以下に、発明の実施形態を説明する。これらの説明及び実施例は実施形態を例示するものであり、発明の範囲を制限するものではない。
本開示において組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計量を意味する。本開示において「アルキル」は、鎖式炭化水素のみならず環式炭化水素をも含む。本開示において「水性媒体」とは、水、又は、水とその他の溶媒との混合溶媒であって、水を主たる溶媒とする混合溶媒を意味する。本開示において「主たる溶媒」とは、混合溶媒を構成する全溶媒のうち最も質量の多い溶媒を指す。
<粒子分散液>
本実施形態に係る粒子分散液は、水性媒体と、水性媒体に分散された赤外線吸収性粒子と、を含む分散液である。赤外線吸収性粒子は、下記一般式(I)又は下記一般式(II)で表される化合物を少なくとも一種含み、下記一般式(F1)で表される単位を含むポリエステル樹脂と、を含有する。そして、このポリエステル樹脂中における下記一般式(F1)で表される単位の含有量は、20質量%以上である。
(一般式(I)中、R
1a、R
1b、R
1c及びR
1dはそれぞれ独立にアルキル基又はアリール基を表す。)
(一般式(II)中、R
2a、R
2b、R
2c及びR
2dはそれぞれ独立にアルキル基を表し、R
2aとR
2bとが互いに連結して環を形成してもよく、R
2cとR
2dとが互いに連結して環を形成してもよい。)
(一般式(F1)中、R
f1及びR
f2はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を表し、R
f3及びR
f4はメチル基を表し、p及びqはそれぞれ独立に0又は1を表す。)
従来から、水に対して不溶又は難溶な性質を有する有機化合物を水性媒体に含有させるために、該有機化合物とポリマーとの双方を含有する粒子に粒子化して水性媒体に分散させた粒子分散液の技術が知られている。そして、この有機化合物として赤外線吸収剤を用いた、赤外線吸収性粒子分散液が試されている。
しかし、赤外線吸収性粒子分散液を例えば水性インク等に用いる場合に、赤外線吸収性粒子中の赤外線吸収剤として前記一般式(I)又は下記一般式(II)で表される化合物等のスクアリリウム骨格を有する化合物を用いると、粒子中から当該化合物の凝集体が析出する現象が発生することが見出された。すると、赤外線吸収剤が赤外線吸収性粒子中に内包されないため、赤外線吸収性能の低下に繋がることとなり、また、水性インクに使用される場合は、ノズルの目詰まり等のインク吐出性能、塗布性能、画像の平滑性の低下等に繋がることがあった。
これに対し、本実施形態に係る赤外線吸収性粒子分散液は、赤外線吸収性粒子が、前記一般式(I)で表される化合物及び一般式(II)で表される化合物の少なくとも一種(以下「特定スクアリリウム系色素」とも記載する)と、前記一般式(F1)で表される単位(以下「構成単位(F1)」とも記載する)を分子構造中における含有率で20質量%以上含むポリエステル樹脂(以下「特定ポリエステル樹脂」とも記載する)とを含有する。赤外線吸収性粒子が特定ポリエステル樹脂を含有することにより、粒子分散液の赤外線吸収性能が向上する。この理由は、以下のように推察される。
構成単位(F1)は、特定スクアリリウム系色素が有するスクアリリウム骨格のように、複数の芳香環を含んでおり、両者は似た化学構造を有している。そのため、構成単位(F1)を前記含有量で含む特定ポリエステル樹脂は、特定スクアリリウム系色素との親和性が高いものと考えられる。これにより、特定ポリエステル樹脂をマトリクス樹脂とする粒子中において、特定スクアリリウム系色素は優れた溶解性(分子分散状態)を示し、凝集が抑制された状態で存在するものと考えられる。そして、分散液の状態(例えば水性インクの状態)で保管された後においても、特定スクアリリウム系色素が良好に分散され、赤外線吸収性能が向上するものと考えられる。
加えて、特定ポリエステル樹脂が構成単位(F1)を20質量%以上含む本実施形態に係る粒子分散液は、ポリエステル樹脂に含まれる構成単位(F1)の含有率が20質量%未満である場合に比較して、形成した画像のドキュメントオフセットの発生を抑制することができる。この理由は、顔料分散物やインク添加物を含んだ定着画像の膜物性が適切になるためと考えられる。
また、本実施形態に係る特定ポリエステル樹脂は、ガラス転移温度Tgが70℃以上であり、且つ、軟化温度Tmが110℃以上であることを特徴とする。これにより、構成単位(F1)を含むポリエステル樹脂において、ガラス転移温度Tgが70℃未満であるか、或いは、軟化温度Tmが110℃未満である場合に比較して、形成した画像のドキュメントオフセットの発生を抑制することができる。
また、本実施形態に係る粒子分散液を水性インクとして用いた場合、ノズルの目詰まり等のインク吐出性能の低下が抑制され、また塗布性能の低下や画像の平滑性の低下の発生が抑制される。
また、本実施形態では、粒子の収率がより高められる。これは、粒子が水性媒体中での分散安定性にも優れることにより、粒子分散液を調製する過程において粒子の凝集物が発生しにくいためと考えられる。
さらに、本実施形態によれば、粒径の小さな粒子(例えば体積平均粒径150nm以下)が分散した分散液が得られる。
本実施形態において、粒子の分散状態は、液体粒子が分散した乳化でもよく、固体粒子が分散した懸濁でもよく、分散安定性の観点からは、固体粒子が分散した懸濁が好ましい。即ち、本実施形態に係る粒子分散液は、粒子が液体状態で水性媒体に分散した乳化液(エマルジョン)でもよく、粒子が固体状態で水性媒体に分散した懸濁液(サスペンジョン)でもよく、粒子の分散安定性の観点からは、懸濁液であることが好ましい。
以下、本実施形態に係る粒子分散液の成分、組成、製造方法などについて詳細に説明する。
[特定スクアリリウム系色素]
本実施形態に係る粒子分散液は、赤外線吸収性色素として、一般式(I)又は一般式(II)で表される特定スクアリリウム系色素を含有する。本実施形態に係る粒子分散液では、特定スクアリリウム系色素は、長期間の保管や高温下での保管後においてもその赤外線吸収性能が低下しにくい。この機序として、下記が推測される。
スクアリリウム骨格を有する化合物は、赤外線吸収性能が高い等の理由によって光定着性インク等の水性組成物に適しているが、一方でスクアリリウム骨格が溶媒及びその他の材料(分散剤、界面活性剤等)による侵襲を受け分解することがある。
それに対して、一般式(I)で表される化合物及び一般式(II)で表される化合物では、スクアリリウム骨格(スクアリン酸由来の4員環を含む共役系)に、それぞれ4つのアルキル基又はアリール基が結合している。そのため、これらアルキル基及びアリール基によって、スクアリリウム骨格と反応する分子がスクアリリウム骨格に近づきにくくなると考えられる。それ故、特定スクアリリウム系色素は、水性組成物中で分解されにくく、長期間の保管や高温下での保管後においても赤外線吸収性能が低下しにくいと推測される。
(一般式(I)で表される化合物)
以下、本実施形態において赤外線吸収剤として使用される、下記一般式(I)で表される化合物について説明する。
一般式(I)中、R1a、R1b、R1c及びR1dはそれぞれ独立にアルキル基又はアリール基を表す。
R1a〜R1dにより表されるアルキル基は、直鎖状、分岐状、及び環状の何れの構造であってもよい。アルキル基は分岐数が多い方が好ましく、炭素鎖は短い方が好ましい。炭素数としては、1以上10以下が好ましく、2以上8以下がより好ましく、3以上6以下が更に好ましい。
アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、3−メチルブチル基(3−メチルブタン−1−イル基)、2,2−ジメチルプロピル基(2,2−ジメチルプロパン−1−イル基)、n−ヘキシル基、sec−ブチル基、2−メチルブタン−2−イル基、3−メチルブタン−2−イル基、3,3−ジメチルブタン−2−イル基、3−ペンチル基、2−メチルペンタン−3−イル基、4−メチルペンチル基(4−メチルペンタン−1−イル基)、3−メチルペンタン−3−イル基、3,3−ジメチルブチル基(3,3−ジメチルブタン−1−イル基)、4,4−ジメチルペンチル基(4,4−ジメチルペンタン−1−イル基)、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
R1a〜R1dにより表されるアリール基としては、例えば、置換基を有していてもよいアリール基が挙げられる。アリール基を構成する炭素原子の数は、例えば、6以上30以下であってよく、6以上20以下であることが好ましい。アリール基の具体例としては、例えば、フェニル基、α−ナフチル基、β−ナフチル基等が挙げられる。アリール基の置換基としては、上記のアルキル基、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子)、ヒドロキシ基、アリール基等が挙げられる。
R1a〜R1dの少なくとも1つが、下記一般式(I−R)で表される基であることが好ましい。
一般式(I−R)中、Reは、水素原子又はメチル基を表し、nは0以上3以下の整数を表す。R1a〜R1dのうち2つ以上が一般式(I−R)で表される基である場合、R1a〜R1dのいずれが一般式(I−R)で表される基であってもよく、また、一般式(I−R)で表される基の構造は同じであっても異なっていてもよい。
R1a〜R1dのうち2つ以上が一般式(I−R)で表される基であることがより好ましく、R1a〜R1dがいずれも一般式(I−R)で表される基であることが更に好ましい。一般式(I−R)で表される基の数が多いほど、赤外線吸収性能の低下がより抑制されるためである。これは、一般式(I−R)で表される基が多いほど、スクアリリウム骨格と反応する分子がスクアリリウム骨格に近づきにくく、一般式(I)で表される化合物の分解が抑えられることによると考えられる。
一般式(I−R)で表される基の総炭素数は6以下が好ましく、5以下がより好ましく、4以下が更に好ましく、4が特に好ましい。総炭素数の下限は3である。一般式(I−R)におけるReはメチル基であることが好ましい。Reがメチル基である場合、一般式(I−R)で表される基は末端が三つに分岐した構造であり、Reが水素原子である場合に比べて、より赤外線吸収性能の低下が抑制される。これは、Reがメチル基である構造の方が、Reが水素原子である構造に比べ、スクアリリウム骨格と反応する分子がスクアリリウム骨格に近づきにくく、一般式(I)で表される化合物の分解が抑えられることによると考えられる。
一般式(I−R)におけるnは、0以上2以下の整数が好ましく、0又は1がより好ましく、0が更に好ましい。nが小さいほど、赤外線吸収性能の低下が抑制されるためである。これは、nの値が小さいほど、一般式(I−R)で表される基における分岐構造部分とスクアリリウム骨格との距離が近くなるが故に、スクアリリウム骨格と反応する分子がスクアリリウム骨格に近づきにくく、一般式(I)で表される化合物の分解が抑えられることによると考えられる。
一般式(I−R)で表される基の具体例としては、イソプロピル基、イソブチル基、tert−ブチル基、3−メチルブチル基(3−メチルブタン−1−イル基)、2,2−ジメチルプロピル基(2,2−ジメチルプロパン−1−イル基)、4−メチルペンチル基(4−メチルペンタン−1−イル基)、3,3−ジメチルブチル基(3,3−ジメチルブタン−1−イル基)、4,4−ジメチルペンチル基(4,4−ジメチルペンタン−1−イル基)が挙げられる。これらの中でも、イソプロピル基、イソブチル基、tert−ブチル基がより好ましく、tert−ブチル基が更に好ましい。
表1に、一般式(I)で表される化合物の具体例(化合物(I−a−1)〜(I−a−10))を示す。
上記の具体例の中でも、化合物(I−a−1)〜(I−a−7)が好ましく、化合物(I−a−1)及び化合物(I−a−2)がより好ましく、化合物(I−a−1)が更に好ましい。
一般式(I)で表される化合物は、例えば下記の反応スキームに従って合成される。
(A)R1a〜R1dがいずれも同じ基(R1)である化合物
まず、不活性雰囲気下且つ冷却下、有機マグネシウムハロゲン化物(グリニャール試薬、例えば塩化エチルマグネシウム等)の有機溶剤(例えばテトラヒドロフラン等)溶液に出発物質1を滴下して作用させる。その後、反応を完結させるため室温(例えば20℃以上25℃以下の範囲。本説明において以下同じ)又はそれ以上の温度に戻してもよい。次いで冷却下、ギ酸誘導体(例えばギ酸エチル等)を滴下して作用させる。その後、反応を完結させるため室温又はそれ以上の温度に戻してもよい。反応の終わった混合物から有機物を抽出し、分離した有機層から中間体Aを得る。
次いで、溶媒(例えばシクロヘキサン等)に中間体Aと酸化試薬(例えば酸化マンガン等)とを加え、加熱還流して反応させる。反応中に生じる水を除去してもよい。反応混合物の有機層から中間体Bを得る。中間体Bを得る際に精製を行ってもよい。
次いで、中間体Bに対し付加環化反応を行う。例えば、溶媒(例えばエタノール等)に一硫化水素ナトリウムn水和物を加え、冷却下、中間体Bを滴下する。その後、室温で反応させ、反応液から溶媒を除去した後、飽和するまで食塩を加え、分液して有機相を回収し、有機相から中間体Cを得る。中間体Cを得る際に精製を行ってもよい。
次いで、不活性雰囲気下、溶媒(例えば無水テトラヒドロフラン等)と中間体Cとを混合し、グリニャール試薬(例えば臭化メチルマグネシウム等)を滴下する。滴下終了後、反応液を加熱して還流させ、次いで冷却下、臭化アンモニウムを滴下する。分離した有機層を乾燥し濃縮して、中間体Dを得る。
次いで、不活性雰囲気下、中間体D及びスクアリン酸を溶媒(例えばシクロヘキサンとイソブタノールとの混合溶媒等)に分散し、塩基性化合物(例えばピリジン等)を加えて加熱還流させ、化合物(I)−Aが得られる。この反応中に生じる水を除去してもよい。得られた化合物(I)−Aに対して、精製や単離、濃縮等を実施してもよい。
(B)R1aとR1dが同じ基(R1)であり、且つ、R1bとR1cが同じ基(R2)であり、且つ、R1aとR1bは異なる基である化合物
上記(A)の反応スキームにおける中間体Aを得る過程を、下記の過程に変更する。
不活性雰囲気下且つ冷却下、グリニャール試薬(例えば臭化エチルマグネシウム等)の有機溶剤(例えばテトラヒドロフラン等)溶液に、出発物質1を滴下し、さらに添加物質2を滴下し反応させる。反応後の溶液に、冷却下で強酸(例えば塩酸等)を加え、次いで室温下でエーテルを加え、有機層から中間体A’を得る。中間体A’を得る際に精製を行ってもよい。
(C)R1aとR1bが同じ基であり、R1cとR1dが同じ基であり、且つ、R1aとR1cは異なる基である化合物
上記(1)の反応スキームにおける中間体Dとして、R1の構造が異なる化合物を2種類準備し、この2種の化合物とスクアリン酸とを反応させて、一般式(I)で表される化合物を得る。
R1a〜R1dのうち3つが同じ基である化合物、R1a〜R1dのうち2つが同じ基で残りの2つがそれぞれ異なる基である化合物、R1a〜R1dの4つとも異なる基である化合物も、上記反応スキームに準じて合成し得る。
(一般式(II)で表される化合物)
以下、本実施形態において赤外線吸収剤として使用される、下記一般式(II)で表される化合物について説明する。
一般式(II)中、R2a、R2b、R2c及びR2dはそれぞれ独立にアルキル基を表し、R2aとR2bとが互いに連結して環を形成してもよく、R2cとR2dとが互いに連結して環を形成してもよい。
R2a、R2b、R2c及びR2dで表されるアルキル基としては、炭素数1以上12以下のアルキル基が好ましく、炭素数2以上8以下のアルキル基がより好ましい。
R2a、R2b、R2c及びR2dで表されるアルキル基としては、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれのアルキル基であってもよく、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、sec−ヘキシル基、tert−ヘキシル基、n−ヘプチル基、イソヘプチル基、sec−ヘプチル基、tert−ヘプチル基、n−オクチル基、イソオクチル基、sec−オクチル基、tert−オクチル基、n−ノニル基、イソノニル基、sec−ノニル基、tert−ノニル基、n−デシル基、イソデシル基、sec−デシル基、tert−デシル基、n−ウンデシル基、イソウンデシル基、n−ドデシル基、イソドデシル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、及びビシクロ[2,2,2]オクチル基等が挙げられる。
また、R2aとR2bとの連結により形成される環、及び、R2cとR2dとの連結により形成される環は、5員環、6員環又は7員環であることが好ましく、6員環がより好ましい。これらの環は置換基を有していてもよく、その置換基の例としてはアルキル基が挙げられる。また、R2cとR2dとが連結する場合、R2cとR2dとで炭素数が3以上6以下のアルキルレン基を形成することが好ましい。
R2aとR2bとの連結により形成される環、及び、R2cとR2dとの連結により形成される環の環構造としては、例えば、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、3,5−ジメチルシクロヘキサン、3,5−ジエチルシクロヘキサン、3,5−ジイソプロピルシクロヘキサン、3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、及び、3,3,5,5−テトラメチルシクロヘキサン等が挙げられる。
また、R2a、R2b、R2c及びR2dで表されるアルキル基(R2aとR2b及びR2cとR2dが連結して形成される環を含む)は、ハロゲン原子(例えば、フッ素、塩素)で置換されていてもよい。
以下に、一般式(II)で表される化合物の具体例(化合物(II−b−1)〜(II−b−7))、並びに、一般式(II)で表される化合物において、R2aとR2bとが互いに連結して環を形成し、且つ、R2cとR2dとが互いに連結して環を形成した化合物の具体例(化合物(II−c−1)〜(II−c−7))を示す。
一般式(II)で表される化合物は、例えば、特開2010−077261号公報、特開2010−186014号公報、特開2011−039359号公報等に記載の合成方法により合成すればよい。
特定スクアリリウム系色素のテトラヒドロフラン溶液における最大吸収波長(λmax)は、波長760nm以上1200nm以下であることが好ましく、波長780nm以上1100nm以下であることがより好ましく、波長800nm以上1000nm以下であることが更に好ましい。
特定スクアリリウム系色素のテトラヒドロフラン溶液における最大吸収波長(λmax)でのモル吸光係数(εmax)は、1×105Lmol−1cm−1以上6×105Lmol−1cm−1以下が好ましく、2×105Lmol−1cm−1以上6×105Lmol−1cm−1以下がより好ましく、2.5×105Lmol−1cm−1以上6×105Lmol−1cm−1以下が更に好ましい。
[特定ポリエステル樹脂]
本実施形態における特定ポリエステル樹脂は、分子構造中に前記一般式(F1)で表される単位(構成単位(F1))を含有する。構成単位(F1)の含有率は、特定ポリエステル樹脂の総量に対して20質量%以上である。前述の通り、構成単位(F1)を特定ポリエステル樹脂の総量に対して20質量%以上含有する本実施形態に係る粒子分散液は、構成単位(F1)の含有率が、ポリエステル樹脂の総量に対して20質量%未満である場合に比較して、赤外線吸収性粒子からの特定スクアリリウム系色素の析出が抑制され、粒子の赤外線吸収性能が向上する。
構成単位(F1)の含有率は、上記の観点から、特定ポリエステル樹脂の総量に対して25質量%以上であることが好ましく、30質量%以上がより好ましい。構成単位(F1)の含有率の上限は、特定ポリエステル樹脂の分子構造中に含ませることが可能である限り、特に制限されない。構成単位(F1)の含有率は、例えば、特定ポリエステル樹脂の総量に対して60質量%以下であり、55質量%以下であることが好ましく、50質量%以下がより好ましい。
なお、特定ポリエステル樹脂の分子構造中における構成単位(F1)の含有率とは、特定ポリエステル樹脂の総量に対する、特定ポリエステル樹脂中に含まれる構成単位(F1)の質量比を意味する。例えば、一般式(F2)で表される単位の分子量(該構成単位を構成する原子の原子量の総和)は194である。例えば樹脂100g中に構成単位(F1)の部分が30g含まれる場合、当該樹脂における構成単位(F1)の含有率は30質量%となる。
特定ポリエステル樹脂の分子構造中における構成単位(F1)の含有率の測定方法について説明する。まず、粒子分散液又は水性インクに遠心分離又はろ過処理を行うことによって、顔料分散物を分離除去し、塩酸で酸性になるまで中和する。生じた固体を水やメタノールなどで洗浄し、乾燥させて、樹脂を回収する。回収された樹脂を、核磁気共鳴分光法(NMR)やフーリエ変換型赤外分光法(FT−IR)、反応熱分解GC/MS法で分析し、樹脂の分子構造中の各構成単位の種類及びモル比を求める。そして、特定ポリエステル樹脂の総量に対する構成単位(F1)の存在量の質量比を算出することで、構成単位(F1)の含有率(質量比)が求められる。また、特定ポリエステル樹脂の分子構造中に含まれる他の構造及びその含有量についても、構成単位(F1)の含有率の測定方法に従って求められる。
ポリエステル樹脂は、例えば、重縮合性モノマーとしてポリカルボン酸、ポリオール、及びこれらのエステル化合物(オリゴマー及び/又はプレポリマー)等を用いて、エステル化反応又はエステル交換反応等の重縮合反応を行うことにより、合成される。
分子構造中に構成単位(F1)を含有する特定ポリエステル樹脂は、例えば、特定ポリエステル樹脂の原料モノマーとして、構成単位(F1)を有する重縮合性モノマーを使用し、他の重縮合性モノマーと共に重合(脱水縮合)することにより、合成すればよい。このとき、構成単位(F1)を有するモノマー及び他のモノマーのそれぞれの種類及び使用量を調整することによって、合成される特定ポリエステル樹脂における構成単位(F1)の含有率を制御し得る。
特定ポリエステル樹脂の合成に用いてもよいポリカルボン酸は、1分子中にカルボキシル基を2個以上含有する化合物であり、例えば、脂肪族、脂環族又は芳香族のポリカルボン酸、及び、それらのアルキルエステルを含む。また、特定ポリエステル樹脂の合成に用いてもよいポリオールは、1分子中に水酸基を2個以上含有する化合物であり、例えば、多価アルコール及びそれらのエステル化合物を含む。
(構成単位(F1)を含む重縮合性モノマー)
本実施形態では、特定ポリエステル樹脂が構成単位(F1)を20質量%以上含有する限り、構成単位(F1)が、ポリオールに由来する構成単位及びポリカルボン酸に由来する構成単位等のいずれの構成単位に含まれていてもよい。特定ポリエステル樹脂は、構成単位(F1)を含むポリオールとポリカルボン酸との重縮合反応により、合成することが好ましい。即ち、特定ポリエステル樹脂は、構成単位(F1)を含むポリオール由来の構成単位と、ポリカルボン酸由来の構成単位とで構成されることが好ましい。
特定ポリエステル樹脂の合成に使用される構成単位(F1)を含むポリオールの具体例としては、例えば、以下に示すビスフェノールA(2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン)、ビスフェノールB(2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン)、ビスフェノールC(2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン)、ビスフェノールE(1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン)、及び、ビスフェノールF(ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン)、並びにこれらのエチレンオキシド付加物、及びプロピレンオキシド付加物等が挙げられる。
本実施形態では、重縮合反応の反応性の観点から、上記各ビスフェノール化合物のエチレンオキシド付加物又はプロピレンオキシド付加物を用いて、構成単位(F1)を含む特定ポリエステル樹脂を合成することが好ましい。当該付加物におけるエチレンオキシ基又はプロピレンオキシ基の付加量は、一般式(F1)で表されるビスフェノール構造1モルに対して2モル以上であることが好ましく、2モル以上3モル以下がより好ましく、2モルが特に好ましい。
構成単位(F1)は、下記式(F2)で表される単位であることが好ましい。つまり、構成単位(F1)を含むポリオールとして、ビスフェノールA、並びにそのエチレンオキシド及びプロピレンオキシドの少なくとも一方の付加物を用いて、特定ポリエステル樹脂を合成することが好ましく、ビスフェノールAエチレンオキシド2モル付加物及びビスフェノールAプロピレンオキシド2モル付加物の少なくとも一方を用いることがより好ましい。
(他の重縮合性モノマー)
特定ポリエステル樹脂の合成に用いてもよい、構成単位(F1)を含まないポリオールとしては、1分子中に水酸基を2個含有するジオール、1分子中に水酸基を3個以上含有するトリオール又はテトラオール等が挙げられる。これらポリオールは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,4−ペンタンジオール、3,3−ジメチル−1,2−ブタンジオール、2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,5−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,5−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2,4−ジメチル−2,4−ペンタンジオール、1,7−ヘプタンジオール、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、2,5−ジメチル−2,5−ヘキサンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、1,2−オクタンジオール、1,8−オクタンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ハイドロキノン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ(オキシテトラメチレン)グリコール、ポリエステルポリオール、4,4’−ジヒドロキシフェニルスルホン等が挙げられる。
トリオール及びテトラオール等のポリオールとしては、例えば、グリセリン、ペンタエリスリトール、テトラメチロールベンゾグアナミン、テトラエチロールベンゾグアナミン、ヘキサメチロールメラミン、ヘキサエチロールメラミン等が挙げられる。
特定ポリエステル樹脂の合成に用いてもよい、構成単位(F1)を含まないポリカルボン酸としては、1分子中にカルボキシ基を2個含有するジカルボン酸、及び、1分子中にカルボキシ基を3個以上含有するトリカルボン酸又はテトラカルボン酸等が挙げられる。これらポリカルボン酸は1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
ジカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、ジメチルマロン酸、アジピン酸、ピメリン酸、α,α−ジメチルコハク酸、アセトンジカルボン酸、セバシン酸、1,9−ノナンジカルボン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、2−ブチルテレフタル酸、テトラクロロテレフタル酸、アセチレンジカルボン酸、ポリ(エチレンテレフタレート)ジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、ω−ポリ(エチレンオキシド)ジカルボン酸、p−キシリレンジカルボン酸等が挙げられる。
トリカルボン酸及びテトラカルボン酸としては、例えば、トリメリット酸、ピロメリット酸、ナフタレントリカルボン酸、ナフタレンテトラカルボン酸、ピレントリカルボン酸、ピレンテトラカルボン酸等が挙げられる。これらポリカルボン酸は、アルキルエステル、酸塩化物又は酸無水物の形態で脱水縮合に供してもよい。
特定ポリエステル樹脂は、分子構造中に芳香環を有するジカルボン酸に由来する構成単位を含むことが好ましい。芳香環を有するジカルボン酸由来の構成単位を含むことで、特定ポリエステル樹脂と特定スクアリリウム系色素との親和性がより一層高められ、赤外線吸収性粒子の赤外線吸収性能が向上するためである。分子構造中に芳香環を有するジカルボン酸は、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、2−ブチルテレフタル酸、テトラクロロテレフタル酸、ポリ(エチレンテレフタレート)ジカルボン酸、p−キシリレンジカルボン酸等が挙げられる。
上記の観点から、特定ポリエステル樹脂の総量に対する芳香環を有するジカルボン酸に由来する構成単位の含有量が、20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましい。上限は特に制限されず、例えば70質量%以下であり、60質量%以下が好ましい。
また、特定ポリエステル樹脂は、水性媒体への分散性向上の観点から、解離性基を有するポリカルボン酸及びポリオールの少なくとも一方を用いてもよい。解離性基としては、例えば、アニオン性基が挙げられ、スルホン酸基が好ましい。特定ポリエステル樹脂への解離性基の導入は、例えば、スルホン酸基を有するジカルボン酸又はジオールを特定ポリエステル樹脂の原料とすることにより行う。
スルホン酸基を有するジカルボン酸としては、例えば、3−スルホフタル酸、4−スルホフタル酸、4−スルホイソフタル酸、5−スルホイソフタル酸、2−スルホテレフタル酸、スルホコハク酸、4−スルホ−1,8−ナフタレンジカルボン酸、7−スルホ−1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,4−ジ(2−ヒドロキシ)エチルオキシカルボニルベンゼンスルホン酸、及びこれらの塩等が挙げられる。これらジカルボン酸は、1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
解離性基を有するジオールとしては、例えば、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)ブタン酸、2,5,6−トリメトキシ−3,4−ジヒドロキシヘキサン酸、2,3−ジヒドロキシ−4,5−ジメトキシペンタン酸、2,4−ジ(2−ヒドロキシ)エチルオキシカルボニルベンゼンスルホン酸、及びこれらの塩等が挙げられる。解離性基を有するジオールは、1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
(特定ポリエステル樹脂の具体例)
以下に、特定ポリエステル樹脂の具体例を、分子構造中の構成単位の由来となるポリカルボン酸及びポリオールにより、例示する。なお、括弧( )内は共重合成分のモル比を表し、角括弧[ ]内は、構成単位(F1)の含有率(質量比)を表す。
・P01:テレフタル酸/イソフタル酸/ビスフェノールAエチレンオキシド2mol付加物/エチレングリコール/グリセリン(50/50/50/45/5)[35%]
・P02:テレフタル酸/ビスフェノールAプロピレンオキシド2mol付加物/グリセリン(100/95/5)[46%]
・P03:テレフタル酸/イソフタル酸/ビスフェノールAエチレンオキシド2mol付加物/グリセリン(70/30/95/5)[49%]
・P04:テレフタル酸/5−スルホイソフタル酸/ビスフェノールAエチレンオキシド2mol付加物/エチレングリコール/グリセリン(95/5/50/45/5)[34%]
・P05:テレフタル酸/イソフタル酸/ビスフェノールAエチレンオキシド2mol付加物/ビスフェノールAプロピレンオキシド2mol付加物/グリセリン(50/50/50/45/5)[48%]
・P06:イソフタル酸/トリメリット酸/ビスフェノールAエチレンオキシド2mol付加物/シクロヘキサンジメタノール(98/2/50/50)[31%]
・P07:テレフタル酸/トリメリット酸/ビスフェノールAプロピレンオキシド2mol付加物/ネオペンチルグリコール(98/2/80/20)[42%]
・P08:テレフタル酸/イソフタル酸/トリメリット酸/ビスフェノールAプロピレンオキシド2mol付加物/ネオペンチルグリコール(50/48/2/35/65)[24%]
・P09:テレフタル酸/イソフタル酸/トリメリット酸/ビスフェノールAエチレンオキシド2mol付加物/ビスフェノールAプロピレンオキシド2mol付加物/エチレングリコール(50/48/2/25/25/50)[34%]
・P10:ドデセニルコハク酸/フタル酸/トリメリット酸/ビスフェノールAプロピレンオキシド2mol付加物/ネオペンチルグリコール(40/58/2/80/20)[38%]
・P11:テレフタル酸/トリメリット酸/エチレングリコール/ビスフェノールAエチレンオキシド2mol付加物(95/5/10/90)[48%]
・P12:テレフタル酸/トリメリット酸/エチレングリコール/グリセリン/ビスフェノールAプロピレンオキシド2mol付加物(97/3/40/10/50)[33%]
・P13:テレフタル酸/イソフタル酸/トリメリット酸/ドデセニルコハク酸/ビスフェノールAエチレンオキシド2mol付加物/ビスフェノールAプロピレンオキシド2mol付加物(45/45/8/2/50/50)[48%]
・P14:テレフタル酸/トリメリット酸/ビスフェノールAエチレンオキシド2mol付加物/ビスフェノールAプロピレンオキシド2mol付加物(98/2/50/50)[49%]
・P15:テレフタル酸/イソフタル酸/エチレングリコール/グリセリン/ビスフェノールAプロピレンオキシド2mol付加物(70/30/40/10/50)[33%]
(特定ポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)及び軟化温度(Tm))
本実施形態に係る特定ポリエステル樹脂では、ガラス転移温度Tgが70℃以上であり、且つ、軟化温度Tmが110℃以上である。これにより、構成単位(F1)を含むポリエステル樹脂において、ガラス転移温度Tgが70℃未満であるか、或いは、軟化温度Tmが110℃未満である場合に比較して、形成した画像が他の記録媒体又は他の記録媒体に形成された画像に移行する現象である、ドキュメントオフセットの発生を抑制することができ、これにより、形成した画像の強度を向上させることができる。本実施形態では、上記の観点から特定ポリエステル樹脂のガラス転移温度Tgが75℃以上であることが好ましい。また、上記の観点から特定ポリエステル樹脂の軟化温度Tmが120℃以上であることが好ましい。
特定ポリエステル樹脂のガラス転移温度Tgの上限は特に制限されないが、粒子分散液を用いて形成した画像の定着性の観点から、100℃以下であることが好ましく、85℃以下であることがより好ましい。また、特定ポリエステル樹脂の軟化温度Tmの上限は特に制限されないが、有機溶剤溶解性の観点から、180℃以下であることが好ましく、160℃以下であることがより好ましい。
特定ポリエステル樹脂のガラス転移温度Tgは、特定ポリエステル樹脂の合成に使用する重縮合性モノマーの種類及び使用量を調整することによって、制御される。組み合わせて使用される他の重縮合性モノマーとの相互作用が影響するため、必ずしも一概には言えないが、重縮合性モノマーとしてフタル酸の含有量が高くなると、ガラス転移温度Tgが高くなる傾向がある。
特定ポリエステル樹脂の軟化温度Tmは、特定ポリエステル樹脂の合成に使用する重縮合性モノマーの種類及び使用量を調整すること、更には、特定ポリエステル樹脂の分子量を調整することによって、制御される。ガラス転移温度Tgで述べたように、必ずしも一概には言えないが、特定ポリエステル樹脂の分子量{重合度}を高くすることにより、軟化温度Tmが高くなる傾向がある。
また、重縮合性モノマーとして、水酸基を3個以上有するポリオール由来の構造単位、及び、カルボキシ基を3個以上有するポリカルボン酸由来の構造単位の少なくとも一方の含有比率が高くなると、軟化温度Tmが高くなる傾向がある。上記の観点から、例えば、水酸基を3個以上有するポリオール由来の構造単位、及び、カルボキシ基を3個以上有するポリカルボン酸由来の構造単位の合計含有量が、特定ポリエステル樹脂を構成するポリオール由来の構造単位及びポリカルボン酸由来の構造単位の合計量に対して、0.5モル%以上15モル%以下、好ましくは1モル%以上10モル%以下であってもよい。
ポリエステル樹脂のガラス転移温度Tgの測定は、ASTMのD3418に準拠した示差走査熱量測定により行われ、例えば、示差走査熱量計(株式会社島津製作所製:DSC−60A)を用いて、1回目の昇温過程で得られたDSC曲線の吸熱部におけるベースラインと立ち上がりラインとの延長線の交点の温度を、ガラス転移温度Tgとすることができる。
ポリエステル樹脂の軟化温度Tmの測定は、フローテスター(株式会社島津製作所製、CFT−500C)を用いて、荷重10kgf/cm2、ノズルの直径1mm、ノズルの長さ1mm、予熱80℃で5分間、昇温速度6℃/分とし、試料量1gを測定記録した。得られたフローテスターのプランジャ降下量−温度曲線におけるS字曲線の高さの1/2における温度(1/2流出温度)を、軟化温度Tmとした。なお、Tmの測定において複数の融解ピークを示す場合があるが、本実施形態においては、その場合、融解ピークが最大である融解ピーク温度を樹脂の軟化温度Tmとする。
(特定ポリエステル樹脂の他の物性)
特定ポリエステル樹脂の分子量範囲は、重量平均分子量として1000以上20万以下が好ましく、1500以上10万以下がより好ましく、2000以上5万以下が更に好ましい。
重量平均分子量が1000以上であることにより、後述する水溶性成分の含有割合が低減され、特定スクアリリウム系色素の分散に適する。一方、重量平均分子量が20万以下であることにより、有機溶剤に対する溶解性に優れかつ有機溶剤に溶解したポリマー溶液の粘度が抑えられる。そのため、粒子分散液を製造する際の水性媒体への分散が容易になり、また、赤外線吸収性粒子の分散安定性にも優れる。
ポリマーの重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography:GPC)によって測定し、ポリスチレン換算で算出する。
特定ポリエステル樹脂の酸価は、5mgKOH/g以上50mgKOH/g以下が好ましい。なお、下限としては8mgKOH/g以上がより好ましく、10mgKOH/g以上がさらに好ましく、上限としては40mgKOH/g以下がより好ましく、30mgKOH/g以下がさらに好ましい。
酸価が5mgKOH/g以上であることで、特定ポリエステル樹脂の水性媒体への分散性が相対的に低くなり過ぎず、粒子の分散安定性に優れる。一方、酸価が50mgKOH/g以下であることで、特定ポリエステル樹脂の水溶性が相対的に高くなり過ぎず、特定ポリエステル樹脂と特定スクアリリウム系色素とを含有する粒子の形成性が高められ、したがって、水性媒体に安定して分散する粒子が得られ易い。樹脂の酸価は、JIS K0070(1992)に定める中和滴定法によって求められる。
特定ポリエステル樹脂は、ポリマー分散液としたときに、該分散液に含まれる固形分量に対する水溶性成分の割合が10質量%以下であることが好ましい。
通常、ポリマーの集合体を構成する個々の分子には構成単位の組成にばらつきがあり、したがって、個々の分子には水に対する溶解度にばらつきがある。水に対する溶解度が相対的に高いポリマー分子が、ここでいう「水溶性成分」に相当する。水溶性成分、つまり水に対する溶解度が相対的に高いポリマー分子は、特定スクアリリウム系色素の分散への適合性が低くなるので、特定ポリエステル樹脂は、ポリマー分散液としたときに、該分散液に含まれる水溶性成分が少ないほど好ましい。また、特定ポリエステル樹脂を含有する粒子の膨潤や粒子どうしの接着を抑制し、安定な分散を維持する観点からも、特定ポリエステル樹脂は、ポリマー分散液としたときに、該分散液に含まれる水溶性成分が少ないほど好ましい。これらの観点から、特定ポリエステル樹脂を分散液としたときに、該分散液に含まれる固形分量に対する水溶性成分の割合は、10質量%以下が好ましく、8質量%以下がより好ましく、5質量%以下がさらに好ましく、少ないほど好ましい。
上記水溶性成分の割合は、下記の方法で測定する。水にポリマーを分散させたポリマー分散液(固形分濃度10質量%、液温23±0.5℃)を調製する。その際、ポリマーの分散のために必要に応じて中和剤を使用する。ポリマー分散液を、遠心式限外濾過フィルターユニットを用いて、分散質と媒質とに遠心分離し、分離した媒質を乾燥させて乾固物の質量を測定し、ポリマー分散液の固形分量(=ポリマー分散液の調製に用いたポリマー量+ポリマー分散液の調製過程で用いた中和剤の質量)に対する媒質の乾固物量の割合を算出し、水溶性成分の割合(質量%)とする。
[他の樹脂]
本実施形態では、赤外線吸収性粒子に含まれる樹脂として、特定ポリエステル樹脂以外の樹脂を併用してもよい。特定ポリエステル樹脂以外の他の樹脂としては、例えば、ポリウレタン、ポリアミド、ポリウレア、及びポリカーボネート等が挙げられる。ただし、粒子に含まれる全樹脂のうち特定ポリエステル樹脂が主たる樹脂であることが好ましく、全樹脂のうち特定ポリエステル樹脂が最も質量の多い樹脂であることが好ましい。具体的に全樹脂中に占める特定ポリエステル樹脂の質量比は、50質量%超えであることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが更に好ましく、100質量%であることが特に好ましい。
[水性媒体]
粒子分散液の媒体は、水、又は、水を主たる溶媒とする混合溶媒である。混合溶媒は、例えば、水と水溶性有機溶剤との混合物である。
水としては、不純物の混入又は微生物の発生を抑制する観点から、蒸留水、イオン交換水、限外濾過水などの精製水が好ましい。
水溶性有機溶剤としては、アルコール、多価アルコール、多価アルコール誘導体、含窒素溶剤、含硫黄溶剤などが挙げられる。粒子分散液に含まれる水溶性有機溶剤は、例えば、粒子分散液の製造過程において特定スクアリリウム系色素又は特定ポリエステル樹脂の溶解に用いた有機溶剤の残存物である。
水の含有量は、粒子分散液の全質量に対して、50質量%以上95質量%以下が好ましく、60質量%以上90質量%以下がより好ましい。水溶性有機溶剤の含有量は、粒子分散液の全質量に対して、30質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。水溶性有機溶剤の含有量の下限は制限されず、例えば、粒子分散液の全質量に対して、0.1質量%以上が好ましく、1質量%以上が好ましい。
[他の成分]
本実施形態に係る粒子分散液は、一般式(I)又は一般式(II)で表される特定スクアリリウム系色素、特定ポリエステル樹脂及び水性媒体に加えて、赤外線吸収能を有する化合物(例えば、特定スクアリリウム系色素以外のスクアリリウム系色素、クロコニウム系色素、ナフタロシアニン系色素、シアニン系色素、アミニウム系色素等)、紫外線吸収能を有する化合物(例えば、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物等)、着色剤、中和剤、界面活性剤、分散安定剤、特定ポリエステル樹脂以外のポリマー等を含んでいてもよい。
[粒子分散液の製造方法]
本実施形態に係る粒子分散液の製造方法としては、例えば、転相乳化法、特定ポリエステル樹脂の粒子に特定スクアリリウム系色素を含浸させる含浸法が挙げられる。
転相乳化法は、有機溶剤に特定スクアリリウム系色素及び特定ポリエステル樹脂が溶解した溶液を調製し、該溶液に中和剤を加えて特定ポリエステル樹脂を中和した後、水を徐々に混合して特定スクアリリウム系色素及び特定ポリエステル樹脂の双方を含有する粒子を形成し、当該粒子が分散状態にある分散液を調製する方法である。ここでの分散状態は、液体粒子が分散した乳化状態でもよく、固体粒子が分散した懸濁状態でもよい。分散安定性の観点からは、固体粒子が分散した懸濁状態が好ましい。有機溶剤は、該有機溶剤の水に対する溶解度が10質量%以下である場合、又は、該有機溶剤の蒸気圧が水より大きい場合には、粒子の分散安定性の観点から分散液から除去されることが好ましい。中和は、必須の工程ではないが、特定ポリエステル樹脂が未中和の解離性基を有する場合、分散液のpH調整等の観点から、行うことが好ましい。
含浸法は、特定ポリエステル樹脂の粒子分散液を調製し、該粒子分散液と、有機溶剤に特定スクアリリウム系色素が溶解した溶液とを混合した後、有機溶剤を徐々に除去して特定スクアリリウム系色素を特定ポリエステル樹脂の粒子に含浸させ、赤外線吸収性粒子を形成する方法である。特定スクアリリウム系色素が含浸した特定ポリエステル樹脂の粒子は、液体粒子でもよく固体粒子でもよく、分散安定性の観点からは、固体粒子が好ましい。特定ポリエステル樹脂の粒子分散液は、例えば、特定ポリエステル樹脂が溶解した溶液を調製し、該溶液に中和剤を加えて中和した後、水を徐々に混合しながら有機溶剤を除去することにより調製する。また、特定ポリエステル樹脂の粒子分散液に、有機溶剤に特定スクアリリウム系色素が溶解した溶液を混合することに替えて、特定スクアリリウム系色素及び有機溶剤を別個に当該粒子分散液に添加した後、混合して特定スクアリリウム系色素を分散液に溶解させてもよい。
転相乳化法及び含浸法に用いる有機溶剤は、特定スクアリリウム系色素の溶解性及び特定ポリエステル樹脂の溶解性に基づいて選択する。具体的には、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン等のケトン系溶剤;メタノール、エタノール、2−プロパノール、1−プロパノール、1−ブタノール、tert−ブタノール等のアルコール系溶剤;クロロホルム、塩化メチレン等の塩素系溶剤;ベンゼン、トルエン等の芳香族系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル等のエステル系溶剤;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶剤;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル等のグリコールエーテル系溶剤;などが挙げられる。これらの有機溶剤は、1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
有機溶剤の使用量としては、特定ポリエステル樹脂100質量部に対し、10質量部以上2000質量部以下が好ましく、100質量部以上1000質量部以下がより好ましい。有機溶剤の使用量が特定ポリエステル樹脂100質量部に対し10質量部以上であると、粒子の分散が安定し、有機溶剤の使用量が特定ポリエステル樹脂100質量部に対し2000質量部以下であると、有機溶剤を除去する工程が不要又は短時間にすることができる。
転相乳化法及び含浸法に用いる中和剤としては、特定ポリエステル樹脂がアニオン性基を有する場合、有機塩基、無機アルカリが挙げられる。有機塩基としては、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン等が挙げられる。無機アルカリとしては、アルカリ金属の水酸化物(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム等)、炭酸塩(例えば、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等)、アンモニアなどが挙げられる。中和剤の添加量は、粒子の分散安定性の観点から、粒子分散液のpHが後述の範囲となる添加量が好ましい。
転相乳化法及び含浸法における特定ポリエステル樹脂の使用量、及び特定スクアリリウム系色素を用いる場合、粒子分散液に含まれる特定ポリエステル樹脂の含有量としては、特定スクアリリウム系色素100質量部に対し、100質量部以上9900質量部以下が好ましく、300質量部以上4900質量部以下がより好ましい。特定ポリエステル樹脂の使用量(特定ポリエステル樹脂の含有量)が特定スクアリリウム系色素100質量部に対し100質量部以上であると、特定スクアリリウム系色素の分散が安定し、特定ポリエステル樹脂の使用量(特定ポリエステル樹脂の含有量)が特定スクアリリウム系色素100質量部に対し9900質量部以下であると、粒子分散液の赤外線吸収効率が向上する。
転相乳化法及び含浸法において、特定スクアリリウム系色素以外の有機化合物も用いて、該化合物を特定スクアリリウム系色素及び特定ポリエステル樹脂と共に粒子化し、三者を含有する粒子を形成してもよい。共に粒子化する有機化合物としては、例えば、染料、特定スクアリリウム系色素以外の赤外線吸収能を有する化合物(例えば、スクアリリウム系色素、クロコニウム系色素、ナフタロシアニン系色素、シアニン系色素、アミニウム系色素等)、紫外線吸収能を有する化合物(例えば、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物等)などが挙げられる。
[粒子分散液の物性]
粒子分散液に含まれる粒子の体積平均粒径は、10nm以上150nm以下が好ましく、10nm以上120nm以下がより好ましく、10nm以上100nm以下が更に好ましい。粒子の体積平均粒径が10nm以上であると、形成された画像の耐光性に優れ、粒子の体積平均粒径が150nm以下であると、インクジェット方式で記録する際の打滴特性に優れるためである。粒径分布は、幅が広い粒径分布又は単分散性の粒径分布のいずれであってもよい。粒子の平均粒径及び粒径分布は、例えば、光散乱法を用いて測定する。
本実施形態に係る粒子分散液のpHは、特定スクアリリウム系色素の分解を抑制し、経時的な劣化を抑制する観点から、10.5以下が好ましく、10.0以下がより好ましく、9.5以下が更に好ましく、9.0以下が特に好ましい。一方、粒子を安定的に分散させる観点からは、本実施形態に係る粒子分散液のpHは、6.0以上が好ましく、6.5以上がより好ましく、7.0以上が更に好ましい。
また、一般的な水性インクがアルカリ性(pH8から10程度)であるので、本実施形態に係る粒子分散液を用いて水性インクを調製する観点からも、本実施形態に係る粒子分散液のpHは、上記の範囲が好ましい。本実施形態において粒子分散液のpHは、温度23±0.5℃、相対湿度55±5%の環境下で測定する。
本実施形態に係る粒子分散液の表面張力は、20mN/m以上40mN/m以下が好ましく、25mN/m以上35mN/m以下がより好ましい。本実施形態において粒子分散液の表面張力は、ウィルヘルミー型表面張力計を用いて、温度23±0.5℃、相対湿度55±5%の環境下で測定する。
本実施形態に係る粒子分散液の粘度は、1mPa・s以上30mPa・s以下が好ましく、2mPa・s以上20mPa・s以下がより好ましい。本実施形態において粒子分散液の粘度は、TV−20形粘度計(東機産業株式会社)を測定装置として用い、温度23±0.5℃、せん断速度1400s−1の条件で測定する。
<水性インク>
本実施形態に係る水性インクは、水性媒体と、該水性媒体に分散した粒子とを含む水性インクであり、粒子が、特定スクアリリウム系色素及び特定ポリエステル樹脂を含有する。水性インクに含まれる粒子は、ポリウレタン樹脂、特定ポリエステル樹脂以外のポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレア樹脂及びポリカーボネート樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂を更に含有してもよい。
本実施形態に係る水性インクにおける、特定スクアリリウム系色素、特定ポリエステル樹脂、及び粒子の詳細は、本実施形態に係る粒子分散液について述べたとおりである。
本実施形態に係る水性インクは、例えば、本実施形態に係る粒子分散液そのもの;本実施形態に係る粒子分散液に、少なくとも着色剤を添加した組成物;市販の水性インクに、本実施形態に係る粒子分散液を添加した組成物;などである。
[水性媒体]
水性インクの媒体は、水、又は、水を主たる溶媒とする混合溶媒である。混合溶媒は、例えば、水と水溶性有機溶剤との混合物である。水溶性有機溶剤としては、例えば、アルコール、多価アルコール、多価アルコール誘導体、含窒素溶剤、含硫黄溶剤などが挙げられる。水性インクにおける水及び水溶性有機溶剤の詳細は、粒子分散液について述べたのと同様である。
水の含有量は、水性インクの全質量に対して、40質量%以上80質量%以下が好ましく、50質量%以上80質量%以下がより好ましい。水溶性有機溶剤の含有量は、水性インクの全質量に対して、50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましい。
[着色剤]
着色剤としては、顔料又は染料が挙げられ、画像の耐光性等の観点からは顔料が好ましい。
着色剤として顔料を使用する場合は、併せて顔料分散剤を用いることが好ましい。顔料分散剤としては、公知の高分子分散剤及び界面活性剤等が挙げられる。顔料分散剤は、1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。顔料分散剤の含有量は、顔料の種類及び顔料分散剤の種類により異なるため一概には言えないが、顔料の含有量に対して0.1質量%以上100質量%以下がよい。
顔料としては、水に自己分散する顔料(以下「自己分散型顔料」という。)も挙げられる。自己分散型顔料とは、顔料表面に親水性基を有し、顔料分散剤が存在しなくとも水に分散する顔料のことを指す。自己分散型顔料としては、例えば、顔料に対して、カップリング剤処理、ポリマーグラフト処理、プラズマ処理、酸化処理、還元処理等の表面改質処理を施すことにより得られる、公知のあらゆる自己分散型顔料が挙げられる。
顔料としては、樹脂により被覆された所謂マイクロカプセル顔料も挙げられる。市販のマイクロカプセル顔料としては、DIC株式会社製、東洋インキ株式会社製がある。また、顔料としては、高分子化合物を顔料に物理的に吸着又は化学的に結合させた、樹脂分散型顔料も挙げられる。
顔料としては、赤色、緑色、茶色、白色等の特定色顔料;金色、銀色等の金属光沢顔料;無色又は淡色の体質顔料;プラスチックピグメント;シリカ、アルミナ、又はポリマービード等の表面に染料又は顔料を固着させた粒子;染料の不溶レーキ化物;着色エマルジョン;着色ラテックス;なども挙げられる。
着色剤として染料を使用する場合は、染料を高分子分散剤(例えば、本開示の特定ポリエステル樹脂)と共に粒子化し、該粒子を水性インクに含ませることが好ましい。
着色剤が粒状物である場合、その体積平均粒径は、例えば、10nm以上200nm以下である。
着色剤の含有量は、水性インクの全質量に対して、1質量%以上25質量%以下が好ましく、2質量%以上20質量%以下がより好ましい。また、本実施形態に係る水性インクは、着色剤を含有しない透明インクとして使用してもよい。
[添加剤]
本実施形態に係る水性インクは、必要に応じて、各種の添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、ポリマー、界面活性剤、浸透剤、粘度調整剤、pH調整剤、pH緩衝剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防カビ剤等が挙げられる。本実施形態に係る水性インクは、特定スクアリリウム系色素以外の赤外線吸収能を有する化合物を含んでいてもよい。
[水性インクの物性]
水性インクに含まれる赤外線吸収性粒子の体積平均粒径は、10nm以上150nm以下が好ましく、10nm以上120nm以下がより好ましく、10nm以上100nm以下が更に好ましい。赤外線吸収性粒子の体積平均粒径が10nm以上であると、形成された画像の耐光性に優れ、赤外線吸収性粒子の体積平均粒径が150nm以下であると、インクジェット方式で記録する際の打滴特性に優れるためである。粒径分布は、幅広い粒径分布又は単分散性の粒径分布のいずれであってもよい。粒子の平均粒径及び粒径分布は、例えば、光散乱法を用いて測定する。
本実施形態に係る水性インクのpHは、6.5以上10.5以下が好ましく、7.0以上10.0以下がより好ましく、8.0以上10.0以下が更に好ましい。本実施形態において水性インクのpHは、温度23±0.5℃、相対湿度55±5%の環境下で測定する。
本実施形態に係る水性インクの表面張力は、20mN/m以上40mN/m以下が好ましく、25mN/m以上35mN/m以下がより好ましい。本実施形態において水性インクの表面張力は、ウィルヘルミー型表面張力計を用いて、温度23±0.5℃、相対湿度55±5%の環境下で測定する。
本実施形態に係る水性インクの粘度は、1mPa・s以上30mPa・s以下が好ましく、2mPa・s以上20mPa・s以下がより好ましい。本実施形態において水性インクの粘度は、TV−20形粘度計(東機産業)を測定装置として用い、温度23±0.5℃、せん断速度1400s−1の条件で測定する。
<インクカートリッジ>
本実施形態に係るインクカートリッジは、本実施形態に係る水性インクを収容したカートリッジである。本実施形態に係るインクカートリッジは、例えば、インクジェット方式の記録装置に着脱可能な形態で提供される。
<記録装置、記録方法>
本実施形態に係る記録装置は、本実施形態に係る水性インクを収容し、該水性インクを記録媒体に付与するインク付与手段と、記録媒体に付与された水性インクに赤外線を照射する赤外線照射手段とを備える。本実施形態に係る記録装置により、本実施形態に係る水性インクを記録媒体に付与するインク付与工程と、記録媒体に付与された水性インクに赤外線を照射する赤外線照射工程とを有する記録方法が実現される。
本実施形態におけるインク付与手段としては、例えば、インクジェット方式によりインクを吐出する吐出手段;ロール、スプレー、スポンジ等による塗布手段;オフセット印刷、スクリーン印刷、グラビア印刷、凸版印刷等による印刷手段;が挙げられる。
本実施形態におけるインク付与手段は、インクジェット方式によりインクを吐出する吐出手段が好適である。インクジェット方式を適用した記録装置及び記録方法は、本実施形態に係る水性インクを用いることにより、吐出安定性に優れる。
本実施形態に係る記録装置は、記録媒体に付与された水性インクを乾燥させる乾燥手段として、赤外線照射手段を備える。本実施形態に係る記録装置は、前記乾燥手段として、赤外線照射手段のほかに、加熱ロール、加熱ドラム、加熱ベルト等の接触式加熱手段;発熱体及び送風機からなる温風送風手段;これらの組合せ;を備えていてもよい。
記録媒体としては、例えば、紙;樹脂でコートされた紙;樹脂、金属、ガラス、セラミックス、シリコン、ゴム等を材料とするフィルム及び板;が挙げられる。
本実施形態に係る記録装置は、本実施形態に係る水性インクを収容し、記録装置に着脱されるようカートリッジ化されたインクカートリッジを備えていてもよい。
以下、本実施形態に係る記録装置及び記録方法の一例について図面を参照しつつ説明する。
図1は、本実施形態に係る記録装置の一例を示す概略構成図である。図1に示す記録装置12は、インクジェット方式の記録装置である。
図1に示す記録装置12は、筐体14の内部に、画像記録前の記録媒体Pを収容する容器16と、駆動ロール24及び従動ロール26に張架された無端状の搬送ベルト28と、インク付与手段の一例であるインク吐出ヘッド(インク吐出ヘッド30Y、30M、30C、30K。総称するときは、インク吐出ヘッド30という。)と、赤外線照射手段(赤外線照射装置60Y、60M、60C、60K。総称するときは、赤外線照射装置60という。)と、画像記録後の記録媒体Pを収容する容器40とを備える。
容器16と搬送ベルト28との間は、画像記録前の記録媒体Pが搬送される搬送経路22であり、搬送経路22には、記録媒体Pを容器16から1枚ずつ取り出すロール18と、記録媒体Pを搬送する複数のロール対20とが配置されている。搬送ベルト28の上流側には、帯電ロール32が配置されている。帯電ロール32は、従動ロール26との間で搬送ベルト28及び記録媒体Pを挟みつつ従動し、接地された従動ロール26との間に電位差を生じさせ、記録媒体Pに電荷を与えて搬送ベルト28に静電吸着させる。
インク吐出ヘッド30は、搬送ベルト28の平坦部分に対向して、搬送ベルト28の上方に配置されている。インク吐出ヘッド30と搬送ベルト28とが対向した領域が、インク吐出ヘッド30からインク滴が吐出される領域である。
インク吐出ヘッド30Y、30M、30C、30Kはそれぞれ、Y(イエロー)色の画像を記録するヘッド、M(マゼンタ)色の画像を記録するヘッド、C(シアン)色の画像を記録するヘッド、K(ブラック)色の画像を記録するヘッドである。インク吐出ヘッド30Y、30M、30C、30Kは、例えばこの順に、搬送ベルト28の上流側から下流側に並べられている。インク吐出ヘッド30Y、30M、30C、30Kはそれぞれ、記録装置12に着脱される各色のインクカートリッジ31Y、31M、31C、31Kと供給管(不図示)を通じて連結され、インクカートリッジから各色のインクがインク吐出ヘッドへ供給される。
インク吐出ヘッド30としては、例えば、有効な記録領域(インクを吐出するノズルの配置領域)が記録媒体Pの幅(記録媒体Pの搬送方向と直交する方向の長さ)以上とされた長尺状のヘッド;記録媒体Pの幅よりも短尺状のヘッドであって、記録媒体Pの幅方向に移動してインクを吐出するキャリッジ方式のヘッド;が挙げられる。
インク吐出ヘッド30が採用するインクジェット方式としては、ピエゾ素子の振動圧力を利用するピエゾ方式;静電誘引力を利用してインクを吐出する電荷制御方式;電気信号を音響ビームに変えインクに照射して放射圧を利用してインクを吐出する音響インクジェット方式;インクを加熱して気泡を形成し、生じた圧力を利用するサーマルインクジェット方式;などが挙げられる。
インク吐出ヘッド30は、例えば、インク滴量10pL以上15pL以下の範囲でインク滴を吐出する低解像度用の記録ヘッド(例えば600dpiの記録ヘッド)、インク滴量10pL未満の範囲でインク滴を吐出する高解像度用の記録ヘッド(例えば1200dpiの記録ヘッド)である。dpiは「dots per inch」を意味する。
記録装置12は、4つのインク吐出ヘッドを備える形態に限られない。記録装置12は、YMCKに中間色を加えた5つ以上のインク吐出ヘッドを備える形態;1つのインク吐出ヘッドを備え1色単独の画像を記録する形態;であってもよい。
インク吐出ヘッド30の下流側には、搬送ベルト28の上方に、各色のインク吐出ヘッドごとに赤外線照射装置60Y、60M、60C、60Kが配置されている。赤外線照射装置60(赤外線照射手段の一例)は、記録媒体P上のインクに赤外線を照射してインクの乾燥を行う。
赤外線照射装置60の光源としては、例えば、発光ダイオード、半導体レーザ、面発光型半導体レーザ、ハロゲンランプ、キセノンランプが挙げられる。
赤外線照射装置60としては、例えば、有効な赤外線照射領域(赤外線を照射する光源の配置領域)がインク吐出ヘッド30による記録領域の幅以上とされた長尺状の赤外線照射装置;インク吐出ヘッド30による記録領域の幅よりも短尺状の赤外線照射装置であって、記録媒体Pの幅方向に移動して赤外線を照射するキャリッジ方式の赤外線照射装置;が挙げられる。
赤外線照射装置60の照射条件は、インクの赤外線吸収性能、インク中の水分量などに応じて設定する。照射条件としては、記録媒体P上に付与されたインク中の水分量を10質量%以下に乾燥させる照射条件が好ましい。具体的には、例えば、中心波長が700nm以上1200nm以下(好ましくは780nm以上980nm以下)、照射強度が0.1J/cm2以上10J/cm2以下(好ましくは1J/cm2以上3J/cm2以下)、照射時間が0.1ミリ秒以上10秒以下(好ましくは10ミリ秒以上100ミリ秒以下)である。
記録装置12は、各色のインク吐出ヘッドごとに赤外線照射装置を備える形態に限られず、最下流のインク吐出ヘッドの下流側に1つの赤外線照射装置を備える形態であってもよい。
記録装置12は、赤外線照射装置60と共に、インクの乾燥手段として接触式加熱手段及び温風送風手段の少なくともいずれかを備えていてもよい。接触式加熱手段又は温風送風手段は、例えば、記録媒体の表面温度を50℃以上120℃以下の範囲に上昇させる条件で乾燥を行う。
赤外線照射装置60の下流側には、駆動ロール24と対向して剥離板34が配置されている。剥離板34は、記録媒体Pを搬送ベルト28から剥離させる。
搬送ベルト28と容器40との間は、画像記録後の記録媒体Pが搬送される搬送経路36であり、搬送経路36には、記録媒体Pを搬送する複数のロール対38が配置されている。
記録装置12の動作について説明する。画像記録前の記録媒体Pは、容器16からロール18で1枚ずつ取り出され、複数のロール対20によって搬送ベルト28へ搬送される。次いで、記録媒体Pは、帯電ロール32によって搬送ベルト28に静電吸着され、搬送ベルト28の回転によってインク吐出ヘッド30の下方へ搬送される。次いで、記録媒体P上に、インク吐出ヘッド30からインクが吐出され、画像が記録される。次いで、記録媒体P上のインクに赤外線照射装置60から赤外線が照射され、インクが赤外線吸収によって発熱し、インク温度が上昇し、インクが乾燥する。次いで、インクが乾燥し画像が固定化された記録媒体Pは、剥離板34によって搬送ベルト28から剥離され、複数のロール対38によって容器40に搬送される。
本実施形態に係る記録装置は、インク付与手段から記録媒体にインクを直接付与する形態に限られず、インク付与手段から中間転写体にインクを付与した後、中間転写体上のインクを記録媒体に転写する形態であってもよい。
本実施形態に係る記録装置は、図1に示す記録装置12を一例とする枚葉機に限られず、輪転機でもよい。
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、特に断りのない限り「部」及び「%」はすべて質量基準である。
<一般式(I)で表される化合物の合成>
[化合物(I−a−1)の合成]
下記の反応スキームに従って化合物(I−a−1)を合成した。
三口フラスコにDean−Starkトラップ、還流冷却管、撹拌シール及び撹拌棒を設置し、反応容器とした。反応容器に2,2,8,8−テトラメチル−3,6−ノナジイン−5−オールとシクロヘキサンを入れた。酸化マンガン(IV)の粉末を加え、スリーワンモータで撹拌し、加熱還流させた。反応中にできた水を共沸蒸留により除去した。薄層クロマトグラフィーで2,2,8,8−テトラメチル−3,6−ノナジイン−5−オールの残存がないことを確認した。反応混合物を放冷後、減圧濾過し、黄色の濾液(F−1)を得た。濾別した固体を別の容器に移して酢酸エチルを添加し、超音波分散して濾過する作業を4回繰り返し、酢酸エチル抽出液(F−2)を得た。酢酸エチル抽出液(F−2)と濾液(F−1)とを混合し、ロータリーエバポレータ、次いで真空ポンプで濃縮し、オレンジ色の液体を得た。オレンジ色の液体を減圧蒸留し、淡黄色液体(中間体1)を得た。
三口フラスコに温度計及び滴下漏斗を設置し、反応容器とした。エタノールに一硫化水素ナトリウムn水和物を加え、室温(20℃)下で溶解するまで撹拌した後、氷水で冷却した。内温が5℃になったところで、中間体1とエタノールの混合液を少しずつ滴下した。滴下により液が黄色からオレンジ色に変化した。発熱により内温が上昇するため、滴下量を調整しながら、内温5℃以上7℃以下の範囲で滴下した。その後、氷水バスを外し、室温(20℃)下で自然昇温させながら撹拌した。反応液に水を投入し、ロータリーエバポレータでエタノールを除去した。その後、飽和するまで食塩を加え、酢酸エチルで分液して有機相を回収した。有機相を飽和塩化アンモニウムで2回洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させた。乾燥後、減圧濃縮し、茶色の液体を回収した。茶色の液体を減圧蒸留した。200℃から留分が出始めるが、初留は目的とする成分の純度が低いので、蒸気量が増えたところで本留とした。黄色液体(中間体2)が蒸留された。
三口フラスコに撹拌棒と中間体2とを入れ、窒素導入管及び還流冷却器を付け、窒素置換した。窒素雰囲気下、無水テトラヒドロフランを注射器で加え、室温(20℃)下で撹拌しながら臭化メチルマグネシウムの1Mテトラヒドロフラン溶液を注射器で滴下した。滴下終了後、この反応液を加熱撹拌し、還流させた。窒素雰囲気下、反応液を放冷後、氷水浴にて冷却しながら、臭化アンモニウムを水に溶かした溶液を滴下した。反応混合物をさらに室温(20℃)にて撹拌した後、n−ヘキサンを加え、硫酸ナトリウムで乾燥した。乾燥後、n−ヘキサン/テトラヒドロフラン溶液を注射筒で取出し、無機層を酢酸エチルで洗浄し抽出液を得た。n−ヘキサン/テトラヒドロフラン溶液と無機層からの抽出液とを混合し、減圧濃縮後真空乾燥し、中間体3を得た。
窒素雰囲気下、中間体3及びスクアリン酸を、シクロヘキサンとイソブタノールとの混合溶媒に分散し、ピリジンを加えて加熱還流させた。その後、イソブタノールを追加し、反応混合物をさらに加熱還流させた。反応中に生じた水を共沸蒸留により除去した。反応混合物を放冷後、減圧濾過し、難溶物を除去した。濾液をロータリーエバポレータで濃縮した。残渣にメタノールを添加し、40℃に加熱後、−10℃に冷却した。濾過にて結晶を得て、これを真空乾燥し、化合物(I−a−1)を得た。
[化合物(I−a−2)の合成]
化合物(I−a−1)の合成において、2,2,8,8−テトラメチル−3,6−ノナジイン−5−オールの代わりに2,8−ジメチル−3,6−ノナジイン−5−オールを使用したこと以外は同様の手順で、化合物(I−a−2)を合成した。
<一般式(II)で表される化合物の合成>
[化合物(II−b−2)の合成]
下記の反応スキームに従って化合物(II−b−2)を合成した。
1,8−ジアミノナフタレン、2,6−ジメチルヘプタン−4−オン(化合物(a))、p−トルエンスルホン酸一水和物との混合液を窒素ガスの雰囲気中に攪拌しながら加熱し、5時間還流させた。反応中にできた水を共沸蒸留により除去した。反応終了後、トルエンを蒸留して得られた暗茶色固体はアセトンで抽出し、アセトンとエタノールの混合溶媒から再結晶することにより精製し、乾燥することにより、茶色固体(化合物(b))を得た。
この化合物(b)、3,4−ジヒドロキシシクロブタ−3−エン−1,2−ジオン、n−ブタノール及びトルエンの混合液を窒素ガスの雰囲気中に攪拌しながら加熱し、3時間還流反応させた。反応中にできた水を共沸蒸留により除去した。反応終了後、大部分の溶媒を窒素ガスの雰囲気中に蒸留し、得られた反応混合物を攪拌しながら、100mlのヘキサンを加えた。生成した黒青色沈殿物を吸引濾過し、ヘキサンで洗浄し、乾燥後、黒青色固体を得た。この固体をアセトン/エタノールから再結晶し、目的の化合物(II−b−2)を得た。
<ポリエステル樹脂の合成>
[ポリエステル樹脂P11の合成]
・テレフタル酸ジメチル 184.5部
・トリメリット酸無水物 9.6部
・エチレングリコール 6.5部
・ビスフェノールAエチレンオキシド2mol付加物 284.8部
撹拌機及び蒸留管を装着した三口フラスコに、上記の原料モノマーと、縮合触媒として酢酸カルシウム0.1部及び酸化アンチモン(III)0.1部を入れ、窒素気流下、生成するメタノール及びエチレングリコールを留去しつつ昇温し、150℃に保ちながら30分間撹拌し、さらに190℃に保ちながら1時間撹拌した。次いで、温度を150℃に下げ、撹拌下、ポンプにより反応系内を徐々に減圧し、反応系内の圧力を10Pa以上40Pa以下の範囲に保ちながら、反応系内を昇温し、250℃でさらに3時間反応させた。フローテスターにより所定の軟化温度に達したことを確認し、反応を終了した。得られたポリエステル樹脂P11の特性を表4に示す。
[ポリエステル樹脂P12の合成]
原料モノマーを下記のものに変更した以外は、ポリエステル樹脂P11の合成方法に従って合成し、ポリエステル樹脂P12を得た。
・テレフタル酸ジメチル 188.4部
・トリメリット酸無水物 5.8部
・エチレングリコール 26.0部
・グリセリン 9.2部
・ビスフェノールAプロピレンオキシド2mol付加物 172.2部
[ポリエステル樹脂P13の合成]
原料モノマーを下記のものに変更した以外は、ポリエステル樹脂P11の合成方法に従って合成し、ポリエステル樹脂P13を得た。
・テレフタル酸ジメチル 87.4部
・イソフタル酸ジメチル 87.4部
・トリメリット酸無水物 15.4部
・ドデセニルコハク酸 5.3部
・ビスフェノールAエチレンオキシド2mol付加物 158.2部
・ビスフェノールAプロピレンオキシド2mol付加物 172.2部
[ポリエステル樹脂P14の合成]
原料モノマーを下記のものに変更した以外は、ポリエステル樹脂P11の合成方法に従って合成し、ポリエステル樹脂P14を得た。
・テレフタル酸ジメチル 190.3部
・トリメリット酸無水物 3.8部
・ビスフェノールAエチレンオキシド2mol付加物 158.2部
・ビスフェノールAプロピレンオキシド2mol付加物 172.2部
[ポリエステル樹脂P15の合成]
原料モノマーを下記のものに変更した以外は、ポリエステル樹脂P11の合成方法に従って合成し、ポリエステル樹脂P15を得た。
・テレフタル酸ジメチル 133.2部
・イソフタル酸ジメチル 59.1部
・エチレングリコール 26.0部
・グリセリン 9.2部
・ビスフェノールAプロピレンオキシド2mol付加物 172.2部
[ポリエステル樹脂P08の合成]
原料モノマーを下記のものに変更した以外は、ポリエステル樹脂P11の合成方法に従って合成し、ポリエステル樹脂P08を得た。
・テレフタル酸ジメチル 97.1部
・イソフタル酸ジメチル 93.2部
・トリメリット酸無水物 3.8部
・ネオペンチルグリコール 67.9部
・ビスフェノールAプロピレンオキシド2mol付加物 120.6部
[ポリエステル樹脂PH−1の合成]
原料モノマーを下記のものに変更した以外は、ポリエステル樹脂P11の合成方法に従って合成し、ポリエステル樹脂PH01を得た。
・テレフタル酸ジメチル 133.2部
・イソフタル酸ジメチル 59.1部
・エチレングリコール 29.3部
・グリセリン 4.6部
・ビスフェノールAプロピレンオキシド2mol付加物 172.2部
[ポリエステル樹脂PH−2の合成]
原料モノマーを下記のものに変更した以外は、ポリエステル樹脂P11の合成方法に従って合成し、ポリエステル樹脂PH02を得た。
・テレフタル酸ジメチル 68.0部
・イソフタル酸ジメチル 68.0部
・トリメリット酸無水物 15.4部
・ドデセニルコハク酸 58.5部
・ビスフェノールAエチレンオキシド2mol付加物 126.6部
・ビスフェノールAプロピレンオキシド2mol付加物 206.7部
[ポリエステル樹脂PH−3の合成]
原料モノマーを下記のものに変更した以外は、ポリエステル樹脂P11の合成方法に従って合成し、ポリエステル樹脂PH03を得た。
・テレフタル酸ジメチル 188.4部
・トリメリット酸無水物 5.8部
・エチレングリコール 44.3部
・グリセリン 9.2部
・ビスフェノールAプロピレンオキシド2mol付加物 86.1部
[実施例1]
<粒子分散液の製造>
フラスコに、合成されたポリエステル樹脂P11を5g加え、メチルエチルケトン(MEK)8mlを更に加えて撹拌した。水酸化ナトリウムの10%水溶液の、ポリエステル樹脂P11に含まれるカルボン酸の総量の0.8当量を中和する量を、撹拌しながら加えた。この溶液に、赤外線吸収剤である化合物(I−a−1)40mgと、テトラヒドロフラン(THF)1.0mlを加えて、化合物(I−a−1)を溶解させた。撹拌を続けながら水12mlを徐々に添加した。
次にフラスコに蒸留管と減圧ポンプを付け、30℃以上35℃以下となるように溶液を加熱して撹拌しながら減圧し、有機溶媒と水の一部を留去した。有機溶媒を留去する途中、固形分濃度が13%を超えないように水を加える操作と濃縮する操作とを、有機溶剤臭が無くなるまで繰り返した。濃縮液を0.45μmフィルターで濾過し、分散液を得た。
この分散液について、後述する方法によって固形分量及び収率を求めた。測定した固形分量に基づいて、この分散液に水を添加して固形分濃度を10質量%に調整し、粒子分散液(AD−1)を得た。粒子分散液(AD−1)の製造に用いた化合物(I−a−1)の量及びポリエステル樹脂P11の量から換算すると、粒子分散液(AD−1)における化合物(I−a−1)の濃度は0.4質量%であった。
<水性インクの調製>
(シアン分散液の調液)
反応容器に、スチレン6部、ステアリルメタクリレート11部、スチレンマクロマーAS−6(東亜合成製)4部、プレンマーPP−500(日油株式会社製)5部、メタクリル酸5部、2−メルカプトエタノール0.05部、及びメチルエチルケトン24部の混合溶液を調液した。
一方、スチレン14部、ステアリルメタクリレート24部、スチレンマクロマーAS−6(東亜合成製)9部、プレンマーPP−500(日油株式会社製)9部、メタクリル酸10部、2−メルカプトエタノール0.13部、メチルエチルケトン56部、及び2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)1.2部を含む混合溶液を調液し、滴下漏斗に入れた。
次いで、窒素雰囲気下、反応容器内の混合溶液を攪拌しながら75℃まで昇温し、滴下漏斗中の混合溶液を1時間かけて徐々に滴下した。滴下終了から2時間経過後、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)1.2部をメチルエチルケトン12部に溶解した溶液を3時間かけて滴下し、更に75℃で2時間、80℃で2時間熟成させ、水不溶性ポリマー分散剤のメチルエチルケトン溶液を得た。
得られた水不溶性ポリマー分散剤溶液の一部について、溶媒を除去することによって単離し、得られた固形分をテトラヒドロフランにて0.1質量%に希釈し、GPCにて重量平均分子量を測定した。その結果、単離された固形分は、ポリスチレン換算の重量平均分子量が25,000であった。
また、得られた水不溶性ポリマー分散剤溶液を固形分換算で5.0g、シアン顔料ピグメントブルー15:3(大日精化工業株式会社製)10.0g、メチルエチルケトン40.0g、1mol/L水酸化ナトリウム8.0g、イオン交換水82.0g、及び0.1mmジルコニアビーズ300gをベッセルに供給し、レディーミル分散機(アイメックス製)で1000rpm6時間分散した。得られた分散液をエバポレーターでメチルエチルケトンが十分留去できるまで減圧濃縮し、顔料濃度が10%になるまで濃縮し、水不溶性ポリマー分散剤で表面が被覆された顔料よりなる水不溶性着色粒子として、シアン分散液CD1を得た。得られたシアン分散液の平均粒径は77nmであった。
(シアンインクC−1の調液)
下記のインク組成になるようにインクを調液した。調液後5μmフィルターで粗大粒子を除去し、水性インク組成物としてシアンインクC−1を調製した。
・シアン分散液CD1 6%
・粒子分散液AD−1(固形分換算) 2%
・プロピレングリコール(和光純薬製) 25%
・プロピレングリコールモノブチルエーテル 3%
・オルフィンE1010(日信化学工業株式会社製) 0.7%
・オルフィンE1004(日信化学工業株式会社製) 0.3%
・イオン交換水 合計が100%となる量を添加
[実施例2〜8、比較例1〜4]
表4に従って、ポリエステル樹脂の種類、赤外線吸収剤の種類を変更したこと以外は、粒子分散液AD−1の製造方法に従って製造し、粒子分散液AD−2〜AD−8及びADH−1〜ADH−4を得た。
なお、表4中の「I−a−2」は化合物(I−a−2)であり、「II−b−2」は化合物(II−b−2)であり、「III」は下記構造式で表される化合物(III)である。
上記シアンインクC−1の調液において、粒子分散液AD−1を粒子分散液AD−2〜AD−8及びADH−1〜AD〜4に変更したこと以外は、シアンインクC−1の製造方法に従って製造し、シアンインクC−2〜C−8及びCH−1〜CH−4を得た。
[評価]
(ポリエステル樹脂のガラス転移温度)
ポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)は、ASTM D3418に準拠して、示差走査熱量計(株式会社島津製作所製:DSC−60A)を用いて測定された。より詳しくは、昇温速度10℃/minで昇温し、200℃で5分間ホールドし、200℃から0℃まで液体窒素を用いて−10℃/分で降温し、0℃で5分間ホールドし、再度0℃から200℃まで10℃/分で昇温を行った。2度目の昇温時の吸熱曲線から解析を行い、吸熱部のベースラインの延長線と、Tg近傍の吸熱カーブの接線の交点の温度を、ガラス転移温度Tgとした。
(ポリエステル樹脂の軟化温度)
ポリエステル樹脂の軟化温度(Tm)は、フローテスター(株式会社島津製作所製、CFT−500C)を用い、荷重10kgf/cm2、ノズルの直径1mm、ノズルの長さ1mm、予熱80℃で5分間、昇温速度6℃/分とし、試料量1gを測定記録した時、フローテスターのプランジャ降下量−温度曲線におけるS字曲線の高さの1/2における温度(1/2流出温度)を軟化温度Tmとした。
(粒子分散液の赤外線吸収量)
各実施例及び各比較例で得られた粒子分散液(固形分濃度10質量%)を60℃で1日間保管した後、蒸留水にて1800倍に希釈した。光路長1cmのセルを用いて波長818nmにおける希釈液の赤外線吸収量を、分光光度計(株式会社日立製作所、U−4100)を用いて測定し、波長818nmにおけるabsorbanceの値を求めた。
−評価基準−
A:absorbance 0.6以上
B:absorbance 0.4以上0.6未満
C:absorbance 0.4未満
(ドキュメントオフセット評価)
各実施例及び各比較例で製造された直後の各シアンインクを、セイコーエプソン株式会社製インクジェットプリンターPX−1004のカートリッジに詰め替えた。特菱アート両面N(三菱製紙株式会社製)にインクジェットプリンターPX−1004で全面画像を印字したところ、シアンインクC−1〜C−9のいずれにおいても、吐出不良が無く、良好な印字が行えた。
次いで、得られた全面画像に対して、中心波長810nm、照射強度3J/cm2、照射時間200ミリ秒の条件で赤外線照射を行った。その後、2枚の印字サンプルを画像面が接触するように合わせた後、平らな面に置いた。重ね合わせた2枚の印字サンプルの上面(印刷されていない面)に、縦1cm×横1cm×厚さ0.2cmのゴムシートを載せ、その上に3kgの重りを載せて、温度22℃、湿度50%の環境で20時間放置した。試験終了後、ゴムシート及び重りを取り除き、2枚の印字サンプルの重ね合わせた部分を剥がした。印字画像を目視で観察し、下記の評価基準に基づいて、ドキュメントオフセットを評価した。
−評価基準−
A:剥がれが生じていない
B:剥がれがわずかに生じた
C:剥がれが多く、白い部分が目立っている、
表4に示す通り、ポリエステル樹脂の分子構造中における一般式(F1)で表されるビスフェノール構成単位の含有率が20質量%以上であり、ポリエステル樹脂のガラス転移温度Tgが70℃以上であり、且つ、ポリエステル樹脂の軟化温度Tmが110℃以上である実施例1〜8では、該含有率が20質量%未満である比較例1に比べて、赤外線吸収量が向上し、ドキュメントオフセットの発生が抑制されていることが分かった。また、ポリエステル樹脂の分子構造中における一般式(F1)で表されるビスフェノール構成単位の含有率が20質量%以上であり、ガラス転移温度Tgが70℃以上であり、且つ、軟化温度Tmが110℃以上である実施例1〜8では、該軟化温度Tmが110℃未満である比較例2、及び、該ガラス転移温度Tgが70℃未満である比較例3に比べて、ドキュメントオフセットの発生が抑制されていることが分かった。