以下において、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中の同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の形態1に係る直列多重電力変換装置1の主回路構成を示す概略ブロック図である。直列多重電力変換装置1は、代表的には、非同期交流系統や異周波交流系統の電力授受に用いられるBTB(Back to Back)システムに適用される。具体例では、50−60Hz周波数変換装置などがある。
図1を参照して、直列多重電力変換装置1は、交流周波数が互いに異なる電力系統2および電力系統3の間に接続される。電力系統2および3は複数の相(例えば三相)を有する。直列多重電力変換装置1は、交流電圧検出器12,52と、電流検出器13,53と、直流電圧検出器14と、電力変換部10と、制御装置11とを備える。
交流電圧検出器12は、電力系統2の交流電圧を検出し、検出値を示す信号を制御装置11へ出力する。電流検出器13は、電力系統2を流れる電流を検出し、検出値を示す信号を制御装置11へ出力する。交流電圧検出器52は、電力系統3の交流電圧を検出し、検出値を示す信号を制御装置11へ出力する。電流検出器53は、電力系統3を流れる電流を検出し、検出値を示す信号を制御装置11へ出力する。
電力変換部10は、電力系統2および電力系統3の間に接続される。具体的には、電力変換部10は、一方の電力系統2に変圧器21〜24を介して連系され、他方の電力系統3に変圧器61〜64を介して連系される。電力変換部10は、変圧器21〜24と、変換器25〜28と、直流母線15〜17と、平滑コンデンサC1,C2と、変換器65〜68と、変圧器61〜64とを含む。直流母線15〜17および平滑コンデンサC1,C2は各変換器の直流回路を構成する。
変圧器21〜24の一次巻線は電力系統2に接続される。変圧器21〜24の各々の一次巻線は、各相直列接続されて星型結線されている。これにより、変換器25〜28の各々の交流出力電圧を各相直列合成した電圧が電力系統2に出力される。変圧器21〜24の各相二次巻線の一方端33には、変換器25〜28の各相電力変換回路の交流端子がそれぞれ接続される。変圧器21〜24の各相二次巻線の他方端34には、平滑コンデンサC1,C2に接続された別の各相電力変換回路の交流端子がそれぞれ接続される。変換器25〜28は多相フルブリッジ回路を構成している。
例えば、変圧器21の各相二次巻線の一方端33には、直流正母線15および直流負母線17間の直流電圧を各相交流電圧に変換する変換器25の電力変換回路が接続される。変圧器21の各相二次巻線の他方端34には、直流正母線15および直流負母線17間の直流電圧を各相交流電圧に変換する電力変換回路が接続される。各相二次巻線に接続される2つの電力変換回路の直流回路は共通である。
変換器25〜28の各々は、GCT(Gate Commutated Turn-Off thyristor)やIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などの自己消弧型素子を用いた電力変換器で構成されている。本実施の形態では、変換器25〜28はいずれも3レベル回路として構成される。変換器25〜28の各々の3つの直流電圧端子は、直流正母線15、直流中性点母線16および直流負母線17にそれぞれ接続される。
平滑コンデンサC1,C2は、直流正母線15および直流負母線17の間に直列に接続され、直流正母線15および直流負母線17の間の電圧を平滑化する。平滑コンデンサC1およびC2の接続点には直流中性点母線16が接続される。
直流電圧検出器14は、平滑コンデンサC1の端子間電圧および平滑コンデンサC2の端子間電圧を検出し、検出値を示す信号を制御装置11に出力する。
変換器65〜68の各々は、変換器25〜28と同様、GCTやIGBT等の自己消弧型素子を用いた電力変換器で構成されている。変換器65〜68はいずれも3レベル回路として構成される。変換器65〜68の各々の3つの直流電圧端子は、直流正母線15、直流中性点母線16および直流負母線17にそれぞれ接続される。
変換器65〜68の交流端子は変圧器61〜64の二次巻線にそれぞれ接続されている。具体的には、変圧器61〜64の二次巻線の各相の一方端69には、変換器65〜68の各相電力変換回路の交流端子がそれぞれ接続される。変圧器61〜64の二次巻線の各相の他方端70には、平滑コンデンサC1,C2に接続された別の各相電力変換回路の交流端子がそれぞれ接続される。変換器65〜68の各々は多相フルブリッジ回路を構成している。
変圧器61〜64の一次巻線は電力系統3に接続されている。変圧器61〜64の各々の一次巻線は、各相直列接続されて星型結線されている。これにより、変換器65〜68の各々の交流出力電圧を各相直列合成した電圧が電力系統3に出力される。
このように、電力変換部10は、変換器25〜28の直流端子と変換器65〜68の直流端子とを直流母線15〜17を介して接続した構成となっている。なお、図1の例では、変換器25〜28の直流端子を共通の直流回路に接続した構成としているが、変換器25〜28の直流端子を互いに独立した直流回路に接続する構成としてもよい。同様に、変換器65〜68の直流端子を互いに独立した直流回路に接続する構成としてもよい。
電力変換部10は、一方の電力系統2(または電力系統3)から他方の電力系統3(または電力系統2)へ電力を融通する。具体的には、電力系統2から電力系統3へ電力を融通する場合、変換器25〜28は、変圧器21〜24からそれぞれ供給される交流電圧を所望の直流電圧に変換し、変換した直流電圧を直流母線15〜17を介して変換器65〜68へ供給する。変換器65〜68は、変換器25〜28から直流母線15〜17を介して供給される直流電圧を所望の交流電圧にそれぞれ変換する。変圧器61〜64は、変換器65〜68の各々の交流出力電圧を直列合成した電圧を電力系統3に出力する。
また、電力系統3から電力系統2へ電力を融通する場合には、変換器65〜68は、変圧器61〜64からそれぞれ供給される交流電圧を所望の直流電圧に変換し、変換した直流電圧を直流母線15〜17を介して変換器25〜28へ供給する。変換器25〜28は、変換器65〜68から直流母線15〜17を介して供給される直流電圧を所望の交流電圧にそれぞれ変換する。変圧器21〜24は、変換器25〜28の各々の交流出力電圧を直列合成した電圧を電力系統2に出力する。
ここで、本願明細書では、交流側が変圧器21〜24で直列に多重化されている4台の変換器25〜28を互いに区別するために、変換器28を「第1段変換器28」と称し、変換器27を「第2段変換器27」と称し、変換器26を「第3段変換器26」と称し、変換器25を「第4段変換器25」と称する場合がある。また、変換器25〜28全体を「4段直列多重変換器20」と称する場合がある。
また、交流側が変圧器61〜64で直列に多重化されている4台の変換器65〜68を互いに区別するために、変換器68を「第1段変換器68」と称し、変換器67を「第2段変換器67」と称し、変換器66を「第3段変換器66」と称し、変換器65を「第4段変換器65」と称する場合がある。また、変換器65〜68全体を「4段直列多重変換器60」と称する場合がある。
なお、4段直列多重変換器20,60の各々において、第1段変換器から第4段変換器は直列多重接続されていればよく、特にこの並び順に限定されることはない。
図2は、図1に示した変換器25〜28および変換器65〜68の具体的な回路構成を示す図である。変換器25〜28および変換器65〜68は回路構成が同じであるため、図2では代表的に変換器25の回路構成を説明する。
図2を参照して、変換器25は、3レベル回路として構成され、スイッチング素子S1R〜S8R,S1S〜S8S,S1T〜S8Tと、ダイオードD1R〜D12R,D1S〜D12S,D1T〜D12Tとを有する。スイッチング素子は、例えばGCTであるが、自己消弧型のスイッチング素子であれば、これに限定されるものではない。
ここで、変換器25の各相の構成を総括的に説明するため、符号R,S,Tをまとめて符号「x」と示す。スイッチング素子S1xのアノードは、直流正母線15に接続され、そのカソードはスイッチング素子S2xのアノードに接続される。スイッチング素子S2xのカソードはx相二次巻線の一方端33に接続される。スイッチング素子S3xのアノードはx相二次巻線の一方端33に接続され、そのカソードはスイッチング素子S4xのアノードに接続される。スイッチング素子S4xのカソードは直流負母線17に接続される。ダイオードD1x〜D4xは、スイッチング素子S1x〜S4xにそれぞれ逆並列接続される。ダイオードD9xのカソードはスイッチング素子S1xおよびS2xの接続点に接続され、そのアノードは直流中性点母線16に接続される。ダイオードD10xのカソードは直流中性点母線16に接続され、そのアノードはスイッチング素子S3xおよびS4xの接続点に接続される。
スイッチング素子S5xのアノードは、直流正母線15に接続され、そのカソードはスイッチング素子S6xのアノードに接続される。スイッチング素子S6xのカソードはx相二次巻線の他方端34に接続される。スイッチング素子S7xのアノードはx相二次巻線の他方端34に接続され、そのカソードはスイッチング素子S8xのアノードに接続される。スイッチング素子S8xのカソードは直流負母線17に接続される。ダイオードD5x〜D8xは、スイッチング素子S5x〜S8xにそれぞれ逆並列接続される。ダイオードD11xのカソードはスイッチング素子S5xおよびS6xの接続点に接続され、そのアノードは直流中性点母線16に接続される。ダイオードD12xのカソードは直流中性点母線16に接続され、そのアノードはスイッチング素子S7xおよびS8xの接続点に接続される。ダイオードD1x〜D4x,D5x〜D8xは還流ダイオードとして機能し、ダイオードD9x〜12xはクランプダイオードとして機能する。
すなわち、スイッチング素子S1x〜S4xおよびダイオードD1x〜D4x,D9x,D10xによって1つの電力変換回路が構成されており、スイッチング素子S2xおよびS3xの接続点が交流端子として、変圧器のx相の二次巻線の一方端33に接続される。また、スイッチング素子S5x〜S8xおよびダイオードD5x〜D8x,D11x,D12xによって別の電力変換回路が構成されており、スイッチング素子S6xおよびS7xの接続点が交流端子として、変圧器のx相の二次巻線の他方端34に接続される。したがって、x相の二次巻線の両端には2つの電力変換回路の交流端子がそれぞれ接続されており、この2つの電力変換回路によって単相フルブリッジ3レベル回路が構成される。
そして、電力系統2,3が三相である場合、合計6つの電力変換回路が直流母線15および直流母線17の間に並列に接続される。言い換えれば、3つの単相フルブリッジ3レベル回路が直流母線15および直流母線17の間に並列に接続される。
図1に戻って、制御装置11は、変換器25〜28および変換器65〜68の動作を制御する。本実施の形態では、制御装置11は、各変換器を構成するスイッチング素子の制御方式として、PWM(Pulse Width Modulation)制御を適用する。制御装置11は、交流電圧検出器12,52、電流検出器13,53および直流電圧検出器14からの信号等を受けて、PWM制御を実行する。制御装置11は、PWM制御によって、変換器25〜28を制御するための制御指令であるゲートパルス信号GC1〜GC4を生成し、その生成したゲートパルス信号GC1〜GC4を変換器25〜28にそれぞれ出力する。また、制御装置11は、PWM制御によって、変換器65〜68を制御するための制御指令であるゲートパルス信号GC5〜GC8を生成し、その生成したゲートパルス信号GC5〜GC8を変換器65〜68にそれぞれ出力する。
次に、制御装置11における各変換器のPWM制御について説明する。以下の説明では、図3に示すx相の単相フルブリッジ3レベル回路を用いて、変換器のPWM制御を説明する。
図3を参照して、単相フルブリッジ3レベル回路は、直流正母線15および直流負母線17の間に並列に接続される、a相の電力変換回路(以下、a相アームとも称する)と、b相の電力変換回路(以下、b相アームとも称する)とを有する。a相アームの交流端子(スイッチング素子S2xおよびS3xの接続点)はx相の二次巻線の一方端33に接続され、b相アームの交流端子(スイッチング素子S6xおよびS7xの接続点)はx相の二次巻線の他方端34に接続される。
ここで、本実施の形態において、変換器のPWM制御には、交流電圧指令値の半周期(電気角0°〜180°の区間または電気角180°〜360°の区間)において複数のパルス電圧を出力するように変換器の制御指令(ゲートパルス信号GC)を生成する制御モードと、交流電圧指令値の半周期において単一のパルス電圧を出力するように変換器の制御指令を生成する制御モードとがある。本願明細書では、前者の制御モードを「多パルスモード」と称し、後者の制御モードを「単一パルスモード」と称する。以下では、多パルスモードおよび単一パルスモードの各々について詳細に説明する。
図4は、多パルスモード適用時の変換器の制御を説明するための波形図である。図4は、x相の交流電圧Vxとスイッチング素子S1x〜S8xのオンオフ関係を示している。図中のVaはa相アームの交流端子における出力電圧であり、Vbはb相アームの交流端子における出力電圧であり、線間出力電圧Vab(電圧Vaと電圧Vbとの差分)はx相の交流出力電圧に対応する。
多パルスモードでは、交流電圧指令値Vx*(線間電圧指令値)と搬送波CW1,CW2との高低が比較され、その比較結果に基づいて、スイッチング素子S1x〜S4xのオンオフの組合せが決定される。また、交流電圧指令値−Vx*と搬送波CW1,CW2との高低が比較され、その比較結果に基づいて、スイッチング素子S5x〜S8xのオンオフの組合せが決定される。
搬送波CW1,CW2は、例えば三角波信号である。搬送波CW1は最大値が+Vdであり、最小値が0である。搬送波CW2は最大値が0であり、最小値が−Vdである。なお、Vdは直流正母線15および直流負母線17間の直流電圧に対応する。搬送波CW1,CW2の周波数および位相は同じである。搬送波CW1,CW2は、交流電圧指令値Vx*の2N倍(例えばN=8)の周波数を有しており、交流電圧指令値Vx*に同期した信号である。
a相アームのスイッチング素子S1x〜S4xは、交流電圧指令値Vx*と搬送波CW1,CW2との振幅が一致するタイミングでオンオフされる。b相アームのスイッチング素子S5x〜S8xは、交流電圧指令値−Vx*と搬送波CW1,CW2との振幅が一致するタイミングでオンオフされる。なお、a相アームでは、交流電圧指令値Vx*の極性が正のときにスイッチング素子S1xおよびS3xのスイッチングが行なわれ、交流電圧指令値Vx*の極性が負のときにスイッチング素子S2xおよびS4xのスイッチングが行なわれる。b相アームでは、交流電圧指令値−Vx*の極性が正のときにスイッチング素子S5xおよびS7xのスイッチングが行なわれ、交流電圧指令値−Vx*の極性が負のときにスイッチング素子S6xおよびS8xのスイッチングが行なわれる。
これにより、図4に示すように、出力電圧Va,Vbの各々は±Vd/2,0の3値をとり、線間出力電圧Vabは±Vd,±Vd/2,0の5値をとる。なお、図示は省略するが、交流電圧指令値Vx*,−Vx*の振幅が搬送波CW1,CW2の振幅の1/2以下の場合には、線間出力電圧Vabは±Vd/2,0の3値をとる。
図5は、単一パルスモード適用時の変換器の制御を説明するための波形図である。図5は、x相の交流電圧Vxとスイッチング素子S1x〜S8xのオンオフ関係を示している。図中のVaはa相アームの交流端子における出力電圧であり、Vbはb相アームの交流端子における出力電圧であり、線間出力電圧Vab(電圧Vaと電圧Vbとの差分)はx相の交流出力電圧に対応する。
単一パルスモードでは、交流電圧指令値Vx*(線間電圧指令値)と閾値電圧Vthとの高低が比較され、その比較結果に基づいて、スイッチング素子S1x〜S4xのオンオフの組合せが決定される。また、交流電圧指令値−Vx*と閾値電圧/Vthとの高低が比較され、その比較結果に基づいて、スイッチング素子S5x〜S8xのオンオフの組合せが決定される。なお、閾値電圧Vthは0<Vth≦Vd/2である。閾値電圧/Vthは、閾値電圧Vthを−Vdだけオフセットさせた電圧である。
a相アームのスイッチング素子S1x〜S4xは、交流電圧指令値Vx*の振幅と閾値電圧Vthとが一致するタイミングでオンオフされる。b相アームのスイッチング素子S5x〜S8xは、交流電圧指令値−Vx*の振幅と閾値電圧/Vthとが一致するタイミングでオンオフされる。なお、a相アームでは、交流電圧指令値Vx*の極性が正のときにスイッチング素子S1xおよびS3xのスイッチングが行なわれ、交流電圧指令値Vx*の極性が負のときにスイッチング素子S2xおよびS4xのスイッチングが行なわれる。b相アームでは、交流電圧指令値−Vx*の極性が正のときにスイッチング素子S5xおよびS7xのスイッチングが行なわれ、交流電圧指令値−Vx*の極性が負のときにスイッチング素子S6xおよびS8xのスイッチングが行なわれる。
図5に示すように、単一パルスモードにおいても、図4に示した多パルスモードと同様に、出力電圧Va,Vbは±Vd/2,0の3値をとり、線間出力電圧Vabは±Vd,±Vd/2,0の5値をとる。ただし、多パルスモードでは、交流電圧指令値Vxの半周期間に、a相アームおよびb相アームの各々から複数のパルス電圧が出力されるのに対し、単一パルスモードでは、交流電圧指令値Vxの半周期間に、a相アームおよびb相アームの各々から単一のパルス電圧が出力される。
図4および図5から明らかなように、多パルスモードでは、1キャリア周期(搬送波1パルスの周期)間に4つのスイッチング素子のうち2つが1回ずつオンオフし、残りの2つがオンオフしないため、スイッチング素子1個当たりの平均スイッチング周波数は、搬送波CW1,CW2の周波数の1/2となる。これに対し、単一パルスモードでは、交流電圧指令値Vx*の半周期間に4つのスイッチング素子のうちの2つが1回ずつオンオフし、残りの2つがオンオフしないため、スイッチング素子1個当たりの平均スイッチング周波数は、交流電圧指令値Vx*の周波数の1/2となる。このように、単一パルスモードは、多パルスモードに比べて、スイッチング素子1個当たりの平均スイッチング周波数が低いため、スイッチング素子に発生する電力損失(スイッチング損失)を低減することができる。よって、単一パルスモードは多パルスモードよりも、変換器の動作効率を高めることができる。
また、多パルスモードでは、図4のような正弦波比較PWM方式の場合、線間出力電圧の基本波成分の最大値がVdcのため、変換器の交流出力電圧の基本波成分を高めることができず、電圧利用率に限界がある。なお、電圧利用率とは、同じ直流成分に対して交流電圧が最大どこまで出せるのかを示す尺度である。これに対し、単一パルスモードでは、交流電圧指令値Vx*の振幅を搬送波の振幅よりも高くすれば、変換器の交流出力電圧の基本波成分を高めることができるため、電圧利用率を高めることができる。
その一方で、単一パルスモードでは、交流出力電圧の高調波成分が増加するという問題がある。これに対し、多パルスモードは、単一パルスモードに比べて、交流出力電圧の波形が細かく変化するので、その波形を正弦波に近づけることができ、結果的に変換器の動作により発生する高調波成分を小さくできる。よって、多パルスモードは単一パルスモードよりも、交流出力電圧に含まれる高調波成分の含有率を低減することができる。
本実施の形態に係る直列多重電力変換装置1では、直列多重接続される複数台(図1では4台)の変換器のPWM制御において、多パルスモードと単一パルスモードとを併用することで、装置全体で交流出力電圧に含まれる高調波成分を低減しつつ、高い動作効率および高い電圧利用率を実現する。
以下、変換器25〜28からなる4段直列多重変換器20のPWM制御について説明する。なお、変換器65〜68からなる4段直列多重変換器60に対しても以下に説明するPWM制御を適用することが可能である。
図6は、4段直列多重変換器20のPWM制御を説明するための波形図である。図6には、x相(xはR,S,T)の交流電圧指令値Vx*が、および第1段変換器28から第4段変換器25の交流出力電圧Vxの半周期(電気角0°〜180°の区間)の波形が示されている。なお、図中の点線は電力系統2の系統電圧の波形を示している。
図6を参照して、本実施の形態においては、交流電圧指令値Vx*は、電力系統2の周波数を基本周波数とする正弦波に正弦波の3次高調波成分を重畳することによって生成される。正弦波に3次高調波成分を重畳することによって、交流電圧指令値Vx*の振幅は搬送波CW1,CW2の振幅以下となり、全期間でPWM制御が可能となる。さらに、3次高調波成分は線間電圧に影響を及ぼさないため、この成分を基本波成分に重畳させることで、線間電圧の基本波振幅の最大値が2/√3倍のVdとなり、正弦波比較方式と比較して約15%高い電圧利用率が得られる。
制御装置11は、第1段変換器28から第4段変換器25の交流出力電圧を直列合成した電圧が交流電圧指令値Vxに一致するように、各段変換器の交流出力電圧のPWM制御を行なう。具体的には、制御装置11は、第1段変換器28、第2段変換器27および第3段変換器26の各々を単一パルスモードによって制御するとともに、第4段変換器25を多パルスモードによって制御する。
第1段変換器28の制御では、交流電圧指令値Vx*と第1閾値電圧Vth1との高低が比較され、その比較結果に基づいて、スイッチング素子S1x〜S4xのオンオフの組合せが決定される。第1閾値電圧Vth1は0<Vth1≦Vd/2である。また、交流電圧指令値Vx*と第1閾値電圧/Vth1との高低が比較され、その比較結果に基づいて、スイッチング素子S5x〜S8xのオンオフの組合せが決定される。第1閾値電圧/Vth1=Vd−Vth1である。なお、図6中の交流電圧指令値Vx*と第1閾値電圧/Vth1との比較結果に基づいたスイッチング素子S5x〜S8xのオンオフの組合せは、図5に示した交流電圧指令値−Vx*と閾値電圧/Vthとの比較結果に基づいたスイッチング素子S5x〜S8xの組合せと実質的に同じである。単一パルスモードの適用により、第1段変換器28の交流出力電圧は、電気角0°〜180°の区間において高さがVdの台形形状の単一パルス電圧となる。単一パルス電圧は、0,Vd/2,Vdの3値をとる。
第2段変換器27の制御では、交流電圧指令値Vx*と第2閾値電圧Vth2との高低が比較され、その比較結果に基づいて、スイッチング素子S1x〜S4xのオンオフの組合せが決定される。第2閾値電圧Vth2は第1閾値電圧Vth1よりVd大きい(Vth2=Vth1+Vd)。また、交流電圧指令値Vx*と第2閾値電圧/Vth2との高低が比較され、その比較結果に基づいて、スイッチング素子S5x〜S8xのオンオフの組合せが決定される。第2閾値電圧/Vth2=Vd×2−Vth1である。なお、図6中の交流電圧指令値Vx*と第2閾値電圧/Vth2との比較結果に基づいたスイッチング素子S5x〜S8xのオンオフの組合せは、図5に示した交流電圧指令値−Vx*と閾値電圧/Vth1との比較結果に基づいたスイッチング素子S5x〜S8xの組合せと実質的に同じである。単一パルスモードの適用により、第2段変換器27の交流出力電圧は、電気角0°〜180°の区間において振幅Vdの台形形状の単一パルス電圧となる。単一パルス電圧は、0,Vd/2,Vdの3値をとる。
第3段変換器26の制御では、交流電圧指令値Vx*と第3閾値電圧Vth3との高低が比較され、その比較結果に基づいて、スイッチング素子S1x〜S4xのオンオフの組合せが決定される。第3閾値電圧Vth3は、第2閾値電圧Vth2よりVd大きく、第1閾値電圧Vth1よりVd×2大きい(Vth3=Vth1+Vd×2)。また、交流電圧指令値Vx*と第3閾値電圧/Vth3との高低が比較され、その比較結果に基づいて、スイッチング素子S5x〜S8xのオンオフの組合せが決定される。第3閾値電圧/Vth3=Vd×3−Vth1である。なお、図6中の交流電圧指令値Vx*と第3閾値電圧/Vth3との比較結果に基づいたスイッチング素子S5x〜S8xのオンオフの組合せは、図5に示した交流電圧指令値−Vx*と閾値電圧/Vth1との比較結果に基づいたスイッチング素子S5x〜S8xの組合せと実質的に同じである。単一パルスモードの適用により、第3段変換器26の交流出力電圧は、電気角0°〜180°の区間において振幅Vdの台形形状の単一パルス電圧となる。単一パルス電圧は、0,Vd/2,Vdの3値をとる。
第4段変換器25の制御では、交流電圧指令値Vxと搬送波CW1,CW2との高低が比較され、その比較結果に基づいて、スイッチング素子S1x〜S4xのオンオフの組合せが決定される。また、交流電圧指令値−Vx*と搬送波CW1,CW2との高低が比較され、その比較結果に基づいて、スイッチング素子S5x〜S8xのオンオフの組合せが決定される。ただし、この比較には、交流電圧指令値VxからVd×3を減じたものが用いられるとともに、交流電圧指令値−VxにVd×3を足したものが用いられる。このVd×3は第1段から第3段の変換器28〜26の交流出力電圧の合成電圧に値する。
なお、図6の搬送波CW1,CW2は、図4の搬送波CW1,CW2と振幅および周波数が同じである。図6では搬送波CW2を正負反転させたものを示している。
第4段変換器25において、スイッチング素子S1x〜S4xは、交流電圧指令値(Vx*−Vd×3)と搬送波CW1,CW2との振幅が一致するタイミングでオンオフされ、スイッチング素子S5x〜S8xは、交流電圧指令値(−Vx*+Vd×3)と搬送波CW1,CW2との振幅が一致するタイミングでオンオフされる。なお、図6中の交流電圧指令値Vx*と搬送波CW2との比較結果に基づいたスイッチング素子S5x〜S8xのオンオフの組合せは、図4に示した交流電圧指令値−Vx*と搬送波CW2との比較結果に基づいたスイッチング素子S5x〜S8xの組合せと実質的に同じである。多パルスモードの適用により、第4段変換器25の交流出力電圧は、電気角0°〜180°の区間において、+Vd,+Vd/2,0の3値をとる。
4段直列多重変換器20の交流出力電圧は、第1段変換器28から第4段変換器25の交流出力電圧を直列合成したものとなる。したがって、図6に示すように、電気角0°〜180°の区間において、交流出力電圧は、第1段変換器28から第3段変換器26の台形形状の単一パルス電圧を積み上げたものに、第4段変換器25の交流出力電圧をさらに足したものとなる。
言い換えれば、第1段変換器28から第3段変換器26の単一パルス電圧を積み上げることで、Vd×3の高さを有する台形形状の土台が形成される。この土台は、0,Vd/2,Vd,Vd×3/2,Vd×2,Vd×5/2,Vd×3の7値をとる。そして、この土台の上に第4段変換器25の複数パルス電圧を載せることによって、交流出力電圧の値はさらに、Vd×3,Vd×7/2,Vd×4の3値をとることになる。
図6に示すように、交流電圧指令値Vx*は、電気角0°〜180°の区間において、電圧値が0からVd×3まで単調増加する区間Iと、電圧値がVd×3以上Vd×4以下の範囲内で変動する区間IIと、電圧値がVd×3から0まで単調減少する区間IIIとに大きく区分することができる。4段直列多重変換器20の交流出力電圧は、このうちの区間Iおよび区間IIIが第1段変換器28から第3段変換器26の単一パルス電圧で形成され、区間IIにおける電圧値の起伏が第4段変換器25の複数のパルス電圧で形成される。
以上のように、4段直列多重変換器20の交流出力電圧のPWM制御において、第1段変換器28から第3段変換器26には単一パルスモードを適用し、かつ、第4段変換器25には多パルスモードを適用することで、各段変換器に多パルスモードを適用する場合に比べて、第1段変換器28から第3段変換器26のスイッチング素子に発生する電力損失(スイッチング損失)を低減することができる。
また、第1段変換器28から第3段変換器26に単一パルスモードを適用したことで、高さがVd×3の台形形状の土台を3台の変換器の出力電圧で形成することができる。各段変換器を多パルスモードで制御することによって同じ高さの土台を形成する場合には、4台以上の変換器を多重化することが必要となる。これに対し、本実施の形態では、より少ない台数の変換器で足りるため、交流電圧指令値Vx*に一致した交流電圧を出力するために必要となる変換器の段数を減らすことができる。これは、直列多重変換器20の電圧利用率を向上させるものであり、直列多重変換器20の装置体格の小型化、軽量化およびコスト低減に寄与し得る。
また、第4段変換器25に多パルスモード適用したことで、土台に載せられる交流出力電圧の波形を交流電圧指令値Vx*に近づけることができる。したがって、4段直列多重変換器20の交流出力電圧に含まれる高調波成分の含有率を、交流電圧指令値Vx*の高調波成分の含有率と同等レベルに近づけることができる。
この結果、本実施の形態に係るPWM制御によれば、直列多重電力変換装置1全体として、交流出力電圧に含まれる高調波成分を低減しつつ、高い動作効率および電圧利用率を実現することができる。
なお、実施の形態1では4段直列多重変換器20のPWM制御について説明したが、本実施の形態に係るPWM制御は、第1段から第M段(Mは2以上の整数)の変換器からなるM段直列多重変換器に一般的に適用することができる。この場合、制御装置11は、第1段から第(M−1)段の変換器を単一パルスモードによって制御するとともに、第M段の変換器を多パルスモードによって制御する。交流電圧指令値Vx*の電気角0°〜180°の区間において、M段直列多重変換器の交流出力電圧は、第1段から第(M−1)段の変換器の台形形状の単一パルス電圧を積み上げることで、Vd×(M−1)の高さを有する土台が形成される。そして、この土台に第M段の変換器の複数パルス電圧が載せられることで、交流出力電圧は、Vd×(M−1),Vd×(M−1)+Vd/2,Vd×Mの3値をとることになる。
[実施の形態2]
実施の形態2では、上述した実施の形態1で示したPWM制御に用いられる交流電圧指令値Vx*の生成方法について説明する。以下の説明では、搬送波CW1,CW2は、図4および図6の例に倣って、交流電圧指令値Vx*の16倍の周波数を有するものとする。
搬送波CW1,CW2が交流電圧指令値Vx*の16倍の周波数を有する場合、図4に示すように、交流電圧指令値Vx*の電気角0°〜180°の区間には合計8パルスの搬送波が含まれることになる。すなわち、電気角0°〜180°の区間には8キャリア周期が含まれている。
本実施の形態では、この8キャリア周期のうちの最初の1.5キャリア周期(1.5パルス分)を区間Iに割り当て、最後の1.5キャリア周期(1.5パルス分)を区間IIIに割り当て、これらの中間の5キャリア周期(5パルス分)を区間IIに割り当てる。すなわち、区間Iは電気角0°〜33.75°の区間に相当し、区間IIは33.75°〜146.25°の区間に相当し、区間IIIは146.25°〜180°の区間に相当する。
3次高調波は、電気角33.75°および146.25°において、交流電圧指令値Vx*がVd×3となるように重畳される。例えば、電力系統2の交流電圧が公称定格電圧(系統電圧1p.u.、変換器無負荷)である場合、3次高調波の重畳比率(基本波成分に対する3次高調波の振幅の比率)は、約19%となる。
3次高調波の重畳比率は、電力系統2の交流電圧の振幅値に応じて変化させることができる。例えば、電力系統2が周波数60Hzでの定常運転時であって、最大電圧である場合、3次高調波の重畳比率を約12%とすることで、電気角33.75°および146.25°での交流電圧指令値Vx*をVd×3とすることができる。また、電力系統2の交流電圧が最小電圧(系統電圧0.9p.u.,変換器無負荷)である場合、3次高調波の重畳比率を約27%とすることで、電気角33.75°および146.25°での交流電圧指令値Vx*をVd×3とすることができる。
このように3次高調波の重畳比率は、電力系統2の交流電圧が大きいほど小さくなる。電力系統2の交流電圧の振幅値に応じて予め3次高調波の重畳比率を算出し、得られた交流電圧の振幅値と3次高調波の重畳比率との関係をテーブル化しておくことができる。
本実施の形態によれば、区間Iおよび区間IIIを合わせた3キャリア周期間において、第1段変換器28から第3段変換器26に1キャリア周期(1パルス分)ずつ割り当てられ、1キャリア周期間にいずれかの変換器の4つのスイッチング素子のうち2つが1回ずつオンオフすることになる。
また、区間IIでは、5キャリア周期間に第4段変換器25の4つのスイッチング素子のうち2つが5回ずつオンオフすることになる。したがって、第4段変換器25は、交流電圧指令値Vx*の電気角0°〜180°の区間において5キャリア周期間(5パルス分)に5つのパルス電圧を出力するように、5パルスモードで制御されることになる。
この結果、4段直列多重変換器20全体で見た場合、8キャリア周期間に、1キャリア周期ごとに4台の変換器25〜28のいずれかの4つのスイッチング素子のうちの2つが1回ずつオンオフされることとなる。これは、4段直列多重変換器20全体に多パルスモード(図6では、8パルスモード)が適用されている場合の動作と実質的に等価であるとみなすことができる。したがって、多パルスモードによる制御の利点である、交流出力電圧に含まれる高調波成分の含有率の低減という効果を得ることができる。
なお、上述した交流電圧指令値Vx*の生成方法を、M段直列多重変換器のPWM制御に適用した場合には、搬送波が交流電圧指令値Vxの2N倍(Nは2以上の整数)の周波数を有するとき、区間Iは電気角0°〜180×(M−1)/2N°の区間となり、区間IIは電気角180×(M−1)/2N°〜180×{1−(M−1)/2N}°の区間となり、区間IIIは180×{1−(M−1)/2N}°〜180°の区間となる。第M段の変換器は、区間IIにおいて、多パルスモードによって制御される。第M段の変換器は、この区間IIに{N−(M−1)}個のパルス電圧を出力する{N−(M−1}パルスモードで制御される。
[実施の形態3]
上述した実施の形態1および2では、電力系統2の交流電圧が公称定格電圧(1p.u.)である場合の4段直列多重変換器20のPWM制御について説明した。実施の形態3では、電力系統2の事故発生等によって系統電圧が公称定格電圧よりも低下している状態での4段直列多重変換器20のPWM制御について説明する。
図7から図9に示すように、制御装置11は、電力系統2の電圧低下度合いに応じて、4段直列多重変換器20のPWM制御を変化させる。図7は、系統電圧が公称定格電圧の約5/8まで低下した場合の4段直列多重変換器20のPWM制御を説明するための波形図である。図8は、系統電圧が公称定格電圧の約3/8まで低下した場合の4段直列多重変換器20のPWM制御を説明するための波形図である。図9は、系統電圧が公称定格電圧の約1/10まで低下した場合の4段直列多重変換器20のPWM制御を説明するための波形図である。なお、図7から図9のいずれにも、x相の交流電圧指令値Vx*および第1段変換器28から第4段変換器25の交流出力電圧の半周期(電気角0°〜180°の区間)の波形が示されている。図中の破線は系統電圧の波形を示している。
まず、図7を参照して、系統電圧が公称定格電圧の約5/8に低下している場合には、交流電圧指令値Vx*は、系統電圧に3次高調波成分を重畳することで、図7に示すような波形となる。図7の例では、3次高調波成分の重畳比率は約38%である。
制御装置11は、4段直列多重変換器20の交流出力電圧が交流電圧指令値Vx*に一致するように、第1段変換器28から第4段変換器25の各々の交流出力電圧をPWM制御する。具体的には、制御装置11は、第1段変換器28、第2段変換器27および第3段変換器26の各々を単一パルスモードによって制御するとともに、第4段変換器25を多パルスモード(図7では5パルスモード)によって制御する。
ただし、制御装置11は、第1段変換器28および第2段変換器27については、電気角0°〜180°の区間において単一のパルス電圧を出力するように制御する一方で、第3段変換器26については、1キャリア周期間にのみパルス電圧を出力するように制御する。
第3段変換器26の制御は、区間Iにおける電気角22.5°〜33.75°の区間(0.5キャリア周期分)と、区間IIIにおける電気角146.25°〜157.5°の区間(0.5キャリア周期分)とにおいて行なわれる。これらの区間では、交流電圧指令値Vx*と搬送波CW1,CW2との高低が比較され、その比較結果に基づいて、スイッチング素子S1x〜S4xのオンオフの組合せが決定される。また、交流電圧指令値−Vx*と搬送波CW1,CW2との高低が比較され、その比較結果に基づいて、スイッチング素子S5x〜S8xのオンオフの組合せが決定される。ただし、この比較には、交流電圧指令値VxからVd×2を減じたものが用いられるとともに、交流電圧指令値−VxにVd×2を足したものが用いられる。このVd×2は第1段変換器28および第2段変換器27の交流出力電圧の合成電圧に値する。これによると、電気角22.5°〜33.75°の区間および電気角146.25°〜157.5°の区間の各々において、第3段変換器26は1パルス電圧を出力する。
本実施の形態では、単一パルスモードのうち、交流電圧指令値Vx*の半周期(電気角0°〜180°の区間または電気角180°〜360°の区間)において単一のパルス電圧を出力するように変換器の制御指令を生成する制御モードを「単一長パルスモード」と称する。その一方で、交流電圧指令値Vx*の半周期のうちの1キャリア周期間のみにおいてパルス電圧を出力するように変換器の制御指令を生成する制御モードを「単一短パルスモード」と称する。単一短パルスモードでは、図7中に斜線で示すように、区間Iおよび区間IIIの各々において、0.5キャリア周期につき1パルス電圧が出力されるため、交流電圧指令値Vx*の半周期において2パルス電圧が出力されることになる。
図7の例では、第1段変換器28および第2段変換器27を単一長パルスモードによって制御し、第3段変換器26を単一短パルスモードによって制御し、第4段変換器25を多パルスモードによって制御することで、4段直列多重変換器20の交流出力電圧は、第1段変換器28および第2段変換器27の単一パルス電圧を積み上げたものに、第3段変換器26および第4段変換器25の複数パルス電圧を足したものとなる。
次に、図8を参照して、系統電圧が公称定格電圧の約3/8に低下している場合には、交流電圧指令値Vx*は、系統電圧に3次高調波成分を重畳することで、図8に示すような波形となる。図8の例では、3次高調波成分の重畳比率は約38%である。
制御装置11は、4段直列多重変換器20の交流出力電圧が交流電圧指令値Vx*に一致するように、第1段変換器28から第4段変換器25の各々の交流出力電圧をPWM制御する。具体的には、制御装置11は、第1段変換器28を単一長パルスモードによって制御し、第2段変換器27および第3段変換器26の各々を単一短パルスモードによって制御し、第4段変換器25を多パルスモード(図8では5パルスモード)によって制御する。
図8では、図7と比較して、第2段変換器27の制御が単一長パルスモードから単一短パルスモードに切り替えられている点が異なる。第2段変換器27の制御は、区間Iにおける電気角11.25°〜22.5°の区間(0.5キャリア周期分)と、区間IIIにおける電気角157.5°〜168.75°の区間(0.5キャリア周期分)とにおいて行なわれる。これらの区間では、交流電圧指令値Vx*と搬送波CW1,CW2との高低が比較され、その比較結果に基づいて、スイッチング素子S1x〜S4xのオンオフの組合せが決定される。また、交流電圧指令値−Vx*と搬送波CW1,CW2との高低が比較され、その比較結果に基づいて、スイッチング素子S5x〜S8xのオンオフの組合せが決定される。ただし、この比較には、交流電圧指令値VxからVdを減じたものが用いられるとともに、交流電圧指令値−VxにVdを足したものが用いられる。このVdは第1段変換器28の交流出力電圧に値する。これによると、図8中に斜線で示すように、電気角11.25°〜22.5°の区間および電気角157.5°〜168.75°の区間の各々において、第2段変換器27は1パルス電圧を出力する。
第3段変換器26の制御は、図7と同様に、区間Iにおける電気角22.5°〜33.75°の区間(0.5キャリア周期分)と、区間IIIにおける電気角146.25°〜157.5°の区間(0.5キャリア周期分)とにおいて行なわれる。図8中に斜線で示すように、電気角22.5°〜33.75°の区間および電気角146.25°〜157.5°の区間の各々において、第3段変換器26は1パルス電圧を出力する。
第1段変換器28を単一長パルスモードによって制御し、第2段変換器27および第3段変換器26を単一短パルスモードによって制御し、第4段変換器25を多パルスモードによって制御することで、4段直列多重変換器20の交流出力電圧は、第1段変換器28の単一パルス電圧に、第2段変換器27から第4段変換器25の複数パルス電圧を足したものとなる。
次に、図9を参照して、系統電圧が公称定格電圧の約1/10に低下している場合には、系統電圧に3次高調波成分を重畳しないため、交流電圧指令値Vx*は図9に示すような波形となる。
制御装置11は、4段直列多重変換器20の交流出力電圧が交流電圧指令値Vx*に一致するように、第1段変換器28から第4段変換器25の各々の交流出力電圧をPWM制御する。具体的には、制御装置11は、第1段変換器28、第2段変換器27および第3段変換器26の各々を単一短パルスモードによって制御し、第4段変換器25を多パルスモード(図9では5パルスモード)によって制御する。
図9では、図8と比較して、第1段変換器28の制御が単一長パルスモードから単一短パルスモードに切り替えられている点が異なる。第1段変換器28の制御は、区間Iにおける電気角0°〜11.25°の区間(0.5キャリア周期分)と、区間IIIにおける電気角168.75°〜180°の区間(0.5キャリア周期分)とにおいて行なわれる。これらの区間では、交流電圧指令値Vx*と搬送波CW1,CW2との高低が比較され、その比較結果に基づいて、スイッチング素子S1x〜S4xのオンオフの組合せが決定される。また、交流電圧指令値−Vx*と搬送波CW1,CW2との高低が比較され、その比較結果に基づいて、スイッチング素子S5x〜S8xのオンオフの組合せが決定される。これによると、図9中に斜線で示すように、電気角0°〜11.25°の区間および電気角168.75°〜180°の区間の各々において、第1段変換器28は1パルス電圧を出力する。
第2段変換器27の制御は、図8と同様に、区間Iにおける電気角11.25°〜22.5°の区間(0.5キャリア周期分)と、区間IIIにおける電気角157.5°〜168.75°の区間(0.5キャリア周期分)とにおいて行なわれる。図9中に斜線で示すように、電気角11.25°〜22.5°の区間および電気角157.5°〜168.75°の区間の各々において、第2段変換器27は1パルス電圧を出力する。
第3段変換器26の制御は、図7および図8と同様に、区間Iにおける電気角22.5°〜33.75°の区間(0.5キャリア周期分)と、区間IIIにおける電気角146.25°〜157.5°の区間(0.5キャリア周期分)とにおいて行なわれる。図8中に斜線で示すように、電気角22.5°〜33.75°の区間および電気角146.25°〜157.5°の区間の各々において、第3段変換器26は1パルス電圧を出力する。
第1段変換器28から第3段変換器26を単一短パルスモードによって制御し、第4段変換器25を多パルスモードによって制御することで、4段直列多重変換器20の交流出力電圧は、0.5キャリア周期ごとに出力される1パルス電圧によって、合計16個のパルス電圧で形成されることになる。
図9から明らかなように、4段直列多重変換器20全体の交流出力電圧の波形は、4段直列多重変換器20全体に多パルスモード(図9では、8パルスモード)が適用されている場合の動作と実質的に同じとなる。したがって、多パルスモードによる制御の利点である、高調波成分の含有率の低減という効果を得ることができる。
なお、第1段変換器28から第3段変換器26の各々においては、単一長パルスモードを単一短パルスモードよりも優先的に実行するものとする。具体的には、図10に示すように、交流電圧指令値Vx*が0から増加して閾値電圧Vthに一致するタイミングが、交流電圧指令値Vx*と搬送波CW1とが一致するタイミングよりも早いときには、単一長パルスモードが実行される。
一方、系統電圧が低下し、交流電圧指令値Vx*が閾値電圧Vthに一致するタイミングよりも交流電圧指令値Vx*と搬送波CW1とが一致するタイミングが早くなると、変換器の制御は単一長パルスモードから単一短パルスモードに切り替えられる。その結果、図7から図9に示すように、電圧低下の度合いが大きくなるに従って、第3段変換器26から第1段変換器28まで順番に、単一長パルスモードから単一短パルスモードに切り替えられることになる。
これによると、系統電圧の低下時においても、4段直列多重変換器20全体としては多パルスモードによって制御することができるため、交流出力電圧における高調波の含有率を低減することができる。
[実施の形態4]
実施の形態4では、本実施の形態に従う直列多重電力変換装置1における制御装置11の制御構造について説明する。
図11は、図1に示した制御装置11のうちの4段直列多重変換器20の制御に関す部分を示す回路ブロック図である。
図11において、制御装置11は、減算器110,112、電流制御部114、2相/3相変換部116、3f重畳演算部118、加算器120,122,124,132、PWM制御部126、乗算器128,130、および平方根134を含む。
d軸電流帰還値Idおよびq軸電流帰還値Iqは、電流検出器13(図1)により検出された電力系統2を流れる交流電流のd軸成分およびq軸成分であり、三相交流電流IR,IS,ITの検出値を3相/2相変換して得られたものである。d軸電流指令Id*およびq軸電流指令Iq*は、交流電流指令のd軸成分およびq軸成分であり、三相の電流指令値IR*,IS*,IT*を3相/2相変換して得られたものである。
減算器110は、d軸電流帰還値Idとd軸電流指令Id*との偏差Δd(=Id−Id*)を算出する。減算器112は、q軸電流帰還値Iqとq軸電流指令Iq*との偏差Δq(=Iq−Iq*)を算出する。
電流制御部114は、偏差Δd,Δqの各々が0となるようにd軸電圧指令Vd*とq軸電圧指令Vq*とを生成する。電流制御部114は、例えば偏差Δd,Δqを比例制御または比例積分制御に従って増幅することによりd軸電圧指令Vd*およびq軸電圧指令Vq*を生成する。
2相/3相変換部116は、d軸電圧指令Vd*およびq軸電圧指令Vq*を2相/3相変換することにより、三相の交流電圧指令値(R相電圧指令値VR♯、S相電圧指令値VS♯、T相電圧指令値VT♯)を生成する。
3f重畳演算部118は、交流電圧指令値VR♯,VS♯,VT♯の各々に重畳する3次高調波成分の重畳比率を算出する。3f重畳演算部118は、電流制御部114により生成されたd軸電圧指令Vd*およびq軸電圧指令Vq*に基づいて、3次高調波成分の重畳比率を算出し、算出した重畳比率に基づいて、各相の3次高調波成分を生成する。具体的には、実施の形態2で説明したように、3f重畳演算部118は、交流電圧指令値Vx*の電気角33.75°および146.25°において交流電圧指令値Vx*がVd×3となるように、3次高調波の重畳比率を算出する。なお、3f重畳演算部118は、予め交流電圧の振幅値に応じて3次高調波の重畳比率を算出しておき、得られた交流電圧の振幅値と3次高調波の重畳比率との関係をテーブル化しておくことができる。
加算器120は、R相電圧指令値VR♯とR相の3次高調波成分とを加算して、R相電圧指令値VR*を生成する。加算器122は、S相電圧指令値VS♯とS相の3次高調波成分とを加算して、S相電圧指令値VS*を生成する。加算器124は、T相電圧指令値VT♯とT相の3次高調波成分とを加算して、T相電圧指令値VT*を生成する。
乗算器128は、d軸電圧指令Vd*の二乗値Vd*2を算出する。乗算器130は、q軸電圧指令Vq*の二乗値Vq*2を算出する。加算器132は、d軸電圧指令の二乗値Vd*2とq軸電圧指令の二乗値Vq*2とを加算する。平方根134は、加算器132の加算結果の平方根(=(Vd*2+Vq*2)1/2)を算出することにより、交流電圧指令値V♯の基本波の振幅を算出する。
PWM制御部126は、交流電圧指令値VR*,VS*,VT*に基づいて、4段直列多重変換器20を制御するためのゲートパルス信号GC1〜GC4(図1)を生成する。PWM制御部126は、線間電圧の振幅に基づいてゲートパルス信号GC1〜GC4を生成する。
図12は、図11に示したPWM制御部126の構成を示すブロック図である。図12を参照して、PWM制御部126は、第1段制御部141、第2段制御部142、第3段制御部143、第4段制御部144、および搬送波生成器135を含む。
搬送波生成器135は、搬送波CW1,CW2として三角波信号を生成する。搬送波CW1は、図4に示されるように、最大値が+Vdであり、最小値が0である。搬送波CW2は、最大値が0であり、最小値は−Vdである。搬送波CW1,CW2の周波数および位相は同じである。搬送波CW1,CW2は、交流電圧指令値Vx*の2N倍(例えばN=8)の周波数を有しており、交流電圧指令値Vx*に同期した信号である。
第1段制御部141は、交流電圧指令値Vx*(VR*,VS*,VT*)に基づいて、第1段変換器28におけるスイッチング素子S1x〜S8xのオンオフを制御するための制御指令であるゲートパルス信号GC1を生成する。
第2段制御部142は、交流電圧指令値Vx*(VR*,VS*,VT*)に基づいて、第2段変換器27におけるスイッチング素子S1x〜S8xのオンオフを制御するための制御指令であるゲートパルス信号GC2を生成する。
第3段制御部143は、交流電圧指令値Vx*(VR*,VS*,VT*)に基づいて、第3段変換器26におけるスイッチング素子S1x〜S8xのオンオフを制御するための制御指令であるゲートパルス信号GC3を生成する。
第4段制御部144は、交流電圧指令値Vx*(VR*,VS*,VT*)に基づいて、第4段変換器25におけるスイッチング素子S1x〜S8xのオンオフを制御するための制御指令であるゲートパルス信号GC4を生成する。
図13は、図12に示した第4段制御部144の構成例を示すブロック図である。図13を参照して、第4段制御部144は、減算器150、乗算器152、比較器COM1〜COM4、および反転器I1〜I4を含む。
減算器150は、交流電圧指令値Vx*からVd×3を減算する。Vd×3は第1段変換器28から第3段の変換器26の交流出力電圧の合成電圧に値する。
乗算器152は、交流電圧指令値Vx*からVd×3を減じたもの(=Vx*−Vd×3)に−1を乗じる。乗算器152の乗算値は、交流電圧指令値−Vx*にVd×3を加算した者に値する。
比較器COM1は、非反転入力端子(+端子)に交流電圧指令値Vx*−Vd×3を受け、反転入力端子(−端子)に搬送波CW1を受ける。比較器COM1は、交流電圧指令値Vx*−Vd×3および搬送波CW1の高低を比較し、比較結果を示す信号を出力する。比較器COM1の出力信号は、第4段変換器25のスイッチング素子S1xのゲートパルス信号となる。
反転器I1は、比較器COM1の出力信号を反転する。反転器I1の出力信号は、第4段変換器25のスイッチング素子S3xのゲートパルス信号となる。
比較器COM2は、非反転入力端子(+端子)に交流電圧指令値Vx*−Vd×3を受け、反転入力端子(−端子)に搬送波CW2を受ける。比較器COM2は、交流電圧指令値Vx*−Vd×3および搬送波CW2の高低を比較し、比較結果を示す信号を出力する。比較器COM2の出力信号は、第4段変換器25のスイッチング素子S2xのゲートパルス信号となる。
反転器I2は、比較器COM2の出力信号を反転する。反転器I2の出力信号は、第4段変換器25のスイッチング素子S4xのゲートパルス信号となる。
比較器COM3は、非反転入力端子(+端子)に交流電圧指令値−Vx*+Vd×3を受け、反転入力端子(−端子)に搬送波CW1を受ける。比較器COM1は、交流電圧指令値−Vx*+Vd×3および搬送波CW1の高低を比較し、比較結果を示す信号を出力する。比較器COM3の出力信号は、第4段変換器25のスイッチング素子S5xのゲートパルス信号となる。
反転器I3は、比較器COM3の出力信号を反転する。反転器I3の出力信号は、第4段変換器25のスイッチング素子S7xのゲートパルス信号となる。
比較器COM4は、非反転入力端子(+端子)に交流電圧指令値−Vx*+Vd×3を受け、反転入力端子(−端子)に搬送波CW2を受ける。比較器COM4は、交流電圧指令値−Vx*+Vd×3および搬送波CW2の高低を比較し、比較結果を示す信号を出力する。比較器COM4の出力信号は、第4段変換器25のスイッチング素子S6xのゲートパルス信号となる。
反転器I4は、比較器COM4の出力信号を反転する。反転器I4の出力信号は、第4段変換器25のスイッチング素子S8xのゲートパルス信号となる。
図14は、図12に示した第1段制御部141から第3段制御部143の構成例を示すブロック図である。図14では、第1段制御部141から第3段制御部143の構成を総括的に説明するため、符号1,2,3をまとめて符号「i」と示す。
図14を参照して、第i段制御部14iは、単一長パルスモード制御部160と、単一短パルスモード制御部162と、スイッチ164と、モード切替部166とを含む。
単一長パルスモード制御部160は、単一長パルスモードを実行することにより、交流電圧指令値Vx*に基づいてゲートパルス信号GCiを生成する。単一短パルスモード制御部162は、単一短パルスモードを実行することにより、交流電圧指令値Vx*に基づいてゲートパルス信号GCiを生成する。
図15は、図14に示した単一長パルスモード制御部160の構成例を示すブロック図である。図15を参照して、単一長パルスモード制御部160は、乗算器170、比較器COM11〜COM14、および反転器I11〜I14を含む。
乗算器170は、交流電圧指令値Vx*に−1を乗じることにより、交流電圧指令値−Vx*を算出する。
比較器COM11は、非反転入力端子(+端子)に交流電圧指令値Vx*を受け、反転入力端子(−端子)に第i閾値電圧Vthiを受ける。比較器COM11は、交流電圧指令値Vx*および第i閾値電圧Vthiの高低を比較し、比較結果を示す信号を出力する。比較器COM11の出力信号は、第i段変換器のスイッチング素子S1xのゲートパルス信号となる。
反転器I11は、比較器COM11の出力信号を反転する。反転器I11の出力信号は、第i段変換器のスイッチング素子S3xのゲートパルス信号となる。
比較器COM12は、非反転入力端子(+端子)に交流電圧指令値Vx*を受け、反転入力端子(−端子)に第i閾値電圧/Vthiを受ける。/VthiはVthiを−Vdオフセットさせた電圧である。比較器COM12は、交流電圧指令値Vx*および第i閾値電圧/Vthiの高低を比較し、比較結果を示す信号を出力する。比較器COM12の出力信号は、第i段変換器のスイッチング素子S2xのゲートパルス信号となる。
反転器I12は、比較器COM12の出力信号を反転する。反転器I12の出力信号は、第i段変換器のスイッチング素子S4xのゲートパルス信号となる。
比較器COM13は、非反転入力端子(+端子)に交流電圧指令値−Vx*を受け、反転入力端子(−端子)に第i閾値電圧Vthiを受ける。比較器COM13は、交流電圧指令値−Vx*および第i閾値電圧Vthiの高低を比較し、比較結果を示す信号を出力する。比較器COM13の出力信号は、第i段変換器のスイッチング素子S5xのゲートパルス信号となる。
反転器I13は、比較器COM13の出力信号を反転する。反転器I13の出力信号は、第i段変換器のスイッチング素子S7xのゲートパルス信号となる。
比較器COM14は、非反転入力端子(+端子)に交流電圧指令値−Vx*を受け、反転入力端子(−端子)に第i閾値電圧/Vthiを受ける。比較器COM14は、交流電圧指令値−Vx*および第i閾値電圧/Vthiの高低を比較し、比較結果を示す信号を出力する。比較器COM14の出力信号は、第i段変換器のスイッチング素子S6xのゲートパルス信号となる。
反転器I14は、比較器COM14の出力信号を反転する。反転器I14の出力信号は、第i段変換器のスイッチング素子S8xのゲートパルス信号となる。
図16は、図14に示した単一短パルスモード制御部162の構成例を示すブロック図である。図16を参照して、単一短パルスモード制御部162は、図13に示した第4段制御部144と同じ構成を有する。ただし、単一短パルスモード制御部162は、減算器150が交流電圧指令値Vx*からVd×(i−1)を減算する点が第4段制御部144とは異なる。このVd×(i−1)は、第1段から第(i−1)段の変換器の交流出力電圧の合成電圧に値する。
図14に戻って、スイッチ164は、単一長パルスモード制御部160により生成されたゲートパルス信号GCiと、単一短パルスモード制御部162により生成されたゲートパルス信号GCiのうちの一方を選択して、第i段変換器に出力するように構成される。
モード切替部166は、スイッチ164を用いて、単一長パルスモードおよび単一短パルスモードを切り替える。モード切替部166は、平方根134(図11)により算出された交流電圧指令値V♯の基本波振幅(=(Vd*2+Vq*2)1/2)に応じて、単一長パルスモードおよび単一短パルスモードを切り替える。
ここで、単一長パルスモードおよび単一短パルスモードを切り替えるための判定値は、第1段変換器28、第2段変換器27および第3段変換器26の間で互いに異なるように設定される。
具体的には、第3段制御部143は、交流電圧指令値V♯の基本波振幅が公称定格電圧の5/8以上のときには単一長パルスモードを選択する一方で、基本波振幅が公称定格電圧の5/8未満のときには単一短パルスモードを選択する。
第2段制御部142は、基本波振幅が公称定格電圧の3/8以上のときには単一長パルスモードを選択する一方で、基本波振幅が公称定格電圧の3/8未満のときには単一短パルスモードを選択する。
第1段制御部141は、基本波振幅が公称定格電圧の1/8以上のときには単一長パルスモードを選択する一方で、基本波振幅が公称定格電圧の1/8未満のときには単一短パルスモードを選択する。
なお、第3段制御部143は、単一短パルスモードを選択した場合には、電気角22.5°〜33.75°の区間および電気角146.25°〜157.5°の区間の各々において、1パルス電圧を出力するように第3段変換器26のゲートパルス信号GC3を生成する。第2段制御部142は、単一短パルスモードを選択した場合には、電気角11.25°〜22.5°の区間および電気角157.5°〜168.75°の区間の各々において、1パルス電圧を出力するように第2段変換器27のゲートパルス信号GC2を生成する。第1段制御部141は、単一短パルスモードを選択した場合には、電気角0°〜11.25°°の区間および電気角168.75°〜180°の区間の各々において、1パルス電圧を出力するように第1段変換器28のゲートパルス信号GC1を生成する。
これによると、系統電圧の低下時には、その電圧低下度合いに応じて、第1段変換器28から第3段変換器26の制御は単一長パルスモードから単一短パルスモードに切り替えられる。したがって、図7から図9で示したように、電圧低下の度合いが大きくなるに従って、第3段変換器26から第1段変換器28まで順番に、単一長パルスモードから単一短パルスモードに切り替えられることになる。これにより、系統電圧の低下時においても、4段直列多重変換器20全体としては多パルスモードによって制御することができるため、交流出力電圧における高調波の含有率を低減することができる。
[実施の形態5]
上述した実施の形態1から4によれば、交流電圧指令値Vx*の電気角33.75°〜146.25°の区間IIにおいて、第4段変換器25のR相、S相、T相のスイッチング素子は常にオンオフするが、3相のうち2相のスイッチング素子のみをオンオフさせることができる。
図17は、定格出力時の4段直列多重変換器20の動作波形図である。図17では、4段直列多重変換器20は最大電圧を出力している。この場合、3次高調波の重畳比率を約12%とすることで、電気角33.75°および146.25°において交流電圧指令値Vx*がVd×3とすることができる。
実施の形態5では、各相の交流電圧指令値Vx*のうち、振幅が最大の相の電圧指令値をVd×4と一致させて、残りの2相の電圧指令値を変換器の出力線間電圧を維持するように補正する。図18は、このようにして各相の電圧指令値を発生させたときの4段直列多重変換器20の動作波形図である。図18において、一点鎖線は元の交流電圧指令値Vx*である。
図18に示すように、3相のうち振幅が最大の相の電圧指令値を、電気角60°〜120°の区間においてVd×4に固定する。この区間において、他の2相との線間電圧に影響がでないように、他の2相の電圧指令値を補正する。図18では、電気角0°〜60°の区間および電気角120°〜180°の区間の各々では、他の相の電圧指令値がVd×4に固定されているため、電圧指令値が補正されている。このような変調方法は、二相変調と呼ばれる。
本実施の形態によれば、第4段変換器25の単相フルブリッジ3レベル回路は、1周期当たり120°の期間スイッチングしないため、元の5パルスモードと比較してスイッチング素子のスイッチング回数が減少する。これにより、スイッチングによる変換器の損失を低減できる。したがって、4段直列多重変換器20全体で動作効率をより一層高めることが可能となる。
[変更例]
なお、上述した実施の形態では、本発明の直列多重電力変換装置として、BTBシステムを例示したが、この構成に限られることはない。例えば、本発明の直列多重電力変換装置は、自励式SVC(静止形無効電力補償装置)にも適用することができる。
また、上述した実施の形態では、直列多重変換器を構成する複数段の変換器を3レベル回路により構成する例を説明したが、各段の変換器を2レベル回路または4レベル以上のマルチレベル回路によって構成することも可能である。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。