JP2022062731A - Epstein-Barrウイルス関連癌に特異的な抗腫瘍剤 - Google Patents

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【課題】Epstein-Barr ウイルス(EBV)関連癌に特異的な抗腫瘍剤を提供すること。【解決手段】ETSファミリー転写因子の活性を抑制する物質を含む、Epstein-Barr ウイルス(EBV)関連癌に対する抗腫瘍剤であって、EBV関連癌が、BARTプロモーターの第513番目の塩基に一塩基多型を有するEBVの感染により生じた癌である、前記抗腫瘍剤。【選択図】 なし

Description

特許法第30条第2項適用申請有り (論文雑誌(online)1_BBRC) 1 ウェブサイトの掲載日 令和1年10月10日 2 ウェブサイトのアドレス https://www.journals.elsevier.com/biochemical-and-biophysical-research-communications 3 公開者 キム ヒョジ、ブラッサカーン アティ、カン ユティン、飯笠 久、吉山 裕規 4 公開された発明の内容 キム ヒョジ、ブラッサカーン アティ、カン ユティン、飯笠 久、吉山 裕規が、Biochemical and Biophysical Research Communication(ジャーナルホームページ:www.elsevier.com/locate/ybbrc)の上記ウェブサイトにて、吉山 裕規、飯笠 久、キム ヒョジが発明した、「A single nucleotide polymorphism in the BART promoter region of Epstein-Barr virus isolated from nasopharyngeal carcinoma cells(上咽頭癌細胞から単離されたEpstein-BarrウイルスのBARTプロモーター領域における一塩基多型)」について公開した。
特許法第30条第2項適用申請有り (論文雑誌(刊行物)1_BBRC) 1 発行日 令和1年12月3日 2 刊行物 Biochemical and Biophysical Research Communication,Vol.520,Issue 2(pages 373-378) 3 公開者 キム ヒョジ、ブラッサカーン アティ、カン ユティン、飯笠 久、吉山 裕規 4 公開された発明の内容 キム ヒョジ、ブラッサカーン アティ、カン ユティン、飯笠 久、吉山 裕規が、Biochemical and Biophysical Research Communication,Vol.520,Issue 2(pages 373-378)にて、吉山 裕規、飯笠 久、キム ヒョジが発明した、「A single nucleotide polymorphism in the BART promoter region of Epstein-Barr virus isolated from nasopharyngeal carcinoma cells(上咽頭癌細胞から単離されたEpstein-BarrウイルスのBARTプロモーター領域における一塩基多型)」について公開した。
特許法第30条第2項適用申請有り (予稿集1_第35回 中国四国ウイルス研究会) 1 ウェブサイトの掲載日 令和2年9月17日 2 ウェブサイトのアドレス https://yoshiyama-lab.org/中四国ウイルス 3 公開者 飯笠 久、キム ヒョジ、ブラッサカーン アティ、カン ユティン、吉山 裕規 4 公開された発明の内容 飯笠 久、キム ヒョジ、ブラッサカーン アティ、カン ユティン、吉山 裕規が、第35回 中国四国ウイルス研究会に係る上記ウェブサイトにて、吉山 裕規、飯笠 久、キム ヒョジが発明した、「上咽頭癌におけるEBウイルスのBARTプロモーター領域SNPの頻繁な検出」について公開した。
特許法第30条第2項適用申請有り (学会発表1_第35回中国四国ウイルス研究会) 1 開催日 令和2年9月19日~20日(発表日:令和2年9月19日) 2 集会名、開催場所 第35回 中国四国ウイルス研究会 ビックハート出雲「白のホール」(島根県出雲市駅南町1丁目5番地) 3 公開者 飯笠 久、キム ヒョジ、ブラッサカーン アティ、カン ユティン、吉山 裕規 4公開された発明の内容 飯笠 久、キム ヒョジ、ブラッサカーン アティ、カン ユティン、吉山 裕規が、第35回 中国四国ウイルス研究会にて、吉山 裕規、飯笠 久、キム ヒョジが発明した、「上咽頭癌におけるEBウイルスのBARTプロモーター領域SNPの頻繁な検出」について公開した。
特許法第30条第2項適用申請有り (予稿集2_第79回 日本癌学会学術総会) 1 ウェブサイトの掲載日 令和2年10月1日 2 ウェブサイトのアドレス https://site2.convention.co.jp/jca2020/ 3 公開者 飯笠 久、キム ヒョジ、ブラッサカーン アティ、カン ユティン、吉山 裕規 4 公開された発明の内容 飯笠 久、キム ヒョジ、ブラッサカーン アティ、カン ユティン、吉山 裕規が、第79回 日本癌学会学術総会の上記ウェブサイトにて、吉山 裕規、飯笠 久、キム ヒョジが発明した、「Frequent detection of an SNP in the BART promoter region of EB virus in the nasopharyngeal carcinoma cells(上咽頭癌におけるEBウイルスのBARTプロモーター領域におけるSNPの頻繁な検出)」について公開した。
特許法第30条第2項適用申請有り (学会発表2_第79回 日本癌学会学術総会) 1 開催日 令和2年10月1日~3日(オンデマンド配信、配信期間:令和2年10月31日まで) 2 集会名、開催場所 第79回 日本癌学会学術総会 リーガロイヤルホテル広島(広島県広島市中区基町6-78) メルパルク広島(広島県広島市中区基町6-36) 3 公開者 飯笠 久、キム ヒョジ、ブラッサカーン アティ、カン ユティン、吉山 裕規 4 公開された発明の内容 飯笠 久、キム ヒョジ、ブラッサカーン アティ、カン ユティン、吉山 裕規が、第79回 日本癌学会学術総会にて、吉山 裕規、飯笠 久、キム ヒョジが発明した、「Frequent detection of an SNP in the BART promoter region of EB virus in the nasopharyngeal carcinoma cells(上咽頭癌におけるEBウイルスのBARTプロモーター領域におけるSNPの頻繁な検出)」について公開した。
本発明は、Epstein-Barrウイルス(EBV)関連癌に特異的な抗腫瘍剤に関する。
Epstein-Barr ウイルス(EBV)は、成人の9割以上が感染しているヒトヘルペスウイルスであり、ヒトヘルペスウイルス4型ともいう。EBVは、ヒトのBリンパ球、上皮細胞などに長期間潜伏持続感染し(潜伏感染)、感染細胞の増殖を刺激することによって、細胞を腫瘍化する。
EBVは、宿主細胞内で潜伏感染と溶解感染(ウイルス産生感染)のうちいずれかの状態をとる(図1)。潜伏状態においては、ウイルスの潜伏感染遺伝子を発現し、細胞はサイレントな状態が保たれる。
潜伏感染から溶解感染への切り替えを「再活性化」という(図1)。再活性化に際しては、EBVの前初期(IE)遺伝子であるBZLF1及びBRLF1(いずれも転写活性化因子)が発現する。前初期遺伝子のうち、特にBZLF1は潜伏状態からの再活性化を担う責任遺伝子である。従って、BZLF1が発現すると、細胞は溶解感染を引き起こしてアポトーシスにより死滅する。
EBVは、Burkitt リンパ腫、ホジキン病、びまん性大細胞型 B 細胞リンパ腫などのリンパ腫や、上咽頭癌、EBV関連胃癌などの上皮性腫瘍の発生と深い関連がある。EBVは、多くは潜伏感染を成立させて感染細胞内で持続的に維持されるが、上記の通りごく一部が再活性化し、溶解感染を引き起こして子孫ウイルスを産生する。EBV陽性癌細胞においてもウイルスは基本的に潜伏状態にあり、一部のウイルス遺伝子が発現され、EBV関連癌の形成と腫瘍細胞の増殖をサポートする(図1)。
代表的なEBV関連癌としては、EBV関連胃癌及び上咽頭癌が挙げられる。EBV関連胃癌は、低分化型の腺癌が大部分を占め、胃癌全体の5-15%を占めている。また手術による胃摘出後に発生する残胃癌において、EBV関連胃癌は30%以上を占めている。EBV関連胃癌は抗がん剤に対する応答性が高いため他の胃癌と比べて予後は良いが、腹膜内への転移を引き起こした場合、他の胃癌と同程度に予後が悪い。上咽頭癌は、中国南部、台湾、東南アジアの男性に高頻度に発生し、腫瘍発見時にはリンパ節転移をきたしていることが多い。
EBV関連胃癌及び上咽頭癌では、BART及びそのイントロンにコードされているBARTマイクロRNA(BART miRNA)が高発現している(図2)。
マイクロRNA(miRNA)は、二本鎖 RNAの前駆体から酵素によって切断され、20-25 塩基程度の一本鎖 RNA となる。miRNA は、RNA 誘導サイレンシング複合体(RISC)へ取り込まれ、mRNA の3’UTRと結合することにより、mRNAからの翻訳を抑制する(図2)。
BARTには 40 個近くの miRNA(BART miRNA)が含まれており、1つの標的遺伝子を複数のmiRNAが抑制している(Kanda T et al. J Virol, 2014)。BART miRNAの知られている機能は、1)EBV感染細胞におけるアポトーシスを抑制すること、2)EBVの潜伏感染を維持し、ウイルス抗原の発現を抑え、宿主免疫機構からの回避を行うことなどである。
DNAウイルス由来のmiRNAについては、核酸類を用いた DNA ウイルス由来 miRNA 阻害剤の開発に関する研究(US 20050221490)、EBV miRNA のうち 20 個を阻害したときの細胞死誘導に関する研究(WO 2013187612)などがなされている。
また、アポトーシス抑制については、以下の研究がなされている。
・アポトーシス関連遺伝子を標的としたアポトーシス抑制作用(Kang D et al. PLoS Pathog, 2015.)
・EBV miR-BART20-5p によるアポトーシス及び溶解感染の抑制(Kim H et al. Cancer Lett, 2015.)
・BART領域の削除による溶解感染亢進(Lin X et al. PLoS Pathog, 2015.)
さらに、ETV1 阻害剤YK-4-279は、ETV1 を標的とすることが知られている(Rahim S et al. PLoS One, 2011.)。
また、EBV関連癌に対する抗腫瘍剤の研究も行われており、BART遺伝子の5’UTR領域に存在するE26 transformation specific (ETS) 転写因子結合配列が、転写制御に重要であること、そして、ETSファミリー転写因子の活性を抑制する物質がEBV感染細胞にアポトーシスを誘導することなどが知られている(特開2019-38755号公報)。
米国特許出願公開US 2005/0221490号公報 国際公開WO2013/187612号パンフレット 特開2019-38755号公報
Kang D et al. PLoS Pathog, 2015, Vol. 11, e1004979 Kim H et al. Cancer Lett, 2015, Vol. 356, p733-742 Lin X et al. PLoS Pathog, 2015, Vol. 11, e1005344 Rahim S et al. PLoS One, 2011, Vol. 9, e114260
しかしながら、EBV関連癌を効果的に治療するために、EBV関連癌に対しさらなる特異性が求められている。
本発明者は、上記課題を解決するために検討を行った結果、EBV感染により生じた上皮性腫瘍細胞において、EBVがBART miRNAの転写プロモーター領域のETSファミリー遺伝子結合部位に、プロモーター活性化を行う多型を有することを見出した。この多型を有するウイルス感染腫瘍を標的とすることにより、EBウイルス関連癌の腫瘍細胞の増殖を効果的に抑制することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下の通りである。
(1)ETSファミリー転写因子の活性を抑制する物質を含む、Epstein-Barr ウイルス(EBV)関連癌に対する抗腫瘍剤であって、EBV関連癌が、BARTプロモーターの第513番目の塩基に一塩基多型を有するEBVの感染により生じた癌である、前記抗腫瘍剤。
(2)一塩基多型が欠失である、(1)に記載の抗腫瘍剤。
(3) プロモーターの塩基配列が配列番号3に示されるものである、(1)又は(2)に記載の抗腫瘍剤。
(4)EBV関連癌が胃癌又は上咽頭癌である、(1)~(3)のいずれか1項に記載の抗腫瘍剤。
(5)ETSファミリー転写因子の活性を抑制する物質が、YK-4-279(CAS No. 1037184-44-3)である、(1)~(4)のいずれか1項に記載の抗腫瘍剤。
(6)Epstein-Barr ウイルス(EBV)が感染した被験者から採取された生体試料由来のEBVのBARTプロモーターにおける一塩基多型の有無を検出することを特徴とする、当該被験者のEBV関連癌に対する抗腫瘍剤の応答性を検査する方法であって、当該プロモーターの第513番の塩基における一塩基多型を指標とする、前記方法。
(7)第513番の塩基が一塩基多型を有する場合に、前記抗腫瘍剤に対する応答性が高いと予測する指標となる、(6)に記載の方法。
(8)一塩基多型が欠失である、(6)又は(7)に記載の方法。
(9) プロモーターの塩基配列が配列番号3に示されるものである、(6)~(8)のいずれか1項に記載の方法。
(10)EBV関連癌が胃癌又は上咽頭癌である、(6)~(9)のいずれか1項に記載の方法。
(11)抗腫瘍剤がYK-4-279(CAS No. 1037184-44-3)である、(6)~(10)のいずれか1項に記載の方法。
本発明により、EBV関連癌に特異的な抗腫瘍剤が提供される。本発明の抗腫瘍剤は、EBVのBARTプロモーターの所定の塩基に一塩基多型を生じたゲノムを有するEBVの感染により発症したEBV関連癌(特に、EBウイルス関連胃癌及び上咽頭癌などのEBV関連上皮性腫瘍)に対する抗腫瘍剤として使用することができる。
EBVの感染様式を示す図である。 EBVがコードするmiRNAを示す図である。 BARTプロモーターの塩基配列の比較を示す図である。 EBVが感染した各種細胞におけるBARTプロモーター活性の変化を示す図である。 EBVが感染した各種細胞におけるBARTプロモーター活性の変化を示す図である。 ETV1阻害剤であるYK-4-279処理によるBART転写産物の発現抑制を示す図である。 YK-4-279処理によるEBV感染細胞のアポトーシス誘導を示す図である。 ETS阻害剤によるEBV感染腫瘍細胞特異的な増殖抑制を示す図である。 ETV1 阻害剤の作用機序を示す図である。
本発明は、EBVに感染した上皮細胞に発現誘導されたETSファミリー転写因子の活性を阻害することにより、ウイルスmiRNAの発現を抑制し、EBV感染細胞にアポトーシスを誘導する方法を提供する。本発明においては、ウイルス感染によって発現誘導される宿主タンパク質を標的にすることで、細胞毒性を発揮させる。すなわち、本発明は、ETSファミリー転写因子の活性を阻害する物質を含む、EBV陽性上皮性腫瘍(EBV関連胃癌、上咽頭癌など)に対する抗腫瘍剤、及びEBV陽性腫瘍細胞に対するアポトーシス誘導剤を提供する。
1.概要
本発明者らは、過去の研究において、BARTプロモーターをルシフェラーゼ遺伝子の上流に挿入し、BART遺伝子の5’UTR 領域に存在するE26 transformation specific (ETS) 転写因子結合配列(NC_007605.01:138428 -138434、エンハンサー部分)が、転写制御に重要であることを見出した(特開2019-38755号公報)。ETS転写因子ファミリーには、27個の遺伝子が含まれ、その多くは、血管新生、細胞増殖など癌の悪性化に関わっている。BARTプロモーター活性はEBV感染細胞で高いことから、EBV感染時の細胞のETS転写因子ファミリー遺伝子の発現を解析した。その結果、EBV 感染上皮細胞腫にのみ発現誘導される遺伝子として、ETV1、ETV5、ETS2及びEHFを同定した。これらの遺伝子のうち、ETV1、ETV5及びETS2についてsiRNA処理を行うと、BARTプロモーター活性が低下し、BARTの転写産物の発現も低下することが分かった(特開2019-38755号公報)。
また、ETV1、ETV5及びETS2の中で、siRNAによるBART発現抑制効果が最も強いETV1について遺伝子欠損株を作製すると、BART miRNAの発現は顕著に低下した。そして、溶解感染誘導剤を添加した後の細胞において ETV1、ETV5及びETS2の発現量を解析すると、ETV1の発現は顕著に上昇し、BARTの発現も増加することが示された。また、EBV感染 ETV1欠損株に溶解感染誘導試薬を添加すると、ETV1欠損細胞では、野生株と比較して、溶解感染誘導のスイッチ遺伝子であるBRLF1及びBZLF1の発現が顕著に上昇していた。これらの結果は、ETV1が BARTの発現を制御し、ウイルス溶解感染の抑制に重要なことを示している(特開2019-38755号公報)。
さらに、本発明者らは、EBV関連癌細胞から単離した6種のEBV株(Akata、YCCEL1、SNU719、C666-1、Mutu III及びM81株)について、ゲノム中のBARTプロモーターの塩基配列を比較した。その結果、上咽頭癌細胞に由来するC666-1株において単一塩基欠損(NC_007605.01: 138557)が認められた(図3)。Akata、YCCEL1、Mutu III及びM81株のBARTプロモーター配列は配列番号1に示すとおりであり、これらの株で共通であった。SNU719株は、第180番目のヌクレオチドに点変異を有していた(配列番号2)。第513番目のヌクレオチドにおいて単一塩基欠損が認められたC666-1株のBARTプロモーター配列を、配列番号3に示す。
また、EBVゲノムの塩基配列(NC_007605.01)を配列番号10に示す。
各EBV株のプロモーター活性を調べたところ、C666-1株のプロモーター活性が高いことが示された(図4)。さらに、Akata株のプロモーターをC666-1株のプロモーターに変換した場合や、Akata株のプロモーターにおいて塩基置換を行った場合においても、プロモーター活性が高いことが確認された。これらの結果から、BARTプロモーターの第513番の塩基(EBVゲノムの塩基番号:138,557)における単一塩基欠損によりBARTプロモーター活性が高くなることが明らかになった(図5)。
次に、このSNP G138557-が上咽頭癌の発生/増殖等の性質に関連しているかどうかを明らかにするために、上咽頭癌の細胞株(5種類、8サンプル)と上咽頭癌組織由来の細胞(134サンプル)、EBV陽性胃癌の細胞株(2種類、2サンプル)、EBV陽性胃癌由来の細胞(26サンプル)の合計170サンプルのEBV遺伝子配列を分析した。
その結果、上咽頭癌の細胞由来のEBV遺伝子配列において、SNP G138557-の出現頻度は83.1%であった(142サンプル中、118サンプルにおいて変異を検出)。ロジスティック回帰分析により、SNP G138557-が上咽頭癌の発生と強い関連性があることが示された(P<0.001、オッズ比:5.67、95%CI 2.39-13.44)(表1)。なお、C666-1株の亜株であるC666-1-1~C666-1-4は、1種類とみなす。
Figure 2022062731000001
これらの結果から、BART microRNAの高発現が上咽頭癌の発生と特異的に関連していることが示された。
従って、本発明においては、BARTプロモーターの第513番目(EBVのゲノムの第138557番目)のグアニン塩基において一塩基多型を有するEBVの感染により生じたEBV関連癌に対する抗腫瘍剤が提供される。
ここで、ETV1阻害剤であるYK-4-279(CAS No. 1037184-44-3)をEBV感染細胞に添加すると、BARTの発現は用量依存的に低下し(図6)、EBV感染細胞においてアポトーシスが増加した(図7)。さらに、EBVが感染している胃上皮細胞由来のMKN28細胞を用いた免疫不全SCIDマウスモデルにおいて、YK-4-279は、EBV陽性細胞特異的に腫瘍細胞の増殖を抑制した(図8)。
YK-4-279の作用機序を図9に示した。EBV感染後の潜伏感染状態では、感染により発現誘導されたETS(ETV1)は、BART miRNAの転写を誘導する。前記の通り、BZLF1は潜伏状態からの再活性化を担う責任遺伝子であるが、潜伏感染状態ではBART miRNAの転写誘導によりBZLF1の発現が抑制されており、再活性化が起こらない。このため、腫瘍細胞において溶解感染が起こらずアポトーシスが抑制されている(図9左)。
これに対し、ETSの活性(図9の「ETS A」)を抑制すると、BART miRNAの転写誘導が抑制されて、BZLF1が発現する。これにより、細胞は溶解感染を引き起こしてアポトーシスにより死滅する。
従って、ETS活性を阻害すれば、溶解感染遺伝子BZLF1の発現が上昇し、アポトーシスを誘導することができる(図9)。
そこで本発明は、ETSファミリー転写因子の活性を阻害する物質を含む、EBV陽性上皮性腫瘍(EBV関連癌、上咽頭癌)に対する抗腫瘍剤、及びEBV陽性腫瘍細胞に対するアポトーシス誘導剤を提供する。
2.抗腫瘍剤及びアポトーシス誘導剤
本発明者らは、ETSファミリーに属する転写因子がBART miRNAの発現を誘導することによりEpstein-Barrウイルス関連癌の癌細胞がアポトーシスに陥ることが抑制されることを見出した(図9)。また、BARTプロモーターの第513番の塩基における単塩基多型(単一塩基欠損)によりBARTプロモーター活性が高くなることが明らかになった。従って、上記単一塩基欠損を有し活性が高くなったBARTプロモーターを有するEBウイルス関連癌に対し、ETSファミリーに属する転写因子の機能を阻害して、腫瘍細胞のアポトーシスを誘導することにより、Epstein-Barrウイルス関連癌の形成を抑制及び予防すること、及びEBV関連癌を治療することが可能である。
本発明は、ETSファミリー転写因子の活性を抑制する物質を含む、Epstein-Barrウイルス関連癌に特異的な抗腫瘍剤であって、EBV関連癌が、BARTプロモーターの第513番目の塩基の一塩基多型を有するEBVの感染により生じた癌に対する抗腫瘍剤を提供する。
(1) ETSファミリー転写因子の活性を抑制する物質
「ETSファミリー転写因子の活性を抑制する物質」とは、ETSファミリー遺伝子のメッセンジャーRNA(mRNA)の発現量を低下させる物質をいい、例えば、核酸、低分子化合物等が挙げられる。1つの実施態様では、ETSファミリー転写因子の活性を抑制する物質は、ETSファミリー遺伝子の機能又は発現を抑制する核酸である。このような核酸の例として、マイクロRNA(miRNA)が挙げられる。
本発明によれば、マイクロRNA(miRNA)を用いてETSファミリー遺伝子の発現を阻害することができる。miRNAとは、細胞内に存在する長さ20~25塩基ほどの1本鎖RNAであり、他の遺伝子の発現を調節する機能を有すると考えられているncRNA(non coding RNA)の一種である。miRNAは、RNAに転写された際にプロセシングを受けて生じ、標的配列の発現を抑制するヘアピン構造を形成する核酸として存在する。
また、本発明では、ETSファミリー転写因子の活性を抑制する物質として、RNA干渉(RNAi)用のsiRNA(Small interfering RNA)を生じさせる、ヘアピン状のshRNA(Short Hairpin RNA)、二本鎖RNA(Double Stranded RNA: dsRNA)、アンチセンス核酸、デコイ核酸、又はアプタマーなどを用いることもできる。
これらの阻害性核酸により、上記ETSファミリー遺伝子の発現を抑制することが可能である。阻害の対象となるETSファミリー遺伝子としては、以下のものが挙げられ、これらの中から単独で、又は2つ以上を適宜組み合わせて選択することができる。
GABPA、EHF、ERF、ERG、ELF1、ELF2、ELF3、ELF4、ELF5、FLI1、ELK1、ELK3、ELK4、ETS1、ETS2、ETV1、ETV2、ETV3、ETV4、ETV5、ETV6、ETV7、FEV、SPDEF、SPI1、SPIB、SPIC
本発明においては、上記ETSファミリー遺伝子のうち、ETV1、ETV5、ETS2及びEHFからなる群から選ばれる少なくとも1つが好ましい。特に好ましい実施形態において、上記ETSファミリー遺伝子は、ETV1である。
(i) RNA干渉
RNAi は、複数の段階を経て行われるマルチステッププロセスである。最初に、RNAi発現ベクターから発現したdsRNA又はshRNAが Dicerによって認識され、21~23 ヌクレオチドの siRNAs に分解される。次に、siRNAs は RNA 誘導型サイレンシング複合体 (RNA-Induced Silencing Complex: RISC) と呼ばれる RNAi 標的複合体に組み込まれ、RISC とsiRNAsとの複合体がsiRNAの配列と相補的な配列を含む標的mRNAに結合し、mRNAを分解する。標的mRNAは、siRNAに相補的な領域の中央で切断され、最終的に標的mRNAが速やかに分解されてタンパク質発現量が低下する。
siRNA分子は、当分野において周知の基準によって設計できる。例えば、標的mRNAの標的セグメントは、好ましくはAA、TA、GA又はCAで始まる連続する15~30塩基、好ましくは19~25塩基のセグメントを選択することができる。siRNA分子のGC比は、30~70%である。siRNAを細胞に導入するには、合成したsiRNAをプラスミドDNAに連結してこれを細胞に導入する方法、2本鎖RNAをアニールする方法などを採用することができる。
また、本発明は、RNAi効果をもたらすためにshRNAを使用することもできる。shRNA とは、ショートヘアピンRNAと呼ばれ、一本鎖の一部の領域が他の領域と相補鎖を形成するためにステムループ構造を有するRNA分子である。shRNAは、その一部がステムループ構造を形成するように設計することができる。例えば、ある領域の配列を配列Aとし、配列Aに対する相補鎖を配列Bとすると、配列A、スペーサー、配列Bの順でこれらの配列が一本のRNA鎖に存在するように連結し、全体で45~60塩基の長さとなるように設計する。スペーサーの長さも特に限定されるものではない。
配列Aは、標的となるETSファミリー遺伝子の一部の領域の配列である。標的領域は特に限定されるものではなく、任意の領域を候補にすることが可能である。好ましい配列Aの長さは19~25塩基である。
miRNAも、RNAiに基づく阻害性核酸であるため、shRNA又はsiRNAに準じて設計し合成することができる。
RNAi用の発現ベクターは、市販のプラスミド、ベクター等をベースに、市販の合成装置を用いて作製することができる。
(ii) アンチセンス核酸
本発明の別の態様において、ETSファミリー遺伝子の発現を阻害するためにアンチセンス核酸を使用することができる。アンチセンス核酸は、ETSファミリー遺伝子のmRNA又はDNA配列に結合できる一本鎖核酸配列(RNA又はDNAのいずれか)である。アンチセンス核酸配列の長さは、少なくとも15ヌクレオチドであり、例えば15~40ヌクレオチドである。アンチセンス核酸は、上記遺伝子配列に結合して二重鎖を形成し、ETSファミリー遺伝子の転写又は翻訳を抑制する。
アンチセンス核酸も、例えば、一般的に用いられるDNA合成装置を用いた核酸合成法を使用することができる。
(iii) デコイ核酸
本発明の別の態様では、デコイ核酸と呼ばれるおとり核酸を使用することにより、ETSファミリー遺伝子の発現を阻害することができる。
デコイ核酸は、ETSファミリー遺伝子の転写因子に結合してプロモーター活性を抑制することにより、ETSファミリー遺伝子発現を抑制する核酸であって、転写因子の結合部位を含む短いおとり核酸を意味する。この核酸が癌細胞内に導入されると、転写因子がこの核酸に結合する。これにより、転写因子のゲノム結合部位への結合が競合的に阻害され、その結果、転写因子の発現が抑制される。デコイ核酸は、ETSファミリー遺伝子のプロモーター配列をもとに、1本鎖又は2本鎖として設計することができる。デコイ核酸の長さは特に限定されるものではなく、15~60塩基、例えば20~40塩基である。
本発明で用いられるデコイ核酸は、当分野で公知の化学合成法又は生化学合成法を用いて製造することができる。また、鋳型となる塩基配列を単離又は合成した後に、PCR法又はクローニングベクターを用いた遺伝子増幅法を使用することもできる。さらに、細胞内でより安定なデコイ核酸を得るために、塩基等にアルキル化、アシル化等の化学修飾を付加することができる。
なお、デコイ核酸を使用した場合のプロモーターの転写活性の解析は、一般的に行なわれるルシフェラーゼアッセイ、RT-PCR等を採用することができる。
(iv) アプタマー
さらに、本発明は、アプタマーを用いてETSファミリー遺伝子の発現を阻害することができる。
アプタマーとは、特異的に標的物質に結合する能力を持つ合成DNA又はRNA分子及びペプチド性分子であり、試験管内において化学的に短時間で合成することができる。従って、ETSファミリー遺伝子の塩基配列を基準にして、あるいは、in vitro selection法又はSELEX法として知られている進化工学的手法により得ることができる。
(v) 低分子化合物
本発明において、ETSファミリー転写因子の活性を抑制する活性を有するものであれば、低分子化合物も用いることができる。
このような低分子化合物としては、例えばBRD32048(CAS No. 433694-46-3)、YK-4-279などが挙げられるが、これらの化合物に限定されるものではない。1つの実施形態において、ETSファミリー転写因子の活性を抑制する物質は、好ましくは、YK-4-279(CAS No. 1037184-44-3)である。
YK-4-279(CAS No. 1037184-44-3)の構造は、以下のとおりである。
Figure 2022062731000002
(2)抗腫瘍剤
本発明においては、上記ETSファミリー転写因子の活性を抑制する物質を抗腫瘍剤又はアポトーシス誘導剤として使用することができる。
本発明の抗腫瘍剤及びアポトーシス誘導剤の対象となる腫瘍の種類は、EBウイルス関連癌であれば特に限定されるものではなく、良性でも悪性でもよい。好ましくは、本発明の抗腫瘍剤及びアポトーシス誘導剤の対象となる腫瘍は、上皮性のものであり、より好ましくは、EBV関連胃癌及び上咽頭癌である。
「上皮性」とは、体表面や管腔臓器の粘膜及び分泌腺を構成する細胞を意味し、EBウイルス関連上皮性の腫瘍の例としては、EBウイルス関連胃癌、EBウイルス関連上咽頭癌が挙げられる。
本発明の抗腫瘍剤を医薬組成物として使用する場合、その投与経路は、上皮性癌に対する薬剤の投与に一般的に採用されている経路であれば特に限定されるものではなく、例えば経口、舌下、経消化管、経皮、点眼、静脈内注射、皮下注射、筋肉内注射、腹腔内注射、局所注射が挙げられ、好ましくは経口である。
本発明の抗腫瘍剤(医薬組成物)は、カプセル、錠剤、粉末等の固形剤であってもよく、溶液、懸濁液若しくは乳液等の液剤、又は軟膏、クリーム若しくはペースト等の半液体製剤であってもよい。
本発明の抗腫瘍剤(医薬組成物)の適切な剤形の例としては、懸濁液又は溶液が挙げられる。懸濁液又は剤形は、前記物質(例えば、RNAiを利用する核酸、低分子化合物等)の構造維持に適した緩衝剤、生理食塩水、ジメチルスルホキシド(DMSO)等を含んでいてもよい。
ETSファミリー転写因子の活性を抑制する物質は、単独で使用してもよく、又は医薬的に許容可能な他の成分と共に調合してもよい。医薬的に許容可能な他の成分の例としては、賦形剤、結合剤、崩壊剤、抗酸化剤、保存剤、補助剤、滑沢剤、甘味剤、香料等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
本発明の抗腫瘍剤は、有効成分であるETSファミリー遺伝子阻害物質を治療上有効量で含む。ここで、「治療上有効量」とは、その量の有効成分を対象に投与することにより、腫瘍細胞の増殖率を低下させることが可能な量を意味する。例えば、静脈内注射剤の場合、治療上有効量は、0.5~5重量%であり、例えば1~2重量%である。
本発明の抗腫瘍剤の投与量及び投与頻度は、対象の種、体重、性別、年齢、腫瘍疾患の進行度、投与経路といった種々の要因に依存して変化するが、医師等の当業者であれば、それぞれの要因を考慮して投与量を決定することができる。
例えば、本発明の抗腫瘍剤を体重60kgの成人に局所投与する場合、毎日1~3回、好ましくは1又は2回投与してもよく、1回あたりの投与量は、0.5~50mg/kgであり、好ましくは10~20mg/kgである。
上記の治療上有効量、投与量及び投与頻度は、典型的な数値を列挙したものであり、これを超える数値又は下回る数値であっても腫瘍細胞の増殖率が低下する場合もある。従って、上記の治療上有効量、投与量及び投与頻度を超える数値又は下回る数値であっても、本発明の抗腫瘍剤の治療上有効量、投与量及び投与頻度として包含される。
本発明のアポトーシス誘導剤の剤型、用法及び用量も、抗腫瘍剤に準じて適宜設定することができる。また、本発明のアポトーシス誘導剤をインビトロで使用する場合は、癌細胞培養培地に、DMSOに溶解した本発明を添加することで、アポトーシスを誘導することができる。
4.治療剤に対する応答性を検査する方法
本発明によって、EBV関連癌を有する被験者の抗腫瘍剤に対する応答性を検査する方法が提供され、当該方法は、上記被験者から採取された生体試料由来のEBVのBARTプロモーターにおける一塩基多型の有無を検出することを特徴とする。本発明の方法は、上記応答性を検査するに際し、当該プロモーターの第513番の塩基における一塩基多型を指標とすることができる。
前記一塩基多型(SNP)は、EBVのBARTプロモーターの第513番の塩基(ゲノムの塩基第138,557番の塩基)におけるものであり、対象患者由来のEBVが該当する位置に一塩基多型を有する場合に、その対象はEBV関連癌の治療剤に対する応答性が高いと予測される。
1つの実施形態において、本発明の方法において、EBVのBARTプロモーターにおける一塩基多型は、グアニンの単一欠損又はグアニンから他のヌクレオチド(すなわち、アデニン、シトシン又はチミン)への単一塩基置換であり、好ましくはグアニンの単一欠損である。他の実施形態において、本発明の方法におけるEBV関連癌は、上皮性のものであり、好ましくは、EBV関連胃癌又は上咽頭癌であり、より好ましくは、上咽頭癌である。EBV関連癌の治療剤に対する応答性が高いと予測された対象は、本発明の抗腫瘍剤及び/又はアポトーシス誘導剤によって有効に治療することができる。
対象患者から得る生体試料としては、任意の生体試料、例えば、血液、骨髄液、精液、腹腔液、尿等の体液及び胃、上咽頭等の組織由来の細胞等が挙げられる。1つの実施形態において、生体試料は、被験者の腫瘍に由来する試料(例えば、EBV関連胃癌及び上咽頭癌の細胞又は組織)である。検出対象となるEBVゲノムは、対象から得られる生物学的試料から、常法に従い、抽出及び精製し、その後の操作に適した形態に調製することができる。
一塩基多型の検出は、増幅産物を直接配列決定することによって(例えばダイレクトシークエンシング法)あるいは、変性勾配ゲル電気泳動法(DGGE: denaturing gradient gel electrophoresis)、一本鎖コンフォメーション多型解析(SSCP: single strand conformation polymorphism)、対立遺伝子特異的PCR(allele-specific PCR)、ASO(allele-specific oligonucleotide)によるハイブリダイーゼーション法、ミスマッチ部位の化学的切断(CCM:chemical cleavage of mismatches)、HET(heteroduplex method)法、PEX(primer extension)法、RCA(rolling circle amplification)法、制限酵素断片長多型分析法(RFLP:Restriction fragment length polymorphism)などによって行うことができるが、これらに限定されるものではない。
実施例
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。本発明の範囲はこれらの実施例により限定されるものではない。
1.材料及び方法
1.1 BARTプロモーター配列アライメント
Akata、YCCEL1、SNU719、C666-1、Mutu III及びM81のBARTプロモーター配列は、NCBI(National Cancer for Biotechnology Information)から得た。配列アライメントは、MView プログラムを用いた。
1.2 細胞培養
ヒト胃がん細胞株AGS及びMKN28、並びにヒトNPC HONE1細胞に対し、強化した緑色蛍光タンパク質(eGFP)及びネオマイシン耐性遺伝子を組み込んだ組換えEpstein-Barrウイルス(Burkittリンパ腫Akataに由来するウイルス株)を感染させた。EBVに自然感染したヒト胃癌細胞株SNU719細胞も実験に使用した。細胞は、10%ウシ胎児血清、100 U / mlペニシリン、及び100μg/mlストレプトマイシンを補充したRPMI培地(Sigma-Aldrich、St、MO)を用い、5%CO2インキュベーター内で培養した。EBV感染細胞(AGS、MKN28及びHONE1細胞)は、500μg/mlのG418(Promega、Madison、WI)を含む培地で培養することにより選択した。
1.3 プラスミド構築
各細胞株由来のゲノムDNAを鋳型とし、下記プライマー配列を用いて、KOD Plus Neo DNAポリメラーゼ(TOYOBO, Osaka, Japan)によりBARTプロモーター領域を増幅した。
フォワード:5’-CTAGGCTAGCCCATTCACAGGGGTATCCAG-3’(配列番号4)
リバース:5’-AGCTAAGCTTGAGGAACAACTTTGGCCTGA-3’ (配列番号5)
PCR条件は以下の通りである。
試薬:KOD Plus Neo
サイクル条件:94度2分、(98度10秒、57度30秒、68度30秒)x 40サイクル。
増幅した断片は、pGL4.18ベクター(Promega)に連結してクローン化した。
1.4 ルシフェラーゼアッセイ
BARTプロモーターで駆動するルシフェラーゼ遺伝子及びpGL4.74 Renillaルシフェラーゼ遺伝子を含むpGL4.18プラスミドを用いて細胞をトランスフェクトした。トランスフェクトには、Lipofectamine 2000(Invitrogen, Carlsbad, CA)を用い、48時間後にルシフェラーゼ活性を測定した。測定は、Dual-Glo(登録商標)Luciferase Assay Kitを用い、Lumat LB 9508 Single Tube Luminometer (Berthold Technologies, Bad Wildbad, Germany)により行った。各反応のため、firefly luciferase活性を Renilla luciferase活性に対し標準化した。
1.5 部位特異的突然変異誘発
欠失及び挿入変異は、オリジナルプラスミドDNAを鋳型とし、PCRにより導入した。
変異に用いたプライマーは以下の通りである。
Akata_P G del:
フォワード:5’-GAAGGAGCTGACACGAGTGCG-3’(配列番号6)
リバース:5’-CCCCACCCGCCGTGTCTG-3’(配列番号7)
C666_P G>C:
フォワード:5’-AAGGAGCTGACACGAGTGCGTAGAAAGGG-3’(配列番号8)
リバース:5’-GCCCCCACCCGCCGTGTCTG-3’(配列番号9)
PCR条件は以下の通りである。
試薬:KOD Plus Neo
サイクル条件:94℃2分、(98℃10秒、68℃30秒)x 40サイクル。
増幅したPCR産物は、DpnI制限酵素(TaKaRa Bio, Shiga, Japan)で処理し、環状化して変異プラスミドを構築した。各変異の導入は、シークエンシングにより確認した。
1.6 BARTプロモーターにおけるSNPの決定
NPC組織サンプル、細胞株及びGC組織サンプルからの全170個のEBV-単離配列を、NCBIデータベースから取得した。性別及び年齢によって定義された、癌の様々なタイプ間の表現型及びSNP G138557-存在の分布の違いを、カイ二乗検定又はフィッシャーの正確確率検定を使用して評価した。
さらに、SNP G138557に関連するNPCのオッズ比(OR)を計算した。 EBV感染NPCとEBVaGCとの間のBARTプロモーター遺伝子の他の変異体の分布も、カイ2乗検定又はフィッシャーの正確確率検定を使用して評価した。すべての統計分析は、両側有意水準をα = 0.05に設定したR3.5.1を使用して行った。
1.7 アクセッション番号
EBVゲノムの配列データ(1624806787及び1624813027)は、GenBank PopSetデータベースから、アクセッション番号AB850643.1-AB850660.1(EBV-NPC)、KJ411974.1(C666-1-2)、LN827525.1(C666-1-3)、KC617875.1(C666-1-4)、KF373730.1(M81)、EU828625.1(C15)、EU828626.1(C17)、EU828627.1(C18)、MG021314-MG021306 (EBV-GC)、AP015015.1(SNU719)、及びAP015016.1(YCCEL1)として得た。
1.8 統計解析
Student’s t-testは、すべてのデータ分析に使用した。カーブフィッティングと分析は、GraphPad Prismソフトウェア(GraphPad Software、San Diego, CA)を使用して行った。 <0.05の確率(P)値を、統計的に有意であるとみなした。すべての結果は、平均±標準偏差として表す。
1.9 腫瘍増殖抑制試験
胃上皮細胞由来のMKN28細胞(1×10個)をEBV感染細胞とEBV非感染細胞に分け、感染細胞及び非感染細胞をそれぞれ免疫不全SCIDマウスの背側に接種することにより、腫瘍を形成させた。この動物モデルにおいて、YK-4-279をマウスに週3回187.5mg/kgの用量で腹腔内接種したときの腫瘍増殖抑制試験を行った。
1.10 アポトーシスアッセイ
AGS細胞又はAGS-rEBV細胞は、0-15 EBのYK-4-279(Cayman)(下記式)又は、DMSOを処理し、48時間後にリン酸緩衝液で洗浄し、Annexin V (APC標識) と 7-amino- actinomycin D (7-AAD)を含む500amiのAnnexin V 結合緩衝液 (Annexin V Apoptosis Detection Kit APC; eBiosciences)でインキュベートした。室温で10分間インキュベーション後、細胞はFACS (FACS Canto II apparatus, BD Biosciences) で解析した。また、細胞はRNAを抽出し、BARTの発現を定量的PCRによって解析した。
2.結果:
2.1 BARTプロモーター塩基配列の比較
上咽頭癌細胞に由来するC666-1株において単一塩基欠損(NC_007605.01: 138557)が認められた(図3)
2.2 単一塩基多型によるBARTプロモーター活性の変化(図4、図5)
Akata株、SNU719株及びC666-1株のプロモーター部位をルシフェラーゼ発現ベクターに組み込んで活性を調べたところ、C666-1株のプロモーター活性が高いことが示された(図4)。さらに、Akata株のプロモーターをC666-1株のプロモーターに変換した場合(Akata_P G del.)、及びAkata株のプロモーター部位において6番目のグアニンをシトシンに置換した場合(C666_P G>C.)においても、プロモーター活性が高いことが確認された。これらの結果から、BARTプロモーター活性を高く保つためには、グアニンが5つ並んだ塩基配列が重要であり、BARTプロモーターの第513番の塩基(EBVゲノムの塩基番号:138,557)における単一欠損(SNP G138557-)によりBARTプロモーター活性が高くなることが明らかになった(図5)。
2.3 ETV1阻害剤をEBV感染細胞に用いたときのBART発現
以上の結果に基づき、ETV1 阻害剤 YK-4-279(CAS No. 1037184-44-3)をEBV感染AGS細胞へ添加すると、BARTの発現は容量依存的に低下し(図6)、アポトーシスも増加した(図7)。
図6は、ETV1阻害剤YK-4-279処理によるBART転写産物の発現抑制を示す図である。
黒バー:BART転写産物発現量. 0: DMSO処理。
発現量は、β-actinの発現量で補正している。ETV1阻害剤YK-4-279は、容量依存的にBART転写産物の発現量を低下させた。
図7は、YK-4-279処理によるEBV感染細胞株のアポトーシス誘導を示す図である。
YK-4-279処理は、EBV感染のAGS細胞においてのみアポトーシスを引き起こした。この結果は、EBV感染胃癌細胞株においてBART転写を抑制すると、アポトーシスが誘導されることを示している。
2.4 ETS阻害剤によるEBV感染腫瘍細胞特異的な増殖抑制
胃上皮細胞由来のMKN28細胞を接種した免疫不全SCIDマウスにおいて、EBV感染細胞を接種した群では、細胞が増殖して腫瘍を形成したのに対し、EBV非感染細胞を接種した群では腫瘍形成能力が低かった。このマウスに対し、YK-4-279を週3回187.5mg/kgの用量で腹腔内接種したところ、EBV感染細胞を用いた群において特異的に腫瘍細胞の増殖を抑制した(図8)。
配列番号4~9:合成DNA

Claims (11)

  1. ETSファミリー転写因子の活性を抑制する物質を含む、Epstein-Barr ウイルス(EBV)関連癌に対する抗腫瘍剤であって、EBV関連癌が、BARTプロモーターの第513番目の塩基に一塩基多型を有するEBVの感染により生じた癌である、前記抗腫瘍剤。
  2. 一塩基多型が欠失である、請求項1に記載の抗腫瘍剤。
  3. プロモーターの塩基配列が配列番号3に示されるものである、請求項1又は2に記載の抗腫瘍剤。
  4. EBV関連癌が胃癌又は上咽頭癌である、請求項1~3のいずれか1項に記載の抗腫瘍剤。
  5. ETSファミリー転写因子の活性を抑制する物質が、YK-4-279(CAS No. 1037184-44-3)である、請求項1~4のいずれか1項に記載の抗腫瘍剤。
  6. Epstein-Barr ウイルス(EBV)が感染した被験者から採取された生体試料由来のEBVのBARTプロモーターにおける一塩基多型の有無を検出することを特徴とする、当該被験者のEBV関連癌に対する抗腫瘍剤の応答性を検査する方法であって、当該プロモーターの第513番の塩基における一塩基多型を指標とする、前記方法。
  7. 第513番の塩基が一塩基多型を有する場合に、前記抗腫瘍剤に対する応答性が高いと予測する指標となる、請求項6に記載の方法。
  8. 一塩基多型が欠失である、請求項6又は7に記載の方法。
  9. プロモーターの塩基配列が配列番号3に示されるものである、請求項6~8のいずれか1項に記載の方法。
  10. EBV関連癌が胃癌又は上咽頭癌である、請求項6~9のいずれか1項に記載の方法。
  11. 抗腫瘍剤がYK-4-279(CAS No. 1037184-44-3)である、請求項6~10のいずれか1項に記載の方法。
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