JP6893586B2 - 薬剤及びその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、薬剤、特に生殖障害のための薬剤、及びその製造方法に関する。
生殖障害(「生殖機能障害」とも呼ばれる)に対する予防ないし治療に対する取り組みは、各国において積極的に行われているが、本願発明者らが知る限り、生殖障害に対する原因療法は、未だ見出されていない。生殖障害の一例である精索静脈瘤を取り上げてみると、本願出願時において実際にヒトに対して適用されている精索静脈瘤への根治的治療方法は、手術療法しかないと言える。
ところで、本願発明者らの一部は、これまで、活性酸素であるスーパーオキシドアニオンラジカル、ヒドロキシルラジカル、過酸化水素、一重項酸素の中で、生理機能を持たず、最も酸化力の強いヒドロキシルラジカルを体内に存在させないための研究を進めてきた。
体内で生成したヒドロキシルラジカルを消滅させる物質の一例として水素が知られている。水素がヒドロキシルラジカルと反応して生成するのは水であり、生体に有害な物質を生成しない。そこで、体内のヒドロキシルラジカルを消滅させる水素を含有する、水素水の生成装置が提案されている(例えば、特許文献1)。
ところが、水素水中の水素は空気中に拡散しやすいため、ヒドロキシルラジカルを消滅するために必要な量の水素を体内に取り込むためには、水素水の溶存水素濃度を高く保つ必要がある。従って、水素水を摂取するという方法では、体内のヒドロキシルラジカルと反応させるために十分な量の水素を体内に取り込むことは容易ではない。そこで、水素を体内に取り込み易くするために、水素と界面活性剤とを含む水素含有組成物が提案されている(特許文献2)。
なお、本願発明者らの一部は、シリコンナノ粒子による水の分解と水素濃度について研究し、その結果を開示している(非特許文献1、特許文献3)。また、本願発明者らの一部は、水素を発生させる固形製剤、その製造方法及び水素を発生させる方法を開示している(特許文献4)。
特許第5514140号公報 特開2015−113331号公報 特開2016−155118号公報 国際公開第2017/130709号パンフレット
松田真輔ほか、シリコンナノ粒子による水の分解と水素濃度、第62回応用物理学会春季学術講演会 講演予稿集、2015、11a−A27−6
例えば、体内の余剰のヒドロキシルラジカルの低減又は消滅を目的として開発されている水素水に関して言えば、ヒドロキシルラジカルを消滅させるための水素を体内に取り込むために水素水を採用しようとすると、たとえ高濃度の水素水を摂取したとしても、1リットルの水素水中に含まれる水素量は室温の飽和状態でも気体換算で18ml(ミリリットル)にすぎず、しかも飽和水素濃度1.6ppmは空気中で速やかに減少し、その上、胃等の上部消化管において水素水中の水素の多くがガス化してしまう。そのため、必ずしも十分な量の水素が体内に取り込まれず、呑気症状(いわゆる「げっぷ」)を引き起こす問題がある。また、界面活性剤によって水素を内包させた水素含有組成物を摂取する場合、十分な量の水素を体内に取り込むためには多くの水素含有組成物の摂取が必要となる。加えて、胃内において水素が放出されてしまうという上述の問題も生じ得る。さらに、たとえ水素が体内において取り込まれて、各器官に輸送されたとしても、1時間程度経過すれば、該器官内の水素濃度は、水素水の摂取前の濃度に戻ってしまう。従って、ヒドロキシルラジカルは呼吸及び/又は代謝によって常に生成するため、水素水の摂取による効果は限定的になる。
一方、特許文献4においては、体内のヒドロキシルラジカルを消滅するために十分な量の水素を体内に取り込みやすくすることに貢献する旨が開示されているが、ヒトを含む動物の生殖障害に関する器官又は具体的なヒトを含む動物の生殖障害に関する疾患に対する影響については開示されていない。
従って、ヒトを含む動物の具体的な疾患の一つである生殖障害のための、根治に向けた治療薬又は予防薬の開発、該治療薬又は予防薬の製造工程の簡便化、低コスト化、高機能化、及び/又はより高い安全性の実現には、未だ途半ばであると言える。
本発明は、上述の技術課題の少なくとも1つを解消し、水素発生能を有するシリコン微細粒子又は該シリコン微細粒子、シリコンの結晶粒(粒径が約1μm〜約2μm)の凝集体、又はシリコン微細粒子に相当する表面積を持つシリコン粒(好ましくは、ナノオーダーの空隙を有する多孔質粒)を活用することにより、これまでに採用されてきた手段又は取り組みとは異なる生殖障害の予防又は治療の実現に大いに貢献するものである。
本願発明者らは、上述のシリコン微細粒子又はその凝集体、あるいはシリコンの結晶粒は、胃酸のようなpH値が非常に小さい(つまり、強酸性の)水含有液に接触させたとしてもほとんど水素を発生させることがないが、中性(本願においては、pH値が6〜7を含む)〜アルカリ性の数値範囲のpH値を有する部位又は水含有液に接触させたときには、顕著に水素を発生させ得ることを見出した。それらの事実を踏まえ、本願発明者らは、上述のシリコン微細粒子又はその凝集体、あるいはシリコンの結晶粒が生殖障害の予防又は治療に寄与する可能性を調べるための実験と分析を重ねた。その結果、生殖障害に対する有意な効果を確認することができた。なお、本願における「水含有液」は、水自身及びヒトの体液を含む。
シリコン微細粒子又はシリコンの結晶粒と水分子との反応による水素発生機構は、下記の(化1)式に示されている。しかしながら、上述のとおり、本願発明者らは、この(化1)式に示された反応がpH値の低い(代表的にはpH値が5未満)水含有液との接触の場合は限定的な反応ではあるが、pH値が6以上(特に、6超)の水含有液に接触したときには進行することを見出した。従って、大変興味深いことに、弱酸性であるpH値が6の水含有液であっても、有効に水素を発生させることが可能であることが明らかとなった。さらに調査を進めることにより、水素の発生を促進させるためには、より好適にはpH値が7以上(又は、7超)であり、さらに好適にはpH値が7.4超であり、非常に好適には8超の塩基性(以下、「アルカリ性」ともいう)の水含有液に接触させることが有効であることを見出した。なお、本願においては、腸液の塩基性又は生体適応性の範囲の塩基性の水含有液が、pH値の上限を定める。
(化1)Si+2HO→SiO+2H
そして、本願発明者らの研究が進められたことにより、条件によっては、腸内と同様の環境下において、シリコン微細粒子又はその凝集体、あるいはシリコンの結晶粒(以下、「シリコン微細粒子等」ともいう)と、腸液に相当する水含有液とが接触することにより、1gのシリコン微細粒子等から約400mLという極めて多量の水素が発生し得ることが明らかとなった。本願発明者らは、例えば、腸内で多量に水素が発生すれば、血流及び/又は直接的な透過により生殖障害に関わる1つの又は複数の組織中に効率よく吸収されるのではないかと考え、生殖障害に対して上述のシリコン微細粒子又はその凝集体、あるいはシリコンの結晶粒を活用することを試みた。
例えば、生殖障害の一例であり、男性不妊症の原因疾患の一つである精索静脈瘤に着目すると、精索静脈瘤によって陰嚢内の温度上昇及び/又は血流のうっ滞によって、精巣内の低酸素状態が形成され得る。そして、低酸素状態が続くと、精巣内において造精機能の低下現象(精子濃度の低下、精子運動率の低下、及び/又は精子奇形率の上昇)が生じ得るとともに、精巣萎縮が生じ得る。
ここで、本願発明者らは、仮に、精巣内の低酸素状態が生殖障害に関わる1つの又は複数の組織中のヒドロキシルラジカルの増加が一因となって該組織の障害、又は該組織中の細胞傷害が生じ得るとすれば、該組織中のヒドロキシルラジカルの発生を防止又は抑制することが該生殖障害の予防又は治療につながると考え、鋭意研究と分析に取り組んだ。
その結果、水素発生能を有するシリコン微細粒子、該シリコン微細粒子の凝集体、又はシリコンの結晶粒を含有する製剤を摂取又は投与することによって、手術療法を経ることなく、生殖障害の一例である精索静脈瘤による造精機能低下を大幅に抑制し得る、又は造精機能が際立って改善し得る、あるいは、精液所見によって高い精子の運動能を獲得し得ることを知得した。この結果は、従来からの手術療法によって得られる造精機能、及び/又は精子の運動能の改善効果を凌駕し得る知見である。本発明は上述の視点に基づいて創出された。
本発明の1つの薬剤は、水素発生能を有するシリコン微細粒子、該シリコン微細粒子の凝集体、又はシリコンの結晶粒を含む、生殖障害のための、薬剤である。
この薬剤によれば、生理学的に許容可能な上述のシリコン微細粒子又は該シリコン微細粒子の凝集体、シリコンの結晶粒(粒径が約1μm〜約2μm)、又は表面積がシリコン微細粒子に相当する表面積を有する1μm以上のシリコン粒から発生する水素が、生殖障害に関わる1つの又は複数の組織中のヒドロキシルラジカルの低減に貢献すると考えられる。現時点においては、詳細なメカニズムまでは明らかではないが、そのようなヒドロキシルラジカルの低減が、生殖障害に対する予防及び/又は治療に貢献し得ると考えられる。この薬剤により、具体的な生殖障害の予防、治療、又は改善の効果が奏され得る。
なお、上述の薬剤が、胃酸のようなpH値が非常に小さい水含有液に接触させたとしてもほとんど水素を発生させないが、中性〜アルカリ性の数値範囲のpH値を有する部位又は水含有液に接触させたときには、顕著に水素を発生させ得ることは、生殖障害の予防、治療、又は改善に有意に寄与し得る。
なお、上述の薬剤を実際に使用する際には、シリコン微細粒子に相当する表面積を有する、100nm以上(又は100nm超)の多孔質、多結晶、遊離、解砕、分解されない結合剤で造粒された微細粒子、及び多孔質結晶粒の群から選択される少なくとも1種を用いることも、採用し得る一態様である。
ところで、生殖障害の一例である精索静脈瘤は、男性側因子の一例であるが、本願においては、生殖障害の原因には、男性側因子、女性側因子、又はそれらの両方が含まれる。ここで、男性側因子(又は、「男性不妊症」)の代表的な例は、造精機能障害、精路通過障害、及び/又は性機能障害である。また、「造精機能障害」の代表的な例は、乏精子症、精子無力症、無精子症、又は奇形精子症である。また、女性側因子(又は、「女性不妊症」)の代表的な例は、多嚢胞性卵巣症候群、着床障害、不育症、受精障害等、多岐にわたる。また、男性側因子と女性側因子との両方が原因になり得る受精障害も存在する。
また、本願においては、結晶についての径の大きさが「nmオーダー」になる場合は、「結晶粒(又は結晶粒子)」という表現ではなく、「結晶子」という表現を採用する。一方、結晶についての径の大きさが、「μmオーダー」になる場合は、「結晶粒(又は結晶粒子)」という表現を採用する。また、本願においては、結晶性の有無を問わない表現として、「粒」という表現を採用する。
ここで、本願における「シリコン微細粒子」は、平均の結晶子径がnmオーダー、具体的には結晶子径が実質的に1nm以上100nm以下の「シリコンナノ粒子」を含むものである。より狭義には、本願における「シリコン微細粒子」は、平均の結晶子径がナノレベル、具体的には結晶子径が1nm以上50nm以下のシリコンナノ粒子を主たる粒子とする。ここで、本願発明者によれば、主たる結晶子径が1nm以上30nm未満であるシリコンナノ粒子が、採用し得る一態様としての最も微細化を実現した「シリコン微細粒子」である。また、本願においてシリコン微細粒子には、各シリコンナノ粒子が分散している状態のもののみならず、複数のシリコンナノ粒子が自然に集まってμm近い(概ね0.1μm以上)の大きさの凝集体を構成した状態、融着体、及び再分散することのない造粒体が含まれ得る。また、本願における「シリコン微細粒子」には、ポーラスシリコンを含み得る。
上述のとおり、本願における「シリコン微細粒子」は、自然な状態において凝集することによってμmレベル(例えば、1μm程度)の径の大きさの凝集体を構成し得る。この「凝集体」及び「結晶粒」と区別するために、本願においては、結合剤の添加や圧縮等により、人為的にシリコン微細粒子を集合させることによって、人間の指によってつまめる程度の大きさの塊状の固体の製剤としたものを「固形製剤」と称する場合がある。本願における「薬剤」は、「固形製剤」を含む。なお、「固形製剤」の代表的な例は、錠剤、塊状を呈さず粉状を呈する顆粒又は散剤である。
なお、本願においては、「障害」という表現は、「疾病」、「疾患」、及び「障害」の意味を含む。また、本願における「生理学的に許容可能な母材(物質又は材料)」は、実質的に毒性がなく、皮膚又は粘膜に接触したとしても副作用又は有害反応を実質的に生じさせない母材(物質又は材料)である。なお、「生理学的」の用語には、「医学的」の意味が含まれる。
本発明の1つの薬剤によれば、生理学的に許容可能な上述のシリコン微細粒子から発生する水素が生殖障害に対する予防及び/又は治療に貢献し得る。
通常飼料(a)と、第1の実施形態の製剤(飼料)の写真(b)である。 実施例1〜2において発生した水素量を示すグラフである。 (a)第1の実施形態の各シリコン微細粒子と、純水に炭酸水素ナトリウムを溶解させた水溶液とを接触させることによって発生した溶存水素量の時間変化を示すグラフと、(b)第1の実施形態の該シリコン微細粒子の1g当たりの溶存水素量の時間変化を示すグラフである。 第1の実施形態の試料A〜Dの水素発生量(ppm)と反応時間(分)との関係を示すグラフである。 6週齢のSDラットに通常飼料又は第1の実施形態の製剤(飼料)を8週間摂取させた場合の、血液200μl(マイクロリットル)中の水素濃度(ppb)を示すグラフである。 6週齢のSDラットに通常飼料又は第1の実施形態の製剤(飼料)を8週間摂取させた場合の、呼気中の水素濃度(ppb)を示すグラフである。 6週齢のSDラットに通常飼料又は第1の実施形態の製剤(飼料)を8週間摂取させた場合の、抗酸化度を測定するBAPテスト(血漿の抗酸化力の評価テスト)の結果を示すグラフである。 第1の実施形態の製剤の効果を確認するための精索静脈瘤ラットモデルの作製フローである。 精索静脈瘤ラットモデルの作製術を説明するための概要図である。 (a)精子濃度、及び(b)精子運動率について、精索静脈瘤ラットモデル群と偽手術群とを比較したグラフである。 腸腰静脈交差部における内精静脈径の測定部位を説明するための概要図である。 第1の実施形態の製剤による(1)比較例及び(2)本実施形態の、予防及び治療効果の確認のための実施計画(プロトコール)である。 (a)精子濃度、及び(b)精子運動率について、比較例と実施例とを比較したグラフである。 ある1つのDNAの酸化ストレスマーカー「8−OHdG」の陽性率(%)を指標とする、比較例と実施例とを比較したグラフである。
100 製剤
本発明の実施形態を、添付する図面を参照して詳細に述べる。
<第1の実施形態>
本実施形態の製剤は、水素の発生能を有するシリコン微細粒子又は該シリコン微細粒子の凝集体(以下、総称して「シリコン微細粒子」ともいう)、あるいはシリコンの結晶粒を含む。以下に、本実施形態の「薬剤」の一例としての、シリコン微細粒子、及び該シリコン微細粒子、あるいは該結晶粒を含む製剤について詳述する。加えて、本実施形態の薬剤の製造方法又は該薬剤の原体の製造方法についても詳述する。
[1]シリコン微細粒子、シリコンの結晶粒、及び製剤、並びにそれらの製造方法
本実施形態の製剤(代表的な一例は、固形製剤)は、シリコン粒子としての市販の高純度シリコン粒子粉末(代表的には、高純度化学研究所社製、粒度分布<φ5μm(但し、結晶粒径が1μm超のシリコン粒子)、純度99.9%、i型シリコン)をビーズミル法によって微細化した、シリコンナノ粒子を含み得るシリコン微細粒子(以下、代表して、「シリコン微細粒子」ともいう)を用いて製造される。本実施形態においては、エタノール溶液中でシリコン粒子を粉砕することによって該シリコン微細粒子又は該シリコン微細粒子の凝集体を形成する工程が採用される。なお、本実施形態において開示される方法は上述の方法に限定されない。
具体的には、ビーズミル装置(アイメックス株式会社製、横型連続式レディーミル(型式、RHM−08)を用いて、高純度シリコン粉末200gを、99.5wt%のエタノール溶液4L(リットル)中に分散させ、φ0.5μmのジルコニア製ビーズ(容量750ml)を加えて4時間、回転数2500rpmで粉砕(一段階粉砕)を行って微細化する。なお、本実施形態においては、要求される粒子の大きさ又は粒度分布等を調整する目的で、適宜、ビーズの大きさ及び/又は種類を変えた粉砕を採用することもできる。従って、本実施形態において開示される装置及び方法は限定されない。
本実施形態においては、ビーズミル装置の粉砕室内部に設けられたセパレーションスリットにより、ビーズとシリコン微細粒子を含むエタノール溶液とに分離される。ビーズから分離されたシリコン微細粒子を含むエタノール溶液は、減圧蒸発装置を用いて30℃〜35℃に加熱される。その結果、エタノール溶液を蒸発させることによって、シリコン微細粒子及び/又はその凝集体が得られる。
上記方法により得た、本実施形態の薬剤の原体としての役割を果たし得るシリコン微細粒子は、主として、結晶子径が1nm以上100nm以下のシリコン微細粒子を含む。より具体的には、シリコン微細粒子をX線回折装置(リガク電機製スマートラボ)によって測定した結果、一例として、次の値が得られた。体積分布においては、モード径が6.6nm、メジアン径が14.0nm、平均結晶子径が20.3nmであった。
このシリコン微細粒子を、SEM(走査電子顕微鏡)を用いて観察したところ、シリコン微細粒子は一部が凝集して、0.5μm程度以下のやや大きな、不定形の凝集体が形成されていた。また、個別のシリコン微細粒子を、TEM(透過型電子顕微鏡)を用いて観察したところ、主たるシリコン微細粒子は、結晶子径が約2nm以上約30nm以下であった。
本実施形態においては、その後、ガラス容器中で、過酸化水素水と該シリコン微細粒子とを混合する第1混合工程(以下、「H処理」又は「過酸化水素水処理工程」ともいう)が行われる。本実施形態においては、混合工程における過酸化水素水(本実施形態においては、3.5wt%)の温度は75℃である。また、混合時間は30分である。なお、第1混合工程(過酸化水素水処理工程)において十分に攪拌処理がされることは、シリコン微細粒子と過酸化水素水とが接する機会を増やすため好ましい。また、第1混合工程(過酸化水素水処理工程)における過酸化水素水の温度は、例えば、室温程度であっても本実施形態の少なくとも一部の効果が奏され得る。なお、第1混合工程を経たシリコン微細粒子も、本実施形態の薬剤の原体としての役割を果たし得る。
過酸化水素水と混合されたシリコン微細粒子を、公知の遠心分離処理装置を用いて、固液分離処理によって過酸化水素水を除くことにより、シリコン微細粒子を得る。その結果、過酸化水素水によって表面が処理されたシリコン微細粒子を得ることができる。ここで、過酸化水素水によって表面が処理されることにより、シリコン微細粒子の表面に存在するアルキル基(例えば、メチル基)が除去され得る。その結果、該シリコン微細粒子及びその凝集体は、全体としては表面の親水性を保ちつつ、水含有液を含むことができる媒体と直接接し得る表面をも有する状態を形成し得る。このような特殊な表面処理が施されることによって、水素の発生はより確度高く促進され得る。該水素は、生殖障害に関わる1つの又は複数の組織中のヒドロキシルラジカルの低減に貢献し得ることから、生殖障害に対する予防及び/又は治療に貢献し得る。
本実施形態においては、さらにその後、該シリコン微細粒子とエタノール溶液とを混合する第2混合工程が行われる。なお、混合工程において十分に攪拌処理がされることは、シリコン微細粒子とエタノール溶液(本実施形態においては、99.5wt%)とが接する機会を増やすため好ましい。エタノール溶液と混合されたシリコン微細粒子を、公知の遠心分離処理装置を用いて、固液分離処理によって揮発性の高いエタノール溶液を除いてから十分に乾燥させることにより、本実施形態の一例としてのシリコン微細粒子が製造される。なお、第2混合工程を経たシリコン微細粒子も、本実施形態の薬剤の原体としての役割を果たし得る。
なお、本実施形態においては、他の最終的なシリコン微細粒子として、上述の各工程のうち、第1混合工程における過酸化水素水とシリコン微細粒子との混合時間が60分であったシリコン微細粒子も製造した。なお、ビーズミル法の処理時間等を調整することにより、シリコン微細粒子の代わりに、シリコンの結晶粒(例えば、1nm以上100nm以下)のシリコン微細粒子を実質的に含まないもの)を、少なくとも前述の第1混合工程を経て製造することも可能である。なお、前述のシリコンの結晶粒も、本実施形態の薬剤の原体としての役割を果たし得る。
ところで、本実施形態では、イソプロピルアルコール又はフッ化水素酸(水溶液)を用いていない。本実施形態においては、シリコン微細粒子(又はその凝集体)、あるいはシリコンの結晶粒を得るためにエタノール溶液及び過酸化水素水を用いているため、生体に対してより安全かつ安心な薬剤(又は製剤)、薬剤(又は製剤)の製造方法、又は薬剤(又は製剤)の原体の製造方法を提供することができる点は、特筆に値する。
本実施形態においては、さらに、本実施形態の薬剤の原体としての役割を果たし得るシリコン微細粒子(その凝集体を含む)及び/又はシリコンの結晶粒を含む製剤(代表的には、固形製剤)を製造する。本実施形態の製剤は、後述する実験用の試料(又は飼料)である。図1(a)は、比較例としての通常飼料を概観写真であり、図1(b)は、本実施形態の、シリコン微細粒子(及び/又はシリコンの結晶粒)が混錬された、シリコン微細粒子(及び/又はシリコンの結晶粒)を含有する通常飼料の概観写真である。なお、該飼料に含有されるシリコン微細粒子(及び/又はシリコンの結晶粒)の量は、摂取するヒト又は非ヒトの体重又は体質、あるいは経口投与の場合は摂取し易さ等、種々の観点から適宜変更され得る。
本実施形態においては、その後、母材としての通常飼料(オリエンタル酵母工業株式会社製、型番AIN93M97.5wt%と、製造された上述のシリコン微細粒子(及び/又はシリコンの結晶粒)2.5wt%とを、pH値調整剤としてのクエン酸の水溶液とともに公知の混錬装置を用いて混錬するpH値調整剤含有工程が行われる。なお、クエン酸の水溶液の量は特に限定されないが、例えば、シリコン微細粒子(及び/又はシリコンの結晶粒)と該飼料との総量に対して約0.5wt%を選択することができる。また、クエン酸の水溶液のpH値は約4である。また、上記母材の種類は、生理学的に許容可能な母材(物質又は材料)である限り、限定されない。
その後、シリコン微細粒子(及び/又はシリコンの結晶粒)が混錬された該飼料を、市販のペレッターを用いて成型する。その後、約90℃に加熱した乾燥機を用いて水分を除去し、篩を用いて大きさを選別することによって、図1(b)に示す製剤(飼料)100を製造することができる。なお、その後、製剤(飼料)100が水分と接触することを防止又は抑制する観点から、製剤(飼料)100を包装された状態で保管することは好適な一態様である。また、製剤100になっていないシリコン微細粒子(その凝集体を含む)が、通常飼料以外の公知の材料(母材)中に含まれる態様も、採用し得る一態様である。
ここで、本実施形態の製剤100が含有するクエン酸は、純水中で製剤100を崩壊させたときの水含有液のpH値を4以上7未満(より狭義には、6以下)とするpH値調整剤としての役割を果たし得る。その結果、該水含有液を酸性状態にするクエン酸によるpH値の調整作用によって、製剤100が外気の水分等と接触することによる水素の発生を防止又は抑制し得る。従って、製剤100がクエン酸を含むことは、本実施形態の好適な一態様である。なお、本実施形態の製剤がクエン酸を含まない場合であっても、本実施形態の少なくとも一部の効果が奏され得る。
<第1の実施形態の変形例(1)>
第1の実施形態の薬剤(又は製剤100)の製造方法、又は薬剤(又は製剤100)の原体の製造方法において、体内の適切な環境下において水素がより発生し易い条件を満たすように、換言すれば水素がより発生し易いpH値の数値範囲内に収まるように調整する「pH調整剤」を薬剤(又は製剤)中に導入する導入工程をさらに含むことは、好適な一態様である。
第1の実施形態におけるクエン酸は、「pH調整剤」の一例であるが、「pH調整剤」はクエン酸に限定されない。pH値が2以上(より好ましくは3以上)7未満(より好ましくは6以下)である酸性に調整できる材料(以下、「酸性剤」ともいう)であれば、「pH調整剤」の材料は限定されない。酸性剤の代表的な例は、クエン酸、グルコン酸、フタル酸、フマル酸、及び乳酸の群から選択される少なくとも1種又はその塩である。また、アルカリ性剤の代表的な例は、炭酸水素ナトリウムである。食品添加物として広く用いられていること等の、安全性、汎用性に優れるという長所を備える材料を採用することが好適な一態様である。
<第1の実施形態の変形例(2)>
第1の実施形態の薬剤(又は製剤100)が、第1の実施形態のシリコン微細粒子、あるいはシリコンの結晶粒の服用性を改善するため、経口摂取に適するように調剤されていることは、好適な一態様である。例えば、製剤100の公知のゼリー製剤化を採用すること、又は、微粒剤、液剤、ドライシロップ剤、チュアブル剤、トローチ、細粒剤等の公知の製剤化を採用することは、他の好適な一態様である。
なお、前述の各製剤化においては、徐放性を有するように調製することが、体内の適切な環境下(例えば、胃から下流側である腸管内)において水素がより発生し易くなるため好ましい。具体的には、腸管内(例えば、全腸管内)において水素を発生させ、薬理機能を発揮するための徐放性を製剤100が有することは好適な一態様である。また、徐放性を発揮させるための他の手段の例は、シリコン微細粒子の粒度分布の調整、コーティング材料の調整、及び/又は後述する、徐放剤として機能し得るカプセル(マイクロカプセルを含む)内への収容である。また、製剤の形態も特に限定されることなく、幅広い形態を採用することができる。従って、本実施形態の生殖障害のための薬剤(又は製剤100)の剤形及び形態は、前述の各剤形及び形態に限定されるものではない。
<第1の実施形態の変形例(3)>
本実施形態においては、第1の実施形態で用いたのと同じ高純度シリコン粒子粉末(代表的には、結晶粒径が1μm超のシリコン粒子)を、第1の実施形態で説明した手順で一段階粉砕する。また、本実施形態においては、一段階粉砕に用いるφ0.5μmのジルコニア製ビーズ(容量750ml)が、ビーズミル粉砕室内部において、自動的にシリコン微細粒子を含む溶液から分離される。さらに、ビーズが分離されシリコン微細粒子を含む溶液に、0.3μmのジルコニア製ビーズ(容量300ml)を加えて4時間、回転数2500rpmで粉砕(二段階粉砕)して微細化する。
ビーズを含むシリコン微細粒子及び/又はシリコンの結晶粒は、上述のとおりシリコン微細粒子及び/又はシリコンの結晶粒を含む溶液から分離される。ビーズから分離されたシリコン微細粒子及び/又はシリコンの結晶粒を含むエタノール溶液は、第1の実施形態と同様に減圧蒸発装置を用いて40℃に加熱することにより、エタノール溶液を蒸発させてシリコン微細粒子及び/又はシリコンの結晶粒を得る。
<第1の実施形態の変形例(4)>
ところで、第1の実施形態の製剤100又は第1の実施形態の変形例(1)及び(2)において説明した製剤を被覆する、生理学的に許容可能な被覆層がさらに設けられることも、採用し得る他の一態様である。例えば、製剤100の最外層を覆うコーティング剤である、公知の胃難溶性腸溶性の材料を採用することができる。また、カプセル剤として適用し得る生理学的に許容可能な被覆層の例は、シリコン微細粒子(主として、シリコン微細粒子の凝集体)、あるいはシリコンの結晶粒を内包する、公知の胃難溶性腸溶性材料から製造されるカプセルである。なお、製剤100を採用した場合は、さらに崩壊剤を含んでもよい。また、崩壊剤については、公知の材料を採用することができる。加えて、より好適な崩壊剤の例は、有機酸であり、最も好適な例はクエン酸である。ここで、有機酸は、シリコン微細粒子及び/又はシリコンの結晶粒を塊状にする結合剤としても機能し得る。
加えて、上述の各実施形態における水素発生のための水含有液の温度条件は限定されない。但し、水素を発生させ得る水含有液の温度は、好適には、30℃(より好適には、35℃)以上45℃以下であれば、水素発生反応が促進される。
<実施例>
以下、上述の各実施形態をより詳細に説明するために、実施例を挙げて説明するが、上述の実施形態はこれらの例によって限定されるものではない。
(実施例1)
本願発明者らは、シリコン微細粒子自身を評価するために、ペレッターによる成型工程を行わずに水素の発生状況を調べた。具体的には、実施例1として、第1の実施形態における一段階粉砕によって処理されたシリコン微細粒子を用いて実験を行った。
第1の実施形態において説明したシリコン微細粒子10mgを散剤の状態で(すなわちクエン酸を混合することなく、また混錬することもなく)容量100mlのガラス瓶(硼ケイ酸ガラス厚さ1mm程度、ASONE株式会社製ラボランスクリュー管瓶)に入れた。このガラス瓶にpH値7.1の水道水30mlを入れて、液温を25℃の温度条件において密閉し、該ガラス瓶内の液中の水素濃度を測定し、これを用いて水素発生量を求めた。水素濃度の測定には、ポータブル溶存水素計(東亜DKK株式会社製、型式DH−35A)を用いた。
(実施例2)
実施例2は、水道水30mlを入れて、液温を37℃の温度条件とした以外は実施例1と同じである。
図4に、実施例1〜2の結果を示す。図4の横軸は製剤100を水含有液と接触させている時間(分)を示し、グラフの縦軸は水素発生量を示す。
図2に示すとおり、ほぼ中性を示す水と、第1の実施形態において説明したシリコン微細粒子とを接触させた場合であっても、水素の発生が確認された。また、液温が高い方が、水素の発生量が多くなることも明らかとなった。特に、液温がヒトの体温に近い温度である37℃の場合、より短時間での水素の発生を実現すること、及びその後に多量(1.5ml/g以上)の水素発生が継続されることが確認された。
本願発明者らの更なる研究によれば、シリコン微細粒子、又はシリコンの結晶粒が、pH値が6以上7未満の水含有液に接触したときに5ml/g以上の水素発生能を有し、かつ、pH値が7超10未満の水含有液に接触したときに10ml/g以上の水素発生能を有することが明らかとなった。また、シリコン微細粒子、又はシリコンの結晶粒が、pH値が1以上3以下の水含有液に接触したときに2ml/g以下の水素発生能を有することも明らかとなった。これは、例えばヒトの胃(胃酸)の中では、シリコン微細粒子、又はシリコンの結晶粒は殆ど水素発生能を有さず、胃から下流側である、例えば腸内の水含有液(代表的には、腸液)との接触において水素発生能を発揮することを意味するため、ヒトの体内の適切な場所での水素の発生が実現され得る。
<シリコン微細粒子と水含有液との接触によって発生した水素発生量の測定実験>
また、本願発明者らは、クエン酸を含まない点を除いて第1実施形態のシリコン微細粒子(固形製剤ではない)と同じシリコン微細粒子を、純水に炭酸水素ナトリウムを溶解させた水溶液とを接触させることによって発生した水素量の時間変化を調べた。
具体的には、ガラス容器中で、シリコン微細粒子11mg(第1混合工程が30分)又はシリコン微細粒子5mg(第1混合工程が60分)と、炭酸水素ナトリウム(1.88wt%)を溶解させた水溶液とを混合する。該水溶液のpH値は約8.3である。その後、ガラス容器の開口部まで該水溶液を満たし、空気が入らないように蓋をして完全密封をした。
なお、蓋はポリプロピレン製であるが、内蓋は、ポリエチレンとポリプロピレンの多層フィルター製を用いたことにより、発生する水素の透過や漏れを充分に抑えることができる。密封後、暫くすると、本実施形態の各シリコン微細粒子に関しては、水溶液全体に一様に混合された状態になったことが外観から視認される。
図3(a)は、第1の本実施形態の各シリコン微細粒子(固形製剤ではない)と、純水に炭酸水素ナトリウムを溶解させた水溶液(pH値=8.3)とを接触させることによって発生した水素の溶存水素濃度の時間変化を示すグラフである。また、図3(b)は、各シリコン微細粒子の1g当たりの水素発生量の時間変化を示すグラフである。なお、参考までに、上述の第1混合工程が行われなかったシリコン微細粒子を用いた場合の結果についても各グラフ中に示している。また、上述の各溶存水素量は、ポータブル溶存水素濃度計(東亜DKK株式会社製、型式DH−35A)を用いて測定された。
図3(a)及び図3(b)に示すように、第1混合工程が行われることによって、水素の発生が促進されることが明らかとなった。特に図3(b)に示すように、第1混合工程が行われることによって、2時間で40ml以上の水素発生量が、水素発生開始から2時間経過後以降、継続的に得られていることは特筆に値する。
なお、第1混合工程の混合時間が60分のシリコン微細粒子の水素発生量が、該混合時間が30分のシリコン微細粒子の水素発生量よりも少ないのは、シリコン微細粒子の表面上の酸化膜の厚みの差に影響していると考えられる。つまり、第1混合工程の混合時間が60分のシリコン微細粒子の方が厚い酸化膜を有しているために、媒体(水溶液)とシリコン微細粒子とが直接接し難くなったために水素の発生が抑制されたと考えられる。
また、本願発明者らの更なる研究と分析によれば、第1混合工程の混合時間が2分超50分以下(より好適には3分以上40分以下、さらに好適には4分以上30分以下、最も好適には5分以上20分以下)であれば、シリコン微細粒子表面の親水性を適度に保ちつつ、媒体と直接接し得る十分な表面積を有する状態を実現し得る。その結果、前述の混合時間の範囲であれば、水素の発生はより確度高く促進され得る。
<製剤と水含有液との接触によって発生した水素発生量の測定実験>
また、本願発明者らは、上述の実施例1〜実施例2の結果に加えて、ペレッターによる成型加工を施した、第1の実施形態の製剤100について、条件の異なる下記4つの試料A〜Dに関する水素発生量(ppm)の評価を行った。
(実施例3)
試料A:一旦ペレッターによって成型した該製剤を粉砕したもの200mgを、pH値は8.2の水含有液2ml中に投入したもの。(水含有液は、純水。)
試料B:該製剤200mgを、pH値は8.2の水含有液2ml中に投入したもの。(水含有液は、純水。)
試料C:一旦ペレッターによって成型した該製剤を粉砕したもの200mgを、純水2ml中に投入したもの。
試料D:該製剤200mgを、純水2ml中に投入したもの。
図4は、上述の試料A〜Dの水素発生量(ppm)と反応時間(分)との関係を示すグラフである。図4に示すように、該製剤を粉砕したものは、粉砕されていない該製剤よりも水素の発生量が時間の経過とともに有意に多くなる傾向が確認された。これは、例えばヒトが噛み砕いた該製剤が体内に入った方が、ヒトが該製剤をそのまま飲み込むよりも水素発生量が多くなることを示唆している。またpH値が8.2の水含有液の方が純水よりも水素発生量が多い傾向にあり、腸液との反応で水素発生量が増えることが示唆された。
<6週齢のSDラットに通常飼料又は該製剤(飼料)を8週間摂取させた場合の効果確認実験>
また、図5は、6週齢のSDラット(Sprague−Dawley rat、本願では「SDラット」という)に通常飼料(図5中の比較例)又は該製剤(飼料)(図5中の本実施形態)を8週間摂取させた場合の、血液200μl(マイクロリットル)中の水素濃度(ppb)を示すグラフである。加えて、図6は、6週齢のSDラットに通常飼料(図6中の比較例)又は該製剤(飼料)(図6中の本実施形態)を8週間摂取させた場合の、呼気中の水素濃度(ppb)を示すグラフである。なお、血液中の水素濃度は、センサガスクロマトグラフ装置(エフアイエス社製、型式SGHA−P2)によって測定した。また、呼気中の水素濃度はラットを完全密閉容器に8分間留置後、同様にセンサガスクロマトグラフ装置(エフアイエス社製、型式SGHA−P2)によって測定した。
図5及び図6に示すように、該製剤(飼料)を摂取したラット(本実施形態)の方が、血液中及び呼気中の水素濃度が高いことが確認された。なお、該製剤から発生した水素が体外に速やかに放散されたために、血液中の水素濃度の差が比較的小さくなったと考えられる。生殖障害にはヒドロキシルラジカルが関与している可能性がある。従って、図5及び図6の結果から、血中及び/又は呼気中において水素濃度が増加していることが、上述の生殖障害の予防、治療、又は改善の効果に、本実施形態の該製剤から発生する水素が寄与する可能性が示唆される。
また、図7は、6週齢のSDラットに通常飼料(図7中の比較例)又は該製剤(飼料)(図7中の本実施形態)を8週間摂取させた場合の、抗酸化度を測定するBAPテスト(血漿の抗酸化力の評価テスト)の結果を示すグラフである。なお、このBAPテストは、FREE Carrio Duo装置(Diacron International社製、型式DI−601M)によって測定した。
図7に示すように、該製剤(飼料)を摂取したラット(本実施形態)の方が、抗酸化力が有意に高いことが確認された。従って、本実施形態の該製剤が投与されることによって、生殖障害の予防、治療、又は改善の効果が奏されることが明らかとなった。
<精索静脈瘤ラットモデルを用いた、第1の実施形態の製剤による予防効果の確認実験>
上述の各基礎的実験を踏まえ、本願発明者らは、精索静脈瘤ラットモデルを用いた、第1の実施形態の製剤100による予防及び治療効果に対する確認実験を行った。
(精索静脈瘤ラットモデルの作製)
図8は、第1の実施形態の製剤100の効果を確認するための精索静脈瘤ラットモデルの作製の流れを示している。また、図9は、精索静脈瘤ラットモデルの作製術を示している。図9に示すように、該精索静脈瘤ラットモデルは、まず、左腎静脈を部分結紮し、さらに左外精静脈を結紮することにより作製された。
なお、図8に示すように、該モデルの5体(モデル群)が適正に作製されていることを確認するために、偽手術(「Sham手術」ともいわれる)が施されたラット(偽手術群)も5体準備された。なお、該ラットは、各手術が施された8週齢の時点の前後において(つまり、生後から12週齢まで)通常の飼料が自由摂取により与えられている。
本願発明者らは、精索静脈瘤ラットモデルが12週齢になったときに、偽手術が施されたラットと比較することによって、精索静脈瘤の形成状況を評価した。具体的には、図10に示すように、精索静脈瘤ラットモデルが12週齢になったときに、各ラットの組織を採取し、計測を行った。
図10は、(a)精子濃度、及び(b)精子運動率について、上述のモデル群と偽手術群とを比較したグラフである。また、図11は、腸腰静脈交差部における内精静脈径の測定部位を説明するための概要図である。
図10に示すように、精子濃度及び精子運動率のいずれにおいても、該モデル群の値が偽手術群よりも有意に低くなっていることが確認された。加えて、図11に示すように、腸腰静脈交差部における内精静脈径を測定したときに、精索静脈瘤ラットモデルの内精静脈径が0.5mm以上に拡張していることが確認された。一方、偽手術が施されたラットにおいては、前述の拡張が確認されなかった。従って、精索静脈瘤ラットモデルが適切に作製されていることが確認された。
(実施例4)
本実験においては、以下の2種類(1)比較例、及び(2)第1の実施形態の精索静脈瘤ラットモデルを用いて比較した。
図12は、第1の実施形態の製剤100による、下記の(1)比較例、及び(2)本実施例の、予防及び治療効果の確認のための実施計画(プロトコール)である。なお、本実施例においては、SDラットによる自由摂取により投与が行われた。
(1)比較例(コントロール群):生後、図1(a)に示す通常飼料のみを投与する。8週齢のラットに対して、上述の精索静脈瘤ラットモデルの作製術を施す。その4週間後(つまり、生後12週齢の該ラット)の組織を採取し、計測を行うことにより、後述する各種のデータを取得する。
(2)本実施例:生後、通常飼料を8週間与える。比較例と同様に、8週齢のラットに対して、上述の精索静脈瘤ラットモデルの作製術を施す。8週齢以降、図1(b)に示すシリコン微細粒子及びシリコンの結晶粒(この例では、1wt%)が混錬された通常飼料(以下、「第1の実施形態の飼料」又は「製剤」ともいう)のみを投与する。比較例と同様に、8週齢のラットを基準として、その4週間後(つまり、生後12週齢の該ラット)の組織を採取し、計測を行うことにより、後述する各種のデータを取得する。
図13は、(a)精子濃度、及び(b)精子運動率について、上述の比較例と本実施例とを比較したグラフである。図13に示すように、精子濃度及び精子運動率のいずれにおいても、本実施例の値が比較例よりも格段に高くなっていることが確認された。また、本実施例の各測定値が、図10に示す、精索静脈瘤が形成されていない偽手術群の各測定値よりも高い値を示していることは、第1の実施形態の飼料(製剤)の効果として特筆に値する。従って、図13に示される改善効果は、例えば、従来採用されてきた手術療法によって得られる改善効果と同様、又はそれ以上であるといえる。
上述のとおり、これまで採用されてきた手術療法を行うことなく、精子濃度及び精子運動率についての大幅な改善効果が認められたことにより、生殖障害に対する高い治療効果を確認することができた。また、実施例4の結果を踏まえれば、生殖障害の原因となり得る精索静脈瘤が仮に形成されたとしても、精子濃度及び精子運動率の低下には至らないことが確認されたことは、生殖障害に対する予防効果も発揮されているといえる。
(実施例5)
上記のとおり、製剤100を摂取したラットの抗酸化力及び精子運動率の改善効果が確認されたが、次に示す別の指標においても、該抗酸化力及び該精子運動率の改善効果が確認された。なお、「8−OHdG」は、ヒドロキシラジカル等の活性酸素種によってDNAが酸化的損傷を受けた時に生じる副産物である。
図14は、ラットにおけるある1つのDNAの酸化ストレスマーカー「8−OHdG」の陽性率(%)を指標として、以下の2種類(1)比較例、及び(2)第1の実施形態の精索静脈瘤ラットモデルを用いて比較したグラフである。
(1)比較例(コントロール群):生後、図1(a)に示す通常飼料のみを投与する。8週齢のラットに対して、上述の精索静脈瘤ラットモデルの作製術を施す。その4週間後(つまり、生後12週齢の該ラット)の組織を採取し、計測を行うことにより、「8−OHdG」の陽性率(%)のデータを取得する。
(2)本実施例:生後、通常飼料を8週間与える。比較例と同様に、8週齢のラットに対して、上述の精索静脈瘤ラットモデルの作製術を施す。8週齢以降、図1(b)に示すシリコン微細粒子及びシリコンの結晶粒(この例では、1wt%)が混錬された通常飼料(以下、「第1の実施形態の飼料」又は「製剤」ともいう)のみを投与する。比較例と同様に、8週齢のラットを基準として、その4週間後(つまり、生後12週齢の該ラット)の組織を採取し、計測を行うことにより、「8−OHdG」の陽性率(%)のデータを取得する。
図14に示すように、「8−OHdG」の陽性率(%)の指標においても、既に確認されているラットの抗酸化力及び精子運動率の改善効果が再確認された。
<その他の実施形態>
なお、上述の薬剤(製剤)におけるシリコン微細粒子の製造方法の1つの態様は、結晶粒径が1μm超のシリコン粒子を物理的粉砕法により微細化し、結晶子径が1nm以上100nm以下の「シリコンナノ粒子」を含み得るシリコン微細粒子とする工程を含む。物理的粉砕法の好適な例は、ビーズミル粉砕法、遊星ボールミル粉砕法、衝撃波粉砕法、高圧衝突法、ジェットミル粉砕法、又はこれらを2種以上組み合わせた粉砕法によって粉砕する方法である。また、公知の化学法を採用することも可能である。但し、製造コスト又は、製造管理の容易性の観点から言えば、特に好適な例は、ビーズミル粉砕法のみ、又はビーズミル粉砕法を少なくとも含む粉砕法である。
また、上述の各実施形態においては、出発材料として、市販の高純度シリコン粒子粉末であるシリコン粒子が採用されているが、出発材料はそのようなシリコン粒子に限定されない。
また、上述の各実施形態における「凝集体」とともに、又は該「凝集体」の代わりに、ナノオーダーの空隙を有する多孔質結晶粒が採用されることは、全体としての径が大きい粒子及び/又は表面積の大きい粒子を用いることを実現し得るため、好適な一態様である。例えば、上述の各実施形態のシリコン微細粒子が、腸管の細胞膜及び細胞間を通過しないシリコン微細粒子であること、該シリコン微細粒子の凝集体が、前述の細胞膜及び前述の細胞間を通過しない凝集体であること、又は、上述の各実施形態のシリコンの結晶粒が、前述の細胞膜及び前述の細胞間を通過しない結晶粒であることは、上述の各実施形態をより確度高く安全性を確保する観点から好適な一態様である。
なお、ヒト及び非ヒト動物において、上述の各実施形態のシリコン微細粒子から効率的に水素を発生する原因の一つが、腸内液が弱アルカリ性であることと考えられる。従って、上述の各実施形態においては、その弱アルカリ性の実現を支援するために、例えば、予め該シリコン微細粒子と、重炭酸ナトリウム(炭酸水素ナトリウム)又は重炭酸カリウム等の重炭酸塩とを混合した混合物を投与することは有効な方法の1つである。その場合、重炭酸塩は、例えばヒトの胃酸によって分解するため、該混合物を、胃酸から保護し、腸において溶解するための腸溶剤とすることが好ましい。従って、投与方法が、上述の各実施形態における水素発生能を有するシリコン微細粒子、該シリコン微細粒子の凝集体、又はシリコンの結晶粒と、重炭酸塩とを含有する腸溶剤の経口投与であることは、好適な一態様である。
上述の実施形態又は実施例の開示を含む各記載は、該実施形態等の説明のために記載したものであって、本発明を限定するために記載したものではない。加えて、上述の各実施形態及び各実施例における他の組合せを含む本発明の範囲内に存在する変形例もまた、特許請求の範囲に含まれるものである。
本発明の薬剤及びその製造方法(薬剤の原体の製造方法を含む)は、医療業界、医薬業界、健康産業において広範に利用され得る。

Claims (12)

  1. 水素発生能を有するシリコン微細粒子、該シリコン微細粒子の凝集体、又はシリコンの結晶粒を含む、精索静脈瘤による男性不妊症の改善のための、
    薬剤。
  2. 前記薬剤が、経口摂取に適するように調剤されている、
    請求項1に記載の薬剤。
  3. 前記シリコン微細粒子は、腸管の細胞膜及び細胞間を通過しない前記シリコン微細粒子であり、
    前記凝集体は、前記細胞膜及び前記細胞間を通過しない前記凝集体であり、
    前記結晶粒は、前記細胞膜及び前記細胞間を通過しない前記結晶粒である、
    請求項1又は請求項2に記載の薬剤。
  4. 純水中で崩壊させたときの水含有液のpH値を7超10未満とするpH値調整剤をさらに含む、
    請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の薬剤。
  5. 重炭酸塩を含有する腸溶剤である、
    請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の薬剤。
  6. 投与方法が、前記シリコン微細粒子、前記凝集体、又は前記結晶粒と、重炭酸塩とを含有する腸溶剤の経口投与である、
    請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の薬剤。
  7. 徐放性を有する、
    請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の薬剤。
  8. 前記シリコン微細粒子が、実質的に結晶子径が1nm以上100nm以下のシリコン微細粒子を含む、
    請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の薬剤。
  9. 請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の前記薬剤の製造方法であって、
    前記シリコン微細粒子、前記凝集体、又は前記結晶粒を、生理学的に許容可能な母材中に含有させるときに、純水中で崩壊させたときの水含有液のpH値を4以上7未満とするpH値調整剤を含ませるpH値調整剤含有工程を含む、
    剤の製造方法。
  10. 請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の前記薬剤の製造方法であって、
    前記シリコン微細粒子、前記凝集体、又は前記結晶粒と過酸化水素水とを接触させる過酸化水素水処理工程、を含む、
    剤の製造方法。
  11. さらに、前記過酸化水素水処理工程の前に、エタノール溶液中でシリコン粒子を粉砕することによって前記シリコン微細粒子、前記凝集体、又は前記結晶粒を形成する工程を含む、
    請求項10に記載の薬剤の製造方法。
  12. 水素発生能を有するシリコン微細粒子、該シリコン微細粒子の凝集体、又はシリコンの結晶粒を含む、精索静脈瘤による男性不妊症の、
    予防用又は治療用薬剤
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