しかしながら、上記した自動車用の塗装ブースは、その多くが一般的に溶剤塗料の使用に適したものである。具体的には、溶剤塗料は、その塗膜を乾燥して溶剤を揮発することで仕上げるものであるため、溶剤塗料を使用する塗装ブースは、塗装室の温度調節をするため、塗装室を通過する気流を加熱する空調設備を備えているが、塗装室内の湿度調整を行う機能を具備しておらず、水性塗料を用いた修理塗装を行いづらいという問題点があった。
このように塗装ブースで水性塗料を用いた修理塗装を行う場合、塗装室の湿度調整を行う必要があるところ、例えば、塗装室への供給前の気流に水滴を噴霧し、この水滴噴霧後の気流を加熱することで、気流を加湿して塗装室へ供給する加湿方式が提案されている(特許文献1参照。)。
ところが、この加湿方式を用いた塗装ブースでは、気流に気液混合状態の水分を加湿することは可能となるが、塗装室へ供給される気流に液状の水分が混入するため、この水分が塗装室へ流入する前に集塵フィルタにより捕捉されてしまい、集塵フィルタが濡れて目詰まりを起こし、その機能低下、例えば、塗装室に充分な気流を通過させることが困難となるという問題点があった。
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、異物除去フィルタの機能低下を防止しつつ、塗装室に必要量の気流を供給でき、もって、水性塗料の塗膜品質を向上できる水性塗料用塗装ブースを提供することを目的としている。
この目的を達成するために第1発明の水性塗料用塗装ブースは、気流を生成する気流生成手段と、その気流生成手段により生成される気流が上流側から下流側へ向けて通過する送風通路と、その送風通路の一部を成すとともに当該送風通路を気流が通過する状態で水性塗料の塗装処理が行われる塗装室とを備えており、その塗装室よりも前記送風通路における上流側に配設され、その送風通路内の気流中に過熱水蒸気を放出して当該気流を加湿する蒸気放出手段と、その蒸気放出手段に過熱水蒸気を供給する蒸気供給手段と、その蒸気供給手段から前記蒸気放出手段へ過熱水蒸気が移動する通路に配設され、過熱水蒸気に含まれる水分を過熱水蒸気から分離する気液分離手段とを備えている。
なお、異物除去フィルタは、前記送風通路における前記塗装室よりも上流側であって前記蒸気放出手段よりも下流側に配設され、気流が通過することで当該気流から浮遊異物を除去するものである。
この第1発明の水性塗料用塗装ブースによれば、気流は、気流生成手段により生成され、送風通路を上流側から下流側へ向けて通過する。この送風通路の一部には塗装室が設けられており、この塗装室では、そこを気流が通過する状態で、水性塗料を用いた塗装処理が行われる。一方、蒸気供給手段から供給される過熱水蒸気は、蒸気供給手段から気液分離手段を経て蒸気放出手段へ移動するが、この移動中に気液分離手段により水分(水滴その他未蒸気化の水粒子を含む。以下同じ。)が分離され、蒸気放出手段により送風通路内の気流中に放出され、かかる気流の加湿が行われる。加湿された気流は、異物除去フィルタを通過することで浮遊異物が除去されてから、塗装室へと流入し、この塗装室内の湿度の上昇に寄与する。
第2発明の水性塗料用塗装ブースは、第1発明の水性塗料用塗装ブースにおいて、前記送風通路における前記蒸気放出手段よりも上流側に配設され、その送風通路を通過する気流を加熱する気流加熱手段を備えている。
この第2発明の水性塗料用塗装ブースによれば、第1発明の水性塗料用塗装ブースと同様に作用する上、気流加熱手段によって、送風通路を通過する気流を加熱する。加熱された気流は、加熱により温度上昇する一方で、かかる加熱による飽和水蒸気量の上昇に伴う乾燥によって湿度も低下するが、その下流側に配設される蒸気放出手段により放出される過熱水蒸気によって加湿される。このように加熱及び加湿された気流は、異物除去フィルタを通過することで浮遊異物が除去されてから、塗装室へと流入し、この塗装室内の温度及び湿度の上昇に寄与することとなる。
第3発明の水性塗料用塗装ブースは、第1又は第2発明の水性塗料用塗装ブースにおいて、前記送風通路の一部を成すとともに前記蒸気放出手段と前記塗装室との間に設けられ、前記蒸気放出手段により加湿された気流が流入する空間である天井裏と、その天井裏の下方に形成されている空間である前記塗装室と、その塗装室の天井面に全面的に覆設され、その塗装室と天井裏とを上下に仕切る天井材であって気流が通過することで当該気流から浮遊異物を除去する異物除去フィルタと、その天井材である前記異物除去フィルタを通過して前記塗装室に流入した下降気流を当該塗装室外へ流出させる床下排気部とを備えている。
この第3発明の水性塗料用塗装ブースによれば、第1又は第2発明の水性塗料用塗装ブースと同様に作用する上、蒸気放出手段により過熱水蒸気が加えられた気流は、送風通路を流れる途中で天井裏へと流入し、この天井裏から天井材である異物除去フィルタを通過して塗装室へ下降気流となって流入する。天井材である異物除去フィルタは塗装室の天井面に全面的に覆設されるので、気流は、この天井材から全面的に塗装室へ流入して塗装室内を全体的に加湿し又は加熱する。また、気流は異物除去フィルタを通過することで空中浮遊物などの浮遊異物が除去されて、塗装室を通過した後、床下排気部へ流出して排気される。
第4発明の水性塗料用塗装ブースは、第3発明の水性塗料用塗装ブースにおいて、前記気流生成手段は、前記天井裏へ気流を送り込む給気送風手段と、前記塗装室から前記床下排気部を通じて気流を排出する排気送風手段とを備えている。
この第4発明の水性塗料用塗装ブースによれば、第3発明の水性塗料用塗装ブースと同様に作用する上、送風通路を通過する気流は、給気送風手段により天井裏へ送り込まれる一方、排気送風手段によって塗装室内から床下排気部を通じて排出する。
第5発明の水性塗料用塗装ブースは、第1から第4発明のいずれかの水性塗料用塗装ブースにおいて、前記気液分離手段は、前記蒸気供給手段と前記蒸気放出手段との間に介在するとともに当該蒸気供給手段から当該蒸気放出手段へと連通した多数の微細な空隙部を有している多孔質体であって、その多孔質体の空隙部が過熱水蒸気を前記蒸気供給手段から前記蒸気放出手段へ移動させる通路であって、過熱水蒸気に含まれる水分がその多孔質体の骨格部に接触することによって、当該水分を捕捉して過熱水蒸気から分離するものである。
この第5発明の水性塗料用塗装ブースによれば、第1から第4発明のいずれかの水性塗料用塗装ブースと同様に作用する上、気液分離手段は、蒸気供給手段から蒸気放出手段まで移動する過熱水蒸気の通路を多孔質体の微細な空隙部で形成し、過熱水蒸気が多孔質体の空隙部を通過する過程で過熱水蒸気に含まれる水分を多孔質体の骨格部に衝突させて、この衝突により水分を多孔質体に付着させて捕捉する。このため、過熱水蒸気は、余分な水分が除去された状態で、蒸気放出手段によって送風通路の気流中へ放出される。
第6発明の水性塗料用塗装ブースは、第3から第5発明のいずれかの水性塗料用塗装ブースにおいて、前記異物除去フィルタは、気流の通過方向に連通した多数の微細な空隙部を有している多孔質体であって、その多孔質体の空隙部を気流が通過することで当該気流に含まれる浮遊異物を捕捉するため、その多孔質体の骨格部に粘着性が付与されている。
この第6発明の水性塗料用塗装ブースによれば、第3から第5発明のいずれかの水性塗料用塗装ブースと同様に作用する上、異物除去フィルタは、天井裏から塗装室まで移動する気流の通路を多孔質体の微細な空隙部で形成し、気流が多孔質体の空隙部を通過する過程で、気流に含まれる浮遊異物を多孔質体の骨格部に衝突させて、その骨格部の粘着性により浮遊異物を吸着して捕捉する。このため、気流は、余分な浮遊異物が除去された状態で、天井裏から塗装室へ流入する。
第1発明の水性塗料用塗装ブースによれば、例えば、気候による湿度低下が原因で塗装室内が乾燥し、かかる乾燥により塗装室内が水性塗料の塗装に不向きな状況であっても、塗装室に供給される気流を過熱水蒸気により加湿して、かかる加湿した気流を塗装室に供給して通過させることで、塗装室内の湿度を上昇させることができ、塗装中の水性塗料が塗膜を形成するのに適した湿潤状態を塗装室内に創出でき、水性塗料の塗膜品質を向上できるという効果がある。
また、気流の加湿は、飽和水蒸気に比べて高温の過熱水蒸気を当該気流中に蒸気放出手段により放出することでなされるので、飽和水蒸気の噴霧による加湿の場合に比べると、気流中に含まれる水蒸気が凝縮して液化し難く、加湿後の気流が塗装室を通過するまでに水蒸気が温度低下して凝縮液化することを防ぎ、飽和水蒸気の凝縮による異物除去フィルタの目詰まりに伴う、塗装室への気流供給量の低下を防止できるという効果がある。
さらに、蒸気放出手段により気流中に放出される過熱水蒸気は、その放出前に水分が気液分離手段により除去されるので、異物除去フィルタの濡れによる目詰まりの原因となる水分が気流中に放出されず、異物除去フィルタの目詰まりに伴う、塗装室への気流供給量の低下を更に防止できるという効果がある。
第2発明の水性塗料用塗装ブースによれば、第1発明の水性塗料用塗装ブースの奏する効果に加え、気流加熱手段は、塗装室よりも送風通路の上流側に配設されるので、冬期など塗装室の気温が低くて水性塗料を使用した塗装に不適当な場合に、塗装室に供給される気流を加熱して塗装室に通過させることで、塗装室の気温を水性塗料の塗装に適した温度範囲まで上昇でき、水性塗料の塗膜品質を向上できるという効果がある。
もっとも、気流加熱手段による気流の加熱によって、気流の温度上昇に伴う飽和水蒸気量の上昇により気流の湿度低下も併発するが、送風通路における気流加熱手段の下流側であって塗装室の上流側に蒸気放出手段が配設されるので、この蒸気放出手段によって送風通路に過熱水蒸気を放出して、塗装室に供給される気流を加湿して塗装室に通過させることで、塗装室の湿度を水性塗料の塗装に適した湿度範囲に上昇でき、水性塗料の塗膜品質を向上できるという効果がある。
また、気流加熱手段が蒸気放出手段の上流側にて送風通路内の気流を加熱することから、加熱後の気流中に過熱水蒸気を放出して加湿できるので、これとは逆の配置状態である場合、即ち、蒸気放出手段が気流加熱手段よりも送風通路の上流側にある場合のように、送風通路内の気流を加湿した後に加熱乾燥して塗装室へ供給される気流の湿度低下を招くこともなく、気流加熱手段による気流加熱による水性塗料の塗膜品質の低下を防止できるという効果がある。
そのうえ、気流加熱手段により気流を加熱できるので、かかる加熱された気流により異物除去フィルタ内に捕捉された水分を再蒸発させて除去できるという効果もある。
第3発明の水性塗料用塗装ブースによれば、第1又は第2発明の水性塗料用塗装ブースの奏する効果に加え、加湿された気流は、塗装室の天井裏へ流入すると、塗装室の天井面を全体的に覆う天井材である異物除去フィルタを通過し、この天井面全体から下降気流となって塗装室内に流入するので、塗装室全体の湿度をより均等に調整でき、水性塗料の塗膜品質を更に向上できるという効果がある。しかも、塗装室内に加湿気流が流入する直前で異物除去フィルタにより浮遊異物を除去できるので、より清浄な気流を塗装室内へ供給でき、水性塗料の塗膜品質を更に向上できるという効果がある。
第4発明の水性塗料用塗装ブースによれば、第3発明の水性塗料用塗装ブースの奏する効果に加え、給気送風手段により天井裏へ送風された気流は、天井裏から塗装室へ流入する場合に異物除去フィルタが抵抗となってしまうが、排気送風手段によって塗装室内の空気を床下排気部を排出することで、加湿された気流を天井裏で滞留させずに、よりスムーズに塗装室へ流入させて加湿できるという効果がある。
第5発明の水性塗料用塗装ブースによれば、第1から第4発明のいずれかの水性塗料用塗装ブースの奏する効果に加え、過熱水蒸気により気流を加湿する場合、例えば、過熱水蒸気に微量含まれる水分の凝縮水が気流中に混入することを防止できるので、かかる凝縮水が異物除去フィルタに付着して、異物除去フィルタが濡れて目詰まりすることも抑制でき、更に、この目詰まりにより塗装室への加湿気流の供給量が低下して水性塗料の塗膜品質が低下するという事態も回避できるという効果がある。
第6発明の水性塗料用塗装ブースによれば、第3から第5発明のいずれかの水性塗料用塗装ブースの奏する効果に加え、異物除去フィルタは、その多孔質体の骨格部が粘着性を有することから、その粘着性により浮遊異物の除去率を高めて、塗装室内へより清浄な気流を流入させて、水性塗料の塗膜品質を向上できるという効果がある。
その反面で、粘着性により浮遊異物の捕捉量が増加すると、異物除去フィルタの空隙率は低下するため、異物除去フィルタの濡れによる目詰まりも生じ易くなるところ、異物除去フィルタを通過する気流は、加湿のために飽和水蒸気に比べて高温で凝縮しにくい過熱水蒸気が加えられるので、異物除去フィルタの濡れに伴う目詰まりを抑制できるという効果がある。
特に、気流には凝縮水を除去した過熱水蒸気が蒸気放出手段により加えられているので、かかる気流の通過による異物除去フィルタの濡れを更に低減できるという効果がある。
以下、本発明の好ましい実施の形態について、添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の水性塗料用塗装ブースの一実施例である自動車用の塗装ブース1の外観図であって、蒸気加湿器14及び蒸気ボイラ16などを含めた加湿システム(図6参照。)の配管図、及び、その内部を通過する気流F(図1に示した矢印)を示した概念図でもある。
図1に示すように、自動車用の塗装ブース1は、断熱材を内部に積層したパネル材Pにより屋根部及び周壁部を囲われたブース本体2を備えている。ブース本体2は、その上部に設けられる空間であるブース天井裏3と、このブース天井裏3より下部に設けられる空間であって塗装対象である自動車を収容する塗装室4とを備えている。この塗装ブース1は、ブース本体2の塗装室4に通過させる気流Fを生成する送風設備を備えている。
この送風設備は、主に、塗装室4へ気流Fを供給する給気ダクト5と、その給気ダクト5内に配設される送風機である給気ファン6と、塗装室4から気流Fを排出する排気ピット7及び排気ダクト8と、その排気ダクト8内に配設される送風機である排気ファン9とを備えている。給気ファン6は、給気口5aから空気を給気ダクト5内に吸引して気流Fを塗装室4へ送風するものであり、排気ファン9は、塗装室4の空気を排気ピット7を通じて排気ダクト8内に吸引することで、気流Fを排気口8aから外部へ送風するものである。
この送風設備により生成される気流Fは、給気ファン6の送風力により塗装ブース1外から空気を給気口5aを通じて給気ダクト5内へ吸入し、この給気ダクト5を通じて、気流Fをブース天井裏3へ送気する。ブース天井裏3は、塗装ブース1内における塗装室4の上方に設けられている。ブース天井裏3の底部には平面視格子状のフレーム(図示せず。)が配設されており、このフレームにある複数の格子状に設けられた全ての開口部には、集塵フィルタ10が覆設されている。
この集塵フィルタ10は、ブース天井裏3の底部全面に敷き詰められており、塗装室4の天井面の全体を覆うようにブース天井裏3と塗装室4とを仕切っている。この集塵フィルタ10は、集塵のために粘着性を有した厚手の不織布などの微細な空隙部を有した多孔質体で形成されており、この多孔質体の微細な空隙部を気流Fが通過可能であって、この多孔質体の骨格部に粘着剤が付着されており、この粘着剤により塵埃が捕捉可能となっている。
集塵フィルタ10を通過する気流Fは、ブース天井裏3の全体から塗装室4内へ流れ込み、この塗装室4を通過して、塗装室4の床下に設けられる排気ピット7へ流れ込む。排気ピット7は、塗装室4の床下部に設けられる溝であり、この排気ピット7の上部開口にグレーチングなどの格子状のピット蓋11が覆設されている。この格子状のピット蓋11は、格子状に並んだ複数の空隙部が気流Fを排気ピット7へ流入させる流入口となっている。排気ピット7へ流れ込んだ気流Fは、この排気ピット7から排気ファン9により吸引されて排気ダクト8を通じて排気口8aから屋外へ排気される。
また、給気ダクト5内には、給気ファン6の直後に気流Fを加熱する加熱器である加熱バーナ12が配設されており、この加熱バーナ12の加熱によって給気ダクト5内を通過する気流Fを加熱するようになっている。給気ダクト5は、加熱バーナ12の配設部から直上に延設されており、その上端部における側部がブース天井裏3の側部に接続されている。
もっとも、給気ダクト5は、ブース天井裏3に直接接続されている訳ではなく、この給気ダクト5の上端部とブース天井裏3との間には蒸気加湿室13が設けられており、給気ダクト5を通過した気流Fは、この蒸気加湿室13を通過してブース天井裏3へと流入するようになっている。
このように、塗装ブース1は、給気口5aから排気口8aへと通じる、給気ダクト5、蒸気加湿室13、ブース本体2のブース天井裏3、塗装室4、排気ピット7及び排気ダクト8からなる送風路50(図6参照。)を備えている。この送風路50を通過する気流Fは、給気ダクト5に内蔵される給気ファン6、及び、排気ダクト8に内蔵される排気ファン9により生成される。例えば、この気流Fの流速は0.2m/s前後となる。
具体的に、気流Fの流速は、例えば、塗装室の床面積(ブース床面積)を16区画以上に分割し、その全ての区画について各区画の中心から床上1.5mの測定点を設定し、この全ての測定点での流速の平均値(平均流速値)が0.2m/s以上となり、かつ、各測定点の流速が平均流速値の0.5倍以上から1.5倍以下の範囲内となるように、給気ファン6及び排気ファン9の運転により調整される。
なお、塗装ブース1は、給気ダクト5及び排気ダクト8内に配設される集塵用の給気フィルタ5b及び排気フィルタ8bを備えており、その給気フィルタ5bによって蒸気加湿室13へ流入する気流Fに含まれる塵埃を低減するとともに、その排気フィルタ8bによって屋外へ排気される気流Fに含まれる塵埃を低減している。
蒸気加湿室13には、上下一対の蒸気加湿器14,14が配設されている。これらの蒸気加湿器14,14は、蒸気加湿室13内に過熱水蒸気を噴出して塗装室4へ向かう気流Fに加湿する水蒸気式の加湿器である。各蒸気加湿器14には、蒸気配管15が接続されており、この蒸気配管15を通じて水蒸気(主に飽和水蒸気)が蒸気ボイラ16から供給される。蒸気配管15は、水蒸気の輸送管であり、その途中に蒸気加湿器14に供給する高圧水蒸気の流量を調節する蒸気制御弁17が設けられている。
蒸気ボイラ16は、使用圧力範囲が例えば0.39〜0.59MPa(最高圧力0.69MPa)の高圧水蒸気を生成する水蒸気生成装置であり、軟水装置18により生成される軟水を蒸気化する。軟水装置18は、上水道などの水源19から給水された水を軟水化して蒸気ボイラ16へ供給する。
蒸気加湿器14には、蒸気加湿器14内で過熱水蒸気が冷えてできる凝縮水を排出する凝縮水配管20が接続されている。蒸気加湿器14内の基端部(図2〜図4の左側)に集められた凝縮水は、凝縮水配管20へ排出され、凝縮水配管20を通じて屋外へ排出される。
図2は、蒸気加湿室13の縦断面図であって図1のII−II線における縦断面図であり、図3は、蒸気加湿器14の平面図である。図2に示すように、蒸気加湿室13は、上記したパネル材Pを用いて断面視矩形状に形成されたダクト管であり、その内部に上下一対の蒸気加湿器14,14が配設されている。各蒸気加湿器14は、蒸気加湿室13の横幅方向一側(図2左側)にあるパネル材Pから蒸気加湿室13内の横幅方向(図2左右方向)に向かって延設される棒状体であり、互いに上下方向(図2上下方向)に間隔を隔てた状態で配設されている。
蒸気加湿器14は、その基端部(図2左側)に自らを蒸気加湿室13の側面部のパネル材Pに固定するための取付プレート21を有しており、この取付プレート21がビスやボルト・ナットなどのねじ締着具(図示せず。)を用いて蒸気加湿室13のパネル材Pに締着固定されている。
蒸気加湿器14は、その外周部を形成する中空棒状の外筒管22を備えている。この外筒管22の基端面(図2左側)には取付プレート21の一面が当接固着されており、この取付プレート21の他面には凝縮水配管接続部23と蒸気配管接続部24とが当着固定されている。凝縮水配管接続部23は、凝縮水の輸送管である凝縮水配管20を接続する接続継手である。蒸気配管接続部24は、蒸気配管15が接続されることによって、後述する内筒管25に過熱水蒸気を供給する接続継手である。
図3に示すように、蒸気加湿器14は、その外筒管22の外周部上端面に複数の蒸気放出口22aが外筒管22の軸方向(図3左右方向)に等間隔で穿設されている。この複数の蒸気放出口22aは、過熱水蒸気を蒸気加湿室13内へ放出(噴出)するための穿孔である。つまり、蒸気加湿器14によれば、蒸気ボイラ16から供給される水蒸気(主に飽和水蒸気)を、蒸気配管15から蒸気配管接続部24を経て減圧して過熱水蒸気に変化させて内筒管25へ供給し、この内筒管25から過熱水蒸気を外筒管22内へ噴出し、この外筒管22にある複数の蒸気放出口22aから上方に向けて過熱水蒸気を蒸気加湿室13内に噴出するのである。
ここで、蒸気加湿器14は、その先端部(図2右側)から基端部(図2左側)に向かって所定角度(例えば、勾配1〜2%(=tan−1(0.01)〜tan−1(0.02))程度)で傾斜した状態となっている。このように蒸気加湿器14が傾斜することで、蒸気加湿器14内で発生した凝縮水は、蒸気加湿器14内を先端側から基端側へ向かって流れて、蒸気加湿器14の基端部にある凝縮水配管接続部23へと集められる。
また、凝縮水配管接続部23に接続される凝縮水配管20の途中には凝縮水トラップ26が設けられている。この凝縮水トラップ26は、凝縮水配管接続部23との接続部から所定長さ下方に垂設し、この下向き垂設部の下端を円弧状に曲折して上向きに折り返し、この円弧折返し部の先端を更に上方に所定長さ垂設し、この上向き垂設部の上端を円弧状に曲折して下向きに折り返したU字管である。なお、蒸気加湿室13内の静圧は正の圧力である。
図4は、蒸気加湿器14の内部構造を示した断面図であり、図3のIV−IV線における部分的な縦断面図である。図5は、図3のV−V線における縦断面図である。図4及び図5に示すように、蒸気加湿器14は、上記した凝縮水配管接続部23と、取付プレート21と、複数の蒸気放出口22aを有した外筒管22と、蒸気配管接続部24と、に加え、更に、内筒管25と、減圧器27と、消音器28と、凝縮水分離部材29とを備えている。
複数の蒸気放出口22aは、外筒管22の内周部と連通している。外筒管22の内周部にはその軸方向(図4左右方向)と同一方向に向かって中空棒状の内筒管25が挿設されており、かかる外筒管22及び内筒管25は二重管構造を形成している。蒸気配管接続部24は、その内部にある蒸気流路の途中に高圧水蒸気が通過可能な減圧器27が配設されている。減圧器27は、例えば、絞りオリフィスであり、これを通過する高圧水蒸気を減圧して過熱水蒸気に変化して内筒管25へ供給するものである。消音器28は、蒸気配管接続部24の減圧器27を通過した水蒸気が減圧により発生する音を減少するものである。
内筒管25は、外筒管22の内周部に軸方向一端(図4左側)から他端(図4右側)まで全体に挿設されている。この内筒管25には、その一端側から他端側までの範囲における外周下端面に、複数の蒸気噴出孔25aが内筒管25の軸方向(図4左右方向)に等間隔で穿設されている。複数の蒸気噴出孔25aは内筒管25の内周部と連通した細溝状の穿孔である。内筒管25は、その基端部に減圧器27及び消音器28を介して蒸気配管接続部24が接続されている。蒸気ボイラ16から蒸気配管15を通じて供給された高圧水蒸気は、蒸気配管接続部24を通過することで減圧器27により減圧されて過熱水蒸気となり、消音器28を通過することで消音されて内筒管25へと供給される。
凝縮水分離部材29は、過熱水蒸気からそれに含まれる水粒子(水滴を含む。)を捕集分離し、かかる水粒子を凝縮水として除去する気液分離部材である。凝縮水分離部材29は、内筒管25の外周全体(図5参照。)に及び軸方向全体(図4参照。)に渡って巻着されている。凝縮水分離部材29は、過熱水蒸気及び水分に対する耐腐食性及び耐熱性を有した立体網目状構造体(三次元網目状構造)、連続気泡多孔質体その他の多孔質体である。
立体網目状構造体は、金属材料、セラミックス材料、又は、樹脂材料などの細線材(例えば、直径0.1〜0.3mm程度)で形成されている。例えば、金属材料製のものにはステンレス鋼等のワイヤーメッシュで形成されたものがあり、セラミックス材料製のものにはアルミナ、コーディエライト、シリカ・アルミナ、ジルコニア又は炭化ケイ素で形成されたものがあり、樹脂材料製のものにはPP樹脂、フッ素樹脂(PFA又はFEPなど)その他の樹脂材料で形成されたものがある。
また、連続気泡多孔質体としては、例えば、連続気泡の発泡構造を有するセラミックフォームがある。その他の多孔質体としては、例えば、金属製のパンチングメタルがある。
この凝縮水分離部材29によれば、その内部にある空隙部を過熱水蒸気が通過する際に、その骨格部(例えば、金属材料製の立体網目状構造体にあっては細線材が該当する。)に過熱水蒸気に含まれる水粒子が衝突(主に、慣性衝突、さえぎり衝突、ブラウン拡散に基づく衝突)をすることで、この骨格部の濡れ性と毛細管現象とにより水粒子を捕捉し、この捕捉した多数の水粒子を表面張力により凝集して空隙部を通じて外筒管22の外周下端部にある尖形状(図5参照。)の内底部22bに落下させるのである。
この蒸気加湿器14によれば、蒸気ボイラ16から蒸気配管15を通じて供給される高圧水蒸気は、蒸気配管接続部24の減圧器27を介して減圧されて過熱水蒸気に変化し、消音器28により衝撃音が消音された後、内筒管25へ流入して複数の蒸気噴出孔25aから凝縮水分離部材29の内部へ向けて下向きに噴出される。凝縮水分離部材29内へ噴出された過熱水蒸気は、この内部にある空隙部を通過しながら、外筒管22の内周部を上方へ向かって移動し、外筒管22にある複数の蒸気放出口22aから蒸気加湿室13内へ放出されるのである。
その一方で、この蒸気加湿器14によれば、過熱水蒸気が凝縮水分離部材29の空隙部を通過する間、この過熱水蒸気に含まれる水粒子を多孔質体の骨格部に衝突させて捕捉し、この捕捉した水粒子を多数凝集した凝縮水を、外筒管22の内底部22bに落下させて外筒管22の基端部へ向かって流れさせて、凝縮水配管接続部23に集めて凝縮水配管20へ排水するのである。
図6は、本実施例の塗装ブース1の全体構成の一例を示したブロック図であり、図7は、本実施例の塗装ブース1の電気的構成の一例を示したブロック図である。図7に示すように、塗装ブース1は、PLC(Programmable-Logic-Controller)などを用いた制御装置30を備えている。制御装置30には、加熱バーナ12用の燃料制御弁31及び送風制御弁32と、蒸気加湿器14用の蒸気制御弁17と、温度センサ33と、湿度センサ34と、温度湿度設定器35とがそれぞれ電気的に接続されている。
図6に示すように、加熱バーナ12には、燃料配管36を介して燃料タンク37が接続され、かつ、送風配管38を介して送風ブロワ39が接続されている。燃料タンク37は加熱バーナ12に燃料を供給する燃料源であり、送風ブロワ39は加熱バーナ12に燃焼に要する空気を送風する送風機である。燃料配管36には燃料制御弁31が、送風配管38には送風制御弁32が、それぞれ設けられている。
図7に示すように、燃料制御弁31は、モーター駆動式の流量制御弁(フローコントロールバルブ)であり、制御装置30に接続された制御駆動用モータ(コントロールモータ)31aを備えている。この燃料制御弁31は、制御装置30からの制御信号に基づいて制御駆動用モータ31aの正逆回転量を調節することで、その弁開度を調節して燃料タンク37から供給される燃料の流量を制御する。
送風制御弁32は、モーター駆動式の流量制御弁(フローコントロールバルブ)であり、制御装置30に接続された制御駆動用モータ(コントロールモータ)32aを備えている。この送風制御弁32は、制御装置30からの制御信号に基づいて制御駆動用モータ32aの正逆回転量を調節することで、その弁開度を調節して送風ブロワ39から供給される空気の流量を制御する。
これら燃料制御弁31及び送風制御弁32は、制御装置30からの制御信号に基づいて加熱バーナ12の空燃比を調整することで、加熱バーナ12の発生熱量を制御し、送風路50を通過する気流Fの温度を制御するものである。つまり、制御装置30は、この加熱バーナ12の発熱量制御による送風路50を通過する気流Fの温度制御によって、塗装室4の室内温度、即ち、温度センサ33による検出温度を設定温度に一致するように温度制御する。
蒸気制御弁17は、蒸気ボイラ16から供給される高圧水蒸気の流量を調節することで蒸気加湿器14からの過熱水蒸気の放出量を調節するものであり、送風路50を通過する気流Fの湿度制御のために使用する。この蒸気制御弁17は、モーター駆動式の流量制御弁(フローコントロールバルブ)であり、制御装置30からの制御信号により制御駆動用モータ(コントロールモータ)17aの正逆回転量を調節することで、その弁開度を調節して蒸気配管15を通過する高圧水蒸気の流量を制御し、結果、過熱水蒸気の放出量を制御する。
温度センサ33は塗装室4内の温度を検出するセンサであり、湿度センサ34は塗装室4内の湿度を検出するセンサであり、いずれも塗装室4内に設置されており、塗装室4内の温度及び湿度を所定の検出タイミングで制御装置30へ出力する。温度湿度設定器35は、塗装室4の温度設定及び湿度設定を行うために人に操作される操作パネル35aを有しており、この操作パネル35aを介して塗装室4の設定温度及び設定湿度を制御装置30に入力及び設定するための装置である。
以上説明した制御装置30によれば、加熱バーナ12及び蒸気加湿器14の運転状態を制御すること、具体的には、燃料制御弁31、送風制御弁32及び蒸気制御弁17の弁開度を適宜調節することによって、温度センサ33及び湿度センサ34による検出温度及び検出湿度が温度湿度設定器35に設定した設定温度及び設定湿度に一致するように温度制御及び湿度制御を実行する。
ここで、水性塗料を用いた塗装室4での塗装時及びその後の乾燥時について、温度湿度設定器35による設定温度及び設定湿度の一例を挙げるとするならば、塗装時については、設定温度を15〜35℃に設定するとともに、設定湿度を20〜70%(より好適には30〜60%)に設定することが好ましい。また、これに対し、塗装後の乾燥時については、設定温度を60〜80℃に設定する一方で、乾燥時の加湿は不要であるため、設定湿度を0%に設定するか或いは湿度制御の実行を停止することが好ましい。
以上、実施例に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
例えば、本実施例では、ブース本体2の床材よりも下側の床下部に床下排気部として排気ピット7を凹設したが、かかる床下排気部の実施形態は必ずしもこれに限定されず、ブース本体2の床材自体に排気ピットを内蔵するようにしても良い。また、本実施例では、気流加熱手段として加熱バーナ12を一例として説明したが、気流加熱手段の実施形態は必ずしもこれに限定されるものではなく、送風路50内を通過する気流を加熱して温度上昇できる熱源であれば、電熱ヒータその他の加熱器であっても良い。
また、本実施例では、異物除去フィルタとして粘着性を有した集塵フィルタ10を用いて説明したが、かかる異物除去フィルタ(集塵フィルタを含む。以下同じ。)は必ずしもこれに限定されるものではなく、非粘着性の異物除去フィルタであっても良い。なお、本実施例では、送風路50における加熱バーナ12の配設位置よりも下流側に蒸気加湿室13を配設したが、この位置関係は必ずしもこれに限定されるものではなく、温度制御及び湿度制御が難しくなり効果も低下する可能性はあるが、例えば、送風路50における加熱バーナ12の配設位置よりも上流側に蒸気加湿室13を配設するようにしても良い。