以下、添付図面を参照して本発明の様々な実施形態を説明する。なお、図面において共通した構成要素には同一の参照符号が付されている。また、或る図面に表現された構成要素が、説明の便宜上、別の図面においては省略されていることがある点に留意されたい。さらにまた、添付した図面が必ずしも正確な縮尺で記載されている訳ではないということに注意されたい。
1.クラッチ制御装置が用いられるシステム全体の構成
一実施形態に係るクラッチ制御装置は、CbW方式のMTを搭載する車両、AMTを搭載する車両、又はその他任意のタイミングでクラッチを自動的に制御可能な車両に搭載され、クラッチの接続及び切断を制御するものである。
図1は、本発明の一実施形態に係るクラッチ制御装置100が用いられるシステム1000の構成の例を示す模式図である。図1に示すように、システム1000は、クラッチ装置1と、クラッチ装置1に配管5を経由して接続され、クラッチ装置1の継合又は切断の切替え操作を行うアクチュエータ装置2と、クラッチ装置1に接続されるエンジン3と、クラッチ装置1に接続されるトランスミッション4と、エンジン3の運転状況(エンジン回転数等)を制御するエンジン制御部30と、アクチュエータ装置2、トランスミッション4、及びエンジン制御部30等に電気的に接続されるクラッチ制御装置100と、を主に含む。なお、エンジン3は一般的なエンジンを用いることができ、また一般的なエンジン制御部30によってその動きを制御されている。ここでは詳細な説明は省略する。同様に、トランスミッション4も、一般的なマニュアルトランスミッション等を用いることができ、ここでは詳細な説明は省略する。
1−1.クラッチ装置1
図1に示すように、クラッチ装置1は、例えば、ダイヤフラムスプリング16を用いて、クラッチカバー15内に設けられるプレッシャープレート13を、摩擦材11を備えるクラッチディスク12を介して、エンジン3側のフライホイール3aに押圧することにより、エンジン3の駆動力をトランスミッション4に伝達する継合状態と、アクチュエータ装置2又はクラッチペダル装置(図示せず)から、配管5及びスレーブシリンダ(図示せず)を経由してレリーズシリンダ10に供給される作動油を用いてダイヤフラムスプリング16によるプレッシャープレート13に対する押圧を規制して、エンジン3の駆動力をトランスミッション4に伝達しない切断状態と、を切替える。
1−2.アクチュエータ装置2
図1に示すように、アクチュエータ装置2は、一例として例えば、主にモータ20と、モータ20の回転軸に固定され、モータ20の駆動力を減速するウォームギヤ機構の減速機21と、減速機21に係合するアクチュエータピストン22b、及びアクチュエータピストン22bを収容するアクチュエータシリンダ22cから主に構成されるマスタシリンダ22と、を含む。モータ20は、後述するクラッチ制御装置100による制御に従って、その回転軸を回転させる。減速機21は、モータ20の回転軸に固定され、モータ20と一体的に回転するウォームギヤ21aと、ウォームギヤ21aからモータ20の駆動力が伝達されるウォームホイール21bを有する。ウォームホイール21bは、ウォームギヤ21aの回転に応じて、ウォームギヤ21aの中心軸に直交する中心軸の周りに回転する。なお、ウォームギヤ21aとウォームホイール21bとを入れ替えても、同様の減速機21の構成を取りうることができる点も付言する。
アクチュエータピストン22bは、ウォームホイール21bに係合しており、ウォームホイール21bの回転に応じて、アクチュエータシリンダ22cの内部において、アクチュエータシリンダ22cの延設方向(図1においては紙面左右方向)に沿って摺動する。
なお、アクチュエータピストン22bには、アクチュエータシリンダ22c内におけるアクチュエータピストン22bの実位置(ストローク位置)を検知するセンサ22aが設けられている。この場合、アクチュエータ装置2は、検出したアクチュエータピストン22bの実位置に関する情報を、複数の配線(経路)を利用した多重信号方式により、クラッチ制御装置100に送信する。より具体的には、例えば2重系経路の信号線(有線無線を問わない)を用いることができ、センサ22aが検知した情報を、2つ(1つでも良いが一例として)のマイコンに入力し、かかる2つのマイコンのうちの一方は、一方の配線22xを用いて、かかる情報をクラッチ制御装置100に送信し、他方のマイコンは、他方の配線22yを用いて、かかる情報をクラッチ制御装置100に送信する。すなわち、2つのマイコンが正常に起動する限りにおいて、22x及び22yの配線を通じて送信される情報は常に同一となる。なお、センサ22aが検知するアクチュエータピストン22bの実位置に基づいて、アクチュエータピストン22bの移動速度を算出することも可能であり、このアクチュエータピストン22bの移動速度を、前述のアクチュエータピストン22aの実位置に関する情報とともに、2重系経路の信号線を用いて、クラッチ制御装置100に送信することも可能である。また、2重系経路の信号線に限らず、その他複数経路の信号線を用いても構わない点を念のため付言する。
ところで、アクチュエータピストン22bのアクチュエータシリンダ22c内における摺動は、クラッチ装置1の継合状態及び切断状態の両状態間の作動と連動している。具体的には、モータ20を駆動させて、アクチュエータピストン22bをアクチュエータシリンダ22c内で油圧を発生させるように摺動(図1においては、アクチュエータピストン22bが紙面左方向へ摺動)させると、かかる油圧が配管5を経由してレリーズシリンダ10に供給される。これにより、ダイヤフラムスプリング16によるプレッシャープレート13に対する押圧を規制して、切断状態を実現する。同様に、アクチュエータピストン22bを逆方向に摺動させることにより、継合状態を実現する。したがって、アクチュエータシリンダ22c内におけるアクチュエータピストン22bの実位置(ストローク位置)に関する情報をセンサ22aによって検知することによって、同時にクラッチ装置1(厳密にはクラッチディスク12やプレッシャープレート13等の各要素)の実位置に関する情報を検知することができる。また、アクチュエータシリンダ22c内におけるアクチュエータピストン22bの移動速度に関する情報をセンサ22aによって検知すれば、同時にクラッチ装置1の実際の移動速度に関する情報を検知することも可能となる。
なお、センサ22aは、マスタシリンダ22におけるアクチュエータピストン22bに設けられる。他方、上記センサ22aの目的に反しない限りにおいて、センサ22aは、例えばアクチュエータシリンダ22c、クラッチ装置1内におけるレリーズシリンダ10、クラッチディスク12、又はプレッシャープレート13に設けられてもよく、これら列挙された構成要素のいずれかのストローク位置(及び移動速度)を検知することで、上述の構成を代替することができる。さらにまた、センサ22aは、ウォームホイール21bに設けられてよい。ウォームホイール21bの回転速度を検知することで、上述の構成を代替することもできる。
1−3.クラッチ制御装置100
クラッチ制御装置100は、大まかにいえば、例えばエンジン3の回転数、トランスミッション4の入力回転数、及びギヤ段等の車両の運転情報を受信して、これらの運転情報に基づく車両の運転状況に応じて、アクチュエータ装置2の目標位置を算出する(取得する)。さらに、かかる目標位置を、アクチュエータ装置2への通電を制御することでアクチュエータ装置2へと出力して、クラッチ装置1の切替え操作を実行するものである。なお、クラッチ制御装置100は、前述の目標位置に加えて、アクチュエータ装置2の目標移動速度も算出して(取得して)、かかる目標移動速度を、アクチュエータ装置2へと出力して、クラッチ装置1の切替え操作を実行してもよい。このようなクラッチ制御装置100は、ハードウェアとして、例えば、様々なプログラム及びデータを記憶するメインメモリ及び外部メモリ等を含むメモリ(図示しない)と、メモリに記憶されたプログラムを実行するCPU(図示しない)と、アクチュエータ装置2(アクチュエータピストン22b)、エンジン3(エンジン制御部30)、及びトランスミッション4等と通信する通信インターフェイス(図示しない)と、ユーザから様々な情報を入力するためのユーザインターフェイス(図示しない)と、を主に含むものである。
クラッチ制御装置100が有する機能としては、図1に示すように、通信部(図示せず)と、制御部110と、検出部120と、判定部130と、を主に含むことができる。また、クラッチ制御装置100は、トランスミッション4を制御するトランスミッション制御部(図示せず)の中に一体的に設けられてもよいし、トランスミッション制御部とは別に設けられてもよい。
通信部は、アクチュエータ装置2(アクチュエータピストン22b)、エンジン3(エンジン制御部30)、トランスミッション4、及び、これらに組み込まれた又はこれらとは別体で設けられた様々なセンサや送受信部を含む様々なハードウェア要素との間で、様々な情報の送受信を実行する。より具体的には、クラッチ装置1の実位置(アクチュエータピストン22bの実位置(ストローク位置))に関する情報を、アクチュエータ装置2(アクチュエータピストン22b)に設けられるセンサ22aから出力される信号として、2重系経路の信号線を介して受信し、エンジン3の運転状況(例えば、エンジン3の回転数)に関する情報をエンジン制御部30から受信し、トランスミッション4の入力回転数やギヤ段等の情報をトランスミッション4に設けられるトランスミッションセンサ42から受信する。他方、後述する制御部110によって算出されるクラッチ装置1の目標位置(厳密には、クラッチディスク12やプレッシャープレート13等、クラッチ装置1を構成するいずれかの要素の目標位置であって、アクチュエータピストン22bの目標位置に置換することができる)や、場合によっては、前述の目標位置に基づいて算出される、クラッチ装置1の目標移動速度(厳密には、クラッチディスク12やプレッシャープレート13等、クラッチ装置1を構成するいずれかの要素の目標移動速度であって、アクチュエータピストン22bの目標移動速度に置換することができる)を、アクチュエータ装置2に送信(出力)して、モータ20の回転を制御する。このような機能を果たす通信部は、例えば、上述した通信インターフェイス等により実現され得るものであって、かかる通信部は、後述する制御部110の内部に設けられていてもよい。
以下、クラッチ制御装置100がハードウェア要素との間において何らかの情報を「通信(送受信)する」といった場合には、この通信部がそのような通信(送受信)を行うことができると理解されたい。
制御部110は、例えば、アクチュエータ装置2への通電ON又は通電OFF、及びアクチュエータ装置2への通電を制御することによるアクチュエータ装置2のモータ20の回転を制御する制御情報を、通信部を介してアクチュエータ装置2に送信することにより、アクチュエータ装置2を制御すること(これにより、クラッチ装置1の継合及び切断を制御すること)ができる。さらに具体的には、制御部110は、通信部によって受信されるエンジン3の運転状況(例えば、エンジン3の回転数)に関する情報や、トランスミッション4の入力回転数やギヤ段の情報等の車両の運転状態に関する情報に基づいて、クラッチ装置1の目標位置(厳密には、クラッチディスク12やプレッシャープレート13等、クラッチ装置1を構成するいずれかの要素の目標位置であって、アクチュエータピストン22bの目標位置に置換することができる)を算出することができる。なお、図2A及び図2Bに示すように、かかる目標位置を算出すれば、かかる目標位置と時間との関係性に基づいて、クラッチ装置1の目標移動速度(厳密には、クラッチディスク12やプレッシャープレート13等、クラッチ装置1を構成するいずれかの要素の目標移動速度であって、アクチュエータピストン22bの目標移動速度に置換することができる)も算出することができる(図2A及び図2Bにおいては、実線で示されるグラフの傾きが目標移動速度となる)。かかる目標位置(及び目標移動速度)は、通信部を介して、アクチュエータ装置2に送信(出力)され、モータ20の回転が制御される。なお、後述のとおり、検出部120により、アクチュエータ装置2が依然として制御可能な状態において、アクチュエータ装置2の異常が検出された場合においては、制御部110は、車両の運転状態ではなく、アクチュエータ装置2の異常が検出されたことに伴って、通常時とは異なる方法で、クラッチ装置1の目標位置を算出する。つまり、アクチュエータ装置2の異常が検出されると、アクチュエータ装置2が異常であると検出された検出時点における目標位置を記憶して、その検出時点における目標位置を、その検出時点から所定時間(第1の所定時間)継続する一定の目標位置(及び目標移動速度においては、0又は最終的に0に近い値に漸減していく値)となるように設定されている。
このような機能を果たす制御部110は、例えば、上述したCPU等により実現され得るものである。また、以下、クラッチ制御装置100がハードウェア要素を「制御する」といった場合には、この制御部110がそのような制御を行うことができると理解されたい。
また、クラッチ制御装置100は、様々なプログラム、データ及び情報を記憶する記憶部(図示せず)を含んでおり、かかる記憶部は制御部110の内部に設けられてもよい。これらのデータ及び情報には、通信部、制御部110、後述の検出部120、及び後述の判定部130から受信したデータ及び情報が含まれ得る。このような機能を果たす記憶部は、例えば、上述したメインメモリ及び外部メモリ等を含むメモリ等により実現されるものである。これにより、例えば、クラッチ装置1の任意の目標位置(及び目標移動速度)を記憶することができる。
なお、以下、クラッチ制御装置100が何らかの情報又はデータを「記憶する」といった場合には、この記憶部がそのような記憶を行うことができると理解されたい。
ここで、クラッチ装置1の目標位置及び目標移動速度について説明する。前述のとおり、制御部110は、通信部によって受信されるエンジン3の運転状況(例えば、エンジン3の回転数)に関する情報や、トランスミッション4の入力回転数やギヤ段の情報等の車両の運転状態に関する情報に基づいて、クラッチ装置1の目標位置及び場合によっては目標移動速度を算出する。したがって、クラッチ装置1の目標位置及び目標移動速度とは、クラッチ装置1の実位置及びクラッチ装置1の実際の移動速度とは異なり、制御部110によって算出され通信部を介してアクチュエータ装置2に送信される指令値ということができる。したがって、クラッチ装置1の実位置及びクラッチ装置1の実際の移動速度は、目標位置及び目標移動速度を追従するように(例えば、図2の実線参照)変位する。
次に、検出部120は、通信部を介して、前述のハードウェア要素から受信した情報を用いて、様々な現象を検出する。例えば、検出部120は、通信部を介して、クラッチ装置1の実位置(アクチュエータピストン22bの実位置(ストローク位置))及びクラッチ装置1の実際の移動速度(アクチュエータピストン22bの実際の移動速度)に関する情報を、アクチュエータ装置2(アクチュエータピストン22b)に設けられるセンサ22aから出力される信号として、2重系経路の信号線(前述のとおり、2重系ではない複数経路の信号線であってもよい)を介して受信して、アクチュエータ装置2の駆動状態を監視している。より具体的には、センサ22aが検知した信号(情報)を、2つのマイコンに入力し、かかる2つのマイコンのうちの一方は、2重系経路の一方の配線22xを用いて、かかる信号をクラッチ制御装置100に送信し、他方のマイコンは、2重系経路の他方の配線22yを用いて、かかる信号をクラッチ制御装置100に送信する。すなわち、2つのマイコンが正常に起動する限りにおいて、22x及び22yの配線を通じて受信する2つの信号は常に同一か、又は2つの信号の偏差の絶対値は誤差範囲となる。逆に、センサ22aから2重系経路に各々出力される2つの信号の偏差の絶対値が所定値を超え、且つその状態が所定時間(第2の所定時間)以上継続する場合に、アクチュエータ装置2が異常であると検出することができる。この場合におけるアクチュエータ装置2の異常の検出とは、アクチュエータ装置2が依然として制御可能な状態において、センサ22aから2重系経路に出力される2つの信号間のドリフト検出を意味している。より具体的に言えば、かかる2つの信号は、前述したように、通常同一か、又は2つの信号の偏差の絶対値は誤差範囲に収まっている。しかしながら、2つの信号のうちのいずれかに異常が発生すると、かかる偏差の絶対値は大きくなる。但し、このような異常とは関係なく、例えば周辺環境や配線等の製品バラつき等によって、かかる偏差の絶対値が一瞬だけ大きくなる場合も考えられるため、検出部120は、かかる偏差の絶対値が予め設定される所定値を超え、且つその状態が所定時間(第2の所定時間)以上継続する場合に、2つの信号のうちのいずれかに異常がある(ドリフトが発生している)と検出するように設計されている。なお、例えば、22x及び22yにかかる配線の固着や断線等が生じているような異常の場合には、もはや制御部110による通電制御によって、アクチュエータ装置2を制御することはできないため、本発明の一実施形態とは異なる別のプロセスにて、固着や断線等の異常を検出することとなる。
このような機能を果たす検出部120は、例えば、上述したCPU等により実現され得るものである。また、以下、クラッチ制御装置100が何らかの現象を「検出する」といった場合には、この検出部120がそのような検出を行うことができると理解されたい。
次に、判定部130は、通信部を介して、クラッチ装置1の実位置、及び場合によってはクラッチ装置1の実際の移動速度(アクチュエータピストン22bの実位置(ストローク位置)、及びアクチュエータピストン22bの実際の移動速度)に関する情報を、アクチュエータ装置2(アクチュエータピストン22b)に設けられるセンサ22aから2重系経路に出力される信号として受信すると、かかる2重系経路に出力された各々の信号の情報の中間値を演算して、クラッチ装置1の実位置、及び場合によってはクラッチ装置1の実際の移動速度(アクチュエータピストン22bの実位置(ストローク位置)、及びアクチュエータピストン22bの実際の移動速度)を算出する(例えば、図2A及び図2B参照)。その上で、クラッチ装置1の実位置が、アクチュエータ装置2の異常が検出されたことに伴って制御部110によって算出されるクラッチ装置1の目標位置(所定時間一定)に追従しているか否かを判定することができる。また、クラッチ装置1の実際の移動速度が利用される場合においては、かかる実際の移動速度が目標移動速度(0又は0に近い値)に追従しているか否かも判定されうる。具体的には、判定部130は、制御部110によって算出されるクラッチ装置1の目標位置及び目標移動速度を取得し、前述の通り算出したクラッチ装置1の実位置及びクラッチ装置1の実際の移動速度との関係において、当該実位置と当該目標位置との差が予め設定される所定範囲内に、所定時間(第1の所定時間及び第2の所定時間とは異なるものであって、第3の所定時間というものとする)継続するかどうかに基づいて、追従しているか否かを判定することができる。また、当該実際の移動速度と当該目標移動速度との差が、予め設定される所定範囲内に所定時間(第3の所定時間)継続するかどうかに基づいて、追従しているか否かを判定することも可能である。なお、クラッチ装置1の実位置及び実際の移動速度については、前述の検出部120による異常検出の有無に係らず、常時判定部130によって算出されるようにしてもよい。
2.クラッチ制御装置100により行われる動作
次に、クラッチ制御装置100により行われる動作について、さらに図2A、図2B、及び図3を参照して説明する。図2Aは、本発明の一実施形態に係るクラッチ制御装置100において、アクチュエータ装置2が依然として制御可能な状態でアクチュエータ装置2に異常があると検出された場合に、即時にアクチュエータ装置2の駆動を停止(通電を停止)させる制御方法を模式的に示す図である。図2Bは、本発明の一実施形態に係るクラッチ制御装置100において、アクチュエータ装置2が依然として制御可能な状態でアクチュエータ装置2に異常があると検出された場合に、アクチュエータ装置2の駆動速度を減少させた後に、アクチュエータ装置2の通電を停止させる制御方法を模式的に示す図である。図3は、本発明の一実施形態に係るクラッチ制御装置100により行われる制御プロセスを示すフロー図である。
まず、図3に示すクラッチ制御装置100により行われる制御プロセスを説明する前に、図2A及び図2Bを参照して、クラッチ制御装置100により行わる制御プロセスの概念、考え方について説明する。
図2Aは、クラッチ制御装置100における検出部120によって、アクチュエータ装置2が依然として制御部110によって制御可能な状態において、アクチュエータ装置2に異常(ドリフトの発生)があると検出された場合に、即時に制御部110によって、アクチュエータ装置2の通電を停止して、アクチュエータ装置2の駆動を停止(通電を停止)させる制御方法の概念を示すものである。なお、図2Aにおける曲線状の実線は、制御部110によって算出されるクラッチ装置1の目標位置及び目標移動速度を示し、曲線状の点線は、判定部130によって算出されるクラッチ装置1の実位置及びクラッチ装置1の実際の移動速度を示している。
図2Aに示すように、検出部120によって、アクチュエータ装置2が依然として制御部110によって制御可能な状態において、アクチュエータ装置2に異常(ドリフトの発生)があると検出されると、制御部110によって、即時にアクチュエータ装置2の通電は停止され、アクチュエータ装置2の駆動は、制御部110によって停止させられる。しかしながら、アクチュエータ装置2(厳密には、アクチュエータピストン22b)の慣性エネルギーが大きい状態(図2Aにおいて、点線の傾き(微分値)が大きい状態であって、クラッチ装置1の移動速度が大きい状態)のときに、アクチュエータ装置2の通電を停止しても、かかるアクチュエータ装置2の動きは実際には(物理的には)停止せず、場合によっては、その動きが加速的に大きくなってしまうこともありうる。これは、例えば、クラッチ装置1が切断状態から継合状態へと遷移する途中で、検出部120によってかかる異常検出がなされた場合に顕著に生じうる。つまり、クラッチ装置1が切断状態から継合状態へと遷移する過程においては、クラッチ装置1におけるクラッチカバー15及びダイヤフラムスプリング16の反力が発生し、かかる反力が、アクチュエータ装置2の慣性を助長して、結果として、アクチュエータ装置2の慣性に由来する動きが加速的に大きくなってしまう。このような場合、アクチュエータ装置2は、少なくともクラッチ装置1の継合状態に対応する位置で停止すべきところ、加速的な動きによってオーバーシュートしてしまい、アクチュエータ装置2が破損してしまう等の問題が生じてしまう。
そこで、図2Aのようなアクチュエータ装置2のオーバーシュートを防止するために、図2Bのような制御プロセスを踏んでから、制御部110によって、アクチュエータ装置2の通電を停止する。つまり、図2Bにおいては、検出部120によって、アクチュエータ装置2が依然として制御部110によって制御可能な状態において、アクチュエータ装置2に異常(ドリフトの発生)があると検出されると、即時にアクチュエータ装置2の通電を停止するのではなく、まずクラッチ装置1の実位置(及びクラッチ装置1の実際の移動速度)が、クラッチ装置1の目標位置(及び目標移動速度)に追従しているか否かを判定部130によって判定し、追従していると判定された後、制御部110によってアクチュエータ装置2の通電を停止するものである。ここで、検出部120によって、アクチュエータ装置2が依然として制御部110によって制御可能な状態において、アクチュエータ装置2に異常があると検出(ドリフト検出)されると、制御部110は、車両の運転状態ではなく、アクチュエータ装置2にかかる異常が検出されたことに対応して、検出部120によってかかる異常が検出された検出時点におけるクラッチ装置1の目標位置を記憶し、かかる検出時点における目標位置を、かかる検出時点から所定時間(第1の所定時間)継続する一定の目標位置に設定(算出)する。これにより、検出時点から所定時間(第1の所定時間)、クラッチ装置1の目標移動速度は0(又は最終的に0に近い値に漸減していく値)となり、クラッチ装置1の実位置及びクラッチ装置1の実際の移動速度が、かかる一定の目標位置及び目標移動速度0(又は0に近い値)に追従すれば、クラッチ装置1の実際の移動速度も0に近い値にまで減少することとなる。こうして、クラッチ装置1の実際の移動速度が減少した後、アクチュエータ装置2の通電を停止することで、前述のオーバーシュートや、アクチュエータ装置2の副次的な異常発生を効率的に防止することができる。なお、前述の目標位置は、図2Bに示すように、前記クラッチ装置1の継合状態と切断状態の中間位置(厳密には、対応するアクチュエータ装置2におけるアクチュエータピストン22bの端部が、アクチュエータシリンダ22cの端部ではない位置に存在すること)とすることができるため、オーバーシュートのリスクを最小限化し、前記アクチュエータ装置2の慣性に由来する、前記アクチュエータ装置2における副次的な異常・故障の発生を、更に効率的に防止することもできる。
なお、図2Bにおいては、アクチュエータ装置2が依然として制御部110によって制御可能な状態でアクチュエータ装置2に異常(ドリフト発生)があると検出された場合に、制御部110は、前述のとおり、一定のクラッチ装置1の目標位置、及び場合によってはクラッチ装置1の目標移動速度0(又は最終的に0に近い値に漸減していく値)を設定(算出)する旨説明したが、アクチュエータ装置2の駆動速度を減少させ、且つアクチュエータ装置2のオーバーシュートの発生を防止することを目的とする限りにおいて、例えばクラッチ装置1の目標移動速度は必ずしも0である必要はないが、理論的には0に近い値であることが好ましい。クラッチ装置1の目標位置も、かかる異常の検出時点におけるクラッチ装置1の目標位置を記憶する必要は必ずしもなく、任意の目標位置を別途算出し、かかる目標位置が一定となるようにしてもよい。
なお、図2A及び図2Bに示すように、制御部110によって、アクチュエータ装置2の通電が停止された後、さらに所定時間経過した後は、アクチュエータ装置2を含むシステム1000は、一般的なフェールセーフモードに移行することとなる。
次に、図2Bに係る制御プロセスについて、図3を参照しつつ、詳細を説明する。
まず、図3は本発明の一実施形態に係る異常検出処理及びその後の一連の制御プロセスを示すものであり、ステップST1において、クラッチ制御装置100は、検出部120によって、アクチュエータ装置2の異常(ドリフト)を検出する。具体的には、検出部120は、通信部を介して、クラッチ装置1の実位置及び場合によってはクラッチ装置1の実際の移動速度(アクチュエータピストン22bの実位置(ストローク位置)、及びアクチュエータピストン22bの実際の移動速度)に関する情報を、アクチュエータ装置2(アクチュエータピストン22b)に設けられるセンサ22aから2重系経路に各々出力される信号として受信して、アクチュエータ装置2の駆動状態を監視する。そして、2重系経路のうちの一方の経路に出力される信号と、他方の経路に出力される信号との偏差の絶対値が予め設定される所定値を超え、且つその状態が所定時間(第2の所定時間)以上継続する場合に、2つの信号のうちのいずれかに異常がある(ドリフトが発生している)と検出(ステップST11)するように設計される。なお、この場合において、アクチュエータ装置2は依然として制御部110によって制御可能な状態にある。逆に、配線の固着や断線等が生じているような場合には、もはや制御部110によってアクチュエータ装置2を制御することはできないため、このような場合の異常は、図3に係るプロセスとは異なるプロセスにて検出される。
なお、2重系経路のうちの一方の経路に出力される信号と、他方の経路に出力される信号との偏差の絶対値が予め設定される所定値を超える場合であるものの、その状態が所定時間(第2の所定時間)以上継続しない場合は、アクチュエータ装置2の異常(ドリフト)はないものと判断して、図3のプロセスを終了するものとする。
次に、ステップST1(ステップST11)にて、クラッチ制御装置100における検出部120がアクチュエータ装置2の異常(ドリフト発生)を検出すると、処理はステップST2に移行する。ステップST2では、一旦アクチュエータ装置2の異常が検出されると、第1のタイマ(ガードタイマ)を作動させて、ステップST3へと移行する。
次にステップST3にて、ステップST2にて作動させた第1のタイマの設定時間を参照して、かかる設定時間経過前(例えば、設定時間がt秒であれば、t秒未満の場合)であれば、必ず後述のステップST31へと移行させる。これにより、ステップST1(ステップST11)にてアクチュエータ装置2の異常(ドリフト発生)が検出されると、ステップST31以降の制御が必ず実行されることを保証することができる。なお、後述するステップST35又はステップST36を経由して、再度ステップST3へと回帰する場合であって、既にステップST2にて作動させた第1のタイマの設定時間以上が経過(例えば、第1のタイマの設定時間がt秒であれば、t秒以上経過)している場合においては、ステップST31以降の制御は十分実行されたものと看做して、アクチュエータ装置2への通電を停止すべくステップST4へと移行させる。
次に、ステップST2にて作動させた第1のタイマの設定時間経過前である場合には(前述のステップST3)、制御部110は、ステップST31にて、検出部120によって異常であると検出されたステップST11の検出時点(又はステップST2における第1のタイマ作動時)におけるクラッチ装置1の目標位置を記憶し、かかる検出時点における目標位置を、かかる検出時点から所定時間(第1の所定時間)継続する一定の目標位置として設定(算出)する。この場合、クラッチ装置1の目標移動速度は0(又は最終的に0に近い値に漸減していく値)となる。なお、制御部110は、通常(検出部120によって、アクチュエータ装置2が依然として制御部110によって制御可能な状態において異常であると検出されない限り)、エンジン3の運転状況(例えば、エンジン3の回転数)に関する情報や、トランスミッション4の入力回転数やギヤ段の情報等の車両の運転状態に関する情報に基づいて、クラッチ装置1の目標位置、及び場合によっては目標移動速度を算出していることは、前述したとおりである。
ステップST31において制御部110により算出された、所定時間(第1の所定時間)継続するクラッチ装置1の一定の目標位置は、通信部を介してアクチュエータ装置2へと送信されて、ステップST32へと移行する。これにより、クラッチ装置1の実位置を、ステップST31にて算出された目標位置へと追従させる。なお、制御部110によりクラッチ装置1の目標移動速度が算出される場合においては、かかる目標移動速度も、通信部を介してアクチュエータ装置2へと送信されてもよい。これにより、クラッチ装置1の実際の移動速度を、ステップST31にて算出された目標移動速度へと追従させる(クラッチ装置1の実位置を目標位置へと追従させるということは、実質的にはクラッチ装置1の実際の移動速度を目標移動速度へと追従させることを包含していることを付言しておく)。
次に、ステップST33にて、クラッチ装置1の実位置及び場合によってはクラッチ装置1の実際の移動速度を算出した上で、クラッチ装置1の実位置及び場合によってはクラッチ装置1の実際の移動速度が、ステップST31において制御部110によって算出されるクラッチ装置1の目標位置(所定時間一定)及び目標移動速度(0又は0に近い値)に追従しているか否かを判定する。具体的には、判定部130は、通信部を介して、アクチュエータ装置2(アクチュエータピストン22b)に設けられるセンサ22aから、2重系経路に各々出力される信号を受信すると、2重系経路に出力された各々の信号の中間値を演算して、クラッチ装置1の実位置を算出する。他方、ステップST31において、制御部110によって算出されるクラッチ装置1の目標位置及び目標移動速度を取得する。これにより、クラッチ装置1の実位置と、目標位置との関係において、当該実位置と当該目標位置との差が、予め設定される所定範囲内に含まれるかどうかを、ステップST33として判定する。また、当該実際の移動速度と当該目標移動速度との差が、予め設定される所定範囲内に所定時間(第3の所定時間)滞在しているかどうかに基づいて、追従しているか否かを判定することも可能である。
さらに、ステップST33にて、実位置と目標位置との差が予め設定される所定範囲内に含まれると判定部130により判定されると、ステップST34へと移行する。なお、実際の移動速度と目標移動速度との差が予め設定される所定範囲内に含まれると判定部130により判定されると、ステップST34へと移行するように構成してもよい。
ステップST34においては、ステップST33における判定を満たす時間(実位置と目標位置の差が所定範囲内、及び/又は場合によっては実際の移動速度と目標移動速度との差が所定範囲内であること)が、所定時間(第3の所定時間)以上継続しているか否かを判定部130にて判定するために、判定部130の機能として含まれる第2のタイマを作動させて、ステップST36へと移行する。
なお、ステップST33にて、クラッチ装置1の実位置及び場合によってはクラッチ装置1の実際の移動速度が、予め設定される所定の位置の差の範囲内及び予め設定される所定の移動速度差の範囲内に含まれないと判定部130により判定されると、ステップST35において、前述の第2のタイマを作動させることなく(又は第2のタイマをクリアにして)、ステップST3まで回帰することとなる。ステップST3まで回帰した時点で、第1のタイマの設定時間経過前であれば、再びステップST31以降のプロセスへと移行するが、既に第1のタイマの設定時間以上が経過している場合には、ステップST31へは移行せずにステップST4へ移行して、アクチュエータ装置2の通電は停止される。
次に、ステップST36にて、ステップST33における判定を満たす(実位置と目標位置の差が所定範囲内、及び場合によっては実際の移動速度と目標移動速度との差が所定範囲内であること)時間が、所定時間(第3の所定時間)以上継続しているか否かを判定部130にて判定する。つまり、クラッチ装置1の実際の位置及びクラッチ装置1の実際の移動速度が、目標位置及び目標移動速度に所定時間(第3の所定時間)以上追従しているか否かを判定するものである。ステップST36にて、所定時間(第3の所定時間)以上継続していると判定部130によって判定されるということは、クラッチ装置1の実際の移動速度が0(又は0に近い値)まで確実に減少していることを意味する。これにより、ステップST4へと移行して、アクチュエータ装置2の通電を停止する。
他方、ステップST36にて、所定時間(第3の所定時間)以上継続していないと判定されると、ステップST3まで回帰して、ステップST3以降のステップをやり直すこととなる。なお、ステップST3まで回帰した時点で、第1のタイマの設定時間経過前であれば、再びステップST31以降のプロセスへと移行するが、既に第1のタイマの設定時間以上が経過している場合には、ステップST31へは移行せずにステップST4へ移行して、アクチュエータ装置2の通電は停止される。
以上、本発明の実施形態を例示したが、上記実施形態はあくまで一例であって、発明の範囲を限定することは意図していない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置換、変更を行うことができる。また、各構成や、形状、大きさ、長さ、幅、厚さ、高さ、数等は適宜変更して実施することができる。クラッチ制御装置100の各部の配置や構成等は、上記実施形態には限定されない。