本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は以下の説明に限定されず、その形態および詳細を様々に変更し得ることは、当業者であれば容易に理解される。また、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。なお、図面を用いて発明の構成を説明するにあたり、同じものを指す符号は異なる図面間でも共通して用いる。なお、同様のものを指す際にはハッチパターンを同じくし、特に符号を付さない場合がある。なお、異なる符合の構成要素の記載を参照する場合、参照された構成要素の厚さ、組成、構造または形状などについての記載を適宜用いることができる。
なお、図において、大きさ、膜(層)の厚さ、または領域は、明瞭化のために誇張されている場合がある。
なお、本明細書において、「膜」という表記と、「層」という表記と、を互いに入れ替えることが可能である。
また、電圧は、ある電位と、基準の電位(例えば接地電位(GND)またはソース電位)との電位差のことを示す場合が多い。よって、電圧を電位と言い換えることが可能である。一般的に、電位(電圧)は、相対的なものであり、基準の電位からの相対的な大きさによって決定される。したがって、「接地電位」などと記載されている場合であっても、電位が0Vであるとは限らない。例えば、回路で最も低い電位が、「接地電位」となる場合もある。または、回路で中間くらいの電位が、「接地電位」となる場合もある。その場合には、その電位を基準として、正の電位と負の電位が規定される。
なお、第1、第2として付される序数詞は便宜的に用いるものであり、工程順または積層順を示すものではない。そのため、例えば、「第1の」を「第2の」または「第3の」などと適宜置き換えて説明することができる。また、本明細書などに記載されている序数詞と、本発明の一態様を特定するために用いられる序数詞は一致しない場合がある。
なお、「半導体」と表記した場合でも、例えば、導電性が十分低い場合は「絶縁体」としての特性を有する場合がある。また、「半導体」と「絶縁体」は境界が曖昧であり、厳密に区別できない場合がある。したがって、本明細書に記載の「半導体」は、「絶縁体」と言い換えることができる場合がある。同様に、本明細書に記載の「絶縁体」は、「半導体」と言い換えることができる場合がある。
また、「半導体」と表記した場合でも、例えば、導電性が十分高い場合は「導電体」としての特性を有する場合がある。また、「半導体」と「導電体」は境界が曖昧であり、厳密に区別できない場合がある。したがって、本明細書に記載の「半導体」は、「導電体」と言い換えることができる場合がある。同様に、本明細書に記載の「導電体」は、「半導体」と言い換えることができる場合がある。
なお、半導体の不純物とは、例えば、半導体を構成する主成分以外をいう。例えば、濃度が0.1原子%未満の元素は不純物である。不純物が含まれることにより、例えば、半導体にDOS(Density of States)が形成されることや、キャリア移動度が低下することや、結晶性が低下することなどが起こる場合がある。半導体が酸化物半導体である場合、半導体の特性を変化させる不純物としては、例えば、第1族元素、第2族元素、第13族元素、第14族元素、第15族元素、主成分以外の遷移金属などがあり、特に、例えば、水素(水にも含まれる)、リチウム、ナトリウム、シリコン、ホウ素、リン、炭素、窒素などがある。酸化物半導体の場合、例えば水素などの不純物の混入によって酸素欠損を形成する場合がある。また、半導体がシリコン層である場合、半導体の特性を変化させる不純物としては、例えば、酸素、水素を除く第1族元素、第2族元素、第13族元素、第15族元素などがある。
なお、チャネル長とは、例えば、トランジスタの上面図において、半導体(またはトランジスタがオン状態のときに半導体の中で電流の流れる部分)とゲート電極とが互いに重なる領域、またはチャネルが形成される領域における、ソース(ソース領域またはソース電極)とドレイン(ドレイン領域またはドレイン電極)との間の距離をいう。なお、一つのトランジスタにおいて、チャネル長が全ての領域で同じ値をとるとは限らない。即ち、一つのトランジスタのチャネル長は、一つの値に定まらない場合がある。そのため、本明細書では、チャネル長は、チャネルの形成される領域における、いずれか一の値、最大値、最小値または平均値とする。
チャネル幅とは、例えば、半導体(またはトランジスタがオン状態のときに半導体の中で電流の流れる部分)とゲート電極とが互いに重なる領域、またはチャネルが形成される領域における、ソースとドレインとが向かい合っている部分の長さをいう。なお、一つのトランジスタにおいて、チャネル幅がすべての領域で同じ値をとるとは限らない。即ち、一つのトランジスタのチャネル幅は、一つの値に定まらない場合がある。そのため、本明細書では、チャネル幅は、チャネルの形成される領域における、いずれか一の値、最大値、最小値または平均値とする。
なお、トランジスタの構造によっては、実際にチャネルの形成される領域におけるチャネル幅(以下、実効的なチャネル幅と呼ぶ。)と、トランジスタの上面図において示されるチャネル幅(以下、見かけ上のチャネル幅と呼ぶ。)と、が異なる場合がある。例えば、立体的な構造を有するトランジスタでは、実効的なチャネル幅が、トランジスタの上面図において示される見かけ上のチャネル幅よりも大きくなり、その影響が無視できなくなる場合がある。例えば、微細かつ立体的な構造を有するトランジスタでは、半導体の側面に形成されるチャネル領域の割合が大きくなる場合がある。その場合は、上面図において示される見かけ上のチャネル幅よりも、実際にチャネルの形成される実効的なチャネル幅の方が大きくなる。
ところで、立体的な構造を有するトランジスタにおいては、実効的なチャネル幅の、実測による見積もりが困難となる場合がある。例えば、設計値から実効的なチャネル幅を見積もるためには、半導体の形状が既知という仮定が必要である。したがって、半導体の形状が正確にわからない場合には、実効的なチャネル幅を正確に測定することは困難である。
そこで、本明細書では、トランジスタの上面図において、半導体とゲート電極とが互いに重なる領域における、ソースとドレインとが向かい合っている部分の長さである見かけ上のチャネル幅を、「囲い込みチャネル幅(SCW:Surrounded Channel Width)」と呼ぶ場合がある。また、本明細書では、単にチャネル幅と記載した場合には、囲い込みチャネル幅または見かけ上のチャネル幅を指す場合がある。または、本明細書では、単にチャネル幅と記載した場合には、実効的なチャネル幅を指す場合がある。なお、チャネル長、チャネル幅、実効的なチャネル幅、見かけ上のチャネル幅、囲い込みチャネル幅などは、断面TEM像などを取得して、その画像を解析することなどによって、値を決定することができる。
なお、トランジスタの電界効果移動度や、チャネル幅当たりの電流値などを計算して求める場合、囲い込みチャネル幅を用いて計算する場合がある。その場合には、実効的なチャネル幅を用いて計算する場合とは異なる値をとる場合がある。
本明細書において、「平行」とは、二つの直線が−10°以上10°以下の角度で配置されている状態をいう。したがって、−5°以上5°以下の場合も含まれる。また、「略平行」とは、二つの直線が−30°以上30°以下の角度で配置されている状態をいう。また、「垂直」とは、二つの直線が80°以上100°以下の角度で配置されている状態をいう。したがって、85°以上95°以下の場合も含まれる。また、「略垂直」とは、二つの直線が60°以上120°以下の角度で配置されている状態をいう。
また、本明細書において、結晶が三方晶または菱面体晶である場合、六方晶系として表す。
なお、明細書において、半導体と記載する場合、酸化物半導体と読み替えることができる。半導体としては、ほかにもシリコン、ゲルマニウムなどの第14族半導体、炭化シリコン、ケイ化ゲルマニウム、ヒ化ガリウム、リン化インジウム、セレン化亜鉛、硫化カドミウム、などの化合物半導体、および有機半導体を用いることができる。
なお、明細書において、単に酸化物と記載する場合、酸化物半導体、酸化物絶縁体または酸化物導電体と読み替えることができる。
(実施の形態1)
<成膜方法>
以下では、スパッタリング法によるCAAC−OSの成膜モデルの一例について説明する。
一例として、図1(A)に、InMZnO4(元素Mは、例えばアルミニウム、ガリウム、イットリウムまたはスズ)の結晶構造を示す。なお、図1(A)は、b軸に平行な方向から観察した場合のInMZnO4の結晶構造である。図1(A)に示すように、InMZnO4は、層状の結晶構造(層状構造ともいう)をとり、In−O層が1に対し、M−Zn−O層が2になる。ここで、In−O層は、インジウムと、酸素を含む層であり、酸化物であるInO2を含んでいるということもできる。また、M−Zn−O層は、元素Mと、亜鉛と、酸素を含む層であり、酸化物である(M,Zn)O、(例えば、(Ga,Zn)Oなど)を含んでいるということもできる。この場合、元素Mと亜鉛の割合が等しいものとする。元素Mと亜鉛とは、置換が可能であり、配列は不規則である。
図1(A)に示す結晶構造に含まれるいろいろな結晶面について劈開エネルギーを算出したところ、図1(A)に示す劈開面25において、劈開エネルギーが最も小さくなることが分かった。劈開面25は、近接する二つのM−Zn−O層に挟まれた面であり、InMZnO4結晶の(001)面に対応する。なお、InMZnO4の結晶構造の劈開エネルギーの詳細については、後述する。
劈開面25を挟んで位置する二つのM−Zn−O層では、図1(A)に示すように、酸素原子と酸素原子が向かい合うように位置している。酸素原子同士がクーロン力により反発するために、近接する二つのM−Zn−O層間の結合エネルギーが弱くなり、劈開面25が形成されている。
このように、劈開エネルギーが小さい劈開面25は、表面エネルギーも同様に小さくなる。よって、表面にM−Zn−O層が位置する平板状の構造がエネルギー的に安定になると推測される。このような構造のクラスターを、本明細書ではナノクラスターと呼ぶことにする。その一例として、図1(B)にナノクラスター20をc軸に垂直な方向から見た構造を示す。また、図1(C)にナノクラスター20をc軸に平行な方向から見た構造を示す。
図1(B)に示すように、例えば、ナノクラスター20は二つのM−Zn−O層と、その間に位置するIn−O層で構成される。また、図1(A)に示すように、ナノクラスター20は、InMZnO4の結晶構造中の二つの劈開面25に挟まれた部分に対応している。
ナノクラスター20は、六角形、例えば正六角形の平面を有する平板状のクラスターである。または、ナノクラスター20は、三角形、例えば正三角形の平面を有する平板状のクラスターである。ただし、ナノクラスター20の形状は、三角形、六角形に限定されない、例えば、三角形が複数個合わさった形状となる場合がある。例えば、三角形(例えば、正三角形)が2個合わさった四角形(例えば、ひし形)となる場合もある。例えば、六角形が変形して、五角形または七角形などの形状になる場合もある。
ナノクラスター20は、成膜ガスの種類などに応じて厚さが決定する。例えば、ナノクラスター20は、厚さを0.4nm以上1nm以下、好ましくは0.6nm以上0.8nm以下とする。また、例えば、ナノクラスター20は、幅を1nm以上100nm以下、好ましくは2nm以上50nm以下、さらに好ましくは3nm以上30nm以下とする。
スパッタ法を用いて、InMZnO4などの酸化物膜を成膜する場合、基板または下地膜の表面にナノクラスターが形成され、当該ナノクラスターが横方向に成長し、上記CAAC−OSなどが形成されると考えられる。以下に、ナノクラスターの形成を介するCAAC−OSの成長メカニズムについて説明する。
図2及び図3を用いて、ターゲット33からナノクラスター20が劈開するモデルについて説明する。ここで、図2はスパッタ装置の成膜室を示している。図2に示すように、成膜室内にはターゲット33が設けられている。ターゲット33は、バッキングプレートに接着して設けられ、バッキングプレートを介してマグネットと重なるように配置されることが好ましい。
成膜室内は、ほとんどが成膜ガス(例えば、酸素、アルゴン、または酸素を5体積%以上の割合で含む混合ガス)で満たされ、0.01Pa以上100Pa以下、好ましくは0.1Pa以上10Pa以下に制御される。なお、成膜ガスは水などの不純物が含まれないことが好ましく、例えば、成膜ガスに含まれる水分子が0.5sccm未満とすればよい。ここで、ターゲット33側に一定以上の電圧を印加することで、放電が始まり、プラズマ34を確認することができる。なお、ターゲット33の近傍にはマグネットの磁場によって、高密度プラズマ領域が形成される。高密度プラズマ領域では、成膜ガスがイオン化することで、イオン21が生じる。マグネットの磁場を利用して成膜速度を高めるスパッタリング法は、マグネトロンスパッタリング法と呼ばれる。イオン21は、例えば、酸素の陽イオン(O+)やアルゴンの陽イオン(Ar+)などである。
ターゲット33は、複数の結晶粒を有する多結晶構造を有し、いずれかの結晶粒には劈開面25が含まれることが好ましい。例えば、図1(A)に示すInMZnO4(元素Mは、例えばアルミニウム、ガリウム、イットリウムまたはスズ)結晶が、ターゲット33に含まれることが好ましい。なお、ターゲット33には、シリコンなどの不純物が含まれないことが好ましく、例えば、ターゲット33に含まれる酸化シリコンは2重量%未満、好ましくは0.2重量%以下、より好ましくは0.02重量%未満とすればよい。
高密度プラズマ領域で生じたイオン21は、電界によってターゲット33側に加速され、やがてターゲット33と衝突する。このとき、劈開面25から平板状のクラスターである、ナノクラスター20が剥離する。なお、ナノクラスター20の剥離に伴い、ターゲット33から粒子23も弾き出される。粒子23は、原子1個または原子数個の集合体を有する。そのため、粒子23を原子状粒子(atomic particles)と呼ぶこともできる。なお、イオン21の衝突の衝撃によって、ナノクラスター20の構造に歪みが生じる場合がある。
ターゲットの表面における劈開の様子について、図3に示す断面図を用いて説明する。図3(A)は、劈開面25(破線部)を有するターゲット33の断面図である。ターゲット33にイオン21が衝突すると、劈開面25の端部から結合が切れ始める(図3(B)参照。)。ここで、劈開した面同士は、同じ極性の電荷が存在することによりクーロン力で反発し合う。クーロン力による反発が進行することで、結合の切れた領域が徐々に広がっていく。最終的には、ターゲット33からナノクラスター20が剥離する(図3(C)参照。)。
プラズマ34を通過したナノクラスター20および粒子23は、基板32の表面に達する。ここで、ナノクラスター20は平板状であるため、平面側を基板32の表面に向けて堆積しやすい。さらに、基板加熱を行うことで、ナノクラスター20をマイグレーションさせて平面側を基板32の表面に向けて堆積させやすくなる。なお、粒子23の一部は、質量が小さいため真空ポンプなどによって外部に排出される場合がある。また、基板32の上に下地絶縁膜などの絶縁体を設ける構成としてもよい。
また、図2では、ターゲット33と基板32を対向させて表示していたが、本実施の形態に係る酸化物の成膜方法は必ずしもこれに限られるものではない。例えば、後述する図17及び図18に示すように、二つのターゲットを対向させて設け、その間に基板を配置するようにしてもよい。
上記図2及び図3では、ターゲット33が複数の結晶粒を有するIn−M−Zn酸化物のような複合酸化物の多結晶構造を有し、いずれかの結晶粒には劈開面25が含まれる場合について説明した。本実施の形態に示す酸化物膜について、これとは異なる成長モデルも考えられる。例えば、以下に示す、自己組織化によってナノクラスターが形成される成長メカニズムも考えられる。
例えば、図2及び図3に示す場合と異なり、図4に示すようなメカニズムでナノクラスター20が形成されることが推測される。ここで、図4に示すようなメカニズムでナノクラスター20が形成される場合も、図2に示す成膜室で成膜したときと同様の状態で成膜することができる。
よって、上記と同様に、成膜室内は、ほとんどが成膜ガス(例えば、酸素、アルゴン、または酸素を5体積%以上の割合で含む混合ガス)で満たされ、0.01Pa以上100Pa以下、好ましくは0.1Pa以上10Pa以下に制御される。なお、成膜ガスは水などの不純物が含まれないことが好ましく、例えば、成膜ガスに含まれる水分子が0.5sccm未満とすればよい。
また、ターゲット33は、酸化インジウム、元素Mの酸化物および酸化亜鉛を有する混合物とすればよい。なお、ターゲット33には、シリコンなどの不純物が含まれないことが好ましく、例えば、ターゲット33に含まれる酸化シリコンは2重量%未満、好ましくは0.2重量%以下、より好ましくは0.02重量%未満とすればよい。
図4に示す成膜方法は、基板32を加熱しながら行うことが好ましい。基板32の表面温度は、100℃以上500℃未満、好ましくは140℃以上450℃未満、さらに好ましくは170℃以上400℃未満とすればよい。
ターゲット33側に一定以上の電圧を印加することで、放電が始まり、プラズマ34が発生し、イオン21が生じる。イオン21は、電界によってターゲット33側に加速され、やがてターゲット33と衝突する。このとき、ターゲット33から粒子23が弾き出される。粒子23は、原子1個または原子数個の集合体を有する。なお、粒子23は、イオン化される場合もある。また、粒子23の一部は、質量が小さいため真空ポンプなどによって外部に排出される場合がある。
ここで、ターゲット33から弾き出された粒子23は、基板32の表面に堆積する(図4(A)参照。)。このとき、基板32を加熱しながらスパッタリングを行うことにより、基板32の表面に堆積した粒子23に熱的エネルギーを与えて、粒子23をマイグレーションさせることができる。つまり、粒子23が基板32の表面に堆積することと並行して、基板32表面に堆積された他の粒子23がマイグレーションを起こすと考えられる。
粒子23がマイグレーションすることにより、基板32に堆積した粒子23はエネルギー的に安定な配置に整列していく。上記の表面エネルギーが低い劈開面25が基板32に接してM−Zn−O層が形成され、その上にIn−O層が形成され、さらに表面エネルギーが低い劈開面25が表面に露出するようにM−Zn−O層が形成される。このようにして、c軸に垂直な面が表面に現れた平板状のクラスターであるナノクラスター20が形成される(図4(B)参照。)。この工程では、基板32から与えられた熱エネルギーによって、粒子23が秩序性の高い結晶構造を形成するように、自律して整列している。この点からナノクラスター20は自己組織化により形成されたということもできる。
なお、上記のように自己組織化によりナノクラスター20を形成する場合、ターゲット33として酸化インジウム、元素Mの酸化物および酸化亜鉛を有する混合物のターゲット用いても、ナノクラスター20を形成することができる。
また、基板32として、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)基板などの、被形成面が特定の結晶面である基板(単結晶基板など)を用いることが好ましい。基板32として単結晶基板などを用いることで、ナノクラスター20の結晶性向上を図ることができる。
次に、以上の成長メカニズムに従って、基板32表面に形成されたナノクラスター20が成長するモデルについて図5を用いて説明する。
まず、上記のモデルのいずれかに従って、複数のナノクラスター20が基板32の表面に形成される。ここで、複数のナノクラスター20は、互いにa軸及びb軸の向きがランダムになる。
次に、粒子23が基板32の表面に達する。詳細は後述するが、粒子23は、ナノクラスター20の上面より側面に結合しやすい。よって、粒子23は、ナノクラスター20の形成されていない領域を埋めるように、ナノクラスター20の側面に優先的に付着する。粒子23は、結合手が活性状態となることで、ナノクラスター20と化学的に連結して横成長部22を形成する(図5(A)参照。)。粒子23は、ナノクラスター20とナノクラスター20の間の領域に入り込むということもできる。なお、ナノクラスター20は、図5(A)に示すように、二つのM−Zn−O層と、その間に位置するIn−O層で構成される。
横成長部22は、ナノクラスター20とナノクラスター20の間の領域26((領域26は、Lateral Growth Buffer Region(LGBR)と呼称することもできる。)を埋めるように横方向に成長(ラテラル成長ともいう。)する。ここで、横方向とは、例えばナノクラスター20中のc軸に垂直な方向を指す。
ここで、450℃以下、好ましくは400℃以下程度の基板加熱により、ナノクラスター20の横成長部22に粒子23が付着し、粒子23にLGBRを介して拡散した酸素が付着し、再び粒子23が同様に付着する、という反応が起きやすくなる。この繰り返しにより横方向の固相成長が起きていると推定される。このようなナノクラスターの横方向の成長を自己組織化と呼ぶこともできる。
さらに横成長部22がラテラル成長することで、横成長部22が互いに衝突する。横成長部22が衝突した部分を連結部27として隣接するナノクラスター20が連結される(図5(B)参照。)。つまり、領域26中に連結部27が形成される。これは、粒子23が、ナノクラスター20の側面に横成長部22を形成し、横方向に成長することで、ナノクラスター20間の領域26を充填しているということもできる。このように、ナノクラスター20の形成されていない領域を埋めるまで横成長部22が形成される。このメカニズムは、原子層堆積(ALD:Atomic Layer Deposition)法の堆積メカニズムに類似する。
したがって、ナノクラスター20がそれぞれ異なる方向を向けて形成される場合でも、ナノクラスター20とナノクラスター20の隙間を粒子23がラテラル成長しながら埋めるため、明確な結晶粒界が形成されることがない。
ここで、InMZnO4の結晶構造は図1(A)に示すように、層状結晶構造が幅広い組成範囲で安定に存在しており、金属原子と酸素原子の間の結合の強さや平衡距離は、それぞれの金属原子で異なる。そのためInMZnO4の結晶構造は、歪みに対しても寛容な構造を取ると推測される。よって、ナノクラスター20間を、粒子23が滑らかに連結(アンカリング)するため、連結部27において単結晶とも多結晶とも異なる結晶構造が形成される。言い換えると、ナノクラスター20の間の連結部27に歪みを有する結晶構造が形成される。これにより、例えば、連結部27において、上面の形状が六角形だった結晶構造が変形し、五角形または七角形になる場合もある。このように、ナノクラスター20の間を埋める領域は、歪んだ結晶領域であるため、該領域を指して非晶質構造と呼ぶのは適切ではないと考えられる。
次に、新たなナノクラスター20が、平面側を基板32の表面に向けて形成される。そして、粒子23が、ナノクラスター20の形成されていない領域を埋めるように堆積することで横成長部22を形成する(図5(C)参照。)。こうして、粒子23がナノクラスター20の側面に付着し、横成長部22がラテラル成長することで、二層目のナノクラスター20間を連結させる(図5(D)参照。)。m層目(mは二以上の整数。)が形成されるまで成膜は続き、積層体を有する薄膜構造の酸化物が形成される。このようにして、基板(または下地絶縁膜)の平坦部35aの上に酸化物を成膜すると、平坦部35aの上面に略垂直なc軸方向に配向するナノクラスター20が形成される(図6(A)参照。)。また、基板(または下地絶縁膜)の凸部35bの上に酸化物を成膜しても、凸部35bの上面に略垂直なc軸方向に配向するナノクラスター20が形成される(図6(B)参照。)。なお、図6(A)(B)に示すように、一部にナノクラスター20とナノクラスター20との間に傾きが生じ配向が乱れる場合もある。
なお、ナノクラスター20の形成は、基板32の表面温度などによっても変化する。例えば、基板32の表面温度が高いと、粒子23がナノクラスター20の表面でマイグレーションを起こす。その結果、粒子23の結合手がより活性化し、横成長部22の形成を促進させることができる。CAAC−OSを成膜する際の基板32の表面温度は、100℃以上500℃未満、好ましくは140℃以上450℃未満、さらに好ましくは170℃以上400℃未満である。したがって、基板32として第8世代以上の大面積基板を用いた場合でも、CAAC−OSの成膜に起因した反りなどはほとんど生じないことがわかる。また、ナノクラスター20のマイグレーションにより、ナノクラスター20間が、粒子23を介さずに連結する割合が増加するため、より配向性の高いCAAC−OSとなる場合がある。
一方、基板32の表面温度が低いと、ナノクラスター20が基板32の表面でマイグレーションを起こしにくくなる。その結果、ナノクラスター20同士が積み重なることで配向性の低いnc−OS(nanocrystalline Oxide Semiconductor)などとなる。nc−OSでは、ナノクラスター20は一定間隔を空けて堆積する可能性がある。したがって、配向性は低いものの、僅かに規則性を有することにより、非晶質酸化物半導体と比べて緻密な構造となる。
また、CAAC−OSにおいて、ナノクラスター同士の隙間が極めて小さくなることで、一つの大きなナノクラスターが形成される場合がある。一つの大きなナノクラスターの内部は単結晶構造を有する。例えば、ナノクラスターの大きさが、上面から見て10nm以上200nm以下、15nm以上100nm以下、または20nm以上50nm以下となる場合がある。
以上のような成膜モデルにより、ナノクラスターが基板の表面に堆積していくと考えられる。被形成面が結晶構造を有さない場合においても、CAAC−OSの成膜が可能であることから、エピタキシャル成長とは異なる成長機構である上述した成膜モデルの妥当性が高いことがわかる。また、上述した成膜モデルであるため、CAAC−OSおよびnc−OSは、大面積のガラス基板などであっても均一な成膜が可能であることがわかる。例えば、基板の表面(被形成面)の構造が非晶質構造(例えば非晶質酸化シリコン)であっても、CAAC−OSを成膜することは可能である。
また、被形成面である基板の表面に凹凸がある場合でも、その形状に沿ってナノクラスターが配列することがわかる。
また、上述した成膜モデルより、結晶性の高いCAAC−OSを成膜するためには以下のようにすればよいことがわかる。まず、平均自由行程を長くするために、より高真空状態で成膜する。次に、基板近傍における損傷を低減するために、プラズマのエネルギーを弱くする。次に、被形成面に熱エネルギーを加え、プラズマによる損傷を成膜するたびに治癒する。
ここまでは、ナノクラスターが平板状である場合について説明した。例えば、ナノクラスターがサイコロ状や柱状のような幅の小さなナノクラスターである場合、基板の表面に達したナノクラスターは様々な向きで堆積することになる。そして、ナノクラスターは、それぞれが堆積した向きのまま側面に粒子が付着し、横成長部がラテラル成長を起こす。その結果、得られる薄膜における結晶の配向性が一様にならない可能性もある。
<劈開エネルギー>
以下では、InMZnO4の結晶構造の劈開エネルギーについて計算した結果について説明する。以下では元素MがGaである場合について計算を行った。なお、劈開エネルギーとは、結晶をある結晶面で劈開するのに必要な単位面積当たりのエネルギーを指す。
まずは、InGaZnO4の結晶の劈開面について図9(A)乃至図9(D)を用いて説明する。ここで、図9(A)は、b軸に垂直な方向から見たInGaZnO4の結晶のモデルであり、結晶面A、結晶面C、結晶面Dを表示している。また、図9(B)は、c軸に垂直な方向から見たInGaZnO4の結晶のモデルであり、結晶面E、結晶面Fを表示している。また、図9(C)は、c軸に垂直な方向から見たInGaZnO4の結晶のモデルであり、結晶面A、結晶面B、結晶面Dを表示している。また、図9(D)は、図9(B)に示す結晶面F近傍の拡大図である。
InGaZnO4の結晶の各結晶面における劈開に必要なエネルギーを、第一原理計算により算出した。なお、計算には、擬ポテンシャルと、平面波基底を用いた密度汎関数プログラム(CASTEP)を用いた。原子の擬ポテンシャルにはPAW(Projector Augmented Wave)法を用いた。また、交換相関ポテンシャルにはPBEsol(Perdew−Burke−Ernzerhof revised for solid)型の一般化勾配近似(GGA:Generallized Gradient Approximation)を用いた。また、カットオフエネルギーは800eVとした。
図9に示したInGaZnO4の結晶の構造をもとに、結晶面A乃至Fのいずれかで劈開したInGaZnO4結晶のモデルを作成し、セルサイズを固定した構造最適化計算を行う。ここで、結晶面Aは、(100)面に対応する結晶面である(図9(A)及び図9(C)参照。)。結晶面Bは、(100)面と交わるダングリングボンドの単位面積当たりの数が最小になるように表面構造を切り取るようにした結晶面である(図9(C)参照。)。結晶面Cは、(110)面に対応する結晶面である(図9(A)参照。)。結晶面Dは、(201)面に対応する結晶面である(図9(A)及び図9(C)参照。)。結晶面Eは、(001)面に対応しており、Ga−Zn−O層とIn−O層の間に位置する結晶面である。(図9(B)参照。)。結晶面Fは、(001)面に対応しており、Ga−Zn−O層とGa−Zn−O層の間に位置する結晶面である。(図9(B)参照。)。結晶面Fでは、図9(D)に示すように、2つの酸素原子の層が向かい合うように位置している。
以上のような条件で、各面で劈開した際の劈開エネルギーσ[J/m2]を式(1)を用いて算出する。
ここで、Ebulk[J]は結晶モデルのエネルギーであり、Ecll[J]は各面で劈開した表面モデルのエネルギーである。なお、結晶モデルのエネルギーは、セルサイズを含めた構造最適化を行った後に導出する。また、各面で劈開した表面モデルのエネルギーは、セルサイズを固定した状態で、原子配置の構造最適化を行った後に導出する。また、結晶モデルのエネルギー及び各面で劈開した表面モデルのエネルギーは、それぞれのモデルに含まれる原子と電子に対して、電子の運動エネルギーと、原子間、原子−電子間、および電子間の相互作用と、を考慮したエネルギーである。また、Scl[m2]は、劈開面の面積である。
計算の結果、結晶面Aの劈開エネルギーは3.45J/m2、結晶面Bの劈開エネルギーは2.45J/m2、結晶面Cの劈開エネルギーは2.23J/m2、結晶面Dの劈開エネルギーは1.98J/m2、結晶面Eの劈開エネルギーは3.56J/m2、結晶面Fの劈開エネルギーは0.90J/m2であることがわかった(下表参照。)。
この計算により、図9に示したInGaZnO4の結晶の構造において、結晶面Fにおける劈開エネルギーが最も低くなる。即ち、Ga−Zn−O層とGa−Zn−O層との間が最も劈開しやすい面であることがわかる。これは、図1(A)に示す劈開面25にも対応している。
<ラテラル成長>
以下では、ナノクラスター20の横方向に粒子23が付着(結合または吸着ともいう。)し、ラテラル成長することを説明する。
図7(A)、図7(B)、図7(C)、図7(D)および図7(E)は、ナノクラスター20の構造と金属イオンが付着する位置を示す図である。なお、ナノクラスター20としては、InMZnO4の結晶構造から、化学量論的組成を保持しつつ、84個の原子を抜き出したクラスタモデルを仮定している。なお、以下では元素Mがガリウムである場合について説明する。また、図7(F)は、ナノクラスター20をc軸に平行な方向から見た構造を示す。図7(G)は、ナノクラスター20をa軸に平行な方向からみた構造を示す。
金属イオンの付着する位置を、位置A、位置B、位置a、位置bおよび位置cで示す。なお、位置Aは、ナノクラスター20上面において、ガリウム1個、亜鉛2個で囲まれた格子間サイトの上方である。位置Bは、ナノクラスター20上面において、ガリウム2個、亜鉛1個で囲まれた格子間サイトの上方である。位置aは、ナノクラスター20側面のインジウムサイトである。位置bは、ナノクラスター20側面において、In−O層と、Ga−Zn−O層との間の格子間サイトである。位置cは、ナノクラスター20側面のガリウムサイトである。
次に、仮定した位置A、位置B、位置a、位置bおよび位置cに金属イオンを配置した場合の相対エネルギーを第一原理計算によって評価した。第一原理計算には、VASP(Vienna Ab initio Simulation Package)を用いた。また、交換相関ポテンシャルにはPBE(Perdew−Burke−Ernzerhof)型の一般化勾配近似(GGA:Generallized Gradient Approximation)を用い、イオンのポテンシャルにはPAW(Projector Augmented Wave)法を用いた。また、カットオフエネルギーは400eVとし、k点サンプリングはΓ点のみとした。下表に、位置A、位置B、位置a、位置bおよび位置cに、インジウムイオン(In3+)、ガリウムイオン(Ga3+)および亜鉛イオン(Zn2+)を配置した場合の相対エネルギーを示す。なお、相対エネルギーは、計算したモデルにおいて、最もエネルギーが低いモデルのエネルギーを0eVとしたときの相対値である。
その結果、金属イオンはいずれもナノクラスター20の上面より、側面に付着しやすいことがわかった。特に、位置aのインジウムサイトにおいては、インジウムイオンだけでなく、亜鉛イオンも最も付着しやすい結果が得られた。
同様に、ナノクラスター20への酸素イオン(O2−)の付着しやすさを評価した。図8(A)、図8(B)、図8(C)、図8(D)および図8(E)は、ナノクラスター20の構造と酸素イオンが付着する位置を示す図である。また、図8(F)は、ナノクラスター20をc軸に平行な方向から見た構造を示す。図8(G)は、ナノクラスター20をb軸に平行な方向からみた構造を示す。
酸素イオンの付着する位置を、位置C、位置D、位置d、位置eおよび位置fで示す。なお、位置Cは、ナノクラスター20上面のガリウムと結合する位置である。位置Dは、ナノクラスター20上面の亜鉛と結合する位置である。位置dは、ナノクラスター20側面のインジウムと結合する位置である。位置eは、ナノクラスター20側面のガリウムと結合する位置である。位置fは、ナノクラスター20側面の亜鉛と結合する位置である。
次に、仮定した位置C、位置D、位置d、位置eおよび位置fに酸素イオンを配置した場合の相対エネルギーを第一原理計算によって評価する。下表に、位置C、位置D、位置d、位置eおよび位置fに、酸素イオン(O2−)を配置した場合の相対エネルギーを示す。
その結果、酸素イオンもナノクラスター20の上面より、側面に付着しやすいことがわかった。
したがって、ナノクラスター20に近づいた粒子23は、ナノクラスター20の側面に優先的に付着していくことがわかる。即ち、ナノクラスター20の側面に付着した粒子23によって、ナノクラスター20のラテラル成長が起こる上述の成膜モデルは妥当性が高いといえる。
<Si混入によるCAAC−OSの結晶構造変化>
以下では、InMZnO4の結晶構造にSiが混入することで結晶構造がどのように変化するかについて計算した結果について説明する。以下では元素MがGaである場合について計算を行った。
本計算で用いたInGaZnO4の結晶モデルについて図10に示す。本計算では、図10に示すInGaZnO4の結晶の中にSiを配置したモデルについて、第一原理計算に基づいて構造最適化を行った。なお、図10の一点鎖線で囲まれた領域が本計算に用いたセルサイズであり、本計算では336個の原子で構成されたモデルについて計算を行った。また、モデル全体の電荷状態は中性とした。
本計算には、VASP(Vienna Ab initio Simulation Package)を用いた。原子の擬ポテンシャルにはPAW法を用いた。また、交換相関ポテンシャルにはPBE(Perdew−Burke−Ernzerhof)型の一般化勾配近似(GGA)を用いた。また、カットオフエネルギーは800eVとした。また、サンプルk点は2×2×1とした。
図11及び図12に、図10に示すInGaZnO4の結晶モデルにSiを配置して構造最適化を行った後の構造について示す。図11(A)は、図10に示す構造において、ZnをSiに置換して構造最適化を行った後の構造である。また、図11(B)は、図10に示す構造において、InをSiに置換して構造最適化を行った後の構造である。また、図12(A)は、図10に示す構造において、In−O層とGa−Zn−O層の間にSiを配置して構造最適化を行った後の構造である。また、図12(B)は、図10に示す構造において、Ga−Zn−O層とGa−Zn−O層の間にSiを配置して構造最適化を行った後の構造である。
図11(A)に示すように、ZnをSiに置換すると、Siとab面方向に結合したOと、そのOとc軸方向でに結合していたGaまたはZnとの距離が大きくなった。これにより、そのGaまたはZnは4配位に近くなっていた。ここで、Siは4配位であり、第一近接のOとの距離の平均は約0.167nmであった。これはGa−OまたはGa−O間の距離よりも0.02nmほど短い。よって、SiがOを引き寄せることによって結晶構造に歪みが生じたと推測される。
図11(B)に示すように、InをSiに置換した場合もSiに隣接するOの位置がずれていた。ここで、SiとOの距離の平均は0.183nmであり、In−O間の距離(約0.22nm)よりも短い。よって、ZnをSiで置換した場合と同様に、SiがOを引き寄せることによって結晶構造に歪みが生じたと推測される。
このように、InGaZnO4の結晶の金属サイトにSiが混入された場合、Siが4配位であり、Si−Oの距離がIn,Ga,ZnとOの距離より短いことから、結晶構造に歪みが生じて結晶成長が阻害されることが示唆される。
また、図12(A)に示すように、In−O層とGa−Zn−O層の間にSiを配置すると、Siの近傍に位置するについて、In−O間の距離が大きくなった。これは、Si−Oの結合がIn−Oの結合よりも強いため、SiがOを引き寄せてIn−Oの結合を切断してしまったためと推測される。
また、図12(B)に示すように、Ga−Zn−O層とGa−Zn−O層の間にSiを配置すると、Si近傍において、Ga−Zn−O層の平面から位置がずれたGa及びZnが見られた。これは、そのGaまたはZnとc軸方向に結合していたOがSiと結合することで、Ga−O、Zn−Oの距離が大きくなり、Ga及びZnが4配位に近くなったためと推測される。
このように、InGaZnO4の結晶の格子間にSiが混入された場合、Si近傍の構造が乱れることが示唆される。
<組成>
以下では、In−M−Zn酸化物の組成について説明する。なお、元素Mは、アルミニウム、ガリウム、イットリウムまたはスズなどとする。そのほかの元素Mに適用可能な元素としては、ホウ素、シリコン、チタン、鉄、ニッケル、ゲルマニウム、ジルコニウム、モリブデン、ランタン、セリウム、ネオジム、ハフニウム、タンタル、タングステン、マグネシウムなどがある。ただし、元素Mとして、前述の元素を複数組み合わせても構わない場合がある。
まず、図13(A)、図13(B)、および図13(C)を用いて、本発明に係る酸化物が有するインジウム、元素M及び亜鉛の原子数比の好ましい範囲について説明する。なお、図13には、酸素の原子数比については記載しない。また、酸化物が有するインジウム、元素M、及び亜鉛の原子数比のそれぞれの項を[In]、[M]、および[Zn]とする。
図13(A)、図13(B)、および図13(C)において、破線は、[In]:[M]:[Zn]=(1+α):(1−α):1の原子数比(−1≦α≦1)となるライン、[In]:[M]:[Zn]=(1+α):(1−α):2の原子数比となるライン、[In]:[M]:[Zn]=(1+α):(1−α):3の原子数比となるライン、[In]:[M]:[Zn]=(1+α):(1−α):4の原子数比となるライン、および[In]:[M]:[Zn]=(1+α):(1−α):5の原子数比となるラインを表す。
また、一点鎖線は、[In]:[M]:[Zn]=1:1:βの原子数比(β≧0)となるライン、[In]:[M]:[Zn]=1:2:βの原子数比となるライン、[In]:[M]:[Zn]=1:3:βの原子数比となるライン、[In]:[M]:[Zn]=1:4:βの原子数比となるライン、[In]:[M]:[Zn]=2:1:βの原子数比となるライン、及び[In]:[M]:[Zn]=5:1:βの原子数比となるラインを表す。
また、図13に示す、[In]:[M]:[Zn]=0:2:1の原子数比またはその近傍値の酸化物は、スピネル型の結晶構造をとりやすい。
図13(A)および図13(B)では、本発明の一態様の酸化物が有する、インジウム、元素M、及び亜鉛の原子数比の好ましい範囲の一例について示している。
InMZnO4は、層状の結晶構造(層状構造ともいう)をとり、図1(A)に示すように、インジウム、および酸素を有する、In−O層が1に対し、元素M、亜鉛、および酸素を有する、M−Zn−O層が2となる。
また、インジウムと元素Mは、互いに置換可能である。そのため、M−Zn−O層の元素Mがインジウムと置換し、In−M−Zn−O層と表すこともできる。その場合、In−O層が1に対し、In−M−Zn−O層が2である層状構造をとる。
[In]:[M]:[Zn]=1:1:2となる原子数比の酸化物は、In−O層が1に対し、M−Zn−O層が3である層状構造をとる。つまり、[In]および[M]に対し[Zn]が大きくなると、酸化物が結晶化した場合、In−O層に対するM−Zn−O層の割合が増加する。
ただし、酸化物中において、In−O層が1に対し、M−Zn−O層が非整数である場合、In−O層が1に対し、M−Zn−O層が整数である層状構造を複数種有する場合がある。例えば、[In]:[M]:[Zn]=1:1:1.5である場合、In−O層が1に対し、M−Zn−O層が2である層状構造と、M−Zn−O層が3である層状構造とが混在する層状構造となる場合がある。
例えば、酸化物をスパッタリング装置にて成膜する場合、ターゲットの原子数比からずれた原子数比の膜が形成される。特に、成膜時の基板温度によっては、ターゲットの[Zn]よりも、膜の[Zn]が小さくなる場合がある。
また、酸化物中に複数の相が共存する場合がある(二相共存、三相共存など)。例えば、[In]:[M]:[Zn]=0:2:1の原子数比の近傍値である原子数比では、スピネル型の結晶構造と層状の結晶構造との二相が共存しやすい。また、[In]:[M]:[Zn]=1:0:0を示す原子数比の近傍値である原子数比では、ビックスバイト型の結晶構造と層状の結晶構造との二相が共存しやすい。酸化物中に複数の相が共存する場合、異なる結晶構造の間において、粒界(グレインバウンダリーともいう)が形成される場合がある。
また、インジウムの含有率を高くすることで、酸化物のキャリア移動度(電子移動度)を高くすることができる。これは、インジウム、元素M及び亜鉛を有する酸化物では、主として重金属のs軌道がキャリア伝導に寄与しており、インジウムの含有率を高くすることにより、s軌道が重なる領域がより大きくなるため、インジウムの含有率が高い酸化物はインジウムの含有率が低い酸化物と比較してキャリア移動度が高くなるためである。
一方、酸化物中のインジウムおよび亜鉛の含有率が低くなると、キャリア移動度が低くなる。従って、[In]:[M]:[Zn]=0:1:0を示す原子数比、およびその近傍値である原子数比(例えば図13(C)に示す領域C)では、絶縁性が高くなる。
従って、本発明の一態様の酸化物は、キャリア移動度が高く、かつ、粒界が少ない層状構造となりやすい、図13(A)の領域Aで示される原子数比を有することが好ましい。
また、図13(B)に示す領域Bは、[In]:[M]:[Zn]=4:2:3から4.1、およびその近傍値を示している。近傍値には、例えば、原子数比が[In]:[M]:[Zn]=5:3:4が含まれる。領域Bで示される原子数比を有する酸化物は、特に、結晶性が高く、キャリア移動度も高い優れた酸化物である。
なお、酸化物が、層状構造を形成する条件は、原子数比によって一義的に定まらない。原子数比により、層状構造を形成するための難易の差はある。一方、同じ原子数比であっても、形成条件により、層状構造になる場合も層状構造にならない場合もある。従って、図示する領域は、酸化物が層状構造を有する原子数比を示す領域であり、領域A乃至領域Cの境界は厳密ではない。
続いて、上記酸化物をトランジスタに用いる場合について説明する。
なお、上記酸化物をトランジスタに用いることで、粒界におけるキャリア散乱等を減少させることができるため、高い電界効果移動度のトランジスタを実現することができる。また、信頼性の高いトランジスタを実現することができる。
また、トランジスタには、キャリア密度の低い酸化物を用いることが好ましい。例えば、酸化物は、キャリア密度が8×1011/cm3未満、好ましくは1×1011/cm3未満、さらに好ましくは1×1010/cm3未満であり、1×10−9/cm3以上とすればよい。
なお、高純度真性または実質的に高純度真性である酸化物は、キャリア発生源が少ないため、キャリア密度を低くすることができる。また、高純度真性または実質的に高純度真性である酸化物は、欠陥準位密度が低いため、トラップ準位密度も低くなる場合がある。
また、酸化物のトラップ準位に捕獲された電荷は、消失するまでに要する時間が長く、あたかも固定電荷のように振る舞うことがある。そのため、トラップ準位密度の高い酸化物にチャネル領域が形成されるトランジスタは、電気特性が不安定となる場合がある。
従って、トランジスタの電気特性を安定にするためには、酸化物中の不純物濃度を低減することが有効である。また、酸化物中の不純物濃度を低減するためには、近接する膜中の不純物濃度も低減することが好ましい。不純物としては、水素、窒素、アルカリ金属、アルカリ土類金属、鉄、ニッケル、シリコン等がある。
ここで、酸化物中における各不純物の影響について説明する。
酸化物において、第14族元素の一つであるシリコンや炭素が含まれると、酸化物において欠陥準位が形成される。このため、酸化物におけるシリコンや炭素の濃度と、酸化物との界面近傍のシリコンや炭素の濃度(二次イオン質量分析法(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)により得られる濃度)を、2×1018atoms/cm3以下、好ましくは2×1017atoms/cm3以下とする。
また、酸化物にアルカリ金属またはアルカリ土類金属が含まれると、欠陥準位を形成し、キャリアを生成する場合がある。従って、アルカリ金属またはアルカリ土類金属が含まれている酸化物を用いたトランジスタはノーマリーオン特性となりやすい。このため、酸化物中のアルカリ金属またはアルカリ土類金属の濃度を低減することが好ましい。具体的には、SIMSにより得られる酸化物中のアルカリ金属またはアルカリ土類金属の濃度を、1×1018atoms/cm3以下、好ましくは2×1016atoms/cm3以下にする。
また、酸化物において、窒素が含まれると、キャリアである電子が生じ、キャリア密度が増加し、n型化しやすい。この結果、窒素が含まれている酸化物を半導体に用いたトランジスタはノーマリーオン特性となりやすい。従って、該酸化物において、窒素はできる限り低減されていることが好ましい、例えば、酸化物中の窒素濃度は、SIMSにおいて、5×1019atoms/cm3未満、好ましくは5×1018atoms/cm3以下、より好ましくは1×1018atoms/cm3以下、さらに好ましくは5×1017atoms/cm3以下とする。
また、酸化物に含まれる水素は、金属原子と結合する酸素と反応して水になるため、酸素欠損を形成する場合がある。該酸素欠損に水素が入ることで、キャリアである電子が生成される場合がある。また、水素の一部が金属原子と結合する酸素と結合して、キャリアである電子を生成することがある。従って、水素が含まれている酸化物を用いたトランジスタはノーマリーオン特性となりやすい。このため、酸化物中の水素はできる限り低減されていることが好ましい。具体的には、酸化物において、SIMSにより得られる水素濃度を、1×1020atoms/cm3未満、好ましくは1×1019atoms/cm3未満、より好ましくは5×1018atoms/cm3未満、さらに好ましくは1×1018atoms/cm3未満とする。
不純物が十分に低減された酸化物をトランジスタのチャネル形成領域に用いることで、安定した電気特性を付与することができる。
続いて、該酸化物を2層構造、または3層構造とした場合について述べる。酸化物S1、酸化物S2、および酸化物S3の積層構造に接する絶縁体のバンド図と、酸化物S2および酸化物S3の積層構造に接する絶縁体のバンド図と、について、図14を用いて説明する。
図14(A)は、絶縁体I1、酸化物S1、酸化物S2、酸化物S3、及び絶縁体I2を有する積層構造の膜厚方向のバンド図の一例である。また、図14(B)は、絶縁体I1、酸化物S2、酸化物S3、及び絶縁体I2を有する積層構造の膜厚方向のバンド図の一例である。なお、バンド図は、理解を容易にするため絶縁体I1、酸化物S1、酸化物S2、酸化物S3、及び絶縁体I2の伝導帯下端のエネルギー準位(Ec)を示す。
酸化物S1、酸化物S3は、酸化物S2よりも伝導帯下端のエネルギー準位が真空準位に近く、代表的には、酸化物S2の伝導帯下端のエネルギー準位と、酸化物S1、酸化物S3の伝導帯下端のエネルギー準位との差が、0.15eV以上、または0.5eV以上、かつ2eV以下、または1eV以下であることが好ましい。すなわち、酸化物S1、酸化物S3の電子親和力と、酸化物S2の電子親和力との差が、0.15eV以上、または0.5eV以上、かつ2eV以下、または1eV以下であることが好ましい。
図14(A)、および図14(B)に示すように、酸化物S1、酸化物S2、酸化物S3において、伝導帯下端のエネルギー準位はなだらかに変化する。換言すると、連続的に変化または連続接合するともいうことができる。このようなバンド図を有するためには、酸化物S1と酸化物S2との界面、または酸化物S2と酸化物S3との界面において形成される混合層の欠陥準位密度を低くするとよい。
具体的には、酸化物S1と酸化物S2、酸化物S2と酸化物S3が、酸素以外に共通の元素を有する(主成分とする)ことで、欠陥準位密度が低い混合層を形成することができる。例えば、酸化物S2がIn−Ga−Zn酸化物の場合、酸化物S1、酸化物S3として、In−Ga−Zn酸化物、Ga−Zn酸化物、酸化ガリウムなどを用いるとよい。
このとき、キャリアの主たる経路は酸化物S2となる。酸化物S1と酸化物S2との界面、および酸化物S2と酸化物S3との界面における欠陥準位密度を低くすることができるため、界面散乱によるキャリア伝導への影響が小さく、高いオン電流が得られる。
トラップ準位に電子が捕獲されることで、捕獲された電子は固定電荷のように振る舞うため、トランジスタのしきい値電圧はプラス方向にシフトしてしまう。酸化物S1、酸化物S3を設けることにより、トラップ準位を酸化物S2より遠ざけることができる。当該構成とすることで、トランジスタのしきい値電圧がプラス方向にシフトすることを防止することができる。
酸化物S1、酸化物S3は、酸化物S2と比較して、導電率が十分に低い材料を用いる。このとき、酸化物S2、酸化物S2と酸化物S1との界面、および酸化物S2と酸化物S3との界面が、主にチャネル領域として機能する。例えば、酸化物S1、酸化物S3には、図13(C)において、絶縁性が高くなる領域Cで示す原子数比の酸化物を用いればよい。なお、図13(C)に示す領域Cは、[In]:[M]:[Zn]=0:1:0、またはその近傍値である原子数比を示している。
特に、酸化物S2に領域Aで示される原子数比の酸化物を用いる場合、酸化物S1および酸化物S3には、[M]/[In]が1以上、好ましくは2以上である酸化物を用いることが好ましい。また、酸化物S3として、十分に高い絶縁性を得ることができる[M]/([Zn]+[In])が1以上である酸化物を用いることが好適である。
<スパッタリング装置>
以下では、本発明の一態様に係る平行平板型のスパッタリング装置および対向ターゲット式のスパッタリング装置について説明する。後述するが、対向ターゲット式のスパッタリング装置を用いた成膜では、被形成面へのダメージが小さくできるため、結晶性の高い膜を得やすい。即ち、CAAC−OSの成膜には、対向ターゲット式のスパッタリング装置を用いることが好ましい場合がある。なお、以下に示すスパッタリング装置では、理解を容易にするため、または成膜時における動作を説明するため、基板およびターゲットなどを配置した状態で示す。ただし、基板およびターゲットなどは、使用者が設置する物であるため、本発明の一態様に係るスパッタリング装置が基板およびターゲットを有さない場合もある。
平行平板型スパッタリング装置を用いた成膜法を、PESP(parallel electrode SP)と呼ぶこともできる。また、対向ターゲット式スパッタリング装置を用いた成膜法を、VDSP(vapor deposition SP)と呼ぶこともできる。
図15(A)は、平行平板型のスパッタリング装置である成膜室601の断面図である。図15(A)に示す成膜室601は、ターゲットホルダ620と、バッキングプレート610と、ターゲット600と、マグネットユニット630と、基板ホルダ670と、を有する。なお、ターゲット600は、バッキングプレート610上に配置される。また、バッキングプレート610は、ターゲットホルダ620上に配置される。また、マグネットユニット630は、バッキングプレート610を介してターゲット600下に配置される。また、基板ホルダ670は、ターゲット600と向かい合って配置される。なお、本明細書では、複数のマグネット(磁石)を組み合わせたものをマグネットユニットと呼ぶ。マグネットユニットは、カソード、カソードマグネット、磁気部材、磁気部品などと呼びかえることができる。マグネットユニット630は、マグネット630Nと、マグネット630Sと、マグネットホルダ632と、を有する。なお、マグネットユニット630において、マグネット630Nおよびマグネット630Sは、マグネットホルダ632上に配置される。また、マグネット630Nは、マグネット630Sと間隔を空けて配置される。なお、成膜室601に基板660を搬入する場合、基板660は基板ホルダ670上に配置される。
ターゲットホルダ620とバッキングプレート610とは、ネジ(ボルトなど)を用いて固定されており、等電位となる。また、ターゲットホルダ620は、バッキングプレート610を介してターゲット600を支持する機能を有する。
また、バッキングプレート610には、ターゲット600が固定される。例えば、インジウムなどの低融点金属を含むボンディング材によってバッキングプレート610とターゲット600とを固定することができる。
図15(A)に、マグネットユニット630によって形成される磁力線680aおよび磁力線680bを示す。
磁力線680aは、ターゲット600の上面近傍における水平磁場を形成する磁力線の一つである。ターゲット600の上面近傍は、例えば、ターゲット600から垂直距離が0mm以上10mm以下、特に0mm以上5mm以下の領域である。
磁力線680bは、マグネットユニット630の上面から、垂直距離dにおける水平磁場を形成する磁力線の一つである。垂直距離dは、例えば、0mm以上20mm以下または5mm以上15mm以下である。
このとき、強力なマグネット630Nおよび強力なマグネット630Sを用いることで、基板660の上面近傍においても強い磁場を発生させることができる。具体的には、基板660の上面における水平磁場の強度を10G以上100G以下、好ましくは15G以上60G以下、さらに好ましくは20G以上40G以下とすることができる。
なお、水平磁場の強度の測定は、垂直磁場の強度が0Gのときの値を測定すればよい。
成膜室601における磁場の強度を上述の範囲とすることで、密度が高く、結晶性の高い酸化物を成膜することができる。また、得られる酸化物は、複数種の結晶相を含むことが少なく、ほとんど単一の結晶相を含む酸化物となる。
図15(B)に、マグネットユニット630の上面図を示す。マグネットユニット630は、円形または略円形のマグネット630Nと、円形または略円形のマグネット630Sと、がマグネットホルダ632に固定されている。そして、マグネットユニット630を、マグネットユニット630の上面における中央または略中央の法線ベクトルを回転軸として回転させることができる。例えば、マグネットユニット630を、0.1Hz以上1kHz以下のビート(リズム、拍子、パルス、周波、周期またはサイクルなどと言い換えてもよい。)で回転させればよい。
したがって、ターゲット600上の磁場の強い領域は、マグネットユニット630の回転とともに変化する。磁場の強い領域は高密度プラズマ領域となるため、その近傍においてターゲット600のスパッタリング現象が起こりやすい。例えば、磁場の強い領域が特定の箇所となる場合、ターゲット600の特定の領域のみが使用されることになる。一方、図15(B)に示すようにマグネットユニット630を回転させることで、ターゲット600と基板660との間に、プラズマ640が生じるため、ターゲット600を均一に使用することができる。また、マグネットユニット630を回転させることによって、均一な厚さおよび均一な質を有する膜を成膜することができる。
また、マグネットユニット630を回転させることにより、基板660の上面における磁力線の向きも変化させることができる。
なお、ここではマグネットユニット630を回転させる例を示したが、本発明の一態様はこれに限定されるものではない。例えば、マグネットユニット630を上下または/および左右に揺動させても構わない。例えば、マグネットユニット630を、0.1Hz以上1kHz以下のビートで揺動させればよい。または、ターゲット600を回転または移動させても構わない。例えば、ターゲット600を、0.1Hz以上1kHz以下のビートで回転または揺動させればよい。または、基板660を回転させることで、相対的に基板660の上面における磁力線の向きを変化させても構わない。または、これらの組み合わせても構わない。
成膜室601は、バッキングプレート610の内部または下部などに水路を有してもよい。そして、水路に流体(空気、窒素、希ガス、水、オイルなど)を流すことで、スパッタ時にターゲット600の温度の上昇による放電異常や、部材の変形による成膜室601の損傷などを抑制することができる。このとき、バッキングプレート610とターゲット600とをボンディング材を介して密着させると、冷却性能が高まるため好ましい。
なお、ターゲットホルダ620とバッキングプレート610との間にガスケットを有すると、成膜室601内に外部や水路などから不純物が混入しにくくなるため好ましい。
マグネットユニット630において、マグネット630Nとマグネット630Sとは、それぞれターゲット600側に異なる極を向けて配置されている。ここでは、マグネット630Nをターゲット600側がN極となるように配置し、マグネット630Sをターゲット600側がS極となるように配置する場合について説明する。ただし、マグネットユニット630におけるマグネットおよび極の配置は、この配置に限定されるものではない。また、図15(A)の配置に限定されるものでもない。
成膜時、ターゲットホルダ620に接続する端子V1に印加される電位V1は、例えば、基板ホルダ670に接続する端子V2に印加される電位V2よりも低い電位である。また、基板ホルダ670に接続する端子V2に印加される電位V2は、例えば、接地電位である。また、マグネットホルダ632に接続する端子V3に印加される電位V3は、例えば、接地電位である。なお、端子V1、端子V2および端子V3に印加される電位は上記の電位に限定されない。また、ターゲットホルダ620、基板ホルダ670、マグネットホルダ632の全てに電位が印加されなくても構わない。例えば、基板ホルダ670が電気的に浮いていても構わない。なお、図15(A)では、ターゲットホルダ620に接続する端子V1に電位V1を印加する、いわゆるDCスパッタリング法の例を示したが、本発明の一態様は、これに限定されない。例えば、ターゲットホルダ620に、周波数が13.56MHzまたは27.12MHzなどの高周波電源を接続する、いわゆるRFスパッタリング法を用いても構わない。
また、図15(A)では、バッキングプレート610およびターゲットホルダ620と、マグネットユニット630およびマグネットホルダ632と、が電気的に接続されない例を示したが、これに限定されない。例えば、バッキングプレート610およびターゲットホルダ620と、マグネットユニット630およびマグネットホルダ632と、が電気的に接続されており、等電位となっていても構わない。
また、得られる酸化物の結晶性をさらに高めるために、基板660の温度を高くしても構わない。基板660の温度を高くすることで、基板660の上面におけるスパッタ粒子のマイグレーションを助長させることができる。したがって、より密度が高く、より結晶性の高い酸化物を成膜することができる。なお、基板660の温度は、例えば、100℃以上450℃以下、好ましくは150℃以上400℃以下、さらに好ましくは170℃以上350℃以下とすればよい。
また、成膜ガス中の酸素分圧が高すぎると、複数種の結晶相を含む酸化物が成膜されやすいため、成膜ガスはアルゴンなどの希ガス(ほかにヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノンなど)と酸素との混合ガスを用いると好ましい。例えば、全体に占める酸素の割合を50体積%未満、好ましくは33体積%以下、さらに好ましくは20体積%以下、より好ましくは15体積%以下とすればよい。
また、ターゲット600と基板660との垂直距離を、10mm以上600mm以下、好ましくは20mm以上400mm以下、さらに好ましくは30mm以上200mm以下、より好ましくは40mm以上100mm以下とする。ターゲット600と基板660との垂直距離を上述の範囲まで近くすることで、スパッタ粒子が、基板660に到達するまでの間におけるエネルギーの低下を抑制できる場合がある。また、ターゲット600と基板660との垂直距離を上述の範囲まで遠くすることで、スパッタ粒子の基板660への入射方向を垂直に近づけることができるため、スパッタ粒子の衝突による基板660へのダメージを小さくすることができる場合がある。
図16(A)に、図15(A)とは異なる成膜室の例を示す。
図16(A)に示す成膜室601は、ターゲットホルダ620aと、ターゲットホルダ620bと、バッキングプレート610aと、バッキングプレート610bと、ターゲット600aと、ターゲット600bと、マグネットユニット630aと、マグネットユニット630bと、部材642と、基板ホルダ670と、を有する。なお、ターゲット600aは、バッキングプレート610a上に配置される。また、バッキングプレート610aは、ターゲットホルダ620a上に配置される。また、マグネットユニット630aは、バッキングプレート610aを介してターゲット600a下に配置される。また、ターゲット600bは、バッキングプレート610b上に配置される。また、バッキングプレート610bは、ターゲットホルダ620b上に配置される。また、マグネットユニット630bは、バッキングプレート610bを介してターゲット600b下に配置される。
マグネットユニット630aは、マグネット630N1と、マグネット630N2と、マグネット630Sと、マグネットホルダ632と、を有する。なお、マグネットユニット630aにおいて、マグネット630N1、マグネット630N2およびマグネット630Sは、マグネットホルダ632上に配置される。また、マグネット630N1およびマグネット630N2は、マグネット630Sと間隔を空けて配置される。なお、マグネットユニット630bは、マグネットユニット630aと同様の構造を有する。なお、成膜室601に基板660を搬入する場合、基板660は基板ホルダ670上に配置される。
ターゲット600a、バッキングプレート610aおよびターゲットホルダ620aと、ターゲット600b、バッキングプレート610bおよびターゲットホルダ620bと、は部材642によって離間されている。なお、部材642は絶縁体であることが好ましい。ただし、部材642が導電体または半導体であっても構わない。また、部材642が、導電体または半導体の表面を絶縁体で覆ったものであっても構わない。
ターゲットホルダ620aとバッキングプレート610aとは、ネジ(ボルトなど)を用いて固定されており、等電位となる。また、ターゲットホルダ620aは、バッキングプレート610aを介してターゲット600aを支持する機能を有する。また、ターゲットホルダ620bとバッキングプレート610bとは、ネジ(ボルトなど)を用いて固定されており、等電位となる。また、ターゲットホルダ620bは、バッキングプレート610bを介してターゲット600bを支持する機能を有する。
バッキングプレート610aは、ターゲット600aを固定する機能を有する。また、バッキングプレート610bは、ターゲット600bを固定する機能を有する。
図16(A)に、マグネットユニット630aによって形成される磁力線680aおよび磁力線680bを示す。
磁力線680aは、ターゲット600aの上面近傍における水平磁場を形成する磁力線の一つである。ターゲット600aの上面近傍は、例えば、ターゲット600aから垂直距離が0mm以上10mm以下、特に0mm以上5mm以下の領域である。
磁力線680bは、マグネットユニット630aの上面から、垂直距離dにおける水平磁場を形成する磁力線の一つである。垂直距離dは、例えば、0mm以上20mm以下または5mm以上15mm以下である。
このとき、強力なマグネット630N1、マグネット630N2および強力なマグネット630Sを用いることで、基板660の上面近傍においても強い磁場を発生させることができる。具体的には、基板660の上面における水平磁場の強度を10G以上100G以下、好ましくは15G以上60G以下、さらに好ましくは20G以上40G以下とすることができる。
成膜室601における磁場の強度を上述の範囲とすることで、密度が高く、結晶性の高い酸化物を成膜することができる。また、得られる酸化物は、複数種の結晶相を含むことが少なく、ほとんど単一の結晶相を含む酸化物となる。
なお、マグネットユニット630bもマグネットユニット630aと同様の磁力線が形成される。
図16(B)に、マグネットユニット630aおよびマグネットユニット630bの上面図を示す。マグネットユニット630aは、長方形または略長方形のマグネット630N1と、長方形または略長方形のマグネット630N2と、長方形または略長方形のマグネット630Sと、がマグネットホルダ632に固定されていることわかる。そして、マグネットユニット630aを、図16(B)に示すように左右に揺動させることができる。例えば、マグネットユニット630aを、0.1Hz以上1kHz以下のビートで揺動させればよい。
したがって、ターゲット600a上の磁場の強い領域は、マグネットユニット630aの揺動とともに変化する。磁場の強い領域は高密度プラズマ領域となるため、その近傍においてターゲット600aのスパッタリング現象が起こりやすい。例えば、磁場の強い領域が特定の箇所となる場合、ターゲット600aの特定の領域のみが使用されることになる。一方、図16(B)に示すようにマグネットユニット630aを揺動させることで、ターゲット600aと基板660との間に、プラズマ640が生じるため、ターゲット600aを均一に使用することができる。また、マグネットユニット630aを揺動させることによって、均一な厚さ、質を有する膜を成膜することができる。
また、マグネットユニット630aを揺動させることにより、基板660の上面における磁力線の状態も変化させることができる。これは、マグネットユニット630bにおいても同様である。
なお、ここではマグネットユニット630aおよびマグネットユニット630bを揺動させる例を示したが、本発明の一態様はこれに限定されるものではない。例えば、マグネットユニット630aおよびマグネットユニット630bを回転させても構わない。例えば、マグネットユニット630aおよびマグネットユニット630bを、0.1Hz以上1kHz以下のビートで回転させればよい。または、ターゲット600を回転または移動させても構わない。例えば、ターゲット600を、0.1Hz以上1kHz以下のビートで回転または揺動させればよい。または、基板660を回転させることで、相対的に基板660の上面における磁力線の状態を変化させることができる。または、これらを組み合わせても構わない。
成膜室601は、バッキングプレート610aおよびバッキングプレート610bの内部または下部などに水路を有してもよい。そして、水路に流体(空気、窒素、希ガス、水、オイルなど)を流すことで、スパッタ時にターゲット600aおよびターゲット600bの温度の上昇による放電異常や、部材の変形による成膜室601の損傷などを抑制することができる。このとき、バッキングプレート610aとターゲット600aとをボンディング材を介して密着させると、冷却性能が高まるため好ましい。また、バッキングプレート610bとターゲット600bとをボンディング材を介して密着させると、冷却性能が高まるため好ましい。
なお、ターゲットホルダ620aとバッキングプレート610aとの間にガスケットを有すると、成膜室601内に外部や水路などから不純物が混入しにくくなるため好ましい。また、ターゲットホルダ620bとバッキングプレート610bとの間にガスケットを有すると、成膜室601内に外部や水路などから不純物が混入しにくくなるため好ましい。
マグネットユニット630aにおいて、マグネット630N1およびマグネット630N2とマグネット630Sとはそれぞれターゲット600a側に異なる極を向けて配置されている。ここでは、マグネット630N1およびマグネット630N2をターゲット600a側がN極となるように配置し、マグネット630Sをターゲット600a側がS極となるように配置する場合について説明する。ただし、マグネットユニット630aにおけるマグネットおよび極の配置は、この配置に限定されるものではない。また、図16(A)の配置に限定されるものでもない。これは、マグネットユニット630bについても同様である。
成膜時、ターゲットホルダ620aに接続する端子V1と、ターゲットホルダ620bに接続する端子V4と、の間で、交互に高低が入れ替わる電位を印加すればよい。また、基板ホルダ670に接続する端子V2に印加される電位V2は、例えば、接地電位である。また、マグネットホルダ632に接続する端子V3に印加される電位V3は、例えば、接地電位である。なお、端子V1、端子V2、端子V3および端子V4に印加される電位は上記の電位に限定されない。また、ターゲットホルダ620a、ターゲットホルダ620b、基板ホルダ670、マグネットホルダ632の全てに電位が印加されなくても構わない。例えば、基板ホルダ670が電気的に浮いていても構わない。なお、図16(A)では、ターゲットホルダ620aに接続する端子V1と、ターゲットホルダ620bに接続する端子V4と、の間で、交互に高低が入れ替わる電位を印加する、いわゆるACスパッタリング法の例を示したが、本発明の一態様は、これに限定されない。
また、図16(A)では、バッキングプレート610aおよびターゲットホルダ620aと、マグネットユニット630aおよびマグネットホルダ632と、は電気的に接続されない例を示したが、これに限定されない。例えば、バッキングプレート610aおよびターゲットホルダ620aと、マグネットユニット630aおよびマグネットホルダ632と、が電気的に接続されており、等電位となっていても構わない。また、バッキングプレート610bおよびターゲットホルダ620bと、マグネットユニット630bおよびマグネットホルダ632と、は電気的に接続されない例を示したが、これに限定されない。例えば、バッキングプレート610aおよびターゲットホルダ620bと、マグネットユニット630bおよびマグネットホルダ632と、が電気的に接続されており、等電位となっていても構わない。
また、得られる酸化物の結晶性をさらに高めるために、基板660の温度を高くしても構わない。基板660の温度を高くすることで、基板660の上面におけるスパッタ粒子のマイグレーションを助長させることができる。したがって、より密度が高く、より結晶性の高い酸化物を成膜することができる。なお、基板660の温度は、例えば、100℃以上450℃以下、好ましくは150℃以上400℃以下、さらに好ましくは170℃以上350℃以下とすればよい。
また、成膜ガス中の酸素分圧が高すぎると、複数種の結晶相を含む酸化物が成膜されやすいため、成膜ガスはアルゴンなどの希ガス(ほかにヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノンなど)と酸素との混合ガスを用いると好ましい。例えば、全体に占める酸素の割合を50体積%未満、好ましくは33体積%以下、さらに好ましくは20体積%以下、より好ましくは15体積%以下とすればよい。
また、ターゲット600aと基板660との垂直距離を、10mm以上600mm以下、好ましくは20mm以上400mm以下、さらに好ましくは30mm以上200mm以下、より好ましくは40mm以上100mm以下とする。ターゲット600aと基板660との垂直距離を上述の範囲まで近くすることで、スパッタ粒子が、基板660に到達するまでの間におけるエネルギーの低下を抑制できる場合がある。また、ターゲット600aと基板660との垂直距離を上述の範囲まで遠くすることで、スパッタ粒子の基板660への入射方向を垂直に近づけることができるため、スパッタ粒子の衝突による基板660へのダメージを小さくすることができる場合がある。
また、ターゲット600bと基板660との垂直距離を、10mm以上600mm以下、好ましくは20mm以上400mm以下、さらに好ましくは30mm以上200mm以下、より好ましくは40mm以上100mm以下とする。ターゲット600bと基板660との垂直距離を上述の範囲まで近くすることで、スパッタ粒子が、基板660に到達するまでの間におけるエネルギーの低下を抑制できる場合がある。また、ターゲット600bと基板660との垂直距離を上述の範囲まで遠くすることで、スパッタ粒子の基板660への入射方向を垂直に近づけることができるため、スパッタ粒子の衝突による基板660へのダメージを小さくすることができる場合がある。
図17(A)に、図15(A)および図16(A)とは異なる成膜室の断面図の例を示す。図17(A)は、対向ターゲット式スパッタリング装置である。
図17(A)は、スパッタリング装置における成膜室の断面模式図である。図17(A)に示す成膜室は、ターゲット600aおよびターゲット600bと、ターゲット600aおよびターゲット600bをそれぞれ保持するバッキングプレート610aおよびバッキングプレート610bと、バッキングプレート610aおよびバッキングプレート610bを介してターゲット600aおよびターゲット600bの背面にそれぞれ配置されるマグネットユニット630aおよびマグネットユニット630bと、を有する。また、基板ホルダ670は、ターゲット600aおよびターゲット600bの間に配置される。基板ホルダ670は、ターゲット600aとターゲット600bとが向かい合っている間の領域(ターゲット間領域ともいう。)の上側に配置される。なお、成膜室に基板660を入れる場合、基板660は基板ホルダ670によって固定される。
また、図17(A)に示すように、基板ホルダ670は、ターゲット間領域の上側に配置されるが、下側に配置されても構わない。また、下側および上側に配置されても構わない。下側および上側に基板ホルダ670を配置することにより、二以上の基板を同時に成膜することができるため、生産性を高めることができる。
また、図17(A)に示すように、バッキングプレート610aおよびバッキングプレート610bには、電位を印加するための電源690および電源691が接続されている。バッキングプレート610aに接続する電源690と、バッキングプレート610bに接続する電源691と、の間で、交互に電位の高低が入れ替わる電位を印加する、いわゆるAC電源を用いると好ましい。また、図17(A)に示す電源690および電源691はAC電源を用いた例を示しているが、これに限られない。例えば、電源690および電源691としてRF電源、DC電源などを用いてもよい。または、電源690と電源691とで、異なる種類の電源を用いてもよい。
また、基板ホルダ670はGNDに接続されていることが好ましい。また、基板ホルダ670はフローティングの状態であってもよい。
図17(B)および図17(C)は、図17(A)の一点鎖線A−B間におけるプラズマ640の電位分布を示している。図17(B)に示す電位分布は、バッキングプレート610aに高電位を印加し、バッキングプレート610bに低電位を印加した状態を示す。即ち、ターゲット600bに向けて陽イオンが加速される。図17(C)に示す電位分布は、バッキングプレート610aに低電位を印加し、バッキングプレート610bに高電位を印加した状態を示す。即ち、ターゲット600aに向けて陽イオンが加速される。図17(B)と、図17(C)と、の状態を交互に入れ替わるようにして成膜することができる。
図17(A)に示す構成は、ターゲット600aとターゲット600bとが平行に向かい合って配置されている。また、マグネットユニット630aとマグネットユニット630bとが、マグネットの異なる極を向かい合わせるように配置されている。このとき、磁力線は、マグネットユニット630bからマグネットユニット630aに向かう。そのため、成膜時には、マグネットユニット630aとマグネットユニット630bとで形成される磁場にプラズマ640が閉じ込められる。よって、基板ホルダ670および基板660は、プラズマ640の外側に位置する。基板660がプラズマ640の高電界領域に曝されないため、プラズマ640による損傷を低減させることができる。
対向ターゲット式スパッタリング装置は、高真空であってもプラズマを安定に生成することができる。例えば、0.005Pa以上0.09Pa以下でも成膜が可能である。そのため、成膜時に混入する不純物の濃度を低減することができる。
対向ターゲット式スパッタリング装置を用いることによって、高真空での成膜が可能となるため、またプラズマによる損傷の少ない成膜が可能となるため、基板660の温度が低い場合でも結晶性の高い膜を成膜することができる。例えば、基板660の温度が、10℃以上100℃未満であっても結晶性の高い膜を成膜することができる。
図18(A)に示す構成は、ターゲット600aとターゲット600bとが平行ではなく、傾いた状態で向かい合って(V字状に)配置されている点が図17(A)に示した構成と異なる。よって、ターゲットの配置以外については、図17(A)の説明を参照する。また、マグネットユニット630aとマグネットユニット630bとが異なる極が向かい合うように配置されている。基板ホルダ670および基板660は、ターゲット間領域の上に配置される。ターゲット600aおよびターゲット600bを、図18(A)に示すような配置とすることで、基板660に到達するスパッタ粒子の割合が高くなるため、堆積速度を高くすることができる。
図18(B)に、対向ターゲット式スパッタリング装置の別の例を示す。
図18(B)は、対向ターゲット式スパッタリング装置における成膜室の断面模式図である。図17(A)に示す成膜室とは異なり、ターゲットシールド622およびターゲットシールド623が設けられている。また、バッキングプレート610aおよびバッキングプレート610bと接続する電源691を有する。基板ホルダ670は、ターゲット間領域の上側に配置される。これにより、基板660がプラズマ640の高電界領域に曝されないため、プラズマ640による損傷を低減させることができる。
また、図18(B)に示すように、基板ホルダ670は、ターゲット間領域の上側に配置されるが、下側に配置されても構わない。また、下側および上側に配置されても構わない。下側および上側に基板ホルダ670を配置することにより、二以上の基板を同時に成膜することができるため、生産性を高めることができる。
また、図18(B)に示すように、ターゲットシールド622およびターゲットシールド623は、GNDに接続されている。つまり、電源691の電位が与えられたバッキングプレート610aおよびバッキングプレート610bと、GNDが与えられたターゲットシールド622およびターゲットシールド623と、の間に印加される電位差によって、プラズマ640が形成される。
以上に示した対向ターゲット式スパッタリング装置は、プラズマがターゲット間の磁場に閉じこめられるため、基板へのプラズマダメージを低減することができる。また、ターゲットの傾きによって、基板へのスパッタ粒子の入射角度を浅くすることができるため、堆積される膜の段差被覆性を高めることができる。また、高真空における成膜が可能であるため、膜に混入する不純物の濃度を低減することができる。
なお、成膜室に、平行平板型スパッタリング装置、イオンビームスパッタリング装置を適用しても構わない。
<成膜装置>
以下では、本発明の一態様に係るスパッタリング用ターゲットを設置することが可能な成膜室を有する成膜装置について説明する。
まずは、成膜時などに膜中に不純物の混入が少ない成膜装置の構成について図19および図20を用いて説明する。
図19は、枚葉式マルチチャンバーの成膜装置2700の上面図を模式的に示している。成膜装置2700は、基板を収容するカセットポート2761と、基板のアライメントを行うアライメントポート2762と、を備える大気側基板供給室2701と、大気側基板供給室2701から、基板を搬送する大気側基板搬送室2702と、基板の搬入を行い、かつ室内の圧力を大気圧から減圧、または減圧から大気圧へ切り替えるロードロック室2703aと、基板の搬出を行い、かつ室内の圧力を減圧から大気圧、または大気圧から減圧へ切り替えるアンロードロック室2703bと、真空中の基板の搬送を行う搬送室2704と、基板の加熱を行う基板加熱室2705と、ターゲットが配置され成膜を行う成膜室2706a、成膜室2706bおよび成膜室2706cと、を有する。なお、成膜室2706a、成膜室2706bおよび成膜室2706cは、上述した成膜室の構成を参酌することができる。
また、大気側基板搬送室2702は、ロードロック室2703aおよびアンロードロック室2703bと接続され、ロードロック室2703aおよびアンロードロック室2703bは、搬送室2704と接続され、搬送室2704は、基板加熱室2705、成膜室2706a、成膜室2706bおよび成膜室2706cと接続する。
なお、各室の接続部にはゲートバルブ2764が設けられており、大気側基板供給室2701と、大気側基板搬送室2702を除き、各室を独立して真空状態に保持することができる。また、大気側基板搬送室2702および搬送室2704は、搬送ロボット2763を有し、基板を搬送することができる。
また、基板加熱室2705は、プラズマ処理室を兼ねると好ましい。成膜装置2700は、処理と処理の間で基板を大気暴露することなく搬送することが可能なため、基板に不純物が吸着することを抑制できる。また、成膜や熱処理などの順番を自由に構築することができる。なお、搬送室、成膜室、ロードロック室、アンロードロック室および基板加熱室は、上述の数に限定されず、設置スペースやプロセス条件に合わせて、適宜最適な数を設けることができる。
次に、図19に示す成膜装置2700の一点鎖線X1−X2、一点鎖線Y1−Y2、および一点鎖線Y2−Y3に相当する断面を図20に示す。
図20(A)は、基板加熱室2705と、搬送室2704の断面を示しており、基板加熱室2705は、基板を収容することができる複数の加熱ステージ2765を有している。なお、基板加熱室2705は、バルブを介して真空ポンプ2770と接続されている。真空ポンプ2770としては、例えば、ドライポンプ、およびメカニカルブースターポンプ等を用いることができる。
また、基板加熱室2705に用いることのできる加熱機構としては、例えば、抵抗発熱体などを用いて加熱する加熱機構としてもよい。または、加熱されたガスなどの媒体からの熱伝導または熱輻射によって、加熱する加熱機構としてもよい。例えば、GRTA(Gas Rapid Thermal Anneal)、LRTA(Lamp Rapid Thermal Anneal)などのRTA(Rapid Thermal Anneal)を用いることができる。LRTAは、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、キセノンアークランプ、カーボンアークランプ、高圧ナトリウムランプ、高圧水銀ランプなどのランプから発する光(電磁波)の輻射により、被処理物を加熱する。GRTAは、高温のガスを用いて熱処理を行う。ガスとしては、不活性ガスが用いられる。
また、基板加熱室2705は、マスフローコントローラ2780を介して、精製機2781と接続される。なお、マスフローコントローラ2780および精製機2781は、ガス種の数だけ設けられるが、理解を容易にするため一つのみを示す。基板加熱室2705に導入されるガスは、露点が−80℃以下、好ましくは−100℃以下であるガスを用いることができ、例えば、酸素ガス、窒素ガス、および希ガス(アルゴンガスなど)を用いる。
搬送室2704は、搬送ロボット2763を有している。搬送ロボット2763は、各室へ基板を搬送することができる。また、搬送室2704は、バルブを介して真空ポンプ2770と、クライオポンプ2771と、接続されている。このような構成とすることで、搬送室2704は、大気圧から低真空または中真空(0.1から数百Pa程度)まで真空ポンプ2770を用いて排気され、バルブを切り替えて中真空から高真空または超高真空(0.1Paから1×10−7Pa)まではクライオポンプ2771を用いて排気される。
また、例えば、クライオポンプ2771は、搬送室2704に対して2台以上並列に接続してもよい。このような構成とすることで、1台のクライオポンプがリジェネ中であっても、残りのクライオポンプを使って排気することが可能となる。なお、上述したリジェネとは、クライオポンプ内にため込まれた分子(または原子)を放出する処理をいう。クライオポンプは、分子(または原子)をため込みすぎると排気能力が低下してくるため、定期的にリジェネが行われる。
図20(B)は、成膜室2706bと、搬送室2704と、ロードロック室2703aの断面を示している。
ここで、図20(B)を用いて、成膜室(スパッタリング室)の詳細について説明する。図20(B)に示す成膜室2706bは、ターゲット2766aと、ターゲット2766bと、ターゲットシールド2767aと、ターゲットシールド2767bと、マグネットユニット2790aと、マグネットユニット2790bと、基板ホルダ2768と、電源2791と、を有する。図示しないが、ターゲット2766aおよびターゲット2766bは、それぞれバッキングプレートを介してターゲットホルダに固定される。また、ターゲット2766aおよびターゲット2766bには、電源2791が電気的に接続されている。マグネットユニット2790aおよびマグネットユニット2790bは、それぞれターゲット2766aおよびターゲット2766bの背面に配置される。ターゲットシールド2767aおよびターゲットシールド2767bは、それぞれターゲット2766aおよびターゲット2766bの端部を囲うように配置される。なお、ここでは基板ホルダ2768には、基板2769が支持されている。基板ホルダ2768は、可変部材2784を介して成膜室2706bに固定される。可変部材2784によって、基板ホルダ2768を移動させることができる。基板ホルダ2768は、ターゲット2766aとターゲット2766bとの間の領域(ターゲット間領域ともいう。)の上側に配置される。例えば、基板2769を支持した基板ホルダ2768をターゲット間領域の上側に配置することによって、プラズマによる損傷を低減させることができる。また、基板ホルダ2768は、図示しないが、基板2769を保持する基板保持機構や、基板2769を背面から加熱するヒーター等を備えていてもよい。
また、図20(B)に示すように、基板ホルダ2768は、ターゲット間領域の上側に配置されるが、下側に配置されても構わない。また、下側および上側に配置されても構わない。下側および上側に基板ホルダ2768を配置することにより、二以上の基板を同時に成膜することができるため、生産性を高めることができる。
また、ターゲットシールド2767によって、ターゲット2766からスパッタリングされる粒子が不要な領域に堆積することを抑制できる。ターゲットシールド2767は、累積されたスパッタ粒子が剥離しないように、加工することが望ましい。例えば、表面粗さを増加させるブラスト処理、またはターゲットシールド2767の表面に凹凸を設けてもよい。
また、成膜室2706bは、ガス加熱機構2782を介してマスフローコントローラ2780と接続され、ガス加熱機構2782はマスフローコントローラ2780を介して精製機2781と接続される。ガス加熱機構2782により、成膜室2706bに導入されるガスを40℃以上400℃以下に加熱することができる。なお、ガス加熱機構2782、マスフローコントローラ2780、および精製機2781は、ガス種の数だけ設けられるが、理解を容易にするため一つのみを示す。成膜室2706bに導入されるガスは、露点が−80℃以下、好ましくは−100℃以下であるガスを用いることができ、例えば、酸素ガス、窒素ガス、および希ガス(アルゴンガスなど)を用いる。
なお、ガスの導入口の直前に精製機を設ける場合、精製機から成膜室2706bまでの配管の長さを10m以下、好ましくは5m以下、さらに好ましくは1m以下とする。配管の長さを10m以下、5m以下または1m以下とすることで、配管からの放出ガスの影響を長さに応じて低減できる。さらに、ガスの配管には、フッ化鉄、酸化アルミニウム、酸化クロムなどで内部が被覆された金属配管を用いるとよい。前述の配管は、例えばSUS316L−EP配管と比べ、不純物を含むガスの放出量が少なく、ガスへの不純物の入り込みを低減できる。また、配管の継手には、高性能超小型メタルガスケット継手(UPG継手)を用いるとよい。また、配管を全て金属で構成することで、樹脂等を用いた場合と比べ、生じる放出ガスおよび外部リークの影響を低減できて好ましい。
また、成膜室2706bは、バルブを介してターボ分子ポンプ2772および真空ポンプ2770と接続される。
また、成膜室2706bは、クライオトラップ2751が設けられる。
クライオトラップ2751は、水などの比較的融点の高い分子(または原子)を吸着することができる機構である。ターボ分子ポンプ2772は大きいサイズの分子(または原子)を安定して排気し、かつメンテナンスの頻度が低いため、生産性に優れる一方、水素や水の排気能力が低い。そこで、水などに対する排気能力を高めるため、クライオトラップ2751が成膜室2706bに接続された構成としている。クライオトラップ2751の冷凍機の温度は100K以下、好ましくは80K以下とする。また、クライオトラップ2751が複数の冷凍機を有する場合、冷凍機ごとに温度を変えると、効率的に排気することが可能となるため好ましい。例えば、1段目の冷凍機の温度を100K以下とし、2段目の冷凍機の温度を20K以下とすればよい。なお、クライオトラップに替えて、チタンサブリメーションポンプを用いることで、さらに高真空とすることができる場合がある。また、クライオポンプやターボ分子ポンプに替えてイオンポンプを用いることでもさらに高真空とすることができる場合がある。
なお、成膜室2706bの排気方法は、これに限定されず、先の搬送室2704に示す排気方法(クライオポンプと真空ポンプとの排気方法)と同様の構成としてもよい。もちろん、搬送室2704の排気方法を成膜室2706bと同様の構成(ターボ分子ポンプと真空ポンプとの排気方法)としてもよい。
なお、上述した搬送室2704、基板加熱室2705、および成膜室2706bの背圧(全圧)、ならびに各気体分子(原子)の分圧は、以下の通りとすると好ましい。とくに、形成される膜中に不純物が混入され得る可能性があるので、成膜室2706bの背圧、ならびに各気体分子(原子)の分圧には注意する必要がある。
上述した各室の背圧(全圧)は、1×10−4Pa以下、好ましくは3×10−5Pa以下、さらに好ましくは1×10−5Pa以下である。上述した各室の質量電荷比(m/z)が18である気体分子(原子)の分圧は、3×10−5Pa以下、好ましくは1×10−5Pa以下、さらに好ましくは3×10−6Pa以下である。また、上述した各室のm/zが28である気体分子(原子)の分圧は、3×10−5Pa以下、好ましくは1×10−5Pa以下、さらに好ましくは3×10−6Pa以下である。また、上述した各室のm/zが44である気体分子(原子)の分圧は、3×10−5Pa以下、好ましくは1×10−5Pa以下、さらに好ましくは3×10−6Pa以下である。
なお、真空チャンバー内の全圧および分圧は、質量分析計を用いて測定することができる。例えば、株式会社アルバック製四重極形質量分析計(Q−massともいう。)Qulee CGM−051を用いればよい。
また、上述した搬送室2704、基板加熱室2705、および成膜室2706bは、外部リークまたは内部リークが少ない構成とすることが望ましい。
例えば、上述した搬送室2704、基板加熱室2705、および成膜室2706bのリークレートは、3×10−6Pa・m3/s以下、好ましくは1×10−6Pa・m3/s以下である。また、m/zが18である気体分子(原子)のリークレートが1×10−7Pa・m3/s以下、好ましくは3×10−8Pa・m3/s以下である。また、m/zが28である気体分子(原子)のリークレートが1×10−5Pa・m3/s以下、好ましくは1×10−6Pa・m3/s以下である。また、m/zが44である気体分子(原子)のリークレートが3×10−6Pa・m3/s以下、好ましくは1×10−6Pa・m3/s以下である。
なお、リークレートに関しては、前述の質量分析計を用いて測定した全圧および分圧から導出すればよい。
リークレートは、外部リークおよび内部リークに依存する。外部リークは、微小な穴やシール不良などによって真空系外から気体が流入することである。内部リークは、真空系内のバルブなどの仕切りからの漏れや内部の部材からの放出ガスに起因する。リークレートを上述の数値以下とするために、外部リークおよび内部リークの両面から対策をとる必要がある。
例えば、成膜室2706bの開閉部分はメタルガスケットでシールするとよい。メタルガスケットは、フッ化鉄、酸化アルミニウム、または酸化クロムによって被覆された金属を用いると好ましい。メタルガスケットはOリングと比べ密着性が高く、外部リークを低減できる。また、フッ化鉄、酸化アルミニウム、酸化クロムなどによって被覆された金属の不動態を用いることで、メタルガスケットから放出される不純物を含む放出ガスが抑制され、内部リークを低減することができる。
また、成膜装置2700を構成する部材として、不純物を含む放出ガスの少ないアルミニウム、クロム、チタン、ジルコニウム、ニッケルまたはバナジウムを用いる。また、前述の部材を鉄、クロムおよびニッケルなどを含む合金に被覆して用いてもよい。鉄、クロムおよびニッケルなどを含む合金は、剛性があり、熱に強く、また加工に適している。ここで、表面積を小さくするために部材の表面凹凸を研磨などによって低減しておくと、放出ガスを低減できる。
または、前述の成膜装置2700の部材をフッ化鉄、酸化アルミニウム、酸化クロムなどで被覆してもよい。
成膜装置2700の部材は、極力金属のみで構成することが好ましく、例えば石英などで構成される覗き窓などを設置する場合も、放出ガスを抑制するために表面をフッ化鉄、酸化アルミニウム、酸化クロムなどで薄く被覆するとよい。
成膜室に存在する吸着物は、内壁などに吸着しているために成膜室の圧力に影響しないが、成膜室を排気した際のガス放出の原因となる。そのため、リークレートと排気速度に相関はないものの、排気能力の高いポンプを用いて、成膜室に存在する吸着物をできる限り脱離し、あらかじめ排気しておくことは重要である。なお、吸着物の脱離を促すために、成膜室をベーキングしてもよい。ベーキングすることで吸着物の脱離速度を10倍程度大きくすることができる。ベーキングは100℃以上450℃以下で行えばよい。このとき、不活性ガスを成膜室に導入しながら吸着物の除去を行うと、排気するだけでは脱離しにくい水などの脱離速度をさらに大きくすることができる。なお、導入する不活性ガスをベーキングの温度と同程度に加熱することで、吸着物の脱離速度をさらに高めることができる。ここで不活性ガスとして希ガスを用いると好ましい。また、成膜する膜種によっては不活性ガスの代わりに酸素などを用いても構わない。例えば、酸化物を成膜する場合は、主成分である酸素を用いた方が好ましい場合もある。なお、ベーキングは、ランプを用いて行うと好ましい。
または、加熱した希ガスなどの不活性ガスまたは酸素などを導入することで成膜室内の圧力を高め、一定時間経過後に再び成膜室を排気する処理を行うと好ましい。加熱したガスの導入により成膜室内の吸着物を脱離させることができ、成膜室内に存在する不純物を低減することができる。なお、この処理は2回以上30回以下、好ましくは5回以上15回以下の範囲で繰り返し行うと効果的である。具体的には、温度が40℃以上400℃以下、好ましくは50℃以上200℃以下である不活性ガスまたは酸素などを導入することで成膜室内の圧力を0.1Pa以上10kPa以下、好ましくは1Pa以上1kPa以下、さらに好ましくは5Pa以上100Pa以下とし、圧力を保つ期間を1分以上300分以下、好ましくは5分以上120分以下とすればよい。その後、成膜室を5分以上300分以下、好ましくは10分以上120分以下の期間排気する。
また、ダミー成膜を行うことでも吸着物の脱離速度をさらに高めることができる。ダミー成膜とは、ダミー基板に対してスパッタリング法などによる成膜を行うことで、ダミー基板および成膜室内壁に膜を堆積させ、成膜室内の不純物および成膜室内壁の吸着物を膜中に閉じこめることをいう。ダミー基板は、放出ガスの少ない基板が好ましい。ダミー成膜を行うことで、後に成膜される膜中の不純物濃度を低減することができる。なお、ダミー成膜はベーキングと同時に行ってもよい。
次に、図20(B)に示す搬送室2704、およびロードロック室2703aと、図20(C)に示す大気側基板搬送室2702、および大気側基板供給室2701の詳細について以下説明を行う。なお、図20(C)は、大気側基板搬送室2702、および大気側基板供給室2701の断面を示している。
図20(B)に示す搬送室2704については、図20(A)に示す搬送室2704の記載を参照する。
ロードロック室2703aは、基板受け渡しステージ2752を有する。ロードロック室2703aは、減圧状態から大気まで圧力を上昇させ、ロードロック室2703aの圧力が大気圧になった時に、大気側基板搬送室2702に設けられている搬送ロボット2763から基板受け渡しステージ2752に基板を受け取る。その後、ロードロック室2703aを真空引きし、減圧状態としたのち、搬送室2704に設けられている搬送ロボット2763が基板受け渡しステージ2752から基板を受け取る。
また、ロードロック室2703aは、バルブを介して真空ポンプ2770、およびクライオポンプ2771と接続されている。真空ポンプ2770、およびクライオポンプ2771の排気系の接続方法は、搬送室2704の接続方法を参考とすることで接続できるため、ここでの説明は省略する。なお、図19に示すアンロードロック室2703bは、ロードロック室2703aと同様の構成とすることができる。
大気側基板搬送室2702は、搬送ロボット2763を有する。搬送ロボット2763により、カセットポート2761とロードロック室2703aとの基板の受け渡しを行うことができる。また、大気側基板搬送室2702、および大気側基板供給室2701の上方にHEPAフィルタ(High Efficiency Particulate Air Filter)等のゴミまたはパーティクルを清浄化するための機構を設けてもよい。
大気側基板供給室2701は、複数のカセットポート2761を有する。カセットポート2761は、複数の基板を収容することができる。
ターゲットは、表面温度が100℃以下、好ましくは50℃以下、さらに好ましくは室温程度(代表的には25℃)とする。大面積の基板に対応するスパッタリング装置では大面積のターゲットを用いることが多い。ところが、大面積に対応した大きさのターゲットをつなぎ目なく作製することは困難である。現実には複数のターゲットをなるべく隙間のないように並べて大きな形状としているが、どうしても僅かな隙間が生じてしまう。こうした僅かな隙間から、ターゲットの表面温度が高まることで亜鉛などが揮発し、徐々に隙間が広がっていくことがある。隙間が広がると、バッキングプレートや、バッキングプレートとターゲットとの接合に用いているボンディング材の金属がスパッタリングされることがあり、不純物濃度を高める要因となる。したがって、ターゲットは、十分に冷却されていることが好ましい。
具体的には、バッキングプレートとして、高い導電性および高い放熱性を有する金属(具体的には銅)を用いる。また、バッキングプレート内に水路を形成し、水路に十分な量の冷却水を流すことで、効率的にターゲットを冷却できる。
なお、ターゲットが亜鉛を含む場合、酸素ガス雰囲気で成膜することにより、プラズマダメージが軽減され、亜鉛の揮発が起こりにくい酸化物半導体を得ることができる。
上述した成膜装置を用いることで、水素濃度が、二次イオン質量分析法(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)において、2×1020atoms/cm3以下、好ましくは5×1019atoms/cm3以下、より好ましくは1×1019atoms/cm3以下、さらに好ましくは5×1018atoms/cm3以下である酸化物半導体を成膜することができる。
また、窒素濃度が、SIMSにおいて、5×1019atoms/cm3未満、好ましくは1×1019atoms/cm3以下、より好ましくは5×1018atoms/cm3以下、さらに好ましくは1×1018atoms/cm3以下である酸化物半導体を成膜することができる。
また、炭素濃度が、SIMSにおいて、5×1019atoms/cm3未満、好ましくは5×1018atoms/cm3以下、より好ましくは1×1018atoms/cm3以下、さらに好ましくは5×1017atoms/cm3以下である酸化物半導体を成膜することができる。
不純物および酸素欠損の少ない酸化物半導体は、キャリア密度の低い酸化物半導体である。具体的には、キャリア密度を8×1011/cm3未満、好ましくは1×1011/cm3未満、さらに好ましくは1×1010/cm3未満であり、1×10−9/cm3以上とすることができる。そのような酸化物半導体を、高純度真性または実質的に高純度真性な酸化物半導体と呼ぶ。CAAC−OSは、不純物濃度が低く、欠陥準位密度が低い。即ち、安定な特性を有する酸化物半導体であるといえる。
また、昇温脱離ガス分光法(TDS:Thermal Desorption Spectroscopy)分析によるm/zが2(水素分子など)である気体分子(原子)、m/zが18である気体分子(原子)、m/zが28である気体分子(原子)およびm/zが44である気体分子(原子)の放出量が、それぞれ1×1019個/cm3以下、好ましくは1×1018個/cm3以下である酸化物半導体を成膜することができる。
以上の成膜装置を用いることで、酸化物半導体への不純物の混入を抑制できる。さらには、以上の成膜装置を用いて、酸化物半導体に接する膜を成膜することで、酸化物半導体に接する膜から酸化物半導体へ不純物が混入することを抑制できる。
<CAAC−OS>
まずは、CAAC−OSについて説明する。
CAAC−OSは、c軸配向した複数の結晶部(ナノクラスターともいう。)を有する酸化物半導体の一種である。
CAAC−OSをX線回折(XRD:X−Ray Diffraction)によって解析した場合について説明する。例えば、空間群R−3mに分類されるInGaZnO4の結晶を有するCAAC−OSに対し、out−of−plane法による構造解析を行うと、図21(A)に示すように回折角(2θ)が31°近傍にピークが現れる。このピークは、InGaZnO4の結晶の(009)面に帰属されることから、CAAC−OSでは、結晶がc軸配向性を有し、c軸がCAAC−OSの膜を形成する面(被形成面ともいう。)、または上面に略垂直な方向を向いていることが確認できる。なお、2θが31°近傍のピークの他に、2θが36°近傍にもピークが現れる場合がある。2θが36°近傍のピークは、空間群Fd−3mに分類される結晶構造に起因する。そのため、CAAC−OSは、該ピークを示さないことが好ましい。
一方、CAAC−OSに対し、被形成面に平行な方向からX線を入射させるin−plane法による構造解析を行うと、2θが56°近傍にピークが現れる。このピークは、InGaZnO4の結晶の(110)面に帰属される。そして、2θを56°近傍に固定し、試料面の法線ベクトルを軸(φ軸)として試料を回転させながら分析(φスキャン)を行っても、図21(B)に示すように明瞭なピークは現れない。一方、単結晶InGaZnO4に対し、2θを56°近傍に固定してφスキャンした場合、図21(C)に示すように(110)面と等価な結晶面に帰属されるピークが6本観察される。したがって、XRDを用いた構造解析から、CAAC−OSは、a軸およびb軸の配向が不規則であることが確認できる。
次に、電子回折によって解析したCAAC−OSについて説明する。例えば、InGaZnO4の結晶を有するCAAC−OSに対し、CAAC−OSの被形成面に平行にプローブ径が300nmの電子線を入射させると、図21(D)に示すような回折パターン(制限視野電子回折パターンともいう。)が現れる場合がある。この回折パターンには、InGaZnO4の結晶の(009)面に起因するスポットが含まれる。したがって、電子回折によっても、CAAC−OSに含まれるナノクラスターがc軸配向性を有し、c軸が被形成面または上面に略垂直な方向を向いていることがわかる。一方、同じ試料に対し、試料面に垂直にプローブ径が300nmの電子線を入射させたときの回折パターンを図21(E)に示す。図21(E)より、リング状の回折パターンが確認される。したがって、プローブ径が300nmの電子線を用いた電子回折によっても、CAAC−OSに含まれるナノクラスターのa軸およびb軸は配向性を有さないことがわかる。なお、図21(E)における第1リングは、InGaZnO4の結晶の(010)面および(100)面などに起因すると考えられる。また、図21(E)における第2リングは(110)面などに起因すると考えられる。
<酸化物半導体の構造>
酸化物半導体は、単結晶酸化物半導体と、それ以外の非単結晶酸化物半導体とに分けられる。非単結晶酸化物半導体としては、CAAC−OS、多結晶酸化物半導体、nc−OS、擬似非晶質酸化物半導体(a−like OS:amorphous like Oxide Semiconductor)、および非晶質酸化物半導体などがある。
また別の観点では、酸化物半導体は、非晶質酸化物半導体と、それ以外の結晶性酸化物半導体とに分けられる。結晶性酸化物半導体としては、単結晶酸化物半導体、CAAC−OS、多結晶酸化物半導体、nc−OSなどがある。
nc−OSは、高分解能TEM像において、結晶部を確認することのできる領域と、明確な結晶部を確認することのできない領域と、を有する。nc−OSに含まれる結晶部は、1nm以上10nm以下、または1nm以上3nm以下の大きさであることが多い。なお、結晶部の大きさが10nmより大きく100nm以下である酸化物半導体を微結晶酸化物半導体と呼ぶことがある。nc−OSは、例えば、高分解能TEM像では、結晶粒界を明確に確認されない場合がある。なお、ナノ結晶は、CAAC−OSにおけるナノクラスターと起源を同じくする可能性がある。そのため、以下ではnc−OSの結晶部をナノクラスターと呼ぶ場合がある。
nc−OSは、微小な領域(例えば、1nm以上10nm以下の領域、特に1nm以上3nm以下の領域)において原子配列に周期性を有する。また、nc−OSは、異なるナノクラスター間で結晶方位に規則性が見られない。そのため、膜全体で配向性が見られない。したがって、nc−OSは、分析方法によっては、a−like OSや非晶質酸化物半導体と区別が付かない場合がある。例えば、nc−OSに対し、ナノクラスターよりも大きい径のX線を用いた場合、out−of−plane法による解析では、結晶面を示すピークは検出されない。また、nc−OSに対し、ナノクラスターよりも大きいプローブ径(例えば50nm以上)の電子線を用いる電子回折を行うと、ハローパターンのような回折パターンが観測される。一方、nc−OSに対し、ナノクラスターの大きさと近いかナノクラスターより小さいプローブ径の電子線を用いるナノビーム電子回折を行うと、スポットが観測される。また、nc−OSに対しナノビーム電子回折を行うと、円を描くように(リング状に)輝度の高い領域が観測される場合がある。さらに、リング状の領域内に複数のスポットが観測される場合がある。
このように、ナノクラスター(ナノ結晶)間では結晶方位が規則性を有さないことから、nc−OSを、RANC(Random Aligned nanocrystals)を有する酸化物半導体、またはNANC(Non−Aligned nanocrystals)を有する酸化物半導体と呼ぶこともできる。
nc−OSは、非晶質酸化物半導体よりも規則性の高い酸化物半導体である。そのため、nc−OSは、a−like OSや非晶質酸化物半導体よりも欠陥準位密度が低くなる。ただし、nc−OSは、異なるナノクラスター間で結晶方位に規則性が見られない。そのため、nc−OSは、CAAC−OSと比べて欠陥準位密度が高くなる。
また、a−like OSは、nc−OSと非晶質酸化物半導体との間の構造を有する酸化物半導体である。
a−like OSは、高分解能TEM像において鬆が観察される場合がある。また、高分解能TEM像において、明確に結晶部を確認することのできる領域と、結晶部を確認することのできない領域と、を有する。
鬆を有するため、a−like OSは、不安定な構造である。以下では、a−like OSが、CAAC−OSおよびnc−OSと比べて不安定な構造であることを示すため、電子照射による構造の変化を示す。例えば、a−like OSは、電子照射によって結晶部の成長が見られる場合がある。一方、nc−OSおよびCAAC−OSは、電子照射による結晶部の成長がほとんど見られない。即ち、a−like OSは、nc−OSおよびCAAC−OSと比べて、不安定な構造であることがわかる。
また、鬆を有するため、a−like OSは、nc−OSおよびCAAC−OSと比べて密度の低い構造である。具体的には、a−like OSの密度は、同じ組成の単結晶の密度の78.6%以上92.3%未満となる。また、nc−OSの密度およびCAAC−OSの密度は、同じ組成の単結晶の密度の92.3%以上100%未満となる。単結晶の密度の78%未満となる酸化物半導体は、成膜すること自体が困難である。
例えば、In:Ga:Zn=1:1:1[原子数比]を満たす酸化物半導体において、菱面体晶構造を有する単結晶InGaZnO4の密度は6.357g/cm3となる。よって、例えば、In:Ga:Zn=1:1:1[原子数比]を満たす酸化物半導体において、a−like OSの密度は5.0g/cm3以上5.9g/cm3未満となる。また、例えば、In:Ga:Zn=1:1:1[原子数比]を満たす酸化物半導体において、nc−OSの密度およびCAAC−OSの密度は5.9g/cm3以上6.3g/cm3未満となる。
なお、同じ組成の単結晶が存在しない場合がある。その場合、任意の割合で組成の異なる単結晶を組み合わせることにより、所望の組成における単結晶に相当する密度を見積もることができる。所望の組成の単結晶に相当する密度は、組成の異なる単結晶を組み合わせる割合に対して、加重平均を用いて見積もればよい。ただし、密度は、可能な限り少ない種類の単結晶を組み合わせて見積もることが好ましい。
非晶質構造の定義としては、一般に、準安定状態で固定化していないこと、等方的であって不均質構造を持たないことなどが知られている。また、結合角度が柔軟であり、短距離秩序性は有するが、長距離秩序性を有さない構造と言い換えることもできる。
逆の見方をすると、本質的に安定な酸化物半導体の場合、完全な非晶質(completely amorphous)酸化物半導体と呼ぶことはできない。また、等方的でない(例えば、微小な領域において周期構造を有する)酸化物半導体を、完全な非晶質酸化物半導体と呼ぶことはできない。ただし、a−like OSは、微小な領域において周期構造を有するものの、鬆を有し、かつ後述するように不安定な構造である。そのため、物性的には非晶質酸化物半導体に近いといえる。
このように、不安定であることを定義の一とする非晶質酸化物半導体は、例えば、トランジスタのチャネル形成領域になり得たとしても、製品としての実用性に耐えない可能性がある。これは、a−like OSについても同様である。したがって、製品に用いる場合、非晶質酸化物半導体およびa−like OSの成分は少ない、または存在しないことが好ましい。
また、単結晶酸化物半導体は、高い結晶性を有するものの、形成に高いプロセス温度を要するため、生産性を考慮すると実用的でない可能性がある。また、多結晶酸化物半導体は、結晶粒内の結晶性は高いものの、結晶粒界を有するため、ばらつきなどが生じやすい可能性がある。
一方、CAAC−OSおよびnc−OSは、高い安定性を有し、かつ上述した成膜方法によって基板温度500℃未満でも成膜することができる。また、明確な結晶粒界を有さないため、均質でばらつきなども生じにくい。例えば、第8世代以上の大面積基板上にも均質に成膜できるため、高い信頼性と高い実用性を兼ね備える構造であるといえる。
<電子顕微鏡による解析>
以下では、CAAC−OSおよびnc−OSを、透過電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)によって解析する。
まずは、解析する試料について説明する。
試料X1は、石英ガラス基板上にIn−Ga−Zn酸化物(In:Ga:Zn=1:4:5[原子数比])ターゲット(直径が101.6mmの円形)を用いたPESPにより成膜した厚さ100nmのIn−Ga−Zn酸化物を有する。そのほか、成膜電力は200W(DC)、成膜圧力は0.4Pa、ターゲット−基板間距離(ターゲットから基板ホルダまでの距離)は130mm、成膜ガスはアルゴンガス30sccmおよび酸素ガス10sccm、基板加熱なしの条件とした。
試料X2は、石英ガラス基板上にIn−Ga−Zn酸化物(In:Ga:Zn=1:4:5[原子数比])ターゲット(直径が101.6mmの円形)を用いたPESPにより成膜した厚さ100nmのIn−Ga−Zn酸化物を有する。そのほか、成膜電力は200W(DC)、成膜圧力は0.4Pa、ターゲット−基板間距離(ターゲットから基板ホルダまでの距離)は130mm、成膜ガスはアルゴンガス30sccmおよび酸素ガス10sccm、基板加熱あり(基板温度200℃)の条件とした。
試料X3は、石英ガラス基板上にIn−Ga−Zn酸化物(In:Ga:Zn=1:4:5[原子数比])ターゲット(125mm×190mmの長方形)を2枚用いたVDSPにより成膜した厚さ100nmのIn−Ga−Zn酸化物を有する。そのほか、成膜電力は1200W(DC)、成膜圧力は0.3Pa、ターゲット−基板間距離(一対のターゲットの中心を結ぶ線から基板ホルダまでの距離)は250mm、成膜ガスはアルゴンガス30sccmおよび酸素ガス10sccm、基板加熱なしの条件とした。
試料X4は、石英ガラス基板上にIn−Ga−Zn酸化物(In:Ga:Zn=1:4:5[原子数比])ターゲット(125mm×190mmの長方形)を2枚用いたVDSPにより成膜した厚さ100nmのIn−Ga−Zn酸化物を有する。そのほか、成膜電力は1200W(DC)、成膜圧力は0.05Pa、ターゲット−基板間距離(一対のターゲットの中心を結ぶ線から基板ホルダまでの距離)は250mm、成膜ガスはアルゴンガス30sccmおよび酸素ガス10sccm、基板加熱なしの条件とした。
<断面TEM>
以下では、断面TEM像で現れるCAAC−OSおよびnc−OSの特徴について説明する。
まずは、TEMにおける断面像(断面TEM像ともいう。)の画像解析を行う。なお、断面TEM像は、球面収差補正(Spherical Aberration Corrector)機能を用いて観察した。また、断面TEM像の取得には、日本電子株式会社製原子分解能分析電子顕微鏡JEM−ARM200Fを用いた。なお、断面TEM像中に白矢印で挟まれた領域が一つのナノクラスターを示している。
図22(A)に、試料面と略平行な方向から観察した試料X1の断面TEM像を示す。断面TEM像の観察には、球面収差補正機能を用いた。図22(B)は、図22(A)をさらに拡大した断面TEM像である。図22(B)より、ナノクラスターを確認することができる。ナノクラスターの向きは、不規則であるため、試料X1はnc−OSであることがわかる。
図23(A)に、試料面と略平行な方向から観察した試料X2の断面TEM像を示す。断面TEM像の観察には、球面収差補正機能を用いた。図23(B)は、図23(A)をさらに拡大した断面TEM像である。図23(B)より、ナノクラスターを確認することができる。ナノクラスターの向きは、膜を形成する面(被形成面ともいう。)または上面の凹凸を反映しており、膜の被形成面または上面と平行となる。このように、試料X2は、断面TEM像においても結晶の歪みを観察することができる。ナノクラスターの向きがc軸に配向しているため、試料X2はCAAC−OSであることがわかる。
図24(A)に、試料面と略平行な方向から観察した試料X3の断面TEM像を示す。断面TEM像の観察には、球面収差補正機能を用いた。図24(B)は、図24(A)をさらに拡大した断面TEM像である。図24(B)より、ナノクラスターを確認することができる。ナノクラスターの向きは、不規則であるため、試料X3はnc−OSであることがわかる。
図25(A)に、試料面と略平行な方向から観察した試料X4の断面TEM像を示す。断面TEM像の観察には、球面収差補正機能を用いた。図25(B)は、図25(A)をさらに拡大した断面TEM像である。図25(B)より、ナノクラスターを確認することができる。ナノクラスターの向きは、膜を形成する面(被形成面ともいう。)または上面の凹凸を反映しており、膜の被形成面または上面と平行となる。このように、試料X4は、断面TEM像においても結晶の歪みを観察することができる。ナノクラスターの向きがc軸に配向しているため、試料X4はCAAC−OSであることがわかる。
下表に、試料X1、試料X2、試料X3および試料X4における、ナノクラスターの大きさ(ナノクラスターの平面方向の長さ)の平均値、標準偏差σ、最大値および最小値、ならびにナノクラスターの向きの分布を示す。ナノクラスターの向きは、石英ガラス基板表面に対するナノクラスター平面の傾きとする。また、試料X1、試料X2、試料X3および試料X4のナノクラスターの大きさの分布を、それぞれ図26(A)、図26(B)、図26(C)および図26(D)に示す。
上表などより、PESPで成膜したIn−Ga−Zn酸化物は、基板加熱の有無によってCAAC−OSとnc−OSとが作り分けられることがわかった。また、VDSPで成膜したIn−Ga−Zn酸化物は、基板加熱なしでも成膜圧力を低く、高真空にすることでCAAC−OSとなることがわかった。また、VDSPで成膜したIn−Ga−Zn酸化物は、PESPで成膜したIn−Ga−Zn酸化物よりも、ナノクラスターの平均の大きく、かつ標準偏差が大きいことがわかった。特に、試料X4においては、ナノクラスターの平均の大きさが3nm以上と大きく、かつ標準偏差が大きいことがわかった。
図23(B)および図25(B)に示すように、CAAC−OSは特徴的な原子配列を有する。また、図26より、ナノクラスター一つの大きさは1nm以上10nm以下程度であることが多い。このような特徴から、ナノクラスターをナノ結晶(nc:nanocrystal)と呼ぶこともできる。また、CAAC−OSを、c軸配向したナノ結晶(CANC:C−Axis Aligned nanocrystals)を有する酸化物半導体と呼ぶこともできる。
また、図22(B)および図24(B)に示すように、nc−OSは層状の原子配列を有さないことがわかる。よって、nc−OSを、特定の方向に配向していないナノ結晶(RANC:Random Aligned nanocrystalsまたはNANC:Non−Aligned nanocrystals)を有する酸化物半導体と呼ぶこともできる。
<平面TEM>
断面TEMに限らず、複数の手法を用いることで、より厳密な構造の特定が可能となる。以下では、TEMにおける平面像(平面TEM像ともいう。)の画像解析を行う。なお、平面TEM像は、球面収差補正機能を用いて観察した。また、平面TEM像の取得には、日本電子株式会社製原子分解能分析電子顕微鏡JEM−ARM200Fを用いた。
図27(A)は、試料X4の平面TEM像である。図27(B)は、図27(A)を画像処理した像である。画像処理は、まず図27(A)を高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)処理することでFFT像を取得する。次に、取得したFFT像において2.8nm−1から5.0nm−1の範囲を残してマスク処理する。次に、マスク処理したFFT像を、逆高速フーリエ変換(IFFT:Inverse Fast Fourier Transform)処理することでFFTフィルタリング像を取得する。図27(B)は、図27(A)のFFTフィルタリング像である。図27(A)および図27(B)より、試料X4は、六角形状および三角形状の原子配列を有し、かつ結晶方位の異なる領域間の境界は明確ではないことがわかる。したがって、試料X4は、平面TEM像からもCAAC−OSの特徴を有することがわかる。
図28(A)は、図27(A)に領域A、領域B、領域Cおよび領域Dを示した平面TEM像である。図28(B)は、図27(B)を画像解析した像であり、図28(A)と同じ箇所に領域A、領域B、領域Cおよび領域Dを示す。
画像解析の方法について説明する。まず、FFTフィルタリング像から格子点を抽出する。格子点の抽出は、以下の手順で行う。まず、FFTフィルタリング像のノイズを除去する処理を行う。ノイズを除去する処理は、半径0.05nmの範囲における輝度を以下の式(2)によって平滑化することで行う。
ここで、S_Int(x,y)は座標(x,y)における平滑化された輝度を示し、rは座標(x,y)と座標(x’,y’)との距離を示し、Int(x’,y’)は、座標(x’,y’)における輝度を示す。なお、rが0のときは、rを1として計算する。
次に、格子点の探索を行う。格子点の条件は、半径0.22nm内で最も輝度が高い座標とする。ここでは、格子点候補が抽出される。なお、半径0.22nm内であれば、ノイズによる格子点の誤検出の頻度を小さくすることができる。また、TEM像では格子点間に一定の距離があるため、半径0.22nm内には二つ以上の格子点が含まれる可能性は低い。
次に、抽出された格子点候補を中心に、半径0.22nm内で最も輝度の高い座標を抽出し、格子点候補を更新する。このようにして、格子点候補の抽出を繰り返し、新たな格子点候補が現れなくなったときの座標を格子点として認定する。同様に、認定された格子点から0.22nm以上離れた位置において、新たな格子点の認定を行う。こうして、全ての範囲で格子点を認定する。得られた複数の格子点は、まとめて格子点群と呼ぶ。
次に、抽出した格子点群から六角形格子の角度を導出する方法について、図29(A)、図29(B)および図29(C)に示す模式図、ならびに図29(D)に示すフローチャートを用いて説明する。まず、基準格子点を定め、その最近接である6点の近接格子点を結び、六角形格子を形成する(図29(A)、図29(D)ステップS101参照。)。その後、該六角形格子の中心点である基準格子点から頂点である各格子点までの距離の平均値Rを導出する。算出したRを各頂点までの距離とし、基準格子点を中心点とした正六角形を形成する(図29(D)ステップS102参照。)。このとき、正六角形の各頂点と、それぞれに最も近い近接格子点との距離を距離d1、距離d2、距離d3、距離d4、距離d5および距離d6とする(図29(D)ステップS103参照。)。次に、正六角形を、中心点を基準に0.1°刻みで0°から60°まで回転させ、回転した正六角形と六角形格子との平均のずれ[D=(d1+d2+d3+d4+d5+d6)/6]を算出する(図29(D)ステップS104参照。)。そして、平均のずれDが最小となるときの正六角形の回転角度θを求め、六角形格子の角度とする(図29(D)ステップS105)。
次に、平面TEM像の観察範囲において、六角形格子の角度が30°となる割合が最も高くなるように調整する。そして、半径1nmの範囲において、六角形格子の角度の平均値を算出する。こうして得られた平面TEM像の画像解析の結果を、六角形格子の角度に応じた色または濃淡で表示することができる。図28(B)は、図28(A)を上述の方法により画像解析し、六角形格子の角度に応じた濃淡を示した像である。
図28(B)より、試料X4は、六角形格子の角度の揃った領域を複数有することがわかる。図30(A)は、領域Aを拡大した平面TEM像である。図30(B)は、領域Aにおいて、六角形格子の角度が変化する境界部を白点線で示した平面TEM像である。図30(C)は、領域AにおけるFFTフィルタリング像である。図30(D)は、領域Aにおいて、六角形格子の角度が変化する境界部を白点線で示したFFTフィルタリング像である。図30(E)は、領域Aにおける六角形格子の角度に応じた濃淡を示した像である。なお、図30(E)において、白点線は六角形格子の角度が変化する境界部を示し、黒点線は六角形格子の角度の変化を示す。図30(E)より、六角形格子の角度が変化する境界部においても、格子点が途切れることなく連続的に観察されることがわかる。
図31(A)は、領域Bを拡大した平面TEM像である。図31(B)は、領域Bにおいて、六角形格子の角度が変化する境界部を白点線で示した平面TEM像である。図31(C)は、領域BにおけるFFTフィルタリング像である。図31(D)は、領域Bにおいて、六角形格子の角度が変化する境界部を白点線で示したFFTフィルタリング像である。図31(E)は、領域Bにおける六角形格子の角度に応じた濃淡を示した像である。なお、図31(E)において、白点線は六角形格子の角度が変化する境界部を示し、黒点線は六角形格子の角度の変化を示す。図31(E)より、六角形格子の角度が変化する境界部においても、格子点が途切れることなく連続的に観察されることがわかる。
図32(A)は、領域Cを拡大した平面TEM像である。図32(B)は、領域Cにおいて、六角形格子の角度が変化する境界部を白点線で示した平面TEM像である。図32(C)は、領域CにおけるFFTフィルタリング像である。図32(D)は、領域Cにおいて、六角形格子の角度が変化する境界部を白点線で示したFFTフィルタリング像である。図32(E)は、領域Cにおける六角形格子の角度に応じた濃淡を示した像である。なお、図32(E)において、白点線は六角形格子の角度が変化する境界部を示す。図32(E)より、六角形格子の角度が変化する境界部においても、格子点が途切れることなく連続的に観察されることがわかる。
図33(A)は、領域Dを拡大した平面TEM像である。図33(B)は、領域Dにおいて、六角形格子の角度が変化する境界部を白点線で示した平面TEM像である。図33(C)は、領域DにおけるFFTフィルタリング像である。図33(D)は、領域Dにおいて、六角形格子の角度が変化する境界部を白点線で示したFFTフィルタリング像である。図33(E)は、領域Dにおける六角形格子の角度に応じた濃淡を示した像である。なお、図33(E)において、白点線は六角形格子の角度が変化する境界部を示す。図33(E)より、六角形格子の角度が変化する境界部においても、格子点が途切れることなく連続的に観察されることがわかる。
ここで、新たに試料X5を準備する。試料X5は、厚さ25nmの熱酸化膜の形成された単結晶シリコン基板上にIn−Ga−Zn酸化物(In:Ga:Zn=1:1:1[原子数比])ターゲット(直径が101.6mmの円形)を用いたPESPにより成膜した厚さ100nmのIn−Ga−Zn酸化物を有する。そのほか、成膜電力は200W(DC)、成膜圧力は0.4Pa、ターゲット−基板間距離(ターゲットから基板ホルダまでの距離)は130mm、成膜ガスはアルゴンガス20sccmおよび酸素ガス10sccm、基板加熱なしの条件とした。また、試料X5は、In−Ga−Zn酸化物の成膜後に窒素雰囲気下で450℃1時間の加熱処理を行っている。
図34は、試料X5の六角形格子の角度に応じた濃淡を示した像である。図34より、試料X5は、六角形格子の角度の揃った領域を複数有することがわかる。
このように、平面TEM像を画像解析することによって、CAAC−OSの六角形格子の角度が変化する境界部を評価することが可能となる。また、図29に示した方法においては、得られる正六角形と六角形格子との平均のずれDを正六角形の中心点と各頂点との距離Rで除することで、六角形格子の変形率を導出することができる。図35に、試料X4および試料X5の、六角形格子の変形率を表す。図35(A)は、試料X4の平面TEM像の観察範囲において、六角形格子の変形率が0.15以下となる領域を薄い灰色で示した像である。図35(C)は、試料X5の平面TEM像の観察範囲において、六角形格子の変形率が0.15以下となる領域を薄い灰色で示した像である。図35(B)は、試料X4の六角形格子の変形率の分布を示す図である。図35(D)は、試料X5の六角形格子の変形率の分布を示す図である。
ここで、試料X4は、変形率が0.4以下の領域の割合がおよそ99%であり、変形率が0.3以下の領域の割合がおよそ95%であり、変形率が0.2以下の領域の割合がおよそ74%であり、変形率が0.15以下の領域の割合がおよそ60%であった。また、試料X5は、変形率が0.4以下の領域の割合がおよそ99%であり、変形率が0.3以下の領域の割合がおよそ88%であり、変形率が0.2以下の領域の割合がおよそ51%であり、変形率が0.15以下の領域の割合がおよそ32%であった。このように、試料X4および試料X5は、六角形格子の変形率の小さい領域の割合が高いことがわかる。特に、試料X4は、六角形格子の変形率の小さい領域の割合が高いことがわかる。六角形格子の変形率の小さい領域の割合が高いCAAC−OSは、より単結晶酸化物半導体に近い性質を有すると考えられる。
次に、試料X4および試料X5の格子点群からボロノイ図を作成する。ボロノイ図は、格子点群において、それぞれ格子点と最も近い領域で分割した図である。以下では、図36(A)、図36(B)、図36(C)および図36(D)に示す模式図、ならびに図36(E)に示すフローチャートを用いて、ボロノイ図の作成方法の詳細を説明する。
まず、図29に示した方法などによって格子点群を抽出する(図36(A)および図36(E)ステップS111参照。)。次に、近接する格子点間を線分で結ぶ(図36(B)および図36(E)ステップS112参照。)。次に、各線分の垂直二等分線を引く(図36(C)および図36(E)ステップS113参照。)。次に、3つの垂直二等分線が交わる点を抽出する(図36(E)ステップS114参照。)。この点はボロノイ点と呼ばれる。次に、近接するボロノイ点間を線分で結ぶ(図36(D)および図36(E)ステップS115参照。)。このとき、線分に囲まれた多角形領域をボロノイ領域と呼ぶ。以上の方法によって、ボロノイ図を作成することができる。
ここで、新たに試料X6を準備する。試料X6は、単結晶イットリア安定化ジルコニア(YSZともいう。)基板上にIn−Ga−Zn酸化物(In:Ga:Zn=1:1:1.5[原子数比])ターゲット(直径が101.6mmの円形)を用いたPESPにより成膜した厚さ100nmのIn−Ga−Zn酸化物を有する。そのほか、成膜電力は200W(DC)、成膜圧力は0.4Pa、ターゲット−基板間距離(ターゲットから基板ホルダまでの距離)は130mm、成膜ガスはアルゴンガス20sccmおよび酸素ガス10sccm、基板加熱あり(基板温度300℃)の条件とした。また、試料X6は、In−Ga−Zn酸化物の成膜後に酸素雰囲気下で1200℃1時間の加熱処理を行っている。
図37(A)は、試料X4の格子点群から作図したボロノイ図である。図37(B)に、図37(A)においてボロノイ領域の形状が四角形乃至九角形のいずれかである割合を示す。図37(C)は、試料X5の格子点群から作図したボロノイ図である。図37(D)に、図37(C)においてボロノイ領域の形状が四角形乃至九角形のいずれかである割合を示す。図37(E)は、試料X6の格子点群から作図したボロノイ図である。図37(F)に、図37(E)においてボロノイ領域の形状が四角形乃至九角形のいずれかである割合を示す。また、試料X4、試料X5および試料X6の、ボロノイ領域の形状が四角形乃至九角形のいずれかである割合を下表に示す。
図37および上表より、試料X6はボロノイ領域の形状が六角形である割合が極めて高く、次いで試料X4、試料X5の順でボロノイ領域の形状が六角形である割合が高いことがわかった。理想的な六方晶系単結晶構造を有する場合、ボロノイ領域の形状が六角形である割合は100%となる。したがって、試料X6、試料X4、試料X5の順で、理想的な単結晶構造に近い結晶性を有することがわかる。例えば、高い結晶性を有するCAAC−OSは、ボロノイ領域の形状が六角形である割合が50%以上100%以下、好ましくは65%以上100%以下、さらに好ましくは78%以上100%以下、より好ましくは80%以上100%以下である。
試料X6は、単結晶YSZ基板を用い、かつ成膜後に1200℃の加熱処理を行っているため、他の条件と比べて生産性は低い可能性がある。一方、試料X5は、成膜後の加熱処理が450℃と比較的低温であるため、試料X6と比べて生産性が高い。また、試料X4は、成膜後の加熱処理を行っていないため、試料X5と比べてもさらに生産性が高い。即ち、生産性の点を考慮すると、試料X4および試料X5、特に試料X4が好ましい条件であることがわかる。
なお、各試料において、ボロノイ領域の形状が五角形および七角形である領域は、ナノクラスターの横成長領域において六角形が変形することで連結部を形成しているためと考えられる。
また、連結部近傍において、格子配列を歪ませることによって結晶粒界の形成を抑制していることが推測される。これは、CAAC−OSが、a−b面方向において原子配列が稠密でないことや、金属元素が置換することで原子間の結合距離が変化することなどによって、歪みを許容することができるためと考えられる。
<電子回折>
さらに、試料X4にプローブ径が1nmの電子線(ナノビーム電子線ともいう。)を照射することで、電子回折パターンを取得する。
図38に、試料X4の平面TEM像を示す。図38において、点線および破線で示す範囲の電子回折パターンを連続的に観察した。なお、電子回折パターンの観察は、電子線を照射しながら0秒の位置から35秒の位置まで一定の速度で移動させながら行う。点線の範囲の結果を図39に、破線の範囲の結果を図40に、それぞれ示す。図39および図40では、電子回折パターンに現れる結晶軸の一つを一点鎖線で示している。図39および図40より、試料X4は、図38に示す範囲において、結晶軸の角度がなだらかに変化していることがわかった、また、明確な結晶粒界が確認されなかった。
図41に、試料X4の断面TEM像を示す。図41において、点線および破線で示す範囲の電子回折パターンを連続的に観察した。なお、電子回折パターンの観察は、電子線を照射しながら0秒の位置から28秒の位置まで一定の速度で移動させながら行う。点線の範囲の結果を図42に、破線の範囲の結果を図43に、それぞれ示す。図42および図43では、電子回折パターンに現れる結晶軸の一つを一点鎖線で示している。図42および図43より、試料X4は、図41に示す範囲において、結晶軸の角度がなだらかに変化していることがわかった、また、明確な結晶粒界が確認されなかった。
よって、CAAC−OSは、多結晶酸化物半導体とは異なり、周期構造を有しつつも、原子配列に揺らぎを有する構造であることがわかる。表現を変えると、CAAC−OSは、周期構造に変位分布を持つ構造ということもできる。このような特徴を有することから、CAAC−OSは、非晶質酸化物半導体とも多結晶酸化物半導体とも単結晶酸化物半導体とも異なる構造であるといえる。
CAAC−OSは、c軸配向性を有し、かつa−b面において複数のナノクラスター(ナノ結晶)が横成長をすることで成長点同士がぶつかりあって連結し、歪みを有した結晶構造となっている様子が観察されることから、より厳密にCAA crystal(c−axis−aligned a−b−plane−anchored crystal)を有する酸化物半導体と称することも可能である。
このように、歪みを有しつつ、理想的な原子配列の名残をとどめている結晶構造としては、パラクリスタル(paracrystal)が知られている。パラクリスタルは、有機繊維などで報告されているが、無機材料での報告はほとんどない。ただし、パラクリスタルとCAAC−OSとでは、以下の点が異なる。例えば、パラクリスタルは平面状の構造(布のようなイメージ)を有するが、CAAC−OSは被形成面に沿った形状を有し、積層体で薄膜構造を有する点が異なる。また、CAAC−OSは、成膜温度以上で行う加熱処理(例えば、300℃を超えて1500℃未満、好ましくは350℃を超えて800℃未満)でより緻密な構造が形成される点が異なる。また、結晶構造を変形させる温度以上(例えば、1000℃以上1500℃以下)の加熱処理によって単結晶構造に構造を変形させる点が異なる。そのため、CAAC−OSはパラクリスタルとは異なる新規な結晶構造を有することがわかる。
上述したような断面TEM像および平面TEM像において観察される特徴は、酸化物半導体の構造を一面的に捉えたものである。例えば、CAAC−OS上に導電体が形成されることによって、物理的ダメージまたは化学的ダメージが入り、欠陥が形成される場合もある。
本実施の形態は、少なくともその一部を本明細書中に記載する他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することができる。
(実施の形態2)
本実施の形態では、先の実施の形態に示す酸化物を半導体層として用いた半導体装置の一形態について図44乃至図65を用いて説明する。
<トランジスタ構造1>
以下では、先の実施の形態に示す酸化物を用いた本発明の一態様に係るトランジスタの一例について説明する。図44(A)、図44(B)、および図44(C)は、本発明の一態様に係るトランジスタの上面図および断面図である。図44(A)は上面図であり、図44(B)は、図44(A)に示す一点鎖線X1−X2、図44(C)は、一点鎖線Y1−Y2に対応する断面図である。なお、図44(A)の上面図では、図の明瞭化のために一部の要素を省いて図示している。
トランジスタ200は、ゲート電極として機能する導電体205(導電体205a、および導電体205b)、および導電体260(導電体260a、および導電体260b)と、ゲート絶縁層として機能する絶縁体220、絶縁体222、絶縁体224、および絶縁体250と、チャネルが形成される領域を有する酸化物230(酸化物230a、酸化物230b、および酸化物230c)と、ソースまたはドレインの一方として機能する導電体240aと、ソースまたはドレインの他方として機能する導電体240bと、過剰酸素を有する絶縁体280と、バリア性を有する絶縁体282と、を有する。また、導電体205は、絶縁体216に形成された開口に埋め込まれるように設けることが好ましい。また、導電体205及び絶縁体216は絶縁体214上に設けることが好ましい。
酸化物230は、酸化物230aと、酸化物230a上の酸化物230bと、酸化物230b上の酸化物230cと、を有する。なお、トランジスタ200をオンさせると、主として酸化物230bに電流が流れる(チャネルが形成される)。一方、酸化物230aおよび酸化物230cは、酸化物230bとの界面近傍(混合領域となっている場合もある)は電流が流れる場合があるものの、そのほかの領域は絶縁体として機能する場合がある。
また、図44に示すように、酸化物230cは、酸化物230a、および酸化物230bの側面を覆うように設けることが好ましい。絶縁体280と、チャネルが形成される領域を有する酸化物230bとの間に、酸化物230cが介在することにより、絶縁体280から、水素、水、およびハロゲン等の不純物が、酸化物230bへ拡散することを抑制することができる。
導電体205には、モリブデン、チタン、タンタル、タングステン、アルミニウム、銅、クロム、ネオジム、スカンジウムから選ばれた元素を含む金属膜、または上述した元素を成分とする金属窒化物膜(窒化タンタル、窒化チタン膜、窒化モリブデン膜、窒化タングステン膜)等である。特に、窒化タンタルなどの金属窒化物膜は、水素または酸素に対するバリア性があり、また、酸化しにくい(耐酸化性が高い)ため、好ましい。又は、インジウム錫酸化物、酸化タングステンを含むインジウム酸化物、酸化タングステンを含むインジウム亜鉛酸化物、酸化チタンを含むインジウム酸化物、酸化チタンを含むインジウム錫酸化物、インジウム亜鉛酸化物、酸化ケイ素を添加したインジウム錫酸化物などの導電性材料を適用することもできる。
例えば、導電体205aとして、水素に対するバリア性を有する導電体として、窒化タンタル等を用い、導電体205bとして、導電性が高いタングステンを積層するとよい。当該組み合わせを用いることで、配線としての導電性を保持したまま、酸化物230への水素の拡散を抑制することができる。なお、図44では、導電体205a、および導電体205bの2層構造を示したが、当該構成に限定されず、単層でも3層以上の積層構造でもよい。例えば、バリア性を有する導電体と導電性が高い導電体との間に、バリア性を有する導電体、および導電性が高い導電体に対して密着性が高い導電体を形成してもよい。
絶縁体220、および絶縁体224は、酸化シリコン膜や酸化窒化シリコン膜などの、酸素を含む絶縁体であることが好ましい。特に、絶縁体224として過剰酸素を含む(化学量論的組成よりも過剰に酸素を含む)絶縁体を用いることが好ましい。このような過剰酸素を含む絶縁体を、トランジスタ200を構成する酸化物に接して設けることにより、酸化物中の酸素欠損を補償することができる。なお、絶縁体222と絶縁体224とは、必ずしも同じ材料を用いなくともよい。また、絶縁体216も絶縁体220、および絶縁体224と同様の材料を用いて形成することができる。
絶縁体222は、例えば、酸化シリコン、酸化窒化シリコン、窒化酸化シリコン、酸化アルミニウム、酸化ハフニウム、酸化タンタル、酸化ジルコニウム、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)または(Ba,Sr)TiO3(BST)などのいわゆるhigh−k材料を含む絶縁体を単層または積層で用いることが好ましい。特に、酸化アルミニウム、および酸化ハフニウム、などの、酸素や水素に対してバリア性のある絶縁膜を用いることが好ましい。このような材料を用いて形成した場合、酸化物230からの酸素の放出や、外部からの水素等の不純物の混入を防ぐ層として機能する。
または、これらの絶縁体に、例えば、酸化アルミニウム、酸化ビスマス、酸化ゲルマニウム、酸化ニオブ、酸化シリコン、酸化チタン、酸化タングステン、酸化イットリウム、酸化ジルコニウムを添加してもよい。またはこれらの絶縁体を窒化処理しても良い。上記の絶縁体に酸化シリコン、酸化窒化シリコンまたは窒化シリコンを積層して用いてもよい。
なお、絶縁体220、絶縁体222、および絶縁体224が、2層以上の積層構造を有していてもよい。その場合、同じ材料からなる積層構造に限定されず、異なる材料からなる積層構造でもよい。
絶縁体220及び絶縁体224の間に、high−k材料を含む絶縁体222を有することで、特定の条件で絶縁体222が電子を捕獲し、しきい値電圧を増大させることができる。つまり、絶縁体222が負に帯電する場合がある。
例えば、絶縁体220、および絶縁体224に、酸化シリコンを用い、絶縁体222に、酸化ハフニウム、酸化アルミニウム、酸化タンタルのような電子捕獲準位の多い材料を用いた場合、半導体装置の使用温度、あるいは保管温度よりも高い温度(例えば、125℃以上450℃以下、代表的には150℃以上300℃以下)の下で、導電体205の電位をソース電極やドレイン電極の電位より高い状態を、10ミリ秒以上、代表的には1分以上維持することで、トランジスタ200を構成する酸化物から導電体205に向かって、電子が移動する。この時、移動する電子の一部が、絶縁体222の電子捕獲準位に捕獲される。
絶縁体222の電子捕獲準位に必要な量の電子を捕獲させたトランジスタは、しきい値電圧がプラス側にシフトする。なお、導電体205の電圧の制御によって電子の捕獲する量を制御することができ、それに伴ってしきい値電圧を制御することができる。当該構成を有することで、トランジスタ200は、ゲート電圧が0Vであっても非導通状態(オフ状態ともいう)であるノーマリーオフ型のトランジスタとなる。
また、電子を捕獲する処理は、トランジスタの作製過程におこなえばよい。例えば、トランジスタのソース導電体あるいはドレイン導電体に接続する導電体の形成後、あるいは、前工程(ウェハー処理)の終了後、あるいは、ウェハーダイシング工程後、パッケージ後等、工場出荷前のいずれかの段階で行うとよい。
また、絶縁体220、絶縁体222、および絶縁体224の膜厚を適宜調整することで、しきい値電圧を制御することができる。例えば、絶縁体220、絶縁体222、および絶縁体220の合計膜厚が薄くすることで導電体205からの電圧が効率的にかかる為、消費電力が低いトランジスタを提供することができる。絶縁体220、絶縁体222、および絶縁体224の合計膜厚は、65nm以下、好ましくは20nm以下であることが好ましい。
従って、非導通時のリーク電流の小さいトランジスタを提供することができる。また、安定した電気特性を有するトランジスタを提供することができる。または、オン電流の大きいトランジスタを提供することができる。または、サブスレッショルドスイング値の小さいトランジスタを提供することができる。または、信頼性の高いトランジスタを提供することができる。
酸化物230a、酸化物230b、および酸化物230cは、In−M−Zn酸化物(MはAl、Ga、Y、またはSn)等の金属酸化物で形成される。ここで、酸化物230a、酸化物230b、および酸化物230cは、上記の成膜メカニズムで成膜された酸化物を用いることができる。例えば、酸化物230aとして上記酸化物S1を、酸化物230bとして上記酸化物S2を、酸化物230cとして上記酸化物S3を用いることができる。また、酸化物230として、In−Ga酸化物、In−Zn酸化物を用いてもよい。
絶縁体250は、例えば、酸化シリコン、酸化窒化シリコン、窒化酸化シリコン、酸化アルミニウム、酸化ハフニウム、酸化タンタル、酸化ジルコニウム、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)または(Ba,Sr)TiO3(BST)などのいわゆるhigh−k材料を含む絶縁体を単層または積層で用いることができる。またはこれらの絶縁体に例えば酸化アルミニウム、酸化ビスマス、酸化ゲルマニウム、酸化ニオブ、酸化シリコン、酸化チタン、酸化タングステン、酸化イットリウム、酸化ジルコニウムを添加してもよい。またはこれらの絶縁体を窒化処理しても良い。上記の絶縁体に酸化シリコン、酸化窒化シリコンまたは窒化シリコンを積層して用いてもよい。
また、絶縁体250は、絶縁体224と同様に、化学量論的組成を満たす酸素よりも多くの酸素を含む酸化物絶縁体を用いることが好ましい。このような過剰酸素を含む絶縁体を酸化物230に接して設けることにより、酸化物230中の酸素欠損を低減することができる。
また、絶縁体250は、酸化アルミニウム、酸化窒化アルミニウム、酸化ガリウム、酸化窒化ガリウム、酸化イットリウム、酸化窒化イットリウム、酸化ハフニウム、酸化窒化ハフニウム、窒化シリコンなどの、酸素や水素に対してバリア性のある絶縁膜を用いることができる。このような材料を用いて形成した場合、酸化物230からの酸素の放出や、外部からの水素等の不純物の混入を防ぐ層として機能する。
なお、絶縁体250は、絶縁体220、絶縁体222、および絶縁体224と同様の積層構造を有していてもよい。絶縁体250が、電子捕獲準位に必要な量の電子を捕獲させた絶縁体を有することで、トランジスタ200は、しきい値電圧をプラス側にシフトすることができる。当該構成を有することで、トランジスタ200は、ゲート電圧が0Vであっても非導通状態(オフ状態ともいう)であるノーマリーオフ型のトランジスタとなる。
また、図44に示す半導体装置において、酸化物230と導電体260の間に、絶縁体250の他にバリア膜を設けてもよい。もしくは、酸化物230cにバリア性があるものを用いてもよい。
例えば、過剰酸素を含む絶縁膜を酸化物230に接して設け、さらにバリア膜で包み込むことで、酸化物を化学量論比組成とほぼ一致するような状態、または化学量論的組成より酸素が多い過飽和の状態とすることができる。また、酸化物230への水素等の不純物の侵入を防ぐことができる。
導電体240aと、および導電体240bは、一方がソース電極として機能し、他方がドレイン電極として機能する。
導電体240aと、導電体240bとは、アルミニウム、チタン、クロム、ニッケル、銅、イットリウム、ジルコニウム、モリブデン、銀、タンタル、またはタングステンなどの金属、またはこれを主成分とする合金を用いることができる。特に、窒化タンタルなどの金属窒化物膜は、水素または酸素に対するバリア性があり、また、耐酸化性が高いため、好ましい。
また、図では単層構造を示したが、2層以上の積層構造としてもよい。例えば、窒化タンタルとタングステン膜を積層するとよい。また、チタン膜とアルミニウム膜を積層するとよい。また、タングステン膜上にアルミニウム膜を積層する二層構造、銅−マグネシウム−アルミニウム合金膜上に銅膜を積層する二層構造、チタン膜上に銅膜を積層する二層構造、タングステン膜上に銅膜を積層する二層構造としてもよい。
また、チタン膜または窒化チタン膜と、そのチタン膜または窒化チタン膜上に重ねてアルミニウム膜または銅膜を積層し、さらにその上にチタン膜または窒化チタン膜を形成する三層構造、モリブデン膜または窒化モリブデン膜と、そのモリブデン膜または窒化モリブデン膜上に重ねてアルミニウム膜または銅膜を積層し、さらにその上にモリブデン膜または窒化モリブデン膜を形成する三層構造等がある。なお、酸化インジウム、酸化錫または酸化亜鉛を含む透明導電材料を用いてもよい。
また、ゲート電極として機能を有する導電体260は、例えばアルミニウム、クロム、銅、タンタル、チタン、モリブデン、タングステンから選ばれた金属、または上述した金属を成分とする合金か、上述した金属を組み合わせた合金等を用いて形成することができる。特に、窒化タンタルなどの金属窒化物膜は、水素または酸素に対するバリア性があり、また、耐酸化性が高いため、好ましい。また、マンガン、ジルコニウムのいずれか一または複数から選択された金属を用いてもよい。また、リン等の不純物元素をドーピングした多結晶シリコンに代表される半導体、ニッケルシリサイド等のシリサイドを用いてもよい。また、図では2層構造を示したが、単層、または3層以上の積層構造としてもよい。
なお、2層構造は、同じ材料を積層して設けてもよい。例えば、導電体260aは、熱CVD法、MOCVD法またはALD法を用いて形成する。特に、原子層堆積(ALD:Atomic Layer Deposition)法を用いて形成することが好ましい。ALD法等により形成することで、絶縁体250に対する成膜時のダメージを減らすことができる。また、被覆性を向上させることができるため好ましい。従って、信頼性が高いトランジスタ200を提供することができる。
続いて、導電体260bはスパッタリング法を用いて形成する。この時、絶縁体250上に、導電体260aを有することで、導電体260aの成膜時のダメージが、絶縁体250に影響することを抑制することができる。また、ALD法と比較して、スパッタリング法は成膜速度が速いため、歩留まりが高く、生産性を向上させることができる。
また、例えば、アルミニウム上にチタン膜を積層する二層構造とするとよい。また、窒化チタン膜上にチタン膜を積層する二層構造、窒化チタン膜上にタングステン膜を積層する二層構造、窒化タンタル膜または窒化タングステン膜上にタングステン膜を積層する二層構造としてもよい。
また、チタン膜と、そのチタン膜上にアルミニウム膜を積層し、さらにその上にチタン膜を形成する三層構造等がある。また、アルミニウムに、チタン、タンタル、タングステン、モリブデン、クロム、ネオジム、スカンジウムから選ばれた一または複数の金属を組み合わせた合金膜、もしくは窒化膜を用いてもよい。
また、導電体260は、インジウム錫酸化物、酸化タングステンを含むインジウム酸化物、酸化タングステンを含むインジウム亜鉛酸化物、酸化チタンを含むインジウム酸化物、酸化チタンを含むインジウム錫酸化物、インジウム亜鉛酸化物、酸化シリコンを添加したインジウム錫酸化物等の透光性を有する導電性材料を適用することもできる。また、上記透光性を有する導電性材料と、上記金属の積層構造とすることもできる。
続いて、トランジスタ200の上方には、絶縁体280、および絶縁体282を設ける。
絶縁体280には、化学量論的組成を満たす酸素よりも多くの酸素を含む酸化物を用いることが好ましい。つまり、絶縁体280には、化学量論的組成よりも酸素が過剰に存在する領域(以下、過剰酸素領域ともいう)が形成されていることが好ましい。特に、トランジスタ200に酸化物半導体を用いる場合、トランジスタ200近傍の層間膜などに、過剰酸素領域を有する絶縁体を設けることで、トランジスタ200の酸素欠損を低減することで、信頼性を向上させることができる。
過剰酸素領域を有する絶縁体として、具体的には、加熱により一部の酸素が脱離する酸化物材料を用いることが好ましい。加熱により酸素を脱離する酸化物とは、TDS分析にて、酸素原子に換算しての酸素の脱離量が1.0×1018atoms/cm3以上、好ましくは3.0×1020atoms/cm3以上である酸化物膜である。なお、上記TDS分析時における膜の表面温度としては100℃以上700℃以下、または100℃以上500℃以下の範囲が好ましい。
例えばこのような材料として、酸化シリコンまたは酸化窒化シリコンを含む材料を用いることが好ましい。または、金属酸化物を用いることもできる。なお、本明細書中において、酸化窒化シリコンとは、その組成として窒素よりも酸素の含有量が多い材料を指し、窒化酸化シリコンとは、その組成として、酸素よりも窒素の含有量が多い材料を示す。
また、トランジスタ200を覆う絶縁体280は、その下方の凹凸形状を被覆する平坦化膜として機能してもよい。
絶縁体282は、例えば、酸化アルミニウム、および酸化ハフニウム、などの、酸素や水素に対してバリア性のある絶縁膜を用いることが好ましい。このような材料を用いて形成した場合、酸化物230からの酸素の放出や、外部からの水素等の不純物の混入を防ぐ層として機能する。また、絶縁体214も絶縁体282と同様の材料を用いて形成することができる。
上記構成を有することで、オン電流が大きい酸化物半導体を有するトランジスタを提供することができる。または、オフ電流が小さい酸化物半導体を有するトランジスタを提供することができる。または、上記構成を有するトランジスタを半導体装置に用いることで、半導体装置の電気特性の変動を抑制すると共に、信頼性を向上させることができる。または、消費電力が低減された半導体装置を提供することができる。
<トランジスタ構造2>
図45には、トランジスタ200に適応できる構造の一例を示す。図45(A)はトランジスタ200の上面を示す。なお、図の明瞭化のため、図45(A)において一部の膜は省略されている。また、図45(B)は、図45(A)に示す一点鎖線X1−X2に対応する断面図であり、図45(C)はY1−Y2に対応する断面図である。
なお、図45に示すトランジスタ200において、図44に示したトランジスタ200を構成する構造と同機能を有する構造には、同符号を付記する。
図45に示す構造は、導電体260を覆うように、絶縁体270を設ける。絶縁体280に酸素が脱離する酸化物材料を用いる場合、導電体260が、脱離した酸素により酸化することを防止するため、絶縁体270は、酸素に対してバリア性を有する物質を用いる。
例えば、絶縁体270には、酸化アルミニウムなどの金属酸化物を用いることができる。また絶縁体270は、導電体260の酸化を防止する程度に設けられていればよい。例えば、絶縁体270の膜厚は、1nm以上10nm以下、好ましくは3nm以上7nm以下として設ける。
当該構成とすることで、導電体260の材料選択の幅を広げることができる。例えば、アルミニウムなどの耐酸化性が低い一方で導電性が高い材料を用いることができる。また、例えば、成膜、または加工がしやすい導電体を用いることができる。
従って、導電体260の酸化を抑制し、絶縁体280から、脱離した酸素を効率的に酸化物230へと供給することができる。また、導電体260に導電性が高い導電体を用いることで、消費電力が小さいトランジスタ200を提供することができる。
<トランジスタ構造3>
図46には、トランジスタ200に適応できる構造の一例を示す。図46(A)はトランジスタ200の上面を示す。なお、図の明瞭化のため、図46(A)において一部の膜は省略されている。また、図46(B)は、図46(A)に示す一点鎖線X1−X2に対応する断面図であり、図46(C)はY1−Y2に対応する断面図である。
なお、図46に示すトランジスタ200において、図44に示したトランジスタ200を構成する構造と同機能を有する構造には、同符号を付記する。
図46に示す構造は、ゲート電極と機能する導電体260が、導電体260a、導電体260b、導電体260cを有する。また、酸化物230cは、酸化物230bの側面を覆っていればよく、絶縁体224上で切断されていてもよい。
導電体260aは、熱CVD法、MOCVD法またはALD法を用いて形成する。特に、原子層堆積(ALD:Atomic Layer Deposition)法を用いて形成することが好ましい。ALD法等により形成することで、絶縁体250に対するプラズマによるダメージを減らすことができる。また、被覆性を向上させることができるため好ましい。従って、信頼性が高いトランジスタ200を提供することができる。
また、導電体260bは、タンタル、タングステン、銅、アルミニウムなどの導電性が高い材料を用いて形成する。さらに、導電体260b上に形成する導電体260cは、窒化タングステンなどの耐酸化性が高い導電体を用いて形成することが好ましい。
例えば、絶縁体280に酸素が脱離する酸化物材料を用いる場合、過剰酸素領域を有する絶縁体280と接する面積が大きい導電体260cに耐酸化性が高い導電体を用いることで、過剰酸素から脱離される酸素が導電体260に吸収されることを抑制することができる。また、導電体260の酸化を抑制し、絶縁体280から、脱離した酸素を効率的に酸化物230へと供給することができる。また、導電体260bに導電性が高い導電体を用いることで、消費電力が小さいトランジスタ200を提供することができる。
また、図46(C)に示すように、トランジスタ200、チャネル幅方向において、酸化物230bが導電体205、および導電体260に覆われている。また、絶縁体224が凸部を有することによって、酸化物230bの側面も導電体260で覆うことができる。例えば、絶縁体224の凸部の形状を調整することで、酸化物230bの側面において、導電体260の底面が、酸化物230bの底面よりも、基板側となる構造となることが好ましい。つまり、トランジスタ200は、導電体205および導電体260の電界によって、酸化物230bを電気的に取り囲むことができる構造を有する。このように、導電体の電界によって、酸化物230bを電気的に取り囲むトランジスタの構造を、surrounded channel(s−channel)構造とよぶ。s−channel構造のトランジスタ200は、酸化物230b全体(バルク)にチャネルを形成することもできる。s−channel構造では、トランジスタのドレイン電流を大きくすることができ、さらに大きいオン電流(トランジスタがオン状態のときにソースとドレインの間に流れる電流)を得ることができる。また、導電体205および導電体260の電界によって、酸化物230bに形成されるチャネル形成領域の全領域を空乏化することができる。したがって、s−channel構造では、トランジスタのオフ電流をさらに小さくすることができる。なお、チャネル幅を小さくすることで、s−channel構造によるオン電流の増大効果、オフ電流の低減効果などを高めることができる。
図46に示す構造は、ソースまたはドレインとして機能する導電体が積層構造を有する。導電体240a、および導電体240bは、酸化物230bと密着性が高い導電体を用い、導電体241a、導電体241bは、導電性が高い材料を用いることが好ましい。また、導電体240a、および導電体240bは、原子層堆積(ALD:Atomic Layer Deposition)法を用いて形成することが好ましい。ALD法等により形成することで、被覆性を向上させることができる。
例えば、酸化物230bに、インジウムを有する金属酸化物を用いる場合、導電体240a、および導電体240bには、窒化チタンなどを用いればよい。また、導電体241a、および導電体241bに、タンタル、タングステン、銅、アルミニウムなどの導電性が高い材料を用いることで、信頼性が高く、消費電力が小さいトランジスタ200を提供することができる。
<トランジスタ構造4>
図47には、トランジスタ200に適応できる構造の一例を示す。図47(A)はトランジスタ200の上面を示す。なお、図の明瞭化のため、図47(A)において一部の膜は省略されている。また、図47(B)は、図47(A)に示す一点鎖線X1−X2に対応する断面図であり、図47(C)はY1−Y2に対応する断面図である。
なお、図47に示すトランジスタ200において、図44に示したトランジスタ200を構成する構造と同機能を有する構造には、同符号を付記する。
図47(C)に示すように、トランジスタ200、チャネル幅方向において、酸化物230bが導電体205、および導電体260に覆われている。また、絶縁体222が凸部を有することによって、酸化物230bの側面も導電体260で覆うことができる。
ここで、絶縁体222に、酸化ハフニウムなどのhigh−k材料を用いる場合、絶縁体222の比誘電率が大きいため、SiO2膜換算膜厚(EOT:Equivalent Oxide Thickness)を小さくすることができる。従って、酸化物230にかかる導電体205からの電界の影響を弱めることなく、絶縁体222の物理的な厚みにより、導電体205と、酸化物230との間の距離を広げることができる。従って、絶縁体222の膜厚により、導電体205と、酸化物230との間の距離を調整することができる。
例えば、絶縁体224の凸部の形状を調整することで、酸化物230bの側面において、導電体260の底面が、酸化物230bの底面よりも、基板側となる構造となることが好ましい。つまり、トランジスタ200は、導電体205および導電体260の電界によって、酸化物230bを電気的に取り囲むことができる構造を有する。このように、導電体の電界によって、酸化物230bを電気的に取り囲むトランジスタの構造を、surrounded channel(s−channel)構造とよぶ。s−channel構造のトランジスタ200は、酸化物230b全体(バルク)にチャネルを形成することもできる。s−channel構造では、トランジスタのドレイン電流を大きくすることができ、さらに大きいオン電流(トランジスタがオン状態のときにソースとドレインの間に流れる電流)を得ることができる。また、導電体205および導電体260の電界によって、酸化物230bに形成されるチャネル形成領域の全領域を空乏化することができる。したがって、s−channel構造では、トランジスタのオフ電流をさらに小さくすることができる。なお、チャネル幅を小さくすることで、s−channel構造によるオン電流の増大効果、オフ電流の低減効果などを高めることができる。
また、図47(B)及び図47(C)に示すように、酸化物230cの側面が絶縁体250及び導電体260の側面と略一致するように酸化物230cを形成してもよい。これにより、酸化物230c、絶縁体250及び導電体260のパターン形成を一括で行うことができるので、工程の簡略化を図ることができる。ここで、導電体240a及び導電体240bとして、水素または酸素に対するバリア性があり、酸化しにくい(耐酸化性が高い)、窒化タンタルなどの金属窒化物を用いることにより、導電体240a及び導電体240bが酸化されることを防ぐことができる。また、絶縁体280から酸化物230bに過剰酸素を容易に供給することができる。
<トランジスタ構造5>
図48には、トランジスタ200に適応できる構造の一例を示す。図48(A)はトランジスタ200の上面を示す。なお、図の明瞭化のため、図48(A)において一部の膜は省略されている。また、図48(B)は、図48(A)に示す一点鎖線X1−X2に対応する断面図であり、図48(C)はY1−Y2に対応する断面図である。
なお、図48に示すトランジスタ200において、図44に示したトランジスタ200を構成する構造と同機能を有する構造には、同符号を付記する。
図48に示すトランジスタ200は、絶縁体280に形成された開口部に、酸化物230c、絶縁体250、導電体260が形成されている。また、導電体240a、導電体240b、導電体241a、および導電体241bの一方の端部と、絶縁体280に形成された開口部の端部が一致している。さらに、導電体240a、導電体240b、導電体241a、および導電体241bの三方の端部が、酸化物230の端部の一部と一致している。従って、導電体240a、導電体240b、導電体241a、および導電体241bは、酸化物230または絶縁体280の開口部と、同時に整形することができる。そのため、マスクおよび工程を削減することができる。また、歩留まりや生産性を向上させることができる。
また、導電体240a、導電体240b、酸化物230c、および酸化物230bは、過剰酸素領域を有する絶縁体280と、酸化物230dを介して接する。そのため、絶縁体280と、チャネルが形成される領域を有する酸化物230bとの間に、酸化物230dが介在することにより、絶縁体280から、水素、水、およびハロゲン等の不純物が、酸化物230bへ拡散することを抑制することができる。
さらに、図48に示すトランジスタ200は、導電体240a、導電体240b、導電体241a、および導電体241bと、導電体260と、がほとんど重ならない構造を有するため、導電体260にかかる寄生容量を小さくすることができる。即ち、動作周波数が高いトランジスタ200を提供することができる。
<トランジスタ構造6>
図49には、トランジスタ200に適応できる構造の一例を示す。図49(A)はトランジスタ200の上面を示す。なお、図の明瞭化のため、図49(A)において一部の膜は省略されている。また、図49(B)は、図49(A)に示す一点鎖線X1−X2に対応する断面図であり、図49(C)はY1−Y2に対応する断面図である。
なお、図49に示すトランジスタ200において、図44に示したトランジスタ200を構成する構造と同機能を有する構造には、同符号を付記する。
図49に示すトランジスタ200は、酸化物230dを有さない構造である。例えば、導電体240a、および導電体240bに耐酸化性が高い導電体を用いる場合、酸化物230dは、必ずしも設けなくてもよい。そのため、マスクおよび工程を削減することができる。また、歩留まりや生産性を向上させることができる。
また、絶縁体224は、酸化物230a、および酸化物230bと重畳する領域にのみ設けてもよい。この場合、絶縁体222をエッチングストッパーとして、酸化物230a、酸化物230b、および絶縁体224を加工することができる。従って、歩留まりや生産性を高めることができる。
さらに、図49に示すトランジスタ200は、導電体240a、導電体240b、導電体241a、および導電体241bと、導電体260と、がほとんど重ならない構造を有するため、導電体260にかかる寄生容量を小さくすることができる。即ち、動作周波数が高いトランジスタ200を提供することができる。
<トランジスタ構造7>
図50には、トランジスタ200に適応できる構造の一例を示す。図50(A)はトランジスタ200の上面を示す。なお、図の明瞭化のため、図50(A)において一部の膜は省略されている。また、図50(B)は、図50(A)に示す一点鎖線X1−X2に対応する断面図であり、図50(C)はY1−Y2に対応する断面図である。
なお、図50に示すトランジスタ200において、図48に示したトランジスタ200を構成する構造と同機能を有する構造には、同符号を付記する。
絶縁体282上に、絶縁体285、および絶縁体286が形成される。
絶縁体280、絶縁体282、および絶縁体285に形成された開口部に、酸化物230c、絶縁体250、導電体260が形成されている。また、導電体240a、導電体240b、導電体241a、および導電体241bの一方の端部と、絶縁体280に形成された開口部の端部が一致している。さらに、導電体240a、導電体240b、導電体241a、および導電体241bの三方の端部が、酸化物230a、および酸化物230bの端部の一部と一致している。従って、導電体240a、導電体240b、導電体241a、および導電体241bは、酸化物230a、および酸化物230b、または絶縁体280の開口部と、同時に整形することができる。そのため、マスクおよび工程を削減することができる。また、歩留まりや生産性を向上させることができる。
また、導電体240a、導電体240b、酸化物230c、および酸化物230bは、過剰酸素領域を有する絶縁体280と、酸化物230dを介して接する。そのため、絶縁体280と、チャネルが形成される領域を有する酸化物230bとの間に、酸化物230dが介在することにより、絶縁体280から、水素、水、およびハロゲン等の不純物が、酸化物230bへ拡散することを抑制することができる。
また、図50に示すトランジスタ200は、高抵抗のオフセット領域が形成されないため、トランジスタ200のオン電流を増大させることができる。
<トランジスタの作製方法>
以下に、図44に示したトランジスタの作製方法の一例を図51乃至図54を参照して説明する。
はじめに、基板を準備する(図示しない)。基板として使用することができる基板に大きな制限はないが、少なくとも、後の熱処理に耐えうる程度の耐熱性を有していることが好ましい。例えば、バリウムホウケイ酸ガラスやアルミノホウケイ酸ガラスなどのガラス基板、セラミック基板、石英基板、サファイア基板などを用いることができる。また、シリコンや炭化シリコンからなる単結晶半導体基板、多結晶半導体基板、シリコンゲルマニウム、ガリウムヒ素、インジウムヒ素、インジウムガリウムヒ素からなる化合物半導体基板、SOI(Silicon On Insulator)基板、GOI(Germanium On Insulator)基板などを適用することもでき、これらの基板上に半導体素子が設けられたものを、基板として用いてもよい。
また、基板として、可撓性基板を用いて半導体装置を作製してもよい。可撓性を有する半導体装置を作製するには、可撓性基板上にトランジスタを直接作製してもよいし、他の作製基板にトランジスタを作製し、その後可撓性基板に剥離、転置してもよい。なお、作製基板から可撓性基板に剥離、転置するために、作製基板と酸化物半導体を含むトランジスタとの間に剥離層を設けるとよい。
次に、絶縁体214、絶縁体216を形成する。続いて、絶縁体216上にリソグラフィ法等を用いてレジストマスク290を形成し、絶縁体214、および絶縁体216の不要な部分を除去する(図51(A)参照。)。その後、レジストマスク290を除去することにより、開口部を形成することができる。
ここで、被加工膜の加工方法について説明する。被加工膜を微細に加工する場合には、様々な微細加工技術を用いることができる。例えば、リソグラフィ法等で形成したレジストマスクに対してスリミング処理を施す方法を用いてもよい。また、リソグラフィ法等でダミーパターンを形成し、当該ダミーパターンにサイドウォールを形成した後にダミーパターンを除去し、残存したサイドウォールをレジストマスクとして用いて、被加工膜をエッチングしてもよい。また、被加工膜のエッチングとして、高いアスペクト比を実現するために、異方性のドライエッチングを用いることが好ましい。また、無機膜または金属膜からなるハードマスクを用いてもよい。
レジストマスクの形成に用いる光は、例えばi線(波長365nm)、g線(波長436nm)、h線(波長405nm)、またはこれらを混合させた光を用いることができる。そのほか、紫外線やKrFレーザ光、またはArFレーザ光等を用いることもできる。また、液浸露光技術により露光を行ってもよい。また、露光に用いる光として、極端紫外光(EUV:Extreme Ultra−violet)やX線を用いてもよい。また、露光に用いる光に換えて、電子ビームを用いることもできる。極端紫外光、X線または電子ビームを用いると、極めて微細な加工が可能となるため好ましい。なお、電子ビームなどのビームを走査することにより露光を行う場合には、フォトマスクは不要である。
また、レジストマスクとなるレジスト膜を形成する前に、被加工膜とレジスト膜との密着性を改善する機能を有する有機樹脂膜を形成してもよい。当該有機樹脂膜は、例えばスピンコート法などにより、その下方の段差を被覆して表面を平坦化するように形成することができ、当該有機樹脂膜の上方に設けられるレジストマスクの厚さのばらつきを低減できる。また、特に微細な加工を行う場合には、当該有機樹脂膜として、露光に用いる光に対する反射防止膜として機能する材料を用いることが好ましい。このような機能を有する有機樹脂膜としては、例えばBARC(Bottom Anti−Reflection Coating)膜などがある。当該有機樹脂膜は、レジストマスクの除去と同時に除去するか、レジストマスクを除去した後に除去すればよい。
続いて、絶縁体214、および絶縁体216上に、導電体205A、および導電体205Bを成膜する。導電体205A、および導電体205Bは、スパッタリング法、蒸着法、CVD法(熱CVD法、MOCVD法、PECVD法等を含む)などにより成膜することができる。また、プラズマによるダメージを減らすには、熱CVD法、MOCVD法またはALD法が好ましい(図51(B)参照。)。
続いて、導電体205A、および導電体205Bの不要な部分を除去する。例えば、エッチバック処理、または、機械的化学的研磨法(CMP:Chemical Mechanical Polishing)処理などにより、絶縁体216が露出するまで、導電体205A、および導電体205Bの一部を除去することで、導電体205を形成する(図51(C)参照。)。この際、絶縁体216をストッパ層として使用することもでき、絶縁体216が薄くなる場合がある。
ここで、CMP処理とは、被加工物の表面を化学的・機械的な複合作用により平坦化する手法である。より具体的には、研磨ステージの上に研磨布を貼り付け、被加工物と研磨布との間にスラリー(研磨剤)を供給しながら研磨ステージと被加工物とを各々回転または揺動させて、スラリーと被加工物表面との間での化学反応と、研磨布と被加工物との機械的研磨の作用により、被加工物の表面を研磨する方法である。
なお、CMP処理は、1回のみ行ってもよいし、複数回行ってもよい。複数回に分けてCMP処理を行う場合は、高い研磨レートの一次研磨を行った後、低い研磨レートの仕上げ研磨を行うのが好ましい。このように研磨レートの異なる研磨を組み合わせてもよい。
次に、絶縁体220、絶縁体222、および絶縁体224を形成する(図51(D)参照。)。
絶縁体220、絶縁体222、および絶縁体224は、絶縁体320と同様の材料および方法で作製することができる。特に、絶縁体222には、酸化ハフニウムなどのhigh−k材料を用いることが好ましい。
絶縁体220、絶縁体222、および絶縁体224は、例えば、スパッタリング法、化学気相堆積(CVD:Chemical Vapor Deposition)法(熱CVD法、有機金属CVD(MOCVD:Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法、プラズマ励起CVD(PECVD:Plasma Enhanced Chemical Vapor Deposition)法等を含む)、分子エピキタシー(MBE:Molecular Beam Epitaxy)法、原子層堆積(ALD:Atomic Layer Deposition)法またはパルスレーザ堆積(PLD:Pulsed Laser Deposition)法などを用いて形成することができる。特に、当該絶縁体をCVD法、好ましくはALD法等によって成膜すると、被覆性を向上させることができるため好ましい。また、プラズマによるダメージを減らすには、熱CVD法、MOCVD法またはALD法が好ましい。また、TEOS(Tetra−Ethyl−Ortho−Silicate)若しくはシラン等と、酸素若しくは亜酸化窒素等とを反応させて形成した段差被覆性のよい酸化シリコン膜を用いることもできる。
なお、絶縁体220、絶縁体222、および絶縁体224は、連続成膜することが好ましい。連続的に成膜することで、絶縁体220と絶縁体222との界面、および絶縁体222と絶縁体224との界面に不純物が付着することなく、信頼性が高い絶縁体を形成することができる。
続いて、酸化物230aとなる酸化物230Aと、酸化物230bとなる酸化物230Bを順に成膜する。酸化物230A及び酸化物230Bの成膜方法については、上記の酸化物に係る記載を参酌することができる。また、当該酸化物は、大気に触れさせることなく連続して成膜することが好ましい。
その後、酸化物230A上に、導電体240a、および導電体240bとなる導電膜240Aを成膜する。導電膜240Aには、水素または酸素に対するバリア性があり、また、耐酸化性が高い材質を用いることが好ましい。また、図では単層で表しているが、2層以上の積層構造としてもよい。続いて、上記と同様の方法によりレジストマスク292を形成する(図51(E)参照。)。
レジストマスク292を用いて、導電膜240Aの不要な部分をエッチングにより除去し、島状の導電層240Bを形成する(図52(A)参照。)。その後、導電層240Bをマスクとして酸化物230a、および酸化物230bの不要な部分をエッチングにより除去する。
このとき、同時に絶縁体224も、島状に加工してもよい。例えば、バリア性を有する絶縁体222をエッチングストッパー膜として用いることで、絶縁体220、絶縁体222、および絶縁体220の合計膜厚が薄い構造においても、下方にある配線層まで、オーバーエッチングされることを防止することができる。また、絶縁体220、絶縁体222、および絶縁体220の合計膜厚が薄くすることで導電体205からの電圧が効率的にかかる為、消費電力が低いトランジスタを提供することができる。
その後レジストマスクを除去することにより、島状の酸化物230a、島状の酸化物230b、および島状の導電層240Bの積層構造を形成することができる(図52(B)参照。)。
続いて、加熱処理を行うことが好ましい(図52(C)参照、図中矢印は加熱処理を表す。)。加熱処理は、250℃以上400℃以下、好ましくは320℃以上380℃以下の温度で、不活性ガス雰囲気、酸化性ガスを10ppm以上含む雰囲気、または減圧状態で行えばよい。また、加熱処理の雰囲気は、不活性ガス雰囲気で加熱処理した後に、脱離した酸素を補うために酸化性ガスを10ppm以上含む雰囲気で行ってもよい。加熱処理により、酸化物230a、および酸化物230bの不純物である水素または水を除去することができる。また、酸化物230aの下方に形成された絶縁体から、酸化物230a、および酸化物230bに酸素が供給され、酸化物中の酸素欠損を低減することができる。
次に、島状の導電層240B上に上記と同様の方法によりレジストマスク294を形成する(図52(D)参照。)。続いて、導電膜の不要な部分をエッチングにより除去した後、レジストマスク294を除去することにより、導電体240a、および導電体240bを形成する(図53(A)参照。)。この際、絶縁体224、または絶縁体222に対して、オーバーエッチングを行うことで、s−channel構造としてもよい。
続いて、加熱処理を行うことが好ましい(図53(B)参照、図中矢印は加熱処理を表す。)。加熱処理は、250℃以上400℃以下、好ましくは320℃以上380℃以下の温度で、不活性ガス雰囲気、酸化性ガスを10ppm以上含む雰囲気、または減圧状態で行えばよい。また、加熱処理の雰囲気は、不活性ガス雰囲気で加熱処理した後に、脱離した酸素を補うために酸化性ガスを10ppm以上含む雰囲気で行ってもよい。加熱処理により、酸化物230a、および酸化物230bの不純物である水素または水を除去することができる。また、酸化物230aの下方に形成された絶縁体から、酸化物230a、および酸化物230bに酸素が供給され、酸化物中の酸素欠損を低減することができる。さらに、酸化性ガスで加熱処理を行う場合、チャネルが形成される領域に、直接酸化性ガスが接することで、効率的に、チャネルが形成される領域の酸素欠損を低減することができる。
続いて、酸化物230c、絶縁体250、および導電体260となる導電膜260Aを順に成膜する。また、酸化物230cの成膜方法については、上記の酸化物に係る記載を参酌することができる。また、導電膜260Aには、水素または酸素に対するバリア性があり、また、耐酸化性が高い材質を用いることが好ましい。また、図では単層で表しているが、2層以上の積層構造としてもよい。
例えば、2層構造は、同じ材料を積層して設けてもよい。第1の導電膜は、熱CVD法、MOCVD法またはALD法を用いて形成する。特に、ALD法を用いて形成することが好ましい。ALD法等により形成することで、絶縁体250に対する成膜時のダメージを減らすことができる。また、被覆性を向上させることができるため好ましい。従って、信頼性が高いトランジスタ200を提供することができる。
続いて、第2の導電膜は、スパッタリング法を用いて形成する。この時、絶縁体250上に、第1の導電膜を有することで、第2の導電膜の成膜時のダメージが、絶縁体250に影響することを抑制することができる。また、ALD法と比較して、スパッタリング法は成膜速度が速いため、歩留まりが高く、生産性を向上させることができる。なお、導電膜260Aを成膜する際に、塩素を含まない成膜ガスを用いて、形成することが好ましい。
次に、導電膜260A上に、上記と同様の方法によりレジストマスク296を形成する(図53(C)参照。)。続いて、導電膜260Aの不要な部分をエッチングにより除去することで、導電体260を形成した後、レジストマスク296を除去する(図53(D)参照。)。
続いて、導電体260上に、絶縁体280を形成する。絶縁体280は、酸化シリコン膜や酸化窒化シリコン膜などの、酸素を含む絶縁体である。過剰酸素を含む絶縁体を形成する方法としては、CVD法やスパッタリング法における成膜条件を適宜設定して膜中に酸素を多く含ませた酸化シリコン膜や酸化窒化シリコン膜を形成することができる。また、酸化シリコン膜や酸化窒化シリコン膜を形成した後、イオン注入法やイオンドーピング法やプラズマ処理によって酸素を添加してもよい。
特に、酸素プラズマ処理を行うことが好ましい(図54(A)参照、図中矢印はプラズマ処理を表す。)。代表的な酸素プラズマ処理は、酸素ガスのグロー放電プラズマで生成されたラジカルで酸化物半導体の表面を処理することであるが、プラズマを生成するガスとしては酸素のみでなく、酸素ガスと希ガスの混合ガスであってもよい。例えば、250℃以上400℃以下、好ましくは300℃以上400℃以下の温度で、酸化性ガスを含む雰囲気、または減圧状態で行えばよい。
酸素プラズマ処理により、絶縁体280、および酸化物230が、脱水化、または脱水素化されるとともに、絶縁体280に過剰な酸素を導入することで、過剰酸素領域を形成することができる。また、脱水化、または脱水素化された酸化物230には、酸素欠損が生じ、低抵抗化する。一方で、絶縁体280の過剰な酸素により、酸化物230の酸素欠損が補填される。従って、酸素プラズマ処理によりまた、絶縁体280、および酸化物230は、酸素欠損を補填しながら、不純物である水素、または水を除去することができる。したがって、トランジスタ200の電気特性の向上および、電気特性のばらつきを軽減することができる。
続いて、絶縁体280上に、絶縁体282を形成する。絶縁体282は、スパッタリング装置により成膜することが好ましい。スパッタリング法を用いることで、容易に絶縁体282の下層である絶縁体280に過剰酸素領域を形成することができる。
スパッタリング法による成膜時には、ターゲットと基板との間には、イオンとスパッタされた粒子とが存在する。例えば、ターゲットは、電源が接続されており、電位E0が与えられる。また、基板は、接地電位などの電位E1が与えられる。ただし、基板が電気的に浮いていてもよい。また、ターゲットと基板の間には電位E2となる領域が存在する。各電位の大小関係は、E2>E1>E0である。
プラズマ内のイオンが、電位差E2−E0によって加速され、ターゲットに衝突することにより、ターゲットからスパッタされた粒子がはじき出される。このスパッタされた粒子が成膜表面に付着し、堆積することにより成膜が行われる。また、一部のイオンはターゲットによって反跳し、反跳イオンとして形成された膜を介して、形成された膜の下部にある絶縁体280に取り込まれる場合がある。また、プラズマ内のイオンは、電位差E2−E1によって加速され、成膜表面を衝撃する。この際、イオンの一部のイオンは、絶縁体280の内部まで到達する。イオンが絶縁体280に取り込まれることにより、イオンが取り込まれた領域が絶縁体280に形成される。つまり、イオンが酸素を含むイオンであった場合において、絶縁体280に過剰酸素領域が形成される。
絶縁体280に過剰な酸素を導入することで、過剰酸素領域を形成することができる。絶縁体280の過剰な酸素は、加熱処理などを行うことで、酸化物230に供給され、酸化物230の酸素欠損が補填することができる。また例えば、スパッタリング法を用いて絶縁体282を成膜する際に、基板を加熱しながら成膜することで、成膜後に過熱処理をしなくても、酸化物230に酸素を供給することができる場合がある。
このとき、酸化物230において、配向性を有する結晶部の側面に過剰な酸素(活性酸素または原子状酸素など)が結合する。さらに結合した活性酸素にIn、MまたはZnなどの金属が結合する。このように、活性酸素と、In、MまたはZnなどの金属と、が繰り返し結合することにより、配向性を有する結晶部の側面から横方向に、固相成長していると考えることができる。また、予め酸化物230a、酸化物230bに加熱処理を行い、脱水、脱水素化を図ることにより、酸化物230に含まれる水または水素などの不純物を低減しておくことができる。これにより、酸化物230に含まれる水または水素などの不純物によって、酸素の拡散が妨げられることが低減されるので、より効率的に酸素を酸化物230に供給することができる。
ここで、絶縁体280と接する導電体260、導電体240a、および導電体240bに、耐酸化性が高い導電体を用いる場合、絶縁体280の過剰な酸素は、導電体260、導電体240a、および導電体240bに、吸収されることなく、効率的に酸化物230へ供給することができる。したがって、トランジスタ200の電気特性の向上および、電気特性のばらつきを軽減することができる。
以上の工程により、本発明の一態様のトランジスタ200を作製することができる。
<半導体装置の構成例>
本発明の一態様である容量素子を使用した、半導体装置(記憶装置)の一例を図55乃至図61に示す。なお、図55(A)は、図56乃至図59、および図61乃至62を回路図で表したものである。図60、および図61は、図56乃至図59、および図61乃至62に示す半導体装置が形成される領域の端部を示す。
<半導体装置の回路構成1>
図55(A)、および図56乃至図59に示す半導体装置は、トランジスタ300と、トランジスタ200、および容量素子100を有している。
トランジスタ200は、酸化物半導体を有する半導体層にチャネルが形成されるトランジスタである。トランジスタ200は、オフ電流が小さいため、これを半導体装置(記憶装置)に用いることにより長期にわたり記憶内容を保持することが可能である。つまり、リフレッシュ動作を必要としない、あるいは、リフレッシュ動作の頻度が極めて少ない半導体装置(記憶装置)とすることが可能となるため、消費電力を十分に低減することができる。
図55(A)において、配線3001はトランジスタ300のソースと電気的に接続され、配線3002はトランジスタ300のドレインと電気的に接続されている。また、配線3003はトランジスタ200のソースおよびドレインの一方と電気的に接続され、配線3004はトランジスタ200のゲートと電気的に接続されている。そして、トランジスタ300のゲート、およびトランジスタ200のソースおよびドレインの他方は、容量素子100の電極の一方と電気的に接続され、配線3005は容量素子100の電極の他方と電気的に接続されている。
図55(A)に示す半導体装置は、トランジスタ300のゲートの電位が保持可能という特性を有することで、以下に示すように、情報の書き込み、保持、読み出しが可能である。
情報の書き込みおよび保持について説明する。まず、第4の配線3004の電位を、トランジスタ200が導通状態となる電位にして、トランジスタ200を導通状態とする。これにより、第3の配線3003の電位が、トランジスタ300のゲート、および容量素子100の電極の一方と電気的に接続するノードFGに与えられる。即ち、トランジスタ300のゲートには、所定の電荷が与えられる(書き込み)。ここでは、異なる二つの電位レベルを与える電荷(以下Lowレベル電荷、Highレベル電荷という。)のどちらかが与えられるものとする。その後、第4の配線3004の電位を、トランジスタ200が非導通状態となる電位にして、トランジスタ200を非導通状態とすることにより、ノードFGに電荷が保持される(保持)。
トランジスタ200のオフ電流が小さい場合、ノードFGの電荷は長期間にわたって保持される。
次に情報の読み出しについて説明する。第1の配線3001に所定の電位(定電位)を与えた状態で、第5の配線3005に適切な電位(読み出し電位)を与えると、第2の配線3002は、ノードFGに保持された電荷量に応じた電位をとる。これは、トランジスタ300をnチャネル型とすると、トランジスタ300のゲートにHighレベル電荷が与えられている場合の見かけ上のしきい値電圧Vth_Hは、トランジスタ300のゲートにLowレベル電荷が与えられている場合の見かけ上のしきい値電圧Vth_Lより低くなるためである。ここで、見かけ上のしきい値電圧とは、トランジスタ300を「導通状態」とするために必要な第5の配線3005の電位をいうものとする。したがって、第5の配線3005の電位をVth_HとVth_Lの間の電位V0とすることにより、ノードFGに与えられた電荷を判別できる。例えば、書き込みにおいて、ノードFGにHighレベル電荷が与えられていた場合には、第5の配線3005の電位がV0(>Vth_H)となれば、トランジスタ300は「導通状態」となる。一方、ノードFGにLowレベル電荷が与えられていた場合には、第5の配線3005の電位がV0(<Vth_L)となっても、トランジスタ300は「非導通状態」のままである。このため、第2の配線3002の電位を判別することで、ノードFGに保持されている情報を読み出すことができる。
また、図55(A)に示す半導体装置をマトリクス状に配置することで、記憶装置(メモリセルアレイ)を構成することができる。
なお、メモリセルをアレイ状に配置する場合、読み出し時には、所望のメモリセルの情報を読み出さなくてはならない。情報を読み出さないメモリセルにおいては、ノードFGに与えられた電荷によらずトランジスタ300が「非導通状態」となるような電位、つまり、Vth_Hより低い電位を第5の配線3005に与えることで所望のメモリセルの情報のみを読み出せる構成とすればよい。または、情報を読み出さないメモリセルにおいては、ノードFGに与えられた電荷によらずトランジスタ300が「導通状態」となるような電位、つまり、Vth_Lより高い電位を第5の配線3005に与えることで所望のメモリセルの情報のみを読み出せる構成とすればよい。
<半導体装置の回路構成2>
図55(B)に示す半導体装置は、トランジスタ300を有さない点で図55(A)に示した半導体装置と異なる。この場合も図55(A)に示した半導体装置と同様の動作により情報の書き込みおよび保持動作が可能である。
図55(B)に示す半導体装置における、情報の読み出しについて説明する。トランジスタ200が導通状態になると、浮遊状態である第3の配線3003と容量素子100とが導通し、第3の配線3003と容量素子100の間で電荷が再分配される。その結果、第3の配線3003の電位が変化する。第3の配線3003の電位の変化量は、容量素子100の電極の一方の電位(または容量素子100に蓄積された電荷)によって、異なる値をとる。
例えば、容量素子100の電極の一方の電位をV、容量素子100の容量をC、第3の配線3003が有する容量成分をCB、電荷が再分配される前の第3の配線3003の電位をVB0とすると、電荷が再分配された後の第3の配線3003の電位は、(CB×VB0+CV)/(CB+C)となる。したがって、メモリセルの状態として、容量素子100の電極の一方の電位がV1とV0(V1>V0)の2つの状態をとるとすると、電位V1を保持している場合の第3の配線3003の電位(=(CB×VB0+CV1)/(CB+C))は、電位V0を保持している場合の第3の配線3003の電位(=(CB×VB0+CV0)/(CB+C))よりも高くなることがわかる。
そして、第3の配線3003の電位を所定の電位と比較することで、情報を読み出すことができる。
この場合、メモリセルを駆動させるための駆動回路に上記第1の半導体が適用されたトランジスタを用い、トランジスタ200として第2の半導体が適用されたトランジスタを駆動回路上に積層して配置する構成とすればよい。
以上に示した半導体装置は、酸化物半導体を用いたオフ電流の小さいトランジスタを適用することで、長期にわたって記憶内容を保持することが可能となる。つまり、リフレッシュ動作が不要となるか、またはリフレッシュ動作の頻度を極めて低くすることが可能となるため、消費電力の低い半導体装置を実現することができる。また、電力の供給がない場合(ただし、電位は固定されていることが好ましい)であっても、長期にわたって記憶内容を保持することが可能である。
また、該半導体装置は、情報の書き込みに高い電圧が不要であるため、素子の劣化が起こりにくい。例えば、従来の不揮発性メモリのように、フローティングゲートへの電子の注入や、フローティングゲートからの電子の引き抜きを行わないため、絶縁体の劣化といった問題が生じない。即ち、本発明の一態様に係る半導体装置は、従来の不揮発性メモリとは異なり書き換え可能回数に制限はなく、信頼性が飛躍的に向上した半導体装置である。さらに、トランジスタの導通状態、非導通状態によって、情報の書き込みが行われるため、高速な動作が可能となる。
<半導体装置の構造>
本発明の一態様の半導体装置は、図56に示すようにトランジスタ300、トランジスタ200、容量素子100を有する。トランジスタ200はトランジスタ300の上方に設けられ、容量素子100はトランジスタ300、およびトランジスタ200の上方に設けられている。
トランジスタ300は、基板311上に設けられ、導電体316、絶縁体314、基板311の一部からなる半導体領域312、およびソース領域またはドレイン領域として機能する低抵抗領域318a、および低抵抗領域318bを有する。
トランジスタ300は、pチャネル型、あるいはnチャネル型のいずれでもよい。
半導体領域312のチャネルが形成される領域、その近傍の領域、ソース領域、またはドレイン領域となる低抵抗領域318a、および低抵抗領域318bなどにおいて、シリコン系半導体などの半導体を含むことが好ましく、単結晶シリコンを含むことが好ましい。または、Ge(ゲルマニウム)、SiGe(シリコンゲルマニウム)、GaAs(ガリウムヒ素)、GaAlAs(ガリウムアルミニウムヒ素)などを有する材料で形成してもよい。結晶格子に応力を与え、格子間隔を変化させることで有効質量を制御したシリコンを用いた構成としてもよい。またはGaAsとGaAlAs等を用いることで、トランジスタ300をHEMT(High Electron Mobility Transistor)としてもよい。
低抵抗領域318a、および低抵抗領域318bは、半導体領域312に適用される半導体材料に加え、ヒ素、リンなどのn型の導電性を付与する元素、またはホウ素などのp型の導電性を付与する元素を含む。
ゲート電極として機能する導電体316は、ヒ素、リンなどのn型の導電性を付与する元素、もしくはホウ素などのp型の導電性を付与する元素を含むシリコンなどの半導体材料、金属材料、合金材料、または金属酸化物材料などの導電性材料を用いることができる。
なお、導電体の材料により、仕事関数を定めることで、しきい値電圧を調整することができる。具体的には、導電体に窒化チタンや窒化タンタルなどの材料を用いることが好ましい。さらに導電性と埋め込み性を両立するために導電体にタングステンやアルミニウムなどの金属材料を積層として用いることが好ましく、特にタングステンを用いることが耐熱性の点で好ましい。
また、図56に示すトランジスタ300はチャネルが形成される半導体領域312(基板311の一部)が凸形状を有する。また、半導体領域312の側面および上面を、絶縁体314を介して、導電体316が覆うように設けられている。なお、導電体316は仕事関数を調整する材料を用いてもよい。このようなトランジスタ300は半導体基板の凸部を利用していることからFIN型トランジスタとも呼ばれる。なお、凸部の上部に接して、凸部を形成するためのマスクとして機能する絶縁体を有していてもよい。また、ここでは半導体基板の一部を加工して凸部を形成する場合を示したが、SOI基板を加工して凸形状を有する半導体膜を形成してもよい。
なお、図56に示すトランジスタ300は一例であり、その構造に限定されず、回路構成や駆動方法に応じて適切なトランジスタを用いればよい。例えば、図46に示すようにトランジスタ300の構成を、プレーナ型として設けてもよい。また、図55(B)に示す回路構成とする場合、トランジスタ300を設けなくともよい。
トランジスタ300を覆って、絶縁体320、絶縁体322、絶縁体324、および絶縁体326が順に積層して設けられている。
絶縁体320、絶縁体322、絶縁体324、および絶縁体326として、例えば、酸化シリコン、酸化窒化シリコン、窒化酸化シリコン、窒化シリコン、酸化アルミニウム、酸化窒化アルミニウム、窒化酸化アルミニウム、窒化アルミニウムなどを用いればよい。
絶縁体322は、その下方に設けられるトランジスタ300などによって生じる段差を平坦化する平坦化膜として機能する。絶縁体322の上面は、平坦性を高めるために化学機械研磨(CMP:Chemical Mechanical Polishing)法等を用いた平坦化処理により平坦化されていてもよい。
絶縁体324には、例えば、基板311、またはトランジスタ300などから、トランジスタ200が設けられる領域に、水素や不純物が拡散しないようなバリア性を有する膜を用いることが好ましい。
例えば、水素に対するバリア性を有する膜の一例として、CVD法で形成した窒化シリコンを用いることができる。ここで、トランジスタ200等の酸化物半導体を有する半導体素子に、水素が拡散することで、該半導体素子の特性が低下する場合がある。従って、トランジスタ200と、トランジスタ300との間に、水素の拡散を抑制する膜を用いることが好ましい。水素の拡散を抑制する膜とは、具体的には、水素の脱離量が少ない膜とする。
水素の脱離量は、例えば、昇温脱離ガス分析法(TDS(Thermal Desorption Spectroscopy))などを用いて分析することができる。例えば、絶縁体324の水素の脱離量は、TDS分析において、50℃から500℃の範囲において、水素原子に換算した脱離量が、絶縁体324の面積当たりに換算して、10×1015atoms/cm2以下、好ましくは5×1015atoms/cm2以下であればよい。
なお、絶縁体326は、絶縁体324よりも誘電率が低いことが好ましい。例えば、絶縁体326の比誘電率は4未満が好ましく、3未満がより好ましい。また例えば、絶縁体324の比誘電率は、絶縁体326の比誘電率の0.7倍以下が好ましく、0.6倍以下がより好ましい。誘電率が低い材料を層間膜とすることで、配線間に生じる寄生容量を低減することができる。
また、絶縁体320、絶縁体322、絶縁体324、および絶縁体326には容量素子100、またはトランジスタ200と電気的に接続する導電体328、導電体330等が埋め込まれている。なお、導電体328、および導電体330はプラグ、または配線として機能を有する。なお、後述するが、プラグまたは配線として機能を有する導電体は、複数の構造をまとめて同一の符号を付与する場合がある。また、本明細書等において、配線と、配線と電気的に接続するプラグとが一体物であってもよい。すなわち、導電体の一部が配線として機能する場合、および導電体の一部がプラグとして機能する場合もある。
各プラグ、および配線(導電体328、および導電体330等)の材料としては、金属材料、合金材料、金属窒化物材料、または金属酸化物材料などの導電性材料を、単層または積層して用いることができる。耐熱性と導電性を両立するタングステンやモリブデンなどの高融点材料を用いることが好ましく、タングステンを用いることが好ましい。または、アルミニウムや銅などの低抵抗導電性材料で形成することが好ましい。低抵抗導電性材料を用いることで配線抵抗を低くすることができる。
絶縁体326、および導電体330上に、配線層を設けてもよい。例えば、図56において、絶縁体350、絶縁体352、及び絶縁体354が順に積層して設けられている。また、絶縁体350、絶縁体352、及び絶縁体354には、導電体356が形成されている。導電体356は、プラグ、または配線として機能を有する。なお導電体356は、導電体328、および導電体330と同様の材料を用いて設けることができる。
なお、例えば、絶縁体350は、絶縁体324と同様に、水素に対するバリア性を有する絶縁体を用いることが好ましい。また、導電体356は、水素に対するバリア性を有する導電体を含むことが好ましい。特に、水素に対するバリア性を有する絶縁体350が有する開口部に、水素に対するバリア性を有する導電体が形成される。当該構成により、トランジスタ300とトランジスタ200とは、バリア層により分離することができ、トランジスタ300からトランジスタ200への水素の拡散を抑制することができる。
なお、水素に対するバリア性を有する導電体としては、例えば、窒化タンタル等を用いるとよい。また、窒化タンタルと導電性が高いタングステンを積層することで、配線としての導電性を保持したまま、トランジスタ300からの水素の拡散を抑制することができる。この場合、水素に対するバリア性を有する窒化タンタル層が、水素に対するバリア性を有する絶縁体350と接する構造であることが好ましい。
絶縁体354上には、絶縁体358、絶縁体210、絶縁体212、絶縁体213、絶縁体214、および絶縁体216が、順に積層して設けられている。絶縁体358、絶縁体210、絶縁体212、絶縁体213、絶縁体214、および絶縁体216のいずれかまたは全部を、酸素や水素に対してバリア性のある物質を用いることが好ましい。
例えば、絶縁体358、および絶縁体212には、例えば、基板311、またはトランジスタ300を設ける領域などから、トランジスタ200を設ける領域に、水素や不純物が拡散しないようなバリア性を有する膜を用いることが好ましい。従って、絶縁体324と同様の材料を用いることができる。
水素に対するバリア性を有する膜の一例として、CVD法で形成した窒化シリコンを用いることができる。ここで、トランジスタ200等の酸化物半導体を有する半導体素子に、水素が拡散することで、該半導体素子の特性が低下する場合がある。従って、トランジスタ200と、トランジスタ300との間に、水素の拡散を抑制する膜を用いることが好ましい。水素の拡散を抑制する膜とは、具体的には、水素の脱離量が少ない膜とする。
また、例えば、絶縁体213、および絶縁体214には、酸化アルミニウム、酸化ハフニウム、酸化タンタルなどの金属酸化物を用いることが好ましい。
特に、酸化アルミニウムは、酸素、およびトランジスタの電気特性の変動要因となる水素、水分などの不純物、の両方に対して膜を透過させない遮断効果が高い。したがって、酸化アルミニウムは、トランジスタの作製工程中および作製後において、水素、水分などの不純物のトランジスタ200への混入を防止することができる。また、トランジスタ200を構成する酸化物からの酸素の放出を抑制することができる。そのため、トランジスタ200に対する保護膜として用いることに適している。
また、例えば、絶縁体210、および絶縁体216には、絶縁体320と同様の材料を用いることができる。例えば、絶縁体216として、酸化シリコン膜や酸化窒化シリコン膜などを用いることができる。
また、絶縁体358、絶縁体210、絶縁体212、絶縁体213、絶縁体214、および絶縁体216には、導電体218、及びトランジスタ200を構成する導電体(導電体205)等が埋め込まれている。なお、導電体218は、容量素子100、またはトランジスタ300と電気的に接続するプラグ、または配線としての機能を有する。導電体218は、導電体328、および導電体330と同様の材料を用いて設けることができる。
特に、絶縁体358、絶縁体212、絶縁体213、および絶縁体214と接する領域の導電体218は、酸素、水素、および水に対するバリア性を有する導電体であることが好ましい。当該構成により、トランジスタ300とトランジスタ200とは、酸素、水素、および水に対するバリア性を有する層で、完全により分離することができ、トランジスタ300からトランジスタ200への水素の拡散を抑制することができる。
絶縁体216の上方には、トランジスタ200が設けられている。なお、トランジスタ200の構造は、上述のトランジスタを用いればよい。また、図56に示すトランジスタ200は一例であり、その構造に限定されず、回路構成や駆動方法に応じて適切なトランジスタを用いればよい。
トランジスタ200の上方には、絶縁体280を設ける。絶縁体280には、化学量論的組成を満たす酸素よりも多くの酸素を含む酸化物を用いることが好ましい。つまり、絶縁体280には、化学量論的組成よりも酸素が過剰に存在する領域(以下、過剰酸素領域ともいう)が形成されていることが好ましい。特に、トランジスタ200に酸化物半導体を用いる場合、トランジスタ200近傍の層間膜などに、過剰酸素領域を有する絶縁体を設けることで、トランジスタ200の酸素欠損を低減することで、信頼性を向上させることができる。
過剰酸素領域を有する絶縁体として、具体的には、加熱により一部の酸素が脱離する酸化物材料を用いることが好ましい。加熱により酸素を脱離する酸化物とは、TDS分析にて、酸素原子に換算しての酸素の脱離量が1.0×1018atoms/cm3以上、好ましくは3.0×1020atoms/cm3以上である酸化物膜である。なお、上記TDS分析時における膜の表面温度としては100℃以上700℃以下、または100℃以上500℃以下の範囲が好ましい。
例えばこのような材料として、酸化シリコンまたは酸化窒化シリコンを含む材料を用いることが好ましい。または、金属酸化物を用いることもできる。なお、本明細書中において、酸化窒化シリコンとは、その組成として窒素よりも酸素の含有量が多い材料を指し、窒化酸化シリコンとは、その組成として、酸素よりも窒素の含有量が多い材料を示す。
また、トランジスタ200を覆う絶縁体280は、その下方の凹凸形状を被覆する平坦化膜として機能してもよい。また、絶縁体280には、導電体244等が埋め込まれている。
導電体244は、容量素子100、トランジスタ200、またはトランジスタ300と電気的に接続するプラグ、または配線として機能を有する。導電体244は、導電体328、および導電体330と同様の材料を用いて設けることができる。
例えば、導電体244を積層構造として設ける場合、耐酸化性が高い導電体を含むことが好ましい。特に、過剰酸素領域を有する絶縁体280と接する領域に、耐酸化性が高い導電体を設けることが好ましい。当該構成により、絶縁体280から過剰な酸素を、導電体244が吸収することを抑制することができる。また、導電体244は、水素に対するバリア性を有する導電体を含むことが好ましい。特に、過剰酸素領域を有する絶縁体280と接する領域に、水素などの不純物に対するバリア性を有する導電体を設けることで、導電体244中の不純物、および導電体244の一部の拡散や、外部からの不純物の拡散経路となることを抑制することができる。
また、導電体244上に、バリア層245を設けてもよい。バリア層245を有することで、導電体244に含まれる不純物や、導電体244の一部の拡散を抑制することができる。
バリア層245には、例えば、酸化アルミニウム、酸化ハフニウム、酸化タンタルなどの金属酸化物、または窒化タンタルなどの金属窒化物などを用いることが好ましい。特に、酸化アルミニウムは、酸素、およびトランジスタの電気特性の変動要因となる水素、水分などの不純物、の両方に対して膜を透過させない遮断効果が高い。したがって、酸化アルミニウムは、トランジスタの作製工程中、および作製後において、水素、水分などの不純物のトランジスタ200への混入を防止することができる。
バリア層245、および絶縁体280上には、絶縁体282、絶縁体283、絶縁体284、および絶縁体110が順に積層して設けられている。また、絶縁体282、絶縁体283、絶縁体284、および絶縁体110には、導電体124等が埋め込まれている。なお、導電体124は、容量素子100、トランジスタ200、またはトランジスタ300と電気的に接続するプラグ、または配線として機能を有する。導電体124は、導電体356と同様の材料を用いて設けることができる。
絶縁体282、絶縁体283、絶縁体284、および絶縁体110のいずれか、または全部に、酸素や水素に対してバリア性のある物質を用いることが好ましい。従って、絶縁体282には、絶縁体214と同様の材料を用いることができる。また、絶縁体283には、絶縁体213と同様の材料を用いることができる。また、絶縁体284には、絶縁体212と同様の絶縁体を用いることができる。また、絶縁体110には、絶縁体216と同様の材料を用いることができる。
例えば、絶縁体282、および絶縁体283には、酸化アルミニウム、酸化ハフニウム、酸化タンタルなどの金属酸化物を用いることが好ましい。
特に、酸化アルミニウムは、酸素、およびトランジスタの電気特性の変動要因となる水素、水分などの不純物、の両方に対して膜を透過させない遮断効果が高い。したがって、酸化アルミニウムは、トランジスタの作製工程中および作製後において、水素、水分などの不純物のトランジスタ200への混入を防止することができる。また、トランジスタ200を構成する酸化物からの酸素の放出を抑制することができる。そのため、トランジスタ200に対する保護膜として用いることに適している。
絶縁体284には、容量素子100を設ける領域から、トランジスタ200が設ける領域に、水素や不純物が拡散しないようなバリア性を有する膜を用いることが好ましい。従って、絶縁体324と同様の材料を用いることができる。
例えば、水素に対するバリア性を有する膜の一例として、CVD法で形成した窒化シリコンを用いることができる。ここで、トランジスタ200等の酸化物半導体を有する半導体素子に、水素が拡散することで、該半導体素子の特性が低下する場合がある。従って、トランジスタ200と、トランジスタ300との間に、水素の拡散を抑制する膜を用いることが好ましい。水素の拡散を抑制する膜とは、具体的には、水素の脱離量が少ない膜とする。
従って、トランジスタ200、および過剰酸素領域を含む絶縁体280を、絶縁体212、絶縁体213、および絶縁体214の積層構造と、絶縁体282、絶縁体283、および絶縁体284の積層構造により挟む構成とすることができる。また、絶縁体212、絶縁体213、絶縁体214、絶縁体282、絶縁体283、および絶縁体284は、酸素、または、水素、および水などの不純物の拡散を抑制するバリア性を有する。
絶縁体280、およびトランジスタ200から放出された酸素が、容量素子100、またはトランジスタ300が形成されている層へ拡散することを抑制することができる。または、絶縁体282よりも上方の層、および絶縁体214よりも下方の層から、水素、および水等の不純物が、トランジスタ200へ、拡散することを抑制することができる。
つまり、絶縁体280の過剰酸素領域から酸素を、効率的にトランジスタ200におけるチャネルが形成される酸化物に供給でき、酸素欠損を低減することができる。また、トランジスタ200におけるチャネルが形成される酸化物が不純物により、酸素欠損が形成されることを防止することができる。よって、トランジスタ200におけるチャネルが形成される酸化物を、欠陥準位密度が低い、安定な特性を有する酸化物半導体とすることができる。つまり、トランジスタ200の電気特性の変動を抑制すると共に、信頼性を向上させることができる。
ここで、図60にスクライブライン近傍の断面図を示す。
例えば、図60(A)に示すように、トランジスタ200を有するメモリセルの外縁に設けられるスクライブライン(図中1点鎖線で示す)と重なる領域近傍において、絶縁体212、絶縁体213、絶縁体214、絶縁体216、絶縁体220、絶縁体222、絶縁体224、及び絶縁体280に開口を設ける。また、絶縁体212、絶縁体213、絶縁体214、絶縁体216、絶縁体220、絶縁体222、絶縁体224、及び絶縁体280の側面を覆うように、絶縁体282、絶縁体283、および絶縁体284を設ける。
従って、該開口において、絶縁体212、絶縁体213、および絶縁体214と絶縁体282とが接する。また、絶縁体282上に、絶縁体213、および絶縁体214を積層する。このとき、絶縁体212、絶縁体213、および絶縁体214の少なくとも一と、絶縁体282とを同材料及び同方法を用いて形成することで、密着性を高めることができる。
当該構造により、絶縁体212、絶縁体213、絶縁体214、絶縁体282、絶縁体283、および絶縁体284で、絶縁体280、及びトランジスタ200を包み込むことができる。絶縁体212、絶縁体213、絶縁体214、絶縁体282、絶縁体283、および絶縁体284は、酸素、水素、及び水の拡散を抑制する機能を有しているため、本実施の形態に示す半導体装置をスクライブしても、絶縁体220、絶縁体222、絶縁体224、及び絶縁体280の側面から、水素又は水が浸入して、トランジスタ200に拡散することを防ぐことができる。
また、当該構造により、絶縁体280の過剰酸素が絶縁体282、および絶縁体214の外部に拡散することを防ぐことができる。従って、絶縁体280の過剰酸素は、効率的にトランジスタ200におけるチャネルが形成される酸化物に供給される。当該酸素により、トランジスタ200におけるチャネルが形成される酸化物の酸素欠損を低減することができる。これにより、トランジスタ200におけるチャネルが形成される酸化物を欠陥準位密度が低い、安定な特性を有する酸化物半導体とすることができる。つまり、トランジスタ200の電気特性の変動を抑制すると共に、信頼性を向上させることができる。
また、例えば、図60(B)に示すように、スクライブライン(図中1点鎖線で示す)の両側となる領域において、絶縁体212、絶縁体213、絶縁体214、絶縁体216、絶縁体220、絶縁体222、絶縁体224、及び絶縁体280に開口を設けてもよい。なお、図では開口は2か所としたが、必要に応じて、複数の開口を設けてもよい。
従って、スクライブラインの両側に設けられた開口において、絶縁体212、絶縁体213、および絶縁体214と絶縁体282とが、少なくとも2か所で接するため、より密着性が高い構造となる。なお、この場合においても、絶縁体212、絶縁体213、および絶縁体214の少なくとも一と、絶縁体282とを同材料及び同方法を用いて形成することで、密着性を高めることができる。
また、開口を複数設けることで、絶縁体282と、絶縁体212、絶縁体213、および絶縁体214とが、複数の領域で接する構造とすることができる。また、スクライブラインから侵入する不純物が、絶縁体214と絶縁体282が接する領域のうち、最もトランジスタ200と近い領域まで拡散する場合において、不純物の拡散距離を長くすることができる。
当該構造により、トランジスタ200と絶縁体280とを、厳重に密封することができる。従って、トランジスタ200におけるチャネルが形成される酸化物を欠陥準位密度が低い、安定な特性を有する酸化物半導体とすることができる。つまり、トランジスタ200の電気特性の変動を抑制すると共に、信頼性を向上させることができる。
続いて、絶縁体284の上方には、絶縁体110、容量素子100、および導電体124が設けられている。容量素子100は、絶縁体110上に設けられ、導電体112(導電体112a、および導電体112b)と、絶縁体130、絶縁体132、および絶縁体134と、導電体116とを有する。なお、導電体124は、容量素子100、トランジスタ200、またはトランジスタ300と電気的に接続するプラグ、または配線として機能を有する。
なお、導電体124は、導電体356と同様の材料を用いて設けることができる。
また、導電体112は、金属材料、合金材料、または金属酸化物材料などの導電性材料を用いることができる。耐熱性と導電性を両立するタングステンやモリブデンなどの高融点材料を用いることが好ましく、特にタングステンを用いることが好ましい。また、導電体などの他の構造と同時に形成する場合は、低抵抗金属材料であるCu(銅)やAl(アルミニウム)等を用いればよい。
導電体112上に、絶縁体130、絶縁体132、および絶縁体134を設ける。絶縁体130、絶縁体132、および絶縁体134には、例えば、酸化シリコン、酸化窒化シリコン、窒化酸化シリコン、窒化シリコン、酸化アルミニウム、酸化窒化アルミニウム、窒化酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化ハフニウム、酸化窒化ハフニウム、窒化酸化ハフニウム、窒化ハフニウムなどを用いればよい。図では、3層構造で示したが、単層、2層、または4層以上の積層構造としてもよい。
例えば、絶縁体130、および絶縁体134には、酸化窒化シリコンなどの絶縁耐力が大きい材料を用い、絶縁体132には、酸化アルミニウムなどの高誘電率(high−k)材料を用いることが好ましい。当該構成により、容量素子100は、高誘電率(high−k)の絶縁体を有することで、十分な容量を確保でき、絶縁耐力が大きい絶縁体を有することで、絶縁耐力が向上し、容量素子100の静電破壊を抑制することができる。
導電体112上に、絶縁体114を介して、導電体116を設ける。なお、導電体116は、金属材料、合金材料、または金属酸化物材料などの導電性材料を用いることができる。耐熱性と導電性を両立するタングステンやモリブデンなどの高融点材料を用いることが好ましく、特にタングステンを用いることが好ましい。また、導電体などの他の構造と同時に形成する場合は、低抵抗金属材料であるCu(銅)やAl(アルミニウム)等を用いればよい。
例えば、図56に示すように、電極の一方として機能する導電体112において、導電体112bのような凸状を有する構造体とすることで、容量素子の投影面積当たりの容量を増加させることができる。従って、半導体装置の小面積化、高集積化、微細化が可能となる。
導電体116、および絶縁体134上には、絶縁体150が順に積層して設けられている。絶縁体110、および絶縁体150は、絶縁体320と同様の材料を用いて設けることができる。また、容量素子100の下部となる絶縁体110、および容量素子100を覆う絶縁体150は、その下方の凹凸形状を被覆する平坦化膜として機能してもよい。
以上が構成例についての説明である。本構成を用いることで、酸化物半導体を有するトランジスタを用いた半導体装置において、電気特性の変動を抑制すると共に、信頼性を向上させることができる。または、オン電流が大きい酸化物半導体を有するトランジスタを提供することができる。または、オフ電流が小さい酸化物半導体を有するトランジスタを提供することができる。または、消費電力が低減された半導体装置を提供することができる。
<変形例1>
また、本実施の形態の変形例として、図57に示すように、導電体244を形成してもよい。つまり、絶縁体282にプラグを埋め込み、プラグ上に、配線となる導電体、およびバリア層245を積層構造で設けてもよい。この場合、導電体244を構成する導電体において、配線として機能する導電体は、耐酸化性が高い導電体を用いることが好ましい。
<変形例2>
また、本実施の形態の変形例として、容量素子100において、必ずしも導電体122を有する必要はない。
例えば、図58に示す構造は、絶縁体280、絶縁体282、絶縁体284、および絶縁体110を形成した後、導電体244を形成している。そのため、導電体124と、容量素子100の一方の電極となる導電体112を同時に形成することができる。従って、少ない工程で生産することができるため、生産コストを削減し、生産性を高めることができる。
また、導電体112上に、絶縁体130、絶縁体132、および絶縁体134を介して、導電体116を設ける。なお、導電体116は、金属材料、合金材料、または金属酸化物材料などの導電性材料を用いることができる。耐熱性と導電性を両立するタングステンやモリブデンなどの高融点材料を用いることが好ましく、特にタングステンを用いることが好ましい。また、導電体などの他の構造と同時に形成する場合は、低抵抗金属材料であるCu(銅)やAl(アルミニウム)等を用いればよい。
なお、図58に示すように、導電体116を、絶縁体130、絶縁体132、および絶縁体134を介して、導電体112の上面および側面を覆うように設ける。つまり、導電体112の側面においても、容量として機能するため、容量素子の投影面積当たりの容量を増加させることができる。従って、半導体装置の小面積化、高集積化、微細化が可能となる。
なお、当該構成は、導電体112を形成するときに、絶縁体110の上面を、絶縁体130、絶縁体132、および絶縁体134の合計の膜厚よりも大きく除去することが好ましい。例えば、オーバーエッチング処理とすることで、絶縁体110の一部も同時に除去することができる。また、オーバーエッチング処理により、導電体112等を形成することで、エッチング残渣を残すことなくエッチングすることができる。
また、当該エッチング処理の途中で、エッチングガスの種類を切り替えることにより、効率よく絶縁体110の一部を除去することができる。
また、例えば、導電体112、および導電体124を形成した後、導電体112をハードマスクとして、絶縁体110の一部を除去してもよい。
また、導電体112を形成した後、導電体112の表面を、クリーニング処理してもよい。クリーニング処理をすることで、エッチング残渣等を除去することができる。
また、図58に示すように、絶縁体213、および絶縁体283を設けなくともよい。本構成においても、トランジスタ200、および過剰酸素領域を含む絶縁体280を、絶縁体212、および絶縁体214の積層構造と、絶縁体282、および絶縁体284の積層構造により挟む構成とすることができる。また、絶縁体212、絶縁体214、絶縁体282、および絶縁体284は、酸素、または、水素、および水などの不純物の拡散を抑制するバリア性を有する。
従って、絶縁体280、およびトランジスタ200から放出された酸素が、容量素子100、またはトランジスタ300が形成されている層へ拡散することを抑制することができる。または、絶縁体282よりも上方の層、および絶縁体214よりも下方の層から、水素、および水等の不純物が、トランジスタ200へ、拡散することを抑制することができる。
つまり、絶縁体280の過剰酸素領域から酸素を、効率的にトランジスタ200におけるチャネルが形成される酸化物に供給でき、酸素欠損を低減することができる。また、トランジスタ200におけるチャネルが形成される酸化物が不純物により、酸素欠損が形成されることを防止することができる。よって、トランジスタ200におけるチャネルが形成される酸化物を、欠陥準位密度が低い、安定な特性を有する酸化物半導体とすることができる。つまり、トランジスタ200の電気特性の変動を抑制すると共に、信頼性を向上させることができる。
また、本変形例における、スクライブライン近傍の断面図を図61(A)、および図61(B)に示す。
例えば、図61(A)に示すように、スクライブライン(図中1点鎖線で示す)と重なる領域近傍において、絶縁体214と絶縁体282とが接し、絶縁体212、絶縁体214、絶縁体282、および絶縁体284の積層構造となる。このとき、絶縁体214と絶縁体282とを同材料及び同方法を用いて形成することで、密着性が高い積層構造となる。
当該構造により、絶縁体212、絶縁体214、絶縁体282、および絶縁体284で、絶縁体216、絶縁体220、絶縁体222、絶縁体224、及び絶縁体280を包み込むことができる。絶縁体212、絶縁体214、絶縁体282、および絶縁体284は、酸素、水素、及び水の拡散を抑制する機能を有しているため、本実施の形態に示す半導体装置をスクライブしても、絶縁体216、絶縁体220、絶縁体222、絶縁体224、及び絶縁体280の側面から、水素又は水が浸入して、トランジスタ200に拡散することを防ぐことができる。
また、当該構造により、絶縁体280の過剰酸素が絶縁体282、および絶縁体214の外部に拡散することを防ぐことができる。従って、絶縁体280の過剰酸素は、効率的にトランジスタ200におけるチャネルが形成される酸化物に供給される。当該酸素により、トランジスタ200におけるチャネルが形成される酸化物の酸素欠損を低減することができる。これにより、トランジスタ200におけるチャネルが形成される酸化物を欠陥準位密度が低い、安定な特性を有する酸化物半導体とすることができる。つまり、トランジスタ200の電気特性の変動を抑制すると共に、信頼性を向上させることができる。
また、例えば、図61(B)に示すように、スクライブライン(図中1点鎖線で示す)と重なる領域近傍において、絶縁体214、絶縁体216、絶縁体220、絶縁体222、絶縁体224、及び絶縁体280に開口を設ける。また、絶縁体214、絶縁体216、絶縁体220、絶縁体222、絶縁体224、及び絶縁体280の側面を覆うように、絶縁体282を設ける。さらに、絶縁体212、および絶縁体282に開口を設け、絶縁体212、および絶縁体282の側面と、絶縁体210の露出した上面と、を覆うように、絶縁体284を設ける。
つまり、開口において、絶縁体214と絶縁体282が接する。さらに、その外側では、絶縁体212と絶縁体282とが接する。このとき、絶縁体214と絶縁体282とを同材料及び同方法を用いて形成することで、密着性が高い積層構造となる。また、絶縁体212と絶縁体284とを同材料及び同方法を用いて形成することで、密着性が高い積層構造となる。
当該構造により、トランジスタ200と絶縁体280とを、厳重に密封することができる。従って、トランジスタ200におけるチャネルが形成される酸化物を欠陥準位密度が低い、安定な特性を有する酸化物半導体とすることができる。つまり、トランジスタ200の電気特性の変動を抑制すると共に、信頼性を向上させることができる。
<変形例3>
また、本実施の形態の変形例の一例を、図59に示す。図59は、図58と、トランジスタ300、およびトランジスタ200の構成が異なる。
図59に示すトランジスタ300はチャネルが形成される半導体領域312(基板311の一部)が凸形状を有する。また、半導体領域312の側面および上面を、絶縁体314を介して、導電体316が覆うように設けられている。なお、導電体316は仕事関数を調整する材料を用いてもよい。このようなトランジスタ300は半導体基板の凸部を利用していることからFIN型トランジスタとも呼ばれる。なお、凸部の上部に接して、凸部を形成するためのマスクとして機能する絶縁体を有していてもよい。また、ここでは半導体基板の一部を加工して凸部を形成する場合を示したが、SOI基板を加工して凸形状を有する半導体膜を形成してもよい。
図59に示すトランジスタ200構造は、図48、および図49で説明した構造である。絶縁体280に形成された開口部に、酸化物230c、絶縁体250、導電体260が形成されている。また、導電体240a、および導電体240bの一方の端部と、絶縁体280に形成された開口部の端部が一致している。さらに、導電体240a、および導電体240bの三方の端部が、酸化物230の端部の一部と一致している。従って、導電体240a、および導電体240bは、酸化物230または絶縁体280の開口部と、同時に整形することができる。そのため、マスクおよび工程を削減することができる。また、歩留まりや生産性を向上させることができる。
さらに、図59に示すトランジスタ200は、導電体240aおよび導電体240bと、導電体260と、がほとんど重ならない構造を有するため、導電体260にかかる寄生容量を小さくすることができる。即ち、動作周波数が高いトランジスタ200を提供することができる。
<変形例4>
また、本実施の形態の変形例の一例を、図62に示す。図62(A)、および図62(B)はそれぞれ、一点鎖線A1−A2を軸とした、トランジスタ200のチャネル長、およびチャネル幅方向の断面を示す。
図62に示すように、トランジスタ200、および過剰酸素領域を含む絶縁体280を、絶縁体212、および絶縁体214の積層構造と、絶縁体282、および絶縁体284の積層構造により包み込む構成としてもよい。その際、トランジスタ300と容量素子100とを接続する貫通電極と、トランジスタ200との間で、絶縁体212、および絶縁体214と、絶縁体282、および絶縁体284とが積層構造となることが好ましい。
従って、絶縁体280、およびトランジスタ200から放出された酸素が、容量素子100、またはトランジスタ300が形成されている層へ拡散することを抑制することができる。または、絶縁体282よりも上方の層、および絶縁体214よりも下方の層から、水素、および水等の不純物が、トランジスタ200へ、拡散することを抑制することができる。
つまり、絶縁体280の過剰酸素領域から酸素を、効率的にトランジスタ200におけるチャネルが形成される酸化物に供給でき、酸素欠損を低減することができる。また、トランジスタ200におけるチャネルが形成される酸化物が不純物により、酸素欠損が形成されることを防止することができる。よって、トランジスタ200におけるチャネルが形成される酸化物を、欠陥準位密度が低い、安定な特性を有する酸化物半導体とすることができる。つまり、トランジスタ200の電気特性の変動を抑制すると共に、信頼性を向上させることができる。
<変形例5>
また、本実施の形態の変形例の一例を、図63に示す。図63は、図59と、容量素子の構成が異なる。
図63に示すように、容量素子105を形成してもよい。容量素子105は、トランジスタ300との配線の一部も、容量素子として機能する。従って、容量素子の投影面積当たりの容量を増加させることができる。従って、半導体装置の小面積化、高集積化、微細化が可能となる。また、容量素子105と、トランジスタ200との間で、絶縁体212、および絶縁体214と、絶縁体282、および絶縁体284とが積層構造となることが好ましい。
従って、絶縁体280の過剰酸素領域から酸素を、効率的にトランジスタ200におけるチャネルが形成される酸化物に供給でき、酸素欠損を低減することができる。また、トランジスタ200におけるチャネルが形成される酸化物が不純物により、酸素欠損が形成されることを防止することができる。よって、トランジスタ200におけるチャネルが形成される酸化物を、欠陥準位密度が低い、安定な特性を有する酸化物半導体とすることができる。つまり、トランジスタ200の電気特性の変動を抑制すると共に、信頼性を向上させることができる。
<変形例6>
また、本実施の形態の変形例の一例を、図64に示す。図64(A)は、図55(A)に示す半導体装置を、マトリクス状に配置した場合における、行の一部を抜き出した回路図である。また、図64(B)は、図64(A)の回路図と対応した半導体装置の断面図である。
図64には、トランジスタ300、トランジスタ200、および容量素子100を有する半導体装置と、トランジスタ301、トランジスタ201、および容量素子101を有する半導体装置と、トランジスタ301、トランジスタ201、および容量素子101を有する半導体装置とが、同じ行に配置されている。
図64(B)に示すように、複数個のトランジスタ(図ではトランジスタ200、およびトランジスタ201)、および過剰酸素領域を含む絶縁体280を、絶縁体212、および絶縁体214の積層構造と、絶縁体282、および絶縁体284の積層構造により包み込む構成としてもよい。その際、トランジスタ300、トランジスタ301、またはトランジスタ302と、容量素子100、容量素子101、または容量素子102と、を接続する貫通電極と、トランジスタ200、トランジスタ201、またはトランジスタ202との間で、絶縁体212、および絶縁体214と、絶縁体282、および絶縁体284とが積層構造となることが好ましい。
従って、絶縁体280、およびトランジスタ200から放出された酸素が、容量素子100、またはトランジスタ300が形成されている層へ拡散することを抑制することができる。または、絶縁体282よりも上方の層、および絶縁体214よりも下方の層から、水素、および水等の不純物が、トランジスタ200へ、拡散することを抑制することができる。
つまり、絶縁体280の過剰酸素領域から酸素を、効率的にトランジスタ200におけるチャネルが形成される酸化物に供給でき、酸素欠損を低減することができる。また、トランジスタ200におけるチャネルが形成される酸化物が不純物により、酸素欠損が形成されることを防止することができる。よって、トランジスタ200におけるチャネルが形成される酸化物を、欠陥準位密度が低い、安定な特性を有する酸化物半導体とすることができる。つまり、トランジスタ200の電気特性の変動を抑制すると共に、信頼性を向上させることができる。
<変形例7>
また、本実施の形態の変形例の一例を、図65に示す。図65は、図64に示す半導体装置において、トランジスタ201、およびトランジスタ202を集積した場合の半導体装置の断面図である。
図65に示すように、容量素子101の電極の一方となる導電体112の機能を、トランジスタ201のソース電極またはドレイン電極となる導電体240aと兼ねてもよい。その場合、トランジスタ201の酸化物230a、およびトランジスタ201のゲート絶縁体として機能する絶縁体250の導電体240a上に延在した領域が、容量素子101の絶縁体として機能する。従って、容量素子101の電極の他方となる導電体116を、導電体240a上に、絶縁体250、および酸化物230aを介して積層すればよい。当該構成により、半導体装置の小面積化、高集積化、微細化が可能となる。
また、トランジスタ201と、トランジスタ202を重畳して設けてもよい。当該構成により、半導体装置の小面積化、高集積化、微細化が可能となる。
また、複数個のトランジスタ(図ではトランジスタ201、およびトランジスタ202)、および過剰酸素領域を含む絶縁体280を、絶縁体212、および絶縁体214の積層構造と、絶縁体282、および絶縁体284の積層構造により包み込む構成としてもよい。その際、トランジスタ300、トランジスタ301、またはトランジスタ302と、容量素子100、容量素子101、または容量素子102と、を接続する貫通電極と、トランジスタ200、トランジスタ201、またはトランジスタ202との間で、絶縁体212、および絶縁体214と、絶縁体282、および絶縁体284とが積層構造となることが好ましい。
従って、絶縁体280、およびトランジスタ200から放出された酸素が、容量素子100、またはトランジスタ300が形成されている層へ拡散することを抑制することができる。または、絶縁体282よりも上方の層、および絶縁体214よりも下方の層から、水素、および水等の不純物が、トランジスタ200へ、拡散することを抑制することができる。
つまり、絶縁体280の過剰酸素領域から酸素を、効率的にトランジスタ200におけるチャネルが形成される酸化物に供給でき、酸素欠損を低減することができる。また、トランジスタ200におけるチャネルが形成される酸化物が不純物により、酸素欠損が形成されることを防止することができる。よって、トランジスタ200におけるチャネルが形成される酸化物を、欠陥準位密度が低い、安定な特性を有する酸化物半導体とすることができる。つまり、トランジスタ200の電気特性の変動を抑制すると共に、信頼性を向上させることができる。
上記の酸化物半導体を用いたトランジスタはオフ電流が小さい。このようなトランジスタを用いて、CMOSインバータ、CMOSアナログスイッチ、記憶素子などの回路素子を形成することができる。また、酸化物半導体を用いたトランジスタに加えて、シリコンなどの酸化物半導体以外の半導体を用いたトランジスタを組み合わせてもよい。このようなトランジスタや回路素子などを用いて、表示装置、発光装置、照明装置、蓄電装置、記憶装置、撮像装置、プロセッサ、電子機器などの半導体装置を作製することができる。
本実施の形態は、少なくともその一部を本明細書中に記載する他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することができる。
(実施の形態3)
本実施の形態においては、本発明の一態様に係るトランジスタなどを利用した半導体装置の回路の一例について説明する。
<回路>
以下では、本発明の一態様に係るトランジスタなどを利用した半導体装置の回路の一例について、図66、および図67を用いて説明する。
<記憶装置1>
図66に示す半導体装置は、トランジスタ3500、第6の配線3006を有する点で先の実施の形態で説明した半導体装置と異なる。この場合も先の実施の形態に示した半導体装置と同様の動作により情報の書き込みおよび保持動作が可能である。また、トランジスタ3500としては上記のトランジスタ3200と同様のトランジスタを用いればよい。
第6の配線3006は、トランジスタ3500のゲートと電気的に接続され、トランジスタ3500のソース、ドレインの一方はトランジスタ3200のドレインと電気的に接続され、トランジスタ3500のソース、ドレインの他方は第3の配線3003と電気的に接続される。
<記憶装置2>
半導体装置(記憶装置)の変形例について、図67に示す回路図を用いて説明する。
図67に示す半導体装置は、トランジスタ4100乃至トランジスタ4400と、容量素子4500および容量素子4600と、を有する。ここでトランジスタ4100は、上述のトランジスタ300と同様のトランジスタを用いることができ、トランジスタ4200乃至4400は、上述のトランジスタ200と同様のトランジスタを用いることができる。また、ここで容量素子4500、および容量素子4600は、上述の容量素子100と同様のトランジスタを用いることができる。なお、図67に示す半導体装置は、図67では図示を省略したが、マトリクス状に複数設けられる。図67に示す半導体装置は、配線4001、配線4003、配線4005乃至4009に与える信号または電位に従って、データ電圧の書き込み、読み出しを制御することができる。
トランジスタ4100のソースまたはドレインの一方は、配線4003に接続される。トランジスタ4100のソースまたはドレインの他方は、配線4001に接続される。なお図67では、トランジスタ4100の導電型をpチャネル型として示すが、nチャネル型でもよい。
図67に示す半導体装置は、2つのデータ保持部を有する。例えば第1のデータ保持部は、ノードFG1に接続されるトランジスタ4400のソースまたはドレインの一方、容量素子4600の一方の電極、およびトランジスタ4200のソースまたはドレインの一方の間で電荷を保持する。また、第2のデータ保持部は、ノードFG2に接続されるトランジスタ4100のゲート、トランジスタ4200のソースまたはドレインの他方、トランジスタ4300のソースまたはドレインの一方、および容量素子4500の一方の電極の間で電荷を保持する。
トランジスタ4300のソースまたはドレインの他方は、配線4003に接続される。トランジスタ4400のソースまたはドレインの他方は、配線4001に接続される。トランジスタ4400のゲートは、配線4005に接続される。トランジスタ4200のゲートは、配線4006に接続される。トランジスタ4300のゲートは、配線4007に接続される。容量素子4600の他方の電極は、配線4008に接続される。容量素子4500の他方の電極は、配線4009に接続される。
トランジスタ4200乃至4400は、データ電圧の書き込みと電荷の保持を制御するスイッチとしての機能を有する。なおトランジスタ4200乃至4400は、非導通状態においてソースとドレインとの間を流れる電流(オフ電流)が低いトランジスタが用いられることが好適である。オフ電流が少ないトランジスタとしては、チャネル形成領域に酸化物半導体を有するトランジスタ(OSトランジスタ)であることが好ましい。OSトランジスタは、オフ電流が低い、シリコンを有するトランジスタと重ねて作製できる等の利点がある。なお図67では、トランジスタ4200乃至4400の導電型をnチャネル型として示すが、pチャネル型でもよい。
トランジスタ4200およびトランジスタ4300と、トランジスタ4400とは、酸化物半導体を用いたトランジスタであっても別層に設けることが好ましい。すなわち、図67に示す半導体装置は、トランジスタ4100と、トランジスタ4200およびトランジスタ4300と、トランジスタ4400と、を積層して設けることが好ましい。トランジスタを有する層を積層して設けるとよい。つまり、トランジスタを集積化することで、回路面積を縮小することができ、半導体装置の小型化を図ることができる。
次いで、図67に示す半導体装置への情報の書き込み動作について説明する。
最初に、ノードFG1に接続されるデータ保持部へのデータ電圧の書き込み動作(以下、書き込み動作1とよぶ。)について説明する。なお、以下において、ノードFG1に接続されるデータ保持部に書きこむデータ電圧をVD1とし、トランジスタ4100の閾値電圧をVthとする。
書き込み動作1では、配線4003をVD1とし、配線4001を接地電位とした後に、電気的に浮遊状態とする。また配線4005、4006をハイレベルにする。また配線4007乃至4009をローレベルにする。すると、電気的に浮遊状態にあるノードFG2の電位が上昇し、トランジスタ4100に電流が流れる。電流が流れることで、配線4001の電位が上昇する。またトランジスタ4400、トランジスタ4200が導通状態となる。そのため、配線4001の電位の上昇につれて、ノードFG1、FG2の電位が上昇する。ノードFG2の電位が上昇し、トランジスタ4100でゲートとソースとの間の電圧(Vgs)がトランジスタ4100の閾値電圧Vthになると、トランジスタ4100を流れる電流が小さくなる。そのため、配線4001、ノードFG1、FG2の電位の上昇は止まり、VD1からVthだけ下がった「VD1−Vth」で一定となる。
つまり、配線4003に与えたVD1は、トランジスタ4100に電流が流れることで、配線4001に与えられ、ノードFG1、FG2の電位が上昇する。電位の上昇によって、ノードFG2の電位が「VD1−Vth」となると、トランジスタ4100のVgsがVthとなるため、電流が止まる。
次に、ノードFG2に接続されるデータ保持部へのデータ電圧の書き込み動作(以下、書き込み動作2とよぶ。)について説明する。なお、ノードFG2に接続されるデータ保持部に書きこむデータ電圧をVD2として説明する。
書き込み動作2では、配線4001をVD2とし、配線4003を接地電位とした後に、電気的に浮遊状態とする。また配線4007をハイレベルにする。また配線4005、4006、4008、4009をローレベルにする。トランジスタ4300を導通状態として配線4003をローレベルにする。そのため、ノードFG2の電位もローレベルにまで低下し、トランジスタ4100に電流が流れる。電流が流れることで、配線4003の電位が上昇する。またトランジスタ4300が導通状態となる。そのため、配線4003の電位の上昇につれて、ノードFG2の電位が上昇する。ノードFG2の電位が上昇し、トランジスタ4100でVgsがトランジスタ4100のVthになると、トランジスタ4100を流れる電流が小さくなる。そのため、配線4003、FG2の電位の上昇は止まり、VD2からVthだけ下がった「VD2−Vth」で一定となる。
つまり、配線4001に与えたVD2は、トランジスタ4100に電流が流れることで、配線4003に与えられ、ノードFG2の電位が上昇する。電位の上昇によって、ノードFG2の電位が「VD2−Vth」となると、トランジスタ4100のVgsがVthとなるため、電流が止まる。このとき、ノードFG1の電位は、トランジスタ4200、4400共に非導通状態であり、書き込み動作1で書きこんだ「VD1−Vth」が保持される。
図67に示す半導体装置では、複数のデータ保持部にデータ電圧を書きこんだのち、配線4009をハイレベルにして、ノードFG1、FG2の電位を上昇させる。そして、各トランジスタを非導通状態として、電荷の移動をなくし、書きこんだデータ電圧を保持する。
以上説明したノードFG1、FG2へのデータ電圧の書き込み動作によって、複数のデータ保持部にデータ電圧を保持させることができる。なお書きこまれる電位として、「VD1−Vth」や「VD2−Vth」を一例として挙げて説明したが、これらは多値のデータに対応するデータ電圧である。そのため、それぞれのデータ保持部で4ビットのデータを保持する場合、16値の「VD1−Vth」や「VD2−Vth」を取り得る。
次いで、図67に示す半導体装置からの情報の読み出し動作について説明する。
最初に、ノードFG2に接続されるデータ保持部へのデータ電圧の読み出し動作(以下、読み出し動作1とよぶ。)について説明する。
読み出し動作1では、プリチャージを行ってから電気的に浮遊状態とした、配線4003を放電させる。配線4005乃至4008をローレベルにする。また、配線4009をローレベルとして、電気的に浮遊状態にあるノードFG2の電位を「VD2−Vth」とする。ノードFG2の電位が下がることで、トランジスタ4100に電流が流れる。電流が流れることで、電気的に浮遊状態の配線4003の電位が低下する。配線4003の電位の低下につれて、トランジスタ4100のVgsが小さくなる。トランジスタ4100のVgsがトランジスタ4100のVthになると、トランジスタ4100を流れる電流が小さくなる。すなわち、配線4003の電位が、ノードFG2の電位「VD2−Vth」からVthだけ大きい値である「VD2」となる。この配線4003の電位は、ノードFG2に接続されるデータ保持部のデータ電圧に対応する。読み出されたアナログ値のデータ電圧はA/D変換を行い、ノードFG2に接続されるデータ保持部のデータを取得する。
つまり、プリチャージ後の配線4003を浮遊状態とし、配線4009の電位をハイレベルからローレベルに切り替えることで、トランジスタ4100に電流が流れる。電流が流れることで、浮遊状態にあった配線4003の電位は低下して「VD2」となる。トランジスタ4100では、ノードFG2の「VD2−Vth」との間のVgsがVthとなるため、電流が止まる。そして、配線4003には、書き込み動作2で書きこんだ「VD2」が読み出される。
ノードFG2に接続されるデータ保持部のデータを取得したら、トランジスタ4300を導通状態として、ノードFG2の「VD2−Vth」を放電させる。
次に、ノードFG1に保持される電荷をノードFG2に分配し、ノードFG1に接続されるデータ保持部のデータ電圧を、ノードFG2に接続されるデータ保持部に移す。ここで、配線4001、4003をローレベルとする。配線4006をハイレベルにする。また、配線4005、配線4007乃至4009をローレベルにする。トランジスタ4200が導通状態となることで、ノードFG1の電荷が、ノードFG2との間で分配される。
ここで、電荷の分配後の電位は、書きこんだ電位「VD1−Vth」から低下する。そのため、容量素子4600の容量値は、容量素子4500の容量値よりも大きくしておくことが好ましい。あるいは、ノードFG1に書きこむ電位「VD1−Vth」は、同じデータを表す電位「VD2−Vth」よりも大きくすることが好ましい。このように、容量値の比を変えること、予め書きこむ電位を大きくしておくことで、電荷の分配後の電位の低下を抑制することができる。電荷の分配による電位の変動については、後述する。
次に、ノードFG1に接続されるデータ保持部へのデータ電圧の読み出し動作(以下、読み出し動作2とよぶ。)について説明する。
読み出し動作2では、プリチャージを行ってから電気的に浮遊状態とした、配線4003を放電させる。配線4005乃至4008をローレベルにする。また、配線4009は、プリチャージ時にハイレベルとして、その後ローレベルとする。配線4009をローレベルとすることで、電気的に浮遊状態にあるノードFG2を電位「VD1−Vth」とする。ノードFG2の電位が下がることで、トランジスタ4100に電流が流れる。電流が流れることで、電気的に浮遊状態の配線4003の電位が低下する。配線4003の電位の低下につれて、トランジスタ4100のVgsが小さくなる。トランジスタ4100のVgsがトランジスタ4100のVthになると、トランジスタ4100を流れる電流が小さくなる。すなわち、配線4003の電位が、ノードFG2の電位「VD1−Vth」からVthだけ大きい値である「VD1」となる。この配線4003の電位は、ノードFG1に接続されるデータ保持部のデータ電圧に対応する。読み出されたアナログ値のデータ電圧はA/D変換を行い、ノードFG1に接続されるデータ保持部のデータを取得する。以上が、ノードFG1に接続されるデータ保持部へのデータ電圧の読み出し動作である。
つまり、プリチャージ後の配線4003を浮遊状態とし、配線4009の電位をハイレベルからローレベルに切り替えることで、トランジスタ4100に電流が流れる。電流が流れることで、浮遊状態にあった配線4003の電位は低下して「VD1」となる。トランジスタ4100では、ノードFG2の「VD1−Vth」との間のVgsがVthとなるため、電流が止まる。そして、配線4003には、書き込み動作1で書きこんだ「VD1」が読み出される。
以上説明したノードFG1、FG2からのデータ電圧の読み出し動作によって、複数のデータ保持部からデータ電圧を読み出すことができる。例えば、ノードFG1およびノードFG2にそれぞれ4ビット(16値)のデータを保持することで計8ビット(256値)のデータを保持することができる。また、図67においては、第1の層4021乃至第3の層4023からなる構成としたが、さらに層を形成することによって、半導体装置の面積を増大させず記憶容量の増加を図ることができる。
なお読み出される電位は、書きこんだデータ電圧よりVthだけ大きい電圧として読み出すことができる。そのため、書き込み動作で書きこんだ「VD1−Vth」や「VD2−Vth」のVthを相殺して読み出す構成とすることができる。その結果、メモリセルあたりの記憶容量を向上させるとともに、読み出されるデータを正しいデータに近づけることができるため、データの信頼性に優れたものとすることができる。
本実施の形態に示す構成は、他の実施の形態に示す構成と適宜組み合わせて用いることができる。
(実施の形態4)
本実施の形態では、上述の実施の形態で説明したOSトランジスタを適用可能な回路構成の一例について、図68乃至図71を用いて説明する。
図68(A)にインバータの回路図を示す。インバータ800は、入力端子INに与える信号の論理を反転した信号を出力端子OUTから出力する。インバータ800は、複数のOSトランジスタを有する。信号SBGは、OSトランジスタの電気特性を切り替えることができる信号である。
図68(B)に、インバータ800の一例を示す。インバータ800は、OSトランジスタ810、およびOSトランジスタ820を有する。インバータ800は、nチャネル型トランジスタで作製することができるため、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)でインバータ(CMOSインバータ)を作製する場合と比較して、低コストで作製することが可能である。
なおOSトランジスタを有するインバータ800は、Siトランジスタで構成されるCMOS上に配置することもできる。インバータ800は、CMOSの回路に重ねて配置できるため、インバータ800を追加する分の回路面積の増加を抑えることができる。
OSトランジスタ810、820は、フロントゲートとして機能する第1ゲートと、バックゲートとして機能する第2ゲートと、ソースまたはドレインの一方として機能する第1端子と、ソースまたはドレインの他方として機能する第2端子を有する。
OSトランジスタ810の第1ゲートは、第2端子に接続される。OSトランジスタ810の第2ゲートは、信号SBGを供給する配線に接続される。OSトランジスタ810の第1端子は、電圧VDDを与える配線に接続される。OSトランジスタ810の第2端子は、出力端子OUTに接続される。
OSトランジスタ820の第1ゲートは、入力端子INに接続される。OSトランジスタ820の第2ゲートは、入力端子INに接続される。OSトランジスタ820の第1端子は、出力端子OUTに接続される。OSトランジスタ820の第2端子は、電圧VSSを与える配線に接続される。
図68(C)は、インバータ800の動作を説明するためのタイミングチャートである。図68(C)のタイミングチャートでは、入力端子INの信号波形、出力端子OUTの信号波形、信号SBGの信号波形、およびOSトランジスタ810(FET810)の閾値電圧の変化について示している。
信号SBGはOSトランジスタ810の第2ゲートに与えることで、OSトランジスタ810の閾値電圧を制御することができる。
信号SBGは、閾値電圧をマイナスシフトさせるための電圧VBG_A、閾値電圧をプラスシフトさせるための電圧VBG_Bを有する。第2ゲートに電圧VBG_Aを与えることで、OSトランジスタ810は閾値電圧VTH_Aにマイナスシフトさせることができる。また、第2ゲートに電圧VBG_Bを与えることで、OSトランジスタ810は閾値電圧VTH_Bにプラスシフトさせることができる。
前述の説明を可視化するために、図69(A)には、トランジスタの電気特性の一つである、Vg−Idカーブを示す。
上述したOSトランジスタ810の電気特性は、第2ゲートの電圧を電圧VBG_Aのように大きくすることで、図69(A)中の破線840で表される曲線にシフトさせることができる。また、上述したOSトランジスタ810の電気特性は、第2ゲートの電圧を電圧VBG_Bのように小さくすることで、図69(A)中の実線841で表される曲線にシフトさせることができる。図69(A)に示すように、OSトランジスタ810は、信号SBGを電圧VBG_Aあるいは電圧VBG_Bというように切り替えることで、閾値電圧をプラスシフトあるいはマイナスシフトさせることができる。
閾値電圧を閾値電圧VTH_Bにプラスシフトさせることで、OSトランジスタ810は電流が流れにくい状態とすることができる。図69(B)には、この状態を可視化して示す。図69(B)に図示するように、OSトランジスタ810に流れる電流IBを極めて小さくすることができる。そのため、入力端子INに与える信号がハイレベルでOSトランジスタ820はオン状態(ON)のとき、出力端子OUTの電圧を急峻に下降させることができる。
図69(B)に図示したように、OSトランジスタ810に流れる電流が流れにくい状態とすることができるため、図68(C)に示すタイミングチャートにおける出力端子の信号波形831を急峻に変化させることができる。電圧VDDを与える配線と、電圧VSSを与える配線との間に流れる貫通電流を少なくすることができるため、低消費電力での動作を行うことができる。
また、閾値電圧を閾値電圧VTH_Aにマイナスシフトさせることで、OSトランジスタ810は電流が流れやすい状態とすることができる。図69(C)には、この状態を可視化して示す。図69(C)に図示するように、このとき流れる電流IAを少なくとも電流IBよりも大きくすることができる。そのため、入力端子INに与える信号がローレベルでOSトランジスタ820はオフ状態(OFF)のとき、出力端子OUTの電圧を急峻に上昇させることができる。
図69(C)に図示したように、OSトランジスタ810に流れる電流が流れやすい状態とすることができるため、図68(C)に示すタイミングチャートにおける出力端子の信号波形832を急峻に変化させることができる。
なお、信号SBGによるOSトランジスタ810の閾値電圧の制御は、OSトランジスタ820の状態が切り替わる以前、すなわち時刻T1やT2よりも前に行うことが好ましい。例えば、図68(C)に図示するように、入力端子INに与える信号がハイレベルに切り替わる時刻T1よりも前に、閾値電圧VTH_Aから閾値電圧VTH_BにOSトランジスタ810の閾値電圧を切り替えることが好ましい。また、図68(C)に図示するように、入力端子INに与える信号がローレベルに切り替わる時刻T2よりも前に、閾値電圧VTH_Bから閾値電圧VTH_AにOSトランジスタ810の閾値電圧を切り替えることが好ましい。
なお図68(C)のタイミングチャートでは、入力端子INに与える信号に応じて信号SBGを切り替える構成を示したが、別の構成としてもよい。たとえば閾値電圧を制御するための電圧は、フローティング状態としたOSトランジスタ810の第2ゲートに保持させる構成としてもよい。当該構成を実現可能な回路構成の一例について、図70(A)に示す。
図70(A)では、図68(B)で示した回路構成に加えて、OSトランジスタ850を有する。OSトランジスタ850の第1端子は、OSトランジスタ810の第2ゲートに接続される。またOSトランジスタ850の第2端子は、電圧VBG_B(あるいは電圧VBG_A)を与える配線に接続される。OSトランジスタ850の第1ゲートは、信号SFを与える配線に接続される。OSトランジスタ850の第2ゲートは、電圧VBG_B(あるいは電圧VBG_A)を与える配線に接続される。
図70(A)の動作について、図70(B)のタイミングチャートを用いて説明する。
OSトランジスタ810の閾値電圧を制御するための電圧は、入力端子INに与える信号がハイレベルに切り替わる時刻T3よりも前に、OSトランジスタ810の第2ゲートに与える構成とする。信号SFをハイレベルとしてOSトランジスタ850をオン状態とし、ノードNBGに閾値電圧を制御するための電圧VBG_Bを与える。
ノードNBGが電圧VBG_Bとなった後は、OSトランジスタ850をオフ状態とする。OSトランジスタ850は、オフ電流が極めて小さいため、オフ状態にし続けることで、ノードNBGを非常にフローティング状態に近い状態にして、一旦ノードNBGに保持させた電圧VBG_Bを保持することができる。そのため、OSトランジスタ850の第2ゲートに電圧VBG_Bを与える動作の回数が減るため、電圧VBG_Bの書き換えに要する分の消費電力を小さくすることができる。
なお図68(B)および図70(A)の回路構成では、OSトランジスタ810の第2ゲートに与える電圧を外部からの制御によって与える構成について示したが、別の構成としてもよい。たとえば閾値電圧を制御するための電圧を、入力端子INに与える信号を基に生成し、OSトランジスタ810の第2ゲートに与える構成としてもよい。当該構成を実現可能な回路構成の一例について、図71(A)に示す。
図71(A)では、図68(B)で示した回路構成において、入力端子INとOSトランジスタ810の第2ゲートとの間にCMOSインバータ860を有する。CMOSインバータ860の入力端子は、入力端子INに接続さえる。CMOSインバータ860の出力端子は、OSトランジスタ810の第2ゲートに接続される。
図71(A)の動作について、図71(B)のタイミングチャートを用いて説明する。図71(B)のタイミングチャートでは、入力端子INの信号波形、出力端子OUTの信号波形、CMOSインバータ860の出力波形IN_B、およびOSトランジスタ810(FET810)の閾値電圧の変化について示している。
入力端子INに与える信号の論理を反転した信号である出力波形IN_Bは、OSトランジスタ810の閾値電圧を制御する信号とすることができる。したがって、図68(A)乃至(C)で説明したように、OSトランジスタ810の閾値電圧を制御できる。例えば、図71(B)における時刻T4となるとき、入力端子INに与える信号がハイレベルでOSトランジスタ820はオン状態となる。このとき、出力波形IN_Bはローレベルとなる。そのため、OSトランジスタ810は電流が流れにくい状態とすることができ、出力端子OUTの電圧を急峻に下降させることができる。
また図71(B)における時刻T5となるとき、入力端子INに与える信号がローレベルでOSトランジスタ820はオフ状態となる。このとき、出力波形IN_Bはハイレベルとなる。そのため、OSトランジスタ810は電流が流れやすい状態とすることができ、出力端子OUTの電圧を急峻に上昇させることができる。
以上説明したように本実施の形態の構成では、OSトランジスタを有するインバータにおける、バックゲートの電圧を入力端子INの信号の論理にしたがって切り替える。当該構成とすることで、OSトランジスタの閾値電圧を制御することができる。入力端子INに与える信号によってOSトランジスタの閾値電圧を制御することで、出力端子OUTの電圧を急峻に変化させることができる。また、電源電圧を与える配線間の貫通電流を小さくすることができる。そのため、低消費電力化を図ることができる。
本実施の形態に示す構成は、他の実施の形態に示す構成と適宜組み合わせて用いることができる。
(実施の形態5)
本実施の形態では、上述の実施の形態で説明したOSトランジスタを有する複数の回路を有する半導体装置の一例について、図72乃至図78を用いて説明する。
図72(A)は、半導体装置900のブロック図である。半導体装置900は、電源回路901、回路902、電圧生成回路903、回路904、電圧生成回路905および回路906を有する。
電源回路901は、基準となる電圧VORGを生成する回路である。電圧VORGは、単一の電圧ではなく、複数の電圧でもよい。電圧VORGは、半導体装置900の外部から与えられる電圧V0を基に生成することができる。半導体装置900は、外部から与えられる単一の電源電圧を基に電圧VORGを生成できる。そのため半導体装置900は、外部から電源電圧を複数与えることなく動作することができる。
回路902、904および906は、異なる電源電圧で動作する回路である。例えば回路902の電源電圧は、電圧VORGと電圧VSS(VORG>VSS)とによって印加される電圧である。また、例えば回路904の電源電圧は、電圧VPOGと電圧VSS(VPOG>VORG)とによって印加される電圧である。また、例えば回路906の電源電圧は、電圧VORGと電圧VNEG(VORG>VSS>VNEG)とによって印加される電圧である。なお電圧VSSは、グラウンド(GND)と等電位とすれば、電源回路901で生成する電圧の種類を削減できる。
電圧生成回路903は、電圧VPOGを生成する回路である。電圧生成回路903は、電源回路901から与えられる電圧VORGを基に電圧VPOGを生成できる。そのため、回路904を有する半導体装置900は、外部から与えられる単一の電源電圧を基に動作することができる。
電圧生成回路905は、電圧VNEGを生成する回路である。電圧生成回路905は、電源回路901から与えられる電圧VORGを基に電圧VNEGを生成できる。そのため、回路906を有する半導体装置900は、外部から与えられる単一の電源電圧を基に動作することができる。
図72(B)は電圧VPOGで動作する回路904の一例、図72(C)は回路904を動作させるための信号の波形の一例である。
図72(B)では、トランジスタ911を示している。トランジスタ911のゲートに与える信号は、例えば、電圧VPOGと電圧VSSを基に生成される。当該信号は、トランジスタ911を導通状態とする動作時に電圧VPOG、非導通状態とする動作時に電圧VSSとする。電圧VPOGは、図72(C)に図示するように、電圧VORGより大きい。そのため、トランジスタ911は、ソース(S)とドレイン(D)との間を導通状態とする動作を、より確実に行うことができる。その結果、回路904は、誤動作が低減された回路とすることができる。
図72(D)は電圧VNEGで動作する回路906の一例、図72(E)は回路906を動作させるための信号の波形の一例である。
図72(D)では、バックゲートを有するトランジスタ912を示している。トランジスタ912のゲートに与える信号は、例えば、電圧VORGと電圧VSSを基にして生成される。当該信号は、トランジスタ911を導通状態とする動作時に電圧VORG、非導通状態とする動作時に電圧VSSとする。また、トランジスタ912のバックゲートに与える電圧は、電圧VNEGを基に生成される。電圧VNEGは、図72(E)に図示するように、電圧VSS(GND)より小さい。そのため、トランジスタ912の閾値電圧は、プラスシフトするように制御することができる。そのため、トランジスタ912をより確実に非導通状態とすることができ、ソース(S)とドレイン(D)との間を流れる電流を小さくできる。その結果、回路906は、誤動作が低減され、且つ低消費電力化が図られた回路とすることができる。
なお電圧VNEGは、トランジスタ912のバックゲートに直接与える構成としてもよい。あるいは、電圧VORGと電圧VNEGを基に、トランジスタ912のゲートに与える信号を生成し、当該信号をトランジスタ912のバックゲートに与える構成としてもよい。
また図73(A)、(B)には、図72(D)、(E)の変形例を示す。
図73(A)に示す回路図では、電圧生成回路905と、回路906と、の間に制御回路921によって導通状態が制御できるトランジスタ922を示す。トランジスタ922は、nチャネル型のOSトランジスタとする。制御回路921が出力する制御信号SBGは、トランジスタ922の導通状態を制御する信号である。また回路906が有するトランジスタ912A、912Bは、トランジスタ922と同じOSトランジスタである。
図73(B)のタイミングチャートには、制御信号SBGと、トランジスタ912A、912Bのバックゲートの電位の状態をノードNBGの電位の変化で示す。制御信号SBGがハイレベルのときにトランジスタ922が導通状態となり、ノードNBGが電圧VNEGとなる。その後、制御信号SBGがローレベルのときにノードNBGが電気的にフローティングとなる。トランジスタ922は、OSトランジスタであるため、オフ電流が小さい。そのため、ノードNBGが電気的にフローティングであっても、一旦与えた電圧VNEGを保持することができる。
また図74(A)には、上述した電圧生成回路903に適用可能な回路構成の一例を示す。図74(A)に示す電圧生成回路903は、ダイオードD1乃至D5、キャパシタC1乃至C5、およびインバータINVを有する5段のチャージポンプである。クロック信号CLKは、キャパシタC1乃至C5に直接、あるいはインバータINVを介して与えられる。インバータINVの電源電圧を、電圧VORGと電圧VSSとによって印加される電圧とすると、クロック信号CLKによって、電圧VORGの5倍の正電圧に昇圧された電圧VPOGを得ることができる。なお、ダイオードD1乃至D5の順方向電圧は0Vとしている。また、チャージポンプの段数を変更することで、所望の電圧VPOGを得ることができる。
また図74(B)には、上述した電圧生成回路905に適用可能な回路構成の一例を示す。図74(B)に示す電圧生成回路905は、ダイオードD1乃至D5、キャパシタC1乃至C5、およびインバータINVを有する4段のチャージポンプである。クロック信号CLKは、キャパシタC1乃至C5に直接、あるいはインバータINVを介して与えられる。インバータINVの電源電圧を、電圧VORGと電圧Vssとによって印加される電圧とすると、クロック信号CLKによって、グラウンド、すなわち電圧VSSから電圧VORGの4倍の負電圧に降圧された電圧VNEGを得ることができる。なお、ダイオードD1乃至D5の順方向電圧は0Vとしている。また、チャージポンプの段数を変更することで、所望の電圧VNEGを得ることができる。
なお上述した電圧生成回路903の回路構成は、図74(A)で示す回路図の構成に限らない。電圧生成回路903の変形例を図75(A)乃至(C)、図76(A)、(B)に示す。
図75(A)に示す電圧生成回路903Aは、トランジスタM1乃至M10、キャパシタC11乃至C14、およびインバータINV1を有する。クロック信号CLKは、トランジスタM1乃至M10のゲートに直接、あるいはインバータINV1を介して与えられる。クロック信号CLKによって、電圧VORGの4倍の正電圧に昇圧された電圧VPOGを得ることができる。なお、段数を変更することで、所望の電圧VPOGを得ることができる。図75(A)に示す電圧生成回路903Aは、トランジスタM1乃至M10をOSトランジスタとすることでオフ電流を小さくでき、キャパシタC11乃至C14に保持した電荷の漏れを抑制できる。そのため、効率的に電圧VORGから電圧VPOGへの昇圧を図ることができる。また、上記のOSトランジスタはオン電流が大きく、サブスレッショルドスイング値を小さくできるので動作速度の向上を図ることができる。
また図75(B)に示す電圧生成回路903Bは、トランジスタM11乃至M14、キャパシタC15、C16、およびインバータINV2を有する。クロック信号CLKは、トランジスタM11乃至M14のゲートに直接、あるいはインバータINV2を介して与えられる。クロック信号CLKによって、電圧VORGの2倍の正電圧に昇圧された電圧VPOGを得ることができる。図75(B)に示す電圧生成回路903Bは、トランジスタM11乃至M14をOSトランジスタとすることでオフ電流を小さくでき、キャパシタC15、C16に保持した電荷の漏れを抑制できる。そのため、効率的に電圧VORGから電圧VPOGへの昇圧を図ることができる。また、上記のOSトランジスタはオン電流が大きく、サブスレッショルドスイング値を小さくできるので動作速度の向上を図ることができる。
また図75(C)に示す電圧生成回路903Cは、インダクタI11、トランジスタM15、ダイオードD6、およびキャパシタC17を有する。トランジスタM15は、制御信号ENによって、導通状態が制御される。制御信号ENによって、電圧VORGが昇圧された電圧VPOGを得ることができる。図75(C)に示す電圧生成回路903Cは、インダクタI11を用いて電圧の昇圧を行うため、変換効率の高い電圧の昇圧を行うことができる。
また図76(A)に示す電圧生成回路903Dは、図74(A)に示す電圧生成回路903のダイオードD1乃至D5をダイオード接続したトランジスタM16乃至M20に置き換えた構成に相当する。図76(A)に示す電圧生成回路903Dは、トランジスタM16乃至M20をOSトランジスタとすることでオフ電流を小さくでき、キャパシタC1乃至C5に保持した電荷の漏れを抑制できる。そのため、効率的に電圧VORGから電圧VPOGへの昇圧を図ることができる。また、上記のOSトランジスタはオン電流が大きく、サブスレッショルドスイング値を小さくできるので動作速度の向上を図ることができる。
また図76(B)に示す電圧生成回路903Eは、図76(A)に示す電圧生成回路903DのトランジスタM16乃至M20を、バックゲートを有するトランジスタM21乃至M25に置き換えた構成に相当する。図76(B)に示す電圧生成回路903Eは、バックゲートにゲートと同じ電圧を与えることができるため、トランジスタを流れる電流量を増やすことができる。そのため、効率的に電圧VORGから電圧VPOGへの昇圧を図ることができる。
なお電圧生成回路903の変形例は、図74(B)に示した電圧生成回路905にも適用可能である。この場合の回路図の構成を図77(A)乃至(C)、図78(A)、(B)に示す。図77(A)に示す電圧生成回路905Aは、クロック信号CLKによって、電圧VSSから電圧VORGの3倍の負電圧に降圧された電圧VNEGを得ることができる。また図77(B)に示す電圧生成回路905Aは、クロック信号CLKによって、電圧VSSから電圧VORGの2倍の負電圧に降圧された電圧VNEGを得ることができる。
図77(A)乃至(C)、図78(A)、(B)に示す電圧生成回路905A乃至905Eでは、図75(A)乃至(C)、図76(A)、(B)に示す電圧生成回路903A乃至903Eにおいて、各配線に与える電圧を変更すること、あるいは素子の配置を変更した構成に相当する。図77(A)乃至(C)、図78(A)、(B)は、電圧生成回路905A乃至905Eと同様に、効率的に電圧VORGから電圧VNEGへの降圧を図ることができる。
以上説明したように本実施の形態の構成では、半導体装置が有する回路に必要な電圧を内部で生成することができる。そめため半導体装置は、外部から与える電源電圧の種類を削減できる。
本実施の形態に示す構成は、他の実施の形態に示す構成と適宜組み合わせて用いることができる。
(実施の形態6)
本実施の形態においては、本発明の一態様に係るトランジスタや上述した記憶装置などの半導体装置を含むCPUの一例について説明する。
<CPUの構成>
図79に示す半導体装置400は、CPUコア401、パワーマネージメントユニット421および周辺回路422を有する。パワーマネージメントユニット421は、パワーコントローラ402、およびパワースイッチ403を有する。周辺回路422は、キャッシュメモリを有するキャッシュ404、バスインターフェース(BUS I/F)405、及びデバッグインターフェース(Debug I/F)406を有する。CPUコア401は、データバス423、制御装置407、PC(プログラムカウンタ)408、パイプラインレジスタ409、パイプラインレジスタ410、ALU(Arithmetic logic unit)411、及びレジスタファイル412を有する。CPUコア401と、キャッシュ404等の周辺回路422とのデータのやり取りは、データバス423を介して行われる。
半導体装置(セル)は、パワーコントローラ402、制御装置407をはじめ、多くの論理回路に適用することができる。特に、スタンダードセルを用いて構成することができる全ての論理回路に適用することができる。その結果、小型の半導体装置400を提供できる。また、消費電力低減することが可能な半導体装置400を提供できる。また、動作速度を向上することが可能な半導体装置400を提供できる。また、電源電圧の変動を低減することが可能な半導体装置400を提供できる。
半導体装置(セル)に、pチャネル型Siトランジスタと、先の実施の形態に記載の酸化物半導体(好ましくはIn、Ga、及びZnを含む酸化物)をチャネル形成領域に含むトランジスタとを用い、該半導体装置(セル)を半導体装置400に適用することで、小型の半導体装置400を提供できる。また、消費電力低減することが可能な半導体装置400を提供できる。また、動作速度を向上することが可能な半導体装置400を提供できる。特に、Siトランジスタはpチャネル型のみとすることで、製造コストを低く抑えることができる。
制御装置407は、PC408、パイプラインレジスタ409、パイプラインレジスタ410、ALU411、レジスタファイル412、キャッシュ404、バスインターフェース405、デバッグインターフェース406、及びパワーコントローラ402の動作を統括的に制御することで、入力されたアプリケーションなどのプログラムに含まれる命令をデコードし、実行する機能を有する。
ALU411は、四則演算、論理演算などの各種演算処理を行う機能を有する。
キャッシュ404は、使用頻度の高いデータを一時的に記憶しておく機能を有する。PC408は、次に実行する命令のアドレスを記憶する機能を有するレジスタである。なお、図79では図示していないが、キャッシュ404には、キャッシュメモリの動作を制御するキャッシュコントローラが設けられている。
パイプラインレジスタ409は、命令データを一時的に記憶する機能を有するレジスタである。
レジスタファイル412は、汎用レジスタを含む複数のレジスタを有しており、メインメモリから読み出されたデータ、またはALU411の演算処理の結果得られたデータ、などを記憶することができる。
パイプラインレジスタ410は、ALU411の演算処理に利用するデータ、またはALU411の演算処理の結果得られたデータなどを一時的に記憶する機能を有するレジスタである。
バスインターフェース405は、半導体装置400と半導体装置400の外部にある各種装置との間におけるデータの経路としての機能を有する。デバッグインターフェース406は、デバッグの制御を行うための命令を半導体装置400に入力するための信号の経路としての機能を有する。
パワースイッチ403は、半導体装置400が有する、パワーコントローラ402以外の各種回路への、電源電圧の供給を制御する機能を有する。上記各種回路は、幾つかのパワードメインにそれぞれ属しており、同一のパワードメインに属する各種回路は、パワースイッチ403によって電源電圧の供給の有無が制御される。また、パワーコントローラ402はパワースイッチ403の動作を制御する機能を有する。
上記構成を有する半導体装置400は、パワーゲーティングを行うことが可能である。パワーゲーティングの動作の流れについて、一例を挙げて説明する。
まず、CPUコア401が、電源電圧の供給を停止するタイミングを、パワーコントローラ402のレジスタに設定する。次いで、CPUコア401からパワーコントローラ402へ、パワーゲーティングを開始する旨の命令を送る。次いで、半導体装置400内に含まれる各種レジスタとキャッシュ404が、データの退避を開始する。次いで、半導体装置400が有するパワーコントローラ402以外の各種回路への電源電圧の供給が、パワースイッチ403により停止される。次いで、割込み信号がパワーコントローラ402に入力されることで、半導体装置400が有する各種回路への電源電圧の供給が開始される。なお、パワーコントローラ402にカウンタを設けておき、電源電圧の供給が開始されるタイミングを、割込み信号の入力に依らずに、当該カウンタを用いて決めるようにしてもよい。次いで、各種レジスタとキャッシュ404が、データの復帰を開始する。次いで、制御装置407における命令の実行が再開される。
このようなパワーゲーティングは、プロセッサ全体、もしくはプロセッサを構成する一つ、または複数の論理回路において行うことができる。また、短い時間でも電源の供給を停止することができる。このため、空間的に、あるいは時間的に細かい粒度で消費電力の削減を行うことができる。
パワーゲーティングを行う場合、CPUコア401や周辺回路422が保持する情報を短期間に退避できることが好ましい。そうすることで、短期間に電源のオンオフが可能となり、省電力の効果が大きくなる。
CPUコア401や周辺回路422が保持する情報を短期間に退避するためには、フリップフロップ回路がその回路内でデータ退避できることが好ましい(バックアップ可能なフリップフロップ回路と呼ぶ)。また、SRAMセルがセル内でデータ退避できることが好ましい(バックアップ可能なSRAMセルと呼ぶ)。バックアップ可能なフリップフロップ回路やSRAMセルは、酸化物半導体(好ましくはIn、Ga、及びZnを含む酸化物)をチャネル形成領域に含むトランジスタを有することが好ましい。その結果、トランジスタが低いオフ電流を有することで、バックアップ可能なフリップフロップ回路やSRAMセルは長期間電源供給なしに情報を保持することができる。また、トランジスタが高速なスイッチング速度を有することで、バックアップ可能なフリップフロップ回路やSRAMセルは短期間のデータ退避および復帰が可能となる場合がある。
バックアップ可能なフリップフロップ回路の例について、図80を用いて説明する。
図80に示す半導体装置500は、バックアップ可能なフリップフロップ回路の一例である。半導体装置500は、第1の記憶回路501と、第2の記憶回路502と、第3の記憶回路503と、読み出し回路504と、を有する。半導体装置500には、電位V1と電位V2の電位差が、電源電圧として供給される。電位V1と電位V2は一方がハイレベルであり、他方がローレベルである。以下、電位V1がローレベル、電位V2がハイレベルの場合を例に挙げて、半導体装置500の構成例について説明するものとする。
第1の記憶回路501は、半導体装置500に電源電圧が供給されている期間において、データを含む信号Dが入力されると、当該データを保持する機能を有する。そして、半導体装置500に電源電圧が供給されている期間において、第1の記憶回路501からは、保持されているデータを含む信号Qが出力される。一方、第1の記憶回路501は、半導体装置500に電源電圧が供給されていない期間においては、データを保持することができない。すなわち、第1の記憶回路501は、揮発性の記憶回路と呼ぶことができる。
第2の記憶回路502は、第1の記憶回路501に保持されているデータを読み込んで記憶する(あるいは退避する)機能を有する。第3の記憶回路503は、第2の記憶回路502に保持されているデータを読み込記憶する(あるいは退避する)機能を有する。読み出し回路504は、第2の記憶回路502または第3の記憶回路503に保持されたデータを読み出して第1の記憶回路501に記憶する(あるいは復帰する)機能を有する。
特に、第3の記憶回路503は、半導体装置500に電源電圧が供給されてない期間においても、第2の記憶回路502に保持されているデータを読み込記憶する(あるいは退避する)機能を有する。
図80に示すように、第2の記憶回路502はトランジスタ512と容量素子519とを有する。第3の記憶回路503はトランジスタ513と、トランジスタ515と、容量素子520とを有する。読み出し回路504はトランジスタ510と、トランジスタ518と、トランジスタ509と、トランジスタ517と、を有する。
トランジスタ512は、第1の記憶回路501に保持されているデータに応じた電荷を、容量素子519に充放電する機能を有する。トランジスタ512は、第1の記憶回路501に保持されているデータに応じた電荷を容量素子519に対して高速に充放電できることが望ましい。具体的には、トランジスタ512が、結晶性を有するシリコン(好ましくは多結晶シリコン、更に好ましくは単結晶シリコン)をチャネル形成領域に含むことが望ましい。
トランジスタ513は、容量素子519に保持されている電荷に従って導通状態または非導通状態が選択される。トランジスタ515は、トランジスタ513が導通状態であるときに、配線544の電位に応じた電荷を容量素子520に充放電する機能を有する。トランジスタ515は、オフ電流が著しく小さいことが望ましい。具体的には、トランジスタ515が、酸化物半導体(好ましくはIn、Ga、及びZnを含む酸化物)をチャネル形成領域に含むことが望ましい。
各素子の接続関係を具体的に説明すると、トランジスタ512のソース及びドレインの一方は、第1の記憶回路501に接続されている。トランジスタ512のソース及びドレインの他方は、容量素子519の一方の電極、トランジスタ513のゲート、及びトランジスタ518のゲートに接続されている。容量素子519の他方の電極は、配線542に接続されている。トランジスタ513のソース及びドレインの一方は、配線544に接続されている。トランジスタ513のソース及びドレインの他方は、トランジスタ515のソース及びドレインの一方に接続されている。トランジスタ515のソース及びドレインの他方は、容量素子520の一方の電極、及びトランジスタ510のゲートに接続されている。容量素子520の他方の電極は、配線543に接続されている。トランジスタ510のソース及びドレインの一方は、配線541に接続されている。トランジスタ510のソース及びドレインの他方は、トランジスタ518のソース及びドレインの一方に接続されている。トランジスタ518のソース及びドレインの他方は、トランジスタ509のソース及びドレインの一方に接続されている。トランジスタ509のソース及びドレインの他方は、トランジスタ517のソース及びドレインの一方、及び第1の記憶回路501に接続されている。トランジスタ517のソース及びドレインの他方は、配線540に接続されている。また、図80においては、トランジスタ509のゲートは、トランジスタ517のゲートと接続されているが、トランジスタ509のゲートは、必ずしもトランジスタ517のゲートと接続されていなくてもよい。
トランジスタ515に先の実施の形態で例示したトランジスタを適用することができる。トランジスタ515のオフ電流が小さいために、半導体装置500は、長期間電源供給なしに情報を保持することができる。トランジスタ515のスイッチング特性が良好であるために、半導体装置500は、高速のバックアップとリカバリを行うことができる。
本実施の形態に示す構成は、他の実施の形態に示す構成と適宜組み合わせて用いることができる。
(実施の形態7)
本実施の形態においては、本発明の一態様に係るトランジスタなどを利用した撮像装置の一例について説明する。
<撮像装置>
以下では、本発明の一態様に係る撮像装置について説明する。
図81(A)は、本発明の一態様に係る撮像装置2200の例を示す平面図である。撮像装置2200は、画素部2210と、画素部2210を駆動するための周辺回路2260と、周辺回路2270、周辺回路2280と、周辺回路2290と、を有する。画素部2210は、p行q列(pおよびqは2以上の整数)のマトリクス状に配置された複数の画素2211を有する。周辺回路2260、周辺回路2270、周辺回路2280および周辺回路2290は、それぞれ複数の画素2211に接続し、複数の画素2211を駆動するための信号を供給する機能を有する。なお、本明細書等において、周辺回路2260、周辺回路2270、周辺回路2280および周辺回路2290などの全てを指して「周辺回路」または「駆動回路」と呼ぶ場合がある。例えば、周辺回路2260は周辺回路の一部といえる。
また、撮像装置2200は、光源2291を有することが好ましい。光源2291は、検出光P1を放射することができる。
また、周辺回路は、少なくとも、論理回路、スイッチ、バッファ、増幅回路、または変換回路の1つを有する。また、周辺回路は、画素部2210を形成する基板上に形成してもよい。また、周辺回路の一部または全部にICチップ等の半導体装置を用いてもよい。なお、周辺回路は、周辺回路2260、周辺回路2270、周辺回路2280および周辺回路2290のいずれか一以上を省略してもよい。
また、図81(B)に示すように、撮像装置2200が有する画素部2210において、画素2211を傾けて配置してもよい。画素2211を傾けて配置することにより、行方向および列方向の画素間隔(ピッチ)を短くすることができる。これにより、撮像装置2200における撮像の品質をより高めることができる。
<画素の構成例1>
撮像装置2200が有する1つの画素2211を複数の副画素2212で構成し、それぞれの副画素2212に特定の波長域の光を透過するフィルタ(カラーフィルタ)を組み合わせることで、カラー画像表示を実現するための情報を取得することができる。
図82(A)は、カラー画像を取得するための画素2211の一例を示す平面図である。図82(A)に示す画素2211は、赤(R)の波長域の光を透過するカラーフィルタが設けられた副画素2212(以下、「副画素2212R」ともいう)、緑(G)の波長域の光を透過するカラーフィルタが設けられた副画素2212(以下、「副画素2212G」ともいう)および青(B)の波長域の光を透過するカラーフィルタが設けられた副画素2212(以下、「副画素2212B」ともいう)を有する。副画素2212は、フォトセンサとして機能させることができる。
副画素2212(副画素2212R、副画素2212G、および副画素2212B)は、配線2231、配線2247、配線2248、配線2249、配線2250と電気的に接続される。また、副画素2212R、副画素2212G、および副画素2212Bは、それぞれが独立した配線2253に接続している。また、本明細書等において、例えばn行目の画素2211に接続された配線2248および配線2249を、それぞれ配線2248[n]および配線2249[n]と記載する。また、例えばm列目の画素2211に接続された配線2253を、配線2253[m]と記載する。なお、図82(A)において、m列目の画素2211が有する副画素2212Rに接続する配線2253を配線2253[m]R、副画素2212Gに接続する配線2253を配線2253[m]G、および副画素2212Bに接続する配線2253を配線2253[m]Bと記載している。副画素2212は、上記配線を介して周辺回路と電気的に接続される。
また、撮像装置2200は、隣接する画素2211の、同じ波長域の光を透過するカラーフィルタが設けられた副画素2212同士がスイッチを介して電気的に接続する構成を有する。図82(B)に、n行(nは1以上p以下の整数)m列(mは1以上q以下の整数)に配置された画素2211が有する副画素2212と、該画素2211に隣接するn+1行m列に配置された画素2211が有する副画素2212の接続例を示す。図82(B)において、n行m列に配置された副画素2212Rと、n+1行m列に配置された副画素2212Rがスイッチ2201を介して接続されている。また、n行m列に配置された副画素2212Gと、n+1行m列に配置された副画素2212Gがスイッチ2202を介して接続されている。また、n行m列に配置された副画素2212Bと、n+1行m列に配置された副画素2212Bがスイッチ2203を介して接続されている。
なお、副画素2212に用いるカラーフィルタは、赤(R)、緑(G)、青(B)に限定されず、それぞれシアン(C)、黄(Y)およびマゼンダ(M)の光を透過するカラーフィルタを用いてもよい。1つの画素2211に3種類の異なる波長域の光を検出する副画素2212を設けることで、フルカラー画像を取得することができる。
または、それぞれ赤(R)、緑(G)および青(B)の光を透過するカラーフィルタが設けられた副画素2212に加えて、黄(Y)の光を透過するカラーフィルタが設けられた副画素2212を有する画素2211を用いてもよい。または、それぞれシアン(C)、黄(Y)およびマゼンダ(M)の光を透過するカラーフィルタが設けられた副画素2212に加えて、青(B)の光を透過するカラーフィルタが設けられた副画素2212を有する画素2211を用いてもよい。1つの画素2211に4種類の異なる波長域の光を検出する副画素2212を設けることで、取得した画像の色の再現性をさらに高めることができる。
また、例えば、図82(A)において、赤の波長域の光を検出する副画素2212、緑の波長域の光を検出する副画素2212、および青の波長域の光を検出する副画素2212の画素数比(または受光面積比)は、1:1:1でなくても構わない。例えば、画素数比(受光面積比)を赤:緑:青=1:2:1とするBayer配列としてもよい。または、画素数比(受光面積比)を赤:緑:青=1:6:1としてもよい。
なお、画素2211に設ける副画素2212は1つでもよいが、2つ以上が好ましい。例えば、同じ波長域の光を検出する副画素2212を2つ以上設けることで、冗長性を高め、撮像装置2200の信頼性を高めることができる。
また、可視光を吸収または反射して、赤外光を透過するIR(IR:Infrared)フィルタを用いることで、赤外光を検出する撮像装置2200を実現することができる。
また、ND(ND:Neutral Density)フィルタ(減光フィルタ)を用いることで、光電変換素子(受光素子)に大光量光が入射した時に生じる出力飽和することを防ぐことができる。減光量の異なるNDフィルタを組み合わせて用いることで、撮像装置のダイナミックレンジを大きくすることができる。
また、前述したフィルタ以外に、画素2211にレンズを設けてもよい。ここで、図83の断面図を用いて、画素2211、フィルタ2254、レンズ2255の配置例を説明する。レンズ2255を設けることで、光電変換素子が入射光を効率よく受光することができる。具体的には、図83(A)に示すように、画素2211に形成したレンズ2255、フィルタ2254(フィルタ2254R、フィルタ2254Gおよびフィルタ2254B)、および画素回路2230等を通して光2256を光電変換素子2220に入射させる構造とすることができる。
ただし、一点鎖線で囲んだ領域に示すように、矢印で示す光2256の一部が配線2257の一部によって遮光されてしまうことがある。したがって、図83(B)に示すように光電変換素子2220側にレンズ2255およびフィルタ2254を配置して、光電変換素子2220が光2256を効率良く受光させる構造が好ましい。光電変換素子2220側から光2256を光電変換素子2220に入射させることで、検出感度の高い撮像装置2200を提供することができる。
図83に示す光電変換素子2220として、pn型接合またはpin型の接合が形成された光電変換素子を用いてもよい。
また、光電変換素子2220を、放射線を吸収して電荷を発生させる機能を有する物質を用いて形成してもよい。放射線を吸収して電荷を発生させる機能を有する物質としては、セレン、ヨウ化鉛、ヨウ化水銀、ヒ化ガリウム、テルル化カドミウム、カドミウム亜鉛合金等がある。
例えば、光電変換素子2220にセレンを用いると、可視光や、紫外光、赤外光に加えて、X線や、ガンマ線といった幅広い波長域にわたって光吸収係数を有する光電変換素子2220を実現できる。
ここで、撮像装置2200が有する1つの画素2211は、図82に示す副画素2212に加えて、第1のフィルタを有する副画素2212を有してもよい。
<画素の構成例2>
以下では、シリコンを用いたトランジスタと、酸化物半導体を用いたトランジスタと、を用いて画素を構成する一例について説明する。各トランジスタは上記実施の形態に示すものと同様のトランジスタを用いることができる。
図84は、撮像装置を構成する素子の断面図である。図84に示す撮像装置は、シリコン基板2300に設けられたシリコンを用いたトランジスタ2351、トランジスタ2351上に積層して配置された酸化物半導体を用いたトランジスタ2352およびトランジスタ2353、ならびにシリコン基板2300に設けられたフォトダイオード2360を含む。各トランジスタおよびフォトダイオード2360は、種々のプラグ2370および配線2371と電気的な接続を有する。また、フォトダイオード2360のアノード2361は、低抵抗領域2363を介してプラグ2370と電気的に接続を有する。
また撮像装置は、シリコン基板2300に設けられたトランジスタ2351およびフォトダイオード2360を有する層2310と、層2310と接して設けられ、配線2371を有する層2320と、層2320と接して設けられ、トランジスタ2352およびトランジスタ2353を有する層2330と、層2330と接して設けられ、配線2372および配線2373を有する層2340を備えている。
なお図84の断面図の一例では、シリコン基板2300において、トランジスタ2351が形成された面とは逆側の面にフォトダイオード2360の受光面を有する構成とする。該構成とすることで、各種トランジスタや配線などの影響を受けずに光路を確保することができる。そのため、高開口率の画素を形成することができる。なお、フォトダイオード2360の受光面をトランジスタ2351が形成された面と同じとすることもできる。
なお、酸化物半導体を用いたトランジスタのみを用いて画素を構成する場合には、層2310を、酸化物半導体を用いたトランジスタを有する層とすればよい。または層2310を省略し、酸化物半導体を用いたトランジスタのみで画素を構成してもよい。
なお、シリコン基板2300は、SOI基板であってもよい。また、シリコン基板2300に替えて、ゲルマニウム、シリコンゲルマニウム、炭化シリコン、ヒ化ガリウム、ヒ化アルミニウムガリウム、リン化インジウム、窒化ガリウムまたは有機半導体を有する基板を用いることもできる。
ここで、トランジスタ2351およびフォトダイオード2360を有する層2310と、トランジスタ2352およびトランジスタ2353を有する層2330と、の間には絶縁体2380が設けられる。ただし、絶縁体2380の位置は限定されない。また、絶縁体2380の下に絶縁体2379が設けられ、絶縁体2380の上に絶縁体2381が設けられる。
絶縁体2379乃至絶縁体2380に設けられた開口に、導電体2390a乃至導電体2390eが設けられている。導電体2390a、導電体2390bおよび導電体2390eは、プラグおよび配線として機能する。また、導電体2390cは、トランジスタ2353のバックゲートとして機能する。また、導電体2390dは、トランジスタ2352のバックゲートとして機能する。
トランジスタ2351のチャネル形成領域近傍に設けられる絶縁体中の水素はシリコンのダングリングボンドを終端し、トランジスタ2351の信頼性を向上させる効果がある。一方、トランジスタ2352およびトランジスタ2353などの近傍に設けられる絶縁体中の水素は、酸化物半導体中にキャリアを生成する要因の一つとなる。そのため、トランジスタ2352およびトランジスタ2353などの信頼性を低下させる要因となる場合がある。したがって、シリコン系半導体を用いたトランジスタの上層に酸化物半導体を用いたトランジスタを積層して設ける場合、これらの間に水素をブロックする機能を有する絶縁体2380を設けることが好ましい。絶縁体2380より下層に水素を閉じ込めることで、トランジスタ2351の信頼性が向上させることができる。さらに、絶縁体2380より下層から、絶縁体2380より上層に水素が拡散することを抑制できるため、トランジスタ2352およびトランジスタ2353などの信頼性を向上させることができる。さらに、導電体2390a、導電体2390bおよび導電体2390eが形成されることにより、絶縁体2380に形成されているビアホールを通じて上層に水素が拡散することも抑制できるため、トランジスタ2352およびトランジスタ2353などの信頼性を向上させることができる。
また、図84の断面図において、層2310に設けるフォトダイオード2360と、層2330に設けるトランジスタとを重なるように形成することができる。そうすると、画素の集積度を高めることができる。すなわち、撮像装置の解像度を高めることができる。
また、撮像装置の一部または全部を湾曲させてもよい。撮像装置を湾曲させることで、像面湾曲や非点収差を低減することができる。よって、撮像装置と組み合わせて用いるレンズなどの光学設計を容易とすることができる。例えば、収差補正のためのレンズ枚数を低減できるため、撮像装置を用いた電子機器などの小型化や軽量化を実現することができる。また、撮像された画像の品質を向上させる事ができる。
本実施の形態に示す構成は、他の実施の形態に示す構成と適宜組み合わせて用いることができる。
(実施の形態8)
本実施の形態においては、本発明の一態様に係る半導体ウエハ、チップおよび電子部品について説明する。
<半導体ウエハ、チップ>
図85(A)は、ダイシング処理が行なわれる前の基板711の上面図を示している。基板711としては、例えば、半導体基板(「半導体ウエハ」ともいう。)を用いることができる。基板711上には、複数の回路領域712が設けられている。回路領域712には、本発明の一態様に係る半導体装置や、CPU、RFタグ、またはイメージセンサなどを設けることができる。
複数の回路領域712は、それぞれが分離領域713に囲まれている。分離領域713と重なる位置に分離線(「ダイシングライン」ともいう。)714が設定される。分離線714に沿って基板711を切断することで、回路領域712を含むチップ715を基板711から切り出すことができる。図85(B)にチップ715の拡大図を示す。
また、分離領域713に導電層、半導体層などを設けてもよい。分離領域713に導電層、半導体層などを設けることで、ダイシング工程時に生じうるESDを緩和し、ダイシング工程に起因する歩留まりの低下を防ぐことができる。また、一般にダイシング工程は、基板の冷却、削りくずの除去、帯電防止などを目的として、炭酸ガスなどを溶解させて比抵抗を下げた純水を切削部に供給しながら行なう。分離領域713に導電層、半導体層などを設けることで、当該純水の使用量を削減することができる。よって、半導体装置の生産コストを低減することができる。また、半導体装置の生産性を高めることができる。
<電子部品>
チップ715を用いた電子部品の一例について、図86を用いて説明する。なお、電子部品は、半導体パッケージ、またはIC用パッケージともいう。電子部品は、端子取り出し方向、端子の形状などに応じて、複数の規格、名称などが存在する。
電子部品は、組み立て工程(後工程)において、上記実施の形態に示した半導体装置と該半導体装置以外の部品が組み合わされて完成する。
図86(A)に示すフローチャートを用いて、後工程について説明する。前工程において基板711に本発明の一態様に係る半導体装置などを形成した後、基板711の裏面(半導体装置などが形成されていない面)を研削する「裏面研削工程」を行なう(ステップS721)。研削により基板711を薄くすることで、電子部品の小型化を図ることができる。
次に、基板711を複数のチップ(チップ715)に分離する「ダイシング工程」を行う(ステップS722)。そして、分離したチップ715を個々のリードフレーム上に接合する「ダイボンディング工程」を行う(ステップS723)。ダイボンディング工程におけるチップ715とリードフレームとの接合は、樹脂による接合、またはテープによる接合など、適宜製品に応じて適した方法を選択する。なお、リードフレームに代えてインターポーザ基板上にチップ715を接合してもよい。
次いで、リードフレームのリードとチップ715上の電極とを、金属の細線(ワイヤー)で電気的に接続する「ワイヤーボンディング工程」を行う(ステップS724)。金属の細線には、銀線、金線などを用いることができる。また、ワイヤーボンディングは、例えば、ボールボンディング、またはウェッジボンディングを用いることができる。
ワイヤーボンディングされたチップ715は、エポキシ樹脂などで封止される「封止工程(モールド工程)」が施される(ステップS725)。封止工程を行うことで電子部品の内部が樹脂で充填され、チップ715とリードを接続するワイヤーを機械的な外力から保護することができ、また水分、埃などによる特性の劣化(信頼性の低下)を低減することができる。
次いで、リードフレームのリードをめっき処理する「リードめっき工程」を行なう(ステップS726)。めっき処理によりリードの錆を防止し、後にプリント基板に実装する際のはんだ付けをより確実に行うことができる。次いで、リードを切断および成形加工する「成形工程」を行なう(ステップS727)。
次いで、パッケージの表面に印字処理(マーキング)を施す「マーキング工程」を行なう(ステップS728)。そして外観形状の良否、動作不良の有無などを調べる「検査工程」(ステップS729)を経て、電子部品が完成する。
また、完成した電子部品の斜視模式図を図86(B)に示す。図86(B)では、電子部品の一例として、QFP(Quad Flat Package)の斜視模式図を示している。図86(B)に示す電子部品750は、リード755およびチップ715を有する。電子部品750は、チップ715を複数有していてもよい。
図86(B)に示す電子部品750は、例えばプリント基板752に実装される。このような電子部品750が複数組み合わされて、それぞれがプリント基板752上で電気的に接続されることで電子部品が実装された基板(実装基板754)が完成する。完成した実装基板754は、電子機器などに用いられる。
本実施の形態に示す構成は、他の実施の形態に示す構成と適宜組み合わせて用いることができる。
(実施の形態9)
本実施の形態においては、本発明の一態様に係るトランジスタなどを利用した電子機器について説明する。
<電子機器>
本発明の一態様に係る半導体装置は、表示機器、パーソナルコンピュータ、記録媒体を備えた画像再生装置(代表的にはDVD:Digital Versatile Disc等の記録媒体を再生し、その画像を表示しうるディスプレイを有する装置)に用いることができる。その他に、本発明の一態様に係る半導体装置を用いることができる電子機器として、携帯電話、携帯型を含むゲーム機、携帯データ端末、電子書籍端末、ビデオカメラ、デジタルスチルカメラ等のカメラ、ゴーグル型ディスプレイ(ヘッドマウントディスプレイ)、ナビゲーションシステム、音響再生装置(カーオーディオ、デジタルオーディオプレイヤー等)、複写機、ファクシミリ、プリンタ、プリンタ複合機、現金自動預け入れ払い機(ATM)、自動販売機などが挙げられる。これら電子機器の具体例を図87に示す。
図87(A)は携帯型ゲーム機であり、筐体1901、表示部1903、マイクロフォン1905、スピーカー1906、操作キー1907等を有する。なお、図87(A)に示した携帯型ゲーム機は、1つの表示部1903を有しているが、携帯型ゲーム機が有する表示部の数は、これに限定されない。例えば、複数の表示部を有する構成にしてもよい。また、表示部1903を操作するためのスタイラスを付属させてもよい。
図87(B)は携帯データ端末であり、第1筐体1911、第2筐体1912、第1表示部1913、第2表示部1914、接続部1915、操作キー1916等を有する。第1表示部1913は第1筐体1911に設けられており、第2表示部1914は第2筐体1912に設けられている。そして、第1筐体1911と第2筐体1912とは、接続部1915により接続されており、第1筐体1911と第2筐体1912の間の角度は、接続部1915により変更が可能である。第1表示部1913における映像を、接続部1915における第1筐体1911と第2筐体1912との間の角度にしたがって、切り替える構成としてもよい。また、第1表示部1913および第2表示部1914の少なくとも一方に、位置入力装置としての機能が付加された表示装置を用いるようにしてもよい。なお、位置入力装置としての機能は、表示装置にタッチパネルを設けることで付加することができる。または、位置入力装置としての機能は、フォトセンサとも呼ばれる光電変換素子を表示装置の画素部に設けることでも、付加することができる。
図87(C)はノート型パーソナルコンピュータであり、筐体1921、表示部1922、キーボード1923、ポインティングデバイス1924等を有する。
図87(D)は電気冷凍冷蔵庫であり、筐体1931、冷蔵室用扉1932、冷凍室用扉1933等を有する。
図87(E)はビデオカメラであり、第1筐体1941、第2筐体1942、表示部1943、操作キー1944、レンズ1945、接続部1946等を有する。操作キー1944およびレンズ1945は第1筐体1941に設けられており、表示部1943は第2筐体1942に設けられている。そして、第1筐体1941と第2筐体1942とは、接続部1946により接続されており、第1筐体1941と第2筐体1942の間の角度は、接続部1946により変更が可能である。表示部1943における映像を、接続部1946における第1筐体1941と第2筐体1942との間の角度にしたがって切り替える構成としてもよい。
図87(F)は自動車であり、車体1951、車輪1952、ダッシュボード1953、ライト1954等を有する。
なお、本実施の形態において、本発明の一態様について述べた。ただし、本発明の一態様は、これらに限定されない。つまり、本実施の形態などでは、様々な発明の態様が記載されているため、本発明の一態様は、特定の態様に限定されない。例えば、本発明の一態様として、トランジスタのチャネル形成領域、ソースドレイン領域などが、酸化物半導体を有する場合の例を示したが、本発明の一態様は、これに限定されない。場合によっては、または、状況に応じて、本発明の一態様における様々なトランジスタ、トランジスタのチャネル形成領域、または、トランジスタのソースドレイン領域などは、様々な半導体を有していてもよい。場合によっては、または、状況に応じて、本発明の一態様における様々なトランジスタ、トランジスタのチャネル形成領域、または、トランジスタのソースドレイン領域などは、例えば、シリコン、ゲルマニウム、シリコンゲルマニウム、炭化シリコン、ガリウムヒ素、アルミニウムガリウムヒ素、インジウムリン、窒化ガリウム、または、有機半導体などの少なくとも一つを有していてもよい。または例えば、場合によっては、または、状況に応じて、本発明の一態様における様々なトランジスタ、トランジスタのチャネル形成領域、または、トランジスタのソースドレイン領域などは、酸化物半導体を有していなくてもよい。
本実施の形態に示す構成は、他の実施の形態に示す構成と適宜組み合わせて用いることができる。
本実施例では、上記実施の形態に示す成膜方法を用いて成膜したIn−Ga−Zn酸化物膜(以下、IGZO膜と呼ぶ場合がある。)について観察した結果について説明する。
本実施例では、試料1として、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)基板にIGZO膜を、In−Ga−Zn酸化物(原子数比In:Ga:Zn=1:1:1)ターゲットを用いて成膜した。なお、試料1に用いたYSZ基板の表面の面方位は(111)である。IGZO膜の成膜は、酸素ガス30sccmを含む雰囲気にて圧力を0.4Paに制御し、基板温度を300℃、ターゲットにDC電源により出力1000W印加して行った。
作製した試料1について、IGZO膜の界面近傍のHAADF−STEM(High−angle annular Dark Field Scanning TEM)像の観察を行った。試料1のHAADF−STEM像を図88に示す。
図88に示すように、試料1ではYSZ基板の上に層状の結晶が形成されたIGZO膜が見られる。さらに、試料1のYSZ基板の面方位(111)とIGZO膜の格子定数が整合し、YSZ基板直上からCAAC−OSが形成されている。
このように、上記実施の形態に示す成膜方法を用いて、YSZ基板上にIGZO膜を成膜することにより、成膜初期からIn−Ga−Zn酸化物の結晶が形成していることが示された。これは、上記実施の形態に示すCAAC−OSの成膜モデルとよい一致を示している。
本実施例では、上記実施の形態に示す成膜方法を用いて成膜したIGZO膜についてXRDを用いて結晶性評価を行った結果について説明する。
本実施例では、試料2A乃至試料2Dとして、石英基板にIn−Ga−Zn酸化物膜を、In−Ga−Zn酸化物(原子数比In:Ga:Zn=1:1:1.2)ターゲットを用いて、膜厚100nm狙いで成膜した。IGZO膜の成膜は、圧力を0.4Paに制御し、基板温度を200℃、ターゲットにDC電源により出力200W印加して行った。成膜ガス流量は、試料2AはO2ガス30sccmとし、試料2BはO2ガス30sccm及びH2Oガス0.5sccmとし、試料2CはO2ガス30sccm及びH2Oガス1.5sccmとし、試料2DはO2ガス30sccm及びH2Oガス3.0sccmとした。ここで、成膜ガス中のH2Oガスの割合は、試料2Aは0体積%、試料2Bは1.67体積%、試料2Cは5.0体積%、試料2Dは10.0体積%となる。
作製した試料2A乃至試料2Dについて、out−of−plane法によるXRD測定を行った。試料2A乃至試料2DのXRDスペクトルについて図89に示す。ここで、図89の横軸は回折角2θ[degree]をとり、縦軸はX線回折強度(任意単位)をとる。
図89に示すように、試料2Aでは、2θ=30°近傍にピークが見られるが、試料2B乃至試料2Dでは、2θ=30°近傍にピークが見られない。2θ=30°近傍のピークは、InGaZnO4の結晶の(009)面に帰属されるものである。よって、試料2Aは、c軸配向性を有するCAAC−OSであることが分かる。なお、試料2A乃至試料2Dで2θ=20°近傍に見られるピークは石英基板に起因するものである。
このように、成膜ガスにH2Oが含まれていない試料2AではCAAC−OSが形成され、成膜ガスにH2Oが0.5sccm以上含まれる試料2B乃至試料2DではCAAC−OSが形成されなかった。このことから成膜ガスに含まれるH2OがCAAC−OSの形成を阻害していることが予測される。
よって、IGZO膜の成膜ガス中にH2Oなどの不純物が含まれないことが好ましい。例えば、成膜ガス中に含まれるH2Oは0.5sccm未満であることが好ましい。
本実施例では、上記実施の形態に示す成膜方法を用いて成膜したIGZO膜について各種測定を行った結果について説明する。
本実施例では、試料3A乃至試料3Hとして、石英基板にIn−Ga−Zn酸化物膜を膜厚100nm狙いで成膜した。IGZO膜の成膜は、成膜ガスの圧力を0.4Paに制御し、基板温度を300℃、ターゲットにDC電源により出力200W印加して行った。試料3A乃至試料3Dは、成膜ガス流量を、O2ガス30sccm(酸素100%)とし、試料3E乃至試料3Hは、成膜ガス流量を、O2ガス10sccm及びArガス20sccm(酸素33%)とした。本実施例では、ターゲットとして、In−Ga−Zn酸化物(原子数比In:Ga:Zn=1:1:1)にSiO2を含ませたターゲットを用いて成膜を行った。試料3A及び試料3EはSiO2を含まないターゲット、試料3B及び試料3FはSiO2を0.02重量%含むターゲット、試料3C及び試料3GはSiO2を0.2重量%含むターゲット、試料3D及び試料3HはSiO2を2重量%含むターゲット、をそれぞれ用いて成膜した。
作製した試料3A乃至試料3Hについて、out−of−plane法によるXRD測定を行った。試料3A乃至試料3DのXRDスペクトルについて図90(A)に、試料3E乃至試料3HのXRDスペクトルについて図90(B)に示す。ここで、図90(A)(B)の横軸は回折角2θ[degree]をとり、縦軸はX線回折強度(任意単位)をとる。
図90(A)に示すように、試料3A乃至試料3Cでは2θ=30°近傍にピークが見られるが、試料3Dでは2θ=30°近傍にピークが見られない。2θ=30°近傍のピークは、InGaZnO4の結晶の(009)面に帰属されるものである。よって、試料3A乃至試料3Cは、c軸配向性を有するCAAC−OSであることが分かる。また、図90(B)に示すように、試料3Eでは2θ=30°近傍にピークが見られるが、試料3F乃至試料3Hでは2θ=30°近傍にピークが見られない。このように、成膜時の酸素流量が少ない場合、よりCAAC−OSの形成が阻害されやすくなる。なお、試料3A乃至試料3Hで2θ=20°近傍に見られるピークは石英基板に起因するものである。
また、試料3Dの断面TEM像を撮影した。図91に試料3Dの断面TEM像を示す。図91に示すように、試料3Dには層状の結晶が形成されておらず、CAAC−OSが成膜されていない。
このように、ターゲットに含まれるSiO2が0.2重量%以下である試料3A乃至試料3CではCAAC−OSが形成され、ターゲットに含まれるSiO2が2重量%である試料3DではCAAC−OSが形成されなかった。このことからターゲットに含まれるSiO2がCAAC−OSの形成を阻害していることが予測される。
よって、IGZO膜の成膜に用いるターゲットにSiO2などの不純物が含まれないことが好ましい。例えば、ターゲット中に含まれるSiO2を2重量%未満、好ましくは0.2重量%以下、より好ましくは0.02重量%未満とすればよい。
また、本実施例においては、試料3A乃至試料3Dについて、ホール効果測定を行った。なお、ホール効果測定は、株式会社東陽テクニカ製ResiTest8400シリーズを用いて行った。
試料3A乃至試料3Dのホール効果測定によって得られたホール(Hall)移動度を図92に示す。図92は、縦軸にホール移動度[cm2/V・s]をとる。
図92に示すように、試料3A乃至試料3Cは同程度のホール移動度をとるが、試料3Dは他と比べてホール移動度が低い。ここでホール移動度は、試料3Aが17.90[cm2/V・s]、試料3Bが18.09[cm2/V・s]、試料3Cが18.67[cm2/V・s]、試料3Dが12.50[cm2/V・s]となった。
このように、IGZO膜にSiO2が含まれることを防ぎ、IGZO膜をCAAC−OSにすることで、ホール移動度を向上させることもできる。
本実施例では、アモルファス状の酸化シリコン膜の上に成膜したIn−Ga−Zn酸化物膜(以下、試料4と呼ぶ。)についてTEMなどを用いて観察した結果について説明する。
試料4は、シリコン基板にIn−Ga−Zn酸化物膜を、In−Ga−Zn酸化物(原子数比In:Ga:Zn=1:1:1)ターゲットを用いた対向ターゲット式スパッタリング装置によって形成した。なお、シリコン基板の表面には、アモルファス状の酸化シリコン膜が形成されており、In−Ga−Zn酸化物膜はその上に形成される。In−Ga−Zn酸化物膜の成膜は、アルゴンガス20sccmおよび酸素ガス10sccmを含む雰囲気にて圧力を0.4Paに制御し、基板温度を300℃、ターゲットにDC電源により出力1000W印加して行った。
作製した試料4に対し、In−Ga−Zn酸化物膜の断面TEM像の観察を行った。試料4の断面TEM像を図93(A)に示す。図93(A)のIGZOはIn−Ga−Zn酸化物膜を示し、SiOxは酸化シリコン膜を示す。
図93(A)に示すように、試料4のIn−Ga−Zn酸化物膜中に層状の結晶領域が見られ、前述のCAAC−OSが形成されていることが分かる。ただし、アモルファス状の酸化シリコン膜とIn−Ga−Zn酸化物膜の界面付近(以下、領域5000と呼ぶ。)では、層状の結晶領域は観測できない。
また、試料4のシリコン基板、酸化シリコン膜、In−Ga−Zn酸化物膜の界面近傍について、エネルギー分散型X線分光法(EDX:Energy Dispersive X−ray Spectroscopy)を用いてSiとOを検出した。図93(A)に示す断面TEM像を縮小して範囲を広げた写真とEDXによるSiとOのプロファイルを、試料4の膜厚を揃えて図93(B)に示す。図93(B)に示すEDXのプロファイルは、縦軸に測定の深さ[nm]をとり、横軸に信号強度[count]をとる。
図93(B)に示すように、領域5000において、Si基板側に近づくにつれて、Siが増加する一方でOが減少している。つまり、領域5000において酸化シリコンとIn−Ga−Zn酸化物の混合層が形成されている。これにより、In−Ga−Zn酸化物の成膜初期に、In−Ga−Zn酸化物とアモルファス状のシリコンの混合層が形成されるために、領域5000で層状の結晶領域が観察されないと推測される。
本実施例では、凸部の上にIn−Ga−Zn酸化物膜を成膜した試料(以下、試料5と呼ぶ。)についてTEMなどを用いて観察した結果について説明する。
図94(A)に試料5の構造の概略を示す。試料5は、図94(A)に示すように、シリコン基板の上に成膜された酸化窒化シリコン膜5010と、酸化窒化シリコン膜5010の上に形成されたIn−Ga−Zn酸化物膜5011と、酸化窒化シリコン膜5010及びIn−Ga−Zn酸化物膜5011の上に成膜されたIn−Ga−Zn酸化物膜5012と、からなる。ここで、In−Ga−Zn酸化物膜5011は、パターニングされて島状の凸部を形成している。以下に、試料5の作製方法について説明する。
まず、シリコン基板に膜厚300nmを狙って、PECVD法を用いて酸化窒化シリコン膜5010を成膜した。次に、酸化窒化シリコン膜5010にCMP処理を行った。
次に、酸化窒化シリコン膜5010の上に、スパッタリング法を用いてIn−Ga−Zn酸化物膜を成膜した。In−Ga−Zn酸化物膜は、原子数比In:Ga:Zn=1:3:4のターゲットを用いて、膜厚20nmを狙って成膜した酸化物膜と、その上に原子数比In:Ga:Zn=1:1:1のターゲットを用いて、膜厚15nmを狙って成膜した酸化物膜の積層膜である。原子数比In:Ga:Zn=1:3:4のターゲットを用いた酸化物膜の成膜は、アルゴンガス40sccmおよび酸素ガス5sccmを含む雰囲気にて圧力を0.7Paに制御し、基板温度を200℃、ターゲットにDC電源により出力500W印加して行った。また、原子数比In:Ga:Zn=1:1:1のターゲットを用いた酸化物膜の成膜は、アルゴンガス30sccmおよび酸素ガス15sccmを含む雰囲気にて圧力を0.7Paに制御し、基板温度を300℃、ターゲットにDC電源により出力500W印加して行った。
次に、In−Ga−Zn酸化物の積層膜の上にタングステンからなるメタルマスクを形成し、ドライエッチング法を用いて島状のIn−Ga−Zn酸化物膜5011を形成した。
次に、酸化窒化シリコン膜5010及びIn−Ga−Zn酸化物膜5011の上に、スパッタリング法を用いてIn−Ga−Zn酸化物膜5012を成膜した。In−Ga−Zn酸化物膜5012は、In−Ga−Zn酸化物(原子数比In:Ga:Zn=4:2:4.1)ターゲットを用いて、膜厚50nmを狙って成膜した。In−Ga−Zn酸化物膜5012の成膜は、アルゴンガス30sccmおよび酸素ガス15sccmを含む雰囲気にて圧力を0.7Paに制御し、基板温度を200℃、ターゲットにDC電源により出力500W印加して行った。
作製した試料5に対し、In−Ga−Zn酸化物膜の断面TEM像の観察と、電子回折パターンの観測を行った。試料5の断面TEM像を図94(B)に示す。さらに、図94(B)中の領域B1乃至B6の拡大図を図94(B1)乃至図94(B6)に示す。また、試料5の断面TEM像の拡大図を図95(A)に示す。さらに、図95(A)中のポイントA1乃至A4の電子回折パターンを図95(A1)乃至図95(A4)に示す。
図94(B1)乃至図94(B6)に示すように、In−Ga−Zn酸化物膜5011及びIn−Ga−Zn酸化物膜5012の領域B1乃至B6において、層状の結晶領域が見られる。ここで、In−Ga−Zn酸化物膜5012は、凸部状のIn−Ga−Zn酸化物膜5011を下地として成膜されている。領域B4、B6はIn−Ga−Zn酸化物膜5011の側面部を下地とし、領域B1、B3はIn−Ga−Zn酸化物膜5011の曲面部を下地とし、領域B2はIn−Ga−Zn酸化物膜5011の上面部を下地としている。In−Ga−Zn酸化物膜5012の層状の結晶領域は、領域B1、B2、B3、B4、B6のいずれにおいてもIn−Ga−Zn酸化物膜5011及びIn−Ga−Zn酸化物膜5012の表面に略平行である。
よって、上記実施の形態の図6(B)に示したように、凸部の上に形成されたナノクラスターが凸部表面に略平行に配列していることが示された。
また、図95(A1)乃至図95(A4)に示すように、ポイントA1乃至A4において、鮮明なスポット状のパターンが現れており、(009)面に帰属されるスポットも観測された。また、In−Ga−Zn酸化物膜5012のポイントA1乃至A3において、(009)面に帰属されるスポットを結んだ直線は、In−Ga−Zn酸化物膜5011及びIn−Ga−Zn酸化物膜5012の表面に略垂直になっている。
以上より、In−Ga−Zn酸化物膜5012の層状の結晶領域は、結晶のc軸がIn−Ga−Zn酸化物膜5011の表面に略垂直になるように配向していることが推測される。これにより、上記実施の形態に示すように、c軸が下地面に対して略垂直なナノクラスターが下地膜上に形成され、当該ナノクラスターが横方向に成長し、層状の結晶領域を有する酸化物半導体膜が形成されるモデルが考えられる。
本実施例では、上記実施の形態に示す成膜方法を用いて成膜したIGZO膜について偏光XANES(X−ray Absorption Near Edge Structure)測定を行った結果について説明する。
本実施例では、試料6A〜6Cとして、n型の単結晶シリコン基板にIGZO膜を成膜した。試料6AではIGZOの膜厚を50nm狙いとし、試料6B及び試料6CではIGZOの膜厚を100nm狙いとした。試料6A及び試料6Bは、IGZO膜としてCAAC−OSを成膜し、試料6CはIGZO膜としてnc−OSを成膜した。なお、試料6Aは試料6Bより結晶性が高いCAAC−OSにした。
本実施例に用いたIGZO膜の成膜は、成膜ガスの圧力を0.4Paに制御し、ターゲットにDC電源により出力200W印加して行った。また、ターゲットとして、In−Ga−Zn酸化物(原子数比In:Ga:Zn=1:1:1)を用いた。ただし、試料6AではCAAC−OS膜を成膜するため、成膜ガスを酸素ガス30sccmとし、基板温度を300℃として成膜を行った。また、試料6BではCAAC−OS膜を成膜するため、成膜ガスをアルゴンガス20sccm、酸素ガス10sccmとし、基板温度を300℃として成膜を行った。また、試料6Cではnc−OS膜を成膜するため、成膜ガスをアルゴンガス20sccm、酸素ガス10sccmとし、基板温度を室温として成膜を行った。
作製した試料6A〜6C(以下、試料と略して記載する場合がある。)について、XAS(X−ray Absorption Spectroscopy)の一種である偏光XANES測定を行い、X線の吸光度を測定した。XASで得られるX線吸収スペクトルには、吸収端と呼ばれる急峻な立ち上がりが現れる。偏光XANES測定では、吸収端近傍に対応するエネルギー範囲の偏光X線を照射して、X線の各エネルギーにおける吸光度を算出し、吸収端近傍のX線吸収スペクトルを得る。
本実施例の偏光XANES測定は、立命館大学SRセンターのBL−11で、放射光X線を照射して行った。一般に、放射光では電子を曲げる方向に電場ベクトルが向いている直線偏光が得られる。このため、本実施例に用いた放射光X線は直線偏光となっている。また、放射光X線のエネルギー範囲は、酸素原子のK吸収端近傍、具体的には510eV〜650eVとした。
本実施例では、入射X線の電場ベクトルに対する試料の角度を変化させてXANES測定を行った。入射X線に対する試料の配置について図96(A)〜(C)に示す。図96(A)〜(C)では、入射X線の進行方向を破線で、偏光された入射X線の電場ベクトルを実線で示している。また、試料の基板表面に対して垂直な法線ベクトルを図示している。図96(A)では、入射X線の電場ベクトルと試料の法線ベクトルのなす角(以下、角度θと記載する場合がある。)が90°になるように試料を配置している。また、図96(B)では、角度θ=55°になるように試料を配置している。また、図96(C)では、角度θ=15°になるように試料を配置している。
ここで、角度θが大きくなるほど電場ベクトルのIGZO膜面に平行な成分が大きくなり、角度θが小さくなるほど電場ベクトルのIGZO膜面に垂直な成分が大きくなる。よって、IGZO膜がc軸配向性を有する場合、図96(A)のように角度θが大きいならば、ab面方向に振動する電場に応答する吸収が強調され、図96(C)ように角度θが小さいならば、c軸方向に振動する電場に応答する吸収が強調される。
図96(A)乃至図96(C)に示す配置で試料にX線を照射し、全電子収量法を用いてX線の吸光度を算出した。
試料6A〜6Cにおいて偏光XANES測定で得られたX線吸収スペクトルを図97(A)〜(C)に示す。図97(A)〜(C)に示すX線吸収スペクトルは、横軸にX線のエネルギー[eV]をとり、縦軸に規格化された吸光度をとる。なお、図97(A)〜(C)に示すX線のエネルギー範囲は525eV〜560eVとした。また、吸光度は、バックグラウンドの寄与を除いた上で、入射X線のエネルギーが十分大きく、K吸収端近くのピークが見られない領域を1.0として、規格化した。
図97(A)(B)に示すように、試料6A及び試料6Bでは、角度θが大きくなるにつれて、530eV〜540eV近傍の吸光度が大きくなっている。これに対して、図97(C)に示す試料6Cでは、角度θと吸光度の間に、試料6A及び試料6Bほど相関は見られなかった。
ここで、図97(A)〜(C)に示すX線吸収スペクトルの534eV近傍のピーク(以下、1stピークという。)の吸光度について、角度θ=55°の値を1.0とする相対値(以下、1stピーク吸光度の相対値という。)を、図98に示す。図98は、横軸に試料の角度θ[deg]をとり、縦軸に1stピーク吸光度の相対値をとる。
図98に示すように、1stピーク吸光度の相対値について、試料6A及び試料6Bでは、角度θと明確な相関が見られた。これに対して、試料6Cでは、角度θと1stピーク吸光度の相対値の間に、試料6A及び試料6Bのような明確な相関は見られなかった。
このように、CAAC−OSが形成された試料6A及び試料6Bでは、角度θ=90°のときにK吸収端近傍の吸光度は大きく、角度θ=15°のときにK吸収端近傍の吸光度は小さかった。つまり、CAAC−OSでは、ab面方向に振動する電場に応答する吸収が、c軸方向に振動する電場に応答する吸収より強く表れたということができる。これにより、CAAC−OSでは、結晶構造の異方性に対応して電子構造に異方性がある可能性が示された。
また、酸素原子のK吸収端直上は、1s軌道から2p軌道への電子の遷移に対応している。一般的にIGZOはイオン結晶であるといわれており、イオン結晶においては、酸素イオンの2p軌道は電子によって占有されているはずである。しかしながら本実地例では、酸素原子の1s軌道から2p軌道への電子の遷移に対応するX線吸収スペクトルが観測された。このことから、酸素原子の2p軌道が完全に電子によって占有されておらず、酸素原子の2p軌道の一部はフェルミ準位より高い、すなわち伝導帯に含まれている可能性を示唆している。
次に、IGZO膜の結晶モデルについてシミュレーションを行って、偏光XANES測定に対応するスペクトルを算出し、本実施例に係る試料と比較した。なお、IGZO膜の結晶モデルと比較を行うため、試料6BのIGZO膜を多結晶化させた試料6Dと、試料6CのIGZO膜を多結晶化させた試料6Eを作製した。
試料6Dは、試料6Bと同じ条件でIGZO膜を成膜し、熱処理を行って作製した。また、試料6Eは、試料6Cと同じ条件でIGZO膜を成膜し、熱処理を行って作製した。なお、試料6D及び試料6Eの熱処理は、基板温度を800℃にして、窒素16L/min、酸素4L/minの雰囲気で1時間行った。
試料6D及び試料6Eについて、out−of−plane法によるXRD測定を行った。試料6D及び試料6EのXRDスペクトルについて図99(A)及び図99(B)に示す。ここで、図99の横軸は回折角2θ[degree]をとり、縦軸はX線回折強度(任意単位)をとる。さらに、図99(A)及び図99(B)の下には、無機結晶構造データベース(Inorganic Crystal Structure Database:ICSD)のInGaZnO4(ICSD Code 90003)の回折パターンを示している。
図99(A)に示すように、試料6Dでは、ICSDのInGaZnO4の回折パターンの強度比に対し、(001)面(例えば(009)面など)の回折パターンに帰属されるピークのみが見られており、他の結晶面に帰属される回折パターンのピークは見られない。試料6EではICSDのInGaZnO4の回折パターンの強度比と異なっており(001)面の回折パターンに帰属されるピークが強調されて見られるが、(001)面以外の結晶面に帰属される回折パターンも多く見られる。このことから、試料6Dの方が試料6Eよりもc軸配向性が高いものの、どちらもc軸配向性を有する多結晶であることが示唆された。
試料6A〜試料6Cと同じ条件で、試料6D及び試料6Eについて偏光XANES測定を行った。試料6D及び試料6Eにおいて偏光XANES測定で得られたX線吸収スペクトルを図100(A)及び図100(B)に示す。図100(A)(B)に示すX線吸収スペクトルは、横軸にX線のエネルギー[eV]をとり、縦軸に規格化された吸光度をとる。なお、図100(A)(B)に示すX線のエネルギー範囲は525eV〜545eVとした。
図100(A)(B)に示すように、試料6D及び試料6Eでは、角度θが大きくなるにつれて、1stピークの吸光度が大きくなっている。このように、試料6D及び試料6Eにおいても、試料6A及び試料6Bと同様に、角度θと1stピークの吸光度の間に相関が見られた。
ただし、θ=15°で測定した条件においては、試料6Dと試料6Eで、537〜539eV近傍のピーク(以下、2ndピークという。)の吸光度及びピーク位置に明確な差が見られた。
次に、図101に示すInGaZnO4の結晶モデルを用いてXANESスペクトルを計算した。XANESスペクトルは、内殻電子が伝導帯に遷移する際の吸収スペクトルに対応する。
ここで、内殻電子の遷移確率は、双極子近似の下では、遷移双極子モーメントの大きさに比例するとみなすことができる。
図101に示す結晶モデルは、内殻空孔間の相互作用を小さくする目的で作成した112原子の1nGaZnO4スーパーセルモデルである。それぞれのスーパーセルにつき、一個の酸素原子の1s軌道に内殻空孔(図101中でcore holeと表示。)を導入する。このようにして上記結晶モデルを用いた計算により、図97または図100に示すX線吸収スペクトルに対応するスペクトルを算出した。
なお、第一原理計算には、擬ポテンシャルと、平面波基底を用いた密度汎関数プログラム(CASTEP)を用いた。原子の擬ポテンシャルにはVanderbuit型ウルトラソフト擬ポテンシャルを用いているが、内殻空孔の効果を取り入れるために、酸素の1s軌道から電子を取り去った擬ポテンシャルを用いた。また、擬ポテンシャル法を用いる場合、遷移エネルギーを直接求めることができない。そこで、酸素の1s軌道の電子の有無をそれぞれ反映したポテンシャルで孤立原子を計算し、その全エネルギーの差から遷移エネルギーを算出した。また、交換相関ポテンシャルにはPBEsol(Perdew−Burke−Ernzerhof revised for solid)型の一般化勾配近似(GGA:Generallized Gradient Approximation)を用いた。また、カットオフエネルギーは800eVとした。また、サンプルk点の数は4×3×3とした。
また、上記偏光XANES測定と同様に、本計算においても入射X線の角度θ=0°、15°、55°または90°に対応するように結晶モデルの格子ベクトルをそれぞれ設定した。
上記結晶モデルの計算により得られたスペクトルを図102(A)に示す。図102(A)に示すスペクトルは、横軸に遷移エネルギー[eV]をとり、縦軸に規格化された吸光度をとる。なお、図102(A)に示す遷移エネルギーの範囲は525eV〜545eVとした。また、吸光度は、545eV付近の値で規格化されている。
図102(A)に示すスペクトルでは、1stピークの吸光度の相対値と角度θには相関がみられており、試料6DのX線吸収スペクトル(図100(A))をよく再現できている。図101に示すように、上記結晶モデルのc軸方向とab面方向には構造の異方性がある。したがって、図102(A)に示すスペクトルが得られるということは、c軸配向性が高いことを意味している。図102(A)に示すスペクトルは、試料6Dの偏光XANESスペクトルをよく再現できている。よって、試料6Dはc軸配向性を有することが裏付けられた。
また、配向分布を考慮して上記結晶モデルのスペクトルを補正することで、c軸配向性が低い試料6EのX線吸収スペクトルを再現できるか確認を行った。図102(A)に示すスペクトルの計算では、完全に配向した結晶モデルに対して、各入射X線角度でスペクトルの計算を行った。これに対して、結晶のc軸の方向に分布を持たせて上記結晶モデルの計算結果の補正を行った。ここで、c軸の方向の分布を、平均の傾きが0°(完全に配向した場合に等しい)で、ガウス分布に従うように設定した。
配向分布を考慮して補正した計算により得られたスペクトルを図102(B)に示す。図102(B)に示すスペクトルは、横軸に遷移エネルギー[eV]をとり、縦軸に規格化された吸光度をとる。なお、図102(B)に示す遷移エネルギーの範囲は525eV〜545eVとした。また、吸光度は、545eV付近の値で規格化されている。
図102(B)に示すスペクトルは、図102(A)に示すスペクトルより、θ=15°の2ndピークの吸光度が小さくなっており、試料6EのX線吸収スペクトル(図100(B))を定性的に再現できている。このように、配向分布を考慮して補正した計算によって、上記結晶モデルのスペクトルをより試料6EのX線吸収スペクトルに近づけることができた。
また、試料6Aおよび試料6B、すなわちCAAC−OSのX線吸収スペクトルは、試料6Dおよび試料6EのX線吸収スペクトルと同様、1stピークの吸光度と角度θには相関が見られている。このことから、試料6Aおよび試料6Bも、c軸配向性を有することが示唆された。
本実施例では、先の実施の形態に示すPESPまたはVDSPを用いて、In−Ga−Zn酸化物膜を成膜し、熱処理によってキャリア密度を変化させて、ホール効果測定を行った結果について説明する。
まず、本実施例で用いた試料7A、7B、7C、7D、7E、7F、7G、7H及び7Jの作製方法について説明する。試料7A、7B、7C、7D及び7Eは、PESPを用いてIn−Ga−Zn酸化物膜を成膜した試料であり、試料7F、7G、7H及び7Jは、VDSPを用いてIn−Ga−Zn酸化物膜を成膜した試料である。
試料7A、7B、7C、7D及び7Eでは、In−Ga−Zn酸化物(原子数比In:Ga:Zn=1:1:1)ターゲットを用いた平行平板型スパッタリング装置によって、石英基板に膜厚100nm程度のIn−Ga−Zn酸化物膜を成膜した。In−Ga−Zn酸化物膜の成膜は、アルゴンガス20sccmおよび酸素ガス10sccmを含む雰囲気にて圧力を0.4Paに制御し、基板温度を300℃、ターゲットにDC電源により出力200W印加して行った。
試料7F、7G、7H及び7Jでは、In−Ga−Zn酸化物(原子数比In:Ga:Zn=1:1:1)ターゲットを用いた対向ターゲット式スパッタリング装置によって、石英基板に膜厚100nm程度のIn−Ga−Zn酸化物膜を成膜した。In−Ga−Zn酸化物膜の成膜は、アルゴンガス20sccmおよび酸素ガス10sccmを含む雰囲気にて圧力を0.4Paに制御し、基板温度を200℃、ターゲットにDC電源により出力1000W印加して行った。
次に、試料7A、7B、7C、7D、7E、7F、7G、7H及び7Jにそれぞれ異なる条件で熱処理を行った。試料7A及び試料7Fは、基板温度を450℃として窒素雰囲気で1時間熱処理を行った。試料7B、7C、7D、7E、7G、7H及び7Jは、基板温度を450℃として窒素雰囲気で1時間熱処理を行い、さらに酸素雰囲気で1時間熱処理を行った。
さらに、試料7C、7D、7E、7H及び7Jでは、CVD装置を用いて、水素雰囲気(H2ガス流量500sccm)で、圧力133Paとして、1時間熱処理を行った。熱処理温度はそれぞれ、試料7Cは200℃、試料7Dは250℃、試料7Eは350℃、試料7Hは150℃、試料7Jは300℃、とした。
以上のように、窒素雰囲気で熱処理を行ってから酸素雰囲気で熱処理を行うことにより、試料中のIn−Ga−Zn酸化物に酸素を供給し、酸素欠損を低減させてキャリア密度を低減させた。また、水素雰囲気で熱処理を行うことにより、試料中のIn−Ga−Zn酸化物に水素を供給し、欠陥準位密度を増加させてキャリア密度を増加させた。
作製した試料7A、7B、7C、7D、7E、7F、7G、7H及び7Jについてホール効果測定を行い、キャリア密度及びホール(Hall)移動度を評価した。なお、ホール効果測定は、株式会社東陽テクニカ製ResiTest8400シリーズを用いて行った。
ホール効果測定により得られた、各試料のキャリア密度及びホール移動度について表6に示す。また、各試料のホール移動度とキャリア密度の相関を図103に示す。図103は、縦軸にホール移動度[cm2/V・s]をとり、横軸にキャリア密度[1/cm3]をとる。また、図103にはPESPで作製された試料及びVDSPで作製された試料について、それぞれ近似曲線を表示している。
図103に示すように、PESPで作製された試料、及びVDSPで作製された試料の両方において、キャリア密度とホール移動度は正の相関を示した。PESPで作製された試料は、ホール移動度のキャリア密度依存性が高く、キャリア密度が高い場合はホール移動度も高いが、キャリア密度の低下に伴いホール移動度も低下する。
これに対して、VDSPで作製された試料は、ホール移動度のキャリア密度依存性が低く、キャリア密度が低い範囲において、PESPで作製された、同程度のキャリア密度の試料と比較して、高いホール移動度を有する。
上記実施の形態に示すように、CAAC−OSは、不純物および酸素欠損が少なく、キャリア密度の低い酸化物半導体である。上記の結果から、VDSPを用いてCAAC−OSを成膜することにより、キャリア密度の低いCAAC−OSを用いたトランジスタでも、比較的高い移動度を有することが示唆される。よって、VDSPを用いてCAAC−OS膜を成膜することで、当該CAAC−OS膜を活性層として用いたトランジスタでは、S値やオン電流の向上を図ることができる。