以下、本発明の実施の形態について、図面に基づき詳細に説明する。
図1は本発明の一実施例の車両用空気調和装置1の構成図を示している。本発明を適用する実施例の車両は、エンジン(内燃機関)が搭載されていない電気自動車(EV)であって、車両にバッテリ55が搭載され、このバッテリ55に充電された電力を走行用の電動モータ(図示せず)に供給することで駆動し、走行するものであり、本発明の車両用空気調和装置1も、バッテリ55の電力で駆動されるものとする。
即ち、実施例の車両用空気調和装置1は、エンジン廃熱による暖房ができない電気自動車において、冷媒回路Rを用いたヒートポンプ運転により暖房運転を行い、更に、除湿暖房運転や除湿冷房運転、冷房運転の各空調運転を選択的に実行することで車室内の空調を行うものである。
尚、車両として電気自動車に限らず、エンジンと走行用の電動モータを供用する所謂ハイブリッド自動車にも本発明が有効であり、更には、エンジンで走行する通常の自動車にも適用可能であることは云うまでもない。また、本出願ではバッテリ55を車両に搭載された発熱機器として例示するが、それに限らず、発熱機器としては前述した走行用の電動モータや、当該電動モータの制御用のインバータ等が挙げられる。
実施例の車両用空気調和装置1は、電気自動車の車室内の空調(暖房、冷房、除湿、及び、換気)を行うものであり、冷媒を圧縮する電動式の圧縮機2と、車室内空気が通気循環されるHVACユニット10の空気流通路3内に設けられ、圧縮機2から吐出された高温高圧の冷媒が冷媒配管13Gを介して流入し、この冷媒を車室内に放熱させる放熱器4と、暖房時に冷媒を減圧膨張させる電動弁(電子膨張弁)から成る室外膨張弁6と、冷房時には冷媒を放熱させる放熱器として機能し、暖房時には冷媒を吸熱させる蒸発器として機能すべく冷媒と外気との間で熱交換を行わせる室外熱交換器7と、冷媒を減圧膨張させる電動弁(電子膨張弁)から成る室内膨張弁8と、空気流通路3内に設けられて冷房時及び除湿時に車室内外から冷媒に吸熱させる吸熱器9と、アキュムレータ12等が冷媒配管13により順次接続され、冷媒回路Rが構成されている。
室外膨張弁6は放熱器4から出て室外熱交換器7に流入する冷媒を減圧膨張させると共に全閉も可能とされている。また、室内膨張弁8は吸熱器9に流入する冷媒を減圧膨張させると共に全閉も可能とされている。
尚、室外熱交換器7には、室外送風機15が設けられている。この室外送風機15は、室外熱交換器7に外気を強制的に通風することにより、外気と冷媒とを熱交換させるものであり、これにより停車中(即ち、車速が0km/h)にも室外熱交換器7に外気が通風されるよう構成されている。
また、室外熱交換器7の冷媒出口側に接続された冷媒配管13Aは、逆止弁18を介して冷媒配管13Bに接続されている。この逆止弁18は冷媒配管13B側が順方向とされている。そして、この冷媒配管13Bは室内膨張弁8に接続されている。
また、室外熱交換器7から出た冷媒配管13Aは逆止弁18の手前(冷媒上流側)で分岐しており、この分岐した冷媒配管13Dは、暖房時に開放される電磁弁21を介して吸熱器9の出口側に位置する冷媒配管13Cに連通接続されている。そして、この冷媒配管13Dが接続された箇所より冷媒下流側の冷媒配管13Cは、逆止弁20を介してアキュムレータ12に接続され、アキュムレータ12は圧縮機2の冷媒吸込側に接続されている。尚、逆止弁20はアキュムレータ12側が順方向とされている。
更に、放熱器4の出口側の冷媒配管13Eは、室外膨張弁6の手前(冷媒上流側)で冷媒配管13Jと冷媒配管13Fに分岐しており、分岐した一方の冷媒配管13Jが室外膨張弁6を介して室外熱交換器7の冷媒入口側に接続されている。また、分岐した他方の冷媒配管13Fは除湿時に開放される電磁弁22を介して逆止弁18の冷媒下流側に位置する冷媒配管13Aと冷媒配管13Bとの接続部に連通接続されている。これにより、冷媒配管13Fは室外膨張弁6、室外熱交換器7及び逆止弁18の直列回路に対して並列に接続されたかたちとなり、室外膨張弁6、室外熱交換器7及び逆止弁18をバイパスすることになる。
また、吸熱器9の空気上流側における空気流通路3には、外気吸込口と内気吸込口の各吸込口が形成されており(図1では吸込口25で代表して示す)、この吸込口25には空気流通路3内に導入する空気を車室内の空気である内気(内気循環)と、車室外の空気である外気(外気導入)とに切り換える吸込切換ダンパ26が設けられている。更に、この吸込切換ダンパ26の空気下流側には、導入した内気や外気を空気流通路3に送給するための室内送風機(ブロワファン)27が設けられている。
また、放熱器4の空気上流側における空気流通路3内には、当該空気流通路3内に流入し、吸熱器9を通過した後の空気流通路3内の空気(内気や外気)を放熱器4に通風する割合を調整するエアミックスダンパ28が設けられている。更に、放熱器4の空気下流側における空気流通路3には、FOOT(フット)、VENT(ベント)、DEF(デフ)の各吹出口(図1では代表して吹出口29で示す)が形成されており、この吹出口29には上記各吹出口からの空気の吹き出しを切換制御する吹出口切換ダンパ31が設けられている。
更に、本発明の車両用空気調和装置1は、バッテリ55(発熱機器)に熱媒体を循環させて当該バッテリ55を加熱し、或いは、バッテリ55の廃熱を回収するための熱媒体循環装置61を備えている。実施例の熱媒体循環装置61は、バッテリ55に熱媒体を循環させるための循環装置としての循環ポンプ62と、電気ヒータ66と、冷媒−熱媒体熱交換器64を備え、それらとバッテリ55が熱媒体配管68にて環状に接続されている。
この実施例の場合、循環ポンプ62の吐出側にバッテリ55が接続され、バッテリ55の出口に電気ヒータ66が接続されている。そして、この電気ヒータ66の出口に冷媒−熱媒体熱交換器64の熱媒体流路64Aの入口が接続され、この熱媒体流路64Aの出口が循環ポンプ62の吸込側に接続されている。
この熱媒体循環装置61で使用される熱媒体としては、例えば水、HFO−1234yfのような冷媒、クーラント等の液体、空気等の気体が採用可能である。尚、実施例では水を熱媒体として採用している。また、電気ヒータ66はPTCヒータ等から構成されている。更に、バッテリ55の周囲には例えば熱媒体が当該バッテリ55と熱交換関係で流通可能なジャケット構造が施されているものとする。
そして、循環ポンプ62が運転されると、循環ポンプ62から吐出された熱媒体はバッテリ55に至り、熱媒体はそこでバッテリ55と熱交換した後、電気ヒータ66に至る。熱媒体は電気ヒータ66が発熱されている場合にはそこで加熱された後、次に冷媒−熱媒体熱交換器64の熱媒体流路64Aに流入する。そして、この冷媒−熱媒体熱交換器64の熱媒体流路64Aを出た熱媒体は循環ポンプ62に吸い込まれる。このようにして、熱媒体は熱媒体配管68内を循環される。
一方、冷媒回路Rの冷媒配管13Fの電磁弁22の冷媒下流側には、分岐配管72の一端が接続されている。この分岐配管72には電動弁(電子膨張弁)から構成された補助膨張弁73が設けられている。この補助膨張弁73は冷媒−熱媒体熱交換器64の後述する冷媒流路64Bに流入する冷媒を減圧膨張させると共に全閉も可能とされている。そして、分岐配管72の他端は冷媒−熱媒体熱交換器64の冷媒流路64Bに接続されており、この冷媒流路64Bの出口には冷媒配管74の一端が接続され、冷媒配管74の他端はアキュムレータ12の手前(冷媒上流側)であって逆止弁20の冷媒下流側の冷媒配管13Cに接続されている。そして、これら補助膨張弁73等も冷媒回路Rの一部を構成すると同時に、熱媒体循環装置61の一部をも構成することになる。
補助膨張弁73と電磁弁22が開いている場合、冷媒配管13Fに流入した冷媒はこの補助膨張弁73で減圧された後、冷媒−熱媒体熱交換器64の冷媒流路64Bに流入し、そこで蒸発する。冷媒は冷媒流路64Bを流れる過程で熱媒体流路64Aを流れる熱媒体から吸熱した後、アキュムレータ12を経て圧縮機2に吸い込まれることになる。
次に、図2において32は制御装置としてのコントローラ(ECU)である。このコントローラ32は、プロセッサを備えたコンピュータの一例としてのマイクロコンピュータから構成されており、その入力には車両の外気温度(Tam)を検出する外気温度センサ33と、外気湿度を検出する外気湿度センサ34と、吸込口25から空気流通路3に吸い込まれる空気の温度を検出するHVAC吸込温度センサ36と、車室内の空気(内気)の温度を検出する内気温度センサ37と、車室内の空気の湿度を検出する内気湿度センサ38と、車室内の二酸化炭素濃度を検出する室内CO2濃度センサ39と、吹出口29から車室内に吹き出される空気の温度を検出する吹出温度センサ41と、圧縮機2の吐出冷媒圧力(吐出圧力Pd)を検出する吐出圧力センサ42と、圧縮機2の吐出冷媒温度を検出する吐出温度センサ43と、圧縮機2の吸込冷媒温度を検出する吸込温度センサ44と、放熱器4の温度(放熱器4を経た空気の温度、又は、放熱器4自体の温度:放熱器温度TCI)を検出する放熱器温度センサ46と、放熱器4の冷媒圧力(放熱器4内、又は、放熱器4を出た直後の冷媒の圧力:放熱器圧力PCI)を検出する放熱器圧力センサ47と、吸熱器9の温度(吸熱器9を経た空気の温度、又は、吸熱器9自体の温度:吸熱器温度Te)を検出する吸熱器温度センサ48と、吸熱器9の冷媒圧力(吸熱器9内、又は、吸熱器9を出た直後の冷媒の圧力)を検出する吸熱器圧力センサ49と、車室内への日射量を検出するための例えばフォトセンサ式の日射センサ51と、車両の移動速度(車速)を検出するための車速センサ52と、設定温度や空調運転の切り換えを設定するための空調操作部53(エアコン操作部)と、室外熱交換器7の温度(室外熱交換器7から出た直後の冷媒の温度、又は、室外熱交換器7自体の温度:室外熱交換器温度TXO。室外熱交換器7が蒸発器として機能するとき、室外熱交換器温度TXOは室外熱交換器7における冷媒の蒸発温度となる)を検出する室外熱交換器温度センサ54と、室外熱交換器7の冷媒圧力(室外熱交換器7内、又は、室外熱交換器7から出た直後の冷媒の圧力)を検出する室外熱交換器圧力センサ56の各出力が接続されている。
また、コントローラ32の入力には更に、バッテリ55の温度(バッテリ55自体の温度、又は、バッテリ55を出た熱媒体の温度、或いは、バッテリ55に入る熱媒体の温度:バッテリ温度Tb)を検出するバッテリ温度センサ76と、電気ヒータ66の温度(電気ヒータ66自体の温度、電気ヒータ66を出た熱媒体の温度)を検出する電気ヒータ温度センサ77と、冷媒−熱媒体熱交換器64の熱媒体流路64Aの出口側の熱媒体の温度(出口熱媒体温度Tout)を検出する第1出口温度センサ78と、冷媒流路64Bを出た冷媒の温度を検出する第2の出口温度センサ79の各出力も接続されている。更に、コントローラ32の入力には、圧縮機2の消費電力Wc及び電気ヒータ66の消費電力Weを算出するためのセンサ(以下、総括して消費電力用センサ80と称する)の出力も接続されている。この消費電力用センサ80の例としては、圧縮機2の消費電力Wc用としては圧縮機2の運転を制御するインバータ電流を測定する電流センサ、電気ヒータ66の消費電力We用としては、当該電気ヒータ66の通電電流を測定する電流センサ等が考えられる。また、電気ヒータ66の消費電力We用としてはその他に、電気ヒータ66前後の熱媒体の温度を検出する温度センサと熱媒体の流量を測定する流量センサの組み合わせが考えられる。その場合には、電気ヒータ66の前後の熱媒体の温度差と流量から消費電力Weを算出することになる。
一方、コントローラ32の出力には、前記圧縮機2と、室外送風機15と、室内送風機(ブロワファン)27と、吸込切換ダンパ26と、エアミックスダンパ28と、吹出口切換ダンパ31と、室外膨張弁6、室内膨張弁8と、電磁弁22(除湿)、電磁弁21(暖房)の各電磁弁と、循環ポンプ62、電気ヒータ66、補助膨張弁73が接続されている。そして、コントローラ32は各センサの出力と空調操作部53にて入力された設定に基づいてこれらを制御するものである。
以上の構成で、次に実施例の車両用空気調和装置1の動作を説明する。コントローラ32は実施例では暖房運転と、除湿暖房運転と、除湿冷房運転と、冷房運転の各空調運転を切り換えて実行する。また、この電気ヒータ66を用いて暖房補助を行うと共に、バッテリ55を加熱し、更に、バッテリ55の廃熱を回収するものであるが、先ず、冷媒回路Rの各空調運転における冷媒の流れと、熱媒体循環装置61の熱媒体の流れについて説明する。
(1)暖房運転
最初に、図3〜図5を参照しながら暖房運転における冷媒回路Rの冷媒の流れと、熱媒体循環装置61の熱媒体の流れについて説明する。
(1−1)暖房運転(室外熱交換器7のみに冷媒を流す状態)
先ず、図3を参照しながら暖房運転において室外熱交換器7のみに冷媒を流す状態の冷媒回路Rの冷媒の流れ(実線矢印)を説明する。コントローラ32により(オートモード)、或いは、空調操作部53へのマニュアル操作(マニュアルモード)により暖房運転が選択され、且つ、コントローラ32が後述する外気吸熱優先運転モードを実行することを決定した場合、コントローラ32は電磁弁21(暖房用)を開放し、室内膨張弁8を全閉(全閉位置)とする。また、室外膨張弁6は開放して冷媒の減圧制御を行う状態とし、電磁弁22(除湿用)は閉じ、補助膨張弁73は全閉(全閉位置)とする。
そして、圧縮機2、及び、各送風機15、27を運転し、エアミックスダンパ28は室内送風機27から吹き出された空気が放熱器4に通風される割合を調整する状態とする。これにより、圧縮機2から吐出された高温高圧のガス冷媒は、図3中実線矢印で示す如く放熱器4に流入する。放熱器4には空気流通路3内の空気が通風されるので、空気流通路3内の空気は放熱器4内の高温冷媒により加熱され、一方、放熱器4内の冷媒は空気に熱を奪われて冷却され、凝縮液化する。
放熱器4内で液化した冷媒は放熱器4を出た後、冷媒配管13E、13Jを経て室外膨張弁6に至る。室外膨張弁6に流入した冷媒はそこで減圧された後、室外熱交換器7に流入する。室外熱交換器7に流入した冷媒は蒸発し、走行により、或いは、室外送風機15にて通風される外気中から熱を汲み上げる(吸熱)。即ち、冷媒回路Rがヒートポンプとなる。そして、室外熱交換器7を出た低温の冷媒は冷媒配管13A及び冷媒配管13D、電磁弁21を経て冷媒配管13Cに至り、逆止弁20を経てアキュムレータ12に入り、そこで気液分離された後、ガス冷媒が圧縮機2に吸い込まれる循環を繰り返す。放熱器4にて加熱された空気は吹出口29から吹き出されるので、これにより車室内の暖房が行われることになる。
コントローラ32は、後述する目標吹出温度TAOから算出される目標ヒータ温度TCO(放熱器4を経た空気の温度THの目標値)から目標放熱器圧力PCO(放熱器4の圧力PCIの目標値)を算出し、この目標放熱器圧力PCOと、放熱器圧力センサ47が検出する放熱器4の冷媒圧力(放熱器圧力PCI。冷媒回路Rの高圧圧力)に基づいて圧縮機2の回転数を制御すると共に、放熱器温度センサ46が検出する放熱器4の温度(放熱器温度TCI)及び放熱器圧力センサ47が検出する放熱器圧力PCIに基づいて室外膨張弁6の弁開度を制御し、放熱器4の出口における冷媒の過冷却度を制御する。前記目標ヒータ温度TCOは基本的にはTCO=TAOとされるが、制御上の所定の制限が設けられる。
(1−2)暖房運転(室外熱交換器7と冷媒−熱媒体熱交換器64の双方に冷媒を流す状態)
次に、図4を参照しながら暖房運転において室外熱交換器7と冷媒−熱媒体熱交換器64の双方に冷媒を流す状態における冷媒回路Rの冷媒の流れ(実線矢印)と熱媒体循環装置61の熱媒体の流れ(破線矢印)を説明する。室外熱交換器7に関する冷媒の流れは図3の場合と同様である。コントローラ32はこれに加えて、電磁弁22を開き、補助膨張弁73も開いて冷媒の減圧制御を行う状態とする。
これにより、放熱器4を経て冷媒配管13Eを流れる凝縮冷媒の一部が分流されて電磁弁22及び補助膨張弁73に流れ、この補助膨張弁73で減圧された後、冷媒−熱媒体熱交換器64の冷媒流路64Bに流入して蒸発する。冷媒はこの冷媒流路64Bを流れる過程で熱媒体流路64Aを流れる熱媒体から吸熱した後、アキュムレータ12を経て圧縮機2に吸い込まれるようになる(実線矢印)。
一方、コントローラ32は循環ポンプ62を運転し、電気ヒータ66に通電する。これにより、図4に破線矢印で示す如く循環ポンプ62から吐出された熱媒体がバッテリ55、電気ヒータ66を順次経て冷媒−熱媒体熱交換器64の熱媒体流路64Aに流れ、循環ポンプ62に吸い込まれるようになる。バッテリ55と熱交換し、電気ヒータ66により加熱された熱媒体は、冷媒−熱媒体熱交換器64の熱媒体流路64Aを流れる過程で冷媒と熱交換し、電気ヒータ66の熱量(バッテリ55の温度が高い場合にはその廃熱)を冷媒に搬送する。そして、冷媒に搬送されたこれらの熱量は室外熱交換器7で外気から汲み上げた熱量と合わせて放熱器4に搬送され、暖房に寄与することになる。
(1−3)暖房運転(冷媒−熱媒体熱交換器64のみに冷媒を流す状態)
次に、図5を参照しながら暖房運転において冷媒−熱媒体熱交換器64のみに冷媒を流す状態における冷媒回路Rの冷媒の流れ(実線矢印)と熱媒体循環装置61の熱媒体の流れ(破線矢印)を説明する。冷媒−熱媒体熱交換器64への冷媒の流れ(実線矢印)と熱媒体循環装置61の熱媒体の流れ(破線矢印)は図4の場合と同様である。
そして、この場合、コントローラ32は室外膨張弁6を全閉(全閉位置)とし、室外熱交換器7への冷媒の流入を阻止する。これにより、放熱器4を経た冷媒の全てが電磁弁22及び補助膨張弁73に流れ、この補助膨張弁73で減圧された後、冷媒−熱媒体熱交換器64の冷媒流路64Bに流入して蒸発するようになる。冷媒は前述同様に冷媒流路64Bを流れる過程で熱媒体流路64Aを流れる熱媒体から吸熱した後、アキュムレータ12を経て圧縮機2に吸い込まれる(実線矢印)。
また、コントローラ32は同様に循環ポンプ62を運転し、電気ヒータ66に通電する。これにより、図5に破線矢印で示す如く循環ポンプ62から吐出された熱媒体がバッテリ55、電気ヒータ66を順次経て冷媒−熱媒体熱交換器64の熱媒体流路64Aに流れ、循環ポンプ62に吸い込まれる。バッテリ55と熱交換し、電気ヒータ66により加熱された熱媒体は、冷媒−熱媒体熱交換器64の熱媒体流路64Aを流れる過程で冷媒と熱交換し、電気ヒータ66の熱量(バッテリ55の温度が高い場合にはその廃熱)を冷媒に搬送する。そして、冷媒に搬送されたこれらの熱量は放熱器4に搬送され、車室内の暖房に利用されることになる。
尚、上述した(1−1)〜(1−3)の暖房運転の切り換えについては後述する(6)の暖房運転における外気吸熱優先運転モードとヒータ優先運転モードの選択/決定制御において詳述する。
(2)除湿暖房運転
次に、除湿暖房運転について説明する。除湿暖房運転では、コントローラ32は図3の暖房運転(室外熱交換器7のみに冷媒を流す状態)において電磁弁22を開放する。また、室内膨張弁8も開放して冷媒の減圧制御を行う状態とする。これにより、放熱器4を経て冷媒配管13Eを流れる凝縮冷媒の一部が分流され、この分流された冷媒が電磁弁22を経て冷媒配管13Fに流入し、冷媒配管13Bから室内膨張弁8に流れ、残りの冷媒が室外膨張弁6に流れるようになる。即ち、分流された一部の冷媒が室内膨張弁8にて減圧された後、吸熱器9に流入して蒸発する。
コントローラ32は吸熱器9の出口における冷媒の過熱度(SH)を所定値に維持するように室内膨張弁8の弁開度を制御するが、このときに吸熱器9で生じる冷媒の吸熱作用で室内送風機27から吹き出された空気中の水分が吸熱器9に凝結して付着するので、空気は冷却され、且つ、除湿される。分流されて冷媒配管13Jに流入した残りの冷媒は、室外膨張弁6で減圧された後、室外熱交換器7で蒸発することになる。
吸熱器9で蒸発した冷媒は、冷媒配管13Cに出て冷媒配管13Dからの冷媒(室外熱交換器7からの冷媒)と合流した後、逆止弁20及びアキュムレータ12を経て圧縮機2に吸い込まれる循環を繰り返す。吸熱器9にて除湿された空気は放熱器4を通過する過程で再加熱されるので、これにより車室内の除湿暖房が行われることになる。
コントローラ32は目標ヒータ温度TCOから算出される目標放熱器圧力PCOと放熱器圧力センサ47が検出する放熱器圧力PCI(冷媒回路Rの高圧圧力)に基づいて圧縮機2の回転数を制御すると共に、吸熱器温度センサ48が検出する吸熱器9の温度(吸熱器温度Te)に基づいて室外膨張弁6の弁開度を制御する。
(3)除湿冷房運転
次に、除湿冷房運転について説明する。除湿冷房運転では、コントローラ32は室外膨張弁6と室内膨張弁8を開放してそれぞれ冷媒の減圧制御を行う状態とし、電磁弁21を閉じる。また、電磁弁22を閉じる。そして、圧縮機2、及び、各送風機15、27を運転し、エアミックスダンパ28は室内送風機27から吹き出された空気が放熱器4に通風される割合を調整する状態とする。これにより、圧縮機2から吐出された高温高圧のガス冷媒は放熱器4に流入する。放熱器4には空気流通路3内の空気が通風されるので、空気流通路3内の空気は放熱器4内の高温冷媒により加熱され、一方、放熱器4内の冷媒は空気に熱を奪われて冷却され、凝縮液化していく。
放熱器4を出た冷媒は冷媒配管13Eを経て室外膨張弁6に至り、開き気味で制御される室外膨張弁6を経て室外熱交換器7に流入する。室外熱交換器7に流入した冷媒はそこで走行により、或いは、室外送風機15にて通風される外気により空冷され、凝縮する。室外熱交換器7を出た冷媒は冷媒配管13A、逆止弁18を経て冷媒配管13Bに入り、室内膨張弁8に至る。室内膨張弁8にて冷媒は減圧された後、吸熱器9に流入して蒸発する。このときの吸熱作用で室内送風機27から吹き出された空気中の水分が吸熱器9に凝結して付着するので、空気は冷却され、且つ、除湿される。
吸熱器9で蒸発した冷媒は冷媒配管13Cを経て逆止弁20に至り、次にアキュムレータ12を経て圧縮機2に吸い込まれる循環を繰り返す。吸熱器9にて冷却され、除湿された空気は放熱器4を通過する過程でリヒート(再加熱:暖房時よりも放熱能力は低い)されるので、これにより車室内の除湿冷房が行われることになる。
コントローラ32は吸熱器温度センサ48が検出する吸熱器9の温度(吸熱器温度Te)とその目標値である目標吸熱器温度TEOに基づき、吸熱器温度Teを目標吸熱器温度TEOにするように圧縮機2の回転数を制御すると共に、放熱器圧力センサ47が検出する放熱器圧力PCI(冷媒回路Rの高圧圧力)と目標ヒータ温度TCOから算出される目標放熱器圧力PCO(放熱器圧力PCIの目標値)に基づき、放熱器圧力PCIを目標放熱器圧力PCOにするように室外膨張弁6の弁開度を制御することで放熱器4による必要なリヒート量を得る。
(4)冷房運転
次に、冷房運転について説明する。冷房運転では、コントローラ32は上記除湿冷房運転の状態において室外膨張弁6を全開とする(全開位置)。尚、エアミックスダンパ28は放熱器4に空気が通風される割合を調整する状態とする。
これにより、圧縮機2から吐出された高温高圧のガス冷媒は放熱器4に流入する。放熱器4には空気流通路3内の空気は通風されるものの、その割合は小さくなるので(冷房時のリヒートのみのため)、ここは殆ど通過するのみとなり、放熱器4を出た冷媒は冷媒配管13Eを経て室外膨張弁6に至る。このとき室外膨張弁6は全開とされているので冷媒は冷媒配管13Jを通過し、そのまま室外熱交換器7に流入し、そこで走行により、或いは、室外送風機15にて通風される外気により空冷され、凝縮液化する。室外熱交換器7を出た冷媒は冷媒配管13A、逆止弁18を経て冷媒配管13Bに入り、室内膨張弁8に至る。室内膨張弁8にて冷媒は減圧された後、吸熱器9に流入して蒸発する。このときの吸熱作用で室内送風機27から吹き出された空気中の水分が吸熱器9に凝結して付着し、空気は冷却される。
吸熱器9で蒸発した冷媒は冷媒配管13Cを経て逆止弁20からアキュムレータ12に至り、そこを経て圧縮機2に吸い込まれる循環を繰り返す。吸熱器9にて冷却され、除湿された空気は吹出口29から車室内に吹き出されるので、これにより車室内の冷房が行われることになる。この冷房運転においては、コントローラ32は吸熱器温度センサ48が検出する吸熱器9の温度(吸熱器温度Te)に基づいて圧縮機2の回転数を制御する。
(5)空調運転の切り換え
コントローラ32は下記式(I)から前述した目標吹出温度TAOを算出する。この目標吹出温度TAOは、吹出口29から車室内に吹き出される空気の温度の目標値である。
TAO=(Tset−Tin)×K+Tbal(f(Tset、SUN、Tam))
・・(I)
ここで、Tsetは空調操作部53で設定された車室内の設定温度、Tinは内気温度センサ37が検出する車室内空気の温度、Kは係数、Tbalは設定温度Tsetや、日射センサ51が検出する日射量SUN、外気温度センサ33が検出する外気温度Tamから算出されるバランス値である。そして、一般的に、この目標吹出温度TAOは外気温度Tamが低い程高く、外気温度Tamが上昇するに伴って低下する。
そして、コントローラ32は起動時には外気温度センサ33が検出する外気温度Tamと目標吹出温度TAOとに基づいて上記各空調運転のうちの何れかの空調運転を選択する。また、起動後は外気温度Tamや目標吹出温度TAO等の環境や設定条件の変化に応じて前記各空調運転を選択し、切り換えていくものである。
(6)暖房運転における外気吸熱優先運転モードとヒータ優先運転モードの選択と決定
次に、前述した暖房運転においてコントローラ32が実行する外気吸熱優先運転モードとヒータ優先運転モード、及び、それらの切換制御について説明する。コントローラ32は外気吸熱優先運転モードとヒータ優先運転モードを有しており、前述した暖房運転においては後述する如くこれらの何れを選択するかを決定し、切り換えて実行する。先ず、各運転モードにおける動作について説明する。
(6−1)外気吸熱優先運転モード
暖房運転における外気吸熱優先運転モードでは、車両用空気調和装置1が暖房運転で起動するとき、又は、他の前記空調運転(除湿暖房運転、除湿冷房運転、冷房運転)から暖房運転に切り換わり、暖房運転が開始されるとき(何れも暖房運転の起動)、当該暖房運転の起動時は、前述した図3の暖房運転(室外熱交換器7のみに冷媒を流す状態)を実行して室外熱交換器7のみで冷媒が蒸発し、外気から冷媒が熱を汲み上げる状態とする。
そして、その後の室外熱交換器7への着霜等によって外気からの吸熱能力が低下し、放熱器4の暖房能力が不足するようになった場合(車両用空気調和装置1の要求暖房能力を達成できない場合)には、前述した図4の暖房運転(室外熱交換器7と冷媒−熱媒体熱交換器64の双方に冷媒を流す状態)に移行し、冷媒−熱媒体熱交換器64でも冷媒が蒸発して電気ヒータ66の発熱やバッテリ55の廃熱を汲み上げる状態を追加することにより、暖房補助を行い、室外熱交換器7への着霜の進行も抑制する。
尚、放熱器4の暖房能力が不足する場合、上記によらず、前述した図5の暖房運転(冷媒−熱媒体熱交換器64のみに冷媒を流す状態)に移行し、冷媒−熱媒体熱交換器64のみで冷媒が蒸発し、電気ヒータ66の発熱やバッテリ55の廃熱を冷媒が汲み上げる状態に切り換えて室外熱交換器7への着霜進行を阻止し、或いは、除霜するようにしてもよい。
(6−2)ヒータ優先運転モード
一方、暖房運転におけるヒータ優先運転モードでは、同様に車両用空気調和装置1が暖房運転で起動するとき、又は、他の前記空調運転(除湿暖房運転、除湿冷房運転、冷房運転)から暖房運転に切り換わり、暖房運転が開始されるとき、当該暖房運転の起動時は、前述した図5の暖房運転(冷媒−熱媒体熱交換器64のみに冷媒を流す状態)を実行して冷媒−熱媒体熱交換器64のみで冷媒が蒸発し、電気ヒータ66の発熱やバッテリ55の廃熱を熱媒体を介して冷媒が汲み上げる状態とする。
そして、その後の所定時間が経過した場合、前述した図4の暖房運転(室外熱交換器7と冷媒−熱媒体熱交換器64の双方に冷媒を流す状態)に移行し、室外熱交換器7でも冷媒が蒸発し、外気から熱を汲み上げる状態を追加する。電気ヒータ66の通電量はその分低下させることになるが、起動時から室外熱交換器7に冷媒を流さないので、低外気温時等の起動時に室外熱交換器7に着霜することは阻止されるようになる。
尚、起動から所定時間が経過した場合、上記によらず、前述した図3暖房運転(室外熱交換器7のみに冷媒を流す状態)に移行して室外熱交換器7のみで冷媒が蒸発し、外気から冷媒が熱を汲み上げる状態としてもよい。
(6−3)外気吸熱優先運転モードとヒータ優先運転モードの選択/決定制御
次に、図6〜図8を参照しながら暖房運転においてコントローラ32がどのように上記外気吸熱優先運転モード及びヒータ優先運転モードを選択/決定し、実行するかについて説明する。図6はコントローラ32の外気吸熱優先運転モードとヒータ優先運転モードの選択/決定制御に関する機能ブロック図、図7はコントローラ32による外気吸熱優先運転モードとヒータ優先運転モードの選択/決定制御のフローチャート、図8はコントローラ32が実行する成績係数COPhp(外気吸熱優先運転モードを実行した場合の成績係数)と成績係数COPhtr(ヒータ優先運転モードを実行した場合の成績係数)の蓄積学習及び優劣判定を説明する図である。
図6においてコントローラ32は、演算部81と、記憶部82と、運転モード決定部83と、外気吸熱優先運転モードキャンセル部84を有しており、演算部81は更に、負荷計算部86と、運転予測部87と、COP算出部88を有している。そして、演算部81に入力される情報(INPUTデータ)としては、時間帯や曜日(カレンダー情報)、運転者に関する情報(入力可能な場合)、設定温度(空調操作部53で設定される車室内の設定温度)、外気温度(外気温度センサ33が検出)、外気湿度(外気湿度センサ34が検出)、前回の運転終了からどの位時間が経過しているか(前回運転終了からの経過時間)に関する情報が採用される。
記憶部82には記憶情報として上述したINPUTデータが記憶(蓄積)される他、演算部81の負荷計算部86が計算する成績係数(COP)演算用データが記憶される。この成績係数演算用データは、電気ヒータ66の消費電力Weと圧縮機2の消費電力Wcと、室外熱交換器7における冷媒の吸熱量Qaと、放熱器4における冷媒の放熱量Qrである。また、演算部81のCOP算出部88は、暖房運転の運転時間(駆動時間)を算出し、これも成績係数(COP)演算用データとして記憶部82に記憶される。
このうち、吸熱量Qaは圧縮機2の回転数NCと低圧値Ps(例えば、吸込温度センサ44が検出する吸込冷媒温度から算出される冷媒回路Rの低圧側圧力)との積:NC×Psに比例するので、これらから負荷計算部86が計算する。放熱量Qrは吹出温度センサ41が検出する吹出口29からの吹出空気温度TbwとHVAC吸込温度センサ36が検出する吸込口25からの吸込空気温度Tsucとの差に放熱器4を通過する風量Qairを乗算したもの:(Tbw−Tsuc)×Qairに比例するので、これらから負荷計算部86が計算する。
また、演算部81の運転予測部87は、例えば記憶部82に記憶されたINPUTデータ中の外気温度(外気温度を示す指標)や、前回運転終了からの経過時間(運転状況を示す指標)に基づいて、後述する如く運転モード決定部83が行う運転モードの決定に、これら外気温度や前回運転終了からの経過時間を加味するための重み付け情報を出力する。この重み付け情報については後に詳述する。
更に、演算部81のCOP算出部88は、前述した外気吸熱優先運転モードを実行した場合の成績係数COPhpと、ヒータ優先運転モードを実行した場合の成績係数COPhtrを、暖房運転の各起動回毎に以下のように算出する。
この場合、外気吸熱優先運転モードを実行した場合の成績係数COPhpは実測された圧縮機2の消費電力Wc及び電気ヒータ66の消費電力Weと、放熱器4における冷媒の放熱量Qrから下記式(II)で算出する。一方、当該起動回に実行していないヒータ優先運転モードの成績係数COPhtrについては、同じ環境条件(外気温度等)、同じ運転条件(設定温度や運転時間)でヒータ優先運転モードを実行した場合の値を推定して求める。この場合の推定方法としては、種々の環境条件、運転条件でヒータ優先運転モードを実行した場合の成績係数COPhtrを予め実験により求め、データテーブルとして記憶部82に記憶させておき、その中から抽出する。
COPhp(実測)=Qr/(Wc+We) ・・(II)
(COPhtrは推定する)
また、ヒータ優先運転モードを実行した場合の成績係数COPhtrは実測された圧縮機2の消費電力Wc及び電気ヒータ66の消費電力Weと、放熱器4における冷媒の放熱量Qrから下記式(III)で算出する。他方、当該起動回に実行していない外気吸熱優先運転モードの成績係数COPhpについては、同じ環境条件(外気温度等)、同じ運転条件(設定温度や運転時間)で外気吸熱優先運転モードを実行した場合の値を推定して求める。この場合の推定方法としては、種々の環境条件、運転条件で外気吸熱優先運転モードを実行した場合の成績係数COPhpを予め実験により求め、データテーブルとして記憶部82に記憶させておき、その中から抽出する。
COPhtr(実測)=Qr/(Wc+We) ・・(III)
(COPhpは推定する)
尚、実行していない方の運転モードの成績係数COPhp、成績係数COPhtrの推定方法としては上記に限らず、下記図8に示すように実際に運転して蓄積したデータ(バックデータ)から実行していない方の運転モードの成績係数COPhp、成績係数COPhtrを推定するようにしてもよい。この場合、図9に示されるように、実線L1、L2のヒートポンプ運転時の成績係数のピーク値は一致するため、運転している方の成績係数のピーク値を参考として、運転していない方の成績係数を推定(バックデータから抽出)することで、より正確に推定することが可能となる。更に、データの蓄積には時間を要するため、運転開始初期には前述したデータテーブルから抽出し、その後、十分なデータが蓄積された時点で、バックデータから推定する方法に切り換えてもよい。
このようにCOP算出部88が算出した各成績係数COPhp及びCOPhtrは記憶部82に記憶され、総駆動時間(運転時間)等の他の情報と共に図8に示すように蓄積されていく。尚、蓄積される図8の成績係数COPhp、成績係数COPhtrは、各起動回の平均値(総駆動時間で平均するため、単位時間あたりの成績係数)である。そして、運転モード決定部83は記憶部82に蓄積された所定起動回数分の成績係数COPhpと成績係数COPhtrからそれらの優劣を判定し、判定結果に基づいて次回起動時に何れの運転モードを実行するかを決定する。
この場合、運転モード決定部83はデフォルト(1回目の起動)では運転モードを外気吸熱優先運転モードとして起動する。その後、所定起動回数分(実施例では10回分:X=10)の成績係数COPhpと成績係数COPhtrを比較し、成績係数COPhtrよりも成績係数COPhpの方が優位であった回数が、成績係数COPhpよりも成績係数COPhtrの方が優位であった回数以上であった場合、次回(11回目)起動時には外気吸熱優先運転モードを実行し、成績係数COPhpよりも成績係数COPhtrの方が優位であった回数が、成績係数COPhtrよりも成績係数COPhpの方が優位であった回数よりも多かった場合、次回(11回目)起動時にはヒータ優先運転モードを実行するように決定する。図8の例では1回目〜10回目の起動では、成績係数COPhpよりも成績係数COPhtrの方が優位であった回数が、成績係数COPhtrよりも成績係数COPhpの方が優位であった回数よりも多かったため、11回目の起動はヒータ優先運転モードとしている。そして、係る判定を初回からY番目の起動回毎に実行していく。尚、Yは実施例ではY=3*n+1(n=0、1、2・・)としているため、1回目、4回目、7回目を先頭とする10回分の起動回を基に判定はそれぞれ行われ、それぞれ11回目、14回目、17回目の運転モードが決定される。また、実施例では3回毎に判定するためにYを上記式としているが、この式中の3は変更可能である。更に、Xも実施例の10回に限定されるものではない。
また、その際運転モード決定部83は、上記の如き運転モードの決定に際して、運転予測部87が出力する外気温度や前回運転終了からの経過時間、カーナビゲーションからの情報を加味して運転モードに重み付けを行う。例えば、外気温度が所定の低温値以下である場合には、室外熱交換器7に着霜し易いため、ヒータ優先運転モードに重み付けを行い、上記の回数では外気吸熱優先運転モードの方が優位であった場合にも、ヒータ優先運転モードを実行するように変更する。また、前回運転終了からの経過時間が所定の短い時間以内であった場合にも室外熱交換器7の着霜が融解していない可能性が高いため、同じく回数では外気吸熱優先運転モードの方が優位であった場合にも、ヒータ優先運転モードを実行するように変更する。他方、例えば、総駆動時間が所定の駆動時間より短かった起動回が所定数より多い場合には、着霜の危惧が低いために外気吸熱優先運転モードに重み付けを行い、同じく回数ではヒータ優先運転モードの方が優位であった場合にも、外気吸熱優先運転モードを実行するように変更する。また、カーナビゲーションの位置情報から普段と異なる走行距離・運転になることが予測される場合にも、運転モードの決定に際して重み付けを行う。
また、外気吸熱優先運転モードキャンセル部84は、運転モード決定部83が決定した運転モードが外気吸熱優先運転モードであった場合、所定のキャンセル情報に基づいてこれをキャンセルしてヒータ優先運転モードに変更する。この場合のキャンセル情報としては、例えば、カーナビゲーションから情報を取得できる目的地や位置情報が考えられ、例えば道程が長い場合には室外熱交換器7に着霜し易くなるため、外気吸熱優先運転モードをキャンセルする。また、外気温度の変化量が大きい場合(例えば、トンネルに入ったとき等)や外気温度(絶対値)が例えば2℃以下等の極低温時等にも室外熱交換器7に着霜し易くなるため、外気吸熱優先運転モードをキャンセルして、ヒータ優先運転モードを次回の起動時に実行するように変更する。
次に、図7のフローチャートを参照しながらコントローラ32による上記外気吸熱優先運転モードとヒータ優先運転モードの選択/決定制御の流れについて説明する。コントローラ32は、図7のステップS1で暖房運転が起動されたか否か判断し、否である場合にはステップS11に進んで他の空調運転を実行する。ステップS1で暖房運転が起動された場合、ステップS2で所定起動回数(実施例では10回:X=10)の成績係数COPhp及びCOPhtrのデータ(COP算出部88が算出)を記憶部82に収集済みであるか否か判断し、否である場合にはステップS12に進んで外気吸熱優先運転モード(前述したデフォルト)を実行するように決定する。
ステップS2で記憶部82に10回分の成績係数COPhp及びCOPhtrが蓄積された場合、コントローラ32はステップS3に進み、運転モード決定部83が前述した如く10回の起動回数分の成績計数COPhp及び成績計数COPhtrから、それら成績係数COPhpと成績係数COPhtrの優劣を判定する。このステップS3の判定時に前述した外気温度や前回運転終了からの経過時間、カーナビゲーションからの情報を加味した重み付けが行われる。そして、外気吸熱優先運転モードを実行することが決定されなかった場合、或いは、外気吸熱優先運転モードが前述の如く外気吸熱優先運転モードキャンセル部84によりキャンセルされた場合には、ステップS10に進んでヒータ優先運転モードを実行するように決定する。
ステップS3で運転モード決定部83が外気吸熱優先運転モードを決定し、それがキャンセルされなかった場合、コントローラ32はステップS4に進み、冷媒回路Rの運転が許可(HP運転許可)されているか否か判断し、否であれば前記ステップS10に進み、許可されていればステップS5に進んで外気吸熱優先運転モードを実行するように決定する。
その後、ステップS6で運転データ(前述したINPUTデータや実行した運転状況のデータ)を記憶部82に記録し、ステップS7で運転停止指令が無ければこれを繰り返す。コントローラ32はステップS6において、実測された運転データから成績係数を算出する。そして、運転停止指令があった場合には、ステップS8に進んでデータを格納し、ステップS9で運転を停止する。ステップS7で運転停止と判断されたタイミングで総駆動時間が確定するため、コントローラ32はステップS7において、実測された成績係数の平均値を算出し、ステップS8で図8の各起動回毎の成績係数COPhp、成績係数COPhtrとして格納・記憶する(蓄積)。
以後、コントローラ32は上記図7の運転モードの選択/決定制御のステップS3における優劣判定を、実施例では初回起動から11回目の起動時と、そこから所定回数(実施例では3回:Y=3)目の起動であるときに実行して、暖房運転の起動時に実行する運転モードを外気吸熱優先運転モードか、ヒータ優先運転モードに切り換えていく。
以上詳述した如く本発明によればコントローラ32が、起動時より冷媒が室外熱交換器7で外気から熱を汲み上げる外気吸熱優先運転モードと、起動時より電気ヒータ66を発熱させ、当該電気ヒータ66が発生する熱を冷媒が汲み上げるヒータ優先運転モードと、外気吸熱優先運転モードを実行した場合の成績係数COPhpとヒータ優先運転モードを実行した場合の成績係数COPhtrを各起動回毎に算出するCOP算出部88と、このCOP算出部88が算出した成績係数COPhpと成績係数COPhtrを蓄積する記憶部82と、この記憶部82に蓄積された所定起動回数分の成績係数COPhpと成績係数COPhtrからそれらの優劣を判定し、当該判定結果に基づいて次回起動時に何れの運転モードを実行するかを決定する運転モード決定部83を備えるようにしたので、各起動回毎の成績係数COPhpと成績係数COPhtrを所定起動回数分蓄積して学習し、それらの優劣から次回起動時に何れの運転モードを実行した方が効率が良くなるかを判定することが可能となる。
これにより、平均した成績係数の改善を図って省エネルギーに寄与することができるようになり、特に、バッテリ55から供給される電力で走行用モータを駆動する車両の場合には、走行距離の延長を図ることができるようになる。
また、実施例ではコントローラ32が、記憶部82に蓄積された所定起動回数分の成績係数COPhpと成績係数COPhtrを比較し、成績係数COPhpよりもCOPhtrの方が優位であった回数が、当該成績係数COPhtrよりも成績係数COPhpの方が優位であった回数より多かった場合、次回起動時にヒータ優先運転モードを実行するようにしているので、的確に運転モードを判定して成績係数の改善を図ることができるようになる。
また、実施例ではCOP算出部88が、実行している運転モードは実測により成績係数を算出し、実行していない運転モードについては成績係数を推定するようにしているので、各成績係数COPhpとCOPhtrを支障無く算出して学習することができるようになる。
また、実施例ではコントローラ32が、運転モード決定部83における運転モードの決定に際して運転状況や外気温度を示す指標を加味する機能(運転予測部87)と、運転状況や外気温度を示す指標に基づき、運転モード決定部83が決定した運転モードをキャンセルし、異なる運転モードに変更する機能(外気吸熱優先運転モードキャンセル部84)を有しているので、学習に基づいて決定する運転モード、若しくは、学習に基づいて決定した運転モードを、実際の運転状況や外気温度に応じて変更し、より実情に即した運転モードの選択を行うことができるようになる。
そして、本発明は実施例の如く車両に搭載されたバッテリ55に熱媒体を循環させるための循環ポンプ62と、冷媒と循環ポンプ62により循環される熱媒体とを熱交換させるための冷媒−熱媒体熱交換器64が設けられ、電気ヒータ66が発熱して循環ポンプ62により循環される熱媒体を加熱すると共に、コントローラ32が、放熱器4を経た冷媒を室外熱交換器7に流して吸熱させ、及び/又は、放熱器4を経た冷媒を冷媒−熱媒体熱交換器64に流して吸熱させる制御を行う車両用空気調和装置1に極めて好適なものとなる。
尚、実施例では所定起動回数分(実施例では10回分)の成績係数COPhpと成績係数COPhtrの優劣を判定するようにしたが、それに限らず、所定期間分の成績係数COPhpと成績係数COPhtrの優劣を判定するようにしてもよい。その場合には、当該期間内に入る数のデータの優劣を判定することになる。
また、上記実施例で説明した冷媒回路Rや熱媒体循環装置61の構成、温度や回数等の数値や制御ファクタはそれに限定されるものでは無く、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更可能であることは云うまでもない。