度を持っているが、位相画像は血管領域の境界を特定できるほどの解像度を持っていない場合がある。しかし、位相画像に基づき血流情報を生成する以上、それに含まれる血管領域を高精度かつ高確度で特定する必要がある。そこで、例えば次のような処理を行うことで、位相画像中の血管領域をより正確に特定することができる。
前述のように、主断層像と位相画像は同じサンプリングデータに基づいて形成されるため、主断層像の画素と位相画像の画素との間の自然な対応関係を定義することが可能である。血管領域特定部231は、例えば、主断層像を解析して血管領域を求め、この血管領域に対応する位相画像中の画像領域を当該対応関係に基づき特定し、特定された画像領域を位相画像中の血管領域として採用する。これにより、位相画像の血管領域を高精度かつ高確度で特定することができる。
〈血流情報生成部232〉
血流情報生成部232は、注目血管Dbに関する血流情報を生成する。前述のように、血流情報生成部232は、傾き推定部233と、血流速度算出部234と、血管径算出部235と、血流量算出部236とを含む。
〈傾き推定部233〉
傾き推定部233は、補足走査により収集された補足断面のデータ(断面データ、補足断層像)に基づいて、注目血管の傾きの推定値を求める。この傾き推定値は、例えば、注目断面における注目血管の傾きの測定値、又はその近似値であってよい。
注目血管の傾きの値を実際に測定する場合の例を説明する(傾き推定の第1の例)。図5Aに示す補足断面C1及びC2が適用された場合、傾き推定部233は、注目断面C0と補足断面C1と補足断面C2との間の位置関係と、血管領域特定部231による血管領域の特定結果とに基づいて、注目断面C0における注目血管Dbの傾きを算出することができる。
注目血管Dbの傾きの算出方法について図6Aを参照しつつ説明する。符号G0、G1及びG2は、それぞれ、注目断面C0における主断層像、補足断面C1における補足断層像、及び補足断面C2における補足断層像を示す。また、符号V0、V1及びV2は、それぞれ、主断層像G0内の血管領域、補足断層像G1内の血管領域、及び補足断層像G2内の血管領域を示す。図6Aに示すz座標軸は、測定光LSの入射方向と実質的に一致する。また、主断層像G0(注目断面C0)と補足断層像G1(補足断面C1)との間の距離をdとし、主断層像G0(注目断面C0)と補足断層像G2(補足断面C2)との間の距離を同じくdとする。隣接する断層像の間隔、つまり隣接する断面の間隔を、断面間距離と呼ぶ。
傾き推定部233は、3つの血管領域V0、V1及びV2の間の位置関係に基づいて、注目断面C0における注目血管Dbの傾きAを算出することができる。この位置関係は、例えば、3つの血管領域V0、V1及びV2を接続することによって求められる。その具体例として、傾き推定部233は、3つの血管領域V0、V1及びV2のそれぞれの特徴位置を特定し、これら特徴位置を接続することができる。この特徴位置としては、中心位置、重心位置、最上部(z座標値が最小の位置)、最下部(z座標値が最大の位置)などがある。また、これら特徴位置の接続方法としては、線分で結ぶ方法、近似曲線(スプライン曲線、ベジェ曲線等)で結ぶ方法などがある。
更に、傾き推定部233は、3つの血管領域V0、V1及びV2から特定された特徴位置の間を接続する線に基づいて傾きAを算出する。線分で接続する場合、例えば、注目断面C0の特徴位置と補足断面C1の特徴位置とを結ぶ第1線分の傾きと、注目断面C0の特徴位置と補足断面C2の特徴位置とを結ぶ第2線分の傾きとに基づき傾きAを算出することができる。この算出処理の例として、2つの線分の傾きの平均値を求めることが可能である。また、近似曲線で結ぶ場合の例として、近似曲線が注目断面C0に交差する位置におけるこの近似曲線の傾きを求めることができる。なお、断面間距離dは、例えば、線分や近似曲線を求める処理において、断層像G0~G2をxyz座標系に埋め込むときに用いられる。
この例では、3つの断面における血管領域を考慮しているが、2つの断面を考慮して傾きを求めるように構成することも可能である。その具体例として、上記第1線分又は第2線分の傾きを目的の傾きとすることができる。また、この例では1つの傾きを求めているが、血管領域V0中の2つ以上の位置(又は領域)についてそれぞれ傾きを求めるようにしてもよい。この場合、得られた2つ以上の傾きの値を別々に用いることもできるし、これら傾きの値を統計的に処理して得られる値(例えば、平均値、最大値、最小値、中間値、最頻値など)を傾きAとして用いることもできる。
注目血管の傾きの近似値を求める場合の例を説明する(傾き推定の第2の例)。図5Bに示す補足断面Cpが適用された場合、傾き推定部233は、補足断面Cpに対応する補足断層像を解析して、注目断面C0における注目血管Dbの傾きの近似値を算出することができる。
注目血管Dbの傾きの近似方法について図6Bを参照しつつ説明する。符号Gpは、補足断面Cpにおける補足断層像を示す。符号Aは、図6Aに示す例と同様に、注目血管Dbの傾きを示す。
本例において、傾き推定部233は、補足断層像Gpを解析して、眼底Efの所定組織に相当する画像領域を特定することができる。例えば、傾き推定部233は、網膜の表層組織である内境界膜(ILM)に相当する画像領域(内境界膜領域)Mを特定することができる。画像領域の特定には、例えば、公知のセグメンテーション処理が利用される。
内境界膜と眼底血管とは互いに略平行であることが知られている。傾き推定部233は、注目断面C0における内境界膜領域Mの傾きAappを算出する。注目断面C0における内境界膜領域Mの傾きAappは、注目断面C0における注目血管Dbの傾きAの近似値として用いられる。
なお、図6A及び図6Bに示す傾きAは、注目血管Dbの向きを表すベクトルであり、その値の定義は任意であってよい。一例として、傾き(ベクトル)Aとz軸とが成す角度として傾きAの値を定義することが可能である。同様に、図6Bに示す傾きAappは、内境界膜領域Mの向きを表すベクトルであり、その値の定義は任意であってよい。例えば、傾き(ベクトル)Aappとz軸とが成す角度として傾きAappの値を定義することが可能である。なお、z軸の向きは、測定光LSの入射方向と実質的に同一である。
傾き推定部233が実行する処理は上記の例には限定されず、眼底Efの断面にOCTスキャンを適用して収集された断面データに基づいて注目血管Dbの傾きの推定値(例えば、注目血管Db自体の傾き値、その近似値など)を求めることが可能な任意の処理であってよい。
〈血流速度算出部234〉
血流速度算出部234は、位相画像として得られる位相差の時系列変化に基づいて、注目血管Db内を流れる血液の注目断面C0における血流速度を算出する。この算出対象は、或る時点における血流速度でもよいし、この血流速度の時系列変化(血流速度変化情報)でもよい。前者の場合、例えば心電図の所定の時相(例えばR波の時相)における血流速度を選択的に取得することが可能である。また、後者における時間の範囲は、注目断面C0を走査した時間の全体又は任意の一部である。
血流速度変化情報が得られた場合、血流速度算出部234は、計測期間における血流速度の統計値を算出することができる。この統計値としては、平均値、標準偏差、分散、中央値、最頻値、最大値、最小値、極大値、極小値などがある。また、血流速度の値に関するヒストグラムを作成することもできる。
血流速度算出部234は、ドップラーOCTの手法を用いて血流速度を算出する。このとき、傾き推定部233により算出された注目断面C0における注目血管Dbの傾きA(又は、その近似値Aapp)が考慮される。具体的には、血流速度算出部234は、次式を用いることができる。
ここで:
Δfは、測定光LSの散乱光が受けるドップラーシフトを表す;
nは、媒質の屈折率を表す;
vは、媒質の流速(血流速度)を表す;
θは、測定光LSの照射方向と媒質の流れベクトルとが成す角度を表す;
λは、測定光LSの中心波長を表す。
本実施形態では、nとλは既知であり、Δfは位相差の時系列変化から得られ、θは傾きA(又は、その近似値Aapp)から得られる。典型的には、θは、傾きA(又は、その近似値Aapp)に等しい。これらの値を上記の式に代入することにより、血流速度vが算出される。
〈血管径算出部235〉
血管径算出部235は、注目断面C0における注目血管Dbの径を算出する。この算出方法の例として、眼底像(正面画像)を用いた第1の算出方法と、断層像を用いた第2の算出方法がある。
第1の算出方法が適用される場合、注目断面C0の位置を含む眼底Efの部位の撮影が予め行われる。それにより得られる眼底像は、観察画像(のフレーム)でもよいし、撮影画像でもよい。撮影画像がカラー画像である場合には、これを構成する画像(例えばレッドフリー画像)を用いてもよい。また、撮影画像は、眼底蛍光造影撮影(フルオレセイン蛍光造影撮影など)により得られた蛍光画像でもよいし、OCT血管造影(OCTアンジオグラフィ)により得られた血管強調画像(アンジオグラム、モーションコントラスト画像)でもよい。
血管径算出部235は、撮影画角(撮影倍率)、ワーキングディスタンス、眼球光学系の情報など、画像上のスケールと実空間でのスケールとの関係を決定する各種ファクターに基づいて、眼底像におけるスケールを設定する。このスケールは実空間における長さを表す。具体例として、このスケールは、隣接する画素の間隔と、実空間におけるスケールとを対応付けたものである(例えば画素の間隔=10μm)。なお、上記ファクターの様々な値と、実空間でのスケールとの関係を予め算出し、この関係をテーブル形式やグラフ形式で表現した情報を記憶しておくことも可能である。この場合、血管径算出部235は、上記ファクターに対応するスケールを選択的に適用する。
更に、血管径算出部235は、このスケールと血管領域V0に含まれる画素とに基づいて、注目断面C0における注目血管Dbの径、つまり血管領域V0の径を算出する。具体例として、血管径算出部235は、血管領域V0の様々な方向の径の最大値や平均値を求める。また、血管領域235は、血管領域V0の輪郭を円近似又は楕円近似し、その円又は楕円の径を求めることができる。なお、血管径が決まれば血管領域V0の面積を(実質的に)決定することができるので(つまり両者を実質的に一対一に対応付けることができるので)、血管径を求める代わりに当該面積を算出するようにしてもよい。
第2の算出方法について説明する。第2の算出方法では、典型的には、注目断面C0における断層像が用いられる。この断層像は、主断層像でもよいし、これとは別個に取得されたものでもよい。
この断層像におけるスケールは、OCTの計測条件などに基づき決定される。本実施形態では、図5A又は図5Bに示すように注目断面C0を走査する。注目断面C0の長さは、ワーキングディスタンス、眼球光学系の情報など、画像上のスケールと実空間でのスケールとの関係を決定する各種ファクターに基づいて決定される。血管径算出部235は、例えば、この長さに基づいて隣接する画素の間隔を求め、第1の算出方法と同様にして注目断面C0における注目血管Dbの径を算出する。
〈血流量算出部236〉
血流量算出部236は、血流速度の算出結果と血管径の算出結果とに基づいて、注目血管Db内を流れる血液の流量を算出する。この処理の一例を以下に説明する。
血管内における血流がハーゲン・ポアズイユ流(Hagen-Poiseuille flow)と仮定する。また、血管径をwとし、血流速度の最大値をVmとすると、血流量Qは次式で表される。
血流量算出部236は、血管径算出部235による血管径の算出結果wと、血流速度算出部234による血流速度の算出結果に基づく最大値Vmとを、この数式に代入することにより、目的の血流量Qを算出する。
〈断面設定部237〉
主制御部211は、表示部241に眼底Efの正面画像を表示させる。この正面画像は、任意種別の画像であってよく、例えば、観察画像、撮影画像、蛍光画像、OCT血管造影画像、OCTプロジェクション画像、及びOCTシャドウグラムのうちのいずれかであってよい。
ユーザーは、操作部242を操作することで、表示された眼底Efの正面画像に対して1以上の注目断面を指定することができる。注目断面は、注目血管に交差するように指定される。断面設定部237は、指定された1以上の注目断面と、眼底Efの正面画像とに基づいて、1以上の注目断面のそれぞれに関する1以上の補足断面を設定することができる。なお、補足断面の設定を手動で行うようにしてもよい。
他の例において、断面設定部237は、眼底Efの正面画像を解析して1以上の注目血管を特定するように構成されていてよい。注目血管の特定は、例えば、血管の太さや、眼底の所定部位(例えば、視神経乳頭、黄斑)に対する位置関係や、血管の種別(例えば、動脈、静脈)などに基づいて実行される。更に、断面設定部237は、特定された1以上の注目血管のそれぞれに関する1以上の注目断面と1以上の補足断面とを設定することができる。
このように、ユーザーにより、断面設定部237により、又は、ユーザーと断面設定部237との協働により、図5A又は図5Bに例示するような注目断面及び補足断面が眼底Efに対して設定される。
〈ケラレ判定部238〉
ケラレ判定部238は、血流計測装置1に搭載された光学系を介して被検眼Eに入射した光の戻り光の検出結果に基づいて、ケラレの有無を判定する。
ケラレ判定のために被検眼Eに入射する光の種別や用途や強度(光量)は任意であってよい。入射光の種別は、例えば赤外光又は可視光であってよい。入射光の用途は、例えば撮影、検査又は測定であってよい。
本実施形態において利用可能な入射光は、例えば、OCT用の測定光LS、又は、眼底撮影用の観察照明光、撮影照明光若しくは励起光であってよい。この入射光の戻り光の検出結果は、例えば、OCT画像、観察画像、撮影画像、又は蛍光画像であってよい。
本実施形態における「ケラレ」は、眼底血流計測のための入射光又はその戻り光の一部又は全部が瞳孔により遮られて発生するケラレ(明るさの低下)を含む。また、本実施形態における「ケラレの有無」は、次のいずれかを含む:ケラレが発生しているか否か;ケラレの程度が所定の程度を超えるか否か。
ケラレ判定部238が実行する処理の例を説明する。以下、ケラレ判定手法に関する第1の例及び第2の例を説明するが、手法はこれらに限定されない。
第1の例において、ケラレ判定のための入射光は測定光LSであり、所定のOCTスキャンが適用される。本例におけるOCTスキャンの態様は、例えば、図5Aに示す注目断面C0(或いは、補足断面C1及び/又はC2)に対するOCTスキャン、又は、図5Bに示す補足断面Cpに対するOCTスキャンであってよい。本例におけるOCTスキャンは、例えば、同一断面に対する繰り返し走査である。
補足断面Cp(或いは、補足断面C1及び/又はC2)に対する繰り返し走査が適用される場合、ケラレ判定と並行して注目血管Dbの傾き推定を行うことが可能であり、又は、ケラレ判定から注目血管Dbの傾き推定への円滑な移行が可能である。
補足断面Cpが適用される場合において、ケラレが無い場合には、図7Aに示すように補足断面Cpの形態を表す断層像Gp1(断面データ)が得られる。一方、ケラレがある場合には、図7Bに示すように補足断面Cpの形態が描出されていない断層像Gp2(断面データ)が得られる。なお、アライメントが好適な状態において、光スキャナ44は被検眼Eの瞳孔と略共役な位置に配置されるので、測定光LSの偏向中心は瞳孔にほぼ一致する。したがって、測定光LSが瞳孔にケラレている場合には、補足断面Cpの形態が描出されていない断層像Gp2(断面データ)が得られる。
ケラレ判定部238は、補足断面Cpに対するOCTスキャンで得られた断層像を解析し、補足断面Cpの形態が描出されているか否か判定する。例えば、ケラレ判定部238は、断層像に内境界膜領域(M)が描出されているか否か判定するように構成されてよい。「内境界膜領域が断層像に描出されている」との判定結果は、「ケラレが無い」との判定結果に相当する。逆に、「内境界膜領域が断層像に描出されていない」との判定結果は、「ケラレが有る」との判定結果に相当する。
ケラレ判定部238が実行する処理の第2の例を説明する。本例において、ケラレ判定のための入射光は眼底撮影用の照明光であり、観察照明光又は撮影照明光であってよい。ケラレ判定部238は、眼底像を解析して、ケラレの影響である光量低下が生じているか判定する。例えば、ケラレ判定部238は、眼底像の中心部の明るさと周辺部の明るさとの間に差が発生しているか(つまり、周辺光量の低下が発生しているか)判定する。この判定は、眼底像を構成する画素の値(典型的には、輝度分布)を参照して実行され、例えば閾値処理、ラベリングなどの画像処理を含む。
第2の例によれば、ケラレの程度を容易に判定することができる。ケラレの程度は、例えば、眼底像において周辺光量が低下している画像領域の特性に基づいて評価される。ケラレ判定部238は、このようにして評価値(例えば、周辺光量低下領域のサイズ(面積))を算出し、この評価値の大きさに基づいてケラレの有無を判定することができる。本例における「ケラレの有無」は、例えば、ケラレの程度が所定の程度を超えるか否かに相当する。典型的には、ケラレ判定部238は、算出された評価値と閾値とを比較し、評価値が閾値を超える場合には「ケラレ有り」と判定し、評価値が閾値以下である場合には「ケラレ無し」と判定する。
以上のように機能するデータ処理部230は、例えば、プロセッサ、RAM、ROM、ハードディスクドライブ等を含んで構成される。ハードディスクドライブ等の記憶装置には、上記機能をプロセッサに実行させるコンピュータプログラムが予め格納されている。
〈ユーザーインターフェイス240〉
ユーザーインターフェイス(UI)240は、表示部241と操作部242とを含む。表示部241は、図1に示す表示装置3や他の表示デバイスを含む。操作部242は、任意の操作デバイスを含む。ユーザーインターフェイス240は、例えばタッチパネルのように、表示機能と操作機能の双方を備えたデバイスを含んでいてもよい。
〈動作〉
血流計測装置1の動作の例を説明する。血流計測装置1の動作の一例を図8に示す。なお、患者IDの入力などの準備的処理は既に行われたとする。
(S1:オートアライメント開始)
まず、オートアライメントを実行する。オートアライメントは、例えば、前述したようにアライメント指標を用いて実行される。或いは、特開2013-248376号公報に開示されたように、2以上の前眼部カメラを利用してオートアライメントを実行することも可能である。オートアライメントの手法はこれらに限定されない。
(S2:オートアライメント完了)
被検眼Eと光学系との間の相対位置がx方向、y方向及びz方向の全てにおいて合致すると、オートアライメントが完了する。
(S3:トラッキング開始)
オートアライメントが完了したら、血流計測装置1は、被検眼E(眼底Ef)の動きに合わせて光学系を移動するためのトラッキングを開始する。トラッキングは、例えば、赤外光を用いて眼底Efの観察画像を取得する動作と、観察画像を解析して眼底Efの動きを検知する動作と、検知された眼底Efの動きに合わせて光学系を移動する動作との組み合わせによって実現される。
ここで、眼底Efに対するフォーカス調整などの眼底撮影条件の設定や、光路長調整などのOCT計測条件の設定などを実行することができる。また、注目血管の選択、注目断面の設定、補足断面の設定などを、この段階又は他の任意のタイミングで実行することが可能である。本動作例では、図5Bに示す注目血管Db、注目断面C0、及び、補足断面Cpが設定されたとする。
(S4:所定距離だけ光学系を移動)
この段階では、xy方向において角膜頂点(又は、瞳孔中心)と光学系の光軸とがほぼ一致し、z方向において被検眼Eと光学系(対物レンズ22)との間の距離がワーキングディスタンスにほぼ一致している。
主制御部211は、xy面における所定方向に所定距離だけ光学系を移動するように移動機構150を制御する。換言すると、主制御部211は、光学系の光軸に直交する所定方向に、光学系の光軸から所定距離だけ光学系を移動させるための第1移動制御を移動機構150に適用する。それにより、xy方向において角膜頂点(又は、瞳孔中心)にほぼ一致した位置H0から、左上方向に所定距離だけ離れた位置H1に、光学系の光軸が移動される。
第1移動制御における光学系の移動方向(初期移動方向)は任意であってよく、予め設定される。第1移動制御における光学系の移動距離(初期移動量)は任意であってよく、例えば、デフォルト設定された距離であってよい。なお、詳細については後述するが、初期移動量は、例えば、散瞳の有無に応じて設定された距離であってもよいし、被検眼Eの瞳孔径に応じて設定された距離であってもよい。
(S5:ケラレの有無を判定)
ステップS4の後、主制御部211は、ケラレ判定のためのOCTスキャンとして、
図5Bに示す補足断面Cpのスキャンを開始する。ケラレ判定部238は、このOCTスキャンにより取得された断面データに基づいて、ケラレの有無を判定する。例えば、画像形成部220(断層像形成部221)が、このOCTスキャンによって取得されたデータから補足断面Cpの断層像を形成し、ケラレ判定部238が、この断層像に補足断面Cpの形態が描出されているか否か判定することでケラレの有無を判定する。
(S6:移動完了?)
所定の条件(移動完了条件)が満足された場合、光学系の移動は完了したと判断され(S6:Yes)、処理はステップS8に移行する。移動完了条件が満足されていない場合(S6:No)、処理はステップS7に移行する。移動完了条件については後述する。
(S7:光学系を微動)
ステップS6において移動完了条件が満足されていないと判定された場合(S6:No)、主制御部211は、ステップS5で得られた判定結果に基づいて、光学系の位置を微調整するための第2移動制御を移動機構150に適用する。
一例として、ステップS5においてケラレが発生していないと判定された場合、主制御部211は、初期移動方向に更に光学系を移動させるように第2移動制御を実行する。例えば、図9Bに示すように、第1移動制御の後の光軸位置H1が瞳孔Epの内部にある場合、補足断面CpのOCTスキャンが好適に実行され、図7Aに示すように補足断面Cpの形態が描出された断層像が得られる。その結果、ケラレが発生していないとケラレ判定部238によって判定される。図9Bに符号J1で示すように、主制御部211は、初期移動方向に所定距離(所定の微動量)だけ光学系を移動するように移動機構150を制御する。このように、ステップS5においてケラレが発生していないと判定された場合には、瞳孔Epの外縁に向かう方向に(つまり、オートアライメント直後の光軸位置H0から離れる方向に)光学系の光軸が移動される。
逆に、ステップS5においてケラレが発生していると判定された場合、主制御部211は、初期移動方向とは反対の方向に光学系を移動させるように第2移動制御を実行する。例えば、図9Cに示すように、第1移動制御の後の光軸位置H1が瞳孔Epの外部にある場合、測定光LSは光彩等により遮られ、図7Bに示すように補足断面Cpの形態が描出されていない断層像が得られる。その結果、ケラレが発生しているとケラレ判定部238によって判定される。図9Cに符号J2で示すように、主制御部211は、初期移動方向の反対方向に所定距離(所定の微動量)だけ光学系を移動するように移動機構150を制御する。このように、ステップS5においてケラレが発生していると判定された場合には、オートアライメント直後の光軸位置H0に向かう方向に光学系の光軸が移動される。
光学系が微動された後、処理はステップS5に戻る。ステップS5~S7は、ステップS6において「Yes」と判定されるまで繰り返される。なお、ステップS5~S7が所定回数繰り返されたとき、又は、ステップS5~S7の繰り返しが所定時間続いたとき、エラー判定を出力することが可能である。
ステップS6における移動完了条件について説明する。例えば、移動完了条件は、ケラレが発生していない状態であって、第1移動制御の直前における光軸の位置からの変位が最大となる位置に光学系が配置された状態である。この場合、主制御部211は、ケラレ判定部238によりケラレが無いと判定され、且つ、第1移動制御の直前における光軸の位置からの変位が最大となる位置に光学系が配置されるまで、ステップS5~S7(第2移動制御)を繰り返し実行させる。
一例として、初期移動方向への微動の後にケラレが有ると判定された場合、この微動の前の光軸位置に光学系を戻すことで、本例の移動完了条件が満足される。他の例として、初期移動方向の反対方向への微動の後にケラレが無いと判定された場合、この微動の後の光学系の位置は本例の移動完了条件を満足する。
なお、本例の移動完了条件が満足されたか否かの判定は、これらの例に限定されない。また、移動完了条件は、本例のそれに限定されない。
(S8:注目血管の傾きを推定)
ステップS6において光学系の移動は完了したと判断されると(S6:Yes)、血流計測装置1は、注目血管Dbの傾きを推定する。本例の傾き推定には、例えば、ケラレ判定と同じく補足断面Cpの断面データが利用される。
(S9:血流計測を実行)
ステップS8で注目血管Dbの傾きの推定値が得られたら、血流計測装置1は、前述した要領で、注目断面C0の血流計測を実行し、血流情報を生成する。
以上に説明した動作の変形例を説明する。前述したように、OCTを利用した眼底血流計測では、注目血管Dbの向きと測定光LSの入射方向とが成す角度(計測角度)が好適であることが重要である。
そこで、傾き推定部233により求められた計測角度の値(推定値)と、予め設定された好適な計測角度(目標角度)の値とを、表示部241に表示させることで、計測角度と目標角度とをユーザーに提示することが可能である。この表示制御は主制御部211によって実行される。
目標角度は、例えば、78度~85度の範囲において設定され、より好適には80度~85度の範囲において設定される。目標角度は、単一の値であってもよいし、上限及び/又は下限により定義される範囲であってもよい。目標角度は、例えば、デフォルト値、デフォルト範囲、ユーザー又は他の者(例えば、メンテナンスサービスマン)が設定した値又は範囲、血流計測装置1又は他の装置(例えば、医療機関内サーバー、及び、血流計測装置1の動作を監視する装置)が設定した値又は範囲のうちのいずれかであってよい。血流計測装置1等が設定する場合の例として、被検眼Eに対して過去に適用された目標角度を再度設定することや、被検者の属性に応じて目標角度を設定することや、被検眼Eの属性に応じて目標角度を設定することが可能である。
本例では、主制御部211は、第1移動制御よりも後の任意のタイミングで傾き推定部233により求められた計測角度を目標角度とともに表示部241に表示させることができる。典型的には、主制御部211は、第1移動制御の後に傾き推定部233により求められた計測角度を目標角度とともに表示部241に表示させることや、第2移動制御の後に傾き推定部233により求められた計測角度を目標角度とともに表示部241に表示させることができる。
ユーザーは、計測角度の測定値と目標角度の値とを参照して指示を入力することができる。例えば、目標角度と(ほぼ)一致する計測角度が得られた場合、ユーザーは、血流計測開始指示を操作部242を用いて入力することができる。また、主制御部211は、計測角度の測定値と目標角度とを比較し、これらが(ほぼ)一致する場合には血流計測開始制御を実行し、これらが一致しない場合には更なる第2移動制御を実行するように構成されていてもよい。
第2移動制御を繰り返し行っても好適な計測角度が得られない可能性もある。この場合、ユーザーは、操作部242を用いて目標角度を変更することができる。また、目標角度の変更を血流計測装置1が実行することも可能である。例えば、第2移動制御が所定回数繰り返されたとき、又は、第2移動制御が所定時間実行されたとき、主制御部211は、目標角度を変更することができる。なお、目標角度を変更可能な範囲が予め設定されていてもよい。
目標角度が変更されたとき、主制御部211は、第1移動制御を再度実行することができる。例えば、目標角度が変更されたことを受けて、主制御部211は、図8に示す動作のステップS4を再度実行させ、更にステップS5以降の処理を再度実行させることが可能である。
傾き推定部233により求められた計測角度の値が目標角度に(ほぼ)一致したとき、主制御部211は、血流計測を開始させて血流情報を取得させることができる。典型的には、第2移動制御の後に傾き推定部233により求められた計測角度の値が目標角度に(ほぼ)一致したときに、主制御部211は、血流計測を開始させることができる。
このような変形例によれば、血流計測装置1を次のように使用することができる。目標角度の初期値が80度に設定されたとする。第2移動制御を繰り返し行っても計測角度80度が達成されない場合、ユーザーは、目標角度を例えば78度に変更する。血流計測装置1は、第1移動制御を再度行い(S4)、更に、ケラレ判定(S5)、第2移動制御などを実行する。ユーザーは、第2移動制御の後に求められた計測角度の値を表示部241にて確認し、計測角度78度が達成されたら血流計測開始指示を入力する。第2移動制御を繰り返しても計測角度78度が達成されない場合、ユーザーは、例えば、目標角度の再変更、計測のやり直し、及び、計測の中止のいずれかを選択することができる。
〈作用・効果〉
実施形態に係る血流計測装置の作用及び効果について説明する。
実施形態の血流計測装置(1)は、血流計測部と、移動機構と、制御部と、判定部とを含む。
血流計測部は、光コヒーレンストモグラフィ(OCT)スキャンを適用するための光学系を含み、OCTスキャンにより収集されたデータに基づいて血流情報を取得する。上記の実施形態において、血流計測部の光学系は、図1に示す測定アーム、及び、図2に示す光学系を含む。更に、血流計測部は、画像形成部220、及び、データ処理部230(血流情報生成部232)を含む。
移動機構は、血流計測部の光学系を移動するための構成を有する。上記の実施形態において、移動機構は、移動機構150を含む。
制御部は、血流計測部の光学系の光軸に直交する第1方向に光軸から所定距離だけ光学系を移動させるための第1移動制御を移動機構に適用する。上記の実施形態では、制御部は主制御部211を含む。図9Aに例示するように、主制御部211は、オートアライメント直後の光軸位置H0から左上方向に所定距離だけ離れた位置H1に測定アーム(その光軸)を移動させるための第1移動制御を移動機構150に適用する。
判定部は、第1移動制御の後に、血流計測部の光学系を介して被検眼に入射した光の戻り光の検出結果に基づいてケラレの有無を判定する。上記の実施形態では、判定部はケラレ判定部238を含む。
ケラレ判定のために被検眼に入射される光は、OCTスキャンのための光(例えば、測定光LS)でもよいし、眼底撮影のための光(例えば、観察照明光、撮影照明光)でもよいし、ケラレ判定専用の光でもよいし、これら以外の任意の光でもよい。
ケラレ判定のために被検眼に入射される光は、典型的には、血流計測のための光(OCTスキャンのための光)、又はそれと同軸に入射する光であってよい。
血流計測のための光と非同軸に入射する光をケラレ判定に用いる場合において、瞳孔又はその近傍において血流計測のための光とケラレ判定のための光とが実質的に同じ位置を通過するように光学系を構成することができる。
或いは、血流計測のための光と非同軸に入射する光をケラレ判定に用いる場合において、血流計測のための光の経路とケラレ判定のための光の経路とが既知又は認識可能であれば、これら経路の相対的位置関係と、ケラレ判定のための光のケラレ状態とに基づいて、血流計測のための光のケラレ判定を行うことが可能である。
制御部は、判定部により得られた判定結果に基づいて、血流計測部の光学系を更に移動させるための第2移動制御を移動機構に適用する。
このような実施形態によれば、眼底血流計測において最適なドップラー信号を得るための測定アームのオフセット動作において、第1移動制御により測定アームを所定距離だけオフセットさせてからケラレ判定を行い、その結果に応じて第2移動制御を行って測定アームの位置を調整することができる。したがって、瞳孔によるケラレが生じないように被検眼の光軸に対する測定アームのオフセット量を少しずつ増加していく方法と比較して、最適なオフセット位置を達成するまでの時間の短縮を図ることができる。それにより、被検者に係る負担の軽減を図ることが可能になる。
実施形態において、第1移動制御の後に、血流計測部の光学系が、眼底の注目血管に沿う断面にOCTスキャンを適用して断面データを収集してもよい。更に、判定部が、この断面データに基づいてケラレの有無を判定してもよい。上記の実施形態では、図5Bに示す補足断面CpにOCTスキャンを適用して断面データ(補足断層像)を取得し、この断面データに基づきケラレの有無を判定することができる(図7A、図7Bを参照)。
実施形態において、眼底の注目血管に沿う断面にOCTスキャンを適用して収集された断面データに基づいて注目血管の傾きの推定値を求めてもよい(傾き推定部)。上記の実施形態では、傾き推定部233が、注目血管Db自体の傾き、又は、これを近似する内境界膜の傾きを求めることができる。
このような構成によれば、ケラレ判定のためのOCTスキャンと血管傾き推定のためのOCTスキャンとの双方に、眼底の注目血管に沿う断面にOCTスキャンが適用されるので、ケラレ判定と並行して血管傾き推定を行うことが可能であり、また、ケラレ判定から血管傾き推定への円滑な移行が可能である。それにより、計測時間の短縮を図ることができ、被検者に係る負担の軽減を図ることが可能になる。
実施形態において、制御部は、第2移動制御の後に傾き推定部により求められた注目血管の傾きの推定値と、予め設定された傾きの目標値とを表示手段に表示させる。上記の実施形態では、主制御部211は、第1移動制御の後の任意のタイミング(例えば、第2移動制御の後)に傾き推定部233により求められた注目血管Dbの傾きの推定値(計測角度)と、予め設定された傾きの目標値(目標角度)とを表示部241に表示させることができる。
このような構成によれば、ユーザーは、注目血管の計測角度を認識することができ、更に、計測角度と目標角度とを比較することができる。それにより、血流計測の開始や中止といった指示を任意に入力することが可能になる。
実施形態において、ユーザーは、操作部(242)を用いて目標角度が変更することができる。目標角度が変更されたとき、制御部は第1移動制御を再度実行することが可能である。
このような構成によれば、まず、ユーザーが目標角度を任意に変更することができる。更に、目標角度が変更されたことを受けて、眼底血流計測において最適なドップラー信号を得るための測定アームのオフセット動作を再度行うことができる。それにより、第2移動制御を繰り返しても好適なオフセット状態が得られない場合などにおいて、目標角度を再設定して好適なオフセット位置を再度探索することが可能になる。
実施形態において、第2移動制御の後に傾き推定部により求められた注目血管の傾きの推定値が、予め設定された傾きの目標値に略一致する場合、制御部は、血流計測部を制御して血流情報を取得させることができる。上記の実施形態では、主制御部211は、計測角度が目標角度に(ほぼ)一致したことを受けて血流計測を開始させることが可能である。
このような構成によれば、好適な計測角度が得られたことに対応して血流計測を自動で開始することができる。それにより、好適な計測角度が得られたタイミングを逃すことが無くなり、計測時間の短縮を図ることが可能となる。
実施形態において、判定部によりケラレが無いと判定された場合、制御部は、第1移動制御における移動方向と同じ第1方向に血流計測部の光学系を更に移動させるように、第2移動制御を実行することができる。逆に、判定部によりケラレが有ると判定された場合、制御部は、第1方向の反対方向に血流計測部の光学系を移動させるように、第2移動制御を実行することができる。
ケラレが無いと判定された場合、測定アームの光軸は被検眼の瞳孔内部に位置すると考えられるので、眼底血流計測において最適なドップラー信号を得るために測定アームのオフセット量を増加させる余地がある。したがって、実施形態では、第1移動制御における移動方向と同じ第1方向に血流計測部の光学系を更に移動させて、より好適なオフセット位置を探索する。
逆に、ケラレが有ると判定された場合には、測定アームの光軸は被検眼の瞳孔外部に位置すると考えられるので、第1移動制御における移動方向とは反対の方向に血流計測部の光学系を移動させて、測定アームの光軸が瞳孔内部を通過するようにオフセット位置を調整する。
このような構成によれば、ケラレが生じない範囲において測定アームのオフセット量を最大化することが可能となる。
実施形態において、制御部は、判定部によりケラレが無いと判定され、且つ、第1移動制御の直前における光軸の位置からの変位が最大となる位置に光学系が配置されるまで、第2移動制御を繰り返し実行することができる。
上記の実施形態では、主制御部211は、ケラレ判定部238によりケラレが無いと判定され、且つ、第1移動制御の直前における測定アームの光軸の位置H0からのオフセット量が最大となる位置に測定アームの光軸が配置されるまで、第2移動制御を繰り返し実行することができる。更に、ケラレが生じない範囲において測定アームのオフセット量が最大化されたときに、主制御部211は血流計測を開始させることができる。
〈第2の実施形態〉
第1の実施形態の動作例にて説明したように、被検眼(眼底)の動きに合わせて光学系を移動するためのトラッキングが眼底血流計測に適用される場合がある。眼底血流計測ではOCTスキャンが数秒程度にわたって実行されるので、眼球運動の影響を低減するためにトラッキングを適用するのが一般的である。
前述したように、トラッキングは、典型的には、眼底の赤外観察画像を取得する動作と、この赤外観察画像を解析して眼底の動きを検知する動作と、検知された眼底の動きに合わせて移動機構を制御する動作(つまり、眼底の動きに光学系を追従させる動作)との組み合わせによって実現される。
本実施形態に係る血流計測装置の構成の例について図10を参照しつつ説明する。データ処理部230Aは、第1の実施形態のデータ処理部230(図3、図4)の代わりに適用される。なお、第1の実施形態に係る血流計測装置1の要素のうちデータ処理部230以外の任意の要素を本実施形態に適用することが可能である。以下、第1の実施形態における要素を必要に応じ準用して説明を行う。
データ処理部230Aは、図4に示すデータ処理部230内の要素群に加え、動き検知部251と画像評価部252とを含む。
本実施形態に係る血流計測装置は、観察系(照明光学系10及び撮影光学系30)を用いて眼底Efの赤外観察画像を取得することができる。赤外観察画像は、所定の時間間隔で取得された時系列画像群(フレーム群)を含む。
動き検知部251は、観察系により取得されたフレームを解析して眼底Efの動きを検知する。この動き検知は、観察系により取得された全てのフレームに対して適用されてもよいし、それらの一部のみに対して適用されてもよい。
動き検知部251は、例えば、眼底Efの特徴部位(例えば、視神経乳頭、黄斑、血管、病変、レーザー治療痕など)に相当する画像領域(特徴領域)をフレーム中から特定する第1処理と、複数のフレームから特定された複数の特徴領域の位置の時系列変化(時系列画像群における特徴領域の描出位置の時系列変化)を求める第2処理とを実行する。
一例において、第1処理及び第2処理は観察系による赤外観察画像の取得と並行してリアルタイムに実行される。第1処理は、観察系により逐次に取得されるフレームを逐次に解析して特徴領域を特定するように実行される。更に、第2処理は、時間的に隣接する2つのフレームの間における特徴領域の描出位置の変位を逐次に算出するように実行される。
主制御部211は、動き検知部251により検知された眼底Efの動きに合わせて光学系(少なくとも測定アームを含む)を移動するための制御を移動機構150に適用する。それにより、トラッキングが実現される。
画像評価部252は、観察系により取得された赤外観察画像(時系列画像群、フレーム群)を評価する。この評価は、赤外観察画像がトラッキングのために好適か否かの評価であってよく、典型的には、赤外観察画像を取得するための光(例えば、観察照明光及び/又はその戻り光)のケラレの有無の判定を含む。ケラレが有る場合、赤外観察画像の周辺光量の低下が検出される。本実施形態における赤外観察画像の評価は、例えば、第1の実施形態にて説明した「ケラレ判定部238が実行する処理の第2の例」と同じ要領で実行されてよい。
主制御部211は、ケラレ判定部238により得られた判定結果と画像評価部252により得られた評価結果とに基づいて、第1の実施形態と同様の第2移動制御を実行することができる。本実施形態においても、主制御部211は、測定アームの光軸に直交する第1方向に光軸から所定距離だけ測定アームを移動させるための第1移動制御を移動機構150に適用し、更に、ケラレ判定部238により得られた判定結果に基づいて測定アームを更に移動させるための第2移動制御を移動機構150に適用する。
すなわち、本実施形態では、ケラレ判定と赤外観察画像の評価とを考慮して第2移動制御が実行される。このような処理の例を以下に説明する。
ケラレ判定部238によりケラレが無いと判定され、且つ、画像評価部252により赤外観察画像が良好であると評価された場合、主制御部211は、第1移動制御と同じ第1方向に光学系(測定アーム)を更に移動させるように第2移動制御を実行することができる。
逆に、ケラレ判定部238によりケラレが有ると判定された場合、又は、画像評価部252により前記赤外観察画像が良好でないと評価された場合、主制御部211は、第1方向の反対方向に光学系(測定アーム)を移動させるように第2移動制御を実行することができる。
更に、主制御部211は、ケラレ判定部238によりケラレが無いと判定され、画像評価部252により赤外観察画像が良好であると評価され、且つ、第1移動制御の直前における光軸の位置(H0)からの変位が最大となる位置に光学系(測定アームの対物レンズ22)が配置されるまで、第2移動制御を繰り返し実行することが可能である。
本実施形態によれば、トラッキングを好適に行いながら、眼底血流計測において最適なドップラー信号を得るための測定アームのオフセット動作を実行することが可能である。したがって、トラッキングの失敗に起因するオフセット動作のエラーを回避することができ、被検者に係る負担の更なる軽減を図ることが可能になる。
〈第3の実施形態〉
本実施形態に係る血流計測装置は、第1移動制御における光学系の移動距離である初期移動量(例えば、図9Aにおける位置H0と位置H1との間の距離)を設定することが可能である。
本実施形態に係る血流計測装置の構成の例について図11を参照しつつ説明する。制御部210Aは、第1の実施形態の制御部210(図3、図4)の代わりに適用される。なお、第1の実施形態に係る血流計測装置1の要素のうち制御部210以外の任意の要素を本実施形態に適用することが可能である。以下、第1の実施形態における要素を必要に応じ準用して説明を行う。なお、本実施形態に係る血流計測装置は、データ処理部230及びデータ処理部230Aのいずれか一方を含んでいてよい。
制御部210Aは、図3に示す制御部210内の要素群に加え、移動距離設定部213を含む。
被検眼Eが小瞳孔眼である場合や白内障眼である場合や、注目血管が眼底Efの周辺部に位置する場合などにおいて、瞳孔を散大させるための薬剤(散瞳剤)を被検眼Eに適用することがある。移動距離設定部213は、被検眼Eに散瞳剤が適用されたか否かに応じて初期移動量を設定するように構成されている。移動距離設定部213は、第1設定部の例である。
移動距離設定部213の例を説明する。例示的な移動距離設定部213は、散瞳剤が適用されない場合の初期移動量(第1初期移動量)と、散瞳剤が適用される場合の移動距離(第2初期移動量)とを予め記憶している。第1初期移動量は、例えば、標準的な瞳孔径の半分の値(標準的なサイズの瞳孔の半径)に設定される。第2初期移動量は、標準的な瞳孔径の眼に散瞳剤を適用したときの、散大した瞳孔の直径の半分の値に設定される。なお、被検者の属性(年齢、性別等)に応じた初期移動量や、被検眼の属性に応じた初期移動量を、予め記憶するようにしてもよい。
被検眼Eに散瞳剤が適用されたか否かは、例えば、操作部242を用いてユーザーが入力する。或いは、被検者の電子カルテ等を参照して散瞳剤が適用されたか否かを判定するようにしてもよい。
移動距離設定部213は、被検眼Eに散瞳剤が適用されたか否かを示す情報に基づいて、記憶された複数の初期移動量のうちから1つを選択する。主制御部211は、移動距離設定部213により選択された初期移動量を適用して第1移動制御を実行する。
本実施形態によれば、被検眼Eの瞳孔のサイズ(特に、散瞳剤の適用の有無に応じた瞳孔径)に応じて第1移動制御における初期移動量を設定することができるので、眼底血流計測において最適なドップラー信号を得るための測定アームのオフセット動作において、最適なオフセット位置を達成するまでの時間の更なる短縮を図ることができる。それにより、被検者に係る負担の更なる軽減を図ることが可能になる。
〈第4の実施形態〉
本実施形態に係る血流計測装置は、第1移動制御における光学系の移動距離である初期移動量(例えば、図9Aにおける位置H0と位置H1との間の距離)を設定することが可能である。第3の実施形態では散瞳剤の適用の有無に応じて初期移動量を設定しているが、本実施形態では被検眼Eの実際の瞳孔径に応じて初期移動量を設定する。
本実施形態に係る血流計測装置の構成の例について図12を参照しつつ説明する。本実施形態に係る血流計測装置は、瞳孔径情報取得部260を含む。また、制御部210Bは、第1の実施形態の制御部210(図3、図4)の代わりに適用される。なお、第1の実施形態に係る血流計測装置1の要素のうち制御部210以外の任意の要素を本実施形態に適用することが可能である。以下、第1の実施形態における要素を必要に応じ準用して説明を行う。なお、本実施形態に係る血流計測装置は、データ処理部230及びデータ処理部230Aのいずれか一方を含んでいてよい。
瞳孔径情報取得部260は、被検眼Eの瞳孔径の値を取得する。例えば、瞳孔径情報取得部260は、被検眼Eの瞳孔径を測定するための要素を含む。その具体例として、瞳孔径情報取得部260は、照明光学系10及び撮影光学系30により取得された被検眼Eの前眼部像を解析して瞳孔領域を特定してその径を算出するプロセッサを含んでいてよい。瞳孔領域の特定は、閾値処理、エッジ検出などの処理を含んでいてよい。また、瞳孔領域の径の算出は、楕円近似、円近似などの処理を含んでいてよい。
他の例において、瞳孔径情報取得部260は、過去に取得された被検眼Eの瞳孔径の測定値を、被検者の電子カルテ等から取得する。本例の瞳孔径情報取得部260は、電子カルテ等が格納された装置にアクセスするための通信デバイスを含む。
制御部210Bは、図3に示す制御部210内の要素群に加え、移動距離設定部214を含む。移動距離設定部214は、瞳孔径情報取得部260により取得された瞳孔径の値に基づいて、第1移動制御における初期移動量を設定することができる。移動距離設定部214は、例えば、瞳孔径情報取得部260により取得された瞳孔径の値の半分の値を初期移動量として設定することができる。この初期移動量は、被検眼Eの瞳孔の半径の値又はその近似値に相当する。移動距離設定部214は、第2設定部の例である。
主制御部211は、移動距離設定部214により選択された初期移動量を適用して第1移動制御を実行する。
本実施形態によれば、被検眼Eの瞳孔径の実際の測定値に基づいて、第1移動制御における初期移動量を設定することができるので、眼底血流計測において最適なドップラー信号を得るための測定アームのオフセット動作において、最適なオフセット位置を達成するまでの時間の更なる短縮を図ることができる。それにより、被検者に係る負担の更なる軽減を図ることが可能になる。
以上に説明した実施形態は、この発明の例示的な態様に過ぎない。よって、この発明の要旨の範囲内における任意の変形(省略、置換、付加等)を施すことが可能である。