JP6894242B2 - 非アルコール性肝障害抑制剤 - Google Patents
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NASH患者は今後も増加していくと考えられているが、現状では標準となる治療法が確立されていない。
特許文献1には、エタノール及びラクトバチルス・ブレビスの菌体処理物を添加した飼料をマウスに投与したところ、エタノールのみを添加した場合に比べ血清中のAST及びALT、肝臓中の総コレステロール濃度及びトリグリセリド濃度が低下したことが記載されている。したがって、ラクトバチルス・ブレビスの菌体処理物をアルコール性肝障害の抑制剤として利用できることが記載されている。
特許文献2には、高脂肪食と四塩化炭素をマウスに投与してNASHを誘発させるに際し、高脂肪食にラクトバチルス・プランタラムを添加することにより、血清中のASTおよびALTを有意に低下させ、肝臓の小葉内炎症や繊維化を抑制する効果があることから、ラクトバチルス・プランタラムを非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の予防治療剤として利用できることが記載されている。
特許文献3には、ラクトバチルス・ヘルベティカスを添加した高脂肪食をラット投与したところ、高脂肪食のみを投与した場合に比べ、肝臓中のコレステロール及びトリグリセリドが低下したことから、ラクトバチルス・ヘルベティカスを脂肪肝の予防、抑制剤として利用できることが記載されている。
非特許文献2には、エンテロコッカス・フェリカスを添加した高脂肪食をマウスに投与したところ、高脂肪食のみを投与した場合に比べ血清中のAST及びALTが低下したことから、エンテロコッカス・フェリカスを肝機能改善剤として利用できることが記載されている。
本発明は、ビフィズス菌の菌体又は培養物を有効成分とする非アルコール性肝障害抑制剤を提供することを課題とする。
また、本発明は、ビフィドバクテリウム・ロンガムの菌体または該菌培養物を有効成分とする非アルコール性脂肪肝抑制剤および非アルコール性脂肪肝抑制用飲食品を提供する。
また、本発明は、ビフィドバクテリウム・ロンガムの菌体または該菌培養物を有効成分とする肝がん抑制剤および肝がん抑制用飲食品を提供する。
また、本発明は、上記作用を有する剤や飲食品を投与することにより非アルコール性肝障害を抑制する方法、非アルコール性脂肪肝を抑制する方法、または肝がん抑制方法を提供する。
ビフィドバクテリウム・ロンガムとしては、本発明の非アルコール性肝障害抑制効果を有する菌であれば特に限定されるものではないが、SBT2928(FERM P−10657)、基準株JCM1217が挙げられる。本発明のビフィドバクテリウム・ロンガムに属する菌は、常法に従って培養することができる。培地には、乳培地又は乳成分を含む培地、これを含まない半合成培地など種々の培地を用いることができる。このような培地としては、還元脱脂乳培地などを例示することができる。
得られた培養物から遠心分離などの集菌手段によって分離された菌体をそのまま本発明の有効成分として用いることができる。濃縮、乾燥、凍結乾燥などした菌体を用いることもできるし、加熱乾燥などにより死菌体にしてもよい。
菌体として純粋に分離されたものだけでなく、培養物、懸濁物、その他の菌体含有物や、菌体を酵素や物理的手段を用いて処理した細胞質や細胞壁画分も用いることができる。
培養物などの形態としては、合成培地であるGAM培地(日水製薬社製)、還元脱脂乳培地など一般的にビフィドバクテリウム・ロンガムの培養に用いられる培地を用いた培養物だけでなく、チーズ、発酵乳、乳製品乳酸菌飲料などの乳製品などを例示することができるが特に限定されるものではない。
さらに、得られた培養物から遠心分離、濾過操作などの方法を用いて、乳タンパク質沈殿や菌体成分を除去することによって調製した培養上清なども本発明の培養物として用いることができる。固形分が少ない上清であるため、飲食品などへの適用範囲が広くなる。例えば、還元脱脂乳培養物を5,000rpm、10分間遠心分離することにより培養上清を調製することができる。
つまり、アルコールを摂取しないにもかかわらずアルコール性肝障害に類似した脂肪性肝障害を認める症状を抑制する作用を意味する。
ここで、「抑制」には、予防、治療、軽減、緩和等のいずれもが包含される。肝障害が抑制されたか否かは、例えば、高脂肪食の摂取による血清AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)若しくは血清ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)の上昇、又は肝臓への脂肪(コレステロール、トリグリセリド等)の蓄積、が抑制されたか否かによって判定することができる。AST,ALTは健康診断でもよく知られた指標であり、これらは肝炎ウィルス、アルコール性肝障害、脂肪肝など種々の要因で増加することが知られており、肝臓疾患の指標になっている。
以下、本発明を実施例をもとにさらに詳細に説明するが、本発明は係る実施例に限定して解釈されるものではない。
1.試験方法
(1)ビフィズス菌の菌体粉末の調製
供試菌として、ビフィドバクテリウム・ロンガム(B. longum)SBT2928、ビフィドバクテリウム・シュードロンガム(B. pseudolongum)SBT2908を選定した。脱脂乳培地(培地組成:11.55%(w/w)脱脂粉乳、0.5%(w/w)酵母エキス、0.1%(w/w)アスコルビン酸ナトリウム、0.04%(w/v)L−システイン)に前培養物を3%(v/v)量植菌し、37℃、16〜18時間培養を行った。培養にはジャーファーメンターを使用した。窒素雰囲気下において、20%(w/w)炭酸アンモニウムによりpH6を維持した条件にて培養した。培養終了後、培養物を凍結乾燥し、菌体粉末を調製した。
リサーチダイエット社より購入したD12492高脂肪食(脂肪60%kcal、タンパク質20%kcal、炭水化物20%kcal)と1.5%(w/w)菌体粉末、0.5%(w/w)乳糖を混合した。また、高脂肪食摂取のコントロール群用の餌としてD12492に1.5%(w/w)の凍結乾燥した脱脂乳培地、0.5%(w/w)乳糖を混合した餌を準備した。また、普通食摂取のコントロール群用の餌としてCE−2(日本クレアより購入)を準備した。
マウス動物試験ではYoshimoto(参考文献1)らの試験系を使用した。これはマウスに高脂肪食を継続的に摂取させることでNASH肝がんを誘発する手法である。Yoshimotoらの報告ではマウスの肝臓に脂肪が蓄積し、肝障害指標(AST,ALT)が増加することが報告されている(参考文献1、Supplementary Fig. 8)。
試験にはC57BL/6Jマウス(雄)を使用し、肝がんモデルに使用するマウスには、生後4〜5日の段階で発がん物質であるジメチルベンズアントラセン(DMBA)を背中に一度塗布する操作を行った。
試験は下表の通り4群で行い、各群ともN=10とした。
A群は「普通食」を給餌した普通食コントロール、B群は「高脂肪食+脱脂乳培地」を給餌した高脂肪食コントロール、C群は「高脂肪食+ビフィドバクテリウム・ロンガム」を給餌した本願実施例、D群は「高脂肪食+ビフィドバクテリウム・シュードロンガム」を給餌した比較例、である。餌は毎日5gを提供し、各群とも個飼いのプラスチックゲージで30週間飼育した。水および餌は自由摂取とした。
<参考文献1>
Yoshimoto S, Loo TM, Atarashi K, Kanda H, Sato S, Oyadomari S, Iwakura Y, Oshima K, Morita H, Hattori M, Honda K, Ishikawa Y, Hara E, Ohtani N. Obesity-induced gut microbial metabolite promotes liver cancer through senescence secretome. Nature. 2013 Jul 4;499(7456):97-101.
B,C,D群の高脂肪食摂取マウスは体重45g以上の個体を肥満マウスとして採用した。飼育期間中に異常がみられた個体及び解剖日に体重が45g未満であった個体を対象から除外した。したがって、有効なN数としては、A群10匹、B群8匹、C群9匹、D群9匹となった。なお、C,D群における食餌量は、飼育期間中3g程度を維持しており、最低でも1×108cells/day相当の生菌を摂取していたことになる。
飼育終了後の各マウスをイソフルラン雰囲気下で麻酔し、採血後、頚椎脱臼にて安楽死させた。各部位の状況を観察し、必要に応じてサンプリングして保存した。
血清中の肝障害指標(AST,ALT)について、ドライケム装置(富士フィルム製)を使用して添付のマニュアルに従って分析した。
各試験結果を表2及び図2に示した。
肝臓の重量(平均値)については、A群(普通食コントロール)で1.4g、B群(高脂肪食コントロール)で2.6g、C群(ビフィドバクテリウム・ロンガム摂取群:実施例)で1.9g、D群(ビフィドバテクリウム・シュードロンガム:比較例)で2.3gであり、C群はB群よりも低下傾向を示した。
また、肝臓の所見としては、明らかな脂肪肝の状態(図1中、(C)又は(E)の状態)を呈した個体の有効N数に対する割合はA群で0%、B群で88%、C群で44%、D群で67%であり、やはりC群はB群よりも低かった。また、肝がんの状態(図1中、(D)又は(E)の状態)を呈した個体の有効N数に対する割合はA群で0%、B群で63%、C群で56%、D群で78%であり、やはりC群はB群よりも低かった。
また、高脂肪食を摂取した群はいずれもAST,ALT値が増大し、AST/ALT比も多くの個体で1を下回るなど、脂肪肝に認められる特徴が認められた。
高脂肪食摂取群(B,C,D群)の中で比較した場合、C群ではB群(コントロール群)に比較してAST、ALT値が有意に低下していたが(図2、t−test,p<0.05)、D群では有意な低下が見られなかった(図2)。
以上のことから、NASHモデルにおいて本発明のビフィドバクテリウム・ロンガムが脂肪肝及び肝がんを抑制するなどの肝臓への保護効果を奏することが示された。
ビフィドバクテリウム・ロンガムSBT2928をGAM(1%Glc添加)培地に植菌し、37℃にて16時間静置培養を行った。液体培養物を4℃、7000rpmで15分間遠心分離した後、滅菌水による洗浄と遠心分離を3回繰り返して行い、洗浄菌体を得た。その後、凍結乾燥することによりビフィドバクテリウム・ロンガムSBT2928粉末を得た。
2.ビフィズス菌菌体の調製(2)
ビフィドバクテリウム・ロンガムSBT2928を脱脂乳培地(培地組成:11.55%(w/w)脱脂粉乳、0.5%(w/w)酵母エキス、0.1%(w/w)アスコルビン酸ナトリウム、0.04%(w/v)L−システイン)に植菌し、37℃にて16時間静置培養を行った。得られた培養物をそのまま凍結乾燥することによりビフィドバクテリウム・ロンガムSBT2928粉末を得た。
上記1及び2で得られたビフィドバクテリウム・ロンガムの各菌体粉末は、下記実施例3,5,6,7において同等に用いることができる。
実施例2にて調製したビフィドバクテリウム・ロンガム菌体粉末1部に脱脂粉乳4部を混合し、この混合粉末を打錠機により1gずつ常法により打錠して、本発明のビフィドバクテリウム・ロンガムの菌体200mgを含む錠剤をそれぞれ調製した。
ビフィドバクテリウム・ロンガムSBT2928をGAM液体培地(日水製薬社製)5Lに摂取後、37℃、18時間静置培養を行った。培養終了後、7000rpmで15分間遠心分離を行い、培養液の1/50量の濃縮菌体を得た。次いで、この濃縮菌体を、脱脂粉乳10重量%、グルタミン酸ソーダ1重量%を含む分散媒と同量混合し、pH7に調整後、凍結乾燥を行った。得られた凍結乾燥物を60メッシュのふるいで整粒化し、凍結乾燥菌末を製造した。第13改正日本薬局方解説書製剤総則「散剤」の規定に準拠し、この凍結乾燥菌末1gにラクトース(日局)400g、バレイショデンプン(日局)600gを加えて均一に混合し、散剤を得た。
表3に示した配合により原料を混合し、造粒により顆粒状とした後、空カプセルに10mgずつ充填して、カプセル剤を製造した。
実施例2で得られたビフィドバクテリウム・ロンガムの粉末30gに、ビタミンCとクエン酸の等量混合物40g、グラニュー糖100g、コーンスターチと乳糖の等量混合物60gを加えて混合した。混合物をスティック状袋に詰め、スティック健康食品を製造した。
表4に示した配合により原料を混合し、容器に充填した後、加熱殺菌して、果汁飲料を製造した。
ビフィドバクテリウム・ロンガムSBT2928をGAM(1%Glc添加)液体培地にて培養した。対数増殖期にある培養液を、0.3%の酵母エキスを添加した10%還元脱脂乳(115℃、20分間滅菌)に1%接種し、マザーカルチャーを作成した。
これをヨーグルトミックス(10%の還元脱脂乳を添加し、100℃にて10分間加熱したもの)に2.5%添加し、市販のスターターカルチャーとともに発酵は37℃で行った。乳酸酸度0.85に到達した時点で冷却し、発酵を終了させ、本発明の非アルコール性肝障害抑制作用を有する発酵乳を調製した。
[寄託生物材料への言及]
ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)SBT2928
イ 当該生物材料を寄託した寄託機関の名称及び住所
独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター
日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6(郵便番号305−8566)
ロ イの寄託機関に生物材料を寄託した日付
平成元年4月13日
ハ イの寄託機関が寄託について付した受託番号
FERM P−10657
Claims (2)
- ビフィドバクテリウム・ロンガムSBT2928(FERM P−10657)の菌体または該菌培養物を有効成分とする非アルコール性肝障害抑制剤。
- ビフィドバクテリウム・ロンガムSBT2928(FERM P−10657)の菌体または該菌培養物を有効成分とする非アルコール性肝障害抑制用飲食品。
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