以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。
(シート)
本発明は、繊維幅が5000nm以下の繊維状セルロースを含むシートに関する。該シートの表面の蒸留水滴下30秒後の水接触角は40°以上であり、シートの表面の蒸留水滴下30秒後の水接触角をAとし、シートの厚み方向中心面の蒸留水滴下30秒後の水接触角をBとした場合、A/Bの値は0.75以上2.0以下である。本明細書においては、繊維幅が5000nm以下の繊維状セルロースは、微細繊維状セルロースということもあり、また上記シートは、微細繊維状セルロース含有シートということもある。
本発明のシートは上記構成を有するものであるため、高い寸法安定性と転写性(離型性)を兼ね備えた3次元成形体を成形することができる。
3次元成形においては、種々の形状を有する成形体を成形することができるが、例えば、凹凸構造等を有する成形体を成形することが好ましい。3次元成形は、微細な凹凸構造を形成し得るナノインプリントであることが好ましく、熱ナノインプリントであることがより好ましい。すなわち、本発明のシートは、3次元成形体用シートであることが好ましく、ナノインプリント用シートであることがより好ましく、熱ナノインプリント用シートであることがさらに好ましい。なお、ナノインプリントとは、原版(金型等)をシートに押し当てることでナノレベルの凹凸構造を形成する技術をいう。
本発明のシートから成形される3次元成形体は、寸法安定性に優れている。シートから成形される3次元成形体の寸法安定性は、シートにナノインプリント成形を施した際に形成される凹凸構造の幅又は高さの測定値が、基準となる設計寸法からどの程度乖離しているかによって評価することができる。ここで、評価用のナノインプリント成形体は以下の手順で作製する。
(1)金型に離型スプレーを塗布する。金型としては、サイヴァクス株式会社製、ナノインプリント用金型(型番:MTLS1/2/2−50×50)、ラインアンドスペースタイプ、シリコン製、仕様(幅:1μm、高さ:2μm、ピッチ:2μm)、成形面積:50mm×50mm、金型面積50mm×50mmを用いる。離型スプレーとしては、AGCセイケミカル社製、エアゾールタイプスプレー(型番:MR F−6758−AL)を用いる。
(2)本発明のシートを40mm×40mmにカットする。
(3)プレス機(アイダエンジニアリング社製、冷却器付き160mm角ミニテストプレス)に金型と、カットしたシートをセットする。
(4)圧力3MPa・温度180℃で1分間プレスした後、金型の温度が30℃になるまで冷却する。
(5)シートを金型から剥離し、凹凸構造を有するナノインプリント成形体を得る。
本発明のシートから成形される3次元成形体の寸法安定性は、具体的にはシートにナノインプリント成形を施した際に形成される凹凸構造の幅又は高さの測定値と基準となる設計寸法の差の絶対値を、基準となる設計寸法で除した値から評価できる。測定値と設計寸法の差の絶対値を、基準となる設計寸法で除した値は、0.05未満であることが好ましく、0.02未満であることがより好ましい。なお、シートにナノインプリント成形を施した際に形成される凹凸構造の幅又は高さの測定値は、凹凸面にプラチナを10分間蒸着し、電界放出形走査電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JSM−7400F)を用いて、加速電圧3.00kVの条件にて表面を観察することで測定することができる。通常、10箇所以上の凹凸構造の幅及び高さをそれぞれ測定し、その平均値を測定値とする。
本発明のシートから成形される3次元成形体は、離型性(金型離型性)にも優れている。本発明のシートから成形される3次元成形体の離型性(金型離型性)は、上述した方法でナノインプリント成形を10回連続して行い、10個のナノインプリント成形体を得た際に、10回目の成形で得られたナノインプリント成形体の凹凸面の形状から評価することができる。10個のナノインプリント成形体を作製する場合、1回目の成形時にのみ金型に離型剤をスプレー塗布する。凹凸面の形状(凸部の個数)は、凹凸面にプラチナを10分間蒸着し、電界放出形走査電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JSM−7400F)を用いて、加速電圧3.00kVの条件にて凹凸面の凸部形状を50箇所観察することで評価でき、凸部の形状の欠陥の有無から良否を判定できる。なお、凸部の形状の欠陥とは、成形体の一部が金型上に残留し、成形体に欠損がある状態をいう。本発明では、上記評価方法で評価した際の欠陥個数は10個未満であることが好ましく、欠陥個数は0個であることがより好ましい。
本発明のシートを成形することで得られる3次元成形体は、さらに他の3次元成形体を成形するために使用される工程紙(使い捨て金型)として用いられる場合もある。この場合、3次元成形体(工程紙)はさらなる熱工程を経ることになるが、本発明では、このような場合であっても3次元成形体(工程紙)自体が優れた寸法安定性を発揮することができる。3次元成形体(工程紙)の寸法安定性とは、本発明のシートから成形されるナノインプリント成形体(工程紙)の上にアルミナ塗布液を塗布し、120℃の熱風乾燥機で30分乾燥後に、アルミナ塗工層をナノインプリント成形体から剥離し、その後に残ったナノインプリント成形体(工程紙)の寸法安定性のことである。ナノインプリント成形体(工程紙)の寸法安定性は、上述した3次元成形体の寸法安定性の評価方法及び評価基準と同様に評価することができる。
また、3次元成形体(工程紙)は優れた転写性を発揮することもできる。ここで、3次元成形体(工程紙)の転写性とは、ナノインプリント成形体上にアルミナを塗布し、乾燥した後のアルミナ塗布膜の剥離性として評価することができる。具体的には、本発明のシートから成形されるナノインプリント成形体(工程紙)の上にアルミナ塗布液を塗布し、120℃の熱風乾燥機で30分乾燥後に、アルミナ塗工層をナノインプリント成形体から剥離し、剥離されたアルミナ塗布膜の凹凸パターンの凸部形状の欠陥の有無から転写性の良否を判定できる。凸部の形状の欠陥の有無は上述した3次元成形体の金型剥離性の評価方法と同様の方法で評価することができる。アルミナ塗布膜の凹凸パターンの形状においては、上記評価方法で評価した際の欠陥個数は2個未満であることが好ましく、欠陥個数は0個であることがより好ましい。
シートの表面の蒸留水滴下30秒後の水接触角は40°以上であればよく、50°以上であることが好ましく、60°以上であることがより好ましい。水接触角の上限値は特に限定されることはないが、一般的には150°以下であることが好ましい。シートの表面の水接触角を上記範囲内とすることにより、シート表面の撥水性を高めることができ、これにより、転写性(剥離性)をより高めることができる。
ここで、シートの表面の蒸留水滴下30秒後の水接触角は、JIS R 3257に準拠して測定される値であり、シートの表面に蒸留水を4μL滴下し、動的水接触角試験機(Fibro社製、1100DAT)を用いて滴下30秒後に測定される値である。
シートの厚み方向中心面の蒸留水滴下30秒後の水接触角は40°以上であることが好ましく、50°以上であることがより好ましく、60°以上であることがさらに好ましい。また、シートの厚み方向中心面の水接触角の上限値は特に限定されることはないが、一般的には150°以下であることが好ましい。シートの厚み方向中心面の蒸留水滴下30秒後の水接触角を測定する際には、まず、ウルトラミクロトームUC−7(JEOL社製)によって、シートの厚み方向の中心線で切り出して、シートの厚み方向中心面を露出させる。その後、シートの表面の水接触角の測定方法と同じ方法で水接触角を測定する。
シートの表面の蒸留水滴下30秒後の水接触角をAとし、シートの厚み方向中心面の蒸留水滴下30秒後の水接触角をBとした場合、A/Bの値は0.75以上であればよく、0.85以上であることがより好ましい。また、A/Bの値は2.0以下であればよく、1.8以下であることが好ましく、1.5以下であることがさらに好ましい。本発明においては、シートの表面の蒸留水滴下30秒後の水接触角と、シートの厚み方向中心面の蒸留水滴下30秒後の水接触角のいずれもが所定値以上であることが好ましく、すなわち、シートの厚み方向で撥水性に大きな差がないことが好ましい。本発明のシートはこのような性質を有しているため、凹凸構造を形成する3次元成形時においても凹凸面において優れた離型性を発揮しやすい。
本発明のシートの100℃から150℃を測定温度域とする熱膨張係数は、25ppm/K未満であることが好ましく、20ppm/K未満であることがより好ましく、15ppm/K未満であることがさらに好ましい。なお、100℃から150℃を測定温度域とする熱膨張係数は、1ppm/Kであってもよい。シートの熱膨張係数を上記範囲内とすることにより、3次元成形時の成形体の寸法安定性をより効果的に高めることができる。
ここで、シートの100℃から150℃を測定温度域とする熱膨張係数は、熱機械分析機に試験サンプルをセットし、100℃から150℃へ温度を昇温させた際の1℃当たりの長さ変化を測定することで算出される。測定の前には、温度を30℃、150℃、30℃と順に変化させる工程を経ることが好ましく、その後、30℃から150℃へ昇温させ、その中で100℃から150℃へ昇温させた際の1℃当たりの長さ変化を測定することが好ましい。
本発明のシートの厚みは特に限定されるものではないが、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましく、20μm以上であることがさらに好ましい。またシートの厚みの上限値は、特に限定されないが、たとえば1000μm以下とすることができる。なお、シートの厚みは、触針式厚さ計(マール社製、ミリトロン1202D)で測定することができる。
本発明のシートの坪量は、10g/m2以上であることが好ましく、20g/m2以上であることがより好ましく、30g/m2以上であることがさらに好ましい。また、シートの坪量は、500g/m2以下であることが好ましく、300g/m2以下であることがより好ましい。ここで、シートの坪量は、JIS P 8124に準拠し、算出することができる。
(微細繊維状セルロース)
本発明のシートは、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロース(微細繊維状セルロース)を含む。微細繊維状セルロースの含有量は、シートの全質量に対して、30質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることがさらに好ましい。また、微細繊維状セルロースの含有量は、シートの全質量に対して、90質量%以下であることが好ましい。
微細繊維状セルロースを得るための繊維状セルロース原料としては特に限定されないが、入手しやすく安価である点から、パルプを用いることが好ましい。パルプとしては、木材パルプ、非木材パルプ、脱墨パルプを挙げることができる。木材パルプとしては例えば、広葉樹クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)、サルファイトパルプ(SP)、溶解パルプ(DP)、ソーダパルプ(AP)、未晒しクラフトパルプ(UKP)、酸素漂白クラフトパルプ(OKP)等の化学パルプ等が挙げられる。また、セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等の機械パルプ等が挙げられるが、特に限定されない。非木材パルプとしてはコットンリンターやコットンリント等の綿系パルプ、麻、麦わら、バガス等の非木材系パルプ、ホヤや海草等から単離されるセルロース、キチン、キトサン等が挙げられるが、特に限定されない。脱墨パルプとしては古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられるが、特に限定されない。本実施態様のパルプは上記の1種を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。上記パルプの中で、入手のしやすさという点で、セルロースを含む木材パルプ、脱墨パルプが好ましい。木材パルプの中でも化学パルプはセルロース比率が大きいため、繊維微細化(解繊)時の微細繊維状セルロースの収率が高く、またパルプ中のセルロースの分解が小さく、軸比の大きい長繊維の微細繊維状セルロースが得られる点で好ましい。中でもクラフトパルプ、サルファイトパルプが最も好ましく選択される。軸比の大きい長繊維の微細繊維状セルロースを用いると高強度のシートが得られる傾向がある。
微細繊維状セルロースの平均繊維幅は、電子顕微鏡で観察して、5000nm以下である。平均繊維幅は、好ましくは2nm以上1000nm以下、より好ましくは2nm以上100nm以下であり、より好ましくは2nm以上50nm以下であり、さらに好ましくは2nm以上10nm以下であるが、特に限定されない。微細繊維状セルロースの平均繊維幅が2nm未満であると、セルロース分子として水に溶解しているため、微細繊維状セルロースとしての物性(強度や剛性、寸法安定性)が発現しにくくなる傾向がある。なお、微細繊維状セルロースは、たとえば繊維幅が5000nm以下である単繊維状のセルロースであり、1000nm以下であることがより好ましい。
微細繊維状セルロースの電子顕微鏡観察による平均繊維幅の測定は以下のようにして行う。濃度0.05質量%以上0.1質量%以下の微細繊維状セルロースの水系懸濁液を調製し、この懸濁液を親水化処理したカーボン膜被覆グリッド上にキャストしてTEM観察用試料とする。幅の広い繊維を含む場合には、ガラス上にキャストした表面のSEM像を観察してもよい。構成する繊維の幅に応じて1000倍、5000倍、10000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。但し、試料、観察条件や倍率は下記の条件を満たすように調整する。
(1)観察画像内の任意箇所に一本の直線Xを引き、該直線Xに対し、20本以上の繊維が交差する。
(2)同じ画像内で該直線と垂直に交差する直線Yを引き、該直線Yに対し、20本以上の繊維が交差する。
上記条件を満足する観察画像に対し、直線X、直線Yと交錯する繊維の幅を目視で読み取る。こうして少なくとも重なっていない表面部分の画像を3組以上観察し、各々の画像に対して、直線X、直線Yと交錯する繊維の幅を読み取る。このように少なくとも20本×2×3=120本の繊維幅を読み取る。微細繊維状セルロースの平均繊維幅はこのように読み取った繊維幅の平均値である。
微細繊維状セルロースの繊維長は特に限定されないが、0.1μm以上1000μm以下が好ましく、0.1μm以上800μm以下がさらに好ましく、0.1μm以上600μm以下が特に好ましい。繊維長を上記範囲内とすることにより、微細繊維状セルロースの結晶領域の破壊を抑制でき、また微細繊維状セルロースのスラリー粘度を適切な範囲とすることができる。なお、微細繊維状セルロースの繊維長は、TEM、SEM、AFMによる画像解析より求めることができる。
微細繊維状セルロースはI型結晶構造を有していることが好ましい。ここで、微細繊維状セルロースがI型結晶構造をとっていることは、グラファイトで単色化したCuKα(λ=1.5418Å)を用いた広角X線回折写真より得られる回折プロファイルにおいて同定できる。具体的には、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。
微細繊維状セルロースに占めるI型結晶構造の割合は30%以上であることが好ましく、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは70%以上である。この場合、耐熱性と低線熱膨張率発現の点でさらに優れた性能が期待できる。結晶化度については、X線回折プロファイルを測定し、そのパターンから常法により求められる(Seagalら、Textile Research Journal、29巻、786ページ、1959年)。
微細繊維状セルロースは、置換基を有するものであることが好ましく、置換基はアニオン基であることが好ましい。アニオン基としては、例えば、リン酸基又はリン酸基に由来する置換基(単にリン酸基ということもある)、カルボキシル基又はカルボキシル基に由来する置換基(単にカルボキシル基ということもある)、及び、スルホン基又はスルホン基に由来する置換基(単にスルホン基ということもある)から選択される少なくとも1種であることが好ましく、リン酸基及びカルボキシル基から選択される少なくとも1種であることがより好ましく、リン酸基であることが特に好ましい。すなわち、本発明で用いられる微細繊維状セルロースはリン酸化セルロースであることが好ましい。
微細繊維状セルロースは、リン酸基又はリン酸基に由来する置換基を有するものであることが好ましい。リン酸基はリン酸からヒドロキシル基を取り除いたものにあたる、2価の官能基である。具体的には−PO3H2で表される基である。リン酸基に由来する置換基は、リン酸基が縮重合した基、リン酸基の塩、リン酸エステル基などの置換基が含まれ、イオン性置換基であっても、非イオン性置換基であってもよい。
本発明では、リン酸基又はリン酸基に由来する置換基は、下記式(1)で表される置換基であってもよい。
式(1)中、a、b、m及びnはそれぞれ独立に整数を表す(ただし、a=b×mである);αn(n=1以上n以下の整数)およびα’はそれぞれ独立にR又はORを表す。Rは、水素原子、飽和−直鎖状炭化水素基、飽和−分岐鎖状炭化水素基、飽和−環状炭化水素基、不飽和−直鎖状炭化水素基、不飽和−分岐鎖状炭化水素基、芳香族基、又はこれらの誘導基である;βは有機物または無機物からなる1価以上の陽イオンである。
<リン酸基導入工程>
リン酸基導入工程は、セルロースを含む繊維原料に対し、リン酸基を有する化合物及びその塩から選択される少なくとも1種(以下、「リン酸化試薬」又は「化合物A」という)を反応させることにより行うことができる。このようなリン酸化試薬は、乾燥状態または湿潤状態の繊維原料に粉末や水溶液の状態で混合してもよい。また別の例としては、繊維原料のスラリーにリン酸化試薬の粉末や水溶液を添加してもよい。
リン酸基導入工程は、セルロースを含む繊維原料に対し、リン酸基を有する化合物及びその塩から選択される少なくとも1種(リン酸化試薬又は化合物A)を反応させることにより行うことができる。なお、この反応は、尿素及びその誘導体から選択される少なくとも1種(以下、「化合物B」という)の存在下で行ってもよい。
化合物Aを化合物Bの共存下で繊維原料に作用させる方法の一例としては、乾燥状態または湿潤状態の繊維原料に化合物Aおよび化合物Bの粉末や水溶液を混合する方法が挙げられる。また別の例としては、繊維原料のスラリーに化合物Aおよび化合物Bの粉末や水溶液を添加する方法が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高いことから、乾燥状態の繊維原料に化合物Aおよび化合物Bの水溶液を添加する方法、または湿潤状態の繊維原料に化合物Aおよび化合物Bの粉末や水溶液を添加する方法が好ましい。また、化合物Aと化合物Bは同時に添加してもよいし、別々に添加してもよい。また、初めに反応に供試する化合物Aと化合物Bを水溶液として添加して、圧搾により余剰の薬液を除いてもよい。繊維原料の形態は綿状や薄いシート状であることが好ましいが、特に限定されない。
本実施態様で使用する化合物Aは、リン酸基を有する化合物及びその塩から選択される少なくとも1種である。
リン酸基を有する化合物としては、リン酸、リン酸のリチウム塩、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩などが挙げられるが、特に限定されない。リン酸のリチウム塩としては、リン酸二水素リチウム、リン酸水素二リチウム、リン酸三リチウム、ピロリン酸リチウム、またはポリリン酸リチウムなどが挙げられる。リン酸のナトリウム塩としてはリン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、またはポリリン酸ナトリウムなどが挙げられる。リン酸のカリウム塩としてはリン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、またはポリリン酸カリウムなどが挙げられる。リン酸のアンモニウム塩としては、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウムなどが挙げられる。
これらのうち、リン酸基の導入の効率が高く、後述する解繊工程で解繊効率がより向上しやすく、低コストであり、かつ工業的に適用しやすい観点から、リン酸、リン酸のナトリウム塩、またはリン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩が好ましい。リン酸二水素ナトリウム、またはリン酸水素二ナトリウムがより好ましい。
また、反応の均一性が高まり、かつリン酸基導入の効率が高くなることから化合物Aは水溶液として用いることが好ましい。化合物Aの水溶液のpHは特に限定されないが、リン酸基の導入の効率が高くなることから7以下であることが好ましく、パルプ繊維の加水分解を抑える観点からpH3以上pH7以下がさらに好ましい。化合物Aの水溶液のpHは例えば、リン酸基を有する化合物のうち、酸性を示すものとアルカリ性を示すものを併用し、その量比を変えて調整してもよい。化合物Aの水溶液のpHは、リン酸基を有する化合物のうち、酸性を示すものに無機アルカリまたは有機アルカリを添加すること等により調整してもよい。
繊維原料に対する化合物Aの添加量は特に限定されないが、化合物Aの添加量をリン原子量に換算した場合、繊維原料(絶乾質量)に対するリン原子の添加量は0.5質量%以上100質量%以下が好ましく、1質量%以上50質量%以下がより好ましく、2質量%以上30質量%以下が最も好ましい。繊維原料に対するリン原子の添加量が上記範囲内であれば、微細繊維状セルロースの収率をより向上させることができる。繊維原料に対するリン原子の添加量を100質量%以下とすることにより、収率向上の効果とコストのバランスをとることができる。一方、セルロース繊維に対するリン原子の添加量を上記下限値以上とすることにより、収率を高めることができる。
本実施態様で使用する化合物Bとしては、尿素、ビウレット、1−フェニル尿素、1−ベンジル尿素、1−メチル尿素、1−エチル尿素などが挙げられる。
化合物Bは化合物A同様に水溶液として用いることが好ましい。また、反応の均一性が高まることから化合物Aと化合物Bの両方が溶解した水溶液を用いることが好ましい。繊維原料(絶乾質量)に対する化合物Bの添加量は1質量%以上500質量%以下であることが好ましく、10質量%以上400質量%以下であることがより好ましく、100質量%以上350質量%以下であることがさらに好ましく、150質量%以上300質量%以下であることが特に好ましい。
化合物Aと化合物Bの他に、アミド類またはアミン類を反応系に含んでもよい。アミド類としては、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、アセトアミド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。アミン類としては、メチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどが挙げられる。これらの中でも、特にトリエチルアミンは良好な反応触媒として働くことが知られている。
リン酸基導入工程においては加熱処理を施すことが好ましい。加熱処理温度は、繊維の熱分解や加水分解反応を抑えながら、リン酸基を効率的に導入できる温度を選択することが好ましい。具体的には50℃以上300℃以下であることが好ましく、100℃以上250℃以下であることがより好ましく、130℃以上200℃以下であることがさらに好ましい。また、加熱には減圧乾燥機、赤外線加熱装置、マイクロ波加熱装置を用いてもよい。
加熱処理の際、化合物Aを添加した繊維原料スラリーに水が含まれている間において、繊維原料を静置する時間が長くなると、乾燥に伴い水分子と溶存する化合物Aが繊維原料表面に移動する。そのため、繊維原料中の化合物Aの濃度にムラが生じる可能性があり、繊維表面へのリン酸基の導入が均一に進行しない恐れがある。乾燥による繊維原料中の化合物Aの濃度ムラ発生を抑制するためには、ごく薄いシート状の繊維原料を用いるか、ニーダー等で繊維原料と化合物Aを混練又は攪拌しながら加熱乾燥又は減圧乾燥させる方法を採ればよい。
加熱処理に用いる加熱装置としては、スラリーが保持する水分及びリン酸基などの繊維の水酸基への付加反応で生じる水分を常に装置系外に排出できる装置であることが好ましく、例えば送風方式のオーブン等が好ましい。装置系内の水分を常に排出すれば、リン酸エステル化の逆反応であるリン酸エステル結合の加水分解反応を抑制できることに加えて、繊維中の糖鎖の酸加水分解を抑制することもでき、軸比の高い微細繊維を得ることができる。
加熱処理の時間は、加熱温度にも影響されるが繊維原料スラリーから実質的に水分が除かれてから1秒以上300分以下であることが好ましく、1秒以上1000秒以下であることがより好ましく、10秒以上800秒以下であることがさらに好ましい。本発明では、加熱温度と加熱時間を適切な範囲とすることにより、リン酸基の導入量を好ましい範囲内とすることができる。
リン酸基導入工程は、少なくとも1回行えば良いが、複数回繰り返すこともできる。この場合、より多くのリン酸基が導入されるので好ましい。本発明においては、例えば、リン酸基導入工程を2回行うことも好ましい態様である。
リン酸基の導入量は、微細繊維状セルロース1g(質量)あたり0.10mmol/g以上であることが好ましく、0.20mmol/g以上であることがより好ましく、0.50mmol/g以上であることがさらに好ましく、1.00mmol/g以上であることが特に好ましい。また、リン酸基の導入量は、微細繊維状セルロース1g(質量)あたり3.65mmol/g以下であることが好ましく、3.50mmol/g以下であることがより好ましく、3.00mmol/g以下であることがさらに好ましい。リン酸基の導入量を上記範囲内とすることにより、繊維原料の微細化を容易にし、微細繊維状セルロースの安定性を高めることができる。また、リン酸基の導入量を上記範囲内とすることにより、電池用セパレータ塗液用増粘剤として良好な特性を発揮することができる。なお、本明細書において、微細繊維状セルロースが有するリン酸基の含有量(リン酸基の導入量)は、後述するように微細繊維状セルロースが有するリン酸基の強酸性基量と等しい。
リン酸基の繊維原料への導入量は、伝導度滴定法により測定することができる。具体的には、解繊処理工程により微細化を行い、得られた微細繊維状セルロース含有スラリーをイオン交換樹脂で処理した後、水酸化ナトリウム水溶液を加えながら電気伝導度の変化を求めることにより、導入量を測定することができる。
伝導度滴定では、アルカリを加えていくと、図1に示した曲線を与える。最初は、急激に電気伝導度が低下する(以下、「第1領域」という)。その後、わずかに伝導度が上昇を始める(以下、「第2領域」という)。さらにその後、伝導度の増分が増加する(以下、「第3領域」という)。すなわち、3つの領域が現れる。なお、第2領域と第3領域の境界点は、伝導度の2回微分値、すなわち伝導度の増分(傾き)の変化量が最大となる点で定義される。このうち、第1領域で必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中の強酸性基量と等しく、第2領域で必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中の弱酸性基量と等しくなる。リン酸基が縮合を起こす場合、見かけ上弱酸性基が失われ、第1領域に必要としたアルカリ量と比較して第2領域に必要としたアルカリ量が少なくなる。一方、強酸性基量は、縮合の有無に関わらずリン原子の量と一致することから、単にリン酸基導入量(またはリン酸基量)、または置換基導入量(または置換基量)と言った場合は、強酸性基量のことを表す。すなわち、図1に示した曲線の第1領域で必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して、置換基導入量(mmol/g)とする。
<カルボキシル基導入工程>
微細繊維状セルロースがカルボキシル基を有するものである場合、カルボキシル基導入工程を経ることで微細繊維状セルロースにカルボキシル基を導入することができる。カルボキシル基導入工程では、TEMPO酸化処理などの酸化処理やカルボン酸由来の基を有する化合物、その誘導体、またはその酸無水物もしくはその誘導体によって繊維原料を処理することで、微細繊維状セルロースにカルボキシル基を導入することができる。
カルボキシル基を有する化合物としては特に限定されないが、マレイン酸、コハク酸、フタル酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、イタコン酸等のジカルボン酸化合物やクエン酸、アコニット酸等トリカルボン酸化合物が挙げられる。
カルボキシル基を有する化合物の酸無水物としては特に限定されないが、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、無水グルタル酸、無水アジピン酸、無水イタコン酸等のジカルボン酸化合物の酸無水物が挙げられる。
カルボキシル基を有する化合物の誘導体としては特に限定されないが、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物のイミド化物、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物の誘導体が挙げられる。カルボキシル基を有する化合物の酸無水物のイミド化物としては特に限定されないが、マレイミド、コハク酸イミド、フタル酸イミド等のジカルボン酸化合物のイミド化物が挙げられる。
カルボキシル基を有する化合物の酸無水物の誘導体としては特に限定されない。例えば、ジメチルマレイン酸無水物、ジエチルマレイン酸無水物、ジフェニルマレイン酸無水物等の、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物の少なくとも一部の水素原子が置換基(例えば、アルキル基、フェニル基等)で置換されたものが挙げられる。
カルボキシル基導入工程において、TEMPO酸化処理を行う場合、その処理をpHが6以上8以下の条件で行うことも好ましい。このような処理工程は中性TEMPO酸化処理ともいう。中性TEMPO酸化処理は、例えば、リン酸ナトリウム緩衝液(pH=6.8)に、パルプと、触媒としてTEMPO(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル)等のニトロキシラジカル、犠牲試薬として次亜塩素酸ナトリウムを添加することで行うことができる。さらに亜塩素酸ナトリウムを共存させることによって、酸化の過程で発生するアルデヒドを、効率的にカルボキシル基まで酸化することが出来る。
カルボキシル基の導入量は、微細繊維状セルロース1g(質量)あたり0.10mmol/g以上であることが好ましく、0.20mmol/g以上であることがより好ましく、0.50mmol/g以上であることがさらに好ましく、1.00mmol/g以上であることが特に好ましい。また、カルボキシル基の導入量は、3.65mmol/g以下であることが好ましく、3.50mmol/g以下であることがより好ましく、3.00mmol/g以下であることがさらに好ましい。
カルボキシル基の導入量は伝導度滴定法で測定することができる。伝導度滴定法による測定の際には、得られた微細繊維状セルロース含有スラリーに、水酸化ナトリウム水溶液を加えながら伝導度の変化を求めることにより、導入量を測定する。
伝導度滴定法では、アルカリを加えていくと、図2に示した曲線を与える。この曲線は、電気伝導度が減少した後、伝導度の増分(傾き)がほぼ一定となるまでを第1領域、その後、伝導度の増分(傾き)が増加する第2領域に区分される。なお、第1領域、第2領域の境界点は、伝導度の2回微分値、すなわち伝導度の増分(傾き)の変化量が最大となる点で定義される。図2で示した曲線の第1領域で必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象の微細繊維状セルロース含有スラリー中の固形分(g)で除して、カルボキシル基の導入量(mmol/g)とする。
<アルカリ処理>
微細繊維状セルロースを製造する場合、リン酸基導入工程やカルボキシル基導入工程といった置換基導入工程と、後述する解繊処理工程との間にアルカリ処理を行ってもよい。アルカリ処理の方法としては、特に限定されないが、例えば、アルカリ溶液中に、イオン性置換基導入繊維を浸漬する方法が挙げられる。
アルカリ溶液に含まれるアルカリ化合物は、特に限定されないが、無機アルカリ化合物であってもよいし、有機アルカリ化合物であってもよい。アルカリ溶液における溶媒としては水または有機溶媒のいずれであってもよい。溶媒は、極性溶媒(水、またはアルコール等の極性有機溶媒)が好ましく、少なくとも水を含む水系溶媒がより好ましい。
また、アルカリ溶液のうちでは、汎用性が高いことから、水酸化ナトリウム水溶液、または水酸化カリウム水溶液が特に好ましい。
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液の温度は特に限定されないが、5℃以上80℃以下が好ましく、10℃以上60℃以下がより好ましい。
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液への浸漬時間は特に限定されないが、5分以上30分以下が好ましく、10分以上20分以下がより好ましい。
アルカリ処理におけるアルカリ溶液の使用量は特に限定されないが、イオン性置換基導入繊維の絶対乾燥質量に対して100質量%以上100000質量%以下であることが好ましく、1000質量%以上10000質量%以下であることがより好ましい。
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液使用量を減らすために、アルカリ処理工程の前に、イオン性置換基導入繊維を水や有機溶媒により洗浄しても構わない。アルカリ処理後には、取り扱い性を向上させるために、解繊処理工程の前に、アルカリ処理済みイオン性置換基導入繊維を水や有機溶媒により洗浄することが好ましい。
<解繊処理>
イオン性置換基導入繊維は、解繊処理工程で解繊処理される。解繊処理工程では、通常、解繊処理装置を用いて、繊維を解繊処理して、微細繊維状セルロース含有スラリーを得るが、処理装置、処理方法は、特に限定されない。
解繊処理装置としては、高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミルなどを使用できる。あるいは、解繊処理装置としては、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、またはビーターなど、湿式粉砕する装置等を使用することもできる。解繊処理装置は、上記に限定されるものではない。好ましい解繊処理方法としては、粉砕メディアの影響が少なく、コンタミの心配が少ない高速解繊機、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザーが挙げられる。
解繊処理の際には、繊維原料を、水と有機溶媒を単独または組み合わせて希釈してスラリー状にすることが好ましいが、特に限定されない。分散媒としては、水の他に、極性有機溶剤を使用することができる。好ましい極性有機溶剤としては、アルコール類、ケトン類、エーテル類、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、またはジメチルアセトアミド(DMAc)等が挙げられるが、特に限定されない。アルコール類としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、またはt−ブチルアルコール等が挙げられる。ケトン類としては、アセトンまたはメチルエチルケトン(MEK)等が挙げられる。エーテル類としては、ジエチルエーテルまたはテトラヒドロフラン(THF)等が挙げられる。分散媒は1種であってもよいし、2種以上でもよい。また、分散媒中に繊維原料以外の固形分、例えば水素結合性のある尿素などを含んでも構わない。
本発明では、微細繊維状セルロースを濃縮、乾燥させた後に解繊処理を行ってもよい。この場合、濃縮、乾燥の方法は特に限定されないが、例えば、微細繊維状セルロースを含有するスラリーに濃縮剤を添加する方法、一般に用いられる脱水機、プレス、乾燥機を用いる方法等が挙げられる。また、公知の方法、例えばWO2014/024876、WO2012/107642、およびWO2013/121086に記載された方法を用いることができる。また、濃縮した微細繊維状セルロースをシート化してもよい。該シートを粉砕して解繊処理を行うこともできる。
微細繊維状セルロースを粉砕する際に粉砕に用いる装置としては、高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミル、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、ビーターなど、湿式粉砕する装置等を使用することもできるが特に限定されない。また、処理条件も好ましい重合度が得られる条件であれば特に限定されない。
(フッ素含有化合物/シロキサン結合含有化合物)
本発明のシートは、フッ素含有化合物及びシロキサン結合含有化合物から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。この場合、本発明のシートは、フッ素含有化合物及びシロキサン結合含有化合物から選択されるいずれか一方を含んでもよく、フッ素含有化合物及びシロキサン結合含有化合物の両方を含んでもよい。なお、フッ素含有化合物やシロキサン結合含有化合物は、撥水性を発揮することができるため、これらの化合物をまとめて撥水性化合物と呼ぶこともできる。
<フッ素含有化合物>
フッ素含有化合物は、1つの化合物中に少なくとも1つのフッ素原子を有する化合物である。フッ素含有化合物は1つの化合物中に2つ以上のフッ素原子を有するものであることが好ましい。
フッ素含有化合物は、フルオロアルキル基、フルオロオキシアルキル基、フルオロアルケニル基、フルオロアルカンジイル基及びフルオロオキシアルカンジイル基から選択される少なくとも1つを含むフッ素含有化合物であることが好ましい。中でも、フッ素含有化合物は、フルオロアルキル基を含む化合物であることが好ましい。フルオロアルキル基の炭素数は4以上12以下が好ましく、4以上10以下がより好ましく、6以上8以下がさらに好ましい。フルオロアルキル基の炭素数を上記範囲内とすることにより、フッ素含有化合物の表面エネルギーの低下を抑制しつつも、溶媒への溶解性を高めることができる。
ここで、フルオロアルキル基、フルオロオキシアルキル基、フルオロアルケニル基、フルオロアルカンジイル基、フルオロオキシアルカンジイル基とはアルキル基、オキシアルキル基、アルケニル基、アルカンジイル基、オキシアルカンジイル基が持つ水素の一部、あるいは全てがフッ素に置き換わった置換基である。いずれの基も、主にフッ素原子と炭素原子から構成される置換基であり、構造中に分岐があってもよい。また、上記基が複数連結していてもよい。
また、上記のフッ素含有化合物は、反応性部位を有してもよい。反応性部位とは、熱又は光などの外部エネルギーにより他の成分と反応する部位を指す。このような反応性部位としては、アルコキシシリル基、シリルエーテル基、アルコキシシリル基が加水分解されたシラノール基、カルボキシル基、水酸基、エポキシ基、ビニル基、アリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基などが挙げられる。中でも、反応性部位は、反応性やハンドリング性の観点から、アルコキシシリル基、シリルエーテル基、シラノール基、エポキシ基、ビニル基、アリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基が好ましく、ビニル基、アリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基がより好ましく、アクリロイル基、メタクリロイル基が特に好ましい。
フッ素含有化合物は、フッ素含有モノマー、フッ素含有シランカップリング剤、フッ素含有界面活性剤、フッ素含有樹脂等の形態であることが好ましい。中でも、フッ素含有化合物はフッ素含有樹脂であることが好ましく、フッ素含有樹脂は非晶質、結晶質のいずれのものを用いてもよい。フッ素含有樹脂としては、テトラフルオロエチレン(TFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル(FA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン(FEP)、テトラフルオロエチレン−エチレン(ETFE)、ビニリデンフロライド(VDF)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、又は下記一般式(1)で表される単位を構成単位として有する重合体又は共重合体を挙げることができる。
中でも、フッ素含有化合物は、フッ素含有樹脂の水性エマルジョン、フッ素含有樹脂の水系ディスパージョンであることが好ましく、微細繊維状セルロース含有スラリーとの親和性の観点から水性エマルジョンであることがより好ましい。フッ素含有樹脂の水性エマルジョンあるいは水系ディスパージョンの市販品としては、例えば、AG−E500D(AGC株式会社)、AG−E080(AGC株式会社)、MR W−6833−AL(AGCセイケミカル株式会社)、D−210C(ダイキン化学株式会社)などを挙げることができ、これらの製品を利用することができる。
<シロキサン結合含有化合物>
シロキサン結合含有化合物は、1つの化合物中に少なくとも1つのシロキサン結合を含む化合物である。シロキサン結合含有化合物は1つの化合物中に2つ以上のシロキサン結合を有するものであることが好ましい。シロキサン結合含有化合物は、シロキサン結合を含む有機ケイ素化合物であることが好ましい。
シロキサン結合含有化合物は、変性シリコーンオイル、シリコーン系シランカップリング剤、シリコーン樹脂等の形態であることが好ましく、シロキサン結合含有化合物はシリコーン樹脂であることがより好ましい。
変性シリコーンオイルは、ストレートシリコーンオイルと変性シリコーンオイルに分類される。ストレートシリコーンオイルは、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、チルハイドロジェンシリコーンオイル等が挙げられ、例えば、信越シリコーン株式会社製のジメチルシリコーンオイル(KF−96)等の使用が可能である。変性シリコーンオイルは、オルガノポリシロキサンの一部が各種有機基で置換されたものであり、有機基としては、アミノ基、エポキシ基、カルボキシル基、カルビノール基、メタクリル基、メルカプト基、フェノール基、ポリエーテル基、メチルスチリル基、アルキル基、高級脂肪酸エステル変性基、親水性特殊変性基、高級脂肪酸含有基、フッ素変性基等が挙げられ、例えば、信越シリコーン株式会社製の変性シリコーンオイル(KF−3935)等の使用が可能である。
シリコーン系シランカップリング剤は、官能基としてビニル基、エポキシ基、スチルリ基、メタクリル基、アクリル基、アミノ基、イソシアヌレート基、ウレイド基、メルカプト基、イソシアネート基等を有するシランカップリング剤であることが好ましい。例えば、信越シリコーン株式会社製のN−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン(KBM−603)等の使用が可能である。
シリコーン樹脂は、3次元のシロキサン網目構造で構成された高分子の樹脂であり、ストレートシリコーン樹脂と変性シリコーン樹脂に分類される。ストレートシリコーン樹脂としては、メチルシリコーン樹脂とメチルフェニルシリコーン樹脂等が挙げられ、変性シリコーン樹脂としては、アルキド変性シリコーン樹脂、エポキシ変性シリコーン樹脂、アクリル変性シリコーン樹脂、ポリエステル変性シリコーン樹脂が挙げられる。
中でも、シロキサン結合含有化合物は、シリコーン樹脂の水性エマルジョン、シリコーン樹脂の水系ディスパージョンであることが好ましく、微細繊維状セルロース含有スラリーとの親和性の観点から水性エマルジョンであることがより好ましい。シリコーン樹脂の水性エマルジョンあるいは水系ディスパージョンの市販品としては、例えば、KM−740T(信越シリコーン株式会社)、POLON MF−14(信越シリコーン株式会社)、SM8706EX(東レ・ダウコーニング株式会社)などを挙げることができ、これらの製品を利用することができる。
<フッ素含有化合物/シロキサン結合含有化合物の含有量>
フッ素含有化合物及びシロキサン結合含有化合物から選択される少なくとも1種の含有量は、シートの全質量に対して、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、12質量%以上であることがさらに好ましい。また、フッ素含有化合物及びシロキサン結合含有化合物から選択される少なくとも1種の含有量は、シートの全質量に対して、70質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましい。
なお、フッ素含有化合物及びシロキサン結合含有化合物から選択される少なくとも1種の含有量は、微細繊維状セルロース100質量部に対して、5質量部以上であることが好ましく、10質量部以上であることがより好ましく、15質量部以上であることがさらに好ましい。また、フッ素含有化合物及びシロキサン結合含有化合物から選択される少なくとも1種の含有量は、微細繊維状セルロース100質量部に対して、70質量部以下であることが好ましく、50質量部以下であることがより好ましい。
フッ素含有化合物及びシロキサン結合含有化合物から選択される少なくとも1種の含有量を上記範囲内とすることにより、シートから成形される3次元成形体の寸法安定性と転写性(離型性)を効果的に高めることができる。
なお、シート中のフッ素含有化合物及びシロキサン結合含有化合物から選択される少なくとも1種の含有量は、例えば、NMR測定やMSのフラグメント解析、UV解析などを用いて分析することができる。
(親水性樹脂)
本発明のシートは、親水性樹脂を含むことが好ましい。親水性樹脂は、シートの強度、密度及び化学的耐性などを向上させることができる。親水性樹脂は、たとえばSP値が9.0以上であることが好ましい。また、親水性樹脂は、たとえば100mlのイオン交換水に親水性樹脂が1g以上溶解するものであることが好ましい。
親水性樹脂としては、例えば、ポリエチレングリコール、セルロース誘導体(ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等)、カゼイン、デキストリン、澱粉、変性澱粉、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール(アセトアセチル化ポリビニルアルコール等)、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリアクリル酸塩類、ポリアクリルアミド、アクリル酸アルキルエステル共重合体、ウレタン系共重合体などを挙げることができる。中でも、親水性樹脂は、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルアルコール(PVA)、変性ポリビニルアルコール(変性PVA)及びポリエチレンオキサイド(PEO)から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
親水性樹脂の分子量は5万以上800万以下であることが好ましく、10万以上500万以下であることがより好ましい。
親水性樹脂の含有量は、シートの全質量に対して、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、12質量%以上であることがさらに好ましい。また、親水性樹脂の含有量は、シートの全質量に対して、70質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましい。
なお、親水性樹脂の含有量は、微細繊維状セルロース100質量部に対して、5質量部以上であることが好ましく、10質量部以上であることがより好ましく、15質量部以上であることがさらに好ましい。また、親水性樹脂の含有量は、微細繊維状セルロース100質量部に対して、70質量部以下であることが好ましく、50質量部以下であることがより好ましい。
親水性樹脂の含有量を上記範囲内とすることにより、シートの強度、密度、化学的耐性などをより一層向上させることができる。
(任意成分)
本発明のシートには、上述した成分以外の任意成分が含まれていてもよい。任意成分としては、たとえば、消泡剤、潤滑剤、紫外線吸収剤、染料、顔料、安定剤、界面活性剤等を挙げることができる。
また、本発明のシートは、任意成分として、有機イオンを含んでいてもよい。有機イオンとしては、テトラアルキルアンモニウムイオンやテトラアルキルホスホニウムイオンを挙げることができる。テトラアルキルアンモニウムイオンとしては、例えば、テトラメチルアンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、テトラプロピルアンモニウムイオン、テトラブチルアンモニウムイオン、テトラペンチルアンモニウムイオン、テトラヘキシルアンモニウムイオン、テトラヘプチルアンモニウムイオン、トリブチルメチルアンモニウムイオン、ラウリルトリメチルアンモニウムイオン、セチルトリメチルアンモニウムイオン、ステアリルトリメチルアンモニウムイオン、オクチルジメチルエチルアンモニウムイオン、ラウリルジメチルエチルアンモニウムイオン、ジデシルジメチルアンモニウムイオン、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムイオン、トリブチルベンジルアンモニウムイオンが挙げられる。テトラアルキルホスホニウムイオンとしては、例えば、テトラメチルホスホニウムイオン、テトラエチルホスホニウムイオン、テトラプロピルホスホニウムイオン、テトラブチルホスホニウムイオン、およびラウリルトリメチルホスホニウムイオンが挙げられる。また、テトラプロピルオニウムイオン、テトラブチルオニウムイオンとして、それぞれテトラn−プロピルオニウムイオン、テトラn−ブチルオニウムイオンなども挙げることができる。
また、本発明のシートには、親水性樹脂の他に、熱可塑性樹脂エマルジョン、熱硬化性樹脂エマルジョン、光硬化性樹脂エマルジョン等が添加されてもよい。熱可塑性樹脂エマルジョン、熱硬化性樹脂エマルジョン、光硬化性樹脂エマルジョンの具体例としては、特開2009−299043号公報に記載のものが挙げられる。
(シートの製造方法)
シートの製造工程は、繊維幅が5000nm以下の繊維状セルロースを含むスラリーを得る工程と、このスラリーを基材上に塗工する工程、又は、スラリーを抄紙する工程を含む。中でも、シートの製造工程は、繊維幅が5000nm以下の繊維状セルロースを含むスラリー(以下、単にスラリーということもある)を基材上に塗工する工程を含むことが好ましい。スラリーを得る工程では、繊維幅が5000nm以下の繊維状セルロースに加えて、フッ素含有化合物及びシロキサン結合含有化合物から選択される少なくとも1種と、親水性樹脂と、をさらに混合してもよい。
<塗工工程>
塗工工程は、繊維幅が5000nm以下の繊維状セルロースを含むスラリーを基材上に塗工し、これを乾燥して形成されたシートを基材から剥離することによりシートを得る工程である。塗工装置と長尺の基材を用いることで、シートを連続的に生産することができる。
塗工工程で用いる基材の材質は、特に限定されないが、スラリーに対する濡れ性が高いものの方が乾燥時のシートの収縮等を抑制することができて良いが、乾燥後に形成されたシートが容易に剥離できるものを選択することが好ましい。中でも樹脂板又は金属板が好ましいが、特に限定されない。例えばアクリル板、ポリエチレンテレフタレート板、塩化ビニル板、ポリスチレン板、ポリ塩化ビニリデン板等の樹脂板や、アルミ板、亜鉛板、銅板、鉄板等の金属板及び、それらの表面を酸化処理したもの、ステンレス板、真ちゅう板等を用いることができる。
塗工工程において、スラリーの粘度が低く、基材上で展開してしまう場合、所定の厚み、坪量のシートを得るため、基材上に堰止用の枠を固定して使用してもよい。堰止用の枠の質は特に限定されないが、乾燥後に付着するシートの端部が容易に剥離できるものを選択することが好ましい。中でも樹脂板または金属板を成形したものが好ましいが、特に限定されない。例えばアクリル板、ポリエチレンテレフタレート板、塩化ビニル板、ポリスチレン板、ポリ塩化ビニリデン板等の樹脂板や、アルミ板、亜鉛板、銅板、鉄板等の金属板及び、それらの表面を酸化処理したもの、ステンレス板、真ちゅう板等を成形したものを用いることができる。
スラリーを塗工する塗工機としては、例えば、ロールコーター、グラビアコーター、ダイコーター、カーテンコーター、エアドクターコーター等を使用することができる。厚みをより均一にできることから、ダイコーター、カーテンコーター、スプレーコーターが好ましい。
塗工温度は特に限定されないが、20℃以上45℃以下であることが好ましく、25℃以上40℃以下であることがより好ましく、27℃以上35℃以下であることがさらに好ましい。塗工温度が上記下限値以上であれば、スラリーを容易に塗工でき、上記上限値以下であれば、塗工中の分散媒の揮発を抑制できる。
塗工工程においては、シートの仕上がり坪量が10g/m2以上500g/m2以下、好ましくは20g/m2以上300g/m2以下になるようにスラリーを塗工することが好ましい。坪量が上記範囲内となるように塗工することで、強度に優れたシートが得られる。
塗工工程は、基材上に塗工したスラリーを乾燥させる工程を含むことが好ましい。乾燥方法としては、特に限定されないが、非接触の乾燥方法でも、シートを拘束しながら乾燥する方法の何れでもよく、これらを組み合わせてもよい。
非接触の乾燥方法としては、特に限定されないが、熱風、赤外線、遠赤外線または近赤外線により加熱して乾燥する方法(加熱乾燥法)、真空にして乾燥する方法(真空乾燥法)を適用することができる。加熱乾燥法と真空乾燥法を組み合わせてもよいが、通常は、加熱乾燥法が適用される。赤外線、遠赤外線または近赤外線による乾燥は、赤外線装置、遠赤外線装置または近赤外線装置を用いて行うことができるが、特に限定されない。加熱乾燥法における加熱温度は特に限定されないが、20℃以上150℃以下とすることが好ましく、25℃以上105℃以下とすることがより好ましい。加熱温度を上記下限値以上とすれば、分散媒を速やかに揮発させることができ、上記上限値以下であれば、加熱に要するコストの抑制及び微細繊維状セルロースが熱によって変色することを抑制できる。
<抄紙工程>
シートの製造工程は、繊維幅が5000nm以下の繊維状セルロースを含むスラリーを抄紙する工程を含んでもよい。抄紙工程で抄紙機としては、長網式、円網式、傾斜式等の連続抄紙機、これらを組み合わせた多層抄き合わせ抄紙機等が挙げられる。抄紙工程では、手抄き等公知の抄紙を行ってもよい。
抄紙工程では、スラリーをワイヤー上で濾過、脱水して湿紙状態のシートを得た後、プレス、乾燥することでシートを得る。スラリーを濾過、脱水する場合、濾過時の濾布としては特に限定されないが、微細繊維状セルロースや他の成分は通過せず、かつ濾過速度が遅くなりすぎないことが重要である。このような濾布としては特に限定されないが、有機ポリマーからなるシート、織物、多孔膜が好ましい。有機ポリマーとしては特に限定されないが、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のような非セルロース系の有機ポリマーが好ましい。具体的には孔径0.1μm以上20μm以下、例えば1μmのポリテトラフルオロエチレンの多孔膜、孔径0.1μm以上20μm以下、例えば1μmのポリエチレンテレフタレートやポリエチレンの織物等が挙げられるが、特に限定されない。
スラリーからシートを製造する方法としては、特に限定されないが、例えばWO2011/013567に記載の製造装置を用いる方法等が挙げられる。この製造装置は、微細繊維状セルロースを含むスラリーを無端ベルトの上面に吐出し、吐出されたスラリーから分散媒を搾水してウェブを生成する搾水セクションと、ウェブを乾燥させて繊維シートを生成する乾燥セクションとを備えている。搾水セクションから乾燥セクションにかけて無端ベルトが配設され、搾水セクションで生成されたウェブが無端ベルトに載置されたまま乾燥セクションに搬送される。
採用できる脱水方法としては特に限定されないが、紙の製造で通常に使用している脱水方法が挙げられ、長網、円網、傾斜ワイヤーなどで脱水した後、ロールプレスで脱水する方法が好ましい。また、乾燥方法としては特に限定されないが、紙の製造で用いられている方法が挙げられ、例えば、シリンダードライヤー、ヤンキードライヤー、熱風乾燥、近赤外線ヒーター、赤外線ヒーターなどの方法が好ましい。
(積層シート)
本発明は、繊維幅が5000nm以下の繊維状セルロースを含むシートと、シートの少なくとも一方の面側に樹脂層と、を有する積層シートに関するものでもある。繊維幅が5000nm以下の繊維状セルロースを含むシートは、上述した本発明のシートであることが好ましい。ここで、該積層シートの樹脂層側の表面の蒸留水滴下30秒後の水接触角は40°以上であり、積層シートの樹脂層側の表面の蒸留水滴下30秒後の水接触角をA'とし、シートの厚み方向中心面の蒸留水滴下30秒後の水接触角をB'とした場合、A'/B'の値は0.75以上2.0以下である。なお、樹脂層は、上述したシートの少なくとも一方の面上に直接積層されるものであることが好ましい。
積層シートの樹脂層側の表面の蒸留水滴下30秒後の水接触角は40°以上であればよく、50°以上であることが好ましく、60°以上であることがより好ましい。水接触角の上限値は特に限定されることはないが、一般的には150°以下であることが好ましい。積層シートの樹脂層側の表面の水接触角を上記範囲内とすることにより、シート表面の撥水性を高めることができ、これにより、転写性(剥離性)をより高めることができる。
ここで、シートの表面の蒸留水滴下30秒後の水接触角は、JIS R 3257に準拠して測定される値であり、積層シートの樹脂層側の表面に蒸留水を4μL滴下し、動的水接触角試験機(Fibro社製、1100DAT)を用いて滴下30秒後に測定される値である。
積層シートの樹脂層側の表面の蒸留水滴下30秒後の水接触角をA'とし、シートの厚み方向中心面の蒸留水滴下30秒後の水接触角をB'とした場合、A'/B'の値は0.75以上であればよく、0.85以上であることがより好ましい。また、A'/B'の値は2.0以下であればよく、1.8以下であることが好ましく、1.5以下であることがさらに好ましい。本発明においては、積層シートの厚み方向で撥水性に大きな差がないことが好ましい。本発明のシートはこのような性質を有しているため、凹凸構造を形成する3次元成形時においても凹凸面において優れた離型性を発揮しやすい。
本発明の積層シートの100℃から150℃を測定温度域とする熱膨張係数は、25ppm/K未満であることが好ましく、20ppm/K未満であることがより好ましく、15ppm/K未満であることがさらに好ましい。なお、100℃から150℃を測定温度域とする熱膨張係数は、1ppm/Kであってもよい。積層シートの熱膨張係数を上記範囲内とすることにより、3次元成形時の成形体の寸法安定性をより効果的に高めることができる。積層シートの100℃から150℃を測定温度域とする熱膨張係数は、上述したシートの熱膨張係数と同様の方法で測定することができる。
樹脂層は、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ウレタン樹脂、ポリエチレン樹脂及びポリビニルアルコール樹脂から選択される少なくとも1種を含む層であることが好ましい。中でも、樹脂層は、フッ素樹脂、シリコーン樹脂及びポリカーボネート樹脂から選択される少なくとも1種を含む層であることがより好ましく、フッ素樹脂及びシリコーン樹脂から選択される少なくとも1種を含む層であることがさらに好ましい。
樹脂層の厚みは、特に限定されるものではないが、0.05μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましく、0.2μm以上であることがさらに好ましい。また樹脂層の厚みの上限値は、特に限定されないが、たとえば10μm以下とすることができる。なお、樹脂層の厚みは積層シートの断面をウルトラミクロトームUC−7(JEOL社製)によって切り出し、断面を電子顕微鏡で観察して、測定される値である。
樹脂層は、塗工により形成される層であることが好ましく、塗工により形成される樹脂層は塗工層や塗膜と呼ぶこともある。この場合、樹脂層を形成する工程では、シートの少なくとも一方の面に樹脂層形成用組成物を塗布する。塗布工程において使用できる塗工機としては、例えば、バーコーター、ロールコーター、グラビアコーター、ダイコーター、カーテンコーター、エアドクターコーター等を挙げることができる。
樹脂層形成用組成物の塗布後には、硬化工程を設けることが好ましい。硬化工程としては、熱硬化工程を設けることがより好ましい。熱硬化工程においては、例えば、25℃以上300℃以下で10秒以上10時間以下加熱することが好ましい。熱硬化工程においては、例えば、熱風、赤外線、遠赤外線または近赤外線により加熱して乾燥する方法(加熱乾燥法)、真空にして乾燥する方法(真空乾燥法)を適用することができる。また、硬化をより促進させるため、室温で1日から1週間程度、養生させることがより好ましい。
硬化工程においては、光硬化工程を採用してもよく、熱硬化工程と光硬化工程を同時に行ってもよい。この場合、光硬化工程では、300nm以上450nm以下の紫外線を、10mJ/cm2以上8000mJ/cm2以下の範囲で照射することが好ましい。
(3次元成形体)
本発明は、上述したシート、もしくは、上述した積層シートの3次元成形体に関するものでもある。3次元成形体は、微細な凹凸構造を形成し得るナノインプリント成形体であることが好ましく、熱ナノインプリント成形体であることがより好ましい。また、上述したシート、もしくは、上述した積層シートの3次元成形体は、さらに他の3次元成形体を成形するために使用される工程紙(使い捨て金型)として用いられてもよい。
熱ナノインプリント成形体は、上述したシート、もしくは、上述した積層シートに微細な凹凸構造を有する金型を押し当て、加熱加圧成形することで得られる。金型としては、例えば、サイヴァクス株式会社製、ナノインプリント用金型(型番:MTLS1/2/2−50×50)、ラインアンドスペースタイプ、シリコン製、仕様(幅:1μm、高さ:2μm、ピッチ:2μm)、成形面積:50mm×50mm、金型面積50mm×50mmを用いる。離型スプレーとしては、AGCセイケミカル社製、エアゾールタイプスプレー(型番:MR F−6758−AL)を用いることができる。また、加熱加圧成形時の加圧条件は、0.1MPa以上10MPa以下であることが好ましく、加熱条件は、100℃以上300℃以下であることが好ましく、加熱加圧成形時間は、10秒以上100分以下であることが好ましい。
このようにして作製された3次元成形体は、高い寸法安定性と転写性(離型性)を兼ね備えている。なお、転写性(離型性)には、3次元成形体を成形する際に用いる金型からの剥離性と、工程紙(使い捨て金型)として用いられた場合の他の3次元成形体の剥離性が含まれている。
なお、本発明のシートもしくは積層シートは、熱プレス成形によって得られる3次元成形シートの用途にも適しており、例えば、電子機器の基板、固定電話の部材、各種の乗り物や建物の窓材、内装材、外装材、包装用資材等の用途にも用いられる。
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
〔実施例1〕
<リン酸基導入セルロース繊維の作製>
針葉樹クラフトパルプ100質量部(絶乾質量)を、リン酸二水素アンモニウムと尿素の混合水溶液に含浸させ、リン酸二水素アンモニウム49質量部、尿素130質量部となるように圧搾し、薬液含浸パルプを得た。得られた薬液含浸パルプを105℃の乾燥機で乾燥し、水分を蒸発させてプレ乾燥させた。その後、140℃に設定した送風乾燥機で10分間加熱し、パルプ中のセルロースにリン酸基を導入し、リン酸化パルプを得た。
得られたリン酸化パルプをパルプ質量で100g分取し、10Lのイオン交換水を注ぎ、撹拌して均一に分散させた後、濾過脱水して、脱水シートを得る工程を2回繰り返した。次いで、得られた脱水シートを10Lのイオン交換水で希釈し、撹拌しながら、1Nの水酸化ナトリウム水溶液を少しずつ添加し、pHが12以上13以下のパルプスラリーを得た。その後、このパルプスラリーを脱水し、脱水シートを得た後、10Lのイオン交換水を添加した。撹拌して均一に分散させた後、濾過脱水して、脱水シートを得る工程を2回繰り返した。
得られた脱水シートに対し、先と同様にして、リン酸基を導入する工程、濾過脱水する工程を繰り返し、二回リン酸化セルロースの脱水シートを得た。得られた脱水シートの赤外線吸収スペクトルをFT−IRで測定した。その結果、1230cm-1以上1290cm-1以下にリン酸基に基づく吸収が観察され、リン酸基の付加が確認された。
<解繊処理>
得られた二回リン酸化セルロースの脱水シートにイオン交換水を添加し、固形分濃度が2質量%のスラリーを調製した。このスラリーを、湿式微粒化装置(スギノマシン社製、アルティマイザー)で245MPaの圧力にて3回処理し、微細繊維状セルロース分散液を得た。
<置換基量の測定>
置換基導入量は、繊維原料へのリン酸基の導入量であり、この値が大きいほど、多くのリン酸基が導入されている。置換基導入量は、対象となる微細繊維状セルロースをイオン交換水で含有量が0.2質量%となるように希釈した後、イオン交換樹脂による処理、アルカリを用いた滴定によって測定した。イオン交換樹脂による処理では、0.2質量%繊維状セルロース含有スラリーに体積で1/10の強酸性イオン交換樹脂(アンバージェット1024;オルガノ株式会社、コンディショング済)を加え、1時間振とう処理を行った。その後、目開き90μmのメッシュ上に注ぎ、樹脂とスラリーを分離した。アルカリを用いた滴定では、イオン交換後の繊維状セルロース含有スラリーに、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を加えながら、スラリーが示す電気伝導度の値の変化を計測した。すなわち、図1(リン酸基)に示した曲線の第1領域で必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して、置換基導入量(mmol/g)とした。算出した結果、0.98mmol/gであった。
<繊維幅の測定>
微細繊維状セルロースの繊維幅を下記の方法で測定した。
微細繊維状セルロース分散液の上澄み液を濃度が0.01質量%以上0.1質量%以下となるように水で希釈し、親水化処理したカーボングリッド膜に滴下した。乾燥後、酢酸ウラニルで染色し、透過型電子顕微鏡(日本電子社製、JEOL−2000EX)により観察した。これにより、幅4nm程度の微細繊維状セルロースになっていることを確認した。
<シート化>
微細繊維状セルロース分散液にポリエチレンオキサイド(和光純薬社製、分子量400万)を微細繊維状セルロース100質量部に対し、20質量部になるように添加した。次いで、フッ素含有化合物(AGC株式会社製、AG−E500D)を微細繊維状セルロース100質量部に対し、20質量部になるように添加した。その後、固形分濃度が0.6質量%となるよう濃度調整を行った。シートの仕上がり坪量が100g/m2になるように分散液を計量して、市販のアクリル板に塗工し70℃の乾燥機で24時間乾燥した。なお、所定の坪量となるようアクリル板上には堰止用の板を配置した。以上の手順によりシートが得られ、その厚みは65μmであった。
〔実施例2〕
フッ素含有化合物をシリコーン樹脂(信越シリコーン社製、KM−740T)に変更した以外は、実施例1と同様にしてシートを得た。
〔実施例3〕
フッ素樹脂(AGC株式会社製、AG−E500D、固形分濃度30質量%)をトルエンで固形分濃度10質量%に調製した後、実施例1で得たシート上に、#2ワイヤーバーで塗布し、100℃の乾燥機で10分間乾燥することで積層シートを得た。このときのシート上のフッ素樹脂の樹脂層の厚さは0.4μmであった。
〔実施例4〕
ポリエチレンオキサイドをポリビニルアルコール(クラレ社製、ポバール5−98)に変更した以外は、実施例1と同様にしてシートを得た。フッ素含有化合物(AGC株式会社製、AG−E500D、固形分濃度30質量%)をトルエンで固形分濃度10質量%に調製した後、得られたシート上に、#2ワイヤーバーで塗布し、100℃の乾燥機で10分間乾燥することで積層シートを得た。このときのシート上のフッ素含有化合物の樹脂層の厚さは0.4μmであった。
〔比較例1〕
フッ素含有化合物を添加しなかった以外は、実施例1と同様にしてシートを得た。
〔比較例2〕
フッ素樹脂(AGC株式会社製、AG−E500D、固形分濃度30質量%)をトルエンで固形分濃度10質量%に調製した後、比較例1で得たシート上に、#2ワイヤーバーで塗布し、100℃の乾燥機で10分間乾燥することで積層シートを得た。このときのシート上のフッ素樹脂の樹脂層の厚さは0.4μmであった。
〔比較例3〕
フッ素樹脂(AGC株式会社製、AG−E500D、固形分濃度30質量%)をトルエンで固形分濃度10質量%に調製した後、市販の工業用ポリプロピレンフィルム(厚さ60μm)上に、#2ワイヤーバーで塗布し、100℃の乾燥機で10分間乾燥することで積層シートを得た。このときのシート上のフッ素樹脂の樹脂層の厚さは0.4μmであった。
<ナノインプリント成形体の作製方法>
実施例及び比較例で作製したシートもしくは積層シートを用い、下記の方法でナノインプリント成形体を作製した。
(1)金型に離型スプレーを塗布した。金型としては、サイヴァクス株式会社製、ナノインプリント用金型(型番:MTLS1/2/2−50×50)、ラインアンドスペースタイプ、シリコン製、仕様(幅:1μm、高さ:2μm、ピッチ:2μm)、成形面積:50mm×50mm、金型面積50mm×50mmを用いた。離型スプレーとしては、AGCセイケミカル社製、エアゾールタイプスプレー(型番:MR F−6758−AL)を用いた。
(2)実施例及び比較例で作製したシートもしくは積層シートを40mm×40mmにカットした。
(3)プレス機(アイダエンジニアリング社製、冷却器付き160mm角ミニテストプレス)に金型と、カットしたシートもしくは積層シートをセットした。
(4)圧力3MPa・温度180℃で1分間プレスした後、金型の温度が30℃になるまで冷却した。
(5)シートを金型から剥離し、凹凸構造を有するナノインプリント成形体を得た。
〔分析〕
実施例及び比較例で作製したシートもしくは積層シートの物性を下記方法に従って測定した。
(a) 表面の水接触角
JIS R 3257に準拠し、動的水接触角試験機(Fibro社製、1100DAT)を用い、シートもしくは積層シートの表面に蒸留水を4μL滴下し、滴下後30秒後の水接触角を測定した。積層シートの場合は、樹脂層側の表面の水接触角を測定した。
(b) 厚み方向中心面の水接触角
ウルトラミクロトームUC−7(JEOL社製)によって、シートの厚み方向の中心線で切り出して、シートの厚み方向中心面を露出させた後、シートの厚み方向中心面の水接触角を測定した。水接触角の測定方法は、表面の水接触角の測定方法と同じ方法で測定した。
(c) 熱膨張係数
シートから幅4mm×長さ30mmの試験サンプルを6枚切り出した。熱機械分析機(日立ハイテクサイエンス社製、TMA−SS7100)に、試験サンプルをセットし、温度を30℃、150℃、30℃と順に変化させた後、30℃から150℃へ昇温させ、その中で100℃から150℃へ昇温させた際の1℃当たりの長さ変化を測定し、熱膨張係数(ppm/K)を算出した。熱膨張係数は6枚のサンプルの平均値とした。
〔評価〕
実施例及び比較例で作製したシートもしくは積層シートを用いて、ナノインプリント成形体を作成する際の寸法安定性と剥離性について、以下の評価方法に従って評価を実施した。
(1) ナノインプリント成形体の寸法安定性の評価
ナノインプリント成形体の凹凸面にプラチナを10分間蒸着し、電界放出形走査電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JSM−7400F)を用いて、加速電圧3.00kVの条件にて表面を観察し、幅又は高さを測定した。各測定はそれぞれ50点ずつ行い、その平均値を各測定値とした。なお、高さと幅の測定値が異なる場合、基準となる設計寸法からの差の大きい方を測定値として評価した。
◎:|(幅又は高さの測定値)−(基準となる設計寸法)|/(基準となる設計寸法)<0.02
○:0.02≦|(幅又は高さの測定値)−(基準となる設計寸法)|/(基準となる設計寸法)<0.05
△:0.05≦|(幅又は高さの測定値)−(基準となる設計寸法)|/(基準となる設計寸法)<0.10
×:0.10≦|(幅又は高さの測定値)−(基準となる設計寸法)|/(基準となる設計寸法)
(2) 金型からシートを剥離する際の剥離性評価
<ナノインプリント成形体の作製方法>において、(1)を行った後、(2)〜(5)の操作を10回繰り返し(離型スプレー塗布は最初の1回のみ)、10個のナノインプリント成形体を得た。10回目に得られたナノインプリント成形体の凹凸面にプラチナを10分間蒸着し、電界放出形走査電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JSM−7400F)を用いて、加速電圧3.00kVの条件にて凹凸面の凸部形状を50箇所観察し、凸部形状から、剥離性を下記の基準で評価した。なお、凸部形状に欠陥がある場合とは、成形体の一部が金型上に残留し、成形体に欠損がある状態をいう。
◎:50個全ての凸部に欠陥がなく凹凸パターンが形成されている
○:欠陥のある凸部が1個以上10個未満
△:欠陥のある凸部が10個以上50個未満
×:欠陥のある凸部が50個以上
ナノインプリント成形体を工程紙(使い捨て金型)として用いた際の、工程紙適性を以下の評価方法に従って評価を実施した。
(3) 工程紙としての転写性評価(ナノインプリント成形体上にアルミナを塗布し、乾燥した後のアルミナ塗布膜の剥離性の評価)
イソプロピルアルコール(和光純薬工業社製)1000質量部に、アルミナ(大明化学工業社製、TM−300、1次粒子径7nm)100質量部、アクリル(DIC社製、アクリディック54−172−60)1質量部、分散剤(サンノプコ社製、SNディスパーサント9228)1質量部をそれぞれ添加した後、スターラーを用いて1000rpmで1時間撹拌し、アルミナ塗布液を得た。次いで、ナノインプリント成形体上に、アルミナ塗布液を#100ワイヤーバーで塗布し、120℃の熱風乾燥機で30分乾燥した後、アルミナ塗工層をナノインプリント成形体から剥離し、凹凸構造を有するアルミナ塗布膜を得た。
アルミナ塗布膜の凹凸面にプラチナを10分間蒸着し、電界放出形走査電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JSM−7400F)を用いて、加速電圧3.00kVの条件にて凹凸面の凸部形状を50箇所観察し、凸部形状から、転写性を下記の基準で評価した。
◎:50個全ての凸部に欠陥がなく凹凸パターンが形成されている
○:欠陥のある凸部が1個以上2個未満
△:欠陥のある凸部が2個以上50個未満
×:欠陥のある凸部が50個以上欠陥あり
(4) 工程紙としての寸法安定性評価
<(3) 工程紙としての転写性評価>と同様にしてアルミナ塗布膜を形成した。アルミナ塗布膜の凹凸面にプラチナを10分間蒸着し、電界放出形走査電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JSM−7400F)を用いて、加速電圧3.00kVの条件にて表面を観察し、幅又は高さをそれぞれ測定した。各測定はそれぞれ50点ずつ行い、その平均値を各測定値とした。なお、高さと幅の測定値が異なる場合、基準となる設計寸法からの差の大きい方を測定値として評価した。
◎:|(幅又は高さの測定値)−(基準となる設計寸法)|/(基準となる設計寸法)<0.02
○:0.02≦|(幅又は高さの測定値)−(基準となる設計寸法)|/(基準となる設計寸法)<0.05
△:0.05≦|(幅又は高さの測定値)−(基準となる設計寸法)|/(基準となる設計寸法)<0.10
×:0.10≦|(幅又は高さの測定値)−(基準となる設計寸法)|/(基準となる設計寸法)
実施例では、金型成形後のナノインプリント成形体の寸法安定性が高く、金型からの剥離性も良好であった。また、ナノインプリント成形体を工程紙として用いた場合、工程紙の転写性(アルミナ塗布膜の剥離性)が良好であり、転写後であっても工程紙の寸法安定性は高いまま維持されていた。