(ロータリ圧縮機の構成)
図1は、実施例のロータリ圧縮機を示す縦断面図である。図2は、実施例のロータリ圧縮機の圧縮部を示す分解斜視図である。
図1に示すように、ロータリ圧縮機1は、密閉された縦置き円筒状の圧縮機筐体10内の下部に配置された圧縮部12と、圧縮機筐体10内の上部に配置され回転軸15を介して圧縮部12を駆動するモータ11と、圧縮機筐体10の外周面に固定され密閉された縦置き円筒状のアキュムレータ25と、を備えている。
圧縮機筐体10は、冷媒を吸入する上吸入管105及び下吸入管104を有しており、上吸入管105及び下吸入管104が圧縮機筐体10の側面下部に設けられている。アキュムレータ25は、吸入部としての上吸入管105及びアキュムレータ上湾曲管31Tを介して上シリンダ121Tの上シリンダ室130T(図2参照)と接続され、吸入部としての下吸入管104及びアキュムレータ下湾曲管31Sを介して下シリンダ121Sの下シリンダ室130S(図2参照)と接続されている。本実施例では、圧縮機筐体10の周方向において、上吸入管105と下吸入管104の位置が重なっており、同一位置に位置する。
モータ11は、外側に配置されたステータ111と、内側に配置されたロータ112と、を備えている。ステータ111は、圧縮機筐体10の内周面に焼嵌めまたは溶接によって固定されている。ロータ112は、回転軸15に焼嵌めによって固定されている。
回転軸15は、下偏芯部152Sの下方の副軸部151が、下端板160Sに設けられた副軸受部161Sに回転自在に支持され、上偏芯部152Tの上方の主軸部153が上端板160Tに設けられた軸受部としての主軸受部161Tに回転自在に支持されている。回転軸15には、上偏芯部152Tと下偏芯部152Sとが互いに180度の位相差をつけて設けられており、上偏芯部152Tに上ピストン125Tが支持され、下偏芯部152Sに下ピストン125Sが支持されている。これによって、回転軸15は、圧縮部12全体に対して回転自在に支持されると共に、回転によって上ピストン125Tの外周面139Tを上シリンダ121Tの内周面137Tに沿って公転運動させ、下ピストン125Sの外周面139Sを下シリンダ121Sの内周面137Sに沿って公転運動させる。
圧縮機筐体10の内部には、圧縮部12において摺動する上シリンダ121Tと上ピストン125T及び下シリンダ121Sと下ピストン125S等の摺動部分の潤滑性を確保し、上圧縮室133T(図2参照)及び下圧縮室133S(図2参照)をシールするための潤滑油(冷凍機油)18が、圧縮部12をほぼ浸漬する量だけ封入されている。圧縮機筐体10の下側には、ロータリ圧縮機1全体を支持する複数の弾性支持部材(図示せず)を係止する取付脚310(図1参照)が固定されている。
図1に示すように、圧縮部12は、上吸入管105及び下吸入管104から吸入された冷媒を圧縮し、後述する吐出管107から吐出する。図2に示すように、圧縮部12は、上から、内部に中空空間が形成された膨出部181を有する上端板カバー170T、上端板160T、環状の上シリンダ121T、中間仕切板140、環状の下シリンダ121S、下端板160S及び平板状の下端板カバー170Sを積層して構成されている。圧縮部12全体は、上下から略同心円上に配置された複数の通しボルト174,175及び補助ボルト176によって固定されている。
上シリンダ121Tには、円筒状の内周面137Tが形成されている。上シリンダ121Tの内周面137Tの内側には、上シリンダ121Tの内周面137Tの内径よりも小さい外径の上ピストン125Tが配置されており、上シリンダ121Tの内周面137Tと上ピストン125Tの外周面139Tとの間に、冷媒を吸入し圧縮して吐出する上圧縮室133Tが形成される。下シリンダ121Sには、円筒状の内周面137Sが形成されている。下シリンダ121Sの内周面137Sの内側には、下シリンダ121Sの内周面137Sの内径よりも小さい外径の下ピストン125Sが配置されており、下シリンダ121Sの内周面137Sと下ピストン125Sの外周面139Sとの間に、冷媒を吸入し圧縮して吐出する下圧縮室133Sが形成される。
図2に示すように、上シリンダ121Tは、外周部から、円筒状の内周面137Tの径方向における外周側へ張り出した上側方突出部122Tを有する。上側方突出部122Tには、上シリンダ室130Tから放射状に外方へ延びる上ベーン溝128Tが設けられている。上ベーン溝128T内には、上ベーン127Tが摺動可能に配置されている。下シリンダ121Sは、外周部から、円筒状の内周面137Sの径方向における外周側へ張り出した下側方突出部122Sを有する。下側方突出部122Sには、下シリンダ室130Sから放射状に外方へ延びる下ベーン溝128Sが設けられている。下ベーン溝128S内には、下ベーン127Sが摺動可能に配置されている。
上側方突出部122Tは、上シリンダ121Tの内周面137Tの周方向に沿って、所定の突出範囲にわたって形成されている。下側方突出部122Sは、下シリンダ121Sの内周面137Sの周方向に沿って、所定の突出範囲にわたって形成されている。上側方突出部122T及び下側方突出部122Sは、上シリンダ121T及び下シリンダ121Sの加工時に加工治具に固定するためのチャック用保持部として用いられる。上側方突出部122T及び下側方突出部122Sが加工治具に固定されることで、上シリンダ121T及び下シリンダ121Sが所定の位置に位置決めされる。
上側方突出部122Tには、外側面から上ベーン溝128Tと重なる位置に、上シリンダ室130Tに貫通しない深さで上スプリング穴124Tが設けられている。上スプリング穴124Tには上スプリング126Tが配置されている。下側方突出部122Sには、外側面から下ベーン溝128Sと重なる位置に、下シリンダ室130Sに貫通しない深さで下スプリング穴124Sが設けられている。下スプリング穴124Sには下スプリング126Sが配置されている。
また、上シリンダ121Tには、上ベーン溝128Tの径方向外側と圧縮機筐体10内とを開口部で連通して圧縮機筐体10内の圧縮された冷媒を導入し、上ベーン127Tに冷媒の圧力により背圧をかける上圧力導入路が形成されている。また、下シリンダ121Sには、下ベーン溝128Sの径方向外側と圧縮機筐体10内とを連通して圧縮機筐体10内の圧縮された冷媒を導入し、下ベーン127Sに冷媒の圧力により背圧をかける下圧力導入路129Sが形成されている。
上シリンダ121Tの上側方突出部122Tには、上吸入管105と嵌合する上吸入孔135Tが設けられている。下シリンダ121Sの下側方突出部122Sには、下吸入管104と嵌合する下吸入孔135Sが設けられている。
図2に示すように、上シリンダ室130Tは、上側が上端板160Tで閉塞され、下側が中間仕切板140で閉塞されている。下シリンダ室130Sは、上側が中間仕切板140で閉塞され、下側が下端板160Sで閉塞されている。
上シリンダ室130Tは、上ベーン127Tが上スプリング126Tに押圧されて上ピストン125Tの外周面139Tに当接することによって、上吸入孔135Tに連通する上吸入室131Tと、上端板160Tに設けられた上吐出孔190Tに連通する上圧縮室133Tと、に区画される。下シリンダ室130Sは、下ベーン127Sが下スプリング126Sに押圧されて下ピストン125Sの外周面139Sに当接することによって、下吸入孔135Sに連通する下吸入室131Sと、下端板160Sに設けられた下吐出孔190Sに連通する下圧縮室133Sと、に区画される。
また、上吐出孔190Tは、上ベーン溝128Tに近接して設けられており、下吐出孔190Sは、下ベーン溝128Sに近接して設けられている。上圧縮室133T内で圧縮された冷媒は、上圧縮室133T内から上吐出孔190Tを通って吐出される。下圧縮室133S内で圧縮された冷媒は、下圧縮室133S内から下吐出孔190Sを通って吐出される。
図2に示すように、上端板160Tには、上端板160Tを貫通して上シリンダ121Tの上圧縮室133Tと連通する上吐出孔190Tが設けられている。上吐出孔190Tの出口側には、上吐出孔190Tの周囲に上弁座が形成されている。上端板160Tの上側(上端板カバー170T側)には、上吐出孔190Tの位置から上端板160Tの外周に向かって溝状に延びる上吐出弁収容凹部164Tが形成されている。
上吐出弁収容凹部164T内には、リード弁型の上吐出弁200T全体と、上吐出弁200Tの開度を規制する上吐出弁押さえ201T全体とが収容されている。上吐出弁200Tは、基端部が上吐出弁収容凹部164T内に上リベット202Tにより固定されており、先端部が上吐出孔190Tを開閉する。上吐出弁押さえ201Tは、基端部が上吐出弁200Tに重ねられて上吐出弁収容凹部164T内に上リベット202Tにより固定されており、先端部が上吐出弁200Tが開く方向へ湾曲して(反って)いて上吐出弁200Tの開度を規制する。また、上吐出弁収容凹部164Tは、その幅が上吐出弁200T及び上吐出弁押さえ201Tの幅よりわずかに大きく形成されており、上吐出弁200T及び上吐出弁押さえ201Tを収容すると共に、上吐出弁200T及び上吐出弁押さえ201Tを位置決めしている。
図2に示すように、下端板160Sには、下端板160Sを貫通して下シリンダ121Sの下圧縮室133Sと連通する下吐出孔190Sが設けられている。下吐出孔190Sの出口側には、下吐出孔190Sの周囲に環状の下弁座が形成されている。下端板160Sの下側(下端板カバー170S側)には、下吐出孔190Sの位置から下端板160Sの外周に向かって溝状に延びる下吐出弁収容凹部(不図示)が形成されている。
下吐出弁収容凹部164S内には、リード弁型の下吐出弁200S全体と、下吐出弁200Sの開度を規制する下吐出弁押さえ201S全体とが収容されている。下吐出弁200Sは、基端部が下吐出弁収容凹部164S内に下リベット202Sにより固定されており、先端部が下吐出孔190Sを開閉する。下吐出弁押さえ201Sは、基端部が下吐出弁200Sに重ねられて下吐出弁収容凹部164S内に下リベット202Sにより固定されており、先端部が下吐出弁200Sが開く方向へ湾曲して(反って)いて下吐出弁200Sの開度を規制する。また、下吐出弁収容凹部164Sは、その幅が下吐出弁200S及び下吐出弁押さえ201Sの幅よりわずかに大きく形成されており、下吐出弁200S及び下吐出弁押さえ201Sを収容すると共に、下吐出弁200S及び下吐出弁押さえ201Sを位置決めしている。
また、互いに密着固定された上端板160Tと、膨出部181を有する上端板カバー170Tとの間には、上端板カバー室180Tが形成される。互いに密着固定された下端板160Sと平板状の下端板カバー170Sとの間には、下端板カバー室180Sが形成される。下端板160S、下シリンダ121S、中間仕切板140、上端板160T及び上シリンダ121Tを貫通し下端板カバー室180Sと上端板カバー室180Tとを連通する複数の冷媒通路孔136が設けられている。
上端板160Tに形成された上吐出室凹部163T及び上吐出弁収容凹部164Tについては、詳細な図示を省略するが、下端板160Sに形成された下吐出室凹部163S及び下吐出弁収容凹部164Sと同様の形状に形成されている。上端板カバー室180Tは、上端板カバー170Tのドーム状の膨出部181と上吐出室凹部163Tと上吐出弁収容凹部164Tとによって形成されている。
図2に示すように、上端板カバー170Tの外縁部には、略同心円上に複数のボルト孔173Tが設けられており、上端板カバー170T側からボルト孔173Tに挿入された通しボルト174(図2)によって上端板160Tに固定されている。上端板カバー170Tの膨出部181は、回転軸15の径方向において、回転軸15側から、隣り合う通しボルト174の間に向かって張出す複数の張出し部182と、各張出し部182の間をつなぐと共に通しボルト174(ボルト孔173T)よりも回転軸15側へ窪んで形成された複数の窪み部183と、を有する。
以下に、回転軸15の回転による冷媒の流れを説明する。上シリンダ室130T内において、回転軸15の回転によって、回転軸15の上偏芯部152Tに嵌合された上ピストン125Tが、上シリンダ121Tの内周面137Tに沿って公転することにより、上吸入室131Tが容積を拡大しながら上吸入管105から冷媒を吸入し、上圧縮室133Tが容積を縮小しながら冷媒を圧縮し、圧縮した冷媒の圧力が上吐出弁200Tの外側の上端板カバー室180Tの圧力より高くなると、上吐出弁200Tが開いて上圧縮室133Tから上端板カバー室180Tへ冷媒が吐出される。上端板カバー室180Tに吐出された冷媒は、上端板カバー170Tに設けられた円形の上端板カバー吐出孔172T(図1、2参照)から圧縮機筐体10内に吐出される。
また、下シリンダ室130S内において、回転軸15の回転によって、回転軸15の下偏芯部152Sに嵌合された下ピストン125Sが、下シリンダ121Sの内周面137Sに沿って公転することにより、下吸入室131Sが容積を拡大しながら下吸入管104から冷媒を吸入し、下圧縮室133Sが容積を縮小しながら冷媒を圧縮し、圧縮した冷媒の圧力が下吐出弁200Sの外側の下端板カバー室180Sの圧力より高くなると、下吐出弁200Sが開いて下圧縮室133Sから下端板カバー室180Sへ冷媒が吐出される。下端板カバー室180Sに吐出された冷媒は、複数の冷媒通路孔136及び上端板カバー室180Tを通って、上端板カバー170Tの上端板カバー吐出孔172Tから圧縮機筐体10内に吐出される。
上端板カバー吐出孔172T内には、上端板160Tの主軸受部161Tが通されており、上端板カバー室180Tを通った冷媒が、図1に示すように、上端板カバー吐出孔172Tの内周面と主軸受部161Tの外周面との間の隙間Gから、圧縮機筐体10内に吐出される。また、圧縮部12は、圧縮機筐体10の下部に収容された潤滑油18を汲み上げる給油機構(図示せず)を有する。図2に示すように、上端板160Tの主軸受部161Tの内周面には、給油機構によって回転軸15の軸方向の下端側から汲み上げられた潤滑油18を、主軸受部161T等へ供給する給油溝166が形成されている。給油溝166は、主軸受部161Tの軸方向に対して緩やかな螺旋状に形成されている。給油溝166は、主軸受部161Tの下方から主軸受部161Tの上端まで延びて形成されており、主軸受部161Tの上端面161aに開口166aを有する(図3参照)。
圧縮機筐体10内に吐出された冷媒は、ステータ111外周に設けられた上下に連通する切欠き(図示せず)、又はステータ111の巻線部の隙間(図示せず)、又はステータ111とロータ112との隙間115(図1参照)を通ってモータ11の上方に導かれ、圧縮機筐体10の上部に配置された吐出部としての吐出管107から吐出される。
(ロータリ圧縮機の特徴的な構成)
次に、実施例のロータリ圧縮機1の特徴的な構成について説明する。本実施例においては、上端板カバー170Tの上端板カバー吐出孔172Tと主軸受部161Tとの間の隙間Gが部分的に狭められている点が特徴となる。図3は、実施例のロータリ圧縮機1の上端板カバー170Tの上端板カバー吐出孔172Tが有する凸部を示す斜視図である。図4は、実施例のロータリ圧縮機1の上端板カバー170Tの上端板カバー吐出孔172Tと主軸受部161Tとの間の隙間Gを上方から見た平面図である。図5は、実施例のロータリ圧縮機1の上端板160Tの主軸受部161Tとの間の隙間Gを上方から見た平面図である。図6は、実施例のロータリ圧縮機1の上端板カバー170Tを上方から見た平面図である。
図3及び図4に示すように、実施例における上端板カバー170Tには、上端板カバー吐出孔172Tの周方向にわたって環状の周壁177が、主軸受部161Tの軸方向に沿って延びて形成されている。実施例における上端板カバー170Tの周壁177の上端部には、図5及び図6に示すように、上端板カバー吐出孔172Tの周方向において給油溝166の開口166aに重なる範囲に、主軸受部161Tの外周面と上端板カバー吐出孔172Tの内周面との間の隙間G(図4中の斜線部分)を通過する冷媒を遮る凸部178が形成されている。凸部178は、給油溝166の開口166aから主軸受部161Tの外周側へ溢れ出る潤滑油18が、隙間Gを通過する冷媒によって飛散されることを抑えるために、上端板カバー吐出孔172Tの周方向(主軸受部161Tの周方向)において給油溝166の開口166aに重なる範囲に配置されている。凸部178は、上端板カバー吐出孔172Tの周方向における一部に形成されている。凸部178は、上端板カバー吐出孔172Tに形成された周壁177の上端部から、主軸受部161Tの外周面に向かって、上端板カバー吐出孔172Tの径方向(回転軸15の径方向)に突出している。
凸部178は、上端板カバー吐出孔172Tの周方向に対する長さは、主軸受部161Tの周方向に対する給油溝166の幅よりも大きく形成されており、例えば、給油溝166の幅が2mm程度の場合、主軸受部161Tの周方向における給油溝166の両側へ2mm程度延ばされて、凸部178の長さが6mm程度に形成されることにより、隙間Gを通る冷媒の流れを遮ることができる。凸部178は、上端板カバー吐出孔172Tの径方向に突出する突出量は、例えば、1mm程度であり、突出量が限定されるものではなく、上端板カバー吐出孔172Tの径方向において1mm程度をなす隙間Gを通る冷媒の流れを遮るものであればよい。また、凸部178は、上端板カバー吐出孔172Tの周壁177から、主軸受部161Tの外周面に当接するように突出して設けられてもよい。なお、実施例では、上端板カバー吐出孔172Tの周壁177の上端から、主軸受部161Tの上端が、回転軸15の軸方向に対して突出されており、主軸受部161Tの上端の突出量が5mm程度に形成されている。
また、凸部178は、上端板カバー吐出孔172Tの周方向において、図6に示すように、給油溝166を中心として給油溝166の両側へそれぞれ回転角90°の範囲を含む回転角180°をなす範囲内に形成されればよい。実施例における凸部178は、例えば、回転角75°程度の範囲にわたって形成されている。また、本実施例では、図5に示すように、主軸受部161Tの給油溝166は、主軸受部161Tの周方向において、上吐出室凹部163T側を向く位置に設けられている。このように給油溝166が、上端板カバー吐出孔172の周方向において冷媒の流れが相対的に大きい上吐出室凹部163T側に配置された場合であっても、上端板カバー吐出孔172Tに凸部178が設けられたことによって、冷媒による潤滑油18の飛散が抑えられる。
また、図4及び図6に示すように、本実施例における凸部178は、上端板カバー吐出孔172Tの周方向における中央(長さ方向の中央)が、回転軸15の回転方向Rの下流側へずらされて形成されている。給油溝166を通って主軸受部161Tの上端面161aの開口166aから溢れ出る潤滑油18は、主軸受部161T内での回転軸15の回転による影響を受けて、回転軸15の回転方向Rの下流側へ向かって流れる傾向がある。このため、凸部178が、回転軸15の回転方向Rの下流側へ位置がずらされる、すなわち、凸部178が、回転軸15の回転方向Rの上流側よりも下流側へ延ばされることにより、主軸受部161Tの上端面161aの開口166aから溢れ出る潤滑油18の流れ方向において、潤滑油18の飛散に影響を及ぼす冷媒の流れが凸部178によって効果的に遮られる。このように回転軸15の回転方向Rを考慮することにより、主軸受部161Tの上端面161aの開口166aから溢れ出る潤滑油18が、隙間Gから吐出される冷媒によって飛散されることが効果的に抑えられる。このように飛散が抑えられることにより、主軸受部161Tの開口166aから溢れ出る潤滑油18は、主軸受部161Tの内周面に沿って広がりながら下方へ流れ落ち、主軸受部161Tの内周面と回転軸15の外周面との摺動部分全体へ供給される。
なお、本実施例では、凸部178が、上端板カバー吐出孔172Tの周壁177の上端部から突出して形成されたが、上端板カバー吐出孔172Tに周壁177を形成することなく上端板カバー吐出孔172Tの内周面から突出して形成されてもよい。
上述したように、実施例のロータリ圧縮機1における上端板カバー170Tの上端板カバー吐出孔172Tには、上端板カバー吐出孔172Tの周方向において給油溝166の開口166aに重なる範囲に、主軸受部161Tと上端板カバー吐出孔172Tとの間の隙間Gを通過する冷媒を遮る凸部178が形成されている。これにより、給油溝166を通って主軸受部161Tの上端面161aの開口166aから溢れ出た潤滑油18が、隙間Gから吐出される冷媒によって飛散されることが抑えられるので、圧縮機筐体10内の潤滑油18がロータリ圧縮機1の外部へ流出することを抑えることができる。このため、ロータリ圧縮機1の内部に収容された潤滑油18の量が減少することが抑えられ、主軸受部161T等の摺動部分を適正に潤滑することができる。また、ロータリ圧縮機1の外部へ流出した潤滑油18が、例えば、熱交換器(図示せず)の内部等の冷媒循環回路に付着することが抑えられ、熱交換性能の低下や冷媒循環回路の損傷を抑えることができる。
また、実施例では、上端板カバー170Tが1つの上端板カバー吐出孔172Tのみを有し、この上端板カバー吐出孔172Tに主軸受部161Tが通されているので、上端板カバー室180Tに吐出されたすべての冷媒が1つの上端板カバー吐出孔172Tを通って圧縮機筐体10内に吐出される。このため、特に実施例では、上端板カバー170Tが、上端板カバー吐出孔172Tの他に、複数の上端板カバー吐出孔を有する構成に比べて、上端板カバー吐出孔172Tから吐出される冷媒の勢いが強く、冷媒の吐出量、吐出速度が大きいので、上端板カバー吐出孔172Tに凸部178が設けられたことによる効果が高い。
また、実施例のロータリ圧縮機1における上端板カバー170Tの凸部178は、上端板カバー吐出孔172Tの周方向において、給油溝166の開口166aに対して回転軸15の回転方向Rの下流側に位置がずらされている。これにより、主軸受部161T内での回転軸15の回転に伴って、潤滑油18が回転軸15の回転方向Rの下流側へ流れる方向を考慮することで、潤滑油18を飛散させる冷媒の流れを効果的に遮ることが可能になる。したがって、給油溝166を通って主軸受部161Tの上端面161aの開口166aから溢れ出た潤滑油18が、隙間Gから吐出される冷媒によって飛散されることを効果的に抑えることができる。
また、実施例のロータリ圧縮機1における上端板カバー170Tの凸部178は、主軸受部161Tに当接して設けられている。これにより、凸部178の先端と主軸受部161Tの外周面との間から冷媒が通過することなく、凸部178の位置で冷媒の流れが遮断されるので、凸部178によって潤滑油18の飛散を安定的に抑えることができる。
以下、他の実施例のロータリ圧縮機及びその変形例1、2について図面を参照して説明する。他の実施例及びその変形例1、2は、上端板カバー吐出孔172Tと主軸受部161Tとの間の隙間Gの周方向における一部を狭める構造が、上述した実施例と異なる。便宜上、他の実施例及びその変形例1、2においても、実施例と同一の構成部材には実施例と同一の符号を付して説明を省略する。
(他の実施例)
図7は、他の実施例のロータリ圧縮機の上端板カバー170Tの上端板カバー吐出孔と主軸受部161Tとの間の隙間Gを上方から見た平面図である。図8は、他の実施例のロータリ圧縮機の上端板カバー170Tを上方から見た平面図である。
図7及び図8に示すように、回転軸15の軸方向に直交する平面上において、上端板カバー170Tの上端板カバー吐出孔172T−1は、回転軸15の径方向における中心O1(主軸受部161Tの径方向における中心)に対して、上端板カバー吐出孔172T−1の中心O2が、給油溝166の開口166a側から遠ざかる方向へ偏心して形成されている。言い換えると、回転軸15の中心O1は、上端板カバー吐出孔172T−1の中心O2に対して、給油溝166側へ近づく方向へ偏心して配置されている。また、回転軸15の軸方向に直交する平面上において、回転軸15の中心O1に対して上端板カバー吐出孔172T−1の中心O2が偏心する方向、すなわち、中心O1と中心O2を結ぶ方向は、例えば、主軸受部161Tの上端面161aに開口した給油溝166の開口166aを通過する方向を向いている。
このため、上端板カバー吐出孔172T−1内に通された主軸受部161Tは、給油溝166側へ近づいて配置されており、上端板カバー吐出孔172T−1の内周面と主軸受部161Tの外周面との間の隙間Gが、上端板カバー吐出孔172T−1の周方向において、給油溝166側へ近づくに従って小さくなると共に、給油溝166と反対側へ近づくに従って大きくなるように形成されている。なお、主軸受部161Tの外周面は、給油溝166側において、上端板カバー吐出孔172T−1の周壁177に接するように配置されてもよい。
また、本実施例では、回転軸15の中心O1に対して上端板カバー吐出孔172T−1の中心O2が偏心されているが、上端板カバー吐出孔172T−1から吐出される冷媒の吐出状態が、上述の中心O1と中心O2とが一致するもの(偏心がないもの)と比べて変化しないように、回転軸15の軸方向に直交する平面上において隙間G(図7中の斜線部分)全体が占める開口面積が、偏心がないものと同等に確保されている。
他の実施例によれば、回転軸15の中心O1に対して上端板カバー吐出孔172T−1の中心O2が偏心されることにより、上述した実施例と同様に、上端板カバー吐出孔172T−1と主軸受部161Tとの間の、給油溝166の開口166a側の隙間Gが狭められる。このため、他の実施例によれば、実施例のように凸部178を形成することなく、比較的に簡素な構成により、隙間Gの周方向における一部を狭めることができる。
また、他の実施例においても、上述した実施例と同様に、給油溝166を通って主軸受部161Tの上端面161aの開口166aから溢れ出た潤滑油18が、隙間Gから吐出される冷媒によって飛散されることが抑えられ、圧縮機筐体10内の潤滑油18がロータリ圧縮機1の外部へ流出することを抑えることができる。その結果、ロータリ圧縮機1の内部に収容された潤滑油18の減少が抑えられ、主軸受部161T等の摺動部分を適正に潤滑することができる。また、ロータリ圧縮機1の外部へ流出した潤滑油18によって冷媒循環回路の性能低下や損傷が生じることを抑えることができる。
図9は、他の実施例のロータリ圧縮機の変形例1としての、上端板カバー吐出孔172T−1と主軸受部161Tとの間の隙間Gを上方から見た拡大平面図である。図10は、他の実施例のロータリ圧縮機の変形例2としての、上端板カバー吐出孔172T−1と主軸受部161Tとの間の隙間Gを上方から見た拡大平面図である。
回転軸15の軸方向に直交する平面上において、回転軸15の中心O1に対して上端板カバー吐出孔172T−1の中心O2が偏心する方向(中心O1と中心O2を結ぶ方向)は、給油溝166の開口166aを通過する方向に限定されるものではなく、図9に示す変形例1のように、開口166aに対する回転軸15の回転方向Rの下流側へ、中心O2まわりに回転させた方向へ向きがずらされてもよい。
上述したように、給油溝166を通って開口166aを経て主軸受部161Tの上端面161aから溢れ出る潤滑油18は、回転軸15の回転の影響により、回転軸15の回転方向Rの下流側へ向かって流れる傾向がある。このため、上端板カバー吐出孔172T−1の中心O2が偏心する方向が、回転軸15の回転方向Rの下流側へ位置がずらされることにより、主軸受部161Tの上端面161aの開口166aから溢れ出る潤滑油18の流れ方向において隙間Gが狭められるので、潤滑油18の飛散に影響を及ぼす冷媒の流れが効果的に遮ることができる。このように回転軸15の回転方向Rを考慮することにより、主軸受部161Tの上端面161aの開口166aから溢れ出る潤滑油18が、隙間Gから吐出される冷媒によって飛散されることを効果的に抑えることができる。
また、図10に示す変形例2のように、回転軸15の軸方向に直交する平面上において、回転軸15の中心O1に対して上端板カバー吐出孔172T−1の中心O2が、給油溝166の開口166a側から遠ざかる方向へ偏心されると共に、上端板カバー吐出孔172T−1の周方向において給油溝166の開口166aに重なる範囲に凸部178が形成されてもよい。また、回転軸15の軸方向に直交する平面上において、回転軸15の中心O1と上端板カバー吐出孔172T−1の中心O2とを結ぶ方向は、給油溝166の開口166aを通過している。
変形例2によれば、上述した実施例、他の実施例と比べて、凸部178の突出量、上端板カバー吐出孔172T−1の中心O2の偏心量を小さく形成することができる。また、変形例2によれば、実施例のように凸部178の突出量のみで隙間Gを狭める構成に比べて、上端板カバー吐出孔172T−1の周方向の広範囲にわたって隙間Gを狭めることができる。このため、変形例2は、実施例と比べ、給油溝166側の隙間Gから吐出される冷媒を更に減らし、主軸受部161Tの上端面161aの開口166aから溢れ出る潤滑油18が、隙間Gから吐出される冷媒によって飛散されることを更に抑えることができる。
なお、実施例では、2シリンダ型のロータリ圧縮機に適用された場合を説明したが、2シリンダ型に限定されるものではなく、1シリンダ型のロータリ圧縮機に適用されてもよい。上端板カバー吐出孔172Tと主軸受部161Tとの間の隙間Gの周方向における冷媒の吐出速度や吐出量は、上端板カバー室180T内の上吐出孔190Tの位置等によっても差が生じる。このため、隙間Gから吐出される冷媒による潤滑油18の飛散を抑える観点では、給油溝166の位置を、隙間Gの周方向において冷媒の吐出速度等が相対的に小さい位置に配置することも考えられる。しかし、2シリンダ型のロータリ圧縮機1では、上端板カバー室180T内に、上吐出孔190Tと、複数の冷媒通路孔136とが配置されているので(図5参照)、隙間Gの周方向において、冷媒の吐出量、吐出速度が相対的に大きくなる上吐出孔190Tに近い位置と、複数の冷媒通路孔136に近い位置を避けるように給油溝166の開口166aを配置する場合、構造上の制約が大きい。このように、2シリンダ型のロータリ圧縮機1では、上端板カバー室180T内に上吐出孔190Tのみが配置されている1シリンダ型のロータリ圧縮機に比べて、給油溝166の開口166aの配置によって潤滑油18の飛散を抑えることが難しいので、本実施例における凸部178によって冷媒を遮る構成が有効である。
以上、実施例を説明したが、上述した内容により実施例が限定されるものではない。また、上述した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、上述した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。さらに、実施例の要旨を逸脱しない範囲で構成要素の種々の省略、置換及び変更のうち少なくとも1つを行うことができる。