以下、本発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の発明を実施するための形態(以下、実施形態という)により本発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る押出成形装置の模式図である。図2は、第1実施形態に係る押出成形装置の斜視図である。図3は、調整ブロックの斜視図である。図4は、温度調整部の斜視図である。
第1実施形態の押出成形装置1は、合成樹脂を用いてシートを作成するための装置である。合成樹脂としては、例えば熱可塑性樹脂が用いられる。以下の説明において、シートの材料としての熱可塑性樹脂は単に樹脂と記載される。第1実施形態の押出成形装置1は、単層のシートを作成する装置である。単層のシートとは、1種類の樹脂で形成されたシートである。
図1に示すように、押出成形装置1は、ダイ3と、調整ブロック5と、制御装置10と、を備える。
ダイ3は、シートを押し出す部材である。ダイ3は、リップ部31と、出口流路35と、導入流路32と、調整ボルト38と、を備える。リップ部31は、ダイ3の先端に設けられる。リップ部31は、第1リップ片31aと、第2リップ片31bと、を備える。第1リップ片31aは、第2リップ片31bに対して隙間を空けて配置されている。第1リップ片31aと第2リップ片31bとの間の隙間が、出口流路35である。以下の説明において、出口流路35において樹脂が流れる方向は、流れ方向DFと記載される。流れ方向DFに対して垂直な平面(以下、垂直平面という)で出口流路35を切った断面は、長方形である。以下の説明において、長方形である出口流路35の長手方向に沿う方向はダイ幅方向DLと記載される。長方形である出口流路35の短手方向に沿う方向は厚さ方向DTと記載される。すなわち、本開示において、ダイ幅方向DLは出口流路35の長手方向を意味する。本開示において、厚さ方向DTは、ダイ幅方向DLに対する直交方向であって、出口流路35の短手方向を意味する。図1においてダイ幅方向DLは紙面の奥行き方向である。
導入流路32は、出口流路35の上流側に設けられる流路である。導入流路32は、出口流路35に繋がる。導入流路32は、図1及び図2に示すように、縦流路32aと、横流路32bと、を含む。縦流路32aは、流れ方向DFに沿って延びている。垂直平面で縦流路32aを切った断面は、例えば円形である。縦流路32aの内径は、ダイ幅方向DLにおける出口流路35の長さより小さい。横流路32bは、ダイ幅方向DLに沿って延びている。横流路32bの中間に縦流路32aが接続している。縦流路32aを流れる樹脂は、横流路32bに至るとダイ幅方向DLに向かって拡がる。横流路32bの厚さ方向DTの長さは、下流に向かうにしたがって小さくなっている。横流路32bのダイ幅方向DLの長さは、出口流路35のダイ幅方向DLの長さに略等しい。横流路32bの下流側端部が出口流路35に接続される。
調整ボルト38は、リップ部31から押し出されるシートの厚さを調整するための部材である。調整ボルト38は、ダイ3に固定されている。調整ボルト38の端部が第2リップ片31bに接続されている。調整ボルト38が操作されると、第2リップ片31bから第1リップ片31aまでの距離が変化する。すなわち、調整ボルト38は、出口流路35の厚さ方向DTの長さを変化させる。リップ部31から押し出されるシートの厚さが所望の厚さになるように調整ボルト38が操作される。
図2に示すように、調整ブロック5は、ダイ3の上流側に設けられる。調整ブロック5は、樹脂のダイ幅方向DLにおける流量分布を調整するための装置である。調整ブロック5は、図2に示すように、上流側接続部6と、下流側接続部8と、温度調整部7と、を備える。
上流側接続部6は、調整ブロック5のうち最も上流側に設けられる。図3に示すように上流側接続部6は、拡張流路61を備える。拡張流路61の上流側端部には溶融した樹脂が導入される。例えば、上流側接続部6の上流側に設けられる押出機によって樹脂が拡張流路61に送られる。垂直平面で拡張流路61の上流側端部を切った断面は、例えば円形である。垂直平面で拡張流路61の下流側端部を切った断面は、例えば長円形である。ダイ幅方向DLにおける拡張流路61の長さは、下流に向かうにしたがって大きくなっている。すなわち、図3に示す拡張流路61の下流側端部におけるダイ幅方向DLの長さL61bは、拡張流路61の上流側端部におけるダイ幅方向DLの長さL61aよりも大きい。厚さ方向DTにおける拡張流路61の長さは、下流に向かうにしたがって小さくなっている。
下流側接続部8は、上流側接続部6よりも下流側に設けられる。図3に示すように下流側接続部8は、縮小流路81を備える。縮小流路81の下流側端部は導入流路32に接続される。垂直平面で縮小流路81の上流側端部を切った断面は、例えば長円形である。垂直平面で縮小流路81の下流側端部を切った断面は、例えば円形である。垂直平面で縮小流路81の下流側端部を切った断面は、垂直平面で縦流路32aの上流側端部を切った断面と同じである。ダイ幅方向DLにおける縮小流路81の長さは、下流に向かうにしたがって小さくなっている。すなわち、図3に示す縮小流路81の下流側端部におけるダイ幅方向DLの長さL81aは、縮小流路81の上流側端部におけるダイ幅方向DLの長さL81bより小さい。厚さ方向DTにおける縮小流路81の長さは、下流に向かうにしたがって大きくなっている。
温度調整部7は、上流側接続部6と下流側接続部8との間に設けられる。図4に示すように、温度調整部7は、中間流路71と、ブロック73と、加熱部77と、温度計75と、を備える。
中間流路71の上流側端部は、拡張流路61の下流側端部に接続される。中間流路71の下流側端部は、縮小流路81の上流側端部に接続される。垂直平面で中間流路71の上流側端部を切った断面は、切る位置に関わらず一定である。垂直平面で中間流路71の上流側端部を切った断面は、例えば長円形である。図4に示すように、垂直平面で中間流路71を切った断面のダイ幅方向DLにおける長さL71aは、厚さ方向DTにおける長さL71bよりも大きい。より好ましくは、長さL71aは、長さL71bの2倍以上である。ダイ幅方向DLにおける中間流路71の長さL71aは、図3に示す長さL61b及び長さL81bに等しい。
ブロック73は、中間流路71を含む部材である。すなわち、ブロック73によって中間流路71が形成されている。中間流路71は、ブロック73を流れ方向DFに向かって貫通する孔である。ブロック73は、例えば炭素鋼等の金属で形成される。ブロック73は、略直方体状に形成されている。ブロック73において、流れ方向DFに長さ、ダイ幅方向DLの長さ、及び厚さ方向DTの長さのうち、流れ方向DFの長さが最も大きく、厚さ方向DTの長さが最も小さい。
図4に示すようにブロック73は、複数のスリット73sを備える。スリット73sは、流れ方向DFに沿ってブロック73を貫通している。流れ方向DFから見て、スリット73sは、ブロック73の厚さ方向DTの端部から中間流路71に向かって延びている。スリット73sの中間流路71側の端部は閉じている。スリット73sの中間流路71とは反対側の端部は開いている。例えば、スリット73sには断熱材が充填されている。スリット73sは、中間流路71に対して厚さ方向DTの両側に配置されている。中間流路71の一方側において、複数のスリット73sは、ダイ幅方向DLに沿って等間隔に並べられている。中間流路71の他方側において、複数のスリット73sは、ダイ幅方向DLに沿って等間隔に並べられている。すなわち、複数のスリット73sは、2つの列に並べられている。一方の列に属するスリット73sの数は、他方の列に属するスリット73sの数に等しい。一方の列に属するスリット73sのダイ幅方向DLの位置は、他方の列に属するスリット73sのダイ幅方向DLの位置に等しい。すなわち、一方の列に属するスリット73sは、厚さ方向DTから見て他方の列に属するスリット73sに重なるように配置されている。
図4に示すように、スリット73sは、ブロック73を複数の領域79に分けている。ブロック73は、複数の領域79を含む。スリット73sにより、ブロック73の隣接する領域79間の伝熱が生じにくくなっている。第1実施形態において、2つのスリット73sで挟まれる領域79は、厚さ方向DTにおける中間流路71の両側に9つずつある。ダイ幅方向DLにおける中間流路71の両側には、領域79が1つずつある。すなわち、第1実施形態において、領域79の数は、20個である。2つのスリット73sで挟まれる領域79のうち、ダイ幅方向DLにおいて中央に位置する領域79を領域791とする。領域791からダイ幅方向DLの端部に向かって並ぶ領域79を順に領域792、領域793、領域794、領域795とする。ダイ幅方向DLにおける中間流路71の両側にある領域79をそれぞれ領域796とする。
加熱部77は、ブロック73を加熱する。加熱部77は、例えばペルティエ素子等の熱電素子である。加熱部77は、熱電素子に限定されず、ブロック73を加熱できる装置であればよい。温度調整部7は、複数の加熱部77を備える。複数の加熱部77は、中間流路71に対して厚さ方向DTの両側に配置されている。中間流路71の一方側において、複数の加熱部77は、ダイ幅方向DLに沿って等間隔に並べられている。中間流路71の他方側において、複数の加熱部77は、ダイ幅方向DLに沿って等間隔に並べられている。すなわち、複数の加熱部77は、2つの列に並べられている。加熱部77の数は、スリット73sの数より多い。図4に示すように、加熱部77は、領域79のそれぞれに1つずつ配置されている。また、複数の加熱部77は、ダイ幅方向DLで最も端部に配置された一端加熱部771と、ダイ幅方向DLで加熱部771とは反対側の端部に配置された他端加熱部772とを含む。一端加熱部771から他端加熱部77までの距離L77は、中間流路71のダイ幅方向DLの長さL71aより大きい。複数の加熱部77が、ダイ幅方向DLにおける中間流路71の全幅以上の長さに亘って並べられている。
温度計75は、ブロック73の温度を測定する。温度計75は、例えば熱電対である。温度計75は、熱電対に限定されず、ブロック73の温度を測定できる装置であればよい。温度調整部7は、複数の温度計75を備える。温度計75は、領域791から領域795のそれぞれに1つずつ配置されている。また温度計75は、領域796のそれぞれに2つずつ配置されている。
図1に示す制御装置10は、コンピュータである。制御装置10は、例えばCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、入力インターフェース、及び出力インターフェースを含む。CPU、ROM、RAM、入力インターフェース及び出力インターフェースは、内部バスに接続されている。
制御装置10は、温度計75からブロック73の温度を取得する。制御装置10は、温度計75から得た情報に基づいて加熱部77を制御する。例えば、制御装置10に領域79毎の設定温度が入力される。制御装置10は、温度計75から得る領域79の温度が設定温度となるように加熱部77を制御する。
ところで、ダイは、成形対象とするシートを構成する熱可塑性樹脂の流動特性に合わせ、ダイ幅方向の流量分布が均一になるように設計される。すなわち、ダイは専用装置として設計される。
ダイを用いたシートの成形において、シートの厚さ分布は、一般的にはダイのリップ部に設けられた調整機構(例えば調整ボルト38と同様の部材)を用いて均一化される。調整機構によりリップ部を開閉することで、リップ部のギャップが変化し、ダイ幅方向の流量分布が調整される。これによりシートの厚さ分布が均一化される。
一方で、ある材料構成に対して最適設計されたダイを使用して、熱可塑性樹脂材料の変更等を伴う、異なる構成のシートを成形しようとした場合、以下の問題が生じることがある。すなわち、厚さ分布の均一性が所望の均一性から著しく乖離することがある。
この場合、前述のようなダイのリップ部に設けられた調整機構による流量調整では、厚さ分布を十分に均一化することができない場合がある。
ダイを用いたシートの成形において、シートの厚さ分布を調整するための他の手段として以下の手段がある。すなわち、ダイのリップ部より上流の流路内に、流路面を押し引き可能な移動機構(チョークバー)が設けられる。チョークバーにより、流路が開閉し、流路の面積が変化する。これにより、ダイ幅方向の流量分布を調整することが可能である。
押出成形装置は、リップ部のギャップの調整機構と、チョークバーによる流路面積の調整機構を併せ持つことで、ダイ幅方向の厚さ分布を均一に調整可能な範囲を大幅に拡大することができる。しかし、チョークバーのような流路内面の移動機構を用いる場合、流路内に凹凸が生じ、その部分で樹脂の滞留、樹脂浸透、又は焼けなどが生じる。これに起因して、ダイの出口から押し出されるシートにおいては、表面の外から見えるスジ、又は焼け由来の異物等の不良が発生してしまうことがある。
図5は、樹脂についてせん断速度と粘度との関係を示すグラフである。図6は、ダイ幅方向における位置と流量比との関係を示すグラフである。
押出成形装置1に対してシミュレーションが行われた。図5は、シミュレーションに用いられた樹脂の特性を表している。図5は、樹脂が230℃である場合の特性と、樹脂が250℃である場合の特性と、樹脂が270℃である場合の特性とを示す。シミュレーションにおいては、押出成形装置1を流れる樹脂として、熱可塑性樹脂の一種であるポリカーボネートが用いられた。シミュレーションに用いられた樹脂については、270℃の状態で密度が1090(kg/m3)であり、熱伝導率は0.2(W/m℃)であり、比熱が2500(J/kg℃)である。樹脂の粘度は、キャピラリーレオメーターで測定された。粘度のせん断速度依存性については、カロウ(Carreau)モデルを用いて求められた。粘度の温度依存性については、アレニウス(Arrhenius)の法則を用いて求められた。
またシミュレーションにおいて、ブロック73の熱伝導率は、60.5(W/m℃)である。ブロック73の周囲の温度は50(℃)である。ブロック73の外表面における熱伝達係数は、10(W/m2K)である。流れ方向DFにおけるブロック73の長さは300(mm)である。ダイ幅方向DLにおける中間流路71の長さは160(mm)である。厚さ方向DTにおける中間流路71の長さは6(mm)である。ダイ幅方向DLにおけるスリット73sの長さは2(mm)である。ダイ幅方向DLにおけるスリット73s間のピッチは14(mm)である。厚さ方向DTにおけるスリット73sの中間流路71側の端部から中間流路71までの距離は2(mm)である。スリット73sを介した伝熱はないとする。厚さ方向DTにおける温度計75から中間流路71までの距離は2.5(mm)である。
またシミュレーションにおいて、拡張流路61の上流側端部の内径は30(mm)である。拡張流路61に送り込まれる樹脂の流量は100(kg/h)である。拡張流路61に送り込まれる樹脂の温度は270(℃)である。押出成形装置1のうち樹脂が接する部分の温度は、ブロック73を除き270(℃)である。押出成形装置1のうち樹脂が接する部分における熱伝達係数は500(W/m2K)である。ダイ幅方向DLにおける出口流路35の長さは1000(mm)である。
図6は、シミュレーションの結果を示している。図6の横軸は、出口流路35のダイ幅方向DLにおける中央からの距離を示す。図6の縦軸は、出口流路35における平均流量に対する各位置における流量の比(流量比)を示す。例えば、図6の横軸の0に対応する縦軸の値は、出口流路35のダイ幅方向DLの中央における流量比を意味する。図6の横軸の500に対応する縦軸の値は、出口流路35のダイ幅方向DLの端部における流量比を意味する。
図6における破線は、全ての領域79の温度が270℃に設定された場合の結果である。図6における実線は、領域791の温度が330℃に設定され、且つ領域792から領域796の温度が270℃に設定された場合の結果である。図6に示すように、全ての領域79の温度が270℃である場合、ダイ幅方向DLの中央における流量が比較的少なくなり、ダイ幅方向DLの端部における流量が比較的多くなる。これに対して、領域791の温度のみが330℃である場合、ダイ幅方向DLの中央における流量が増え、ダイ幅方向DLの端部における流量が減る。このため、ダイ幅方向DLの中央における流量とダイ幅方向DLの端部における流量との間の差が小さくなる。その結果、シートの厚さが均一になりやすい。
さらに、ダイ3においては、チョークバーを用いた場合に生じる流路内の凹凸が生じない。このため、第1実施形態の押出成形装置1によれば、シートにおいて、表面の外から見えるスジ、又は焼け由来の異物等の不良が抑制される。
なお、スリット73s、加熱部77及び温度計75のそれぞれの数は、必ずしも上述した数でなくてもよく、特に限定されない。またスリット73sはなくてもよい。また加熱部77及び温度計75は少なくとも1つずつあればよい。
なお、加熱部77は、必ずしも図4に示すように配置されていなくてもよい。例えば、加熱部77は、流れ方向DFにおけるブロック73の全長に亘って設けられていてもよい。また、1つの領域79に対して複数の加熱部77が設けられていてもよい。
なお、垂直平面で拡張流路61の上流側端部を切った断面は、必ずしも円形でなくてもよく、特に限定されない。垂直平面で拡張流路61の下流側端部を切った断面、垂直平面で中間流路71を切った断面、及び垂直平面で縮小流路81の上流側端部を切った断面は、必ずしも長円形でなくてもよく、特に限定されない。垂直平面で縮小流路81の下流側端部を切った断面は、必ずしも円形でなくてもよく、特に限定されない。また、垂直平面で縦流路32aを切った断面は、必ずしも円形とは限らない。垂直平面で縦流路32aを切った断面が矩形であってもよい。例えば、垂直平面で縦流路32aを切った断面形状が、垂直平面で中間流路71を切った断面形状と同じであってもよい。このような場合、下流側接続部8は、縮小流路81に代えて、中間流路71と同じ形状の流路を有することになる。
以上で説明したように、押出成形装置1は、リップ部31に挟まれた出口流路35を有するダイ3と、ダイ3の上流側に設けられる調整ブロック5と、備える。調整ブロック5は、上流側接続部6と、上流側接続部6の下流側に設けられる温度調整部7と、温度調整部7の下流側に設けられる下流側接続部8と、を備える。温度調整部7は、上流側接続部6の流路(例えば拡張流路61)と下流側接続部8の流路(例えば縮小流路81)とを繋ぐ中間流路71と、中間流路71を含むブロック73と、ブロック73に設けられた加熱部77と、を備える。樹脂の流れ方向に対して直交する平面で前記中間流路を切った断面のダイ幅方向における長さL71aは、ダイ幅方向DLに対して直交する厚さ方向における長さL71bよりも大きい。
これにより、中間流路71において樹脂の流量分布が調整される。中間流路71を通過した樹脂は、下流側接続部8を介して、ダイ3の方向に導かれる。このため、調整ブロック5によれば、ダイ3が既存の装置である場合でも、出口流路35における樹脂の流量分布を調整することが可能となる。したがって、第1実施形態の押出成形装置1は、シートの層の厚さを容易に調整することができる。
また押出成形装置1においては、温度調整部7は、複数の加熱部77を備える。1つの加熱部77は、他の加熱部77に対してダイ幅方向DLで異なる位置に配置される。
これにより、調整ブロック5によって、出口流路35における樹脂の流量分布をより細かく調整することが可能となる。その結果、シートの層の厚さを調整することがより容易になる。
また押出成形装置1においては、ブロック73は、ダイ幅方向DLで隣接する2つの加熱部77の間に配置されるスリット73sを備える。
これにより、ある加熱部77によって加熱される1つの領域79と、他の加熱部77によって加熱される1つの領域79との間で伝熱が生じにくくなる。ある領域79の温度に対して、隣接する領域79の温度の影響が及びにくい。このため、領域79間の温度差を大きくすることが可能となる。その結果、シートの層の厚さを調整することがより容易になる。
また押出成形装置1においては、複数の加熱部77は、ダイ幅方向DLで最も端部に配置された一端加熱部771と、ダイ幅方向DLで一端加熱部771とは反対側の端部に配置された他端加熱部772と、を含む。一端加熱部771から他端加熱部772までの距離L77は、ダイ幅方向DLにおける中間流路71の長さL71aより大きい。
これにより、中間流路71の全幅に亘って樹脂の流量分布を調整することが可能となる。その結果、シートの層の厚さを調整することがより容易になる。
また押出成形装置1においては、樹脂の流れ方向DFに対して直交する平面で中間流路71を切った断面のダイ幅方向DLにおける長さL71aは、厚さ方向DTにおける長さL71bの2倍以上の長さである。
これにより、出口流路35における樹脂の流量分布をより細かく調整することが可能となる。その結果、シートの層の厚さを調整することがより容易になる。
(第2実施形態)
図7は、第2実施形態に係る押出成形装置の模式図である。図8は、第2実施形態に係る押出成形装置の模式図である。図8は、押出成形装置1Aのダイ幅方向DLにおける半分のみを示している。なお、上述した実施形態で説明したものと同じ構成要素には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
第2実施形態の押出成形装置1Aは、多層のシートを作成する装置である。多層のシートとは、複数種類の樹脂で形成されたシートである。押出成形装置1Aは、上述したダイ3とは異なるダイ3Aを備える。
ダイ3Aは、いわゆるマルチマニホールドダイである。ダイ3Aは、導入流路321と、導入流路322と、導入流路323と、を備える。導入流路322は、第1実施形態の導入流路32と同様の形状を有する。導入流路321及び導入流路323は、導入流路322の両側に配置される。例えば、導入流路321及び導入流路323には、導入流路322に導入される樹脂とは異なる樹脂が導入される。導入流路321、導入流路322及び導入流路323は、出口流路35の上流側で合流する。このため、出口流路35から3層を有するシートが押し出される。導入流路321を通る樹脂に対応する層を第1層とする。導入流路322を通る樹脂に対応する樹脂を第2層とする。導入流路323を通る樹脂に対応する樹脂を第3層とする。
第2実施形態において、調整ブロック5は、導入流路322の上流側に設けられる。図3に示す調整ブロック5の縮小流路81の下流側端部が導入流路322に接続される。導入流路321及び導入流路323には、調整ブロック5を介さず、押出機から樹脂が供給される。
なお、押出成形装置1Aは、複数の調整ブロック5を備えていてもよい。調整ブロック5は、導入流路321、導入流路322及び導入流路323のうち少なくとも1つに接続されていればよい。例えば、3つの調整ブロック5が、導入流路321、導入流路322及び導入流路323に一対一で接続されてもよい。すなわち、押出成形装置1Aが3つの調整ブロック5を備え、導入流路321、導入流路322及び導入流路323のそれぞれに調整ブロック5が接続されてもよい。また、調整ブロック5は、必ずしも導入流路322に接続されていなくてもよい。例えば、調整ブロック5が導入流路322に接続されず、且つ導入流路321及び導入流路323の少なくとも一方に接続されていてもよい。また、調整ブロック5が複数設けられる場合、制御装置10が調整ブロック5に対して一対一で設けられてもよいし、複数の調整ブロック5に対して1つの制御装置10が設けられてもよい。
ところで、ダイを用いた多層のシートの成形において、各層を積層させる手段として以下の手段がある。すなわち、各層固有のマニホールドを持ったマルチマニホールドダイが用いられる。もしくは、ダイの流入部において、事前に各層を積層させるためのフィードブロックが用いられる。もしくは、マルチマニホールドダイとフィードブロックを併用した多層化機構が用いられる。
ここで、マルチマニホールドダイ及びフィードブロックは、成形対象とする多層のシートの各層を構成する熱可塑性樹脂の流動特性に合わせ、ダイ幅方向の流量分布が均一になるように設計される。すなわち、マルチマニホールドダイ及びフィードブロックは、専用装置として設計される。
多層のシートの成形においても、シートの厚さ分布は、一般的にはダイのリップ部に設けられた調整機構(調整ボルト38に相当する装置)を用いて均一化される。調整機構によりリップ部を開閉することで、リップ部のギャップが変化し、ダイ幅方向の流量分布が調整される。これによりシートの厚さ分布が均一化される。
一方で、ある多層のシートに対して最適設計された既存のマルチマニホールドダイやフィードブロックを使用して、熱可塑性樹脂材料の変更又は各層の流量比の変更等を伴う、異なる層構成のシートを成形しようとした場合、以下の問題が生じる。すなわち、各層の積層比(シート全体の厚さに対する1つの層の厚さの割合)の分布が、所望の均一性を維持できなくなることがある。
この場合、前述のようなダイのリップ部に設けられた調整機構による流量調整では、積層完了後のトータルの厚さ分布は調整可能であるが、各層の積層比の分布を均一にすることは困難であった。
上述した特許文献1には、特に多層フィルムを成形するための押出成形装置の一例が記載されている。ここで、特許文献1においては、ダイの出口における各層のダイ幅方向の厚さ分布を調節するために、フィードブロックに発熱体ないしは流路の断面形状を調整する移動機構が設けられている。
特許文献1において、発熱体は、各層の合流部である「ビーク」に設けられる。特許文献1の図2中の発熱体(発熱体43及び発熱体44)の加熱により、内層流路の流量を調整しようとした場合、以下の問題が生じる。すなわち、発熱体43及び発熱体44による熱は、内層流路だけでなく、外層流路にも影響してしまう。これにより、内層流路及び外層流路を個別に、精度良く流量調整することは困難である。
特許文献1に記載される流路の断面形状を調整する移動機構を用いる場合、流路内に凹凸を生じ、その部分での樹脂の滞留、樹脂浸透、又は焼けなどが生じる。これに起因して、ダイの出口から押し出されるシートにおいては、表面に外から見えるスジ状の不良が発生してしまう。このため、実用は困難である。
図9は、第1樹脂及び第2樹脂についてのせん断速度と粘度との関係を示すグラフである。図10は、ダイ幅方向における位置と全体の厚さに対する第2層の厚さの比との関係を示すグラフである。
押出成形装置1Aに対してシミュレーションが行われた。図9は、シミュレーションに用いられた第1樹脂及び第2樹脂の特性を表している。図9における実線が第1樹脂の特性を表し、破線が第2樹脂の特性を表す。シミュレーションにおいては、導入流路322に第1樹脂が導入され、導入流路321及び導入流路323に第1樹脂とは異なる第2樹脂が導入された。第1樹脂は、ポリカーボネートである。第2樹脂は、ポリメタクリル酸メチル樹脂である。
シミュレーションにおいて、拡張流路61に送り込まれる第1樹脂の流量は30(kg/h)である。拡張流路61に送り込まれる第1樹脂の温度は270(℃)である。導入流路321に送り込まれる第2樹脂の流量は30(kg/h)である。導入流路321に送り込まれる第2樹脂の温度は270(℃)である。導入流路323に送り込まれる第2樹脂の流量は30(kg/h)である。導入流路323に送り込まれる第2樹脂の温度は270(℃)である。ダイ幅方向DLにおける出口流路35の長さは200(mm)である。その他の条件は、第1実施形態で説明した条件と同じである。
図10は、シミュレーションの結果を示している。図10の横軸は、出口流路35のダイ幅方向DLにおける中央からの距離を示す。図10の縦軸は、出口流路35から押し出されたシートの全体の厚さ(全厚)に対する第2層の厚さの比(以下、第2層比という)を示す。例えば、図10の横軸の0に対応する縦軸の値は、シートのダイ幅方向DLの中央における第2層比を意味する。図10の横軸の100に対応する縦軸の値は、シートのダイ幅方向DLの端部における第2層比を意味する。
図10における破線は、全ての領域79の温度が270℃に設定された場合の結果である。図10における実線は、領域791の温度が300℃に設定され、領域792の温度が280℃に設定され、領域795の温度が260℃に設定され、領域796の温度が250℃に設定され、他の領域79の温度が270℃に設定された場合の結果である。図10に示すように、全ての領域79の温度が270℃である場合、ダイ幅方向DLの中央における第2層比が比較的小さくなり、ダイ幅方向DLの端部における第2層比が比較的大きくなる。これに対して、領域79の温度が調整された場合、ダイ幅方向DLの中央における第2層比が増え、ダイ幅方向DLの端部における第2層比が減る。このため、ダイ幅方向DLの中央における第2層比とダイ幅方向DLの端部における第2層比との間の差が小さくなる。その結果、第2層比が均一になりやすい。
また、上述したように特許文献1においては、内層流路及び外層流路を個別に、精度良く流量調整することは困難であった。すなわち、特定の樹脂に対して温度調整することが難しい。これに対して、押出成形装置1Aにおいては、1つの樹脂が1つの調整ブロック5を通過する。このため、押出成形装置1Aによれば、特定の樹脂に対する温度調整の精度が向上する。
さらに、ダイ3においては、特許文献1に記載される移動機構を用いた場合に生じる流路内の凹凸が生じない。このため、第2実施形態の押出成形装置1Aによれば、シートにおいては、表面に外から見えるスジ状の不良の発生が抑制される。
図11は、シートの製造方法を示すフローチャートである。図12及び図13は、シートの製造方法を説明するための模式図である。押出成形装置1Aを用いたシートの製造方法においては、まず第1温度条件に基づいてシートが押し出される(ステップS1)。第1温度条件は、任意であるが、例えば全ての領域79の温度を同じとする条件である。次に、第1温度条件で押し出されたシートの形状に基づいて第2温度条件が決定される(ステップS2)。第2温度条件は、第1温度条件とは異なる。次に、第2温度条件に基づいてシートが押し出される(ステップS3)。
第1温度条件に基づいて押し出されたシートが、例えば図12の上側に示すような形状であったとする。すなわち、第2層92のダイ幅方向DLの中央の厚さが、第2層92のダイ幅方向DLの端部の厚さより小さくなったとする。ダイ幅方向DLの中央において、第2層92の厚さが第1層91及び第3層93の厚さよりも小さくなったともいえる。この場合、第2温度条件においては、ダイ幅方向DLの端部に位置する領域79(領域796)の温度が他の領域79(領域791から領域795)の温度よりも低く設定される。これにより、図12の下側に示すように、第2層92の厚さが均一に近付く。
第1温度条件に基づいて押し出されたシートが、例えば図13の上側に示すような形状であったとする。すなわち、第2層92のダイ幅方向DLの中央の厚さが、第2層92のダイ幅方向DLの端部の厚さより大きくなったとする。ダイ幅方向DLの中央において、第2層92の厚さが第1層91及び第3層93の厚さよりも大きくなったともいえる。この場合、第2温度条件においては、ダイ幅方向DLの端部に位置する領域79(領域796)の温度が他の領域79(領域791から領域795)の温度の平均よりも高く設定される。これにより、図13の下側に示すように、第2層92の厚さが均一に近付く。
なお、第1温度条件において、全ての領域79の温度が同じでなくてもよい。この場合、第2温度条件については以下のように説明できる。第1温度条件における領域796の温度と他の領域79の温度の平均との間の差を第1温度差とする。第2温度条件における領域796の温度と他の領域79の温度の平均との間の差を第2温度差とする。第1温度条件に基づいて押し出されたシートが図12の上側に示すような形状である場合、下記の通りとなる。すなわち、領域796の温度が他の領域79(領域791から領域795)の温度よりも低く設定され、且つ第2温度差が第1温度差よりも高く設定される。第1温度条件に基づいて押し出されたシートが図13の上側に示すような形状である場合、下記の通りとなる。すなわち、領域796の温度が他の領域79(領域791から領域795)の温度よりも高く設定され、且つ第2温度差が第1温度差よりも高く設定される。
上述したように、押出成形装置1Aにおいては、複数の熱可塑性樹脂が出口流路35を流れる。1つの調整ブロック5を流れる熱可塑性樹脂は1つである。
これにより、少なくとも1つの層に対応する樹脂が調整ブロック5を通ることで、出口流路35における1つの層の流量分布を単独で調整することが可能となる。したがって、押出成形装置1Aは、シートの全厚に対する1つの層の厚さの比を容易に調整することができる。
また、特許文献1のように複数の樹脂が流れるフィードブロックに発熱体が設けられる場合、ある樹脂のために設けられた発熱体が他の樹脂に影響を及ぼす可能性がある。すなわち、特定の樹脂に対して温度調整することが難しい可能性がある。これに対して、押出成形装置1Aにおいては、1つの樹脂が1つの調整ブロック5を通過する。このため、押出成形装置1Aによれば、特定の樹脂に対する温度調整の精度が向上する。
また、押出形成装置1Aを用いたシートの製造方法は、第1ステップ(ステップS1)と、第2ステップ(ステップS2)と、第3ステップ(ステップS3)と、を含む。第1ステップでは、ブロック73の温度に関する第1温度条件に基づいて出口流路35からシートが押し出される。第2ステップでは、第1ステップで形成されたシートの形状に基づき、ブロック73の温度に関する第2温度条件が決定される。第3ステップでは、第2温度条件に基づいて出口流路35からシートが押し出される。
これにより、出口流路35における樹脂の流量分布を所望の流量分布に近付けることが可能となる。したがって、押出成形装置1Aを用いたシートの製造方法は、シートの層の厚さを容易に調整することができる。
(第3実施形態)
図14は、第3実施形態に係る押出成形装置の模式図である。なお、上述した実施形態で説明したものと同じ構成要素には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
第3実施形態の押出成形装置1Bは、多層のシートを作成する装置である。押出成形装置1Bは、上述したダイ3とは異なるダイ3Bと、フィードブロック4と、を備える。
ダイ3Bは、導入流路32Bを備える。導入流路32Bは、第1実施形態の導入流路32と同様の形状を有する。導入流路32Bは、出口流路35に接続される。
フィードブロック4は、導入流路41と、導入流路42と、導入流路43と、を備える。例えば、導入流路41及び導入流路43には、導入流路42に導入される樹脂とは異なる樹脂が導入される。導入流路41、導入流路42及び導入流路43は、フィードブロック4内で合流する。合流した樹脂が導入流路32Bに導かれる。このため、第2実施形態と同様に、出口流路35から3層を有するシートが押し出される。
第3実施形態において、調整ブロック5は、導入流路42の上流側に設けられる。図3に示す調整ブロック5の縮小流路81の下流側端部が導入流路42に接続される。導入流路41及び導入流路43には、調整ブロック5を介さず、押出機から樹脂が供給される。
なお、押出成形装置1Bは、複数の調整ブロック5を備えていてもよい。調整ブロック5は、導入流路41、導入流路42及び導入流路43のうち少なくとも1つに接続されていればよい。例えば、3つの調整ブロック5が、導入流路41、導入流路42及び導入流路43に一対一で接続されてもよい。すなわち、押出成形装置1Bが3つの調整ブロック5を備え、導入流路41、導入流路42及び導入流路43のそれぞれに調整ブロック5が接続されてもよい。また、調整ブロック5は、必ずしも導入流路42に接続されていなくてもよい。例えば、調整ブロック5が導入流路42に接続されず、且つ導入流路41及び導入流路43の少なくとも一方に接続されていてもよい。また、調整ブロック5が複数設けられる場合、制御装置10が調整ブロック5に対して一対一で設けられてもよいし、複数の調整ブロック5に対して1つの制御装置10が設けられてもよい。
なお、導入流路41、導入流路42及び導入流路43の断面形状は、フィードブロック4の上流部では円形であるが、フィードブロック4の下流部では矩形である。調整ブロック5は、必ずしも導入流路41、導入流路42又は導入流路43のうち断面形状が円形である部分に接続されなくてもよい。調整ブロック5は、導入流路41、導入流路42又は導入流路43のうち断面形状が矩形である部分に接続されていてもよい。
上述したダイ3、ダイ3A及びダイ3Bとしては、例えば、環状ダイやTダイ等が挙げられる。調整ブロック5は、単層型のTダイ、もしくは多層型のマルチマニホールドダイ、もしくはTダイの流入部に設けられた多層積層部(フィードブロック)に好適に用いることができる。
一般的に「シート」とは、JISにおける定義上、薄く、一般にその厚さが長さと幅のわりには小さく平らな製品をいい、一般的に「フィルム」とは、長さ及び幅に比べて厚さが極めて小さく、最大厚さが任意に限定されている薄い平らな製品で、通常、ロールの形で供給されるものをいう(日本工業規格JISK6900)。しかし、シートとフィルムの境界は定かでなく、上述した実施形態においては両者を同義として用い、統一して「シート」と記す。