本発明の実施形態において、前記車両の制御装置は、前記第2係合装置に対する油圧制御の状態と前記第2係合装置における差回転速度の状態とに基づいて、完全解放、完全係合、解放過渡、及び係合過渡の4つの状態で表される前記第2係合装置の作動状態の遷移条件が成立したか否かを判定し、前記遷移条件が成立したか否かの判定結果に基づいて前記第2係合装置の作動状態を判定する作動状態判定部を更に含む。
また、入力側のプーリである前記プライマリプーリと出力側のプーリである前記セカンダリプーリとは、各々、例えば固定シーブと可動シーブとそれらの固定シーブ及び可動シーブの間の溝幅を変更する為の推力を付与する前記油圧アクチュエータとを有する。前記油圧制御回路は、前記油圧アクチュエータに供給される作動油圧としてのプーリ油圧をそれぞれ独立に制御する。この油圧制御回路は、例えば前記油圧アクチュエータへの作動油の流量を制御することにより結果的にプーリ油圧を生じるように構成されても良い。このような油圧制御回路により、前記プライマリプーリ及び前記セカンダリプーリにおける各推力(=プーリ油圧×受圧面積)が各々制御されることで、前記伝達要素の滑りを防止しつつ目標の変速が実現されるように変速制御が実行される。前記プライマリプーリと前記セカンダリプーリとの間に巻き掛けられた前記伝達要素は、無端環状のフープと、そのフープに沿って厚さ方向に多数連ねられた厚肉板片状のブロックであるエレメントとを有する無端環状の圧縮式の伝動ベルト、又は、交互に重ねられたリンクプレートの端部が連結ピンによって相互に連結された無端環状のリンクチェーンを構成する引張式の伝動ベルトなどである。前記無段変速機構は、公知のベルト式の無段変速機である。広義には、このベルト式の無段変速機の概念にチェーン式の無段変速機を含む。
また、変速比は、「入力側の回転部材の回転速度/出力側の回転部材の回転速度」である。例えば、前記無段変速機構の変速比は、「プライマリプーリの回転速度/セカンダリプーリの回転速度」である。又、前記車両用動力伝達装置の変速比は、「入力回転部材の回転速度/出力回転部材の回転速度」である。変速比におけるハイ側は、変速比が小さくなる側である高車速側である。変速比におけるロー側は、変速比が大きくなる側である低車速側である。例えば、最ロー側変速比は、最も低車速側となる最低車速側の変速比であり、変速比が最も大きな値となる最大変速比である。
また、前記動力源は、例えば燃料の燃焼によって動力を発生するガソリンエンジンやディーゼルエンジン等のエンジンである。又、前記車両は、前記動力源として、このエンジンに加えて、又は、このエンジンに替えて、電動機等を備えていても良い。
図1は、本発明が適用される車両10の概略構成を説明する図であると共に、車両10における各種制御の為の制御機能及び制御系統の要部を説明する図である。図1において、車両10は、動力源として機能するエンジン12と、駆動輪14と、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路に設けられた車両用動力伝達装置16とを備えている。以下、車両用動力伝達装置16を動力伝達装置16という。
動力伝達装置16は、非回転部材としてのケース18内において、エンジン12に連結された流体式伝動装置としての公知のトルクコンバータ20、トルクコンバータ20に連結された入力軸22、入力軸22に連結された無段変速機構24、同じく入力軸22に連結された前後進切替装置26、前後進切替装置26を介して入力軸22に連結されて無段変速機構24と並列に設けられたギヤ機構28、無段変速機構24及びギヤ機構28の共通の出力回転部材である出力軸30、カウンタ軸32、出力軸30及びカウンタ軸32に各々相対回転不能に設けられて噛み合う一対のギヤから成る減速歯車装置34、カウンタ軸32に相対回転不能に設けられたギヤ36、ギヤ36に連結されたデフギヤ38等を備えている。又、動力伝達装置16は、デフギヤ38に連結された左右の車軸40を備えている。入力軸22は、エンジン12の動力が伝達される入力回転部材である。出力軸30は、駆動輪14へエンジン12の動力を出力する出力回転部材である。前記動力は、特に区別しない場合にはトルクや力も同意である。
このように構成された動力伝達装置16において、エンジン12から出力される動力は、トルクコンバータ20、前後進切替装置26、ギヤ機構28、減速歯車装置34、デフギヤ38、車軸40等を順次介して、左右の駆動輪14へ伝達される。又は、動力伝達装置16において、エンジン12から出力される動力は、トルクコンバータ20、無段変速機構24、減速歯車装置34、デフギヤ38、車軸40等を順次介して、左右の駆動輪14へ伝達される。
上述したように、動力伝達装置16は、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路PTに並列に設けられた、ギヤ機構28及び無段変速機構24を備えている。具体的には、動力伝達装置16は、入力軸22と出力軸30との間の動力伝達経路PTに並列に設けられた、ギヤ機構28及び無段変速機構24を備えている。つまり、動力伝達装置16は、入力軸22と出力軸30との間に並列に設けられた、エンジン12の動力を入力軸22から出力軸30へ各々伝達することが可能な複数の動力伝達経路を備えている。複数の動力伝達経路は、ギヤ機構28を介した第1動力伝達経路PT1、及び無段変速機構24を介した第2動力伝達経路PT2である。すなわち、動力伝達装置16は、第1動力伝達経路PT1と第2動力伝達経路PT2との複数の動力伝達経路を、入力軸22と出力軸30との間に並列に備えている。第1動力伝達経路PT1は、エンジン12の動力を入力軸22からギヤ機構28を介して駆動輪14へ伝達する動力伝達経路である。第2動力伝達経路PT2は、エンジン12の動力を入力軸22から無段変速機構24を介して駆動輪14へ伝達する動力伝達経路である。
動力伝達装置16では、エンジン12の動力を駆動輪14へ伝達する動力伝達経路が、車両10の走行状態に応じて第1動力伝達経路PT1と第2動力伝達経路PT2とで切り替えられる。その為、動力伝達装置16は、第1動力伝達経路PT1と第2動力伝達経路PT2とを選択的に形成する複数の係合装置を備えている。複数の係合装置は、第1クラッチC1、第1ブレーキB1、及び第2クラッチC2を含んでいる。第1クラッチC1は、第1動力伝達経路PT1に設けられており、第1動力伝達経路PT1を選択的に接続したり、切断したりする係合装置であって、前進時に、係合されることで第1動力伝達経路PT1を形成する第1係合装置である。第1ブレーキB1は、第1動力伝達経路PT1に設けられており、第1動力伝達経路PT1を選択的に接続したり、切断したりする係合装置であって、後進時に、係合されることで第1動力伝達経路PT1を形成する第1係合装置である。第1動力伝達経路PT1は、第1クラッチC1又は第1ブレーキB1の係合によって形成される。第2クラッチC2は、第2動力伝達経路PT2に設けられており、第2動力伝達経路PT2を選択的に接続したり、切断したりする係合装置であって、係合されることで第2動力伝達経路PT2を形成する第2係合装置である。第2動力伝達経路PT2は、第2クラッチC2の係合によって形成される。第1クラッチC1、第1ブレーキB1、及び第2クラッチC2は、何れも油圧アクチュエータによって摩擦係合させられる公知の油圧式の湿式の摩擦係合装置である。第1クラッチC1及び第1ブレーキB1は、各々、後述するように、前後進切替装置26を構成する要素の1つである。
エンジン12は、電子スロットル装置や燃料噴射装置や点火装置などのエンジン12の出力制御に必要な種々の機器を有するエンジン制御装置42を備えている。エンジン12は、後述する電子制御装置100によって、運転者による車両10に対する駆動要求量に対応するアクセルペダルの操作量であるアクセル操作量θaccに応じてエンジン制御装置42が制御されることで、エンジン12の出力トルクであるエンジントルクTeが制御される。
トルクコンバータ20は、エンジン12に連結されたポンプ翼車20p、及び入力軸22に連結されたタービン翼車20tを備えている。動力伝達装置16は、ポンプ翼車20pに連結された機械式のオイルポンプ44を備えている。オイルポンプ44は、エンジン12により回転駆動されることにより、無段変速機構24を変速制御したり、無段変速機構24におけるベルト挟圧力を発生させたり、前記複数の係合装置の各々の係合や解放などの作動状態を切り替えたりする為の作動油圧の元圧を、車両10に備えられた油圧制御回路46へ供給する。
前後進切替装置26は、ダブルピニオン型の遊星歯車装置26p、第1クラッチC1、及び第1ブレーキB1を備えている。遊星歯車装置26pは、入力要素としてのキャリア26cと、出力要素としてのサンギヤ26sと、反力要素としてのリングギヤ26rとの3つの回転要素を有する差動機構である。キャリア26cは、入力軸22に連結されている。リングギヤ26rは、第1ブレーキB1を介してケース18に選択的に連結される。サンギヤ26sは、入力軸22回りにその入力軸22に対して同軸心に相対回転可能に設けられた小径ギヤ48に連結されている。キャリア26cとサンギヤ26sとは、第1クラッチC1を介して選択的に連結される。
ギヤ機構28は、小径ギヤ48と、ギヤ機構カウンタ軸50と、ギヤ機構カウンタ軸50回りにそのギヤ機構カウンタ軸50に対して同軸心に相対回転不能に設けられて小径ギヤ48と噛み合う大径ギヤ52とを備えている。大径ギヤ52は、小径ギヤ48よりも大径である。又、ギヤ機構28は、ギヤ機構カウンタ軸50回りにそのギヤ機構カウンタ軸50に対して同軸心に相対回転可能に設けられたアイドラギヤ54と、出力軸30回りにその出力軸30に対して同軸心に相対回転不能に設けられてアイドラギヤ54と噛み合う出力ギヤ56とを備えている。出力ギヤ56は、アイドラギヤ54よりも大径である。従って、ギヤ機構28は、入力軸22と出力軸30との間の動力伝達経路PTにおいて、1つのギヤ段が形成される。ギヤ機構28は、ギヤ段を有するギヤ機構である。ギヤ機構28は、更に、ギヤ機構カウンタ軸50回りに、大径ギヤ52とアイドラギヤ54との間に設けられて、これらの間の動力伝達経路を選択的に接続したり、切断したりする噛合式クラッチD1を備えている。噛合式クラッチD1は、第1動力伝達経路PT1を選択的に接続したり、切断したりする係合装置であって、係合されることで第1動力伝達経路PT1を形成する係合装置である。噛合式クラッチD1は、第1クラッチC1又は第1ブレーキB1と共に係合されることで第1動力伝達経路PT1を形成する係合装置であり、前記複数の係合装置に含まれる。噛合式クラッチD1は、動力伝達装置16に備えられた不図示の油圧アクチュエータの作動によって作動状態が切り替えられる。
第1動力伝達経路PT1は、噛合式クラッチD1と、噛合式クラッチD1よりも入力軸22側に設けられた、第1クラッチC1又は第1ブレーキB1とが共に係合されることで形成される。第1クラッチC1の係合により前進用の動力伝達経路が形成される一方で、第1ブレーキB1の係合により後進用の動力伝達経路が形成される。動力伝達装置16では、第1動力伝達経路PT1が形成されると、エンジン12の動力を入力軸22からギヤ機構28を経由して出力軸30へ伝達することができる動力伝達可能状態とされる。一方で、第1動力伝達経路PT1は、第1クラッチC1及び第1ブレーキB1が共に解放されると、又は、噛合式クラッチD1が解放されると、動力伝達が不能なニュートラル状態とされる。
図2は、無段変速機構24の構成を説明する為の図である。図1、図2において、無段変速機構24は、入力軸22と同軸心に設けられて入力軸22と一体的に連結されたプライマリ軸58と、プライマリ軸58に連結された有効径が可変のプライマリプーリ60と、出力軸30と同軸心に設けられたセカンダリ軸62と、セカンダリ軸62に連結された有効径が可変のセカンダリプーリ64と、それら各プーリ60,64の間に巻き掛けられた伝達要素としての伝動ベルト66とを備えている。無段変速機構24は、各プーリ60,64と伝動ベルト66との間の摩擦力を介して動力伝達が行われる公知のベルト式の無段変速機であり、エンジン12の動力を駆動輪14側へ伝達する。前記摩擦力は、挟圧力も同意であり、ベルト挟圧力ともいう。このベルト挟圧力は、無段変速機構24における伝動ベルト66のトルク容量であるベルトトルク容量Tcvtである。
プライマリプーリ60は、プライマリ軸58に連結された固定シーブ60aと、固定シーブ60aに対してプライマリ軸58の軸心回りの相対回転不能且つ軸心方向の移動可能に設けられた可動シーブ60bと、可動シーブ60bに対してプライマリ推力Winを付与する油圧アクチュエータ60cとを備えている。プライマリ推力Winは、固定シーブ60aと可動シーブ60bとの間のV溝幅を変更する為のプライマリプーリ60の推力(=プライマリ圧Pin×受圧面積)である。つまり、プライマリ推力Winは、油圧アクチュエータ60cによって付与される伝動ベルト66を挟圧するプライマリプーリ60の推力である。プライマリ圧Pinは、油圧制御回路46によって油圧アクチュエータ60cへ供給される油圧であり、プライマリ推力Winを生じさせるプーリ油圧である。又、セカンダリプーリ64は、セカンダリ軸62に連結された固定シーブ64aと、固定シーブ64aに対してセカンダリ軸62の軸心回りの相対回転不能且つ軸心方向の移動可能に設けられた可動シーブ64bと、可動シーブ64bに対してセカンダリ推力Woutを付与する油圧アクチュエータ64cとを備えている。セカンダリ推力Woutは、固定シーブ64aと可動シーブ64bとの間のV溝幅を変更する為のセカンダリプーリ64の推力(=セカンダリ圧Pout×受圧面積)である。つまり、セカンダリ推力Woutは、油圧アクチュエータ64cによって付与される伝動ベルト66を挟圧するセカンダリプーリ64の推力である。セカンダリ圧Poutは、油圧制御回路46によって油圧アクチュエータ64cへ供給される油圧であり、セカンダリ推力Woutを生じさせるプーリ油圧である。
無段変速機構24では、後述する電子制御装置100により駆動される油圧制御回路46によってプライマリ圧Pin及びセカンダリ圧Poutが各々調圧制御されることにより、プライマリ推力Win及びセカンダリ推力Woutが各々制御される。これにより、無段変速機構24では、各プーリ60,64のV溝幅が変化して伝動ベルト66の掛かり径(=有効径)が変更され、変速比γcvt(=プライマリ回転速度Npri/セカンダリ回転速度Nsec)が変化させられると共に、伝動ベルト66が滑りを生じないようにベルト挟圧力が制御される。つまり、プライマリ推力Win及びセカンダリ推力Woutが各々制御されることで、伝動ベルト66の滑りであるベルト滑りが防止されつつ無段変速機構24の変速比γcvtが目標変速比γcvttgtとされる。尚、プライマリ回転速度Npriはプライマリ軸58の回転速度であり、セカンダリ回転速度Nsecはセカンダリ軸62の回転速度である。
無段変速機構24では、プライマリ圧Pinが高められると、プライマリプーリ60のV溝幅が狭くされて変速比γcvtが小さくされる。変速比γcvtが小さくされることは、無段変速機構24がアップシフトされることである。無段変速機構24では、プライマリプーリ60のV溝幅が最小とされるところで、最ハイ側変速比γminが形成される。この最ハイ側変速比γminは、無段変速機構24により形成できる変速比γcvtの範囲のうちの最も高車速側となる最高車速側の変速比γcvtであり、変速比γcvtが最も小さな値となる最小変速比である。一方で、無段変速機構24では、プライマリ圧Pinが低められると、プライマリプーリ60のV溝幅が広くされて変速比γcvtが大きくされる。変速比γcvtが大きくされることは、無段変速機構24がダウンシフトされることである。無段変速機構24では、プライマリプーリ60のV溝幅が最大とされるところで、最ロー側変速比γmaxが形成される。この最ロー側変速比γmaxは、無段変速機構24により形成できる変速比γcvtの範囲のうちの最も低車速側となる最低車速側の変速比γcvtであり、変速比γcvtが最も大きな値となる最大変速比である。尚、無段変速機構24では、プライマリ推力Winとセカンダリ推力Woutとによりベルト滑りが防止されつつ、プライマリ推力Winとセカンダリ推力Woutとの相互関係にて目標変速比γcvttgtが実現されるものであり、一方の推力のみで目標の変速が実現されるものではない。後述するように、プライマリ圧Pinとセカンダリ圧Poutとの相互関係で、プライマリ推力Winとセカンダリ推力Woutとの比の値である推力比τ(=Wout/Win)が変更されることにより無段変速機構24の変速比γcvtが変更される。推力比τは、セカンダリ推力Woutのプライマリ推力Winに対する比の値である。例えば、推力比τが大きくされる程、変速比γcvtが大きくされる、すなわち無段変速機構24はダウンシフトされる。
出力軸30は、セカンダリ軸62に対して同軸心に相対回転可能に配置されている。第2クラッチC2は、セカンダリプーリ64と出力軸30との間の動力伝達経路に設けられている。第2動力伝達経路PT2は、第2クラッチC2が係合されることで形成される。動力伝達装置16では、第2動力伝達経路PT2が形成されると、エンジン12の動力を入力軸22から無段変速機構24を経由して出力軸30へ伝達することができる動力伝達可能状態とされる。一方で、第2動力伝達経路PT2は、第2クラッチC2が解放されると、ニュートラル状態とされる。無段変速機構24の変速比γcvtは、第2動力伝達経路PT2における変速比に相当する。
動力伝達装置16では、第1動力伝達経路PT1における変速比γgear(=入力軸回転速度Nin/出力軸回転速度Nout)であるギヤ機構28の変速比ELは、第2動力伝達経路PT2における最大変速比である無段変速機構24の最ロー側変速比γmaxよりも大きな値に設定されている。すなわち、変速比ELは、最ロー側変速比γmaxよりもロー側の変速比に設定されている。ギヤ機構28の変速比ELは、動力伝達装置16における第1速変速比γ1に相当し、無段変速機構24の最ロー側変速比γmaxは、動力伝達装置16における第2速変速比γ2に相当する。このように、第2動力伝達経路PT2は、第1動力伝達経路PT1よりもハイ側の変速比が形成される。尚、入力軸回転速度Ninは入力軸22の回転速度であり、出力軸回転速度Noutは出力軸30の回転速度である。
車両10では、第1走行モードとしてのギヤ走行モードでの走行と第2走行モードとしてのベルト走行モードでの走行とを選択的に行うことが可能である。ギヤ走行モードは、第1動力伝達経路PT1を用いて走行することが可能な走行モードであって、動力伝達装置16において第1動力伝達経路PT1が形成された状態とする走行モードである。ベルト走行モードは、第2動力伝達経路PT2を用いて走行することが可能な走行モードであって、動力伝達装置16において第2動力伝達経路PT2が形成された状態とする走行モードである。ギヤ走行モードでは、前進走行を可能とする場合、第1クラッチC1及び噛合式クラッチD1が係合され且つ第2クラッチC2及び第1ブレーキB1が解放される。ギヤ走行モードでは、後進走行を可能とする場合、第1ブレーキB1及び噛合式クラッチD1が係合され且つ第2クラッチC2及び第1クラッチC1が解放される。ベルト走行モードでは、第2クラッチC2が係合され且つ第1クラッチC1及び第1ブレーキB1が解放される。このベルト走行モードでは前進走行が可能となる。
ギヤ走行モードは、車両停止中を含む比較的低車速領域において選択される。ベルト走行モードは、中車速領域を含む比較的高車速領域において選択される。ベルト走行モードのうちの中車速領域でのベルト走行モードでは噛合式クラッチD1が係合される一方で、ベルト走行モードのうちの高車速領域でのベルト走行モードでは噛合式クラッチD1が解放される。高車速領域でのベルト走行モードにて噛合式クラッチD1が解放されるのは、例えばベルト走行モードでの走行中のギヤ機構28等の引き摺りをなくすと共に、高車速においてギヤ機構28や遊星歯車装置26pの構成部材である例えばピニオン等が高回転化するのを防止する為である。
車両10は、車両10の制御装置を含むコントローラとしての電子制御装置100を備えている。電子制御装置100は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。電子制御装置100は、エンジン12の出力制御、無段変速機構24の変速制御やベルト挟圧力制御、前記複数の係合装置(C1,B1,C2,D1)の各々の作動状態を切り替える油圧制御等を実行する。電子制御装置100は、必要に応じてエンジン制御用、油圧制御用等に分けて構成される。
電子制御装置100には、車両10に備えられた各種センサ等(例えば各種回転速度センサ70、72,74,76、アクセル操作量センサ78、スロットル開度センサ80、シフトポジションセンサ82など)による各種検出信号等(例えばエンジン回転速度Ne、入力軸回転速度Ninと同値となるプライマリ回転速度Npri、セカンダリ回転速度Nsec、車速Vに対応する出力軸回転速度Nout、運転者の加速操作の大きさを表すアクセル操作量θacc、スロットル開度tap、車両10に備えられたシフトレバー84の操作ポジションPOSshなど)が、それぞれ供給される。又、電子制御装置100からは、車両10に備えられた各装置(例えばエンジン制御装置42、油圧制御回路46など)に各種指令信号(例えばエンジン12を制御する為のエンジン制御指令信号Se、無段変速機構24の変速やベルト挟圧力等を制御する為の油圧制御指令信号Scvt、前記複数の係合装置の各々の作動状態を制御する為の油圧制御指令信号Scbdなど)が、それぞれ出力される。尚、入力軸回転速度Nin(=プライマリ回転速度Npri)はタービン回転速度でもあり、又、プライマリ回転速度Npriはプライマリプーリ60の回転速度でもあり、又、セカンダリ回転速度Nsecはセカンダリプーリ64の回転速度でもある。又、電子制御装置100は、プライマリ回転速度Npriとセカンダリ回転速度Nsecとに基づいて無段変速機構24の実際の変速比γcvtである実変速比γcvt(=Npri/Nsec)を算出する。
シフトレバー84の操作ポジションPOSshは、例えばP,R,N,D操作ポジションである。P操作ポジションは、動力伝達装置16がニュートラル状態とされ且つ出力軸30が回転不能に機械的に固定された動力伝達装置16のPポジションを選択するパーキング操作ポジションである。動力伝達装置16のニュートラル状態は、例えば第1クラッチC1、第1ブレーキB1、及び第2クラッチC2が共に解放されることで実現される。つまり、動力伝達装置16のニュートラル状態は、第1動力伝達経路PT1及び第2動力伝達経路PT2が何れも形成されていない状態である。R操作ポジションは、ギヤ走行モードにて後進走行を可能とする動力伝達装置16のRポジションを選択する後進走行操作ポジションである。N操作ポジションは、動力伝達装置16がニュートラル状態とされた動力伝達装置16のNポジションを選択するニュートラル操作ポジションである。D操作ポジションは、ギヤ走行モードにて前進走行を可能とするか、又は、ベルト走行モードにて無段変速機構24の自動変速制御を実行して前進走行を可能とする動力伝達装置16のDポジションを選択する前進走行操作ポジションである。
油圧制御回路46は、図2に示すように、プライマリ用ソレノイドバルブSLP、セカンダリ用ソレノイドバルブSLS、C1用ソレノイドバルブSL1、C2用ソレノイドバルブSL2、D1用ソレノイドバルブSLG、マニュアルバルブ86、プライマリ圧コントロールバルブ88、セカンダリ圧コントロールバルブ90、シーケンスバルブ92、C1コントロールバルブ94、及びアキュムレータ96などを備えている。
マニュアルバルブ86は、シフトレバー84における切替操作に連動して機械的に油路が切り替えられる。マニュアルバルブ86は、シフトレバー84がD操作ポジションにあるときには、入力されたモジュレータ圧PMをドライブ圧PDとして出力し、シフトレバー84がR操作ポジションにあるときには、入力されたモジュレータ圧PMをリバース圧PRとして出力する。又、マニュアルバルブ86は、シフトレバー84がN操作ポジション或いはP操作ポジションにあるときには、油圧の出力を遮断し、ドライブ圧PD及びリバース圧PRを排出側へ導く。ドライブ圧PDは、Dレンジ圧又は前進油圧ともいう。リバース圧PRは、Rレンジ圧又は後進油圧ともいう。モジュレータ圧PMは、ライン圧PLを元圧として、不図示のモジュレータバルブにより一定値に調圧された油圧である。ライン圧PLは、オイルポンプ44が発生する油圧を元圧として、不図示のプライマリレギュレータバルブにより例えばスロットル開度tap等で表されるエンジン負荷に応じて調圧された油圧である。
各ソレノイドバルブSLP、SLS、SL1、SL2、SLGは、各々、電子制御装置100により電流制御が為されることで、調圧した油圧を出力する。プライマリ用ソレノイドバルブSLPは、ノーマリーオープン式の電磁弁であり、モジュレータ圧PMを元圧として、プライマリ圧Pinを制御する為のSLP圧Pslpを出力する。セカンダリ用ソレノイドバルブSLSは、ノーマリーオープン式の電磁弁であり、モジュレータ圧PMを元圧として、セカンダリ圧Poutを制御する為のSLS圧Pslsを出力する。C1用ソレノイドバルブSL1は、ノーマリークローズ式の電磁弁であり、ドライブ圧PDを元圧として、第1クラッチC1へ供給される油圧であるC1クラッチ圧Pc1となり得るSL1圧Psl1を出力する。C2用ソレノイドバルブSL2は、ノーマリークローズ式の電磁弁であり、ドライブ圧PDを元圧として、第2クラッチC2へ供給される油圧であるC2クラッチ圧Pc2となり得るSL2圧Psl2を出力する。D1用ソレノイドバルブSLGは、ノーマリークローズ式の電磁弁であり、モジュレータ圧PMを元圧として、噛合式クラッチD1の作動状態を切り替える為の不図示の油圧アクチュエータへ供給される油圧となり得るSLG圧Pslgを出力する。ノーマリーオープン式の電磁弁は、例えば電子制御装置100からの駆動電流が途絶える断線時には最大油圧を出力するオンフェール状態とされる一方で、ノーマリークローズ式の電磁弁は、断線時には油圧を出力しないオフフェール状態とされる。
プライマリ圧コントロールバルブ88は、ライン圧PLを元圧として、SLP圧Pslpに基づいて作動させられることでプライマリ圧Pinを調圧する。プライマリ圧コントロールバルブ88では、SLP圧Pslpが大きい程、プライマリ圧Pinが大きくされる。セカンダリ圧コントロールバルブ90は、ライン圧PLを元圧として、SLS圧Pslsに基づいて作動させられることでセカンダリ圧Poutを調圧する。
シーケンスバルブ92は、SLP圧Pslpに基づいて、SL2圧Psl2を第2クラッチC2へ供給する油路を形成する第1の状態としての正常位置と、ドライブ圧PDを第2クラッチC2へ供給する油路を形成する第2の状態としてのフェール位置とに、弁位置が択一的に切り替えられる。このように、シーケンスバルブ92は、調圧された油圧であるSL2圧Psl2を第2クラッチC2へ供給可能な第1の状態と、SL2圧Psl2の元圧であるドライブ圧PDを第2クラッチC2へ供給可能な第2の状態とに切替え可能なシーケンスバルブである。SL2圧Psl2やドライブ圧PDは、シーケンスバルブ92を介してC2クラッチ圧Pc2として第2クラッチC2へ供給される。
C1コントロールバルブ94は、SL1圧Psl1及びC2クラッチ圧Pc2に基づいて、SL1圧Psl1を第1クラッチC1へ供給する油路を形成する通常状態としての正常位置と、C1クラッチ圧Pc1を排出する油路を形成するタイアップ防止状態としてのフェール位置とに、弁位置が択一的に切り替えられる。C1コントロールバルブ94は、SL1圧Psl1及びC2クラッチ圧Pc2が共に付与されることでフェール位置に切り替えられる。SL1圧Psl1は、C1コントロールバルブ94を介してC1クラッチ圧Pc1として第1クラッチC1へ供給される。C1コントロールバルブ94は、C1クラッチ圧Pc1としてSL1圧Psl1を第1クラッチC1へ供給する油路を遮断することで第1クラッチC1と第2クラッチC2との同時係合によるタイアップを防止するフェールセーフバルブとして機能する。
アキュムレータ96は、ドライブ圧PDが流通するドライブ圧油路98に接続されている。アキュムレータ96は、スプリングや作動油の漏れを抑制するシール部材などを備え、油圧の蓄圧と蓄圧した油圧の供給とが可能な公知の蓄圧器である。アキュムレータ96内の油圧よりもドライブ圧油路98の油圧が高い場合には、ドライブ圧油路98からアキュムレータ96に油圧が供給され、アキュムレータ96内の油圧がドライブ圧油路98の油圧よりも高い場合には、アキュムレータ96からドライブ圧油路98に油圧が供給される。
第1クラッチC1は、C1クラッチ圧Pc1に応じてトルク容量が変化させられることで作動状態が切り替えられる。第2クラッチC2は、C2クラッチ圧Pc2に応じてトルク容量が変化させられることで作動状態が切り替えられる。第1クラッチC1のトルク容量は、C1クラッチトルクTcltc1である。第2クラッチC2のトルク容量は、C2クラッチトルクTcltc2である。このように、油圧制御回路46は、電子制御装置100が出力する油圧制御指令信号Scbdである油圧指示値に基づいて各クラッチ圧Pc1,Pc2を供給する。C1クラッチ圧Pc1に対応する油圧指示値はC1指示圧であり、C2クラッチ圧Pc2に対応する油圧指示値はC2指示圧である。
電子制御装置100は、車両10における各種制御を実現する為に、エンジン制御手段すなわちエンジン制御部102及び変速制御手段すなわち変速制御部104を備えている。
エンジン制御部102は、予め実験的に或いは設計的に求められて記憶された関係すなわち予め定められた関係である例えば駆動力マップにアクセル操作量θacc及び車速Vを適用することで目標駆動力Fwtgtを算出する。エンジン制御部102は、その目標駆動力Fwtgtが得られる目標エンジントルクTetgtを設定し、その目標エンジントルクTetgtが得られるようにエンジン12を制御するエンジン制御指令信号Seをエンジン制御装置42へ出力する。
変速制御部104は、車両停止中に、操作ポジションPOSshがP操作ポジション又はN操作ポジションである場合には、ギヤ走行モードへの移行に備えて、噛合式クラッチD1を係合する油圧制御指令信号Scbdを油圧制御回路46へ出力する。変速制御部104は、車両停止中に、操作ポジションPOSshがP操作ポジション又はN操作ポジションからD操作ポジションとされた場合、第1クラッチC1を係合する油圧制御指令信号Scbdを油圧制御回路46へ出力する。これにより、走行モードが前進走行を可能とするギヤ走行モードへ移行させられる。変速制御部104は、車両停止中に、操作ポジションPOSshがP操作ポジション又はN操作ポジションからR操作ポジションとされた場合、第1ブレーキB1を係合する油圧制御指令信号Scbdを油圧制御回路46へ出力する。これにより、走行モードが後進走行を可能とするギヤ走行モードへ移行させられる。
変速制御部104は、操作ポジションPOSshがD操作ポジションである場合、ギヤ走行モードとベルト走行モードとを切り替える切替制御を実行する。具体的には、変速制御部104は、ギヤ走行モードにおけるギヤ機構28の変速比ELに対応する第1速変速段と、ベルト走行モードにおける無段変速機構24の最ロー側変速比γmaxに対応する第2速変速段とを切り替える為の所定のヒステリシスを有した、予め定められた関係である有段変速マップとしてのアップシフト線及びダウンシフト線に、車速V及びアクセル操作量θaccを適用することで変速の要否を判断し、その判断結果に基づいて走行モードを切り替える。
変速制御部104は、ギヤ走行モードでの走行中にアップシフトを判断してベルト走行モードへ切り替える場合、第1クラッチC1を解放して第2クラッチC2を係合するようにクラッチを掴み替えるクラッチツゥクラッチ変速を行う油圧制御指令信号Scbdを油圧制御回路46へ出力する。これにより、動力伝達装置16における動力伝達経路PTは、第1動力伝達経路PT1から第2動力伝達経路PT2へ切り替えられる。このように、変速制御部104は、第1クラッチC1の解放と第2クラッチC2の係合とによる有段変速制御によって、第1動力伝達経路PT1が形成された状態であるギヤ走行モードから第2動力伝達経路PT2が形成された状態であるベルト走行モードへ切り替える動力伝達装置16のアップシフトを実行する。本実施例では、ギヤ走行モードからベルト走行モードへ切り替える動力伝達装置16のアップシフトを有段アップシフトと称する。
変速制御部104は、ベルト走行モードでの走行中にダウンシフトを判断してギヤ走行モードへ切り替える場合、第2クラッチC2を解放して第1クラッチC1を係合するようにクラッチを掴み替えるクラッチツゥクラッチ変速を行う油圧制御指令信号Scbdを油圧制御回路46へ出力する。これにより、動力伝達装置16における動力伝達経路PTは、第2動力伝達経路PT2から第1動力伝達経路PT1へ切り替えられる。このように、変速制御部104は、第2クラッチC2の解放と第1クラッチC1の係合とによる有段変速制御によって、第2動力伝達経路PT2が形成された状態であるベルト走行モードから第1動力伝達経路PT1が形成された状態であるギヤ走行モードへ切り替える動力伝達装置16のダウンシフトを実行する。本実施例では、ベルト走行モードからギヤ走行モードへ切り替える動力伝達装置16のダウンシフトを有段ダウンシフトと称する。
ギヤ走行モードとベルト走行モードとを切り替える切替制御では、噛合式クラッチD1が係合された中車速領域でのベルト走行モードの状態を経由することで、上記クラッチツゥクラッチ変速によるトルクの受け渡しを行うだけで第1動力伝達経路PT1と第2動力伝達経路PT2とが切り替えられるので、切替えショックが抑制される。
変速制御部104は、ベルト走行モードにおいては、無段変速機構24のベルト滑りが発生しないようにしつつ無段変速機構24の目標変速比γcvttgtを達成するように、プライマリ圧Pinとセカンダリ圧Poutとを制御する油圧制御指令信号Scvtを油圧制御回路46へ出力して、無段変速機構24の変速を実行する。この油圧制御指令信号Scvtは、プライマリ圧Pinを目標プライマリ圧Pintgtとする為のプライマリ指示圧Spin、及びセカンダリ圧Poutを目標セカンダリ圧Pouttgtとする為のセカンダリ指示圧Spoutである。
目標プライマリ圧Pintgtは、プライマリプーリ60の目標推力すなわちプライマリ推力Winの目標値であるプライマリ目標推力Wintgtを生じさせるプライマリ圧Pinの目標値である。目標セカンダリ圧Pouttgtは、セカンダリプーリ64の目標推力すなわちセカンダリ推力Woutの目標値であるセカンダリ目標推力Wouttgtを生じさせるセカンダリ圧Poutの目標値である。プライマリ目標推力Wintgt及びセカンダリ目標推力Wouttgtの算出では、必要最小限の推力で無段変速機構24のベルト滑りを防止する為に必要となる推力である必要推力が考慮される。この必要推力は、無段変速機構24のベルト滑りが発生する直前の推力であるベルト滑り限界推力Wlmtである。本実施例では、ベルト滑り限界推力Wlmtを滑り限界推力Wlmtと称する。
具体的には、変速制御部104は、プライマリ目標推力Wintgt及びセカンダリ目標推力Wouttgtを各々算出する。変速制御部104は、セカンダリ目標推力Wouttgtとして、プライマリプーリ60における滑り限界推力Wlmtであるプライマリ側滑り限界推力Winlmtに基づいて算出したセカンダリ推力Woutと、セカンダリプーリ64における滑り限界推力Wlmtであるセカンダリ側滑り限界推力Woutlmtとのうちの大きい方の推力を選択する。プライマリ側滑り限界推力Winlmtに基づいて算出したセカンダリ推力Woutは、後述するように、セカンダリプーリ64側にて変速制御の為に必要な推力であるセカンダリ側変速制御推力Woutshである。
変速制御部104は、プライマリ目標推力Wintgtとして、セカンダリ目標推力Wouttgtに基づいて算出したプライマリ推力Winを設定する。セカンダリ目標推力Wouttgtに基づいて算出したプライマリ推力Winは、後述するように、プライマリプーリ60側にて変速制御の為に必要な推力であるプライマリ側変速制御推力Winshである。又、変速制御部104は、後述するように、目標変速比γcvttgtと実変速比γcvtとの変速比偏差Δγcvt(=γcvttgt−γcvt)に基づいたプライマリ推力Winのフィードバック制御により、プライマリ側変速制御推力Winshを補正する、すなわちプライマリ目標推力Wintgtを補正する。
前述したプライマリ側変速制御推力Winshの補正では、変速比偏差Δγcvtに替えて、変速比γcvtと1対1に対応するパラメータにおける目標値と実際値との偏差が用いられても良い。例えば、プライマリ側変速制御推力Winshの補正では、プライマリプーリ60における目標プーリ位置Xintgtと実プーリ位置Xin(図2参照)との偏差ΔXin(=Xintgt−Xin)、セカンダリプーリ64における目標プーリ位置Xouttgtと実プーリ位置Xout(図2参照)との偏差ΔXout(=Xouttgt−Xout)、プライマリプーリ60における目標ベルト掛かり径Rintgtと実ベルト掛かり径Rin(図2参照)との偏差ΔRin(=Rintgt−Rin)、セカンダリプーリ64における目標ベルト掛かり径Routtgtと実ベルト掛かり径Rout(図2参照)との偏差ΔRout(=Routtgt−Rout)、目標プライマリ回転速度Npritgtと実プライマリ回転速度Npriとの偏差ΔNpri(=Npritgt−Npri)などを用いることができる。
前述した変速制御の為に必要な推力は、目標の変速を実現する為に必要な推力であって、目標変速比γcvttgt及び目標変速速度dγtgtを実現する為に必要な推力である。変速速度dγは、例えば単位時間当たりの変速比γcvtの変化量(=dγcvt/dt)である。本実施例では、変速速度dγを、伝動ベルト66のエレメント1個当たりのプーリ位置移動量(=dX/dNelm)として定義する。「dX」は、単位時間当たりのプーリの軸方向変位量[mm/ms]であり、「dNelm」は、単位時間当たりにプーリに噛み込むエレメント数[個/ms]である。変速速度dγとしては、プライマリ変速速度dγin(=dXin/dNelmin)と、セカンダリ変速速度dγout(=dXout/dNelmout)とで表される。
具体的には、変速比γcvtが一定の状態となる定常状態での各プーリ60,64の推力をバランス推力Wblと称する。バランス推力Wblは定常推力でもある。プライマリプーリ60のバランス推力Wblはプライマリバランス推力Winblであり、セカンダリプーリ64のバランス推力Wblはセカンダリバランス推力Woutblであり、これらの比が推力比τ(=Woutbl/Winbl)である。一方で、定常状態にあるときに、各プーリ60,64の何れかの推力に、ある推力を加算又は減算すると、定常状態が崩れて変速比γcvtが変化し、加算又は減算した推力の大きさに応じた変速速度dγが生じる。この加算又は減算した推力のことを変速差推力ΔWと称する。以下、変速差推力ΔWを差推力ΔWという。差推力ΔWは過渡推力でもある。プライマリプーリ60側にて目標の変速を実現する場合の差推力ΔWは、プライマリプーリ60側換算の差推力ΔWとしてのプライマリ差推力ΔWinである。セカンダリプーリ64側にて目標の変速を実現する場合の差推力ΔWは、セカンダリプーリ64側換算の差推力ΔWとしてのセカンダリ差推力ΔWoutである。
前述した変速制御の為に必要な推力は、一方の推力が設定された場合、目標変速比γcvttgtを維持する為の推力比τに基づいて一方の推力に対応する目標変速比γcvttgtを実現する為の他方のバランス推力Wblと、目標変速比γcvttgtが変化させられるときの目標変速速度dγtgtを実現する為の差推力ΔWとの和となる。目標変速速度dγtgtとしては、プライマリ目標変速速度dγintgtと、セカンダリ目標変速速度dγouttgtとで表される。プライマリ差推力ΔWinは、アップシフト状態であればゼロを超える正値すなわち「ΔWin>0」となり、ダウンシフト状態であればゼロ未満の負値すなわち「ΔWin<0」となり、変速比一定の定常状態であればゼロすなわち「ΔWin=0」となる。又、セカンダリ差推力ΔWoutは、アップシフト状態であればゼロ未満の負値すなわち「ΔWout<0」となり、ダウンシフト状態であればゼロを超える正値すなわち「ΔWout>0」となり、変速比一定の定常状態であればゼロすなわち「ΔWout=0」となる。
図3は、前述した変速制御の為に必要な推力を説明する為の図である。図4は、図3のt2時点における各推力の関係の一例を示す図である。図3、図4は、例えばセカンダリプーリ64側にてベルト滑り防止を実現するようにセカンダリ推力Woutを設定した場合に、プライマリプーリ60側にて目標のアップシフトを実現するときに設定されるプライマリ推力Winの一例を示している。図3において、t1時点以前或いはt3時点以降では、目標変速比γcvttgtが一定の定常状態にありΔWin=0とされるので、プライマリ推力Winはプライマリバランス推力Winbl(=Wout/τ)のみとなる。t1時点−t3時点では、目標変速比γcvttgtが小さくされるアップシフト状態にあるので、図4に示されるように、プライマリ推力Winはプライマリバランス推力Winblとプライマリ差推力ΔWinとの和となる。図4に示した各推力の斜線部分は、図3のt2時点の目標変速比γcvttgtを維持する為の各々のバランス推力Wblに相当する。
図5は、必要最小限の推力で目標の変速とベルト滑り防止とを両立する為の制御構造を示すブロック図であって、無段変速機構24における油圧制御すなわちCVT油圧制御を説明する図である。
図5において、変速制御部104は、目標変速比γcvttgtを算出する。具体的には、変速制御部104は、予め定められた関係である例えばCVT変速マップにアクセル操作量θacc及び車速Vを適用することで目標プライマリ回転速度Npritgtを算出する。変速制御部104は、目標プライマリ回転速度Npritgtに基づいて、無段変速機構24の変速後に達成すべき変速比γcvtである変速後目標変速比γcvttgtl(=Npritgt/Nsec)を算出する。変速制御部104は、例えば迅速且つ滑らかな変速が実現されるように予め定められた関係に、変速開始前の変速比γcvtと変速後目標変速比γcvttgtlとそれらの差とに基づいて、変速中の過渡的な変速比γcvtの目標値として目標変速比γcvttgtを決定する。例えば、変速制御部104は、変速中に変化させる目標変速比γcvttgtを、変速開始時から変速後目標変速比γcvttgtlに向かって変化する滑らかな曲線に沿って変化する経過時間の関数として決定する。この滑らかな曲線は、例えば1次遅れ曲線や2次遅れ曲線である。変速制御部104は、目標変速比γcvttgtを決定する際、その目標変速比γcvttgtに基づいて、変速中における目標変速速度dγtgtを算出する。変速が完了して目標変速比γcvttgtが一定の定常状態となれば、目標変速速度dγtgtはゼロとされる。
変速制御部104は、プライマリ目標推力Wintgt及びセカンダリ目標推力Wouttgtの算出に用いる無段変速機構24への入力トルクを算出する。この無段変速機構24への入力トルクは、無段変速機構24の目標変速比γcvttgtを実現する推力比τの算出に用いる第1入力トルクとしての推力比算出用のベルト入力トルクTb1、及び、プライマリ側滑り限界推力Winlmtとセカンダリ側滑り限界推力Woutlmtとの各々の算出に用いる第2入力トルクとしてのベルト滑り防止用のベルト入力トルクTb2である。本実施例では、推力比算出用のベルト入力トルクTb1を推力比算出用入力トルクTb1と称し、ベルト滑り防止用のベルト入力トルクTb2をベルト滑り防止用入力トルクTb2と称する。
具体的には、変速制御部104は、予め定められた関係である例えばエンジントルクマップにスロットル開度tap及びエンジン回転速度Neを適用することでエンジントルクTeの推定値を算出する。変速制御部104は、エンジントルクTeの推定値と予め定められた関係である例えばトルクコンバータ20の特性とに基づいてタービントルクTtを算出する。このタービントルクTtは、無段変速機構24への入力トルクの推定値である。変速制御部104は、このタービントルクTtを推力比算出用入力トルクTb1とする。
ベルト滑り防止用入力トルクTb2は、基本的には推力比算出用入力トルクTb1が用いられれば良い。しかしながら、推力比算出用入力トルクTb1がゼロのときに滑り限界推力Wlmtがゼロとされることは、ばらつき等を考慮すると好ましくない。そこで、ベルト滑り防止用入力トルクTb2は、推力比算出用入力トルクTb1の絶対値に対して下限ガード処理が施されたトルクが用いられる。変速制御部104は、ベルト滑り防止用入力トルクTb2として、推力比算出用入力トルクTb1の絶対値及び最低保証トルクTblimのうちの大きい方のトルクを選択する。この最低保証トルクTblimは、例えばベルト滑りを防止する為にばらつきを考慮してベルト滑り防止用入力トルクTb2を安全側に高くする為の予め定められた下限トルクであって正値のトルクである。尚、推力比算出用入力トルクTb1が負値となる場合には、トルク精度が低いことを考慮すると、ベルト滑り防止用入力トルクTb2として、推力比算出用入力トルクTb1に応じた所定トルクが用いられても良い。この所定トルクは、例えば推力比算出用入力トルクTb1の絶対値よりも大きな値として予め定められた正値のトルクである。このようにベルト滑り防止用入力トルクTb2は、推力比算出用入力トルクTb1を元にしたトルクである。
図5のブロックB1及びブロックB2において、変速制御部104は、実変速比γcvtとベルト滑り防止用入力トルクTb2とに基づいて滑り限界推力Wlmtを算出する。具体的には、変速制御部104は、次式(1)を用いてセカンダリ側滑り限界推力Woutlmtを算出する。変速制御部104は、次式(2)を用いてプライマリ側滑り限界推力Winlmtを算出する。次式(1)及び次式(2)において、「Tb2」はベルト滑り防止用入力トルクTb2、「Tout」はベルト滑り防止用入力トルクTb2をセカンダリプーリ64側へ換算したトルク(=γcvt×Tb2=(Rout/Rin)×Tb2)、「α」は各プーリ60,64のシーブ角、「μin」はプライマリプーリ60における所定のエレメント・プーリ間摩擦係数、「μout」はセカンダリプーリ64における所定のエレメント・プーリ間摩擦係数、「Rin」は実変速比γcvtから一意的に算出されるプライマリプーリ60におけるベルト掛かり径、「Rout」は実変速比γcvtから一意的に算出されるセカンダリプーリ64におけるベルト掛かり径である(図2参照)。
Woutlmt=(Tout×cosα)/(2×μout×Rout)
=(Tb2 ×cosα)/(2×μout×Rin ) …(1)
Winlmt =(Tb2 ×cosα)/(2×μin ×Rin ) …(2)
滑り限界推力Wlmtは、例えば上記算出された滑り限界推力Wlmtに対して下限ガード処理が施された値が用いられても良い。変速制御部104は、例えば図5のブロックB3で用いるプライマリ側滑り限界推力Winlmtとして、前記式(2)を用いて算出したプライマリ側滑り限界推力Winlmtと、プライマリ側最低推力Winminとのうちの大きい方の推力を選択する。プライマリ側最低推力Winminは、プライマリ圧Pinの制御上のばらつきにて生じる推力や油圧アクチュエータ60cにおける遠心油圧にて生じる推力を含む、プライマリプーリ60のハード限界最低推力である。プライマリ圧Pinの制御上のばらつきは、例えばプライマリ圧Pinをゼロとするプライマリ指示圧Spinが出力されたとしても油圧制御回路46から油圧アクチュエータ60cに供給される可能性がある、予め定められたプライマリ圧Pinの最大値である。セカンダリ側滑り限界推力Woutlmtについても同様である。
図5のブロックB3及びブロックB6において、変速制御部104は、バランス推力Wblを算出する。つまり、変速制御部104は、プライマリ側滑り限界推力Winlmtに対するセカンダリバランス推力Woutbl、及びセカンダリ目標推力Wouttgtに対するプライマリバランス推力Winblをそれぞれ算出する。
具体的には、変速制御部104は、例えば図6に示すような推力比マップmap(τin)に、目標変速比γcvttgt及びプライマリ側安全率SFinの逆数SFin−1を適用することで目標変速比γcvttgtを実現する推力比τinを算出する。推力比マップmap(τin)は、目標変速比γcvttgtをパラメータとして予め定められたプライマリ側安全率の逆数SFin−1と推力比τinとの関係の一例を示す図である。推力比τinは、プライマリプーリ60側の推力に基づいてセカンダリプーリ64側の推力を算出するときに用いる推力比としてのセカンダリ推力算出用推力比である。変速制御部104は、次式(3)を用いて、プライマリ側滑り限界推力Winlmt及び推力比τinに基づいてセカンダリバランス推力Woutblを算出する。プライマリ側安全率SFinは、例えば「Win/Winlmt」、又は、「Tb2/Tb1」であり、プライマリ側安全率の逆数SFin−1は、例えば「Winlmt/Win」、又は、「Tb1/Tb2」である。又、変速制御部104は、例えば図7に示すような推力比マップmap(τout)に、目標変速比γcvttgt及びセカンダリ側安全率SFoutの逆数SFout−1を適用することで目標変速比γcvttgtを実現する推力比τoutを算出する。推力比マップmap(τout)は、目標変速比γcvttgtをパラメータとして予め定められたセカンダリ側安全率の逆数SFout−1と推力比τoutとの関係の一例を示す図である。推力比τoutは、セカンダリプーリ64側の推力に基づいてプライマリプーリ60側の推力を算出するときに用いる推力比としてのプライマリ推力算出用推力比である。変速制御部104は、次式(4)を用いて、セカンダリ目標推力Wouttgt及び推力比τoutに基づいてプライマリバランス推力Winblを算出する。セカンダリ側安全率SFoutは、例えば「Wout/Woutlmt」、又は、「Tb2/Tb1」であり、セカンダリ側安全率の逆数SFout−1は、例えば「Woutlmt/Wout」、又は、「Tb1/Tb2」である。尚、ベルト滑り防止用入力トルクTb2は常に正値であるので、推力比算出用入力トルクTb1が正値となるような車両10が駆動状態であるときには上記各安全率の逆数SFin−1,SFout−1も正値となる為、推力比τは駆動領域の値が用いられる。一方で、推力比算出用入力トルクTb1が負値となるような車両10が被駆動状態であるときには上記各安全率の逆数SFin−1,SFout−1も負値となる為、推力比τは被駆動領域の値が用いられる。又、逆数SFin−1,SFout−1は、バランス推力Wblの算出の度に算出されても良いが、安全率SFin、SFoutに所定の値(例えば1−1.5程度)を各々設定するならばその逆数を設定しても良い。
Woutbl=Winlmt×τin …(3)
Winbl=Wouttgt/τout …(4)
前述したように、滑り限界推力Winlmt,Woutlmtは、推力比算出用入力トルクTb1を元にしたベルト滑り防止用入力トルクTb2に基づいて算出される。推力比τin,τoutを算出する基になる上記各安全率の逆数SFin−1,SFout−1は、推力比算出用入力トルクTb1に基づく値である。従って、変速制御部104は、無段変速機構24の目標変速比γcvttgtを実現する推力比τを、推力比算出用入力トルクTb1に基づいて算出する。
図5のブロックB4及びブロックB7において、変速制御部104は、差推力ΔWを算出する。つまり、変速制御部104は、セカンダリ差推力ΔWout及びプライマリ差推力ΔWinを算出する。
具体的には、変速制御部104は、例えば図8に示すような差推力マップmap(ΔWout)に、セカンダリ目標変速速度dγouttgtを適用することでセカンダリ差推力ΔWoutを算出する。差推力マップmap(ΔWout)は、予め定められたセカンダリ変速速度dγoutとセカンダリ差推力ΔWoutとの関係の一例を示す図である。変速制御部104は、プライマリプーリ60側のベルト滑りを防止する為に必要なセカンダリ推力として、セカンダリバランス推力Woutblにセカンダリ差推力ΔWoutを加算したセカンダリ側変速制御推力Woutsh(=Woutbl+ΔWout)を算出する。又、変速制御部104は、例えば図9に示すような差推力マップmap(ΔWin)に、プライマリ目標変速速度dγintgtを適用することでプライマリ差推力ΔWinを算出する。差推力マップmap(ΔWin)は、予め定められたプライマリ変速速度dγinとプライマリ差推力ΔWinとの関係の一例を示す図である。変速制御部104は、プライマリバランス推力Winblにプライマリ差推力ΔWinを加算してプライマリ側変速制御推力Winsh(=Winbl+ΔWin)を算出する。
上記ブロックB3,B4における演算では、図6に示すような推力比マップmap(τin)や図8に示すような差推力マップmap(ΔWout)等の予め定められた物理特性図が用いられる。その為、油圧制御回路46等の個体差によりセカンダリバランス推力Woutblやセカンダリ差推力ΔWoutの算出結果には物理特性に対するばらつきが存在する。そこで、このような物理特性に対するばらつきを考慮する場合には、変速制御部104は、制御マージンWmgnをプライマリ側滑り限界推力Winlmtに加算しても良い。制御マージンWmgnは、セカンダリバランス推力Woutblやセカンダリ差推力ΔWoutの算出に関わる物理特性に対するばらつき分に対応する予め定められた所定推力である。上述したような物理特性に対するばらつきを考慮する場合には、変速制御部104は、前記式(3)に替えて、図5中に示す式「Woutbl=(Winlmt+Wmgn)×τin」を用いて、セカンダリバランス推力Woutblを算出する。尚、上記物理特性に対するばらつき分は、油圧制御指令信号Scvtに対する実際のプーリ油圧のばらつき分とは異なるものである。このプーリ油圧のばらつき分は、油圧制御回路46等のハードユニットによっては比較的大きな値となるが、上記物理特性に対するばらつき分は、上記プーリ油圧のばらつき分と比べて極めて小さな値である。
図5のブロックB5において、変速制御部104は、セカンダリ側滑り限界推力Woutlmtとセカンダリ側変速制御推力Woutshとのうちの大きい方の推力を、セカンダリ目標推力Wouttgtとして選択する。
図5のブロックB8において、変速制御部104は、フィードバック制御量Winfbを算出する。具体的には、変速制御部104は、例えば次式(5)に示すような予め定められたフィードバック制御式を用いて、実変速比γcvtを目標変速比γcvttgtと一致させる為のフィードバック制御量(=FB制御量)Winfbを算出する。次式(5)において、「Δγcvt」は変速比偏差Δγcvt、「Kp」は所定の比例定数、「Ki」は所定の積分定数、「Kd」は所定の微分定数である。変速制御部104は、プライマリ側変速制御推力Winshにフィードバック制御量Winfbを加算することで、フィードバック制御によりプライマリ側変速制御推力Winshを補正した後の値(=Winsh+Winfb)をプライマリ目標推力Wintgtとして算出する。
Winfb=Kp×Δγcvt+Ki×(∫Δγcvtdt)+Kd×(dΔγcvt/dt) …(5)
図5のブロックB9及びブロックB10において、変速制御部104は、目標推力を目標プーリ圧に変換する。具体的には、変速制御部104は、セカンダリ目標推力Wouttgt及びプライマリ目標推力Wintgtを、各々、各油圧アクチュエータ60c,64cの受圧面積に基づいて、目標セカンダリ圧Pouttgt(=Wouttgt/受圧面積)及び目標プライマリ圧Pintgt(=Wintgt/受圧面積)に各々変換する。変速制御部104は、目標セカンダリ圧Pouttgt及び目標プライマリ圧Pintgtを、各々、セカンダリ指示圧Spout及びプライマリ指示圧Spinとして設定する。
変速制御部104は、目標プライマリ圧Pintgt及び目標セカンダリ圧Pouttgtが得られるように、油圧制御指令信号Scvtとしてプライマリ指示圧Spin及びセカンダリ指示圧Spoutを油圧制御回路46へ出力する。油圧制御回路46は、その油圧制御指令信号Scvtに従ってプライマリ圧Pin及びセカンダリ圧Poutを各々調圧する。
ここで、動力伝達装置16では、完全解放、完全係合、解放過渡、及び係合過渡の4つの状態で表される第2クラッチC2の作動状態が走行モード等に応じて異なる。ベルト走行モードでは第2クラッチC2は完全係合の状態とされる一方で、ギヤ走行モードでは第2クラッチC2は完全解放の状態とされる。又、ギヤ走行モードとベルト走行モードとを切り替える切替制御では、第2クラッチC2は一時的に解放過渡の状態又は係合過渡の状態とされる。又、シフトレバー84がN操作ポジションとD操作ポジションとの間で操作されるガレージ操作が行われると、第2クラッチC2は一時的に解放過渡の状態又は係合過渡の状態とされる。第2クラッチC2の作動状態が異なれば、無段変速機構24への入力トルクは異なる。つまり、無段変速機構24への入力トルクは、第2クラッチC2の作動状態に応じたトルクとなる。
ベルト走行モード以外においても、ベルト走行モードと同様に、無段変速機構24のベルト滑りを防止しつつ、無段変速機構24の目標変速比γcvttgtを実現することが望ましい。その為、変速制御部104は、プライマリ目標推力Wintgt及びセカンダリ目標推力Wouttgtの算出に用いる無段変速機構24への入力トルクを、第2クラッチC2の作動状態に応じて算出する。つまり、変速制御部104は、第2クラッチC2の作動状態に応じて推力比算出用入力トルクTb1及びベルト滑り防止用入力トルクTb2を各々算出する。
変速制御部104は、第2クラッチC2が完全係合の状態であるときには、車両10がベルト走行モードであるときを例示して説明した、プライマリ目標推力Wintgt及びセカンダリ目標推力Wouttgtの算出方法のように、推力比算出用入力トルクTb1をタービントルクTtとし、ベルト滑り防止用入力トルクTb2を最低保証トルクTblimを考慮したタービントルクTtとする。
変速制御部104は、第2クラッチC2が完全解放の状態であるときには、推力比算出用入力トルクTb1をゼロとし、ベルト滑り防止用入力トルクTb2を、第2クラッチC2の引き摺りトルクをプライマリ軸58上に換算したトルク値、すなわち入力軸22上に換算した第2クラッチC2の引き摺りトルクとする。この第2クラッチC2の引き摺りトルクは、例えば第2クラッチC2が完全解放の状態であるときの予め定められたトルクである。
変速制御部104は、第2クラッチC2が係合過渡の状態であるときには、推力比算出用入力トルクTb1を、C2クラッチトルクTcltc2をプライマリ軸58上に換算したトルク値、すなわち入力軸22上に換算したC2クラッチトルクTcltc2とする。変速制御部104は、第2クラッチC2が係合過渡の状態であるときには、ベルト滑り防止用入力トルクTb2として、推力比算出用入力トルクTb1及び最低保証トルクTblimのうちの大きい方のトルクを選択する、すなわちベルト滑り防止用入力トルクTb2を最低保証トルクTblimを考慮した、入力軸22上に換算したC2クラッチトルクTcltc2とする。変速制御部104は、例えば予め定められたC2クラッチトルクマップに、C2指示圧を適用することでC2クラッチトルクTcltc2を算出する。尚、ここでの最低保証トルクTblimは、第2クラッチC2が完全係合の状態であるときと同じ値が用いられても良いし、異なる値が用いられても良い。
変速制御部104は、第2クラッチC2が解放過渡の状態であるときには、推力比算出用入力トルクTb1として、タービントルクTt及び入力軸22上に換算したC2クラッチトルクTcltc2のうちの小さい方のトルクを選択する。変速制御部104は、第2クラッチC2が解放過渡の状態であるときには、ベルト滑り防止用入力トルクTb2として、推力比算出用入力トルクTb1、タービントルクTt、及び入力軸22上に換算した第2クラッチC2の引き摺りトルクのうちの大きい方のトルクを選択する。
上述したように、第2クラッチC2の作動状態に応じて推力比算出用入力トルクTb1及びベルト滑り防止用入力トルクTb2が各々算出されるので、ベルト滑り防止と目標変速比γcvttgtへの追従性確保とを両立させる為に第2クラッチC2の作動状態を精度良く判定する必要がある。
電子制御装置100は、上述した第2クラッチC2の作動状態を精度良く判定するという制御機能を実現する為に、更に、作動状態判定手段すなわち作動状態判定部106を備えている。
作動状態判定部106は、第2クラッチC2に対する油圧制御の状態と第2クラッチC2における差回転速度ΔNc2の状態とに基づいて、完全解放、完全係合、解放過渡、及び係合過渡の4つの状態で表される第2クラッチC2の作動状態の遷移条件が成立したか否かを判定する。作動状態判定部106は、その遷移条件が成立したか否かの判定結果に基づいて第2クラッチC2の作動状態を判定する。作動状態判定部106は、第2クラッチC2に対する油圧制御の状態を油圧制御指令信号Scbdに基づいて取得する。又、作動状態判定部106は、セカンダリ回転速度Nsecと出力軸回転速度Noutとに基づいて第2クラッチC2における差回転速度ΔNc2(=Nsec−Nout)を算出する。本実施例では、第2クラッチC2における差回転速度ΔNc2をC2差回転速度ΔNc2と称する。
第2クラッチC2に対する油圧制御の状態は、第2クラッチC2のクラッチ圧が上げられているのか下げられているのかの傾向、及び/又は、第2クラッチC2に対する油圧制御におけるC2指示圧の状態である。C2差回転速度ΔNc2の状態は、第2クラッチC2が実際にどのよう作動しているのかの実状態である。
上述した第2クラッチC2に対する油圧制御は、第2クラッチC2を係合する油圧制御、又は、第2クラッチC2を解放する油圧制御である。本実施例では、第2クラッチC2を係合する油圧制御をC2係合油圧制御と称し、第2クラッチC2を解放する油圧制御をC2解放油圧制御と称する。又、本実施例では、油圧制御回路46から第2クラッチC2に供給される実際のC2クラッチ圧Pc2をC2実圧と称する。尚、前述したように、第2クラッチC2に対する油圧制御における油圧制御指令信号Scbdは、C2指示圧である。
C2係合油圧制御は、第1動力伝達経路PT1が形成された状態から第2動力伝達経路PT2が形成された状態へ切り替える制御におけるC2係合油圧制御が想定される。第1動力伝達経路PT1が形成された状態から第2動力伝達経路PT2が形成された状態へ切り替える制御は、第1クラッチC1を解放して第2クラッチC2を係合するクラッチツゥクラッチ変速にて実行される、走行モードをギヤ走行モードからベルト走行モードへ切り替える切替制御である。又は、C2係合油圧制御は、動力伝達装置16のニュートラル状態から第2動力伝達経路PT2が形成された状態へ切り替える制御におけるC2係合油圧制御が想定される。動力伝達装置16のニュートラル状態から第2動力伝達経路PT2が形成された状態へ切り替える制御は、ベルト走行モードにおいてシフトレバー84がN操作ポジションからD操作ポジションへ操作されるガレージ操作に伴って第2クラッチC2を係合するガレージ係合制御である。
C2解放油圧制御は、第2動力伝達経路PT2が形成された状態から第1動力伝達経路PT1が形成された状態へ切り替える制御におけるC2解放油圧制御が想定される。第2動力伝達経路PT2が形成された状態から第1動力伝達経路PT1が形成された状態へ切り替える制御は、第2クラッチC2を解放して第1クラッチC1を係合するクラッチツゥクラッチ変速にて実行される、走行モードをベルト走行モードからギヤ走行モードへ切り替える切替制御である。又は、C2解放油圧制御は、第2動力伝達経路PT2が形成された状態から動力伝達装置16のニュートラル状態へ切り替える制御におけるC2解放油圧制御が想定される。第2動力伝達経路PT2が形成された状態から動力伝達装置16のニュートラル状態へ切り替える制御は、ベルト走行モードにおいてシフトレバー84がD操作ポジションからN操作ポジションへ操作されるガレージ操作に伴って第2クラッチC2を解放するガレージ解放制御である。
図10は、完全解放、完全係合、解放過渡、及び係合過渡の4つの状態で表される第2クラッチC2の作動状態と、その作動状態の切替えを判定する遷移条件との関係を示す状態遷移図である。図10は、電子制御装置100の制御作動の要部すなわち第2クラッチC2の作動状態の判定精度を向上する為の制御作動を説明する図でもある。
図10において、第2クラッチC2が完全解放の状態又は解放過渡の状態であるときに、遷移条件としての[条件1]が成立させられると、第2クラッチC2が係合過渡の状態へ切り替えられたと判定される。C2係合油圧制御における第2クラッチC2の係合過程では、C2指示圧に対してC2実圧の出力に応答遅れが発生する。その為、「C2指示圧>C2実圧」の関係が保証可能である。一方で、第2クラッチC2が係合過渡の状態であるときは、C2指示圧に基づいて算出されるC2クラッチトルクTcltc2に応じたトルク値が推力比算出用入力トルクTb1とされる。このようなことから、C2係合油圧制御が作動させられていることのみで、第2クラッチC2が係合過渡の状態へ切り替えられたと判定されても、ベルトトルク容量Tcvtが確保可能とされる。
従って、前記[条件1]は、C2係合油圧制御が作動していること、すなわちC2係合油圧制御の為の油圧制御指令信号Scbdが出力されていることである。作動状態判定部106は、第2クラッチC2が完全解放の状態又は解放過渡の状態であるときに、C2係合油圧制御が作動しているという[条件1]が成立した場合には、第2クラッチC2が係合過渡の状態へ切り替えられたと判定する。
又、第2クラッチC2が完全係合の状態又は解放過渡の状態又は係合過渡の状態であるときに、遷移条件としての[条件2]が成立させられると、第2クラッチC2が完全解放の状態へ切り替えられたと判定される。C2解放油圧制御が作動させられていることに加え、C2解放油圧制御におけるC2指示圧が第2クラッチC2を完全解放させる値以下となり、且つ、C2差回転速度ΔNc2が大きくなっておれば、第2クラッチC2が完全解放の状態へ切り替えられたと判定されても問題が生じ難い。但し、この判定方法は、無段変速機構24の入力回転速度である入力軸回転速度Nin(=プライマリ回転速度Npri=タービン回転速度)が高い領域において有効である。入力軸回転速度Ninが低い領域では、C2差回転速度ΔNc2を検出し難くなるおそれがある。例えば、車両10の停止状態におけるベルト走行モードからギヤ走行モードへの切替制御では、第2クラッチC2の解放後に第1クラッチC1が係合されて入力軸回転速度Ninが上昇させられない為、C2差回転速度ΔNc2を検出することができない。入力軸回転速度Ninが低い領域では、C2解放油圧制御におけるC2指示圧が第2クラッチC2の完全解放を保証できる値まで低下したことによって、第2クラッチC2が完全解放の状態へ切り替えられたと判定される。又、上記判定方法に加え、動力伝達装置16のニュートラル状態が確定していることによって、第2クラッチC2が完全解放の状態へ切り替えられたと判定されても良い。例えば、シフトレバー84の操作に連動して作動させられる公知のマニュアルバルブが油圧制御回路46に設けられている場合、N操作ポジションへの操作に伴って、第2クラッチC2に供給されるクラッチ圧の元圧が供給されなくなり、第2クラッチC2のクラッチ圧が低下させられて第2クラッチC2が解放させられる。尚、シフトレバー84がN操作ポジションへ操作されたことでC2解放油圧制御が作動させられる場合には、例えば上述したC2解放油圧制御が作動させられているときの遷移条件が用いられる。
従って、前記[条件2]は、C2解放油圧制御が作動していること、すなわちC2解放油圧制御の為の油圧制御指令信号Scbdが出力されていることに加えて、入力軸回転速度Ninが所定回転速度Ninf以上、C2解放油圧制御におけるC2指示圧が第1所定指示圧以下、及びC2差回転速度ΔNc2が第1所定差回転速度ΔNc2f1よりも大きいという各条件の何れもが所定時間TM1以上成立したことである。或いは、前記[条件2]は、C2解放油圧制御が作動していることに加えて、入力軸回転速度Ninが所定回転速度Ninf未満、及びC2解放油圧制御におけるC2指示圧が第2所定指示圧以下という各条件の何れもが所定時間TM2以上成立したことである。或いは、前記[条件2]は、動力伝達装置16のニュートラル状態が確定していること、例えばシフトレバー84がN操作ポジションへ操作されてから所定時間TM3以上経過していることである。
前記所定回転速度Ninfは、例えば第2クラッチC2の完全解放の判定に用いる為のC2差回転速度ΔNc2を検出することができる、予め定められた入力軸回転速度Ninの領域の下限回転速度である。前述した、第1所定指示圧、第2所定指示圧、第1所定差回転速度ΔNc2f1、所定時間TM1、所定時間TM2、及び所定時間TM3は、各々、例えば第2クラッチC2が完全解放の状態であることを判定する為の予め定められた閾値である。特に、第2所定指示圧は、第1所定指示圧よりも低い値であって、例えば第2クラッチC2が完全解放の状態であることを保証できる、予め定められたC2指示圧領域の上限値である。
作動状態判定部106は、第2クラッチC2が完全係合の状態又は解放過渡の状態又は係合過渡の状態であるときに、入力軸回転速度Ninが所定回転速度Ninf以上とされた領域において、C2解放油圧制御が作動しており、且つ、C2指示圧が第1所定指示圧以下であり、且つ、C2差回転速度ΔNc2が第1所定差回転速度ΔNc2f1よりも大きいという[条件2]、入力軸回転速度Ninが所定回転速度Ninf未満とされた領域において、C2解放油圧制御が作動しており、且つ、C2指示圧が第2所定指示圧以下であるという[条件2]、及び動力伝達装置16のニュートラル状態が確定しているという[条件2]のうちの何れかの[条件2]が成立した場合には、第2クラッチC2が完全解放の状態へ切り替えられたと判定する。
又、第2クラッチC2が完全解放の状態又は解放過渡の状態又は係合過渡の状態であるときに、遷移条件としての[条件3]が成立させられると、第2クラッチC2が完全係合の状態へ切り替えられたと判定される。C2係合油圧制御が作動させられていることに加え、C2係合油圧制御におけるC2指示圧が第2クラッチC2の係合に必要な値以上となり、且つ、C2差回転速度ΔNc2が小さくなっておれば、第2クラッチC2が完全係合の状態へ切り替えられたと判定されても問題が生じ難い。つまり、第2クラッチC2に対する油圧制御におけるC2指示圧の変化方向が第2クラッチC2を係合する方向であり、且つ、第2クラッチC2の実状態として完全係合の状態とみなせる場合は、第2クラッチC2が完全係合の状態へ切り替えられたと判定される。又、上記判定方法に加え、第2クラッチC2に対する油圧制御が、C2係合油圧制御から第2クラッチC2を完全係合の状態に維持する油圧制御であるC2定常油圧制御へ移行させられた時点で、第2クラッチC2が完全係合の状態へ切り替えられたと判定されても良い。例えば、C2係合油圧制御からC2定常油圧制御への移行時にC2指示圧がステップ的に増大させられる場合、第2クラッチC2が係合過渡の状態であるとの判定のままであると、その増大させられたC2指示圧を基にしたC2クラッチトルクTcltc2に応じた推力比算出用入力トルクTb1などが算出される。このように算出された推力比算出用入力トルクTb1などは適切でないおそれがあるので、C2定常油圧制御への移行時点で第2クラッチC2が完全係合の状態へ切り替えられたと判定されても良い。
従って、前記[条件3]は、C2係合油圧制御が作動していることに加えて、C2係合油圧制御におけるC2指示圧が第3所定指示圧以上、及びC2差回転速度ΔNc2が第2所定差回転速度ΔNc2f2よりも小さいという各条件の何れもが所定時間TM4以上成立したことである。或いは、前記[条件3]は、第2クラッチC2に対する油圧制御がC2係合油圧制御からC2定常油圧制御へ移行させられたことである。第3所定指示圧、第2所定差回転速度ΔNc2f2、及び所定時間TM4は、各々、例えば第2クラッチC2が完全係合の状態であることを判定する為の予め定められた閾値である。
作動状態判定部106は、第2クラッチC2が完全解放の状態又は解放過渡の状態又は係合過渡の状態であるときに、C2係合油圧制御が作動しており、且つ、C2指示圧が第3所定指示圧以上であり、且つ、C2差回転速度ΔNc2が第2所定差回転速度ΔNc2f2よりも小さいという[条件3]、及び第2クラッチC2に対する油圧制御がC2係合油圧制御からC2定常油圧制御へ移行させられたという[条件3]のうちの何れかの[条件3]が成立した場合には、第2クラッチC2が完全係合の状態へ切り替えられたと判定する。
又、第2クラッチC2が完全係合の状態であるときに、遷移条件としての[条件4]が成立させられると、第2クラッチC2が解放過渡の状態へ切り替えられたと判定される。C2解放油圧制御が作動させられていることに加え、C2差回転速度ΔNc2が増加しておれば、第2クラッチC2が解放過渡の状態へ切り替えられたと判定されても問題が生じ難い。C2解放油圧制御が作動させられていたとしても、例えば第2クラッチC2に供給されるクラッチ圧を調圧する電磁弁等の故障時などで第2クラッチC2の実態が完全係合の状態であると、実際に無段変速機構24へ入力されるトルクよりも小さいベルト滑り防止用入力トルクTb2を算出してしまい、ベルト滑りが生じる懸念がある。このようなベルト滑りが生じることを回避する為に、C2解放油圧制御が作動させられていることのみでは第2クラッチC2が解放過渡の状態へ切り替えられたと判定せず、C2差回転速度ΔNc2が増加していることを遷移条件として考慮する。
従って、前記[条件4]は、C2解放油圧制御が作動していることに加えて、C2差回転速度ΔNc2が第3所定差回転速度ΔNc2f3以上という条件が所定時間TM5以上成立したことである。第3所定差回転速度ΔNc2f3及び所定時間TM5は、各々、例えば第2クラッチC2が解放過渡の状態であることを判定する為の予め定められた閾値である。
作動状態判定部106は、第2クラッチC2が完全係合の状態であるときに、C2解放油圧制御が作動しており、且つ、C2差回転速度ΔNc2が第3所定差回転速度ΔNc2f3以上であるという[条件4]が成立した場合には、第2クラッチC2が解放過渡の状態へ切り替えられたと判定する。
又、第2クラッチC2が係合過渡の状態であるときに、遷移条件としての[条件5]が成立させられると、第2クラッチC2が解放過渡の状態へ切り替えられたと判定される。C2係合油圧制御からC2解放油圧制御へ移行させられた場合に、第2クラッチC2が解放過渡の状態へ切り替えられたと判定されても問題が生じ難い。第2クラッチC2が係合過渡の状態であるときには、C2差回転速度ΔNc2がある程度生じていること、又、推力比算出用入力トルクTb1はC2指示圧に基づいて算出されるC2クラッチトルクTcltc2に応じたトルク値とされている。このようなことから、C2解放油圧制御が作動させられていることのみで、第2クラッチC2が解放過渡の状態へ切り替えられたと判定される。
従って、前記[条件5]は、C2解放油圧制御が作動していることである。作動状態判定部106は、第2クラッチC2が係合過渡の状態であるときに、C2解放油圧制御が作動しているという[条件5]が成立した場合には、第2クラッチC2が解放過渡の状態へ切り替えられたと判定する。
変速制御部104は、作動状態判定部106により判定された第2クラッチC2の作動状態に応じて無段変速機構24への入力トルクを算出する。変速制御部104は、無段変速機構24への入力トルクに基づいて、プライマリ目標推力Wintgt及びセカンダリ目標推力Wouttgtを算出する。
図11は、シーケンスバルブ92の構成を詳しく説明する為の図である。図11において、シーケンスバルブ92は、スプール弁子92sv、スプリング92sp、第1油室92c1、第2油室92c2、第3油室92c3、第1入力ポート92i1、第2入力ポート92i2、第3入力ポート92i3、第1出力ポート92o1、及び第2出力ポート92o2を有している。
スプール弁子92svは、バルブボデー内において、所定の移動ストロークで摺動可能に収容されている。スプリング92spは、第1油室92c1内に収容されており、スプール弁子92svを正常位置に保持する為の付勢力を発生する。第1油室92c1は、モジュレータ圧PMを受け入れる作動油室であり、モジュレータ圧PMによってスプール弁子92svを正常位置側に押圧する推力を発生させることができる。第2油室92c2は、SLP圧Pslpを受け入れる作動油室であり、SLP圧Pslpによってスプール弁子92svをフェール位置側に押圧する推力を発生させることができる。第3油室92c3は、SL2圧Psl2を受け入れる作動油室であり、SL2圧Psl2によってスプール弁子92svを正常位置側に押圧する推力を発生させることができる。第1入力ポート92i1には、SL2圧Psl2が入力される。第2入力ポート92i2には、ドライブ圧PDが入力される。第3入力ポート92i3には、SLG圧Pslgが入力される。第1出力ポート92o1は、第2クラッチC2に連通させられている、すなわち第2クラッチC2へC2クラッチ圧Pc2を供給する油路に接続されている。加えて、第1出力ポート92o1は、C1コントロールバルブ94をフェール位置側へ切り替えるようにC2クラッチ圧Pc2を受け入れるC1コントロールバルブ94の油室に連通させられている。第2出力ポート92o2は、SLP圧Pslpが大きい程プライマリ圧Pinが大きくされるプライマリ圧コントロールバルブ88においてSLP圧Pslpによる推力に対向する推力が発生させられるようにSLG圧Pslgを受け入れるプライマリ圧コントロールバルブ88の油室に連通させられている。
シーケンスバルブ92では、スプール弁子92svが正常位置に移動させられると、第1入力ポート92i1と第1出力ポート92o1とが連通させられる。一方で、シーケンスバルブ92では、スプール弁子92svがフェール位置に移動させられると、第2入力ポート92i2と第1出力ポート92o1とが連通させられると共に、第3入力ポート92i3と第2出力ポート92o2とが連通させられる。
このように構成されたシーケンスバルブ92は、正常位置においては、SL2圧Psl2を第2クラッチC2へ供給することが可能である。一方で、シーケンスバルブ92は、SLP圧Pslpの作用によってフェール位置へ切り替えられると、ドライブ圧PDを第2クラッチC2へ供給することが可能であると共に、SLG圧Pslgをプライマリ圧コントロールバルブ88の油室へ供給することが可能である。
例えば、シーケンスバルブ92は、断線等によってC2用ソレノイドバルブSL2がオフフェール状態となったときに所定圧以上のSLP圧Pslpが出力されると、フェール位置へ切り替えられる。この際、シフトレバー84がD操作ポジションにあるときには、第2クラッチC2へ強制的にドライブ圧PDが供給されてその第2クラッチC2が係合されるので、第2動力伝達経路PT2が形成される。これにより、C2用ソレノイドバルブSL2のオフフェール時にも、ベルト走行モードにて走行することができる。変速制御部104は、C2用ソレノイドバルブSL2がオフフェール状態となった場合には、所定圧以上のSLP圧Pslpを出力する為の油圧制御指令信号Scvtを油圧制御回路46へ出力する。
又、シーケンスバルブ92は、断線等によってプライマリ用ソレノイドバルブSLPがオンフェール状態となって最大のSLP圧Pslpが出力されると、フェール位置へ切り替えられる。この際、SLG圧Pslgがプライマリ圧コントロールバルブ88の油室へ供給され得る。これにより、SLP圧Pslpが最大油圧とされて無段変速機構24がアップシフトされてしまうことに対して、SLG圧Pslgによってプライマリ圧Pinが小さくされて、無段変速機構24をダウンシフト側に変速することが可能となる。
シフトレバー84がD操作ポジションにあるときにシーケンスバルブ92がフェール位置へ切り替えられると、ドライブ圧PDによって強制的に第2クラッチC2が係合される為、走行モードがベルト走行モードとされる。変速制御部104は、シーケンスバルブ92のフェール位置への切替え時は、走行モードをベルト走行モードとする。尚、第1クラッチC1と第2クラッチC2との同時係合については、C1コントロールバルブ94の機能により防止される。
ところで、前述したように、第2クラッチC2が完全解放の状態であるときにはベルト滑り防止用入力トルクTb2が入力軸22上に換算した第2クラッチC2の引き摺りトルクとされたが、ベルト走行モード中の第2クラッチC2の完全解放時にシーケンスバルブ92がフェール位置へ切り替えられた場合、ドライブ圧PDによる第2クラッチC2の急係合によりタービントルクTtが無段変速機構24に入力される。第2クラッチC2の作動状態の切替えに合わせてベルト滑り防止用入力トルクTb2の算出方法を切り替えてベルトトルク容量Tcvtを増加させた場合、第2クラッチC2にドライブ圧PDが供給されることによる実際の無段変速機構24の入力トルクの増加に対して、ベルトトルク容量Tcvtの増加が遅れ、ベルト滑りが発生する懸念がある。このような現象は、タービントルクTtが大きい領域で生じ易い。又、このような現象は、第2クラッチC2が解放過渡の状態であるときにも同様に生じる可能性がある。
そこで、変速制御部104は、作動状態判定部106により第2クラッチC2が完全解放の状態又は解放過渡の状態であると判定された場合には、走行モードがベルト走行モードであるか否かを判定する。例えば、変速制御部104は、前述した有段変速マップを用いた走行モードの切替え判断に基づいて、走行モードがベルト走行モードであるか否かを判定する。又、変速制御部104は、シーケンスバルブ92のフェール位置への切替え時には、走行モードがベルト走行モードであると判定する。
変速制御部104は、作動状態判定部106により第2クラッチC2が完全解放の状態であると判定されたときに、走行モードがベルト走行モードであると判定した場合には、ベルト滑り防止用入力トルクTb2を入力軸22上に換算した第2クラッチC2の引き摺りトルクとすることに替えて、ベルト滑り防止用入力トルクTb2として、タービントルクTt及び入力軸22上に換算した第2クラッチC2の引き摺りトルクのうちの大きい方のトルクを選択する。又、変速制御部104は、作動状態判定部106により第2クラッチC2が解放過渡の状態であると判定されたときに、走行モードがベルト走行モードであると判定した場合には、ベルト滑り防止用入力トルクTb2として、推力比算出用入力トルクTb1、タービントルクTt、及び入力軸22上に換算した第2クラッチC2の引き摺りトルクのうちの大きい方のトルクを選択することに替えて、タービントルクTt及び入力軸22上に換算した第2クラッチC2の引き摺りトルクのうちの大きい方のトルクを選択する。尚、走行モードがベルト走行モードである場合に限定したのは、シーケンスバルブ92のフェール位置への切替え時は走行モードがベルト走行モードとされる為である。又、タービントルクTtは、入力軸22上に換算したエンジントルクTeである。
図12は、電子制御装置100の制御作動の要部すなわち第2クラッチC2が完全解放の状態又は解放過渡の状態であるときにベルト滑り防止用入力トルクTb2の算出精度を向上する為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば繰り返し実行される。
図12において、先ず、作動状態判定部106の機能に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S10において、第2クラッチC2に対する油圧制御の状態が取得される。又、C2差回転速度ΔNc2が算出される。次いで、作動状態判定部106の機能に対応するS20において、第2クラッチC2の作動状態が判定される。つまり、第2クラッチC2の作動状態が、完全解放、完全係合、解放過渡、及び係合過渡で表される4つの状態の何れであるかが、前述した図10における制御作動によって判定される。次いで、作動状態判定部106の機能に対応するS30において、第2クラッチC2の作動状態が完全解放の状態であるか否かが判定される。このS30の判断が肯定される場合は変速制御部104の機能に対応するS40において、走行モードがベルト走行モードであるか否かが判定される。このS40の判断が肯定される場合は変速制御部104の機能に対応するS50において、ベルト滑り防止用入力トルクTb2として、タービントルクTt及び入力軸22上に換算した第2クラッチC2の引き摺りトルクのうちの大きい方のトルクが選択される。上記S40の判断が否定される場合は変速制御部104の機能に対応するS60において、ベルト滑り防止用入力トルクTb2が入力軸22上に換算した第2クラッチC2の引き摺りトルクとされる。上記S30の判断が否定される場合は作動状態判定部106の機能に対応するS70において、第2クラッチC2の作動状態が解放過渡の状態であるか否かが判定される。このS70の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられる。このS70の判断が肯定される場合は変速制御部104の機能に対応するS80において、走行モードがベルト走行モードであるか否かが判定される。このS80の判断が肯定される場合は変速制御部104の機能に対応するS90において、ベルト滑り防止用入力トルクTb2として、タービントルクTt及び入力軸22上に換算した第2クラッチC2の引き摺りトルクのうちの大きい方のトルクが選択される。上記S80の判断が否定される場合は変速制御部104の機能に対応するS100において、ベルト滑り防止用入力トルクTb2として、推力比算出用入力トルクTb1、タービントルクTt、及び入力軸22上に換算した第2クラッチC2の引き摺りトルクのうちの大きい方のトルクが選択される。上記S50に次いで、又は、上記S60に次いで、又は、上記S90に次いで、又は、上記S100に次いで、変速制御部104の機能に対応するS110において、上記算出されたベルト滑り防止用入力トルクTb2が用いられて、プライマリ側滑り限界推力Winlmtとセカンダリ側滑り限界推力Woutlmtとが算出される。
上述のように、本実施例によれば、第2クラッチC2が完全解放の状態又は解放過渡の状態であるときに、走行モードがベルト走行モードである場合には、ベルト滑り防止用入力トルクTb2として、タービントルクTt及び入力軸22上に換算した第2クラッチC2の引き摺りトルクのうちの大きい方のトルクが選択されるので、シーケンスバルブ92のフェール位置への切替え時に備えることができる。又は、シーケンスバルブ92のフェール位置への切替え後に第2クラッチC2が係合されてからではなく、単にシーケンスバルブ92がフェール位置へ切り替えられたことだけで上述したようなベルト滑り防止用入力トルクTb2が算出される。これにより、シーケンスバルブ92のフェール位置への切替えに伴う第2クラッチC2の急係合時に、実際の無段変速機構24への入力トルクの増加に対するベルトトルク容量Tcvtの増加の応答遅れによるベルト滑りを抑制又は防止することができる。このように、ドライブ圧PDが第2クラッチC2へ供給されて第2クラッチC2が強制的に係合させられる場合を考慮した精度の高い無段変速機構24への入力トルクの算出を行うことができる。よって、第2クラッチC2が完全解放の状態又は解放過渡の状態であるときに無段変速機構24への入力トルクの算出精度を向上することができる。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
例えば、前述の実施例における図12のフローチャートにおいて、S20,S30,S70の各ステップが1つのステップで実行されても良いなど、図12のフローチャートは適宜変更され得る。
また、前述の実施例では、第2クラッチC2は、セカンダリプーリ64と出力軸30との間の動力伝達経路に設けられていたが、この態様に限らない。例えば、セカンダリ軸62が出力軸30と一体的に連結されると共に、プライマリ軸58は第2クラッチC2を介して入力軸22と連結されても良い。つまり、第2クラッチC2は、プライマリプーリ60と入力軸22との間の動力伝達経路に設けられていても良い。
また、前述の実施例では、ギヤ機構28は、無段変速機構24の最ロー側変速比γmaxよりもロー側の変速比となる1つのギヤ段が形成されるギヤ機構であったが、この態様に限らない。例えば、ギヤ機構28は、変速比が異なる複数のギヤ段が形成されるギヤ機構であっても良い。つまり、ギヤ機構28は2段以上に変速される有段変速機であっても良い。又は、ギヤ機構28は、無段変速機構24の最ハイ側変速比γminよりもハイ側の変速比、及び/又は、最ロー側変速比γmaxよりもロー側の変速比を形成するギヤ機構であっても良い。
また、前述の実施例では、動力伝達装置16の走行モードを、予め定められたアップシフト線及びダウンシフト線を用いて切り替えたが、この態様に限らない。例えば、車速V及びアクセル操作量θaccに基づいて目標駆動力Fwtgtを算出し、その目標駆動力Fwtgtを満たすことができる変速比を設定することで、動力伝達装置16の走行モードを切り替えても良い。
また、前述の実施例では、流体式伝動装置としてトルクコンバータ20が用いられたが、この態様に限らない。例えば、トルクコンバータ20に替えて、トルク増幅作用のないフルードカップリングなどの他の流体式伝動装置が用いられても良い。或いは、この流体式伝動装置は必ずしも設けられなくても良い。又、ギヤ機構28を介した第1動力伝達経路PT1には、噛合式クラッチD1が設けられていたが、この噛合式クラッチD1は本発明を実施する上では、必ずしも設けられなくても良い。
尚、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。