JP6938057B2 - 被覆銀粒子とその製造方法、導電性組成物、および導電体 - Google Patents
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Description
本発明者らは先に、耐酸化性に優れた被覆銅粒子に関する発明を出願している。
本発明者らは、特許文献1において、銅核粒子と、長鎖脂肪族アミンを主成分とする被覆層とを含む被覆銅粒子とその製造方法を開示している(請求項1、請求項4等)。
本発明者らはまた、特許文献2において、脂肪族カルボン酸で表面が被覆された被覆銅粒子とその製造方法を開示している(請求項1)。
任意の20個の粒子の走査型電子顕微鏡観察により求められる一次粒子径の算術平均値をDSEMとし、一次粒子径の標準偏差をSDとしたとき、DSEMが0.02〜5.0μmであり、一般式SD/DSEMで定義される粒子径変動率が0.01〜0.5であることが好ましい。
工程(A)は、
銀カルボン酸塩と脂肪族カルボン酸と媒体とを含む反応液を用意する工程(A1)と、
前記反応液中に生成する錯化合物を熱分解処理して金属銀を生成する工程(A2)とを含むことが好ましい。
前記反応液はさらに錯化剤を含むことが好ましい。
前記錯化剤がアミノアルコールであることが好ましい。
前記銀カルボン酸塩の熱分解温度が100℃以上であることが好ましい。
本発明の導電体は、上記の本発明の導電性組成物の熱処理物である。
本発明の導電体としては、配線および導電体層等が挙げられる。
本明細書において、特に明記しない限り、「粒子径」は一次粒子径を意味するものとする。
本明細書において、特に明記しない限り、「粒子(銀核粒子または被覆銀粒子)の平均一次粒子径」は、走査型電子顕微鏡(SEM)観察により求められる、任意の20個の粒子(銀核粒子または被覆銀粒子)の一次粒子径の算術平均値(DSEM)である。
なお、銀核粒子の平均一次粒子径と、銀核粒子を含む被覆銀粒子の平均一次粒子径とは、実質的に同一とみなすことができる。
「粒子径変動率」は、SEM観察により求められる、任意の20個の粒子(銀核粒子または被覆銀粒子)の一次粒子径の標準偏差(SD)/平均一次粒子径(DSEM)の値である。
本明細書において、特に明記しない限り、「被覆銀粒子の有機成分量」は、熱重量・示差熱(TG−DTA)分析にて測定するものとする。
測定条件は以下の通りとする。
昇温速度:10℃/min、
測定温度範囲:25〜500℃、
測定雰囲気:窒素(100ml/min)。
上記TG−DTA分析において、加熱減量を有機成分量として求める。
本明細書において、特に明記しない限り、銀核粒子の表面における「脂肪族カルボン酸分子の被覆密度」は、以下の方法により算出するものとする。
測定装置としては、Waters社製「ACQUITY UPLC H−Class System」を用いる。測定条件は以下の通りとする。
カラム:ACQUITY UPLC(R)BEH C18 1.7μm 2.1×50mm、
測定温度:50℃、
測定媒体:水/アセトニトリル、
流量:0.8mL/min。
サンプル瓶内に、被覆銀粒子1gとアセトニトリル9mLとを入れる。これに、0.36質量%塩酸水溶液1mLを加える。内容物に対して、超音波を30分間照射して、攪拌混合する。次いで、得られたスラリー液を静置して固液分離した後、上澄み液を採取する。この上澄み液を0.2μm径のフィルターでろ過し、LC測定用のサンプルとする。
LCの分析結果とTG−DTA分析結果と合わせて、被覆銀粒子に含まれる脂肪族カルボン酸分子量を算出する。
[脂肪族カルボン酸分子の分子数]=Macid/(Mw/NA) ・・・(a)
ここで、Macidは被覆銀粒子1gに含まれる脂肪族カルボン酸分子量(g)であり、Mwは脂肪族カルボン酸分子の分子量(g/mol)であり、NAはアボガドロ定数である。
銀核粒子量MAg(g)から、被覆銀粒子1g中の銀核粒子数は、下式(b)で表される。
[被覆銀粒子1g中の銀核粒子数]=MAg/[(4πr3/3)×d×10−21] ・・・(b)
ここで、MAgは被覆銀粒子1gに含まれる銀核粒子量(g)であり、rはSEM画像観察により算出した銀核粒子の一次粒子径の半径(nm)であり、dは銀の密度である(d=10.49g/cm3))。
[被覆銀粒子1gに含まれる銀核粒子の表面積(nm2)]=[銀核粒子数]×4πr2 ・・・(c)
[被覆密度(分子/nm2)]=[脂肪族カルボン酸分子の分子数]/[銀核粒子表面積] ・・・(d)
本発明の被覆銀粒子は、銀核粒子と、この銀核粒子の表面に1nm2当り2.5〜5.2分子の密度で配置された複数の脂肪族カルボン酸分子とを含むものである。
本発明の被覆銀粒子は例えば、上記銀核粒子よりも粒子径の大きい金属粉と組み合わせて用いることができる。この場合、本発明の被覆銀粒子は、金属粉の焼結剤として用いることができる。
本発明の被覆銀粒子を上記銀核粒子よりも粒子径の大きい金属粉の焼結剤として用いる場合、本発明の被覆銀粒子と金属粉との質量比(本発明の被覆銀粒子:金属粉)は特に制限されず、好ましくは20:80〜80:20、より好ましくは30:70〜70:30、特に好ましくは40:60〜60:40である。
本発明の導電性組成物は、上記の本発明の被覆銀粒子と媒体とを含むものである。
一態様において、本発明の導電性組成物は、被覆銀粒子より粒子径の大きい金属粉を含む。
図2に、本発明に係る一実施形態の被覆銀粒子の模式図を示す。
図2において、右下図に示すように、「親水基」は丸、疎水基は棒で模式的に図示してある。
図中、金属粉10の各粒子および被覆銀粒子20の各粒子の形状、粒子径、および分布等は、模式的なものである。
金属粉10としては、銅粉および銀粉等が挙げられる。
金属粉10としては、平均一次粒子径の異なる複数種の金属粉を用いることが好ましい。平均一次粒子径の異なる複数種の金属粉を用いることで、平均一次粒子径の比較的大きい金属粉の隙間に、平均一次粒子径の比較的小さい金属粉が入り込み、金属粉の充填密度を向上させることができる。
平均一次粒子径の比較的大きい第1の金属粉11の平均一次粒子径は特に制限されず、好ましくは1〜100μm、より好ましくは1〜50μmである。
平均一次粒子径の比較的小さい第2の金属粉12の平均一次粒子径は特に制限されず、好ましくは0.2〜10μm、より好ましくは0.2〜5μmである。
図2に示すように、被覆銀粒子20は、金属粉10よりも粒子径の小さい銀核粒子21と、銀核粒子21の表面を被覆する複数の脂肪族カルボン酸分子22とを含む。
一態様において、複数の脂肪族カルボン酸分子22は、銀核粒子21の表面に対して、親水基であるカルボキシ基を銀核粒子21側にして物理吸着し、LB膜(Langmuir-Blodgett膜)のような単分子膜を形成することができる。
例えば、被覆銀粒子のTG−DTA測定において、被覆材料である脂肪族カルボン酸がその沸点以下で揮発する場合、被覆の態様が物理吸着等の吸着であると推定される。
一般的に、銀粒子は耐酸化性に優れるが、硫化ガス等に対して腐食性を有する。
表面が脂肪族カルボン酸分子22で被覆された被覆銀粒子20は、耐酸化性に優れ、かつ、硫化ガス等に対する耐腐食性に優れる。
被覆銀粒子20の疎水基同士が相互作用して、被覆銀粒子20同士の凝集が抑制される。そのため、上記構造の被覆銀粒子20は、製造後の粒度安定性および媒体中での粒子分散性に優れる。
脂肪族カルボン酸分子22は、銀核粒子21に対して単に吸着(物理吸着またはイオン吸着等)しているので、焼結時には、銀核粒子21から容易に脱離することができる。したがって、被覆銀粒子20は焼結性にも優れる。
上記構造の被覆銀粒子20を含む本実施形態の導電性組成物1は、金属粉10および焼結剤として作用する被覆銀粒子20の粒子分散性と焼結性に優れる。
また、本実施形態によれば、粒子分散性および焼結性に優れた導電性組成物1を提供することができる。
銀核粒子の平均一次粒子径は特に制限されず、焼結剤として好適な範囲内であればよい。
銀核粒子の平均一次粒子径は、好ましくは0.02μm(20nm)〜5.0μm、より好ましくは0.02μm(20nm)〜1.0μm、さらに好ましくは0.02μm(20nm)〜0.5μm、特に好ましくは0.02μm(20nm)〜0.2μmである。
平均一次粒子径が0.02μm(20nm)未満では粒子の製造が困難であり、5.0μm超では充填効果が不充分となる恐れがある。
銀核粒子の表面を被覆する脂肪族カルボン酸分子の種類は、特に制限されない。
脂肪族カルボン酸分子に含まれるカルボキシ基の数は特に制限されず、好ましくは1〜2、より好ましくは1である。
脂肪族カルボン酸分子は、飽和脂肪族カルボン酸分子であっても、不飽和脂肪族カルボン酸分子であってもよい。脂肪族カルボン酸分子が不飽和脂肪族カルボン酸分子である場合、不飽和脂肪族基に含まれる不飽和結合の数は、好ましくは1〜3、より好ましくは1〜2である。
脂肪族カルボン酸分子に含まれる脂肪族基は、直鎖状でも分岐鎖状であってもよく、直鎖状であることが好ましい。
以下、脂肪族基の炭素数が5以上の脂肪族カルボン酸は、「長鎖カルボン酸」ともいう。
具体的には、脂肪族カルボン酸分子の沸点は、好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上である。脂肪族カルボン酸分子の焼結時の熱分解性が良好となることから、脂肪族カルボン酸分子の沸点は、好ましくは400℃以下である。
オレイン酸およびリノール酸等の不飽和脂肪族カルボン酸分子;
および、
ステアリン酸、ヘプタデカン酸、ラウリン酸、およびオクタン酸等の飽和脂肪族カルボン酸分子が挙げられる。
脂肪族カルボン酸分子は、1種または2種以上用いることができる。
媒体としては、一般的な導電性組成物に用いられる公知の媒体を用いることができる。
媒体としては、炭化水素系溶剤、高級アルコール系溶剤、セロソルブ、およびセロソルブアセテート系溶剤等が挙げられる。
媒体は、1種または2種以上用いることができる。
導電性組成物の固形分濃度は特に制限されず、印刷法に応じて選択され、例えば、10〜99質量%、好ましくは40〜95質量%である。
本発明の導電性組成物は、必要に応じて1種または2種以上の任意成分を含むことができる。
<分散剤>
必要に応じて、分散剤として、ポリエステル系分散剤およびポリアクリル酸系分散剤等の公知のポリマー分散剤を用いることができる。
<増粘剤>
必要に応じて、増粘剤として、ポリメタクリル酸系増粘剤等の公知のポリマー増粘剤を用いることができる。
<カップリング剤>
必要に応じて、シランカップリング剤およびチタネートカップリング剤等のカップリング剤を用いることができる。
本発明の被覆銀粒子の製造方法は、媒体中で、脂肪族カルボン酸銀錯体を熱分解する工程(A)を含む。
脂肪族カルボン酸銀錯体を熱分解処理することで、銀核粒子と脂肪族カルボン酸とが生成され、生成された1個の銀核粒子の表面に対して複数の脂肪族カルボン酸分子が吸着(物理吸着またはイオン吸着等)する。これにより、銀核粒子の表面に所定の被覆密度で複数の脂肪族カルボン酸分子が吸着(物理吸着またはイオン吸着等)した被覆銀粒子(20)が形成される。
工程(A)は、
銀カルボン酸塩(カルボン酸銀)と脂肪族カルボン酸と媒体とを含む反応液を用意する工程(A1)と、
上記反応液中に生成する錯化合物(脂肪族カルボン酸銀錯体)を熱分解処理して金属銀を生成する工程(A2)とを含むことができる。
反応液は必要に応じて、さらに錯化剤を含むことができる。
粒子径が焼結剤として好適な範囲の粒子径の被覆銀粒子が安定的に得られることから、原料の銀カルボン酸塩の熱分解温度は、好ましくは100℃以上である。
例えば、ギ酸銀の熱分解温度は110℃程度であり、シュウ酸銀の熱分解温度は210℃程度である。
原料のカルボン酸銀としては特に制限されず、銀イオンの還元性、熱分解温度、原料の入手容易性、および原料の製造容易性等の観点から、ギ酸銀、シュウ酸銀、炭酸銀、およびクエン酸銀等が好ましい。中でも、熱分解温度が高いことから、シュウ酸銀等が好ましい。
シュウ酸銀は、市販品を用いてもよく、公知方法により製造して用いてもよい。
シュウ酸は還元性を有するので、シュウ酸銀を熱分解処理すると、1価の銀イオンが還元され、還元銀粒子が生成される。
原料の脂肪族カルボン酸は特に制限されず、所望の被覆銀粒子中の脂肪族カルボン酸分子の構造に合わせて選定される。
原料の脂肪族カルボン酸の炭素数は、所望の被覆銀粒子中の脂肪族カルボン酸分子の脂肪族基の炭素数と一致する。
粒子径の揃った被覆銀粒子を効率良く製造でき、被覆銀粒子の耐腐食性と粒子分散性の向上効果が効果的に発現することから、原料の脂肪族カルボン酸の炭素数は、好ましくは5以上である。
粒子径の揃った被覆銀粒子を効率良く製造でき、被覆銀粒子の耐腐食性と粒子分散性の向上効果が効果的に発現し、かつ、焼結時の熱分解性が良好となることから、原料の脂肪族カルボン酸の炭素数は、好ましくは5〜26、より好ましくは5〜20、さらに好ましくは5〜17、特に好ましくは7〜17、最も好ましくは9〜17である。
被覆銀粒子中の脂肪族カルボン酸分子の焼結時の熱分解性が良好となることから、原料の脂肪族カルボン酸分子の沸点は、好ましくは400℃以下である。
オレイン酸およびリノール酸等の不飽和脂肪族カルボン酸;
および、
ステアリン酸、ヘプタデカン酸、ラウリン酸、およびオクタン酸等の飽和脂肪族カルボン酸が挙げられる。
原料の脂肪族カルボン酸は、1種または2種以上用いることができる。
反応液中の脂肪族カルボン酸の含有量が2.5mol%以上であると、充分な反応速度が得られ生産性が向上する傾向があり、被覆銀粒子の粒子径変動率が小さくなる傾向がある。
反応液中の脂肪族カルボン酸の含有量が25mol%以下であると、反応系の粘度上昇が抑制され、良好な撹拌性が得られる。
錯化剤としては特に制限されず、アミノアルコール等が好ましい。
反応液中にアミノアルコール等の錯化剤が存在することで、カルボン酸銀から錯化合物が効果的に生成される。
錯化合物は、媒体中に容易に可溶化する。
アミノ基の数は特に制限されず、1つが好ましい。すなわち、アミノアルコールとしては、モノアミノモノアルコールが好ましい。中でも、アミノ基が無置換のモノアミノモノアルコール、および、単座配位性のモノアミノモノアルコールが好ましい。
公益社団法人石油学会ホームページ
(http://sekiyu-gakkai.or.jp/jp/dictionary/petdicsolvent.html#solubility2)
Hb = 21×(273+Tb)
H25 = Hb×[1+0.175×(Tb−25)/100]
E = H25−596
E1 = E×D/Mw
(上記式中、Dは試料の密度、Mwは試料の分子量である。)
SP =(E1)1/2
2−アミノエタノール(沸点:170℃、SP値:14.54)、
3−アミノ−1−プロパノール(沸点:187℃、SP値:13.45)、
5−アミノ−1−ペンタノール(沸点:222℃、SP値:12.33)、
DL−1−アミノ−2−プロパノール(沸点:160℃、SP値:12.74)、
および、
N−メチルジエタノールアミン(沸点:247℃、SP値:13.26)等が挙げられる。
これらは1種または2種以上用いることができる。
アミノアルコールの含有量が銀イオンに対して1.5倍モル以上であると、カルボン酸銀の溶解性が良好となり、反応時間を短縮することができる。
アミノアルコールの含有量が銀イオンに対して4.0倍モル以下であると、生成される被覆銀粒子に対する不要なアミノアルコールの付着を抑制することができる。
媒体は、1種または2種以上用いることができる。
媒体としては、一般的に化学反応に用いられる有機媒体から1種または2種以上を選択することができる。
ΔSP値が4.2以上であると、生成される被覆銀粒子の粒度分布の幅が狭くなり、粒子径の揃った被覆銀粒子が得られる傾向がある。
ΔSP値は、好ましくは11.0以下、より好ましくは10.0以下である。
媒体のSP値は、アミノアルコールよりも小さいことが好ましい。
例えば、媒体1と媒体2の2種の媒体を用いる場合、平均SP値は、下式により算出される。
δ3=(V1×δ1+V2×δ2)/(V1+V2)
(上記式中、各記号は以下の意味を示す。
δ3:混合媒体の平均SP値、
δ1:媒体1のSP値、
V1:媒体1のモル容積、
δ2:媒体2のSP値、
V2:媒体2のモル容積。)
媒体としては、アミノアルコールと相溶しない媒体(主媒体)と、アミノアルコールと相溶する媒体(以下、「補助媒体」と呼ぶ)を併用することが好ましい。
主媒体の沸点は、反応液の加熱温度よりも高いことが好ましい。具体的には、主媒体の沸点は、好ましくは120℃以上、より好ましくは130℃以上である。
主媒体の沸点は、好ましくは400℃以下、より好ましくは300℃以下である。
主媒体は、1種または2種以上用いることができる。
補助媒体の好ましい沸点は、主媒体と同様である。
補助媒体のSP値は主媒体をよりも大きいことが好ましく、アミノアルコールと相溶する程度に大きいことがより好ましい。
EO系グリコールエーテルとしては、メチルジグリコール、イソプロピルグリコール、およびブチルグリコール等が挙げられる。
PO系グリコールエーテルとしては、メチルプロピレンジグリコール、メチルプロピレントリグリコール、プロピルプロピレングリコール、およびブチルプロピレングリコール等が挙げられる。
ジアルキルグリコールエーテルとしては、ジメチルジグリコール等が挙げられる。
なお、これらの補助媒体は、いずれも日本乳化剤(株)等より入手可能である。
補助媒体は、1種または2種以上用いることができる。
反応液中の銀イオン濃度が1.0mol/L以上であると、生産性が向上する。
反応液中の銀イオン濃度が2.5mol/L以下であると、反応液の粘度の上昇が抑制され、良好な撹拌性が得られる。
反応液は、必要に応じて、上記以外の任意成分を1種または2種以上含むことができる。
カルボン酸銀、脂肪族カルボン酸(好ましくは長鎖カルボン酸)、および媒体を含む反応液中には、カルボン酸銀に由来する1種または2種以上の錯化合物(脂肪族カルボン酸銀錯体)が生成される。
錯化合物の構造は特に限定されず、反応液中の錯化合物は反応の進行に伴って構造が変化してもよい。
錯化剤としてアミノアルコールを用いる場合、錯化合物は、銀イオン、脂肪族カルボン酸またはそのイオン、および、配位子としてのアミノアルコールを含むことができる。
錯化合物が配位子としてアミノアルコールを含むことで、錯化合物の熱分解温度が低下する傾向がある。
錯化合物において、銀イオンには、カルボン酸銀由来のカルボン酸イオンがイオン結合していると考えられる。
なお、錯化合物における配位子の種類およびその個数等は種々の態様が考えられる。
一般的に、カルボン酸銀は、アミノアルコールとともに錯化合物を形成することで、熱分解温度が低下する傾向がある。
例えば、シュウ酸銀の熱分解温度は210〜250℃程度とされている。しかしながら、シュウ酸銀がアミノアルコールとともに錯化合物を形成することで、シュウ酸銀の熱分解温度は70〜120℃程度に低下することができる。
したがって、錯化剤としてアミノアルコールを用いた反応液の加熱温度(熱分解処理温度)は、好ましくは60〜130℃、より好ましくは80〜130℃である。
熱分解処理の雰囲気は特に制限されず、空気雰囲気でも窒素雰囲気等の不活性雰囲気でもよい。
被覆銀粒子の大きさは、金属核発生数を支配する昇温速度、すなわち反応系への投入熱量とミクロ反応場の大きさと関係する攪拌速度を適切に保つことで揃えることができる。
遊離したアミノアルコールは、カルボン酸銀および錯化合物との親和性が高く、カルボン酸銀の新たなる錯化剤または媒体として振る舞うことができる。これにより、遊離したアミノアルコールは極性の高い内核(液滴)を形成し、その外側を極性の低い媒体が取り囲むことで、Water in oil Emulsion類似の2相構造が形成される。これがマイクロ反応場として機能すると推定される。
これら後工程には、公知方法を適用できる。
洗浄工程は例えば、有機媒体を用いて実施することができる。洗浄工程に用いる有機媒体としては特に制限されず、メタノール等のアルコール媒体、アセトン等のケトン媒体等が挙げられる。これらは1種または2種以上用いることができる。
本発明の導電体は、上記の本発明の導電性組成物の熱処理物である。
導電体としては特に制限されず、配線および導電体層等が挙げられる。
導電体層としては、電極層および接合層等が挙げられる。
接合層としては、基材とIC(Integrated Circuit)チップ等の半導体素子とを接合する接合層等が挙げられる。
本発明の導電体の厚みは特に制限されず、例えば1〜100μm程度が好ましい。
基材本体は例えば、
ポリイミド等の樹脂;
ガラス;
シリカおよびアルミナ等のセラミックス;
ステンレス、銅、およびチタン等の金属;
シリコン等の半導体等を含む。
基材本体は、複合材料からなるものでもよい。
半導体部品および電子機器等の用途では、基材本体としては、リードフレームおよび基板等が好ましく用いられる。基板の厚みは例えば0.01〜5mm程度が好ましい。
本発明の導電性組成物は、上記印刷法によってパターン印刷することができる。
焼結時間は焼結温度に応じて選択され、例えば1〜120分間、好ましくは1〜60分間である。
加圧力は特に制限されず、好ましくは0.1〜100MPa、より好ましくは0.1〜50MPaである。
攪拌機、温度計、および還流冷却管を備えた1000mLガラス製三ツ口フラスコをオイルバス内に設置した。このフラスコ内に、シュウ酸(関東化学社製)73gとイオン交換水200gとを入れ、攪拌混合した。この混合溶液に対して、フラスコ内容物を均一に攪拌しながら、硝酸銀(関東化学社製)200gをイオン交換水200gに溶かした硝酸銀水溶液を少しずつ滴下した。反応液を攪拌混合しながらオイルバスを用いて反応液を40℃に加熱し、この反応温度での加熱攪拌を継続した。反応開始直後から白色の結晶が徐々に析出した。滴下終了時から3時間後に反応を終了し、反応液を室温まで自然冷却した。得られた析出物をろ過し、イオン交換水1000mLで洗浄した。得られたろ過物は白色固体であった。最後に、ろ過物を温度40℃以下/圧力3kPa以下の条件で減圧乾燥(真空乾燥)して、白色のシュウ酸銀167gを得た。
得られたシュウ酸銀について、PXRD分析による結晶構造の同定を実施して、原料の消失と目的物の生成を確認した。
攪拌機、温度計、および還流冷却管を備えた300mLガラス製三ツ口フラスコをオイルバス内に設置した。
上記フラスコ内に、
製造例1で得られたシュウ酸銀30gと、
ラウリン酸(東京化成社製)4gと、
媒体(補助媒体)としてのトリプロピレングリコールモノメチルエーテル(東京化成社製、沸点:242℃、SP値:9.20)10gと、
媒体(主媒体)としての石油系炭化水素(C9アルキルシクロヘキサン混合物)(ゴードー社製「スワクリーン150」、沸点:149℃、SP値:7.99)54gとを入れ、
攪拌混合した。
上記沈殿物に対して、メタノール(関東化学社製)100mLとアセトン(関東化学社製)100mLとを添加し、混合した。この混合溶液を30分間以上静置した後、上澄み液をデカンテーションして、沈殿物を得た。これらの操作(メタノールおよびアセトンの添加とデカンテーション)をさらにもう一回繰り返した。
上記沈殿物に対して、メタノール(関東化学社製)200mLを添加し、混合した。この混合溶液を30分間以上静置した後、上澄み液をデカンテーションして、沈殿物を得た。
以上のようにして、18gの紫色の被覆銀粒子(AgP1)を得た。
反応温度(3−アミノ−1−プロパノールを添加した後の加熱温度)を100℃とした以外は実施例1−1と同様にして、18gの紫色の被覆銀粒子(AgP2)を得た。
実施例1−1、1−2で得られた被覆銀粒子(AgP1)、(AgP2)について、以下の評価を実施した。
PXRD分析による結晶構造の同定を実施して、原料の消失と銀由来のピークを確認した。
GC−MS分析により有機被覆物を同定したところ、ラウリン酸であることが確認された。
TG−DTA分析を実施して、有機被覆量を測定した。180℃程度から350℃程度の範囲(ラウリン酸の沸点付近)の重量減少率が、被覆層蒸発分(有機被覆量)に相当する。有機被覆量は、1.0〜1.3質量%の範囲内であった。
実施例1−1の被覆銀粒子(AgP1)の有機被覆量は、1.2質量%であった。
実施例1−2の被覆銀粒子(AgP2)の有機被覆量は、1.3質量%であった。
実施例1−1、1−2において、TG−DTA測定結果から、ラウリン酸が物理吸着していることが示唆された。
代表として、実施例1−1の被覆銀粒子(AgP1)のTG曲線を図4に示しておく。
[課題を解決するための手段]の項に記載の方法にて、銀核粒子の表面を被覆している脂肪族カルボン酸(本実施例ではラウリン酸)の被覆密度を求めたところ、2.5〜5.2分子/nm2の範囲内であった。
実施例1−1の被覆銀粒子(AgP1)の被覆密度は、5.1分子/nm2であった。
実施例1−2の被覆銀粒子(AgP2)の被覆密度は、4.1分子/nm2であった。
『化学と教育 40巻2号(1992年)ステアリン酸分子の断面積を求める−実験値と計算値−』では、ステアリン酸分子のVan der waals半径から最小面積が算出されており、その計算値から換算される飽和被覆面積理論値は約5.00分子/nm2である。この理論値から、被覆銀粒子(AgP1)、(AgP2)は比較的高密度にラウリン酸が銀核粒子の表面に吸着していることが推測された。
SEM観察を実施して、粒子形状、平均一次粒子径DSEM、および粒子径変動率を評価した。
被覆銀粒子(AgP1)、(AgP2)のSEM写真を図5A、図5Bに示す。
粒子形状は球状であり、平均一次粒子径DSEMは0.02〜5.0μmの範囲であった。
実施例1−1の被覆銀粒子(AgP1)の平均一次粒子径は、81.5nmであった。
実施例1−2の被覆銀粒子(AgP2)の平均一次粒子径は、58.1nmであった。
粒子径変動率は0.01〜0.5の範囲内であり、実施例1−1、1−2では粒子径の揃った被覆銀粒子が得られた。
実施例1−1で得られた被覆銀粒子(AgP1)を用いて、導電性組成物(導電性ペースト組成物)を製造した。
平均粒子径の比較的小さい第2の金属粉として、平均粒子径が1.3μmの銀粉(三井金属社製「SPN05S」)を用意した。
分散剤として、ポリアクリル酸系分散剤(日油社製「マリアリム」)を用意した。
増粘剤として、ポリメタクリル酸系増粘剤(日油社製「KC1100」)を用意した。
媒体として、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート(NHネオケム社製「キョーワノールM」)を用意した。
<配合組成>
被覆銀粒子(AgP1):40質量部、
第1の金属粉:40質量部、
第2の金属粉:10質量部、
分散剤:0.4質量部、
増粘剤:0.1質量部、
媒体:5質量部。
基材として、表面に銀メッキが施された銅製のリードフレーム(銀メッキリードフレーム)を用意した。
マスクを用いたスクリーン印刷法により、上記リードフレームのチップ搭載部(平面視9mm角の正方形状)上に、実施例2で得られた導電性組成物を9mm角の正方形状パターンで50μm厚塗工した。
別途、シリコンウエハを基板とし、表面にバリア層として銀メッキが施されたIC(Integrated Circuit)チップを用意した。
加圧焼結の条件は、以下の通りとした。
焼結温度:300℃、
加圧力:30MPa、
加熱および加圧の時間:10分間。
以上のようにして、ICチップ/バリア層(銀メッキ層)/銀接合層/銀メッキ層/リードフレームからなる積層体を得た。
これらの図中の各符号は、以下の構成要素を示す。
100:チップボンディング装置、
101:ホットステージ、
102:ボンディングヘッド、
201:リードフレーム、
202:銀メッキ層、
203X:塗工膜、
203:銀接合層、
204:バリア層(銀メッキ層)、
205:ICチップ、
200:積層体。
裏側に12μmの銅箔をラミネートした40μm厚のポリイミドフィルム上に実施例2で得られた導電性組成物を9mm角の正方形状パターンで10μm厚塗工した。
次いで、上記塗工膜を350℃で1時間加熱して、導電体層を得た。
得られた導電体層の体積固有抵抗値を測定したところ、5μΩ・cmであり、Agバルク体と同レベルの高導電性を有していた。
10:金属粉
11:第1の金属粉
12:第2の金属粉
20:被覆銀粒子
21:銀核粒子
22:脂肪族カルボン酸分子
100:チップボンディング装置
101:ホットステージ
102:ボンディングヘッド
201:リードフレーム
202:銀メッキ層
203X:塗工膜
203:銀接合層(導電体層)
204:バリア層(銀メッキ層)
205:ICチップ
200:積層体
Claims (13)
- 平均一次粒子径が0.02μm〜0.5μmである銀核粒子と、
当該銀核粒子の表面に1nm2当り2.5〜5.2分子の密度で配置された複数の脂肪族カルボン酸分子とを含み、
前記銀核粒子の表面に対して前記複数の脂肪族カルボン酸分子が物理吸着またはイオン吸着している、
被覆銀粒子。 - 前記脂肪族カルボン酸分子の脂肪族基の炭素数が5〜26である、請求項1に記載の被覆銀粒子。
- 任意の20個の粒子の走査型電子顕微鏡観察により求められる一次粒子径の算術平均値をDSEMとし、一次粒子径の標準偏差をSDとしたとき、
DSEMが0.02〜5.0μmであり、一般式SD/DSEMで定義される粒子径変動率が0.01〜0.5である、
請求項1または2に記載の被覆銀粒子。 - 前記脂肪族カルボン酸分子が、飽和脂肪族カルボン酸である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の被覆銀粒子。
- 請求項1乃至4のいずれか一項に記載の被覆銀粒子の製造方法であって、
銀カルボン酸塩と脂肪族カルボン酸と媒体とを含む反応液を用意する工程と、
前記反応液中に生成する錯化合物を熱分解処理して金属銀を生成することにより銀核粒子を生成する工程と、
銀核粒子の表面に脂肪族カルボン酸が吸着する工程と、を含む、被覆銀粒子の製造方法。 - 前記反応液はさらに錯化剤を含む、請求項5に記載の被覆銀粒子の製造方法。
- 前記錯化剤と、前記媒体とのとのSP値の差であるΔSP値が4.2以上である、請求項6に記載の被覆銀粒子の製造方法。
- 前記錯化剤がアミノアルコールである、請求項6または7に記載の被覆銀粒子の製造方法。
- 前記アミノアルコールのSP値が11.0以上である、請求項8に記載の被覆銀粒子の製造方法。
- 前記銀カルボン酸塩の熱分解温度が100℃以上である、請求項5乃至9のいずれか一項に記載の被覆銀粒子の製造方法。
- 請求項1乃至4のいずれか一項に記載の被覆銀粒子と媒体とを含む、導電性組成物。
- 更に、前記被覆銀粒子よりも粒子径の大きい金属粉を含む、請求項11に記載の導電性組成物。
- 請求項11または12に記載の導電性組成物の熱処理物である、導電体。
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