(発明が解決しようとする課題)
特許文献1に記載の超電導磁場発生素子によれば、より大きな圧縮応力を超電導バルクに作用させて補強効果を高めようとする場合には、円筒状部材の厚さ(肉厚)が大きくされる。円筒状部材の肉厚が大きくされると、その分だけ超電導磁場発生素子の外径が大きくされる。しかしながら、超電導磁場発生素子は、着磁用マグネットのボア内に挿入された状態で着磁されるため、超電導磁場発生素子の外径は、着磁用マグネットのボアの内径よりも小さくなければならならい。このため、円筒状部材の肉厚の増加が、着磁用マグネットのボアの径によって制限される。よって、十分な圧縮応力を超電導バルクに作用させるように円筒状部材の肉厚を増加することができない場合も生じ得る。また、円筒状部材の肉厚を増加しても、肉厚に比例して補強効果(圧縮応力)が増すわけではなく、徐々に補強効果は小さくなり、やがて飽和する。一方で、超電導バルク内に生じる引張応力は、超電導バルクに捕捉された磁場強度の二乗に比例して大きくなる。このため、径の大きな円筒形状の超電導バルクに例えば10T以上の高磁場を捕捉させようとしたときに、単に円筒状部材の肉厚を増加するだけでは、超電導バルク内で生じる引張応力に対抗することができる十分な大きさの圧縮応力を、超電導バルクに作用させることができず、その結果、超電導バルクが割れる虞がある。
また、特許文献2に記載の超電導磁場発生素子によれば、円柱形状又は円筒形状の超電導バルクの外周面に加え、上端面或いは下端面にも補強部材が取り付けられているため、上端面或いは下端面に補強部材が取り付けられていない場合と比較して、超電導バルクに作用させる圧縮応力は大きくされる。しかし、超電導バルクの上端面或いは下端面に取り付けられた補強部材が直接的に超電導バルク内で生じる引張応力を受けるわけではないので、その補強効果の向上の度合い(圧縮応力の増加の度合い)は小さい。従って、超電導バルクに大きな磁場を捕捉させようとしたときに、超電導バルク内で生じる引張応力に対抗することができる十分な大きさの圧縮応力を、超電導バルクに作用させることができない。
また、特許文献3によれば、超電導バルクと温度差のある円筒状部材が直接的に超電導バルクに取り付けられるため、上記温度差による熱衝撃が超電導バルクに作用する。このため超電導バルクが破損する虞がある。なお、特許文献3に記載の技術に基づいて、樹脂層を介して円筒状部材を超電導バルクに取り付けようとしても、例えば加熱された円筒状部材の熱で樹脂層が溶融するなどの不具合を生じる。このため、特許文献3の技術を用いる限り、樹脂層を介して超電導バルクの外周面に円筒状部材を取り付けることはできない。
以上のように、従来の技術においては、超電導バルクに例えば10T以上の大きな磁場を捕捉させようとしたときに、超電導バルク内で生じる引張応力に対抗することができる十分な大きさの圧縮応力を超電導バルクに作用させることができなかった。本発明は、十分に大きな圧縮応力を超電導バルクに作用させることができるように構成された超電導磁場発生素子、及び、そのような超電導磁場発生素子の製造方法を提供することを、目的とする。
(課題を解決するための手段)
本発明は、円柱形状又は円筒形状の超電導バルク(2)と、その内周面が前記超電導バルクの外周面に接着層を介して接着されるように、前記超電導バルクに取り付けられている内側円筒状部材(4)と、内側円筒状部材の外周面にその内周面が接触するように、内側円筒状部材に取り付けられた外側円筒状部材(5)と、を備え、外側円筒状部材は、内側円筒状部材の熱収縮率と等しい熱収縮率又は内側円筒状部材の熱収縮率よりも大きい熱収縮率を有する材質により構成され、内側円筒状部材及び外側円筒状部材は、それぞれ、超電導バルクの熱収縮率よりも大きい熱収縮率を有する材質により形成され、外側円筒状部材は、常温にて内側円筒状部材を介して超電導バルクに圧縮応力が作用するように、内側円筒状部材に取り付けられている、超電導磁場発生素子(1,1A,1B)を提供する。上記本発明において、「常温」とは、「5℃〜35℃」程度の温度である。
本発明に係る超電導磁場発生素子によれば、径方向に積層された複数の円筒状部材(内側円筒状部材及び外側円筒状部材)によって、超電導バルクが補強されるように構成される。また、外側円筒状部材は、常温にて内側円筒状部材を介して超電導バルクに圧縮応力が作用するように、内側円筒状部材に取り付けられている。従って、超電導バルクに磁場を捕捉させるために超電導磁場発生素子を超電導転移温度以下の温度まで冷却した時には、内側円筒状部材及び外側円筒状部材の熱収縮により生じる圧縮応力に加え、既に常温にて生じている圧縮応力が付加される。このため、超電導バルクに磁場を捕捉させているときに超電導バルク内で生じている引張応力に対抗し得る圧縮応力は、常温にて既に生じている圧縮応力の分だけ大きくされる。
このように、本発明によれば、超電導バルクを補強するために複数の円筒状部材を用い、且つ、そのうちの一つの円筒状部材が常温で既に圧縮応力を超電導バルクに作用させているように、超電導磁場発生素子が構成される。よって、同じ厚さの一つの円筒状部材を用いて超電導バルクを補強する場合と比較して、より大きい圧縮応力を超電導バルクに作用させることができる。すなわち、本発明によれば、十分に大きな圧縮応力を超電導バルクに作用させることができるように構成された超電導磁場発生素子を提供することができる。
また、内側円筒状部材は、その内周面が超電導バルクの外周面に接着層(3)を介して接着されるように、超電導バルクに取り付けられている。これによれば、内側円筒状部材と超電導バルクとの間に接着層が介在されているため、接着層を介して内側円筒状部材の内周面を超電導バルクの外周面の全面に均一に接触させることができる。よって、超電導バルクと内側円筒状部材を直接接触させた場合に両者の接触表面の凹凸や形状の歪によって接触面積が限定される(すなわち両者が部分的に接触する)といったことはない。このため、接触面積が限定される(部分的に接触する)ことに起因して、すなわち両者の接触表面の凹凸や形状の歪に起因して、部分的に圧力が高まることによって超電導バルクが破損するようなことを効果的に防止することができる。
さらに、外側円筒状部材は、内側円筒状部材の熱収縮率と等しい熱収縮率または内側円筒状部材の熱収縮率よりも大きい熱収縮率を有する材質により構成される。これによれば、超電導磁場発生素子を超電導転移温度以下の温度に冷却する際に、内側円筒状部材と同等以上に外側円筒状部材が熱収縮するため、両者の間に隙間が発生しない。よって、外側円筒状部材、内側円筒状部材の両者の熱収縮により発生する圧縮応力を超電導バルクに作用させることができる。
この場合、超電導バルクの外周面と内側円筒状部材との間に介在する接着層が、樹脂により構成されているとよい。これによれば、接着層としての樹脂が均一に超電導バルクの外周面と内側円筒状部材の内周面との間の隙間を埋めることにより、圧縮応力を確実に超電導バルクに伝えることができる。
また、本発明は、円柱形状又は円筒形状の超電導バルク(2)と、超電導バルクの外周面にその内周面が接触するように、前記超電導バルクに取り付けられた内側円筒状部材(4)と、内側円筒状部材の外周面にその内周面が接触するように、内側円筒状部材に取り付けられた外側円筒状部材(5)と、を備え、外側円筒状部材は、内側円筒状部材の熱収縮率と等しい熱収縮率又は内側円筒状部材の熱収縮率よりも大きい熱収縮率を有する材質により構成され、内側円筒状部材及び外側円筒状部材は、それぞれ、超電導バルクの熱収縮率よりも大きい熱収縮率を有する材質により形成され、外側円筒状部材は、常温にて内側円筒状部材を介して超電導バルクに圧縮応力が作用するように、内側円筒状部材に取り付けられ、内側円筒状部材の内周面は、超電導バルクの外周面に直接接触した第一領域(A)と、超電導バルクの外周面との間に隙間(G)が形成された第二領域(B)を有し、隙間に充填剤(6)が充填されることにより、第二領域が充填剤を介して超電導バルクの外周面に間接接触しているように構成された、超電導磁場発生素子を提供する。これによれば、内側円筒状部材と超電導バルクとの接触表面に形成される凹凸や空孔、或は形状の歪みによって、内側円筒状部材の内周面に、超電導バルクの外周面に直接接触した第一領域と、超電導バルクの外周面に直接接触しておらず、両面間に隙間が形成された第二領域が形成される。そして、第二領域上に形成される隙間に充填剤が充填される。このように構成することで、内側円筒状部材の内周面と超電導バルクの外周面とを直接的及び間接的に全面接触させることができる。
この場合、充填剤は、流動性を有する材質により形成されているとよい。これによれば、内側円筒状部材の内周面と超電導バルクの外周面との間に介在した充填剤が外側円筒状部材からの圧縮応力を受けることにより流動する。流動した充填剤は、外側円筒状部材からの圧縮応力により、内側円筒状部材の内周面の第二領域上に形成される隙間に確実に充填される。
さらにこの場合、充填剤は、時間の経過とともに流動性が低下する材質により形成されていてもよい。これによれば、流動性を有するときに内側円筒状部材の内周面の第二領域上に形成された隙間に充填された充填剤の流動性が、その後、時間の経過とともに低下する。このため、隙間に入り込んだ充填剤を隙間内に留めることができる。時間の経過とともに流動性が低下する材質として、エポキシ系接着剤等を例示することができる。
また、充填剤は、所定の温度以下で固化状態である材質により構成されていてもよい。これによれば、内側円筒状部材の内周面の第二領域上に形成された隙間に充填された充填剤の温度を上記所定の温度以下の温度に低下させて充填剤を固化させることにより、隙間に入り込んだ充填剤を隙間内に留めることができる。所定の温度として、例えば、超電導磁場発生素子を使用する際の温度(例えば−200℃程度)を例示することができる。所定の温度以下で固化状態である充填剤として、シリコングリース等を例示することができる。
本発明において、外側円筒状部材が、内側円筒状部材に焼き嵌めされているとよい。これによれば、常温よりも高い温度に加熱された外側円筒状部材を、常温の内側円筒状部材の外周面に取り付け、その後に外側円筒状部材を常温まで冷却して外側円筒状部材を熱収縮させることにより、常温にて外側円筒状部材が内側円筒状部材に焼き嵌めされる。このとき、外側円筒状部材から内側円筒状部材に圧縮応力が作用し、さらに、内側円筒状部材の内周側に取り付けられた超電導バルクにも、内側円筒状部材を介して圧縮応力が作用する。この場合において、外側円筒状部材と超電導バルクとの間に内側円筒状部材が介在されているので、焼き嵌め時における外側円筒状部材の熱が、超電導バルクに直接伝達されることが防止される。よって、熱衝撃による超電導バルクの破損を防止することができ、それ故に、より大きな圧縮応力を超電導バルクに与えることができる。また、超電導バルクの外周面と内側円筒状部材の内周面との間に接着層或いは充填剤が介在している場合、外側円筒状部材の熱が接着層或いは充填剤に直接伝わることが防止される。このため、接着層の接着能力の低下(例えば接着層が樹脂により構成されている場合、熱によって樹脂が溶融して接着能力が低下すること)或いは充填剤の劣化を防止することができる。
また、外側円筒状部材が、内側円筒状部材に冷やし嵌めされていてもよい。これによれば、常温よりも低い温度に冷却された内側円筒状部材の外周面に、常温の外側円筒状部材を取り付け、その後に内側円筒状部材を常温まで昇温して内側円筒状部材を熱膨張させることにより、常温にて外側円筒状部材が内側円筒状部材に冷やし嵌めされる。このとき、外側円筒状部材から内側円筒状部材に圧縮応力が作用し、さらに、内側円筒状部材の内周側に取り付けられた超電導バルクにも、内側円筒状部材を介して圧縮応力が作用する。なお、この場合、内側円筒状部材を超電導バルクとともにゆっくりと冷却し、且つ、外側円筒状部材が取り付けられた後に内側円筒状部材を超電導バルクとともにゆっくりと昇温させることにより、熱衝撃による超電導バルクの破損を防止することができる。
また、外側円筒状部材は、径方向に積層された複数の円筒状部材(5A,5B)により構成されていてもよい。この場合、常温にて隣接する円筒状部材の接触面に圧縮方向への応力が作用するように、構成されているとよりよい。これによれば、常温にて、外側円筒状部材を構成するそれぞれの円筒状部材が発生する圧縮応力の総和を超電導バルクに作用させることができる。
この場合、外側円筒状部材を構成する各円筒状部材は、それよりも径内方に隣接配置した円筒状部材の熱収縮率と等しいか又はそれよりも大きい熱収縮率を有する材質により構成されるとよい。或いは、外側円筒状部材を構成する各円筒状部材は、それよりも径内方に隣接配置した円筒状部材のヤング率と等しいか又はそれよりも大きいヤング率を有する材質により構成されていてもよい。これによれば、超電導磁場発生素子を超電導転移温度以下の温度に冷却する際に、外側円筒状部材を構成する各円筒状部材の熱収縮に伴う圧縮応力の総和を、超電導バルクに作用させることができる。
また、外側円筒状部材と内側円筒状部材が同一の材質により構成されていてもよい。例えば、外側円筒状部材と内側円筒状部材が、共に、アルミニウム合金により構成されていてもよい。これによれば、外側円筒状部材と内側円筒状部材を同一の材質により構成することにより、異なる材質により構成する場合と比較して、製造コストを低減することができる。
また、内側円筒状部材の径方向における厚さである内側肉厚(t_in)と外側円筒状部材の径方向における厚さである外側肉厚(t_out)との和である総肉厚(T)に対する内側肉厚(t_in)の比(t_in/T)が、3/4以下であるとよい。換言すれば、総肉厚(T)に対する外側肉厚(t_out)の比(t_out/T)が25%以上であるとよい。これによれば、内側円筒状部材の肉厚が大きすぎることによって外側円筒状部材の圧縮応力が超電導バルクに十分に作用しないことを、防止することができる。
また、総肉厚(T)に対する内側肉厚(t_in)の比(t_in/T)が、1/10以上であるとよい。外側円筒状部材を内側円筒状部材に焼き嵌めする場合においては、外側円筒状部材の熱が内側円筒状部材に伝達される。内側円筒状部材に伝達された熱は、それよりも内周側に位置する超電導バルク、或は接着層又は充填剤に伝達されないように外部に放熱されるのが望ましい。この場合において、総肉厚(T)に対する内側肉厚(t_in)の比(t_in/T)を1/10以上にすることで、すなわち内側肉厚の総肉厚に対する比率を10%以上にすることで、放熱効果を向上させることができる。
また、本発明は、円柱形状又は円筒形状の超電導バルク(2)と、超電導バルクの外周面に取り付けられる内側円筒状部材(4)と、内側円筒状部材の外周面に取り付けられる外側円筒状部材(5)とを備える超電導磁場発生素子(1,1A,1B)の製造方法であって、超電導バルクの外周面に内側円筒状部材を取り付ける第一工程と、内側円筒状部材の温度よりも高い温度の外側円筒状部材の内周面が内側円筒状部材の外周面に対面するように、外側円筒状部材を内側円筒状部材に対して配設し、その後、内側円筒状部材の温度と外側円筒状部材の温度との差を減少させることにより、外側円筒状部材を内側円筒状部材の外周面に取り付ける第二工程と、を含む、超電導磁場発生素子の製造方法を提供する。
本発明によれば、第二工程にて、内側円筒状部材の温度よりも高い温度の外側円筒状部材の内周面が内側円筒状部材の外周面に対面するように、外側円筒状部材が内側円筒状部材に対して配設され、その後、内側円筒状部材の温度と外側円筒状部材の温度との差が減少させられる。このとき外側円筒状部材の熱収縮により、或いは、内側円筒状部材の熱膨張により、外側円筒状部材が内側円筒状部材の外周に取り付けられるとともに、外側円筒状部材が内側円筒状部材を締め付けることによって外側円筒状部材からの圧縮応力が内側円筒状部材を介して超電導バルクに作用する。このため、超電導磁場発生素子の製造の段階で、既に、外側円筒状部材から超電導バルクに圧縮応力が作用している。従って、その後に超電導磁場発生素子を超電導転移温度まで冷却した時には、内側円筒状部材及び外側円筒状部材の熱収縮により生じる圧縮応力に加え、既に製造の段階で生じている圧縮応力が付加される。このため、超電導バルクに磁場を捕捉させているときに超電導バルク内で生じている引張応力に対抗し得る圧縮応力が、既に製造の段階で生じている圧縮応力の分だけ大きくされる。このように、本発明によれば、十分に大きな圧縮応力を超電導バルクに作用させることができるように構成された超電導磁場発生素子の製造方法を提供することができる。
上記第一工程は、超電導バルクの外周面又は内側円筒状部材の内周面もしくはその両面に接着剤を塗布する工程と、接着剤を介して超電導バルクの外周面に内側円筒状部材の内周面が接触するように、内側円筒状部材を超電導バルクに取り付ける工程と、を含むとよい。これによれば、内側円筒状部材と超電導バルクとの間に接着層が介在するため、接着層を介して内側円筒状部材を超電導バルクの外周面の全面に均一に接触させることができる。よって、超電導バルクと内側円筒状部材とを直接接触させたときに両者の接触表面の凹凸や形状の歪に起因して部分的に圧力が高まることによって超電導バルクが破損するようなことを効果的に防止することができる。
また、第一工程は、超電導バルクの外周面又は内側円筒状部材の内周面もしくはその両面に、流動性を有する充填剤を塗布する工程と、充填剤を介して超電導バルクの外周面に内側円筒状部材の内周面が接触するように、内側円筒状部材を超電導バルクに取り付ける工程と、を含むとよい。この場合、充填剤は、流動性を有する状態から流動性を有しない状態(すなわち固化状態)に変化することができるような材質により構成されており、第二工程は、第一工程にて超電導バルクの外周面と内側円筒状部材の内周面との間に介在した充填剤が流動性を有する状態であるときに実行されるとよい。
上記発明によれば、第一工程にて充填剤が超電導バルクの外周面と内側円筒状部材との間に介在される。そして、第二工程にて、充填剤が流動状態であるときに、内側円筒状部材の外周面に外側円筒状部材が取り付けられる。このとき、外側円筒状部材から内側円筒状部材を介して超電導バルクに作用する圧縮応力により充填剤が流動する。さらに、上記圧縮応力によって、充填剤は、内側円筒状部材と超電導バルクとの接触表面に形成される凹凸、空孔、或いは形状の歪みによって内側円筒状部材の内周面と超電導バルクの外周面との間に形成される隙間をほぼ完全に塞ぐように、隙間に充填される。一方、上記隙間が形成されていない部分においては、充填剤を介することなく内側円筒状部材の内周面が超電導バルクの外周面に直接接触される。このようにして、内側円筒状部材の内周面と超電導バルクの外周面とを直接的及び間接的に、全面接触させることができるので、超電導バルクと内側円筒状部材が部分接触して応力集中することに起因した超電導バルクの破損を効果的に防止することができる。
また、第二工程は、内側円筒状部材の温度よりも高い温度に加熱された外側円筒状部材の内周面が、内側円筒状部材の外周面に対面するように、外側円筒状部材を内側円筒状部材に対して配設し、その後、外側円筒状部材を冷却することにより、外側円筒状部材を内側円筒状部材の外周面に取り付ける工程であるとよい。つまり、焼き嵌めによって、外側円筒状部材を内側円筒状部材に取り付けると良い。或いは、第二工程は、外側円筒状部材の内周面が、外側円筒状部材の温度よりも低い温度に冷却された内側円筒状部材の外周面に対面するように、外側円筒状部材を内側円筒状部材に対して配設し、その後、内側円筒状部材を昇温することにより、外側円筒状部材を内側円筒状部材の外周面に取り付ける工程であるとよい。つまり、冷やし嵌めによって、外側円筒状部材を内側円筒状部材に取り付けると良い。
また、外側円筒状部材は、径方向に積層された複数の円筒状部材(5A,5B)により構成されており、第二工程は、複数の円筒状部材を内径側から順に取り付ける工程を含み、且つ、少なくとも、i番目に取り付けられる円筒状部材の取付時における温度が、i−1番目に取り付けられた円筒状部材の温度よりも高くされているとよい。これによれば、外側円筒状部材を構成する複数の円筒状部材の少なくとも一つが、焼き嵌め或いは冷やし嵌めされることにより、常温にて、外側円筒状部材から超電導バルクに圧縮応力を作用させることができる。
(第一実施形態)
以下、本発明の第一実施形態について説明する。図1は、第一実施形態に係る超電導磁場発生素子1の概略構成を示す斜視図である。図1に示すように、第一実施形態に係る超電導磁場発生素子1は、超電導バルク2と、接着層3と、内側円筒状部材4と、外側円筒状部材5とを備える。
超電導バルク2は、主に溶融法により作製した塊状の高温超電導成形体である。この超電導バルク2を構成する高温超電導材料として、例えば、イットリウム系(Y−Ba−Cu−O系)、サマリウム系(Sm−Ba−Cu−O系)、ネオジム系(Nd−Ba−Cu−O系)、ユーロピウム系(Eu−Ba−Cu−O系)等の高温超電導材料が例示される。
本実施形態において、超電導バルク2の形状は、中央に断面円形の孔2aが形成された円筒形状である。この円筒形状の超電導バルク2の外周面に、内側円筒状部材4が配設される。超電導バルク2の外周面と内側円筒状部材4の内周面との間に、樹脂(例えばエポキシ樹脂)からなる接着層3が設けられる。つまり、内側円筒状部材4は、超電導バルク2の外周面に接着層3を介してその内周面が接触するように、超電導バルク2に取り付けられる。
また、外側円筒状部材5は、内側円筒状部材4の外周面にその内周面が接触するように、内側円筒状部材4に取り付けられる。従って、図1に示すように、超電導バルク2、内側円筒状部材4、外側円筒状部材5は、それぞれ、同軸的に配設され、超電導バルク2の外周面を内側円筒状部材4が囲み、内側円筒状部材4の外周面を外側円筒状部材5材が囲んでいる。
本実施形態において、内側円筒状部材4及び外側円筒状部材5は、ともに、金属材料により構成される。また、内側円筒状部材4及び外側円筒状部材5は、ともに、超電導バルク2の熱収縮率よりも大きい熱収縮率を有する金属材料により構成される。さらに、外側円筒状部材5は、内側円筒状部材4の熱収縮率と等しい収縮率、或いは内側円筒状部材4の熱収縮率よりも大きい熱収縮率を有する金属材料により構成される。つまり、超電導バルク2の熱収縮率をα1とし、内側円筒状部材4の熱収縮率をα2とし、外側円筒状部材5の熱収縮率をα3としたとき、α1<α2≦α3という関係を有する。このような熱収縮率の関係を有する内側円筒状部材4を形成する材料としてアルミニウム、アルミニウム合金、又はチタンを、外側円筒状部材5を形成する材料としてアルミニウム又はアルミニウム合金を、例示できる。また、内側円筒状部材4の熱収縮率α2と外側円筒状部材5の熱収縮率α3が同じである場合、内側円筒状部材4と外側円筒状部材5は、同じ材質(例えばアルミニウム又はアルミニウム合金)により構成するとよい。
また、内側円筒状部材4及び外側円筒状部材5は、ともに、超電導バルク2のヤング率よりも大きいヤング率を有する材料により構成されていてもよい。さらに、外側円筒状部材5は、内側円筒状部材4のヤング率と等しいヤング率、或いは内側円筒状部材4のヤング率よりも大きいヤング率を有する材料により構成されていてもよい。つまり、超電導バルク2のヤング率をβ1とし、内側円筒状部材4のヤング率をβ2とし、外側円筒状部材5のヤング率をβ3としたとき、β1<β2≦β3という関係を有する。
また、接着層3は、例えばエポキシ樹脂により構成される。この接着層3は、超電導バルク2の外周面と内側円筒状部材4の内周面との間に設けられる。この接着層3は、超電導バルク2の外周面と内側円筒状部材4の内周面とを、均一に接着する機能を有する。
第一実施形態に係る超電導磁場発生素子1は、常温にて、外側円筒状部材5が内側円筒状部材4を締め付けている。従って、外側円筒状部材5の締め付け力が、内側円筒状部材4を介して超電導バルク2に伝達される。このため、超電導バルク2には、その外周側から中心側に向かう方向への応力、すなわち圧縮応力が作用している。つまり、常温にて、超電導バルク2に圧縮応力が作用するように、外側円筒状部材5が内側円筒状部材4に取り付けられている。
このような構成の超電導磁場発生素子1に磁場を発生させる場合、例えば、着磁装置に設けられているボア内に、超電導磁場発生素子1が投入される。次いで、超電導磁場発生素子1に着磁用の外部磁場が印加される。この外部磁場の大きさは例えば10Tである。その後、冷媒或いは冷却器を用いて、超電導磁場発生素子1が超電導バルク2の超電導転移温度以下の温度、例えば、50K程度に冷却される。冷却完了後、印加した外部磁場が除去される。このとき超電導バルク2に磁場が捕捉される。これにより、超電導磁場発生素子1から磁場が発生される。
上述した着磁方法は、FC(磁場中冷却法)と呼ばれる着磁方法であるが、着磁方法は、ZFC(ゼロ磁場中冷却法)でもよく、また、PFM(パルス着磁法)でもよい。
超電導磁場発生素子1に磁場を発生させる際に、いずれの着磁方法によっても、超電導バルク2が超電導転移温度以下の温度にまで冷却される。この冷却により、超電導バルク2、内側円筒状部材4、及び外側円筒状部材5が、熱収縮する。ここで、内側円筒状部材4及び外側円筒状部材5の熱収縮率は、それぞれ、超電導バルク2の熱収縮率よりも大きい。また、外側円筒状部材5の熱収縮率は、内側円筒状部材4の熱収縮率以上である。従って、超電導バルク2が磁場を捕捉しているとき(以下、超電導磁場発生素子1の使用時と呼ぶ場合もある)には、内側円筒状部材4の熱収縮によって内側円筒状部材4が超電導バルク2を締め付けるとともに、外側円筒状部材5の熱収縮によって外側円筒状部材5が内側円筒状部材4及び超電導バルク2を締め付ける。このようにして、超電導磁場発生素子1の使用時に、超電導バルク2は、冷却時の熱収縮に起因した内側円筒状部材4からの圧縮応力及び外側円筒状部材5からの圧縮応力を受ける。
また、超電導バルク2が磁場を捕捉したとき、上述したように、引張応力が超電導バルク2に対して作用する。この引張応力に対抗するように、上記圧縮応力が超電導バルク2に作用している。ここで、本実施形態においては、冷却時に内側円筒状部材4及び外側円筒状部材5の熱収縮に起因して発生する圧縮応力に加え、常温にて、既に外側円筒状部材5が、超電導バルク2に圧縮応力を作用させるように、内側円筒状部材4に取り付けられている。従って、超電導磁場発生素子1の使用時に得られる圧縮応力は、外側円筒状部材5と同じ外形寸法である一つの円筒状部材によって超電導バルクを補強するように構成された従来の超電導磁場発生素子(従来素子)の使用時に得られる圧縮応力と比べ、常温にて既に発生している圧縮応力の分だけ高められる。よって、同じ寸法の円筒状部材を用いた従来素子に比べ、引張応力に対抗し得る圧縮応力が高い。その結果、超電導バルク2が引っ張り応力で割れることなく超電導バルク2に着磁させることができる磁場を、大きくすることができる。
また、超電導バルク2と内側円筒状部材4との間に、両者を全面接着する接着層3が介在しているため、接着層3を介して内側円筒状部材4が超電導バルク2の外周面の全面に均一に接触する。よって、超電導バルク2と内側円筒状部材4とを直接接触させたときに両者の接触表面の凹凸や形状の歪に起因して部分的に両者が接触し、接触部分に圧縮応力が集中すること(圧力が高まること)によって超電導バルク2が破損するようなことを効果的に防止することができる。
次に、第一実施形態に係る超電導磁場発生素子1の製造方法について説明する。第一実施形態に係る超電導磁場発生素子1の製造方法は、第一工程及び第二工程を含む。図2Aは、第一工程を示す図であり、図2Bは、第一工程の実施により作製される中間組み付け体11の概略構成を示す斜視図である。また、図3は、第二工程を示す図である。
第一工程では、超電導バルク2の外周面又は内側円筒状部材4の内周面に、エポキシ樹脂からなる接着剤が塗布され、その後、円筒状の超電導バルク2の外周面が内側円筒状部材4の外周面と対面するように、超電導バルク2が内側円筒状部材4の内周側に同心配置される。なお、第一工程の実施時における超電導バルク2と内側円筒状部材4の温度を温度T1とすると、温度T1にて、超電導バルク2の外径OD_Bは、内側円筒状部材4の内径ID1よりも小さい。従って、同心配置された超電導バルク2の外周面と内側円筒状部材4との間に接着剤が充填される。その後、充填した接着剤が固化するまで放置する。これにより、接着層3を介して超電導バルク2の外周面に内側円筒状部材4の内周面が接触するように、内側円筒状部材4が超電導バルク2に取り付けられてなる図2Bに示す中間組み付け体11が作製される。なお、温度T1は、例えば常温(5℃〜35℃)であるのがよい。
第二工程では、超電導バルク2の外周面に接着層3を介して取り付けられている内側円筒状部材4の外周面、すなわち中間組み付け体11の外周面に、外側円筒状部材5が取り付けられる。この場合、まず温度T1の外側円筒状部材5を用意する。外側円筒状部材5の内径ID2は、温度T1にて、超電導バルク2の外周に取り付けられている温度T1の内側円筒状部材4の外径OD1よりも僅かに小さい。すなわち、温度T1にて、ID2<OD1である。
次に、用意した温度T1の外側円筒状部材5を、温度T1よりも高い温度T2に加熱する。例えば温度T1が常温である場合、第二工程にて外側円筒状部材5を約300℃に加熱する。この加熱により、外側円筒状部材5が熱膨張する。このため、外側円筒状部材5の内径ID2が広がり、外側円筒状部材5の内径ID2が、中間組み付け体11に備えられる内側円筒状部材4の外径OD1よりも大きくなる。
次いで、図3に示すように、温度T2に加熱された外側円筒状部材5の内周面が、内側円筒状部材4の外周面(中間組み付け体11の外周面)に対面するように、外側円筒状部材5を内側円筒状部材4に対して同心状に配設する。その後、外側円筒状部材5を温度T1まで冷却する。冷却方法は、特に限定されないが、例えば、自然放冷、或いは、冷風を外側円筒状部材5に供給することにより、外側円筒状部材5が冷却される。この冷却による熱収縮により、外側円筒状部材5の内径ID2が小さくなっていく。外側円筒状部材5の温度が温度T1にまで冷却された場合、自然状態における外側円筒状部材5の内径ID2が内側円筒状部材4の外径OD1よりも小さくなる。そのため、外側円筒状部材5が内側円筒状部材4の外周面(中間組み付け体11の外周面)に取り付けられるとともに、内側円筒状部材4を締め付ける。斯かる締め付け力が超電導バルク2に作用する。
上記した第一工程及び第二工程を経由して、図1に示すような、第一実施形態に係る超電導磁場発生素子1が製造される。この製造方法によれば、第二工程にて、内側円筒状部材4の温度(T1)よりも高い温度(T2)の外側円筒状部材5の内周面が内側円筒状部材4の外周面に対面するように、外側円筒状部材5が内側円筒状部材4に対して配設される。そして、その後、外側円筒状部材5が冷却されることによって、内側円筒状部材4の温度と外側円筒状部材5の温度との差が減少させられる。このとき外側円筒状部材5の熱収縮により、外側円筒状部材5が内側円筒状部材4の外周に取り付けられるとともに、外側円筒状部材5が内側円筒状部材4を締め付ける。つまり、外側円筒状部材5が内側円筒状部材4に焼き嵌めされる。このため、外側円筒状部材5からの圧縮応力が内側円筒状部材4を介して超電導バルク2に作用する。このように、超電導磁場発生素子1の製造の段階で、既に、外側円筒状部材5から超電導バルク2に圧縮応力が作用している。従って、その後に超電導磁場発生素子1を超電導転移温度以下の温度まで冷却した時には、内側円筒状部材4及び外側円筒状部材5の熱収縮により生じる圧縮応力に加え、既に製造の段階で生じている圧縮応力が付加される。このため、超電導バルク2に磁場を捕捉させているときに超電導バルク2内で生じている引張応力に対抗し得る圧縮応力が、既に製造の段階で生じている圧縮応力の分だけ大きくされる。また、内側円筒状部材4と超電導バルク2との間に接着層3が介在されているため、接着層3を介して内側円筒状部材4を超電導バルク2の外周面の全面に均一に接触させることができる。よって、超電導バルク2と内側円筒状部材4とを直接接触させたときに両者の接触表面の凹凸や形状の歪に起因して部分的に圧力が高まることによって超電導バルク2が破損するようなことを効果的に防止することができる。このように、本実施形態によれば、使用時に、超電導バルク2を破壊させることなく、十分に大きな圧縮応力を均一に超電導バルク2に作用させることができるように構成された超電導磁場発生素子の製造方法を提供することができる。
また、外側円筒状部材5と超電導バルク2との間に内側円筒状部材4が介在されているので、第二工程で外側円筒状部材5を焼き嵌めする際における外側円筒状部材5の熱が、超電導バルク2及び接着層3に直接伝達されることが防止される。よって、熱衝撃による超電導バルク2の破損を防止することができるとともに、熱により接着層3の接着能力が低下すること(例えば接着層3が樹脂により構成されている場合、熱によって樹脂が溶融して接着能力が低下すること)を防止することができる。
(第二実施形態)
第二実施形態に係る超電導磁場発生素子の構成は、図1に示す第一実施形態に係る超電導磁場発生素子1の構成と同一である。従って、図1に示す超電導磁場発生素子1は、第二実施形態に係る超電導磁場発生素子でもある。
第二実施形態に係る超電導磁場発生素子の製造方法は、上記第一実施形態に係る超電導磁場発生素子の製造方法と同様に、第一工程と第二工程とを含む。第一工程は、第一実施形態に係る超電導磁場発生素子の製造方法の第一工程と同一である。すなわち第一工程では、超電導バルク2の外周面又は内側円筒状部材4の内周面に、エポキシ樹脂からなる接着剤が塗布され、その後、円筒状の超電導バルク2の外周面が内側円筒状部材4の外周面と対面するように、超電導バルク2が内側円筒状部材4の内周側に同心配置される。なお、第一工程の実施時における超電導バルク2と内側円筒状部材4の温度を温度T1とすると、温度T1にて、超電導バルク2の外径OD_Bは、内側円筒状部材4の内径ID1よりも小さい。従って、同心配置された超電導バルク2の外周面と内側円筒状部材4との間に接着剤が充填される。その後、充填した接着剤が固化するまで放置する。これにより、接着層3を介して超電導バルク2の外周面に内側円筒状部材4の内周面が接触するように、内側円筒状部材4が超電導バルク2に取り付けられてなる図2Bに示す中間組み付け体11が作製される。
第二工程では、超電導バルク2の外周面に接着層3を介して取り付けられている内側円筒状部材4の外周面、すなわち中間組み付け体11の外周面に、外側円筒状部材5が取り付けられる。この場合、まず温度T1の外側円筒状部材5を用意する。外側円筒状部材5の内径ID2は、温度T1にて、超電導バルク2の外周に取り付けられている温度T1の内側円筒状部材4の外径OD1よりも僅かに小さい。すなわち、温度T1にて、ID2<OD1である。
次に、超電導バルク2及び、接着層3を介して超電導バルク2に取り付けられている内側円筒状部材4を、温度T1よりも低い温度T0に冷却する。例えば温度T1が常温である場合、この第二工程にて、超電導バルク2及び内側円筒状部材4が、液体窒素で−196℃に冷却される。この冷却過程では、熱衝撃による応力が発生しないように、超電導バルク2及び内側円筒状部材4はそれらを配した容器中に時間をかけて液体窒素を充填する。これにより、超電導バルク2及び内側円筒状部材4が、ゆっくり冷却される。この冷却により、内側円筒状部材4が熱収縮する。このため、内側円筒状部材4の外径OD1が縮み、外側円筒状部材5の内径ID2が、内側円筒状部材4の外径OD1よりも大きくなる。
次いで、外側円筒状部材5の内周面が、冷却された内側円筒状部材4の外周面(中間組み付け体11の外周面)に対面するように、外側円筒状部材5を内側円筒状部材4に対して同心状に配設する。その後、超電導バルク2及び内側円筒状部材4を、温度T1まで昇温する。昇温方法は、特に限定されないが、熱衝撃による応力が発生しないように、ゆっくりと昇温させるのがよい。例えば、内側円筒状部材4の冷却を停止して、常温で所定時間放置することにより、超電導バルク2及び内側円筒状部材4がゆっくりと昇温される。この昇温による熱膨張により、内側円筒状部材4の内径ID1が大きくなっていく。内側円筒状部材4の温度が温度T1にまで昇温された場合、自然状態における内側円筒状部材4の外径OD1が外側円筒状部材5の内径ID2よりも大きくなる。そのため、外側円筒状部材5が内側円筒状部材4に取り付けられるとともに、内側円筒状部材4を締め付ける。斯かる締め付け力が超電導バルク2に作用する。
上記した第一工程及び第二工程を経由して、第二実施形態に係る超電導磁場発生素子1が製造される。この製造方法によれば、第二工程にて、冷却されている内側円筒状部材4の温度(T0)よりも高い温度(T1)の外側円筒状部材5の内周面が内側円筒状部材4の外周面に対面するように、外側円筒状部材5が内側円筒状部材4に対して配設される。そして、その後、内側円筒状部材4が昇温(加熱)されることによって、内側円筒状部材4の温度と外側円筒状部材5の温度との差が減少させられる。このとき内側円筒状部材4の熱膨張により、外側円筒状部材5が内側円筒状部材4の外周に取り付けられるとともに、外側円筒状部材5が内側円筒状部材4を締め付ける。つまり、外側円筒状部材5が内側円筒状部材4に冷やし嵌めされる。このため、外側円筒状部材5からの圧縮応力が内側円筒状部材4を介して超電導バルク2に作用する。このように、超電導磁場発生素子1の製造の段階で、既に、外側円筒状部材5から超電導バルク2に圧縮応力が作用している。従って、その後に超電導磁場発生素子1を超電導転移温度以下の温度まで冷却した時には、内側円筒状部材4及び外側円筒状部材5の熱収縮により生じる圧縮応力に加え、既に製造の段階で生じている圧縮応力が付加される。このため、超電導バルク2に磁場を捕捉させているときに超電導バルク2内で生じている引張応力に対抗し得る圧縮応力が、既に製造の段階で生じている圧縮応力の分だけ大きくされる。また、内側円筒状部材4と超電導バルク2との間に接着層3が介在されているため、接着層3を介して内側円筒状部材4を超電導バルク2の外周面の全面に均一に接触させることができる。よって、超電導バルク2と内側円筒状部材4とを直接接触させたときに両者の接触表面の凹凸や形状の歪に起因して部分的に圧力が高まることによって超電導バルク2が破損するようなことを効果的に防止することができる。このように、本実施形態によれば、超電導バルク2を破壊させることなく、十分に大きな圧縮応力を均一に超電導バルク2に作用させることができるように構成された超電導磁場発生素子の製造方法を提供することができる。
(第三実施形態)
次に、第三実施形態に係る超電導磁場発生素子について説明する。図4は、第三実施形態に係る超電導磁場発生素子の概略構成を示す斜視図である。図4に示すように、第三実施形態に係る超電導磁場発生素子1Aは、第一実施形態に係る超電導磁場発生素子1と同様に、超電導バルク2と、接着層3と、内側円筒状部材4と、外側円筒状部材5とを備える。
超電導バルク2、接着層3、及び、内側円筒状部材4の構成は、上記第一実施形態に係る超電導磁場発生素子に備えられる超電導バルク2、接着層3、及び内側円筒状部材4の構成と同一であるので、その具体的な説明は省略する。
また、本実施形態において、外側円筒状部材5は、第一外側円筒状部材5Aと、第二外側円筒状部材5Bとを備える。第一外側円筒状部材5Aは第二外側円筒状部材5Bの内側に配設され、組み付け状態では、第一外側円筒状部材5Aの外周面が第二外側円筒状部材5Bの内周面に面接触する。すなわち、本実施形態においては、外側円筒状部材5は、径方向に積層された複数(本実施形態では2個)の円筒状部材(第一外側円筒状部材5A及び第二外側円筒状部材5B)により構成される。
本実施形態において、第二外側円筒状部材5Bは、第一外側円筒状部材5Aの熱収縮率と同じか又はそれよりも大きい熱収縮率を有する金属材料により構成される。また、第一外側円筒状部材5Aの熱収縮率は、内側円筒状部材4の熱収縮率と同じか又はそれよりも大きく、内側円筒状部材4の熱収縮率は、超電導バルク2の熱収縮率よりも大きい。つまり、超電導バルク2の熱収縮率をα1とし、内側円筒状部材4の熱収縮率をα2とし、第一外側円筒状部材5Aの熱収縮率をα3_1とし、第二外側円筒状部材5Bの熱収縮率をα3_2としたとき、α1<α2≦α3_1≦α3_2という関係を有する。つまり、外側円筒状部材5を構成する各円筒状部材(5A,5B)は、それよりも径内方に隣接配置する円筒状部材の熱収縮率と等しいか又はそれよりも大きい熱収縮率を有する材質により構成される。また、内側円筒状部材4の熱収縮率α2、第一外側円筒状部材5Aの熱収縮率α3_1、第二外側円筒状部材5Bの熱収縮率α3_2が同じである場合、内側円筒状部材4、第一外側円筒状部材5A、及び第二外側円筒状部材5Bは、同じ材質(例えばアルミニウム又はアルミニウム合金)により構成するとよい。
また、第二外側円筒状部材5Bは、第一外側円筒状部材5Aのヤング率と等しいか又はそれよりも大きいヤング率を有する材料により構成されていてもよい。この場合、超電導バルク2のヤング率をβ1とし、内側円筒状部材4のヤング率をβ2とし、第一外側円筒状部材5Aのヤング率をβ3_1とし、第二外側円筒状部材5Bのヤング率をβ3_2としたとき、β1<β2≦β3_1≦β3_2という関係を有していてもよい。すなわち、外側円筒状部材5を構成する各円筒状部材(5A,5B)は、それよりも径内方に隣接配置する円筒状部材のヤング率と等しいか又はそれよりも大きいヤング率を有する材質により構成してもよい。
その他の構成は、上記第一実施形態で説明した超電導磁場発生素子1に備えられる各構成と同一であるので、その具体的説明は省略する。
第三実施形態に係る超電導磁場発生素子1Aは、常温にて、外側円筒状部材5を構成する第一外側円筒状部材5A又は第二外側円筒状部材5Bのいずれか一方或いは両方が、内側円筒状部材4を締め付けている。従って、外側円筒状部材5の締め付け力が、内側円筒状部材4を介して超電導バルク2に伝達される。このため、超電導バルク2には、その外周側から中心側に向かう方向への応力、すなわち圧縮応力が作用している。つまり、常温にて、超電導バルク2に圧縮応力が作用するように、外側円筒状部材5が内側円筒状部材4に取り付けられている。
従って、第三実施形態に係る超電導磁場発生素子1Aの使用時に得られる圧縮応力が、第二外側円筒状部材5Bと同じ外形寸法である一つの円筒状部材によって超電導バルクを補強するように構成された従来の超電導磁場発生素子(従来素子)の使用時に得られる圧縮応力と比べ、常温にて既に発生している圧縮応力の分だけ高められる。よって、同じ寸法の円筒状部材を用いた従来素子に比べ、引張応力に対抗し得る圧縮応力が高い。その結果、超電導バルク2が引っ張り応力で割れることなく超電導バルク2に着磁させることができる磁場を、大きくすることができる。
また、超電導バルク2と内側円筒状部材4との間に、両者を全面接着する接着層3が介在しているため、接着層3を介して内側円筒状部材4が超電導バルク2の外周面の全面に均一に接触する。よって、超電導バルク2と内側円筒状部材4とを直接接触させたときに両者の接触表面の凹凸や形状の歪に起因して部分的に圧力高まることによって超電導バルク2が破損するようなことを効果的に防止することができる。
次に、第三実施形態に係る超電導磁場発生素子1の製造方法について説明する。第三実施形態に係る超電導磁場発生素子1Aの製造方法も、上記第一実施形態に係る超電導磁場発生素子1の製造方法と同様に、第一工程と第二工程とを含む。図5Aは、第一工程を示す図であり、図5Bは、第一工程の実施により作製される第一中間組み付け体12の概略構成を示す斜視図である。
第一工程では、超電導バルク2の外周面又は内側円筒状部材4の内周面に、エポキシ樹脂からなる接着剤が塗布され、その後、円筒状の超電導バルク2の外周面が内側円筒状部材4の外周面と対面するように、超電導バルク2が内側円筒状部材4の内周側に同心配置される。なお、第一工程の実施時における温度を温度T1とすると、温度T1にて、超電導バルク2の外径OD_Bは、内側円筒状部材4の内径ID1よりも小さい。従って、同心配置された超電導バルク2の外周面と内側円筒状部材4との間に接着剤が充填される。その後、充填した接着剤が固化するまで放置する。これにより、接着層3を介して超電導バルク2の外周面に内側円筒状部材4の内周面が接触するように、内側円筒状部材4が超電導バルク2に取り付けられてなる図2Bに示す第一中間組み付け体11が作製される。なお、温度T1は、例えば常温(5℃〜35℃)であるのがよい。
第二工程では、超電導バルク2の外周面に接着層3を介して取り付けられている内側円筒状部材4の外周面、すなわち第一中間組み付け体12の外周面に、外側円筒状部材5が取り付けられる。この第二工程は、第三実施形態では、内側焼き嵌め工程と外側焼き嵌め工程とを含む。内側焼き嵌め工程では、第一外側円筒状部材5Aが内側円筒状部材4の外周面に焼き嵌めされる。外側焼き嵌め工程では、第二外側円筒状部材5Bが第一外側円筒状部材5Aの外周面に焼き嵌めされる。図6Aは内側焼き嵌め工程を示す図であり、図6Bは、内側焼き嵌め工程の実施により作製される第二中間組み付け体13の概略構成を示す斜視図である。
内側焼き嵌め工程では、まず温度T1の第一外側円筒状部材5Aを用意する。第一外側円筒状部材5Aの内径ID2は、温度T1にて、第一中間組み付け体12に備えられる温度T1の内側円筒状部材4の外径OD1よりも僅かに小さい。すなわち、温度T1にて、ID2<OD1である。
次に、用意した温度T1の第一外側円筒状部材5Aを、温度T1よりも高い温度T2に加熱する。例えば温度T1が常温である場合、第一外側円筒状部材5Aを約300℃に加熱する。この加熱により、第一外側円筒状部材5Aが熱膨張する。このため、第一外側円筒状部材5Aの内径ID2が広がり、第一外側円筒状部材5Aの内径ID2が、第一中間組み付け体12に備えられる内側円筒状部材4の外径OD1よりも大きくなる。
次いで、温度T2に加熱された第一外側円筒状部材5Aの内周面が、内側円筒状部材4(第一中間組み付け体12)の外周面に対面するように、第一外側円筒状部材5Aを内側円筒状部材4に対して同心状に配設する。その後、第一外側円筒状部材5Aを温度T1まで冷却する。冷却方法は、特に限定されないが、例えば、自然放冷、或いは、冷風を第一外側円筒状部材5Aに供給することにより、第一外側円筒状部材5Aが冷却される。この冷却による熱収縮により、第一外側円筒状部材5Aの内径ID2が小さくなっていく。第一外側円筒状部材5Aの温度が温度T1にまで冷却された場合、自然状態における第一外側円筒状部材5Aの内径ID2が内側円筒状部材4の外径OD1よりも小さくなる。そのため、第一外側円筒状部材5Aが内側円筒状部材4の外周面(第一中間組み付け体12の外周面)に取り付けられて、図6Bに示すような第二中間組み付け体13が作製される。このようにして第二中間組み付け体13が作製された場合、第二中間組み付け体13の第一外側円筒状部材5Aが内側円筒状部材4を締め付ける。斯かる締め付け力が超電導バルク2に作用する。
図7は、第二工程の外側焼き嵌め工程を示す図である。外側焼き嵌め工程は、以下の説明では、内側焼き嵌め工程の実施後に実施される。外側焼き嵌め工程では、温度T1の第二外側円筒状部材5Bを用意する。第二外側円筒状部材5Bの内径ID3は、温度T1にて、第二中間組み付け体13の内側円筒状部材4の外周に取り付けられている温度T1の第一外側円筒状部材5Aの外径OD2よりも僅かに小さい。すなわち、温度T1にて、ID3<OD2である。
次に、用意した温度T1の第二外側円筒状部材5Bを、温度T1よりも高い温度T3に加熱する。例えば温度T1が常温である場合、第二外側円筒状部材5Bを約400℃に加熱する。この加熱により、第二外側円筒状部材5Bが熱膨張する。このため、第二外側円筒状部材5Bの内径ID3が広がり、第二外側円筒状部材5Bの内径ID3が、第二中間組み付け体13に備えられる温度T1の第一外側円筒状部材5Aの外径OD2よりも大きくなる。
次いで、温度T3に加熱された第二外側円筒状部材5Bの内周面が、第一外側円筒状部材5Aの外周面(第二中間組み付け体13の外周面)に対面するように、第二外側円筒状部材5Bを第一外側円筒状部材5Aに対して同心状に配設する。その後、第二外側円筒状部材5Bを温度T1まで冷却する。冷却方法は、特に限定されないが、例えば、自然放冷、或いは、冷風を第二外側円筒状部材5Bに供給することにより、第二外側円筒状部材5Bが冷却される。この冷却による熱収縮により、第二外側円筒状部材5Bの内径ID3が小さくなっていく。第二外側円筒状部材5Bの温度が温度T1にまで低下した場合、自然状態における第二外側円筒状部材5Bの内径ID3が第二中間組み付け体13の第一外側円筒状部材5Aの外径OD2よりも小さくなる。そのため、第二外側円筒状部材5Bが第一外側円筒状部材5Aの外周面に取り付けられるとともに、第一外側円筒状部材5Aを締め付ける。斯かる締め付け力が内側円筒状部材4を介して超電導バルク2に作用する。
上記した第一工程及び第二工程を経由して、本実施形態に係る超電導磁場発生素子1Aが製造される。この製造方法によれば、第二工程の内側焼き嵌め工程にて、内側円筒状部材4の温度(T1)よりも高い温度(T2)の第一外側円筒状部材5Aの内周面が内側円筒状部材4の外周面に対面するように、第一外側円筒状部材5Aが内側円筒状部材4に対して配設される。そして、その後、第一外側円筒状部材5Aが冷却されることによって、内側円筒状部材4の温度と第一外側円筒状部材5Aの温度との差が減少させられる。このとき第一外側円筒状部材5Aの熱収縮により、第一外側円筒状部材5Aが内側円筒状部材4の外周に取り付けられるとともに、第一外側円筒状部材5Aが内側円筒状部材4を締め付ける。つまり、第一外側円筒状部材5Aが内側円筒状部材4に焼き嵌めされる。このため、第一外側円筒状部材5Aからの圧縮応力が内側円筒状部材4を介して超電導バルク2に作用する。さらに、第二工程の外側焼き嵌め工程にて、第一外側円筒状部材5Aの温度(T1)よりも高い温度(T3)の第二外側円筒状部材5Bの内周面が第一外側円筒状部材5Aの外周面に対面するように、第二外側円筒状部材5Bが第一外側円筒状部材5Aに対して配設される。そして、その後、第二外側円筒状部材5Bが冷却されることによって、第一外側円筒状部材5A及び内側円筒状部材4の温度と第二外側円筒状部材5Bの温度との差が減少させられる。このとき第二外側円筒状部材5Bの熱収縮により、第二外側円筒状部材5Bが第一外側円筒状部材5Aの外周に取り付けられるとともに、第二外側円筒状部材5Bが第一外側円筒状部材5Aを締め付ける。つまり、第二外側円筒状部材5Bが第一外側円筒状部材5Aに焼き嵌めされる。このため、第二外側円筒状部材5Bからの圧縮応力が第一外側円筒状部材5A及び内側円筒状部材4を介して超電導バルク2に作用する。
このように、超電導磁場発生素子1Aの製造の段階で、既に、外側円筒状部材5(第一外側円筒状部材5A及び第二外側円筒状部材5B)から超電導バルク2に圧縮応力が作用している。従って、その後に超電導磁場発生素子1を超電導転移温度まで冷却した時には、内側円筒状部材4及び外側円筒状部材5の熱収縮により生じる圧縮応力に加え、既に製造の段階で生じている圧縮応力が付加される。このため、超電導バルク2に磁場を捕捉させているときに超電導バルク2内で生じている引張応力に対抗し得る圧縮応力が、既に製造の段階で生じている圧縮応力の分だけ大きくされる。また、内側円筒状部材4と超電導バルク2との間に接着層3が介在されているため、接着層3を介して内側円筒状部材4を超電導バルク2の外周面の全面に均一に接触させることができる。よって、超電導バルク2と内側円筒状部材4とを直接接触させたときに両者の接触表面の凹凸や形状の歪に起因して部分的に圧力が高まることによって超電導バルク2が破損するようなことを効果的に防止することができる。このように、本実施形態によれば、超電導バルク2を破壊させることなく、十分に大きな圧縮応力を均一に超電導バルク2に作用させることができるように構成された超電導磁場発生素子の製造方法を提供することができる。
また、第一外側円筒状部材5Aと超電導バルク2との間に内側円筒状部材4が介在されているので、第二工程で外側円筒状部材5を焼き嵌めする際における外側円筒状部材5の熱が、超電導バルク2及び接着層3に直接伝達されることが防止される。よって、熱衝撃による超電導バルク2の破損を防止することができるとともに、熱により接着層3の接着能力が低下すること(例えば接着層3が樹脂により構成されている場合、熱によって樹脂が溶融して接着能力が低下すること)を防止することができる。
また、第三実施形態に係る製造方法の第二工程は、複数の円筒状部材(第一外側円筒状部材5A及び第二外側円筒状部材5B)を内径側から順に取り付ける工程(内側焼き嵌め工程及び外側焼き嵌め工程)を含み、且つ、2番目(i番目)に取り付けられる第二外側円筒状部材5Bの取付時における温度(T3)が、1番目(i−1番目)に取り付けられた第一外側円筒状部材5Aの温度(T2)よりも高くされている。このため、外側円筒状部材5を構成する複数の円筒状部材の少なくとも一つが、確実に焼き嵌めされる。これにより、常温にて、外側円筒状部材5から超電導バルク2に圧縮応力を確実に作用させることができる。
なお、上記の例では、外側焼き嵌め工程を内側焼き嵌め工程の実施後に実施する例を示したが、温度T2に加熱された第一外側円筒状部材5Aの外径よりも、温度T3に加熱された第二外側円筒状部材5Bの内径が大きければ、内側焼き嵌め工程と外側焼き嵌め工程を同時に実施することもできる。これによれば、工程時間を短縮することができる。
(実施例1:2重リング(内側円筒状部材及び外側円筒状部材)による補強効果の確認)
図8に示すような超電導磁場発生素子21を使用温度(50K)まで冷却した場合に超電導バルクの内周面に生じる圧縮応力を、計算により求めた。ここで、超電導磁場発生素子21は、円筒状の超電導バルク22、内側円筒状部材24、外側円筒状部材25を備える。超電導バルク22、内側円筒状部材24、外側円筒状部材25は、同心状に配置される。超電導バルク22の外径(OD_B)は64mm、内径(ID_B)は28mmである。内側円筒状部材24はアルミニウム製又はアルミニウム合金製である。内側円筒状部材24は、超電導バルク22の外側に配置される。内側円筒状部材24の内周面は、厚さ0.1mmの樹脂の接着層23を介して超電導バルク22の外周面に接着される。外側円筒状部材25の材質は内側円筒状部材24の材質と同じ(アルミニウム製又はアルミニウム合金製)であり、その外径(OD2)は74mmである。外側円筒状部材25は、その内周面が内側円筒状部材24の外周面に対面するように内側円筒状部材24の外側に配置されており、焼き嵌めにより、内側円筒状部材24に取り付けられる。
上記構成の超電導磁場発生素子21の内側円筒状部材24の自然状態における常温での外径(OD1)と外側円筒状部材25の自然状態における常温での内径(ID2)を、様々な値に変更した4つのケース(ケース1−ケース4)について、使用温度(50K)まで冷却した場合に超電導バルク22の内周面に生じる周方向の圧縮応力を計算した。また、比較のため、内側円筒状部材24の外径(OD1)を74mmとし、外側円筒状部材25を用いない場合についての圧縮応力も計算した。なお、圧縮応力の計算にあたり、超電導バルク22の軸方向長さを無限長とした。各ケース及び比較例に係る圧縮応力の計算結果を、内側円筒状部材24の常温での外径(OD1)、外側円筒状部材25の常温での内径(ID2)、外側円筒状部材25の常温での外径(OD2=74mm)とともに、表1に示す。
使用温度(50K)にてリング状(円筒状)の超電導バルクに着磁させた場合、超電導バルクには、環状の超電導電流が流れる。この超電導電流に基づいて、超電導バルクを外側に広げる方向に働く力が超電導バルク内で生じる。その力により超電導バルク内で働く応力のうち、超電導バルクの内周面で周方向に超電導バルクを引き裂く引っ張り応力が最も高いことが知られている。その引っ張り応力に対し、表1で計算した圧縮応力が逆向きに働くため、圧縮応力を大きくすれば、より高い磁場を着磁する場合に引っ張り応力に起因する超電導バルクの破壊を防ぐ効果が高められると考えられる。比較例として示した、従来行われている一重の円筒状部材を補強リングとして超電導バルクに接着する方法でも、50K(使用温度)まで冷却すると、補強リングの熱収縮量が超電導バルクの熱収縮量よりも大きいために、圧縮応力は発生する。これに対し、ケース1−4のように、補強リングの構造を、内側円筒状部材24及び外側円筒状部材25を備える二重リング構造とし、且つ、外側円筒状部材25を内側円筒状部材24に焼き嵌めすることにより、補強リングのトータルの厚さが同じ(すなわち補強リングの外径が同じ)であっても比較例の1.4倍から2倍の圧縮応力を得ることができることがわかる。
また、表1において、「300℃での隙間」の欄に示す数値は、ケース1−4において、外側円筒状部材25を焼き嵌めする際に外側円筒状部材25を300℃に加熱した場合において、常温の内側円筒状部材24の外径と300℃の外側円筒状部材25の内径との差(直径差)を表す。この欄に示す数値からもわかるように、嵌め代(常温での内側円筒状部材24の外径(OD1)と外側円筒状部材25の内径(ID2)の差)を0.1mm乃至0.2mmとしたとき、外側円筒状部材25を300℃に加熱すれば、焼き嵌めに必要な隙間(0.2mm以上の隙間)を十分に確保できることがわかる。
また、本例において、内側円筒状部材24の外径OD1は66mm(ケース1、ケース2)又は68mm(ケース3、ケース4)であり、内側円筒状部材24の内径ID1は、超電導バルク22の外径にほぼ等しい64mmである。従って、内側円筒状部材24の径方向における厚さ(内側肉厚t_in)は、1mm(ケース1、ケース2)又は2mm(ケース3、ケース4)である。また、本例において外側円筒状部材25の外径OD2は74mmであり、外側円筒状部材25の内径ID2は、約66mm(ケース1、ケース2)又は約68mm(ケース3、ケース4)である。従って、外側円筒状部材25の径方向における厚さ(外側肉厚t_out)は、4mm(ケース1、ケース2)又は3mm(ケース3、ケース4)である。
全てのケースにおいて、内側円筒状部材24の肉厚(内側肉厚t_in)と外側円筒状部材25の肉厚(外側肉厚t_out)との和である総肉厚Tは、5mmである。そして、総肉厚T(5mm)に対する内側円筒状部材24の肉厚(内側肉厚t_in)の比(t_in/T)は、ケース1,2においては20%、ケース3,4においては40%である。つまり、いずれのケースにおいても、比(t_in/T)は、75%以下である。比(t_in/T)が75%以下であれば、内側円筒状部材24の肉厚が大きすぎることによって外側円筒状部材25の圧縮応力が超電導バルク22に十分に作用しないことを、防止することができる。
加えて、いずれのケースにおいても、比(t_in/T)は、10%以上である。比(t_in/T)が10%以上であれば、外側円筒状部材25の焼き嵌め時における放熱効果を向上させることができる。
図9に、ケース1に示す外側円筒状部材25を焼き嵌めする方法の一例を示す。まず、外側円筒状部材25よりも径の大きい銅プレート31を用意した。この銅プレート31上に、厚さ0.1mmの樹脂の接着層23を介して外径(OD1)66.0mmの内側円筒状部材24に超電導バルク22を埋め込んだ第一中間組み付け体12を置いた。銅プレート31上に載置された第一中間組み付け体12の上に、底面の外径が内側円筒状部材24の外径と等しい円錐台形状のテーパー銅プレート32を同心状に重ねた。
また、常温で外径74.0mm、内径65.9mmであるケース1に示すサイズの外側円筒状部材25を、電気炉を用いて10分以上加熱して、外側円筒状部材25の温度を300℃にまで昇温した。その後、電気炉の扉を開け、耐熱グローブを使って電気炉内から外側円筒状部材25を素早く取り出した。取り出した外側円筒状部材25を直ちに、第一中間組み付け体12に重ねられたテーパー銅プレート32の上に配置し、外側円筒状部材25をテーパー銅プレート32の外周に沿って落下させた。テーパー銅プレート32の外周に沿って落下した外側円筒状部材25は、銅プレート31の上面に載置される。このとき外側円筒状部材25は、テーパー銅プレート32の下方に位置する第一中間組み付け体12の外側に同心状に配置する。
その後、ただちに、外側円筒状部材25の上に銅リング33を載置した。この銅リング33の内径は外側円筒状部材25の内径より僅かに大きく且つ外側円筒状部材25の外径よりも小さい。また、銅リング33の外径は外側円筒状部材25の外径よりも一回り大きい。従って、外側円筒状部材25の上端面が銅リング33の下端面に面接触し、外側円筒状部材25の下端面が銅プレート31の上面に面接触する。面接触部分にて外側円筒状部材25の熱が銅リング33及び銅プレート31に奪われることにより、外側円筒状部材25が冷却される。これにより外側円筒状部材25が内側円筒状部材24に焼き嵌めされる。このような手順で、5秒程度で、素手で触れる温度まで外側円筒状部材25が冷却されるとともに、外側円筒状部材25が焼き嵌めされた。このようにして短時間で外側円筒状部材25を冷却することにより、超電導バルク22及び接着層23に影響を及ぼさないように外側円筒状部材25を焼き嵌めすることができる。
(実施例2:三重リング(内側円筒状部材、第一外側円筒状部材、第二外側円筒状部材)による補強効果の確認)
図10に示すような超電導磁場発生素子41を使用温度(50K)まで冷却した場合に超電導バルクの内周面に生じる圧縮応力を、計算により求めた。ここで、超電導磁場発生素子41は、円筒状の超電導バルク42、内側円筒状部材44、外側円筒状部材45を備える。また、外側円筒状部材45は、第一外側円筒状部材45A及び第二外側円筒状部材45Bを備える。超電導バルク42、内側円筒状部材44、第一外側円筒状部材45A、第二外側円筒状部材45Bは、同心状に配置される。
超電導バルク42の外径(OD_B)は64mm、内径(ID_B)は28mmである。内側円筒状部材44はアルミニウム製又はアルミニウム合金製である。内側円筒状部材44の外径(OD1)は66mmである。内側円筒状部材44は、超電導バルク42の外側に配置される。内側円筒状部材44の内周面は、厚さ0.1mmの樹脂の接着層43を介して超電導バルク42の外周面に接着される。第一外側円筒状部材45A及び第二外側円筒状部材45Bの材質は、共に、内側円筒状部材44の材質と同じ(アルミニウム製又はアルミニウム合金製)である。第一外側円筒状部材45Aの外径(OD2)は68mmである。第一外側円筒状部材45Aは、その内周面が内側円筒状部材44の外周面に対面するように内側円筒状部材44の外側に配置されており、焼嵌めにより、内側円筒状部材44に取り付けられる。第二外側円筒状部材45Bの外径(OD3)は74mmである。第二外側円筒状部材45Bは、その内周面が第一外側円筒状部材45Aの外周面に対面するように第一外側円筒状部材45Aの外側に配置されており、焼嵌めにより、第一外側円筒状部材45Aに取り付けられる。
上記構成の超電導磁場発生素子41の自然状態における常温での第二外側円筒状部材45Bの内径(ID3)を変更した2つのケース(ケース5、ケース6)について、使用温度(50K)まで冷却した場合に超電導バルク42の内周面に生じる圧縮応力を計算した。なお、圧縮応力の計算にあたり、超電導バルク42の軸方向長さを無限長とした。各ケースに係る圧縮応力の計算結果を、内側円筒状部材44の常温での外径(OD1)、第一外側円筒状部材45Aの常温での外径(OD2)及び内径(ID2)、第二外側円筒状部材45Bの常温での外径(OD3)及び内径(ID3)とともに、表2に示す。
表2において、嵌め代Aは、OD2とID3の差を表し、嵌め代Bは、OD1とID2との差を表す。また、隙間Cは、第一外側円筒状部材45Aを焼き嵌めする際に第一外側円筒状部材45Aを300℃に加熱した場合において、常温の内側円筒状部材44の外径(OD1)と300℃の第一外側円筒状部材45Aの内径との差(直径差)を表す。また、隙間Dは、第二外側円筒状部材45Bを焼嵌めする際に第二外側円筒状部材45Bを400℃に加熱した場合において、常温の第一外側円筒状部材45Aの外径(OD2)と400℃の第二外側円筒状部材45Bの内径との差(直径差)を表す。
表2からわかるように、最も外側の第二外側円筒状部材45Bの外径OD3は74mmと実施例1の場合と同じであるが、実施例1のケース1−4と比較して、実施例2のケース5,6の圧縮応力がより大きい。この理由は、実施例2のケース5,6においては、円筒状部材を三重構造にし、第一外側円筒状部材45Aの焼き嵌めによる圧縮応力及び第二外側円筒状部材45Bの焼き嵌めによる圧縮応力が共に超電導バルク42に作用するためである。
(第四実施形態)
次に、第四実施形態に係る超電導磁場発生素子について説明する。第四実施形態に係る超電導磁場発生素子は、内側円筒状部材の内周面と超電導バルクの外周面との接触状態を除き、基本的には上記第一実施形態に係る超電導磁場発生素子の構造と同一である。
図11は、第四実施形態に係る超電導磁場発生素子1Bの概略構成を示す斜視図である。図11に示すように、第四実施形態に係る超電導磁場発生素子1Bは、第一実施形態に係る超電導磁場発生素子1と同様に、超電導バルク2と、内側円筒状部材4と、外側円筒状部材5とを備える。
超電導バルク2、内側円筒状部材4、外側円筒状部材5の形状は、第一実施形態に係る超電導磁場発生素子1が備える超電導バルク2、内側円筒状部材4、外側円筒状部材5の形状と同一であるので、その具体的説明は省略する。
また、第四実施形態に係る超電導磁場発生素子1Bにおいても、第一実施形態に係る超電導磁場発生素子1と同様に、常温にて、外側円筒状部材5が内側円筒状部材4を締め付けている。従って、外側円筒状部材5の締め付け力が、内側円筒状部材4を介して超電導バルク2に伝達される。このため、超電導バルク2には、その外周側から中心側に向かう方向への応力、すなわち圧縮応力が作用している。つまり、常温にて、超電導バルク2に圧縮応力が作用するように、外側円筒状部材5が内側円筒状部材4に取り付けられている。
図12Aは、第四実施形態に係る超電導磁場発生素子1Bをその軸線を含む平面で切断した断面の一部を示す図である。また、図12Bは、図12Aにおいて内側円筒状部材4と超電導バルク2の接触界面を含む領域部分であるC部の詳細図である。図12A及び図12Bに示すように、互いに接触した内側円筒状部材4の内周面、及び、超電導バルク2の外周面には、微細な凹凸が形成されている。特に超電導バルク2を溶融法により円筒形状に形成した場合、その外周面に多くの凹凸が形成される。ここで、凹凸には、空孔も含まれる。従って、超電導バルク2の外周面を内側円筒状部材4の内周面に接触させた場合でも、両面の凹凸或いは形状の歪みによって、両面が直接接触する部分と直接接触しない部分が形成される。
よって、内側円筒状部材4の内周面は、超電導バルク2の外周面に直接接触した第一領域と、直接接触せずに超電導バルクの外周面との間に隙間G(図12B参照)が形成された第二領域を有する。図12Bにおいて、第一領域が領域Aにより表され、第二領域が領域Bにより表される。そして、本実施形態においては、第二領域B上に形成される隙間Gに、充填剤6が充填される。従って、第二領域Bにおいては、内側円筒状部材4は、充填剤6を介して超電導バルク2に間接接触する。
図12Cは、第一実施形態に係る超電導磁場発生素子1をその軸線を含む平面で切断した断面の一部を示す図である。図12Cに示すように、第一実施形態に係る超電導磁場発生素子1においては、内側円筒状部材4の内周面と超電導バルク2の外周面との間のほぼ全域に、接着層3が介在している。従って、内側円筒状部材4の内周面と超電導バルク2の外周面が直接接触することはなく、接着層3を介して両面が間接接触する。これに対し、第四実施形態に係る超電導磁場発生素子1Bにおいては、内側円筒状部材4の内周面の第一領域Aが超電導バルク2の外周面と直接接触し、内側円筒状部材4の内周面の第二領域Bが充填剤6を介して超電導バルク2の外周面と間接接触する。
第四実施形態に示すように超電導磁場発生素子1Bを構成した場合でも、内側円筒状部材4と超電導バルク2とを直接的及び間接的に全面接触させることができる。また、内側円筒状部材4と超電導バルク2が直接接触する部分が存在するため、充填剤6が劣化して充填剤6を介して第二領域Bから超電導バルク2に圧縮応力を伝えにくくなった場合でも、直接接触している第一領域Aから超電導バルク2に圧縮応力を伝えることができる。従って、超電導磁場発生素子1Bの耐久性及び信頼性を向上させることができる。
次に、第四実施形態に係る超電導磁場発生素子1Bの製造方法について説明する。第四実施形態に係る超電導磁場発生素子1Bの製造方法も、上記第一実施形態に係る超電導磁場発生素子1の製造方法と同様に、第一工程及び第二工程を含む。図13Aは、第一工程を示す図であり、図13Bは、第一工程の実施により超電導バルク2に内側円筒状部材4が取り付けられた状態を示す斜視図である。また、図14は、第二工程を示す図である。
第一工程では、超電導バルク2の外周面又は内側円筒状部材4の内周面に、流動性を有する充填剤6が塗布され、その後、円筒状の超電導バルク2の外周面が内側円筒状部材4の外周面と対面するように、超電導バルク2が内側円筒状部材4の内周側に同心配置される。なお、第一工程の実施時における超電導バルク2及び内側円筒状部材4の温度を温度T1とすると、温度T1にて、超電導バルク2の外径OD_Bは、内側円筒状部材4の内径ID1よりも僅かに小さい。従って、同心配置された超電導バルク2の外周面と内側円筒状部材4との間に充填剤6が充填される。充填剤6として、エポキシ樹脂からなる接着剤、或いは、グリースを例示することができる。なお、温度T1は、例えば常温(5℃〜35℃)であるのがよい。この第一工程により、超電導バルク2の外周面と内側円筒状部材4の内周面との間に流動性を有する充填剤6を介在させた状態で、超電導バルク2の外周面に内側円筒状部材4の内周面が接触するように、内側円筒状部材4が超電導バルク2に取り付けられる、
第二工程では、第一工程にて流動性を有する充填剤6を介在させた状態で内周側に超電導バルク2が取り付けられた内側円筒状部材4の外周面に、外側円筒状部材5が取り付けられる。この場合、まず温度T1の外側円筒状部材5を用意する。外側円筒状部材5の内径ID2は、温度T1にて、超電導バルク2の外周に取り付けられている温度T1の内側円筒状部材4の外径OD1よりも僅かに小さい。すなわち、温度T1にて、ID2<OD1である。
次に、用意した温度T1の外側円筒状部材5を、温度T1よりも高い温度T2に加熱する。例えば温度T1が常温である場合、第二工程にて外側円筒状部材5を約300℃に加熱する。この加熱により、外側円筒状部材5が熱膨張する。このため、外側円筒状部材5の内径ID2が広がり、外側円筒状部材5の内径ID2が、常温の内側円筒状部材4の外径OD1よりも大きくなる。
次いで、図14に示すように、温度T2に加熱された外側円筒状部材5の内周面が、内側円筒状部材4の外周面に対面するように、外側円筒状部材5を内側円筒状部材4に対して同心状に配設する。その後、外側円筒状部材5を温度T1まで冷却する。冷却方法は、特に限定されないが、例えば、自然放冷、或いは、冷風を外側円筒状部材5に供給することにより、外側円筒状部材5が冷却される。この冷却による熱収縮により、外側円筒状部材5の内径ID2が小さくなっていく。外側円筒状部材5の温度が温度T1にまで冷却された場合、自然状態における外側円筒状部材5の内径ID2が内側円筒状部材4の外径OD1よりも小さくなる。そのため、外側円筒状部材5が内側円筒状部材4の外周面に取り付けられるとともに、内側円筒状部材4を締め付ける。つまり、外側円筒状部材5が内側円筒状部材4に焼き嵌めされる。そして、焼嵌めによる締め付け力が、内側円筒状部材4を介して超電導バルク2に作用する。
ここで、第四実施形態に係る第二工程は、第一工程にて超電導バルク2の外周面と内側円筒状部材4の内周面との間に介在した充填剤6が流動性を有する状態であるときに実行される。従って、第二工程の実施によって外側円筒状部材5から内側円筒状部材4を介して超電導バルク2に作用する圧縮応力により、充填剤6が超電導バルク2の外周面と内側円筒状部材4の内周面との間の接触界面間で流動する。流動した充填剤6は、内側円筒状部材4と超電導バルク2との接触表面に形成される凹凸、空孔、或いは形状の歪みによって内側円筒状部材4の内周面と超電導バルク2の外周面との間に形成される隙間G(図12B参照)に充填される。ここで、超電導バルク2の外周面に形成された微細な空孔には、単に充填剤6を超電導バルク2の外周面に塗布するだけでは、充填されない場合も考えられる。これに対し、本実施形態によれば、第二工程にて、超電導バルク2と内側円筒状部材4との間の充填剤6に外側円筒状部材5からの圧縮応力が作用するので、この圧縮応力によって、微細な空孔にも充填剤6を入り込ませることができる。一方、上記隙間Gが形成されていない部分においては、充填剤6を介することなく内側円筒状部材4の内周面が超電導バルク2の外周面に直接接触される。このようにして、内側円筒状部材4の内周面と超電導バルク2の外周面とを直接的及び間接的に、全面接触させることができる。
上記した第一工程及び第二工程を経由して、図11に示すような、第四実施形態に係る超電導磁場発生素子1Bが製造される。この製造方法によれば、超電導磁場発生素子1Bの製造の段階で、既に、外側円筒状部材5から超電導バルク2に焼き嵌めによる圧縮応力が作用している。従って、その後に超電導磁場発生素子1Bを超電導転移温度まで冷却した時には、内側円筒状部材4及び外側円筒状部材5の熱収縮により生じる圧縮応力に加え、既に製造の段階で生じている圧縮応力が付加される。このため、超電導バルク2に磁場を捕捉させているときに超電導バルク2内で生じている引張応力に対抗し得る圧縮応力が、既に製造の段階で生じている圧縮応力の分だけ大きくされる。また、この製造方法によれば、内側円筒状部材4の内周面と超電導バルク2の外周面とを直接的及び間接的に全面接触させることができる。従って、超電導バルク2の外周面に均一に圧縮応力を加えることができるため、超電導バルク2を破壊させることなく、十分に大きな圧縮応力を均一に超電導バルク2に作用させることができる。
また、外側円筒状部材5と超電導バルク2との間に内側円筒状部材4が介在されているので、第二工程で外側円筒状部材5を焼き嵌めする際における外側円筒状部材5の熱が、超電導バルク2及び充填剤6に直接伝達されることが防止される。よって、熱衝撃による超電導バルク2の破損を防止することができるとともに、充填剤6の熱劣化を防止することができる。
また、第四実施形態に係る製造方法によれば、第一工程にて超電導バルク2と内側円筒状部材4との間に介在される充填剤6は、第二工程の実施時に流動性を有した状態である必要がある。一方、第二工程の実施後は、所定の条件を満たしたときに、充填剤6の流動性が低下するとよい。例えば、所定の時間が経過した場合、或いは、充填剤6の温度が所定の温度以下にまで低下した場合に、充填剤6の流動性が低下し、或いは充填剤6が固化状態にされるとよい。つまり、充填剤6は、流動性を有する状態から流動性を有しない状態に変化することができるような材質により構成されており、第二工程は、第一工程にて超電導バルク2の外周面と内側円筒状部材4の内周面との間に介在した充填剤6が流動性を有する状態であるときに実行され、第二工程の実行後に所定の条件を満たした場合に充填剤6が固化状態にされるとよい。
例えば、充填剤6としてエポキシ系の接着剤を用いた場合、充填剤6は初期には流動性を有するが、時間の経過とともに固化する。従って、本実施形態において充填剤6としてエポキシ系の接着剤を用いる場合、充填剤6の固化前に第二工程が実施されることになる。その後、所定時間経過後に、内側円筒状部材4と超電導バルク2との間の接触界面に形成されている隙間G内で充填剤6が固化する。このため、製造した超電導磁場発生素子1Bを使用する際には充填剤6が固化しているので、使用時に充填剤6を隙間G内に留めておくことができる。また、充填剤6としてグリースを用いる場合、充填剤6は所定の温度以上で流動性を有し、所定の温度未満(例えば超電導磁場発生素子1Bの使用温度)では固化状態である。従って、この場合、製造した超電導磁場発生素子1Bを使用する際に50K程度の温度に超電導磁場発生素子1Bを冷却した場合、充填剤6が隙間G内で固化する。これにより、使用時に充填剤6を隙間G内に留めておくことができる。
(実施例3:充填剤としてエポキシ系接着剤を用いた場合)
外形63.95mm、内径28.0mm、高さ20mmのEuBaCuO系超電導バルクを用意した。用意した超電導バルクの外周面に、2液混合型のエポキシ系接着剤を塗布した。このエポキシ系接着剤は、流動性を有するが、時間の経過とともに流動性が低下し、やがて、固化する。次いで、常温にて外径68.0mm、内径64.0mm、高さ20mmのアルミニウム合金製の内側円筒状部材の内周面に、外周面にエポキシ系接着剤が塗布された超電導バルクの外周面が対面するように、超電導バルクを内側円筒状部材の内周側に配置した。これにより、超電導バルクの外周面と内側円筒状部材の内周面との間に流動性を有するエポキシ系接着剤を介在させた状態で、超電導バルクの外周面に内側円筒状部材が取り付けられた(第一工程)。
次に、外径74.0mm、内径67.75mm、高さ20mmのアルミニウム合金製の外側円筒状部材を、200℃の電気炉内で10分間加熱した。この加熱により、外側円筒状部材の内径が68mm以上に拡径した。その後、電気炉から外側円筒状部材を取り出した。そして、外側円筒状部材の内周面が内側円筒状部材の外周面に対面するように、外側円筒状部材を内側円筒状部材の外側に配置した。この場合において、外側円筒状部材の内径が68mm以上であり、且つ、超電導バルクの外周面と内側円筒状部材の内周面との間に介在されたエポキシ系接着剤が流動性を有している時間内に、外側円筒状部材を内側円筒状部材の外側に配置した。その後、外側円筒状部材を常温まで冷却した。この冷却による熱収縮により、外側円筒状部材の内径が小さくなっていく。外側円筒状部材の温度が常温にまで低下した場合、自然状態における外側円筒状部材の内径が内側円筒状部材の外径よりも小さくなる。そのため、外側円筒状部材が内側円筒状部材の外周面に取り付けられるとともに、内側円筒状部材を締め付ける。つまり、外側円筒状部材が内側円筒状部材に焼き嵌めされる(第二工程)。
第二工程の実施により、外側円筒状部材からの圧縮応力が、内側円筒状部材を介して超電導バルクに作用する。また、上記圧縮応力は、超電導バルクと内側円筒状部材との間のエポキシ系接着剤にも作用する。このためエポキシ系接着剤が超電導バルクと内側円筒状部材との間の接触界面間で流動する。この流動によって、エポキシ系接着剤は、超電導バルクの外周面及び内側円筒状部材の外周面の凹凸或いは形状の歪みにより両面間に形成される微小の隙間内に充填される。また、隙間が形成されていない箇所では、上記圧縮応力によって超電導バルクの外周面と内側円筒状部材の外周面が直接接触する。なお、上記隙間に充填されなかった接着剤は、超電導磁場発生素子の両端面に溢れ出る。こうして溢れ出た接着剤は拭き取られる。焼き嵌め後、所定時間経過すると、上記隙間内のエポキシ系接着剤が固化する。このようにして超電導磁場発生素子が製造された。
上記のようにして製造した超電導磁場発生素子を使用温度(50K)まで冷却したときに超電導バルクの内周面に生じる周方向の圧縮応力を計算した。この場合において、第一工程にて超伝導バルクと内側円筒状部材との間に介在されたエポキシ系接着剤の半分が、第二工程の実施によって溢れ出たと仮定して、圧縮応力を計算した。この計算結果を表3のケース7に示す。また、比較のため、外径74.0mm、内径64.0mmの内側円筒状部材を用いて上記第一工程を実施して製造した超電導磁場発生素子、つまり第二実施工程を実施せずに1重リング(内側円筒状部材のみ)により円筒状部材が構成される超電導磁場発生素子、についても、使用温度(50K)まで冷却したときに超電導バルクの内周面に生じる周方向の圧縮応力を計算した。この計算結果を表3のケース8に示す。また、第一工程にて塗布された接着剤が固化した後に第二工程を実施して製造した超電導磁場発生素子についても、使用温度(50K)まで冷却したときに超電導バルクの内周面に生じる周方向の圧縮応力を計算した。この計算結果を表3のケース9に示す。さらに、接着剤を用いることなく第一工程及び第二工程を実施して製造した超電導磁場発生素子についても、使用温度(50K)まで冷却したときに超電導バルクの内周面に生じる周方向の圧縮応力を計算した。この計算結果を表3のケース10に示す。なお、圧縮応力の計算にあたり、超電導バルクの軸方向長さを無限長に設定した。
表3において、「円筒状部材」の欄に記載された「2重構造」とは、超電導磁場発生素子が内側円筒状部材及び外側円筒状部材を備え、これらにより円筒状部材が構成されていることを表す。また、表3の「1重構造」とは、超電導磁場発生素子が円筒状部材として内側円筒状部材のみを備えて構成されていることを表す。
表3からわかるように、円筒状部材が2重構造である場合、すなわちケース7,9,10のように超電導磁場発生素子が構成されている場合、圧縮応力は高い。一方、円筒状部材が1重構造である場合、すなわちケース8のように超電導磁場発生素子が構成されている場合、圧縮応力は低い。また、円筒状部材が1重構造である場合も2重構造である場合も、トータルの円筒状部材の厚みは同じである。このことから、円筒状部材を2重構造に構成することで、十分に圧縮応力が高められることがわかる。
また、ケース9は、第二工程の実施時に内側円筒状部材と超電導バルクとの間の接触界面から充填剤(エポキシ系接着剤)が全く溢れ出なかった場合に相当し、ケース10は、第二工程の実施時に内側円筒状部材と超電導バルクとの間の接触界面から充填剤が全て溢れ出た場合に相当する。従って、ケース7,9,10に係る超電導磁場発生素子ついて、内側円筒状部材と超電導バルクとの間の接触界面に残存する充填剤の量を比較した場合、最も充填剤の残存量が多いケースがケース9であり、次に充填剤の残存量が多いケースがケース7であり、最も充填剤の残存量が少ないケースがケース10である。
第二工程にて充填剤が溢れ出ると、溢れ出た分だけ外側円筒状部材の熱収縮により超電導バルクの外周面に作用する圧縮応力は低下する。しかしながら、表3に示すように、充填剤が全て溢れ出た場合に相当するケース10でも、円筒状部材の厚さが同じで1重構造であるケース8における圧縮応力よりもはるかに高いことがわかる。
(実施例4:充填剤として真空グリースを用いた場合)
外形63.95mm、内径28.0mm、高さ20mmのEuBaCuO系超電導バルクを用意した。用意した超電導バルクの外周面に、真空グリースを塗布した。この真空グリースは、後述する第二工程で焼き嵌めを行うときには流動性を有するが、温度が下がるほど粘性が高まって流動性を失い、超電導磁場発生素子として動作させる温度(使用温度)まで冷却すると、実質的に個体状態になる。
次いで、常温にて外径68.0mm、内径64.0mm、高さ20mmのアルミニウム合金製の内側円筒状部材に、外周面に真空グリースが塗布された超電導バルクの外周面が対面するように、超電導バルクを内側円筒状部材の内周側に配置した。これにより、超電導バルクの外周面と内側円筒状部材の内周面との間に流動性を有する真空グリースを介在させた状態で、超電導バルクの外周面に内側円筒状部材が取り付けられた(第一工程)。
次に、外径74.0mm、内径67.75mm、高さ20mmのアルミニウム合金製の外側円筒状部材を、250℃の電気炉内で20分間加熱した。この加熱により、外側円筒状部材の内径が68mm以上に拡径した。その後、電気炉から外側円筒状部材を取り出した。そして、外側円筒状部材の内径が68mm以上であるときに、外側円筒状部材の内周面が内側円筒状部材の外周面に対面するように、外側円筒状部材を内側円筒状部材の外側に配置した。その後、外側円筒状部材を常温まで冷却した。この冷却による熱収縮により、外側円筒状部材の内径が小さくなっていく。外側円筒状部材の温度が常温にまで低下した場合、自然状態における外側円筒状部材の内径が内側円筒状部材の外径よりも小さくなる。そのため、外側円筒状部材が内側円筒状部材の外周面に取り付けられるとともに、内側円筒状部材を締め付ける。つまり、外側円筒状部材が内側円筒状部材に焼き嵌めされる(第二工程)。
第二工程の実施により、外側円筒状部材からの圧縮応力が、内側円筒状部材を介して超電導バルクに作用する。また、上記圧縮応力は、超電導バルクと内側円筒状部材との間の真空グリースにも作用する。このため真空グリースが超電導バルクと内側円筒状部材との間の接触界面間で流動する。この流動によって、真空グリースは、超電導バルクの外周面及び内側円筒状部材の外周面の凹凸或いは形状の歪みにより両面間に形成される微小の隙間内に充填される。また、隙間が形成されていない箇所では、上記圧縮応力によって超電導バルクの外周面と内側円筒状部材の外周面が直接接触する。なお、上記隙間に充填されなかった真空グリースは、超電導磁場発生素子の両端面に溢れ出る。こうして溢れ出た真空グリースは拭き取られる。以上の工程を経て、超電導磁場発生素子が製造された。
実施例4に係る超電導磁場発生素子も、上記実施例3(ケース7)に係る超電導磁場発生素子と同様に、内側円筒状部材と超電導バルクが、直接的及び真空グリースを介して間接的に、全面接触される。また、超電導磁場発生素子を温度50Kに冷却した場合に超電導バルクの内周面に生じる圧縮応力も、上記実施例3(ケース7)に係る超電導磁場発生素子についての圧縮応力と同等であった。
また、実施例4に係る超電導磁場発生素子は、常温にて、内側円筒状部材と超電導バルクとの接触界面の隙間に存在する充填剤(真空グリース)が流動性を有している。しかし、使用時には50Kにまで冷却されるので、内側円筒状部材と超電導バルクとの接触界面の隙間に存在する充填剤(真空グリース)は固化する。このため、使用時に充填剤が内側円筒状部材と超電導バルクとの接触界面に形成された隙間から流れ落ちて、圧縮応力が低下することを防止することができる。