以下、本発明の実施形態に係る同位体分離装置および同位体分離方法を添付の図面に基づいて説明する。
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態に係る同位体分離装置の一例である同位体分離装置10Aの構成を概略的に示した概略図である。
なお、図1中の丸I(〇の内にIが記載される記号)は、結合子である。また、三方弁323などの弁において、白抜きおよび黒塗りは、それぞれ、弁の「開」(開放)および「閉」(閉止)の状態を表している。
同位体分離装置10Aは、例えば、噴霧手段11と、未蒸発分捕集手段12と、位置調整手段13と、検出手段としての雰囲気情報検出手段14および液位検出手段15と、制御手段16とを具備して構成される。
同位体分離装置10Aには、液体を移送する3種類のラインとして、移送ライン31、戻りライン32および液相回収ライン33が設けられている。
同位体分離装置10Aは、液滴2の浮遊時間の管理および回収をより容易に行う観点から、例えば空調管理可能な室内など、噴霧手段11および未蒸発分捕集手段12の周辺の雰囲気が安定している環境に設置されることが好ましい。
噴霧手段11は、例えば、スプレーノズル、噴霧器、超音波霧化器などの霧化器を用いて構成され、分離対象である同位体を液体中に含む被処理液1を微小な液滴2として霧状に噴射(噴霧)する。ここで、微小な液滴2とは、平均粒径が100マイクロメートル[μm]以下の液滴2をいう。なお、液滴2の平均粒径の下限は、選択する機器の性能限界によって決定される。
噴霧手段11の液滴2の噴射方向は、図1に例示される同位体分離装置10Aでは、鉛直下方向に設定されているが、必ずしも鉛直下方向に限定されるものではなく、液滴2の浮遊時間を制御可能である限り任意(全方位)に設定することができる。
また、噴霧手段11の噴射口の位置は、高さ方向(図1において縦(上下)方向)の位置を調整可能に構成されてもよい。
未蒸発分捕集手段12は、噴霧手段11から噴射された液滴2を噴霧手段11の下方で捕集する構成要素である。未蒸発分捕集手段12の形状、大きさ、材質は、任意であるが、材質については、未蒸発分3を回収容易にする観点から、撥水性が良好なものがよく、撥水性が良好な材料または撥水性良好に表面処理を施した材料を選択するのが好ましい。
位置調整手段13は、未蒸発分捕集手段12を調整可能な範囲内で所望の高さ位置に移動させ、その位置に未蒸発分捕集手段12を固定する機能を有する。位置調整手段13は、未蒸発分捕集手段12の高さ方向の位置を調整することによって、噴霧手段11の噴射口から未蒸発分3によって形成される液面までの距離hを調整(可変)する。未蒸発分捕集手段12の位置調整は、手動で行われてもよいし、制御手段16からの指令を受けて自動で行われてもよい。
雰囲気情報検出手段14は、液滴2を噴射し、浮遊させて一部を蒸発させる空間を取り巻く雰囲気の、例えば、温度、湿度および圧力など、雰囲気の状態を表す物理量を検出する。
同位体分離装置10Aでは、雰囲気情報検出手段14として、例えば、雰囲気の温度を検出する温度検出部14aと、雰囲気の湿度を検出する湿度検出部14bと、雰囲気の圧力を検出する圧力検出部14cとを備えて構成される。温度検出部14a、湿度検出部14bおよび圧力検出部14cがそれぞれ検出した検出結果は、制御手段16へ送られる。
液位検出手段15は、未蒸発分捕集手段12が捕集した未蒸発分3が形成する液面(液位)を検出する。検出結果は、制御手段16へ送られる。
制御手段16は、例えば、噴霧手段11および未蒸発分捕集手段12の高さ方向の位置(相対位置)およびポンプ321の運転状態を制御する機能を有する。
制御手段16は、噴霧手段11および未蒸発分捕集手段12の相対位置について、噴霧手段11および未蒸発分捕集手段12の少なくとも一方の高さ方向の位置を変え、噴霧手段11および未蒸発分捕集手段12の間の距離hを制御する。距離hは、雰囲気情報検出手段14が検出する雰囲気の温度などの物理量や液位検出手段15が検出する液位の情報に基づいて適切な浮遊時間となるように制御される。
移送ライン31は、蓄液タンクなどの被処理液1の供給源(図示省略)から被処理液1の供給時に開動作する二方弁311を介して被処理液1を噴霧手段11へ移送する流路を備えるラインである。なお、噴霧手段11(噴射口)の高さ方向の位置を調整可能に構成する場合、噴射口である移送ライン31の終端の位置が変わり、供給源から噴射口までの距離が変わることになるため、移送ライン31の少なくとも一部に可撓性または伸縮性を有する配管や継手を採用するなどして終端位置の調整が可能な箇所を移送ライン31に設ける。
戻りライン32は、例えば、未蒸発分3が集まる未蒸発分捕集手段12(または後述する未蒸発分回収手段17:図6)と移送ライン31上に設定される合流点P1とを連絡し、未蒸発分捕集手段12が捕集した未蒸発分3を必要に応じて移送ライン31(合流点P1)へ戻すための流路を備えるラインである。未蒸発分3の移送ライン31への戻し量は、未蒸発分3に含まれる同位体の濃度を考慮して調整される。
なお、位置調整手段13を設け、未蒸発分捕集手段12における捕集位置を調整可能に構成する場合、未蒸発分捕集手段12との接続部分である戻りライン32の始端の位置が変わるため、少なくとも一部に可撓性または伸縮性を有する配管や継手を採用するなどして、始端位置の調整が可能な箇所を戻りライン32に設ける。
また、戻りライン32には、液体を移送するポンプ321が設けられる。さらに、必要に応じて、濃度監視部322や流路を開閉する弁323および324が設けられる。ポンプ321の制御機能を有する制御手段16を具備する場合、ポンプ321の運転状態などは、液面(液位)の検出結果に基づいて制御する制御手段16によって制御される。
濃度監視部322は、同位体の濃度を計測する機能と濃度計測結果に基づいて三方弁323の開閉状態を切り替える指令を生成する機能とを有し、計測した同位体の濃度に応じて三方弁323の開閉状態を切り替える。なお、図1に示される三方弁323の白抜きおよび黒塗りは、それぞれ、開放および閉止の状態を表しており、図1に例示される三方弁323の開閉状態は、合流点P1へ向かう流路が開放する一方、液相回収ライン33を構成する流路が閉止している状態である。
液相回収ライン33は、例えば、移送ライン31への戻しを停止するまたは減少させるなどの必要時に、未蒸発分捕集手段12が捕集する未蒸発分3を回収する流路を備えるラインである。液相回収ライン33は、例えば、移送ライン31への戻しを停止するまたは減少させるなどの必要時に入口である三方弁323の液相回収ライン33側のポートが開路する一方、合流点P1へ向かう流路が閉止する。この三方弁323の流路開閉動作によって捕集された未蒸発分3は液相回収ライン33を通して回収される。
続いて、同位体分離装置10Aが採用する同位体分離処理手順の原理について、水と水素同位体の交換反応を例に説明する。
水と水素同位体の交換反応は、下記式(1)で表される。ここで、下記式(1)中のαは分離係数(平衡定数)であり温度が定まると決定される定数である。
分離係数(平衡定数)αは、比揮発度とも呼称され、完全気体と理想溶液では、下記式(2)に記されるように、分圧の比として表される。ここで、下記式(2)中のxおよびyは、それぞれ、気相および液相のモル分率である。また、Pは分圧である。なお、xなどに付される下付き文字は物質名を表しており、例えば、下付き文字が付されているxは、当該物質の気相のモル分率を表す。
また、温度0℃から130℃の範囲(273K≦T≦403K)では、HTOの分圧に対するH2Oの分圧(分圧比)の自然対数(ネイピア数eを底とする対数)について、下記式(3)が成立する報告例がある。また、水素同位体を含む水の蒸気圧の大きさの関係は、下記式(4)で表される関係が成立することが知られている。
図2はH2Oの同位体の温度(横軸)と分離係数α(縦軸)との関係を示す説明図(グラフ)であり、より具体的には、上記式(3)を用いて求まる温度Tに対する分離係数αの関係を表すグラフである。
図2に示される関係から温度が低いほど分離係数αは大きくなる傾向がある。その一方で温度が低くなるほど反応速度は遅くなる傾向にある。従って、大きい分離係数αを得るためには、より反応速度を高める手法を採用して処理効率を向上させる必要がある。
そこで、本実施形態では、反応速度を向上させる手法として、被処理液1を微小液滴化して表面積を増大化する手法を採用している。本手法を採用することで、被処理液1の蒸発に寄与する表面積を大きくすることができ、同じ温度であっても微小液滴化しない場合と比べてより高速に反応を進行させることができる。
また、被処理液1の蒸発量は、液滴2の浮遊時間や雰囲気の温度などを制御することにより行う。被処理液1を微小液滴化した液滴2について、蒸発による液体(ここでは、水)の液滴半径の変化は下記式(5)を用いて求めることができることが知られている。
被処理液1(図1)から同位体を分離するためには、気相分(蒸発分)が生じることが必要である一方、完全に蒸発させない(液滴2が未蒸発分3として残存する)ことが必要である。従って、未蒸発分捕集手段12の高さ方向の位置、より具体的には距離hは、液滴2の蒸発速度に応じて設定する。
液滴2の浮遊時間は、噴霧手段11から噴射された直後(初期時)の液滴2よりも小さくなっていれば十分であるが、同位体の分離を効率化する観点からは、気相分(蒸発分)と液相分(未蒸発分3)との割合が、少量側が10%程度以上であって多量側が90%程度未満であることが好ましい。また、少量側が25%程度以上であって多量側が75%程度未満であればより好ましく、気相分(蒸発分)と液相分(未蒸発分3)との割合の差が20%程度以内で収まる範囲であればさらに好ましい。
図3は、周囲(雰囲気)の温度が25℃、浮遊開始時(浮遊時間0秒[sec])に平均粒径が20μmの場合における、液滴2(図1)の浮遊時間(横軸)経過後の平均粒径(縦軸)の関係を示す説明図(グラフ)である。
液滴2は、浮遊時間の経過と共に蒸発して平均粒径が浮遊開始時よりも小さくなる。例えば、噴霧手段11から噴射された直後(初期時)の液滴2の平均粒径が20μmであった場合、浮遊時間を約25秒以上に設定すれば、浮遊時の液滴2の平均粒径は初期時(=20μm)の3/4以下となる15μm以下とすることができ、初期時の液滴2の体積に対して約半分以上を蒸発させることができる。
液滴2の噴射方向が図1に例示される鉛直下方向の場合、噴霧手段11の特性により異なる場合も有り得るが、一般的には、液滴2は自由落下すると考えられる。液滴2の浮遊時間を確保するために設定する未蒸発分捕集手段12の高さ方向の位置は、例えば、ストークスの終末沈降速度を導出する下記式(8)を用いて算出することができる。制御手段16は、下記式(8)を用いた未蒸発分捕集手段12の高さ方向の位置の算出結果を距離hの制御に用いることができる。
また、浮遊時間は、噴射する液滴2の直径(平均粒径)の他、液滴2の噴射速度、雰囲気ガスの種類(空気、希ガスなど)や状態(温度、湿度、圧力など)によっても変化する。従って、液滴2の大きさおよび浮遊時間、液滴2の噴射速度、雰囲気ガスの種類、雰囲気ガスの状態および液滴2の沈降距離などを考慮して同位体の分離に適切な距離hを設定可能に噴霧手段11および未蒸発分捕集手段12を構成する。
図4は、雰囲気温度が20℃(常圧)の場合における、液滴2の大きさ(平均粒径)の違いに対する浮遊時間(横軸)と沈降距離(縦軸)との関係を示す説明図(グラフ)である。
図4に示される点群m1、m2、m3、m4およびm5は、それぞれ、液滴2の平均粒径が、0.1、1.0、5.0、10および20μmの場合の沈降距離をメートル[m]で表している。
液滴2は平均粒径が大きい程、浮遊時間は短くなり、沈降距離は長くなる。また、何れの平均粒径についても、浮遊時間と沈降距離とは比例関係にあり、浮遊時間が長い程、沈降距離は長くなる。図4に示される結果を考慮すれば、例えば、噴霧手段11および未蒸発分捕集手段12間の距離hを0.4メートル程度とし、浮遊時間が120秒[sec]以内となるように装置を設計する場合、液滴2の平均粒径は10μm以上とすることが望ましい。
続いて、同位体分離装置10Aの作用について、図1に示される同位体分離装置10Aを例に説明する。
同位体分離装置10Aは、まず、移送ライン31を通して被処理液1を噴霧手段11へ移送する。噴霧手段11では、被処理液1が微小液滴化されて液滴2が生成される。被処理液1が微小液滴化されることによって蒸発に寄与する表面積が増大する。
生成された液滴2は噴霧手段11の噴射口から雰囲気中に噴射され、設定した所定時間以上浮遊させる。同位体分離装置10Aでは、液滴2の大きさ、液滴2の噴射速度、雰囲気ガスの種類、雰囲気ガスの状態および距離hの少なくとも何れかを制御することによって液滴2の浮遊時間が制御される。
なお、液滴2の大きさについては、例えば、噴霧手段11が液滴2の大きさを制御する機能を有する場合、当該機能を用いて行われる。
雰囲気中に噴射された液滴2は、雰囲気中を浮遊する過程で一部が蒸発し、残りは液滴2として残存する。液滴2として残存する未蒸発分3は未蒸発分捕集手段12に捕集される。液滴2の浮遊時間は軽いほど長くなるため、液滴2として残存する未蒸発分3は、蒸発した蒸発分よりも相対的に重い。
同位体分離装置10Aは、液滴2を浮遊させることによって、液滴2を気相分(液滴2の蒸発分)と液相分(液滴2の未蒸発分3)とに分離し、被処理液1に含まれる同位体を相対的に軽い成分(軽成分)と相対的に重い成分(重成分)とに分離する。
図1に例示される同位体分離装置10Aでは、未蒸発分捕集手段12に捕集された未蒸発分3は、戻りライン32を通して移送される。未蒸発分3の移送先は、三方弁323によって、移送ライン31(合流点P1)か液相回収ライン33かに切り替えられる。移送先の切り替えは、例えば、濃度監視部322が計測した同位体の濃度を考慮するなどして行われる。
なお、上述した同位体分離装置10Aは一例であり、上述した例に限定されるものではなく、幾つかの構成要素を付加したり、任意の構成要素を省略するなど変更したりして同位体分離装置10Aを構成することができる。
同位体分離装置10Aは、少なくとも被処理液1を微小な液滴2として噴霧して所定の浮遊時間浮遊させた後に残存する液滴2を捕集できればよいため、噴霧手段11と未蒸発分捕集手段12とを具備していればよい。換言すれば、上述した同位体分離装置10Aのうち、位置調整手段13、雰囲気情報検出手段14、液位検出手段15、制御手段16、戻りライン32および液相回収ライン33は、任意の構成要素であり、これらの少なくとも何れかを省略して同位体分離装置10Aを構成することができる。
例えば、上述した同位体分離装置10Aは、被処理液1の温度調整手段を具備していない例であるが、図示が省略されている供給源や移送ライン31にヒータやクーラなどの被処理液1の調温手段を追設してもよい。
また、上述した同位体分離装置10Aは、位置調整手段13を具備しているが、距離hの調整を噴霧手段11側のみで十分に行える場合などでは、位置調整手段13を省略した構成を採用してもよい。
また、上述した同位体分離装置10Aは、機械を用いて未蒸発分3を回収し、移送ライン31に合流させる戻りライン32を設けて構成されているが、必ずしも戻りライン32を設ける必要はない。また、戻りライン32から分岐する液相回収ライン33についても必ずしも設ける必要はなく、省略した構成を採用してもよい。
同位体分離装置10Aでは、上述したような構成要素の追加や省略の他にも、形状や要素を変更することもできる。上述した同位体分離装置10Aにおいて、未蒸発分捕集手段12を一例にして説明する。
図5は未蒸発分捕集手段12の構成例を示す概略図であり、図5(A)は捕集面121が平らな構成例を示す概略図、図5(B)は捕集面121が傾斜している構成例を示す概略図である。
図6は未蒸発分捕集手段12および未蒸発分回収手段17の構成例を示す概略図であり、図6(A)は、傾斜している回収面171を備える未蒸発分回収手段17の構成例を示す概略図であり、図6(B)は平らな回収面172を備える未蒸発分回収手段17の構成例を示す概略図である。
図1に例示される未蒸発分捕集手段12の未蒸発分3の捕集面は、図5(A)に例示されるような平らな捕集面(平面)121であるが、より捕集を容易化するなどの観点から図5(B)に例示されるような傾斜した捕集面122に構成してもよい。
また、図6(A)に例示されるように、未蒸発分捕集手段12の捕集面に貫通孔を設けた有孔捕集面123を形成したり、スクレーパ18などの捕集面をかする(擦過する)擦過手段を付属させたりしてもよい。
有孔捕集面123を形成した未蒸発分捕集手段12では、未蒸発分捕集手段12を動かすことなく未蒸発分3を容易に回収することができ、未蒸発分3の回収効率を高めることができる。また、擦過手段は、未蒸発分捕集手段12に残留する未蒸発分3の量をより減少させることができ、未蒸発分3の回収効率を高めることができる。
有孔捕集面123を形成した未蒸発分捕集手段12を設ける場合、図6(A)に例示されるように、未蒸発分捕集手段12とは別に未蒸発分3(図1)を回収する容器状の未蒸発分回収手段17をさらに設けることができる。蒸発分回収手段17における未蒸発分3の回収面は、傾斜した回収面171(図6(A))でも平らな回収面172(図6(B))でもよい。
また、図6に示される未蒸発分回収手段17は、戻りライン32と接続されている例であるが、戻りライン32が省略されていてもよい。すなわち、未蒸発分回収手段17は単なる容器として構成されていてもよい。
次に、第1の実施形態に係る同位体分離方法の一例として、同位体分離装置10Aを用いた同位体分離処理手順(以下、「第1の同位体分離処理手順」とする。)について説明する。
図7は、第1の同位体分離処理手順における処理ステップ(ステップS1〜ステップS4)の流れを示す流れ図(フローチャート)である。
第1の同位体分離処理手順は、例えば、同位体を含む被処理液1を微小な液滴2(図1)とするステップ(ステップS1)と、微小な液滴2を所定空間内に放出(噴射)し、放出した微小な液滴2を設定した所定時間浮遊させることによって、浮遊中に蒸発する蒸発分と浮遊を終えてもなお液体のまま残存する未蒸発分3とに分離するステップ(ステップS2)とを備える。所定空間内に放出された微小な液滴2のうち、未蒸発分の液滴2は、回収される(ステップS3)。
第1の同位体分離処理手順では、まず、噴霧手段11(図1)が同位体を含む被処理液1の微小な液滴2を発生させる(ステップS1)。続いて、発生させた微小な液滴2を、噴霧手段11から噴射して空間を浮遊させる。液滴2は、放出された空間中で一部が蒸発して大きさが減少していき、設定される浮遊時間経過後、未蒸発分捕集手段12(図1)に到着する(ステップS2)。続いて、蒸発することなく残存する液滴2(未蒸発分3)を回収する(ステップS3)。
ステップS3の完了後、第1の同位体分離処理手順を終了する場合(ステップS4でYESの場合)、第1の同位体分離処理手順は全処理ステップを終了する(END)。一方、第1の同位体分離処理手順を終了しない場合(ステップS4でNOの場合)、処理フローはステップS1へ戻り、ステップS1以降の処理ステップが行われる。
このように、同位体分離装置10Aおよび第1の同位体分離処理手順によれば、同位体を含む液体(被処理液1)を微小な液滴2として噴射し、一部の液滴2を蒸発させることで、蒸発分と未蒸発分とに分離することができる。液滴2の蒸発分は相対的に軽い同位体が多くなる一方、液滴2の未蒸発分は相対的に重い同位体が多くなることから、液滴2の蒸発分と未蒸発分とを分離することによって、被処理液1に含まれる同位体を分離することができる。
同位体分離装置10Aは、同位体を分離するための構成が噴霧手段11および未蒸発分捕集手段12であるため、水蒸留方式、同位体交換方式および電気分解方式などの従来の同位体分離技術を採用した同位体分離装置よりも小型で処理コストを割安に抑えることができる。すなわち、同位体分離装置10Aおよび第1の同位体分離処理手順によれば、従来よりも小型で処理コストを割安に抑えて被処理液1の中に存在する同位体を分離して回収することができる。
また、同位体分離装置10Aを、噴霧手段11および未蒸発分捕集手段12間の距離hを調整可能に構成することで、液滴2の浮遊時間を適切に制御することができ、高い分離効率が得られる状態を維持することができる。
同位体分離装置10Aに検出手段を設けることで、液滴2の浮遊時間に影響する雰囲気ガスの状態(温度、湿度、圧力など)や噴霧手段11および未蒸発分捕集手段12間の距離hを検出することができ、検出結果を高い分離効率を得るための浮遊時間の設定に用いることができる。また、同位体分離装置10Aに制御手段16を設けることで、高い分離効率を得るための浮遊時間の設定を(制御手段16が)自動で行うことができる。
同位体分離装置10Aに、未蒸発分回収手段17を設けることで、未蒸発分3の捕集を継続しつつ捕集された未蒸発分3を回収することができる。また、擦過手段を設けることで未蒸発分3をより効率良く集積して回収することができる。
また、同位体分離装置10Aにおいて、戻りライン32を設けることで、未蒸発分3の捕集を継続しつつ捕集された未蒸発分3を回収することができる。さらに、同位体分離装置10内で第1の同位体分離処理手順(図7)などの同位体分離処理手順を複数回(多サイクルで)繰り返すことができるので、より濃度の高い状態で同位体を分離することができる。
同位体分離装置10Aにおいて、戻りライン32から分岐する液相回収ライン33を設けることで、同位体分離処理手順の繰り返しが不要な場合に、同位体分離処理手順を行ってもなお未蒸発であった液滴2を回収することができる。
さらに、戻りライン32に濃度監視部322を設けることで、計測した同位体の濃度に応じて、未蒸発分3の移送ライン31への移送を継続するか否(移送ライン31への移送を停止または移送先を切り替えて回収する)かを切り替えることができる。
なお、図1に例示される同位体分離装置10Aは、同位体の分離を行う、噴霧手段11および未蒸発分捕集手段12が、それぞれ1個ずつ(分離段数が1段)の構成であるが、同位体分離装置10Aを直列に複数個接続して分離段数を複数段に多段化して構成してもよい。
[第2の実施形態]
本発明の第2の実施形態に係る同位体分離装置は、第1の実施形態に係る同位体分離装置に対して、より空間的に限定した範囲内で液滴の蒸発を管理する点と、当該範囲内で生じた液滴の蒸発分(気相分)を回収する蒸発分回収ラインが設けられている点とで相違するが、その他の点では実質的に相違しない。そこで、本実施形態の説明では、上記相違点を中心に説明し、上述した実施形態と実質的に重複する説明を省略する。
図8は、本発明の第2の実施形態に係る同位体分離装置の一例である同位体分離装置10Bの構成を概略的に示した概略図である。
なお、図8では、図の煩雑化防止などの観点から、制御手段16などの同位体分離装置10Aに対して実質的に相違しない構成の一部を省略して示している。
同位体分離装置10Bは、例えば、同位体分離装置10Aに対して、液滴2が蒸発する範囲を空間的に限定する蒸発制御容器21と、蒸発制御容器21内の気相環境を制御する環境制御手段22と、蒸発制御容器21内にパージガス4を供給するパージガス供給ライン23と、蒸発した液滴2を含む気相部分を蒸発制御容器21内から回収する気相回収ライン35とが設けられている。
同位体分離装置10Bにおいて、雰囲気情報検出手段14は、例えば、温度、湿度および圧力などの蒸発制御容器21内の気相環境を表す物理量を検出する。
環境制御手段22は、例えば、温度を制御する温度制御機能、湿度を制御する湿度制御機能および圧力を制御する圧力制御機能などの蒸発制御容器21内の気相環境を表す物理量の少なくとも一つについて制御する機能を有する。環境制御手段22は、雰囲気情報検出手段14が検出する温度などの物理量の検出値に基づき当該物理量を目標値に近づけるように制御する。
環境制御手段22としての温度制御手段は、例えば、加温器や冷却器などを用いて構成することができる。環境制御手段22としての湿度制御手段は、例えば、気体から湿分を除去する乾燥器や、シリカゲルや吸水ポリマーなどの湿分吸収要素と容器内の気相部分を排気する排気要素とを組み合わせたりして構成することができる。
環境制御手段22としての圧力制御手段は、例えば、加圧ポンプや減圧ポンプなどを用いて構成することができる。
パージガス供給ライン23は、パージガス4を供給するパージガス供給源(図8において図示を省略)と蒸発制御容器21とを連絡する流路である。パージガス4としては、例えば、乾燥空気、窒素ガス、希ガスなどの化学的に安定であって乾燥した気体を用いることができる。
パージガス供給ライン23には、蒸発制御容器21と連絡する流路を開閉自在な弁231が取り付けられている。なお、弁231の開状態と閉状態の切り替えは、制御手段16(図8において図示を省略)が雰囲気情報検出手段14から取得される湿度の検出値に基づいて行われてもよい。
気相回収ライン35は、蒸発制御容器21内で蒸発した液滴2を含む気相部分(以下、「蒸発分」とする。)5を蒸発制御容器21から回収する流路を備えるラインである。気相回収ライン35には、例えば、液滴2を含み得る蒸発分5を凝縮し、蒸発分5に混在し得る湿分を除去する凝縮部351と、蒸発分5を吸引する吸引力を発生させる吸引ポンプ352とが設けられる。
凝縮部351は、例えば、蒸発分5を冷却する冷却手段、シリカゲルなどの吸湿剤を用いた湿分除去手段、気相分と液相分とに分離する気液分離膜や遠心分離機などの気液分離手段などを用いて構成することができる。
吸引ポンプ352は、蒸発制御容器21から蒸発分5を吸引する吸引力を発生させ、蒸発制御容器21内から気相回収ライン35へ蒸発分5を吸引する。蒸発分5の吸引量は、蒸発制御容器21内で発生した蒸発分5の蒸気圧分以上の体積となるように設定する。
このように構成される同位体分離装置10Bは、同位体分離装置10Aと同様にして液滴2を部分的に蒸発させて被処理液1の中に存在する同位体を分離して回収する。また、同位体分離装置10Bは、液滴2の蒸発範囲を蒸発制御容器21内に制限し、気相回収ライン35から蒸発制御容器21内の蒸発分5を回収する。
環境制御手段22を設けた同位体分離装置10Bでは、環境制御手段22が、例えば、温度、湿度および圧力などの蒸発制御容器21内の雰囲気の状態(気相環境)を表す物理量を制御することによって、蒸発制御容器21内における液滴2の蒸発を制御する。
パージガス供給ライン23を設けた同位体分離装置10Bでは、弁231を開いてパージガス4を蒸発制御容器21内に供給することによって、蒸発制御容器21内の雰囲気を乾燥した状態に維持することができ、液滴2の蒸発を促進する。
なお、図8に例示される気相回収ライン35は、凝縮部351および吸引ポンプ352を設けた例であるが、必ずしも両方を設ける必要はなく、一方を省略してもよい。
例えば、凝縮部351のみを設ける(吸引ポンプ352を省略する)場合、凝縮部351が稼働することによって凝縮部351内の圧力が下がるため、連通する蒸発制御容器21内の気相部分を吸引する吸引力を発生させることができる。
また、吸引ポンプ352を、気液混合体を移送可能な気液移送ポンプなどの液体が混在する気体を移送するのに十分な容量を有する場合、吸引ポンプ352のみを設ける(凝縮部351を省略する)こともできる。
なお、上述した同位体分離装置10Bは、同位体分離装置10Aに対して、蒸発制御容器21の他、環境制御手段22、パージガス供給ライン23および気相回収ライン35をさらに設けた場合の一例であるが、環境制御手段22、パージガス供給ライン23および気相回収ライン35の少なくとも何れかの構成要素を省略して同位体分離装置10Bを構成してもよい。すなわち、同位体分離装置10Bは、同位体分離装置10Aに対して、液滴2が蒸発する範囲を空間的に限定する蒸発制御容器21をさらに具備していればよい。
例えば、同位体分離装置10Aに対して、蒸発制御容器21および環境制御手段22をさらに具備する同位体分離装置10Bや蒸発制御容器21および気相回収ライン35をさらに具備する同位体分離装置10Bなどを構成することができ、蒸発制御容器21以外の構成要素は任意に選択して設けることができる。
なお、図8に例示される同位体分離装置10Bでは、図1に例示される同位体分離装置10Aに対して、1個の三方弁323(図1)の代わりに、戻りライン32に1個の二方弁(開閉弁)325と、液相回収ライン33に1個の二方弁331とを設けた構成であるが、図1に例示される同位体分離装置10Aと同様、2個の二方弁325および331の代わりに、戻りライン32と液相回収ライン33との分岐点P2に1個の三方弁323を設けた構成としてもよい。
次に、第2の実施形態に係る同位体分離方法の一例として、同位体分離装置10Bを用いた同位体分離処理手順(以下、「第2の同位体分離処理手順」とする。)について説明する。
第2の同位体分離処理手順は、第1の同位体分離処理手順(図7)に対して、ステップS1およびステップS2を行う場所が蒸発制御容器21(図8)内である点と、蒸発した液滴2を回収するステップをさらに含む点で相違するが、その他の点では実質的に差異はない。
蒸発した液滴2を回収するステップは、発生した微小な液滴2が蒸発した後であって、第2の同位体分離処理手順の終了前、すなわち、ステップS2よりも後であってステップS4よりも前のタイミングに行われる。蒸発した液滴2を回収するステップが行われるタイミングは、未蒸発分3を回収するステップS3(図7)との関係は問わない。
なお、第2の同位体分離処理手順は、ステップS1〜ステップS3の処理ステップを促進するなどの観点から、パージガス4を蒸発制御容器21内に供給するステップや蒸発制御容器21内の温度などを制御するステップをさらに含んでいてもよい。
このように、同位体分離装置10Bおよび第2の同位体分離処理手順によれば、同位体分離装置10Aおよび第1の同位体分離処理手順と同様に、従来よりも小型で処理コストを割安に抑えて被処理液1の中に存在する同位体を分離して回収することができる。
同位体分離装置10Bおよび第2の同位体分離処理手順によれば、液滴2が蒸発する範囲を液滴2が蒸発する範囲が同位体分離装置10Aよりも狭い蒸発制御容器21内に限定することができるので、気相環境をより容易に制御する(安定させる)ことができ、ひいては液滴2の浮遊時間をより安定的に制御することができる。
また、同位体分離装置10Bでは、液滴2が蒸発する範囲を蒸発制御容器21内に限定することができるので、気相回収ライン35をさらに設けることによって、液滴2の未蒸発分のみならず液滴2の蒸発分5についても回収することができる。
同位体分離装置10Bに環境制御手段22を設けることで、蒸発制御容器21内に浮遊する液滴2を、より高い分離効率で同位体分離するための浮遊時間の設定を(環境制御手段22が)自動で行うことができる。また、環境制御手段22が、例えば、温度、湿度および圧力などの蒸発制御容器21内の気相環境を表す物理量を制御することによって、同位体分離装置10Aよりも液滴2の蒸発量を細かく制御できるので、同位体の分離をさらに安定して行うことができる。
同位体分離装置10Bにパージガス供給ライン23を設けることで、蒸発制御容器21内に乾燥空気、窒素ガス、希ガスなどの化学的に安定であって乾燥した気体を蒸発制御容器21内に供給することができ、蒸発制御容器21内を低湿度に保つことができる。従って、蒸発制御容器21内を液滴2の蒸発が促進される環境に保つことができ、液滴2の蒸発量を増大させることができる。故に、同位体を含む水の濃度が増大した被処理液1に対しても、効率的に同位体を回収することができる。
以上、同位体分離装置10A,10Bおよび同位体分離装置10A,10Bを用いた同位体分離方法によれば、従来よりも小型で処理コストを割安に抑えて被処理液1の中に存在する同位体を分離して回収することができる。
また、戻りライン32を設けることで、第1の同位体分離処理手順(図7)などの同位体分離処理手順を同位体分離装置内で繰り返すことができるので、より濃度の高い状態で同位体を分離することができる。
さらに、戻りライン32から分岐する液相回収ライン33を設けることで、同位体分離処理手順の繰り返しが不要な場合に、同位体分離処理手順を実施してもなお未蒸発であった液滴2を回収することができる。
同位体分離装置10Bでは、液滴2が蒸発する範囲が同位体分離装置10Aよりも狭いため、気相環境をより容易に制御する(安定させる)ことができ、ひいては液滴2の浮遊時間をより安定的に制御することができる。
また、同位体分離装置10Bでは、液滴2が蒸発する範囲を蒸発制御容器21内に限定することができるので、気相回収ライン35をさらに設けることによって、液滴2の未蒸発分のみならず液滴2の蒸発分5についても回収することができる。
同位体分離装置10Bに環境制御手段22を設けることで、蒸発制御容器21内に浮遊する液滴2を、より高い分離効率で同位体分離するための浮遊時間の設定を(環境制御手段22が)自動で行うことができる。また、環境制御手段22が、例えば、温度、湿度および圧力などの蒸発制御容器21内の気相環境を表す物理量を制御することによって、同位体分離装置10Aよりも液滴2の蒸発量を細かく制御できるので、同位体の分離をさらに安定して行うことができる。
同位体分離装置10Bにパージガス供給ライン23を設けることで、蒸発制御容器21内に乾燥空気、窒素ガス、希ガスなどの化学的に安定であって乾燥した気体を蒸発制御容器21内に供給することができ、蒸発制御容器21内における液滴2の蒸発環境を制御することができる。
なお、本発明は上述した実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階では、上述した実施例以外にも様々な形態で実施することができる。本発明は、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、追加、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。