ところで、例えば、自動車のタイヤハウスを構成するフェンダーライナーを、該自動車の車体に取り付けるときにも多数のクリップが用いられるが、フェンダーライナーの取り付けには、高い取付剛性が求められるため、種々のクリップの中でも所謂リベットクリップが用いられる。
一般に、このリベットクリップは、筒状部と該筒状部の筒軸方向の一端に設けられたフランジ部とを有するグロメット部材と、該筒状部の筒内に挿入される軸状部と該軸状部の軸方向の一端に設けられた頭部を有するピン部材とを有している。そして、ピン部材の軸状部がグロメット部材の筒状部の筒内に挿入されたときに、該筒状部が反筒内側に向かって広がることで、上記複数の被結合部材同士を結合させるように構成されている。
このようなリベットクリップを取り外す際には、ピン部材に対して、該ピン部材をグロメット部材の筒軸方向に沿って引き抜く方向(以下、引抜方向という)の力を与えて、該ピン部材を引抜方向に移動させる必要がある。このため、従来は、上記のようなリベットクリップを取り外すために、ピン部材の軸状部を、該軸状部の軸方向に直交する方向から挟持して、該挟持した状態でピン部材を上記引抜方向に持ち上げるようなクリップ取り外し工具が用いられていた。
しかし、上記のような、クリップ取り外し工具は、軸状部を挟持するような構成を採用する関係上、大型になりやすく、作業スペースが狭い位置に設けられたリベットクリップを取り外す場合に使用できないという問題があった。
そこで、特許文献1に記載のようなテコ運動を利用するクリップ取り外し工具を用いることが考えられた。しかしながら、テコ運動を利用するクリップ取り外し工具では、該テコ運動によってピン部材に与える力の方向が、グロメット部材の筒軸方向に対して傾きやすいため、ピン部材を上記引抜方向に適切に移動させることが困難であった。また、テコ運動を行うだけの作業スペースが必要となるため、結局、作業スペースが狭い位置に設けられたリベットクリップを取り外す場合に使用することが困難であった。さらに、リベットクリップが取り付けられた位置によっては、テコ運動の支点を確保できないことがあり、テコ運動を利用すること自体が不可能な場合があった。
また、特許文献1に記載のクリップ取り外し工具のように、嵌合溝が先端側に向かうに連れて溝幅が広がるテーパー形状をなしている工具では、該工具をピン部材の頭部とグロメット部材のフランジ部との間に挿し込んだ際に、軸状部の軸心と嵌合溝の溝幅方向の中央の位置とがずれやすく、頭部に対して上記引抜方向の力を均一に入力することが困難であった。
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、リベットクリップの取り外し作業の作業性を向上させることにある。
上記課題を解決するために、本発明は、複数の被結合部材同士を結合させるクリップを、該被結合部材から取り外すためのクリップ取り外し工具を対象として、上記クリップは、筒状部と該筒状部の筒軸方向の一端に設けられたフランジ部とを有するグロメット部材と、該筒状部の筒内に挿入される軸状部と該軸状部の軸方向の一端に設けられた頭部を有するピン部材とを有するリベットクリップであり、上記クリップ取り外し工具は、グリップ部と、上記グリップ部から延びるロッド部と、上記クリップの取り外し作業時に上記ピン部材の上記軸状部と嵌合する嵌合溝を有し、上記クリップの取り外し作業時に上記ピン部材の上記頭部と上記グロメット部材の上記フランジ部との間に挿し込まれ、上記ロッド部の先端部に設けられたヘッド部とを備え、上記ヘッド部は、上記クリップの取り外し作業時における、上記筒軸方向と該ヘッド部の挿し込み方向との両方に直交する側面方向から見て、基端側から先端側へ向かって厚みが薄くなる楔状をなし、上記嵌合溝は、上記クリップの取り外し作業時における上記筒軸方向から見て、上記先端側に開口するU字形状をなし、さらに上記嵌合溝は、上記先端側から上記基端側に向かって延びる平行部を有し、上記平行部の溝幅は、上記軸状部における上記頭部の近傍部分の軸直径と同じか又は該軸直径よりも大きい幅である、という構成にした。
この構成によると、ヘッド部は、上記側面方向から見て、基端側から先端側へ向かって厚みが薄くなる楔状をなしているため、ピン部材の軸状部と嵌合溝とを嵌合させるように、ピン部材の頭部とグロメット部材のフランジ部との間にヘッド部を挿し込んだときには、ヘッド部によって、該ヘッド部の挿込方向の力が、ピン部材をグロメット部材から引き抜く方向(以下、引抜方向という)の力に変換される。
また、嵌合溝の平行部の溝幅は、ピン部材の軸状部における頭部の近傍部分の軸直径と同じか又は該軸直径よりも大きい幅であるため、嵌合溝に軸状部が嵌合している間、嵌合溝の溝幅方向の中央線上に軸状部の軸心がほぼ位置する。このため、ピン部材の頭部に上記引抜方向の力を均一に入力することができる。これにより、ピン部材を上記引抜方向に移動させることができる。そして、筒状部が筒内側に向かって変位して、クリップを取付部材から取り外すことができる。尚、軸直径よりも大きい幅とは、例えば、軸状部に回転止めなどが設けられていた場合に、該回転止めの軸状部に対する突出量を考慮した幅のことをいう。
したがって、本発明では、ピン部材の軸状部を挟持することも、テコ運動を利用することもなく、ヘッド部を、嵌合溝とピン部材の軸状部とが嵌合するように、ピン部材の頭部とグロメット部材のフランジ部との間に挿し込むだけで、ピン部材に対して上記引抜方向の力を与えて、ピン部材を上記引抜方向に移動させることができ、クリップを被結合部材から容易に取り外すことができる。この結果、リベットクリップの取り外し作業の作業性を向上させることができる。
上記クリップ取り外し工具の一実施形態では、上記ヘッド部は、上記側面方向から見て、上記ロッド部の軸方向に対して傾斜して延びている。
すなわち、本発明のクリップ取り外し工具では、テコ運動を必要としないため、ロッド部の軸方向に対して、ヘッド部が傾斜して延びていたとしても作業性が低下することはない。そして、この構成によると、ロッド部全体が入り込めないような隙間にクリップが配置されていたとしても、ヘッド部のみを上記隙間に入り込ませることができ、クリップの取り外し作業を行うことができる。
ヘッド部が、上記側面方向から見て、ロッド部の軸方向に対して傾斜して延びているクリップ取り外し工具において、上記ロッド部は、該ロッド部の軸方向の中間部分に、上記クリップの取り外し作業時における上記筒軸方向に屈曲する屈曲部を有し、上記ロッド部における上記屈曲部よりも上記ヘッド部側を第1ロッド部とし、該ロッド部における上記屈曲部よりも上記グリップ部側を第2ロッド部とし、上記ヘッド部における、上記クリップの取り外し作業時に上記グロメット部材と接触する側の面を第1面としたときに、さらに上記ロッド部は、上記側面方向から見て、上記ヘッド部の上記第1面の延びる方向と上記第1ロッド部の軸方向とがなす鋭角側の角度が、上記ヘッド部の上記第1面の延びる方向と上記第2ロッド部の軸方向とがなす鋭角側の角度よりも大きくなるように構成されている、ことが望ましい。
この構成によると、ヘッド部が、上記側面方向から見て、ロッド部の軸方向に対して傾斜して延びていたとしても、ヘッド部からグリップ部までの高さ範囲を小さくすることができる。これにより、リベットクリップの取り外し作業時における、工具の作業スペースを小さくすることができるため、リベットクリップを取り外す際の作業性を一層向上させることができる。
上記クリップ取り外し工具において、上記グリップ部は、上記ロッド部における該グリップ部の取付部分の軸方向に延びており、上記グリップ部の表面部分には、上記ロッド部における上記取付部分の軸方向に延びる縦溝が形成されている、ことが望ましい。
すなわち、リベットクリップの取り外し作業では、ヘッド部を、ピン部材の頭部とグロメット部材のフランジ部との間に挿し込むことができるように工具をセットする必要がある。そこで、グリップ部の表面部分に、上記縦溝が設けられていれば、作業者は、ロッド部の上記取付部分の軸周りの、ヘッド部の回転角度を把握しやすくなる。これにより、リベットクリップを取り外す際の作業性を更に向上させることができる。
上記クリップ取り外し工具において、上記ヘッド部における、上記クリップの取り外し作業時において、上記グロメット部材と接触する側の面を第1面とし、上記ピン部材と接触する側の面を第2面として、上記側面方向から見て、上記第1面と上記第2面とのなす鋭角側の角度は、7°〜11°であり、上記ヘッド部の先端から基端までの長さは、上記嵌合溝の先端から基端までの長さの2倍〜3倍である、ことが望ましい。
すなわち、リベットクリップを取り外す際の作業性を向上させる観点からは、ヘッド部の先端の厚みを出来る限り薄くし、ヘッド部の基端の厚みを脚片部の拡径状態が解除される程度にピン部材を移動させることができるような厚みにするとともに、ヘッド部の先端から基端までの長さを出来る限り短くすることが望ましい。このため、ヘッド部の上記第1面と上記第2面とのなす鋭角側の角度を7°〜11°にするとともに、上記ヘッド部の上記先端から上記基端までの長さを、上記嵌合溝の上記先端から上記基端までの長さの2倍〜3倍にすることで、ヘッド部の先端及び基端の厚みを適切な厚みにするとともに、ヘッド部の先端から基端までの長さを出来る限り短くすることができるようになる。
以上説明したように、本発明に係るクリップ取り外し工具によると、ヘッド部は、クリップの取り外し作業時における、グロメット部の筒軸方向と上記ヘッド部の挿し込み方向との両方に直交する側面方向から見て、基端側から先端側へ向かって厚みが薄くなる楔状をなし、ヘッド部の嵌合溝は、上記クリップの取り外し作業時における上記筒軸方向から見て、上記先端側に開口するU字形状をなし、さらに上記嵌合溝は、上記先端側から上記基端側に向かって延びる平行部を有し、該平行部の溝幅は、上記軸状部における上記頭部の近傍部分の軸直径と同じか又は該軸直径よりも大きい幅であるため、上記ヘッド部を、ピン部材の頭部とグロメット部材のフランジ部との間に挿し込むだけで、ピン部材をグロメット部材から引き抜く方向に移動させることができる。これにより、テコ運動を利用する必要がなくなるため、リベットクリップの取り外し作業の作業性を向上させることができる。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るクリップ取り外し工具1(以下、単に工具1という)によって取り外されるリベットクリップ100(以下、単にクリップ100という)の一例である。このクリップ100は、複数(本実施形態では2つ)の被結合部材50同士、例えば、自動車のタイヤハウスを構成するフェンダーライナーと該自動車の車体(ここでは、タイヤハウスを構成するパネル材)とを結合させるときなどに使用されるクリップである。
クリップ100は、図1に示すように、被結合部材50に設けられた取付孔50aに挿入されるグロメット部材110と、該グロメット部材110の筒内に挿入される軸状部131を有するピン部材130とを有している。
グロメット部材110は、図1に示すように、筒状に並んだ複数(例えば4本)の脚片部121によって構成された筒状部120と、該筒状部120の筒軸方向の一端に設けられたフランジ部111とを有している。
フランジ部111は、図2に示すように、円板状をなしている。フランジ部111には、図2に示すように、筒状部120とは反対側の面に、該筒状部120とは反対側に向かって突出する複数(例えば4つ)の突出部113を有している。該複数の突出部113は、フランジ部111と同心状に等間隔に配置されている。各突出部113の径方向の外側の部分は、フランジ部111の外周縁に沿った形状になっている一方、各突出部113の径方向の内側の部分には、ピン部材130の後述する頭部132を収容可能な凹部が形成されている。また、相隣接する2つの突出部113の間の隙間は、その幅が、ピン部材130の軸状部131の径よりも大きくなるように構成されている。詳しくは後述するが、上記工具1のヘッド部10は、相隣接する2つの突出部113の間の隙間を通って、グロメット部材110のフランジ部111とピン部材130の頭部132との間に進入するようになっている。
筒状部120を構成する脚片部121は、図1及び図2に示すように、フランジ部111の周方向における、相隣接する2つの突出部113の間に相当する位置において、孔112の内周縁部から筒軸方向に延びているおり、周方向において、フランジ部111と同心状に等間隔に並んでいる。各脚片部121は、図1に示すように、筒軸方向に延びる脚部122と,該脚部122の先端部(フランジ部111とは反対側の端部)に設けられかつ径方向の内側に突出した係止片123とを有している。係止片123は、図1に示すように、ピン部材130の後述する第1凹溝133に係止する部分である。係止片123が、該係止溝133と係止した状態では、図1に示すように、脚片部123が、反筒内側に向かって広がるように、つまり、径方向の外側に拡径するように変形する。
ピン部材130は、上記軸状部131と、該軸状部131の上記軸方向の上記一側の端部に設けられかつ上記筒軸方向から見て、筒状部120の筒内よりも大径の頭部132とを有している。
頭部132は、図1及び図2に示すように、円板状をなしている。該頭部131の厚みは、グロメット部材110のフランジ部111の突出部113の突出量と同程度の大きさである。
軸状部131は、図1に示すように、頭部132から真っ直ぐに延びる第1軸部133と、第1軸部133の頭部132と反対側の端部から延びる細軸部134と、該細軸部134の先端に形成された先端部135とを有している。第1軸部133には、脚片部121が拡径した拡径状態で係止片123が係止する係止溝136が形成されている。第1軸部133における、係止溝136の軸方向の両側の部分は、それぞれ、該第1軸部133の他の部分よりも拡径した拡径部133aとなっている。また、第1軸部133の頭部132と反対側の端部は、細軸部134に近づくほど縮径するテーパー部133bとなっている。また、図7に示すように、テーパー部133bと細軸部134と先端部135とは、協働して、脚片部121の上記拡径状態が解除された状態において、該脚片部121の係止部123が収容される収容溝137を形成している。
第1軸部133からは、図1及び図2に示すように、ピン部材130が軸心C周りに回転するのを防止する回転止め部138が、径方向の外側に向かって突出している。回転止め部138は、図2に示すように、周方向に相隣接する2つの脚片部121の間の隙間に向かって延びている。これにより、ピン部材130が軸心C周りに回転しようとしても、回転止め部138と脚片部121とが当接して、ピン部材130の軸心C周りの回転が防止される。
次に、工具1の構成について説明する。
工具1は、図3及び図4に示すように、使用者が握る把持部としてのグリップ部10と、該グリップ部10から延びるロッド部20と、該ロッド部10の先端部に設けられたヘッド部30とを有している。
グリップ部10は、図4に示すように、略太鼓状をなしており、ロッド部20における該グリップ部10の取付部分の軸方向に沿って延びている。ロッド部20は、グリップ部10の長手方向の一端側から挿入されている。グリップ部10の内部には、ロッド部20が該ロッド部20の軸周りに(厳密には、後述する第2ロッド部22の軸周りに)回転しないようにするための回転止め具12が設けられている。また、グリップ部10は例えば樹脂で構成されている。
グリップ部10の表面部分には、ロッド部20の上記取付部分の軸方向(後述する、第2ロッド部22の軸方向)に延びる縦溝13が複数(本実施形態では4つ)設けられている。本実施形態では、縦溝13は、グリップ部10の周方向に等間隔に(つまり、90°毎に)形成されている。尚、縦溝13の数や長さは任意に設定することができる。
尚、グリップ部10の形状は、該グリップ部10が把持部として機能できる形状であれば、円柱状や角柱状であってもよい。また、縦溝13が確認可能であれば、グリップ部10をラバーで覆うようにしてもよい。
ロッド部20は、図3に示すように、正面方向(クリップ100の取り外し作業時におけるグロメット部材の筒軸方向(図6参照))から見たときには、グリップ部10から真っ直ぐに延びる一方、図4に示すように、側面方向(クリップ100の取り外し作業時における上記筒軸方向とヘッド部の挿込方向の両方に直交する方向(図5及び図7参照))から見たときには、長手方向の中間で屈曲されている。
ロッド部20は、屈曲された部分である屈曲部20aよりもヘッド部30側の部分を第1軸部21とし、該屈曲部20aよりもグリップ部10側の部分を第2ロッド部22としたときに、ヘッド部30の後述する第1面30aの延びる方向と第1ロッド部21の軸方向とがなす鋭角側の角度αが、ヘッド部30の第1面30aの延びる方向と第2ロッド部22の軸方向とがなす鋭角側の角度βよりも大きくなるように構成されている。これにより、ロッド部20が屈曲部20aを有していない場合と比較して、クリップ100の取り外し作業時における、工具1が配置される側の被結合部材50(以下、工具側被結合部材51という)に対する当該工具1の高さが減少する。つまり、第2ロッド部22は、クリップ100の取り外し作業時における、工具側被結合部材51に対する工具1の高さが減少するように、第1ロッド部21に対して屈曲している。尚、上記角度αは例えば50°程度であり、上記角度βは例えば40°程度である。このとき、第1ロッド部21の軸方向と第2ロッド部22の軸方向とのなす鋭角側の角度は10°程度になる。
ヘッド部30は、図3及び図4に示すように、ロッド部20の先端部、詳しくは、第1ロッド部21の先端部に設けられている。ヘッド部30は、図3に示すように、上記正面方向から見て、ロッド部20の径よりも幅広な形状となっており、幅方向の中央でかつ先端側の部分には、該先端側に向かって開口するU字形状をなしかつクリップ100の取り外し作業時に、ピン部材130の軸状部131と嵌合する嵌合溝31を有している。また、ヘッド部30は、上記正面方向から見て、嵌合溝31の溝幅方向の中央線Mに対して鏡面対象な形状をしている。
ヘッド部30における、嵌合溝31よりも幅方向の外側に位置する両部分は、それぞれ幅方向の外側に向かって膨出した形状をなしている。本実施形態では、ヘッド部30において、嵌合溝31の後述する平行部32の溝幅W1と該ヘッド部30の最大幅W2との比は、約1:2であるが、これに限定されない。
ヘッド部30は、図4に示すように、側方から見て、基端側から先端側へ向かって厚みが薄くなる楔状をなしている。具体的には、図5及び図7に示すように、ヘッド部30における、クリップ100の取り外し作業時にグロメット部材110と接触する側の面である第1面30aとしたときに、クリップ100の取り外し作業時にピン部材130と接触する側の面は、上記第1面30aに対して傾斜した第2面30bとなっている。このヘッド部30の角度、つまり、上記側面方向から見たときの、第1面30aと第2面30bとのなす鋭角側の角度γは、例えば、7〜11°である。また、本実施形態では、ヘッド部30の先端から基端までの長さL2は、嵌合溝31の先端から基端までの長さL1の2倍〜3倍の長さとなっている。これにより、ヘッド部30の基端側の厚みが、嵌合溝31がピン部材130の軸状部131と嵌合したときに、ピン部材130を、グロメット部材110の筒状部120の拡径状態を解除することができる程度に、該グロメット部材110から引き抜くことができるような厚みになるようになっている。尚、嵌合溝31の先端から基端までの長さL1は、後述する、回転止め部138の第1軸部133に対する突出量を考慮した軸直径D’の半分の長さよりも長い。
上記嵌合溝31は、先端側から基端側に向かって平行に延びる平行部32を有している。嵌合溝31の平行部32における溝幅W1は、本実施形態では、ピン部材130の軸状部13における頭部132の近傍部分、詳しくは、軸状部132における第1軸部133の軸直径Dよりも僅かに大きい幅に設定されている。より具体的には、平行部32が回転止め部138に対して摺動して、嵌合溝31が第1軸部133に嵌合できるような幅(本実施形態では、図6に示す、回転止め部138の突出量を加えた、第1軸部133の実効的な軸直径D’と同程度)に設定されている。尚、第1軸部133が回転止め部138を有さず、円柱状である場合には、溝幅W1は第1軸部133の軸直径Dと同程度の大きさになる。
平行部32の上記基端側の部分は、幅方向の中央の部分が、幅方向の外側の両側部分よりも上記基端側に位置するように湾曲した連結部33によって連結されている。尚、連結部33は必ずしも湾曲している必要はなく、直線的であってもよい。
ここで、上記工具1によって、クリップ100を取り外す際の、工具1とクリップ100のピン部材130との動きについて説明する。
初期状態では、図1に示すように、複数の被結合部材50がクリップ100によって結合されている。このとき、クリップ100は、グロメット部材110が複数の被結合部材50の取付孔50aに挿入された状態で、ピン部材130の軸状部131が、グロメット部材110の筒内に挿入されて、グロメット部材110の筒状部120が拡径している。
この初期状態からクリップ100を取り外す際には、図5に示すように、工具1のヘッド部30を、ピン部材130の頭部131とグロメット部材110のフランジ部111との間に挿し込む。このとき、図6に示すように、ヘッド部30は、嵌合溝31内に、突出部113の1つが位置するように、相隣接する2つの突出部113の間の隙間を通って挿入される。
ヘッド部30を軸状部132に向かって進入させていくと、ヘッド部30が楔状になしているため、該ヘッド部30の挿込方向の力が、ピン部材130をグロメット部材110から引き抜く方向(以下、引抜方向という)の力に変換されて、該ピン部材130が上記引抜方向に僅かに移動する。
ヘッド部30の進入を続けていくと、図5に示すように、嵌合溝31内に軸状部131が位置する。このとき、嵌合溝31が、先端側から基端側に向かって平行に延びる平行部32を有し、該平行部32の溝幅W1が、該平行部32が回転止め部138に対して摺動して、嵌合溝31が第1軸部133に嵌合するような幅に設定されていることにより、図6に示すように、上記正面方向から見て、嵌合溝31の幅方向の中央線M上に軸状部の軸心Cがほぼ位置する。尚、ほぼ位置するとは、嵌合溝31の幅方向の中央線M上に軸状部の軸心Cが位置している場合も含む。
そして、図6の状態から、さらにヘッド部30の進入を続けると、図7に示すように、ピン部材130が上記引抜方向に移動して、係止部123が第1軸部133の拡径部133aを超えたときに、筒状部120の脚片部121は、テーパー部133bの外周面に沿って縮径するように変位する。これにより、筒状部120の拡径状態が解除される。このときには、ピン部材130は、脚片部121の変位に伴って上記引抜方向に押し出される。筒状部120の係止部123は、図8に示すように、収容溝134内に収容される。
尚、実際の取り外し作業においては、上記引抜方向の力は、ピン部材130の頭部132における工具1側の部分にかかるため、ピン部材130の軸状部131は該ヘッド部30側とは反対側に僅かに傾く。しかし、このときには、グロメット部材110の筒状部120が軸状部131の傾きに合わせて変形するため、軸状部131の軸心と筒状部120の筒軸とは、ほぼ平行な状態のままとなる。このため、軸状部131がヘッド部30側とは反対側に僅かに傾いたとしても、ピン部材130を上記引抜方向に移動させることに対して、特に問題となることはない。
このように、本実施形態に係る工具1では、嵌合溝31が、先端側から基端側に向かって平行に延びる平行部32を有し、該平行部32の溝幅W1が、軸状部132における第1軸部133の軸直径Dよりも僅かに大きい幅、詳しくは、平行部32が回転止め部138に対して摺動して、嵌合溝31が第1軸部133に嵌合するような幅に設定されているため、ピン部材130の軸状部131(厳密には第1軸部133)がヘッド部30の嵌合溝31に嵌合している間は、上記正面方向から見て、嵌合溝31の溝幅方向の中央線M上に軸状部131の軸心Cがほぼ位置する。このため、ピン部材130の頭部132に、グロメット部材110の筒軸方向に沿った上記引抜方向の力を均一に入力することができる。これにより、ピン部材130を、グロメット部材の筒軸方向と平行に、上記引抜方向に移動させることができる。この結果、筒状部110の拡径状態が解除されるため、クリップ100を被結合部材50から取り外すことができるようになる。
したがって、従来のクリップ取り外し工具のようなテコ運動を必要とせず、ヘッド部30を、嵌合溝31とピン部材130の軸状部131とが嵌合するように、ピン部材130の頭部132とグロメット部材110のフランジ部111との間に挿し込むだけで、ピン部材130に対して、グロメット部材110の筒軸方向に沿った上記引抜方向の力を与えて、ピン部材130を上記引抜方向に移動させることができ、クリップ100を被結合部材50から容易に取り外すことができる。この結果、クリップ100の取り外し作業の作業性を向上させることができる。
また、本実施形態では、テコ運動が可能なスペースがない場合やテコ運動の支点を確保できないような場合でもクリップ100の取り外し作業を行うことができるため、例えば、工具側被結合部材51がタイヤハウスを構成するフェンダーライナーである場合、タイヤが車体に取り付けられたままの状態であってもクリップ100の取り外し作業を行うことができるようになる。
さらに、本実施形態では、クリップ100の取り外し作業において、テコ運動を必要としないため、工具1と工具側被結合部材51とが接触することがほとんどなく、該工具側被結合部材51を傷つけることなく、クリップ100の取り外し作業を行うことができる。
また、本実施形態では、嵌合溝31が平行部32を有していることにより、嵌合溝31がテーパー形状を有する場合と比較して、ヘッド部30全体の幅W2を小さくすることができる。これにより、グロメット部材110における、周方向に相隣接する2つの突出部113の間の隙間が比較的狭いクリップ100であっても、取り外しが可能となる。
さらに、本実施形態では、ヘッド部30は、上記側面方向から見て、ロッド部20(厳密には第1ロッド部21)の軸方向に対して傾斜して延びているため、ロッド部20全体が入り込めないような隙間にクリップ100が配置されていたとしても、ヘッド部30のみを上記隙間に入り込ませることができ、クリップ100の取り外し作業を行うことができる。尚、上述したように、本実施形態では、テコ運動を必要としないため、ヘッド部30が、ロッド部20に対して、傾斜して延びていたとしても作業性が低下することはない。
ここで、実際のクリップ100の取り外し作業では、ピン部材130の頭部132とグロメット部材110のフランジ部111との間にヘッド部30を挿し込むことができるように、工具1をセットする必要がある。この点について、本実施形態では、グリップ部10の表面部分に、ロッド部20におけるグリップ部10の取付部分の軸方向(本実施形態では、第2ロッド部22の軸方向)に延びる縦溝11が設けられているため、作業者は、該軸周りのヘッド部30の回転角度を把握することができる。これにより、リベットクリップを取り外す際の作業性を更に向上させることができる。
本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、請求の範囲の主旨を逸脱しない範囲で代用が可能である。
例えば、上述の実施形態では、ロッド部20は、屈曲部20aを有していたが、これに限らず、ロッド部20が該屈曲部20aを有さずに真っ直ぐに伸びていてもよい。
また、上述の実施形態では、ヘッド部30は、上記側面方向から見て、ロッド部20(厳密には第1ロッド部21)対して傾斜して延びていたが、これに限らず、ヘッド部30がロッド部20の軸方向(第1ロッド部21の軸方向)に沿って延び、工具1全体としてストレート形状をなしていてもよい。
さらに、上述の実施形態では、筒上部120を構成する脚片部121が、フランジ部111の周方向における、相隣接する2つの突出部113の間に相当する位置に設けられ、回転止め部138が、突出部113に向かって延びていたが、これに限らず、例えば、脚片部121が、周方向における突出部113に相当する位置に設けられ、回転止め部138が、相隣接する2つの突出部113の間に向かって延びるような構成であってもよい。この場合、嵌合溝31の平行部32の溝幅W1は、上述した、第1軸部133の実効的な軸直径D’よりも小さくなる。
また、上述の実施形態では、ヘッド部30の先端から基端までの長さL2は、嵌合溝31の先端から基端までの長さL1の2倍〜3倍であったが、これに限らず、ヘッド部30の先端から基端までの長さL2が、嵌合溝31の先端から基端までの長さL1の1倍以上2倍未満であってもよい。尚、この場合、ヘッド部の基端の厚みが適切な厚みになるように、第1面30aと第2面30bとのなす鋭角側の角度γを調整することが望ましい。
上述の実施形態は単なる例示に過ぎず、本発明の範囲を限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は請求の範囲によって定義され、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。