JP6922444B2 - 蛍光ナノ粒子を用いた、病理学的完全奏効(pCR)の予測を支援するための検査支援方法 - Google Patents

蛍光ナノ粒子を用いた、病理学的完全奏効(pCR)の予測を支援するための検査支援方法 Download PDF

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本発明は、術前化学療法を行う乳がん患者から採取した乳がん組織の検体を用いて、乳がん術前療法の病理学的完全奏効(pCR)の予測を支援するための検査支援方法に関する。より詳しくは、本発明は、蛍光ナノ粒子を用いて組織切片上の乳がん関連タンパク質を蛍光標識し、その蛍光画像から取得される乳がん関連タンパク質の発現量に関する指標を用いた分析により、pCRを予測するための情報を取得することを含む、検査支援方法に関する。
乳がんの手術前に抗がん剤による治療を先行することを“術前化学療法"または"ネオアジュバント化学療法"という。術前化学療法は、1970年代の乳房切除術全盛の時代には主として、がんが周囲の組織やリンパ節に拡がっていて手術だけでは完全に取り除くことが難しい患者(局所進行乳がん)の手術の効果を高める目的で行われていた。効果があると考えられる患者もいたが、その効果については必ずしも肯定的に評価されるものではなく、手術後に行う化学療法と比べて、治療の最大の目的である"予後(生存率)の改善"には結びつかないと考えられてきた。しかしながら、最近は優れた抗がん剤やホルモン療法剤が開発され、手術と組み合わせることで治療効果を高めることができるようになった。そのため、術前化学療法を、手術と対等の立場で用いるという意味で、PST(primary systemic treatment;一次全身療法)と呼ぶことも提唱されている。
術前化学療法によりがん細胞が完全に消失したことが、顕微鏡による病理組織学的な方法によって確かめられた状態は、病理学的完全奏効(pCR:pathological complete response)と呼ばれ、抗がん剤が有効であったと判断することのできる指標となる。
ここで、細胞表面に発現するHER2タンパク質を特異的ターゲットとする分子標的治療薬「トラスツズマブ」(商品名「ハーセプチン」(登録商標)、抗HER2モノクローナル抗体)は、「HER2過剰発現が確認された転移性乳がん」に対して、また「HER2過剰発現が確認された乳がんにおける術後補助化学療法」において、一定の効能・効果が認められている抗がん剤である。HER2タンパク質は、ホモ二量体または活性化したEGFR(HER1)、HER3もしくはHER4と結合したヘテロ二量体を形成してシグナル伝達を行うと考えられており、がん細胞増殖因子の受容体として機能しているものと推定される(これまでのところHER2に結合する内因性リガンドは知られていない)。ヒト乳がん症例では、15〜25%でHER2遺伝子の増幅とHER2タンパクの過剰発現が認められており、例えば、HER2遺伝子増幅/HER2タンパク過剰発現のある乳がん患者は予後不良であり、さらにアントラサイクリン系抗がん剤(ドキソルビシンなど)に対する感受性が高いとの報告や、ホルモン療法(タモキシフェンなど)およびCMF療法(シクロホスファミド、メトトレキサート、フルオロウラシルの3剤併用)に対する治療抵抗性を示すとの報告もある。治癒率の向上および医療経済性の観点から、ハーセプチンの対象症例選択のために、HER2遺伝子(HER2/neu、c-erbB-2)の増幅および/またはHER2タンパク質の過剰発現の検査・判定が行われており、その精度を管理するために、2007年にASCO/CAP HER2検査ガイドラインが制定され、2013年に改訂されている。
日本でも、改訂されたASCO/CAPのHER2検査ガイドラインに準拠した、免疫組織化学(IHC)法を用いたHER2タンパク質の過剰発現の判定、およびin situ ハイブリダイゼーション(ISH)法を用いたHER2遺伝子の増幅の判定が行われている(HER2検査ガイド第四版、乳癌HER2検査病理部会、2014年4月)。これらの判定には、乳がんの原発巣または転移巣の組織から、ホルマリン固定パラフィン包埋組織ブロック(検体)を作製し、その薄切切片を載せたスライドを所定の手順で染色したものが利用される。IHC法では、組織切片中のがん細胞の膜における染色性およびその染色強度を、所定の基準(染色パターン)に従って、3+(陽性:>10%のがん細胞に強い完全な全周性の膜染色が認められる)、2+(equivocal:>10%のがん細胞に不完全および/または弱もしくは中程度の全周性の膜染色が認められるか、≦10%のがん細胞に強い完全な全周性の膜染色が認められる)、1+(陰性:>10%のがん細胞にかすかなもしくはかろうじて部分的な膜染色が認められる)または0(陰性:染色像が認められないか、≦10%の腫瘍細胞に不完全で、かすかなもしくはかろうじて膜染色が認められる)の4段階のスコアで表す。ISH法では、組織切片中のがん細胞に含まれる染色体上のHER2遺伝子のシグナルの数と対照としてのCEP17遺伝子のシグナルの数の比率(HER2/CEP2比)と、HER2遺伝子コピー数の1細胞あたりの平均(HER2遺伝子平均コピー数)とによって、陽性(HER2/CEP2比≧2.0、またはHER2/CEP2比<2.0かつHER2遺伝子平均コピー数≧6.0)、equivocal(HER2/CEP2比<2.0かつHER2遺伝子平均コピー数≧4.0〜<6.0)または陰性(HER2/CEP2比<2.0かつHER2遺伝子平均コピー数<4.0)と判定する。HER2遺伝子平均コピー数をISHスコアと称するのが通例である。ISH法を先に行う場合、その結果が陽性であればトラスツズマブを用いた治療の適応ありと判断し、equivocalであっても、同じ検体でIHC法を行ってその結果が陽性であるか、異なる検体でIHC法またはISH法を行ってその結果が陽性であれば、やはりトラスツズマブを用いた治療の適応ありと判断する。IHC法を先に行う場合、その結果が陽性(3+)であればトラスツズマブを用いた治療の適応ありと判断し、equivocal(2+)であっても、同じ検体でISH法を行ってその結果が陽性であるか、異なる検体でIHC法またはISH法を行ってその結果が陽性であれば、やはりトラスツズマブを用いた治療の適応ありと判断する。
ここで、IHC法は従来、組織スライドの組織切片中に含まれるHER2タンパク質に、酵素(ペルオキシダーゼ)で標識された抗HER2抗体を直接法または間接法により結合させた後、基質(ジアミノベンジジン)を反応させて発色させる、DAB染色法(IHC−DAB法)が一般的に行われてきた。しかしながら、DAB染色のような酵素による染色は、染色濃度が温度・時間などの環境条件により大きく左右されるため、染色濃度から実際の抗原等の量を正確に見積もることが難しいという課題があった。
そこで近年、IHC−DAB法のような色素(酵素によって基質から生成したもの)を用いてHER2等の目的とするタンパク質の発現量を評価する方法の代わりに、ナノサイズの蛍光粒子、例えば蛍光色素や量子ドットなどの蛍光体を樹脂等を母体として集積させた粒子(蛍光体集積粒子、Phosphor Integrated Dot:PID)を用いて目的タンパク質の発現量を評価する方法(IHC−PID法)が提案され、実用化が進められている。蛍光体集積粒子を用いて目的タンパク質を標識し、蛍光物質に適合する励起光を照射すると、蛍光体集積粒子は目的タンパク質の数および位置を高い精度で示す、輝度の高い輝点として観察することが可能であり、また輝点が褪色しにくいため長時間にわたって観察や撮像が可能となる。例えば、国際公開2012/029342号パンフレット(特許文献1)、国際公開2013/146741号パンフレット(特許文献2)などには、蛍光体集積粒子(蛍光集積体、蛍光物質集積粒子などと呼ばれることもある。)を用いて目的タンパク質の免疫染色を行うIHC−PID法について記載されている。
上記の特許文献は、蛍光体集積粒子を用いてHER2等の乳がん関連タンパク質または乳がん関連遺伝子を定量する方法に関係している。しかしながら、上記の特許文献ならびにその他の特許文献および非特許文献には、そのような定量方法によって、抗がん剤を用いて術前化学療法を行った場合に病理学的完全奏効(pCR)となるかどうかを予測できるということや、この予測に基づいた検査支援方法に関連した事項は記載されていない。
国際公開2012/029342号パンフレット 国際公開2013/146741号パンフレット
本発明は、抗がん剤を用いた術前化学療法を行った場合に病理学的完全奏効(pCR)となるかどうかを、術前化学療法を行う乳がん患者から採取した検体を用いて予測するための手段(検査支援方法)を提供することを課題とする。
発明者らは本発明の完成に際し、2007〜2014年に東北大学病院で採取された検体、または2016年にJBCRG(Japan Breast Cancer Research Group)においてJBCRG-16(Neo-LaTH試験)のため採取された検体を用いた。なお、いずれの検体も東北大学医学部倫理委員会およびJBCRGでそれぞれ使用を許可されている。すなわち、本発明の完成に際しては最終的にpCRとなった複数の乳がん患者から術前化学療法を行う前に採取しておいた検体(pCR群)と、最終的にpCRとはならなかった複数の乳がん患者から術前化学療法を行う前に採取しておいた検体(非pCR群)を用いて、各検体に含まれるHER2の発現量を、IHC−PID法、IHC−DAB法およびFISH法で定量し、pCR群の結果と非pCR群の結果を比較した。また、HER1やHER3など、HER2以外の乳がん関連タンパク質の発現量についても同様に、IHC−PID法とIHC−DAB法およびFISH法で定量し、pCR群の結果と非pCR群の結果を比較した。さらにIHC−PID法においては、HER2の発現量の定量結果からヒストグラムを作成し、その分布パターンをpCR群と非pCR群とで比較した。
HER2の発現量について、IHC−DAB法で定量した結果(HER2検査ガイドによる4段階のスコアではなく、装置で測定したDABの発色強度を指標とした場合)またはFISH法で定量した結果(前述したようなHER2遺伝子平均コピー数(FISHスコア)を指標とした場合)では、pCR群と非pCR群との間に統計学的な有意差は認められなかった(図13、14)。IHC−DAB法またはFISH法においてこれまでにそのような有意差が報告された例はなく、有意差が認められないという点は、周知の事実を再確認したものと認識している。
一方、IHC−PID法で定量した結果においては、組織の単位面積あたりのPID粒子数を発現量の指標(PIDスコア)とした場合、または1細胞あたりの平均PID粒子数を発現量の指標(PIDスコア)とした場合のいずれにおいても、pCR群と非pCR群との間に統計学的な有意差が認められた(図15、16)。また、IHC−PID法で定量したHER2の発現量とHER1またはHER3の発現量を組み合わせ、例えばHER1の発現量に対するHER2の発現量の比の値(HER2発現量/HER1発現量)、またはHER3の発現量に対するHER2の発現量の比の値(HER2発現量/HER3発現量)を算出し、その値についてpCR群の結果と非pCR群の結果を比較したところ、やはり統計学的な有意差が認められた(図21、22)。さらに、IHC−PID法で定量したHER2の発現量を表すヒストグラムの分布パターンも、pCR群と非pCR群とで傾向に差があることが分かった。なお、HER2検査ガイドに従ったIHC−DAB法による発現量の評価は、前述したような4段階の非定量的なスコア(3+、2+、1+および0)にとどまり、FISH法も同様な段階評価(HER2/CEP2比は2.0以上か2.0未満か、またHER2遺伝子平均コピー数は6.0以上か、4.0以上6.0未満か、4.0未満か)にとどまっているため、そのような評価結果に基づいてヒストグラムを作成することはできても、階級数が少ないので分布パターンに特徴を見出すことはできない。また、IHC−DAB法の発色強度を指標とした定量評価からヒストグラムを作成することはできても、pCR群と非pCR群とで傾向に明確な差は見られない。
ここで、従来のFISH法は(対象は遺伝子であるが)蛍光色素によるシグナルの数を数えるという点で、本発明の(対象はタンパク質である)IHC−PID法の輝点すなわち蛍光ナノ粒子の数を数えるという点に、類似している。しかしながら、FISH法ではしばしば、複数の蛍光色素が集合して(クラスターを形成して)大きなシグナルとなる場合があり、そのような場合はシグナルの数を数えるに際して、大きめのシグナルはFISHスコアとして5と数えるとか、中程度のシグナルはFISHスコアとして3と数えるといった、便宜的な評価のためのルールを設けている。そのようなルールの下ではHER2遺伝子数の正確な数を数えているとは言い難く、原理的にも正確な数を数えることはできない。したがって、FISH法によるHER2遺伝子平均コピー数の定量値は不正確であるがゆえに、pCR群と非pCR群とで傾向に明確な差を導き出せなかったと考えられる。
一方、本発明は後述するような原理に従って、HER2タンパク質の正確な数を得ているために、ヒストグラムにおける輝点数(PIDスコア)も二ケタ以上の精度を有していると考えられる。したがって、IHC−DAB法の発色強度やFISH法の蛍光強度を指標とした定量からは見出すことができなかった、pCRになるかどうかを予測できるという効果が得られたと考えられる。さらに将来的には、FISH法の改良法として、蛍光ナノ粒子を用いたHER2遺伝子の定量方法(ISH−PID法)の結果に基づき、ヒストグラム化やその分布パターンの類型化などによって、pCRの予測を行うことも可能であろうと考えられる。
本発明の定量性の原理は、患者検体組織に含まれるHER2等の乳がん関連タンパク質ひとつを、蛍光ナノ粒子ひとつでマーキングすることにあると要約できる。IHC−DAB法またはFISH法によるHER2検出は増幅反応を利用している、つまりタンパク質または遺伝子ひとつにつき、複数個の色素分子が生成したり、蛍光色素が結合したりしているので、シグナル(画像中のドット)の大きさは一定ではなく、またドットが重なったとしてもHER2タンパク質何個分にあたるかは不明である。上記の本発明の定量性の原理によれば、蛍光ナノ粒子の数を数えることはすなわち、特定の乳がん関連タンパク質の数を数えることと同義であり、乳がん関連タンパク質の数を正確に数えることは患者の乳がんの特性を正確に把握し、高い精度でのpCRの予測につながると考えられる。
ところで、本発明の定量性の原理に関する上記のような仮説、つまり乳がん関連タンパク質ひとつを蛍光ナノ粒子ひとつでマーキングしているということは、最近原子間力顕微鏡(AFM)での観察結果から証明された。後記参考例に示すように、発明者らは図24に示す評価系を組み、バインディングアッセイを行うことで、PID表面に結合したストレプトアビジンと固相固定したビオチンとの結合力を計測した。その結果、該当結合力はcondition I(図25のC)の測定値とCondition II(図25のD)の測定値の差として40pNであると結論した。この値は、これまでに多くの研究者が報告しているストレプトアビジン1分子とビオチン1分子との結合力値と同等であった。つまり、後述する実施例で開示しているように、ストレプトアビジンで修飾されたPIDを、HER2に間接的に結合しているビオチン修飾2次抗体に結合させるような実施形態であっても、HERタンパク質1つにつき1つのPIDが結合しているという推測は十分に裏付けられる。
以上のような知見から発明者は、術前化学療法を行う乳がん患者から検体を採取し、HER2またはその他の乳がん関連タンパク質の発現量をIHC−PID法に従って定量し、それらの定量値またはそこから算出した比の値のような換算値を、上述した知見からあらかじめ導き出した所定の閾値と比較することによって、その乳がん患者がpCRとなるかどうかを予測することが可能であることを見出した。また、IHC−PID法によるHER2の発現量を表すヒストグラムの分布パターンについても、上述した知見からあらかじめ導き出したpCR群によく当てはまる分布パターンであるかどうかを判定することで、その乳がん患者がpCRとなるかどうかを予測することが可能であることも見出した。さらに、上記の定量値等と閾値とを比較したときの予測結果と、ヒストグラムの分布パターンを比較したときの予測結果とを組み合わせ、両方ともpCRになるとの予測結果であったときは、さらに高い精度でpCRになることを予測することができることも見出した。
特に、術前化学療法を行う乳がん患者の検体を用いて、その検体(スライスした組織切片)に含まれる特定のタンパク質の発現量を蛍光ナノ粒子の蛍光シグナルの輝点数または粒子数として計測した後、計測値をヒストグラム化する工程を特徴として、すなわち横軸を1細胞あたりの輝点数または粒子数(平均発現量)とし縦軸をその細胞の数とするヒストグラムを作成した後、得られたヒストグラムの分布パターンを層別化することによって、乳がん関連分子の評価を行うことは真新しいものであり、この評価方法が病理学的完全奏効(pCR)の予測を支援するための有用な手段になりえることは、興味深い事実である。
すなわち、本発明は下記のような発明を包含する。
[項1]
術前化学療法を行う乳がん患者から採取した乳がん組織の検体を用いて、乳がん術前療法の病理学的完全奏効(pCR)の予測を支援する検査支援方法であって、
[1]1種類以上の乳がん関連タンパク質を標識した蛍光ナノ粒子の輝点が表された、乳がん組織切片の蛍光画像を取得する工程、
[2]前記蛍光画像の輝点に基づいて、前記乳がん関連タンパク質の発現量に関する1種類以上の指標を取得する工程、および
[3]前記1種類以上の指標を用いた分析により、pCRを予測するための情報を取得する工程、
を含む検査支援方法。
[項2]
前記工程[1]が、少なくともHER2を含む2種類以上の乳がん関連タンパク質を標識した蛍光ナノ粒子の輝点が表された、乳がん組織切片の蛍光画像を取得する工程であり、
前記工程[2]が、前記蛍光画像の輝点に基づいて、前記2種類以上の乳がん関連タンパク質それぞれの発現量を表す数値、またはそれらの数値の組み合わせから算出される数値を前記指標として取得する工程であり、
前記工程[3]が、前記数値を所定の閾値と比較することを含む分析により、pCRを予測するための情報を取得する工程である、
項1に記載の検査支援方法。
[項3]
前記工程[1]が、1種類以上の乳がん関連タンパク質を標識した蛍光ナノ粒子の蛍光輝点が表された、乳がん組織切片の蛍光画像を取得する工程であり、
前記工程[2]が、前記蛍光画像の輝点に基づいて、少なくとも、前記乳がん関連タンパク質の細胞ごとの発現量に基づくヒストグラムを作成して前記指標として取得する工程であり、
前記工程[3]が、少なくとも、前記ヒストグラムの分布パターンを類型化することを含む分析により、pCRを予測するための情報を取得する工程である、
項1に記載の検査支援方法。
[項4]
前記工程[1]が、少なくともHER2を含む1種類または2種類以上の乳がん関連タンパク質を標識した蛍光ナノ粒子の蛍光輝点が表された、乳がん組織切片の蛍光画像を取得する工程であり、
前記工程[2]が、前記蛍光画像の基点に基づいて、少なくとも、HER2の細胞ごとの発現量に基づくヒストグラムを作成して前記指標として取得する工程であり、
前記工程[3]が、少なくとも、前記ヒストグラムの分布パターンを類型化することを含む分析により、pCRを予測するための情報を取得する工程である、
項3に記載の検査支援方法。
[項5]
前記工程[1]が、HER2と、HER1またはHER3とを標識した蛍光ナノ粒子の蛍光輝点が表された、乳がん組織切片の蛍光画像を取得する工程であり、
前記工程[2]が、前記蛍光画像の輝点に基づいて、HER2と、HER1またはHER3とのそれぞれの発現量を表す数値を取得し、(a)HER2の発現量を表す数値/HER1の発現量を表す数値、または(b)HER2の発現量を表す数値/HER3の発現量を表す数値、のいずれかの比の値を算出して前記指標として取得する工程であり、
前記工程[3]が、前記(a)または(b)のいずれかの比の値を所定の閾値と比較することを含む分析により、pCRを予測するための情報を取得する工程である、
項2に記載の検査支援方法。
[項6]
前記工程[1]が、HER2を標識した蛍光ナノ粒子の蛍光輝点が表された、乳がん組織切片の蛍光画像を取得する工程であり、
前記工程[2]が、前記蛍光画像の輝点に基づいて、(a)HER2の発現量を表す数値を前記指標として取得し、また(b)HER2の細胞ごとの発現量に基づくヒストグラムを作成して前記指標として取得する工程であり、
前記工程[3]が、(a)前記数値を所定の閾値と比較すること、および(b)前記ヒストグラムの分布パターンを類型化すること、の組み合わせを含む分析により、pCRを予測するための情報を取得する工程である、
項4に記載の検査支援方法。
[項7]
前記工程[1]において、1枚の乳がん組織切片上で、少なくともHER2を含む2種類以上の乳がん関連タンパク質を、それぞれに対応した2種類以上の色の蛍光ナノ粒子で標識する、項2、4、5または6に記載の検査支援方法。
本発明により、従来のHER2検査のように単に抗がん剤(トラスツズマブ等)の適用対象とするか否かを判断するに留まらず、pCRになると予想できるか否かを高い精度で判断することができるようになり、その臨床上の意義は極めて大きい。
図1は、実施例1により開示された、pCR群の乳がん患者の一例のDAB染色像(A)、PID染色像(B)、ヘマトキシリン染色像(C)およびPID染色像とヘマトキシリン染色像の合成(D)、ならびに非pCR群の乳がん患者の一例のDAB染色像(E)、PID染色像(F)、ヘマトキシリン染色像(G)およびPID染色像とヘマトキシリン染色像の合成(H)である。 図2は、実施例1により開示された、pCR群、非pCR群それぞれのHER2タンパク質のIHC‐DAB発色強度(組織の単位面積あたりの発色強度)を表すボックスプロットである。 図3は、実施例1により開示された、pCR群、非pCR群それぞれのHER2遺伝子のFISHスコアを表すボックスプロットである。 図4は、実施例1により開示された、pCR群、非pCR群それぞれのHER2タンパク質のPIDスコア(組織の単位面積あたりのPID粒子数)を表すボックスプロットである。 図5は、実施例2により開示された、術後100か月以上生存群(pCR群に相当)、術後100か月未満生存群(非pCR群に相当)それぞれのHER2タンパク質のIHC−DAB発色強度(組織の単位面積あたりの発色強度)を表すボックスプロットである。 図6は、実施例2により開示された、術後100か月以上生存群、術後100か月未満生存群それぞれのHER2遺伝子のFISHスコアを表すボックスプロットである。 図7は、実施例2により開示された、術後100か月以上生存群、術後100か月未満生存群それぞれのHER2タンパク質のPIDスコア(組織の単位面積あたりのPID粒子数)を表すボックスプロットである。 図8は、実施例2により開示された、HER2タンパク質のPIDスコアについてのROC曲線(receiver operating characteristic curve)である。 図9は、実施例2により開示された、術後100か月以上生存群、術後100か月未満生存群それぞれのHER1タンパク質のPIDスコア(組織の単位面積あたりのPID粒子数)を表すボックスプロットである。 図10は、実施例2により開示された、術後100か月以上生存群、術後100か月未満生存群それぞれのHER2/HER1のPIDスコア比を表すボックスプロットである。 図11は、実施例3および実施例4により開示された、HER2タンパク質のPIDスコアから作成されたヒストグラムの作成過程を説明する説明図である。 図12(図12−1および12−2)は、実施例3により開示された、HER2タンパク質のPIDスコアから作成されたヒストグラムである。 図13は、実施例4により開示された、pCR群、非pCR群それぞれの、HER2タンパク質のIHC−DAB発色強度(細胞あたりの発色強度)を表すボックスプロットである。 図14は、実施例4により開示された、pCR群、非pCR群それぞれのHER2遺伝子のFISHスコア(HER2遺伝子平均コピー数)を表すボックスプロットである。 図15は、実施例4により開示された、pCR群(n=48)、非pCR群(n=33)それぞれの、HER2タンパク質のPIDスコア(組織の単位面積あたりのPID粒子数)を表すボックスプロットである。 図16は、実施例4により開示された、pCR群、非pCR群それぞれのHER2タンパク質のPIDスコア(細胞あたりのPID粒子数)を表すボックスプロットである。 図17は、実施例4により開示された、HER2タンパク質のPIDスコア(細胞あたりのPID粒子数)についてのROC曲線(receiver operating characteristic curve)である。 図18は、実施例4により開示された、HER1タンパク質のPIDスコア(細胞あたりのPID粒子数)を表すボックスプロットである。 図19は、実施例4により開示された、pCR群、非pCR群それぞれのHER2/HER1のPIDスコア比(細胞あたりのPID粒子数)を表すボックスプロットである。 図20は、実施例4により開示された、HER3タンパク質のPIDスコア(細胞あたりのPID粒子数)を表すボックスプロットである。 図21は、実施例4により開示された、pCR群、非pCR群それぞれのHER2/HER3のPIDスコア比(細胞あたりのPID粒子数)を表すボックスプロットである。 図22は、実施例4により開示された、pCR群、非pCR群それぞれのHER3/HER2のPIDスコア比(細胞あたりのPID粒子数)を表すボックスプロットである。 図23は、本発明の一実施形態である検査支援方法のフローチャートである。 図24は、参考例に示した評価系の模式図である。 図25は、参考例に示した、PID一粒子と特定の密度のビオチンの間の結合力の評価に関する図である。(A)AFM測定の模式図。(B)PIDで被覆されたAFMのカンチレバーのSEM像。AFMカンチレバーの先端に位置するPID粒子(矢印)の結合力を測定した。(C)condition Iにおける結合力−距離の測定値に基づくヒストグラム。(D)condition IIにおける結合力−距離の測定値に基づくヒストグラム。(E)condition IIIにおける結合力−距離の測定値に基づくヒストグラム。
本発明の検査支援方法は、術前化学療法を行う乳がん患者から採取した乳がん組織の検体を用いて、乳がん術前療法の病理学的完全奏効(pCR)の予測を支援する検査支援方法であって、基本的に下記のような工程[1]、[2]および[3]を含む:
工程[1]1種類以上の乳がん関連タンパク質を標識した蛍光ナノ粒子の輝点が表された、乳がん組織切片の蛍光画像を取得する工程;
工程[2]前記蛍光画像の輝点に基づいて、前記乳がん関連タンパク質の発現量に関する1種類以上の指標を取得する工程;および
工程[3]前記1種類以上の指標を用いた分析により、pCRを予測するための情報を取得する工程。
乳がん組織の検体を採取する乳がん患者は、術前化学療法を開始する前の状態であってもよいし、術前化学療法を開始した後で終了する前(つまり術前化学療法の途中)の状態であってもよい。
本発明の検査支援方法は、その好ましい実施形態の特徴によって2つに大別することができる。
検査支援方法の第1実施形態では、工程[1]において、少なくともHER2を含む2種類以上の乳がん関連タンパク質、つまりHER2とそれ以外の1種以上の乳がん関連タンパク質を、蛍光ナノ粒子による標識の対象とする。また、工程[2]において、前記2種類以上の乳がん関連タンパク質それぞれの発現量を表す数値、つまりHER2の発現量を表す数値とそれ以外の1種以上の乳がん関連タンパク質の発現量を表す数値を取得するか、それらの数値の組み合わせから算出される数値、例えばHER2の発現量を表す数値を、それ以外の乳がん関連タンパク質の発現量を表す数値で割って算出される数値を取得する。そして工程[3]において、前記指標としての数値を所定の閾値と比較することを含む分析を行う。
すなわち、本発明の検査支援方法の第1実施形態は、下記のような工程[1]、[2]および[3]を含む。
工程[1]少なくともHER2を含む2種類以上の乳がん関連タンパク質を標識した蛍光ナノ粒子の輝点が表された、乳がん組織切片の蛍光画像を取得する工程;
工程[2]前記蛍光画像の輝点に基づいて、前記2種類以上の乳がん関連タンパク質それぞれの発現量を表す数値、またはそれらの数値の組み合わせから算出される数値を前記指標として取得する工程;および
工程[3]前記数値を所定の閾値と比較することを含む分析により、pCRを予測するための情報を取得する工程。
検査支援方法の第2実施形態は、工程[2]において、少なくとも、乳がん関連タンパク質の細胞ごとの発現量に基づくヒストグラムを作成し、工程[3]において、少なくとも、そのヒストグラムの分布パターンを類型化することを含む分析を行う。
すなわち、本発明の検査支援方法の第2実施形態は、下記のような工程[1]、[2]および[3]を含む:
工程[1]1種類以上の乳がん関連タンパク質を標識した蛍光ナノ粒子の蛍光輝点が表された、乳がん組織切片の蛍光画像を取得する工程;
工程[2]前記蛍光画像の輝点に基づいて、前記乳がん関連タンパク質の細胞ごとの発現量に基づくヒストグラムを作成して前記指標として取得する工程;および
工程[3]少なくとも、前記ヒストグラムの分布パターンを類型化することを含む分析により、pCRを予測するための情報を取得する工程。
また、本発明の検査支援方法は、上記第1実施形態と第2実施形態を組み合わせたような実施形態、すなわち少なくともHER2の細胞ごとの発現量に基づくヒストグラムを利用した分析を行う、下記のような工程[1]、[2]および[3]を含む実施形態であってもよい:
工程[1]少なくともHER2を含む1種類または2種類以上の乳がん関連タンパク質を標識した蛍光ナノ粒子の蛍光輝点が表された、乳がん組織切片の蛍光画像を取得する工程;
工程[2]前記蛍光画像の基点に基づいて、少なくとも、HER2の細胞ごとの発現量に基づくヒストグラムを前記指標として取得する工程;
工程[3]少なくとも、前記ヒストグラムの分布パターンを類型化することを含む分析により、pCRを予測するための情報を取得する工程。
工程[1]:蛍光画像取得工程
本発明の検査支援方法に含まれる工程[1]は、1種類以上の乳がん関連タンパク質、例えば、少なくともHER2を含む2種類以上の乳がん関連タンパク質(第1実施形態)を標識した蛍光ナノ粒子の輝点が表された、乳がん組織切片の蛍光画像を取得する工程である。
(乳がん関連タンパク質)
本発明の検査支援方法における乳がん関連タンパク質は、乳がん組織に含まれる細胞が発現するタンパク質、またはそのような細胞の周囲に存在するタンパク質であって、乳がんの術前化学療法において用いられる抗がん剤の作用効果に関連しているものである。なお、乳がん組織には、乳がん細胞だけでなく、乳がん細胞以外の細胞、例えば乳がん細胞等の腫瘍細胞と相互作用する免疫細胞のような細胞も含まれる。乳がん関連タンパク質は、抗がん剤の作用効果に関連していれば、乳がん細胞が発現するタンパク質に限定されず、乳がん細胞以外の細胞が発現するタンパク質であってもよい。
乳がん関連タンパク質は、例えば、がん細胞増殖因子、がん細胞増殖因子受容体、細胞表面抗原、血管増殖因子、血管増殖因子受容体、サイトカイン、サイトカイン受容体、免疫チェックポイントタンパク質、がんの増殖能を表すマーカーなどのうち、乳がんに対する抗がん剤の作用効果に関連するものである。がん細胞増殖因子およびがん細胞増殖因子受容体の具体例としては、HER1(EGFR),HER2,HER3,HER4,IGFR,HGFRなどが挙げられる。細胞表面抗原、血管増殖因子および血管増殖因子受容体の具体例としては、VEGF−A、VEGF−B,VEGF−C,VEGF−D,VEGF−E,PlGF−1,PlGF−2などが挙げられる。サイトカインおよびサイトカイン受容体の具体例としては、インターフェロン,インターロイキン,G−CSF,M−CSF,EPO、SCF,EGF,FGF,IGF,NGF,PDGF,TGFなどが挙げられる。免疫チェックポイントタンパク質の具体例としては、CD40,TL1A,GITR−L,4−188−L,CX4D−L,CD70,HHLA2,ICOS−L,CD85,CD80,MHC−II,PDL1,PDL2,VISTA,BTNL2,B7−H3,B7−H4,CD48,HVEM,CD40L,TNFRSF25,GITR,4−188,OX40,CD27,TMIGD2,ICOS,CD28,TCR,LAG3,CTLA4,PD1,CD244,TIM3,BTLA,CD160,LIGHTなどが挙げられる。がんの増殖能を表すマーカーの具体例としては、Ki67などが挙げられる。Ki67は、細胞分裂中に核内に発現するタンパク質であって、乳がんやその他の様々な腫瘍の増殖性や悪性度の評価に用いられており、例えば、乳がん組織中のKi67発現細胞数または発現量とその他の情報とを組み合わせて、がんの再発リスクを判定する方法も提案されている(特開2011−209220号公報)。
本発明の好ましい実施形態の一例において、乳がん関連タンパク質は、乳がんに対して有効な分子標的薬のターゲットとなるタンパク質であり、例えば、HER1(EGFR)、HER2、HER3、VEGFR、PD−L1、PD−1、CTLA−4、Ki67などが挙げられる。例えば、HER2と、HER1またはHER3との組み合わせは、工程[3]の分析によりpCRを予測する上で信頼性の高い情報を取得することができるため、特に好ましい。
本発明の好ましい実施形態の一例において、乳がん関連タンパク質は、リン酸化されたタンパク質であり、例えば、HER1(EGFR)、HER2、HER3、VEGFRなどが挙げられる。リン酸化型タンパク質は、免疫染色の際に、乳がん関連タンパク質のうちリン酸化型のもののみを特異的に認識する抗体を用いることによって定量することができる。なお、リン酸化型か非リン酸化型かにかかわらず乳がん関連タンパク質全体を定量したい場合は、それらを区別せずに認識する抗体を用いればよい。
乳がんの術前化学療法において用いられる抗がん剤は、代表的には特定の乳がん関連タンパク質を標的とする分子標的薬であり、例えば、トラスツズマブ(登録商標「ハーセプチン」)、ペルツズマブ(登録商標「パージェタ」)のようなHER2の細胞外領域ドメインに特異的に結合する抗HER2ヒト化モノクローナル抗体;トラスツズマブエムタンジン(登録商標「カドサイラ」)のような抗HER2ヒト化モノクローナル抗体とチューブリン重合阻害剤等の薬物との複合体;ラパチニブトシル酸塩水和物(登録商標「タイケルブ」)のようなHER1(EGFR)およびHER2の細胞内キナーゼドメインを標的とするチロシンキナーゼ阻害剤などが挙げられる。これらの分子標的薬は、単独で用いてもよいし、複数を組み合わせて用いてもよいし、分子標的薬以外の薬剤、例えばタキサン系薬剤(ドセタキセル、パクリタキセル等)やアントラサイクリン系薬剤(ドキソルビシン、エピルビシン等)と併用してもよい。
(蛍光ナノ粒子)
蛍光ナノ粒子は、蛍光画像において乳がん関連タンパク質の存在を示す輝点を表すことができるものであれば、量子ドットやシリカドットのような集積化していない粒子(無機蛍光体)であってもよいし、蛍光色素や量子ドットなどの蛍光体を樹脂等を母体として集積させた粒子(蛍光体集積粒子、Phosphor Integrated Dot:PID)であってもよい。PIDとしては、例えば、蛍光体として蛍光色素を用い、母体として樹脂を用いて作製される蛍光色素集積樹脂粒子;蛍光体として蛍光色素を用い、母体としてシリカを用いて作製される蛍光色素集積シリカ粒子;蛍光体として無機蛍光体を用い、母体として樹脂を用いて作製される無機蛍光体集積樹脂粒子;蛍光体として無機蛍光体を用い、母体としてシリカを用いて作製される無機蛍光体集積シリカ粒子などが挙げられる。なかでも、蛍光体としてペリレンジイミド、ピロメテン(Pyrromethene)、スルホローダミン101またはその塩酸塩(テキサスレッド)等の蛍光色素を用い、母体としてメラミン樹脂、スチレン樹脂等の樹脂を用いて作製される蛍光色素集積樹脂粒子は、標識性能等に優れることから、本発明における蛍光ナノ粒子として好ましい。
本発明において蛍光ナノ粒子として蛍光体集積粒子(PID)を用いる場合、それらの蛍光ナノ粒子の粒子径を所定の範囲に調節することにより、蛍光画像中における乳がん関連タンパク質を標識するPIDをあらわす輝点の大きさを、発現量を定量するのに好ましい一定の大きさとすることができる。このような観点から、PIDの平均粒子径は、40nm以上160nm以下であることが好ましい。PIDの粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて画像を撮影し、蛍光標識用樹脂粒子の断面積を計測し、その計測値を相当する円の面積としたときの直径(面積円相当径)として測定することができる。PIDの集団についての平均粒子径および変動係数は、十分な数(たとえば1000個)のPIDのそれぞれについて上記のようにして粒子径を測定した後、その算術平均として算出することができる。
このような蛍光ナノ粒子に、乳がん関連タンパク質に対する抗体(1次抗体、例えば抗HER2ウサギモノクローナル抗体)、1次抗体に対する抗体(2次抗体、例えば抗ウサギIgG抗体)、1次抗体または2次抗体を修飾したビオチンまたはハプテン(ジコキシゲニン、FITC等)と反応する、アビジンまたは抗ハプテン抗体(抗ジコキシゲニン抗体、抗FITC抗体等)などを連結して修飾したものを用いることで、乳がん関連タンパク質を直接的または間接的に標識することができる。乳がん関連タンパク質1つに対する、上記のような修飾された蛍光ナノ粒子の結合数(平均値)がなるべく1に近くなるよう、蛍光ナノ粒子の修飾条件、または修飾された蛍光ナノ粒子が結合する物質の条件を調整することが好ましい。
本発明の第1実施形態では、少なくともHER2を含む2種類以上の乳がん関連タンパク質、例えばHER2とHER1、またはHER2とHER3を標識する。そのような場合は、それぞれの乳がん関連タンパク質を、互いに異なる色(極大発光波長)を有する2種類以上の蛍光ナノ粒子を用いることにより、1枚の乳がん組織切片上で同時に染色することが好適である。各乳がん関連タンパク質の輝点が表された蛍光画像は、各蛍光ナノ粒子に対応する励起波長を照射し、各蛍光ナノ粒子に対応する発光波長を透過する(それ以外の発光波長を透過しない)フィルターを用いることにより、別々の蛍光画像として取得することができる。このような実施形態にしない場合は、例えば、1つのホルマリン固定パラフィン包埋組織ブロックから作製された、隣接する2枚以上の薄切切片のそれぞれにおいて、それぞれの乳がん関連タンパク質を蛍光ナノ粒子で染色するようにして、それぞれの蛍光画像を取得することも可能である。
蛍光ナノ粒子を用いて目的とするタンパク質(本発明においては乳がん関連タンパク質)を直接的または間接的に標識する方法(特に蛍光標識としてPIDを用いるIHC−PID法)の基本的な実施形態は、国際公開2012/029342号パンフレット(特許文献1)、国際公開2013/146741号パンフレット(特許文献2)、またはその他の特許文献または非特許文献により公知であり、標本スライドを用いて従来の一般的な病理診断を行う場合に準じた実施形態で実施することができる。
なお、本発明では、乳がん関連タンパク質を標識するために蛍光ナノ粒子を用いるので、従来のIHC法のように酵素反応で生成した色素が形態観察用染色剤と混合するといった問題は起こらない。そのため1枚の組織切片上で、蛍光ナノ粒子を用いた乳がん関連タンパク質に対する染色処理を行うと共に、細胞の形態観察用の染色処理を行うことができる。このような実施形態は、例えば次に述べる工程[2]において、計測値(i)として乳がん関連タンパク質の細胞ごとの発現量を取得することができるため好適であり、基本的な事項は例えば国際公開2013/035688号パンフレットに記載されている。
また、形態観察用染色剤を用いる代わりに、乳がん関連タンパク質以外の膜タンパク質であって細胞膜に恒常的に発現しているもの(参照生体物質、例えば、ATPase、カドヘリン、サイトケラチン、EpCAM)を蛍光ナノ粒子で標識することにより、細胞膜の領域が蛍光輝点で表された蛍光画像を取得するようにしてもよい。この場合、乳がん関連タンパク質と上記の参照生体物質は、互いに異なる励起極大波長および発光極大波長を有する2種類の蛍光ナノ粒子によって1枚の組織切片上で染色されることになり、それぞれの輝点は別の蛍光画像として取得することができる。このような実施形態の基本的な事項は、例えば国際公開2015/146896号パンフレットに記載されている。
(乳がん組織切片)
乳がん組織切片は、ヒト(乳がん患者)由来の乳がん組織から採取された検体を用いて作製されたものあってもよいし、ヒト由来の乳がん組織または乳がん細胞が移植された実験動物の、乳がん組織または乳がん細胞を含む部位から採取された検体を用いて作製されたものであってもよい。
上記の「実験動物」は、一般的に担腫瘍動物と呼ばれているものであり、ヒト(乳がん患者)から採取した腫瘍(乳がん)組織または腫瘍細胞、あるいは培養細胞株として確立されたヒト由来の腫瘍細胞が移植された第0世代の実験動物、およびそのような第0世代に移植された腫瘍組織または腫瘍細胞を起源とする、第n−1世代の実験動物の体内で生長した腫瘍組織または増殖した腫瘍細胞が移植された第n世代(n≧1)の実験動物を包含する。このような実験動物は公知の手法を用いて作製することができる。例えばマウスであれば、CDX(Cell-line derived xenograft)モデルマウス、PDX(Patient derived xenograft)モデルマウスのほか、ヒト異種移植モデルマウス(Human xenograft model)、Immuno-avatar モデルマウス、造血リンパ系ヒト化モデルマウス(Hemato-lymphoid humanized mice)、Immune-PDXモデルマウスなどの様々な担腫瘍モデルマウスを作製することが可能であり、作製済みの担腫瘍マウスモデルを購入できる環境も整っている。一方、患者から取り出した腫瘍細胞に由来する培養細胞を移植した担腫瘍モデルマウスは、より古典的であり作製が容易である。
工程[2]:指標取得工程
本発明の検査支援方法に含まれる工程[2]は、前記工程[1]で取得された蛍光画像の輝点に基づいて、前記2種類以上の乳がん関連タンパク質それぞれの発現量を表す数値(第1実施形態)または、すくなくとも、前記乳がん関連タンパク質の細胞ごとの発現量に基づくヒストグラム(第2実施形態)を前記指標として取得する工程である。
(指標)
乳がん関連タンパク質の発現量に関する指標としては、例えば、(I)乳がん関連タンパク質の1細胞あたりの発現量(平均値)、(II)乳がん関連タンパク質の組織の単位面積あたりの発現量(平均値)、(III)乳がん関連タンパク質の細胞ごとの発現量に基づくヒストグラム、(IV)乳がん関連タンパク質の細胞ごとの発現量に基づく分布曲線、などが挙げられる。
上記のような指標を取得するためには、具体的には、蛍光画像の輝点に基づいて、(i)乳がん関連タンパク質の細胞ごとの発現量、(ii)発現量を計測した細胞の総数、(iii)乳がん組織の所定の領域内に含まれる細胞における乳がん関連タンパク質の発現量、(iv)発現量を計測した領域の面積などを計測すればよい。上記の計測値(i)および(ii)を用いることにより、指標(I)として挙げた、乳がん関連タンパク質の1細胞あたりの発現量(平均値)を算出することができる。上記の計測値(iii)および(iv)を用いることにより、指標(II)として挙げた、乳がん関連タンパク質の乳がん組織の単位面積あたりの発現量(平均値)を算出することができる。また、上記の計測値(i)を用いることにより、指標(III)として挙げたヒストグラムまたは指標(IV)として挙げた分布曲線を作成することができる。
(i)の乳がん関連タンパク質の細胞ごとの発現量は、例えば、工程[1]において、組織切片(標本スライド)を蛍光ナノ粒子により免疫染色すると共に、形態観察用染色剤(ヘマトキシリン、エオジン等)によって細胞の形状が特定できるように染色することで計測することができる。この場合、工程[1]ではまず、蛍光ナノ粒子に対応する所定の波長を有する励起光を照射しながら行われる、暗視野における観察および撮像により、乳がん関連タンパク質を標識した蛍光ナノ粒子が輝点として表れている画像を取得する。一方で、明視野における観察および撮像により、形態観察用染色剤によって細胞の形状を表すように染色されている画像も取得する。工程[2]において、これらの2枚の画像を画像処理により重ねあわせると、画像全体に含まれる、または画像中の特定の領域(例えば腫瘍組織のみ)に含まれる、個々の細胞について、発現している乳がん関連タンパク質を標識した輝点の数を計測することができる。輝点が存在しない細胞や、輝点が細胞外に存在する細胞は、計測の対象としない。
輝点数の計測の対象とする細胞の数または領域の面積は任意であるが、(i)および(ii)の指標を算出したり、(iii)および(iv)の指標としてのヒストグラムまたは分布曲線を作成したりする際に、それらが(特に統計学的に)妥当なものとなることを考慮して、十分に大きな数または面積とすることが適切である。1枚の標本スライド(組織切片)上で、1つの視野またはそこに含まれる所定の数の細胞について輝点数を計測してもよいし、2以上の視野またはそれぞれに含まれる所定の数ずつの細胞について輝点数を計測してもよい。
乳がん関連タンパク質の発現量は、上記のようにして計測される輝点数によって表してもよいし、その輝点数から換算可能な、輝点を構成している粒子数によって表してもよいが、工程[3]における分析の精度を高める観点からは後者の方が好ましい。1つの輝点は、複数の蛍光ナノ粒子が発する蛍光によって構成されている場合もあるので、ある1つの輝点の明るさ(輝度、蛍光強度)を、別途測定しておいた蛍光ナノ粒子1つあたりの明るさで割ることにより、その輝点を構成している蛍光ナノ粒子の数を算出することができる。
指標(I):乳がん関連タンパク質の1細胞あたりの発現量(平均値)は、計測値(i):乳がん関連タンパク質の細胞ごとの発現量と、計測値(ii):発現量を計測した細胞の総数とを用いることにより、つまり計測値(i)の総和を計測値(ii)で割ることにより算出することができる。
指標(II):乳がん関連タンパク質の乳がん組織の単位面積あたりの発現量(平均値)は、計測値(iii):乳がん組織の所定の領域(視野の全体であっても一部であってもよい)に含まれる細胞における(形態観察用染色剤によって表されている細胞の形状内に存在する)乳がん関連タンパク質の発現量と、計測値(iv):発現量を計測した領域の面積とを用いることにより、つまり計測値(iii)を計測値(iv)で割ることにより算出することができる。
指標(III):乳がん関連タンパク質の細胞ごとの発現量に基づくヒストグラムは、計測値(i):乳がん関連タンパク質の細胞ごとの発現量から、まず発現量についての所望の一定の幅を有する複数の階級を設定し、続いてそれらの各階級に属する細胞数(度数)を算出し、前者を横軸に表し、後者を縦軸に表すことによって作成することができる。横軸の階級は、例えば、本明細書に記載した実施例で行っているように、0〜400個までの輝点数について、10個ずつの幅に区切り、合計41の階級とすることができる。
指標(IV):乳がん関連タンパク質の細胞ごとの発現量に基づく分布曲線も、計測値(i):乳がん関連タンパク質の細胞ごとの発現量を用いて、横軸に発現量を表し(ヒストグラムのような幅を持たせない)、縦軸に各発現量に対応する細胞数(度数)を表すことによって作成することができる。
工程[3]:pCR予測情報取得工程
本発明の検査支援方法に含まれる工程[3]は、前記1種類以上の指標を用いた分析、例えば、前記工程[2]で取得された数値を所定の閾値と比較することを含む分析(第1実施形態)、または少なくとも前記ヒストグラムの分布パターンを類型化することを含む分析(第2実施形態)により、pCRを予測するための情報を取得する工程である。
「1種類以上の指標を用いた分析」は、pCRになるか否かを予測することのできる、一定の信頼性を有する情報を取得することができるものであれば、特に限定されるものではない。
本発明の好ましい実施形態の一例において、工程[3]では、少なくともHER2の細胞ごとの発現量に基づいて作成されたヒストグラムの、分布パターンを類型化する分析を行い、必要に応じてその他の分析も行うようにする。そのためには、工程[1]において、少なくともHER2を含む1種類または2種類以上の乳がん関連タンパク質を蛍光ナノ粒子で標識すればよく、工程[2]において少なくともHER2の細胞ごとの発現量に基づくヒストグラムを指標として取得し、必要に応じてその他の数値またはヒストグラムも指標として取得すればよい。
本発明の好ましい実施形態の一例において、工程[3]では、(a)HER1の発現量を表す数値に対するHER2の発現量を表す数値の比の値(HER2/HER1)、または(b)HER3の発現量を表す数値に対するHER2の発現量を表す数値の比の値(HER2/HER3)、のいずれかの比の値を所定の閾値と比較することを含む分析を行うようにする。そのためには、工程[1]において、HER2と、HER1またはHER3とを蛍光ナノ粒子で標識すればよく(必要に応じてさらにその他の乳がん関連タンパク質を蛍光ナノ粒子で標識してもよい)、工程[2]において、HER2と、HER1またはHER3との発現量を表す数値を取得し、上記の比の値を算出すればよい(必要に応じてさらにその他の乳がん関連タンパク質に関する指標を取得してもよい)。
本発明の好ましい実施形態の一例において、工程[3]では、(a)HER2の発現量を表す数値を所定の閾値と比較する分析、および(b)HER2の細胞ごとの発現量に基づいて作成されたヒストグラムの、分布パターンの類型化を行う分析を行い、それらを組み合わせるようにする。そのためには、工程[1]において、HER2を蛍光ナノ粒子で標識すればよく(必要に応じてさらにその他の乳がん関連タンパク質を蛍光ナノ粒子で標識してもよい)、工程[2]において、(a)HER2の発現量を表す数値と、(b)HER2の細胞ごとの発現量に基づくヒストグラムを作成すればよい(必要に応じてさらにその他の乳がん関連タンパク質に関する指標を取得してもよい)。
工程[3]で、乳がん関連タンパク質の発現量を表す数値を指標として用いた分析を行う場合、分析の手法は特に限定されるものではないが、典型的には上述したように、それらの数値をあらかじめ設定した所定の閾値(カットオフ値)と比較するようにする。この場合、指標値等が閾値よりも大きい(もしくは以上である)、または小さい(もしくは以下である)ことをもって、検体を採取したヒトまたは実験動物は、術前化学療法を行うことによりpCRになる、またはならないと予測する、診断上有用な情報を取得することができる。
指標値等の種類によって、閾値よりも大きい場合にpCRになると予測されるか、小さい場合にpCRになると予測されるか(逆に言えば、閾値よりも小さい場合pCRではないと予測されるか、大きい場合にpCRではないと予測されるか)は変わる可能性がある。例えば、HER2の発現量を表す数値として、HER2タンパク質の乳がん組織の単位面積あたりの発現量を用いる場合、その発現量が閾値よりも大きければpCRになると予測される。また、HER2の発現量を表す数値/HER1の発現量を表す数値、およびHER2の発現量を表す/HER3の発現量を表す数値、のいずれを用いる場合も、その比の値が閾値よりも大きければpCRになると予測される。これは術前化学療法としてHER2を標的とする抗がん剤を使用する場合に、HER2の発現量が多い方が薬効に優れ、pCRとなる確率が高まることを反映しているものと考えられる。一般的に、次に述べるようなpCR群の結果と非pCR群の結果を比較したときに、pCR群の方が統計学的に有意に高ければ(非pCR群の方が統計学的に有意に低ければ)、閾値よりも大きい場合にpCRになると予測され、逆にpCR群の方が統計学的に有意に低ければ(非pCR群の方が統計学的に有意に高ければ)、閾値よりも小さい場合にpCRになると予測される。
このような分析における閾値(カットオフ値)は、術前化学療法を行う前に、または術前化学療法を行っている最中に採取しておいた検体のうち、最終的にpCRとなった複数の乳がん患者から採取した検体(pCR群)と、最終的にpCRとはならなかった複数の乳がん患者から採取した検体(非pCR群)において、各検体に含まれる特定の乳がん関連タンパク質の発現量を表す数値をIHC−PID法により取得し、さらにpCR群の結果と非pCR群の結果を比較することによって導き出すことができる。例えば、HER2タンパク質の組織の単位面積あたりの発現量を指標値として用いる場合、pCR群に含まれるなるべく多くの検体における指標値が閾値より大きく(つまり感度を高める)なり、かつ非pCR群に含まれるなるべく少ない検体における指標値が閾値以下(つまり特異度を高める)になるように、閾値を設定することが理想的である。閾値を変動させることにより感度および特異度も変動するので、両方のバランスがとれるよう調整(最適化)されたものを、工程[3]の閾値として利用することが望ましい。
一方、工程[3]で、乳がん関連タンパク質の細胞ごとの発現量に基づいて作成されたヒストグラムを指標として用いた分析を行う場合、分析の手法は特に限定されるものではないが、典型的には上述したように、ヒストグラムの分布パターンを類型化する、つまりあらかじめ設けられたいくつかの分布パターンと比較し、どれに該当するかを決定するようにする。例えば、HER2の細胞ごとの発現量に基づいて作成されたヒストグラムについては、(A)輝点数0にピーク(峰)がある分布パターン、(B)単峰性でピークが右にシフトしている分布パターン、(C)二峰性または多峰性の分布パターン、および(D)幅広い階級に分布している分布パターン、の4通りのいずれかに類型化することができる。そして、上記(B)、(C)または(D)の分布パターン(つまり輝点数0の細胞が少ないパターン)に該当する場合にpCRとなると予測され、逆に上記(A)の分布パターンに該当する場合にpCRとはならないと予測される。
このような分析における分布パターンは、例えば、pCR群のヒストグラムと非pCR群のヒストグラムを対比し、分布のピーク(峰)がどのようなものであるかなどに注目し、必要に応じて平均値または中央値、分散(CV)などの数値を参照しながら、pCR群に含まれるなるべく多くの検体が該当し(つまり感度が高く)、かつ非pCR群に含まれるなるべく少ない検体が該当する(つまり特異度が低い)分布パターンを見つけ出すことによって、上記のように類型化することができる。
また、上記のようなヒストグラムの代わりに、乳がん関連タンパク質の細胞ごとの発現量を連続的に(ヒストグラムのように区切らずに)横軸にとり、それぞれの発現量に対応する細胞数(頻度)を縦軸にとった分布曲線を作成した場合も、同様の分析を行うことができる可能性がある。
[作製例1]ビオチン修飾抗ウサギIgG抗体の作製
50mMTris溶液に、2次抗体として用いる抗ウサギIgG抗体(clone: LO-RG-1)50μgを溶解した。この溶液に、最終濃度3mMとなるようにDTT(ジチオトレイトール)溶液を添加、混合し、37℃で30分間反応させた。その後、反応溶液を脱塩カラム「Zeba(商標) Desalt Spin Columns」(サーモサイエンティフィック社、Cat.#89882)に通して、DTTで還元化した2次抗体を精製した。精製した抗体全量のうち200μLを50mMTris溶液に溶解して抗体溶液を調製した。その一方で、リンカー試薬「Maleimide-PEG2-Biotin」(サーモサイエンティフィック社、21901BID)を、DMSOを用いて0.4mMとなるように調整した。このリンカー試薬溶液8.5μLを前記抗体溶液に添加、混合し、37℃で30分間反応させることにより、抗ウサギIgG抗体にPEG鎖を介してビオチンを結合させた。この反応溶液を脱塩カラムに通して精製した。脱塩した反応溶液について、波長300nmにおける吸光度を分光高度計(日立ハイテクノロジーズ製「F−7000」)を用いて測定することにより、反応溶液中のタンパク質(ビオチン修飾2次抗体)の濃度を算出した。50mMTris溶液を用いて、ビオチン修飾2次抗体の濃度を250μg/mLに調整した溶液を、ビオチン修飾2次抗体の溶液とした。
[作製例2]ストレプトアビジン修飾テキサスレッド集積メラミン樹脂粒子の作製
蛍光色素として赤色蛍光色素であるテキサスレッド20.3mgを水22mLに加えて溶解した。その後、この溶液に乳化重合用乳化剤「エマルゲン」(登録商標)430(ポリオキシエチレンオレイルエーテル、花王株式会社製)の5%水溶液を2mL加えた。この溶液をホットスターラー上で撹拌しながら70℃まで昇温させた後、この溶液にメラミン樹脂原料「ニカラックMX−035」(日本カーバイド工業株式会社製)を0.81g加えた。さらに、この溶液に反応開始剤としてドデシルベンゼンスルホン酸(関東化学株式会社製)の10%水溶液を1000μL加え、70℃で50分間加熱撹拌した。その後、90℃に昇温して20分間加熱撹拌した。
得られたテキサスレッド集積メラミン樹脂粒子の分散液から、余剰の樹脂原料や蛍光色素などの不純物を除くため、純水による洗浄を行った。具体的には、遠心分離機「マイクロ冷却遠心機3740」(久保田商事株式会社製)にて20000Gで15分間、遠心分離し、上澄み除去後、超純水を加えて超音波照射して再分散した。遠心分離、上澄み除去および超純水への再分散による洗浄を5回繰り返した。以上の工程により、テキサスレッド集積メラミン樹脂粒子(励起波長590nm、発光波長620nm)を作製した。
上記のテキサスレッド集積メラミン樹脂粒子0.1mgをエタノール1.5mL中に分散し、アミノプロピルトリメトキシシラン(「LS−3150」、信越化学工業社製)2μLを加え、8時間反応させることにより、樹脂粒子の表面に存在するヒドロキシル基をアミノ基に変換する表面アミノ化処理を行った。
2mMのエチレンジアミン四酢酸(EDTA)を含有したリン酸緩衝液生理的食塩水(PBS)を用いて、上記テキサスレッド集積メラミン樹脂粒子の濃度を3nMに調整した。濃度調整したテキサスレッド集積メラミン樹脂粒子の分散液に対して、終濃度10mMとなるように、SM(PEG)12(スクシンイミジル−[(N−マレイミドプロピオンアミド)−ドデカエチレングリコール]エステル、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を混合し、20℃で1時間反応させることにより、粒子表面がマレイミド基で修飾されたテキサスレッド集積メラミン樹脂粒子を含む混合液を得た。
この混合液を10000Gで20分間遠心分離を行い、上澄みを除去した後、2mMのEDTAを含有したPBSを加えて沈降物を分散させ、再度遠心分離を行った。同様の手順による上記洗浄を3回行った後、マレイミド基修飾されたテキサスレッド集積メラミン樹脂粒子を回収した。
一方、ストレプトアビジン(和光純薬工業社製)をN−スクシンイミジル−S−アセチルチオ酢酸(SATA)と反応させた後、公知のヒドロキシルアミン処理を行うことでS−アセチル基の脱保護を行うことにより、ストレプトアビジンにチオール基を導入した。その後、ゲル濾過して、蛍光色素集積粒子に結合可能なストレプトアビジンを別途調製した。
上記のマレイミド修飾テキサスレッド集積メラミン樹脂粒子とチオール基が導入されたストレプトアビジンを、2mMのEDTAを含有したPBS中で混合し、室温で1時間反応させて、両者(マレイミド基とチオール基)を結合させた。その後、10mMメルカプトエタノールを添加して反応を停止させた。得られた溶液をφ=0.65μmの遠心フィルターで濃縮した後、精製用ゲル濾過カラムを用いて未反応のストレプトアビジン等を除去し、ストレプトアビジン修飾テキサスレッド集積メラミン樹脂粒子を得た。
[作製例3]ストレプトアビジン修飾ペリレンジイミド集積メラミン樹脂粒子の作成
テキサスレッドの代わりにペリレンジイミドを使用する以外は作製例2と同じ手法でストレプトアビジン修飾ペリレンジイミド集積メラミン樹脂粒子(励起波長590nm、発光波長620nm)を得た。
[作製例4]抗HER1抗体修飾ピロメテン集積メラミン樹脂粒子(緑色蛍光ナノ粒子)の作製
蛍光色素として緑色蛍光色素であるピロメテン(Pyrromethene)556、14.4mgを水22mLに加えて溶解させた。その後、この溶液に乳化重合用乳化剤「エマルゲン」(登録商標)430(ポリオキシエチレンオレイルエーテル、花王株式会社製)の5%水溶液を2mL加えた。この溶液をホットスターラー上で撹拌しながら70℃まで昇温させた後、この溶液にメラミン樹脂原料「ニカラックMX−035」(日本カーバイド工業株式会社製)を0.65g加えた。さらに、この溶液に反応開始剤としてドデシルベンゼンスルホン酸(関東化学株式会社製)の10%水溶液を1000μL加え、70℃で50分間加熱撹拌した。その後、90℃に昇温して20分間加熱撹拌した。
得られたピロメテン集積メラミン樹脂粒子の分散液から、余剰の樹脂原料や蛍光色素などの不純物を除くため、純水による洗浄を行った。具体的には、遠心分離機「マイクロ冷却遠心機3740」(久保田商事株式会社製)にて20000Gで15分間、遠心分離し、上澄み除去後、超純水を加えて超音波照射して再分散した。遠心分離、上澄み除去および超純水への再分散による洗浄を5回繰り返した。以上の工程により、ピロメテン集積メラミン樹脂粒子(励起波長490nm、発光波長520nm)を作製した。
上記のピロメテン集積メラミン樹脂粒子にNHS−PEG−マレイミド試薬を用いてマレイミドを導入し、これにチオール化した抗HER1抗体を結合させ、抗HER1抗体修飾ピロメテン集積メラミン樹脂粒子を得た。
[実施例1]HER1、HER2およびHER3の発現量を表す数値を利用した分析(本発明の第1実施形態に対応)
2011〜2014年に東北大学病院において、乳がん患者から針生検で採取した乳がん組織から、常法に従ってホルマリン固定パラフィン包埋組織ブロック(検体)を作製し、ミクロトームにより薄切して標本スライドを作製した。この標本スライドを用いて、「HercepTest kit」(Dako社)を用いてHER2タンパク質に対するDAB染色を実施した。
IHC‐DABスコア判定の結果、HER2陽性であると診断された患者に対して、アントラサイクリン系薬剤(トポイソメラーゼ阻害剤)であるダウノルビシンあるいはドキソルビシンを3ヶ月投与し、続いてトラスツズマブ(商品名:ハーセプチン)およびタキサン系薬剤(微小管阻害剤)であるパクリタキセルあるいはドセタキセルを3ヶ月間投与する、術前化学療法を行った。その後、手術により乳がん組織を除去し、顕微鏡を用いてがん細胞の原発巣における浸潤およびリンパ節への転移が見られるかどうかによって、pCRであるか否かを判定した。
上記のような術前化学療法を受けた8名の乳がん患者のうち、pCRであった患者(pCR群)は6名、pCRでなかった患者(非pCR群)は2名であった。これらの乳がん患者の、術前化学療法を行う前に採取して保存されていた検体(ホルマリン固定パラフィン包埋組織ブロック)を用いて、下記の手順で、HER2、HER1、HER3のそれぞれに対するPID染色を行い、PIDスコアを取得した。
また、PIDスコアの取得と並行して、上記の検体を用いてHER2タンパク質のDAB染色とHER2遺伝子のFISHも実施した。DAB染色には前記と同様「HercepTest kit」(Dako社)を用い、従来のHER2検査ガイドによる4段階のDABスコア(0〜3+)を判定するとともに、組織の単位面積(0.1mm2)あたりのDABの発色強度(IHC−DAB発色強度)をAperio(Leica Biosystems)で測定した。FISHは「PathVysion HWE2 DNA probe kit」(Abbott社)を用い、観察された輝点数をFISHスコア(HER2遺伝子平均コピー数)として取得した。
(1−1)HER2に対するPID染色およびPIDスコアの取得
(1−1−1)標本前処理工程
上述した乳がん患者の組織由来のホルマリン固定パラフィン包埋組織ブロックをミクロトームにより薄切して標本スライドを作製した。標本スライドは脱パラフィン処理した後、水に置換する洗浄を行った。洗浄した標本スライドを10mMクエン酸緩衝液中(pH6.0)中で121℃、15分間オートクレーブ処理することで、抗原の賦活化処理を行った。賦活化処理後の標本スライドをPBSにより洗浄し、洗浄した標本スライドに対してBSAを1%含有するPBSを用いて1時間ブロッキング処理を行った。
(1−1−2)免疫染色工程
(1−1−2−1)免疫染色の1次反応処理
BSAを1%(w/w)含有するPBSを用いて、抗HER2ウサギモノクローナル抗体「4B5」(ベンタナ社)を0.05nMの濃度で含有する1次反応処理液を調製した。この1次反応処理液に工程(1−1−1)を経た標本スライドを浸漬し、4℃で1晩反応させた。
(1−1−2−2)免疫染色の2次反応処理
作製例1で作製したビオチン修飾抗ウサギIgG抗体の溶液を、さらにBSAを1%(w/w)含有するPBSを用いて6μg/mLに希釈した2次反応処理液を調製した。1次反応処理を終えた標本スライドをPBSで洗浄した後、この2次反応処理液に浸漬し、室温で30分間反応させた。
(1−1−2−3)免疫染色の蛍光標識処理
作製例2で作製したストレプトアビジン修飾テキサスレッド集積メラミン樹脂粒子を、カゼインおよびBSAを含有する蛍光ナノ粒子用希釈液を用いて、0.02nMに希釈した蛍光標識反応処理液を調製した。2次反応処理を終えた標本スライドをこの蛍光標識処理液に浸漬し、中性のpH環境下(pH6.9〜7.4)、室温で3時間反応させた。
(1−1−2−4)形態観察用染色処理
蛍光標識処理を行った標本スライドを、マイヤーヘマトキシリン液で5分間染色してヘマトキシリン染色を行った後、45℃の流水で3分間洗浄した。
(1−1−3)標本後処理工程
免疫染色を終えた標本スライド(染色スライド)に対して、純エタノールに5分間浸漬する操作を4回行う固定化・脱水処理を行った。続いて、キシレンに5分間浸漬する操作を4回行う透徹処理を行った。最後に、染色スライドに封入剤「エンテランニュー」(メルク社)を載せて、カバーガラスを被せる封入処理を行い、観察に用いる染色スライドとした。
(1−1−4)評価工程
(1−1−4−1)観察・撮影工程
この工程における励起光の照射および蛍光の発光の観察には蛍光顕微鏡「BX−53」(オリンパス株式会社)を用い、免疫染色像(400倍)の撮影には、当該蛍光顕微鏡に取り付けた顕微鏡用デジタルカメラ「DP73」(オリンパス株式会社)を用いた。
まず、目的タンパク質HER2の蛍光標識に用いたテキサスレッドに対応する励起光を染色スライドに照射して蛍光を発光させ、その状態の免疫染色像を撮影した(本発明の検査支援方法における「蛍光画像取得工程」に対応する)。この際、励起光の波長は、蛍光顕微鏡が備える励起光用光学フィルターを用いて575〜600nmに設定し、観察する蛍光の波長は、蛍光用光学フィルターを用いて612〜692nmに設定した。蛍光顕微鏡による観察および画像撮影時の励起光の強度は、視野中心部付近の照射エネルギーが900W/cm2となるようにした。画像撮影時の露光時間は、画像の輝度が飽和しないような範囲で調節し、例えば4000μ秒に設定した。
次に、蛍光顕微鏡の明視野における観察および画像撮影により、細胞の形態観察用のヘマトキシリン染色による染色像を撮影した。
このような免疫染色像および形態観察用染色像の撮影は、同一視野において行った後、視野を変えて同じ操作を繰り返し、1枚の染色スライドにつき5視野ずつ行った。
(1−1−4−2)画像処理・計測工程
この工程における画像処理には、画像処理ソフトウェア「ImageJ」(オープンソース)を用いた。
形態観察用染色像を用いた画像処理により、細胞の形状(細胞膜の位置)を特定し、免疫染色像と重ねあわせて、細胞膜上に発現しているHER2タンパク質を標識したストレプトアビジン修飾テキサスレッド集積メラミン樹脂粒子を表す輝点をPID粒子数として抽出して計測した。細胞膜上の輝点のうち輝度が所定の値以上のものは、その輝度を上記テキサスレッド集積粒子(PID)1粒子あたりの輝度で除して粒子数に換算した。なお、間質細胞領域にはHER2は発現しないので、間質細胞内に位置する輝点は非特異的シグナルすなわちノイズとして処理した。そして、1枚の染色スライドあたり5視野においてHER2に由来する輝点の数を計測し、上記のようにして単位面積(100μm2)あたりの蛍光ナノ粒子数に換算し、その平均値を算出して、その標本スライドの「PIDスコア」とした(本発明の検査支援方法における「指標取得工程」に対応する)。
(1−2)HER1に対するPID染色およびPIDスコアの取得
前記工程(1−1−2−1)において、抗HER2ウサギモノクローナル抗体「4B5」(ベンタナ社)を0.05nMの濃度で含有する1次反応処理液の代わりに、抗HER1ウサギモノクローナル抗体「5B7」(Roche、製造番号790−4347)を0.05nMの濃度で含有する1次反応処理液を用いたこと以外は、前記HER2に対するPID染色およびPIDスコアの取得と同様にして、HER1に対するPID染色およびPIDスコアの取得を行った。
(1−3)HER3に対するPID染色およびPIDスコアの取得
前記工程(1−1−2−1)において、抗HER2ウサギモノクローナル抗体「4B5」(ベンタナ社)を0.05nMの濃度で含有する1次反応処理液の代わりに、抗HER3ウサギモノクローナル抗体「clone:RTJ2」(ABR社、商品番号MA1−860)を0.05nMの濃度で含有する1次反応処理液を用いたこと以外は、前記HER2に対するPID染色およびPIDスコアの取得と同様にして、HER3に対するPID染色およびPIDスコアの取得を行った。
(1−4)分析結果
図1に、pCR群の乳がん患者の一例のDAB染色像(A)、PID染色像(B)、ヘマトキシリン染色像(C)およびPID染色像とヘマトキシリン染色像の合成(D)、ならびに非pCR群の乳がん患者の一例のDAB染色像(E)、PID染色像(F)、ヘマトキシリン染色像(G)およびPID染色像とヘマトキシリン染色像の合成(H)を示す。どちらもIHC−DABスコアは3+、FISHスコアは約6であるが、術前化学療法により、前者はpCRとなり、後者は非pCRになるという異なった結果が得られている。両者のPIDスコアはそれぞれ、61.5、24.3であった。
(1−4−1)IHC−DAB発色強度およびFISHスコアとpCRとの関係
pCR群および非pCR群それぞれの、IHC−DAB染色による組織の単位面積(100μm2)あたりの発色強度(AQUAによる測定)(図2)およびFISHスコア(図3)を示す。これらはいずれもHER2についてのものである。IHC-DAB発色強度、FISHスコアいずれも、pCR群と非pCR群との間に傾向の差はなかった。
(1−4−2)HER2のPIDスコアとpCRとの関係
図4に、pCR群、非pCR群それぞれのHER2タンパク質のPIDスコア(算出された単位面積(100μm2)あたりのPID粒子数の平均値)を示す。PIDスコアではpCR群と非pCR群との間に傾向の差が認められた。
上記の結果に基づいて、PIDスコアについてのROC曲線(receiver operating characteristic curve)を作成して最適なカットオフ値を設定することは容易である。
このような結果から、IHC-DAB発色強度およびFISHスコアを用いたのでは術前化学療法を行う前にpCRとなるか否かの予測はできないが、HER2タンパク質についてのPIDスコアを用いれば、HER2単独の結果でもある程度の精度でその予測ができることが分かる。
[実施例2]HER1およびHER2の発現量を表す数値を1枚の検体スライドから取得する実施形態(二重染色による第1実施形態)
作製例2で作製したストレプトアビジン修飾テキサスレッド集積メラミン樹脂粒子(励起波長590nm、発光波長620nm)を用いて調製した蛍光標識反応処理液によるHER2タンパク質のPID染色と、作製例3で作成した抗HER1抗体修飾ピロメテン集積メラミン樹脂粒子(励起波長490nm、発光波長520nm)を用いて調製した蛍光標識反応処理液によるHER1タンパク質のPID染色を、同一スライド上で実施した。
組織スライドは、実施例1のような、最終的にpCRとなった複数の乳がん患者から術前化学療法を行う前に採取しておいた検体(pCR群)と、最終的にpCRとはならなかった複数の乳がん患者から術前化学療法を行う前に採取しておいた検体(非pCR群)を用いる代わりに、臨床情報付き市販スライド(BioMax社 code. HBre-Duc150Sur-01、150組織検体アレイおよびAsterand社 乳がん組織検体スライド)を購入し、これらの術後100か月以上生存群(pCR群に相当)の検体と術後100か月未満生存群(非pCR群に相当)の検体を用いた。
上記の市販スライド49枚(術後100か月以上生存患者の検体スポット25個と術後100か月未満生存患者の検体スポット24個)のHER2タンパク質のIHC−DAB発色強度、HER2遺伝子のFISHスコア、およびHER2タンパク質のPIDスコアを、実施例1と同様に計測した。それらの結果についてのボックスプロットをそれぞれ図5、図6および図7に示す。Mann−WhitneyのU検定において、HER2タンパク質のPIDスコアではpCR群と非pCR群との間に有意差が認められた(p<0.05)。また、上記の結果に基づいて作成した、PIDスコアについてのROC曲線(receiver operating characteristic curve)を図8に示す。最適なカットオフ値は51.3であり、このときの敏感度(sensitivity:縦軸)は68%で、特異度は60%(specificity:横軸)、つまり偽陽性率(1−特異度)は40%である。
次に、ストレプトアビジン修飾テキサスレッド集積メラミン樹脂粒子および抗HER1抗体修飾ピロメテン集積メラミン樹脂粒子による二重染色を、次のようにして行った。まず、実施例1の(1−1−2−3)までの手順に従って、ストレプトアビジン修飾テキサスレッド集積メラミン樹脂粒子によるHER2タンパク質に対する蛍光標識処理を行った。HER2タンパク質に対する蛍光標識処理の後、(1−1−2−3)と同様に抗HER1抗体修飾ピロメテン集積メラミン樹脂粒子を蛍光ナノ粒子用希釈液を用いて0.02nMに希釈したものを蛍光標識反応処理液として用い、HER1タンパク質に対する蛍光標識処理を行った。その後、(1−1−2−4)と同様の形態観察用染色処理を行い、さらに(1−1−3)と同様の標本後処理工程を行って、染色スライドを作製した。
上記のようにして二重染色された染色スライドの輝点数の計測は次のようにして行った。まず、実施例1の(1−1−4−1)の観察・撮影工程の手順に従って、HER2を標識したストレプトアビジン修飾テキサスレッド集積メラミン樹脂粒子の励起光を用いて蛍光画像を撮影した。次に、Semrock製のフィルターセット(励起光用光学フィルター:470nm(30nm幅)、ビームスプリッタ:495nm、蛍光用光学フィルター:525nm(50nm幅))を用いて、HER1を標識した抗HER1抗体修飾ピロメテン集積メラミン樹脂粒子の蛍光画像を撮影した。あとは(1−1−4−2)と同様にして、HER2の輝点数、HER1の輝点数それぞれを計測し、さらにHER2/HER1のPIDスコア比を算出し、pCR群と非pCR群との間で結果を比較した。
図9に、HER1タンパク質のPIDスコアについてのボックスプロットを示す。また、図10に、上記の結果に基づいて作成した、HER2/HER1のPIDスコア比についてのボックスプロットを示す。Mann−WhitneyのU検定において、pCR群と非pCR群との間には高い有意水準での有意差が認められた(p<0.001)。
このような結果から、HER2のPIDスコア単独(p<0.05)を指標とするよりも、HER2/HER1のPIDスコア比(p<0.001)を指標とする方が、より高い精度でpCRとなるかどうかを予測できるものと考えられる。
[実施例3]HER2の細胞ごとの発現量に基づいて作成されたヒストグラムの分布パターンを利用した分析(本発明の第2実施形態に対応)
2011〜2014年に東北大学病院において、乳がん患者から針生検で採取した乳がん組織由来の8検体について、前記実施例1の(1−1)と同様にしてHER2タンパク質のPIDスコア(単位面積あたりのPID輝点数)を取得した。その結果に基づいて、横軸にPIDスコア(10個ずつの幅、合計41の階級)、縦軸に細胞数(1枚の染色スライドにおける5視野の合計数)を表したヒストグラムを作成した。図11にヒストグラムの作製過程の説明図を、また図12(図12−1および12−2)に実際に作成されたヒストグラムを示す。
作成されたヒストグラムは、(A)輝点数0にピークがあるパターン、(B)単峰性でピークが右にシフトしているパターン、(C)二峰性または多峰性のパターン、および(D)幅広い階級に分布しているパターン、の4通りのいずれかに類型化できることが分かった。(A)〜(D)の各パターンに含まれるpCR群および非pCR群のサンプルの数は次の通りである。パターン(A):pCR群=1、非pCR群=2。パターン(B):pCR群=3、非pCR群=0。パターン(C):pCR群=1、非pCR群0。パターン(D):pCR群=1、非pCR群=0。
このような結果から、ある乳がん患者についてHER2のPIDスコアに基づいて作成したヒストグラムが、上記(B)のようなパターン、特にPIDスコアが10〜100程度の細胞の割合が多い場合には、その乳がん患者は術前化学療法によりpCRになり、逆に上記(A)のようなパターンの場合には、その乳がん患者は術前化学療法によりpCRにはならないと、ある程度の精度でその予測ができることが分かる。
[実施例4]HER1、HER2およびHER3の発現量を表す数値を利用した分析(本発明の第1実施形態に対応)
2016年にJBCRG (Japan Breast Cancer Research Group)において前向き試験目的に採取された、乳がん患者から針生検で採取した乳がん組織から、常法に従ってホルマリン固定パラフィン包埋組織ブロック(検体)を作製し、ミクロトームにより薄切して標本スライドを作製した。この標本スライドを用いて、「HercepTest kit」(Dako社)を用いてHER2タンパク質に対するDAB染色を実施した。
DABスコア判定の結果、HER2陽性であると診断された患者に対して、アントラサイクリン系薬剤(トポイソメラーゼ阻害剤)であるダウノルビシンあるいはドキソルビシンを3ヶ月投与し、続いてトラスツズマブ(商品名:ハーセプチン)およびタキサン系薬剤(微小管阻害剤)であるパクリタキセルあるいはドセタキセルを3ヶ月間投与する、術前化学療法を行った。その後、手術により乳がん組織を除去し、顕微鏡を用いてがん細胞の原発巣における浸潤およびリンパ節への転移が見られるかどうかによって、pCRであるか否かを判定した。
上記のような術前化学療法を受けた81名の乳がん患者のうち、pCRとなった患者(pCR群)は48名、pCRとならなかった患者(非pCR群)は33名であった。これらの乳がん患者の、術前化学療法を行う前に採取して保存されていた検体(ホルマリン固定パラフィン包埋組織ブロック)から作製した標本スライドを用いて、下記の手順で、HER2、HER1、HER3のそれぞれに対するPID染色を行い、PIDスコアを取得した(表1−1、1−2参照)。
また、PIDスコアの取得と並行して、上記の検体から作製した標本スライドを用いて、実施例1と同様の手法でHER2タンパク質のDAB染色とHER2遺伝子のFISHも実施した。
(4−1)HER2に対するPID染色およびPIDスコアの取得
免疫染色の蛍光標識処理においてストレプトアビジン修飾テキサスレッド集積メラミン樹脂粒子の代わりに作製例3で作製したストレプトアビジン修飾ペリレンジイミド集積メラミン樹脂粒子を用いる以外は、実施例1と同じ手法でHER2に対するPID染色を行ない、さらに形態観察用染色処理および標本後処理工程を行なった。
(4−2)評価工程
実施例1と同様の方法で観察・撮影工程、画像処理を行ない、細胞膜上に発現しているHER2タンパク質を標識したペリレンジイミド色素集積メラミン樹脂粒子を表す輝点をPID粒子数として抽出して計測した。細胞膜上の輝点のうち輝度が所定の値以上のものは、その輝点の輝度を上記ペリレンジイミド色素集積メラミン樹脂粒子1粒子あたりの輝度で除してPID粒子数に換算した。1枚の染色スライドあたり5視野においてHER2の輝点数を測定した。
単位面積(100μm2)あたりのPID粒子数の平均値、あるいは、1枚の染色スライドあたり5視野においてそれぞれ100個ずつ選択した細胞における1細胞あたりのPID粒子数の平均値を測定した(それぞれ本発明の検査支援方法における「指標取得工程」に対応する)。
(4−3)HER1に対するPID染色およびPIDスコアの取得
前記工程(1−2)における、HER1に対するPID染色およびPIDスコアの取得と同様にして、HER1に対するPID染色およびPIDスコアの取得を行った。
(4−4)HER3に対するPID染色およびPIDスコアの取得
前記工程(1−3)における、HER3に対するPID染色およびPIDスコアの取得と同様にして、HER3に対するPID染色およびPIDスコアの取得を行った。
(4−5)分析結果
(4−5−1)IHC−DAB発色強度およびFISHスコアとpCRとの関係
図13に、pCR群、非pCR群それぞれの、IHC−DAB染色による組織の単位面積(100μm2)あたりの発色強度を示す。図14に、pCR群、非pCR群それぞれのFISHスコアを示す。これらはいずれもHER2についてのものである。Mann−WhitneyのU検定において、DAB発色強度、FISHスコアいずれも、pCR群と非pCR群との間に有意差はなかった(いずれもp>0.05)。
(4−5−2)HER2のPIDスコアとpCRとの関係
図15、図16にpCR群、非pCR群それぞれのHER2タンパク質のPIDスコア(図15は組織の単位面積(100μm2)あたりのPID粒子数の平均値、図16は1細胞あたりのPID粒子数の平均値、をPIDスコアとしたもの)を示す。Mann−WhitneyのU検定において、PIDスコアではpCR群と非pCR群との間に有意差が認められた(いずれもp<0.05)。なお、ここで、いずれのPID値においても、同等のp値が得られることが確認された。以下算出したPIDスコアは1細胞あたりのPID粒子数の平均値である。
図17に、上記の結果に基づいて作成した、PIDスコアについてのROC曲線(receiver operating characteristic curve)を示す。設定した最適なカットオフ値は54.1であり、このときの敏感度(sensitivity:縦軸)は71%で、特異度(specificity:横軸)は60%、つまり偽陽性率(1−特異度)は40%である。
このような結果から、IHC-DAB発色強度およびFISHスコアを用いたのでは術前化学療法を行う前にpCRとなるか否かの予測はできないが、HER2タンパク質についてのPIDスコアを用いれば、HER2単独の結果でもある程度の精度でその予測が可能であることが分かる。
(4−4−3)HER1のPIDスコア、およびHER2/HER1のPIDスコア比と、pCRとの関係
図18に、前記(4−2)で取得した、pCR群、非pCR群それぞれのHER1タンパク質のPIDスコアについてのボックスプロットを示す。
次に、前記(4−1)で取得したHER2タンパク質のPIDスコアと、前記(4−2)で取得したHER1タンパク質のPIDスコアから、それらの比の値(HER2のPIDスコア/HER1のPIDスコア)を算出し、pCR群と非pCR群とで比較した。
図19に、上記の結果に基づいて作成した、HER2/HER1のPIDスコア比についてのボックスプロットを示す。Mann−WhitneyのU検定において、pCR群と非pCR群との間には有意差が認められた(p<0.001、Mann−WhitneyのU検定)。
このような結果から、HER2のPIDスコア単独(p<0.05)を指標とするよりも、HER2/HER1のPIDスコア比(p<0.001)を指標とする方が、pCRになるかどうかをより高い精度で予測できるものと考えられる。
(4−4−4)HER3のPIDスコア、およびHER2/HER3のPIDスコア比と、pCRとの関係
図20に、前記(4−3)で取得した、pCR群、非pCR群それぞれのHER3タンパク質のPIDスコアについてのボックスプロットを示す。
次に、前記(4−1)で取得したHER2タンパク質のPIDスコアと、前記(1−3)で取得したHER3タンパク質のPIDスコアから、それらの比の値(HER2のPIDスコア/HER3のPIDスコアおよびHER3のPIDスコア/HER2のPIDスコア)を算出し、pCR群と非pCR群とで比較した。
図21に、上記の結果に基づいて作成した、HER2/HER3のPIDスコア比についてのボックスプロットを示す。Mann−WhitneyのU検定においてpCR群と非pCR群との間には有意差が認められた(p<0.001)。
このような結果から、HER2のPIDスコア単独(p<0.05)を指標とするよりも、HER2/HER3のPIDスコア比(p<0.001)を指標とする方が、pCRになるかどうかをより高い精度で予測できるものと考えられる。
図22に、上記の結果に基づいて作成した、HER3/HER2のPIDスコア比についてのボックスプロットを示す。Mann−WhitneyのU検定においてpCR群と非pCR群との間には有意差が認められた(p<0.001)。
このような結果から、HER2のPIDスコア単独(p<0.05)を指標とするよりも、HER3/HER2のPIDスコア比(p<0.001)を指標とする方が、より高い精度でpCRになるかどうかを予測できるものと考えられる。
[実施例5]HER2の細胞ごとの発現量に基づいて作成されたヒストグラムの分布パターンを利用した分析(本発明の第2実施形態に対応)
2011〜2014年にJBCRGにおいて、乳がん患者の乳がん組織から針生検で採取した検体のうち、量が十分にある81の検体について、前記実施例1の(4−1)と同様にしてHER2タンパク質のPIDスコア(単位面積あたりのPID輝点数)を取得した。その結果に基づいて、横軸にPIDスコア(10個ずつの幅、合計41の階級)、縦軸に細胞数(1枚の染色スライドにおける5視野の合計数)を表したヒストグラムを作成した。すべてのヒストグラムを図示はせず、ヒストグラムをパターン化して集計した結果のみを示す(表2参照)。
Figure 0006922444
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このような結果から、ある乳がん患者についてHER2のPIDスコアに基づいて作成したヒストグラムが、上記(B)のようなパターン、特にPIDスコアが10〜100程度の細胞の割合が多い場合には、その乳がん患者は術前化学療法によりpCRになり、逆に上記(A)のようなパターンの場合には、その乳がん患者は術前化学療法によりpCRにはならないと、ある程度の精度でその予測ができることが分かる。
[実施例6]モデル動物から採取した組織から作製した標本スライドを利用した分析
検査対象の組織標本としてPDXマウス(Patient-derived xenograft mice)から採取した組織を用いて作製した標本スライドを用いたこと以外は、実施例1と同様にしてHER2タンパク質に対するPID染色を行い、HER2に由来する輝点の数を計測し、PIDスコアを取得した。
PDXとは、Patient-derived tumor xenograft(患者由来腫瘍異種移植)の略称であり、PDX動物は、患者(ヒト)由来の腫瘍組織をマウスまたはその他の実験動物に移植し、一定期間、マウス等の体内で成長させて作製する動物である。また、マウスの体内で成長したヒト由来の腫瘍組織を別のマウスに移植することを「継代」と呼ぶが、ある患者から採取した腫瘍組織を継代によって世代を超えて受け継がせることも可能となっている。近年では、そのような患者の腫瘍組織を移植したマウスやそのマウスの腫瘍組織を継代されたマウスを、その腫瘍を採取した患者を検体とする代わりに利用する有用性について論じられている。
本実施例で使用する組織標本は、次の手順で準備した。
(1)検体入手: 移植する大きさ1cm3の乳がん患者検体は、臨床検体供給元企業であるソフィアバイオ社(Sofia Bio LLC)から購入した。
(2)PDXマウスの作製:術前化学療法を受けた8名の乳がん患者(pCRとなった患者(pCR群)は5名、pCRとならなかった患者(非pCR群)は3名)から採取した腫瘍組織をそれぞれ、3匹の重度複合免疫不全マウス(NOD−SCIDマウス)の皮下へ3mm3角移植した。無菌施設内でマウスを約1か月間飼育し、腫瘍組織が1cm3まで成長した時に採取した。採取したがん組織を10%ホルマリンで24時間固定した後、常法に従ってパラフィン包埋組織ブロックを作製した保管した。
(3)パラフィン切片スライドの染色
得られたパラフィンブロックを4μmの厚さに切り出して、ガラススライド上に張り付けることで標本スライドを作製し、実施例1と同様にして、HER2タンパク質に対するDAB染色およびPID染色を実施して評価を行った。その結果、実施例1と同様の傾向を示す結果が得られた。
[参考例]ストレプトアビジン修飾PID一粒子と特定の密度のビオチンの間の結合力の評価
金基板上に一定の密度で固定化されたビオチンと、PID一粒子との間の結合量を、AFMを用いて測定した(図25のA)。AFMカンチレバーを、PEG鎖を介してストレプトアビジン修飾PID粒子で被覆した(図25のAおよびB)。金基板上のビオチンの密度を所定のものとするため、ビオチンコンジュゲート分子としてのビオチン化PEGアルカンチオールと、スペーサー分子としての(11-メルカプトウンデシル)トリエチレングリコールとを、0:10(condition I)または3:7(condition II)の分子数の比率で混合した。混合物を金基板上に添加すると、チオール基の金に対する親和性により、それぞれの分子の自己組織化膜が金基板上に形成された。AFM測定により、得られたストレプトアビジン修飾PID粒子と、 基板に固定された分子における結合力−距離曲線から両分子間の結合力の分布を示すヒストグラムが作製され、平均結合力が計算される。それによると、condition Iにおける平均結合力は95.7pNであり(図25のC)、その結合力は主に、PIDを修飾しているストレプトアビジンとスペーサー分子のエチレングリコールとの間に働くファン・デル・ワールス力のような非特異的な相互作用に起因しているものと考えられる。これに対して、condition IIにおける平均結合力は135.5pNであり(図25のD)、condition IおよびIIの結合力の間には約40pNの差がある。この差は、これまでの多数報告されているストレプトアビジン一分子とビオチン一分子の間の結合力と同じであり、この参考例に示した実験のcondition IIにおいて、ストレプトアビジンおよびビオチンの1:1の結合を検出することに成功したことが示唆されている。さらにストレプトアビジンをブロッキング試薬によりロッキングした後、Condition IIにおいて結合力を測定したとき(condition III)、平均結合力は94.0pNに低下した(図25のE)。この値はcondition Iの値と同じであり、金基板表面のビオチンとPID表面のストレプトアビジンとの結合がブロッキングにより阻害されたことが示されている。

Claims (7)

  1. 術前化学療法を行う乳がん患者から採取した乳がん組織の検体を用いて、乳がん術前療法の病理学的完全奏効(pCR)の予測を支援する検査支援方法であって、
    [1]少なくともHER2を含む1種類以上の乳がん関連タンパク質を標識した蛍光ナノ粒子の輝点が表された、乳がん組織切片の蛍光画像を取得する工程、
    [2]前記蛍光画像の輝点に基づいて、前記少なくともHER2を含む1種類以上の乳がん関連タンパク質の発現量に関する1種類以上の指標を取得する工程、および
    [3]前記1種類以上の指標を用いた分析により、pCRを予測するための情報を取得する工程、
    を含む検査支援方法。
  2. 前記工程[1]が、少なくともHER2を含む2種類以上の乳がん関連タンパク質を標識した蛍光ナノ粒子の輝点が表された、乳がん組織切片の蛍光画像を取得する工程であり、
    前記工程[2]が、前記蛍光画像の輝点に基づいて、前記2種類以上の乳がん関連タンパク質それぞれの発現量を表す数値、またはそれらの数値の組み合わせから算出される数値を前記指標として取得する工程であり、
    前記工程[3]が、前記数値を所定の閾値と比較することを含む分析により、pCRを予測するための情報を取得する工程である、
    請求項1に記載の検査支援方法。
  3. 前記工程[1]が、少なくともHER2を含む1種類以上の乳がん関連タンパク質を標識した蛍光ナノ粒子の蛍光輝点が表された、乳がん組織切片の蛍光画像を取得する工程であり、
    前記工程[2]が、前記蛍光画像の輝点に基づいて、少なくとも、前記少なくともHER2を含む1種類以上の乳がん関連タンパク質の細胞ごとの発現量に基づくヒストグラムを作成して前記指標として取得する工程であり、
    前記工程[3]が、少なくとも、前記ヒストグラムの分布パターンを類型化することを含む分析により、pCRを予測するための情報を取得する工程である、
    請求項1に記載の検査支援方法。
  4. 前記工程[1]が、少なくともHER2を含む1種類または2種類以上の乳がん関連タンパク質を標識した蛍光ナノ粒子の蛍光輝点が表された、乳がん組織切片の蛍光画像を取得する工程であり、
    前記工程[2]が、前記蛍光画像の点に基づいて、少なくとも、HER2の細胞ごとの発現量に基づくヒストグラムを作成して前記指標として取得する工程であり、
    前記工程[3]が、少なくとも、前記ヒストグラムの分布パターンを類型化することを含む分析により、pCRを予測するための情報を取得する工程である、
    請求項3に記載の検査支援方法。
  5. 前記工程[1]が、HER2と、HER1またはHER3とを標識した蛍光ナノ粒子の蛍光輝点が表された、乳がん組織切片の蛍光画像を取得する工程であり、
    前記工程[2]が、前記蛍光画像の輝点に基づいて、HER2と、HER1またはHER3とのそれぞれの発現量を表す数値を取得し、(a)HER2の発現量を表す数値/HER1の発現量を表す数値、または(b)HER2の発現量を表す数値/HER3の発現量を表す数値、のいずれかの比の値を算出して前記指標として取得する工程であり、
    前記工程[3]が、前記(a)または(b)のいずれかの比の値を所定の閾値と比較することを含む分析により、pCRを予測するための情報を取得する工程である、請求項2に記載の検査支援方法。
  6. 前記工程[1]が、HER2を標識した蛍光ナノ粒子の蛍光輝点が表された、乳がん組織切片の蛍光画像を取得する工程であり、
    前記工程[2]が、前記蛍光画像の輝点に基づいて、(a)HER2の発現量を表す数値を前記指標として取得し、また(b)HER2の細胞ごとの発現量に基づくヒストグラムを作成して前記指標として取得する工程であり、
    前記工程[3]が、(a)前記数値を所定の閾値と比較すること、および(b)前記ヒストグラムの分布パターンを類型化すること、の組み合わせを含む分析により、pCRを予測するための情報を取得する工程である、
    請求項4に記載の検査支援方法。
  7. 前記工程[1]において、1枚の乳がん組織切片上で、少なくともHER2を含む2種類以上の乳がん関連タンパク質を、それぞれに対応した2種類以上の色の蛍光ナノ粒子で標識する、請求項2、4、5または6に記載の検査支援方法。
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