以下、図面を参照しながら、炉内状況測定装置および炉内状況測定方法の実施形態について詳細に説明する。図1の符号1は、炉内状況測定装置である。本実施形態では、原子力プラント(発電所)として沸騰水型原子炉(BWR)を例示する。この沸騰水型原子炉に炉内状況測定装置1が設けられる。なお、加圧水型原子炉(PWR)またはその他の形式の原子炉に炉内状況測定装置1を設けても良い。
図1に示すように、原子炉には、核燃料が配置される炉心2と、この炉心2を収容する原子炉圧力容器3(RPV)と、この原子炉圧力容器3を格納する原子炉格納容器4(PCV)とが設けられる。原子炉格納容器4の内部には、鉄骨鉄筋コンクリート製の躯体5が設けられる。原子炉圧力容器3は、躯体5により支持されている。この原子炉圧力容器3の外周には、躯体5の一部を構成する生体遮蔽部6が設けられている。
生体遮蔽部6は、下方から上方に向かって延びるコンクリート製の円筒状を成す部分である。この生体遮蔽部6は、原子炉圧力容器3から放射される放射線を遮蔽する。つまり、生体遮蔽部6は、その外側にいる作業者が過剰な放射線を浴びないようにするために設けられる。また、原子炉圧力容器3の外周面と生体遮蔽部6の内周面との間は、離間されており、配管または装置を設置可能な空間が設けられる。
原子炉圧力容器3は、上下方向に長く延びる容器である。この原子炉圧力容器3は、円筒形状を成す胴部7を有し、この胴部7の下部が下鏡8で塞がれている。さらに、胴部7の上部に設けられた開口が、上蓋9で塞がれている。この原子炉圧力容器3は、炉心2の入れ物であり、内部の高温高圧に耐え得るステンレス製の構造物である。また、原子炉圧力容器3は、炉心2で発生した放射性物質および放射線が漏れないように外部と遮断する機能も有している。この原子炉圧力容器3には、冷却水10が流通される。冷却水10により炉心2が冷却されるようになっている。なお、本実施形態の原子炉圧力容器3の下部とは、下鏡8の部分である。
本実施形態の炉内状況測定装置1は、原子炉にて過酷事故が発生した非常時に、炉内(原子炉圧力容器3の内部)の核燃料の状況を把握するために用いられる。なお、過酷事故とは、原子力プラントにおいて、設計時に想定した範囲を超える異常な事態が発生し、適切に炉心2を冷却できない状態になり、炉心溶融に至る事象を示す。炉心溶融が生じると、炉心2の核燃料が原子炉圧力容器3の下鏡8に落下する。そして、炉心2から落下した核燃料が下鏡8に溜まって溶融物11となる。
なお、非常時とは、核燃料が冷却水10から露出される状態となる過酷事故時を含む。この非常時とは、少なくとも原子炉圧力容器3に対する冷却水10の供給が滞ってしまう時を示す。また、核燃料の露出状態とは、核燃料の少なくとも一部が冷却水10から露出された状態(非水没状態または非冠水状態)を示す。
通常時において、原子炉圧力容器3の内部の核燃料は、冷却水10に浸かった水没状態(冠水状態)となっている。非常時に、冷却水10の供給が滞ってしまうと、核燃料の崩壊熱により冷却水10が蒸発する。そして、冷却水10の水位が低下し、核燃料が露出する露出状態となっています。この露出状態が所定時間継続すると、核燃料が溶け始めて炉心溶融に至る。
炉内状況測定装置1は、原子炉の運転中に原子炉圧力容器3から放射される放射線の線量を測定する放射線測定部12を備える。本実施形態では、複数の放射線測定部12が、原子炉圧力容器3の高さ方向、すなわち鉛直方向に一定間隔で一列に並んで配置される。つまり、複数の放射線測定部12が、原子炉圧力容器3の高さ方向において異なる位置に配置される。なお、複数の放射線測定部12が一体となって放射線測定ユニット13を構成する。
放射線測定ユニット13は、原子炉圧力容器3の外側、かつ原子炉圧力容器3を取り囲む生体遮蔽部6の内側に配置される。このようにすれば、放射線測定部12の損傷を防止しつつ、原子炉圧力容器3から放射される放射線の線量を測定し、炉内の状況を把握することができる。それぞれの放射線測定部12は、原子炉圧力容器3の外周面に近接して設けられる。なお、それぞれの放射線測定部12が原子炉圧力容器3の外周面に接触しても良い。
複数の放射線測定部12が、原子炉圧力容器3の高さ方向に並んで配置されることで、原子炉圧力容器3の高さ方向の各位置の核燃料の状況を把握することができる。例えば、原子炉圧力容器3の高さ方向の放射線分布を示すグラフを生成することができる(図3〜図9参照)。原子炉圧力容器3の高さ方向の放射線分布により、核燃料の状態を把握することができる。なお、核燃料の状態とは、核燃料の溶融の有無、核燃料の位置、または核燃料の露出範囲を示す。
図1の符号おいて、放射線測定ユニット13の下端の位置は、原子炉圧力容器3の下端と等しい高さに設置されている。なお、原子炉圧力容器3の下端とは、原子炉圧力容器3の内部の底面である。原子炉圧力容器3の下端の高さ位置、或いは、放射線測定ユニット13の下端の高さ位置をH1とする。原子炉圧力容器3の下鏡8の部分の最高位置をH2とする。炉心2の下端の高さ位置をH3とする。炉心2の上端の高さ位置をH4とする。通常時の冷却水10の水面の高さ位置をH5とする。生体遮蔽部6の上端の高さ位置をH6とする。放射線測定ユニット13の上端の高さ位置をH7とする。原子炉圧力容器3の上端の高さ位置をH8とする。なお、原子炉圧力容器3の上端とは、原子炉圧力容器3の内部の天井面である。
また、高さ位置H1から高さ位置H8までの原子炉圧力容器3が配置される領域をR1とする。高さ位置H1から高さ位置H7までの放射線測定ユニット13が配置される領域をR2とする。高さ位置H1から高さ位置H5までの通常時に冷却水10が配置される領域をR3とする。高さ位置H1から高さ位置H2までの下鏡8が配置される領域をR4とする。高さ位置H2から高さ位置H4までの下鏡8よりも高く、かつ炉心2の上端よりも低い領域をR5とする。高さ位置H3から高さ位置H4までの炉心2が配置される領域をR6とする。
ここで、図1では、放射線測定ユニット13の上端の高さ位置H7が、生体遮蔽部6の上端の高さ位置H6よりも高くなっている。つまり、鉛直方向に一列に並んだ複数の放射線測定部12のうち、一部の放射線測定部12が、原子炉圧力容器3と生体遮蔽部6との間に設けられていないことがある。複数の放射線測定部12のうち、少なくとも一部の放射線測定部12が、原子炉圧力容器3と生体遮蔽部6との間に設けられていれば良い。
また、放射線測定ユニット13の下端の位置は、原子炉圧力容器3の下端と等しい高さであると前述した通り、複数の放射線測定部12のうち、最も低い位置H1の放射線測定部12は、原子炉圧力容器3の下端の高さ位置H1以下に配置されている。また、複数の放射線測定部12のうち、最も高い位置H7の放射線測定部12は、通常時の冷却水10の水面の高さ位置H5よりも高い位置に配置されているのが好ましい。
本実施形態では、全ての放射線測定部12は、原子炉圧力容器3が配置される領域R1内に配置される。すなわち、鉛直方向において、全ての放射線測定部12が配置される領域R2が、原子炉圧力容器3が配置される領域R1よりも狭い場合がある。複数の放射線測定部12のうちの一部の放射線測定部12は、高さ位置H4以下に設けられている。
本実施形態では、一部または全部の放射線測定部12が、領域R3内に配置される。また、一部の放射線測定部12が、領域R6内に配置される。また、一部の放射線測定部12が、領域R4に対応して配置される。また、一部の放射線測定部12が、領域R5に対応して配置される。
炉心2は、原子炉圧力容器3の上下方向の中央に設けられる。さらに、炉心2の外周面と原子炉圧力容器3の内周面との間は離間されており、隙間Cが設けられている。この隙間Cには、冷却水10が配置される。この隙間Cの冷却水10が炉心2から放射される放射線を遮蔽する。そのため、原子炉が通常運転中に、炉心2から放射される放射線が原子炉圧力容器3の外部に届き難くなっている。
なお、本実施形態において、複数の放射線測定部12は、鉛直方向に一列に配置されているが、それぞれの放射線測定部12の鉛直方向における位置が異なれば、一列でなくても良い。また、一部の放射線測定部12が、他の放射線測定部12と鉛直方向で同じ位置に設置されていても良い。つまり、本実施形態では、複数の放射線測定部12の列が直線状を成しているが、複数の放射線測定部12の列が、湾曲状を成しても良いし、屈曲されても良い。
次に、炉内状況測定装置1のシステム構成を図2に示すブロック図を参照して説明する。
炉内状況測定装置1は、複数の放射線測定部12と、これらの放射線測定部12から測定値を取得する測定値取得部14と、原子炉に関する各種解析に用いる事前情報が入力される事前情報入力部15と、事前情報入力部15に入力された情報に基づいて事前解析を行う事前解析ユニット16と、この事前解析に基づいて各種閾値を設定する設定ユニット17と、各種情報を記憶する記憶ユニット18と、放射線測定部12から取得した情報に基づいて炉内状況を評価する評価ユニット19と、この評価ユニット19にて評価された炉内状況(特定された炉内の状態)が出力される出力部20を備える。
なお、測定値取得部14は、放射線測定部12から測定値を受信し、評価ユニット19に測定値情報を送信する送受信機を備える。事前解析ユニット16、設定ユニット17、記憶ユニット18および評価ユニット19は、それぞれが、CPU、ROMまたはRAMなどのメモリを備え、さらにHDDを備えていても良い。
また、事前情報入力部15は、事前情報を記憶ユニット18と事前解析ユニット16に入力するためのキーボード、ディスプレイ、マウスなどの入出力機器を備える。事前情報入力部15に入力される事前情報とは、炉内状況測定装置1を設置する原子力プラントの原子炉および核燃料の構造を再現したモデルに関する情報(設計情報、性状情報)を含む。
事前解析ユニット16は、事前解析部21、通常分布解析部22および溶融解析部23を備え、これらは、メモリまたはHDDに記憶されたプログラムがCPUによって実行されることで実現される。
事前解析部21は、事前情報に基づき、原子炉圧力容器3から外部に放射される放射線の通常時の線量と非常時の線量とを解析する。通常分布解析部22は、事前情報に基づき、通常時の位置に核燃料があるときの線量分布を解析する。溶融解析部23は、事前情報に基づき、核燃料が露出状態となった時点から溶融し始めるまでの過熱時間を解析する。
設定ユニット17は、露出閾値設定部24、落下閾値設定部25および未臨界閾値設定部26を備え、これらは、メモリまたはHDDに記憶されたプログラムがCPUによって実行されることで実現される。
露出閾値設定部24は、事前解析ユニット16で算出された情報に基づき、核燃料が水没状態であるか、つまり、露出状態でないことを判定するための露出閾値を算出し設定する。落下閾値設定部25は、事前解析ユニット16で算出された情報に基づき、核燃料が原子炉圧力容器3の下鏡8に落下したか否かを判定するための落下閾値を算出し設定する。未臨界閾値設定部26は、事前解析ユニット16で算出された情報に基づき、核燃料が未臨界状態であるか否かを判定するための未臨界閾値を算出し設定する。
本実施形態では、事前解析部21が、核燃料が水没状態であるときに原子炉圧力容器3から放射される放射線の線量と、核燃料が露出状態であるときに原子炉圧力容器3から放射される放射線の線量とを解析する。そして、この解析に基づいて、露出閾値設定部24が露出閾値を算出し設定(記憶)する。例えば、核燃料が露出状態であるときに原子炉圧力容器3から放射される放射線の線量の最小値から最大値までの予測範囲を解析し、その最小値を露出閾値とする。なお、露出閾値は、炉内状況に応じて適宜変化する値であっても良い。
また、事前解析部21が、通常時および非常時に原子炉圧力容器3の下鏡8(下部)から放射される放射線の線量を解析する。そして、この解析に基づいて、落下閾値設定部25が落下閾値を設定(記憶)する。例えば、核燃料が原子炉圧力容器3の下鏡8に落下したときに領域R4から放射される放射線の線量の最小値から最大値までの予測範囲を解析し、その最小値を落下閾値とする。
また、事前解析部21が、未臨界状態の核燃料が露出状態であるときに原子炉圧力容器3から放射される放射線の線量を解析する。そして、この解析に基づいて、未臨界閾値設定部26が未臨界閾値を設定(記憶)する。例えば、未臨界状態の核燃料が露出状態であるときに原子炉圧力容器3から放射される放射線の線量の最小値から最大値までの予測範囲を解析し、その最大値を未臨界閾値とする。
記憶ユニット18は、測定履歴記憶部27、位置記憶部28、位置更新部29および状態記憶部30を備え、これらは、メモリまたはHDDに記憶されたプログラムがCPUによって実行されることで実現される。
測定履歴記憶部27は、それぞれの放射線測定部12で測定された線量を、その測定位置および測定時刻に対応付けて記憶する。測定位置は、少なくとも鉛直方向における位置情報を含む。位置記憶部28は、原子炉圧力容器3の内部の核燃料の位置を記憶する記憶媒体を有する。位置更新部29は、最新の核燃料の位置が過去に位置記憶部28に記憶された核燃料の位置と異なるときに、最新の核燃料の位置を位置記憶部28に記憶させる。状態記憶部30は、評価ユニット19で特定された核燃料の状態を記憶する。
評価ユニット19は、線量分布取得部31、状態特定部32、変化特定部33、位置特定部34、水没領域特定部35、ボイド領域特定部36および経過時間算出部37を備え、これらは、メモリまたはHDDに記憶されたプログラムがCPUによって実行されることで実現される。
線量分布取得部31は、それぞれの放射線測定部12で測定された線量に基づいて、原子炉圧力容器3の高さ方向の線量分布を生成する。状態特定部32は、事前に解析された線量と放射線測定部12で測定された線量とを比較して原子炉圧力容器3の内部の核燃料の状態を特定する。変化特定部33は、測定履歴記憶部27に記憶された情報に基づいて、核燃料の時間的変化を特定する。位置特定部34は、線量分布取得部31で取得された線量分布に基づいて、核燃料の位置を特定する。水没領域特定部35は、線量分布取得部31で取得された線量分布に基づいて、核燃料が水没状態である水没領域を特定する。ボイド領域特定部36は、液相と気相とが混合されたボイド領域を特定する。経過時間算出部37は、測定履歴記憶部27に記憶された情報に基づいて、核燃料が露出状態となった時点からの経過時間を算出する。
さらに、評価ユニット19は、水没判定部38、溶融判定部39、移動判定部40、落下判定部41、落下時冠水判定部42および臨界判定部43を備え、これらは、メモリまたはHDDに記憶されたプログラムがCPUによって実行されることで実現される。
水没判定部38は、放射線測定部12で測定された線量が露出閾値未満である場合に核燃料が水没状態であると判定する。溶融判定部39は、経過時間算出部37で算出された経過時間が溶融解析部23で事前に解析された過熱時間以上である場合に核燃料が溶融されたと判定する。移動判定部40は、通常分布解析部22で解析された通常時の線量分布と線量分布取得部31で取得された線量分布を比較して核燃料が移動されたか否かを判定する。落下判定部41は、原子炉圧力容器3の下部の線量が落下閾値以上である場合に核燃料が落下したと判定する。落下時冠水判定部42は、核燃料の落下時に核燃料が冠水状態であるか露出状態であるかを判定する。臨界判定部43は、放射線測定部12で測定された線量が未臨界閾値を超える場合に核燃料が臨界状態であると判定する。
また、評価ユニット19は、その他のデバイスを備えても良い。例えば、評価ユニット19は、所定時間をカウントするカウントタイマと、時間の経過を計時する計時部(RTC:Real-Time Clock)とを備えても良い。なお、計時部は、現在時刻を示す時刻情報と、日付と曜日とを示すカレンダ情報とを出力する。
なお、出力部20は、ディスプレイなどの出力機器で構成される。この出力部20には、核燃料の配置を示すグラフ、炉心水位を示すグラフ、および放射線分布(線量分布)を示すグラフが表示される(図3〜図9参照)。原子力プラントの管理者は、この出力部20に表示された情報に基づいて、炉内の核燃料の状況を把握することができる。
図1および図2に示すように、放射線測定部12では、原子炉圧力容器3から放射されるガンマ線または中性子線などの放射線を測定する。そして、放射線測定部12は、その測定結果(測定値)を測定値取得部14に送信する。
評価ユニット19の測定値取得部14は、測定値取得部14が取得した測定結果を処理する。そして、測定結果は、それぞれの放射線測定部12に対応する測定位置(座標または測定高さ)および測定時刻に対応付けて、記憶ユニット18の測定履歴記憶部27に記憶される。
測定履歴記憶部27には、全ての放射線測定部12の測定結果が記憶される。なお、測定結果に基づいて、線量分布取得部31により放射線分布が生成される。この放射線分布も測定履歴記憶部27に記憶される。なお、測定履歴記憶部27は、それぞれの放射線測定部12を識別する識別情報に対応付けられた座標および測定高さを記憶したテーブルを有する。このテーブルに測定時刻と対応付けて測定結果が記憶される。
また、線量分布取得部31は、測定履歴記憶部27に記憶された特定の時刻における放射線分布を読み出す。そして、それぞれの放射線測定部12の座標から求められる高さと、その高さに対応する測定結果を対応付けた高さ方向の放射線分布を生成する。そして、この線量分布取得部31により取得された放射線分布に基づいて、状態特定部32が炉内の状況を特定する。
本実施形態の炉内状況測定装置は、CPU、ROM、RAM、HDDなどのハードウェア資源を有し、CPUが各種プログラムを実行することで、ソフトウェアによる情報処理がハードウェア資源を用いて実現されるコンピュータで構成される。さらに、本実施形態の炉内状況測定方法は、プログラムをコンピュータに実行させることで実現される。
次に、炉内状況測定装置1で実行される具体的な処理の一例を説明する。
まず、事前解析ユニット16では、炉内状況測定装置1を設置する原子炉において、核燃料が冠水している場合および冷却水10の水位が低下して核燃料が全露出した場合に、それぞれの放射線測定部12で測定され得る放射線の強度を事前に解析する。この事前解析ユニット16では、例えば、所定の燃焼コードを用いて核燃料の線源強度を解析するとともに、所定の遮蔽計算コードを用いて核燃料から発生するガンマ線または中性子の放射線分布を解析する。この事前解析ユニット16では、核燃料が全露出している場合に、放射線測定部12で測定され得る原子炉圧力容器3の高さ方向の放射線分布を解析する。
また、事前解析ユニット16(例えば、事前解析部21)により得られた通常時に核燃料が存在する位置に関する情報が記憶ユニット18に記憶される。なお、この通常時に核燃料が存在する位置に関する情報は、事前解析ユニット16による解析を行わないで、外部から直接的に記憶ユニット18に記憶されても良い。
評価ユニット19(例えば、状態特定部32)では、所定の炉内状況評価手順に従って、炉内状況の評価が行われる。なお、設定ユニット17では、事前に解析された放射線分布から、放射線測定部12で測定され得る最大の放射線量の値D(max)を決定する。さらに、核燃料が露出している状態と冠水している状態を区別可能な露出閾値として、バックグラウンド値D(BG)を設定する。
通常、放射線測定ユニット13において、i番目の放射線測定部12で計測される放射線量D(i)は、核燃料が冠水している場合には、全てがD(BG)以下となる。従って、測定結果が以下の条件式(1)を満たす場合に、核燃料が健全かつ炉内水位Wが核燃料(炉心2)の上端の高さ位置H4より上方であると判定される。
∀D(i)<D(BG) (1)
図3は、核燃料が冠水している場合の放射線分布を示している。ここで、炉心2の領域R6にある核燃料が全て露出した場合の放射線分布を線L1(二点鎖線)で示し、核燃料が冠水している場合の放射線分布を線L2(実線)で示している。
図3に示すように、原子炉圧力容器3の内部に冷却水10が無い状態、つまり、核燃料が全て露出した状態では、炉心2が配置される領域R6の線量が高くなる(線L1参照)。そして、原子炉圧力容器3の内部に冷却水10が有り、通常時の冷却水10の水面の高さ位置H5に水位Wが保たれる状態では、核燃料が冠水されるので、全領域で線量が低くなる(線L2参照)。
図4は、核燃料が露出した場合の放射線分布を示している。ここで、炉心2の領域R6にある核燃料が全て露出した場合の放射線分布を線L1(二点鎖線)で示し、核燃料の一部が露出した場合の放射線分布を線L3(実線)で示している。
図4に示すように、通常時の冷却水10の水面の高さ位置H5から水位Wが低下し、核燃料の一部が露出した場合は、核燃料が露出した部分の線量が高くなる(線L3参照)。例えば、炉心2が配置される領域R6のうち、上半分の部分が水面Wから露出されると、その部分の線量が高くなる。従って、測定結果が以下の条件式(2)を満たす場合、つまり、いずれかのD(i)がD(BG)を超えた場合に、核燃料が露出したと判定される。なお、いずれかのD(i)がD(BG)を超えた場合を例示するが、いずれかのD(i)がD(BG)以上となった場合に、核燃料が露出したと判定しても良い。
∃D(i)>D(BG) (2)
このように、線量に基づいて核燃料の露出位置が求められる。健全な状態での核燃料の位置は事前に判明しているため、核燃料の露出部分と水没部分とをそれぞれ把握することができる。なお、出力部20は、評価ユニット19の特定結果に基づいて、核燃料の位置、核燃料の露出領域、水位などを示す各種情報を出力する。
核燃料が冷却水10から露出した場合に、この露出した部分では、冷却水10による冷却が行われなくなる。そのため、冷却水10による冷却よりも核燃料の崩壊熱による発熱が上回り、核燃料の温度が時間とともに上昇される。例えば、軽水炉で用いられる二酸化ウラン燃料は、約2800℃で溶融される。
評価ユニット19(例えば、状態特定部32)では、時間経過に対応する核燃料の露出状態が特定される。従って、評価ユニット19では、核燃料の露出体積および露出時間に基づいて、核燃料の温度を概算し、露出した領域の核燃料の溶融確率、つまり、核燃料が溶融されたか否かを特定することができる。
事前解析ユニット16では、対象とする核燃料が露出状態となった時点から溶融し始めるまでの過熱時間Tmeltを解析する。なお、過熱時間Tmeltは、対象とする核燃料が露出状態となった時点から溶融し始めるまでの平均時間であっても良い。この解析結果に基づいて、核燃料が露出状態となった時刻をt0として、このt0からの経過時間が0の時点での溶融確率を0%とし、t0からの経過時間がTmeltに達した時点の溶融確率を100%とする溶融確率を評価する。そして、その評価結果が出力部20により出力される。
図5は、核燃料が溶融した場合の放射線分布を示している。ここで、炉心2の領域R6にある核燃料が全て露出した場合の放射線分布を線L1(二点鎖線)で示し、露出状態の核燃料が溶融した場合の放射線分布を線L4(実線)で示している。
図5に示すように、露出状態の核燃料が溶融した場合(線L4参照)は、炉心2の領域R6にある核燃料が露出した直後の場合(線L1参照)の放射線分布よりも低い位置の線量が高くなる。
例えば、所定の放射線測定部12が配置された座標をP(i)として、核燃料の上端をP(Fmax)、核燃料の下端をP(Fmin)とする。以下の条件式(3)のように、P(i)の値が、炉心2の領域R6で、D(i)がD(max)より低い値になった場合に、その位置の核燃料の一部が溶融し、落下したと判定する。また、以下の条件式(4)のように、P(i)が炉心2の領域R6より低い位置で、D(i)がD(BG)より大きくなった場合に、その位置に核燃料が移動したと判定する。
D(i)<D(MAX) (P(Fmin)<P(i)<P(Fmax)) (3)
D(i)>D(BG) (P(i)<P(Fmin)) (4)
核燃料が移動した場合(線L4参照)は、炉心2の領域R6にある核燃料が全て露出した直後の場合(線L1参照)の放射線分布と大きく異なる態様となる。従って、核燃料が溶融した場合の線L4を、新たな核燃料の位置として特定する。例えば、D(i)がD(BG)より大きくなる領域を核燃料の新たな位置と特定する。例えば、評価ユニット19の位置特定部34により核燃料の新たな位置が特定される。
なお、一度溶融した核燃料は元の位置に戻ることはないため、測定結果から求められた新しい核燃料の位置は、記憶ユニット18(例えば、位置記憶部28)に送信される。そして、過去の核燃料の位置が上書きされ、更新後の核燃料の位置に基づいて、次の測定結果に基づく核燃料の移動が判定される。
図6は、核燃料が溶融された後に、冷却水10の水位Wが回復した場合の放射線分布である。ここで、溶融後に水位Wが回復する前の放射線分布を線L4(二点鎖線)で示し、溶融後に水位Wが回復した後の放射線分布を線L5(実線)で示している。
図6に示すように、溶融後に水位Wが回復した後の放射線分布L5のうち、水位Wよりも下方の領域の線量が低くなる。一方、露出状態の核燃料に基づく放射線分布L4は、一度核燃料が溶融して、新たに更新された状態から変化しない。これは、水位Wが回復した領域では溶融の進行が停止するためである。
このように、放射線分布の履歴に基づいて、核燃料の位置を更新することで、放射線分布が変動した場合でも核燃料の位置を保持することが可能となる。
図7は、全ての核燃料が原子炉圧力容器3の下鏡8の領域R4まで落下し、かつ冠水状態にある場合の放射線分布である。ここで、核燃料が冠水状態にある場合の放射線分布を線L6(実線)で示し、この放射線分布に基づいて新たに更新された状態の放射線分布を線L7(二点鎖線)で示す。なお、更新後のD(BG)が落下閾値となる。
図7に示すように、核燃料の溶融が進行されると、最終的には全ての核燃料が原子炉圧力容器3の下鏡8の領域R4まで落下する。全ての核燃料が落下した後、かつ冠水時の放射線分布L6に示すように、原子炉圧力容器3の下鏡8の領域R4付近に線量が上昇する領域が現れる。そして、一定の高さ以上では、線量が上昇する領域が現れない。評価ユニット19は、この放射線分布L6が特定された場合に、核燃料が全落下したと特定する。
なお、水位Wは、核燃料が存在する領域R4よりも上方の位置となっている。ここで、落下した核燃料は、溶融物11となって下鏡8の内面に接触される(図1参照)。そして、溶融物11と原子炉圧力容器3の内面との間に、冷却水10が流通可能な隙間Cが無くなる。そのため、冷却水10により放射線が遮蔽されず、溶融物11から放射される放射線が原子炉圧力容器3の外部に放射される。
例えば、以下の条件式(5)および条件式(6)のように、原子炉圧力容器3の下鏡8の部分の最高位置H2の座標をP(R)とし、所定の放射線測定部12が配置された座標をP(i)とする。ここで、P(i)がP(R)よりも低い領域R4でD(i)がD(BG)より高い値を示し、P(i)がP(R)よりも高い領域R5でD(i)がD(BG)より低い値を示した場合に、核燃料が全落下し、さらに核燃料が冠水していると判定される。なお、P(R)よりも低い領域R4でD(i)がD(BG)以上の値を示している場合に、核燃料が全落下したと判定しても良い。
D(i)>D(BG) (P(i)<P(R)) (5)
D(i)<D(BG) (P(i)>P(R)) (6)
図8は、全ての核燃料が原子炉圧力容器3の下鏡8の領域R4まで落下し、かつ核燃料が露出状態にある場合の放射線分布である。ここで、核燃料の落下後に新たに更新された状態の放射線分布を線L7(二点鎖線)で示し、核燃料が露出状態にある場合の放射線分布を線L8(実線)で示す。
図8に示すように、全落下した核燃料の少なくとも一部が露出状態にある場合に、核燃料の表面から放射される放射線が、原子炉圧力容器3の下鏡8の領域R4よりも高い領域R5にまで届く。例えば、放射線分布L8に示すように、下鏡8の領域R4(P(R))以上でも高い線量を示す。
例えば、以下の条件式(7)に示すように、核燃料が全落下した後に、P(i)がP(R)より高い領域R5でD(i)がD(BG)より高い値を示した場合に、核燃料が露出していると判定される。なお、P(R)よりも高い領域R5でD(i)がD(BG)以上の値を示している場合に、核燃料が全落下したと判定しても良い。
D(i)>D(BG) (P(i)>P(R)) (7)
図9は、核燃料が露出した場合の放射線分布を示している。ここで、炉心2の領域R6にある核燃料が全て露出した場合の放射線分布を線L1(二点鎖線)で示し、核燃料の一部が露出した場合の放射線分布を線L9(実線)で示している。
図9に示すように、核燃料が露出している領域では、急激に放射線強度が上昇する。一方、実際の原子炉においては、液相と気相の間が、液相と気相とが混合されたボイド領域Vとなっている。そのため、液相の上端Wから気相の下端Gにかけて、放射線の線量の上昇が、なだらかなものとなる。この放射線の線量の特定の上昇率は、事前解析ユニット16(例えば、事前解析部21)により予め特定される。
例えば、液相から上方の領域に向かって線量が特定の上昇率で上昇される場合に、この領域をボイド領域Vと特定することができる。例えば、評価ユニット19の水没領域特定部35により液相が特定されるとともに、評価ユニット19のボイド領域特定部36によりボイド領域が特定される。そして、出力部20は、燃料配置とともに、炉心水位として、気相領域と液相領域とボイド領域の表示をすることができる。
このように、評価ユニット19(例えば、状態特定部32)では、放射線測定部12で測定される線量に基づいて炉内状況を特定することができる。図10に炉内状況判断条件一覧を示す。なお、本実施形態では、これらの条件に基づいて炉内状況を特定しているが、その他の条件に基づいて炉内状況を判定しても良い。
次に、炉内状況測定装置1が実行する処理について図11から図14のフローチャートを用いて説明する。なお、図2に示すブロック図を適宜参照する。なお、炉内状況測定装置1が他のメイン処理を実行中に、この処理を割り込ませて実行しても良い。
図11に示すように、まず、ステップS11において、原子炉に関する各種解析に用いる事前情報が、事前情報入力部15に入力される。
次のステップS12において、事前解析ユニット16の事前解析部21は、事前情報に基づいて、通常時の核燃料の位置、つまり、炉心2の位置を特定する。そして、この特定された核燃料の位置が、記憶ユニット18の位置記憶部28に記憶される。
次のステップS13において、事前解析ユニット16の事前解析部21は、事前情報に基づいて、通常時の冷却水10の水位Wを特定する。そして、この特定された水位Wの位置が、記憶ユニット18の位置記憶部28に記憶される。
次のステップS14において、事前解析ユニット16の事前解析部21は、事前情報に基づいて、原子炉圧力容器3から放射される放射線の通常時の線量と非常時の線量とを事前に解析する。
次のステップS15において、事前解析ユニット16の通常分布解析部22は、事前情報に基づいて、通常時の位置に核燃料があるときの線量分布を事前に解析する。
次のステップS16において、事前解析ユニット16の溶融解析部23は、事前情報に基づいて、核燃料が露出状態となった時点から溶融し始めるまでの過熱時間を事前に解析する。
次のステップS17において、事前解析ユニット16の事前解析部21は、核燃料が露出状態であるときに原子炉圧力容器3から放射される放射線の線量を解析する。そして、設定ユニット17の露出閾値設定部24は、事前解析部21の解析に基づいて、露出閾値を設定する。
次のステップS18において、事前解析ユニット16の事前解析部21は、核燃料が原子炉圧力容器3の下鏡8に落下したときに原子炉圧力容器3の下鏡8から放射される放射線の線量を解析する。そして、設定ユニット17の落下閾値設定部25は、事前解析部21の解析に基づいて、落下閾値を設定する。
次のステップS19において、事前解析ユニット16の事前解析部21は、未臨界状態の核燃料が露出状態であるときに原子炉圧力容器3から放射される放射線の線量を解析する。そして、設定ユニット17の未臨界閾値設定部26は、事前解析部21の解析に基づいて、未臨界閾値を設定する。
次のステップS20において、原子炉の運転が開始される。
図12に示すように、次のステップS21において、放射線測定ユニット13のそれぞれの放射線測定部12は、原子炉圧力容器3から放射される放射線の線量を測定する。そして、放射線測定部12は、その測定結果を測定値取得部14に送信する。測定値取得部14は、それぞれの放射線測定部12から受信した測定結果を評価ユニット19に入力する。また、評価ユニット19を介して測定結果が記憶ユニット18に記憶される。
次のステップS22において、記憶ユニット18の測定履歴記憶部27は、それぞれの放射線測定部12で測定された線量を、その測定位置および測定時刻に対応付けて記憶する。
次のステップS23において、評価ユニット19の線量分布取得部31は、それぞれの放射線測定部12で測定された線量に基づいて、原子炉圧力容器3の高さ方向の放射線分布を生成し取得する。
次のステップS24において、出力部20は、線量分布取得部31により取得された放射線分布を示す情報を出力し表示する。なお、線量分布取得部31により取得された放射線分布が、記憶ユニット18の測定履歴記憶部27に記憶される。
次のステップS25において、評価ユニット19の変化特定部33は、測定履歴記憶部27に記憶された情報に基づいて、核燃料の時間的変化を特定する。このようにすれば、原子炉圧力容器3の高さ方向に亘って核燃料の時間的変化を特定することができる。
次のステップS26において、評価ユニット19の状態特定部32は、事前解析部21で事前に解析された線量と放射線測定部12で測定された線量とを比較して原子炉圧力容器3の内部の核燃料の状態を特定する。さらに、状態特定部32は、線量分布取得部31で取得された線量分布に基づいて、核燃料の状態を特定する。このようにすれば、原子炉圧力容器3の高さ方向に亘って核燃料の状態を特定することができる。
なお、状態特定部32は、各種条件に基づいて、炉内状況を特定する(図10に示す炉内状況判断条件一覧参照)。例えば、状態特定部32は、核燃料が通常位置にあるか否か、核燃料が一部落下したか否か、核燃料が全落下したか否かを示す燃料状態を特定する。さらに、状態特定部32は、核燃料が冠水状態であるか否か、核燃料が露出しているか否か示す炉内水位を特定する。
次のステップS27において、出力部20は、状態特定部32により特定された核燃料の状態(炉内状況)を示す情報を出力し表示する。なお、状態特定部32により特定された核燃料の状態が、記憶ユニット18の状態記憶部30に記憶される。
次のステップS28において、評価ユニット19の状態特定部32は、非常事態が発生したか否かを判定する。なお、非常事態とは、少なくとも原子炉圧力容器3に対する冷却水10の供給が滞ってしまう状態を示す。また、冷却水10の供給の有無を示す情報が、外部から評価ユニット19に入力されるようになっており、この入力情報に基づいて判定が行われる。
ここで、非常事態が発生していない場合(ステップS28がNO)は、前述のステップS21に戻る。一方、非常事態が発生した場合(ステップS28がYES)は、ステップS29に進む。
次のステップS29において、評価ユニット19の水没判定部38は、全ての放射線測定部12で測定された線量が露出閾値未満であるか否かを判定する。
ここで、放射線測定部12で測定された線量が露出閾値未満である場合(ステップS29がYES)は、ステップS33に進む。一方、少なくとも1つの放射線測定部12で測定された線量が露出閾値以上である場合(ステップS29がNO)は、ステップS30に進む。このようにすれば、原子炉圧力容器3から放射される放射線の線量に基づいて、核燃料が水没状態であるか否かの判定を行うことができる。
ステップS33において、評価ユニット19の水没判定部38は、核燃料が水没状態であることを特定する。そして、前述のステップS21に戻る。
ステップS30において、評価ユニット19の水没判定部38は、核燃料が露出状態であることを特定する。そして、ステップS31に進む。
次のステップS31において、評価ユニット19の経過時間算出部37は、核燃料が露出状態となった時点から現時点までの経過時間の算出を開始する。例えば、核燃料が露出状態となった時点から溶融し始めるまでの過熱時間に対応する値をカウントタイマにセットし、このカウントタイマのカウントを開始し、次のステップに進む。なお、既にカウントタイマがカウント中である場合は、そのカウントを継続し、次のステップに進む。
次のステップS32において、評価ユニット19の経過時間算出部37は、核燃料が露出状態となった現時点からの経過時間を算出する。例えば、カウントタイマの値に基づいて、経過時間を算出しても良い。また、測定履歴記憶部27に記憶された情報に基づいて、核燃料が露出状態となった時刻を特定し、その時刻から現在時刻までの時間を経過時間として算出しても良い。
図13に示すように、次のステップS34において、評価ユニット19の溶融判定部39は、経過時間算出部37で算出された経過時間が溶融解析部23で事前に解析された過熱時間以上であるか否かを判定する。このようにすれば、核燃料の溶融の有無を判定することができる。
ここで、経過時間が過熱時間未満である場合(ステップS34がNO)は、後述のステップS36に進む。一方、経過時間が過熱時間以上である場合(ステップS34がYES)は、ステップS35に進む。
次のステップS35において、評価ユニット19の状態特定部32は、溶融判定部39の判定に基づいて、核燃料が溶融状態であることを特定する。なお、核燃料が溶融状態であることを示す情報が、記憶ユニット18の状態記憶部30に記憶される。
次のステップS36において、評価ユニット19の位置特定部34は、線量分布取得部31で取得された放射線分布に基づいて、核燃料の位置を特定する。このようにすれば、炉内の核燃料の位置を把握することができる。
次のステップS37において、評価ユニット19の移動判定部40は、通常分布解析部22で解析された通常時の放射線分布(図3または図5の線L1参照)と線量分布取得部31で取得された現時点の放射線分布(図3または図5の線L4参照)とを比較して核燃料が移動されたか否かを判定する。
ここで、核燃料が移動されていない場合(ステップS37がNO)は、後述のステップS46に進む。一方、核燃料が移動された場合(ステップS37がYES)は、ステップS38に進む。
次のステップS38において、評価ユニット19の状態特定部32は、移動判定部40の判定に基づいて、核燃料の移動状態を特定する。このようにすれば、炉内の核燃料の移動を把握することができる。
次のステップS39において、評価ユニット19の状態特定部32は、最新の核燃料の位置が過去に位置記憶部28に記憶された核燃料の位置と異なるか否かを判定する。
ここで、核燃料の位置が異なっていない場合(ステップS39がNO)は、後述のステップS41に進む。一方、核燃料の位置が異なる場合(ステップS39がYES)は、ステップS40に進む。
次のステップS40において、記憶ユニット18の位置更新部29は、最新の核燃料の位置を位置記憶部28に記憶させる。このようにすれば、位置記憶部28の記憶内容に基づいて、炉心溶融後の核燃料の位置を把握することができる。
次のステップS41において、評価ユニット19の落下判定部41は、原子炉圧力容器3の下鏡8に対応する領域R4に対応して配置された放射線測定部12で測定された線量が落下閾値以上か否かを判定する。
ここで、原子炉圧力容器3の下鏡8の線量が落下閾値未満の場合(ステップS41がNO)は、後述のステップS46に進む。一方、原子炉圧力容器3の下鏡8の線量が落下閾値以上の場合(ステップS41がYES)は、ステップS42に進む。
次のステップS42において、評価ユニット19の落下判定部41は、核燃料の落下状態を特定する。なお、核燃料が落下状態であることを示す情報が、記憶ユニット18の状態記憶部30に記憶される。このようにすれば、非常時に炉内の核燃料が通常時の位置から落下したか否かを把握することができる。
次のステップS43において、評価ユニット19の落下時冠水判定部42は、原子炉圧力容器3の下鏡8よりも高い位置である領域R5に対応して配置された放射線測定部12で測定された線量が落下閾値未満か否かを判定する。
ここで、原子炉圧力容器3の領域R5に対応する部分の線量が落下閾値未満である場合(ステップS43がYES)は、ステップS44に進む。一方、原子炉圧力容器3の領域R5に対応する部分の線量が落下閾値以上である場合(ステップS43がNO)は、ステップS45に進む。このようにすれば、非常時に原子炉圧力容器3の下鏡8に落下した核燃料が冠水状態であるか露出状態であるかを把握することができる。
ステップS44において、評価ユニット19の落下時冠水判定部42は、核燃料の冠水状態を特定する。なお、核燃料が冠水状態であることを示す情報が、記憶ユニット18の状態記憶部30に記憶される。そして、ステップS46に進む。
ステップS45において、評価ユニット19の落下時冠水判定部42は、核燃料の露出状態を特定する。なお、核燃料が露出状態であることを示す情報が、記憶ユニット18の状態記憶部30に記憶される。そして、ステップS46に進む。
図14に示すように、次のステップS46において、評価ユニット19の水没領域特定部35は、線量分布取得部31で取得された線量分布に基づいて、核燃料が水没状態である水没領域を特定する。
次のステップS47において、評価ユニット19のボイド領域特定部36は、水没領域から上方の領域に向かって線量が特定の上昇率で上昇されているか否かを判定する(図9参照)。例えば、線量分布取得部31で取得された線量分布の水没領域から上方の領域に向かう線量の対象上昇率と、事前解析部21により予め特定された基準上昇率(閾値)とを比較する。そして、対象上昇率が、基準上昇率が規定する所定範囲に収まるか否か判定する。
ここで、水没領域から上方の領域に向かって線量が特定の上昇率で上昇されていない場合(ステップS47がNO)は、後述のステップS49に進む。一方、水没領域から上方の領域に向かって線量が特定の上昇率で上昇されている場合(ステップS47がYES)は、ステップS48に進む。
次のステップS48において、ボイド領域特定部36は、線量が特定の上昇率で上昇されている領域を液相と気相とが混合されたボイド領域Vであると特定する。このようにすれば、非常時に炉内のボイド領域Vを特定することができる(図9参照)。
次のステップS49において、出力部20は、非水没領域と、水没領域と、ボイド領域がある場合はボイド領域を示す情報を出力し表示する。
次のステップS50において、評価ユニット19の臨界判定部43は、少なくとも1つの放射線測定部12で測定された線量が未臨界閾値を超えるか否かを判定する。
ここで、少なくとも1つの放射線測定部12で測定された線量が未臨界閾値以下の場合(ステップS50がNO)は、前述のステップS21に戻る。一方、少なくとも1つの放射線測定部12で測定された線量が未臨界閾値を超える(ステップS50がYES)場合は、ステップS51に進む。
次のステップS51において、評価ユニット19の臨界判定部43は、核燃料が臨界状態であることを特定する。なお、核燃料が臨界状態であることを示す情報が、記憶ユニット18の状態記憶部30に記憶される。このようにすれば、原子炉圧力容器3から放射される放射線の線量に基づいて、核燃料が臨界状態であるか否かの判定を行うことができる。
次のステップS52において、出力部20は、核燃料が臨界状態である旨を示す情報を出力し表示する。そして、前述のステップS21に戻る。
なお、本実施形態において、基準値、すなわち閾値を用いた任意の値の判定は、「任意の値が基準値以上か否か」の判定でも良いし、「任意の値が基準値を超えているか否か」の判定でも良い。或いは、「任意の値が基準値以下か否か」の判定でも良いし、「任意の値が基準値未満か否か」の判定でも良い。また、基準値が固定されるものでなく、変化するものであっても良い。従って、基準値の代わりに所定範囲の値を用い、任意の値が所定範囲に収まるか否かの判定を行っても良い。また、予め装置に生じる誤差を解析し、基準値を中心として誤差範囲を含めた所定範囲を判定に用いても良い。
なお、本実施形態のフローチャートにおいて、各ステップが直列に実行される形態を例示しているが、必ずしも各ステップの前後関係が固定されるものでなく、一部のステップの前後関係が入れ替わっても良い。また、一部のステップが他のステップと並列に実行されても良い。
本実施形態の炉内状況測定装置は、専用のチップ、FPGA(Field Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)、またはCPU(Central Processing Unit)などのプロセッサを高集積化させた制御装置と、ROM(Read Only Memory)またはRAM(Random Access Memory)などの記憶装置と、HDD(Hard Disk Drive)またはSSD(Solid State Drive)などの外部記憶装置と、ディスプレイなどの表示装置と、マウスまたはキーボードなどの入力装置と、通信インターフェースとを備える。この炉内状況測定装置は、通常のコンピュータを利用したハードウェア構成で実現できる。
なお、本実施形態の炉内状況測定装置で実行されるプログラムは、ROMなどに予め組み込んで提供される。もしくは、このプログラムは、インストール可能な形式または実行可能な形式のファイルでCD−ROM、CD−R、メモリカード、DVD、フレキシブルディスク(FD)などのコンピュータで読み取り可能な非一過性の記憶媒体に記憶されて提供するようにしても良い。
また、この炉内状況測定装置で実行されるプログラムは、インターネットなどのネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせて提供するようにしても良い。また、この炉内状況測定装置は、構成要素の各機能を独立して発揮する別々のモジュールを、ネットワークまたは専用線で相互に接続し、組み合わせて構成することもできる。
なお、本実施形態では、原子炉圧力容器3の下部を、下鏡8の領域R4としているが、原子炉圧力容器3の下部が、原子炉圧力容器3の下端の高さ位置をH1から炉心2の下端の高さ位置をH3までの領域であっても良い。
なお、本実施形態では、複数の放射線測定部12が、原子炉圧力容器3の高さ方向に一定間隔で並んで配置されるが、複数の放射線測定部12が、不均一な間隔で並んで配置されても良い。また、下鏡8(下部)が配置される領域R4のみに、複数の放射線測定部12が配置されても良い。また、炉心2(核燃料)が配置される領域R6のみに、複数の放射線測定部12が配置されても良い。
なお、本実施形態では、複数の放射線測定部12が設けられているが、1個の放射線測定部12のみを設けても良い。例えば、下鏡8(下部)が配置される領域R4のみに、1個の放射線測定部12が配置されても良い。また、炉心2(核燃料)が配置される領域R6のみに、1個の放射線測定部12が配置されても良い。
また、下鏡8(下部)が配置される領域R4に1個の放射線測定部12を配置し、炉心2(核燃料)が配置される領域R6に1個の放射線測定部12を配置しても良い。つまり、放射線測定部12が、原子炉圧力容器3の下部とそれよりも高い位置との少なくとも2箇所に対応して配置されていれば良い。
なお、本実施形態では、炉内状況測定装置1が、原子力プラントに設けられているが、他の構成であっても良い。例えば、放射線測定ユニット13のみを原子力プラントに設けるようにし、炉内状況測定装置本体を遠隔地に設けるようにし、互いをインターネットで接続しても良い。
なお、本実施形態では、評価ユニット19と事前解析ユニット16が一体的な装置として構成されているが、評価ユニット19と事前解析ユニット16がそれぞれ別の装置で構成されても良い。例えば、事前解析ユニット16を備える装置で事前解析を行い、その解析データのみを評価ユニット19を備える装置に入力しても良い。
なお、本実施形態では、複数の放射線測定部12が直線状に並んで配置されているが、その他の態様であっても良い。例えば、複数の放射線測定部12がグリッドを形成し、面状に並んでも良い。また、複数の放射線測定部12が、原子炉圧力容器3の外周面を取り巻いても良い。
なお、本実施形態では、原子炉圧力容器3の側面に放射線測定部12が設けられているが、その他の態様であっても良い。例えば、原子炉圧力容器3の上面または下面に放射線測定部12を設けても良い。
なお、従来技術では、原子炉圧力容器3の内部の計装管に放射線検出器を設置して放射線を検出していたため、過酷事故時に放射線検出器が損傷するおそれがある。しかしながら、本実施形態では、原子炉圧力容器3の外部に放射線測定部12を設けているので、過酷事故時に放射線測定部12の損傷を防止することができる。
以上説明した実施形態によれば、事前に解析された線量と放射線測定部で測定された線量とを比較して原子炉圧力容器の内部の核燃料の状態を特定する状態特定部を備えることにより、非常時に炉内の核燃料の状況を把握することができる。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。