以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図に示す各部の縮尺や形状は、説明を容易にするために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。
図1は、本実施の形態に係る車両用灯具システムに用いられる灯具ユニットを含む車両用灯具の概略構造を示す水平断面図である。車両用灯具10は、ランプボディ12と、ランプボディ12の前端開口部に取り付けられる透光カバー14とを有する。ランプボディ12と透光カバー14とで形成される灯室内には、ロービーム用灯具ユニット20L及びハイビーム用灯具ユニット20Hとが収容される。ロービーム用灯具ユニット20L及びハイビーム用灯具ユニット20Hは、それぞれ図示しない支持部材によってランプボディ12に取り付けられる。また、これらの灯具ユニットの存在領域に開口部を有するエクステンション部材16が、ランプボディ12又は透光カバー14に固定され、ランプボディ12の前面開口部と灯具ユニットとの間の領域が覆われる。
ロービーム用灯具ユニット20Lは、いわゆる反射型の灯具であり、光源バルブ21とリフレクタ23とを有する。ロービーム用灯具ユニット20Lは、光源バルブ21から出射した光をリフレクタ23により灯具前方に反射させ、反射した光の一部を図示しない遮光板でカットして、ロービーム用の配光パターンを形成する。光源バルブ21の先端には光源バルブ21から直接前方に出射する光をカットするシェード25が設けられる。なお、ロービーム用灯具ユニット20Lの構造は特にこれに限定されず、後述するハイビーム用灯具ユニット20Hと同様にプロジェクタ型の灯具であってもよい。
ハイビーム用灯具ユニット20Hは、いわゆるプロジェクタ型の灯具であり、投影レンズ22と、ハイビーム照射用の光源26を備えた光源ユニット24と、投影レンズ22及び光源ユニット24を保持するホルダ28とを有する。投影レンズ22は、前方側表面が凸面で後方側表面が平面の平凸非球面レンズであり、車両前後方向に延びる光軸Ax上に配置される。投影レンズ22は、その周縁部がホルダ28の前端側に保持される。
光源ユニット24は、光源26が光軸Ax方向前方を向くように配置されて、ホルダ28の後端側に保持される。後述するように、本実施の形態の光源ユニット24は、アレイ状(n×m:m、nは1以上の整数)に配列された複数のLEDで構成される。ホルダ28は、図示しない支持部材を介してランプボディ12に取り付けられる。なお、ハイビーム用灯具ユニット20Hの構造は特にこれに限定されず、ロービーム用灯具ユニット20Lと同様に反射型の灯具であってもよい。
図2は、光源ユニットの概略構造を示す斜視図である。光源ユニット24は、光源26と、支持プレート30と、ヒートシンク32とを有する。光源26は、例えば発光ダイオード(LED)などの半導体発光素子で構成される複数の個別光源26a〜26hを有する。個別光源26a〜26hは、水平一列に互いに隣接するように配置され、支持プレート30の前方側表面に固定される。個別光源26a〜26hは、後述するADBモードにおいて、第1制御部100及び第2制御部104により互いに独立に光の照射が制御される。なお、個別光源の数や配置は特に限定されない。また、複数の発光素子によって、1つの個別光源が形成されてもよい。
ヒートシンク32は、光源26から発せられる熱を放散させるための部材であり、支持プレート30の車両後方側表面に保持される。光源ユニット24は、支持プレート30を介してホルダ28に固定される。
図3は、車両用灯具によって形成される配光パターンを模式的に示す図である。図3では、灯具前方の所定位置、例えば灯具前方25mの位置に配置された仮想鉛直スクリーン上に形成される配光パターンを示している。
車両用灯具10では、ロービーム用灯具ユニット20Lの照射光により、ロービーム用配光パターンPLが形成される。ロービーム用配光パターンPLは、V−V線よりも右側に、H−H線と平行に延びる対向車線側カットオフラインCL1を、V−V線よりも左側に、対向車線側カットオフラインCL1よりも高い位置でH−H線と平行に延びる自車線側カットオフラインCL2を、そして対向車線側カットオフラインCL1と自車線側カットオフラインCL2との間に、両者をつなぐ斜めカットオフラインCL3をそれぞれ有する。なお、ロービーム用灯具ユニット20Lは、右側通行時に前走車や歩行者にグレアを与えないように配慮された配光パターンである、ドーバーロービーム用配光パターンを形成してもよい。
また、車両用灯具10では、ハイビーム用灯具ユニット20Hの照射光により、ハイビーム用配光パターンPHが形成される。ハイビーム用配光パターンPHは、ロービーム用配光パターンPLに対して付加的に形成される配光パターンである。ハイビーム用配光パターンPHは、ロービーム用配光パターンPLのカットオフラインよりも上方に照射領域が形成されるように、ロービーム用配光パターンPLに対して付加される。ハイビーム用配光パターンPHは、個別光源26a〜26hのそれぞれによって形成される部分パターン(部分領域)PHa〜PHhが合成されてなる配光パターンである。また、ハイビーム用灯具ユニット20Hは、ADBモードにおいて各部分パターンPHa〜PHhの形成/非形成の組合せにより、自車又は前方車両の状況に応じて形状の異なる複数の付加配光パターンを形成することができる。
つまり、ハイビーム用灯具ユニット20Hは、複数の半導体発光素子(個別光源26a〜26h)のそれぞれの照射領域に対応する複数の部分領域(PHa〜PHh)によって構成されるハイビーム用配光パターンPHを車両前方に形成できる。
水平線であるH−H線とロービーム用配光パターンPLのカットオフラインとの間には、水平方向に細長い領域Xが形成されている。この領域Xは、ハイビーム用配光パターンPHの鉛直方向下方端部と重なり合っている。対向車線側カットオフラインCL1の上方に隣接する領域Xの部分は、自車線側カットオフラインCL2の上方に隣接する領域Xの部分に比べて、鉛直方向に幅が広い。なお、自車線側カットオフラインCL2はH−H線と一致していてもよい。
各配光パターンの輪郭線は、ある照度しきい値で照明される位置を模式的に表している。輪郭線の内側はその照度しきい値を超える照度で照明される。輪郭線の外側は照明光がまったく当たらないことを意味するのではなく、その照度しきい値を下回る照度で照明されうる。以下の説明では、ある配光パターンに対応する発光素子から出射されその配光パターンの輪郭線の外側を照明する光を「漏れ光」と称することがある。例えば、ある部分パターンPHa〜PHhの漏れ光は、その部分パターンに隣接する部分パターンの内側を照らしうる。そのため、ある部分パターンに対応する光源が消灯されていても、隣接する部分パターンに対応する光源が点灯していれば、その部分パターンの領域は、隣接する部分パターンからの漏れ光によってある程度の照度で照明されうる。
続いて、本実施の形態に係る車両用灯具システムにより実行されるADBモードについて詳細に説明する。図4は、実施の形態に係る車両用灯具システムの構成を説明するための機能ブロック図である。なお、第1制御部100や第2制御部104、車両制御部108等は、ハードウェア構成としてはコンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子や回路で実現され、ソフトウェア構成としてはコンピュータプログラム等によって実現されるが、図4では適宜、それらの連携によって実現される機能ブロックとして描いている。これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。
本実施の形態に係る車両用灯具システム1は、ハイビーム用灯具ユニット20Hと、自動配光制御モードとしてのADBモードを実行する第1制御部100と、ハイビーム用灯具ユニット20Hに電力を供給する灯具駆動部102と、灯具駆動部102からハイビーム用灯具ユニット20Hへの給電を制御する第2制御部104と、を備える。ハイビーム用灯具ユニット20Hは、各個別光源26a〜26hの点消灯の切替えにより部分パターンPHa〜PHhの形成/非形成を切り替えることで、互いに異なる非照射領域(遮光区域ともいう)を有する複数の配光パターンを形成可能な灯具ユニットである。ハイビーム用灯具ユニット20Hは、各個別光源26a〜26hの点消灯の切替えに加えて、各個別光源26a〜26hの輝度調整により部分パターンPHa〜PHhの照度を調整することで、複数の配光パターンを切り替えてもよい。上記の部分パターンの「非形成」には、前方車両の運転者にグレアを与えない程度に低照度の部分パターンを形成することが含まれてもよい。また、「非照射領域(すなわち遮光区域)」には、同様に低照度の領域が含まれてもよい。
第1制御部100は、配光制御ECUであり、例えば車両200内に配置される。第1制御部100は、車両200に設けられる点灯スイッチ106からハイビーム用灯具ユニット20Hの点灯指示があると、給電を指示する信号を電力供給部としての車両制御部108に送る。また、点灯スイッチ106からハイビーム用灯具ユニット20Hの消灯指示があると、給電の停止を指示する信号を車両制御部108に送る。
車両制御部108は、例えばボディーコントロールモジュール(BCM)で構成される。車両制御部108は、車両200に搭載されるバッテリ110から電力が供給され駆動する。また、車両制御部108は、第1制御部100から給電指示信号を受信すると、バッテリ110から供給される電力を灯具駆動部102に供給し、第1制御部100から給電停止指示信号を受信すると、バッテリ110から供給される電力の灯具駆動部102への供給を停止する。
また、第1制御部100は、点灯スイッチ106からハイビーム用灯具ユニット20Hの点灯指示があり、かつADBモードの実行指示がなされた場合に、ADBモードを実行する。ADBモードでは、自車又は前方車両の状況に応じて、配光パターンの形成又は非形成が選択され、また配光パターンを形成する場合は複数の配光パターンから形成する配光パターンが選択される自動配光制御が実施される。
第1制御部100は、例えば車両200に搭載される検知部としてのカメラ112が取得する情報に基づいて、前方車両の存否及び存在位置を含む前方車両の状況を検知することができる。カメラ112は、撮像した画像データの画像解析を行い、撮像範囲内の前方車両を検知する。そして、この結果を第1制御部100に送る。なお、前方車両を検知する検知部としては、カメラ112に代えて例えばミリ波レーダや赤外線レーダなど他の検知装置が用いられてもよく、またそれらが組み合わされてもよい。また、第1制御部100は、例えば車両200に搭載される検知部としての車速センサ114が取得する情報に基づいて、自車の走行/停止を含む、自車の状況を検知することができる。
第1制御部100は、カメラ112及び/又は車速センサ114の情報を取得して自車あるいは前方車両の状況を検知し、ハイビーム用灯具ユニット20Hにより配光パターンを形成すべきか否か、及び配光パターンを形成する場合にはどのような形状の配光パターンを形成すべきかを判断する。
例えば、車速センサ114の情報に基づいて、自車が停車中であることが検知された場合、第1制御部100はハイビーム用灯具ユニット20Hによる配光パターンの非形成を選択する。また、カメラ112の情報に基づいて、部分パターンPHa〜PHhの照射範囲のいずれにも前方車両が重なることが検知された場合、第1制御部100はハイビーム用灯具ユニット20Hによる配光パターンの非形成を選択する。第1制御部100は、ハイビーム用灯具ユニット20Hによる配光パターンの非形成を選択した場合、当該選択の結果を示す信号(以下では適宜、「選択結果信号」と称する)を第2制御部104に送信する。
また、例えば、車速センサ114の情報に基づいて、自車が走行中であることが検知され、またカメラ112の情報に基づいて、部分パターンPHa〜PHhの照射範囲の少なくとも1つに前方車両が存在しないことが検知された場合、ハイビーム用灯具ユニット20Hによる配光パターンの形成を選択する。また、第1制御部100は、形成する配光パターンとして、前方車両と重なる部分パターンの非形成と残りの部分パターンの形成との組合せで得られる配光パターンを選択する。そして、第1制御部100は、選択結果信号を第2制御部104に送る。第1制御部100から第2制御部104への選択結果信号の送信は、例えばLIN(Local Interconnect Network)通信、あるいはCAN(Controller Area Network)通信で行われる。
第2制御部104は、ADBモードにおいて、第1制御部100から受領する選択結果信号に基づいて、車両制御部108から灯具駆動部102へ供給される電力の、灯具駆動部102からハイビーム用灯具ユニット20Hへの給電を制御する。具体的には、第2制御部104は、第1制御部100の選択の結果に基づいて、灯具駆動部102からハイビーム用灯具ユニット20Hの各個別光源26a〜26hへの給電と非給電とを決定する。また第2制御部104は、各個別光源26a〜26hの駆動電流の大きさを決定する。
これにより、第1制御部100が配光パターンの非形成を選択した場合には、灯具駆動部102がハイビーム用灯具ユニット20Hへの給電を停止し、ハイビーム用灯具ユニット20Hによる配光パターンの形成が回避される。また、第1制御部100が配光パターンの形成を選択した場合には、灯具駆動部102が電力をハイビーム用灯具ユニット20Hに供給し、選択した配光パターンがハイビーム用灯具ユニット20Hにより形成される。なお、第2制御部104は、例えば灯具駆動部102の内部に組み込まれるマイクロコントローラで構成され、車両用灯具10内に配置される。
車両用灯具システム1は、点灯スイッチ106によりADBモードの実行指示がなされていない場合、自車又は前方車両の状況によらず点灯スイッチ106のオンとオフの切替えにより、ハイビーム用配光パターンPHの形成及び非形成が切り替えられる手動配光制御モードを実行する。手動配光制御モードにおいて、第1制御部100は、ハイビーム用灯具ユニット20Hの点灯指示があると、灯具駆動部102から全ての個別光源26a〜26hに給電するよう第2制御部104に指示する。
第1制御部100及び第2制御部104は、車両200に搭載されるイグニッションスイッチ116を介してバッテリ110に接続される。イグニッションスイッチ116のオンとオフの切替えにより、バッテリ110から第1制御部100及び第2制御部104への電力の供給、非供給が切り替えられる。したがって、第1制御部100及び第2制御部104は、ハイビーム用灯具ユニット20Hの点灯用電力を給電する車両制御部108の電源(いわゆるバッテリ電源)とは独立した電源(いわゆるイグニッション電源)からの電力で駆動する。
また、点灯スイッチ106によりロービーム用灯具ユニット20Lの点灯指示がなされると、第1制御部100は、灯具駆動部102からロービーム用灯具駆動部118へ給電するよう第2制御部104へ指示する。ロービーム用灯具駆動部118へ供給される電力は、ロービーム用灯具駆動部118からロービーム用灯具ユニット20Lに供給される。これにより、ロービーム用灯具ユニット20Lが点灯してロービーム用配光パターンPLが形成される。
ハイビーム用灯具ユニット20Hは、車両前方状況に応じた遮光区域を有する適応的ハイビーム用配光パターンおよび遮光区域を有しない通常ハイビーム用配光パターンを車両前方に形成可能である。第2制御部104(または第1制御部100)は、ハイビーム用灯具ユニット20Hにより適応的ハイビーム用配光パターンを形成する場合に(例えばADBモードなどの自動配光制御が実施されている場合に)、第1配光制御モードと第2配光制御モードを切り替えて実行可能である。
第1配光制御モードにおいては、第2制御部104は、所与の遮光区域を実現するよう個別光源26a〜26hのうち一部を減光するとともに、残りの個別光源26a〜26hの光度を維持する。第2配光制御モードにおいては、第2制御部104は、所与の遮光区域を実現するよう個別光源26a〜26hのうち一部を減光するとともに、残りの個別光源26a〜26hのうち少なくとも1つの個別光源26a〜26hの光度を第1配光制御モードにおける残りの個別光源26a〜26hの光度に比べて増加させる。
ここで、「所与の遮光区域」は、車両前方状況またはその他の情報に基づいて、上述のように、例えば第1制御部100または車両側の制御装置により決定されうる。例えば、第1制御部100は、遮光区域の左右幅を決定する。遮光区域の左右幅とは、車幅方向(水平方向)についての遮光区域の寸法、例えば遮光区域の角度範囲をいう。決定された遮光区域が第1制御部100から第2制御部104に与えられる。決定された遮光区域の左右幅を表す情報が、例えば上述の選択結果信号に含まれてもよい。
図5(a)及び図5(b)は、第1配光制御モードおよび第2配光制御モードそれぞれにおける適応的ハイビーム用配光パターンにより形成される光度分布の例を示す模式図である。図5(a)には、第1配光制御モードにおける第1ハイビーム用配光パターン120を通常ハイビーム用配光パターン124と対比して示す。図5(b)には、第2配光制御モードにおける第2ハイビーム用配光パターン122を通常ハイビーム用配光パターン124と対比して示す。
また、図6(a)〜図6(d)は、ハイビーム用配光パターンが車両前方に照射された様子を示す模式図である。図6(a)には通常ハイビーム用配光パターン124を示し、図6(b)には第1ハイビーム用配光パターン120を示し、図6(c)には第2ハイビーム用配光パターン122を示す。車幅方向(図において左右方向)の中央部に先行車128が存在し、先行車128にハイビームの照明光が当たらないように遮光区域126が設定されている。また、図6(d)には自車両が先行車128に接近した場合を示す。なお、図において中央の部分パターンに比べて端部の部分パターンが上下に長いのは、端部の部分パターンが自車両の比較的近方を照らすためである。
図5(a)及び図5(b)に破線で示される通常ハイビーム用配光パターン124は、光度ピークP0をもつ単峰形の光度分布をとる。通常ハイビーム用配光パターン124においては通例、すべての個別光源26a〜26hが点灯される。よって、図6(a)に示されるように、部分パターンPHa〜PHhのすべてが形成されている。
図5(a)及び図5(b)に実線で示される第1ハイビーム用配光パターン120及び第2ハイビーム用配光パターン122においては、遮光区域126を実現するよう例えば中央部の2つの個別光源26d、26eが消灯され、残りの個別光源26a〜26c、26f〜26hが点灯される。中央部の2つの個別光源26d、26eが消灯されるのは一例であり、遮光区域126が形成されるべき場所に応じて異なる個別光源26a〜26hが点消灯される。
図5(a)に示されるように、第1配光制御モードにおいては、個別光源26a〜26c、26f〜26hは通常ハイビーム用配光パターン124の場合と同じ光度で点灯されている。図6(b)に示されるように、消灯した個別光源26d、26eに対応する部分パターンPHd、PHeは非形成とされ、点灯した個別光源26a〜26c、26f〜26hに対応する部分パターンPHa〜PHc、PHf〜PHhが形成されている。
図5(b)に示されるように、第2配光制御モードにおいては、消灯した個別光源26d、26eに隣接する個別光源26c、26fが通常ハイビーム用配光パターン124の場合に比べて増光されている。第2配光制御モードにおいては、遮光区域126の両側に光度ピークP1、P2が形成されている。これらの光度ピークP1、P2は、通常ハイビーム用配光パターン124における光度ピークP0に比べて、左右に移動されかつ光度値が高められている。第2配光制御モードは、スライドアンドパワーアップモードとも呼ばれる。このようにして、高い光度ピークP1、P2を遮光区域126の端部にスライドさせることによって、遮光区域126の端部を強調することができる。また光度ピークP1、P2は、遮光区域126の周囲の明るさを確保することにも寄与する。なお光度ピークP1、P2は、光度ピークP0と同等またはそれより低くてもよい。
適応的ハイビーム用配光パターンにおける遮光区域126の設定に伴って運転者に感知されうる違和感を少なくするうえで理想的な配光が満たすべき条件には、本発明者らの考察によると、次の2つがある。2つの条件が満たされる場合、遮光区域126の有無または遮光区域126の広さの変化を含む配光の変化に伴って生じうる違和感を低減し又は無くすことが可能となる。
最初の条件は、遮光区域126を有する適応的ハイビーム用配光パターンが全体として、遮光区域126を有しない通常ハイビーム用配光パターン124と概ね同じ明るさを維持していることである。例えば、適応的ハイビーム用配光パターン(例えば第2ハイビーム用配光パターン122)を形成するときのハイビーム用灯具ユニット20Hの光度を、通常ハイビーム用配光パターン124を形成するときのハイビーム用灯具ユニット20Hの光度を概ね等しくすることによって、この第1条件は満たされる。通常ハイビーム用配光パターン124の光度ピークP0に対する上述の第2配光制御モードにおける光度ピークP1、P2の増加の度合を適切に調整することによって、第1条件を満たすことができる。
二番目の条件は、遮光区域126が有る場合と無い場合とで、先行車128の後方領域130が概ね同じ明るさを維持していることである。図6(a)〜図6(c)に示されるように、先行車128が自車両から比較的離れている場合、後方領域130は、ロービームによって照明される路面の領域よりも遠方の領域(例えば図3に示される領域X)を含みうる。その場合、後方領域130の少なくとも一部にはロービームが届きにくいので、遮光区域126の設定に伴って後方領域130の明るさが低下する懸念がある。明るさの低下は安全上または法規上問題のない程度でありうるが、運転者に違和感を与えるかもしれない。遮光区域126の有無にかかわらず後方領域130の明るさが維持されることによって、違和感は低減される。
先行車128の存在領域に合わせて遮光区域126の左右幅が制御される。そのため、先行車128から自車両が離れれば遮光区域126の左右幅は縮小され、先行車128に自車両が接近すれば遮光区域126の左右幅は拡大することになる。例えば、図6(d)には、自車両が先行車128に接近した場合の一例として、6つの部分パターンPHb〜PHgが非形成とされ、残りの両端の部分パターンPHa、PHhだけが形成されている。すなわち、6つの個別光源26b〜26gが消灯され、残りの両端の個別光源26a、26hだけが点灯されている。
ここで、第2配光制御モードが実行されていたとすると、第1条件を満たすべく両端の個別光源26a、26hが集中的に増光されることになる。その結果、第2ハイビーム用配光パターン122の両端だけが過剰に明るくなり、そのことが却って運転者の違和感につながりうる。一方で、このように先行車128との距離が比較的狭い場合には、後方領域130の明るさは、運転者に生じうる違和感にあまり影響しない。そのため、上述の第2条件を満たすことの必要性は低くなる。
そこで、第2制御部104は、遮光区域126の左右幅が第1しきい値より大きい場合に第1配光制御モードを実行し、遮光区域の左右幅が第1しきい値より小さい場合に第2配光制御モードを実行する。換言すると、第1配光制御モードは遮光区域126の左右幅が比較的広い場合に選択され、第2配光制御モードは遮光区域126の左右幅が比較的狭い場合に選択される。しきい値は、設計者の経験的知見または設計者による実験やシミュレーション等に基づき適宜設定することが可能である。
図7は、実施の形態に係る車両用灯具システムにおいて実行される制御方法の一例を示すフローチャートである。図示される制御ルーチンは例えば、ADBモードが実施される期間において所定のタイミングで繰り返し実行される。この制御ルーチンは例えば第2制御部104によって実行されるが、第1制御部100またはその他の制御部で実行されることも可能である。
図7に示されるように、第2制御部104は、遮光区域126の左右幅が第1しきい値以上であるか否かを判定する(S10)。遮光区域126の左右幅が第1しきい値以上である場合には(S10のY)、第2制御部104は、第1配光制御モードを実行する(S12)。この場合、第2配光制御モードの実行は禁止されることになる。遮光区域126の左右幅が第1しきい値未満である場合には(S10のN)、第2制御部104は、第2配光制御モードを実行する(S14)。こうして選択された第1配光制御モードまたは第2配光制御モードのいずれかが実行されるとき、車両前方状況に応じた遮光区域126が例えば上述の方法を用いて形成される。また、遮光区域126以外の照射区域は、選択された配光制御モードに従って調整された明るさで照明される。
このようにして、遮光区域126の左右幅に関連付けて2つの配光制御モードが切り替えられる。例えば、走行中に先行車128との距離が変わり、それに応じて遮光区域126の左右幅が増減することに伴って、第1配光制御モードと第2配光制御モードとが随時切り替えられる。
遮光区域126の左右幅が第1しきい値以上である場合には、第2配光制御モード、すなわちスライドアンドパワーアップモードは禁止される。遮光区域126の左右幅が比較的広い場合に遮光区域126の端部が過剰に明るくなることを抑制することができる。第1配光制御モードに従って、遮光区域126の端部は適切な明るさで照明される。一方、遮光区域126の左右幅が第1しきい値未満である場合には、スライドアンドパワーアップモードが許可される。遮光区域126の左右幅が比較的狭い場合に遮光区域126の端部が増光され、遮光区域126の端部を強調するとともに遮光区域126の周囲の明るさを確保することができる。このようにして、遮光区域126の左右幅が変化しても、運転者にとって違和感の少ない配光を提供することができる。
本発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を加えることが可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれる。
図7に示される処理においてはある特定のしきい値に基づきスライドアンドパワーアップモードがオンオフされているが、本発明はこれに限られない。2つの配光制御モードが両者の中間的なモードを介して切り替えられてもよい。
第2制御部104は、遮光区域126の左右幅が第1しきい値より大きい場合に第1配光制御モードを実行し、遮光区域の左右幅が第2しきい値より小さい場合に第2配光制御モードを実行してもよい。第2しきい値は、第1しきい値より小さい。第2制御部104は、遮光区域126の左右幅が第1しきい値と第2しきい値の間にある場合に第2配光制御モードを実行し、当該第2配光制御モードにおいては少なくとも1つの個別光源26a〜26hの光度の増加の度合が遮光区域126の左右幅に応じて調整される。
例えば、図5(b)に示される光度ピークP1、P2の光度値が遮光区域126の左右幅に応じて調整される。遮光区域126の左右幅が広いほど光度ピークP1、P2が低減される。ただし、光度ピークP1、P2は、第1配光制御モードの光度値を下回らないように定められる。すなわち、遮光区域126の左右幅が第1しきい値と第2しきい値の間にある場合、遮光区域126の左右幅が広いほど、第2配光制御モードによる光度分布が第1配光制御モードによる光度分布に近づく。
このようにすれば、遮光区域126の左右幅が第1しきい値と第2しきい値の間にある場合の遮光区域126の端部の照度を、遮光区域の左右幅が第2しきい値より小さい場合に比べて低く調整することができる。それにより、第1配光制御モードから第2配光制御モードに切り替わるときの遮光区域126の端部の照度の急変を抑制することができる。これは、運転者の違和感低減に寄与しうる。
また、第2配光制御モードにおける少なくとも1つの個別光源26a〜26hの光度の増加の度合が、遮光区域126のうちロービーム用配光パターンPLのカットオフラインに隣接する部分の照度低下を少なくとも部分的に補償するように設定されてもよい。ここで、遮光区域126のうちロービーム用配光パターンPLのカットオフラインに隣接する部分は、図3に示される領域Xの少なくとも一部に相当する。この部分は、先行車128の後方領域130と重なりうる。
第2配光制御モードにおける高い光度ピークP1、P2は、遮光区域126の周囲の明るさを確保することに寄与する。例えば、第2ハイビーム用配光パターン122の照射領域から後方領域130への漏れ光を利用して、後方領域130を照らすことができる。例えば、点灯した個別光源26a〜26c、26f〜26hに対応する部分パターンPHa〜PHc、PHf〜PHhからの漏れ光が、消灯した個別光源26d、26eに対応する部分パターンPHd、PHeの領域に照射される。こうして、遮光区域126による先行車128の後方領域130での照度低下を少なくとも部分的に補うことができる。この点で、第2配光制御モードは、単純に個別光源26d、26eを消灯するだけで遮光区域126を実現する第1配光制御モードに比べて有利である。