JP6939280B2 - 摺動部材及び摺動部材の製造方法 - Google Patents
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Description
図4は、本実施形態による摺動部材1の断面図である。図4を参照して、摺動部材1は、摺動基材2と、Zn−Ni合金めっき層3とを備える。Zn−Ni合金めっき層3は、摺動基材2の表面上に配置される。
摺動基材2は、摺動部材1として利用され、めっき可能な材料であれば特に限定されない。摺動部材1は、他の部材と少なくとも一部が接触し、その接触部分が摺動する(擦れながら滑る)部材の総称である。摺動基材2はたとえば、列車の車輪及びレール、エンジンシリンダ及びピストン、クランクシャフト及びコネクティングロッド、ドリル加工における工具、鋸刃、滑車(プーリー)、ギヤ、ねじ継手、ベアリング、ガイド部材、及び、金型により塑性変形を伴う成形加工を受ける鋼板および棒鋼等である。摺動基材2の組成は、特に限定されない。摺動基材2はたとえば、炭素鋼、ステンレス鋼及び合金鋼等である。
Zn−Ni合金めっき層3は、Zn−Ni合金及び不純物からなる。Zn−Ni合金は、亜鉛(Zn)及びニッケル(Ni)を含有する。Zn−Ni合金は不純物を含有する場合がある。ここで、Zn−Ni合金めっき層3の不純物、及び、Zn−Ni合金の不純物とは、Zn及びNi以外の物質で、摺動部材1の製造中等にZn−Ni合金めっき層3に含有され、本発明の効果に影響を与えない範囲の含有量で含まれる物質を含む。
Zn−Ni合金めっき層3の組成は次の方法で測定する。ハンドヘルド蛍光X線分析装置(日本電子株式会社製DP2000(商品名DELTA Premium))を用いて測定する。測定は、Zn−Ni合金めっき層3の表面の任意の4箇所を組成分析する。Alloy PlusモードによりZn及びNiの測定含有量を求める。求めたZn及びNiの測定含有量の総量でNiの測定含有量を除したものをNi含有量(質量%)とする。Ni含有量(質量%)は、組成分析した4箇所の測定結果の算術平均とする。Zn−Ni合金めっき層3中のCr含有量を測定する場合、同様の方法で測定する。Crが検出限界以下の場合、Zn−Ni合金めっき層3のCr含有量を0ppmとする。
Zn−Ni合金めっき層3は、γ相を含む。上述のとおり、Zn−Ni合金めっき層3の結晶構造は、化学組成に応じて変化する。具体的には、めっきにより形成されたZn−Ni合金には、η相、γ相及びα相が含まれる。η相は、化学式Zn、格子定数a=0.267nm及びc=0.495nmの六方晶の結晶構造を有する相である。γ相は、化学式Ni5Zn21、格子定数α=0.890nmの立方晶の結晶構造を有する相である。α相は、化学式Ni、格子定数a=0.352nmの面心立方晶の結晶構造を有する相である。Zn−Ni合金めっき層3結晶構造は、これらの相の混相であってもよい。しかしながら、Zn−Ni合金めっき層3の結晶構造が、γ相単相であれば、硬度がさらに高まる。したがって、好ましくは、Zn−Ni合金めっき層3の結晶構造は、γ相単相である。
Zn−Ni合金めっき層3の結晶構造は、次の方法で同定する。Zn−Ni合金めっき層3表面に対して、以下の測定条件でX線回折測定を実施する。得られた実測プロファイルとASTMカードに記載された値とを比較して相を同定する。
・装置:株式会社リガク製 RINT−2500
・X線管球:Co‐Kα線
・スキャンレンジ:2θ=10〜110°
・スキャンステップ:0.02°
Zn−Ni合金めっき層3に含まれるγ相の(411)面の間隔は2.111Å以上である。以下、Zn−Ni合金めっき層3に含まれるγ相の(411)面の間隔を、Zn−Ni合金めっき層3の面間隔という。Zn−Ni合金めっき層3の面間隔が2.111Å以上であれば、Zn−Ni合金めっき層3の硬度が高まる。この場合、摺動部材1の摺動性が高まる。
Zn−Ni合金めっき層3に含まれるγ相の(411)面の間隔は、次の方法で測定する。上述の、Zn−Ni合金めっき層3の結晶構造の同定方法と同じ条件で、X線回折測定を実施する。得られた実測プロファイル中、(411)面に対応する2θ=49.0〜52.0°の回折データをローレンツ関数でフィッティングする。ローレンツ関数は式(1)で与えられる。
回折強度(cps)=PH/(1+(2θ−PP)2/FH2)+BG (1)
ここで、PH;ピーク高さ(cps)、PP;ピーク位置(deg)、FH;半値幅(deg)、BG;バックグラウンド(cps)及び2θ;回折角度である。
実測プロファイルの回折強度とローレンツ関数で算出した強度との差の二乗を2θ=49.0〜52.0°にわたって積算し、その総和が最小となるようにPH、PP、FHおよびBGの各変数を最適化する。変数の最適化にはエクセルソフトのソルバーを用いる。(411)面の間隔を最適化したピーク位置PP(deg)からブラッグの法則に従い算出する。得られた値を、Zn−Ni合金めっき層3に含まれるγ相の(411)面の間隔(Å)とする。
上述のとおり、Zn−Ni合金めっき層3のγ相の(411)面の間隔を2.111Å以上にすれば、Zn−Ni合金めっき層3の硬度が高まる。好ましくは、Zn−Ni合金めっき層3のビッカース硬さHvは600以上である。この場合、摺動部材1の摺動性がさらに高まる。好ましくは、Zn−Ni合金めっき層3のビッカース硬さHvの下限は650であり、さらに好ましくは700である。Zn−Ni合金めっき層3のビッカース硬さHvの上限は、高い程好ましい。Zn−Ni合金めっき層3のビッカース硬さHvの上限はたとえば、1200である。
Zn−Ni合金めっき層3のビッカース硬さは次の方法で測定する。Zn−Ni合金めっき層3を備える摺動部材1を準備する。Zn−Ni合金めっき層3を備える摺動部材1を摺動部材1の表面に対して垂直に切断する。現れたZn−Ni合金めっき層3の断面の任意の5点に対して、JIS Z2244(2009)に準拠した方法でビッカース硬さを測定する。測定には、株式会社フィッシャー・インストルメンツ製微小硬度計Fischer scope HM2000を用いる。試験温度は常温(25℃)、試験力(F)は0.01Nとする。得られた測定結果5点の内、最大値及び最小値を除いた3点の算術平均を、Zn−Ni合金めっき層3のビッカース硬さHv(Hv0.001)とする。
好ましくは、Zn−Ni合金めっき層3表面の光沢度は100以上である。ここで、光沢度とは、JIS Z8741(1997)に定義される、屈折率が可視波長範囲全域にわたって一定値1.567であるガラス表面において、入射角60°での鏡面光沢度(鏡面反射率ρ0(θ)=0.1001)を100%とした場合の鏡面光沢度をいう。Zn−Ni合金めっき層3表面の光沢度が100以上であれば、摺動部材1は優れた外観を有する。好ましくは、Zn−Ni合金めっき層3表面の光沢度の下限は、105であり、さらに好ましくは、110である。Zn−Ni合金めっき層3表面の光沢度の上限は高い程好ましい。Zn−Ni合金めっき層3表面の光沢度はたとえば、200である。
Zn−Ni合金めっき層3表面の光沢度は次の方法で測定する。Zn−Ni合金めっき層3表面の任意の2点に対して、BYK−Gardner GmbH製micro−TRI−gloss(ポータブル光沢度計)を用いて、JIS Z8741(1997)に準拠した方法で鏡面光沢度を測定する。得られた測定値の算術平均を、Zn−Ni合金めっき層3表面の光沢度とする。
Zn−Ni合金めっき層3の厚さは特に限定されない。Zn−Ni合金めっき層3の厚さはたとえば、1〜20μmである。Zn−Ni合金めっき層3の厚さが1μm以上であれば、十分な摺動性を安定して得ることができる。Zn−Ni合金めっき層3の厚さが20μmを超えても、上記効果は飽和する。
Zn−Ni合金めっき層3の厚さは、次の方法で測定する。Zn−Ni合金めっき層3の表面の任意の4箇所に対して、Helmut Fischer GmbH製、渦電流位相式膜厚計PHASCOPEPM910を用いて、Zn−Ni合金めっき層3の厚さを測定する。測定は、ISO(International Organization for Standardization)21968(2005)に準拠する方法で行う。4箇所の測定結果の算術平均を、Zn−Ni合金めっき層3の厚さとする。
本実施形態の摺動部材1の製造方法は、上記摺動部材1の製造方法である。摺動部材1の製造方法は、準備工程と、めっき層形成工程とを備える。
準備工程では、摺動基材2及びめっき液を準備する。摺動基材2は、上述のとおり、摺動部材1として利用され、めっき可能な材料であれば特に限定されない。摺動基材2の組成は、特に限定されない。摺動基材2はたとえば、炭素鋼、ステンレス鋼及び合金鋼等である。めっき液は、亜鉛イオン、ニッケルイオン及びクロムイオンを含有する。クロムイオンの濃度は50〜2000ppmである。この場合、Zn−Ni合金めっき層3の面間隔が2.111Å以上になる。その結果、Zn−Ni合金めっき層3の硬度が高まり、摺動部材1の摺動性が高まる。めっき液には、好ましくは、亜鉛イオン:1〜100g/L、ニッケルイオン:1〜100g/Lが含有される。
めっき層形成工程では、めっき処理によりZn−Ni合金めっき層3を形成する。めっき層形成工程では、摺動基材2の表面をめっき液に接触させる。これにより、摺動基材2の表面上にZn−Ni合金めっき層3を形成する。Zn−Ni合金めっき層3の形成は、電気めっきにより行うことが好ましい。電気めっきでは、上記摺動基材2の表面をめっき液に接触させ、通電することによって行う。電気めっきの条件は適宜設定できる。電気めっきの条件はたとえば、めっき液pH:1〜10、めっき液温度:10〜60℃、電流密度:1〜100A/dm2、及び、処理時間:0.1〜30分である。
上記製造方法は、必要に応じて、めっき層形成工程の前に下地処理工程を備えてもよい。下地処理工程はたとえば、酸洗及びアルカリ脱脂である。下地処理工程では、摺動基材2の表面上に付着した油分等を洗浄する。下地処理工程はさらに、サンドブラスト及び機械研削仕上げ等の研削加工を備えてもよい。これらの下地処理は、1種のみ実施してもよく、複数の下地処理を組み合わせて実施してもよい。
本実施例においては、摺動基材を想定して、市販の冷延鋼板を使用した。冷延鋼板は縦150mm、横100mm、厚さ0.8mmであった。冷延鋼板表面の、縦100mm×横100mmの領域にめっきを施した。鋼種は、極低炭素鋼であった。
各試験番号の冷延鋼板に、準備しためっき液を用いてZn−Ni合金めっき層を形成した。Zn−Ni合金めっき層の形成は、電気めっきにより実施した。めっき液pH:3〜6、めっき液温度:30〜40℃、処理時間:5〜20分であった。その他の各試験番号の試験条件を表1に示す。表1中、「めっき液流速(m/s)」は、めっき液の攪拌速度であり、めっき液をポンプで循環させた場合の循環量を、めっき液の線速で示した値である。
Zn−Ni合金めっき層の組成を次の方法で測定した。ハンドヘルド蛍光X線分析装置(日本電子株式会社製DP2000(商品名DELTA Premium))を用いて測定した。測定は、Zn−Ni合金めっき層を形成した冷延鋼板の表面の任意の4箇所を組成分析した。Alloy PlusモードによりZn及びNiの測定含有量を求めた。求めたZn及びNiの測定含有量の総量でNiの測定含有量を除したものをNi含有量(質量%)とした。結果を表1に示す。同様に、Cr含有量を測定した。しかしながら、全ての実施例で検出限界以下であった。
Zn−Ni合金めっき層を形成した冷延鋼板の表面に対して、上述の測定条件でX線回折測定を実施した。得られた実測プロファイルとASTMカードに記載された値とを比較して相を同定した。その結果、全ての実施例でγ相単相であった。また、得られた実測プロファイルから、(411)面に対応するピーク位置PP(deg)を上述の方法で算出した。そして、Zn−Ni合金めっき層に含まれるγ相の(411)面の間隔(Å)を求めた。結果を表1に示す。
Zn−Ni合金めっき層を形成した冷延鋼板を表面に対して垂直に切断し、現れたZn−Ni合金めっき層の断面に対して、上述の方法でビッカース硬さ(Hv)を測定した。結果を表1に示す。
Zn−Ni合金めっき層を形成した冷延鋼板の表面に対して、上述の方法で光沢度を測定した。結果を表1に示す。
Zn−Ni合金めっき層を形成した冷延鋼板の表面の任意の4箇所に対して、上述の方法により測定試験を実施し、Zn−Ni合金めっき層の厚さを測定した。結果を表1に示す。
Zn−Ni合金めっき層の硬度と摺動性とは相関する。そのため、Zn−Ni合金めっき層のビッカース硬さHvが600以上であれば、摺動性に優れると判断した。表1を参照して、試験番号1〜試験番号16の冷延鋼板では、50ppm以上のクロムイオン濃度のめっき液でZn−Ni合金めっき層を形成した。そのため、Zn−Ni合金めっき層が含有するγ相の(411)面の間隔が2.111Å以上となった。その結果、ビッカース硬さHvが600以上となり、優れた摺動性を示した。
2 摺動基材
3 Zn−Ni合金めっき層
Claims (6)
- 摺動基材と、
前記摺動基材の表面上に配置されるZn−Ni合金めっき層とを備え、
前記Zn−Ni合金めっき層はγ相を含み、前記γ相の(411)面の間隔が2.111Å以上である、摺動部材。 - 請求項1に記載の摺動部材であって、
前記Zn−Ni合金めっき層のビッカース硬さHvが600以上である、摺動部材。 - 請求項1又は請求項2に記載の摺動部材であって、
前記Zn−Ni合金めっき層表面の光沢度が100以上である、摺動部材。 - 請求項1〜3のいずれか1項に記載の摺動部材であって、
前記Zn−Ni合金めっき層の厚さは1〜20μmである、摺動部材。 - 摺動部材の製造方法であって、
摺動基材、及び、亜鉛イオン、ニッケルイオン及びクロム(III)イオンを含有し、前記クロム(III)イオンの濃度が50〜2000ppmであるめっき液を準備する工程と、
前記摺動基材の表面を前記めっき液に接触させて、前記摺動基材の表面上にZn−Ni合金めっき層を形成する工程を備える、摺動部材の製造方法。 - 請求項5に記載の摺動部材の製造方法であって、
前記めっき液の前記クロム(III)イオンの濃度が50〜800ppmである、摺動部材の製造方法。
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