以下本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
<第一実施形態(図1〜図9)>
本発明の第一実施形態に係る吸音遮音材1について、図1〜図9を用いて説明する。
図1は、本実施形態の吸音遮音材1を一部省略して示す正面図であり、図2は、同吸音遮音材1の角部を背面側から示す斜視図であり、図3は、同角部を背面側から示す分解斜視図である。この図3においては、連通空間Yに充填されている液体Lを省略している。図4は、同吸音遮音材1の角部を示す部分正面図であり、図5は、図4におけるV−V線に沿った断面図である。図6は、この実施形態に含まれる一実施例を示す拡大断面図であり、図7は、実験条件を説明するための説明図であり、図8及び図9は、実験結果を示す図である。
この実施形態の吸音遮音材1は、図1〜図6に示すように、少なくとも、立体的に成形された1層のコア層Cと、当該コア層を挟持して対向する2層のスキン層S1、S2とを有する中空ボードBを備えてなり、前記中空ボードBは、前記スキン層S1、S2間に形成される内部空間領域Rに、複数の小室Xと、これら小室Xから隔離された連通空間Yとを有しており、前記各小室Xを前記連通空間Y及び中空ボードBの外部から区画する隔壁Zは、少なくともその一部を1以上の前記スキン層S1、S2により構成され、前記連通空間Yは、前記中空ボードBの端部において封止されたもので、当該連通空間Yの内部には液体Lが充填されており、前記小室Xの隔壁Zの一部を構成する前記スキン層S1には、前記中空ボードBの外部と前記小室Xを連通させる1以上の小孔Hが開通している。すなわち、この実施形態における吸音遮音材1は、2層のスキン層S1、S2間に内部空間領域Rを形成するためのコア層Cを配してなる中空ボードBを主体とし、その内部空間領域Rにヘルムホルツ共鳴器を構成するための複数の小室Xと、これら小室Xと隔離された連通空間Yとを設け、その連通空間Yに液体Lを充填し封入したものである。
この実施形態における前記中空ボードBは、例えば、気泡ボード等と称されるプラスチック製のもので、図1〜図6に示すように、複数の突起47を有するキャップシート41と、このキャップシート41の突起47の開放側に添接され前記各突起47に対応した複数の前記小室Xを形成するバックシート42と、前記キャップシート41の突起47の先端側に添設されたライナーシート43とを少なくとも備えている。ここで、前記小室Xは、前記隔壁Zを介して前記連通空間Y及び外部と区画されている。また、前記キャップシート41が前記コア層Cに相当し、前記バックシート42及び前記ライナーシート42がそれぞれ前記スキン層S1、S2に相当する。そして、前記突起47を形成する壁及び前記バックシート42が前記隔壁Zに相当するものであり、その隔壁Zの一部を構成するバックシート42に前記小孔Hが穿設されている。
前記キャップシート41は、図3に示すように、平面視円形状をなす多数の突起47を備えた立体構造をなすものであり、各突起47は幅方向に沿って一列に並んでいるとともに、流れ方向に沿って千鳥配置されている。図6に示す本実施形態のキャップシート41は、突起47が成形されてない箇所の図6に示す厚み寸法t1が例えば約950μmであり、図6に示す突起47の高さ寸法d1が例えば約9mm、同じく図6に示す直径r1が例えば約16mmである。なお、キャップシート41の突起47が成形されてない箇所の好ましい厚み寸法は、350μm〜1700μmであり、突起47の好ましい高さ寸法は、4mm〜20mmであり、突起47の好ましい直径は5mm〜25mm程度である。
前記バックシート42は、図3に示すように、前記キャップシート41の一面に添接される平坦なもので、図5及び図6に示すように、キャップシート41の突起47と協働して密閉空間である前記小室Xをそれぞれ形成する。図6に示す本実施形態のバックシート42の厚み寸法t2は、例えば500μmである。なお、バックシート42の好ましい厚み寸法は、280μm〜1500μmである。
前記ライナーシート43は、図3に示すように、前記キャップシート41の他面に添接される平坦なものである。図6に示す本実施形態のライナーシート43の厚み寸法t3は、本実施形態では例えば800μmである。なお、ライナーシート43の好ましい厚み寸法は、180μm〜1500μmである。
なお、キャップシート41、バックシート42、ライナーシート43の各部の寸法は、上述したものに限られないのはもちろんである。
以上のような中空ボードBの材料樹脂としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン等のポリスチレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ナイロン等のポリアミド系樹脂等を挙げることができる。
そして、前記バックシート42と前記ライナーシート43との間の内部空間領域Rには、図1、図5及び図6に示すように、前記各突起47内に形成された前記小室Xと、前記各突起47外に形成された前記連通空間Yとを備えてなる。前記各小室Xは、前記各突起47内に形成されたもので、具体的には、前記キャップシート41の突起47内面側と、このキャップシート41の突起47開放側に密着された前記バックシート42との間に形成される密閉された有限空間である。前記中空ボードBは、複数の小室Xを備えており、各小室Xは互いに独立している。一方、前記連通空間Yは、前記各突起47外に形成されたもので、具体的には、前記キャップシート41の突起47外面側と、このキャップシート41の突起47先端側に密着された前記ライナーシート43との間に形成される連続した空間である。この連通空間Yは、中空ボードBの端部に設けられた封止部材3により当該中空ボードBの外部と液密に隔離されている。しかして、前記中空ボードBは、前記複数の小室X以外の部分に単一の連通空間Yを備えている。
しかして、本実施形態にかかる吸音材1は、前記中空ボードBを利用して製造されたものであり、図1及び図4〜図6に示すように、前記中空ボードBに前記小室Xを外部に連通させる小孔Hを設けるとともに、前記封止部材3により前記中空ボードBの端面21を封止してその端面21における前記連通空間Yと外部との連通を液密に遮断している。
前記小孔Hは、図1及び図4〜図6に示すように、前記バックシート42側に穿設され前記小室Xと外部とを連通する貫通孔で、前記小室X内の空気と協働して後述するヘルムホルツ共鳴器を形成し得る大きさを有したものである。前記小孔Hは、前記各小室Xに対して1つずつ設けられており、前記バックシート42側に適宜のピッチで配設されている。具体的には、前記各小孔Hは、前記バックシート42における各小室Xに対応する中央部分、換言すれば前記有限空間の中庸な位置に開口するべく穿設されたもので、直径r2が約1.5mm〜5.0mmに設定された平面視円形状をなしている。なお、各小孔Hの直径は、0.5mm〜5.0mmが好ましい。0.3mmより小さいと加工が困難であり、12.0mmを超えると加工が困難である上に、吸音材1の厚み方向の剛性が低下する。なお、小孔Hの直径は、突起47の直径に対応させて種々変更可能であるのはもちろんである。また、前記小孔Hの形成方法としては、ドリル、針、パンチング等種々適用可能である。
前記封止部材3は、図1に示すように、前記中空ボードBの端面21を覆う板状のものであって、例えば、平面視矩形状をなす中空ボードBの四方全ての小口端面21を塞ぐように配されている。この封止部材3は、例えば前記中空ボードBで列挙したような素材からなる合成樹脂製のもので、前記中空ボードBの端面21に熱融着により接合されている。なお、封止部材3の中空ボードBへの接合方法は、接着剤等を用いた接着によるものであってもよいのはもちろんである。
そして、前記バックシート42は、図1に示すように、前記連通空間Yと前記中空ボードBの外部とを連接する注水口42a、排水口42b及び排気口42cを有している。後述するように、前記中空ボードBを壁状に立設配置する場合には、前記注水口42a及び排水口42bを該中空ボードBの下端部に設けるとともに、前記排気口42cを該中空ボードBの上端部に設けるようにしている。また、前記注水口42aは左右いずれか一方の端部近傍に設けているとともに前記排水口42bは他方の端部近傍に設けている。そして、前記注水口42aを介して前記連通空間Y内に液体Lを充填することにより、吸音遮音材1が完成するようにしてある。また、液体Lを充填する前に前記連通空間Y内に企図せず存在する空気等の気体は、液体Lの充填作業中に前記排気口42cから排出されるようにしてある。なお、前記注水口42a及び排水口42bには、図1に示すように止水キャップ7が着脱可能に装着されており、注水及び排水の際のみにその止水キャップ7を取り外すようにしてある。また、前記注水口42aと前記連通空間Yとの間には前記連通空間Yから前記注水口42aを経て液体Lが流出することを防ぐための逆止弁を設けることが望ましい。なお、本実施形態では、説明の都合上、前記バックシート42に注水口42a及び排水口42bを設けているが、前記ライナーシート43側に注水口及び排水口を設けるとなお好ましい。
次に、本実施形態の吸音遮音材1の作用について説明する。
本実施形態の吸音遮音材1は、前記小孔Hを介して前記小室Xと外部との連通を許容することにより、小孔Hによる径の小さい開口部と、その背後に位置する空洞部たる前記小室Xとを備えた構造を有している。そして、この開口部に存在する空気が塊となり、この塊に対して前記小室Xがバネのような働きをする。このように、前記小孔Hが設けられるバックシート42側に作用した音を前記キャップシート41及びバックシート42により形成される前記小室X内に直接導いて、前記小室Xの内壁に反射させ、キャップシート41の突起47を振動させる。本実施形態の吸音遮音材1は、以上のようにして音のエネルギーを減衰させて吸音効果を得る、いわゆるヘルムホルツ共鳴器の原理を用いている。
このヘルムホルツ共鳴器とは、開口部の断面積S0(すなわち小孔Hの開口面積)や、開口部の実長L0(すなわち小孔Hが形成されるバックシート42の厚み寸法)、小室Xの容積V0(すなわち、突起47の大きさ)等、ヘルムホルツ共鳴器を構成する各要素に応じて、特定の周波数で共振運動が生じることが知られている。しかして、本実施形態の吸音遮音材1は、前記開口部の断面積S0、開口部の実長L0、小室Xの容積V0に依存する特性を備えたヘルムホルツ共鳴器となり、これらの値を適宜設定することにより吸音率を大幅に向上させることができる。
さらに、前記吸音遮音材1は、前記小室Xと前記隔壁Zを介して隣接する前記連通空間Yに液体Lを充填しているので、前記突起47を介して前記小室Xから前記連通空間Yに伝播された音がその連通空間Yに充填された液体Lにより減衰させられる。その上、前記連通空間Yに充填させた液体Lの存在により吸音遮音材1の重量が増すことになり、吸音遮音材1自体を透過する音の遮蔽作用がより向上する。
そのため、このような構成のものであれば、従来と同等又はそれを超える吸音性能を発揮するだけでなく、遮音性能をも高めることができる吸音遮音材を提供することができる。すなわち、このような構成の吸音遮音材1によれば、音源側における吸音性能だけでなく、該吸音遮音材1を挟んで音源と反対側の空間における静音性をも高めることができる。
以下、この効果を確認するための実験について述べる。
まず、図7に示すように、前記吸音遮音材1を天壁と4枚の周壁とに用いた箱Qを構成し、この箱Qを音源Gに被せた上でこの箱Qから一定距離離れたマイクロフォンMで音量を測定して防音性能を測定した(実施例1)。一方、音源Gの周囲に何らの防音遮音材も配置していない状態(比較例1)、音源Gの周囲に液体Lを連通空間Yに充填していない状態の前記中空ボードBを利用した箱Qを音源Gに被せた状態(比較例2)、及び石膏ボードにより形成した箱を音源Gに被せた状態(比較例3)でも音量を測定した。
<実施例1(No.3、6)>
詳述すれば、前記実施例1では、目付重量が2000g/m2のG型トーメーン(川上産業株式会社製)を前記中空ボードBの素材として用い、バックシート42の各小室Xに対応する部位にそれぞれ直径r2が1.5mmの小孔Hを穿設し、連通空間に液体Lとして水を充填した吸音遮音材1により前述した箱Qを形成した。この箱Qの大きさは、幅500mm、奥行430mm、高さ400mmである。また、この箱Qの重量は3.7kgであり、うち1.6kgが前記連通空間Yに充填した液体Lである水の重量である。音源Gから発せられる音としては、周波数1250Hzのサイン波(No.3)、及び複数の周波数のサイン波を混合したもの(No.6)を用いた。なお、前記複数の周波数は、具体的には、100Hz、500Hz、1000Hz、2000Hz、3150Hz、4000Hz、5000Hz及び6300Hzである。前記箱QからマイクロフォンMまでの距離DTは400mmであり、前記マイクロフォンMの床面からの高さHTは1200mmである。また、音源Gの床面からの高さHT2も1200mmであり、音源Gが発する音量は90dbである。音量測定時の暗騒音は55dbである。
<比較例1(No.1)>
音源Gに一切の箱をかぶせることなく音源Gから発せられる音を直接マイクロフォンMで音量を測定した例である。音源Gから発せられる音としては、周波数1250Hzのサイン波を用いた。音源Gが発する音量、及び音源GとマイクロフォンMとの相対位置は実施例1と同一である。
<比較例2(No.2、5)>
G型トーメーン2000g/m2(川上産業株式会社製)を素材として用い、バックシート42の各小室Xに対応する部位にそれぞれ直径1.5mmの小孔Hを穿設し、連通空間に液体Lとして何らの液体を充填していない状態の中空ボードにより形成した箱を音源Gに被せた状態で音量を測定した。音源Gから発せられる音としては、周波数1250Hzのサイン波(No.2)、及び複数の周波数のサイン波を混合したもの(No.5)を用いた。なお、箱Qの大きさ、箱QとマイクロフォンMとの距離DT、音源Gが発する音量、マイクロフォンMの床面からの高さHT及び音源Gの床面からの高さHT2は、いずれも前記実施例1のものと同一である。
<比較例3(No.4)>
前述した吸音遮音材1に代えて、厚さ10mmの石膏ボードを素材として用いた箱を音源に被せた状態で音量を測定した。音源Gから発せられる音としては、周波数1250Hzのサイン波を用いた。なお、箱Qの大きさ、箱QとマイクロフォンMとの距離、音源Gが発する音量、マイクロフォンMの床面からの高さHT及び音源Gの床面からの高さHT2は、いずれも前記実施例1のものと同一である。
以上の実験により得られた結果は、図8及び図9に示している。ここで、図8は、No.1〜6に係る実験の音源周波数、試料の種類、音量の測定結果、及びNo.1の測定結果との差(ブランク差)を表にまとめて示したものである。図9は、No.1〜6に係る実験の音量の測定結果を棒グラフとして示したものである。
音源として周波数1250Hzのサイン波を用いた場合において、比較例2における音量(No.2)は75dbであり、音源Gに一切の箱をかぶせることがない比較例1における音量(No.1)91dbとは16dbの差であった。これに対し、実施例1における音量(No.3)は72dbで、比較例1における音量とは19dbの差があり、連通空間に液体Lを充填していない比較例2におけるものより大きな遮音効果が得られた。また、厚さ10mmの石膏ボードを用いた比較例4における音量(No.4)は73dbであり、前記実施例1におけるものは石膏ボードを用いたものより高い遮音性能を発揮することもわかった。
また、音源Gとして複数の周波数のサイン波を混合したものでは、連通空間Yに液体Lを充填していない比較例2における音量(No.5)は70dbであるのに対し、実施例1における音量(No.6)は69dbであり、前記比較例2におけるものより大きな遮音効果が得られた。
<第二実施形態(図10〜図11)>
次に、本発明の第二実施形態に係る吸音遮音材について、図10及び図11を用いて説明する。なお、第一実施形態と同一またはこれに対応する部分には、同一の符号を付して、詳細な説明を省略する。
図10は、本実施形態の吸音遮音材の角部を示す部分正面図であり、図11は、図10におけるXI−XI線に沿った断面図である。
本実施形態の吸音遮音材1は、中空ボードBに小室Xを外部に連通させる小孔Ha、Hbを設けるとともに、中空ボードBの端面21を封止してその端面21における連通空間Yと外部との連通を遮断しており、前記連通空間Yに液体Lを充填してある。そして、前記中空ボードBが、複数の小孔Ha、Hb及びこれら小孔Ha、Hbに対応する小室Xを備えたものであり、前記小孔Ha、Hbの大きさを相互に異ならせている点が第一実施形態と異なる。
すなわち、本実施形態にかかる吸音材1では、ヘルムホルツ共鳴器を構成する要素のうち、開口部の実長(すなわち小孔Ha、Hbが形成されるバックシート42の厚み寸法)と空気部の容積(すなわち、突起47の大きさ)とを同一とするとともに、開口部の断面積(すなわち小孔Ha、Hbの開口面積)を異ならせた複数のヘルムホルツ共鳴器を備えている。
このようなものであれば、第一実施形態に準じた効果が得られる。その上、第1の小孔Haとその背後の小室Xとを主体として構成される第1のヘルムホルツ共鳴器で吸音される周波数と、第2の小孔Hbとその背後の小室Xとを主体として構成される第2のヘルムホルツ共鳴器で吸音される周波数とを異ならせることができるため、吸音遮音材1全体として、吸音遮音性能を向上させることが可能となる。換言すれば、複数のピーク周波数が含まれている音に対して、複数種類の周波数、具体的には、第1の小孔Haから小室Xに侵入し当該小室X内で共鳴する周波数と、第2の小孔Hbから小室Xに侵入し当該小室X内で共鳴する周波数とを吸音できるので、吸音効果が現れる周波数帯域幅を広げるとともに、ピーク周波数音源に対して吸音効果を向上させることができる。
なお、小孔の大きさを相互に異ならせる方法は、上述したような(1)径を変えるものに限られず、例えば、(2)小孔の形状を変える(小孔の形状は、上述した平面視円形状には限られず種々変更可能である。小孔の形状は、ヘルムホルツ共鳴器を構成する要素のうち開口部の断面積に関係する)、(3)小孔周辺のバックシートの厚み寸法を異ならせて開口部の実長を変える、といった方法を採用してもよく、これら(1)〜(3)を組み合わせてもよいのはもちろんである。
<第三実施形態(図12〜図13)>
次に、本発明の第三実施形態に係る吸音遮音材について、図12及び図13を用いて説明する。なお、第一実施形態と同一またはこれに対応する部分には、同一の符号を付して、詳細な説明を省略する。
図12は、本実施形態の吸音遮音材の角部を示す部分正面図であり、図13は、図12におけるXIII−XIII線に沿った断面図である。
本実施形態の吸音遮音材1は、中空ボードBに小室Xa、Xbを外部に連通させる小孔Ha、Hbを設けるとともに、前記中空ボードBの端面21を封止してその端面21における連通空間Yと外部との連通を遮断しており、前記連通空間Yに液体Lを充填してある。そして、前記中空ボードBが、複数の小孔Ha、Hb及びこれら小孔Ha、Hbに対応する小室Xa、Xbを備えたものであり、前記小室Xa、Xbの容積を相互に異ならせている点が第一実施形態と異なる。
すなわち、本実施形態にかかる吸音遮音材1では、ヘルムホルツ共鳴器を構成する要素のうち、開口部の断面積(すなわち小孔Ha、Hbの開口面積)と開口部の実長(すなわち小孔Ha、Hbが形成されるバックシート42の厚み寸法)とを同一とするとともに、小室Xa、Xbの容積(すなわち、突起47a、47bの大きさ)を異ならせた複数のヘルムホルツ共鳴器を備えている。
このようなものであれば、第一実施形態に準じた効果が得られるだけでなく、第二実施形態に準じた効果も得られる。すなわち、第1の小孔Haとその背後の小室Xaとを主体として構成される第1のヘルムホルツ共鳴器で吸音される周波数と、第2の小孔Hbとその背後の小室Xbとを主体として構成される第2のヘルムホルツ共鳴器で吸音される周波数とを異ならせることができるため、吸音遮音材1全体として、吸音効果の現れる周波数帯域幅を広げることが可能となる。
なお、小室の容積を相互に異ならせる方法は、上述したような(1)突起の径を変えるものに限られず、例えば、(2)突起の形状を変える(突起の形状は、上述した円柱状には限られず種々変更可能である。突起の形状は、ヘルムホルツ共鳴器を構成する要素のうち空気部の容積に関係する)、(3)突起の高さ寸法を変える(突起の高さ寸法は、ヘルムホルツ共鳴器を構成する要素のうち空気部の容積に関係する)、といった方法を採用してもよく、これら(1)〜(3)を組み合わせてもよいのはもちろんである。
また、突起の直径(小室の容積)の種類を3種類以上にしてもよく、直径が異なる突起(容積が異なる小室)の比率を任意に設定する等してもよい。すなわち、上述した第三実施形態では、第1の列の小室及び第2の列の小室の2種類の小室を形成していたが、3種類以上の小室を形成してもよい。さらに、各小室の吸音材全体に対する比率も、上述したような第1の列の小室を50%、第2の列の小室を50%と各小室を同割合で配置したものに限られず、例えば、第1の列の小室を20%、第2の列の小室を80%等のように、異なる割合で配置したものであってもよい。
さらに、本実施形態の小室の容積を相互に異ならせる方法と、前述した第二実施形態の小孔の大きさを相互に異ならせる方法とを組み合わせることにより、単一の吸音材の中に異なる共鳴周波数を複数存在させて、吸音効果のある周波数帯域幅を広げるようにしてもよいのはもちろんである。
なお、以上説明した第一ないし第三実施形態の吸音遮音材は、連通空間に液体として水を充填した場合について説明している。液体として水を用いれば、水道からホースで水を導入して充填することができる。さらに、使用後においても、有害物質や規制物質を含まないため内部の液体である水を廃棄することができる。
また、図14に示すように、かかる吸音遮音材の表面に不織布等の吸音効果を有する外装シートを配し、より防音性能を高めることも可能である。
さらに、中空ボードの端部を封止する封止部材は、中空ボードと別体のものに限らず、中空ボードのスキン層の端部を封止部材として用いることもできる。例えば、バックシート又はライナーシートの端部自体を一度溶融して連通空間を塞ぐ態様が考えられる。図15は、バックシートの端部を直角に折り曲げてライナーシートの端部に液密に溶着したものであり、図16は、ライナーシートの端部を湾曲させてバックシートの端部に液密に溶着したものである。また、表裏のスキン層を加熱しながら押圧して融着させることで、連通空間を塞ぐ態様も考えられる。図17は、バックシート及びライナーシートの端部を4分の1円弧状に湾曲させ、その衝き合わせ端部を液密に溶着したものである。その他、
コア層を加熱溶融させ、そこにスキン層を折り曲げて溶融したコア層と密着させ、冷却するまで保持することで連通空間を塞ぐ方法や、液状のシーリング剤を充填して固化させる方法等により中空ボードの端部を封止するようにしてもよい。
加えて、コア層は気泡シートに限らず、多数の小室と連通空間とを相互に隔離した状態で形成するようなものであればどのようなものであってもよく、二層以上の多層構造のものであってもよい。
また、スキン層は不透明なものに限らず、前記実施例1に用いたような透明なものであってもよい。スキン層の少なくとも一方を透明な材料により構成しておけば、連通空間への液体の注入度合いを外部から視認することができるため、注入作業をより効率的に行うことができる。
<第四実施形態(図18〜図24)>
図18は、本実施形態に係る囲いの斜視図である。図19は、図18におけるXIX部拡大矢視図であり、図20は、図18におけるXX部拡大矢視図である。図21は、注水口の一例を示す概略説明図であり、図22は、排水口を示す概略説明図である。図23及び図24は、排水口と注水口との接続部分の一例を示す概略説明図である。
この実施形態に係る囲いFは、図18に示すように、例えば前記第一実施形態の吸音遮音材に準じた構成をなす吸音遮音材1を複数枚横方向に連結したものである。
この吸音遮音材1は、左右両側面を封止する封止部材3の外側面に係合用の突条31を一体に突設したものであり、この突条31以外の構成は前記第一実施形態の吸音遮音材と同一である。よって、前記第一実施形態のものと同一又は相当する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
この囲いFは複数枚の吸音遮音材1を起立させて横方向に隣接させて配置したものであり、相互に隣接する吸音遮音材1同士は、図19及び図20に示すように、それらの対向する前記突条31同士を連結部材5に回動可能に係合させることにより連結されており、前記連結部材5を上方に抜き取ることにより連結した吸音遮音材1同士を再分離することもできるようになっている。
前記突条31は、図19及び図20に示すように、先端部31aが円柱状をなすとともに基端部31bがくびれ形状をなしている。一方、同じく図19及び図20に示すように、前記連結部材5の両端部には、前記突条31の先端部31aが回動可能に係合する係合凹部5aと、この係合凹部5aを外部に開放する切欠部5bとがそれぞれ設けられている。前記切欠部5bは、突条31の基端部31bに対応するものであり、前記突条31と前記連結部材5とが水平方向に所要角度回動し得るような開口幅に設定されている。この一例では、連結部材5と各突条31とがそれぞれ水平方向に45度回動し得るようになっている。なお、前記突条や連結部材の形状は、種々変形することが可能である。また、面ファスナやベルトといった、他の部材により複数枚の吸音遮音材1を連結することも可能である。
前記吸音遮音材1は、前述したように、また、図18に示すように、左右いずれか一方の端部近傍に注水口42aを有し、他方の端部近傍に排水口42bを有している。そのため、この囲いFでは、隣接する一方の吸音遮音材1の排水口42bと他方の吸音遮音材1の注水口42aとが比較的近い位置に配されることになる。それら近接した排水口42bと注水口42aとをそれぞれ接続パイプ6により接続している。また、一端側に位置する吸音遮音材1の注水口42aと他端側に位置する吸音遮音材1の排水口42bとには、止水キャップ7が装着され、各連通空間Yには液体Lである水が充填されている。
次いで、この囲いの組立順序の一例を説明する。
まず、連通空間Yに水が入っていない状態すなわち液体未充填状態の吸音遮音材1を連結部材5により連結して図18に相当する形態とする。その状態で、図21に示すように一端側に位置する吸音遮音材1の注水口42aに水道水を注入するためのホース8を接続するとともに、図22に示すように、他端側に位置する吸音遮音材1の排水口42bに止水キャップ7を装着する。そして、相互に隣接する一方の吸音遮音材1の排水口42bと他方の吸音遮音材1の注水口42aとを接続パイプ6により接続する。この状態で前記一端側に位置する吸音遮音材1の注水口42aに水道水を注入していくと、各吸音遮音材1の連通空間Yに水が注がれていき、次第に水位が上がっていく。その際に、連通空間Y内の空気は各吸音遮音材1の上部に設けた排気口42cから外部に排出される。このような注水作業により、全ての吸音遮音材1の連通空間Y内に水が充填された状態で水道からの給水を停止し、前記一端側に位置する吸音遮音材1の注水口42aにも止水キャップ7を装着して囲いを完成させる。なお、本実施形態では、説明の都合上、前記バックシート42に注水口42a及び排水口42bを設けているが、前記ライナーシート43側に注水口及び排水口を設けるとなお好ましい。前記バックシート42にはヘルムホルツ共鳴器を構成する小孔Hが形成されており、前記バックシート42側に音源を配しつつ該バックシート42を内側にして囲いFを組むことが多いが、前記ライナーシート43側に注水口及び排水口を設けると、この囲いFの外側からホース8を繋いで注水作業を行うことを容易に行うことができるからである。
このような囲いFであれば、液体未充填状態の吸音遮音材1を所望の位置に持ち込みその位置でそれら吸音遮音材1を連結して囲いFを構築し、しかる後に各遮音吸音材1内に水等の液体Lを注入することにより吸音遮音材1及び囲いFを完成させることができる。そのため、保管、輸送、組立時は液体を含まない軽量の状態で作業することができ、作業者の負担軽減が図られる。また、その場で液体を排水することも可能であり、これにより軽量となったのち吸音遮音材1又は囲いFの分解、輸送、洗浄、保管等の作業を行うことができ、この点でも作業者の負担軽減が図られる。
なお、本発明は以上に述べた実施形態に限らない。
例えば、連通空間と小室とが隣接しておらず、これらの間に別途の部材等が介在するものであってもかまわない。また、前述した各実施形態では、連通空間が常圧下において小室の隔壁によって当該小室とは水密に区成されているが、他の手段により連通空間から液体が小室に進入しないように構成してもよい。但し、前述した各実施形態のように、連通空間と小室とが隣接し、連通空間が常圧下において小室の隔壁によって当該小室とは水密に区成されているものであれば、簡単な構成により本発明の主要な効果、すなわち音源側における吸音性能だけでなく、該吸音遮音材を挟んで音源と反対側の空間における静音性をも高めることができるという効果を得ることができる。
また、連通空間への液体の充填及び連通空間からの液体の排出は、前述した各実施形態のようなもの以外の態様、すなわちスキン層に設けられ連通空間と中空ボード外部とを連接する注水口及び排水口を用いるもの以外の態様を採用してもよい。但し、スキン層に前述したような注水口及び排水口を設ければ、前記注水口を介して連通空間に液体を充填する作業を容易に行うことができるとともに、前記排水口と隣接して設けられた吸音遮音材の注水口とを接続パイプにより接続し、複数の吸音遮音材に対する液体を充填する作業を同時に行うこともできる。さらに、前述した各実施形態のように、スキン層に、連通空間と中空ボード外部とを連接する排気口を設けているものであれば、液体の充填作業中に連通空間内の空気が前記排気口から外部に排出されるので、液体の充填作業をさらにスムーズに行うことができる。
さらに、上述した各実施形態では、注水口、排水口及び排気口をそれぞれ別に設けているが、排水口が排気口を兼ねる構成を採用してもよい。但し、排水口と排気口とをそれぞれ別に設ける場合、排水口を吸音遮音材の下端又はその近傍、排気口を吸音遮音材の上端又はその近傍に設け、注水作業中の排気及び排水作業をそれぞれ効率よく行うようにすることができる。
一方、囲いは必ずしも図18に示すものでなくともよく、また、特定の領域を環状に囲うものに限らず、図18に示す以外の形態をなす衝立状のものであってもよい。すなわち、音源と静音性が求められる箇所との間に本発明の吸音遮音材が存在するように囲いを形成すればよい。
また、囲いを形成する際の吸音遮音材同士の接合の態様は任意のものを採用してよい。しかし、前述した第四実施形態のように、吸音遮音材同士を回動可能に連結すれば、所望の角度で吸音遮音材同士を連結でき、音源の形状や状況に合わせて所望の形状の空間を囲いにより区画することができる。すなわち、囲いの形状設定の際の自由度を高めることができる。加えて、吸音遮音材同士を再分離可能に連結すれば、同一の吸音遮音材を利用してその都度異なる形状の空間を区画することができるとともに、非使用時には各吸音遮音材を分離し、吸音遮音材及び連結部材を集約して輸送及び保管することができる。
そして、吸音遮音材が、単一の連通空間ではなく、それぞれ水密に区画された複数の連通空間を有するようにしてもよい。但し、吸音遮音材が単一の連通空間を有するものであれば、1つの吸音遮音材に液体を充填する作業を1回で行うことができるので、液体を充填する作業を効率よく行うことができる。
その他、本発明の趣旨を損ねない範囲で種々に変更してよい。