JP6902395B2 - 成形体の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、炭素繊維束と熱可塑性樹脂を含む成形材料を用い、成形体を製造する方法に関するものである。
高強度、かつ脆性破壊が抑制された樹脂材料を得る手段として、樹脂を炭素繊維で強化された複合材料とすることが知られている。特に、マトリックス樹脂として熱可塑性樹脂を炭素繊維で強化した複合材料は、成形材料として易加工性およびリサイクル性に優れており、様々な分野への応用が期待されている。
例えば、特許文献1には、含浸助剤を付着させた炭素繊維束にポリカーボネート樹脂を被覆させ、ペレット状にカットすることで、射出成形の溶融混練時に炭素繊維が容易に分散する成形材料が提案されている。特許文献2には、フェノール樹脂を付着させた炭素繊維束にポリカーボネート樹脂を被覆させた成形材料が提案されている。
国際公開第2013/137246号パンフレット 特開2014−159560号公報
しかしながら、炭素繊維束を含んだ成形材料では、製造効率向上のために、成形材料に含まれる炭素繊維束内部は熱可塑性樹脂で濡らされていない場合がある(特許文献1)。この場合、従来の射出成形方法では、混練工程において炭素繊維と熱可塑性樹脂が互いに混ざり合ったとしても、炭素繊維表面の官能基と、熱可塑性樹脂とは十分に作用しておらず(十分に接着しておらず)、より一層機械物性の高い成形体が求められる用途には使いにくい。
そこで、本発明の目的は、従来の問題点を解決し、炭素繊維と熱可塑性樹脂との接着力を向上させ、より機械的強度が高い成形体を製造するための製造方法を提供することにある。
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を提供する。
<1>
炭素繊維束と熱可塑性樹脂とを含む成形材料を射出成形して成形体を製造する方法であって、
成形型キャビティ体積100に対して、射出容量を400以上2000以下に計量して成形する、成形体の製造方法。
ただし、成形材料は、炭素繊維束の周囲に熱可塑性樹脂が被覆された芯鞘構造であって、炭素繊維束の軸方向の長さL1と、成形材料の長さL2とが、0.9<L1/L2<1.0であり、成形材料に含まれる熱可塑性樹脂は炭素繊維束内部に含浸していない。
<2>
炭素繊維100質量部に対して、熱可塑性樹脂の重量割合が150質量部以上900質量部以下である、<1>に記載の成形体の製造方法。
<3>
熱可塑性樹脂の溶解性パラメーターSP値(単位:(J/cm 1/2 )が18以上21以下である、<1>又は<2>に記載の成形体の製造方法。
<4>
熱可塑性樹脂がポリカーボネートである、<1>〜<3>いずれか1項に記載の成形体の製造方法。
<5>
成形材料がシリンダー内を通過する時間が、1min以上10min未満である、<1>〜<4>いずれか1項に記載の成形体の製造方法。
<6>
炭素繊維束を構成する炭素繊維の表面酸素濃度比[O/C]が0.1〜0.5である、<1>〜<5>いずれか1項に記載の成形体の製造方法。
なお、本発明は、上記<1>〜<6>に関するものであるが、参考のためその他の事項(例えば下記1.〜6.に記載した事項)についても記載する。
1. 炭素繊維束と熱可塑性樹脂とを含む成形材料を射出成形して成形体を製造する方法であって、
成形型キャビティ体積100に対して、射出容量を400以上2000以下に計量して成形する、成形体の製造方法。
2. 炭素繊維束の周囲に熱可塑性樹脂が被覆された芯鞘構造であって、炭素繊維束の軸方向の長さL1と、成形材料の長さL2とが、0.9<L1/L2<1.0である請求項1に記載の成形体の製造方法。
3. 成形材料に含まれる熱可塑性樹脂は炭素繊維束内部に含浸していない、前記2に記載の成形体の製造方法。
4. 炭素繊維100質量部に対して、熱可塑性樹脂の重量割合が150質量部以上900質量部以下である、前記1〜3いずれか1項に記載の成形体の製造方法。
5. 熱可塑性樹脂の溶解性パラメーターSP値(単位:(J/cm1/2)が18以上21以下である、前記1〜4いずれか1項に記載の成形体の製造方法。
6. 熱可塑性樹脂がポリカーボネートである、前記1〜5いずれか1項に記載の成形体の製造方法。
7. 成形材料がシリンダー内を通過する時間が、1min以上10min未満である、前記1〜6いずれか1項に記載の成形体の製造方法。
8. 炭素繊維束を構成する炭素繊維の表面酸素濃度比[O/C]が0.1〜0.5である、前記1〜7いずれか1項に記載の成形体の製造方法。
本発明における成形体の製造方法体を用いれば、炭素繊維表面の官能基と、熱可塑性樹脂とは十分に作用させることができ、機械的強度の高い成形体を製造できる。
本発明における成形材料の一例。
[炭素繊維]
本発明の成形材料に含まれる炭素繊維は、ポリアクリロニトリル(PAN)系、石油・石油ピッチ系、レーヨン系、リグニン系など、何れの炭素繊維であっても良い。特に、PANを原料としたPAN系炭素繊維が、工場規模における生産性及び機械的特性に優れており好ましい。
炭素繊維としては、平均直径5〜10μmのものが好ましく使用できる。なお、一般的な炭素繊維は、1000〜50000本の単繊維が繊維束となった炭素繊維フィラメントである。本発明における炭素繊維束には、そのような一般的な炭素繊維フィラメントも含まれるが、該炭素繊維フィラメントを、更に重ね合わせて合糸したものや、合糸に撚りを掛け撚糸としたもの等も含まれる。本発明の成形材料に含まれる炭素繊維としては、炭素繊維と熱可塑性樹脂との接着性を高めるため、表面処理によって、表面に含酸素官能基を導入されたものも好ましい。
また、炭素繊維束に含浸助剤を含ませることにより易含浸性の炭素繊維束を作る場合、含浸助剤を炭素繊維束に均一に付着させる工程を安定させるため、炭素繊維束としては、収束性を持たせる為の収束剤で処理されたものであると好ましい。収束剤としては、炭素繊維フィラメント製造用に公知のものを使用することができる。また、炭素繊維束としては、製造時に滑り性を上げるために使用された油剤が残存したものであっても、本願発明において問題無く使用することができる。
[炭素繊維束]
本発明における成形材料に含まれる炭素繊維束とは、炭素繊維が単糸状ではなく束状に存在していることをいう。上述のように、炭素繊維は一般的に1000〜50000本の短繊維が繊維束となっており、これがそのまま成形材料中に含まれていることが好ましい。すなわち、本発明における成形材料は、炭素繊維と熱可塑性樹脂を混練して得られたものではない。
[芯鞘構造と、炭素繊維束内部の熱可塑性樹脂の含浸状態]
成形材料に炭素繊維束が含まれる場合(特に成形材料が炭素繊維束の周囲に熱可塑性樹脂が被覆された芯鞘構造である場合)、炭素繊維束内部の炭素繊維は含浸助剤によって一部濡らされていることがあったとしても、熱可塑性樹脂にはほとんど接触していない。そのため、炭素繊維の表面に存在する多くの官能基は熱可塑性樹脂と高い接着力を示す状態では無い。
したがって、炭素繊維の表面官能基は、射出成形前の混練工程において、熱可塑性樹脂と作用させる必要がある。しかしながら従来の成形方法の場合、混練工程の時間が短く、炭素繊維束内部の炭素繊維が有する表面官能基の多くは、熱可塑性樹脂と十分作用しないまま残って成形体となってしまうものが多かった。
一方、本発明においては、成形型キャビティ体積100に対して、射出容量を400以上2000以下に計量して成形しているため、成形材料がシリンダー内を通過する時間が、従来よりも長くなっている。したがって、炭素繊維束を含む成形材料(好ましくは成形材料に含まれる熱可塑性樹脂が炭素繊維束の内部に含浸していない成形材料)を用いた場合であっても、炭素繊維表面官能基の多くは熱可塑性樹脂と作用できる。
また、本発明において、成形材料の製造効率の観点より、成形材料に含まれる熱可塑性樹脂は炭素繊維束内部に含浸していないことが好ましい。ここで、炭素繊維束内部に熱可塑性樹脂が含浸していないとは、炭素繊維束の周囲に熱可塑性樹脂が被覆された芯鞘構造であって、成形材料を軸心方向に切断して観察した際、熱可塑性樹脂の炭素繊維束内部方向への浸入厚みが、50μm以下であることをいう。なお、軸心方向とは、軸の中心方向に向かう方向であり、図1でいうZ軸方向である。炭素繊維束内部に熱可塑性樹脂が含浸していない場合、炭素繊維束内部の炭素繊維表面官能基の多くは熱可塑性樹脂と十分に作用しないまま残った状態であるため、上述の課題がより顕著にあらわれる。
[表面酸素濃度比[O/C]]
本発明における炭素繊維束を構成する炭素繊維は、X線光電子分光法により測定される繊維表面の酸素(O)と炭素(C)の原子数の比である表面酸素濃度比[O/C]が0.1〜0.5であるものが好ましい。
一般的に、表面酸素濃度比が0.1以上であることにより、炭素繊維表面に十分な官能基量を確保でき、(C)熱可塑性樹脂とより強固な接着を得ることができることから、成形品の衝撃強度をより向上させることができる。従来の製造方法では、炭素繊維束を含んだ成形材料を用いた場合、仮に表面酸素濃度比が大きい炭素繊維を用いても、全ての表面官能基を熱可塑性樹脂と作用させることが難しかったが、本発明においては、表面酸素濃度比[O/C]が比較的高い炭素繊維束を含んだ成形材料を用いた場合であってもほとんど全ての表面官能基を熱可塑性樹脂と作用することができる。これは、成形型キャビティ体積100に対して、射出容量を400以上2000以下にして計量して成形しているためである。表面酸素濃度比[O/C]は0.15以上がより好ましく、0.2以上がさらに好ましい。
一方、表面酸素濃度比の上限は特に制限はないが、炭素繊維の取扱い性、生産性のバランスから、一般的に0.5以下が好ましく、0.4以下がより好ましく、0.3以下が更に好ましい。
なお、本発明における炭素繊維の表面酸素濃度比とは、サイズ剤や含侵助剤が付着していない状態での値である。
[含浸助剤]
本発明にて用いられる含浸助剤に特に限定は無く、1種類であっても、複数種の含浸助剤を含むものでも良く、具体的には米国特許出願番号14/384857、名称「Material for Molding, Shaped Product Therefrom, and Method for Manufacturing the Shaped Product」に詳しく記載されている。
本発明において用いられる含浸助剤としては、リン酸エステルおよび脂肪族ヒドロキシカルボン酸系ポリエステルからなる群より選ばれる1種類以上のものであると好ましく、当然、リン酸エステルおよび脂肪族ヒドロキシカルボン酸系ポリエステルの双方を含むものであっても良い。
炭素繊維束に含まれる含浸助剤の量に特に限定は無いが、炭素繊維100質量部に対し3〜15質量部が好ましく、5〜12質量部がより好ましい。
[熱可塑性樹脂]
本発明に用いられる熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアセタール樹脂(ポリオキシメチレン樹脂)、ポリカーボネート樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルニトリル樹脂、フェノキシ樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、熱可塑性ウレタン樹脂、フッ素系樹脂、熱可塑性ポリベンゾイミダゾール樹脂、ビニル系樹脂等を挙げることができる。
上記ポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリメチルペンテン樹脂等を上げることができる。上記ビニル系樹脂としては、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂等を挙げることができる。上記ポリスチレン樹脂としては、例えば、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−スチレン樹脂(AS樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS樹脂)等を挙げることができる。上記ポリアミド樹脂としては、例えば、ポリアミド6樹脂(ナイロン6)、ポリアミド11樹脂(ナイロン11)、ポリアミド12樹脂(ナイロン12)、ポリアミド46樹脂(ナイロン46)、ポリアミド66樹脂(ナイロン66)、ポリアミド610樹脂(ナイロン610)等を挙げることができる。上記ポリエステル樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ボリブチレンテレフタレート樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂、液晶ポリエステル等を挙げることができる。上記(メタ)アクリル樹脂としては、例えば、ポリメチルメタクリレートを挙げることができる。上記ポリフェニレンエーテル樹脂としては、例えば、変性ポリフェニレンエーテル等を挙げることができる。上記ポリイミド樹脂としては、例えば、熱可塑性ポリイミド、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂等を挙げることができる。上記ポリスルホン樹脂としては、例えば、変性ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂等を挙げることができる。上記ポリエーテルケトン樹脂としては、例えば、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトンケトン樹脂を挙げることができる。
本発明に用いられる熱可塑性樹脂は1種類のみであってもよく、2種類以上であってもよい。本発明において2種類以上の熱可塑性樹脂を併用する態様としては、例えば、相互に軟化点又は融点が異なる熱可塑性樹脂を併用する態様や、相互に平均分子量が異なる熱可塑性樹脂を併用する態様等を挙げることができるが、この限りではない。
[熱可塑性樹脂の溶解性パラメーターSP値]
本発明における熱可塑性樹脂の溶解性パラメーターSP値(単位:(J/cm1/2)が18以上21以下であることが好ましい。
従来、熱可塑性樹脂の溶解性パラメーターSP値(単位:(J/cm1/2)が18以上21以下の範囲にある熱可塑性樹脂と、上述の表面酸素濃度比[O/C]を有する炭素繊維とを含む成形材料を用いて成形した場合、炭素繊維と熱可塑性樹脂のシリンダー内で混ぜ合わされる時間が短いために、炭素繊維の表面官能基全ては作用しにくい。
一方、本発明は成形型キャビティ体積100に対して、射出容量を400以上2000以下としているため、熱可塑性樹脂の溶解性パラメーターSP値(単位:(J/cm1/2)が18以上21以下の範囲にある熱可塑性樹脂と、上述の表面酸素濃度比[O/C]を有する炭素繊維とを含む成形材料を用いて成形した場合であっても、炭素繊維の表面官能基の多くは作用しやすい。結果、成形体となったときの機械物性が向上する。
好ましい溶解性パラメーターSP値(単位:(J/cm1/2)は、19.5以上20.5以下である。
[ポリカーボネート]
本発明における熱可塑性樹脂はポリカーボネートを用いることが好ましい。なお、ポリカーボネートの溶解性パラメーターSP値(単位:(J/cm1/2)は、20.2である。
この場合、ポリカーボネートの種類は特に限定されず、種々のジヒドロキシアリール化合物とホスゲンとの反応によって得られるもの、又はジヒドロキシアリール化合物とジフェニルカーボネートとのエステル交換反応により得られるものが挙げられる。代表的なものとしては、2,2’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、所謂ビスフェノールAとホスゲンまたはジフェニルカーボネートの反応で得られるポリカーボネートである。
ポリカーボネートの原料となるジヒドロキシアリール化合物としては、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、2,2’−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2’−ビス(4−ヒドロキシ−3−t−ブチルフェニル)プロパン、2,2’−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2’−ビス(4−ヒドロキシ−3−シクロヘキシルフェニル)プロパン、2,2’−ビス(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)プロパン、1,1’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロドデカン、4,4’−ジヒドロキシフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトンなどがある。これらのジヒドロキシアリール化合物は単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
好ましいジヒドロキシアリール化合物には、耐熱性の高い芳香族ポリカーボネートを形成するビスフェノール類、2,2’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンなどのビス(ヒドロキシフェニル)アルカン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンなどのビス(ヒドロキシフェニル)シクロアルカン、ジヒドロキシジフェニルスルフィド、ジヒドロキシジフェニルスルホン、ジヒドロキシジフェニルケトンなどが含まれる。特に好ましいジヒドロキシアリール化合物には、ビスフェノールA型芳香族ポリカーボネートを形成する2,2’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンが含まれる。
なお、耐熱性、機械的強度などを損なわない範囲で、ビスフェノールA型芳香族ポリカーボネートを製造する際、ビスフェノールAの一部を、他のジヒドロキシアリール化合物で置換してもよい。また、流動性、外観光沢、難燃特性、熱安定性、耐候性、耐衝撃性などを上げる目的で、機械的強度を損なわない範囲で、各種ポリマー、充填剤、安定剤、顔料などを配合してもよい。なお、難燃性を向上させる目的で、難燃剤としてリン酸エステルをポリカーボネートに配合させることも可能である。
[成形材料]
本発明における成形材料の形状は特に限定されず、柱状、板状、粒状、塊状、糸状(紐状)、網状等が挙げられ、異なる形状の成形材料を複数種用いて成形することも可能である。
成形材料は、炭素繊維束の周囲に熱可塑性樹脂が被覆された芯鞘構造であって、炭素繊維束の軸方向の長さL1と、成形材料の長さL2とが、0.9<L1/L2<1.0であることが好ましく、L1とL2が実質同一であることがより好ましい。このとき、炭素繊維束が芯、熱可塑性樹脂が鞘となる。
すなわち、炭素繊維束の周囲が熱可塑性樹脂で被覆した被覆体をカッターにて切断するなどして得られる、炭素繊維束を芯成分、熱可塑性樹脂を鞘成分とする芯鞘型構造のペレットであることがより好ましい(芯鞘型ペレットと称することがある)。
また、このような粒状の成形材料は、炭素繊維束の軸方向の長さが1〜30mmであることが好ましく、2〜10mmであることがより好ましく、2〜5mmであれば更に好ましい。該芯鞘型ペレット(例えば図1に記載された芯鞘型ペレット)の直径に特に制限は無いが、ペレット長さの1/10以上2倍以下であると好ましく、ペレット長さの1/4以上かつペレット長さと同等以下であるとより好ましい。
[質量割合]
本発明における成形体の製造方法では、炭素繊維100質量部に対して、熱可塑性樹脂の重量割合が150質量部以上900質量部以下の成形材料を用いることが好ましい。より好ましい熱可塑性樹脂の重量割合の下限は200質量部以上である。
反対に、炭素繊維100質量部に対して、熱可塑性樹脂の質量割合の上限は900質量部以上であると好ましい。より好ましい熱可塑性樹脂の質量割合の上限は700質量部以下である。
[成形材料の製造方法]
本発明における成形材料の製造方法に特に限定は無く、例えば国際公開第2013/137246号パンフレットに記載の方法を用いれば良い。
具体的には、炭素繊維束の表面に溶融状態の熱可塑性樹脂を被覆する方法、炭素繊維束を引き並べた上にTダイなどを使って溶融状態の熱可塑性樹脂をキャストし積層化する方法、引き並べた炭素繊維束にフィルム状熱可塑性樹脂を積層ラミネートする方法、炭素繊維束を引きそろえた上に粉末状熱可塑性樹脂を吹きつける方法などが挙げられる。連続上に引き並べられた炭素繊維束の替わりに、所定の長さに切断された炭素繊維束の集合体を同様に用いることも可能である。
本発明の成形材料は、炭素繊維束を芯成分、熱可塑性樹脂を鞘成分とする芯鞘型構造であることが好ましく、特に、炭素繊維束の周囲が熱可塑性樹脂で被覆されたストランドをストランドカッターにて切断するなどして得られる、炭素繊維束を芯成分、熱可塑性樹脂を鞘成分とする芯鞘型構造の、ペレットであることがより好ましい。
[成形体の製造方法]
1.射出容量
本発明における成形体の製造方法は、炭素繊維束と熱可塑性樹脂とを含む成形材料を射出成形して成形体を製造する方法であって、成形型キャビティ体積100に対して、射出容量を400〜2000に計量して成形する。
本発明において、成形型キャビィティ体積とは、1ショットで作成されるスプルー、ランナー、ゲート、捨てキャビティ、及び成形体の合計体積をいう。なお、捨てキャビティ体積が無い場合はその体積を0で計算すれば良い。
成形型キャビティ体積100に対して、射出容量を400以上とする場合、熱可塑性樹脂と炭素繊維との作用時間が十分に確保され、炭素繊維表面の官能基のほとんどが熱可塑性樹脂と作用できる。より好ましい射出容量の体積の下限は500以上であり、600以上が更に好ましく、700以上がより一層好ましく、800以上が最も好ましい。
反対に、成形型キャビティ体積100に対する、射出容量の体積の上限は2000以下である。これを超える場合、熱可塑性樹脂が長時間混練されるため、熱可塑性樹脂が劣化してしまうため成形体の物性が悪化する。好ましい射出容量の体積の上限は1800以下がより好ましく、1600以下が更に好ましく、1400がより一層好ましく、1200以下が最も好ましい。この範囲であれば、熱可塑性樹脂の劣化の影響よりも、炭素繊維の表面官能基の作用による機械物性向上の効果が大きくなる。
2.シリンダー通過時間
射出成形においては、成形材料をシリンダー内で溶融可塑化し、これを成形型内へ射出し、成形型内部で固化して成形体を得る。なお、可塑化するためのシリンダーは、ホッパから投入された成形材料に熱を加えて溶かす部分であり、シリンダーで溶融可塑化した後に成形型内へ射出する。射出成形機としてはインライン方式射出成形機が好ましい。
成形材料がシリンダー内を通過する時間は、1min以上10min未満であると好ましい。
ここで、シリンダー内を通過する時間は、下記式で計算できる。
シリンダー内を通過する時間 = (射出容量の体積÷成形型キャビティ体積)×1ショットサイクル時間
熱可塑性樹脂と炭素繊維との相互作用を長くするために、シリンダー内を通過する時間をある程度長くすることが好ましいが、1ショットサイクル時間は短くして生産性を向上させたい。そこで、本発明においては、射出容量を大きくして、シリンダー内を通過する時間を長くし、熱可塑性樹脂と炭素繊維との相互作用を長くする。
シリンダー内を通過する時間が1min以上であると、炭素繊維束内部に存在する、炭素繊維の表面官能基は、熱可塑性樹脂と作用する時間が十分に長くなるため好ましい。好ましい通過時間は2min以上であり、4min以上が更に好ましい。
反対に、上限は10min以下が好ましい。10min以下である場合、熱可塑性樹脂の劣化度合いを抑制できる。
[成形体]
本発明の成形材料を用い、他の成形材料や添加剤を加えることなく、成形を行って成形体を得た場合、該成形材料と該成形体の炭素繊維を含有する量や割合、つまり質量基準の組成は当然同じである。よって本発明の成形体に含まれる炭素繊維や熱可塑性樹脂の量やその好ましい範囲については、成形材料と成形体とで同じであると良い。
なお、本発明の成形材料を用いて、他の成形材料や添加剤を加えることなく成形を行った場合は、成形材料または得られた成形体のいずれか一方の炭素繊維含有量(率)を測定し、これを他方の炭素繊維含有量(率)とみなすことができる。また、本発明の成形材料に、他の成形材料や添加剤等を加えて成形を行った場合でも、それらの添加量を元に計算を行い、本発明の成形材料または成形体のいずれか一方の炭素繊維含有量(率)から、他方の炭素繊維含有量(率)を求めることができる。
本発明の成形体は、成形体において、炭素繊維束が解かれた炭素繊維が、重量平均繊維長0.3mm以上の長さで分散しているものが好ましく、更に好ましくは該炭素繊維が重量平均繊維長0.4mm以上の長さで分散しているものである。本発明の成形体において、残存する炭素繊維の重量平均繊維長の上限に特に制限は無く、用途や採用される成形方法による。
[成形体の用途]
本発明の成形体の製造方法は、優れた機械強度を有する成形体を、簡素なプロセスにて製造することを可能とするものであり、自動車、船舶、航空機など輸送機器、電気・電子機器、事務用機器等の内外装材や部品といった種々の産業分野において極めて有用なものである。
[評価・分析方法]
以下に実施例を示すが、本発明はこれらに制限されるものではない。なお、本実施例における各値は、以下の方法に従って求めた。
1.引張強度の測定
引張強度は、ダンベル状試験片の形状になっている本発明の成形体を用いて、JIS K 7161:1994に準拠した方法にて評価した。ダンベル状試験片としては、平行区間部の寸法が長さ80mm、幅10mm、厚み2mmのものである。
2.曲げ強度の測定
ダンベル状試験片(JIS K 7162:1994またはISO 527−2:1998の試験片1A形に準拠)の形状になっている本発明の成形体を用いて、JIS K 7171に準拠した方法にて評価した。
3.0.3mm以上の炭素繊維の割合
成形体の試料をルツボに入れ、550℃にて1.5時間有酸素雰囲気下で加熱し樹脂成分を燃焼除去した。残った炭素繊維を界面活性剤入りの水に投入し、超音波振動により十分に撹拌させた。撹拌させた分散液を計量スプーンによりランダムに採取し評価用サンプルを得て、ニレコ社製画像解析装置Luzex APにて、0.3mm以上の長さの炭素繊維の重量割合を算出した。
[原材料の準備]
本発明で用いた原材料は以下の通りである。
1.炭素繊維束の作製
(1)ポリアクリロニトリルを主成分とする共重合体から紡糸、焼成処理、表面酸化処理を行い、総単糸数24,000本、単繊維径7μm、単位長さ当たりの質量1.6g/m、比重1.8g/cm、表面酸素濃度[O/C]0.11の均質な炭素繊維束(1)を得た。この炭素繊維のストランド引張強度は4000MPa、ストランド引張弾性率は240GPaであった。
(2)ポリアクリロニトリルを主成分とする共重合体から紡糸、焼成処理、表面酸化処理を行い、総単糸数24,000本、単繊維径7μm、単位長さ当たりの質量1.6g/m、比重1.8g/cm、表面酸素濃度[O/C]0.23の均質な炭素繊維束(2)を得た。この炭素繊維のストランド引張強度は5000MPa、ストランド引張弾性率は240GPaであった。
2.熱可塑性樹脂
ポリカーボネート:帝人株式会社製:L−1225Y
ガラス転移温度:150度
溶解性パラメーター((J/cm1/2):20.2
3.含浸助剤
(1)ビスフェノールA ビス(ジフェニルホスフェート)(大八化学株式会社製;CR―741)
[実施例1]
1.成形材料の準備
含浸助剤として、芳香族縮合リン酸エステルであるビスフェノールA ビス(ジフェニルホスフェート)(大八化学株式会社製;CR―741)を用い、これを不揮発分25質量%にエマルジョン化した溶液内に、炭素繊維束(1)を通過させた後、ニップロールにて過剰に付着した溶液を取り除き、更にその後、180℃に加熱された熱風乾燥炉内を2分間かけて通過させ、乾燥させた。この炭素繊維束の含浸助剤の含有率は炭素繊維100質量部あたり11.1質量部であった。
次に、上記で得られた炭素繊維束を、出口径3mmの電線被覆用クロスヘッドダイを用いて、ポリカーボネート(帝人株式会社製:L−1225Y)で被覆し、これを長さ3mmに切断し、炭素繊維含有率が15質量%(炭素繊維100質量部あたり、ポリカーボネートが566質量部)、直径3.2mm、長さ3mmの、射出成形に適した芯鞘型ペレットである成形材料を得た。
2.成形体の製造
この成形材料を、成形型キャビティ体積100に対して射出容量の体積880に計量できるようにシリンダーを選定する。具体的には、成形型キャビティ体積PE換算96gに対して、東芝機械製「全電動式射出成形機EC450SX i26」(シリンダー容量PE換算842g)を選定した。
シリンダー温度C1/C2/C3/C4/N=280℃/290℃/320℃/320℃/310℃(C1〜C4はキャビティ、Nはノズル)にて1ショットサイクル時間45秒で射出成形し、引張強度と曲げ強度の試験用ダンベルを得た。成形材料がシリンダー内を通過する時間は6.6minであった。結果を表1に示す。
[実施例2]
炭素繊維含有率を30質量%(炭素繊維100質量部あたり、ポリカーボネートが233質量部)としたこと以外は、実施例1と同様にして成形体を製造した。結果を表1に示す。
[実施例3]
炭素繊維束として炭素繊維束(2)を使用し、炭素繊維含有率を30質量%(炭素繊維100質量部あたり、ポリカーボネートが233質量部)としたこと以外は、実施例1と同様にして成形体を製造した。結果を表1に示す。
[実施例4]
成形型キャビティ体積100に対する射出容量を617に調整して、成形型と射出成形機を準備したこと以外は、実施例3と同様にして成形体を製造した。成形材料がシリンダー内を通過する時間は4.6minであった。結果を表1に示す。
[比較例1]
成形型キャビティ体積100に対する射出容量を350に調整して、成形型と射出成形機を準備したこと以外は、実施例1と同様にして成形体を製造した。成形材料がシリンダー内を通過する時間は2.6minであった。結果を表1に示す。
[比較例2]
成形型キャビティ体積100に対する射出容量を350に調整して、成形型と射出成形機を準備したこと以外は、実施例3と同様にして成形体を製造した。成形材料がシリンダー内を通過する時間は2.6minであった。結果を表1に示す。
[比較例3]
芯鞘型の成形材料を用いず、成形材料中に炭素繊維が単糸状に分散したペレットを用いたこと以外は、実施例1と同様にして成形体を製造した。成形材料は炭素繊維束と熱可塑性樹脂を混練して製造したため、成形材料に含まれる炭素繊維の重量平均繊維長は0.3mmとなった。結果を表1に示す。
[比較例4]
成形型キャビティ体積100に対する射出容量を350に調整して、成形型と射出成形機を準備したこと以外は、比較例3と同様にして成形体を製造した。結果を表1に示す。
炭素繊維束が含まれていない成形材料を用いた場合、成形型キャビティ体積100に対する、射出容量を変えても、ほとんど機械物性は変化しないことが分かる。
Figure 0006902395
101 炭素繊維束
102 熱可塑性樹脂

Claims (6)

  1. 炭素繊維束と熱可塑性樹脂とを含む成形材料を射出成形して成形体を製造する方法であって、
    成形型キャビティ体積100に対して、射出容量を400以上2000以下に計量して成形する、成形体の製造方法。
    ただし、成形材料は、炭素繊維束の周囲に熱可塑性樹脂が被覆された芯鞘構造であって、炭素繊維束の軸方向の長さL1と、成形材料の長さL2とが、0.9<L1/L2<1.0であり、成形材料に含まれる熱可塑性樹脂は炭素繊維束内部に含浸していない。
  2. 炭素繊維100質量部に対して、熱可塑性樹脂の重量割合が150質量部以上900質量部以下である、請求項1に記載の成形体の製造方法。
  3. 熱可塑性樹脂の溶解性パラメーターSP値(単位:(J/cm1/2)が18以上21以下である、請求項1又は2に記載の成形体の製造方法。
  4. 熱可塑性樹脂がポリカーボネートである、請求項1〜いずれか1項に記載の成形体の製造方法。
  5. 成形材料がシリンダー内を通過する時間が、1min以上10min未満である、請求項1〜いずれか1項に記載の成形体の製造方法。
  6. 炭素繊維束を構成する炭素繊維の表面酸素濃度比[O/C]が0.1〜0.5である、請求項1〜いずれか1項に記載の成形体の製造方法。
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