以下、図面を参照して発明を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
〈第1の実施の形態〉
(力覚センサ装置1の概略構成)
図1は、第1の実施の形態に係る力覚センサ装置を例示する斜視図である。図2は、第1の実施の形態に係る力覚センサ装置のセンサチップ及び起歪体を例示する斜視図である。図1及び図2を参照するに、力覚センサ装置1は、センサチップ110と、起歪体20と、入出力基板30とを有している。力覚センサ装置1は、例えば、工作機械等に使用されるロボットの腕や指等に搭載される多軸の力覚センサ装置である。
センサチップ110は、所定の軸方向の変位を最大で6軸検知する機能を有している。起歪体20は、印加された力をセンサチップ110に伝達する機能を有している。
センサチップ110は、起歪体20の上面側に、起歪体20から突出しないように接着されている。又、起歪体20の上面及び各側面に、センサチップ110に対して信号の入出力を行う入出力基板30の一端側が適宜屈曲された状態で接着されている。センサチップ110と入出力基板30の各電極31とは、ボンディングワイヤ等(図示せず)により、電気的に接続されている。
入出力基板30において、起歪体20の第1の側面に配置された領域には能動部品32及び受動部品39が実装されている。入出力基板30において、起歪体20の第2の側面に配置された領域には能動部品33及び受動部品39が実装されている。入出力基板30において、起歪体20の第3の側面に配置された領域には能動部品34及び受動部品39が実装されている。入出力基板30において、起歪体20の第4の側面に配置された領域には能動部品35及び受動部品39が実装されている。
能動部品33は、例えば、センサチップ110から出力されるX軸方向の力Fxを検出するブリッジ回路からのアナログの電気信号、及びセンサチップ110から出力されるY軸方向の力Fyを検出するブリッジ回路からのアナログの電気信号をディジタルの電気信号に変換するIC(ADコンバータ)である。
能動部品34は、例えば、センサチップ110から出力されるZ軸方向の力Fzを検出するブリッジ回路からのアナログの電気信号、及びセンサチップ110から出力されるX軸を軸として回転させるモーメントMxを検出するブリッジ回路からのアナログの電気信号をディジタルの電気信号に変換するIC(ADコンバータ)である。
能動部品35は、例えば、センサチップ110から出力されるY軸を軸として回転させるモーメントMyを検出するブリッジ回路からのアナログの電気信号、及びセンサチップ110から出力されるZ軸を軸として回転させるモーメントMzを検出するブリッジ回路からのアナログの電気信号をディジタルの電気信号に変換するIC(ADコンバータ)である。
能動部品32は、例えば、能動部品33、34、及び35から出力されるディジタルの電気信号に対して所定の演算を行い、力Fx、Fy、及びFz、並びにモーメントMx、My、及びMzを示す信号を生成し、外部に出力するICである。受動部品39は、能動部品32〜35に接続される抵抗やコンデンサ等である。
なお、能動部品32〜35の機能をいくつのICで実現するかは任意に決定することができる。又、能動部品32〜35を入出力基板30に実装せずに、入出力基板30と接続される外部回路側に実装する構成とすることも可能である。この場合には、入出力基板30からアナログの電気信号が出力される。
入出力基板30は、起歪体20の第1の側面の下方で外側に屈曲し、入出力基板30の他端側が外部に引き出されている。入出力基板30の他端側には、力覚センサ装置1と接続される外部回路(制御装置等)との電気的な入出力が可能な端子(図示せず)が配列されている。
なお、本実施の形態では、便宜上、力覚センサ装置1において、センサチップ110が設けられた側を上側又は一方の側、その反対側を下側又は他方の側とする。又、各部位のセンサチップ110が設けられた側の面を一方の面又は上面、その反対側の面を他方の面又は下面とする。但し、力覚センサ装置1は天地逆の状態で用いることができ、又は任意の角度で配置することができる。又、平面視とは対象物をセンサチップ110の上面の法線方向(Z軸方向)から視ることを指し、平面形状とは対象物をセンサチップ110の上面の法線方向(Z軸方向)から視た形状を指すものとする。
(センサチップ110)
図3は、センサチップ110をZ軸方向上側から視た図であり、図3(a)は斜視図、図3(b)は平面図である。図4は、センサチップ110をZ軸方向下側から視た図であり、図4(a)は斜視図、図4(b)は底面図である。図4(b)において、便宜上、同一高さの面を同一の梨地模様で示している。なお、センサチップ110の上面の一辺に平行な方向をX軸方向、垂直な方向をY軸方向、センサチップ110の厚さ方向(センサチップ110の上面の法線方向)をZ軸方向としている。X軸方向、Y軸方向、及びZ軸方向は、互いに直交している。
図3及び図4に示すセンサチップ110は、1チップで最大6軸を検知できるMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)センサチップであり、SOI(Silicon On Insulator)基板等の半導体基板から形成されている。センサチップ110の平面形状は、例えば、3000μm角程度の正方形とすることができる。
センサチップ110は、柱状の5つの支持部111a〜111eを備えている。支持部111a〜111eの平面形状は、例えば、500μm角程度の正方形とすることができる。第1の支持部である支持部111a〜111dは、センサチップ110の四隅に配置されている。第2の支持部である支持部111eは、支持部111a〜111dの中央に配置されている。
支持部111a〜111eは、例えば、SOI基板の活性層、BOX層、及び支持層から形成することができ、それぞれの厚さは、例えば、500μm程度とすることができる。
支持部111aと支持部111bとの間には、支持部111aと支持部111bとに両端を固定された(隣接する支持部同士を連結する)、構造を補強するための補強用梁112aが設けられている。支持部111bと支持部111cとの間には、支持部111bと支持部111cとに両端を固定された(隣接する支持部同士を連結する)、構造を補強するための補強用梁112bが設けられている。
支持部111cと支持部111dとの間には、支持部111cと支持部111dとに両端を固定された(隣接する支持部同士を連結する)、構造を補強するための補強用梁112cが設けられている。支持部111dと支持部111aとの間には、支持部111dと支持部111aとに両端を固定された(隣接する支持部同士を連結する)、構造を補強するための補強用梁112dが設けられている。
言い換えれば、第1の補強用梁である4つの補強用梁112a、112b、112c、及び112dが枠状に形成され、各補強用梁の交点をなす角部が、支持部111b、111c、111d、111aとなる。
支持部111aの内側の角部と、それに対向する支持部111eの角部とは、構造を補強するための補強用梁112eにより連結されている。支持部111bの内側の角部と、それに対向する支持部111eの角部とは、構造を補強するための補強用梁112fにより連結されている。
支持部111cの内側の角部と、それに対向する支持部111eの角部とは、構造を補強するための補強用梁112gにより連結されている。支持部111dの内側の角部と、それに対向する支持部111eの角部とは、構造を補強するための補強用梁112hにより連結されている。第2の補強用梁である補強用梁112e〜112hは、X軸方向(Y軸方向)に対して斜めに配置されている。つまり、補強用梁112e〜112hは、補強用梁112a、112b、112c、及び112dと非平行に配置されている。
補強用梁112a〜112hは、例えば、SOI基板の活性層、BOX層、及び支持層から形成することができる。補強用梁112a〜112hの太さ(短手方向の幅)は、例えば、140μm程度とすることができる。補強用梁112a〜112hのそれぞれの上面は、支持部111a〜111eの上面と略面一である。
これに対して、補強用梁112a〜112hのそれぞれの下面は、支持部111a〜111eの下面及び力点114a〜114dの下面よりも数10μm程度上面側に窪んでいる。これは、センサチップ110を起歪体20に接着したときに、補強用梁112a〜112hの下面が起歪体20の対向する面と接しないようにするためである。
このように、歪を検知するための検知用梁とは別に、検知用梁よりも厚く形成した剛性の強い補強用梁を配置することで、センサチップ110全体の剛性を高めることができる。これにより、入力に対して検知用梁以外が変形しづらくなるため、良好なセンサ特性を得ることができる。
支持部111aと支持部111bとの間の補強用梁112aの内側には、補強用梁112aと所定間隔を空けて平行に、支持部111aと支持部111bとに両端を固定された(隣接する支持部同士を連結する)、歪を検知するための検知用梁113aが設けられている。
検知用梁113aと支持部111eとの間には、検知用梁113a及び支持部111eと所定間隔を空けて検知用梁113aと平行に、検知用梁113bが設けられている。検知用梁113bは、補強用梁112eの支持部111e側の端部と補強用梁112fの支持部111e側の端部とを連結している。
検知用梁113aの長手方向の略中央部と、それに対向する検知用梁113bの長手方向の略中央部とは、検知用梁113a及び検知用梁113bと直交するように配置された検知用梁113cにより連結されている。
支持部111bと支持部111cとの間の補強用梁112bの内側には、補強用梁112bと所定間隔を空けて平行に、支持部111bと支持部111cとに両端を固定された(隣接する支持部同士を連結する)、歪を検知するための検知用梁113dが設けられている。
検知用梁113dと支持部111eとの間には、検知用梁113d及び支持部111eと所定間隔を空けて検知用梁113dと平行に、検知用梁113eが設けられている。検知用梁113eは、補強用梁112fの支持部111e側の端部と補強用梁112gの支持部111e側の端部とを連結している。
検知用梁113dの長手方向の略中央部と、それに対向する検知用梁113eの長手方向の略中央部とは、検知用梁113d及び検知用梁113eと直交するように配置された検知用梁113fにより連結されている。
支持部111cと支持部111dとの間の補強用梁112cの内側には、補強用梁112cと所定間隔を空けて平行に、支持部111cと支持部111dとに両端を固定された(隣接する支持部同士を連結する)、歪を検知するための検知用梁113gが設けられている。
検知用梁113gと支持部111eとの間には、検知用梁113g及び支持部111eと所定間隔を空けて検知用梁113gと平行に、検知用梁113hが設けられている。検知用梁113hは、補強用梁112gの支持部111e側の端部と補強用梁112hの支持部111e側の端部とを連結している。
検知用梁113gの長手方向の略中央部と、それに対向する検知用梁113hの長手方向の略中央部とは、検知用梁113g及び検知用梁113hと直交するように配置された検知用梁113iにより連結されている。
支持部111dと支持部111aとの間の補強用梁112dの内側には、補強用梁112dと所定間隔を空けて平行に、支持部111dと支持部111aとに両端を固定された(隣接する支持部同士を連結する)、歪を検知するための検知用梁113jが設けられている。
検知用梁113jと支持部111eとの間には、検知用梁113j及び支持部111eと所定間隔を空けて検知用梁113jと平行に、検知用梁113kが設けられている。検知用梁113kは、補強用梁112hの支持部111e側の端部と補強用梁112eの支持部111e側の端部とを連結している。
検知用梁113jの長手方向の略中央部と、それに対向する検知用梁113kの長手方向の略中央部とは、検知用梁113j及び検知用梁113kと直交するように配置された検知用梁113lにより連結されている。
検知用梁113a〜113lは、支持部111a〜111eの厚さ方向の上端側に設けられ、例えば、SOI基板の活性層から形成することができる。検知用梁113a〜113lの太さ(短手方向の幅)は、例えば、75μm程度とすることができる。検知用梁113a〜113lのそれぞれの上面は、支持部111a〜111eの上面と略面一である。検知用梁113a〜113lのそれぞれの厚さは、例えば、50μm程度とすることができる。
検知用梁113aの長手方向の中央部の下面側(検知用梁113aと検知用梁113cとの交点)には、力点114aが設けられている。検知用梁113a、113b、及び113cと力点114aとにより、1組の検知ブロックをなしている。
検知用梁113dの長手方向の中央部の下面側(検知用梁113dと検知用梁113fとの交点)には、力点114bが設けられている。検知用梁113d、113e、及び113fと力点114bとにより、1組の検知ブロックをなしている。
検知用梁113gの長手方向の中央部の下面側(検知用梁113gと検知用梁113iとの交点)には、力点114cが設けられている。検知用梁113g、113h、及び113iと力点114cとにより、1組の検知ブロックをなしている。
検知用梁113jの長手方向の中央部の下面側(検知用梁113jと検知用梁113lとの交点)には、力点114dが設けられている。検知用梁113j、113k、及び113lと力点114dとにより、1組の検知ブロックをなしている。
力点114a〜114dは、外力が印加される箇所であり、例えば、SOI基板のBOX層及び支持層から形成することができる。力点114a〜114dのそれぞれの下面は、支持部111a〜111eの下面と略面一である。
このように、力又は変位を4つの力点114a〜114dから取り入れることで、力の種類毎に異なる梁の変形が得られるため、6軸の分離性が良いセンサを実現することができる。
なお、センサチップ110において、応力集中を抑制する観点から、内角を形成する部分はR状とすることが好ましい。
図5は、各軸にかかる力及びモーメントを示す符号を説明する図である。図5に示すように、X軸方向の力をFx、Y軸方向の力をFy、Z軸方向の力をFzとする。又、X軸を軸として回転させるモーメントをMx、Y軸を軸として回転させるモーメントをMy、Z軸を軸として回転させるモーメントをMzとする。
図6は、センサチップ110のピエゾ抵抗素子の配置を例示する図である。4つ力点114a〜114dに対応する各検知ブロックの所定位置には、ピエゾ抵抗素子が配置されている。
具体的には、図3及び図6を参照すると、力点114aに対応する検知ブロックにおいて、ピエゾ抵抗素子MxR3及びMxR4は、検知用梁113aを長手方向に二等分する線上であって、かつ、検知用梁113aの検知用梁113cに近い領域において検知用梁113cを長手方向(Y方向)に二等分する線に対して対称な位置に配置されている。又、ピエゾ抵抗素子FyR3及びFyR4は、検知用梁113aを長手方向に二等分する線よりも補強用梁112a側であって、かつ、検知用梁113aの検知用梁113cから遠い領域において検知用梁113cを長手方向に二等分する線に対して対称な位置に配置されている。
又、力点114bに対応する検知ブロックにおいて、ピエゾ抵抗素子MyR3及びMyR4は、検知用梁113dを長手方向に二等分する線上であって、かつ、検知用梁113dの検知用梁113fに近い領域において検知用梁113fを長手方向(X方向)に二等分する線に対して対称な位置に配置されている。又、ピエゾ抵抗素子FxR3及びFxR4は、検知用梁113dを長手方向に二等分する線よりも補強用梁112b側であって、かつ、検知用梁113dの検知用梁113fから遠い領域において検知用梁113fを長手方向に二等分する線に対して対称な位置に配置されている。
又、ピエゾ抵抗素子MzR3及びMzR4は、検知用梁113dを長手方向に二等分する線よりも検知用梁113f側であって、かつ、検知用梁113dの検知用梁113fに近い領域において検知用梁113fを長手方向に二等分する線に対して対称な位置に配置されている。ピエゾ抵抗素子FzR2及びFzR3は、検知用梁113eを長手方向に二等分する線よりも支持部111e側であって、かつ、検知用梁113eの検知用梁113fに近い領域において検知用梁113fを長手方向に二等分する線に対して対称な位置に配置されている。
又、力点114cに対応する検知ブロックにおいて、ピエゾ抵抗素子MxR1及びMxR2は、検知用梁113gを長手方向に二等分する線上であって、かつ、検知用梁113gの検知用梁113iに近い領域において検知用梁113iを長手方向(Y方向)に二等分する線に対して対称な位置に配置されている。又、ピエゾ抵抗素子FyR1及びFyR2は、検知用梁113gを長手方向に二等分する線よりも補強用梁112c側であって、かつ、検知用梁113gの検知用梁113iから遠い領域において検知用梁113iを長手方向に二等分する線に対して対称な位置に配置されている。
又、力点114dに対応する検知ブロックにおいて、ピエゾ抵抗素子MyR1及びMyR2は、検知用梁113jを長手方向に二等分する線上であって、かつ、検知用梁113jの検知用梁113lに近い領域において検知用梁113lを長手方向(X方向)に二等分する線に対して対称な位置に配置されている。又、ピエゾ抵抗素子FxR1及びFxR2は、検知用梁113jを長手方向に二等分する線よりも補強用梁112d側であって、かつ、検知用梁113jの検知用梁113lから遠い領域において検知用梁113lを長手方向に二等分する線に対して対称な位置に配置されている。
又、ピエゾ抵抗素子MzR1及びMzR2は、検知用梁113jを長手方向に二等分する線よりも検知用梁113k側であって、かつ、検知用梁113jの検知用梁113lに近い領域において検知用梁113lを長手方向に二等分する線に対して対称な位置に配置されている。ピエゾ抵抗素子FzR1及びFzR4は、検知用梁113kを長手方向に二等分する線よりも支持部111e側であって、かつ、検知用梁113kの検知用梁113lから遠い領域において検知用梁113lを長手方向に二等分する線に対して対称な位置に配置されている。
このように、センサチップ110では、各検知ブロックに複数のピエゾ抵抗素子を分けて配置している。これにより、力点114a〜114dに印加(伝達)された力の向き(軸方向)に応じた、所定の梁に配置された複数のピエゾ抵抗素子の出力の変化に基づいて、所定の軸方向の変位を最大で6軸検知することができる。
又、センサチップ110では、検知用梁113c、113f、113i、及び113lをできるだけ短くして、検知用梁113b、113e、113h、及び113kを検知用梁113a、113d、113g、及び113jに近つけ、検知用梁113b、113e、113h、及び113kの長さをできるだけ確保する構造としている。この構造により、検知用梁113b、113e、113h、及び113kが弓なりに撓みやすくなって応力集中を緩和でき、耐荷重を向上することができる。
又、センサチップ110では、短くしたことで応力に対する変形が小さくなった検知用梁113c、113f、113i、及び113lにはピエゾ抵抗素子を配置していない。その代り、検知用梁113c、113f、113i、及び113lよりも細くて長く、弓なりに撓みやすい検知用梁113a、113d、113g、及び113j、並びに検知用梁113b、113e、113h、及び113kの応力が最大になる位置の近傍にピエゾ抵抗素子を配置している。その結果、センサチップ110では、効率よく応力を取り込むことが可能となり、感度(同じ応力に対するピエゾ抵抗素子の抵抗変化)を向上することができる。
なお、センサチップ110では、歪の検出に用いるピエゾ抵抗素子以外にも、ダミーのピエゾ抵抗素子が配置されている。ダミーのピエゾ抵抗素子は、歪の検出に用いるピエゾ抵抗素子も含めた全てのピエゾ抵抗素子が、支持部111eの中心に対して点対称となるように配置されている。
ここで、ピエゾ抵抗素子FxR1〜FxR4は力Fxを検出し、ピエゾ抵抗素子FyR1〜FyR4は力Fyを検出し、ピエゾ抵抗素子FzR1〜FzR4は力Fzを検出する。又、ピエゾ抵抗素子MxR1〜MxR4はモーメントMxを検出し、ピエゾ抵抗素子MyR1〜MyR4はモーメントMyを検出し、ピエゾ抵抗素子MzR1〜MzR4はモーメントMzを検出する。
このように、センサチップ110では、各検知ブロックに複数のピエゾ抵抗素子を分けて配置している。これにより、力点114a〜114dに印加(伝達)された力又は変位の向き(軸方向)に応じた、所定の梁に配置された複数のピエゾ抵抗素子の出力の変化に基づいて、所定の軸方向の変位を最大で6軸検知することができる。
具体的には、センサチップ110において、Z軸方向の変位(Mx、My、Fz)は、所定の検知用梁の変形に基づいて検知することができる。すなわち、X軸方向及びY軸方向のモーメント(Mx、My)は、第1の検知用梁である検知用梁113a、113d、113g、及び113jの変形に基づいて検知することができる。又、Z軸方向の力(Fz)は、第2の検知用梁である検知用梁113e及び113kの変形に基づいて検知することができる。
又、センサチップ110において、X軸方向及びY軸方向の変位(Fx、Fy、Mz)は、所定の検知用梁の変形に基づいて検知することができる。すなわち、X軸方向及びY軸方向の力(Fx、Fy)は、第1の検知用梁である検知用梁113a、113d、113g、及び113jの変形に基づいて検知することができる。又、Z軸方向のモーメント(Mz)は、第1の検知用梁である検知用梁113d及び113jの変形に基づいて検知することができる。
各検知用梁の厚みと幅を可変することで、検出感度の均一化や、検出感度の向上等の調整を図ることができる。
但し、ピエゾ抵抗素子の数を減らし、5軸以下の所定の軸方向の変位を検知するセンサチップとすることも可能である。
図7は、センサチップ110における電極配置と配線を例示する図であり、センサチップ110をZ軸方向上側から視た平面図である。図7に示すように、センサチップ110は、電気信号を取り出すための複数の電極15を有している。各電極15は、力点114a〜114dに力が印加された際の歪みが最も少ない、センサチップ110の支持部111a〜111dの上面に配置されている。各ピエゾ抵抗素子から電極15までの配線16は、各補強用梁上及び各検知用梁上を適宜引き回すことができる。
このように、各補強用梁は、必要に応じて配線を引き出す際の迂回路としても利用できるため、検知用梁とは別に補強用梁を配置することで、配線設計の自由度を向上することができる。これにより、各ピエゾ抵抗素子を、より理想的な位置に配置することが可能となる。
図8は、センサチップ110の温度センサを例示する拡大平面図である。図7及び図8に示すように、センサチップ110は、歪み検出用に用いるピエゾ抵抗素子に温度補正を行うための温度センサ17を備えている。温度センサ17は、4つのピエゾ抵抗素子TR1、TR2、TR3、及びTR4がブリッジ接続された構成である。
ピエゾ抵抗素子TR1、TR2、TR3、及びTR4のうち、対向する2つは歪み検出用に用いるピエゾ抵抗素子MxR1等と同一特性とされている。又、ピエゾ抵抗素子TR1、TR2、TR3、及びTR4のうち、対向する他の2つは、不純物半導体により不純物濃度を変えることで、ピエゾ抵抗素子MxR1等と異なる特性とされている。これにより、温度変化によりブリッジのバランスが崩れるため、温度検出が可能となる。
なお、歪み検出用に用いるピエゾ抵抗素子(MxR1等)は、全て、センサチップ110を構成する半導体基板(シリコン等)の結晶方位に水平又は垂直に配置されている。これにより、同じ歪みに対して、より大きな抵抗の変化を得ることができ、印加される力及びモーメントの測定精度を向上させることが可能となる。
これに対して、温度センサ17を構成するピエゾ抵抗素子TR1、TR2、TR3、及びTR4は、センサチップ110を構成する半導体基板(シリコン等)の結晶方位に対して45度傾けて配置されている。これにより、応力に対する抵抗変化を低減できるため、温度変化のみを精度よく検知できる。
又、温度センサ17は、力点114a〜114dに力が印加された際の歪みが最も少ない、センサチップ110の支持部111aの上面に配置されている。これにより、応力に対する抵抗変化をいっそう低減できる。
なお、ピエゾ抵抗素子は、本発明にかかる歪検出素子の代表的な一例である。
(起歪体20)
図9は、起歪体20を例示する図(その1)であり、図9(a)は斜視図、図9(b)は側面図である。図10は、起歪体20を例示する図(その2)であり、図10(a)は平面図、図10(b)は図10(a)のA−A線に沿う縦断面斜視図である。図10(a)において、便宜上、同一高さの面を同一の梨地模様で示している。図11は、起歪体20を例示する図(その3)であり、図11(a)は図10(a)のB−B線に沿う縦断面図であり、図11(b)は図11(a)のC−C線に沿う横断面図である。
図9〜図11に示すように、起歪体20は、被固定部に直接取り付けられる土台21と、センサチップ110を搭載するセンサチップ搭載部となる柱28と、柱28の周囲に離間して配置された柱22a〜22dとを備えている。
より詳しくは、起歪体20において、略円形の土台21の上面に、土台21の中心に対して均等(点対称)となるように4本の柱22a〜22dが配置され、隣接する柱同士を連結する第1の梁である4本の梁23a〜23dが枠状に設けられている。そして、土台21の上面中央の上方に、柱28が配置されている。なお、土台21の平面形状は円形には限定されず、多角形等(例えば、正方形等)としてもよい。
柱28は、柱22a〜22dよりも太くて短く形成されている。なお、センサチップ110は、柱22a〜22dの上面から突出しないように、柱28上に固定される。
柱28は、土台21の上面には直接固定されていなく、接続用梁28a〜28dを介して柱22a〜22dに固定されている。そのため、土台21の上面と柱28の下面との間には空間がある。柱28の下面と、接続用梁28a〜28dの各々の下面とは、面一とすることができる。
柱28の接続用梁28a〜28dが接続される部分の横断面形状は例えば矩形であり、矩形の四隅と矩形の四隅に対向する柱22a〜22dとが接続用梁28a〜28dを介して接続されている。接続用梁28a〜28dが、柱22a〜22dと接続される位置221〜224は、柱22a〜22dの高さ方向の中間よりも下側であることが好ましい。この理由については、後述する。なお、柱28の接続用梁28a〜28dが接続される部分の横断面形状は矩形には限定されず、円形や多角形等(例えば、六角形等)としてもよい。
接続用梁28a〜28dは、土台21の中心に対して均等(点対称)となるように、土台21の上面と所定間隔を空けて土台21の上面と略平行に配置されている。接続用梁28a〜28dの太さや厚み(剛性)は、起歪体20の変形を妨げないようにするため、柱22a〜22dや梁23a〜23dよりも細く薄く形成することが好ましい。
このように、土台21の上面と柱28の下面とは所定の距離だけ離れている。所定の距離は、例えば、数mm程度とすることができる。柱28を土台21の上面に直接固定せずに、土台21の上面と柱28の下面とを所定の距離だけ離すことの技術的意義については図17〜図22を参照しながら後述する。
土台21には、起歪体20を被固定部にねじ等を用いて締結するための貫通孔21xが設けられている。本実施の形態では、土台21には4つの貫通孔21xが設けられているが、貫通孔21xの個数は任意に決定することができる。
土台21を除く起歪体20の概略形状は、例えば、縦5000μm程度、横5000μm程度、高さ7000μm程度の直方体状とすることができる。柱22a〜22dの横断面形状は、例えば、1000μm角程度の正方形とすることができる。柱28の横断面形状は、例えば、2000μm角程度の正方形とすることができる。
但し、起歪体20において、応力集中を抑制する観点から、内角を形成する部分はR状とすることが好ましい。例えば、柱22a〜22dの土台21の上面の中心側の面は、上下がR状に形成されていることが好ましい。同様に、梁23a〜23dの土台21の上面と対向する面は、左右がR状に形成されていることが好ましい。
梁23a〜23dのそれぞれの上面の長手方向の中央部には、梁23a〜23dの長手方向の中央部から上方に突起する突起部が設けられ、突起部上に、例えば四角柱状の入力部24a〜24dが設けられている。入力部24a〜24dは外部から力が印加される部分であり、入力部24a〜24dに力が印加されると、それに応じて梁23a〜23d及び柱22a〜22dが変形する。
このように、4つの入力部24a〜24dを設けることで、例えば1つの入力部の構造と比較して、梁23a〜23dの耐荷重を向上することができる。
柱28の上面の四隅には4本の柱25a〜25dが配置され、柱28の上面の中央部には第4の柱である柱25eが配置されている。柱25a〜25eは、同一の高さに形成されている。
すなわち、柱25a〜25eのそれぞれの上面は、同一平面上に位置している。柱25a〜25eのそれぞれの上面は、センサチップ110の下面と接着される接合部となる。
梁23a〜23dのそれぞれの内側面の長手方向の中央部には、梁23a〜23dのそれぞれの内側面から水平方向内側に突出する梁26a〜26dが設けられている。梁26a〜26dは、梁23a〜23dや柱22a〜22dの変形をセンサチップ110に伝達する第2の梁である。又、梁26a〜26dのそれぞれの上面の先端側には、梁26a〜26dのそれぞれの上面の先端側から上方に突起する突起部27a〜27dが設けられている。
突起部27a〜27dは、同一の高さに形成されている。すなわち、突起部27a〜27dのそれぞれの上面は、同一平面上に位置している。突起部27a〜27dのそれぞれの上面は、センサチップ110の下面と接着される接合部となる。梁26a〜26d及び突起部27a〜27dは、可動部となる梁23a〜23dと連結されているため、入力部24a〜24dに力が印加されると、それに応じて変形する。
なお、入力部24a〜24dに力が印加されていない状態では、柱25a〜25eのそれぞれの上面と、突起部27a〜27dのそれぞれの上面とは、同一平面上に位置している。
起歪体20において、土台21、柱22a〜22d、柱28、梁23a〜23d、入力部24a〜24d、柱25a〜25e、梁26a〜26d、及び突起部27a〜27dの各部位は、剛性を確保しかつ精度良く作製する観点から、一体に形成されていることが好ましい。起歪体20の材料としては、例えば、SUS(ステンレス鋼)等の硬質な金属材料を用いることができる。中でも、特に硬質で機械的強度の高いSUS630を用いることが好ましい。
このように、センサチップ110と同様に、起歪体20も柱と梁とを備えた構造とすることで、印加される力によって6軸それぞれで異なる変形を示すため、6軸の分離性が良い変形をセンサチップ110に伝えることができる。
すなわち、起歪体20の入力部24a〜24dに印加された力を、柱22a〜22d、梁23a〜23d、及び梁26a〜26dを介してセンサチップ110に伝達し、センサチップ110で変位を検知する。そして、センサチップ110において、1つの軸につき1個ずつ形成されたブリッジ回路から各軸の出力を得ることができる。
(力覚センサ装置1の製造工程)
図12〜図14は、力覚センサ装置1の製造工程を例示する図である。まず、図12(a)に示すように、起歪体20を作製する。起歪体20は、例えば、成形や切削、ワイヤ放電等により一体に形成することができる。起歪体20の材料としては、例えば、SUS(ステンレス鋼)等の硬質な金属材料を用いることができる。中でも、特に硬質で機械的強度の高いSUS630を用いることが好ましい。起歪体20を成形により作製する場合には、例えば、金属粒子とバインダーとなる樹脂とを金型に入れて成形し、その後、焼結して樹脂を蒸発させることで、金属からなる起歪体20を作製できる。
次に、図12(b)に示す工程では、柱25a〜25eの上面、及び突起部27a〜27dの上面に接着剤41を塗布する。接着剤41としては、例えば、エポキシ系の接着剤等を用いることができる。外部から印加される力に対する耐力の点から、接着剤41はヤング率1GPa以上で厚さ20μm以下であることが好ましい。
次に、図13(a)に示す工程では、センサチップ110を作製する。センサチップ110は、例えば、SOI基板を準備し、準備した基板にエッチング加工(例えば、反応性イオンエッチング等)等を施す周知の方法により作製できる。又、電極や配線は、例えば、基板の表面にスパッタ法等によりアルミニウム等の金属膜を成膜後、金属膜をフォトリソグラフィによってパターニングすることにより作製できる。
次に、図13(b)に示す工程では、センサチップ110の下面が柱25a〜25eの上面、及び突起部27a〜27dの上面に塗布された接着剤41と接するように、センサチップ110を起歪体20内に加圧しながら配置する。そして、接着剤41を所定温度に加熱して硬化させる。これにより、センサチップ110が起歪体20内に固定される。具体的には、センサチップ110の支持部111a〜111dが各々柱25a〜25e上に固定され、支持部111eが柱25e上に固定され、力点114a〜114dが各々突起部27a〜27d上に固定される。
次に、図14(a)に示す工程では、柱22a〜22dの上面に、接着剤42を塗布する。接着剤42としては、例えば、エポキシ系の接着剤等を用いることができる。なお、接着剤42は、入出力基板30を起歪体20上に固定するためのものであり、外部から力が印加されないため、汎用の接着剤を用いることができる。
次に、図14(b)に示す工程では、能動部品32〜35及び受動部品39が実装された入出力基板30を準備し、入出力基板30の下面が柱22a〜22dの上面に塗布された接着剤42と接するように、入出力基板30を起歪体20上に配置する。そして、入出力基板30を起歪体20側に加圧しながら接着剤42を所定温度に加熱して硬化させる。これにより、入出力基板30が起歪体20に固定される。
なお、入出力基板30は、センサチップ110及び入力部24a〜24dを露出するように起歪体20に固定される。入出力基板30の各電極31は、入力部24a〜24dに力が印加された際の歪みが最も少ない、起歪体20の柱22a〜22d上に配置することが好ましい。
その後、入出力基板30の起歪体20から水平方向にはみ出した部分(入力端子側を除く)を、起歪体20の各側面側に折り曲げる。そして、入出力基板30とセンサチップ110の対応する部分をボンディングワイヤ等(図示せず)により電気的に接続する。これにより、力覚センサ装置1が完成する。
このように、力覚センサ装置1は、センサチップ110、起歪体20、及び入出力基板30の3部品のみで作製できるため、組み立てが容易であり、かつ位置合わせ箇所も最低限で済むため、実装起因による精度の劣化を抑制できる。
又、起歪体20において、センサチップ110との接続箇所(柱25a〜25eの上面、及び突起部27a〜27dの上面)は全て同一平面にあるため、起歪体20に対するセンサチップ110の位置合わせが1回で済み、起歪体20にセンサチップ110を実装することが容易である。
〈第1の実施の形態の変形例1〉
第1の実施の形態の変形例1では、受力板を備えた力覚センサ装置の例を示す。なお、第1の実施の形態の変形例1において、既に説明した実施の形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
図15は、第1の実施の形態の変形例1に係る力覚センサ装置を例示する斜視図である。図16は、第1の実施の形態の変形例1に係る力覚センサ装置を例示する図であり、図16(a)は平面図、図16(b)は図16(a)のD−D線に沿う縦断面図である。図15及び図16を参照するに、力覚センサ装置1Aは、起歪体20の入力部24a〜24d上に受力板40を設けた点が力覚センサ装置1と相違する。
受力板40の平面形状は、例えば、円形とすることができるが、矩形等としてもよい。受力板40の上面側には平面形状が矩形の4つの凹部40xと、平面形状が円形の4つの貫通孔40yが設けられている。又、受力板40の上面側の中心には、平面形状が円形の1つの凹部40zが設けられている。
4つの凹部40xは各々起歪体20の入力部24a〜24dを覆うように配置され、各々の凹部40xの底面は起歪体20側に突起して起歪体20の入力部24a〜24dの上面と接している。但し、凹部40x、貫通孔40y、及び凹部40zの平面形状は、任意に決定することができる。
このような構造により、受力板40と起歪体20とを位置決めすることができる。又、凹部40x及び凹部40zは、必要に応じて、力覚センサ装置1Aを被固定部に取り付ける際の位置決めに用いることができる。又、貫通孔40yは、力覚センサ装置1Aを被固定部にねじ等を用いて締結するためのねじ孔である。
受力板40の材料としては、例えば、SUS(ステンレス鋼)630等を用いることができる。受力板40は、例えば、起歪体20に溶接、接着、ねじ止め等により固定することができる。
このように、受力板40を設けることで、受力板40を介して起歪体20の入力部24a〜24dに外部から力を入力することができる。
〈シミュレーション1〉
図17〜図18は、起歪体を被固定部に固定したときにセンサチップのFz出力に発生するオフセットについて説明する図である。
図17(a)〜図17(c)に示すように、土台21の上面と柱28の下面との距離が異なる起歪体を備えた3種類の力覚センサ装置を準備した。
図17(a)では、土台21の上面と柱28の下面との距離L1=1.35mmとしている(実施例1とする)。図17(a)では、土台21の上面と柱28の下面との距離L1は、柱22a〜22dの高さL0の略半分の値となっている。つまり、柱28を接続する位置は、柱22a〜22dの略中間である。なお、ここでは、柱22a〜22dの高さL0を、土台21の最も高い位置から、それに対向する梁の下面までの距離と定義する。
図17(b)では、土台21の上面と柱28の下面との距離L2=0.5mmとしている(実施例2とする)。図17(b)では、土台21の上面と柱28の下面との距離L2は、柱22a〜22dの高さL0の半分の値よりも小さくなっている。つまり、柱28を接続する位置は、柱22a〜22dの中間よりも下側である。
図17(c)では、土台21の上面に柱28が直接形成されており、土台21の上面と柱28の下面との距離はゼロである(比較例とする)。
図18(a)に示すように、図17(a)〜図17(c)の各々を、金属からなる被固定部500に、ねじ520を4本用いて締結した。図18(b)〜図18(d)は、図17(a)〜図17(c)の各々を図18(a)のように固定した場合の起歪体20の変形のシミュレーション結果である。
図18(b)に示すように、比較例(図17(c))の構造では、ねじ締結時の変形が柱28まで及んでいる。一方、図18(c)に示すように、実施例1(図17(a))の構造では、ねじ締結時の柱28の変形は、図18(a)に比べて大幅に低減されている。又、図18(d)に示すように、実施例2(図17(b))の構造では、ねじ締結時の柱28の変形は、図18(b)に比べて大幅に低減されているが、図18(c)に示す実施例1よりは柱28の変形が大きい。
図19は、図18(b)〜図18(d)の状態におけるセンサチップ110のFz出力(オフセット)をシミュレーションで求めた結果であり、比較例を100%として示している。図19に示すように、実施例1の構造では比較例の構造に比べてFz出力(オフセット)が8%に低減され、実施例2の構造では比較例の構造に比べてFz出力(オフセット)が27%に低減されている。
このように、土台21の上面と柱28の下面との距離を長くするほど、ねじ締結時の柱28の変形が低減され、結果としてセンサチップ110のFz出力(オフセット)が低減されることが確認された。
図20は、比較例、実施例1、及び実施例2の各構造の、センサチップ110の出力についてのシミュレーション結果であり、各方向に同一の力又はモーメントを印加したときの出力レベルを比較例の構造を100%として示している。図20(a)はシミュレーション結果をグラフ化したものであり、図20(b)は図20(a)の結果を数値化してまとめたものである。
図20に示すように、比較例と実施例1とを比較すると、実施例1では、Mx(My)の出力は比較例と同等であるが、Fx(Fy)、Fz、及びMzの出力が比較例に対して60〜80%程度に低下している。
又、比較例と実施例2とを比較すると、実施例2では、Fx(Fy)、Fz、及びMzの出力が比較例に対して±5%程度の範囲内に収まっており、これは比較例と同程度の出力と考えて差し支えない。一方、実施例2のMx(My)の出力は、比較例に対して10%以上向上しており、これは明らかな差異であると考えられる。
実施例2のMx(My)の出力が比較例に対して向上した件に関し、比較例の構造と実施例2の構造に各々モーメントMyを印加したときの他軸成分についてシミュレーションで求めた。
図21(a)は比較例の構造に対するシミュレーション結果であり、図21(b)は図21(a)の破線部を拡大したものである。図21(a)及び図21(b)に示すように、比較例の構造では、土台21の上面に柱28が直接形成されているため、モーメントMyを印加したときに柱28はほとんど傾かず梁26dのみが傾いている(梁26a〜26cについても同様である)。柱28に対する梁26dの傾きがFx成分となる。
一方、図21(c)は実施例2の構造に対するシミュレーション結果であり、図21(d)は図21(c)の破線部を拡大したものである。図21(c)及び図21(d)に示すように、実施例2の構造では、土台21の上面と柱28の下面とが離れており柱28が土台21の上面に固定されていないため、モーメントMyを印加したときに柱28と梁26dが同方向に傾いている(梁26a〜26cについても同様である)。
その結果、図22(a)に示すように、比較例の構造ではモーメントMyを印加したときにFx成分が現れるが、図22(b)に示すように、実施例2の構造ではモーメントMyを印加したときにFx成分が現れない。又、実施例2では、Fx成分が現れない分がMyの出力にプラスされるため、Myの出力が比較例に対して10%以上向上したものと考えられる。
以上をまとめると、柱28を土台21の上面には直接固定せず、柱28を接続用梁28a〜28dを介して柱22a〜22dに固定する構造とした場合、土台21の上面と柱28の下面との距離を長くするほど、ねじ締結時の柱28の変形が低減され、結果としてセンサチップ110のFz出力(オフセット)が低減される。一方、土台21の上面と柱28の下面との距離を長くするほど、センサチップ110の出力が低下する(感度が低下する)。
すなわち、柱28は、柱22a〜22dの中間よりも下側に接続することが好ましい。これにより、センサチップ110の感度を確保しながら、ねじ締結時のセンサチップ110のFz出力(オフセット)を低減することができる。
ねじ締結時のセンサチップ110のFz出力(オフセット)の低減を土台21の剛性を上げることで達成しようとした場合、土台21の厚みを厚くする必要があり、力覚センサ装置全体のサイズが大きくなってしまう。柱28を土台21の上面には直接固定せず、柱28を接続用梁28a〜28dを介して柱22a〜22dに固定する構造することにより、力覚センサ装置全体のサイズが大きくなることなく、ねじ締結時のセンサチップ110のFz出力(オフセット)を低減することができる。
又、柱28を土台21の上面には直接固定せず、柱28を接続用梁28a〜28dを介して柱22a〜22dに固定する構造することにより、モーメント(Mx、My)入力時のモーメント成分(Mx、My)と並進方向の力成分(Fx、Fy)の分離性を向上することができる。
〈シミュレーション2〉
シミュレーション1では、土台21の上面と柱28の下面との距離を長くするほど、ねじ締結時の柱28の変形が低減され、結果としてセンサチップ110のFz出力(オフセット)が低減されることを示した。
しかし、ねじ締結時の締結力等の条件によっては、土台21の上面と柱28の下面との距離を長くし過ぎると、反対極性のオフセットが生じる場合がある。シミュレーション2では、この問題を改善する方法について説明する。
図23は、起歪体を被固定部に固定したときにセンサチップのFz出力に発生するオフセットについて説明する図である。
図23(a)及び図23(b)に示すように、2種類の力覚センサ装置を準備した。図23(a)は図17(a)で示したものと同一のモデルである(但し、受力板40は設けられていない)。図23(b)は、図23(a)の柱28の下面に接続用梁28a〜28dの下面よりも下側(土台21側)に突出した突出部28zを追加したモデルである。図23(b)において、接続用梁28a〜28dと突出部28zとの接続部分がR状とされている。
図24は、図23(a)及び図23(b)に示すモデルにおけるセンサチップ110のFz出力(オフセット)をシミュレーションで求めた結果である。図24に示すように、図23(a)に示す突出部28zを有していないモデルでは、距離L1が1mm程度よりも長くなるとマイナス側のオフセットが発生していることがわかる。これに対して、図23(b)に示す突出部28zを有しているモデルでは、距離L1が1mm程度よりも長くなってもマイナス側のオフセットが発生していないことがわかる。
図25に示すように、突出部28zを有していないモデルでは、距離L1が所定値(例えば、1mm)よりも長くなると、柱22a〜22dの上部が矢印Aに示すように外側へ引っ張られることで、柱28が上側(矢印B側)へ押し上げられるために、図24のような結果になったと考えられる。一方、突出部28zを有しているモデルでは、突出部28zが柱28が上側(矢印B側)へ押し上げられること(湾曲すること)を抑制するため、図24のような結果になったと考えられる。
このように、接続用梁28a〜28dの下面よりも下側に突出した突出部28zを設けることにより、距離L1を長くした際に、センサチップ110のFz出力にマイナス側のオフセットが発生することを抑制できることが確認された。
なお、接続用梁28a〜28dの下面と突出部28zとの接続部分をR状とすることにより、接続部分の応力集中を緩和できるため、外力に対する接続部分の強度を向上することができる。
〈シミュレーション3〉
シミュレーション3では、センサチップのオフセットの温度特性の動的評価を行った。図26は、力覚センサ装置を約50℃のペルチェ素子表面に載せて、センサチップの出力の温度追従性を評価した結果である。図26の破線長丸で囲んだように、6軸のうちFz軸についてのみ、他の軸とは異なる特異の出力変動(オフセット温度ドリフト)が発生することがわかった。なお、図26の評価に用いた力覚センサ装置は、図18(b)に示した比較例に係る起歪体を搭載している。
図27は、Fzのオフセット温度ドリフトの解析結果(その1)であり、起歪体の温度を25℃〜55℃に変化させたときの温度印加から1秒後の起歪体の温度分布とZ変位(変位は500倍表示)とを示している。なお、比較例3は図18(b)に示した比較例と同じ起歪体であり、実施例3は図18(c)に示した実施例1と同じ起歪体である。
図27に示すように、比較例3では、図10に示す柱25a〜25dの上面と、突起部27a〜27dの上面とのZ軸変位差が大きく、0.6μm程度の段差が発生した。これに対して、実施例3では、図10に示す柱25a〜25dの上面と、突起部27a〜27dの上面とのZ軸変位差が小さく、段差は0.13μm程度であった。比較例3において、大きな段差の発生がFz軸のオフセット温度ドリフトの一因となっている可能性があり、そうであれば、実施例3ではFz軸のオフセット温度ドリフトが低減されていることが予想される。これについて、以下に検討を行った。
図28は、Fzのオフセット温度ドリフトの解析結果(その2)であり、比較例3及び実施例3の起歪体における、温度印加から40秒後までの過渡伝熱解析結果である。比較例3及び実施例3のモデルについては前述の通りである。図28の比較例3及び実施例3の各々において、丸は図10に示す柱25a〜25dの上面の温度の平均値、四角は図10に示す突起部27a〜27dの上面の温度の平均値を示している。図28に示すように、比較例3では温度印加から30秒程度の間、柱25a〜25dの上面の温度の平均値と突起部27a〜27dの上面の温度の平均値が不一致であるが、実施例3では両者はほぼ一致している。
図29は、Fzのオフセット温度ドリフトの解析結果(その3)であり、比較例3の起歪体にセンサチップを搭載したモデル(比較例4とする)及び実施例3の起歪体にセンサチップを搭載したモデル(実施例4とする)について、センサ出力の推移を試算したものである。なお、温度は、土台21の下面側に印加した。
図29に示すように、比較例4及び実施例4の何れにおいても、Fz以外の出力についてはオフセットはほぼゼロである。一方、Fzについては、比較例4では温度印加から30秒程度の間に大きなオフセット温度ドリフトが存在しているが、実施例4ではオフセット温度ドリフトが大幅に低減されている。
以上のように、動的オフセット温特評価で見られたFzの特異な挙動についてシミュレーション解析を実施したところ、起歪体の過渡的な熱分布に伴う変位によってFz出力が変動することが確認できた。
すなわち、Fzの特異な挙動は起歪体の構造が主な要因であり、比較例4のように土台21の上面と柱28の下面とが連続する構造では、図28に示したように、温度印加から30秒程度の間、土台21の下面から柱25a〜25dの上面と、突起部27a〜27dの上面に温度が伝達される時間が異なる。そのため、柱25a〜25dの上面と突起部27a〜27dの上面との間に大きな段差(図27参照)が生じ、図29示すようにFzのオフセット温度ドリフトが発生する。
これに対して、実施例4のように土台21の上面と柱28の下面とを所定の距離だけ離す構造では、図28に示したように、土台21の下面から柱25a〜25dの上面と、突起部27a〜27dの上面に温度が伝達される時間がほぼ同等になる。そのため、柱25a〜25dの上面と突起部27a〜27dの上面との間の段差が低減され、図29示すようにFzのオフセット温度ドリフトが大きく改善される。
以上、好ましい実施の形態について詳説したが、上述した実施の形態に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施の形態に種々の変形及び置換を加えることができる。