以下に添付図面を参照しながら、本開示の一実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本開示を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本開示に直接関係のない要素は図示を省略する。
(第1の実施形態:材料製造方法)
図1は、第1の実施形態にかかる材料製造方法の処理の流れを説明するフローチャートである。図1に示すように、本実施形態にかかる材料製造方法は、形成工程S110と、炭素低減工程S120とを含む。以下、形成工程S110、炭素低減工程S120の詳細について説明する。
(形成工程S110)
形成工程S110は、材料製造装置100を用いて、基板上にカーボンナノウォールを形成させつつ、カーボンナノウォールにドープ元素をドープし、材料を製造する工程である。
図2は、材料製造装置100の具体的な構成を説明する図である。図2に示すように、材料製造装置100は、所謂プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)装置であり、チャンバ110と、基板ホルダ120と、ターゲット保持部130と、プラズマ銃140とを含んで構成される。
チャンバ110には、ガス供給口112が形成されている。ガス供給口112を介して、チャンバ110の内部に反応ガスが供給される。反応ガスは、メタン(CH4)等のカーボンナノウォールを形成することができるガスである。また、チャンバ110には、不図示の真空ポンプが接続されており、真空ポンプによって内部が所定の圧力に維持される。
基板ホルダ120は、チャンバ110内に配され、基板Sを保持する。基板Sは、例えばシリコン(Si)、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、ジルコン(Zr)、ニオブ(Nb)等の炭化物を形成しやすい元素を含んで構成される。
ターゲット保持部130は、チャンバ110内に配され、スパッタリングターゲットTを保持する。スパッタリングターゲットTは、リチウム(Li)、ベリリウム(Be)、ナトリウム(Na)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)、スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、ルビジウム(Rb)、ストロンチウム(Sr)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、カドミウム(Cd)、インジウム(In)、スズ(Sn)、セシウム(Cs)、バリウム(Ba)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、レニウム(Re)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、金(Au)、水銀(Hg)、タリウム(Tl)、鉛(Pb)、および、ビスマス(Bi)の群から選択される1の金属(ドープ元素)、または、複数の合金で構成される。また、ターゲット保持部130は、スパッタリングターゲットTに所定の周波数でパルス電流(DC)を流す。
プラズマ銃140は、チャンバ110内にプラズマ流PFを放出する。プラズマ銃140は、既存の様々な技術(例えば、特開2008−056546号公報)を利用できるので、ここでは、詳細な説明を省略する。プラズマ銃140がプラズマ流PFを放出することにより、プラズマ流PFを構成するプラズマが、反応ガスを分解するとともに、スパッタリングターゲットTに衝突する。そうすると、基板S上にカーボンナノウォールが形成されるとともに、スパッタリングターゲットTを構成する原子が、スパッタリングターゲットTから放出され(スパッタ)、カーボンナノウォールにドープされることとなる。
以下、形成工程S110として遂行し得る3つの処理パターンについて説明する。
(形成工程S110の第1の処理パターン)
第1の処理パターンでは、まず、基板Sを基板ホルダ120に保持させるとともに、ガス供給口112を通じて反応ガスをチャンバ110内に供給する。そして、ターゲット保持部130による、スパッタリングターゲットTへのパルス電流の供給と同時に、プラズマ銃140を駆動する。つまり、基板Sへのカーボンナノウォールの形成の開始と同時に、カーボンナノウォールへのドープ元素のドープを行う。そうすると、ドープ元素がドープされたカーボンナノウォール(カーボンナノウォールをテンプレートとしてなる構造体)が基板S上に形成されることとなる。
図3は、カーボンナノウォールを説明する図である。なお、本実施形態の図3(b)、図3(d)では、垂直に交わるX軸、Y軸、Z軸を図示の通り定義している。カーボンナノウォールは、図3(a)に示すようなグラフェンシート(図3(a)中、炭素原子(C)を白丸で示す)が、図3(b)に示すように、基板Sの表面上から立設したもの(垂直状に成長したもの)である。カーボンナノウォールが基板S上に形成される際には、図3(c)、図3(d)に示すように、まず、基板Sの表面に、グラファイト層またはアモルファスカーボン層が形成される。グラファイト層またはアモルファスカーボン層は、基板Sの表面の面内方向に沿って、基板Sの表面に形成される。例えば、グラファイト層またはアモルファスカーボン層は、基板Sの表面の面内方向に平行に、基板Sの表面に形成される。
そして、カーボンナノウォールは、グラファイト層またはアモルファスカーボン層を介して、基板Sの表面に対して垂直方向(図3(b)、図3(d)中、Y軸方向)に延在(延伸)するように複数形成される。ここで、カーボンナノウォールにおける基板Sと平行な方向(図3(b)中、X軸方向)の厚みは、1nm以上100nm以下であり、カーボンナノウォール間の図3(b)中、X軸方向の距離も、1nm以上10μm以下である。
なお、カーボンナノウォールは自己組織化機能を有しているため、材料製造装置100において反応ガスの雰囲気中でプラズマを発生させるだけで、複数のカーボンナノウォールの間にナノメートルサイズの空隙を形成しながら、カーボンナノウォールが基板Sの表面に対して垂直方向(図3中、Y軸方向)に延伸するように成長する。ここで、ナノメートルサイズとは1nm以上10μm以下のことを示す。
そして、第1の処理パターンでは、基板Sへのカーボンナノウォールの形成の開始と同時に、カーボンナノウォールへのドープ元素のドープを行う。図4は、形成工程S110で製造された材料200を説明する図である。本実施形態の図4では、垂直に交わるX軸、Y軸、Z軸を図示の通り定義している。
図4(a)に示すように、第1の処理パターンで製造された材料200(以下、材料200Aで示す)は、基板Sと、下地層210と、CNW層220とを含んで構成される。下地層210は、基板Sの表面の面内方向に沿って形成された層である。下地層210は、ドープ元素がドープされたグラファイト(または、ドープ元素がドープされたアモルファスカーボン)で構成される。CNW層220は、ドープ元素がドープされたカーボンナノウォール222を複数含んで構成される。カーボンナノウォール222は、下地層210から、基板Sの表面(面内方向)に対して垂直方向(図4中、Y軸方向)に延在したものである。また、CNW層220において、カーボンナノウォール222は、隣り合うカーボンナノウォール222との間に、ナノメートルサイズの間隙222aを維持して下地層210から延在している。
第1の処理パターンで形成工程S110を遂行することにより、CNW層220のみならず、下地層210にドープ元素をドープすることができる。これにより、基板Sを構成する元素とドープ元素とが結合することになり、下地層210(CNW層220)と基板Sとの結合を強くすることが可能となる。例えば、基板Sとしてシリコン基板を採用し、ドープ元素として鉄を採用した場合、Fe−Siとなり、CNW層220(下地層210)と、基板Sとの結合を強固なものとすることができる。
こうして、下地層210(薄膜)と、厚みが1nm以上10nm以下であり、互いに50nm以上1μm以下の離隔距離を維持して、下地層210から立設した複数のカーボンナノウォール222とを備える材料200Aが製造される。
(形成工程S110の第2の処理パターン)
第2の処理パターンでは、まず、基板Sを基板ホルダ120に保持させるとともに、ガス供給口112を通じて反応ガスをチャンバ110内に供給して、スパッタリングターゲットTへのパルス電流の供給を行わずに、プラズマ銃140を駆動する。そして、プラズマ銃140の駆動開始から第1所定時間経過した後に、スパッタリングターゲットTへのパルス電流の供給を開始してスパッタを行う。つまり、基板Sへのカーボンナノウォールの形成を開始した後、第1所定時間経過した後に、カーボンナノウォールへのドープ元素のドープを行う。ここで、第1所定時間は、基板Sにグラファイト層、または、アモルファスカーボン層が形成される時間であって、カーボンナノウォールが形成されるまでの時間である。そうすると、ドープ元素がドープされたカーボンナノウォール(カーボンナノウォールをテンプレートとしてなる構造体)が、基板S上、詳細には、グラファイト層(またはアモルファスカーボン層)上に形成されることとなる。
具体的に説明すると、図4(b)に示すように、第2の処理パターンで製造された材料200(以下、材料200Bで示す)は、基板Sと、下地層230と、CNW層220とを含んで構成される。下地層230は、基板Sの表面の面内方向に沿って形成された層である。下地層230は、材料200Aとは異なり、ドープ元素を含まないグラファイト(または、アモルファスカーボン)で構成される。
第2の処理パターンで形成工程S110を遂行することにより、カーボンナノウォールのみにドープ元素がドープされた材料200Bを製造することができる。
(形成工程S110の第3の処理パターン)
第3の処理パターンでは、まず、基板Sを基板ホルダ120に保持させるとともに、ガス供給口112を通じて反応ガスをチャンバ110内に供給して、スパッタリングターゲットTへのパルス電流の供給を行わずに、プラズマ銃140を駆動する。そして、プラズマ銃140の駆動開始から第2所定時間経過した後に、スパッタリングターゲットTへのパルス電流の供給を開始してスパッタを行う。つまり、基板Sへのカーボンナノウォールの形成を開始した後、第2所定時間経過した後に、カーボンナノウォールへのドープ元素のドープを行う。ここで、第2所定時間は、基板Sへのカーボンナノウォールの形成が開始した後の所定の時間である。そうすると、ドープ元素がドープされたカーボンナノウォール(カーボンナノウォールをテンプレートとしてなる構造体)が、カーボンナノウォール上に形成されることとなる。
具体的に説明すると、図4(c)に示すように、第3の処理パターンで製造された材料200(以下、材料200Cで示す)は、基板Sと、下地層230と、CNW層240とを含んで構成される。CNW層240は、材料200A、200BのCNW層220とは異なり、一部(先端部)がドープ元素でドープされたカーボンナノウォール242で構成される。具体的に説明すると、図4(c)に示すように、カーボンナノウォール242は、基端部(下地層230側の端部)から所定位置までは、ドープ元素がドープされておらず、所定位置から先端部までドープ元素がドープされている。換言すれば、CNW層240は、ドープ元素を含まないカーボンナノウォール244aを含んで構成され、下地層230上に形成された第1層244と、ドープ元素がドープされたカーボンナノウォール246aを含んで構成され、第1層244上に形成された第2層246とで構成される。
なお、カーボンナノウォール242は、材料200Bと同様に、下地層230から、基板Sの表面(面内方向)に対して垂直方向(図4中、Y軸方向)に延在したものである。また、CNW層240において、カーボンナノウォール242は、ナノメートルサイズの間隙242aを維持して下地層230から延在している。
第3の処理パターンで形成工程S110を遂行することにより、カーボンナノウォールの一部にのみにドープ元素がドープされた材料200Cを製造することができる。
(炭素低減工程S120)
炭素低減工程S120は、ドープ元素がドープされたカーボンナノウォールから炭素を低減するである。本実施形態において、炭素低減工程S120は、材料200を所定の雰囲気中で加熱する工程である。ここで、所定の雰囲気は、少なくとも酸素を含んだ雰囲気であり、例えば、大気(空気)である。
また、炭素低減工程S120における雰囲気の圧力は、大気圧以上である。これにより、材料200からの炭素の脱離効率(低減効率)を向上させることができる。
また、炭素低減工程S120における雰囲気の温度(以下、「雰囲気温度」と称する)は、400℃以上800℃以下であり、好ましくは、500℃以上700℃以下であり、より好ましくは、600℃である。雰囲気温度が400℃未満であると、材料200から炭素を除去することができない。一方、雰囲気温度が800℃を上回ると、構造体(CNW層220、CNW層240)がナノ構造を維持できなくなる。
炭素低減工程S120を遂行することにより、材料200から炭素を除去する(材料200中の炭素を低減する)ことができる。
図5は、炭素低減工程S120で製造された材料300を説明する図である。本実施形態の図5では、垂直に交わるX軸、Y軸、Z軸を図示の通り定義している。
上記第1の処理パターンの形成工程S110で製造された材料200Aに対し、炭素低減工程S120を遂行すると、図5に示すように、基板Sと、下地層310と、ナノ構造層320とを含んで構成される材料300(以下、材料300Aで示す)が製造される。
下地層310は、上記下地層210から炭素が除去された層(薄膜)である。したがって、下地層310は、ドープ元素(またはドープ元素の酸化物(金属酸化物))で構成され、基板Sの表面の面内方向に沿って形成された層である。
ナノ構造層320は、上記CNW層220から炭素が除去された層である。したがって、ナノ構造層320は、ドープ元素(またはドープ元素の酸化物(金属酸化物))がカーボンナノウォール形状に構成された構造体322(カーボンナノウォールをテンプレートとしてなる構造体)で構成された層である。具体的に説明すると、ナノ構造層320は、基板Sの表面に対して垂直方向(図5中、Y軸方向)に延在(立設)した構造体322を複数含んで構成される。なお、構造体322における基板Sと平行な方向(図5中、X軸方向)の厚みは、1nm以上1μm以下(例えば、1nm以上10nm以下)であり、構造体322間(間隙322a)の図5中、X軸方向の距離は、50nm以上1μm以下である。
また、上記したように、材料200Aは、基板Sを構成する元素と下地層210のドープ元素とが結合している。このため、炭素低減工程S120を遂行しても、下地層310と基板Sとの結合は維持されることとなる。つまり、材料300Aは、下地層310(ナノ構造層320)と基板Sとが結合したものとなる。
こうして、下地層310(薄膜)と、厚みが1nm以上10nm以下であり、互いに50nm以上1μm以下の離隔距離を維持して、下地層310から立設した複数の構造体322とを備える材料300Aが製造される。
また、炭素低減工程S120では、雰囲気温度、雰囲気圧力、加熱時間を制御することにより、炭素の低減率を調整することができる。つまり、炭素低減工程S120において、雰囲気温度、雰囲気圧力、加熱時間を制御することにより、材料200から炭素をすべて除去することもでき、また、材料200から一部(所定量)の炭素を除去することもできる。
(第2の実施形態:材料製造方法)
図6は、第2の実施形態にかかる材料製造方法の処理の流れを説明するフローチャートである。図6に示すように、本実施形態にかかる材料製造方法は、形成工程S110と、炭素低減工程S220とを含む。なお、上述した第1の実施形態と実質的に等しい処理、および、構成要素については、同一の符号を付して重複説明を省略する。
(炭素低減工程S220)
炭素低減工程S220は、所定のプラズマ雰囲気中に、材料200を曝す工程である。ここで、所定のプラズマ雰囲気は、例えば、水素(H2)プラズマ、窒素(N2)プラズマ、酸素プラズマである。
また、炭素低減工程S220におけるプラズマ雰囲気の圧力は、10Pa以上100Pa以下(ECRプラズマ処理や、RFプラズマ処理の際の真空度と同程度)である。
また、炭素低減工程S220におけるプラズマ雰囲気の温度(以下、「プラズマ雰囲気温度」と称する)は、室温(例えば、25℃)以上800℃以下であり、好ましくは、500℃以上700℃以下であり、より好ましくは、600℃である。プラズマ雰囲気温度が室温未満であると、材料200から炭素を除去することができない。プラズマ雰囲気温度が800℃を上回ると、構造体(CNW層220、CNW層240)がナノ構造を維持できなくなる。
炭素低減工程S220を遂行することにより、材料200から炭素を除去することができる。なお、炭素低減工程S220では、基板Sの反対側、すなわち、CNW層220の先端部側、第2層246の先端部側から酸素プラズマ処理を施すとよい。これにより、CNW層220の先端部側、第2層246の先端部側から、炭素に対して酸化処理が行われることとなる。
図7は、炭素低減工程S220で製造された材料300を説明する図である。本実施形態の図7では、垂直に交わるX軸、Y軸、Z軸を図示の通り定義している。
上記第2の処理パターンの形成工程S110で製造された材料200Bに対し、炭素低減工程S220を遂行すると、図7(a)に示すように、基板Sと、下地層230と、ナノ構造層320とを含んで構成される材料300(以下、材料300Bで示す)が製造される。
また、上記第3の処理パターンの形成工程S110で製造された材料200Cに対し、炭素低減工程S220を遂行すると、図7(b)に示すように、基板Sと、下地層230と、ナノ構造層340とを含んで構成される材料300(以下、材料300Cで示す)が製造される。
ナノ構造層340は、上記CNW層240から炭素が除去された層である。ナノ構造層340は、基板Sの表面に対して垂直方向(図7中、Y軸方向)に延在(立設)した構造体342を複数含んで構成される。なお、構造体342における基板Sと平行な方向(図7中、X軸方向)の厚みは、1nm以上10nm以下であり、構造体342間(間隙342a)の図7中、X軸方向の距離は、50nm以上1μm以下である。
具体的に説明すると、ナノ構造層340は、一部(先端部)がドープ元素で構成され、他部(基端部)がカーボンナノウォール244aで構成されたカーボンナノウォール形状の構造体342(カーボンナノウォールをテンプレートとしてなる構造体)で構成された層である。換言すれば、ナノ構造層340は、カーボンナノウォール244aを含んで構成され、下地層230上に形成された第1層244と、ドープ元素がカーボンナノウォール形状に構成された構造体346aを含んで構成され、第1層244上に形成された第2層346とで構成される。
このように製造された材料300Cは、デバイスとして利用することが考えられる。具体的に説明すると、第2層346に光が照射されると、構造体346aが励起され電子が放出される。そして、放出された電子は、第1層244(カーボンナノウォール244a)を介して下地層230に流れることになる。したがって、材料300Cを、光を検知するデバイスとして利用することができる。
また、材料300Cは、水分解により水素を発生させるデバイス(例えば、Ji-Wook Jang et al., Enabling unassisted solar water splitting by iron oxide and silicon, Nature Communications 6 (2015))における光アノード(Photoanode)として利用することもできる。
また、炭素低減工程S220では、プラズマ雰囲気温度、プラズマ雰囲気圧力、プラズマ処理時間を制御することにより、炭素の低減率を調整することができる。つまり、炭素低減工程S220において、プラズマ雰囲気温度、プラズマ雰囲気圧力、プラズマ処理時間を制御することにより、材料200から炭素をすべて除去することもでき、また、材料200から一部(所定量)の炭素を除去することもできる。
(実施例)
基板Sとしてシリコン基板を採用し、ドープ元素として鉄を採用して、材料製造装置100を用いて材料を製造した。
図8は、試験条件を説明する図である。図8に示すように、実施例Aは、材料製造装置100のターゲット保持部130がスパッタリングターゲットTに流す電流の周波数(以下、単に「周波数」と称する)を50kHzとし、炭素低減工程S120における雰囲気ガスを大気とし、雰囲気温度を800℃とし、加熱時間を1時間として材料を製造した。実施例Bは、周波数を100kHzとし、炭素低減工程S120における雰囲気ガスを大気とし、雰囲気温度を800℃とし、加熱時間を1時間として材料を製造した。
実施例Cは、周波数を50kHzとし、炭素低減工程S120における雰囲気ガスを大気とし、雰囲気温度を600℃とし、加熱時間を1時間として材料を製造した。実施例Dは、周波数を100kHzとし、炭素低減工程S120における雰囲気ガスを大気とし、雰囲気温度を600℃とし、加熱時間を1時間として材料を製造した。
実施例Eは、周波数を50kHzとし、炭素低減工程S120における雰囲気ガスを大気とし、雰囲気温度を400℃とし、加熱時間を1時間として材料を製造した。実施例Fは、周波数を100kHzとし、炭素低減工程S120における雰囲気ガスを大気とし、雰囲気温度を400℃とし、加熱時間を1時間として材料を製造した。
実施例Gは、周波数を50kHzとし、炭素低減工程S120における雰囲気ガスを大気とし、雰囲気温度を400℃とし、加熱時間を3時間として材料を製造した。実施例Hは、周波数を100kHzとし、炭素低減工程S120における雰囲気ガスを大気とし、雰囲気温度を400℃とし、加熱時間を3時間として材料を製造した。
実施例Iは、周波数を50kHzとし、炭素低減工程S120における雰囲気ガスを大気とし、雰囲気温度を400℃とし、加熱時間を10時間として材料を製造した。実施例Jは、周波数を100kHzとし、炭素低減工程S120における雰囲気ガスを大気とし、雰囲気温度を400℃とし、加熱時間を10時間として材料を製造した。
実施例Kは、周波数を100kHzとし、炭素低減工程S220におけるプラズマ雰囲気を水素プラズマとし、プラズマ雰囲気温度を675℃とし、プラズマ処理時間を30分として材料を製造した。実施例Lは、周波数を100kHzとし、炭素低減工程S220におけるプラズマ雰囲気を窒素プラズマとし、プラズマ雰囲気温度を675℃とし、プラズマ処理時間を30分として材料を製造した。
実施例A〜Lで製造した材料をXPS(X線光電分光法)で分析した。図9は、実施例A〜FをXPSで分析した結果を説明する図である。図10は、実施例G〜LをXPSで分析した結果を説明する図である。なお、図9、図10中、スパッタ時間は、ナノ構造層320をスパッタした(削った)時間を示す。
図9に示すように、実施例Aでは、スパッタ時間が0分、つまりナノ構造層320の最表面の炭素(C):酸素(O):鉄(Fe)の組成比(at%の比)は、28.22:54.17:17.61であった。実施例Bでは、スパッタ時間が0分の場合の炭素(C):酸素(O):鉄(Fe)の組成比(at%の比)は、25.92:54.03:20.06であった。
実施例Cでは、スパッタ時間が0分の場合の炭素(C):酸素(O):鉄(Fe)の組成比(at%の比)は、11.15:58.82:30.04であった。また、スパッタ時間が1分の場合の炭素(C):酸素(O):鉄(Fe)の組成比(at%の比)は、0.00:52.24:47.76であった。また、スパッタ時間が10分の場合の炭素(C):酸素(O):鉄(Fe)の組成比(at%の比)は、0.00:54.12:45.88であった。
実施例Dでは、スパッタ時間が0分の場合の炭素(C):酸素(O):鉄(Fe)の組成比(at%の比)は、12.4:57.9:29.69であった。また、スパッタ時間が1分の場合の炭素(C):酸素(O):鉄(Fe)の組成比(at%の比)は、0.73:52.17:47.1であった。また、スパッタ時間が10分の場合の炭素(C):酸素(O):鉄(Fe)の組成比(at%の比)は、0.00:53.71:46.29であった。
実施例Eでは、スパッタ時間が0分の場合の炭素(C):酸素(O):鉄(Fe)の組成比(at%の比)は、83.58:10.66:5.76であった。実施例Fでは、スパッタ時間が0分の場合の炭素(C):酸素(O):鉄(Fe)の組成比(at%の比)は、75.47:14.74:9.79であった。
図10に示すように、実施例Gでは、スパッタ時間が0分の場合の炭素(C):酸素(O):鉄(Fe)の組成比(at%の比)は、82.92:14.06:3.01であった。また、スパッタ時間が1分の場合の炭素(C):酸素(O):鉄(Fe)の組成比(at%の比)は、85.96:8.31:5.72であった。また、スパッタ時間が10分の場合の炭素(C):酸素(O):鉄(Fe)の組成比(at%の比)は、65.78:10.39:23.82であった。
実施例Hでは、スパッタ時間が0分の場合の炭素(C):酸素(O):鉄(Fe)の組成比(at%の比)は、84.16:12.28:3.56であった。また、スパッタ時間が1分の場合の炭素(C):酸素(O):鉄(Fe)の組成比(at%の比)は、82.91:10.03:7.06であった。また、スパッタ時間が10分の場合の炭素(C):酸素(O):鉄(Fe)の組成比(at%の比)は、37.11:23.89:39.00であった。
実施例Iでは、スパッタ時間が0分の場合の炭素(C):酸素(O):鉄(Fe)の組成比(at%の比)は、68.89:22.19:8.92であった。また、スパッタ時間が1分の場合の炭素(C):酸素(O):鉄(Fe)の組成比(at%の比)は、81.21:9.50:9.29であった。また、スパッタ時間が10分の場合の炭素(C):酸素(O):鉄(Fe)の組成比(at%の比)は、35.50:22.35:42.15であった。
実施例Jでは、スパッタ時間が0分の場合の炭素(C):酸素(O):鉄(Fe)の組成比(at%の比)は、61.75:27.59:10.66であった。また、スパッタ時間が1分の場合の炭素(C):酸素(O):鉄(Fe)の組成比(at%の比)は、36.18:29.21:34.61であった。また、スパッタ時間が10分の場合の炭素(C):酸素(O):鉄(Fe)の組成比(at%の比)は、8.37:32.69:58.94であった。
実施例Kでは、スパッタ時間が0分の場合の炭素(C):酸素(O):鉄(Fe)の組成比(at%の比)は、99.44:0.52:0.03であった。また、スパッタ時間が1分の場合の炭素(C):酸素(O):鉄(Fe)の組成比(at%の比)は、99.55:0.31:0.14であった。また、スパッタ時間が10分の場合の炭素(C):酸素(O):鉄(Fe)の組成比(at%の比)は、99.45:0.14:0.40であった。
実施例Lでは、スパッタ時間が0分の場合の炭素(C):酸素(O):鉄(Fe)の組成比(at%の比)は、77.94:13.70:8.37であった。また、スパッタ時間が1分の場合の炭素(C):酸素(O):鉄(Fe)の組成比(at%の比)は、79.29:8.38:12.33であった。また、スパッタ時間が10分の場合の炭素(C):酸素(O):鉄(Fe)の組成比(at%の比)は、90.09:2.64:7.27であった。
なお、XPSの結果から、実施例A、B、Fでは、ナノ構造層320がFe2O3で構成されることが確認された。また、実施例C、Dでは、ナノ構造層320がFe3O4で構成されることが確認された。実施例Eでは、ナノ構造層320がFe2O3およびカーボンナノウォールで構成されることが確認された。実施例G、H、I、Jでは、ナノ構造層320の表面(先端部側)が酸化鉄で構成され、内部(基端部側)が金属鉄で構成されることが確認された。実施例Kでは、ナノ構造層320がカーボンナノウォールで構成され、内部に酸化鉄が含まれることが確認された。実施例Lでは、ナノ構造層320の表面が酸化鉄およびカーボンナノウォールで構成され、内部が金属鉄およびカーボンナノウォールで構成されることが確認された。
また、実施例G、H、I、Jにおいて、スパッタ時間が10分の場合、基板SのSiが検出されたことが分かった。
また、実施例A〜Lで製造した材料をラマン分光法で分析した。その結果、実施例A〜Dでは、Fe2O3が検出された。実施例E〜H、K、Lでは、カーボンナノウォールが検出された。実施例I、Jでは、カーボンナノウォールとFe2O3が検出された。
また、実施例A、C、E、Lを走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。図11は、実施例Aの観察結果を示す図である。図11に示すように、実施例Aでは、ナノ構造層320を構成する構造体322のナノ構造(カーボンナノウォール様構造)が多少くずれていることが確認された。図12は、実施例Cの観察結果を示す図である。図12に示すように、実施例Cでは、ナノ構造層320を構成する構造体322のナノ構造が多少くずれていることが確認された。図13は、実施例Eの観察結果を示す図である。図13に示すように、実施例Eでは、ナノ構造層320を構成する構造体322がナノ構造を維持していることが確認された。図14は、実施例Lの観察結果を示す図である。図14に示すように、実施例Lでは、ナノ構造層320を構成する構造体322がナノ構造を維持していることが確認された。
以上説明したように、第1の実施形態、第2の実施形態にかかる材料製造方法によれば、新規の材料、つまり、カーボンナノウォールをテンプレートとしてなる構造体を製造することができる。
以上、添付図面を参照しながら実施形態について説明したが、本開示はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に技術的範囲に属するものと了解される。
例えば、上述した実施形態では、材料製造装置100がプラズマCVD装置である場合を例に挙げて説明した。しかし、形成工程S110は、CVD装置を用いて基板S上にカーボンナノウォールを形成させることができればよい。
また、上記実施形態において、基板Sが炭化物を形成しやすい元素を含む構成を例に挙げて説明した。しかし、基板の材質に限定はない。
また、上記実施形態では、カーボンナノ構造体として、カーボンナノウォールを例に挙げて説明した。しかし、テンプレートとなるカーボンナノ構造体は、カーボンナノウォールに限らず、カーボンナノチューブ、フラーレン等であってもよい。
また、上記実施形態では、ドープ元素が金属元素である場合を例に挙げて説明した。しかし、ドープ元素は、非金属元素(半金属元素を含む)であってもよい。例えば、ホウ素(B)、炭素(C)、窒素(N)、ケイ素(Si)、リン(P)、硫黄(S)、ゲルマニウム(Ge)、ヒ素(As)、セレン(Se)、臭素(Br)、アンチモン(Sb)、テルル(Te)、ヨウ素(I)であってもよい。この場合、カーボンナノ構造体をテンプレートとしてなる構造体は、非金属元素を含むこととなる。なお、上記非金属元素のうち、窒素(N)以外の元素は、例えば、スパッタリングでカーボンナノ構造体にドープすることができる。また、窒素(N)は、例えば、形成工程S110(プラズマCVD処理)において、反応ガスに窒素ガス(N2)を混合させることでカーボンナノ構造体にドープすることができる。
また、ドープ元素は、2種類以上の金属元素であってもよい。この場合、カーボンナノ構造体をテンプレートとしてなる構造体は、2種類以上の金属元素を含む合金となる。また、ドープ元素は、金属元素および非金属元素であってもよい。この場合、カーボンナノ構造体をテンプレートとしてなる構造体は、金属元素および非金属元素を含むこととなる。
また、上記実施形態では、形成工程S110において、ドープ元素をスパッタでカーボンナノウォールにドープする構成を例に挙げて説明した。しかし、ドープ元素のドープは、スパッタに限らず、有機金属を利用した蒸着処理や、金属を加熱して蒸着させる処理、CVD処理、有機金属系ガス(トリメチルガリウム、トリメチルアルミニウム等)や塩化金属ガス(塩化ガリウムガス等)と反応させる処理、インターカレーション処理(カーボンナノウォールを、金属を含む溶液中に浸漬する処理)を用いて遂行してもよい。
また、上記実施形態において、構造体322が基板Sの表面から垂直方向に立設する構成を例に挙げて説明した。しかし、構造体322は、基板Sから立設していればよく、角度に限定はない。
また、上記実施形態において、炭素低減工程S120、S220で完全に炭素を除去する構成を例に挙げて説明した。しかし、炭素低減工程S120、S220では、所望する量の炭素を残留させてもよい。なお、炭素低減工程S120において、材料200B、200Cに対し、完全に炭素を除去する処理を遂行すると、カーボンナノウォール形状に構成された構造体322のみが製造される。また、炭素低減工程S120において、材料200B、200Cに対し、ある程度炭素を残留させる処理を遂行すると、材料200B、200Cよりも炭素が少ない材料が製造されることとなる。また、炭素低減工程S220において、材料200Aに対し、処理を遂行すると、材料300Aと同様の材料が製造される。