以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。
(積層シート)
本発明は、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを含む繊維層と、第1樹脂層と、第2樹脂層と、をこの順で備える積層シートに関する。本発明の積層シートにおいて第2樹脂層は、一部に間欠部を有している。
図1は、本発明の積層シートの構成を説明する断面図である。図1に示されるように、積層シート10は、繊維層12と、第1樹脂層14と、第2樹脂層16と、を順に積層した構成を有する。そして、第2樹脂層16は、間欠部20を有している。なお、本明細書において、第2樹脂層16が有する間欠部20とは、第2樹脂層16の一部が欠損した領域であって、第1樹脂層14が露出した領域をいう。図1では、間欠部20は複数形成されているが、1つのみが形成されていてもよい。
本発明の積層シートは上記構成を有するものであるため、優れた耐水性と引張耐性を有する。ここで、積層シートの耐水性は、積層シートの第2樹脂層表面に水を滴下した後、シート形状変化や寸法変化の程度を見ることで評価することができる。また、積層シートの引張耐性は、積層シートの引張強度を測定することで評価することができる。具体的には、積層シートを長さ7cm×幅15mmに裁断した試験片とし、チャック間距離を50mmとした以外はJIS P 8113に準拠し、引張試験機(L&W社製、Tensile Tester CODE SE−064)を用いて、温度23℃、相対湿度50%における引張強さ(単位はN/m)を測定する。引張強さを試験片の厚み(間欠部が存在しない領域で測定した積層シート全体の厚み)で除し、引張強度(単位はMPa)とする。なお、積層シートの第2樹脂層が溝部を有する場合は、試験片を切り出す際には、溝部の延在方向と、試験片の長さ方向が直交するよう裁断する。このようにして測定した引張強度は、50MPa以上であることが好ましく、65MPa以上であることがより好ましく、80MPa以上であることがさらに好ましい。なお、積層シートの引張強度の上限値は特に限定されるものではないが、例えば、500MPaとすることができる。
本発明の積層シートは、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを含む繊維層を有するため、第2樹脂層に形成される間欠部の成形性(寸法安定性)が良好である点にも特徴がある。本発明においては、繊維層が第1樹脂層及び第2樹脂層の歪みを抑制する働きをするため、第2樹脂層に形成される間欠部の寸法が歪むことを効果的に抑制することができる。
本発明において、間欠部の形状は特に限定されるものではない。例えば、間欠部はその外周が第2樹脂層で囲われた凹部であってもよい。この場合、図2(a)に示されるように、間欠部20の形状(第2樹脂層側から平面視した際の形状)は円形であってもよい。また、間欠部20の形状は、三角形や四角形といった多角形であってもよい。なお、間欠部20は、第2樹脂層16の一部が欠損した領域であって、第1樹脂層14が露出した領域であるため、凹部の構成面の一部には、第1樹脂層14の露出面が含まれる。
また、図2(a)で示される構成とは逆パターンの間欠部を形成することも可能である。具体的には、図2(a)の間欠部20に相当する領域にのみ第2樹脂層を残し、その周囲の領域を間欠部とすることも可能である。
間欠部20はその外縁が第2樹脂層で囲われた凹部であってもよいが、間欠部20は溝部であることが好ましい。図2(b)には、第2樹脂層に1本の溝部が形成された積層シートの平面図が示されている。なお、溝部は、複数本形成されていてもよく、例えば、図2(c)に示されるような形態とすることもできる。また、溝部の一端および他端は、積層シートの端面と一致していてもよく、積層シートの端面よりも内側に存在していてもよい。
なお、間欠部20が溝部である場合、溝部の形状(平面形状)は、特に限定されるものではない。例えば、図2(d)に示されるように、溝部の長手方向の一端から他端にかけて溝部の幅が狭くなるような構造とすることもでき、図2(e)に示されるように、蛇行する溝部構造を採用することもできる。なお、溝部は第2樹脂層の平面において一方向に延びるように形成されることが好ましいが、図2(f)に示されるように、溝部が少なくとも1箇所で交差するような構造とすることもできる。また、2つ以上の溝部が1箇所で合流するような構造を採用することもできる。
間欠部20が溝部である場合、例えば、第1樹脂層の厚みに勾配を持たせることで、溝部の長手方向に傾斜をつけてもよい。このような構造を採用することで流体が溝部の長手方向に添って流れやすくすることができる。
間欠部20が溝部である場合であっても、溝部の構成面の一部には、第1樹脂層14の露出面が含まれる。例えば、溝部の厚み方向の断面形状が図3(a)に示したような断面形状となる場合、溝部の底面が第1樹脂層14の露出面となる。
溝部の厚み方向の断面形状は特に限定されるものではなく、2つの側面と底面とで周囲が囲まれた形状であってもよく、一連の曲面により周囲が囲まれた形状であってもよい。図3(a)には、溝部の厚み方向の断面形状が、2つの側面と底面とで周囲が囲まれた形状(四角形状)である例が示されている。図3(a)では、溝部を構成する2つの側面が第2樹脂層16の露出側面であり、2つの側面を連結する底面は第1樹脂層14の露出面である。また、図3(b)には、曲面により周囲を囲まれた形状を有する溝部が例示されている。このような場合、曲面の一部が第1樹脂層14の露出面で形成されるか、もしくは、曲面と曲面の間の部分が第1樹脂層14の露出面で形成されることになる。図3(c)では、2つの側面により周囲が囲まれた∨字型形状の溝部が形成されている。この場合、溝部に底面が形成されないが、∨字型形状の頂部は第1樹脂層14に到達しているため、溝部の構成面の一部には、第1樹脂層14の露出面が含まれるものと言える。
第2樹脂層が溝部を有する場合、溝部は、流路として優れた機能を発揮することが好ましい。具体的には、溝部の長手方向の一方の端部領域に流体を滴下し、該端部領域が上方にくるように積層シートを20°傾けた場合、溝部の長手方向の他の端部領域に流体が到達することが好ましい。この際、流体の拡散は、溝部とその周辺のみの領域で留まることがより好ましく、溝部のみに留まることがさらに好ましい。また、厚み方向への拡散も少ない方が好ましく、流体は積層シートの繊維層に到達しないことが好ましい。
溝部の最大幅は、積層シートの用途により適宜調整することができるが、例えば、1μm以上10mm以下であることが好ましく、5μm以上5mm以下であることがより好ましく、5μm以上2mm以下であることがさらに好ましい。ここで、溝部の最大幅とは、図3(a)〜(c)において、Wで示されている幅であり、溝部の厚み方向の断面図おける最大幅である。溝部の最大幅を測定する際には、積層シートの溝部の厚み方向の断面を光学顕微鏡で観察し、任意の10点における溝部の最大幅を測定し、その平均値を算出し溝部の最大幅とする。
溝部の最大幅をWとし、溝部の深さをTとした場合、W/Tで表される値は、0.1以上1000以下であることが好ましく、0.1以上500以下であることがより好ましく、0.2以上250以下であることがさらに好ましい。W/Tで表される値は、溝部の厚み方向の断面形状のアスペクト比とも言うことができる。W/Tで表される値を上記範囲内とすることにより、溝部に流体を流す際の流れを良好にすることができる。なお、溝部の深さTは、溝部を構成する第2樹脂層の厚みである。
間欠部20が溝部である場合、溝部は、流体を流すための流路であることが好ましい。すなわち、本発明の積層シートは、流路含有積層シートであることが好ましい。本発明の積層シートは、耐水性に優れているため、このように流体を流す用途に好ましく用いられる。
(第1樹脂層/第2樹脂層)
本発明において、第1樹脂層は、第1の樹脂成分を含み、第2樹脂層は、第2の樹脂成分を含む。ここで、第1の樹脂成分と第2の樹脂成分は同種の樹脂成分であってもよいが、異なる樹脂成分であってもよい。例えば、第1の樹脂成分と第2の樹脂成分を異種の樹脂成分から構成してもよく、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、オレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、スチレン系樹脂、ウレタン系樹脂、フェノール系樹脂、フッ素系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、シリコン系樹脂等から適宜選択することができる。例えば、第1の樹脂成分と、第2の樹脂成分の組み合わせ(第1の樹脂成分×第2の樹脂成分)を、アクリル系樹脂(第1)×ポリカーボネート系樹脂(第2)、ポリカーボネート系樹脂(第1)×アクリル系樹脂(第2)、アクリル系樹脂(第1)×フッ素系樹脂(第2)、アクリル系樹脂(第1)×シリコン系樹脂(第2)、ポリカーボネート系樹脂(第1)×フッ素系樹脂(第2)、ポリカーボネート系樹脂(第1)×シリコン系樹脂(第2)とすることができる。なお、第1の樹脂成分と第2の樹脂成分は、それぞれ上述した樹脂を構成するモノマーの共重合体であってもよく、上述した樹脂の混合体であってもよい。
また、第1の樹脂成分と第2の樹脂成分が同種の樹脂成分である場合、樹脂成分を構成する構成単位(モノマー成分)を、第1の樹脂成分と第2の樹脂成分で異なるものにしてもよい。例えば、第1の樹脂成分と第2の樹脂成分が同じアクリル系樹脂の場合、第1の樹脂成分と第2の樹脂成分において用いるアクリルモノマー単位を異なるものとすることが好ましい。
アクリルモノマーとしては、例えば、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールアジペートジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジシクロペンテニルジ(メタ)アクリレート、EO変性リン酸ジ(メタ)アクリレート、アリル化シクロヘキシルジ(メタ)アクリレート、イソシアヌレートジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジベンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、PO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートプロピオン酸変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジアクリレート等を挙げることができる。
また、アクリルモノマーとしては、単官能のアルキル(メタ)アクリレートを上述した多官能アクリルモノマーと併用することも好ましい。単官能のアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸n−ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸n−デシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸n−ウンデシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸イソステアリル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル等を挙げることができる。
中でも、第1の樹脂成分に含まれるアクリルモノマーは、単官能のアルキル(メタ)アクリレートであることが好ましく、第2の樹脂成分に含まれるアクリルモノマーはペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、1,10−デカンジオールジアクリレートから選択される少なくとも1種であることが好ましい。
第1樹脂層は熱硬化性樹脂層であることが好ましく、第2樹脂層は紫外線硬化性樹脂層であることが好ましい。このような構成とすることにより、間欠部を有する第2樹脂層の形成を容易に行うことができる。具体的には、第1樹脂層を熱硬化により形成した後に第1樹脂層上の全面に第2の樹脂組成物を塗布し、間欠部以外の領域を紫外線硬化し、未硬化部分を除去することで間欠部を有する第2樹脂層を形成することができる。
なお、間欠部を有する第2樹脂層の形成する際には、第1樹脂層上の全面に第2の樹脂組成物を塗布し、全面を硬化させた後、プラズマエッチング加工により、間欠部を形成してもよい。この場合、プラズマエッチング加工は、第1樹脂層の露出が確認されるまで繰り返すことが好ましい。
第1樹脂層の厚みをt1とし、第2樹脂層の厚みをt2とした場合、t2/t1で表される値は1以上10以下であることが好ましく、1以上5以下であることがより好ましく、1以上3以下であることがさらに好ましい。また、t2>t1であることも好ましい。t2/t1で表される値を上記範囲内とすることにより、耐水性と引張耐性をより効果的に高めることができる。また、間欠部を溝部とした際には、流路としての機能が発揮されやすくなる。
第1樹脂層の厚みは、1μm以上であることが好ましく、3μm以上であることがより好ましく、5μm以上であることがさらに好ましく、10μm以上であることが一層好ましい。第1樹脂層の厚みの上限値は特に限定されるものではないが、例えば、100μmとすることが好ましい。
第2樹脂層の厚みは、2μm以上であることが好ましく、5μm以上であることがより好ましく、10μm以上であることがさらに好ましく、15μm以上であることが一層好ましい。第2樹脂層の厚みの上限値は特に限定されるものではないが、例えば、200μmとすることが好ましい。
第1樹脂層及び第2樹脂層にそれぞれ含まれる樹脂成分の含有量は、60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましく、90質量%以上であることが一層好ましい。
第1樹脂層及び第2樹脂層には、それぞれ任意成分が含まれていてもよい。任意成分としては、例えば、紫外線防御剤、ラジカル捕捉剤、上述した樹脂成分以外の水溶性高分子、ペクチンなどに例示される糖類、カップリング剤、無機化合物、レベリング剤、消泡剤、有機系粒子、潤滑剤、帯電防止剤、安定剤、磁性粉、配向促進剤、可塑剤、架橋剤等を挙げることができる。
(繊維層)
繊維層は、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを含む層である。なお、本明細書においては、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを、微細繊維状セルロースとも言う。
本発明においては、繊維層に含まれる繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロース(微細繊維状セルロース)の含有量は、繊維層の全質量に対して、60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましい。また、繊維層に含まれる微細繊維状セルロースの含有量は、100質量%であってもよい。
繊維層の厚みは、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましく、20μm以上であることがさらに好ましく、30μm以上であることが一層好ましい。繊維層の厚みの上限値は特に限定されるものではないが、例えば、500μmとすることが好ましい。
繊維層は、微細繊維状セルロースに加えて、さらに他の任意成分を含んでもよい。任意成分としては、例えば、含酸素有機化合物(但し、上記セルロース繊維は除く)を挙げることができる。含酸素有機化合物は、親水性の有機化合物であることが好ましい。親水性の含酸素有機化合物は、繊維層の強度、密度及び化学的耐性などを向上させることができる。
含酸素有機化合物としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、カゼイン、デキストリン、澱粉、変性澱粉、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール(アセトアセチル化ポリビニルアルコール等)、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリアクリル酸塩類、ポリアクリルアミド、アクリル酸アルキルエステル共重合体、ウレタン系共重合体、セルロース誘導体(ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等)等の親水性高分子;グリセリン、ソルビトール、エチレングリコール等の親水性低分子が挙げられる。これらの中でも、繊維層の強度、密度、化学的耐性などを向上させる観点から、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、グリセリン、ソルビトール、ポリビニルアルコールが好ましく、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール及びポリエチレンオキサイドから選択される少なくとも1種であることがより好ましい。
含酸素有機化合物は、分子量が5万以上800万以下の有機化合物高分子であることが好ましい。含酸素有機化合物の分子量は、10万以上500万以下であることも好ましいが、例えば分子量が1000未満の低分子であってもよい。
また、任意成分としては、有機イオンを挙げることもできる。有機イオンとしては、テトラアルキルアンモニウムイオンやテトラアルキルホスホニウムイオンを挙げることができる。テトラアルキルアンモニウムイオンとしては、例えば、テトラメチルアンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、テトラプロピルアンモニウムイオン、テトラブチルアンモニウムイオン、テトラペンチルアンモニウムイオン、テトラヘキシルアンモニウムイオン、テトラヘプチルアンモニウムイオン、トリブチルメチルアンモニウムイオン、ラウリルトリメチルアンモニウムイオン、セチルトリメチルアンモニウムイオン、ステアリルトリメチルアンモニウムイオン、オクチルジメチルエチルアンモニウムイオン、ラウリルジメチルエチルアンモニウムイオン、ジデシルジメチルアンモニウムイオン、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムイオン、トリブチルベンジルアンモニウムイオンが挙げられる。テトラアルキルホスホニウムイオンとしては、例えばテトラメチルホスホニウムイオン、テトラエチルホスホニウムイオン、テトラプロピルホスホニウムイオン、テトラブチルホスホニウムイオン、およびラウリルトリメチルホスホニウムイオンが挙げられる。また、テトラプロピルオニウムイオン、テトラブチルオニウムイオンとして、それぞれテトラn−プロピルオニウムイオン、テトラn−ブチルオニウムイオンなども挙げることができる。
さらに繊維層は、任意成分として、カップリング剤、無機層状化合物、無機化合物、レベリング剤、消泡剤、有機系粒子、潤滑剤、帯電防止剤、紫外線防御剤、染料、顔料、安定剤、磁性粉、配向促進剤、可塑剤、架橋剤等を含有してもよい。
繊維層に含まれる任意成分の含有量は、繊維層に含まれる微細繊維状セルロース100質量部に対して、40質量部以下であることが好ましく、30質量部以下であることがより好ましく、20質量部以下であることがさらに好ましい。任意成分の含有量を上記範囲内とすることにより、高い透明性と強度を有する積層シートを形成することができる。
<微細繊維状セルロース>
微細繊維状セルロースを得るための繊維状セルロース原料としては特に限定されないが、入手しやすく安価である点から、パルプを用いることが好ましい。パルプとしては、木材パルプ、非木材パルプ、脱墨パルプを挙げることができる。木材パルプとしては例えば、広葉樹クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)、サルファイトパルプ(SP)、溶解パルプ(DP)、ソーダパルプ(AP)、未晒しクラフトパルプ(UKP)、酸素漂白クラフトパルプ(OKP)等の化学パルプ等が挙げられる。また、セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等の機械パルプ等が挙げられるが、特に限定されない。非木材パルプとしてはコットンリンターやコットンリント等の綿系パルプ、麻、麦わら、バガス等の非木材系パルプ、ホヤや海草等から単離されるセルロース、キチン、キトサン等が挙げられるが、特に限定されない。脱墨パルプとしては古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられるが、特に限定されない。本実施態様のパルプは上記の1種を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。上記パルプの中で、入手のしやすさという点で、セルロースを含む木材パルプ、脱墨パルプが好ましい。木材パルプの中でも化学パルプはセルロース比率が大きいため、繊維微細化(解繊)時の微細繊維状セルロースの収率が高く、またパルプ中のセルロースの分解が小さく、軸比の大きい長繊維の微細繊維状セルロースが得られる点で好ましい。中でもクラフトパルプ、サルファイトパルプが最も好ましく選択される。
微細繊維状セルロースの平均繊維幅は、電子顕微鏡で観察して、1000nm以下である。平均繊維幅は、好ましくは2nm以上1000nm以下、より好ましくは2nm以上100nm以下であり、より好ましくは2nm以上50nm以下であり、さらに好ましくは2nm以上10nm以下であるが、特に限定されない。微細繊維状セルロースの平均繊維幅が2nm未満であると、セルロース分子として水に溶解しているため、微細繊維状セルロースとしての物性(強度や剛性、寸法安定性)が発現しにくくなる傾向がある。なお、微細繊維状セルロースは、たとえば繊維幅が1000nm以下である単繊維状のセルロースである。
微細繊維状セルロースの電子顕微鏡観察による繊維幅の測定は以下のようにして行う。濃度0.05質量%以上0.1質量%以下の微細繊維状セルロースの水系懸濁液を調製し、この懸濁液を親水化処理したカーボン膜被覆グリッド上にキャストしてTEM観察用試料とする。幅の広い繊維を含む場合には、ガラス上にキャストした表面のSEM像を観察してもよい。構成する繊維の幅に応じて1000倍、5000倍、10000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。但し、試料、観察条件や倍率は下記の条件を満たすように調整する。
(1)観察画像内の任意箇所に一本の直線Xを引き、該直線Xに対し、20本以上の繊維が交差する。
(2)同じ画像内で該直線と垂直に交差する直線Yを引き、該直線Yに対し、20本以上の繊維が交差する。
上記条件を満足する観察画像に対し、直線X、直線Yと交錯する繊維の幅を目視で読み取る。こうして少なくとも重なっていない表面部分の画像を3組以上観察し、各々の画像に対して、直線X、直線Yと交錯する繊維の幅を読み取る。このように少なくとも20本×2×3=120本の繊維幅を読み取る。微細繊維状セルロースの平均繊維幅はこのように読み取った繊維幅の平均値である。
微細繊維状セルロースの繊維長は特に限定されないが、0.1μm以上1000μm以下が好ましく、0.1μm以上800μm以下がさらに好ましく、0.1μm以上600μm以下が特に好ましい。繊維長を上記範囲内とすることにより、微細繊維状セルロースの結晶領域の破壊を抑制でき、また微細繊維状セルロースのスラリー粘度を適切な範囲とすることができる。なお、微細繊維状セルロースの繊維長は、TEM、SEM、AFMによる画像解析より求めることができる。
微細繊維状セルロースはI型結晶構造を有していることが好ましい。ここで、微細繊維状セルロースがI型結晶構造をとっていることは、グラファイトで単色化したCuKα(λ=1.5418Å)を用いた広角X線回折写真より得られる回折プロファイルにおいて同定できる。具体的には、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。
微細繊維状セルロースに占めるI型結晶構造の割合は30%以上であることが好ましく、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは70%以上である。この場合、耐熱性と低線熱膨張率発現の点でさらに優れた性能が期待できる。結晶化度については、X線回折プロファイルを測定し、そのパターンから常法により求められる(Seagalら、Textile Research Journal、29巻、786ページ、1959年)。
微細繊維状セルロースは、イオン性官能基を有するものであることが好ましい。イオン性官能基はアニオン基であることが好ましく、このようなイオン性官能基としては、例えば、リン酸基又はリン酸基に由来する置換基(単にリン酸基ということもある)、カルボキシル基又はカルボキシル基に由来する置換基(単にカルボキシル基ということもある)、及び、スルホン基又はスルホン基に由来する置換基(単にスルホン基ということもある)から選択される少なくとも1種であることが好ましく、リン酸基及びカルボキシル基から選択される少なくとも1種であることがより好ましく、リン酸基であることが特に好ましい。
リン酸基はリン酸からヒドロキシル基を取り除いたものにあたる、2価の官能基である。具体的には−PO3H2で表される基である。リン酸基に由来する置換基は、リン酸基が縮重合した基、リン酸基の塩、リン酸エステル基などの置換基が含まれ、イオン性置換基であっても、非イオン性置換基であってもよい。
本発明では、リン酸基又はリン酸基に由来する置換基は、下記式(1)で表される置換基であってもよい。
式(1)中、a、b、m及びnはそれぞれ独立に整数を表す(ただし、a=b×mである);αn(n=1以上n以下の整数)およびα’はそれぞれ独立にR又はORを表す。Rは、水素原子、飽和−直鎖状炭化水素基、飽和−分岐鎖状炭化水素基、飽和−環状炭化水素基、不飽和−直鎖状炭化水素基、不飽和−分岐鎖状炭化水素基、芳香族基、又はこれらの誘導基である;βは有機物または無機物からなる1価以上の陽イオンである。
<リン酸基導入工程>
リン酸基導入工程は、セルロースを含む繊維原料に対し、リン酸基を有する化合物及びその塩から選択される少なくとも1種(以下、「リン酸化試薬」又は「化合物A」という)を反応させることにより行うことができる。このようなリン酸化試薬は、乾燥状態または湿潤状態の繊維原料に粉末や水溶液の状態で混合してもよい。また別の例としては、繊維原料のスラリーにリン酸化試薬の粉末や水溶液を添加してもよい。
リン酸基導入工程は、セルロースを含む繊維原料に対し、リン酸基を有する化合物及びその塩から選択される少なくとも1種(リン酸化試薬又は化合物A)を反応させることにより行うことができる。なお、この反応は、尿素及びその誘導体から選択される少なくとも1種(以下、「化合物B」という)の存在下で行ってもよい。
化合物Aを化合物Bの共存下で繊維原料に作用させる方法の一例としては、乾燥状態または湿潤状態の繊維原料に化合物Aおよび化合物Bの粉末や水溶液を混合する方法が挙げられる。また別の例としては、繊維原料のスラリーに化合物Aおよび化合物Bの粉末や水溶液を添加する方法が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高いことから、乾燥状態の繊維原料に化合物Aおよび化合物Bの水溶液を添加する方法、または湿潤状態の繊維原料に化合物Aおよび化合物Bの粉末や水溶液を添加する方法が好ましい。また、化合物Aと化合物Bは同時に添加してもよいし、別々に添加してもよい。また、初めに反応に供試する化合物Aと化合物Bを水溶液として添加して、圧搾により余剰の薬液を除いてもよい。繊維原料の形態は綿状や薄いシート状であることが好ましいが、特に限定されない。
本実施態様で使用する化合物Aは、リン酸基を有する化合物及びその塩から選択される少なくとも1種である。
リン酸基を有する化合物としては、リン酸、リン酸のリチウム塩、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩などが挙げられるが、特に限定されない。リン酸のリチウム塩としては、リン酸二水素リチウム、リン酸水素二リチウム、リン酸三リチウム、ピロリン酸リチウム、またはポリリン酸リチウムなどが挙げられる。リン酸のナトリウム塩としてはリン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、またはポリリン酸ナトリウムなどが挙げられる。リン酸のカリウム塩としてはリン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、またはポリリン酸カリウムなどが挙げられる。リン酸のアンモニウム塩としては、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウムなどが挙げられる。
これらのうち、リン酸基の導入の効率が高く、後述する解繊工程で解繊効率がより向上しやすく、低コストであり、かつ工業的に適用しやすい観点から、リン酸、リン酸のナトリウム塩、またはリン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩が好ましい。リン酸二水素ナトリウム、またはリン酸水素二ナトリウムがより好ましい。
また、反応の均一性が高まり、かつリン酸基導入の効率が高くなることから化合物Aは水溶液として用いることが好ましい。化合物Aの水溶液のpHは特に限定されないが、リン酸基の導入の効率が高くなることから7以下であることが好ましく、パルプ繊維の加水分解を抑える観点からpH3以上pH7以下がさらに好ましい。化合物Aの水溶液のpHは例えば、リン酸基を有する化合物のうち、酸性を示すものとアルカリ性を示すものを併用し、その量比を変えて調整してもよい。化合物Aの水溶液のpHは、リン酸基を有する化合物のうち、酸性を示すものに無機アルカリまたは有機アルカリを添加すること等により調整してもよい。
繊維原料に対する化合物Aの添加量は特に限定されないが、化合物Aの添加量をリン原子量に換算した場合、繊維原料(絶乾質量)に対するリン原子の添加量は0.5質量%以上100質量%以下が好ましく、1質量%以上50質量%以下がより好ましく、2質量%以上30質量%以下が最も好ましい。繊維原料に対するリン原子の添加量が上記範囲内であれば、微細繊維状セルロースの収率をより向上させることができる。繊維原料に対するリン原子の添加量が100質量%を超えると、収率向上の効果は頭打ちとなり、使用する化合物Aのコストが上昇する。一方、繊維原料に対するリン原子の添加量を上記下限値以上とすることにより、収率を高めることができる。
本実施態様で使用する化合物Bとしては、尿素、ビウレット、1−フェニル尿素、1−ベンジル尿素、1−メチル尿素、1−エチル尿素などが挙げられる。
化合物Bは化合物A同様に水溶液として用いることが好ましい。また、反応の均一性が高まることから化合物Aと化合物Bの両方が溶解した水溶液を用いることが好ましい。繊維原料(絶乾質量)に対する化合物Bの添加量は1質量%以上500質量%以下であることが好ましく、10質量%以上400質量%以下であることがより好ましく、100質量%以上350質量%以下であることがさらに好ましく、150質量%以上300質量%以下であることが特に好ましい。
化合物Aと化合物Bの他に、アミド類またはアミン類を反応系に含んでもよい。アミド類としては、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、アセトアミド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。アミン類としては、メチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどが挙げられる。これらの中でも、特にトリエチルアミンは良好な反応触媒として働くことが知られている。
リン酸基導入工程においては加熱処理を施すことが好ましい。加熱処理温度は、繊維の熱分解や加水分解反応を抑えながら、リン酸基を効率的に導入できる温度を選択することが好ましい。具体的には50℃以上300℃以下であることが好ましく、100℃以上250℃以下であることがより好ましく、150℃以上200℃以下であることがさらに好ましい。また、加熱には減圧乾燥機、赤外線加熱装置、マイクロ波加熱装置を用いてもよい。
加熱処理の際、化合物Aを添加した繊維原料スラリーに水が含まれている間において、繊維原料を静置する時間が長くなると、乾燥に伴い水分子と溶存する化合物Aが繊維原料表面に移動する。そのため、繊維原料中の化合物Aの濃度にムラが生じる可能性があり、繊維表面へのリン酸基の導入が均一に進行しない恐れがある。乾燥による繊維原料中の化合物Aの濃度ムラ発生を抑制するためには、ごく薄いシート状の繊維原料を用いるか、ニーダー等で繊維原料と化合物Aを混練又は攪拌しながら加熱乾燥又は減圧乾燥させる方法を採ればよい。
加熱処理に用いる加熱装置としては、スラリーが保持する水分及びリン酸基などの繊維の水酸基への付加反応で生じる水分を常に装置系外に排出できる装置であることが好ましく、例えば送風方式のオーブン等が好ましい。装置系内の水分を常に排出すれば、リン酸エステル化の逆反応であるリン酸エステル結合の加水分解反応を抑制できることに加えて、繊維中の糖鎖の酸加水分解を抑制することもでき、軸比の高い微細繊維を得ることができる。
加熱処理の時間は、加熱温度にも影響されるが繊維原料スラリーから実質的に水分が除かれてから1秒以上300分以下であることが好ましく、1秒以上1000秒以下であることがより好ましく、10秒以上800秒以下であることがさらに好ましい。本発明では、加熱温度と加熱時間を適切な範囲とすることにより、リン酸基の導入量を好ましい範囲内とすることができる。
リン酸基の含有量(リン酸基の導入量)は、微細繊維状セルロース1g(質量)あたり、0.10mmol/g以上であることが好ましく、0.20mmol/g以上であることがより好ましく、0.50mmol/g以上であることがさらに好ましい。また、リン酸基の含有量は、微細繊維状セルロース1g(質量)あたり3.65mmol/g以下であることが好ましく、3.50mmol/g以下であることがより好ましく、3.00mmol/g以下であることがさらに好ましい。リン酸基の含有量を上記範囲内とすることにより、繊維原料の微細化を容易にし、微細繊維状セルロースの安定性を高めることができる。なお、本明細書において、微細繊維状セルロースが有するリン酸基の含有量(リン酸基の導入量)は、後述するように微細繊維状セルロースが有するリン酸基の強酸性基量と等しい。
リン酸基の繊維原料への導入量は、伝導度滴定法により測定することができる。具体的には、解繊処理工程により微細化を行い、得られた微細繊維状セルロース含有スラリーをイオン交換樹脂で処理した後、水酸化ナトリウム水溶液を加えながら電気伝導度の変化を求めることにより、導入量を測定することができる。
伝導度滴定では、アルカリを加えていくと、図4に示した曲線を与える。最初は、急激に電気伝導度が低下する(以下、「第1領域」という)。その後、わずかに伝導度が上昇を始める(以下、「第2領域」という)。さらにその後、伝導度の増分が増加する(以下、「第3領域」という)。すなわち、3つの領域が現れる。なお、第2領域と第3領域の境界点は、伝導度の2回微分値、すなわち伝導度の増分(傾き)の変化量が最大となる点で定義される。このうち、第1領域で必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中の強酸性基量と等しく、第2領域で必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中の弱酸性基量と等しくなる。リン酸基が縮合を起こす場合、見かけ上弱酸性基が失われ、第1領域に必要としたアルカリ量と比較して第2領域に必要としたアルカリ量が少なくなる。一方、強酸性基量は、縮合の有無に関わらずリン原子の量と一致することから、単にリン酸基導入量(またはリン酸基量)、または置換基導入量(または置換基量)と言った場合は、強酸性基量のことを表す。すなわち、図4に示した曲線の第1領域で必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して、置換基導入量(mmol/g)とする。
リン酸基導入工程は、少なくとも1回行えば良いが、複数回繰り返すこともできる。この場合、より多くのリン酸基が導入されるので好ましい。
<カルボキシル基の導入工程>
本発明においては、微細繊維状セルロースがカルボキシル基を有するものである場合、たとえば繊維原料にTEMPO酸化処理などの酸化処理を施すことや、カルボン酸由来の基を有する化合物、その誘導体、またはその酸無水物もしくはその誘導体によって処理することで、カルボキシル基を導入することができる。
カルボキシル基を有する化合物としては特に限定されないが、マレイン酸、コハク酸、フタル酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、イタコン酸等のジカルボン酸化合物やクエン酸、アコニット酸等のトリカルボン酸化合物が挙げられる。
カルボキシル基を有する化合物の酸無水物としては特に限定されないが、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、無水グルタル酸、無水アジピン酸、無水イタコン酸等のジカルボン酸化合物の酸無水物が挙げられる。
カルボキシル基を有する化合物の誘導体としては特に限定されないが、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物のイミド化物、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物の誘導体が挙げられる。カルボキシル基を有する化合物の酸無水物のイミド化物としては特に限定されないが、マレイミド、コハク酸イミド、フタル酸イミド等のジカルボン酸化合物のイミド化物が挙げられる。
カルボキシル基を有する化合物の酸無水物の誘導体としては特に限定されない。例えば、ジメチルマレイン酸無水物、ジエチルマレイン酸無水物、ジフェニルマレイン酸無水物等の、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物の少なくとも一部の水素原子が置換基(例えば、アルキル基、フェニル基等)で置換されたものが挙げられる。
カルボキシル基の導入量は、微細繊維状セルロース1g(質量)あたり0.10mmol/g以上であることが好ましく、0.20mmol/g以上であることがより好ましく、0.50mmol/g以上であることがさらに好ましい。また、カルボキシル基の含有量は、微細繊維状セルロース1g(質量)あたり3.65mmol/g以下であることが好ましく、3.50mmol/g以下であることがより好ましく、3.00mmol/g以下であることがさらに好ましい。
カルボキシル基の繊維原料への導入量は、伝導度滴定法により測定することができる。伝導度滴定では、アルカリを加えていくと、図5に示した曲線を与える。図5に示した曲線の第1領域で必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して、置換基導入量(mmol/g)とする。
<アルカリ処理>
微細繊維状セルロースを製造する場合、リン酸基導入工程やカルボキシル基導入工程といったイオン性置換基導入工程と、後述する解繊処理工程との間にアルカリ処理を行ってもよい。アルカリ処理の方法としては、特に限定されないが、例えば、アルカリ溶液中に、イオン性置換基導入繊維を浸漬する方法が挙げられる。
アルカリ溶液に含まれるアルカリ化合物は、特に限定されないが、無機アルカリ化合物であってもよいし、有機アルカリ化合物であってもよい。アルカリ溶液における溶媒としては水または有機溶媒のいずれであってもよい。溶媒は、極性溶媒(水、またはアルコール等の極性有機溶媒)が好ましく、少なくとも水を含む水系溶媒がより好ましい。
また、アルカリ溶液のうちでは、汎用性が高いことから、水酸化ナトリウム水溶液、または水酸化カリウム水溶液が特に好ましい。
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液の温度は特に限定されないが、5℃以上80℃以下が好ましく、10℃以上60℃以下がより好ましい。
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液への浸漬時間は特に限定されないが、5分以上30分以下が好ましく、10分以上20分以下がより好ましい。
アルカリ処理におけるアルカリ溶液の使用量は特に限定されないが、イオン性置換基導入繊維の絶対乾燥質量に対して100質量%以上100000質量%以下であることが好ましく、1000質量%以上10000質量%以下であることがより好ましい。
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液使用量を減らすために、アルカリ処理工程の前に、イオン性置換基導入繊維を水や有機溶媒により洗浄しても構わない。アルカリ処理後には、取り扱い性を向上させるために、解繊処理工程の前に、アルカリ処理済みイオン性置換基導入繊維を水や有機溶媒により洗浄することが好ましい。
<解繊処理工程>
イオン性置換基導入繊維は、解繊処理工程で解繊処理される。解繊処理工程では、通常、解繊処理装置を用いて、繊維を解繊処理して、微細繊維状セルロース含有スラリーを得るが、処理装置、処理方法は、特に限定されない。
解繊処理装置としては、高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミルなどを使用できる。あるいは、解繊処理装置としては、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、またはビーターなど、湿式粉砕する装置等を使用することもできる。解繊処理装置は、上記に限定されるものではない。好ましい解繊処理方法としては、粉砕メディアの影響が少なく、コンタミの心配が少ない高速解繊機、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザーが挙げられる。
解繊処理の際には、繊維原料を水と有機溶媒を単独または組み合わせて希釈してスラリー状にすることが好ましいが、特に限定されない。分散媒としては、水の他に、極性有機溶媒を使用することができる。好ましい極性有機溶媒としては、アルコール類、ケトン類、エーテル類、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、またはジメチルアセトアミド(DMAc)等が挙げられるが、特に限定されない。アルコール類としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、またはt−ブチルアルコール等が挙げられる。ケトン類としては、アセトンまたはメチルエチルケトン(MEK)等が挙げられる。エーテル類としては、ジエチルエーテルまたはテトラヒドロフラン(THF)等が挙げられる。分散媒は1種であってもよいし、2種以上でもよい。また、分散媒中に繊維原料以外の固形分、例えば水素結合性のある尿素などを含んでも構わない。
本発明では、微細繊維状セルロースを濃縮、乾燥させた後に解繊処理を行ってもよい。この場合、濃縮、乾燥の方法は特に限定されないが、例えば、微細繊維状セルロースを含有するスラリーに濃縮剤を添加する方法、一般に用いられる脱水機、プレス、乾燥機を用いる方法等が挙げられる。また、公知の方法、例えばWO2014/024876、WO2012/107642、およびWO2013/121086に記載された方法を用いることができる。また、濃縮した微細繊維状セルロースをシート化してもよい。該シートを粉砕して解繊処理を行うこともできる。
微細繊維状セルロースを粉砕する際に粉砕に用いる装置としては、高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミル、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、ビーターなど、湿式粉砕する装置等を使用することもできるが特に限定されない。
(積層シートの製造方法)
本発明の積層シートの製造方法は、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを含む繊維層を得る工程と、繊維層の少なくとも一方の面上に、第1樹脂層を形成する工程と、第1樹脂層上に間欠部を有する第2樹脂層を形成する工程と、を含む。
(繊維層を得る工程)
繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを含む繊維層を得る工程は、微細繊維状セルロース含有スラリーを基材上に塗工する工程又は、微細繊維状セルロース含有スラリーを抄紙する工程を含む。中でも、微細繊維状セルロースを含む繊維層を得る工程は微細繊維状セルロース含有スラリーを基材上に塗工する工程を含むことが好ましい。
<塗工工程>
塗工工程は、微細繊維状セルロース含有スラリーを基材上に塗工し、これを乾燥して形成された微細繊維状セルロース含有シートを基材から剥離することにより、シート(繊維層)を得る工程である。塗工装置と長尺の基材を用いることで、シートを連続的に生産することができる。塗工するスラリーの濃度は特に限定されないが、0.05質量%以上5質量%以下が好ましい。
塗工工程で用いる基材の質は、特に限定されないが、微細繊維状セルロース含有スラリーに対する濡れ性が高いものの方が乾燥時のシートの収縮等を抑制することができて良いが、乾燥後に形成されたシートが容易に剥離できるものを選択することが好ましい。中でも樹脂板または金属板が好ましいが、特に限定されない。例えばアクリル板、ポリエチレンテレフタレート板、塩化ビニル板、ポリスチレン板、ポリ塩化ビニリデン板等の樹脂板や、アルミ板、亜鉛版、銅版、鉄板等の金属板および、それらの表面を酸化処理したもの、ステンレス板、真ちゅう板等を用いることができる。
塗工工程において、微細繊維状セルロース含有スラリーの粘度が低く、基材上で展開してしまう場合、所定の厚み、坪量の微細繊維状セルロース含有シートを得るため、基材上に堰止用の枠を固定して使用してもよい。堰止用の枠の質は特に限定されないが、乾燥後に付着するシートの端部が容易に剥離できるものを選択することが好ましい。中でも樹脂板または金属板を成形したものが好ましいが、特に限定されない。例えばアクリル板、ポリエチレンテレフタレート板、塩化ビニル板、ポリスチレン板、ポリ塩化ビニリデン板等の樹脂板や、アルミ板、亜鉛版、銅版、鉄板等の金属板および、それらの表面を酸化処理したもの、ステンレス板、真ちゅう板等を成形したもの用いることができる。
微細繊維状セルロース含有スラリーを塗工する塗工機としては、例えば、ロールコーター、グラビアコーター、ダイコーター、カーテンコーター、エアドクターコーター等を使用することができる。厚みをより均一にできることから、ダイコーター、カーテンコーター、スプレーコーターが好ましい。
塗工温度は特に限定されないが、20℃以上45℃以下であることが好ましく、25℃以上40℃以下であることがより好ましく、27℃以上35℃以下であることがさらに好ましい。塗工温度が上記下限値以上であれば、微細繊維状セルロース含有スラリーを容易に塗工でき、上記上限値以下であれば、塗工中の分散媒の揮発を抑制できる。
塗工工程においては、シートの仕上がり坪量が10g/m2以上100g/m2以下になるようにスラリーを塗工することが好ましい。坪量が上記範囲内となるように塗工することで、強度に優れた繊維層が得られる。
微細繊維状セルロースを含む繊維層を得る工程は、基材上に塗工した微細繊維状セルロース含有スラリーを乾燥させる工程を含むことが好ましい。乾燥方法としては、特に限定されないが、非接触の乾燥方法でも、シートを拘束しながら乾燥する方法の何れでもよく、これらを組み合わせてもよい。
非接触の乾燥方法としては、特に限定されないが、熱風、赤外線、遠赤外線または近赤外線により加熱して乾燥する方法(加熱乾燥法)、真空にして乾燥する方法(真空乾燥法)を適用することができる。加熱乾燥法と真空乾燥法を組み合わせてもよいが、通常は、加熱乾燥法が適用される。赤外線、遠赤外線または近赤外線による乾燥は、赤外線装置、遠赤外線装置または近赤外線装置を用いて行うことができるが、特に限定されない。加熱乾燥法における加熱温度は特に限定されないが、20℃以上120℃以下とすることが好ましく、25℃以上105℃以下とすることがより好ましい。加熱温度を上記下限値以上とすれば、分散媒を速やかに揮発させることができ、上記上限値以下であれば、加熱に要するコストの抑制及び微細繊維状セルロースが熱によって変色することを抑制できる。
乾燥後に、得られた微細繊維状セルロース含有シートを基材から剥離するが、基材がシートの場合には、微細繊維状セルロース含有シートと基材とを積層したまま巻き取って、微細繊維状セルロース含有シートの使用直前に微細繊維状セルロース含有シートを工程基材から剥離してもよい。
<抄紙工程>
微細繊維状セルロースを含む繊維層を得る工程は、微細繊維状セルロース含有スラリーを抄紙する工程を含んでもよい。抄紙工程で抄紙機としては、長網式、円網式、傾斜式等の連続抄紙機、これらを組み合わせた多層抄き合わせ抄紙機等が挙げられる。抄紙工程では、手抄き等公知の抄紙を行ってもよい。
抄紙工程では、微細繊維状セルロース含有スラリーをワイヤー上で濾過、脱水して湿紙状態のシートを得た後、プレス、乾燥することでシートを得る。スラリーの濃度は特に限定されないが、0.05質量%以上5質量%以下が好ましい。スラリーを濾過、脱水する場合、濾過時の濾布としては特に限定されないが、微細繊維状セルロースは通過せず、かつ濾過速度が遅くなりすぎないことが重要である。このような濾布としては特に限定されないが、有機ポリマーからなるシート、織物、多孔膜が好ましい。有機ポリマーとしては特に限定されないが、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のような非セルロース系の有機ポリマーが好ましい。具体的には孔径0.1μm以上20μm以下、例えば1μmのポリテトラフルオロエチレンの多孔膜、孔径0.1μm以上20μm以下、例えば1μmのポリエチレンテレフタレートやポリエチレンの織物等が挙げられるが、特に限定されない。
微細繊維状セルロース含有スラリーからシートを製造する方法としては、特に限定されないが、例えばWO2011/013567に記載の製造装置を用いる方法等が挙げられる。この製造装置は、微細繊維状セルロースを含むスラリーを無端ベルトの上面に吐出し、吐出されたスラリーから分散媒を搾水してウェブを生成する搾水セクションと、ウェブを乾燥させて繊維シートを生成する乾燥セクションとを備えている。搾水セクションから乾燥セクションにかけて無端ベルトが配設され、搾水セクションで生成されたウェブが無端ベルトに載置されたまま乾燥セクションに搬送される。
本発明において使用できる脱水方法としては特に限定されないが、紙の製造で通常に使用している脱水方法が挙げられ、長網、円網、傾斜ワイヤーなどで脱水した後、ロールプレスで脱水する方法が好ましい。また、乾燥方法としては特に限定されないが、紙の製造で用いられている方法が挙げられ、例えば、シリンダードライヤー、ヤンキードライヤー、熱風乾燥、近赤外線ヒーター、赤外線ヒーターなどの方法が好ましい。
(第1樹脂層を形成する工程)
第1樹脂層を形成する工程では、上述した方法で得られた繊維層の少なくとも一方の面上に、第1の樹脂組成物を塗工する工程と、第1の樹脂組成物を硬化する工程と、を含む。
第1の樹脂組成物には、重合開始剤が含まれることが好ましい。樹脂層にも重合開始剤の少なくとも一部が残存することとなるため、第1樹脂層は重合開始剤を含むものであることが好ましい。なお、第1の樹脂組成物に添加される重合開始剤としては、熱重合開始剤や光重合開始剤を例示することができる。
熱重合開始剤としては、例えば、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、パーオキシエステル、ジアシルパーオキサイド、パーオキシカーボネート、パーオキシケタール、またはケトンパーオキサイド等が挙げられる。具体的には、ベンゾイルパーオキシド、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、t−ブチルパーオキシ(2−エチルヘキサノエート)ジクミルパーオキサイド、ジt−ブチルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルハイドロパーキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、または1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド等を用いることができる。これらの重合開始剤は単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
光重合開始剤としては、光ラジカル発生剤または光カチオン重合開始剤が挙げられる。光重合開始剤は単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
光ラジカル発生剤としては、例えば、ベンゾフェノン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ジエトキシアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,6−ジメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、または2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホシフィンオキシド等が挙げられる。これらの中でも、ベンゾフェノン、または2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシドを挙げることができる。
光カチオン重合開始剤とは、紫外線や電子線などの放射線の照射によりカチオン重合を開始させる化合物であり、例えば、芳香族スルホニウム塩、芳香族ヨードニウム塩、芳香族ジアゾニウム塩、芳香族アンモニウム塩等を挙げることができる。
重合開始剤の含有量は、第1の樹脂組成物の全質量に対して、0.1質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましい。また、重合開始剤の含有量は、第1の樹脂組成物の全質量に対して、10質量%以下であることが好ましい。
第1の樹脂組成物には、さらにイソシアネート化合物が含まれることが好ましい。イソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどが挙げられる。イソシアネート化合物には、ビウレット型、ヌレート型、アダクト型等のポリイソシアネートが含まれ、このようなポリイソシアネートも使用可能である。
イソシアネート化合物の含有量は、第1の樹脂組成物の全質量に対して、1質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましい。また、イソシアネート化合物の含有量は、第1の樹脂組成物の全質量に対して、50質量%以下であることが好ましい。
なお、上述したような熱重合開始剤や光重合開始剤、イソシアネート化合物の一部は、未反応の状態で残存するため、硬化後の第1樹脂層中にも含まれる。
第1樹脂層中における重合開始剤の含有量は、第1樹脂層の全質量に対して、0.5質量%以上10質量%以下であることが好ましく、1質量%以上5質量%以下であることがより好ましい。
また、第1樹脂層中におけるイソシアネート化合物の含有量は、第1樹脂層の全質量に対して、20質量%以上90質量%以下であることが好ましく、30質量%以上70質量%以下であることがより好ましい。
第1の樹脂組成物は、さらに溶媒を含んでもよい。溶媒としては、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル等のエステル類、メチルエチルケトン、メチルイソブチル、ジブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、トルエン、キシレン、ヘキサンなどの芳香族類および炭化水素類、1−プロパノールなどのアルコール類といった有機溶媒が挙げられる。
第1の樹脂組成物を塗工する工程において使用できる塗工機としては、例えば、バーコーター、ロールコーター、グラビアコーター、ダイコーター、カーテンコーター、エアドクターコーター等を使用することができる。
第1の樹脂組成物を硬化する工程における硬化方法としては、例えば、熱硬化や、紫外線硬化を採用することができる。熱硬化と紫外線硬化を同時に行うこともできる。中でも、第1の樹脂組成物は、熱硬化により硬化させることが好ましい。
第1の樹脂組成物を熱硬化により硬化させる場合は、第1の樹脂組成物の塗布膜を70℃以上200℃以下の温度範囲で加熱を行うことが好ましい。加熱時間は、10分以上10時間以下とすることができる。
(第2樹脂層を形成する工程)
第2樹脂層を形成する工程は、第1樹脂層上に間欠部を有する第2樹脂層を形成する工程である。第2樹脂層を形成する工程では、上述した方法で得られた第1樹脂層の一方の面上であって、繊維層が積層された面とは反対側の面上に、第2の樹脂組成物を塗工する工程と、第2の樹脂組成物を硬化する工程と、間欠部を形成する工程と、を含む。
第2の樹脂組成物には、重合開始剤が含まれることが好ましい。また、第2の樹脂組成物はイソシアネート化合物を含んでいてもよい。重合開始剤やイソシアネート化合物としては、上述した重合開始剤を挙げることができる。重合開始剤の含有量は、第2の樹脂組成物の全質量に対して、0.1質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましい。また、重合開始剤の含有量は、第2の樹脂組成物の全質量に対して、10質量%以下であることが好ましい。また、イソシアネート化合物の含有量は、第2の樹脂組成物の全質量に対して、1質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましい。また、イソシアネート化合物の含有量は、第2の樹脂組成物の全質量に対して、50質量%以下であることが好ましい。
なお、上述したような熱重合開始剤や光重合開始剤、イソシアネート化合物の一部は、未反応の状態で残存するため、硬化後の第2樹脂層中にも含まれる。
第2樹脂層中における重合開始剤の含有量は、第2樹脂層の全質量に対して、0.5質量%以上20質量%以下であることが好ましく、1質量%以上10質量%以下であることがより好ましい。
また、第2樹脂層中におけるイソシアネート化合物の含有量は、第2樹脂層の全質量に対して、3質量%以上50質量%以下であることが好ましく、5質量%以上30質量%以下であることがより好ましい。
第2の樹脂組成物は、溶媒を含まなくてもよいが、さらに溶媒を含んでもよい。溶媒としては、上述した溶媒を挙げることができる。
第2の樹脂組成物を塗工する工程では、第1樹脂層の一方の面上であって、繊維層が積層された面とは反対側の面上に、第2の樹脂組成物を塗工する。第2の樹脂組成物を塗工する工程において使用できる塗工機としては、上述した塗工機を挙げることができる。
第2の樹脂組成物を硬化する工程では、塗工した第2の樹脂組成物の一部のみを硬化させてもよく、第2の樹脂組成物の全部を硬化させてもよい。第2の樹脂組成物を硬化する工程で、塗工した第2の樹脂組成物の一部のみを硬化させる場合、第2の樹脂組成物を硬化する工程と、間欠部を形成する工程が同時に行われることになる。第2の樹脂組成物を硬化する工程で、第2の樹脂組成物の全部を硬化させる場合は、第2の樹脂組成物を硬化する工程の後に、間欠部を形成する工程が設けられることになる。
塗工した第2の樹脂組成物の一部のみを硬化させる場合は、例えば、形成したい間欠部の形状に遮光パターンが形成されたシート(フォトマスク)を第2の樹脂組成物の塗膜上に置き、シート(フォトマスク)側から紫外線を照射することで遮光パターンが積層された部分以外の塗膜を硬化させることができる。その後、第2の樹脂組成物の未硬化部分を、有機溶媒を用いた洗浄処理等で除去することにより除去する。なお、シート(フォトマスク)を第2の樹脂組成物の塗膜上に載置する前には、第2の樹脂組成物中のモノマー成分の一部を硬化し、半硬化状態としてもよい。
シート(フォトマスク)側から紫外線を照射する際、照射する紫外線の量は、特に限定されるものではないが、例えば、300nm以上450nm以下の紫外線を、10mJ/cm2以上1000mJ/cm2以下の範囲で照射することが好ましい。また、放射線を2回以上に分割して照射することも好ましい。放射線照射に使用するランプの具体例としては、メタルハライドランプ、高圧水銀灯ランプ、紫外線LEDランプ、または無電極水銀ランプ等を挙げることができる。
第2の樹脂組成物を硬化する工程で、塗工した第2の樹脂組成物の全部を硬化させる場合は、第2の樹脂組成物を完全硬化させた後に、間欠部を形成したい箇所にプラズマエッチング処理を施すことが好ましい。具体的には、第2の樹脂組成物の塗膜を熱硬化及び/又は紫外線硬化により完全に硬化させた後に、第2樹脂層上に、間欠部を形成した部分が空隙となったプラズマ加工用マスクを積層する。その後、プラズマエッチング処理を施すことで、プラズマ加工用マスクの空隙部分にのみプラズマエッチング処理が施される。プラズマエッチング処理は第1樹脂層が露出するまで複数回繰り返してもよい。
第2樹脂層上に、間欠部を形成する方法としては、上述した方法以外に下記の方法を採用することもできる。例えば、第2の樹脂組成物の全部を完全硬化させた後に、間欠部を形成したい箇所を鋭利な金属等により切削する方法や、レーザー加工により切削する方法、短波長紫外線によるエッチングする方法等が挙げられる。また、第2の樹脂組成物を硬化させる前に凸部を有する金型を押し当て、その状態で第2の樹脂組成物を硬化させる方法(プレス方法)を採用することもできる。
(用途)
本発明の積層シートは、例えば、分析測定用シートとして用いることができる。具体的には、本発明の積層シートの間欠部に流体等を滴下して、流体の物性や含有物の種類、含有物の量などを分析することができる。この場合は、間欠部の内壁には、各測定に適した試薬等を接合させておいてもよい。中でも、本発明の積層シートは、バイオセンサーとして用いることが好ましい。この場合、例えば、間欠部の内壁に各測定に適した抗体等を接合させておき、血液等の生体液状試料を間欠部に滴下することで生体液状試料中に含まれる物質の特定や物質の定量を行うことができる。
また、本発明の積層シートは、上記用途以外にも、電子機器の基板、電子機器部材、光学部材、各種の乗り物や建物の窓材、内装材、外装材、包装用資材等に用いることができる。
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
[実施例1]
<リン酸基導入セルロース繊維の作製>
針葉樹クラフトパルプとして、王子製紙製のパルプ(固形分93質量%、坪量208g/m2のシート状、離解してJIS P 8121に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)が700ml)を原料として使用した。上記針葉樹クラフトパルプ100質量部(絶乾質量)を、リン酸二水素アンモニウムと尿素の混合水溶液に含浸させ、リン酸二水素アンモニウム49質量部、尿素130質量部となるように圧搾し、薬液含浸パルプを得た。得られた薬液含浸パルプを105℃の乾燥機で乾燥し、水分を蒸発させてプレ乾燥させた。その後、140℃に設定した送風乾燥機で10分間加熱し、パルプ中のセルロースにリン酸基を導入し、リン酸化パルプを得た。
得られたリン酸化パルプをパルプ質量で100g分取し、10Lのイオン交換水を注ぎ、撹拌して均一に分散させた後、濾過脱水して、脱水シートを得る工程を2回繰り返した。次いで、得られた脱水シートを10Lのイオン交換水で希釈し、撹拌しながら、1Nの水酸化ナトリウム水溶液を少しずつ添加し、pHが12以上13以下のパルプスラリーを得た。その後、このパルプスラリーを脱水し、脱水シートを得た後、10Lのイオン交換水を添加した。撹拌して均一に分散させた後、濾過脱水して、脱水シートを得る工程を2回繰り返した。
得られた脱水シートに対し、先と同様にして、リン酸基を導入する工程、濾過脱水する工程を繰り返し、二回リン酸化セルロースの脱水シートを得た。得られた脱水シートの赤外線吸収スペクトルをFT−IRで測定した。その結果、1230cm-1以上1290cm-1以下にリン酸基に基づく吸収が観察され、リン酸基の付加が確認された。
<解繊処理>
得られた二回リン酸化セルロースの脱水シートにイオン交換水を添加し、固形分濃度が2質量%のスラリーを調製した。このスラリーを、湿式微粒化装置(スギノマシン社製、アルティマイザー)で245MPaの圧力にて3回処理し、微細繊維状セルロース分散液を得た。
<置換基量の測定>
置換基導入量は、繊維原料へのリン酸基の導入量であり、この値が大きいほど、多くのリン酸基が導入されている。置換基導入量は、対象となる微細繊維状セルロースをイオン交換水で含有量が0.2質量%となるように希釈した後、イオン交換樹脂による処理、アルカリを用いた滴定によって測定した。イオン交換樹脂による処理では、0.2質量%の繊維状セルロース含有スラリーに体積で1/10の強酸性イオン交換樹脂(アンバージェット1024;オルガノ株式会社、コンディショング済)を加え、1時間振とう処理を行った。その後、目開き90μmのメッシュ上に注ぎ、樹脂とスラリーを分離した。アルカリを用いた滴定では、イオン交換後の繊維状セルロース含有スラリーに、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を加えながら、スラリーが示す電気伝導度の値の変化を計測した。すなわち、図4(リン酸基)に示した曲線の第1領域で必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して、置換基導入量(mmol/g)とした。算出した結果、0.98mmol/gであった。
<繊維幅の測定>
微細繊維状セルロースの繊維幅を下記の方法で測定した。
微細繊維状セルロース分散液の上澄み液を濃度が0.01質量%以上0.1質量%以下となるように水で希釈し、親水化処理したカーボングリッド膜に滴下した。乾燥後、酢酸ウラニルで染色し、透過型電子顕微鏡(日本電子社製、JEOL−2000EX)により観察した。これにより、幅4nm程度の微細繊維状セルロースになっていることを確認した。
<シート化>
微細繊維状セルロース分散液に、ポリエチレングリコール(和光純薬社製、分子量400万)を微細繊維状セルロース100質量部に対し、20質量部になるように添加した。その後、固形分濃度が0.6質量%となるよう濃度調整を行った。シートの仕上がり坪量が68g/m2になるように分散液を計量して、市販のアクリル板に展開し、70℃の乾燥機で24時間乾燥した。なお、所定の坪量となるようアクリル板上には堰止用の板を配置した。以上の手順により、後に繊維層となるシート(A)得られ、その厚みは45μmであった。
<第1樹脂層の積層>
アクリロイル基がグラフト重合したアクリル樹脂(大成ファインケミカル社製、アクリット8KX−012C:アクリル樹脂成分39.0質量%、1−プロパノール30.5質量%、酢酸ブチル30.5質量%)100質量部、ポリイソシアネート化合物(旭化成ケミカルズ社製、TPA−100)38質量部、ラジカル重合開始剤(BASF社製、イルガキュア184)2質量部を混合して第1の樹脂組成物を得た。次いで、第1の樹脂組成物を、シート(A)の一方の面に、バーコーターにて塗布した後、100℃で1時間加熱して硬化させて第1樹脂層を形成した。以上の手順により繊維層上に第1樹脂層が形成されたシート(B)が形成され、第1樹脂層の厚みは10μmであった。
<第2樹脂層の積層>
ペンタエリスリトールテトラアクリレートを主成分とするアクリル樹脂(荒川化学工業社製、ビームセット710)100質量部、メチルエチルケトン50質量部、ラジカル重合開始剤(BASF社製、イルガキュア184)5質量部を混合して第2の樹脂組成物を得た。次いで、第2の樹脂組成物を、シート(B)の第1樹脂層上に、バーコーターにて塗布した後、100℃で5分間加熱してメチルエチルケトンを揮発させた。次いで、第2の樹脂組成物の塗布層上に、直径5000μmの円形の遮光パターンが面内に均等に10点形成された7cm角のフォトマスクを静置した。UVコンベア装置(アイグラフィックス社製、ECS−4011GX)を用いて500mJ/cm2の紫外線を照射して、第2の樹脂組成物を硬化させて第2樹脂層を形成した。以上の手順により繊維層、第1樹脂層、第2樹脂層が順に積層された積層シート(C)が形成され、第2樹脂層の厚みは20μmであった。
<間欠部の形成>
積層シート(C)を、メチルエチルケトンで満たした金属容器内に浸漬させた。次いで金属容器を振とう装置(タイテック社製、PersonalLt−10F)上に置き、5分間の振とう洗浄処理を行った。この操作を、メチルエチルケトンを入れ替えて2回繰り返すことで、フォトマスクの遮光パターン部分に存在する第2の樹脂組成物を除去し、第2樹脂層に円柱状の間欠部が形成された積層シート(D)を得た。なお、積層シート(D)の間欠部では、第1樹脂層が露出していることを確認した。さらに、積層シート(D)のフォトマスクを静置した部分(7cm角部分)を切り出し、評価用シートとした。
[実施例2]
実施例1で用いたフォトマスクの代わりに、幅2000μmの線形の遮光パターンが面内に均等に10本形成された7cm角のフォトマスク(線形の各遮光パターンは、平行であり、フォトマスクの両端まで延在する)を用いた以外は実施例1と同様にし、第2樹脂層に溝状の間欠部が形成された積層シート(D)及び評価用シートを得た。
[実施例3]
実施例2の<第1樹脂層の積層>において、より番手の小さいバーコーターを使用し、第1樹脂層の厚みを5μmとした以外は実施例2と同様にし、第2樹脂層に溝状の間欠部が形成された積層シート(D)及び評価用シートを得た。
[実施例4]
実施例1において、<第2樹脂層の積層>の際に用いたフォトマスクの代わりに、幅50μmの線形の遮光パターンが面内に均等に10本形成された7cm角のフォトマスク(線形の各遮光パターンは、平行であり、フォトマスクの両端まで延在する)を用いた以外は実施例1と同様にし、第2樹脂層に溝状の間欠部が形成された積層シート(D)及び評価用シートを得た。
[実施例5]
実施例4の<第1樹脂層の積層>において、第2の樹脂組成物の組成を以下のように変更した。具体的には、溶媒溶解性を高めた特殊ポリカーボネート樹脂(三菱ガス化学社製、ユピゼータ2136)20質量部、トルエン57質量部、メチルエチルケトン28質量部、イソシアネート化合物(旭化成ケミカルズ社製、デュラネートTPA−100)2.25質量部を混合して第2の樹脂組成物を得た。上記以外は実施例4と同様にし、第2樹脂層に溝状の間欠部が形成された積層シート(D)及び評価用シートを得た。
[実施例6]
実施例1の<第2樹脂層の積層>において用いたフォトマスクを静置せずに紫外線を照射し、第2樹脂層の全面が硬化したシート(C)を得た。次いで、シート(C)の第2樹脂層の上に、幅5μm×長さ7cmの線形の空隙(欠損部)が面内に均等に10本形成された、ステンレス製のプラズマ加工用マスクを静置した。そして、シート(C)をプラズマエッチング装置(アルバック社製、NE−550X)のチャンバー内に静置し、プラズマエッチング処理を行った。なお、プラズマエッチング処理は複数回行い、第1樹脂層の露出が確認された回で処理終了とした(シート(D))。その後、シート(D)のプラズマ加工用マスクを静置した部分(7cm角部分)を切り出し、評価用シートを得た。その他の操作は実施例1と同様にした。
[実施例7]
実施例6の<第1樹脂層の積層>において、より番手の小さいバーコーターを使用し、第1樹脂層の厚みを5μmとした以外は実施例6と同様にし、第2樹脂層に溝状の間欠部が形成された積層シート(D)及び評価用シートを得た。
[比較例1]
実施例2において、第1樹脂層の積層を行わず、繊維層上に直接第2樹脂層の積層を行った。上記以外は実施例2と同様にし、第2樹脂層に溝状の間欠部が形成された積層シート及び評価用シートを得た。
[比較例2]
実施例2において、シート(A)を使用しなかった。また、厚み50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ社製、ルミラーS10)を第1樹脂層として使用した。上記以外は実施例2と同様にし、第2樹脂層に溝状の間欠部が形成された積層シート及び評価用シートを得た。
<測定>
実施例1〜7並びに比較例1及び2で得られた評価用シートを、以下の方法に従って測定した。
[間欠部の幅]
評価用シートの間欠部を光学顕微鏡で観察し、間欠部の最大幅を測定した。なお、間欠部の最大幅は、間欠部における任意の10点の最大幅を測定し、その平均値を間欠部の最大幅とした。
[間欠部のアスペクト比]
上記間欠部の最大幅を第2樹脂層の厚みで除し、間欠部のアスペクト比(W/T)とした。
<評価>
実施例1〜7並びに比較例1及び2で得られた評価用シートを、以下の方法に従って評価した。
[溝部の流路としての機能]
イオン交換水95質量部、染料(東京化成工業社製、C.I.アシッドレッド52)5質量部を混合し、試験液を調製した。次いで、評価用シートの間欠部の端部の一方に、マイクロピペットで試験液を50μL滴下した。さらに、評価用シートを20°傾け、1分後に評価用シートを観察し、下記の基準に従って評価を行った。なお、実施例1で得られた評価用シートは、間欠部が円柱状であるため、評価を行わなかった。
◎:間欠部にのみ試験液が観察され、端部のもう一方に試験液が到達する。
○:間欠部とその周辺にのみ試験液が観察され、端部のもう一方に試験液が到達する。
△:繊維層に試験液が観察されるが、端部のもう一方に試験液が到達する。
×:繊維層に試験液が観察され、端部のもう一方に試験液が到達しない。
[引張耐性]
評価用シートを15mm幅に裁断し、試験片とした。実施例2〜7並びに比較例1及び2で得られた評価用シートは、溝部の延在方向と評価用シートの長手方向が直交するよう裁断した。この試験片を用い、チャック間距離を50mmとした以外はJIS P 8113に準拠し、引張試験機(L&W社製、Tensile Tester CODE SE−064)を用いて、温度23℃、相対湿度50%における引張強さ(単位はN/m)を測定した。引張強さを試験片の厚み(間欠部が存在しない領域で測定した厚み)で除し、引張強度(単位はMPa)とした。算出した引張強度を元に、下記の基準に従って評価を行った。
◎:引張強度が80MPa以上である。
○:引張強度が65MPa以上80MPa未満である。
△:引張強度が50MPa以上65MPa未満である。
×:引張強度が50MPa未満である。
[耐水性]
評価用シートの第2樹脂層表面に、マイクロピペットを用いてイオン交換水100μLを面内に均等に滴下し、5分間静置した。その後評価用シートを観察し、下記の基準に従って評価を行った。
◎:シートの形状や寸法に変化が確認されない。
○:シートの形状や寸法に僅かに変化が確認される。
△:シートの形状や寸法に変化が確認されるが、平面構造を維持している。
×:シートの形状や寸法に著しい変化が確認され、平面構造が崩壊する。
表1から明らかなように、繊維層、第1樹脂層、第2樹脂層を備える実施例では、引張耐性及び耐水性が良好なシートが得られた。耐水性については、第1樹脂層の厚みが大きく、厚み比t2/t1が小さいものでより優れた評価となった。第2樹脂層に溝状の間欠部(溝部)を備える実施例2〜7では、溝部の流路としての機能も良好な結果となった。
一方、第1樹脂層を有さない比較例1では引張耐性は良好であったものの、繊維層が露出したことに起因し、耐水性と溝部の流路としての機能が低下する結果となった。また、繊維層を有さない比較例2では、耐水性と溝部の流路としての機能は良好であったものの、引張耐性が劣る結果となった。また、比較例2では、溝部の形状に歪みが発生していた。