本発明は、エンジン駆動車両や、走行用の駆動力源としてエンジンの他に走行用電動モータを有するハイブリッド型自動車、或いは駆動力源として電動モータのみを備えている電気自動車など、種々の車両用の動力伝達装置に適用され得る。動力伝達装置は、例えば複数の軸が車両幅方向に沿って配置されるFF(フロントエンジン・フロントドライブ)等の横置き型のトランスアクスルでも良いし、FR(フロントエンジン・リヤドライブ)型や4輪駆動型の動力伝達装置であっても良いなど、本発明は種々の車両用動力伝達装置に適用され得る。動力伝達機構は、例えば一部がオイル貯留部内のオイルに浸漬されて潤滑されるとともに、掻き上げられたオイルによって潤滑必要部位の一部が潤滑されるように配置することができる。例えば比較的低位置に配置される傘歯車式や遊星歯車式のディファレンシャル装置の一部または全部が、オイル貯留部内のオイルに浸漬されるように配置することができる。動力伝達機構の全部がオイル貯留部内のオイルよりも上方に位置するように配置することも可能で、オイルポンプから供給されるオイルによって潤滑されるようにすれば良い。
オイルポンプは、例えば動力伝達機構のうち駆動輪と連動して回転する出力部に連結されて機械的に回転駆動されるように配設されるが、駆動力源等の出力部以外に連結して機械的に回転駆動されるようにすることもできるし、専用の電動モータによって回転駆動される電動式オイルポンプを採用することもできる。駆動輪と連動して回転する出力部は、例えば動力伝達を遮断できる断接装置を備えている場合、その断接装置よりも駆動輪側の部分であり、具体的には、例えば駆動力源からギヤ機構等を介して伝達された駆動力を左右の駆動輪へ分配するディファレンシャル装置や、そのディファレンシャル装置へ駆動力を伝達する中間シャフトなどである。断接装置は、例えばニュートラルが可能な変速機や前後進切換装置、電気式差動部などである。駆動力源である電動モータがギヤ機構やディファレンシャル装置等を介して駆動輪に直結されている電気自動車の場合、動力伝達機構の全部が、駆動輪と連動して回転する出力部である。
潤滑装置は、動力伝達機構の出力部に連結されて回転駆動されるオイルポンプを備えているだけでも良いが、エンジン等の駆動力源に連結されて回転駆動される第2のオイルポンプや、任意の時間に任意の吐出量で作動させることができる電動式オイルポンプ等を追加して設けることもできる。オイルポンプからオイルが供給される潤滑必要部位は、動力を伝達するギヤの噛合い部や伝動ベルト等の他、動力伝達機構の回転軸等を回転可能に支持しているベアリング、ハイブリッド型自動車や電気自動車等の電動車両の電動モータや発電機など、動力伝達時に潤滑や冷却を必要とする摩擦部位、発熱部位などで、オイル貯留部に浸漬されない部位が適当である。オイルポンプから潤滑必要部位へ直接オイルを供給することもできるが、オイルポンプと潤滑必要部位との間にオイルクーラ等の熱交換器や油路切換弁、油圧制御弁等が介在していても良い。
オイル供給部は、例えばケースとは別体に構成されるオイル供給パイプが適当であるが、オイル供給部の一部または全部をケースと一体に構成することもできる。すなわち、供給油路の一部または全部をケースに設けることも可能である。オイル受け部は、例えばケースの内面に設けられるが、ケースと別体のオイル供給部に設けることも可能である。オイル受け部としては、例えば一時的にオイルを保持できるキャッチタンク等が適当であるが、受け入れたオイルをそのまま他の潤滑必要部位へ供給したり、オイル貯留部へ戻したりするものでもよく、ケースに設けられた開口部をオイル受け部として用いることもできる。キャッチタンクは、例えば下端部に設けられた流出孔からオイルが徐々に流出するように構成される。流出孔から流出したオイルは、例えば第1吐出口から吐出されたオイルの供給部位と同じ潤滑必要部位へ供給されるが、異なる潤滑必要部位へ供給されるように油路等が設けられても良い。また、潤滑必要部位へ供給することなく、オイル貯留部へ直接戻されるようにしても良い。
第2吐出口から吐出されたオイルがオイル受け部に届かない場合に、その第2吐出口から吐出されたオイルを、第1吐出口から吐出されたオイルの供給部位と同じ潤滑必要部位へ導く誘導部は、重力に従って流下するオイルを受け止めて案内するガイド板や溝、或いは上方に向かって開口している流入口が設けられた中空の配管などである。この誘導部は、例えばオイル供給部の外周部に設けられるが、ケースの内面に設けることも可能である。第2吐出口の開口方向すなわちオイルの吐出方向(第2吐出方向)は、例えば水平方向が適当であるが、オイル受け部との位置関係に応じて適宜定められ、斜め上方や斜め下方であっても良い。第1吐出口の開口方向すなわちオイルの吐出方向(第1吐出方向)は、潤滑必要部位との位置関係に応じて適宜定められ、下向きが適当であるが、水平方向などでも良い。第1吐出口や誘導部は、オイルを潤滑必要部位へ直接供給するものでも良いが、ケース等に設けられた連通路等を経由して潤滑必要部位へ供給する場合であっても良い。
以下、本発明の実施例を、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において、図は説明のために適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
図1は、本発明が適用されたハイブリッド型自動車10のトランスアクスル12を説明する骨子図で、そのトランスアクスル12の動力伝達機構16を構成している複数の軸が共通の平面内に位置するように展開して示した展開図である。トランスアクスル12は、駆動力源であるエンジン20の出力を左右の駆動輪38に伝達するもので、歯車式の動力伝達機構16の複数の軸が車両幅方向に沿って配置されるFF車両等の横置き型であり、動力伝達機構16はケース14内に収容されている。エンジン20は、燃料の燃焼によって動力を発生するガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関である。トランスアクスル12は動力伝達装置に相当し、ケース14は、必要に応じて複数の部材にて構成される。
動力伝達機構16は、車両幅方向と略平行な第1軸線S1〜第4軸線S4を備えており、第1軸線S1上には、駆動力源であるエンジン20に連結された入力軸22が設けられているとともに、その第1軸線S1と同心にシングルピニオン型の遊星歯車装置24および第1モータジェネレータMG1が配設されている。遊星歯車装置24および第1モータジェネレータMG1は電気式差動部26として機能するもので、差動機構である遊星歯車装置24のキャリア24cに入力軸22が連結され、サンギヤ24sに第1モータジェネレータMG1が連結され、リングギヤ24rにエンジン出力歯車Geが設けられている。キャリア24cは第1回転要素で、サンギヤ24sは第2回転要素で、リングギヤ24rは第3回転要素であり、第1モータジェネレータMG1は差動制御用回転機に相当する。第1モータジェネレータMG1は電動モータおよび発電機として択一的に用いられるもので、発電機として機能する回生制御などでサンギヤ24sの回転速度が連続的に制御されることにより、エンジン20の回転速度が連続的に変化させられてエンジン出力歯車Geから出力される。また、第1モータジェネレータMG1のトルクが0とされてサンギヤ24sが空転させられることにより、エンジン20と動力伝達機構16との間の動力伝達が遮断され、エンジン20の連れ廻りが防止される。
第2軸線S2上には、シャフト28の両端に減速大歯車Gr1および減速小歯車Gr2が設けられた減速歯車装置30が配設されており、減速大歯車Gr1は前記エンジン出力歯車Geと噛み合わされている。減速大歯車Gr1はまた、第3軸線S3上に配設された第2モータジェネレータMG2のモータ出力歯車Gmと噛み合わされている。第2モータジェネレータMG2は電動モータおよび発電機として択一的に用いられるもので、電動モータとして機能するように力行制御されることにより、ハイブリッド型自動車10の走行用駆動力源として用いられる。この第2モータジェネレータMG2は走行用回転機に相当する。
上記減速小歯車Gr2は、第4軸線S4上に配設されたディファレンシャル装置32のデフリングギヤGdと噛み合わされており、エンジン20および第2モータジェネレータMG2からの駆動力がディファレンシャル装置32を介して左右のドライブシャフト36に分配され、左右の駆動輪38に伝達される。このディファレンシャル装置32は出力部に相当し、デフリングギヤGdは入力ギヤに相当する。また、エンジン出力歯車Ge、減速大歯車Gr1、減速小歯車Gr2、デフリングギヤGd等によってギヤ機構が構成されている。第4軸線S4は、第1軸線S1〜S4の中で最も車両下方側位置(低位置)に定められており、ディファレンシャル装置32の一部が、ケース14の底部に設けられたオイル貯留部46(図2参照)内のオイル48に浸漬されるようになっている。
このようなハイブリッド型自動車10においては、EV(Electric Vehicle)走行モードおよびHV(Hybrid Vehicle)走行モードを実行可能であり、例えば要求駆動力(アクセル操作量など)および車速Vをパラメータとして定められたモード切換マップに従ってEV走行モードおよびHV走行モードに切り換えられる。EV走行モードは、エンジン20を回転停止させた状態で第2モータジェネレータMG2を力行制御することにより駆動力源として用いて走行するもので、例えば低要求駆動力すなわち低負荷の領域で選択される。エンジン20は、燃料供給等が停止させられるとともに、第1モータジェネレータMG1のトルクが0とされて遊星歯車装置24のサンギヤ24sがフリー回転可能とされることにより、走行中であっても略回転停止させられる。HV走行モードは、第1モータジェネレータMG1を回生制御することにより、エンジン20を駆動力源として用いて走行するもので、例えばEV走行モードよりも高要求駆動力(高負荷)の領域で選択される。このHV走行モードでは、第2モータジェネレータMG2は、加速時などにアシスト的に力行制御されて駆動力源として用いられ、或いは常時力行制御されて駆動力源として用いられる。
なお、上記HV走行モードの代わりに、或いはHV走行モードに加えて、常にエンジン20のみを駆動力源として用いて走行するエンジン走行モード等が設けられても良い。また、このハイブリッド型自動車10のトランスアクスル12はあくまでも一例であり、遊星歯車装置24としてダブルピニオン型の遊星歯車装置を採用したり、複数の遊星歯車装置を用いて構成したり、或いは第2モータジェネレータMG2を第1軸線S1と同心に配置したりすることもできるし、電気式差動部26の代わりに機械式の変速装置を採用することもできるなど、種々の態様が可能である。
一方、本実施例のハイブリッド型自動車10のトランスアクスル12は、図2に示す潤滑装置40を備えている。潤滑装置40は、吸入装置として第1オイルポンプP1および第2オイルポンプP2を備えており、それぞれ異なる独立の第1供給油路42、第2供給油路44に接続されて、動力伝達機構16の各部を分担して潤滑するようになっている。図1に示されるように、第1オイルポンプP1は、前記デフリングギヤGdと噛み合わされたポンプ駆動歯車Gpを介して機械的に回転駆動される機械式オイルポンプであり、第2オイルポンプP2は、前記入力軸22に連結されてエンジン20により機械的に回転駆動される機械式オイルポンプである。第1オイルポンプP1は、デフリングギヤGdに連動して回転する減速大歯車Gr1や減速小歯車Gr2等にポンプ駆動歯車Gpを噛み合わせて回転駆動されるようにすることも可能である。第2オイルポンプP2は、出力部(ディファレンシャル装置32)とは異なる回転駆動源によって回転駆動されるオイルポンプで、本実施例ではエンジン20によって回転駆動されるオイルポンプであるが、ポンプ駆動用の電動モータによって回転駆動される電動式オイルポンプを採用することもできる。ディファレンシャル装置32は、駆動輪38と連動して回転する出力部に相当し、第1オイルポンプP1は、出力部であるディファレンシャル装置32に連結されて機械的に回転駆動されるオイルポンプである。
上記第1オイルポンプP1および第2オイルポンプP2は、ケース14の底部に設けられたオイル貯留部46からオイル48を吸入して、供給油路42、44へ出力する。オイル貯留部46は、ケース14そのものによって構成されているとともに、第1隔壁50によって車両前後方向における後方側部分が他の部分と区分けされた第1オイル貯留部52を備えている。この第1オイル貯留部52は、ディファレンシャル装置32の下方に位置する部分である。また、第1オイル貯留部52以外の部分は、第2隔壁53によって更に車両前後方向において2分割されており、上記第1オイル貯留部52に隣接する中央部分の第2オイル貯留部54、およびその第2オイル貯留部54に隣接する車両前側部分の第3オイル貯留部56が設けられている。そして、第1オイルポンプP1の吸入口58は第2オイル貯留部54内に配置されており、第2オイルポンプP2の吸入口60は第3オイル貯留部56内に配置されている。これ等の吸入口58、60は、それぞれ独立に設けられた別々の吸入油路を介してオイルポンプP1、P2に接続されている。
第1隔壁50および第2隔壁53は、第1オイル貯留部52、第2オイル貯留部54、および第3オイル貯留部56の相互間で潤滑油が流通することを許容しつつ油面高さの均衡を制限する流通制限部として機能する。すなわち、停車時にオイルポンプP1、P2の作動が何れも停止し、油面高さの変動が停止する静的状態における静止時油面高さLstは、トランスアクスル12の各部に供給されたオイル48がオイル貯留部46へ流下して戻ることにより、図2に一点鎖線で示すように隔壁50、53を越え、オイル貯留部52、54、56における油面高さが同じになるが、車両走行時やオイルポンプP1、P2の作動時には、トランスアクスル12の各部へオイル48が供給されてオイル貯留部46内のオイル量が減少することにより油面高さが隔壁50、53の上端よりも低くなり、それ等の隔壁50、53による流通制限によってオイル貯留部52、54、56の油面高さが実線で示すように個別に変化する。
上記第1隔壁50および第2隔壁53の高さ位置すなわち上端位置は、ディファレンシャル装置32の下端位置よりも高く、油面高さが隔壁50、53を上回る静的状態では、ディファレンシャル装置32の一部がオイル48に浸漬される。このようにディファレンシャル装置32の一部がオイル48に浸漬されると、車両発進時にデフリングギヤGd等によってオイル48が掻き上げられることによりトランスアクスル12の各部にオイル48が散布され、第1オイルポンプP1によって十分な量のオイル48を供給することが難しい車両発進時においても良好な潤滑状態を確保できる。
一方、車両走行時を含むオイルポンプP1またはP2の作動時には、車速Vに応じて回転するデフリングギヤGd等による掻き上げやオイルポンプP1、P2による吸入によって油面高さが低下し、隔壁50、53よりも低くなる。そして、第1オイル貯留部52では、デフリングギヤGd等による掻き上げと戻り油量とのバランス(釣り合い)によって油面高さが定まり、第2オイル貯留部54では、オイルポンプP1による吸入と戻り油量とのバランスによって油面高さが定まり、第3オイル貯留部56では、オイルポンプP2による吸入と戻り油量とのバランスによって油面高さが定まる。本実施例では、第1オイル貯留部52の油面高さが優先的に低下するように、第1オイル貯留部52の容積すなわち第1隔壁50の位置や形状等が定められており、ディファレンシャル装置32の回転によるオイル48の攪拌が抑制されて動力損失が低減される。また、吸入口58、60が配置された第2オイル貯留部54、第3オイル貯留部56における油面高さが第1オイル貯留部52よりも高くされることにより、吸入口58、60が油面上に露出することによるオイルポンプP1、P2のエア吸いが抑制され、オイル48を適切に吸入して安定供給することができる。
また、第2隔壁53が設けられ、車両前後方向において第2オイル貯留部54および第3オイル貯留部56に区分けされており、それ等のオイル貯留部54、56の各々の車両前後方向の幅寸法が短いため、路面勾配等による車両の姿勢変化や加減速等に起因するオイル48の偏りが抑制されて油面高さの変動が低減され、それ等のオイル貯留部54、56に吸入口58、60が配置されたオイルポンプP1、P2のエア吸いが一層適切に抑制される。なお、第1隔壁50および第2隔壁53の高さ寸法は同じであっても良いし、それ等の第1隔壁50および第2隔壁53を省略することもできる。
上記第1オイルポンプP1は、出力部であるディファレンシャル装置32に連結されて回転駆動されるオイルポンプで、その第1オイルポンプP1の吐出側に接続された第1供給油路42は、動力伝達機構16の各部の潤滑必要部位にオイル48を供給する。潤滑必要部位は、例えば動力伝達機構16の各部のベアリング62やギヤ64(Ge、Gr1、Gr2、Gd、Gm、或いはGp)などである。第1オイルポンプP1はディファレンシャル装置32に連結されて回転駆動されるため、エンジン20が回転停止させられるEV走行モード時にも回転駆動され、車速Vに応じた吸入量でオイル48を吸入して各部にオイル48を供給することができる。すなわち、車速Vは、第1オイルポンプP1のポンプ回転速度に対応し、第1オイルポンプP1からのオイル吐出量に対応する。ディファレンシャル装置32は、デフリングギヤGd等によるオイル48の掻き上げによって潤滑されるが、第1供給油路42からオイル48を供給して潤滑することも可能である。また、第1オイルポンプP1がエア吸いを生じる可能性がある場合など、オイル48の安定供給のために必要に応じてオイルストレージを設けることもできる。
第2オイルポンプP2の吐出側に接続された第2供給油路44は、第2オイル貯留部54および第3オイル貯留部56の上方に位置する入力軸22や遊星歯車装置24、第1モータジェネレータMG1等の潤滑必要部位にオイル48を供給して潤滑、冷却する。また、この第2供給油路44には熱交換器66が設けられており、オイル48を冷却して第1モータジェネレータMG1および第2モータジェネレータMG2に供給することにより、それ等を冷却して過熱を防止する。熱交換器66は、例えば空冷や水冷による熱交換でオイル48を冷却するオイルクーラである。第2オイルポンプP2を回転駆動するエンジン20は、停車時においても駆動することができるため、停車時を含めて車速Vに依存しない吸入量でオイル48を吸入して潤滑必要部位へ供給することができる。
図3は、前記第1供給油路42が設けられたオイル供給パイプ70を具体的に例示した概略斜視図である。オイル供給パイプ70は、ケース14とは別体に構成されており、複数の取付部72がそれぞれ締結ボルト74によりケース14の内面、または第1オイルポンプP1のケース外面等に固定されることにより、ケース14内の所定位置に配設されている。オイル供給パイプ70は、前記ベアリング62にオイル48を供給する分岐ノズル部76、および前記ギヤ64にオイル48を供給する分岐ノズル部78を備えており、全体として三次元的に曲げられた中空構造を成している。このオイル供給パイプ70は、例えば三次元形状に曲げられた金属等のパイプ部材に対して分岐ノズル部76、78等を接合するなどして構成されるが、オイル供給パイプ70の一部または全部を、合成樹脂材料等の金属以外の材料にて構成することも可能である。分岐ノズル部76、78は、略水平方向へ逆向きに突き出すように設けられている。オイル供給パイプ70には、分岐ノズル部76、78の他にも分岐ノズル部等が設けられ、他の潤滑必要部位へオイル48を供給するようになっている。このオイル供給パイプ70はオイル供給部に相当する。
図4は、上記分岐ノズル部76、78が設けられたオイル供給パイプ70の先端部分を拡大して示した概略図で、図3の紙面の裏側、すなわち分岐ノズル部76側から見た斜視図である。図5は、図4のオイル供給パイプ70の先端部分を、分岐ノズル部76の突出方向から見た正面図である。図6は、オイル供給パイプ70の先端部分の概略断面図で、潤滑必要部位であるベアリング62、ギヤ64との位置関係を具体的に例示した図である。これ等の図から明らかなように、分岐ノズル部76、78の先端部には、それぞれ下方へ向かって開口する吐出口76d、78dが設けられており、第1オイルポンプP1から第1供給油路42を通って供給されたオイル48が、吐出口76d、78dから下方へ向かって吐出されることにより、前記ベアリング62、ギヤ64にオイル48が供給される。図6のベアリング62は、第2軸線S2上に配設された減速歯車装置30のシャフト28を回転可能に支持するもので(図1参照)、ギヤ64は、シャフト28に設けられた減速大歯車Gr1である。ケース14には、吐出口76dから吐出されたオイル48を受け入れてベアリング62へ導く連通路80が設けられている。
ここで、第1オイルポンプP1は、ディファレンシャル装置32に連結されて回転駆動されることから、そのオイル吐出量は車速Vに比例して増加する。図7の実線は、吐出口76dから吐出されるオイル吐出量を、車速Vとの関係で例示したグラフである。一方、ベアリング62に対する必要オイル量は、車速Vおよび駆動トルク(ベアリング負荷)に応じて定まり、例えば図7に一点鎖線で示すように車速Vに応じて変化する。図7の一点鎖線(必要オイル量)は、例えば車両の発進加速時など低車速時に比較的大きな負荷が加えられる場合で、定常走行へ移行する車速V1付近まで急激に増大する。この場合、吐出口76dからのオイル吐出量(実線)との差である斜線部分で示す量のオイル48が不足する可能性がある。
これに対し、本実施例のオイル供給パイプ70には、分岐ノズル部76の近傍から上方へ延び出す上方突出部82が設けられ、その上方突出部82に設けられた上部吐出口82dから吐出された上部吐出オイル48sが、連通路80を経てベアリング62へ供給されるようになっている。上部吐出口82dは略水平方向へ向かって開口しており、その水平方向、具体的には図6における左方向へ上部吐出オイル48sが吐出されるが、例えば車速Vが前記車速V1以下の低車速で第1オイルポンプP1の吐出量が少ない場合には、図4〜図6に破線矢印で示すように上部吐出オイル48sが重力に従って下方へ流下し、連通路80内に流入する。オイル供給パイプ70の外周部であって上部吐出口82dの下側部分には、上部吐出口82dから吐出された上部吐出オイル48sが上方突出部82、分岐ノズル部76等に沿って流動し、その分岐ノズル部76の先端から下方へ流下するように案内する複数のガイド板84a、84b、84c(以下、特に区別しない場合は単にガイド板84という)が設けられている。分岐ノズル部76の先端から下方へ流下した上部吐出オイル48sは、前記吐出口76dから吐出されたオイル48と同様に連通路80内に流入し、ベアリング62へ供給される。ガイド板84a、84b、84cは、ベアリング62へ上部吐出オイル48sを導く誘導部に相当する。
図7の破線のグラフは、上部吐出口82dから吐出される上部吐出オイル48sの吐出量で、車速Vに比例して増加する。上部吐出口82dから吐出された上部吐出オイル48sが、吐出口76dから吐出されたオイル48と共にベアリング62へ供給されることにより、そのベアリング62に対するオイル供給量が2点鎖線で示すように必要オイル量(一点鎖線)を上回るようになり、車速V1以下の低車速の高負荷時においても所定の潤滑性能を確保できる。上部吐出口82dから吐出される上部吐出オイル48sの吐出量は、ベアリング62に対するオイル供給量が必要オイル量を上回るように適宜定められ、図7では吐出口76dのオイル吐出量よりも多いが、吐出口76dのオイル吐出量と同程度でも良いし、吐出口76dのオイル吐出量より少なくても良い。上部吐出口82dの開口面積や長さ寸法は、車速V1以下では上部吐出オイル48sがそのまま流下するか、飛び出しても僅かで、破線矢印で示すように流下するように定められる。車速V1は、車両の種類や動力性能等に応じて適宜定められる。吐出口76dは第1吐出口に相当し、上部吐出口82dは第2吐出口に相当する。また、上部吐出口82dの開口方向、すなわち上部吐出オイル48sの吐出方向(図6における左方向)は第2吐出方向である。なお、図6は、3箇所の吐出口76d、78d、および82dが一平面内に位置するように、オイル供給パイプ70を第1供給油路42に沿って切断した断面図である。
上部吐出口82dの開口方向、すなわち上部吐出オイル48sの吐出方向で図6における左方向には、その上部吐出口82dから水平方向へ離間してキャッチタンク86が配置されている。キャッチタンク86は、車速V1以上の前進走行時に第1オイルポンプP1から比較的高圧のオイル48が供給され、上部吐出オイル48sが上部吐出口82dから飛び出すように吐出された場合に、その上部吐出オイル48sを受け入れて一時的に保持するもので、上部吐出口82dよりも少し下の位置に配置されてケース14に固定されている。図6の一点鎖線矢印は、上部吐出口82dから吐出された上部吐出オイル48sがキャッチタンク86内に受け入れられる場合である。
キャッチタンク86の底部には比較的小さな流出孔86dが設けられ、キャッチタンク86内に収容された上部吐出オイル48sが徐々に流出してオイル貯留部46へ戻されるようになっている。流出孔86dは、流出した上部吐出オイル48sが例えばベアリング62へ供給されるように設けられるが、他の潤滑必要部位へ供給されるように設けることもできるし、オイル貯留部46へ直接戻されるようにすることも可能である。このように上部吐出口82dから吐出された上部吐出オイル48sがキャッチタンク86に保持されるようになると、ベアリング62へ供給されるオイル供給量が少なくなり、図7に二点鎖線で示されるように、車速V1以上では吐出口76dのオイル吐出量(実線)と同程度まで減少する。これにより、ベアリング62に対して必要以上に過剰なオイル48および上部吐出オイル48sが供給されることが防止され、オイル48および上部吐出オイル48sの回転抵抗等による動力損失の増大が抑制される。キャッチタンク86はオイル受け部に相当する。
このように、本実施例のトランスアクスル12の潤滑装置40によれば、動力伝達機構16のディファレンシャル装置32に連結されて回転駆動される第1オイルポンプP1から吐出されたオイル48が、オイル供給パイプ70に設けられた第1供給油路42を通って吐出口76dからベアリング62へ供給される。また、車速V1以下の低車速時すなわちポンプ回転速度が低い低速回転時で、第1オイルポンプP1のオイル吐出量が少なく、上部吐出口82dから吐出された上部吐出オイル48sがキャッチタンク86に届かない場合は、その上部吐出オイル48sがガイド板84に案内されてベアリング62へ供給される。すなわち、第1オイルポンプP1のオイル吐出量が少ない低車速時には、吐出口76dおよび上部吐出口82dの両方からベアリング62に対してオイル48、上部吐出オイル48sが供給されるため、発進加速時等の高負荷時においても、ベアリング62に対するオイル供給量(図7の二点鎖線)が必要オイル量(図7の一点鎖線)を上回るようになり、オイル供給不足が抑制されて潤滑性能が向上する。
車速Vが高くなってポンプ回転速度が高くなると、第1オイルポンプP1のオイル吐出量が多くなるため、吐出口76dからベアリング62に供給されるオイル供給量が多くなり、その吐出口76dから供給されるオイル48だけでベアリング62を適切に潤滑できるようになる。一方、第1オイルポンプP1のオイル吐出量が多くなると、上部吐出口82dから吐出される上部吐出オイル48sの吐出圧が高くなり、その上部吐出オイル48sがキャッチタンク86に届くようになる。これにより、上部吐出口82dからベアリング62へ供給されるオイル量が制限され、ベアリング62に対してオイル48および上部吐出オイル48sが過剰に供給されて、オイル48および上部吐出オイル48sによる回転抵抗などで動力損失が増大することが抑制される。
また、本実施例ではディファレンシャル装置32の一部が第1オイル貯留部52内のオイル48に浸漬されるが、キャッチタンク86内に上部吐出オイル48sが一時的に保持されることにより、第1オイル貯留部52内のオイル48が減少して油面高さが低くなるため、ディファレンシャル装置32によるオイル48の攪拌抵抗が低減されて動力伝達効率が向上する。
なお、上記実施例では減速歯車装置30のシャフト28を回転可能に支持するベアリング62が低車速時でも適切に潤滑されるように、吐出口76dの上方に上部吐出口82dが設けられているが、入力軸22等の他のシャフトのベアリングやギヤ64の潤滑に対しても同様に構成することができる。モータジェネレータMG1、MG2や、遊星歯車装置24等の他の構成部品に対しても、第1オイルポンプP1からオイル48を供給するができるし、ベアリング62と同様の潤滑構造を採用することができる。
また、前記実施例ではハイブリッド型自動車10のトランスアクスル12に設けられた潤滑装置40について説明したが、図8に示すように、モータジェネレータMGを駆動力源として備えている電気自動車90のトランスアクスル92に設けられる潤滑装置に適用することもできる。トランスアクスル92は、モータジェネレータMGのトルクを前記減速歯車装置30により増幅してディファレンシャル装置32に伝達し、左右の駆動輪38に分配する歯車式の動力伝達機構94を、モータジェネレータMGと共にケース96内に収容している。すなわち、このトランスアクスル12は、駆動力源であるモータジェネレータMGと駆動輪38とが常に連動して回転するものである。
図9の潤滑装置100は、上記トランスアクスル92の潤滑装置の一例で、出力部であるディファレンシャル装置32に連結されて回転駆動される単一のオイルポンプPを備えており、例えば図2の潤滑装置40と同様に、第1供給油路42が設けられたオイル供給パイプ70やキャッチタンク86等を有して構成される。そして、オイル供給パイプ70により動力伝達機構94のベアリング62やギヤ64等の潤滑必要部位へオイル48を供給するとともに、低車速時には上部吐出口82dから吐出された上部吐出オイル48sがベアリング62に供給される。この場合も、ベアリング62やギヤ64の潤滑必要部位に対する潤滑性能において、前記実施例の潤滑装置40と同様の作用効果が得られる。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これ等はあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。