以下に、本発明を実施するための最良の形態を説明する。なお、特に断らない限り、本明細書に記載された数値範囲「x〜y」は、下限xおよび上限yをその範囲に含む。そして、これらの上限値および下限値、ならびに実施例中に列記した数値も含めてそれらを任意に組み合わせることで数値範囲を構成し得る。さらに数値範囲内から任意に選択した数値を新たな数値範囲の上限、下限の数値とすることができる。
本発明のリチウムドープ負極の製造方法は、Si含有負極活物質層と、前記Si含有負極活物質層上に形成されたセラミックス層と、を有する負極層を集電体上に形成する負極層形成工程と、前記セラミックス層上にリチウム層を形成してリチウム負極複合体を得る複合体形成工程と、前記リチウム負極複合体を、有機溶媒とリチウム塩とを含む電解液に接触させてリチウムドープ負極を得るドープ工程と、を有する。
本発明のリチウムドープ負極の製造方法に含まれる負極層形成工程及び複合体形成工程は、本発明のリチウム負極複合体の製造方法に相当する。以下、必要に応じて、上記の本発明のリチウムドープ負極の製造方法で得られたリチウムドープ負極を本発明のリチウムドープ負極といい、本発明のリチウム負極複合体の製造方法で得られたリチウム負極複合体を本発明のリチウム負極複合体という。更に、必要に応じて、本発明のリチウムドープ負極を有するリチウムイオン二次電池を、本発明のリチウムイオン二次電池という。
本発明のリチウムドープ負極の製造方法においては、集電体上に形成した負極層上に更にリチウム層を形成して、リチウム負極複合体を得る。つまり、本発明のリチウムドープ負極の製造方法において、リチウム層は負極活物質層に直接接触するのではなく、負極活物質層とリチウム層との間にはセラミックス層が介在する。
本発明のリチウムドープ負極の製造方法によると、負極活物質層とリチウム層との間にセラミックス層が介在するリチウム負極複合体を電解液に接触させるという、従来の直接的ドープ法とは異なる方法で、リチウムドープ負極を製造する。このような本発明のリチウムドープ負極の製造方法によると、従来の直接的ドープ法と実質的に同等の工程で、容易にリチウムドープ負極を得ることができる。
以下、本発明のリチウム負極複合体の製造方法について先ず説明する。
本発明のリチウム負極複合体の製造方法における負極層形成工程は、集電体上に負極活物質層を形成する工程と、集電体上に形成された負極活物質層上にセラミックス層を形成する工程と、を有する。以下、必要に応じて、集電体上に負極活物質層を形成する工程を、負極活物質層形成工程といい、集電体上に形成された負極活物質層上にセラミックス層を形成する工程を、セラミックス層形成工程という。
負極活物質層形成工程は、集電体の一面又は両面に負極活物質層を形成する工程であり、一般的な負極活物質層の形成方法を用い得る。具体的には、負極活物質、溶剤、及び必要に応じて導電助剤や結着材等の添加剤を混合してスラリーを形成し、当該スラリーを集電体に塗布し、塗布後に乾燥及び/又は加熱することによって負極活物質層を形成し得る。スラリーの塗布方法としては、ロールコート法、ディップコート法、ドクターブレード法、スプレーコート法、カーテンコート法などの従来から公知の方法を用いれば良い。なお、負極活物質層については追って詳説する。
セラミックス層形成工程は負極活物質層上にセラミックス層を形成すれば良く、集電体の両面に各々負極活物質層を形成する場合、両方の負極活物質層に各々セラミックス層を形成しても良いし、一方の負極活物質層上にのみセラミックス層を形成しても良い。何れの場合にも、負極活物質層とセラミックス層とで負極層が構成される。
セラミックス層形成工程において、負極活物質層上に形成するセラミックス層は、セラミックスを含む層であり、更に結着剤や分散剤等の添加剤を含み得る。
セラミックス層は、リチウムイオンや電解液の移動を妨げないよう、細孔を有するのが好ましい。また、細孔を有するセラミックス層を得るためには、セラミックスとして粉末状のものを用いるのが好ましい。セラミックス粉末を含むセラミックス層において、セラミックス粉末同士の間、負極活物質層とセラミックス粉末との間、及びセラミックス粉末と結着剤との間などに細孔が形成されると考えられる。
本発明のリチウムイオン二次電池は、セラミックス層を有することにより、内部短絡を抑制し得ると考えられる。当該内部短絡の抑制を考慮すると、セラミックス層の細孔は小径であるのが好ましい。具体的には、セラミックス層の細孔は、平均細孔径2μm以下、平均細孔径1μm以下、平均細孔径500nm以下、平均細孔径300nm以下の範囲を挙げることができる。
セラミックス層の平均細孔径に特に下限はないが、10nm以上であるのが好ましく、20nm以上であるのがより好ましい。なお、当該平均細孔径はBET法等の既知の方法で測定し得る。
また、本発明のリチウムイオン二次電池においては、負極活物質層上に形成されたセラミックス層によって、負極活物質層と電解液との直接的な接触頻度が抑制される。このため、上記した内部短絡の抑制以外にも、負極活物質による電解液の分解反応が抑制されると考えられる。その結果、本発明のリチウムイオン二次電池はサイクル特性にも優れると考えられる。
セラミックス粉末を構成するセラミックスとしては、リチウムイオン二次電池のセラミックス層に使用される一般的なものを用いれば良く、例えば、酸化物、窒化物及び炭化物等の無機化合物を挙げることができる。より具体的には、セラミックスとして、Al2O3、SiO2、TiO2、ZrO2、MgO、SiC、AlN、BN、タルク、マイカ、カオリナイト、CaO、ZnO及びゼオライトが挙げられる。セラミックス粉末としては、入手の容易さの点から、Al2O3、SiO2、TiO2が好ましく、特にAl2O3が好ましい。
セラミックス粉末の平均粒子径は100nm以上1μm以下であるのが好ましく、200nm以上800nm以下であるのがより好ましく、300nm以上600nm以下であるのが特に好ましい。セラミックス粉末の平均粒子径が過大であれば、薄いセラミックス層を形成し難い。また、この場合には、セラミックス層を形成する際にセラミックス粉末が沈降し易くなり、均一なセラミックス層を得難い問題もある。セラミックス粉末の平均粒子径が過小であれば、セラミックス層の細孔が過小となり、また、セラミックス層を形成する際にセラミックス粉末が負極活物質層の中に入り込むおそれがある。なお、本明細書でいう平均粒子径とは、一般的なレーザー回折散乱式粒度分布測定装置で測定した場合のD50を意味する。
結着剤としては、後述する正極活物質層や負極活物質層に使用可能なものを用いても良いが、負極活物質層に有機溶剤系結着剤を用いる場合には、セラミックス層には水系結着剤を用いるのが好ましい。負極活物質層及びセラミックス層に同種の結着剤を用いると、セラミックス層を形成する際に、セラミックス層用の溶剤に負極活物質層の結着剤が部分的に溶解してしまう可能性がある。
負極活物質層用の結着剤としては有機溶剤系結着剤を用いるのが一般的であるため、セラミックス層用の結着剤としては、水系結着剤を用いるのが好ましい。水系結着剤は、水系溶剤に溶解又は分散可能であれば良く、例えば、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸スチレン共重合体、メチルビニルエーテル/無水マレイン酸コポリマー、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルアルコール、アクリル酸/マレイン酸共重合体、アクリル酸/スルホン酸系モノマー、ヒドロキシエチルセルロース、アクリルアミド−ジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ポリ(メタクリル酸トリメチルアミノエチル・メチル硫酸塩)、イソブチル・無水マレイン酸、キトサン、ポリビニルブチラール、ポリエチレングリコール、ゼラチン、ポリビニルエチルエーテル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリプロピレンオキサイド等の水溶性結着剤、アクリル系ポリマー、メタクリル系ポリマー、ポリウレタン、エポキシポリマー、スチレンポリマー、ビニルポリマー等の水分散系結着剤が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種類以上を併用しても良い。
なお、水系溶剤としては、水、又は水とアルコールとの混合物を使用し得る。
セラミックス層におけるセラミックス粉末と水系結着剤との質量比は99:1〜85:15であるのが好ましく、98:2〜88:12であるのがより好ましく、97:3〜90:10であるのが更に好ましい。
また分散剤を用いる場合、分散剤の配合量は、セラミックス粉末を100質量部としたときに1質量部以上10質量部以下であるのが好ましく、2質量部以上6質量部以下であるのがより好ましく、3質量部以上5質量部以下であるのが更に好ましい。
セラミックス層の厚みは、1μm〜100μmであるのが好ましく、1μm〜50μmであるのがより好ましく、3μm〜20μmであるのが更に好ましく、4μm〜10μmあるのが特に好ましい。セラミックス層の抵抗の好ましい範囲としては1kΩ〜1000MΩの範囲を挙げることができる。
負極活物質層上にセラミックス層を形成する方法は特に限定されず、負極活物質層と同様の方法によれば良い。負極活物質層上にセラミックス層が形成されることで、負極層が得られる。
ところで、本発明の発明者は、本発明に先立って、負極活物質層上にリチウム層が形成されかつセラミックス層を有さないリチウム負極複合体を、様々な条件で実際に製造した。その結果、集電体の片面にのみ負極活物質層を設ける場合や、集電体の両面に各々設けた負極活物質層の一方にのみリチウムをドープする場合等、リチウム負極複合体の構造や製造条件によっては、直接的ドープ法において、負極に歪みや反りが生じることを見出した。
つまり、この場合の負極は、集電体と負極活物質層とで構成されるところ、リチウム層のリチウムイオンは負極活物質層にのみドープされ、集電体にはドープされない。負極活物質層の体積は、ドープされたリチウムイオンの分だけ増大すると考えられるため、ドープの際の負極活物質層と集電体との体積変化量の違いにより、上記した負極の歪みや反りが生じる可能性がある。反りの生じた負極は電池を製造する際に破損等する可能性があるため、このような製造方法はリチウム負極複合体の製造方法として好適とは言い難い。
本発明の発明者は、鋭意研究の結果、集電体の両面に設けた負極活物質層の各々に、リチウム層を同時に形成することで、上記した負極の反りを抑制できることを見出した。
つまり、セラミックス層を有さないリチウム負極複合体の製造方法において、負極の反りを抑制する為には、負極層形成工程においては、集電体の両面に負極活物質層を形成し、複合体形成工程においては各々の当該負極活物質層にリチウム層を同時に形成するのが好ましいと考えられる。
これに対して、本発明のリチウム負極複合体の製造方法における負極層形成工程では、負極活物質層を集電体の一方の面にのみ形成しても良いし、両面に形成しても良い。これは、本発明のリチウム負極複合体の製造方法における負極層形成工程では、負極活物質層上にセラミックス層を形成するためである。つまり、本発明のリチウム負極複合体は、セラミックス層によって補強されるため、セラミックス層を有するリチウム負極複合体に比べて反り難いためである。
勿論、本発明のリチウム負極複合体の製造方法においても、負極層形成工程において集電体の両面に負極層を形成し、複合体形成工程において各々の当該負極層上にリチウム層を形成することで、負極の反りを更に抑制できる利点がある。
複合体形成工程は、上記の工程で得られた負極層のセラミックス層上にリチウム層を形成してリチウム負極複合体を得る工程である。リチウム層は如何なる方法で形成しても良いが、負極層上にリチウム箔を積層する方法を用いるのが効果的である。更に、複合体形成工程においては、リチウム箔及び負極層をロールプレス装置によってプレスし、両者を密着させるのが好ましい。
つまり、本発明のリチウム負極複合体の製造方法における複合体形成工程は、リチウム箔を負極層上に積層し、2つのロール間でプレスするプレス工程を有するのが好ましい。更に、負極層形成工程において集電体の両面に負極層を各々形成し、各々の当該負極層上に同時にリチウム層を形成する場合には、プレス工程は、リチウム箔を各々の負極層上に積層し、2つのロール間でプレスする工程となる。
上記のプレス工程によると、負極層にリチウム箔を圧着することができるため、負極活物質層へのリチウムドープを好適に行い得る。
プレス工程は、集電体と負極層とリチウム箔との負極積層体を2つのロール間でプレスすれば良く、ロールプレス装置と呼ばれるプレス装置を用いることができる。当該プレス装置におけるロールの数や各ロールから上記の負極積層体に作用する荷重等は、製造対象である負極の仕様に応じて適宜設定すれば良く、本発明では特に限定しない。
但し、ロールから負極積層体に作用する荷重が過少であれば、リチウム箔が負極層に付着せず、負極活物質層へのリチウムドープが良好に為されない場合がある。また、ロールから負極積層体に作用する荷重が過大であれば、負極層に破損等が生じる可能性がある。このような事情を考慮すると、ロールから負極積層体に作用する荷重は、0.01N/mm〜20N/mmの範囲内であるのが好ましく、0.1N/mm〜10N/mmの範囲内であるのがより好ましい。
プレス工程においては、上記のロールと負極積層体の間に、フィルムを介在させるのがより好ましい。ロールとリチウム箔とが強固に付着することを回避して、リチウム負極複合体を効率良く製造するためである。
リチウムは柔らかく変形し易い性質を有する。このようなリチウムを材料とするリチウム箔は取り扱い性に劣るため、負極層上に変形や破損のないリチウム箔を積層することは非常に困難である。例えば、負極層上に積層するためにリチウム箔を搬送する際には、リチウム箔が自重により変形等する可能性がある。また、例えば、リチウム箔が負極層に積層された負極積層体をロールプレスする際には、リチウム箔がロールに強固に付着し、ロールが負極積層体から剥がれる際に、リチウム箔が変形又は破損する可能性がある。
破損したリチウム箔を有するリチウム負極複合体においては、負極層上のリチウム層の厚さにむらが生じたり、負極層上にリチウム層が形成されない部分が生じたりする。このようなリチウム負極複合体をドープ工程に用いると、負極活物質にリチウムが一様にドープされず、リチウムドープを好適に行い難い。このため、プレス工程においてロールと負極積層体の間にフィルムを介在させ、リチウム箔とロールとの強固な付着を回避することは、リチウム負極複合体の製造上、非常に有用である。
また、プレス工程前においても、リチウム箔とフィルムとを重ねた状態で取り扱えば、例えば上記した搬送時におけるリチウム箔の自重による変形等を抑制でき、かつ、上記したとおりプレス工程においてロールと負極積層体の間にフィルムを介在させることができる。このため、当該態様はリチウム負極複合体の製造方法としてより一層好適であるといえる。
フィルムは特に限定しないが、リチウム箔を補強するという目的では、強度及び剛性に比較的優れる材料を選択するのが好ましい。また、コスト及びリチウム箔との反応性を考慮すると、フィルムは樹脂フィルムであるのが好ましい。例えば、ポリエチレン及びポリプロピレンに代表されるポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート及びポリブチレンテレフタレートに代表されるポリエステル等は、比較的安価であり、かつリチウム箔の補強用樹脂フィルムとして充分に機能し得るため、好ましく使用できる。
プレス工程においては、上記の樹脂フィルムと負極積層体の間に、潤滑剤や剥離層等を介在させるのがより好ましい。リチウム箔と樹脂フィルムとが強固に付着することを回避して、リチウム負極複合体を効率良く製造するためである。
以下、剥離層及び潤滑剤について説明する。
剥離層及び潤滑剤は、プレス工程において、樹脂フィルムと負極積層体の間に介在して、両者の強固な付着を抑制できれば良い。なお、樹脂フィルムを用いない場合にも、剥離層及び/又は潤滑剤がプレス工程において、ロールと負極積層体の間に介在すれば、リチウム箔とロールとの強固な付着を抑制でき、リチウム箔の破損等を抑制し得る。何れの場合にも、剥離層及び潤滑剤は上記の機能を発揮できれば良く、その材料は特に限定しない。
ここで、本明細書において、剥離層とは剥離剤を含有する層であり、剥離剤とはある程度の潤滑機能を発揮し得る材料でありかつ層として形をなし得る程度に流動性の低いものを指す。潤滑剤とは、剥離剤よりも流動性の高いもの、層として形をなし得ない程度の流動性を有するものを指す。
樹脂フィルムと負極積層体の間には、剥離層と潤滑剤との少なくとも一方を介在させれば良いが、少なくとも剥離層を介在させるのが好ましく、剥離層と潤滑剤との両方を介在させるのがより好ましい。
剥離層を樹脂フィルムと負極積層体との間に介在させる場合、剥離層は、上記の樹脂フィルムに一体に設けても良いし、プレス工程前に負極積層体と樹脂フィルムとの間に形成しても良い。樹脂フィルムとリチウム箔とを重ねて取り扱う場合には、当然乍ら、剥離層を予め樹脂フィルムに一体に設けておくのが好ましい。
また、剥離層をロールと負極積層体との間に介在させる場合、剥離層は、ロールに一体に設けても良いし、プレス工程前に負極積層体とロールとの間に形成しても良いが、プレス工程の作業効率を考慮すると、この場合の剥離層はロールに一体に設けるのが好ましい。
剥離層は、既知の剥離剤を含有するもので良く、特に限定しないが、シリコーンを含有する層であるのが好ましい。以下、必要に応じて、シリコーンを含有する剥離層をシリコーン層という。
シリコーン層を構成するシリコーンは、シロキサン結合による主骨格を持つ化合物であり、主として当該シロキサン結合に由来する各種の特性を有する。シリコーンの特性のうち、特に、相手材と固着し難い性質は、樹脂フィルム又はロールとリチウム箔とを圧着させることなく負極積層体をプレスすることに大きく寄与すると考えられる。本発明の発明者が、実際に、ロールとリチウム箔との間にシリコーン層を介在させた状態でリチウム箔の圧延を行ったところ、ロールとリチウム箔との間に他の剥離剤を介在させた場合に比べて、ロールとリチウム箔との強固な付着が大きく抑制された。また、樹脂フィルムとリチウム箔との間にシリコーン層と潤滑剤とを介在させてリチウム箔の圧延を行った場合には、樹脂フィルムとリチウム箔との間に潤滑剤のみを介在させた場合に比べて、樹脂フィルムとリチウム箔との強固な付着が大きく抑制された。
シリコーン層は、比較的変形し易く、相手材に対する一定程度の粘着性を示し、かつ、相手材に強固に固着し難いシリコーン材料で構成するのが好ましい。具体的には、シリコーン材料は、後述するシリコーンレジンでも良いが、付加硬化型又は過酸化物硬化型のシリコーン粘着剤であるのが好ましい。この種のシリコーン粘着剤は、優れた感圧粘着作用を示すことから、ラベル及びマスキングテープに代表される粘着テープ用の粘着剤として用いられている。
付加硬化型のシリコーン粘着剤は、下記一般式(1)で表されるシロキサン単位を繰り返し単位とするものが好ましく、当該繰り返し単位を主鎖とする直鎖構造を有しても良い。
R5 ySiO(4−y)×0.5 (1)
(式中R5は、それぞれ独立に、置換されていても良い炭素数1〜20の一価又は二価の炭化水素基であり、yは1.0〜3.0である。)
上式(1)におけるyとしては1.5〜2.05が挙げられる。
上式(1)においてR5で表される一価又は二価の炭化水素基の炭素数として、1〜14、1〜12の範囲を挙げることができる。当該炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基又はアルキレン基から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。R5の2以上はアルケニル基であっても良い。当該アルキル基の具体例としてはメチル基が挙げられる。当該アルケニル基の具体例としては、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基又はヘプテニル基から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。当該アリール基の具体例としてはフェニル基が挙げられる。
付加硬化型のシリコーン粘着剤としては、アルケニル基を有するオルガノポリシロキサンと、オルガノハイドロジェンポリシロキサンとを含むシリコーン粘着剤原料が付加反応により硬化したものが挙げられる。当該付加反応の速度を高めるため、付加反応触媒を用いても良い。
付加硬化型のシリコーン粘着剤が上式(1)で表されるシロキサン単位を繰り返し単位とする場合、オルガノポリシロキサンとしては下記一般式(1−1)で表されるシロキサン単位を含む化合物が挙げられる。
R6 ySiO(4−y)×0.5 (1−1)
(式中R6はそれぞれ独立にアルケニル基でありyは1.0〜3.0である。)
オルガノポリシロキサンとしては、上記一般式(1−1)で表されるシロキサン単位を繰り返し単位とするものが好ましく、当該繰り返し単位を主鎖とする直鎖構造を有しても良い。オルガノポリシロキサンは直鎖状であっても良いし、直鎖状の部分構造とともに分岐状及び/又は環状の部分構造を有しても良い。オルガノポリシロキサンの分子量は特に問わない。
オルガノハイドロジェンポリシロキサンは、分子中にSiH基を有するものであり、その有機基については特に限定されない。オルガノハイドロジェンポリシロキサン1分子中のSiH基の数は特に限定せず、2〜300、3〜200、4〜150の範囲を挙げることができる。当該SiH基はオルガノポリシロキサンにおけるR6のアルケニル基と反応し、付加硬化型のシリコーン粘着剤の硬化に寄与する。このため、オルガノハイドロジェンポリシロキサン1分子中におけるSiH基の数は2以上であるのが好ましい。オルガノハイドロジェンポリシロキサンは直鎖状であっても良いし分岐状であっても良い。
付加硬化型のシリコーン粘着剤の原料としては、KS−774、KS−775、KS−778、KS−779H、KS−847H、KR3700、KR3701、X−40−3237−1、X−40−3240、X−40−3291−1、X−40−3229、X−40−3270、X−40−3306(以上、信越化学工業株式会社製)、SD4584、SD4585、SD4560、SD4570、SD4600PFC、SD4593、(以上、東レ・ダウコ−ニング株式会社製)、TSR1512、TSR1516、XR37−B9204(以上、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製)等が挙げられる。付加硬化型のシリコーン粘着剤としては、これらを単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。2種以上のシリコーン粘着剤を併用する場合の具体的な組み合わせとして、信越化学工業株式会社製のKS−847Hと、東レ・ダウコ−ニング株式会社製のSD4584と、の組み合わせを挙げることができるが、これに限定されない。
また、後述するシリコーンレジンの原料をシリコーン粘着剤の原料と組み合わせてシリコーン層を形成しても良い。なお、東レ・ダウコ−ニング株式会社製のSD4584は3官能性又は4官能性のシロキサン単位を含むものであり、当該原料を用いて得られたシリコーン粘着剤は、シリコーンレジンと共通する特性を発揮し、粘着性と剥離性とのバランスの良いシリコーン層を形成し得ると考えられる。
付加反応触媒としては、上記の付加反応の触媒として機能し得るものを使用すれば良く、例えば、白金や白金化合物、白金の各種錯体等の各種白金系触媒、塩化ロジウム等のロジウム系触媒、パラジウム、塩化パラジウム等のパラジウム系触媒等を例示できる。
過酸化物硬化型のシリコーン粘着剤は、上記した付加硬化型のシリコーン粘着剤と異なり、有機過酸化物の存在下でオルガノポリシロキサンの硬化反応を行うものである。過酸化物硬化型のシリコーン粘着剤の材料となるオルガノポリシロキサンは、上記した付加硬化型のシリコーン粘着剤で説明したオルガノポリシロキサンと同様のものを用いても良いが、R6がアルキル基のものが好ましい。
有機過酸化物としては、分解して遊離酸素ラジカルを発生するものを用いれば良く、特に限定はない。過酸化物硬化型のシリコーン粘着剤の原料として使用可能な有機過酸化物の一例を挙げると、ジベンゾイルパーオキサイド、4,4’−ジメチルベンゾイルパーオキサイド、3,3’−ジメチルベンゾイルパーオキサイド、2,2’−ジメチルベンゾイルパーオキサイド等が挙げられる。
上記の各シリコーン粘着剤により、シリコーン層を形成するためには、上記の各原料を必要に応じて有機溶媒等の溶剤とともに混合し、樹脂フィルムに塗布して硬化反応を行えば良い。硬化反応と前後して、樹脂フィルム上のシリコーン粘着剤又はシリコーン粘着剤の原料を加熱しても良い。加熱により、溶剤の除去や、硬化反応の促進が可能である。
樹脂フィルムに設けるシリコーン層の材料としては、上記のシリコーン粘着剤以外にも、以下のシリコーンレジンを用いることもできる。既述したように、シリコーンレジンはシリコーン粘着剤と併用しても良い。シリコーンレジンを含有するシリコーン層は、シリコーン粘着剤を含有するシリコーン層に比べて、変形し難く粘着性の低い剥離層を構成し得る。また、当該性質により、シリコーンレジンはロールに一体に設けるシリコーン層の材料として好適である。更には、シリコーンレジンを材料とするシリコーン層は、後述するリチウム箔圧延工程で用いるロールの表面に形成しても良い。ドープ用のリチウム箔には薄く破損のないことが要求されるため、リチウム箔を圧延し薄いリチウム箔を得る際に、リチウム箔とロールとの強固な付着を抑制することは、リチウム負極複合体の製造上、非常に有用である。
以下、シリコーンレジンについて説明する。
シリコーンレジンは、既述したように、比較的変形し難く粘着性の低い特性を有する。具体的には、シリコーンレジンは、下記一般式(2)で表される2官能性のシロキサン単位、下記一般式(3)で表される3官能性のシロキサン単位、又は、下記一般式(4)で表される4官能性のシロキサン単位を含むポリオルガノシロキサン材料を含むのが好ましい。
R1R2SiO(0.5×2) (2)
R1SiO(0.5×3) (3)
SiO(0.5×4) (4)
(式中R1、R2は、それぞれ独立に、炭素数1〜3のアルキル基、フェニル基、ビニル基、及び、アミノ基の何れかである。R1、R2は同一であっても良いし異なっていても良い。)
上記一般式(2)〜(4)のシロキサン単位の何れかを含むポリオルガノシロキサン材料は、三次元網目構造の比較的硬いシリコーン層を構成し得る。
上記一般式(2)〜(4)のシロキサン単位の何れかを含むポリオルガノシロキサン材料の原料としては、それぞれ、下記一般式(2−1)〜(4−1)で表される化合物が挙げられる。
R1R2Si(OR3)2 (2−1)
R1Si(OR3)3 (3−1)
Si(OR3)4 (4−1)
(式中R1、R2は、それぞれ独立に、H、炭素数1〜3のアルキル基、フェニル基、ビニル基、及び、アミノ基の何れかである。R3は炭素数1〜3のアルキル基である。R1〜R3はそれぞれ同一であっても良いし異なっていても良い。)
当該ポリオルガノシロキサン材料の原料としては、上記一般式(2−1)で表される2官能性の化合物、上記一般式(3−1)で表される3官能性の化合物、又は、上記一般式(4−1)で表される4官能性の化合物の何れを用いても良く、当該原料において2官能性の化合物、3官能性の化合物及び4官能性の化合物の占める割合は特に問わない。当該原料に含まれるこれらの化合物のうち、2官能性の化合物の占める割合が多いとシリコーン層の可撓性が高まり、3官能性の化合物の占める割合が多いとシリコーン層が硬くなり、4官能性の化合物の占める割合が多いとシリコーン層がより硬くなるとされている。
ロール用のシリコーンレジンは3官能性のシロキサン単位を含むのが好ましく、3官能性のシロキサン単位及び2官能性のシロキサン単位を含むのがより好ましい。R1、R2及びR3としては、それぞれ、メチル基、プロピル基又はフェニル基を挙げることができる。また、シリコーンレジンの質量平均分子量としては300以上30000以下の範囲を挙げることができ、シリコーンレジン中の残存アルコキシ量としては2質量%以上50質量%以下の範囲を挙げることができる。
上記一般式(2)のシロキサン単位を含むシリコーンレジンの原料としては、メチルハイドロジェンジメトキシシラン、メチルハイドロジェンジエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、メチルエチルジメトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、メチルプロピルジメトキシシラン、メチルプロピルジエトキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン等を例示できる。これらは2官能性のアルコキシシランである。
上記一般式(3)のシロキサン単位を含むシリコーンレジンの原料としては、KR220L、KR242A、KR271、KR282、KR300、KR311、KC89、KR500、KR212、KR213、KR9218、KR251、KR400、KR255、KR216、KR152(以上、信越化学工業株式会社製)、804RESIN、805RESIN、806ARESIN、840RESIN、SR2400、3037INTERMEDIATE、3074INTERMEDIATE、Z−6018、217FLAKE、220FLAKE、233FLAKE、249FLAKE、QP8−5314、SR2402、AY42−161、AY42−162、AY42−163(以上、東レ・ダウコーニング株式会社製)、SY231、SY550、SY300、SY409、SY430、IC836(以上、旭化成ワッカー株式会社製)を例示できる。これらは3官能性のアルコキシシラン及び/又はその誘導体を含有する。
上記一般式(4)のシロキサン単位を含むシリコーンレジンの原料としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシランを例示できる。その他、Mシリケート51、シリケート35、シリケート45、FR−3(以上、多摩化学工業株式会社製)、MSI51、ESI40、ESI48、EMSi48(以上、コルコート社製)、MS51、MS56(以上、三菱化学株式会社製)を例示できる。これらは4官能性のアルコキシシラン及び/又はその誘導体を含有する。
シリコーン層を構成するシリコーンレジンは、シリコーンレジンの原料つまりアルコキシシラン及び/又はその誘導体が脱水縮合反応することで生成する。シリコーンレジンの原料としては、上記(2−1)〜(4−1)のアルコキシシラン及び/又はその誘導体を1種のみを用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
ロールや樹脂フィルムにシリコーン層を設ける方法は特に限定されず、既知のコート方法を用いれば良い。また、シリコーン層の厚さは、プレス時にリチウム箔に作用する応力に応じて適宜設定すれば良い。
ロールにシリコーン層を設ける場合、シリコーン層は、一方のロールにのみ設けても良いし両方のロールに設けても良い。但し、樹脂フィルムを用いずに負極積層体をプレスするプレス工程を行う場合や、後述するリチウム箔圧延工程においてリチウム箔を圧延する場合に、リチウム箔の破損等を抑制することを考慮すると、シリコーン層を両方のロールに設けるのが好ましい。
シリコーン層はロールと樹脂フィルムとの両方に設けても良い。つまり、本発明のリチウム負極複合体の製造方法のプレス工程において樹脂フィルムを用いる場合にも、負極積層体をプレスするためのロールとして、シリコーン層を有するロールを用いても良い。例えば、集電体の両面に各々負極層を形成し、各々の負極層にリチウム層を形成する場合、一方の負極層上に形成したリチウム層は直接ロールに接触し、他方の負極層上に形成したリチウム層は樹脂フィルムを介してロールに接触することも考えられる。この場合には、リチウム箔に接触するロールとしてシリコーン層を有するものを用いるのが好ましい。また、リチウム箔を圧延する場合に、シリコーン層を設けた樹脂フィルムをリチウム箔に1枚のみ重ねてロールで圧延を行う場合には、リチウム箔の2表面のうち樹脂フィルムが重ねられていない側の表面に、シリコーン層を有するロールが面すると良い。
ところで、上記したように、ロールに設けるシリコーン層としては、シリコーンレジンを用いるのが好ましく、樹脂フィルムに設けるシリコーン層としては、シリコーン粘着剤を用いるのが好ましい。ロールに設けるシリコーン層と、樹脂フィルムに設けるシリコーン層とでは、リチウム箔から剥がされるタイミングが異なるためである。以下、必要に応じて、ロールとリチウム箔との間に樹脂フィルムを介在させるプレス方法をフィルムプレスといい、ロールとリチウム箔との間に樹脂フィルムを介在させないプレス方法を直接プレスという。
リチウム箔を有する負極積層体を2つのロールによりプレスする際に、2つのロールからリチウム箔に作用する圧縮応力は、2つのロールの距離が最も近くなる位置(以下、必要に応じて近接位置と呼ぶ)で最大となると考えられる。直接プレスの場合、リチウム箔が近接位置に到達する際に、上記の圧縮応力によりリチウム箔とロールとが密着する。そして、リチウム箔が近接位置を通過すると、リチウム箔に密着していたロールがリチウム箔から剥がれ、リチウム箔にはその際の応力が作用すると考えられる。
リチウム箔の任意の点を基準に考えると、直接プレスの場合には、ロールに設けられているシリコーン層にリチウム箔が接する時間は非常に短く、かつ、圧縮応力とロールが剥がれる際の応力とは比較的短い間隔でリチウム箔に作用する。このためロールに設けるシリコーン層は、リチウム箔の変形や破損を抑制すべく、リチウム箔に対する粘着力が小さくかつリチウム箔から容易に剥離するシリコーン材料、つまり、シリコーンレジンで構成するのが好ましい。
他方、フィルムプレスの場合には、ロールからリチウム箔に作用する圧縮応力は上記の近接位置において最大となるものの、その直後にリチウム箔に作用する応力は、上記した直接プレスの場合に比べて小さい。つまり、フィルムプレスの場合には、少なくとも一方のロールとリチウム箔との間にシリコーン層を有する樹脂フィルムが介在し、樹脂フィルムはプレス後にリチウム箔から剥がせば良い。したがってこの場合には、直接プレスの場合のように、圧縮応力が作用した直後に、樹脂フィルムがリチウム箔から剥がれる応力がリチウム箔に作用することはない。このため、樹脂フィルムに形成するシリコーン層には、ロールに形成するシリコーン層ほどに、粘着力の小ささやリチウム箔からの剥離し易さは要求されない。寧ろフィルムに形成するシリコーン層には、プレス時から樹脂フィルムを剥がすに至るまで、樹脂フィルムとリチウム箔との間に留まり得る程度の粘着力が望まれる。その点、シリコーン粘着剤は、上記したシリコーンレジンに比べて大きな粘着力を有するために、フィルムに形成するシリコーン層用のシリコーン材料として好適だと考えられる。
ところで、リチウム箔等の相手材に粘着したシリコーン粘着剤は、高速で相手材から剥がす場合には粘着力が比較的大きく、低速で相手材から剥がす場合には粘着力が比較的小さくなる性質を有する。このため、プレス後に、樹脂フィルムを低速でリチウム箔から剥がす場合には、リチウム箔に作用する応力すなわち樹脂フィルムがリチウム箔から剥がれる応力は過大にならず、リチウム箔の変形や破損は充分に抑制されると考えられる。このことによっても、シリコーン粘着剤は、フィルムに形成するシリコーン層用のシリコーン材料として好適だと考えられる。
本発明のリチウム負極複合体の製造方法において、負極層上に積層するリチウム箔の厚さ、すなわち、負極活物質層にドープするリチウム量は、負極活物質層の不可逆容量に基づいて設定すれば良い。また、リチウム箔は負極層上に積層され、負極層と負極活物質層とは略同じ面積であると考えられるため、負極活物質層にドープするリチウム量と負極活物質層の不可逆容量とは、両者の単位面積あたりの量として設計すれば良い。
つまり、単位面積あたりのリチウム箔のリチウム量は、単位面積あたりの負極活物質層の不可逆容量をキャンセルし得るリチウム量に相当する量であるのが好ましい。
単位面積あたりのリチウム箔のリチウム量は、リチウム箔の厚さと相関する。リチウム箔の厚さが過小であれば、単位面積あたりのリチウム箔のリチウム量は過小となり、当該リチウム箔が重ねられた負極活物質層の不可逆容量が充分にキャンセルされず、リチウムイオン二次電池の容量が充分に向上しない。一方、リチウム箔の厚さが過大であれば、余分なリチウムがリチウムイオン二次電池内で異物となるおそれがあり、また、リチウムイオン二次電池のコストが高くなる。
負極活物質層の不可逆容量等を考慮し、かつ、余剰のリチウムをなるべく低減するためには、当該リチウム箔の厚さは1μm〜25μmであるのが好ましく、3〜20μmであるのがより好ましく、5〜15μmであるのが更に好ましい。
本発明のリチウム負極複合体の製造方法が、リチウム箔を圧延するリチウム箔圧延工程を有する場合、当該リチウム箔圧延工程で得られるリチウム箔の好適な厚さもまた、上記範囲のとおりである。
なお、上記した「単位面積あたりの負極活物質層の不可逆容量をキャンセルし得るリチウム量」は、以下のように算出すれば良い。
先ず、「単位面積あたりの負極活物質層の不可逆容量」は、負極活物質層を有する負極を作用極とし、金属リチウムを対極として実際に製造した試験用のリチウム二次電池(所謂ハーフセル)の測定値を基に算出すれば良い。具体的には、(初回充電容量)−(初回放電容量)で算出したハーフセルの負極活物質層の不可逆容量を基にSi含有負極活物質の質量あたりの不可逆容量を算出する。そして、その算出結果から、本発明のリチウムドープ負極における負極活物質層の単位面積あたりの不可逆容量を算出する。
なお、初回充電容量とは、リチウム対極と負極との電位差が0.01Vとなるまで初回充電したときの容量をいう。初回放電容量とは、初回充電後のハーフセルを、リチウム対極と負極との電位差が0.8Vとなるまで放電したときの容量をいう。ここでいう充電とは対極のリチウムイオンが作用極に移動することをいい、放電とは充電後の作用極から対極にリチウムイオンが移動することをいう。また、このとき充放電は0.01C〜0.05C程度の低電流で行うものとする。1Cとは一定電流において1時間で電池を完全充電又は完全放電させるために要する電流値を意味する。
上記した「単位面積あたりの負極活物質層の不可逆容量をキャンセルし得るリチウム量」は、上記の「単位面積あたりの負極活物質層の不可逆容量」と等量の容量となるリチウム量である。リチウムの容量としては、金属リチウムの理論容量である3861mAh/gを用いれば良い。
さらに、単位面積あたりのリチウム箔のリチウム量を(A)とし、単位面積あたりの負極活物質層の不可逆容量をキャンセルし得るリチウム量を(B)とすると、当該(A)と(B)との関係は、0.8<(A)/(B)<1.2を満たすのが良い。
また、一般に、リチウムイオン二次電池では、リチウムイオン二次電池内で異物となる余分なリチウムが生じないように電池設計を行っている。具体的には、負極が受け入れ得るリチウム量を(C)とし、正極が放出し得るリチウム量を(D)とすると、C>Dの関係を満たせば良い。
これを考慮し、本発明のリチウムドープ負極を有する本発明のリチウムイオン二次電池では、1.05<C/(D+リチウム箔のリチウム量)<1.5の関係を満たすよう電池設計を行うのが好ましい。
ここで、負極が受け入れ得るリチウム量(C)は、上記したハーフセルの初回充電容量から算出される単位質量あたりの負極活物質の容量を基に算出できる。正極が放出し得るリチウム量(D)は、製造対象であるリチウムイオン二次電池に使用する正極を具備するリチウムイオン二次電池を製造し、当該正極が可逆的に充放電できる最大容量とすれば良い。
プレス工程に用いるロールの材料は特に限定されないが、リチウム箔に充分な荷重を作用させるためには、硬い材料を用いるのが好ましい。2つのロールの各々は、異なる材料で構成されても良いし異なる大きさであっても良いが、荷重やロールの回転速度等の設定を容易に行うためには同じ材料で構成され同じ大きさであるのが好ましい。
具体的にはロールの材料は、ビッカース硬さ50HV以上であるのが好ましく、70HV以上であるのがより好ましく、100HV以上であるのが更に好ましく、150HV以上であるのがなお好ましい。ビッカース硬さ50HV以上の材料を例示すると、ステンレス鋼、ニッケル、ニッケル鋼、ニッケルモリブデンクロム系合金、ニッケルクロム鉄系合金、タングステン、タングステン鋼、モリブデン、チタン、チタン合金、アルミニウム青銅、真鍮、銅合金、炭素鋼等が挙げられる。価格、加工性等を勘案すると、このうちステンレス鋼を用いるのが特に好ましい。
なお、ここでいうロールの材料とは、ロールにシリコーン層等の剥離層を設ける場合には、剥離層以外の部分の材料を指す。つまり、剥離層を一体に有するロールは、ロール基材と当該ロール基材上に設けられた剥離層とで構成されるということができ、この場合、上記のロールの材料とはロール基材の材料を指す。
プレス工程において、上述した剥離層と併用するか或いは剥離層にかえて、潤滑剤を使用しても良い。潤滑剤は、ロールとリチウム箔との間、又は、樹脂フィルムとリチウム箔との間に介在するのが良く、何れの場合にも、剥離層とリチウム箔との間に介在するのが好ましい。剥離層と潤滑剤とを併用することで、ロールや樹脂フィルムへのリチウム箔の圧着を抑制でき、プレスによるリチウム箔の変形や破損をさらに抑制できると考えられる。特に剥離層としてシリコーン層を用いる場合に、剥離層と潤滑剤とを併用することで、リチウム箔の破損抑制効果をより高め得る。潤滑剤としては、シリコーン層等の剥離層となじみが良く、かつ、リチウムに対する反応性の低いものを用いるのが好ましい。
潤滑剤には、剥離層、ロール及び樹脂フィルムへのリチウム箔の強固な付着を抑制できるものが用いられる。また潤滑剤は、プレス時には剥離層、ロール又はフィルムとリチウム箔との間に留まる程度に揮発性が低く、かつ、リチウム負極複合体から容易に除去できる程度に揮発性の高い性質を有するのが好ましい。これらを満たす潤滑剤としては、非プロトン性有機溶媒が挙げられる。具体的には、20℃における蒸気圧が0.3〜65.0kPaの範囲にあるか、又は、25℃における蒸気圧が0.5〜100kPaの範囲にあるものを用いるのが好ましい。
潤滑剤として、具体的には、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、エチルメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、フルオロメチルメチルカーボネート、ジフルオロメチルメチルカーボネート、2,2,2−トリフルオロエチルメチルカーボネート、ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)カーボネート、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、アクリロニトリル、ジメトキシメタン、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,2−ジオキサン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン、2−メチルテトラヒドロピラン、1,3−ジオキソラン、N,N−ジメチルアセトアミド、イソプロピルイソシアネート、n−プロピルイソシアネート、クロロメチルイソシアネート、ジメチルアセタール、ジエチルエーテル、メチルイソブチルケトン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、蟻酸メチル、蟻酸エチル、蟻酸プロピル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸イソブチル、プロピオン酸メチル、酢酸ビニル、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、グリシジルメチルエーテル、エポキシブタン、2−エチルオキシラン、オキサゾール、2−エチルオキサゾール、オキサゾリン、2−メチル−2−オキサゾリン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、無水酢酸、1−ニトロプロパン、2−ニトロプロパン、フラン、γ−ブチロラクトン、チオフェン、ピリジン、1−メチルピロリジン、N−メチルモルフォリン等が挙げられる。本発明のリチウム負極複合体の製造方法においては、これらの非プロトン性有機溶媒を1種又は2種以上組み合わせて、潤滑剤として用いれば良い。
潤滑剤としては、上記の非プロトン性有機溶媒のうち、20℃における蒸気圧が0.5〜10kPaの範囲にあるか、又は、25℃における蒸気圧が1.0〜20kPaの範囲にあるものを用いるのが特に好ましい。潤滑剤としては、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、メチルイソブチルケトン、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネートから選ばれる少なくとも1種を用いるのが特に好ましい。なお、これらの非プロトン性有機溶媒は、上記の条件を満たすだけでなく、リチウムイオン二次電池の電解液に用いられているものであるか、或いは、充分に揮発せずリチウムイオン二次電池に持ち込まれたとしてもリチウムイオン二次電池の性能を悪化させ難い利点がある。
また、潤滑剤には、上記した2つのロールの近接箇所においてロールとリチウム箔との間又は樹脂フィルムとリチウム箔との間に一様に広がることができる程度の流動性を示すことが期待される。本明細書においては、当該潤滑剤の流動性を潤滑剤の粘度によって規定する。潤滑剤は、20℃における粘度が2.00パスカル秒以下であるのが好ましく、1.00パスカル秒以下であるのがより好ましい。なお、20℃におけるヘキサンの粘度は0.0003パスカル秒程度、20℃におけるエチルメチルカーボネートの粘度は0.0007パスカル秒程度とされている。
プレス工程に用いるリチウム箔としては、市販のものを用いても良いが、本発明のリチウム負極複合体の製造方法においては薄いリチウム箔を用いるのが好ましいため、市販のリチウム箔を更に圧延して用いても良い。つまり、本発明のリチウム負極複合体の製造方法は、薄いリチウム箔を得るためのリチウム箔圧延工程を有しても良い。リチウム箔圧延工程は、比較的厚いリチウム箔を圧延して、薄いリチウム箔を得る工程である。以下、必要に応じて、圧延前のリチウム箔をリチウム原箔といい、圧延後のリチウム箔を圧延リチウム箔という。
リチウム箔圧延工程に用いる圧延装置としては、上記したプレス工程と同様のプレスロールを用いれば良い。負極積層体の圧延の際に問題となるロールとリチウムとの強固な付着については、リチウム箔の圧延の際にも生じる問題であるため、リチウム箔圧延工程においても、ロールとリチウム箔との間に樹脂フィルムを介在させるのが好ましく、ロール又は樹脂フィルムとリチウム箔との間に剥離層及び/又は潤滑剤を介在させるのが好ましい。ロール、樹脂フィルム、剥離層及び潤滑剤については既述したとおりである。
既述したように、リチウムは柔らかく変形し易い性質を有する。本発明の発明者は、このような性質を有するリチウム箔を薄く加工するために、様々な条件でリチウム箔の圧延を繰り返し、リチウムドープの使用に耐える薄くかつ破損の抑制されたリチウム箔の製造を試みた。その過程で、プレスロールにより圧延した場合に、リチウム箔の圧延方向におけるリチウム箔の変形量は大きいが、当該圧延方向と直交するリチウム箔の幅方向においては当該変形量は殆どないことを見出した。ここでいうリチウム箔の圧延方向とは、2つのロールにより圧延されるリチウム箔が搬送される方向ともいえる。さらに換言すると、当該圧延方向は、後述する図1中の後側−先側方向ともいえる。また、リチウム箔の幅方向とは、同じく後述する図1中の紙面奥側−紙面手前側方向といえる。発明者は、この発見を基に、リチウム箔圧延工程を最適化することに到達した。
つまり、圧延前後でリチウム箔の幅が変わらないことから、負極活物質層又は負極層の幅を基に、リチウム原箔の幅を設定できる。これは以下の理由による。
巻き出しロールに巻かれた材料を巻き出しつつ処理を施して巻き取りロールに巻き取る、所謂ロール・ツー・ロール(Roll to Roll)方式が知られている。本発明のリチウム負極複合体の製造方法におけるプレス工程にも、例えば後述する実施例のように、巻き出しロールから負極を巻き出しつつ、当該負極の負極層上に圧延リチウム箔を積層しプレスしてリチウム負極複合体とし、再び巻き取りロールに巻き取るロール・ツー・ロール方式を採用できる。当該ロール・ツー・ロール方式でプレス工程を行う際には、巻き出しロールに巻いておく負極層の幅と、当該負極層上に積層する圧延リチウム箔の幅と、を精密に設定しておく必要がある。
つまり、例えば負極層の幅に対して圧延リチウム箔の幅が過大であれば、圧延リチウム箔が負極層の負極活物質層から大きくはみ出す。このため、余剰のリチウムつまり負極活物質層にドープされないリチウムをリチウムイオン二次電池に持ち込まないためには、当該はみ出した圧延リチウム箔を切断する等の工程が必要となる。圧延リチウム箔の幅は、具体的には、負極活物質層の幅よりも僅かに小さくするのが良い。実際には、負極層の幅と負極活物質層の幅とは略一致すると考えられるため、圧延リチウム箔の幅は負極層の幅よりも僅かに小さくするのが良い、と言い換えることもできる。
また、例えば負極活物質層の幅に対して圧延リチウム箔の幅が過少であれば、負極活物質層のなかでリチウムがドープされない部分が多くできるため、余剰の負極活物質層、具体的には負極層を切断する等の工程が必要となる。
圧延リチウム箔が負極に積層されたリチウム負極複合体の状態で上記の切断を行うと、負極層やリチウム箔が破損して製造ロスが生じる可能性があるため、このような工程はリチウム負極複合体やリチウムイオン二次電池の製造上、好ましいとは言い難い。
この問題を回避するためには、プレス工程前に、圧延リチウム箔の幅及び負極層の幅を適宜整形しておく必要があり、具体的には、プレス工程前に圧延リチウム箔又は負極を切断等する工程が必要だと考えられる。
しかしながら、上記したように、圧延前後でリチウム箔の幅が変わらなければ、製造しようとする負極活物質層の幅に応じた幅のリチウム原箔を準備すれば良く、上記した圧延リチウム箔又は負極を切断する工程が不要となる。そして、リチウム負極複合体をこのような方法で製造すれば、リチウム負極複合体の製造コスト低減に多大な効果がある。
なお、参考までに、正極における正極活物質層の幅は、圧延リチウム箔の幅よりも僅かに小さいのが良い。これは、後述するようにリチウム負極複合体と正極とを重ねて電池容器内に入れ、当該電池容器に電解液を注液するドープ工程によって負極活物質層へのリチウムのドープを行う場合に、特に有用である。この場合には、リチウムイオン二次電池の製造時において、リチウムドープされた負極活物質層に正極活物質層の全面が対面するリチウムイオン二次電池を容易に製造できる利点がある。
リチウム原箔の幅は、負極活物質層の幅以下であり、かつ、リチウム原箔の幅と負極活物質層の幅との差は5mm以内であるのが好ましい。リチウム原箔の幅は、負極活物質層の幅未満であり、リチウム原箔の幅と負極活物質層の幅との差は3mm以内であるのがより好ましく、1mm以内であるのが更に好ましい。更に、リチウム原箔の幅は、正極活物質層の幅以上であり、かつ、リチウム原箔の幅と正極活物質層の幅との差は5mm以内であるのが好ましい。リチウム原箔の幅は、正極活物質層の幅を超え、リチウム原箔の幅と負極活物質層の幅との差は3mm以内であるのがより好ましく、1mm以内であるのが更に好ましい。
リチウム箔圧延工程において、ロールからリチウム原箔に作用する荷重は0.1kN〜3.0kNであるのが好ましい。当該荷重がこの範囲を超えると、圧延時にリチウム原箔がロールに圧着してしまい、圧延リチウム箔に変形又は破損が生じるおそれがある。また、当該荷重がこの範囲を下回る場合には、何度もロールプレスを行う必要があり、圧延リチウム箔の製造コストが高くなる可能性がある。なお、圧延時にロールからリチウム原箔に作用する荷重は0.5kN〜2.0kNであるのがより好ましく、1.0kN〜1.5kNであるのが更に好ましい。
また、リチウム箔圧延工程においてロールからリチウム原箔に作用する荷重は1.0N/mm〜30N/mmであるのが好ましく、0.5N/mm〜20N/mmであるのが更に好ましい。
本発明のリチウム負極複合体では、負極活物質層とリチウム箔との間にセラミックス層が介在する。したがって、リチウム負極複合体をそのまま放置しておくだけでは、リチウムのドープは非常に進行し難い。しかし、本発明のリチウムドープ負極の製造方法によると、リチウム負極複合体を電解液に接触させることで、リチウムのドープ速度を早め、リチウムドープを好適に行い得る。
具体的には、電解液としては、有機溶媒とリチウム塩とを含むものを用いれば良い。有機溶媒及びリチウム塩については、後述するリチウムイオン二次電池用の電解液に使用できるものを用いれば良い。リチウム負極複合体を電解液に接触させる工程をドープ工程と呼ぶ。ドープ工程により、負極層上、より詳しくはセラミックス層上に設けられたリチウム層のリチウムは、セラミックス層を通じて負極活物質層に移行する。したがって、ドープ工程後のリチウム負極複合体においては、実質的に、リチウム層が消失し、集電体上にはリチウムが一体化した一層構造の負極層のみが残存する。したがって、ドープ工程後のリチウム負極複合体は、リチウムの剥離等を考慮しなくても良くなり、取り扱い性が向上する。
ドープ工程において、リチウム負極複合体を、それ単体で電解液に接触させても良いし、正極等の負極以外の電池構成材料とともに電池容器内で電解液に接触させても良い。
リチウム負極複合体を単体で電解液に接触させてドープ工程を行う場合には、上記したようにリチウム負極複合体の取り扱い性が向上し、リチウムイオン二次電池の組立作業が容易になる。また、負極活物質層は多数の細孔を有する多孔質であり、当該細孔の体積分だけ密度の増大を許容し得ると考えられる。したがって、ドープ工程においてリチウムがドープされた負極活物質層は、実質的に、消失したリチウム層の分だけ外形が小さくなり、その一方で密度が高まると考えられる。その結果、ドープ工程後のリチウムドープ負極の厚さは、ドープ工程前のリチウム負極複合体の厚さに比べて薄くなると考えられる。
このため、同じ大きさの電池容器に入れることのできるリチウムドープ負極の量は、リチウム負極複合体の量に比べて多い。換言すると、リチウムドープ負極は、リチウム負極複合体に比べて、電池容器に高密度で充填できる。よって、この場合には、容量の大きなリチウムイオン二次電池を製造できるといえる。
一方、リチウム負極複合体を、正極等の負極以外の電池構成材料とともに電池容器内で電解液に接触させる場合には、リチウムイオン二次電池の製造工数が低減する。また、上述したように、リチウムドープ後のリチウムドープ負極の体積は、リチウムドープ前のリチウム負極複合体の体積に比べて減少する。したがって、電池容器内でリチウム負極複合体を電解液と接触させてリチウムドープを進行させる場合には、リチウムドープ前のリチウム負極複合体の体積とリチウムドープ後のリチウムドープ負極との差の分、電池容器内に空間的な余裕が生じる。よってこの場合には、負極の膨張時にも、負極等の電池構成要素に大きな応力が作用し難く、充放電に伴う負極の膨張に長期間耐え得るリチウムイオン二次電池、すなわち、耐久性に優れるリチウムイオン二次電池が得られるといえる。
ところで、プレス工程においてロールとリチウム箔との間にフィルムを介在させて負極積層体をプレスする場合、プレス後のリチウム負極複合体の表面にはフィルムが重ねられたまま残存する。上記したように、このフィルムをリチウム負極複合体から剥がす際には、リチウム箔からなるリチウム層に応力が作用するため、当該応力が過大であれば、リチウム層の破損等が生じる可能性がある。
しかし、当該フィルムを重ねたままでリチウム負極複合体をドープ工程に供すれば、上記のリチウム層の破損等を抑制することができる。つまり、ドープ工程によってリチウム層のリチウムは負極活物質層に移動するため、ドープ工程後のフィルムはリチウム箔を欠き、当該フィルムと負極層との密着性も低い。このため、ドープ工程後のフィルムはリチウム負極複合体から容易に剥がれる。また、リチウム箔は負極活物質層にドープされ消失しているため、リチウム箔の破損も生じ得ない。
本発明のリチウム負極複合体または本発明のリチウムドープ負極を有するリチウムイオン二次電池は、当該リチウム負極複合体(またはリチウムドープ負極)、正極体、電解液及び必要に応じてセパレータを具備する。
正極体は、正極用集電体と、当該正極用集電体上に設けられた正極活物質層と、を有する。リチウム負極複合体は、負極用集電体と、当該負極用集電体の片面又は両面に設けられた負極活物質層と、当該負極活物質層上に設けられたセラミックス層と、当該セラミックス層上に設けられたリチウム層と、を有する。また、既述したように負極活物質層はSi含有負極活物質を含むSi含有負極活物質層であり、負極活物質層に含まれるSiは負極活物質に由来する。
Si含有負極活物質としては、ケイ素単体、ケイ素単体と二酸化ケイ素に不均化するSiOx(0.3≦x≦1.6)などのケイ素系材料、ケイ素単体若しくはケイ素系材料と後述する炭素系材料等を組み合わせた複合体が挙げられる。更には、ケイ素系材料として、特許文献5に開示されるシリコン材料を用いることも好ましい。特許文献5には、複数枚の板状シリコン体が厚さ方向に積層されてなる構造を有するシリコン材料が開示されている。そして当該特許文献5には、CaSi2と酸とを反応させてCaを除去したポリシランを主成分とする層状シリコン化合物を合成し、当該層状シリコン化合物を300℃以上で加熱して水素を離脱させたシリコン材料を製造したこと、及び、当該シリコン材料を活物質として具備するリチウムイオン二次電池が記載されている。
負極活物質層には、その他の負極活物質を併用しても良い。当該その他の負極活物質としては、一般的な負極活物質、すなわち、炭素、ゲルマニウム、錫などの14族元素、アルミニウム、インジウムなどの13族元素、亜鉛、カドミウムなどの12族元素、アンチモン、ビスマスなどの15族元素、マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属、銀、金などの11族元素の少なくとも1種の単体、化合物または合金を選択すれば良い。上記合金又は化合物の具体例としては、Ag−Sn合金、Cu−Sn合金、Co−Sn合金等の錫系材料、各種黒鉛などの炭素系材料、が挙げられる。また、負極活物質として、Nb2O5、TiO2、Li4Ti5O12、WO2、MoO2、Fe2O3等の酸化物、又は、Li3−xMxN(M=Co、Ni、Cu)で表される窒化物を採用しても良い。負極活物質として、これらの一種以上を使用することができる。
負極活物質層は、Si含有負極活物質の他に、必要に応じて、導電助剤、結着剤、分散剤等の添加剤を適宜適当な量で含有し得る。なお、正極活物質層もまた同様に、後述する正極活物質の他に、これらの添加剤を適宜適当な量で含有し得るため、以下の項では負極活物質層及び正極活物質層を包括して説明する。以下、必要に応じて、負極及び正極を包括して電極といい、負極活物質及び正極活物質を包括して活物質といい、負極活物質層及び正極活物質層を包括して活物質層という。
導電助剤は、電極の導電性を高めるために添加される。導電助剤は化学的に不活性な電子高伝導体であれば良く、炭素質微粒子であるカーボンブラック、黒鉛、気相法炭素繊維(Vapor Grown Carbon Fiber)、及び各種金属粒子等が例示される。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、ファーネスブラック、チャンネルブラック等が例示される。これらの導電助剤を単独または二種以上組み合わせて活物質層に添加することができる。
結着剤は、活物質等を集電体の表面に繋ぎ止める役割を果たすものである。結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド等のイミド系樹脂、アルコキシシリル基含有樹脂を例示することができる。また、結着剤として、親水基を有するポリマーを採用してもよい。親水基を有するポリマーの親水基としては、カルボキシル基、スルホ基、シラノール基、アミノ基、水酸基、リン酸基が例示される。親水基を有するポリマーの具体例として、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、ポリメタクリル酸、ポリ(p−スチレンスルホン酸)を挙げることができる。
導電助剤及び結着剤以外の分散剤などの添加剤は、公知のものを採用することができる。
集電体は、リチウムイオン二次電池の放電又は充電の間、電極に電流を流し続けるための化学的に不活性な電子高伝導体をいう。集電体としては、銀、銅、金、アルミニウム、マグネシウム、タングステン、コバルト、亜鉛、ニッケル、鉄、白金、錫、インジウム、チタン、ルテニウム、タンタル、クロム、モリブデンから選ばれる少なくとも一種、並びにステンレス鋼などの金属材料を例示することができる。
集電体は公知の保護層で被覆されていても良い。集電体の表面を公知の方法で処理したものを集電体として用いても良い。
また、集電体は箔、シート、フィルム、線状、棒状、メッシュなどの形態をとることができる。そのため、集電体として、例えば、銅箔、ニッケル箔、アルミニウム箔、ステンレス箔などの金属箔を好適に用いることができる。
集電体の表面に活物質層を形成するには、ロールコート法、ダイコート法、ディップコート法、ドクターブレード法、スプレーコート法、カーテンコート法などの従来から公知の方法を用いて、集電体の表面に活物質を有する電極合材を塗布すればよい。具体的には、活物質、溶剤、並びに必要に応じて結着剤及び導電助剤を混合してスラリー状の電極合材とし、当該スラリー状の電極合材を集電体の表面に塗布後、乾燥する。溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン、メタノール、メチルイソブチルケトン、水を例示できる。電極密度を高めるべく、乾燥後のものを圧縮しても良い。
正極に用いる正極活物質については特に限定されず、リチウムイオン二次電池用の一般的な正極活物質を使用し得る。
リチウムイオン二次電池用の一般的な正極活物質としては、層状岩塩構造の一般式:LiaNibCocMndDeOf(0.2≦a≦2、b+c+d+e=1、0≦e<1、DはW、Mo、Re、Pd、Ba、Cr、B、Sb、Sr、Pb、Ga、Al、Nb、Mg、Ta、Ti、La、Zr、Cu、Ca、Ir、Hf、Rh、Fe、Ge、Zn、Ru、Sc、Sn、In、Y、Bi、S、Si、Na、K、P、Vから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f≦3)で表されるリチウム複合金属酸化物、Li2MnO3を挙げることができる。また、正極活物質として、LiMn2O4等のスピネル構造の金属酸化物、スピネル構造の金属酸化物と層状化合物の混合物で構成される固溶体、LiMPO4、LiMVO4又はLi2MSiO4(式中のMはCo、Ni、Mn、Feのうちの少なくとも一種から選択される)などで表されるポリアニオン系化合物を挙げることができる。さらに、正極活物質として、LiFePO4FなどのLiMPO4F(Mは遷移金属)で表されるタボライト系化合物、LiFeBO3などのLiMBO3(Mは遷移金属)で表されるボレート系化合物を挙げることができる。正極活物質として用いられるいずれの金属酸化物も上記の組成式を基本組成とすればよく、基本組成に含まれる金属元素を他の金属元素で置換したものも使用可能である。
上記した本発明のリチウム負極複合体又はリチウムドープ負極は、正極及び必要に応じて既知のセパレータとともに電池容器に入れ、電解液を注入してリチウムイオン二次電池とすれば良い。
電解液は、有機溶媒と当該有機溶媒に溶解されたリチウム塩とを含む。
有機溶媒としては、環状エステル類、鎖状エステル類、エーテル類等が使用できる。環状エステル類としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ガンマブチロラクトン、ビニレンカーボネート、2−メチル−ガンマブチロラクトン、アセチル−ガンマブチロラクトン、ガンマバレロラクトンを例示できる。鎖状エステル類としては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、エチルメチルカーボネート、プロピオン酸アルキルエステル、マロン酸ジアルキルエステル、酢酸アルキルエステル等を例示できる。エーテル類としては、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、1,2−ジブトキシエタンを例示できる。電解液には、これらの有機溶媒を単独で用いてもよいし、又は、複数を併用してもよい。
リチウム塩としては、LiClO4、LiAsF6、LiPF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2等を例示できる。
電解液としては、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネートなどの有機溶媒に、LiClO4、LiPF6、LiBF4、LiCF3SO3などのリチウム塩を0.5mol/lから1.7mol/l程度の濃度で溶解させた溶液を例示できる。
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。また、実施形態及び以下の実施例を含む本明細書に示した各構成要素は、それぞれ任意に抽出し組み合わせて実施することができる。
以下に、試験例及び実施例を示し、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。
(リチウム負極複合体の製造)
実施例のリチウム負極複合体の製造装置を用いる実施例のリチウム負極複合体の製造方法を模式的に表す説明図を図1に示し、図1におけるA部分の要部拡大図を図2に示す。実施例のリチウム負極複合体の製造方法で得られる実施例のリチウム負極複合体を模式的に表す説明図を図3に示す。図1におけるB部分の要部拡大図を図4に示す。以下、上、下、先、後とは、図1に示す上、下、先、後を指す。
実施例のリチウム負極複合体の製造方法は、図1に示すロールプレス装置1を用いて行う。
図1に示すように、ロールプレス装置1は、ロールプレス部2、搬送部3、及びリチウム箔供給部4を備える。
ロールプレス部2は、第1ロール21及び第2ロール22と、第1ロール21及び第2ロール22を回転駆動する図略のプレス駆動部とを有する。第1ロール21及び第2ロール22は、ステンレス鋼製であり、互いに平行になるよう上下に配列している。
図略のプレス駆動部は、電動モータで構成されている。当該プレス駆動部に駆動されて、第1ロール21は図1中反時計回りに回転し、第2ロール22は図1中時計回りに回転する。
搬送部3は、負極巻き出しロール31と、負極巻き取りロール32と、負極巻き出しロール31及び負極巻き取りロール32を回転駆動する図略の搬送駆動部と、4つの補助ロール(第1補助ロール33、第2補助ロール34、第3補助ロール35、第4補助ロール36)と、で構成されている。負極巻き出しロール31には負極70が巻かれている。負極巻き取りロール32は、後述するとおり、負極70を有するリチウム負極複合体95を巻き取る。したがって、負極巻き出しロール31と負極巻き取りロール32との間には、負極70が架け渡される。
図2に示すように、負極70は、負極用集電体71、負極用集電体71の一方の面に形成されている第1負極活物質層81、第1負極活物質層81の上に形成されている第1セラミックス層85、負極用集電体71の他方の面に形成されている第2負極活物質層82、及び、第2負極活物質層82の上に形成されている第2セラミックス層86を有する。第1負極活物質層81及び第1セラミックス層85は第1負極層91を構成し、第2負極活物質層82及び第2セラミックス層86は第2負極層92を構成する。
図1に示すように、負極巻き出しロール31と負極巻き取りロール32との間に架け渡された負極70は、第1負極活物質層81を上に向け、第2負極活物質層82を下に向ける。
負極巻き出しロール31はロールプレス部2よりも後側に配置され、負極巻き取りロール32はロールプレス部2よりも先側に配置されている。負極巻き出しロール31及び負極巻き取りロール32には、電動モータからなる図略の搬送駆動部が接続されている。搬送駆動部に駆動され、負極巻き出しロール31及び負極巻き取りロール32は図1中時計回りに回転する。つまり、負極巻き出しロール31は図1中後側から先側に向けて負極70を巻き出し、負極巻き取りロール32は後側から先側に向けてリチウム負極複合体95を巻き取る。第1補助ロール33〜第4補助ロール36については後述する。
負極巻き出しロール31とロールプレス部2との間には、リチウム箔供給部4が配置されている。リチウム箔供給部4は、第1箔巻き出し部41と、第2箔巻き出し部42と、図略の箔巻き出し駆動部と、で構成されている。第1箔巻き出し部41は、負極巻き出しロール31とロールプレス部2との間で負極70の上側に配置されている。第2箔巻き出し部42は、負極巻き出しロール31とロールプレス部2との間で負極70の下側に配置されている。
第1箔巻き出し部41は、第1巻き出しロール41aと、第1巻き取りロール41bと、を有する。第2箔巻き出し部42は、第2巻き出しロール42aと、第2巻き取りロール42bと、を有する。第1巻き出しロール41aには第1フィルムリチウム積層体61が巻かれており、第2巻き出しロール42aには第2フィルムリチウム積層体62が巻かれている。詳細は後述するが、第1フィルムリチウム積層体61及び第2フィルムリチウム積層体62は同じものであり、各々、圧延リチウム箔65と、当該圧延リチウム箔65の両面にそれぞれ重ねられた2つのフィルム68と、で構成されている。
第1フィルムリチウム積層体61の一方のフィルム68は、第1巻き出しロール41aの巻き出し方向の先側において、第1フィルムリチウム積層体61から剥がされ、第1補助ロール33を経由して第1巻き取りロール41bに巻き取られる。第1フィルムリチウム積層体61における当該フィルム68以外の部分、つまり、他方のフィルム68と圧延リチウム箔65とを有する第1フィルムリチウム積層本体61aは、第2補助ロール34を経由し、圧延リチウム箔65を下方に向けて負極70の上面に重ねられる。
第2フィルムリチウム積層体62の一方のフィルム68は、第2巻き出しロール42aの巻き出し方向の先側において、第2フィルムリチウム積層体62から剥がされ、第3補助ロール35を経由して第2巻き取りロール42bに巻き取られる。第2フィルムリチウム積層体62における当該フィルム68以外の部分、つまり、他方のフィルム68と圧延リチウム箔65とを有する第2フィルムリチウム積層本体62aは、第4補助ロール36を経由し、圧延リチウム箔65を上方に向けて負極70の下面に重ねられる。第1フィルムリチウム積層本体61a及び第2フィルムリチウム積層本体62aは、負極70とともに、第1ロール21と第2ロール22との間に通され、さらに、負極巻き取りロール32に巻き取られる。
図略の箔巻き出し駆動部は、電動モータからなり、第1巻き出しロール41a、第1巻き取りロール41b、第2巻き出しロール42a及び第2巻き取りロール42bに接続されている。第1巻き出しロール41a、第1巻き取りロール41b、第2巻き出しロール42a及び第2巻き取りロール42bは各々同期して回転する。より具体的には、箔巻き出し駆動部に駆動され、第1巻き出しロール41aは図1中反時計回りに回転し、第1巻き取りロール41bは図1中時計回りに回転し、第2巻き出しロール42aは図1中時計回りに回転し、第2巻き取りロール42bは図1中反時計回りに回転する。
以下、実施例のリチウム負極複合体の製造装置を用いた実施例のリチウム負極複合体の製造方法を説明する。実施例のリチウム負極複合体の製造方法は、リチウム箔圧延工程と、負極層形成工程と、複合体形成工程と、を有する。負極層形成工程は負極活物質層形成工程及びセラミックス層形成工程を有し、複合体形成工程はプレス工程を有する。
(リチウム箔圧延工程)
圧延リチウム箔65の材料であるリチウム原箔としては、厚さ100μmのリチウム箔を用いた。このリチウム原箔の両面に、各々潤滑剤を塗布し、更にその上に各々フィルム68を重ね、ロールプレス装置で圧延して、厚さ20μmの圧延リチウム箔65を得た。
具体的には、潤滑剤としてはヘキサンを用いた。
フィルム68としては、リンテック株式会社製、厚さ約25μmのフィルム68を用いた。当該フィルム68は、ポリエチレンテレフタレート製の樹脂フィルム上に、シリコーン層が形成されたものである。当該シリコーン層の原料は、付加硬化型のシリコーン粘着剤であるKS−847H(信越化学工業株式会社製)を固形分換算で30質量部、同じく付加硬化型のシリコーン粘着剤であるSD4584(東レ・ダウコ−ニング株式会社製)を固形分換算で18質量部、及び白金触媒であるPL−50T(信越化学工業株式会社製)を1.6質量部に、溶剤としてのトルエンを加えて、固形分濃度を約30質量%としたものである。当該シリコーン層の原料を、上記した樹脂フィルム上に塗布し、130℃で2分間加熱し硬化させるとともに溶剤を揮発させることで、シリコーン層を形成した。シリコーン層の厚さは0.05μm、樹脂フィルムの厚さは25μmである。このようにして得たフィルム68を、シリコーン層をリチウム原箔に向けて、潤滑剤を充分に塗布したリチウム原箔の両面にそれぞれ重ね、リチウム原箔とフィルム68との積層体を得た。
この状態で、図略のロールプレス装置の2つのロールによって、当該積層体を所定の荷重で挟み込んで圧延した。圧延後の当該積層体を、各々、第1フィルムリチウム積層体61及び第2フィルムリチウム積層体62としてロール芯に巻き取り、リチウム箔供給部4の第1巻き出しロール41a及び第2巻き出しロール42aに用いた。なお、第1フィルムリチウム積層体61及び第2フィルムリチウム積層体62は、各々、圧延リチウム箔65と、当該圧延リチウム箔65の両面にそれぞれ重ねられたフィルム68と、で構成される。
(負極層形成工程)
(シリコン材料の製造)
1質量%のフッ化水素を含有する濃塩酸を準備し、0℃の氷浴下、20mlの当該濃塩酸に5gのCaSi2を加えて1時間攪拌し、その後水を加えて更に5分間攪拌して反応液を得た。当該反応液を濾過して得られた黄色の固形分を、水及びエタノールで洗浄し、これを減圧乾燥することにより、層状ポリシランを得た。この層状ポリシランを、アルゴン雰囲気下、500℃で加熱することにより、ポリシランから水素が離脱したシリコン材料を得た。
当該シリコン材料をSi含有負極活物質として用い、以下の方法で負極70を製造した。
(負極活物質層形成工程)
Si含有負極活物質として上記のシリコン材料を70質量部、その他の負極活物質として天然黒鉛を15質量部、導電助剤としてアセチレンブラック5質量部、及び結着剤としてポリアミドイミド15質量部を混合するとともに、この混合物に適量のN−メチル−2−ピロリドンを加えてスラリー状の負極合材を得た。負極用集電体71として、20μmの電解銅箔を準備し、ドクターブレードを用いて当該負極用集電体71の両面に各々負極合材を塗布し、負極合材を材料とする負極合材層と、負極用集電体71と、を有する負極前駆体を得た。この負極前駆体を乾燥させ、負極合材中のN−メチル−2−ピロリドンを揮発させた。乾燥後の負極前駆体を、図略のロールプレス装置により、負極合材層の厚さが70μmとなるように圧延した。なお、この圧延によって、負極合材層と負極用集電体71とが強固に一体化した。このときの負極合材層の密度は1.2g/cm3であった。圧延後の負極前駆体を更に減圧下にて200℃で2時間加熱して、負極用集電体71の一方の面に形成されている第1負極活物質層81と、負極用集電体71の他方の面に形成されている第2負極活物質層82とを得た。
(セラミックス層形成工程)
水溶性結着剤としてのポリアクリル酸1.6質量部を水60質量部に溶解したポリアクリル酸の水溶液に、セラミックス粉末としてのAl2O3粉末(住友化学株式会社製、平均粒子径540nm)38.4質量部を混合して、スラリー状のセラミックス合材を得た。このセラミックス合材の固形分濃度は40質量%であった。
このセラミックス合材を、アプリケーターを用いて、上記の第1負極活物質層81の表面及び第2負極活物質層82の表面に各々塗布し、セラミックス合材を形成した。塗布後、負極用集電体71、第1負極活物質層81、第1負極活物質層81上のセラミックス合材層、第2負極活物質層82、及び、第2負極活物質層82上のセラミックス合材層を有する負極前駆体を、120℃で6時間、加熱乾燥して、負極活物質層81、82上に各々セラミックス層85、86が形成された負極70を得た。なお、負極70におけるセラミックス層85、86の厚さは各々5μmであった。
当該負極70をロール芯に巻き取り、負極巻き出しロール31に用いた。当該負極70は、上記した第1フィルムリチウム積層体61及び第2フィルムリチウム積層体62とともに、以下のプレス工程に供した。
(複合体形成工程)
(プレス工程)
図1に示すロールプレス装置1を用いて、以下のプレス工程により実施例のリチウム負極複合体95を製造した。
先ず、負極巻き出しロール31から、上記の負極層形成工程で得られた負極70を巻き出し、第1ロール21及び第2ロール22の間に通した。また、図4に示すように、第1箔巻き出し部41の第1巻き出しロール41aから、第1フィルムリチウム積層体61の一方のフィルム68を剥がして第1巻き取りロール41bに巻き取った。図1及び図2に示すように、残りの第1フィルムリチウム積層本体61aを、圧延リチウム箔65を第1負極層91に向けつつ負極70の上面に重ねた。同様に、第2箔巻き出し部42の第2巻き出しロール42aから、第2フィルムリチウム積層体62の一方のフィルム68を剥がして第2巻き取りロール42bに巻き取り、残りの第2フィルムリチウム積層本体62aは、圧延リチウム箔65を第2負極層92に向けつつ、負極70の下面に重ねた。第1フィルムリチウム積層本体61a及び第2フィルムリチウム積層本体62aは、負極70とともに、第1ロール21と第2ロール22との間に通して、負極巻き取りロール32に巻き取った。第1ロール21及び第2ロール22の間を通過する際に、負極70と第1フィルムリチウム積層本体61aと第2フィルムリチウム積層本体62aとの積層体(フィルム負極積層体94と呼ぶ)には、第1ロール21及び第2ロール22からの荷重が作用した。第1フィルムリチウム積層本体61aの圧延リチウム箔65、及び、第2フィルムリチウム積層本体62aの圧延リチウム箔65は、各々、当該荷重により第1負極層91、第2負極層92に圧着されて一体化された。
実施例のリチウム負極複合体の製造方法においては、圧延リチウム箔65をフィルム68で補強しつつプレス工程に供したために、圧延リチウム箔65の破損等を抑制しつつリチウム負極複合体95を製造できる。
また、実施例のリチウム負極複合体の製造方法においては、圧延リチウム箔65と第1ロール21及び第2ロール22との間にフィルム68を介在させてプレス工程を行ったために、圧延リチウム箔65と第1ロール21及び第2ロール22との強固な付着を抑制でき、プレス工程における圧延リチウム箔65の破損等をさらに抑制できる。
図3に示すように、プレス工程後のフィルム負極積層体94からフィルム68を剥がすことで、負極70と当該負極70に一体化された圧延リチウム箔65の層(すなわちリチウム層66)とを有するリチウム負極複合体95を得ることができる。
実施例のリチウム負極複合体の製造方法においては、フィルム68にはシリコーン層が形成されている。つまり、実施例のリチウム負極複合体の製造方法において、フィルム68と圧延リチウム箔65との間には剥離層が介在している。このため、プレス工程におけるフィルム68と圧延リチウム箔65との強固な付着がより一層抑制され、さらに、プレス工程後にフィルム68を剥がす際にも、リチウム層66の破損等を抑制できる。
以下、実施例のリチウム負極複合体95を用いた、実施例のリチウムイオン二次電池の製造方法について説明する。なお、実施例のリチウムイオン二次電池の製造方法は、リチウムドープ負極の製造方法と読み替えることもできる。また、実施例のリチウムイオン二次電池の製造方法は、以下のドープ工程Iを有する。
(リチウムイオン二次電池の製造)
(実施例)
上記のプレス工程後、フィルム68を剥がしたリチウム負極複合体95を用いて電池を製造した。当該リチウム負極複合体95は、リチウムイオン二次電池における作用極となる。対極としては厚さ100μmの金属リチウム箔を厚さ20μmの銅箔に貼付けたものを用いた。なお、リチウム負極複合体及び対極の外形は25mm×30mmであった。
上記のリチウム負極複合体及び対極を用いて、ラミネート型リチウムイオン二次電池を製作した。詳しくは、リチウム負極複合体及び対極の間に、セパレータを挟装して極板群とした。セパレータとして、ポリプロピレン樹脂/ポリエチレン樹脂/ポリプロピレン樹脂の3層多孔質膜構造で、リチウム負極複合体側及び対極側の両面にアルミナがコートされた矩形状シート(27×32mm、厚さ25μm)を用いた。
(ドープ工程I)
この極板群を二枚一組のラミネートフィルムで覆い、三辺をシールした後、袋状となったラミネートフィルムに非水電解液を注入した。非水電解液としてフルオロエチレンカーボネート(略称FEC)、エチレンカーボネート(略称EC)と、エチルメチルカーボネート(略称EMC)と、ジメチルカーボネート(略称DMC)をFEC:EC:EMC:DMC=0.4:2.6:3:4(体積比)で混合した溶媒にLiPF6を1mol/lとなるように溶解し、LiPF2(C2O4)2を0.01mol/lとなるように溶解した溶液を用いた。その後、残りの一辺をシールすることで、四辺が気密にシールされ、極板群及び非水電解液が密閉された実施例のリチウムイオン二次電池を得た。
なお、正極及び負極は外部と電気的に接続可能なタブを備え、このタブの一部はラミネート型リチウムイオン二次電池の外側に延出している。
(比較例)
電解液の注液を行わなかったこと以外は実施例のリチウムイオン二次電池と同様に、比較例のリチウムイオン二次電池を製造した。つまり比較例のリチウムイオン二次電池は、極板群及びラミネートフィルムからなる。
(評価試験)
実施例のリチウムイオン二次電池について、外観、及び、開回路電圧(OCV)における作用極の電位を、経時的に測定した。作用極の電位とは、参照極を基準にした作用極の電位差である。各時点における作用極の電位、及びその時の作用極の外観を図5に示す。また、評価試験開始48時間後における比較例のリチウムイオン二次電池の作用極の外観を図5に併せて示す。
図5に示すように、試験開始直後つまり試験開始0h後の実施例のリチウムイオン二次電池を視認すると、ラミネートフィルムを透過して、作用極の白いリチウム層が確認された。そして、試験開始2h後、6h後と時間が経過するに伴って、作用極の白いリチウム層は消失してゆき、代わりに、灰色又は黒色の負極活物質層が多く視認されるようになった。48h後には、作用極の白いリチウム層は視認されなくなり、負極活物質層のみが視認された。比較例のリチウムイオン二次電池における作用極は、評価試験開始48h後にも外観上の変化はなく、白いリチウム層のみが視認された。
また、実施例のリチウムイオン二次電池における作用極の電位は、評価試験開始後徐々に高くなり、試験開始48h後には図5に示す理論値と同等の電位で略一定となった。
これらの結果から、作用極つまりリチウム負極複合体を電解液に接触させることで、リチウム負極複合体のリチウム層が負極活物質層に移動し、リチウムドープがなされることが裏付けられる。
また、リチウム負極複合体を電解液に接触させない場合には、リチウムドープが進行しないことが裏付けられる。これは、セラミックス層によりリチウム層と負極活物質層とが隔離されたためと考えられる。
上記したドープ工程Iでは、フィルム68を剥がしたリチウム負極複合体95を、正極等の電池構成要素とともに、リチウムイオン二次電池の内部で電解液に接触させることで、リチウムのドープを行った。本発明のリチウムドープ負極の製造方法においては、これに限らず、リチウムのドープをリチウムイオン二次電池の外部で行っても良い。リチウムイオン二次電池の外部で行うドープ工程として、以下のドープ工程IIを例示する。
(ドープ工程II)
ドープ工程IIでは、フィルム68を剥がさないままのフィルム負極積層体94、つまり、フィルム68とリチウム負極複合体95との一体品を電解液に接触させることで、リチウムのドープを行う。ドープ工程IIを模式的に表す説明図を図6に示す。
図6に示すように、フィルム負極積層体94のリチウム層66に含まれるリチウムは、電解液の存在下で、第1セラミックス層85及び第2セラミックス層86を介して、第1負極活物質層81及び第2負極活物質層82に急速にドープされると考えられる。そしてその結果、フィルム負極積層体94のリチウム層66は消失すると考えられる。フィルム68から剥がす際に変形や破損が懸念されるリチウム層66が消失すれば、フィルム68を剥がす工程は容易であるため、フィルム68の存在下でリチウム負極複合体95を電解液に接触させドープを行うことで、品質に優れるリチウムドープ負極99を容易に製造できる。
以下、試験例を挙げ、本発明のリチウム負極複合体の製造方法、リチウムドープ負極の製造方法、及び電池の製造方法の効果を検討する。
(試験例1)
図7に示すロールプレス装置を用い、荷重を変えた種々の条件でリチウム原箔64を圧延し、圧延前後でのリチウム箔の形状及び搬送状態を測定した。圧延に際し、リチウム原箔64の両面には、充分な量のヘキサンを塗布した。ロールプレス装置の2つのロール28、29としては、シリコーン層を一体に有するものを用いた。
具体的には、シリコーン層の原料としては、シリコーンレジンであるKR216(信越化学工業株式会社製)を用いた。当該原料をスプレーガンにてステンレス鋼製のロール基材上にそれぞれ塗布し、室温で24時間保持して、シリコーン層を硬化させた。その後、シリコーン層の表面粗さを測定し、必要に応じて、表面粗さRaが1.0μm程度となるようにサンドペーパによりシリコーン層の表面を研磨した。
以上のようにして得たシリコーン層を一体に有するロール28、29を用い、リチウム原箔64の圧延を行った。
ロールプレス装置の荷重、すなわち、2つのロール28、29からリチウム原箔64に作用する荷重は、0.5トン、1トン、2トン、4トンの4通りとした。リチウム原箔64としては厚さt1が100μm、幅w1が80mm、密度が0.53g/cm3のものを用いた。さらに、図7に示すように2つのロール28、29よりも搬送方向の後側におけるリチウム箔の搬送速度、つまりリチウム原箔64の搬送速度s1を測定した。リチウム原箔64の搬送速度s1は0.5m/分とした。なお、圧延リチウム箔65には各々一定の張力が生じるように、ロール28、29の基点速度及びリチウム箔の搬送速度を調整した。
上記の方法で圧延されたリチウム箔、すなわち、圧延リチウム箔65の厚さt2、幅w2及び密度を測定した。更に、圧延リチウム箔65の搬送速度s2、すなわち、2つのロール28、29よりも搬送方向の先側におけるリチウム箔の搬送速度を測定した。結果を表1に示す。
表1に示すように、リチウム箔の幅及び密度は圧延の前後で変化しなかった。その代わり、圧延後のリチウム箔の搬送速度s2は、圧延前のリチウム箔の搬送速度s1に比べて速くなった。
このように、リチウム箔の幅及び密度が圧延の前後で変化しないことから、圧延リチウム箔65に存在するリチウム量は、圧延リチウム箔65の圧延方向における長さ及び圧延リチウム箔65の厚さを基にほぼ正確に把握できる。このため、圧延リチウム箔65の厚さ及び長さを計測し、リチウムを狙い通りの量、つまり不可逆容量に相当する量だけ含むように圧延リチウム箔65を整形すれば、狙い通りの量のリチウムを負極活物質層にドープできる。
(試験例2)
ロールプレス装置による圧延時における剥離層及び潤滑剤の効果を評価した。具体的には、2つのロールの隙間及び2つのロールによる荷重を種々に変更しつつ、リチウム原箔をそのまま又は樹脂フィルムに挟んでロールで圧延し、変形や破損のない圧延リチウム箔の厚さの限界値を測定した。当該測定を、剥離層及び/又は潤滑剤の存在下若しくは非存在下で行うことで、剥離層及び/又は潤滑剤の効果を評価した。
(試験例2−1)
試験例2−1では、剥離層を有するフィルムで厚さ100μmのリチウム原箔を挟み、かつ、フィルムの剥離層とリチウム原箔との間に潤滑剤としてのヘキサンを介在させて、フィルムリチウム積層体を構成した。ロールとしては、ステンレス鋼製のものを用いた。当該フィルムリチウム積層体を圧延し、得られた圧延リチウム箔の厚さは10μmであった。試験例2−1の結果を、後述する試験2−2〜2−10の結果とともに、表2に示す。
なお、フィルムとしては、上記した実施例のリチウム箔圧延工程と同様に、リンテック株式会社製、厚さ25μmのフィルムを用いた。当該フィルムは、剥離層にシリコーン粘着剤を含む。
(試験例2−2)
試験例2−2では、フィルムを用いず、剥離層を設けたロールを用いてリチウム原箔を圧延したこと以外は、試験2−1と同じ方法でリチウム箔を圧延した。2つのロールとしては、試験例1で用いたものと同じ、シリコーンレジンを含むシリコーン層を一体に有するロールを用いた。
試験例2−2で測定した圧延リチウム箔の厚さは、10μmであった。
(試験例2−3)
試験例2−3では、フィルムとして剥離層を有さず樹脂フィルムのみで構成されたものを用い、一方のフィルムとリチウム原箔との間にだけ潤滑剤を存在させ、他方のフィルムはリチウム原箔に直接接触させた。それ以外は、試験例2−1と同じ方法でリチウム箔を圧延した。試験例2−3で測定した圧延リチウム箔の厚さは、80μmであった。
(試験例2−4)
試験例2−4では、フィルムとして剥離層を有さず樹脂フィルムのみで構成されたものを用いたこと以外は、試験例2−1と同じ方法でリチウム箔を圧延した。
試験例2−4で測定した圧延リチウム箔の厚さは、30μmであった。
(試験例2−5)
試験例2−5では、ロールとして剥離層を有さない高密度ポリエチレン製のロールを用いたこと以外は、試験例2−2と同じ方法でリチウム箔を圧延した。
試験例2−5で測定した圧延リチウム箔の厚さは、50μmであった。
(試験例2−6)
試験例2−6では、ロールとして剥離層を有さないポリアセタール製のロールを用いたこと以外は、試験例2−2と同じ方法でリチウム箔を圧延した。
試験例2−6で測定した圧延リチウム箔の厚さは、30μmであった。
(試験例2−7)
試験例2−7では、ロールとして剥離層を有さないエポキシ樹脂とガラス繊維とで構成されるFRP(繊維強化プラスチック)製のロールを用いたこと以外は、試験例2−2と同じ方法でリチウム箔を圧延した。
試験例2−7で測定した圧延リチウム箔の厚さは、90μmであった。
(試験例2−8)
試験例2−8では、ロールとして剥離層を有さないポリエーテルエーテルケトン樹脂製のロールを用いたこと以外は、試験例2−2と同じ方法でリチウム箔を圧延した。
試験例2−8で測定した圧延リチウム箔の厚さは、90μmであった。
(試験例2−9)
試験例2−9では、ロールとして剥離層を有さないステンレス鋼製のロールを用いたこと以外は、試験例2−2と同じ方法でリチウム箔を圧延した。
試験例2−9で測定した圧延リチウム箔の厚さは、90μmであった。
(試験例2−10)
試験例2−10では、剥離層としてDLC(ダイヤモンドライクカーボン)層を有するロールを用いたこと以外は、試験例2−2と同じ方法でリチウム箔を圧延した。
試験例2−10で測定した圧延リチウム箔の厚さは、80μmであった。
表2に示すように、ロールとリチウム箔との間に剥離層としてのシリコーン層を介在させて圧延した試験例2−1では、ロールとリチウム箔との間に樹脂フィルムを介在させただけで剥離層を介在させなかった試験例2−4に比べて、薄い圧延リチウム箔を得ることができた。また、ロールの表面に剥離層としてのシリコーン層を設け、ロールとリチウム箔との間に当該シリコーン層を介在させて圧延した試験例2−2では、剥離層のないロールを用い、ロールとリチウム箔との間に剥離層を介在させなかった試験例2−9に比べて著しく薄い圧延リチウム箔を得ることができた。この結果から、ロールとリチウム箔との間に剥離層としてシリコーン層を介在させて圧延することで、リチウム箔とロールとの強固な付着を抑制しつつリチウム箔の圧延を行い得ることがわかる。更に、リチウム箔を有する負極積層体をプレスしてリチウム負極複合体を製造する本発明のリチウム負極複合体の製造においても、ロールとリチウム箔との間にシリコーン層を介在させることで、リチウム層に破損等のない良好なリチウム負極複合体を製造し得るといえる。
また、シリコーン層を一体に設けたロールで圧延を行った試験例2−2では、各種の樹脂材料で構成したロールで圧延を行った試験例2−5〜試験例2−8や、DLC層を一体に設けたロールで圧延を行った試験例2−10に比べても、非常に薄い圧延リチウム箔を得ることができるといえる。つまり、圧延時にロールとリチウム箔との間に介在させる剥離層として、シリコーン層は非常に優秀であるといえる。
(参考例)
セラミックス層およびリチウム層を有さない負極を用いて、電池を製造した。当該負極は、実施例の製造方法におけるセラミックス層形成工程前の負極、つまり、集電体の一方の面に第1負極活物質層が形成され、他方の面に第2負極活物質層が形成されたものである。対極は金属リチウム箔(厚さ500μm)であり、電解液は上記のドープ工程Iに用いたものと同じ電解液であった。
対極をφ13mm、リチウムドープ負極をφ11mmに裁断し、セパレータ(ヘキストセラニーズ社製ガラスフィルター及びCelgard社製「Celgard2400」)を両極の間に介装して電極体とした。この電極体を電池容器(CR2032型コイン電池用部材、宝泉株式会社製)に入れた。電池容器に電解液を注液し、電池容器を密閉して、参考例のリチウムイオン二次電池を製造した。
参考例のリチウムイオン二次電池につき、0.2mAの定電流充放電を行なった。その結果、初回放電容量は1200mAh/g、初回充電容量は803mAh/g、(初回充電容量/初回放電容量)×100で算出される初期効率は66.9%であった。この結果から、リチウムドープを行わないSi含有負極においては、不可逆容量が大きいことが実証される。