JP6919891B2 - Epstein−Barrウイルス関連癌に特異的な抗腫瘍剤 - Google Patents
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Description
EBV陽性癌細胞においてもウイルスは基本的に潜伏状態にあり、一部のウイルス遺伝子を発現してEBV関連癌の形成と腫瘍細胞の増殖をサポートする(図1)。
EBV関連癌のうち、EBV 関連胃癌は低分化型の腺癌が大部分を占め、胃癌全体の 5-15%を占めている。また手術による胃摘出後に発生する残胃癌において、EBV 関連胃癌は 30%以上を占めている。EBV 関連胃癌は抗がん剤に対する応答性が高いため他の胃癌と比べて予後は良いが、腹膜内への転移を引き起こした場合、他の胃癌と同程度に予後が悪い。
他方、上咽頭癌は、中国南部、台湾、東南アジアの男性に高頻度に発生し、腫瘍発見時にはリンパ節転移をきたしていることが多い。EBV 関連胃癌、及び上咽頭癌ではウイルス RNA のうち非翻訳性の BamHI-A Rightward Transcripts (BART)及びそのイントロンにコードされているBART miRNA が高発現している(図2)。
BART miRNA には 40 個近くの miRNA が含まれており、1つの標的遺伝子を複数のmiRNA が抑制している(Kanda T et al. J Virol, 2014)。BART miRNA の知られている機能は、1)アポトーシスの抑制、2)潜伏感染を維持し、ウイルス抗原の発現を抑え、宿主免疫機構からの回避を行うことなどである。
アポトーシス関連遺伝子を標的としたアポトーシス抑制作用(Kang D et al. PLoS Pathog, 2015.)
EBV miR-BART20-5p によるアポトーシス及び溶解感染の抑制(Kim H et al. Cancer Lett, 2015.)
BART領域の削除による溶解感染亢進(Lin X et al. PLoS Pathog, 2015.)
さらに、ETV1 阻害剤YK-4-279は、ETV1 を標的とすることが知られている(Rahim S et al. PLoS One, 2011.)。
(1)ETSファミリー転写因子の活性を抑制する物質を含む、Epstein-Barrウイルス関連癌に特異的な抗腫瘍剤。
(2)ETSファミリー転写因子が、ETV1、ETV5、ETS2及びEHFからなる群から選ばれる少なくとも1つである(1)に記載の抗腫瘍剤。
(3)Epstein-Barrウイルス関連癌が、上皮性のものである、(1)又は(2)に記載の抗腫瘍剤。
(4)Epstein-Barrウイルス関連癌がEpstein-Barrウイルス関連胃癌又は上咽頭癌である(1)〜(3)のいずれか1項に記載の抗腫瘍剤。
(5)ETSファミリー転写因子の活性を抑制する物質を含む、Epstein-Barrウイルス関連癌細胞に特異的なアポトーシス誘導剤。
(6)ETSファミリー転写因子が、ETV1、ETV5、ETS2及びEHFからなる群から選ばれる少なくとも1つである(5)に記載のアポトーシス誘導剤。
(7)Epstein-Barrウイルス関連癌がEpstein-Barrウイルス関連胃癌又は上咽頭癌である(5)又は(6)に記載のアポトーシス誘導剤。
(8)Epstein-Barrウイルス感染によって上皮細胞に発現誘導されたETSファミリー転写因子の活性を阻害することを特徴とする、当該ウイルス感染細胞に特異的にアポトーシスを誘導する方法。
(9)Epstein-Barrウイルスが感染した上皮細胞に候補物質を接触させ、当該上皮細胞に発現誘導されたETSファミリー転写因子の活性を阻害する物質を選択することを特徴とする、Epstein-Barrウイルス関連癌に特異的な抗腫瘍剤のスクリーニング方法。
(10)Epstein-Barrウイルスが感染した上皮細胞に候補物質を接触させ、当該上皮細胞に発現誘導されたETSファミリー転写因子の活性を阻害する物質を選択することを特徴とする、Epstein-Barrウイルス関連癌細胞に特異的なアポトーシス誘導剤のスクリーニング方法。
本発明によりスクリーニングされた物質は、EBV関連癌、中でもEBウイルス関連胃癌及び上咽頭癌などの上皮性腫瘍に対する抗腫瘍剤として使用することが可能となった。
本発明者は、 BART プロモーターをルシフェラーゼ遺伝子の上流に挿入し、BART 遺伝子5’UTR 領域に存在する E26 transformation specific (ETS) 転写因子結合配列が転写制御に重要であることを見出した。ETS 転写因子は、27 個の遺伝子からなるファミリーを形成し、その多くは血管新生、細胞増殖など癌の悪性化に関わっていることが知られている。
BART プロモーター活性は、EBV 感染細胞で高いことから、EBV 感染細胞における ETS ファミリーの発現を測定した。その結果、EBV 感染上皮細胞腫にのみ発現誘導される遺伝子を同定した。これらの遺伝子に対してsiRNAで処理すると、BART プロモーター活性が低下し、BART の発現も低下した。中でも、ETV1はsiRNA による BART 発現抑制が最も強い転写因子である。そこで ETV1 の遺伝子欠損株を作製したところ、BART miRNA の発現が顕著に低下した。
従って、本発明は EBV 関連胃癌及び上咽頭癌などの EBV 感染上皮性腫瘍に特異的な抗腫瘍剤の開発を行うものである。
本発明者らは、ETSファミリーに属する転写因子がBART miRNAの発現を誘導することによりEpstein-Barrウイルス関連癌の癌細胞がアポトーシスに陥ることを抑制する機能を有していることを見出した(図3)。
従って、ETSファミリーに属する転写因子の機能を阻害して、腫瘍細胞のアポトーシス細胞死を誘導することにより、Epstein-Barrウイルス関連癌の形成を抑制及び予防することが可能である。
また本発明は、ETSファミリー転写因子の活性を抑制する物質を含む、Epstein-Barrウイルス関連癌細胞に特異的なアポトーシス誘導剤を提供する。
「ETSファミリー転写因子の活性を抑制する物質」としては、ETSファミリー遺伝子のメッセンジャーRNA(mRNA)の発現量を低下させる物質、例えば、核酸、低分子化合物等が挙げられ、1つの実施態様では、ETSファミリー遺伝子の機能又は発現を抑制する核酸である。
また本発明では、RNA干渉(RNAi)用のsiRNA(Small interfering RNA)を生じさせる、ヘアピン状のshRNA(Short Hairpin RNA)、二本鎖RNA(Double Stranded RNA: dsRNA)、アンチセンス核酸、デコイ核酸、又はアプタマーなどを用いることもできる。
GABPA、EHF、ERF、ERG、ELF1、ELF2、ELF3、ELF4、ELF5、FLI1、ELK1、ELK3、ELK4、ETS1、ETS2、ETV1、ETV2、ETV3、ETV4、ETV5、ETV6、ETV7、FEV、SPDEF、SPI1、SPIB、SPIC
本発明においては、上記ETSファミリー遺伝子のうち、ETV1、ETV5、ETS2及びEHFからなる群から選ばれる少なくとも1つが好ましい。
RNAi は、複数の段階を経て行われるマルチステッププロセスである。最初に、RNAi発現ベクターから発現したdsRNA又はshRNAが Dicerによって認識され、21〜23 ヌクレオチドの siRNAs に分解される。次に、siRNAs は RNA 誘導型サイレンシング複合体 (RNA-Induced Silencing Complex: RISC) と呼ばれるRNAi 標的複合体に組み込まれ、RISC とsiRNAsとの複合体がsiRNAの配列と相補的な配列を含む標的mRNAに結合し、mRNAを分解する。標的mRNAは、siRNAに相補的な領域の中央で切断され、最終的に標的mRNAが速やかに分解されてタンパク質発現量が低下する。
また、本発明は、RNAi効果をもたらすためにshRNAを使用することもできる。shRNA とは、ショートヘアピンRNAと呼ばれ、一本鎖の一部の領域が他の領域と相補鎖を形成するためにステムループ構造を有するRNA分子である。shRNAは、その一部がステムループ構造を形成するように設計することができる。例えば、ある領域の配列を配列Aとし、配列Aに対する相補鎖を配列Bとすると、配列A、スペーサー、配列Bの順でこれらの配列が一本のRNA鎖に存在するように連結し、全体で45〜60塩基の長さとなるように設計する。スペーサーの長さも特に限定されるものではない。
miRNAも、RNAiに基づく阻害性核酸であるため、shRNA又はsiRNAに準じて設計し合成することができる。
RNAi用の発現ベクターは、市販のプラスミド、ベクター等をベースに、市販の合成装置を用いて作製することができる。
本発明の別の態様において、ETSファミリー遺伝子の発現を阻害するためにアンチセンス核酸を使用することができる。アンチセンス核酸は、ETSファミリー遺伝子のmRNA又はDNA配列に結合できる一本鎖核酸配列(RNA又はDNAのいずれか)である。アンチセンス核酸配列の長さは、少なくとも15ヌクレオチドであり、例えば15〜40ヌクレオチドである。アンチセンス核酸は、上記遺伝子配列に結合して二重鎖を形成し、ETSファミリー遺伝子の転写又は翻訳を抑制する。
アンチセンス核酸も、例えば、一般的に用いられるDNA合成装置を用いた核酸合成法を使用することができる。
本発明の別の態様では、デコイ核酸と呼ばれるおとり核酸を使用することにより、ETSファミリー遺伝子の発現を阻害することができる。
デコイ核酸は、ETSファミリー遺伝子の転写因子に結合してプロモーター活性を抑制することにより、ETSファミリー遺伝子発現を抑制する核酸であって、転写因子の結合部位を含む短いおとり核酸を意味する。この核酸が癌細胞内に導入されると、転写因子がこの核酸に結合する。これにより、転写因子のゲノム結合部位への結合が競合的に阻害され、その結果、転写因子の発現が抑制される。デコイ核酸は、ETSファミリー遺伝子のプロモーター配列をもとに、1本鎖又は2本鎖として設計することができる。デコイ核酸の長さは特に限定されるものではなく、15〜60塩基、例えば20〜40塩基である。
なお、デコイ核酸を使用した場合のプロモーターの転写活性の解析は、一般的に行なわれるルシフェラーゼアッセイ、RT-PCR等を採用することができる。
さらに、本発明は、アプタマーを用いてETSファミリー遺伝子の発現を阻害することができる。
アプタマーとは、特異的に標的物質に結合する能力を持つ合成DNA又はRNA分子及びペプチド性分子であり、試験管内において化学的に短時間で合成することができる。従って、ETSファミリー遺伝子の塩基配列を基準にして、あるいは、in vitro selection法又はSELEX法として知られている進化工学的手法により得ることができる。
本発明において、ETSファミリー転写因子の活性を抑制する活性を有するものであれば、低分子化合物も用いることができる。
このような低分子化合物としては、例えばBRD32048(CAS No. 433694-46-3)、YK-4-279などが挙げられるが、これらの化合物に限定されるものではない。
本発明においては、上記ETSファミリー転写因子の活性を抑制する物質を抗腫瘍剤又はアポトーシス誘導剤として使用することができる。
本発明の抗腫瘍剤及びアポトーシス誘導剤の対象となる腫瘍の種類は、Epstein-Barrウイルス関連癌であって上皮性のものであれば特に限定されるものではなく、良性でも悪性でもよい。
「上皮性」とは、体表面や管腔臓器の粘膜及び分泌腺を構成する細胞を意味し、Epstein-Barrウイルス関連上皮性の腫瘍の例としては、Epstein-Barrウイルス関連胃癌、上咽頭癌が挙げられる。
本発明の抗腫瘍剤(医薬組成物)の適切な剤形の例としては、懸濁液又は溶液が挙げられる。懸濁液又は剤形は、前記物質(例えば、RNAiを利用する核酸、低分子化合物等)の構造維持に適した緩衝剤、生理食塩水、ジメチルスルホキシド(DMSO)等を含んでいてもよい。
本発明の抗腫瘍剤は、有効成分であるETSファミリー遺伝子阻害物質を治療上有効量で含む。ここで、「治療上有効量」とは、その量の有効成分を対象に投与することにより、腫瘍細胞の増殖率を低下させることが可能な量を意味する。例えば、静脈内注射剤の場合、治療上有効量は、0.5〜5重量%であり、例えば1〜2重量%である。
例えば、本発明の抗腫瘍剤を体重60kgの成人に局所投与する場合、毎日1〜3回、好ましくは1又は2回投与してもよく、1回あたりの投与量は、0.5〜50mg/kgであり、好ましくは10〜20mg/kgである。
上記の治療上有効量、投与量及び投与頻度は、典型的な数値を列挙したものであり、これを超える数値又は下回る数値であっても腫瘍細胞の増殖率が低下する場合もある。従って、上記の治療上有効量、投与量及び投与頻度を超える数値又は下回る数値であっても、本発明の抗腫瘍剤の治療上有効量、投与量及び投与頻度として包含される。
本発明のスクリーニング方法は、Epstein-Barrウイルスが感染した上皮細胞に候補物質を接触させ、当該上皮細胞に発現誘導されたETSファミリー転写因子の活性を阻害する物質を選択することを特徴とし、Epstein-Barrウイルス関連癌に特異的な抗腫瘍剤、又はEpstein-Barrウイルス関連癌細胞に特異的なアポトーシス誘導剤をスクリーニングすることができる。
(a)Epstein-Barrウイルスが感染した上皮細胞に候補物質を接触させる工程
(b)当該上皮細胞に発現誘導されたETSファミリー転写因子の活性を検査する工程
本発明において「接触」とは、上皮細胞の培養培地に候補物質を添加する態様、上皮細胞と候補物質とを混合してその混合物を培養する態様などがある。
上記検査により、ETSファミリー遺伝子の発現が、例えば対照と比較して低下した(抑制された)場合は、候補物質は、Epstein-Barrウイルス関連癌に特異的な抗腫瘍剤、又はEpstein-Barrウイルス関連癌細胞に特異的なアポトーシス誘導剤として選択することができる。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の範囲はこれらの実施例により限定されるものではない。
胃がん細胞株AGSは、RPMI1640培地に10%FCS、100 U/mLペニシリン、100 μg/mLストレプトマイシン添加を添加した培地で培養した。AGSには、eGFP及びネオマイシン耐性遺伝子を組み込んだ組換えEpstein-Barrウイルス(Burkittリンパ腫Akataに由来するウイルス株)を感染させ、200 μg/mLのG418存在下で培養した。感染の有無は、eGFPの蛍光強度により判定した(AGS-rEBV細胞)。
AGS-rEBV細胞由来DNAよりBARTプロモーター(BARTp)の137,486 から138,639領域(NC_007605.1) をPCR法によってクローニングした。クローニングしたプロモーターは、firefly luciferase 遺伝子の上流に組み込んだ(pGL4.18-BARTp)。さらに、BARTpを5’側から232 bp, 502 bp, 915 bp削除したプロモーター変異体を作成した。これらのプラスミドベクター 200 ngと、renilla luciferaseを発現するpGL4.75 100 ngを、24 well プレートに1x105細胞/wellで調整したAGS-rEBV細胞またはAGS細胞にLipofectamine 2000を用いて遺伝子導入し、48時間後にルシフェラーゼ活性を測定した。測定は、Dual Luciferase Kitを用いた。ETS結合部位は、GNNAAまたは、GNAAをCNNCGまたは、CNCGへ置換した。
AGS-rEBV細胞またはAGS細胞を、6 well プレートに3x105細胞/well まき、40 pMのsiRNAをLipofectamine 2000を用いて導入し、48時間後にRNAを抽出した。cDNAは、DNase処理後Superscript III及びrandom primerにて合成した。siRNAは、QIAGEN社から購入したFlexiTube siRNA(ETV5:SI03184657, EHF:SI03171077, ETS2:SI03097038, ETV1: SI04281109)を用いた。
Total RNAはISOGEN(和光純薬)を用いて抽出し、RNA中の細胞ゲノムはDNaseI処理(Invitrogen)によって除去した。DNase I処理をしたtotal RNAは、Superscript III及びランダムヘキサマーを用いて逆転写反応を行い、cDNAを合成した。合成したcDNA中における遺伝子発現量は、定量的PCR(SSoAdvanced SYBR Green, 及びCFX Connect, Bio-Rad社)を用いて解析した。遺伝子の発現量は、β-actin(FW:5’- TTGCCGACAGGATGCAGAA -3’(配列番号1), RV: 5’- GCCGATCCACACGGAGTACT -3’ (配列番号2))または、5.8S rDNA(FW:5’- GTCTACGGCCATACCACCCT -3’ (配列番号3), RV: 5’- AAAGCCTACAGCACCCGGTA -3’ (配列番号4))を用いて補正した。ETS ファミリー遺伝子の発現は以下のプライマー(表1)により解析した。
cDNA は、total RNAからmiScript II RT kitを用いて合成した。miRNAの発現量は、miScript miRNA PCR primer (miR-BART1-5p, miR-BART7-3p)と、miScript SYBR Green PCR Kit を用いて測定した。発現量は、control miRTCで補正した。
ETV1の遺伝子破壊は、ゲノム編集によって行なった。組換えCas9タンパク質及び、Crispr RNA(5’-UGUCGUCGCAGAACCAAGA-3’(配列番号51)), Tracer RNA(IDT)の複合体をin vitroで形成させ、Lipofectamine 2000で遺伝子導入を行なった。遺伝子導入後、1,000細胞/10 cm dishの細胞密度で培養した。ゲノム編集クローンは、遺伝子破壊部位のシーケンス及びWestern Blotting法によって確定した。
(1)BARTプロモーター上のETSファミリー結合領域
BART プロモーターをルシフェラーゼ遺伝子の上流に挿入し、ETS及び変異ETSを作製してそれぞれのルシフェラーゼ活性を測定した。
その結果、BART 遺伝子5’UTR 領域に存在する E26 transformation specific (ETS) 転写因子結合配列(NC_007605.01 138428 -138434、エンハンサー部分)が、転写制御に重要であることを見出した(図4)。
ETS 転写因子ファミリ ーは、27 個の遺伝子からなり、その多くは血管新生、細胞増殖など癌の悪性化に関わっていることが知られている。BART プロモーター活性はEBV 感染細胞で高いことから、EBV 感染細胞における ETS ファミリーの発現を測定した。その結果、EBV 感染上皮細胞腫にのみ発現誘導される遺伝子として ETV1、ETV5、ETS2、EHF を同定した(図5)。このうち、ETV1、ETV5、 ETS2 に対するsiRNA 処理によってBART プロモーター活性が低下し(図6)、 BART の発現も低下した(図7)。
赤:発現量強、黒:発現量中、緑:発現量低.
定量的RT-PCRのデータを、解析ソフトを用いてヒートマップ化した。発現量は、β-actinの発現量で補正している。
上咽頭癌細胞株HONE1、胃癌細胞株MKN28, NUGC3, AGS、Bリンパ腫細胞株であるAkata、DaudiにeGFP陽性EBVを感染させ、感染、非感染細胞株におけるETSファミリーの遺伝子発現量を、定量的PCRによって解析した。その結果、ETV5、EHF、ETS2、ETV1の4つの遺伝子が、EBV感染上皮細胞腫において高発現していた。このような現象は、Bリンパ腫細胞では認められなかった。
白バー:control siRNA処理、赤バー:ETV1 siRNA処理、オレンジバー:ETV5 siRNA処理、緑バー:ETS2 siRNA処理、黒バー:EHF siRNA処理. 赤線:ETS結合部位. 赤枠白線:ETS変異導入.
AGS-rEBV細胞に、ETV1、ETV5、ETS2、EHFに対するsiRNAを導入し、導入後のBARTプロモーター活性を解析した。その結果、ETV1、ETV5、ETS2のsiRNA処理は、プロモーター活性を低下させた。このような現象は、エンハンサー部位に遺伝子変異を導入した場合、認められなかった。
黒バー:BART転写産物発現量.
発現量は、β-actinの発現量で補正している。AGS-rEBV細胞に、ETV1、ETV5、ETS2、EHFに対するsiRNAを導入し、導入後のBART転写産物の発現を解析した結果、ETV1、ETV5、ETS2のsiRNA処理は、プロモーター活性と合致して、BART転写産物の発現を抑制した。
ETV1、ETV5、ETS2 の中でsiRNA による BART 発現抑制が最も強い、 ETV1 の遺伝子欠損株を作製したところ、BART miRNA の発現が顕著に低下した(図8)。
図8は、ETV1欠損株におけるmiR-BARTの発現低下を示す図である。
黒バー:miRNA発現量.
ETV1欠損株におけるmiR-BARTの発現を定量的PCRで解析した結果、miR-BARTクラスター1(miR-BART1-5p)、クラスター2(miR-BART7-3p)の発現は、ETV1欠損株で低下していた。これらの結果は、EBV感染上皮細胞株において、ETV1はmiR-BARTの発現に重要であることを示している。
BART miRNA は、ウイルス溶解感染とウイルス感染細胞のアポトーシスを抑制することが報告されている。これより、溶解感染誘導剤を添加した場合の、ETV1、ETV5、ETS2 の発現量を測定すると、ETV1 の発現が顕著に上昇し、BART の発現も増加していた(図9)。また、EBV 感染 ETV1 欠損株に溶解感染誘導剤を添加すると、ETV1 欠損細胞では、野生型細胞株よりもBART の発現は低下し、溶解感染誘導スイッチ遺伝子 BZLF1 の発現は上昇していた(図10)。
白バー:DMSOのみ、黒バー:TPA, sodium butylate処理細胞.
発現量は、5.8S rRNAの発現量で補正している。AGS-rEBV細胞にTPA, Sodium Butylate刺激を介して溶解感染を誘導すると、EBVの溶解感染関連遺伝子BZLF1及びBRLF1の発現が誘導される。同時にBART転写産物の発現も上昇する。この時、ETV1、ETV5、ETS2、EHFの発現を定量的PCRで解析すると、ETV1の発現だけ顕著に上昇していた。
白バー:親株、黒バー:ETV1欠損細胞株. 発現量は、5.8S rRNAの発現量で補正している。ETV1欠損EBV感染株にTPA, Sodium Butylate刺激を行うと、親株と比較してBARTの発現は低下し、一方BZLF1の発現は上昇していた。この結果は、EBV感染上皮細胞株の溶解感染時におけるmiR-BARTの発現誘導は、ETV1を介して行われ、BZLF1の発現を抑制していることを示している。
以上の結果に基づき、ETV1 阻害剤 YK-4-279(CAS No. 1037184-44-3)を EBV 感染細胞へ添加すると、BART の発現は容量依存的に低下し(図11)、野生型 EBV 感染細胞ではアポトーシスが増加したが、BZLF1 欠損 EBV 株感染細胞では増加しなかった(図12)。
黒バー:BART転写産物発現量. 0: DMSO処理。
発現量は、β-actinの発現量で補正している。ETV1阻害剤YK-4-279は、容量依存的にBART転写産物の発現量を低下させた。
EBV 野生型:Akata株、BZLF1Δ: BZLF欠損Akata株. 7AA:死細胞マーカー、Annexin V:アポトーシスマーカー。
YK-4-279処理は、野生型EBV 感染株にのみアポトーシスを引き起こした。この結果は、EBV感染胃癌細胞株においてBART転写を抑制すると、アポトーシスが誘導されることを示している。
配列番号51:合成RNA
配列番号52〜57:合成DNA
Claims (8)
- ETV1及びETV5からなる群から選ばれるETSファミリー転写因子の活性を抑制する物質を含む、Epstein-Barrウイルス関連癌に特異的な抗腫瘍剤であって、ETSファミリー転写因子の活性を抑制する物質が、当該転写因子に対するsiRNA、shRNA、miRNA、アンチセンス核酸、デコイ核酸及びアプタマー、並びにBRD32048及びYK-4-27からなる群から選ばれるいずれかの物質である、前記抗腫瘍剤。
- Epstein-Barrウイルス関連癌が、上皮性のものである、請求項1に記載の抗腫瘍剤。
- Epstein-Barrウイルス関連癌がEpstein-Barrウイルス関連胃癌又は上咽頭癌である請求項1又は2に記載の抗腫瘍剤。
- ETV1及びETV5からなる群から選ばれるETSファミリー転写因子の活性を抑制する物質を含む、Epstein-Barrウイルス関連癌細胞に特異的なアポトーシス誘導剤であって、ETSファミリー転写因子の活性を抑制する物質が、当該転写因子に対するsiRNA、shRNA、miRNA、アンチセンス核酸、デコイ核酸及びアプタマー、並びにBRD32048及びYK-4-27からなる群から選ばれるいずれかの物質である、前記アポトーシス誘導剤。
- Epstein-Barrウイルス関連癌がEpstein-Barrウイルス関連胃癌又は上咽頭癌である請求項4に記載のアポトーシス誘導剤。
- Epstein-Barrウイルスが感染した上皮細胞の培養培地に、請求項4又は5に記載のアポトーシス誘導剤を添加することにより、Epstein-Barrウイルス感染によって上皮細胞に発現誘導されたETSファミリー転写因子の活性をインビトロで阻害することを特徴とする、当該ウイルス感染細胞に特異的にアポトーシスを誘導する方法。
- Epstein-Barrウイルスが感染した上皮細胞に候補物質を接触させ、当該上皮細胞に発現誘導されたETSファミリー転写因子の活性を阻害する物質を選択することを特徴とする、Epstein-Barrウイルス関連癌に特異的な抗腫瘍剤のスクリーニング方法であって、ETSファミリー転写因子が、ETV1及びETV5からなる群から選ばれるいずれかである、前記方法。
- Epstein-Barrウイルスが感染した上皮細胞に候補物質を接触させ、当該上皮細胞に発現誘導されたETSファミリー転写因子の活性を阻害する物質を選択することを特徴とする、Epstein-Barrウイルス関連癌細胞に特異的なアポトーシス誘導剤のスクリーニング方法であって、ETSファミリー転写因子が、ETV1及びETV5からなる群から選ばれるいずれかである、前記方法。
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