JP6874956B2 - セシウム吸収を制御する遺伝子およびセシウム低吸収性植物 - Google Patents

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Description

本発明は、植物においてセシウム(Cs)吸収を制御する遺伝子に関する。本発明は、植物育種等の分野で有用である。
2011年に発生した東日本大震災は、原子力発電所事故をも引き起こし、ベントや水素爆発により放出された放射性元素が広範囲の土壌や植物を汚染した。環境中に放出された放射性核種で半減期が短いヨウ素131(131I)などはすでに検出されない。しかし、セシウム137(137Cs)は原発からの放出量が多く、また半減期が30.2年と長いため、汚染された地域では今後長期間にわたり高い空中線量、ならびに植物および農作物の放射性セシウム汚染が問題となる。このように、東日本大震災は地震や津波の被害に加え、原子力発電所事故による放射性物質汚染をも被災地にもたらしている。被災地の農業の復興のためには農作物の風評被害を防ぎ、安全性を確保するために、主要な作物でセシウムの吸収量を低減させる(セシウムを吸収させない)技術を確立することが現在最も求められている。
震災直後から多くの研究者による懸命な調査やモニタリングにより、環境中における137Csの挙動の把握が進められてきた。セシウムの土壌への吸着は他の1価カチオンよりもはるかに強いため、一旦吸着したセシウムは粘土鉱物から容易には脱着せず、結果的に土壌の表層に集積する。さらに、セシウムは粘土鉱物のFrayed Edgeと呼ばれるサイトにイオンの脱水を伴う形で吸着すると、ほぼ不可逆的に固定され時間の経過とともに植物にも吸収されにくくなることが明らかにされている(非特許文献1)。震災後、時間の経過とともに基準値を超える作物、特にコメについて、その点数は減っており、このことはセシウムの土壌への固定化が進んでいることを示している。また、カリウムを多量に施肥することで作物に取り込まれるセシウムを競合効果で抑制できることもわかってきている(非特許文献2)。
また、イネを含む種々の植物において、高親和性カリウム(high affinity K+, HAK)トランスポーターの遺伝子ファミリーの存在が知られており、系統解析や機能的な相違等が検討されてきている(非特許文献3)
一方、植物におけるカドミウムの吸収に関しては、原因遺伝子が特定され、カドミウム吸収抑制イネ変異体と既存のイネ品種との交配により得られるカドミウム吸収抑制イネが提案されている(特許文献1)。
国際公開WO2013/065517
土壌植物系における放射セシウムの挙動とその変動要因、農環研報31、p75-129(2012) Zhu et al, Plant uptake of radiocesium: a review of mechanisms, regulation and application. Journal of Experimental Botany. Vol.51(351), p1635-1645 (2000) Zefeng Yang et al, Molecular evolution and functional divergence of HAK potassium transporter gene family in rice (Oryza sativa L.), J. Genet. Genomics, 36, 161-172 (2009) T. Fujiwara, Cesium uptake in rice: Possible transporter, distribution, and variation. Agricultural Implications of the Fukushima Nuclear Accident, p29-35 (2013) 小野勇治ら, イネの放射セシウムに関する品種間差, 福島県農業総合センター研究報告 放射性物質対策特集号 平成25年度, p29-32 (2014)
現在、耕作再開地域では線量が高い圃場については表土の剥ぎ取りを行い、それ以外の比較的線量の低い圃場ではカリウムの多肥により作物のCs吸収量を抑える取り組みが進められている。しかし、表土の剥ぎ取りは膨大な量の土壌の処理(貯蔵)が必要となり、カリウムの多肥も、そのコストやカリウム肥料自体が放射性のカリウム40(40K)を含んでいること、またいつまで続けるべきかなど多くの問題点を含んでいる。
これに対し、低吸収性品種など作物の改良は種子の提供だけで済むため、極めて低コストでかつ環境にやさしい対策といえる。水稲については様々な品種のセシウムの吸収性試験が行われたが、従来の食用品種群からはセシウム吸収量が極端に少ない品種は見出されていない(非特許文献4、5)。すなわち、セシウム吸収は少ないほど望ましいが、既存の遺伝子資源からは、セシウム吸収が十分に抑制されているという特性を、交配などにより主要栽培品種に取り入れることはできない。
セシウムが植物に取り込まれるメカニズムに関連した遺伝子を特定できれば、より効果的で実用的なCs低減技術を提供することが可能となる。そこで本発明者らは、主要品種に化学変異剤による突然変異誘発処理を行い、Cs低吸収性(高)という新しい遺伝特性を持った突然変異体を作出し、Cs吸収の制御遺伝子の解明およびこれらを育種材料にして主要品種にCs低吸収性の付加を目指した。そして化学変異剤(アジ化ナトリウム、MNU)により突然変異を誘発させた突然変異系統の集団からCs低吸収系統を選抜し、吸収制御遺伝子の特定とその系統を育種材料とした低吸収品種を開発とすることを鋭意検討し、本発明を完成した。
本発明は、以下を提供する。
[1]下記の(a)〜(f)のいずれか一のポリヌクレオチドからなる遺伝子を利用する、植物のセシウム吸収を抑制する方法:
(a)配列番号9の塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(b)配列番号9の塩基配列からなるポリヌクレオチドと相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ植物のセシウム吸収を制御する機能を有するポリヌクレオチド;
(c)配列番号9の塩基配列と90%以上の同一性を有し、かつ植物のセシウム吸収を制御する機能を有するポリヌクレオチド;
(d)配列番号11のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド;
(e)配列番号11のアミノ酸配列において1〜9個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列をコードし、かつ植物のセシウム吸収を制御する機能を有するポリヌクレオチド;
(f)配列番号11のアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列をコードし、かつ植物のセシウム吸収を制御する機能を有するポリヌクレオチド。
[2]ポリヌクレオチドからなる遺伝子の利用が、該ポリヌクレオチドからなる遺伝子または該遺伝子にコードされるタンパク質の機能を低下させることである、1に記載の方法。
[3]ポリヌクレオチドからなる遺伝子の利用が、該ポリヌクレオチドからなる遺伝子のエキソン部分に変異を生じさせることである、1または2に記載の方法。
[4]1に定義された(a)〜(f)のいずれか一のポリヌクレオチドからなる遺伝子の機能が抑制されている、セシウム低吸収性植物体またはその一部。
[5]イネ属植物である、4に記載の植物体またはその一部。
[6]1に定義された(a)〜(f)のいずれか一のポリヌクレオチドからなる遺伝子の機能が抑制されている、セシウム低吸収性植物品種。
[7]植物が、イネである、6に記載の品種。
[8]6または7に記載の品種の繁殖材料。
[9]4もしくは5に記載の植物体またはその一部、または6もしくは7に記載の品種を利用することにより得られる、収穫物またはその加工品。
[10]1に定義された(a)〜(f)のいずれか一のポリヌクレオチドの、セシウム低吸収性のマーカーとしての使用。
本発明により、セシウムの吸収性に関与するポリヌクレオチド、およびそれがコードするアミノ酸配列からなるタンパク質が提供される。
本発明により、植物のセシウムの吸収を抑制する方法が提供される。
本発明により、セシウム低吸収性の、植物体、植物品種、その繁殖材料、その収穫物、その加工品が提供される。
玄米のICP-MSによる分析結果。8027系統をそれぞれの個体を分けて収穫し、各個体の玄米を硝酸分解し、玄米Cs濃度を分析した。アジ化ナトリウム処理により1系統(系統名;D10-23)、MNU処理により2系統(系統名;E10-4、F5-136)、合計3系統のセシウム低吸収系統が選抜された(図1)。 圃場で栽培した水稲の玄米133Cs濃度。選抜した3系統を秋田県南秋田郡大潟村の水田と秋田県山本郡藤里町の水田で栽培した。いずれの圃場においても、3系統のCs濃度は、コントロールのあきたこまちに比較して、低く抑えられていた。 圃場で栽培した水稲の玄米133Cs濃度。ワグネルポットを用い、圃場から採取した土壌に人為的に塩化セシウム(CsCl)を0.5ppm、1.0ppm添加したCsが吸収されやすい条件下で突然変異系統を栽培した。その結果ポット栽培においても3系統のCs濃度は、コントロールのあきたこまちに比較して、低く抑えられていた。 水耕液中のK+イオン濃度と地下部のCs吸収量。木村氏B液の標準となる水耕液中のカリウム濃度を×1とし、×0.5、×1.0、×2、×3と1/2倍から3倍の濃度まで変化させた時の、稲幼植物の根におけるCs吸収量の経時変化を確認した。この方法により、Cs吸収が制御された植物体を、より短期間に識別することができる。 F1世代の対立性試験の結果。3系統得られたCs低吸収突然変異体同士を交配させたF1世代について、前述の水耕栽培法により、Cs吸収特性を調べた。その結果、もとの3系統の突然変異体とほぼ同じCsの低吸収性を示した F2世代の対立性試験の結果。F2世代について、前述の水耕栽培法により、Cs吸収特性を調べた。その結果、もとの3系統の突然変異体とほぼ同じCsの低吸収性を示した OsHAK1遺伝子の染色体上の位置。 OsHAK1遺伝子の塩基配列。実線の下線はエキソン部分を示す。囲まれた2か所のGは、実施例において変異が生じていた塩基を表す。一点鎖線の下線は5プライム(5 prime)領域を、点線の下線は3プライム(3 prime)領域を示す。系統2は、この配列において、2171位のGがAに置換されており、タンパク質のアミノ酸としてはグリシン(Gly)がアスパラギン酸(Asp)に置換されていることが分かった。系統1および3は、4716位のGがAに置換されており、ストップコドンとなっていることが分かった。 相補性試験の結果。再分化培地で再生した形質転換体を木村氏B液で水耕栽培し15cmまで生育させた後、10ppbCsを添加した×0.5カリウム濃度の水耕液で1日間のCs吸収実験を行った。あきたこまち、日本晴と比較して形質転換体は2倍程度のCs吸収量を示した(図9)。
[遺伝子、タンパク質]
本発明者らは、イネにおいてセシウムの吸収の吸収を制御する遺伝子は、TIGR locus Os04g32920、Gene name OSJNBb0012E08.7のKUP/HAK/KT familyに属するOsHAK1遺伝子であると結論付けた。本発明は、植物においてセシウムの吸収を制御する遺伝子のまたはそのホモログ、すなわち下記の(a)〜(f)のポリヌクレオチドを提供する。
(a)配列番号9の塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(b)配列番号9の塩基配列からなるポリヌクレオチドと相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ植物のセシウム吸収を制御する機能を有するポリヌクレオチド;
(c)配列番号9の塩基配列と高い同一性を有し、かつ植物のセシウム吸収を制御する機能を有するポリヌクレオチド;
(d)配列番号11のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド;
(e)配列番号11のアミノ酸配列において1または複数のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列をコードし、かつ植物のセシウム吸収を制御する機能を有するポリヌクレオチド;
(f)配列番号11のアミノ酸配列と高い同一性を有するアミノ酸配列をコードし、かつ植物のセシウム吸収を制御する機能を有するポリヌクレオチド。
本明細書の一部である配列表には、配列番号9として、イネのOsHAK1遺伝子(gDNA)の塩基配列が示されている。また配列番号10として、イネのOsHAK1遺伝子のcDNAの塩基配列、および配列番号11として、cDNAから導き出されるアミノ酸配列が示されている。
本発明はまた、配列番号11に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、およびそれらと構造的に類似しており、植物のセシウムの吸収を制御する機能を有するタンパク質、例えば下記の(D)、(E)または(F)のタンパク質を提供する:
(D)配列番号11のアミノ酸配列からなるタンパク質;
(E)配列番号11のアミノ酸配列において1または複数のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ植物のセシウム吸収を制御する機能を有するタンパク質;
(F)配列番号11のアミノ酸配列と高い同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ植物のセシウム吸収を制御する機能を有するタンパク質。
ポリヌクレオチドには、gDNA、cDNAおよび化学合成DNAが含まれ、一本鎖のもの、二本鎖のものが含まれる。
ストリンジェントな条件とは、特別な場合を除き、6M尿素、0.4% SDS、0.5×SSCの条件またはこれと同等のハイブリダイゼーション条件を指し、温度は約65℃とする。
1または複数のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列というときの置換等されるアミノ酸の個数は、そのアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド、またはそのアミノ酸配列をコードするタンパク質が所望の機能を有する限り特に限定されないが、1〜9個または1〜4個程度であるか、同一または性質の似たアミノ酸配列をコードするような置換等であれば、所望の機能を消失しないであろう。そのような塩基配列またはアミノ酸配列に係るポリヌクレオチドを調製するための手段には、例えば、site-directed mutagenesis法(Kramer W & Fritz H-J: Methods Enzymol 154: 350、1987)がある。
塩基配列に関し、高い同一性とは、少なくとも80%以上、好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、さらに好ましくは99%以上の同一性を指す。また、アミノ酸配列に関し、高い同一性とは、少なくとも80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、最も好ましくは99%以上の同一性を指す。塩基配列またはアミノ酸配列の同一性は、当業者には周知のアルゴリズムBLAST(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2264-2268、 1990、Proc Natl Acad Sci USA 90: 5873、 1993)を用いて決定できる。BLASTのアルゴリズムに基づいたBLASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul SF、 et al: J Mol Biol 215: 403、1990)。BLASTNを用いて塩基配列を解析する場合は、パラメーターは、例えばscore=100、wordlength=12とする。また、BLASTXを用いてアミノ酸配列を解析する場合は、パラメーターは、例えばscore=50、wordlength=3とする。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合は、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は当業者にはよく知られている(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)。
ポリヌクレオチドは、天然の植物組織材料から調製することができる。本発明のポリヌクレオチドを調製するためには、ハイブリダイゼーション技術(Southern EM: J Mol Biol 98: 503、1975)やポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術(Saiki RK、 et al: Science 230: 1350、1985、Saiki RK、 et al: Science 239: 487、1988)を利用することができる。例えば、イネのOsHAK1遺伝子の塩基配列(配列番号9)、またはその一部をプローブとして、またイネのOsHAK1遺伝子の塩基配列にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドをプライマーとして、イネや他の植物から目的のポリヌクレオチドを単離することができる。ポリヌクレオチドは、イネ科(Poaceae(Gramineae))に属する植物由来、例えばイネ(Oryza)属に属する植物由来であってよい。
あるポリヌクレオチドまたはそれによりコードされるタンパク質が植物のセシウム吸収を制御するものであるか否かは、例えば対象ポリヌクレオチドからなる無傷の遺伝子を有する植物と、対象ポリヌクレオチドからなる遺伝子または該遺伝子にコードされるタンパク質の機能を低下させた植物と、一定量のセシウムが含まれる培地(土壌のような固体培地であっても、液体培地であってもよい)で栽培し、得られた植物体またはその一部(例えば、食用に供する部分、具体的には種子等)に含まれるセシウム量を比較することにより、判断することができる。このとき、栽培法は、従来技術に拠ることができるが、本発明者の検討によると、セシウムを添加し、カリウム濃度を調整した水耕液を用いた幼植物の地下部のセシウム量を測定することにより、より短期間に評価することができる。水耕液中のセシウム濃度は、1〜100ppbとすることができ、5〜20ppbとすることが好ましい。水耕液中のカリウム濃度は、標準場合の0.1〜1.0倍とすることができ、0.25〜1.75倍とすることが好ましい。具体的には、幼植物は通常の水耕液で栽培した後、水耕液を、セシウムを添加し、カリウム濃度を調整した水耕液に置換し、少なくとも24時間栽培した後に、地下部のセシウム量を測定することにより、評価することができる。セシウムの測定は、当業者に周知の方法、例えばICP-MSにより測定することができる。
制御の程度は、対象となるポリヌクレオチドを無傷で有する植物におけるセシウム吸収量を100(%)としたとき、85%以下、70%以下、50%以下、30%以下、25%以下まで抑制されていることであり得る。
[植物のセシウム吸収を制御する方法]
本発明はまた、上記(a)〜(f)のいずれか一のポリヌクレオチドからなる遺伝子を利用する、植物のセシウム吸収を抑制する方法を提供する。
植物のセシウム吸収を抑制するとは、特に記載した場合を除き、植物の地下部(通常、根)からのセシウム吸収を抑制することを指す。セシウム吸収を抑制する際に、同時に他の元素の吸収を抑制または促進することがある。セシウム吸収が抑制された植物を、「セシウム低吸収性」ということができる。
植物におけるセシウム吸収の抑制は、上記(a)〜(f)のいずれか一のポリヌクレオチドからなる遺伝子を利用することにより行うことができる。ポリヌクレオチドからなる遺伝子または該遺伝子にコードされるタンパク質の機能を低下させること(機能低下させることには、機能を失わせることも含まれる。)により行うことが好ましく、より好ましくは遺伝子のエキソン部分、さらに好ましくはもっとも下流のエキソン部分に少なくとも1カ所の変異を生じさせることにより行う。変異は、遺伝子が転写される際に重要な配列に少なくとも1カ所の変異を生じさせることにより行ってもよい5'非翻訳領域は、RNAポリメラーゼがDNAからmRNAを転写するときに結合する配列であり、また、3'非翻訳領域は、mRNAの構造的な安定性にかかわると考えられている。これらの領域に変異がある場合、発現量が減るか、またはその遺伝子が発現しなくなる等の影響が生じる可能性がある。
変異は、例えば、ストップコドンに対応する配列となる変異、性質の異なるアミノ酸をコードする配列となる変異、塩基の挿入または欠損(フレームシフトが起こるのでアミノ酸配列が異なるものとなる)等がある。変異は、少なくとも1カ所あればよく、2〜5カ所であってもよい。変異を生じさせる手法は限定されず、人為的に、例えば化学物質(例えば、アジ化ナトリウム、MNU)、UV照射、放射線照射、イオンビーム照射、高温または低温、気圧の変化等により生じさせたものであってもよく、自然に生じたものであってもよい。
上記(a)〜(f)のいずれか一のポリヌクレオチドからなる遺伝子または該遺伝子にコードされるタンパク質の機能を低下させることはまた、アンチセンス法による遺伝子ノックダウンや、短鎖ヘアピンRNA(shRNA)、短鎖干渉RNA(siRNA)を介して遺伝子のノックダウンを行うRNA干渉(RNAi)技術を利用して行うこともできる。また、ゲノム編集の手法により、遺伝子ノックアウトを誘導してもよい。
セシウム吸収が抑制されているか否かは、例えば対象となるセシウム吸収が抑制されているであろう植物と、適切なコントロールである植物を、上述したように、一定量のセシウムが含まれる培地で栽培し、得られた植物体またはその一部に含まれるセシウム量を比較することにより、判断することができる。抑制の程度は、コントロールとなる植物におけるセシウム吸収量を100(%)としたとき、85%以下、70%以下、50%以下、30%以下、25%以下であり得る。
セシウム吸収を抑制する対象となる植物は、上記の(a)〜(f)のポリヌクレオチドの利用により、セシウム吸収を抑制することができるものであれば特に限定されないが、好ましくは被子植物であり、より好ましくは単子葉植物網に属する植物であり、さらに好ましくはツユクサ亜網に属する植物であり、最も好ましくはイネ科(Poaceae(Gramineae))に属する植物、例えばイネ(Oryza)、オオムギ、ライムギ、パンコムギ、イヌムギ、ハトムギ、サトウキビ、トウモロコシ、モロコシ、アワ、キビ、ヒエいずれかの属に属する植物である。イネ科に属する植物のうちでは、好ましくはイネ属に属する植物であり、より好ましくはイネ(Oryza sativa L.)である。イネのうちでも、食用として多く流通している品種を対象とすることができ、このような品種には、ジャポニカ型の品種、例えばあきたこまち、コシヒカリ、ひとめぼれ、天のつぶ、はえぬき、ササニシキ、ヒノヒカリ、ななつぼし、キヌヒカリ、まっしぐら、あさひの夢、こしいぶき、きらら397、ゆめぴりか、つがるロマン、あいちのかおり、きぬむすめ、夢つくし、つや姫、彩のかがやき、ハツシモ、ふさこがねが含まれる。
ゲノム内に変異を有することにより、セシウム低吸収性となった植物体がいったん得られれば、該植物体から有性生殖または無性生殖により子孫を得ることができる。また、該植物体やその子孫あるいはクローンから繁殖材料(例えば、種子、果実、切穂、塊茎、塊根、株、カルス、プロトプラストなど)を得て、それらを基に植物体を量産することも可能である。
[セシウム低吸収性植物体またはその一部、セシウム低吸収性植物品種、繁殖材料、収穫物]
本発明はまた、請求項1に定義された(a)〜(f)のいずれか一のポリヌクレオチドに変異を有し、該ポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドがコードするアミノ酸配列からなるタンパク質の機能が抑制されている、セシウム低吸収性植物体またはその一部を提供する。
植物体は、特に記載した場合を除き、植物個体の意味で用いており、また植物体に関して「その一部」というときは、特別な場合を除き、種子(発芽種子、未熟種子を含む)、器官又はその部分(葉、根、茎、花、雄蕊、雌蘂、それらの片を含む)、植物培養細胞、カルス、プロトプラストを含む。植物体またはその一部は、繁殖材料も含む。
セシウム低吸収性であるとは、適切なコントロールとなる植物におけるセシウム吸収量を100(%)としたとき、セシウムの吸収が85%以下、70%以下、50%以下、30%以下、25%以下に抑制されうることをいう。
なお、セシウム低吸収性植物体というときは、特に記載した場合を除き、本発明の方法によりセシウム吸収が抑制される工程を経て得えられた植物体のみならず、該植物体より得られた後代(第一世代、第二世代・・・)の植物体も、セシウム低吸収性の性質が維持されている限り、含む。
従来の栽培品種に由来し、本発明の方法によりセシウムの吸収性のみが異なり、他の点については由来する品種と同じ形質を有する植物は、栽培品種としての利用が期待できる。また本発明により得られたセシウム低吸収性の植物体を育種素材として用い、セシウム低吸収性の新たな植物品種を育種することができる。したがって、本発明は、セシウム低吸収性植物品種を提供する。およびそれから得られる繁殖材料、収穫物、および加工品を提供する。
繁殖材料とは、特に記載した場合を除き、植物体の全部または一部で繁殖の用に供されるもの(「種苗」ということもある。)をいい、例えば、種子、苗、細胞、カルス、幼芽がある。収穫物とは、特に記載した場合を除き、植物体の全部または一部で繁殖の用に供されるもの(種苗)ではないものをいい、例えば、イネである場合、収穫物には、もみ、玄米、精米された米が含まれる。加工品は、例えば、イネ植物である場合、飯(炊飯した物)、米菓、もち、米粉及びそれを用いた食品が含まれる。
本発明のセシウム低吸収性植物品種の例は、イネの品種であり、本発明のセシウム低吸収性イネ品種が由来する品種の例は、ジャポニカ型の品種、例えばあきたこまち、コシヒカリ、ひとめぼれ、天のつぶ、はえぬき、ササニシキ、ヒノヒカリ、ななつぼし、キヌヒカリ、まっしぐら、あさひの夢、こしいぶき、きらら397、ゆめぴりか、つがるロマン、あいちのかおり、きぬむすめ、夢つくし、つや姫、彩のかがやき、ハツシモ、ふさこがねである。
本発明者らは、従来の栽培品種であるあきたこまちのイネ植物から、アジ化ナトリウム処理により1系統(系統名;D10-23)、MNU処理により2系統(系統名;E10-4、F5-136)のセシウム低吸収性イネ植物を得た。これらのうち一つの系統は、収量、稈長、熟期等の他の特性は、由来するあきたこまちとほぼ同様であり、栽培品種として十分な特性を有していることが分かっている。
従来、植物の品種改良は(1)交雑による有望系統の選抜、(2)放射線や化学物質による突然変異誘起などによって行われてきた。これらの作業は長期間を要することや変異の程度や方向性を制御できないことなどの問題があった。今回の発明により、植物のセシウム吸収を制御する遺伝子が特定されたので、機能性のこの遺伝子をもつ対象となる植物においてその機能を欠失または抑制することにより、対象植物のセシウム吸収を確実に低下させることができる。特定された遺伝子を標的とする変異を行うことは、交配と目的の形質に基づく選抜の繰り返しによる遺伝子移入に比較して極めて短期間に達成可能であり、他の形質の変化を伴わずに目的のセシウム低吸収性の形質のみの導入を可能とする。本発明は、セシウム低吸収性の植物品種育成に貢献できると考えられる。
[遺伝子マーカー]
本発明はまた、野生型のセシウム吸収制御遺伝子と変異型セシウム吸収制御遺伝子との塩基配列の違いに基づき、植物体を識別することにも関する。識別は、例えば次のように行う。コシヒカリ等の従来のイネ品種の植物体と、セシウム低吸収性イネの植物体それぞれから抽出したゲノムDNAを鋳型とし、予め準備した標的配列(変異を含む部分)を増幅できるプライマーセットを用い、PCRにより標的配列を増幅する。得られた増幅産物を制限酵素で処理した後、電気泳動し泳動パターンの比較により両者を識別する。
実施例の項に記載した突然変異系統E10-4の場合、一塩基置換領域を含む塩基部分を増幅できるプライマーセット[例えば[HAK1N2 P1 (5'- CAGGATGATCCCGAACCAGCA -3':SEQ ID NO.: 5)、HAK1N2 P2 (5'- TCGCCCATGACCATGGAGGTG -3':SEQ ID NO.: 6)]で、PCR反応によってDNA断片を増幅させ、一塩基置換によって新たに生じる(または消失する)制限酵素サイトを持つDNA増幅断片を、特定の制限酵素(例えばHphI)で切断処理することで、他品種と識別することが可能である。例えば制限酵素としてHphIを用いた場合、E10-4由来の変異型のセシウム吸収制御遺伝子を有する植物体からのPCR産物は103bpと74bpの2つの断片が検出される。
実施例の項に記載した突然変異系統D10-23およびF5-136の場合は、一塩基置換領域を含む塩基部分を増幅できるプライマーセット[例えば[HAK1N13 P1 (5'- GTACGAGCTGGACCACATCGTC -3':SEQ ID NO.: 7)、HAK1N13 P2 (5'- TGCGGGATGGGGAGGTGCTTG -3':SEQ ID NO.: 8)]等で、PCR反応によってDNA断片を増幅させ、一塩基置換によって新たに生じる(または消失する)制限酵素サイトを持つDNA増幅断片を、特定の制限酵素、例えばVpaK11BI(Ava II)またはHae IIIで切断処理することにより、他品種と識別することができる。なおプライマーは、変異部分を含む標的配列を増幅できる塩基配列であればよい。また、制限酵素は変異部分を含む領域を認識して切断できるものであればよい。
また、いずれの突然変異系統について、DNA増幅断片をスピンカラム法やガラスビーズ吸着法等によって精製し、増幅部分のDNA塩基配列をシーケンサーによって読み取ることで、セシウム吸収制御遺伝子の配列に含まれる変異を検出し、この情報を基にマーカーを開発することで植物体の識別が可能になる。
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
[Cs低吸収系統の選抜]
(1)突然変異の誘発
突然変異の誘発方法としてアジ化ナトリウムとMNUの2種類の化学変異源を使用した。アジ化ナトリウム処理はあきたこまち種子を1.5 mMアジ化ナトリウム溶液(pH3.0 リン酸緩衝液)中でエアレーションを行いながら6時間処理を行った。またあきたこまちの受精卵処理は、開花した花に印をつけ、開花当日の夜12時に1.5mMのMNU溶液に開花した花を穂ごと1時間浸漬することで、突然変異誘発処理を行った。処理後の穂は約10時間流水で洗浄し、その後通常の栽培管理を行い、M1種子を収穫した。それぞれの処理によるM1種子は圃場で栽培し、M2世代種子はバルクで収穫し、突然変異集団とした。
(2)セシウム吸収の変異体のスクリーニング
M3世代種子を育苗後、土壌中の水溶性セシウム(安定同位体133Cs)濃度が高い圃場に定植して、8027系統をそれぞれの個体を分けて収穫し、各個体の玄米を硝酸分解し、玄米Cs濃度をICP-MS(ThermoFisher Scientific co, XシリーズII)により分析した。
その結果、アジ化ナトリウム処理により1系統(系統名;D10-23)、MNU処理により2系統(系統名;E10-4、F5-136)、合計3系統のセシウム低吸収系統が選抜された(図1)。
(3)選抜した突然変異系統のセシウム低吸収性の確認
2014年度に選抜した3系統を秋田県南秋田郡大潟村の水田と秋田県山本郡藤里町の水田で栽培した。その結果、大潟村で栽培した各系統の玄米Cs濃度は、コントロールのあきたこまちが7.5μg/kgと比較して0.36、0.70、0.31μg/kgといずれも10%以下と低く、藤里町で栽培した玄米Cs濃度もコントロールのあきたこまちのCs濃度が12.66μg/kgに対し、2.49、3.41、2.61μg/kgと約20〜27%程度と低く抑えられていた(図2)。
セシウムはイオンの状態で土壌溶液中に溶存したものが植物に吸収される。灌漑水などにより水田に新たにイオンとして土壌に供給されたセシウムは時間の経過とともに土壌の粘土粒子のFrayed edgeと呼ばれる層間構造内に取りこまれ、固定化される。そのため新たに土壌に供給されたセシウムほど植物に吸収されやすいという特徴が示唆されている。そこでワグネルポットを用い、先述の大潟村、藤里町の2カ所の圃場から採取した土壌に人為的に塩化セシウム(CsCl)を0.5ppm、1.0ppm添加したCsが吸収されやすい条件下で突然変異系統を栽培し、収穫した玄米中のCs濃度を測定した。その結果ポット栽培においても3系統は、コントロールのあきたこまちの玄米中のCs濃度と比較し、大潟村の土壌においては新たにCsを添加しても11%以下に藤里町の土壌での栽培でも30%以下となった(図3)。
[Cs吸収が変異した系統の簡便な同定法(水耕栽培法)の開発]
Cs吸収制御遺伝子の特定やその制御遺伝子の交配や遺伝子組み換えによる他の栽培品種への導入にはCs吸収の変異を持つ系統の簡便な同定法が要求される。3系統のCs吸収変異系統の自殖種子を2週間水耕栽培で育てた幼植物のCs吸収特性を調べた。具体的には自殖種子を種子消毒後3日間浸種したのち、28℃ 明期16時間/暗期8時間のグロースチャンバー内で水耕栽培を開始し、発芽3日後に植え替えを行いその後2週間栽培した。水耕液には木村氏B液の組成を一部改変したものを通常のカリウム濃度のものを用いた(表1)。2週間栽培後、数段階に異なるカリウム濃度に調整した木村氏B液(表2)にCs(塩化セシウム)を10ppbとなるように添加したものに幼植物を移し、5日後まで経時的に植物体をサンプリングし、地下部のCs濃度を分析した。
Figure 0006874956
Figure 0006874956
木村氏B液の標準となる水耕液中のカリウム濃度を×1とし、×0.5、×1.0、×2、×3と1/2倍から3倍の濃度まで変化させた時のCs吸収量の経時変化を確認した。1日後のコントロールのあきたこまちに対する突然変異系統の根のCs濃度は標準のカリウム濃度(×1.0)の水耕液では25.4%、23.8%、18.4%であったが、×0.5のカリウム濃度の水耕液では14.1%、11.3%、11.7%となり、その濃度比は大きくなり、より高精度な識別が可能となる。一方、水耕液のカリウム濃度が濃くなるに従い、コントロールのあきたこまちのCs吸収量は急激に低下し、本発明で得られた3系統の突然変異体のCs吸収量はコントロールのあきたこまちの82.1%、75.5%、65.3%と濃度比が小さくなり、識別が困難になることが明らかになった(表3、図4)。
Figure 0006874956
以上の結果からCsを添加し、カリウム濃度を調整した水耕液を用いた稲幼植物の根へCsの吸収量を測定することにより、本発明のCs吸収制御遺伝子の形質をもった植物体を、玄米まで生産することなく、より短期間に識別することができる。具体的には木村氏B液で2週間栽培した幼植物を、Cs(10ppb)を添加した×0.5のカリウム濃度の水耕液に移し、24時間以降の地下部のCs吸収量をICP-MSで測定することで、Cs低吸収個体を選抜することができる。
[原因遺伝子の特定]
(1)対立性試験
3系統得られたCs低吸収突然変異体同士を交配させたF1世代およびF2世代について、前述の水耕栽培法により、Cs吸収特性を調べた。その結果、F1世代およびF2世代のいずれもが、もとの3系統の突然変異体とほぼ同じCsの低吸収性を示した(図5,6)。このことから3系統のCs吸収制御遺伝子は同じものであることが明らかとなった。
(2)遺伝子マッピング
遺伝子のマッピングに用いられるインディカ系統のカサラスの前述の水耕栽培法によりCs吸収性を分析したところ、カサラスはあきたこまちと同じくCs高吸収性であった。Cs低吸収系統とカサラスとの交配を実施し、F2世代について水耕栽培法により根へのCs吸収量を分析し、Cs低吸収個体をホモ個体として選抜した。これらの植物体からゲノムDNAの抽出、ラフマッピングを行い、Cs吸収制御遺伝子の染色体および染色体上の位置の絞り込みを行った。
その結果、原因遺伝子は第4染色体上の遺伝学的距離で52.6から58.9cMの間に座上している遺伝子であることが明らかとなった。
(3)次世代シーケンス解析
3系統の突然変異系統を各10個体ずつ木村氏B液で2週間水耕栽培した。これらの3系統の幼植物からゲノムDNAを抽出した。コントロールとして親品種であるあきたこまちからも同様にDNAを抽出した。全ゲノム配列は,HiSeq1000(イルミナ社)を用いて、リード長100 bp、両末端解析の条件で取得した。全ゲノム解析には、各突然変異系統は1/3レーン分、あきたこまちは1レーン分のリード配列を用いた。リード配列はリファレンス配列(IRGSP1.0)に対してBWAの初期条件でアライメントした。遺伝子マッピングで明らかにされた染色体領域について、IGVで可視化して、突然変異系統とあきたこまちの塩基配列を比較しながら原因遺伝子の特定を行った。
その結果、各突然変異系統には多数の一塩基置換がみられるものの、3系統に共通して変異が生じていた遺伝子はOsHAK1遺伝子のみであった。よって、Cs低吸収変異の原因遺伝子はTIGR locus Os04g32920、Gene name OSJNBb0012E08.7のKUP/HAK/KT familyに属するOsHAK1遺伝子であると結論付けた。OsHAK1遺伝子の染色体上の位置を図7に示す。
(4)突然変異体のOsHAK1遺伝子のシーケンス解析
3系統変異体のcDNAを鋳型としてOsHAK1の遺伝子領域をサンガーシーケンスにより配列解析した結果、いずれの系統もエキソン部分に1塩基置換の変異が検出された。2系統(D10-23およびF5-136)は同じ塩基が置換され、アミノ酸配列の1カ所のアミノ酸の置換(GlyがAspに置換)が生じ、残りの1系統(E10-4)は途中でストップコドンに置換されたものであった(図8)。
(5)相補性試験
日本晴を木村氏B液で2週間水耕栽培し、根よりNucleoSpin(R) RNA Midi(マッハライ・ナーゲル社)を用いてTotal RNAを抽出した。その後SuperScript(R) III First-Strand Synthesis SuperMix(ThermoFisher Scientific co.,)を用い、Oligo dTプライマーでmRNAからcDNAを合成した。その後、以下のプライマーセット:
HAK1_5primeF CCAGCCGGCGAGAGAGAGC (SEQ ID NO.: 1)
HAK1_3primeR AGCATGGACAACACACCACCAGTG (SEQ ID NO.: 2)
によりOsHAK1遺伝子の全長をKOD -Plus- Neo(TOYOBO)を用いたPCRにより増幅した。
増幅したPCR産物をアガロースゲルによる電気泳動で確認後、このPCR産物を鋳型に、以下のプライマーセット:
Hind3-HAK1_5prime_F AAGCTTCCAGCCGGCGAGAGAGA (SEQ ID NO.: 3)
HAK1_3prime_R-Hind3 AAGCTTAGCATGGACAACACACCACCAGTG (SEQ ID NO.: 4)
とKOD -Plus- Neo(TOYOBO)を用いたPCRにより増幅し、PCR産物の両端にHindIIIの制限酵素部位を付加した。増幅産物は、TArget CloneTM -Plus-キット(TOYOBO)を用い、平滑末端の両端にA付加反応後、pTA2ベクターにTAクローニングにより挿入した。このベクターを大腸菌(DH-5α)に導入し、培養後、プラスミドを抽出し、HindIIIによる制限酵素処理後、アガロースゲルで電気泳動し挿入配列の切り出し、精製を行った。HindIIIで切断、アルカリフォスファターゼ処理を行ったpBUH3ベクターに、このDNA断片をライゲーションにより挿入し、大腸菌に導入し、培養後プラスミドを抽出した。このプラスミドはユビキチンプロモーターでOsHAK1遺伝子を強制発現させることができる。
得られたプラスミドでアグロバクテリウムを形質転換し、ベクターを保有したアグロバクテリウムをCs低吸収突然変異体F5-136のカルスに感染させ、正常に機能するOsHAK1遺伝子を持ったF5-136形質転換体を作成した。
再分化培地で再生した形質転換体を木村氏B液で水耕栽培し15cmまで生育させた後、10ppbCsを添加した×0.5カリウム濃度の水耕液で1日間のCs吸収実験を行った。あきたこまち、日本晴と比較して形質転換体は2倍程度のCs吸収量を示した(図9)。この結果からCs低吸収突然変異体はOsHAK1遺伝子の形質転換によりCs吸収能力が復帰することが確認され、本発明で見いだされた3系統のCs吸収制御遺伝子はOsHAK1遺伝子であることが明らかとなった。
本発明は、新規米品種の開発に利用できる。
SEQ ID NO.:1 PCR primer HAK1_5primeF
SEQ ID NO.:2 PCR primer HAK1_3primeR
SEQ ID NO.:3 PCR primer Hind3-HAK1_5prime_F
SEQ ID NO.:4 PCR primer HAK1_3prime_R-Hind3
SEQ ID NO.:5 PCR primer HAK1N2 P1
SEQ ID NO.:6 PCR primer HAK1N2 P2
SEQ ID NO.:7 PCR primer HAK1N13 P1
SEQ ID NO.:8 PCR primer HAK1N13 P2
SEQ ID NO.:9 OsHAK1 gDNA
SEQ ID NO.:10 OsHAK1 cDNA
SEQ ID NO.:11 deduced protein OsHAK1

Claims (10)

  1. 下記の(a)〜(f)のいずれか一のポリヌクレオチドからなる遺伝子を利用する、植物のセシウム吸収を抑制する方法:
    (a)配列番号9の塩基配列からなるポリヌクレオチド;
    (b)配列番号9の塩基配列からなるポリヌクレオチドと相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ植物のセシウム吸収を制御する機能を有するポリヌクレオチド;
    (c)配列番号9の塩基配列と90%以上の同一性を有し、かつ植物のセシウム吸収を制御する機能を有するポリヌクレオチド;
    (d)配列番号11のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド;
    (e)配列番号11のアミノ酸配列において1〜9個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列をコードし、かつ植物のセシウム吸収を制御する機能を有するポリヌクレオチド;
    (f)配列番号11のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列をコードし、かつ植物のセシウム吸収を制御する機能を有するポリヌクレオチド。
  2. ポリヌクレオチドからなる遺伝子の利用が、該ポリヌクレオチドからなる遺伝子または該遺伝子にコードされるタンパク質の機能を低下させることである、請求項に記載の方法。
  3. ポリヌクレオチドからなる遺伝子の利用が、該ポリヌクレオチドからなる遺伝子のエキソン部分に変異を生じさせることである、請求項1または2に記載の方法。
  4. 請求項1に定義された(a)〜(f)のいずれか一のポリヌクレオチドからなる遺伝子の機能が抑制されている、セシウム低吸収性植物体またはその一部。
  5. イネ属植物である、請求項4に記載の植物体またはその一部。
  6. 請求項1に定義された(a)〜(f)のいずれか一のポリヌクレオチドからなる遺伝子の機能が抑制されている、セシウム低吸収性植物品種。
  7. 植物が、イネである、請求項6に記載の品種。
  8. 請求項6または7に記載の品種の繁殖材料。
  9. 請求項4もしくは5に記載の植物体またはその一部、または請求項6もしくは7に記載の品種を利用することにより得られる、収穫物またはその加工品。
  10. 請求項1に定義された(a)〜(f)のいずれか一のポリヌクレオチドの、セシウム低吸収性のマーカーとしての使用。
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