JP6909461B2 - 浮遊系細胞保定用多孔質超薄膜とその製造方法 - Google Patents
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Description
本発明は、以下の通りである。
浮遊系細胞保定用多孔質超薄膜。
〔2〕
膜厚が20nm以上200nm以下である、〔1〕に記載の多孔質超薄膜。
〔3〕
貫通孔の直径が0.1μm以上2μm以下である、〔1〕又は〔2〕に記載の多孔質超薄膜。
〔4〕
貫通孔のピッチが1.5μm以上6μm以下である、〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の多孔質超薄膜。
〔5〕
超薄膜、および該超薄膜が溶解しない液状媒体に可溶であり、かつ、膜厚が300nm以下である犠牲層とを含む複合膜に、該超薄膜側からモールドを接触させ、該複合膜を加熱圧縮して該複合膜に貫通孔を形成する工程、
該複合膜に貫通孔を形成した後、該複合膜と該モールドを分離する工程、および、
該複合膜と該モールドを分離した後、該複合膜が含む該犠牲層を溶解して多孔質超薄膜を分離する工程を含み、
該貫通孔形成工程における該モールドの温度が、(該超薄膜のガラス転移温度(℃)−20℃)以上、(該超薄膜のガラス転移温度(℃)+20℃)以下であり、
該貫通孔形成工程における圧力が10MPa以上である、
〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の浮遊系細胞保定用多孔質超薄膜の製造方法。
本発明の第一の発明は、浮遊系細胞保定用多孔質超薄膜である。
浮遊系細胞とは、培養液中で浮遊状態で生存できる細胞のことであり、基材等に接着しなければ生存や増殖ができない接着系細胞とは区別されるものである。本発明の第一の発明における浮遊系細胞としては、一般的には血球細胞が挙げられるが、これに制限されるわけではない。血球細胞の例としては、血小板が挙げられる。血小板は血漿などに分散していてもよい。
本明細書における保定とは、浮遊系細胞に生物学的な刺激を与えず、かつ、該浮遊系細胞を観察等するのに際して該浮遊系細胞を基材等に固定することなく観察等に支障がない程度にまで該浮遊系細胞の移動を抑制し、さらに、保定に用いる多孔質超薄膜を通して生理活性分子の交換が可能である状態をいう。
(素材)
多孔質超薄膜の素材は、浮遊系細胞の培養時や観察時に用いられる培養液や緩衝液に不溶であり、製造時に用いる液状媒体に不溶であることが必要である。液状媒体としては、後述するように、例えば、水性媒体が挙げられる。また、多孔質超薄膜の素材は、浮遊系細胞に影響を与えるものではなく、例えば、細胞に対して生物学的な刺激を与える素材や、細胞に対して毒性を有する素材でなければ、特に制限されない。
該液状媒体が水性媒体であれば、多孔質超薄膜の素材としては、例えば、D,L‐ポリ乳酸(PLA)、乳酸‐グリコール酸共重合体(PLGA)、ポリカプロラクトン(PCL);汎用性高分子に代表されるポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート;ゴム系高分子に代表されるポリ酢酸ビニル、ポリイソプレン、ポリブタジエン、ポリクロロプレン、ポリシロキサンなどが挙げられる。好ましくは、生体適合性がありガラス転移温度も比較的低く超薄膜に多孔質を形成しやすい観点から、D,L‐ポリ乳酸(PLA)である。いずれも市販の製品を用いることができる。
尚、多孔質超薄膜は、1層であっても複数層であってもよい。複数層の場合、層間で素材が同種でもよいし、異種の素材でもよい。
多孔質超薄膜の素材のガラス転移温度が20℃以上であることにより室温で良好な強度をもつ多孔質超薄膜が調製することができ、一方で、ガラス転移温度が200℃を超える素材は、貫通孔の形成以前に超薄膜そのものへの成膜加工が極めて困難である。
尚、D,L‐ポリ乳酸(PLA)のガラス転移温度は55℃である。
多孔質超薄膜は、その膜厚が、通常20nm以上、好ましくは30nm以上、より好ましくは40nm以上であり、一方、通常200nm以下、好ましくは150nm以下、より好ましくは100nm以下である。本発明の「超薄膜」とは、該膜厚範囲にある薄膜を指す。
膜厚が20nm以上であることにより超薄膜のハンドリングがしやすく、一方で、200nm以下であることにより超薄膜の接着性が向上して浮遊系細胞の保定に有利であるとともに、多孔質超薄膜としての良好な貫通孔が得やすい。
多孔質超薄膜の貫通孔の形状は、特に制限されないが、通常、円柱形である。また、例えば、後述する第二の発明のようにモールドにより貫通孔を形成する場合には、そのモールドの形状が貫通孔の形状として反映される。よって、所望の形状を有するモールドを選択すればよい。
多孔質超薄膜の貫通孔が円柱形である場合、その貫通孔の直径は、通常0.1μm以上、好ましくは0.15μm以上、より好ましくは0.2μm以上であり、一方、通常2μm以下、好ましくは1.5μm以下、より好ましくは1μm以下である。
貫通孔の直径が0.1μm以上であることにより保定された細胞に対して生理活性分子を素早く反応させることができ、一方で、2μm以下であることにより、例えば、血小板のように直径が小さい細胞でもラッピング内に留まり、外部へ拡散することがない。
また、例えば、後述する第二の発明のようにモールドにより貫通孔を形成する場合には、そのモールドにおける凸部の直径が貫通孔の直径として反映される。よって、所望の直径を有するモールドを選択すればよい。
多孔質超薄膜の貫通孔のピッチは、隣接する貫通孔の中心点間距離を指す。そのピッチは、多孔質超薄膜に存在する各貫通孔において、最も距離の小さいふたつの貫通孔の中心点間距離を測定し、その距離は、通常1.5μm以上、好ましくは2μm以上であり、一方、通常6μm以下、好ましくは5μm以下である。
貫通孔のピッチが1.5μm以上であることにより、例えば、後述するように、複合膜を基材上に形成してから貫通孔を形成する場合であっても、基材から剥離する際に破断しない適度な強度をもつ多孔質超薄膜を製造することができ、一方で、6μm以下であることにより、多孔質超薄膜の製造時に、複合膜とモールドとを分離することが容易となって、良好な多孔質超薄膜を製造することができる。
に説明した「貫通孔の直径」の測定方法と同様の観察をして測定することができる。また、例えば、後述する第二の発明のようにモールドにより貫通孔を形成する場合には、そのモールドにおける凸部のピッチが貫通孔のピッチとして反映される。よって、所望のピッチを有するモールドを選択すればよい。
また、多孔質超薄膜における貫通孔のパターンは、特に制限されないが、生理活性分子を保定された細胞に対して均等に刺激させるとの観点から、規則的なパターンであることが好ましく、各貫通孔間が等間隔であることがより好ましい。
多孔質超薄膜は、細胞の保定に用いる前に、ガラス基板などの基材上に貼付し、ウシ血清アルブミン(BSA)を溶解させたリン酸緩衝生理食塩水(PBS)などでブロッキングしてもよい。ブロッキング条件は常法に従えばよく、例えば、4℃で2時間などの条件が挙げられる。
細胞の保定の方法は特に制限されず、例えば、実施例に記載されるように、その上に細胞が添加されたガラス基板などに、金属枠に掬い取った多孔質超薄膜を通過させて保定する方法などが挙げられる。
保定された細胞の観察は、通常の細胞観察と同様に行うことができる。実施例に記載されるように、必要に応じて、その上に細胞が添加されたガラス基板をフローチャンバーにセットし、シリンジポンプを用いて培養液や緩衝液を還流させてもよい。
保定された細胞への生理活性分子による刺激は、常法と同様に行うことができる。生理活性分子の種類や濃度も特に制限されないが、例えば、浮遊系細胞が血小板があれば、HEPES緩衝液(pH7.4)にトロンビンレセプターアゴニストペプチド(TRAP)、トロンビン、アデノシン‐5’‐二リン酸などが挙げられる。TRAPにより血小板が刺激されると、該血小板は、活性化して偽足を現す反応(凝集反応)を示すことが知られている。
本発明の第二の発明は、超薄膜、および該超薄膜が溶解しない液状媒体に可溶であり、かつ、膜厚が300nm以下である犠牲層とを含む複合膜に、該超薄膜側からモールドを接触させ、該複合膜を加熱圧縮して該複合膜に貫通孔を形成する工程(貫通孔形成工程)、該複合膜に貫通孔を形成した後、該複合膜と該モールドとを分離する工程(モールド分離工程)、および、複合膜と該モールドを分離した後、該複合膜が含む該犠牲層を溶解して多孔質超薄膜を分離する工程(多孔質超薄膜分離工程)を含み、該貫通孔形成工程における該モールドの温度が、(該超薄膜のガラス転移温度(℃)−20℃)以上、(該超薄膜のガラス転移温度(℃)+20℃)以下であり、該貫通孔形成工程における圧力が10MPa以上である、本発明の第一の発明に係る浮遊系細胞保定用多孔質超薄膜の製造方法である。
本工程は、超薄膜、および該超薄膜が溶解しない液状媒体に可溶であり、かつ、膜厚が
300nm以下である犠牲層とを含む複合膜に、該超薄膜側からモールドを接触させ、該複合膜を加熱圧縮して該複合膜に貫通孔を形成する工程である。
犠牲層の素材については次の通りである、後述する[多孔質超薄膜分離工程]欄の記載の通り、最終的に犠牲層が溶解されて多孔質超薄膜の単体が得られる。そのため、犠牲層の素材は、その際に多孔質超薄膜が溶解しない液状媒体に可溶であれば特に制限されない。例えば、該液状媒体が水性媒体の場合、ポリアクリル酸及びポリメタクリル酸等の高分子電解質;ポリエチレングリコール、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール(PVA);デンプン、セルロースアセテート等の多糖類等の非イオン性の水溶性高分子が挙げられる。中でも、例えば、後述するように、複合膜を基材上に形成してから貫通孔を形成する場合における基材への成膜性と溶解性の観点から、ポリビニルアルコール(PVA)が好ましい。いずれも市販の製品を用いることができる。
犠牲層は、その膜厚が、通常5nm以上、好ましくは10nm以上、より好ましくは15nm以上であり、一方、通常300nm以下、好ましくは200nm以下、より好ましくは100nm以下である。
膜厚が5nm以上であることにより、例えば、後述するように、複合膜を基材上に形成してから貫通孔を形成する場合でも、複合膜を基材から分離させやすく、一方で、300nm以下であることにより超薄膜に貫通孔が形成されやすくなる。膜厚が300nmを超える場合、後述する加熱圧縮時に犠牲層がクッションの役割を果たして孔が形成されなくなるものと推測される。この場合、実施例に記載されるように、残膜が確認されるなどする。
犠牲層の素材のガラス転移温度は、通常30℃以上、好ましくは35℃以上であり、通常200℃以下、好ましくは100℃以下である。
犠牲層の素材のガラス転移温度が30℃以上であることにより室温で犠牲層を成膜することができ、一方で、ガラス転移温度が200℃を超える素材は、300nm以下の犠牲層の形成が極めて困難である。
犠牲層の素材のガラス転移温度は、超薄膜の素材のガラス転移温度より10℃以上、好ましくは20℃以上高いのがよい。10℃未満あるいは前者が後者より低いと、貫通孔形成工程で犠牲層が軟化して超薄膜に貫通孔が形成されにくいことや、超薄膜に犠牲層が付着することがある。
複合膜は、最終的に所望の多孔質超薄膜が得られる限り、犠牲層、超薄膜ともに複数層ずつ含まれていてもよく、例えば、1又は複数の犠牲層、1又は複数の超薄膜をこの順に
含んでいてもよい。
本工程では、複合膜に超薄膜側からモールドを接触させ、該複合膜を加熱圧縮して該複合膜に貫通孔を形成するため、該複合膜は、例えば基材上に形成されている方が貫通孔を形成する上で好ましい。この場合、複合膜は、基材上に、基材から、犠牲層、超薄膜の順に2層が積層されていることが好ましい。また、最終的に所望の多孔質超薄膜が得られる限り、犠牲層、超薄膜ともに複数層ずつ積層されていてもよく、例えば、基材上に、基材から、1又は複数の犠牲層、1又は複数の超薄膜がこの順に積層されていてもよい。
本工程におけるモールドは、超薄膜に所望の貫通孔が形成されれば特に制限されない。例えば、ピラーパターン、モスアイパターン、レンズアレイパターン等を有するモールドが挙げられる。パターンのサイズ、ピッチ、形状を制御しやすいため、ピラーパターンをもつモールドが好ましく、中でも、超薄膜に残膜なく貫通孔を形成できる観点から、ドーム状ピラーパターンをもつモールドがより好ましい。
複合膜の加熱圧縮の方法は特に制限されず、公知の方法に従えばよい。例えば、実施例に記載されるように、小型熱プレス機を用いることができる。
加熱圧縮時のモールドの温度は、通常、(超薄膜のガラス転移温度(℃)−20℃)以上であり、好ましくは(超薄膜のガラス転移温度(℃)−15℃)以上であり、より好ましくは(超薄膜のガラス転移温度(℃)−10℃)以上であり、一方、(超薄膜のガラス転移温度(℃)+20℃)以下であり、好ましくは(超薄膜のガラス転移温度(℃)+15℃)以下であり、より好ましくは(超薄膜のガラス転移温度(℃)+10℃)以下である。
(超薄膜のガラス転移温度(℃)−20℃)以上であることにより、超薄膜全体に貫通孔が良好に形成される。一方で、(超薄膜のガラス転移温度(℃)+20℃)以下であることにより、形成される貫通孔の周辺が熱変性することなく貫通孔が形成される。
加熱圧縮時の圧力は、通常10MPa以上、好ましくは20MPa以上、より好ましくは30MPa以上であり、一方で、通常100MPa以下、好ましくは60MPa以下、より好ましくは50MPa以下である。
10MPa以上であることにより、超薄膜に貫通孔が形成され超薄膜全体に貫通孔が良好に形成されるようになる。一方で、100MPa以下であることにより、複合膜とモールドが分離しやすくなる。
加熱圧縮時の時間は、通常30秒以上、好ましくは45秒以上、より好ましくは60秒以上であり、一方で、通常300秒以下、好ましくは200秒以下、より好ましくは10
0秒以下である。
30秒以上であることにより、超薄膜に貫通孔を良好に形成でき、一方で、300秒以下であることにより、複合膜とモールドの分離がしやすくなる。
既述の基材を用いる場合には、貫通孔形成工程は、基材に犠牲層を塗工し、その上に超薄膜を塗工する工程を含んでもよい。具体的には以下である。
犠牲層の塗工としては、例えば、基材上に適当な濃度に調製した犠牲層を成す溶液を滴下後、公知の塗工方法で塗工すればよい。その塗工方法は特に制限されないが、例えば、スピンコーティング法、キャスト法、マイクログラビア法などが挙げられる。スピンコーティング法を用いた場合は、例えば、基材上に、適当な濃度に調製した犠牲層を成す溶液を、スピンコーターにより1000〜8000rpmで10〜100秒回転させた後、乾燥させればよい。加熱により乾燥させてもよい。犠牲層を成す溶液の濃度、スピンコーターの回転速度及び回転時間によって基材上の犠牲層の膜厚を制御することができる。加熱温度及び加熱時間は、塗工後の犠牲層を成す液状媒体の溶媒が蒸発する条件であればよく、特に限定はされない。
1mg/mL以上であることにより、超薄膜を基材から剥離するための犠牲層として機能し、一方で、100mg/mL以下であることにより、適度な溶液粘度になるため基材に均一に成膜できる。
超薄膜の塗工としては、例えば、基材上に塗工された犠牲層の上に、適当な濃度に調製した超薄膜を成す溶液を滴下後、公知の塗工方法で塗工すればよく、上記「犠牲層の塗工」欄で記載した方法が援用される。
尚、超薄膜を成す溶液の濃度としては、例えば、通常1mg/mL以上、好ましくは2mg/mL以上、より好ましくは5mg/mL以上であり、一方で、通常60mg/mL以下、好ましくは40mg/mL以下、より好ましくは30mg/mL以下である。
本工程は、貫通孔形成工程で複合膜に貫通孔を形成した後、該複合膜とモールドとを分離する工程である。
貫通孔形成工程で複合膜に形成された貫通孔の形状が崩れなければ、その方法に特に制限はない。例えば、ピンセット状の器具を用いて複合膜とモールドとを分離することが挙げられる。
本工程は、モールド分離工程で複合膜とモールドとを分離した後、該複合膜が含む該犠牲層を溶解して多孔質超薄膜を分離する工程である。
多孔質超薄膜と犠牲層とを分離するためには、複合膜が含む多孔質超薄膜は溶解せず、犠牲層だけが溶解する液状媒体に該複合膜を浸漬すればよい。このとき、例えば、上述したように、複合膜を基板上に形成してから貫通孔を形成した場合には、基材上に形成した複合膜を一旦基材から分離させた後に浸漬してもよいし、基材から複合膜を分離せずに基材ごと浸漬してもよい。
<多孔質超薄膜保存工程>
上記多孔質超薄膜分離工程で取得された多孔質超薄膜は、上記液性媒体中で保存可能であり、また、乾燥させて保存することも可能である。乾燥方法は特に制限されないが、例えば、自然乾燥、凍結乾燥、真空乾燥、気流乾燥、回転乾燥、攪拌乾燥、噴霧乾燥等が挙げられ、好ましくは凍結乾燥、真空乾燥、噴霧乾燥である。これら乾燥方法は常法により行うことができる。さらなる具体例としては、シリコンウェーハに貼付し、デシケータ内で乾燥するなどして保存することができる。
[基板]
P型シリコンウェーハ(ケイ・エス・ティ・ワールド社製、直径:100±0.5mm、 厚さ:525±25μm、酸化膜:200nm、結晶面:100)を30mm×30mmのサイズにカットして使用した。
ポリビニルアルコール(PVA、関東化学社製、鹸化度:86.5〜89%、重合度:500)を使用した。スターラーを用いて、PVAを蒸留水に溶解し、10mg/mLあるいは100mg/mLの水溶液とした。
ポリD,L−乳酸(PLA、ネイチャーワークスLLC社製、重量平均分子量:250,000)を使用した。スターラーを用いて、PLAをトルエンに溶解させた。PLA超薄膜の膜厚はスピンコートする際のPLA濃度に比例するため、それに従って10〜100mg/mLの範囲で濃度を適宜調整した。
突起高さ0.75μm〜0.89μmのドーム状ピラーパターンを有するモールド(JVCケンウッド・クリエイティブメディア社製)であって、ピラーピッチがそれぞれ1.5μm、3.0μm、6.0μm、12.0μmの4種類を使用した。
(1)犠牲層、多孔質超薄膜の膜厚
シリコンウェーハにスピンコートしたPVA犠牲層、あるいはシリコンウェーハに貼付したPLA多孔質超薄膜の表面の一部をピンセットで削り、シリコンウェーハをむき出し
にした。触針式段差計(Bruker社製、Dektak(登録商標)DXT−E)を用いて、シリコンウェーハとPVA犠牲層あるいはPLA多孔質超薄膜の段差を測定し、膜厚とした。
図1に示すように、水中で分離した多孔質超薄膜を酸化アルミニウムメンブレンフィルター(GEヘルスケアライフサイエンス社製、Anodisk(登録商標)25、孔径:0.1μm、直径:25mm)に掬い取り、デシケータ内で乾燥させた。多孔質超薄膜の表面を走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製、FE−SEM S−4800)を用いて観察し、多孔質超薄膜の下に配置したメンブレンフィルターが目視できるか否かで、貫通孔の付与を判定した。貫通孔の直径は画像解析ソフト(Image J)で実測した。また、多孔質超薄膜上に転写されたパターン内に残る膜成分を残膜と定義した。パターンと残膜の面積を画像解析ソフト(Image J)にて計測し、パターンの面積に対する残膜の面積の割合を残膜率として算出した。
PLA超薄膜(膜厚:55nm、貫通孔なし)をガラス基板(アズワン社製、直径:25mm、厚み:0.16〜0.18mm)に貼付し、乾燥(50℃、終夜)させた。得られたガラス基板をウシ血清アルブミン(BSA、30mg/mL)を溶解させたリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に浸漬し、ブロッキングした(4℃、2時間)。PBSでガラス基板を洗浄後、蛍光標識ディスク状粒子(直径1.7μm、励起波長:441nm、発光波長:486nm)、あるいはヒト多血小板血漿(PRP、血小板数:3.5×105/μL)を50μL添加した。金属枠(直径:30mm)に掬い取った多孔質超薄膜を基板に通過させ、粒子あるいは血小板細胞を基板間にラッピングした。次いで、得られた基板をフローチャンバー(自作装置)にセットし、シリンジポンプ(アズワン社製、SPS−1)を用いてHEPES緩衝液(pH7.4)を流速0.5mL/minで還流させた。このとき、粒子あるいは血小板細胞の分散挙動を蛍光顕微鏡(ニコン社製、ECLIPSE Ti)にて動画撮影した。このとき、粒子の移動速度を画像解析ソフト(Image
J)にて解析し、保定効果を判定した。
<犠牲層と超薄膜とを含む複合膜の調製>
(工程1:犠牲層の塗工)
図2の工程1に従い、シリコンウェーハ上に10mg/mLあるいは100mg/mLの濃度に調製したPVA水溶液を滴下後スピンコート(ミカサ社製、MS−A100、回転数:4000rpm、回転時間:60秒)し、犠牲層とした。乾燥後の膜厚は、それぞれ15±1nm、385±15nmであった。
図2の工程2に従い、工程1で得た犠牲層上に20、30、又は60mg/mLの濃度に調整したPLAトルエン溶液を滴下後スピンコート(回転数:4,000rpm、回転時間:60秒)した。続いて、後述する方法で貫通孔を形成し、または形成せずに、蒸留水で満たしたシャーレの中にシリコンウェーハを浸漬させて超薄膜を回収後、別のシリコンウェーハに貼付し、デシケータ内で乾燥させた。乾燥後のPLA超薄膜の膜厚は、それぞれ55±0.2nm、150±3nm、498±4nmであった。
<多孔質超薄膜の調製1〜加熱圧縮操作時の圧力〜>
実施例1に従って、シリコンウェーハ上に、膜厚15nmのPVA犠牲層、膜厚55nmのPLA超薄膜を塗工した。ピラーパターンモールド(ピラーピッチ:3.0μm)を
超薄膜に接触させた状態で小型熱プレス機(アズワン社製、AH−2003)に挿入し、加熱(到達温度:70℃、到達温度後の時間:60秒、無加圧)した。続いて、温度を維持したまま、加熱圧縮操作として、圧力を0MPa、10MPa、20MPa、30MPa、又は40MPaとしてプレス(いずれも、時間:60秒)した後、シリコンウェーハが30℃になるまで冷却し、PVA犠牲層とPLA超薄膜の複合膜からモールドを分離した。蒸留水で満たしたシャーレの中にシリコンウェーハを浸漬させて多孔質超薄膜を回収後、酸化アルミニウムメンブレンフィルターに貼付し、デシケータ内で乾燥、走査型電子顕微鏡にて観察した。
<多孔質超薄膜の調製2〜加熱圧縮操作時のモールドの温度〜>
実施例2と同様にして、ピラーパターンモールドを超薄膜に接触させた状態で小型熱プレス機に挿入し、加熱(到達温度:30℃、50℃、70℃、又は90℃、到達温度後の時間:60秒、無加圧)した。続いて、それぞれ温度を維持したまま、加熱圧縮操作としてプレス(いずれも、圧力:30MPa、時間:60秒)した後、実施例2と同様に多孔質超薄膜を調製した。結果を図4に示す。30℃で圧縮した場合、ピラー形状に相当するパターンは転写されていたものの貫通孔には至らなかった。50℃では、残膜のない貫通孔をもつ多孔質超薄膜が得られた(貫通孔の平均直径:0.43μm)。70℃では、貫通孔の直径が増大した多孔質超薄膜が得られた(貫通孔の平均直径:0.95μm)。90℃でも同様に多孔質超薄膜は得られたが、貫通孔周辺に変性が見られた。
<多孔質超薄膜の調製3〜犠牲層の膜厚〜>
PVA犠牲層の膜厚を385nmにすること以外、実施例3と同条件(ただし、到達温度:50℃又は70℃)で多孔質超薄膜を調製した。結果を図5に示す。PVA犠牲層が厚くなると、ピラー形状に相当するパターンは転写されて貫通領域は形成されるものの、残膜が確認された。
<多孔質超薄膜の調製4〜超薄膜の膜厚〜>
PLA超薄膜の膜厚を150nm又は498nmにすること以外、実施例3と同条件(ただし、到達温度:70℃)で多孔質超薄膜を調製した。結果を図6に示す。150nmの超薄膜では、残膜のない多孔質超薄膜が得られた。しかし、498nmの超薄膜ではピラー形状に相当するパターンは転写されていたものの貫通孔には至らなかった。
<多孔質超薄膜の調製5〜貫通孔のピッチ〜>
ピラーピッチが1.5μm、6μm、12μmのドーム状ピラーパターンモールドを使用すること以外、実施例3と同条件(ただし、到達温度:70℃)で多孔質超薄膜を調製した。結果を図7に示す。ピラーピッチが1.5μm、6μmの場合、多孔質超薄膜が得られた。ピラーピッチが12μmの場合、加熱圧縮後、シリコンウェーハからモールドを離型することが困難であり多孔質超薄膜が得られなかった。
<多孔質超薄膜によるディスク状粒子、浮遊細胞のラッピングと保定効果>
ドーム状ピラーパターンモールド(ピラーピッチ:3.0μm)を使用し、実施例3と同条件(ただし、到達温度:70℃)で多孔質超薄膜(多孔質超薄膜の直径:30mm)を調製した。このとき、貫通孔のない超薄膜を比較対照とした。
浮遊細胞のモデルであるディスク状粒子(直径:1.7μm)のラッピング効果を図8に示す。ラッピングしない系では、粒子は還流方向に沿って移動した(移動速度:15.1±1.7μm/s、n=17)。多孔質超薄膜でラッピングした場合、移動せずにその場に留まることが明らかになった(移動速度:2.1±0.2μm/s、n=23)。これは貫通孔のない超薄膜と同等であった(移動速度:2.1±0.6μm/s、n=24)。従って、超薄膜の貫通孔の有無に関わらず、超薄膜で粒子分散体をラッピングすれば、観察等に支障がない程度にまでディスク状粒子の移動を抑制できることが実証された。
ドーム状ピラーパターンモールド(ピラーピッチ:3.0μm)を使用し、実施例7と同条件で多孔質超薄膜(多孔質超薄膜の直径:30mm)を調製した。また、貫通孔のない超薄膜を比較対照とした。
浮遊細胞の1例として用いた血小板細胞の保定効果を図9に示す。このとき、血小板細胞の生理活性分子であるトロンビンレセプターアゴニストペプチド、TRAP(シグマ・アルドリッチ社製)を50μM溶解させたHEPES緩衝液を還流させた。粒子と同様、超薄膜の貫通孔の有無に関わらず、超薄膜で血小板細胞をラッピングすれば、観察等に支障がない程度にまで血小板細胞の移動を抑制できることが実証された。
しかし、多孔質超薄膜ではTRAPが拡散可能なため、血小板細胞が偽足を現し(活性化)、凝集する挙動がライブでイメージングできた。従って、多孔質超薄膜は浮遊細胞を保定し、追跡できるイメージングツールへの応用の可能性を示した。
Claims (4)
- 超薄膜、および該超薄膜が溶解しない液状媒体に可溶であり、かつ、膜厚が300nm以下である犠牲層を含む複合膜に、該超薄膜側からモールドを接触させ、該複合膜を加熱圧縮して該複合膜に貫通孔を形成する工程、
該複合膜に貫通孔を形成した後、該複合膜と該モールドを分離する工程、および、
該複合膜と該モールドを分離した後、該複合膜が含む該犠牲層を溶解して多孔質超薄膜を分離する工程を含み、
該貫通孔形成工程における該モールドの温度が、(該超薄膜のガラス転移温度(℃)−20℃)以上、(該超薄膜のガラス転移温度(℃)+20℃)以下であり、
該貫通孔形成工程における圧力が10MPa以上であり、
膜厚が20nm以上200nm以下である、浮遊系細胞保定用多孔質超薄膜の製造方法。 - 前記浮遊系細胞保定用多孔質超薄膜の貫通孔の直径が、0.1μm以上2μm以下である、請求項1に記載の浮遊系細胞保定用多孔質超薄膜の製造方法。
- 前記浮遊系細胞保定用多孔質超薄膜の貫通孔のピッチが、1.5μm以上6μm以下である、請求項1又は2に記載の浮遊系細胞保定用多孔質超薄膜の製造方法。
- 前記モールドが、ドーム状ピラーパターンを有するモールドである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の浮遊系細胞保定用多孔質超薄膜の製造方法。
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