JP6938057B2 - 被覆銀粒子とその製造方法、導電性組成物、および導電体 - Google Patents

被覆銀粒子とその製造方法、導電性組成物、および導電体 Download PDF

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本発明は、被覆銀粒子とその製造方法、被覆銀粒子を含む導電性組成物、および、導電性組成物を用いて製造される導電体に関するものである。
近年、配線および導電体層等の導電体のパターン形成方法として、工程数の多いフォトリソグラフィ法に代わり、金属粉と焼結剤と媒体とを含むペースト状の導電性組成物を直接パターン印刷する印刷法が注目されている。印刷法としては、インクジェット印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、およびディスペンス印刷法等が挙げられる
導電性組成物の焼結剤としては、金属粉よりも粒子径の小さい金属粒子が好ましく用いられる。焼結剤用の金属粒子としては、金粒子、銀粒子、および銅粒子等が挙げられる。
貴金属である金および銀に比して、銅は比較的酸化されやすく、表面に酸化皮膜が形成されやすい傾向がある。
本発明者らは先に、耐酸化性に優れた被覆銅粒子に関する発明を出願している。
本発明者らは、特許文献1において、銅核粒子と、長鎖脂肪族アミンを主成分とする被覆層とを含む被覆銅粒子とその製造方法を開示している(請求項1、請求項4等)。
本発明者らはまた、特許文献2において、脂肪族カルボン酸で表面が被覆された被覆銅粒子とその製造方法を開示している(請求項1)。
特許文献1、2に記載の被覆銅粒子は、表面が有機物で被覆されていることから、耐酸化性、粒度安定性、および媒体中での粒子分散性に優れる。また、有機物は銅核粒子に対して単に吸着(物理吸着またはイオン吸着等)しているので、焼結時には、銅核粒子から容易に脱離することができる。そのため、特許文献1、2に記載の被覆銅粒子は、焼結性にも優れる。
特開2014−001443号公報 特開2015−227476号公報
特許文献1、2は、銅粒子に関する発明であり、銀粒子への適用について開示していない。銀粒子は耐酸化性に優れるが、硫化ガス等に対して腐食性を有する。
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、耐腐食性、粒度安定性、媒体中での粒子分散性、および焼結性に優れた被覆銀粒子を提供することを目的とするものである。
本発明の被覆銀粒子は、銀核粒子と、当該銀核粒子の表面に1nm当り2.5〜5.2分子の密度で配置された複数の脂肪族カルボン酸分子とを含むものである。
本発明の被覆銀粒子において、前記脂肪族カルボン酸分子の脂肪族基の炭素数が5〜26であることが好ましい。
任意の20個の粒子の走査型電子顕微鏡観察により求められる一次粒子径の算術平均値をDSEMとし、一次粒子径の標準偏差をSDとしたとき、DSEMが0.02〜5.0μmであり、一般式SD/DSEMで定義される粒子径変動率が0.01〜0.5であることが好ましい。
本発明の被覆銀粒子の製造方法は、媒体中で脂肪族カルボン酸銀錯体を熱分解する工程(A)を含むものである。
本発明の被覆銀粒子の製造方法において、
工程(A)は、
銀カルボン酸塩と脂肪族カルボン酸と媒体とを含む反応液を用意する工程(A1)と、
前記反応液中に生成する錯化合物を熱分解処理して金属銀を生成する工程(A2)とを含むことが好ましい。
前記反応液はさらに錯化剤を含むことが好ましい。
前記錯化剤がアミノアルコールであることが好ましい。
前記銀カルボン酸塩の熱分解温度が100℃以上であることが好ましい。
本発明の導電性組成物は、上記の本発明の被覆銀粒子と媒体とを含むものである。
本発明の導電体は、上記の本発明の導電性組成物の熱処理物である。
本発明の導電体としては、配線および導電体層等が挙げられる。
「粒子径」
本明細書において、特に明記しない限り、「粒子径」は一次粒子径を意味するものとする。
「粒子(銀核粒子または被覆銀粒子)の平均一次粒子径および粒子径変動率」
本明細書において、特に明記しない限り、「粒子(銀核粒子または被覆銀粒子)の平均一次粒子径」は、走査型電子顕微鏡(SEM)観察により求められる、任意の20個の粒子(銀核粒子または被覆銀粒子)の一次粒子径の算術平均値(DSEM)である。
なお、銀核粒子の平均一次粒子径と、銀核粒子を含む被覆銀粒子の平均一次粒子径とは、実質的に同一とみなすことができる。
「粒子径変動率」は、SEM観察により求められる、任意の20個の粒子(銀核粒子または被覆銀粒子)の一次粒子径の標準偏差(SD)/平均一次粒子径(DSEM)の値である。
「被覆銀粒子の有機成分量」
本明細書において、特に明記しない限り、「被覆銀粒子の有機成分量」は、熱重量・示差熱(TG−DTA)分析にて測定するものとする。
測定条件は以下の通りとする。
昇温速度:10℃/min、
測定温度範囲:25〜500℃、
測定雰囲気:窒素(100ml/min)。
上記TG−DTA分析において、加熱減量を有機成分量として求める。
「脂肪族カルボン酸分子の被覆密度」
本明細書において、特に明記しない限り、銀核粒子の表面における「脂肪族カルボン酸分子の被覆密度」は、以下の方法により算出するものとする。
特開2012−88242号公報に記載の方法に準拠し、液体クロマトグラフィ(LC)を用いて被覆銀粒子の表面に付着している有機成分を抽出し、成分分析を行う。
測定装置としては、Waters社製「ACQUITY UPLC H−Class System」を用いる。測定条件は以下の通りとする。
カラム:ACQUITY UPLC(R)BEH C18 1.7μm 2.1×50mm、
測定温度:50℃、
測定媒体:水/アセトニトリル、
流量:0.8mL/min。
LC測定用のサンプルは以下のようにして調製する。
サンプル瓶内に、被覆銀粒子1gとアセトニトリル9mLとを入れる。これに、0.36質量%塩酸水溶液1mLを加える。内容物に対して、超音波を30分間照射して、攪拌混合する。次いで、得られたスラリー液を静置して固液分離した後、上澄み液を採取する。この上澄み液を0.2μm径のフィルターでろ過し、LC測定用のサンプルとする。
上記方法により、熱重量・示差熱(TG−DTA)を行い、被覆銀粒子に含まれる有機成分量を測定する。
LCの分析結果とTG−DTA分析結果と合わせて、被覆銀粒子に含まれる脂肪族カルボン酸分子量を算出する。
上記方法により、銀核粒子の平均一次粒子径を測定する。
被覆銀核粒子1gに含まれる脂肪族カルボン酸分子の分子数は、下記式(a)で表される。
[脂肪族カルボン酸分子の分子数]=Macid/(Mw/NA) ・・・(a)
ここで、Macidは被覆銀粒子1gに含まれる脂肪族カルボン酸分子量(g)であり、Mwは脂肪族カルボン酸分子の分子量(g/mol)であり、NAはアボガドロ定数である。
銀核粒子の形状を球状と近似して、被覆銀粒子の質量から有機成分量を差し引いて、銀核粒子量MAg(g)を求める。
銀核粒子量MAg(g)から、被覆銀粒子1g中の銀核粒子数は、下式(b)で表される。
[被覆銀粒子1g中の銀核粒子数]=MAg/[(4πr3/3)×d×10−21] ・・・(b)
ここで、MAgは被覆銀粒子1gに含まれる銀核粒子量(g)であり、rはSEM画像観察により算出した銀核粒子の一次粒子径の半径(nm)であり、dは銀の密度である(d=10.49g/cm))。
被覆銀粒子1gに含まれる銀核粒子の表面積は式(b)から、下式(c)で表される。
[被覆銀粒子1gに含まれる銀核粒子の表面積(nm)]=[銀核粒子数]×4πr ・・・(c)
脂肪族カルボン酸分子による銀核粒子の被覆密度(分子/nm)は、(a)式および(c)式を用いて、下記式(d)で算出される。
[被覆密度(分子/nm)]=[脂肪族カルボン酸分子の分子数]/[銀核粒子表面積] ・・・(d)
本発明によれば、耐腐食性、粒度安定性、媒体中での粒子分散性、および焼結性に優れた被覆銀粒子を提供することができる。
本発明に係る一実施形態の導電性組成物の模式図を示す。 本発明に係る一実施形態の被覆銅粒子の模式図を示す。 実施例3における積層体の製造方法を示す工程図である。 実施例3における積層体の製造方法を示す工程図である。 実施例1−1で得られた被覆銀粒子(AgP1)のTG曲線である。 実施例1−1で得られた被覆銀粒子(AgP1)のSEM写真である。 実施例1−2で得られた被覆銀粒子(AgP2)のSEM写真である。
以下、本発明について詳細に説明する。
「被覆銀粒子」
本発明の被覆銀粒子は、銀核粒子と、この銀核粒子の表面に1nm当り2.5〜5.2分子の密度で配置された複数の脂肪族カルボン酸分子とを含むものである。
本発明の被覆銀粒子は、銀粒子が用いられる用途に、金属粒子として単独でまたは他の金属粒子と組み合わせて、用いることができる。
本発明の被覆銀粒子は例えば、上記銀核粒子よりも粒子径の大きい金属粉と組み合わせて用いることができる。この場合、本発明の被覆銀粒子は、金属粉の焼結剤として用いることができる。
本発明の被覆銀粒子を上記銀核粒子よりも粒子径の大きい金属粉の焼結剤として用いる場合、本発明の被覆銀粒子と金属粉との質量比(本発明の被覆銀粒子:金属粉)は特に制限されず、好ましくは20:80〜80:20、より好ましくは30:70〜70:30、特に好ましくは40:60〜60:40である。
「導電性組成物」
本発明の導電性組成物は、上記の本発明の被覆銀粒子と媒体とを含むものである。
一態様において、本発明の導電性組成物は、被覆銀粒子より粒子径の大きい金属粉を含む。
図1に、本発明に係る一実施形態の導電性組成物の模式図を示す。
図2に、本発明に係る一実施形態の被覆銀粒子の模式図を示す。
図2において、右下図に示すように、「親水基」は丸、疎水基は棒で模式的に図示してある。
図1に示すように、本実施形態の導電性組成物1は、金属粉10と被覆銀粒子20と媒体(図示略)とを含む。
図中、金属粉10の各粒子および被覆銀粒子20の各粒子の形状、粒子径、および分布等は、模式的なものである。
金属粉10としては、公知の導電性組成物用の金属粉を用いることができる。
金属粉10としては、銅粉および銀粉等が挙げられる。
金属粉10としては、平均一次粒子径の異なる複数種の金属粉を用いることが好ましい。平均一次粒子径の異なる複数種の金属粉を用いることで、平均一次粒子径の比較的大きい金属粉の隙間に、平均一次粒子径の比較的小さい金属粉が入り込み、金属粉の充填密度を向上させることができる。
図1では、金属粉10は、平均一次粒子径の比較的大きい第1の金属粉11と、平均一次粒子径の比較的小さい第2の金属粉12とを含む場合について、図示してある。
平均一次粒子径の比較的大きい第1の金属粉11の平均一次粒子径は特に制限されず、好ましくは1〜100μm、より好ましくは1〜50μmである。
平均一次粒子径の比較的小さい第2の金属粉12の平均一次粒子径は特に制限されず、好ましくは0.2〜10μm、より好ましくは0.2〜5μmである。
本実施形態の導電性組成物1は、焼結剤として作用する被覆銀粒子20を含む。
図2に示すように、被覆銀粒子20は、金属粉10よりも粒子径の小さい銀核粒子21と、銀核粒子21の表面を被覆する複数の脂肪族カルボン酸分子22とを含む。
本実施形態において、複数の脂肪族カルボン酸分子22は、銀核粒子21の表面に対して吸着している。吸着の態様としては特に制限されず、物理吸着およびイオン吸着等が挙げられる。
一態様において、複数の脂肪族カルボン酸分子22は、銀核粒子21の表面に対して、親水基であるカルボキシ基を銀核粒子21側にして物理吸着し、LB膜(Langmuir-Blodgett膜)のような単分子膜を形成することができる。
例えば、被覆銀粒子のTG−DTA測定において、被覆材料である脂肪族カルボン酸がその沸点以下で揮発する場合、被覆の態様が物理吸着等の吸着であると推定される。
銀核粒子21が複数の脂肪族カルボン酸分子22で被覆された被覆銀粒子20は、最表面に脂肪族カルボン酸分子22の脂肪族基(疎水基)が存在する。
一般的に、銀粒子は耐酸化性に優れるが、硫化ガス等に対して腐食性を有する。
表面が脂肪族カルボン酸分子22で被覆された被覆銀粒子20は、耐酸化性に優れ、かつ、硫化ガス等に対する耐腐食性に優れる。
被覆銀粒子20の疎水基同士が相互作用して、被覆銀粒子20同士の凝集が抑制される。そのため、上記構造の被覆銀粒子20は、製造後の粒度安定性および媒体中での粒子分散性に優れる。
脂肪族カルボン酸分子22は、銀核粒子21に対して単に吸着(物理吸着またはイオン吸着等)しているので、焼結時には、銀核粒子21から容易に脱離することができる。したがって、被覆銀粒子20は焼結性にも優れる。
上記構造の被覆銀粒子20を含む本実施形態の導電性組成物1は、金属粉10および焼結剤として作用する被覆銀粒子20の粒子分散性と焼結性に優れる。
以上説明したように、本実施形態によれば、耐酸化性、耐腐食性、粒度安定性、媒体中での粒子分散性、および焼結性に優れた被覆銀粒子20を提供することができる。
また、本実施形態によれば、粒子分散性および焼結性に優れた導電性組成物1を提供することができる。
以下、金属粉を除く導電性組成物の各成分について、詳述する。
(銀核粒子)
銀核粒子の平均一次粒子径は特に制限されず、焼結剤として好適な範囲内であればよい。
銀核粒子の平均一次粒子径は、好ましくは0.02μm(20nm)〜5.0μm、より好ましくは0.02μm(20nm)〜1.0μm、さらに好ましくは0.02μm(20nm)〜0.5μm、特に好ましくは0.02μm(20nm)〜0.2μmである。
平均一次粒子径が0.02μm(20nm)未満では粒子の製造が困難であり、5.0μm超では充填効果が不充分となる恐れがある。
銀核粒子の純度は特に制限されず、高導電性の導電体が得られることから、高い方が好ましい。銀核粒子の純度は、好ましくは95質量%以上、より好ましくは97質量%以上である。
(脂肪族カルボン酸分子)
銀核粒子の表面を被覆する脂肪族カルボン酸分子の種類は、特に制限されない。
脂肪族カルボン酸分子に含まれるカルボキシ基の数は特に制限されず、好ましくは1〜2、より好ましくは1である。
脂肪族カルボン酸分子は、飽和脂肪族カルボン酸分子であっても、不飽和脂肪族カルボン酸分子であってもよい。脂肪族カルボン酸分子が不飽和脂肪族カルボン酸分子である場合、不飽和脂肪族基に含まれる不飽和結合の数は、好ましくは1〜3、より好ましくは1〜2である。
脂肪族カルボン酸分子に含まれる脂肪族基は、直鎖状でも分岐鎖状であってもよく、直鎖状であることが好ましい。
粒子径の揃った被覆銀粒子を効率良く製造でき、被覆銀粒子の耐腐食性と粒子分散性の向上効果が効果的に発現することから、脂肪族カルボン酸分子の脂肪族基の炭素数は、好ましくは5以上である。
以下、脂肪族基の炭素数が5以上の脂肪族カルボン酸は、「長鎖カルボン酸」ともいう。
脂肪族基の炭素数が5以上であると、被覆銀粒子の粒子径変動率が小さくなる傾向がある。一般的に、炭素鎖の長さは、会合力を左右するファンデルワールス力の大きさと相関性が高い。炭素鎖の長いカルボン酸は、会合力が強く、後記製造方法において、ミクロ反応場であるWater−in−oil Emulsion類似の相安定化に寄与することができる。これによって、粒子径の揃った被覆銀粒子を効率良く製造できると考えられる。
粒子径の揃った被覆銀粒子を効率良く製造でき、被覆銀粒子の耐腐食性と粒子分散性の向上効果が効果的に発現し、かつ、焼結時の熱分解性が良好となることから、脂肪族基の炭素数は、好ましくは5〜26、より好ましくは5〜20、さらに好ましくは5〜17、特に好ましくは7〜17、最も好ましくは9〜17である。
脂肪族カルボン酸分子の沸点は、後記製造方法における、脂肪族カルボン酸銀錯体の熱分解温度よりも高いことが好ましい。
具体的には、脂肪族カルボン酸分子の沸点は、好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上である。脂肪族カルボン酸分子の焼結時の熱分解性が良好となることから、脂肪族カルボン酸分子の沸点は、好ましくは400℃以下である。
脂肪族カルボン酸分子としては、
オレイン酸およびリノール酸等の不飽和脂肪族カルボン酸分子;
および、
ステアリン酸、ヘプタデカン酸、ラウリン酸、およびオクタン酸等の飽和脂肪族カルボン酸分子が挙げられる。
脂肪族カルボン酸分子は、1種または2種以上用いることができる。
被覆銀粒子の耐腐食性と粒子分散性の向上効果が効果的に発現することから、銀核粒子の表面に対する複数の脂肪族カルボン酸分子の被覆密度は、2.5〜5.2分子/nm、好ましくは3.0〜5.2分子/nm、より好ましくは3.5〜5.2分子/nmである。
(媒体)
媒体としては、一般的な導電性組成物に用いられる公知の媒体を用いることができる。
媒体としては、炭化水素系溶剤、高級アルコール系溶剤、セロソルブ、およびセロソルブアセテート系溶剤等が挙げられる。
媒体は、1種または2種以上用いることができる。
導電性組成物の固形分濃度は特に制限されず、印刷法に応じて選択され、例えば、10〜99質量%、好ましくは40〜95質量%である。
(任意成分)
本発明の導電性組成物は、必要に応じて1種または2種以上の任意成分を含むことができる。
<分散剤>
必要に応じて、分散剤として、ポリエステル系分散剤およびポリアクリル酸系分散剤等の公知のポリマー分散剤を用いることができる。
<増粘剤>
必要に応じて、増粘剤として、ポリメタクリル酸系増粘剤等の公知のポリマー増粘剤を用いることができる。
<カップリング剤>
必要に応じて、シランカップリング剤およびチタネートカップリング剤等のカップリング剤を用いることができる。
[被覆銀粒子の製造方法]
本発明の被覆銀粒子の製造方法は、媒体中で、脂肪族カルボン酸銀錯体を熱分解する工程(A)を含む。
脂肪族カルボン酸銀錯体を熱分解処理することで、銀核粒子と脂肪族カルボン酸とが生成され、生成された1個の銀核粒子の表面に対して複数の脂肪族カルボン酸分子が吸着(物理吸着またはイオン吸着等)する。これにより、銀核粒子の表面に所定の被覆密度で複数の脂肪族カルボン酸分子が吸着(物理吸着またはイオン吸着等)した被覆銀粒子(20)が形成される。
一態様において、
工程(A)は、
銀カルボン酸塩(カルボン酸銀)と脂肪族カルボン酸と媒体とを含む反応液を用意する工程(A1)と、
上記反応液中に生成する錯化合物(脂肪族カルボン酸銀錯体)を熱分解処理して金属銀を生成する工程(A2)とを含むことができる。
反応液は必要に応じて、さらに錯化剤を含むことができる。
一般的に、銀カルボン酸塩は、錯化すると熱分解温度が低下する傾向がある。本発明者らは、脂肪族カルボン酸銀錯体の熱分解温度が生成される被覆銀粒子の粒子径に影響を及ぼすことを見出している。脂肪族カルボン酸銀錯体の熱分解温度が過低では、錯化反応時の反応熱により熱分解反応が促進して、粒度の制御が困難となる恐れがある。
粒子径が焼結剤として好適な範囲の粒子径の被覆銀粒子が安定的に得られることから、原料の銀カルボン酸塩の熱分解温度は、好ましくは100℃以上である。
例えば、ギ酸銀の熱分解温度は110℃程度であり、シュウ酸銀の熱分解温度は210℃程度である。
以下、反応液の各成分について、説明する。
<カルボン酸銀>
原料のカルボン酸銀としては特に制限されず、銀イオンの還元性、熱分解温度、原料の入手容易性、および原料の製造容易性等の観点から、ギ酸銀、シュウ酸銀、炭酸銀、およびクエン酸銀等が好ましい。中でも、熱分解温度が高いことから、シュウ酸銀等が好ましい。
シュウ酸銀は、2モルの1価の銀イオンと1モルのシュウ酸イオンとから構成される。
シュウ酸銀は、市販品を用いてもよく、公知方法により製造して用いてもよい。
シュウ酸は還元性を有するので、シュウ酸銀を熱分解処理すると、1価の銀イオンが還元され、還元銀粒子が生成される。
反応液中のシュウ酸銀の含有量は特に制限されず、製造効率等の観点から、好ましくは0.5〜2.5mol/L、より好ましくは1.0〜2.5mol/L、特に好ましくは1.5〜2.0mol/Lである。
<脂肪族カルボン酸>
原料の脂肪族カルボン酸は特に制限されず、所望の被覆銀粒子中の脂肪族カルボン酸分子の構造に合わせて選定される。
原料の脂肪族カルボン酸の炭素数は、所望の被覆銀粒子中の脂肪族カルボン酸分子の脂肪族基の炭素数と一致する。
粒子径の揃った被覆銀粒子を効率良く製造でき、被覆銀粒子の耐腐食性と粒子分散性の向上効果が効果的に発現することから、原料の脂肪族カルボン酸の炭素数は、好ましくは5以上である。
粒子径の揃った被覆銀粒子を効率良く製造でき、被覆銀粒子の耐腐食性と粒子分散性の向上効果が効果的に発現し、かつ、焼結時の熱分解性が良好となることから、原料の脂肪族カルボン酸の炭素数は、好ましくは5〜26、より好ましくは5〜20、さらに好ましくは5〜17、特に好ましくは7〜17、最も好ましくは9〜17である。
原料の脂肪族カルボン酸の沸点は、反応液の加熱温度よりも高いことが好ましい。具体的には、脂肪族カルボン酸分子の沸点は、好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上である。
被覆銀粒子中の脂肪族カルボン酸分子の焼結時の熱分解性が良好となることから、原料の脂肪族カルボン酸分子の沸点は、好ましくは400℃以下である。
原料の脂肪族カルボン酸としては、
オレイン酸およびリノール酸等の不飽和脂肪族カルボン酸;
および、
ステアリン酸、ヘプタデカン酸、ラウリン酸、およびオクタン酸等の飽和脂肪族カルボン酸が挙げられる。
原料の脂肪族カルボン酸は、1種または2種以上用いることができる。
反応液中の脂肪族カルボン酸の含有量は特に制限されず、好ましくは2.5〜25mol%、より好ましくは5.0〜15mol%である。
反応液中の脂肪族カルボン酸の含有量が2.5mol%以上であると、充分な反応速度が得られ生産性が向上する傾向があり、被覆銀粒子の粒子径変動率が小さくなる傾向がある。
反応液中の脂肪族カルボン酸の含有量が25mol%以下であると、反応系の粘度上昇が抑制され、良好な撹拌性が得られる。
<錯化剤>
錯化剤としては特に制限されず、アミノアルコール等が好ましい。
反応液中にアミノアルコール等の錯化剤が存在することで、カルボン酸銀から錯化合物が効果的に生成される。
錯化合物は、媒体中に容易に可溶化する。
アミノアルコールは、少なくとも1つのアミノ基を有するアルコール化合物である。
アミノ基の数は特に制限されず、1つが好ましい。すなわち、アミノアルコールとしては、モノアミノモノアルコールが好ましい。中でも、アミノ基が無置換のモノアミノモノアルコール、および、単座配位性のモノアミノモノアルコールが好ましい。
アミノアルコールの沸点は特に制限されず、反応液の加熱温度よりも高いことが好ましい。具体的には、アミノアルコールの沸点は、好ましくは120℃以上、より好ましくは130℃以上である。アミノアルコールの沸点は、好ましくは400℃以下、より好ましくは300℃以下である。
媒体に対する溶解性と沸点が反応に適することから、アミノアルコールのSP値は、好ましくは11.0以上、より好ましくは12.0以上、特に好ましくは13.0以上である。アミノアルコールのSP値は、好ましくは18.0以下、より好ましくは17.0以下である。
本明細書において、特に明記しない限り、「SP値」とは、Hildebrandの定義による溶解パラメータ(Solubility Parameter)であり、25℃における試料1mLあたりの分子間結合エネルギーE1の平方根である。
本明細書において、特に明記しない限り、「SP値」は、下記ホームページに記載の方法に準拠して、求めるものとする。
公益社団法人石油学会ホームページ
(http://sekiyu-gakkai.or.jp/jp/dictionary/petdicsolvent.html#solubility2)
SP値は、具体的には以下のようにして算出される。
分子間結合エネルギーE1は、蒸発潜熱Hbから気体エネルギーを差し引いた値である。
試料の沸点Tbから、蒸発潜熱Hbが下式で求められる。
Hb = 21×(273+Tb)
蒸発潜熱Hbから、25℃におけるモル蒸発潜熱H25が下式で求められる。
H25 = Hb×[1+0.175×(Tb−25)/100]
モル蒸発潜熱H25から、試料総量の分子間結合エネルギーEが下式より求められる。
E = H25−596
試料総量の分子間結合エネルギーEから、試料1mLあたりの分子間結合エネルギーE1が下式により求められる。
E1 = E×D/Mw
(上記式中、Dは試料の密度、Mwは試料の分子量である。)
試料1mLあたりの分子間結合エネルギーE1から、SP値が下式により求められる。
SP =(E1)1/2
なお、OH基を含む試料は、OH基1基につき+1の補正が必要である(三菱石油技資、No.42,p3,p11(1989)を参照)。
アミノアルコールとしては、
2−アミノエタノール(沸点:170℃、SP値:14.54)、
3−アミノ−1−プロパノール(沸点:187℃、SP値:13.45)、
5−アミノ−1−ペンタノール(沸点:222℃、SP値:12.33)、
DL−1−アミノ−2−プロパノール(沸点:160℃、SP値:12.74)、
および、
N−メチルジエタノールアミン(沸点:247℃、SP値:13.26)等が挙げられる。
これらは1種または2種以上用いることができる。
反応液中のアミノアルコールの含有量は特に制限されず、反応液中の銀イオンに対して、好ましくは1.5〜4.0倍モル、より好ましくは1.5〜3.0倍モルである。
アミノアルコールの含有量が銀イオンに対して1.5倍モル以上であると、カルボン酸銀の溶解性が良好となり、反応時間を短縮することができる。
アミノアルコールの含有量が銀イオンに対して4.0倍モル以下であると、生成される被覆銀粒子に対する不要なアミノアルコールの付着を抑制することができる。
<媒体>
媒体は、1種または2種以上用いることができる。
媒体としては、一般的に化学反応に用いられる有機媒体から1種または2種以上を選択することができる。
媒体としては、カルボン酸による銀イオンの還元反応を阻害せず、かつ、アミノアルコールのSP値と媒体のSP値との差であるΔSP値が4.2以上を充足する媒体が好ましい。
ΔSP値が4.2以上であると、生成される被覆銀粒子の粒度分布の幅が狭くなり、粒子径の揃った被覆銀粒子が得られる傾向がある。
反応場の形成性と被覆銀粒子の品質の観点から、ΔSP値は、好ましくは4.5以上、より好ましくは5.0以上、特に好ましくは7.0以上である。
ΔSP値は、好ましくは11.0以下、より好ましくは10.0以下である。
媒体のSP値は、アミノアルコールよりも小さいことが好ましい。
2種以上の媒体を用いる場合、媒体のSP値は、媒体に含まれる各媒体のSP値とモル分率とを考慮した平均SP値により定義されるものとする。
例えば、媒体1と媒体2の2種の媒体を用いる場合、平均SP値は、下式により算出される。
δ3=(V1×δ1+V2×δ2)/(V1+V2)
(上記式中、各記号は以下の意味を示す。
δ3:混合媒体の平均SP値、
δ1:媒体1のSP値、
V1:媒体1のモル容積、
δ2:媒体2のSP値、
V2:媒体2のモル容積。)
媒体は、少なくともアミノアルコールと相溶しない媒体(以下、「主媒体」と呼ぶ)を含むことが好ましい。
媒体としては、アミノアルコールと相溶しない媒体(主媒体)と、アミノアルコールと相溶する媒体(以下、「補助媒体」と呼ぶ)を併用することが好ましい。
以下、主媒体の好ましい態様について、説明する。
主媒体の沸点は、反応液の加熱温度よりも高いことが好ましい。具体的には、主媒体の沸点は、好ましくは120℃以上、より好ましくは130℃以上である。
主媒体の沸点は、好ましくは400℃以下、より好ましくは300℃以下である。
主媒体としては、水と共沸混合物を形成可能なものが好ましい。水と共沸混合物を形成可能であると、反応液の加熱工程において、反応系に生成される水を容易に除去することができる。
主媒体としては、エチルシクロへキサン(沸点:132℃、SP値:8.18)、C9アルキルシクロヘキサン混合物[例えば、ゴードー社製「スワクリーン150」(沸点:149℃、SP値:7.99)、およびn−オクタン(沸点:125℃、SP値:7.54)等が挙げられる。
主媒体は、1種または2種以上用いることができる。
以下、必要に応じて用いられる補助媒体の好ましい態様について、説明する。
補助媒体の好ましい沸点は、主媒体と同様である。
補助媒体のSP値は主媒体をよりも大きいことが好ましく、アミノアルコールと相溶する程度に大きいことがより好ましい。
補助媒体としては、エチレングリコール(EO)系グリコールエーテル、プロピレングリコール(PO)系グリコールエーテル、およびジアルキルグリコールエーテル等が挙げられる。
EO系グリコールエーテルとしては、メチルジグリコール、イソプロピルグリコール、およびブチルグリコール等が挙げられる。
PO系グリコールエーテルとしては、メチルプロピレンジグリコール、メチルプロピレントリグリコール、プロピルプロピレングリコール、およびブチルプロピレングリコール等が挙げられる。
ジアルキルグリコールエーテルとしては、ジメチルジグリコール等が挙げられる。
なお、これらの補助媒体は、いずれも日本乳化剤(株)等より入手可能である。
補助媒体は、1種または2種以上用いることができる。
反応液中の媒体量は、銀イオン濃度が好ましくは0.5〜2.5mol/L、より好ましくは1.0〜2.0mol/Lとなる量に調整される。
反応液中の銀イオン濃度が1.0mol/L以上であると、生産性が向上する。
反応液中の銀イオン濃度が2.5mol/L以下であると、反応液の粘度の上昇が抑制され、良好な撹拌性が得られる。
<任意成分>
反応液は、必要に応じて、上記以外の任意成分を1種または2種以上含むことができる。
<錯化合物>
カルボン酸銀、脂肪族カルボン酸(好ましくは長鎖カルボン酸)、および媒体を含む反応液中には、カルボン酸銀に由来する1種または2種以上の錯化合物(脂肪族カルボン酸銀錯体)が生成される。
錯化合物の構造は特に限定されず、反応液中の錯化合物は反応の進行に伴って構造が変化してもよい。
錯化合物は、銀イオン、および、配位子としての脂肪族カルボン酸またはそのイオンを含むことができる。
錯化剤としてアミノアルコールを用いる場合、錯化合物は、銀イオン、脂肪族カルボン酸またはそのイオン、および、配位子としてのアミノアルコールを含むことができる。
錯化合物が配位子としてアミノアルコールを含むことで、錯化合物の熱分解温度が低下する傾向がある。
錯化合物において、銀イオンには、カルボン酸銀由来のカルボン酸イオンがイオン結合していると考えられる。
なお、錯化合物における配位子の種類およびその個数等は種々の態様が考えられる。
反応液中に生成した錯化合物は、熱分解処理によって銀核粒子を生成することができる。熱分解処理の温度は、錯化合物の構造等に応じて適宜選択される。
一般的に、カルボン酸銀は、アミノアルコールとともに錯化合物を形成することで、熱分解温度が低下する傾向がある。
例えば、シュウ酸銀の熱分解温度は210〜250℃程度とされている。しかしながら、シュウ酸銀がアミノアルコールとともに錯化合物を形成することで、シュウ酸銀の熱分解温度は70〜120℃程度に低下することができる。
したがって、錯化剤としてアミノアルコールを用いた反応液の加熱温度(熱分解処理温度)は、好ましくは60〜130℃、より好ましくは80〜130℃である。
錯化合物の熱分解処理により銀核粒子が生成し、生成された銀核粒子の表面に脂肪族カルボン酸が吸着(物理吸着またはイオン吸着等)することで、銀核粒子の表面が複数の脂肪族カルボン酸分子で被覆された被覆銀粒子を得ることができる。
熱分解処理の時間は、熱分解処理の温度に応じて適宜選択することができ、例えば30〜180分間が好ましい。
熱分解処理の雰囲気は特に制限されず、空気雰囲気でも窒素雰囲気等の不活性雰囲気でもよい。
被覆銀粒子の製造方法において、被覆銀粒子の粒度分布は、脂肪族カルボン酸の種類と添加量、カルボン酸銀錯体の濃度、および混合媒体の比率(主媒体/補助媒体)等を調整することで、狭い範囲に調整することができる。
被覆銀粒子の大きさは、金属核発生数を支配する昇温速度、すなわち反応系への投入熱量とミクロ反応場の大きさと関係する攪拌速度を適切に保つことで揃えることができる。
被覆銀粒子の製造方法においては、粒度分布が狭い被覆銀粒子が得られる。これは、例えば、以下のように考えることができる。
カルボン酸銀を反応媒体に可溶化するための錯化剤としてのアミノアルコールと媒体とのSP値の差であるΔSP値を好ましくは4.2以上とする。この場合、反応液中に生成する錯化合物は反応液中に溶解することができるが、錯化合物が熱分解されて錯化剤であるアミノアルコールが遊離すると、遊離したアミノアルコールは媒体とは相溶できず、2相を形成し始める。
遊離したアミノアルコールは、カルボン酸銀および錯化合物との親和性が高く、カルボン酸銀の新たなる錯化剤または媒体として振る舞うことができる。これにより、遊離したアミノアルコールは極性の高い内核(液滴)を形成し、その外側を極性の低い媒体が取り囲むことで、Water in oil Emulsion類似の2相構造が形成される。これがマイクロ反応場として機能すると推定される。
上記マイクロ反応場には、反応系中の水、および、脂肪族カルボン酸の置換により脱離したカルボン酸も存在する。
マイクロ反応場では、金属核およびその成長粒子、カルボン酸銀アミノアルコール錯体、水、およびカルボン酸が、媒体からアミノアルコール層に隔離されて、反応が進行すると考えられる。
被覆銀粒子の製造方法は必要に応じて、熱分解処理工程後に、被覆銀粒子の洗浄工程、分離工程、および乾燥工程等の後工程をさらに有していてもよい。
これら後工程には、公知方法を適用できる。
洗浄工程は例えば、有機媒体を用いて実施することができる。洗浄工程に用いる有機媒体としては特に制限されず、メタノール等のアルコール媒体、アセトン等のケトン媒体等が挙げられる。これらは1種または2種以上用いることができる。
[導電体]
本発明の導電体は、上記の本発明の導電性組成物の熱処理物である。
導電体としては特に制限されず、配線および導電体層等が挙げられる。
導電体層としては、電極層および接合層等が挙げられる。
接合層としては、基材とIC(Integrated Circuit)チップ等の半導体素子とを接合する接合層等が挙げられる。
本発明の導電体の厚みは特に制限されず、例えば1〜100μm程度が好ましい。
本発明の導電体は、基材上に上記の本発明の導電性組成物を塗工する工程と、塗工された導電性組成物を焼結する工程とを有する製造方法により、製造することができる。
基材は、少なくとも基材本体を含み、必要に応じて基材本体の上に形成された層および部材等の1種または2種以上の要素を含むことができる。
基材本体は例えば、
ポリイミド等の樹脂;
ガラス;
シリカおよびアルミナ等のセラミックス;
ステンレス、銅、およびチタン等の金属;
シリコン等の半導体等を含む。
基材本体は、複合材料からなるものでもよい。
半導体部品および電子機器等の用途では、基材本体としては、リードフレームおよび基板等が好ましく用いられる。基板の厚みは例えば0.01〜5mm程度が好ましい。
塗工方法は特に制限されず、インクジェット印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、およびディスペンス印刷法等の公知印刷法を採用することができる。
本発明の導電性組成物は、上記印刷法によってパターン印刷することができる。
導電性組成物の焼結温度は特に制限されず、例えば100〜600℃、好ましくは150〜350℃である。
焼結時間は焼結温度に応じて選択され、例えば1〜120分間、好ましくは1〜60分間である。
焼結工程においては、必要に応じて、加圧焼結を行ってもよい。
加圧力は特に制限されず、好ましくは0.1〜100MPa、より好ましくは0.1〜50MPaである。
焼結雰囲気は特に制限されず、空気雰囲気でも酸素濃度の低い不活性雰囲気でもよい。酸素濃度の低い不活性雰囲気としては、窒素およびアルゴン等の不活性ガス雰囲気、および減圧雰囲気等が挙げられる。
以下、本発明に係る製造例、実施例および比較例について、説明する。
[製造例1]「シュウ酸銀の製造」
攪拌機、温度計、および還流冷却管を備えた1000mLガラス製三ツ口フラスコをオイルバス内に設置した。このフラスコ内に、シュウ酸(関東化学社製)73gとイオン交換水200gとを入れ、攪拌混合した。この混合溶液に対して、フラスコ内容物を均一に攪拌しながら、硝酸銀(関東化学社製)200gをイオン交換水200gに溶かした硝酸銀水溶液を少しずつ滴下した。反応液を攪拌混合しながらオイルバスを用いて反応液を40℃に加熱し、この反応温度での加熱攪拌を継続した。反応開始直後から白色の結晶が徐々に析出した。滴下終了時から3時間後に反応を終了し、反応液を室温まで自然冷却した。得られた析出物をろ過し、イオン交換水1000mLで洗浄した。得られたろ過物は白色固体であった。最後に、ろ過物を温度40℃以下/圧力3kPa以下の条件で減圧乾燥(真空乾燥)して、白色のシュウ酸銀167gを得た。
得られたシュウ酸銀について、PXRD分析による結晶構造の同定を実施して、原料の消失と目的物の生成を確認した。
[実施例1−1]「被覆銀粒子(AgP1)の製造」
攪拌機、温度計、および還流冷却管を備えた300mLガラス製三ツ口フラスコをオイルバス内に設置した。
上記フラスコ内に、
製造例1で得られたシュウ酸銀30gと、
ラウリン酸(東京化成社製)4gと、
媒体(補助媒体)としてのトリプロピレングリコールモノメチルエーテル(東京化成社製、沸点:242℃、SP値:9.20)10gと、
媒体(主媒体)としての石油系炭化水素(C9アルキルシクロヘキサン混合物)(ゴードー社製「スワクリーン150」、沸点:149℃、SP値:7.99)54gとを入れ、
攪拌混合した。
反応液を攪拌混合しながらオイルバスを用いて反応液を40℃に加熱した。この反応温度での加熱攪拌を継続しながら、反応液に対して錯化剤としての3−アミノ−1−プロパノール(東京化成社製)53gをゆっくり滴下した。滴下終了後、攪拌しながら、約1℃/minの昇温速度で液温度が85℃付近になるまで加熱し、さらにこの温度での加熱攪拌を続けた。滴下終了時から3時間後にオイルバスの加熱を停止して反応を終了し、反応液を室温まで自然冷却した。
室温まで冷却した反応液に対して、メタノール(関東化学社製)200mLを添加し、混合した。この混合溶液を30分間以上静置した後、上澄み液をデカンテーションして、沈殿物を得た。
上記沈殿物に対して、メタノール(関東化学社製)100mLとアセトン(関東化学社製)100mLとを添加し、混合した。この混合溶液を30分間以上静置した後、上澄み液をデカンテーションして、沈殿物を得た。これらの操作(メタノールおよびアセトンの添加とデカンテーション)をさらにもう一回繰り返した。
上記沈殿物に対して、メタノール(関東化学社製)200mLを添加し、混合した。この混合溶液を30分間以上静置した後、上澄み液をデカンテーションして、沈殿物を得た。
得られた沈殿物に対して、メタノール(関東化学社製)100mLとイソ酪酸3−ヒドロキシー2,2,4―トリメチルペンチル1.7gとを添加し、混合した。これをナスフラスコに入れ、回転式エバポレータに設置し、内容物を温度40℃/圧力1kPa以下の条件で減圧乾燥(真空乾燥)した。減圧乾燥(真空乾燥)後、室温まで自然冷却した後、ナスフラスコ内を窒素置換しながら減圧解除した。
以上のようにして、18gの紫色の被覆銀粒子(AgP1)を得た。
[実施例1−2]「被覆銀粒子(AgP2)の製造」
反応温度(3−アミノ−1−プロパノールを添加した後の加熱温度)を100℃とした以外は実施例1−1と同様にして、18gの紫色の被覆銀粒子(AgP2)を得た。
[評価]
実施例1−1、1−2で得られた被覆銀粒子(AgP1)、(AgP2)について、以下の評価を実施した。
(粉体X線回折分析(PXRD分析))
PXRD分析による結晶構造の同定を実施して、原料の消失と銀由来のピークを確認した。
(ガスクロマトグラフ質量分析(GC−MS分析))
GC−MS分析により有機被覆物を同定したところ、ラウリン酸であることが確認された。
(熱重量・示差熱分析(TG−DTA分析))
TG−DTA分析を実施して、有機被覆量を測定した。180℃程度から350℃程度の範囲(ラウリン酸の沸点付近)の重量減少率が、被覆層蒸発分(有機被覆量)に相当する。有機被覆量は、1.0〜1.3質量%の範囲内であった。
実施例1−1の被覆銀粒子(AgP1)の有機被覆量は、1.2質量%であった。
実施例1−2の被覆銀粒子(AgP2)の有機被覆量は、1.3質量%であった。
実施例1−1、1−2において、TG−DTA測定結果から、ラウリン酸が物理吸着していることが示唆された。
代表として、実施例1−1の被覆銀粒子(AgP1)のTG曲線を図4に示しておく。
(脂肪族カルボン酸の被覆密度の測定)
[課題を解決するための手段]の項に記載の方法にて、銀核粒子の表面を被覆している脂肪族カルボン酸(本実施例ではラウリン酸)の被覆密度を求めたところ、2.5〜5.2分子/nmの範囲内であった。
実施例1−1の被覆銀粒子(AgP1)の被覆密度は、5.1分子/nmであった。
実施例1−2の被覆銀粒子(AgP2)の被覆密度は、4.1分子/nmであった。
『化学と教育 40巻2号(1992年)ステアリン酸分子の断面積を求める−実験値と計算値−』では、ステアリン酸分子のVan der waals半径から最小面積が算出されており、その計算値から換算される飽和被覆面積理論値は約5.00分子/nmである。この理論値から、被覆銀粒子(AgP1)、(AgP2)は比較的高密度にラウリン酸が銀核粒子の表面に吸着していることが推測された。
(SEM観察)
SEM観察を実施して、粒子形状、平均一次粒子径DSEM、および粒子径変動率を評価した。
被覆銀粒子(AgP1)、(AgP2)のSEM写真を図5A、図5Bに示す。
粒子形状は球状であり、平均一次粒子径DSEMは0.02〜5.0μmの範囲であった。
実施例1−1の被覆銀粒子(AgP1)の平均一次粒子径は、81.5nmであった。
実施例1−2の被覆銀粒子(AgP2)の平均一次粒子径は、58.1nmであった。
粒子径変動率は0.01〜0.5の範囲内であり、実施例1−1、1−2では粒子径の揃った被覆銀粒子が得られた。
[実施例2]「導電性組成物の製造」
実施例1−1で得られた被覆銀粒子(AgP1)を用いて、導電性組成物(導電性ペースト組成物)を製造した。
平均粒子径の比較的大きい第1の金属粉として、平均粒子径が3.6μmの銀粉(三井金属社製「SPN30J」)を用意した。
平均粒子径の比較的小さい第2の金属粉として、平均粒子径が1.3μmの銀粉(三井金属社製「SPN05S」)を用意した。
分散剤として、ポリアクリル酸系分散剤(日油社製「マリアリム」)を用意した。
増粘剤として、ポリメタクリル酸系増粘剤(日油社製「KC1100」)を用意した。
媒体として、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート(NHネオケム社製「キョーワノールM」)を用意した。
実施例1−1で得られた被覆銀粒子(AgP1)と上記の第1の金属粉と上記の第2の金属粉と上記の分散剤と上記の増粘剤と上記の媒体とを、以下に示す組成で配合した。自動ライカイ装置を用いてこれらを分散混練して、導電性組成物を得た。
<配合組成>
被覆銀粒子(AgP1):40質量部、
第1の金属粉:40質量部、
第2の金属粉:10質量部、
分散剤:0.4質量部、
増粘剤:0.1質量部、
媒体:5質量部。
[実施例3]「接合層の形成」
基材として、表面に銀メッキが施された銅製のリードフレーム(銀メッキリードフレーム)を用意した。
マスクを用いたスクリーン印刷法により、上記リードフレームのチップ搭載部(平面視9mm角の正方形状)上に、実施例2で得られた導電性組成物を9mm角の正方形状パターンで50μm厚塗工した。
別途、シリコンウエハを基板とし、表面にバリア層として銀メッキが施されたIC(Integrated Circuit)チップを用意した。
ホットステージと、このホットステージに対向配置され、ICチップを吸着保持するボンディングヘッドとを備えたチップボンディング装置を用いて、チップボンディングを実施した。
図3Aに示すように、ホットステージとボンディングヘッドとを充分に離間させた状態で、ホットステージ上に銀ペースト組成物を塗工した上記の銀メッキリードフレームを載置し、ボンディングヘッドの下面に上記の銀メッキICチップを吸着保持させた。
次に図3Bに示すように、ボンディングヘッドを降下させ、銀ペースト組成物の塗工膜を加圧焼結して、銀接合層(接合用の導電体層)を形成した。
加圧焼結の条件は、以下の通りとした。
焼結温度:300℃、
加圧力:30MPa、
加熱および加圧の時間:10分間。
以上のようにして、ICチップ/バリア層(銀メッキ層)/銀接合層/銀メッキ層/リードフレームからなる積層体を得た。
図3Aおよび図3Bは、模式断面図である。
これらの図中の各符号は、以下の構成要素を示す。
100:チップボンディング装置、
101:ホットステージ、
102:ボンディングヘッド、
201:リードフレーム、
202:銀メッキ層、
203X:塗工膜、
203:銀接合層、
204:バリア層(銀メッキ層)、
205:ICチップ、
200:積層体。
得られた積層体のSEM断面観察を実施したところ、得られた積層体の銀接合層は、緻密で均一性の高い導電体層であった。
[実施例4]「導電体層の形成」
裏側に12μmの銅箔をラミネートした40μm厚のポリイミドフィルム上に実施例2で得られた導電性組成物を9mm角の正方形状パターンで10μm厚塗工した。
次いで、上記塗工膜を350℃で1時間加熱して、導電体層を得た。
得られた導電体層の体積固有抵抗値を測定したところ、5μΩ・cmであり、Agバルク体と同レベルの高導電性を有していた。
本発明は上記実施形態および実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、適宜設計変更が可能である
1:導電性組成物
10:金属粉
11:第1の金属粉
12:第2の金属粉
20:被覆銀粒子
21:銀核粒子
22:脂肪族カルボン酸分子
100:チップボンディング装置
101:ホットステージ
102:ボンディングヘッド
201:リードフレーム
202:銀メッキ層
203X:塗工膜
203:銀接合層(導電体層)
204:バリア層(銀メッキ層)
205:ICチップ
200:積層体

Claims (13)

  1. 平均一次粒子径が0.02μm〜0.5μmである銀核粒子と、
    当該銀核粒子の表面に1nm当り2.5〜5.2分子の密度で配置された複数の脂肪族カルボン酸分子とを含み、
    前記銀核粒子の表面に対して前記複数の脂肪族カルボン酸分子が物理吸着またはイオン吸着している、
    被覆銀粒子。
  2. 前記脂肪族カルボン酸分子の脂肪族基の炭素数が5〜26である、請求項1に記載の被覆銀粒子。
  3. 任意の20個の粒子の走査型電子顕微鏡観察により求められる一次粒子径の算術平均値をDSEMとし、一次粒子径の標準偏差をSDとしたとき、
    SEMが0.02〜5.0μmであり、一般式SD/DSEMで定義される粒子径変動率が0.01〜0.5である、
    請求項1または2に記載の被覆銀粒子。
  4. 前記脂肪族カルボン酸分子が、飽和脂肪族カルボン酸である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の被覆銀粒子。
  5. 請求項1乃至のいずれか一項に記載の被覆銀粒子の製造方法であって、
    銀カルボン酸塩と脂肪族カルボン酸と媒体とを含む反応液を用意する工程と、
    前記反応液中に生成する錯化合物を熱分解処理して金属銀を生成することにより銀核粒子を生成する工程と、
    銀核粒子の表面に脂肪族カルボン酸が吸着する工程と、を含む、被覆銀粒子の製造方法。
  6. 前記反応液はさらに錯化剤を含む、請求項に記載の被覆銀粒子の製造方法。
  7. 前記錯化剤と、前記媒体とのとのSP値の差であるΔSP値が4.2以上である、請求項に記載の被覆銀粒子の製造方法。
  8. 前記錯化剤がアミノアルコールである、請求項6または7に記載の被覆銀粒子の製造方法。
  9. 前記アミノアルコールのSP値が11.0以上である、請求項に記載の被覆銀粒子の製造方法。
  10. 前記銀カルボン酸塩の熱分解温度が100℃以上である、請求項5乃至9のいずれか一項に記載の被覆銀粒子の製造方法。
  11. 請求項1乃至のいずれか一項に記載の被覆銀粒子と媒体とを含む、導電性組成物。
  12. 更に、前記被覆銀粒子よりも粒子径の大きい金属粉を含む、請求項11に記載の導電性組成物。
  13. 請求項11または12に記載の導電性組成物の熱処理物である、導電体。
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