以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
また、以下では、本発明に係る荷電粒子線装置として、電子顕微鏡を例に挙げて説明するが、本発明に係る荷電粒子線装置は電子顕微鏡に限定されない。
1. 第1実施形態
1.1. 電子顕微鏡
まず、第1実施形態に係る電子顕微鏡について図面を参照しながら説明する。図1は、第1実施形態に係る電子顕微鏡100の構成を示す図である。
電子顕微鏡100は、図1に示すように、電子源10(荷電粒子源の一例)と、集束レンズ12と、対物レンズ14と、偏向器16と、試料ステージ20と、二次電子検出器30と、EDS検出器40(X線検出器の一例)と、走査信号発生器50と、処理部60と、記憶部70と、を含む。
電子源10は、電子を発生させる。電子源10は、例えば、陰極から放出された電子を陽極で加速し電子線EB(荷電粒子線の一例)を放出する電子銃である。
集束レンズ12は、電子源10から放出された電子線EBを集束させて電子プローブを形成する。集束レンズ12によって、電子プローブの径やプローブ電流(照射電流量)を制御することができる。
対物レンズ14は、試料Sの直前に配置された電子プローブを形成するためのレンズである。対物レンズ14は、例えば、コイルと、ヨークと、を含んで構成されている。対物レンズ14では、コイルで作られた磁力線を、鉄などの透磁率の高い材料で作られたヨークに閉じ込め、ヨークの一部に切欠き(レンズギャップ)を作ることで、高密度に分布した磁力線を光軸上に漏洩させる。
偏向器16は、集束レンズ12と対物レンズ14とによって形成された電子プローブ(集束された電子線EB)を偏向させる。偏向器16は、電子プローブで、試料S上を走査するために用いられる。偏向器16は、走査信号発生器50が発生させた走査信号に基づき駆動し、電子線EBを偏向させる。この結果、電子プローブで試料S上を走査することができる。なお、偏向器16は、図示の例では、2段であるが、1段であってもよいし、3段以上であってもよい。
試料ステージ20には、試料Sが載置される。試料ステージ20は、試料Sを支持し、試料Sを移動させることができる。試料ステージ20は、試料Sを移動させるための駆動機構を有している。
二次電子検出器30は、電子線EB(電子プローブ)が試料Sに照射されることにより試料Sから放出される二次電子を検出する。二次電子検出器30は、例えば、シンチレーター、光電子増倍管、および信号処理回路を含んで構成されている。二次電子検出器30では、シンチレーターに入射した二次電子はシンチレーターで光に変換され、当該光を光電子増倍管で電気信号に変換し増幅する。この電気信号は、信号処理回路でデジタル信号に変換され、電子信号データとして、処理部60に送られる。電子信号データは、試料Sから放出された二次電子の強度の情報を含むデータである。
EDS検出器40は、電子線EBが試料Sに照射することにより試料Sから発生する特性X線を検出する。EDS検出器40は、例えば、シリコンドリフト検出器(silicon−drift detector、SDD)と、信号処理回路と、を含んで構成されている。EDS検出器40では、シリコンドリフト検出器の出力信号に基づき信号処理回路がX線のエネルギー値を解析し、X線信号データとして処理部60に送られる。X線信号データは、試料Sから発生するX線のエネルギー値の情報を含むデータである。
走査信号発生器50は、電子プローブを走査するための走査信号を生成する。走査信号は、例えば、電子プローブをラスター走査させるための信号である。ラスター走査とは、電子プローブを一次元的に走査して走査線を得、当該走査線でその垂直方向に走査することをいう。電子プローブをラスター走査させることにより、二次元的な画像(二次電子像や元素マップ)を得ることができる。走査信号発生器50で生成された走査信号は、さらに、処理部60に送られる。
処理部60は、二次電子検出器30からの電子信号データ、EDS検出器40からのX線信号データ、および走査信号発生器50からの走査信号を受け付けて、電子信号データ、X線信号データ、および走査信号に基づく位置データを記憶部70に記憶させる処理を行う。処理部60の機能は、専用回路により実現することができる。なお、処理部60の機能は、例えば、各種プロセッサ(CPU(Central Processing Unit)等)でプログラムを実行することにより実現してもよい。処理部60の処理の詳細については後述する。
記憶部70は、電子信号データ、X線信号データ、および位置データを記憶する。記憶部70の機能は、ハードディスクや、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)などのメモリー(記憶装置)により実現できる。なお、記憶部70は、処理部60の作業領域として用いられ、処理部60が各種プログラムに従って実行した算出結果等を一時的に記憶するためにも使用されてもよい。
電子顕微鏡100では、電子源10で発生した電子線EBを集束レンズ12および対物レンズ14で集束し、走査信号に基づき偏向器16で電子線EBを偏向する。これにより、試料Sが電子プローブで走査される。
電子プローブで試料S表面を走査したときの電子プローブの照射点から放出される二次電子は、二次電子検出器30で検出される。また、電子プローブで試料S表面を走査したときの電子プローブの照射点から放出される特性X線は、EDS検出器40で検出される。
電子顕微鏡100では、試料Sの測定対象領域を電子プローブで繰り返し高速に走査し、試料Sからの特性X線および二次電子を検出する。これにより、二次電子検出器30の出力信号(電子信号データ)、EDS検出器40の出力信号(X線信号データ)、および走査信号が、順次、処理部60に送られる。そして、電子信号データ、X線信号データ、および走査信号に基づく位置データは、後述する処理部60の処理によって、記憶部70に記憶される。
1.2. 処理
次に、処理部60の処理について説明する。図2は、記憶部70に格納されたデータ列(元素マップデータ)の構造を説明するための図である。なお、図2において、「F1」は、1フレーム目に取得されたデータであることを示しており、「F2」は、2フレーム目に取得されたデータであることを示している。「F3」以降についても同様である。
処理部60には、電子信号データ、X線信号データ、および走査信号が順次入力される。
処理部60は、走査信号が入力されると、電子線EBの照射位置(X座標)のデータであることを示すデータ(以下「タグ」ともいう)と、電子線EBの照射位置(X座標)の位置データと、を含む位置データブロックX、および、電子線EBの照射位置(Y座標)のデータであることを示すタグと、電子線EBの照射位置(Y座標)の位置データと、を含む位置データブロックYを生成する。位置データは、試料S上での電子線EBの照射位置を示すデータである。位置データは、例えば、試料S上の位置(電子線の照射位置)を表す座標値である。
処理部60は、電子信号データが入力されると、電子信号の強度のデータであることを示すタグと、電子信号データと、を含む電子信号データブロックAを生成する。電子信号データは、二次電子検出器30から出力されたデータであり、二次電子検出器30に入射した二次電子(電子信号)の強度を示すデータである。
なお、電子信号データは、反射電子信号のデータであってもよい。すなわち、図示はしないが、電子顕微鏡100が反射電子検出器を備えており、電子信号データは当該反射電子検出器で反射電子信号を検出して得られたデータであってもよい。
処理部60は、X線信号データが入力されると、X線信号のエネルギーのデータであることを示すタグと、X線信号データと、を含むX線信号データブロックEを生成する。X線信号データは、EDS検出器40から出力されたデータであり、EDS検出器40に入射した特性X線(X線信号)のエネルギー値を示すデータである。
処理部60は、あらかじめ設定されたフレーム数分だけ、電子信号データ、X線信号データ、および走査信号(位置データ)を取得して各データブロックX,Y,A,Eを生成し、これらのデータブロックX,Y,A,Eを1つのデータパックとして、記憶部70に記憶させる。
図2に示す例では、設定されたフレーム数は「3」であり、処理部60は、3フレーム分の電子信号データ、X線信号データ、および走査信号データを取得して、位置データブロックX,Y、電子信号データブロックA、X線信号データブロックE、を生成し、1つのデータパックを生成する。1つのデータパックに含まれるフレーム数は、ユーザーが適宜設定してもよいし、あらかじめ決まった数に固定されていてもよい。
このとき、処理部60は、重複している位置データブロックX,Yを削除する。例えば、1フレーム目の座標(X1,Y1)を示す位置データブロックX,Yと、2フレーム目の座標(X1,Y1)を示す位置データブロックX,Yと、3フレーム目の座標(X1,Y1)を示す位置データブロックX,Yは、同じ位置を示すデータである。そのため、1つのデータパックには座標(X1,Y1)を示す位置データブロックX,Yが1つとなるように、2つの位置データブロックX,Yを削除する。
処理部60は、重複する位置データブロックX,Yを削除した後、電子信号データブロックAおよびX線信号データブロックEを並べる処理を行う。
具体的には、処理部60は、位置データブロックX,Yの後に、電子信号データブロックAをフレーム順に並べる。電子信号データブロックAをフレーム順に並べることで、電子信号データブロックAがどのフレームのデータであるのかを特定できる。図2に示す例では、位置データブロックX,Yの後に、1フレーム目の電子信号データブロックA(F1)、2フレーム目の電子信号データブロックA(F2)、3フレーム目の電子信号データブロックA(F3)がこの順に並べられている。
また、処理部60は、位置データブロックX,Yの後に、X線信号データブロックEをフレーム順に並べる。なお、X線信号データブロックEの並び順は特に限定されない。図2に示す例では、電子信号データブロックAの後に、1フレーム目のX線信号データブロックE(F1)、2フレーム目のX線信号データブロックE(F2)、3フレーム目のX線信号データブロックE(F3)がこの順に並べられている。
なお、図2に示す例では、3フレーム分の電子信号データブロックAの後に、3フレーム分のX線信号データブロックEが並べられているが、電子信号データブロックAがフレーム順に並んでいれば並び順は特に限定されない。例えば、位置データブロックX,Yの後に、1フレーム目の電子信号データブロックA(F1)、1フレーム目のX線信号データブロックE(F1)、2フレーム目の電子信号データブロックA(F2)、2フレーム目のX線信号データブロックE(F2)、3フレーム目の電子信号データブロックA(F3)、3フレーム目のX線信号データブロックE(F3)がこの順に並んでいてもよい。
処理部60は、位置データブロックX,Yごとに(位置データごとに)、上述した、重複する位置データブロックX,Yを削除する処理、および位置データブロックX,Yの後に電子信号データブロックA,X線信号データブロックEを並べる処理を繰り返して、1
つのデータパックを生成する。
処理部60は、設定されたフレーム数分だけ、電子信号データ、X線信号データ、および走査信号(位置データ)を取得して各データブロックX,Y,A,Eを生成し、これらのデータブロックX,Y,A,Eを1つのデータパックとして、記憶部70に記憶させる処理を繰り返し行う。この結果、データパック1、データパック2、データパック3、・・・が、記憶部70に記憶される。処理部60は、例えば、電子プローブの走査が終了するまで、上記の処理を繰り返し行う。以上の処理により、データ列(元素マップデータ)が記憶部70に記憶される。
次に、図2に示すデータ列からデータを読み出す手法について説明する。
図2に示すデータ列は、位置データブロックX,Yの後に、当該位置データブロックX,Yで指定される座標の電子信号データを含む電子信号データブロックAおよび当該座標のX線信号データを含むX線信号データブロックEが並べられている。そのため、例えば、座標(X1,Y1)を示す位置データブロックX,Yと、その次の座標(X2,Y1)を示す位置データブロックX,Yと、の間に挟まれている電子信号データブロックA、X線信号データブロックEを抽出することで、座標(X1,Y1)における電子信号データおよびX線信号データを取得することができる。
また、図2に示すデータ列から、データパック1を抽出することで、3フレーム分の電子信号データおよびX線信号データを抽出することができる。すなわち、3フレーム分のデータが積算された、二次電子像および元素マップを得ることができる。また、m個のデータパックを抽出することにより、m×3フレーム分のデータが積算された、二次電子像および元素マップを得ることができる。このように、図2に示すデータ列から、分析中の元素分布の変化の観察(動的観察)が可能である。
なお、電子信号データブロックAは、フレーム順に並んでいるため、図2に示すデータ列から、フレームごとの電子信号データを抽出することもできる。したがって、フレームごとに、二次電子像を生成することができる。
上記では、図2に示すように、データ列が、位置データブロックX,Y、電子信号データブロックA、およびX線信号データブロックEを含む場合について説明したが、データ列は、これ以外のデータを含んでいてもよい。例えば、データ列に、測定の経過時間を示す経過時間情報データや、試料吸収電流の信号データ、カソードルミネッセンスの信号データなどのデータを追加してもよい。
電子顕微鏡100は、例えば、以下の特徴を有する。
電子顕微鏡100では、処理部60は、複数フレーム分の電子信号データ、X線信号データ、および位置データから、重複している位置データを削除して、記憶部70に記憶させる。そのため、電子顕微鏡100では、元素マップデータのデータサイズを小さくすることができる。
例えば、図17に示す従来のタグデータ方式の場合、3フレーム分のデータを取得すると、同じ位置を示す位置データブロックX,Yが3つ含まれることとなる。これに対して、本実施形態では、図2に示すように、3フレーム分のデータを1つのデータパックとして、重複している位置データブロックを削除する。そのため、1つのデータパック(3フレーム分のデータ)には、1つの位置を示す位置データブロックX,Yが1つとなる。したがって、電子顕微鏡100によれば、従来のタグデータ方式に比べて、元素マップデー
タのデータサイズを小さくすることができる。
また、上述したように、図2に示すデータ列では、フレームごとに二次電子像を生成することができる。また、図2に示すデータ列では、データパックごとに、元素マップを生成することができる。したがって、電子顕微鏡100では、分析中の元素分布の変化の観察(動的観察)も可能である。
電子顕微鏡100では、1つのデータパックに含めるフレーム数を適宜設定することができる。例えば、1つのデータパックに含めるフレーム数を多くすることで、元素マップデータのデータサイズをより小さくすることができる。また、1つのデータパックに含めるフレーム数を少なくすることで、元素分布の変化をより短い時間間隔で捉えることができる。
電子顕微鏡100では、処理部60は、設定されたフレーム数分だけ電子信号データ、X線信号データ、および位置データを取得し、重複している位置データを削除して、記憶部70に記憶させる。そのため、電子顕微鏡100では、元素マップデータのデータサイズを小さくすることができる。さらに、例えば、後述する第2実施形態に比べて、装置の構成を簡易化することができる。
2. 第2実施形態
2.1. 電子顕微鏡
次に、第2実施形態に係る電子顕微鏡について、図面を参照しながら説明する。図3は、第2実施形態に係る電子顕微鏡200の構成を示す図である。以下、第2実施形態に係る電子顕微鏡200において、第1実施形態に係る電子顕微鏡100の構成部材と同様の機能を有する部材については同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
上述した電子顕微鏡100では、処理部60は、設定されたフレーム数分だけ、電子信号データ、X線信号データ、および位置データを取得し、重複している位置データを削除して、1つのデータパックとして記憶部70に記憶させていた。
これに対して、電子顕微鏡100では、処理部60は、X線信号データ、電子信号データ、および位置データが時系列に並んだデータ列を取得し、フレームごとに電子信号データから試料像を生成し、生成された試料像と基準画像とを比較して類似度を求める。そして、データ列を類似度に基づき複数のデータパックに分け、データパックごとに重複している位置データを削除して、記憶部70に記憶させる。
電子顕微鏡200は、図3に示すように、データ処理回路202と、時系列データ記憶部204と、を含んで構成されている。
データ処理回路202には、電子信号データ、X線信号データ、および走査信号が順次入力される。データ処理回路202は、電子信号データ、X線信号データ、および走査信号に基づく位置データから、それぞれ電子信号データブロックA、X線信号データブロックE、位置データブロックX,Yを生成し、順次、時系列データ記憶部204に記憶させる。この結果、時系列データ記憶部204には、位置データブロックX,Y、電子信号データブロックA、およびX線信号データブロックEが時間軸に沿って並べられたデータ列(時系列データ)が格納される。
時系列データ記憶部204は、位置データブロックX,Y、電子信号データブロックA、およびX線信号データブロックEが時間軸に沿って並べられたデータ列を記憶する。記憶部70の機能は、ハードディスクや、ROM、RAMなどのメモリー(記憶装置)によ
り実現できる。
図4は、時系列データ記憶部204に格納されたデータ列の構造を説明するための図である。
図4に示すように、時系列データ記憶部204には、1フレーム目から最終フレームまで、位置データブロックX,Y、電子信号データブロックA、およびX線信号データブロックEが時間軸に沿って並べられたデータ列が記憶される。
処理部60は、時系列データ記憶部204に記憶されているデータ列(図4参照)を取得し、当該データ列から電子信号データブロックA(電子信号データ)を抽出して、フレームごとに二次電子像を生成する。
処理部60は、生成された二次電子像と基準画像とを比較して、フレームごとに類似度を求める。基準画像は、例えば、類似度を求めようとする二次電子像の1つ前のフレームの二次電子像である。すなわち、nフレーム目の二次電子像の比較対象となる基準画像は、n−1フレーム目の二次電子像である。このように基準画像を設定することにより、二次電子像の変化を知ることができる。なお、基準画像は、指定されたフレーム(例えば1フレーム目)の二次電子像であってもよい。
類似度は、2つの画像が似ている度合いであり、例えば、相互相関の最大強度値や、相関関数などの類似性を数値化することができるもので表される。類似度は、例えば、2つの画像の相互相関を計算することで求められる。
下記表1は、生成された二次電子像と基準画像との類似度を求めた結果の一例を示す表である。表1において、類似度Rは、0<R≦1の値をとり、2つの画像の類似度が高い場合、類似度は1に近い数値となる(2つの画像が同じ画像である場合、類似度は1である)。
処理部60は、求めた類似度に基づいて、データ列(時系列データ)を複数のデータパックに分ける。処理部60は、類似する二次電子像が連続する複数のフレーム(すなわち、類似度Rが1に近い連続する複数のフレーム)のデータを1つのデータパックとする。
ここで、例えば、類似度Rが0.8以上のときに基準画像と類似すると設定する(すなわち閾値を0.8とする)。表1では、1フレーム目から3フレーム目までは、類似度Rが0.8以上であり、4フレーム目の類似度Rが0.8未満(類似度R=0.7)である。そのため、1フレーム目の各データ(電子信号データブロックA、X線信号データブロックE、位置データブロックX,Y)、2フレーム目の各データ、および3フレーム目の各データを、1つのデータパック(データパック1)とする。同様に、4フレーム目から7フレーム目までをデータパック2とし、8フレーム目をデータパック3とし、9フレーム目から13フレーム目までをデータパック4とする。13フレーム目以降も同様の処理を行う。
処理部60は、このようにして類似度に基づいてデータ列を複数のデータパックに分けると、データパックごとに、重複している位置データブロックX,Yを削除する。処理部60は、このようにして生成したデータパック1、データパック2、データパック3、データパック4、・・・を、記憶部70に記憶させる。
図5は、記憶部70に格納されたデータ列の構造を説明するための図である。
処理部60は、類似度に基づいてデータ列を複数のデータパックに分けているため、図5示すデータ列では、各データパックに含まれるフレーム数は異なっている。例えば、データパック1には3フレーム分(1フレーム目から3フレーム目)のデータが含まれており、データパック2には4フレーム分(4フレーム目から7フレーム目)のデータ、データパック3には1フレーム分(8フレーム目)のデータ、データパック4には5フレーム分(9フレーム目から13フレーム目)のデータが、それぞれ含まれている。
図5に示すデータ列では、各データパックごとに重複する位置データブロックX,Yが削除されている。そのため、図5に示すデータ列は、図4に示すデータ列と比べて、削除された位置データブロックX,Yの分だけ、データサイズが小さくなる。
2つの画像が類似している判断される類似度Rの値(閾値)は、適宜設定可能である。例えば、閾値を小さくすることで、1つのデータパックに含まれるフレーム数が多くなり、元素マップデータのデータサイズをより小さくすることができる。また、閾値を大きくすることで、1つのデータパックに含まれるフレーム数が少なくなり、元素分布の変化をより短い時間間隔で捉えることができる。
図6は、第2実施形態に係る電子顕微鏡200の処理部60の処理の流れの一例を示すフローチャートである。
処理部60は、時系列データ記憶部204から、1フレーム目から最終フレームまで、電子信号データブロックA、X線信号データブロックE、位置データブロックX,Yが時系列に並んだデータ列(図4参照)を読み出して、当該データ列を取得する(S100)。
次に、処理部60は、取得したデータ列から電子信号データブロックA(電子信号データ)を抽出して、フレームごとに二次電子像を生成する(S102)。
次に、処理部60は、生成した二次電子像と基準画像とを比較して、フレームごとに類似度を求める(S104)。ここでは、基準画像は、類似度を求めようとする二次電子像(nフレーム目の二次電子像)の1つ前のフレームの二次電子像(n−1フレーム目の二次電子像)である。
次に、処理部60は、類似度に基づいてデータ列を複数のデータパックに分ける(S106)。これにより、類似する二次電子像が連続する複数のフレームを1つのデータパックとすることができる。
次に、処理部60は、データパックごとに重複している位置データブロックX,Yを削除し(S108)、生成された複数のデータパックを記憶部70に記憶させる(S110)。この結果、記憶部70には、時系列データ記憶部204に格納されたデータ列よりも、削除された位置データブロックX,Yの分だけデータサイズの小さいデータ列が格納される。その後、処理部60は、処理を終了する。
電子顕微鏡200は、例えば、以下の特徴を有する。
電子顕微鏡200では、処理部60は、X線信号データ、電子信号データ、および位置データが時系列に並んだデータ列を取得し、フレームごとに電子信号データから二次電子像を生成し、生成された二次電子像と基準画像とを比較して類似度を求め、類似度に基づいてデータ列を複数のデータパックに分け、データパックごとに、重複している位置データを削除して記憶部70に記憶させる。そのため、電子顕微鏡200では、元素マップデータのデータサイズを小さくすることができる。
さらに、電子顕微鏡200では、1つのデータパックに含めるフレーム数を、二次電子像の変化に応じて増減できる。具体的には、二次電子像の変化が大きい場合には1つのデータパックに含めるフレーム数を少なくし、二次電子像の変化が小さい場合には1つのデータパックに含めるフレーム数を多くすることできる。これにより、試料Sの元素分布の動的な変化を捉えつつ、元素マップデータのデータサイズを小さくすることができる。
2.2. 変形例
次に、第2実施形態に係る電子顕微鏡の変形例について説明する。以下では、上述した電子顕微鏡200の例と異なる点について説明し、同様の点については説明を省略する。
(1)第1変形例
まず、第1変形例について説明する。本変形例では、処理部60は、フレームごとに生成された二次電子像と基準画像との類似度に基づいて、二次電子像が異常か否かを判定し、二次電子像が異常と判定した場合に、異常と判断された二次電子像が得られたフレームのX線信号データを削除する。
処理部60は、例えば、1フレーム目の二次電子像を基準画像として、フレームごとに生成された二次電子像と基準画像との類似度を求める。
図7は、フレームごとに生成された二次電子像と基準画像との類似度を示すグラフである。図7に示すグラフでは、横軸がフレームを表し、縦軸が類似度を表している。なお、縦軸に示す類似度は、値が大きいほど類似していることを示す。図8は、基準画像である1フレーム目の二次電子像であり、図9は、異常と判定された二次電子像I2の一例であり、図10は、異常と判定された二次電子像I4の一例である。なお、二次電子像I2の類似度は、図7のグラフの矢印I2で示す値であり、二次電子像I4の類似度は、図7のグラフの矢印I4で示す値である。
処理部60は、例えば、図9および図10に示すような異常な二次電子像が得られたフレームのX線信号データが削除されるように、データ列から類似度に基づき削除対象となるフレームを抽出する。
処理部60は、例えば、図11に示すように、所定の類似度以下のフレームを抽出して削除対象とする。図11において、丸で囲った類似度を持つフレームが削除対象となるフレームである。
また、処理部60は、例えば、図12に示すように、類似度の移動平均と分散から、大きく外れた類似度を持つフレームを抽出して削除対象とする。具体的には、例えば、以下の式を用いて、大きく外れた類似度を持つフレームを選択する。
類似度<a−f×σ
ただし、aは類似度の移動平均値であり、σは類似度の分散であり、fは係数(1,2,3,・・・)である。fの値は、2以上が好ましい。
図12において、丸で囲った類似度を持つフレームが削除対象となるフレームである。
処理部60は、1フレーム目から最終フレームまで、電子信号データブロックA、X線信号データブロックE、位置データブロックX,Yが時系列に並んだデータ列から、削除対象となるフレームのX線信号データブロックEを削除する。
図13は、削除対象となるフレームのX線信号データを削除して得られたデータ列の構造を説明するための図である。図13では、削除されたデータブロックを破線で示している。なお、図13は、図5に対応している。
図13では、3フレーム目、4フレーム目、8フレーム目の二次電子像が異常と判断され、3フレーム目、4フレーム目、8フレーム目のX線信号データブロックEが削除されている。
図14は、第1変形例に係る処理部60の処理の流れの一例を示すフローチャートである。なお、図14では、図6と同じ処理を行うステップには同じ符号を付して、その説明を省略する。
処理部60は、フレームごとに生成した二次電子像と基準画像とを比較して、フレームごとに類似度を求めた後に(S104の後に)、フレームごとに、類似度に基づいて二次電子像が異常か否かを判定する。そして、二次電子像が異常と判定した場合に、異常と判定された二次電子像が得られたフレームのX線信号データブロックEを削除する(S200)。
次に、処理部60は、類似度に基づいてデータ列を複数のデータパックに分ける(S106)。本処理の対象となるデータ列は、異常と判定された二次電子像が得られたフレームのX線信号データブロックEが削除されたデータ列である。
なお、処理部60は、二次電子像が異常か否かを判定するために用いる類似度と、データパックに分けるために用いる類似度と、をそれぞれ別の基準画像を用いて求めてもよい。例えば、二次電子像が異常か否かを判定するために用いる類似度を求める際の基準画像を、1フレーム目の二次電子像とし、データパックに分けるために用いる類似度を求める際の基準画像を、類似度を求めようとする二次電子像の1つ前のフレームの二次電子像としてもよい。
また、上記では、データ列をデータパックに分ける前に、異常と判定された二次電子像が得られたフレームのX線信号データブロックEを削除した場合(すなわち、ステップS106の処理の前にステップS200の処理を行った場合)について説明したがこれに限
定されない。例えば、データ列をデータパックに分けた後に、X線信号データブロックEを削除してもよい(すなわち、ステップS106の処理の後にステップS200の処理を行ってもよい)。
本変形例では、処理部60は、フレームごとに生成された二次電子像と基準画像との類似度に基づいて、二次電子像が異常か否かを判定し、二次電子像が異常と判定した場合、異常と判断された二次電子像が得られたフレームのX線信号データを削除する。これにより、あらかじめ不要なX線信号データを削除することができる。そのため、例えば、試料が電子線の照射により徐々に破壊されていく場合に、試料が破壊される前の状態の元素マップデータを取得することができる。さらに、本変形例では、元素マップデータのデータサイズをより小さくすることができる。
(2)第2変形例
本変形例では、処理部60は、基準画像に対する、フレームごとに生成された二次電子像の位置ずれ量を求め、当該位置ずれ量に基づいて位置データを補正する処理を行う。
処理部60は、類似度を求める処理(図6に示すステップS104の処理)で求める類似度として、相互相関関数を用いる。ここで、相互相関関数の最大値は類似度を表し、相互相関関数の最大値の座標は位置ずれを表す。そのため、処理部60は、相互相関関数の最大値の座標から、基準画像(例えば1フレーム目の二次電子像)に対する各フレームの位置ずれ(Δxn,Δyn)を計算する。
下記表は、基準画像に対する、各フレームの二次電子像の位置ずれ(Δx,Δy)の計算結果を示す表である。
位置ずれの補正(位置データの補正)は、例えば、フレームごとに、位置ずれ(Δx,Δy)の分だけ、位置座標(位置データで特定される座標)をシフトさせることで行う。
補正前の座標を(xold,yold)とし、補正後の座標を(xnew,ynew)とした場合、位置ずれの補正は、以下の式で表される。
xnew=xold+Δx
ynew=yold+Δy
位置ずれを補正した場合、X線信号データがない座標が発生するため、その座標のX線信号データは零としてもよい。また、位置ずれを補正した場合、もとのデータには無い座標が発生するため、その座標のX線信号データは破棄する。
処理部60は、位置ずれが補正されたX線信号データを含むデータ列を、類似度に基づいて分けることでデータパックを生成し、記憶部70に記憶させる。
図15は、第2変形例に係る処理部60の処理の流れの一例を示すフローチャートであ
る。なお、図15では、図6と同じ処理を行うステップには同じ符号を付して、その説明を省略する。
処理部60は、フレームごとに生成した二次電子像と基準画像とを比較して、フレームごとに類似度を求める処理の後に(S104の後に)、位置データを補正する(S300)。
処理部60は、ステップS104において、二次電子像と基準画像との相互相関関数を求め、相互相関関数の最大値を類似度とし、この最大値の座標から位置ずれ(Δxn,Δyn)を求める。処理部60は、求めた位置ずれ(Δxn,Δyn)に基づいて位置データを補正する。
次に、処理部60は、位置データが補正されたデータ列を複数のデータパックに分ける(S106)。
なお、上記では、データ列をデータパックに分ける前に、位置ずれの補正を行う場合(すなわち、ステップS106の処理の前にステップS300の処理を行う場合)について説明したがこれに限定されない。例えば、データ列をデータパックに分けた後に、位置ずれの補正を行ってもよい(すなわち、ステップS106の処理の後にステップS300の処理を行ってもよい)。
本変形例では、処理部60は、基準画像に対する、フレームごとに生成された二次電子像の位置ずれ量を求め、位置ずれ量に基づいて位置データを補正する。そのため、本変形例によれば、試料Sのドリフトの影響が低減されたデータを得ることができる。
3. その他
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。
上述した第2実施形態では、処理部60は、図5に示すように、位置データブロックX,Yの後に、各フレームの電子信号データブロックAをフレーム順に並べたが、例えば、位置データブロックX,Yの後に、各フレームの電子信号データの平均値のデータを持つ電子信号データブロックAを配置してもよい。
例えば、図5に示すデータ列において、データパック1では、位置データブロックX,Yの後に、1フレーム目の電子信号データブロックA(F1)、2フレーム目の電子信号データブロックA(F2)、3フレーム目の電子信号データブロックA(F3)の順に並べた。
これに対して、本変形例では、図16に示すように、データパック1では、位置データブロックX,Yの後に、1フレーム目の電子信号データと、2フレーム目の電子信号データと、3フレーム目の電子信号データとの平均値のデータを持つ電子信号データブロックA(F1〜F3)を配置する。処理部60は、この処理を、他の電子信号データについても同様に行う。
本変形例によれば、データパックに含まれる、同じ位置データに関連付けられた複数の電子信号データを平均化して1つのデータとする。そのため、元素マップデータのデータサイズをより小さくできる。
また、例えば、上述した実施形態では、本発明に係る荷電粒子線装置が走査電子顕微鏡
である例について説明したが、本発明に係る荷電粒子線装置は、荷電粒子線(電子線やイオンビーム等)で試料を走査して観察や分析を行うことが可能な装置であればよい。本発明に係る荷電粒子線装置は、例えば、走査透過電子顕微鏡(STEM)や、電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)、集束イオンビーム装置(FIB装置)などであってもよい。
また、上述した実施形態及び変形例は一例であって、これらに限定されるわけではない。例えば各実施形態及び各変形例は、適宜組み合わせることが可能である。
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。