[第1の実施形態]
以下、車両用開閉体制御装置をパワースライドドア装置に具体化した第1の実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、開閉体としてのスライドドア1は、図示しない車両の側面に支持されて前後方向に移動することにより、その車両の側面に設けられたドア開口部(図示略)を開閉する。具体的には、このスライドドア1は、車両前方側(図1中、左側)に移動することにより、そのドア開口部を閉塞する全閉状態となり、車両後方側(図1中、右側)に移動することにより、そのドア開口部を介して乗員が乗降可能な全開状態となるように構成されている。そして、このスライドドア1には、当該スライドドア1を開閉操作するためのドアハンドル3が設けられている。
また、このスライドドア1には、複数のロック装置5が設けられている。尚、このスライドドア1には、当該スライドドア1を全閉位置で拘束する全閉ロックとしてのフロントロック5a及びリアロック5bが設けられている。更に、このスライドドア1には、当該スライドドア1を全開位置で拘束するための全開ロック5cが設けられている。そして、本実施形態のスライドドア1において、これらの各ロック装置5は、リモコン6を介してドアハンドル3に連結されている。
即ち、本実施形態のスライドドア1は、そのドアハンドル3(アウトサイドドアハンドル及びインサイドドアハンドル)を操作することで、各ロック装置5による拘束状態が解除されるようになっている。尚、このスライドドア1は、車室内に設けられた操作スイッチ、或いは携帯機等を乗員が操作することにより、遠隔操作によっても、その各ロック装置5による拘束状態を解除することが可能になっている。そして、このスライドドア1は、そのドアハンドル3を把持部として、手動により開閉動作させることが可能となっている。
また、本実施形態のスライドドア1には、モータ10を駆動源とするドアアクチュエータ11が設けられている。更に、このドアアクチュエータ11のモータ10は、ドアECU20から駆動電力の供給を受けることにより回転する。即ち、ドアECU20は、モータ10に対する駆動電力の供給を通じてドアアクチュエータ11の作動を制御する。そして、本実施形態では、これにより、そのモータ10の駆動力に基づきスライドドア1を開作動及び閉作動させることが可能な車両用開閉体制御装置としてのパワースライドドア装置30が形成されている。
詳述すると、本実施形態のドアアクチュエータ11は、モータ10の駆動力に基づき図示しない駆動ケーブルを介してスライドドア1を開閉駆動する開閉駆動部31を備えている。
また、本実施形態のドアアクチュエータ11には、その開閉駆動部31の動作に同期したパルス信号Spを出力するパルスセンサ32が設けられている。そして、本実施形態のドアECU20は、このパルスセンサ32のパルス出力に基づいて、そのドアアクチュエータ11に駆動されたスライドドア1の移動位置X及び移動速度Vdrを検出する。
更に、本実施形態のドアECU20には、ドアハンドル3や車室内、或いは携帯機等に設けられた操作入力部33の出力信号(操作入力信号Scr)が入力されるようになっている。即ち、本実施形態のドアECU20は、この操作入力信号Scrに基づいて、利用者によるスライドドア1の作動要求を検知する。そして、その要求された作動方向にスライドドア1を移動させるべく、ドアアクチュエータ11の作動を制御する構成になっている。
尚、本実施形態のパワースライドドア装置30において、このドアECU20には、更に、例えば、イグニッション信号Sigや図示しないエンジンのクランキング信号Sec等、車両の制御信号が入力される。そして、本実施形態のドアECU20は、これらの制御信号もまた、そのスライドドア1の駆動制御に用いる構成になっている。
さらに詳述すると、図2に示すように、本実施形態のドアECU20は、スライドドア1を開閉動作させるべくモータ10の回転を制御するためのモータ制御信号を生成するモータ制御部40と、このモータ制御部40が出力するモータ制御信号に基づいてモータ10に駆動電力を供給する駆動回路50と、を備えている。また、本実施形態のドアアクチュエータ11には、その駆動源となるモータ10として、ブラシレスモータが採用されている。そして、本実施形態の駆動回路50には、そのモータ制御信号に基づきオン/オフ動作する複数のスイッチング素子(FET:Field effect transistor)をブリッジ状に接続してなる周知のPWMインバータが用いられている。
具体的には、図2に示すように、本実施形態の駆動回路50には、直列接続された一対のFET60a,60b、FET60c,60d、FET60e,60fを有する第1〜第3のスイッチングアーム61〜63を三列並列に接続してなる周知のPWMインバータが用いられている。
即ち、駆動回路50を構成する第1〜第3のスイッチングアーム61〜63は、それぞれ、各相(U,V,W)のモータコイル10u,10v,10wに対応して設けられている。また、これらの各スイッチングアーム61〜63を構成する上段側(図2中、上側)の各FET60a,60c,60eには、車両に搭載されたバッテリー65の出力電圧Vbが印加されるとともに、その下段側(図2中、下側)の各FET60b,60d,60fは接地される構成になっている。そして、これにより、これら第1〜第3のスイッチングアーム61〜63を構成する各FET60a,60b間、FET60c,60d間、FET60e,60f間の各接続点61x〜63xが、それぞれ、各相のモータコイル10u,10v,10wに対応したモータ端子となっている。
尚、本実施形態の駆動回路50は、上記各FET60a〜60fの寄生ダイオードが、それぞれ、その還流ダイオード64a〜64fとして機能する構成になっている。そして、この駆動回路50とバッテリー65との間の電力供給経路67には、電源リレー68が設けられている。
一方、本実施形態のモータ制御部40は、回転角センサ69の出力信号に基づいて、モータ10の回転角(電気角)θを検出する。更に、このモータ制御部40は、その検出されたモータ10の回転角θに応じたモータ制御信号を出力する。そして、本実施形態のモータ制御部40は、これにより、検出されたモータ10の回転角θに応じた通電パターンで、各スイッチングアーム61〜63の各FET60a,60b、FET60c,60d、FET60e,60fをオン/オフすることにより、そのモータ10の回転を制御する構成になっている。
(ドア充電制御)
次に、本実施形態のドアECU20が実行するドア充電制御の態様について説明する。
本実施形態のパワースライドドア装置30において、ドアアクチュエータ11は、外力によりスライドドア1が移動した場合においても、そのスライドドア1に連動して、開閉駆動部31のモータ10が回転する構成になっている(図1参照)。そして、本実施形態のドアECU20は、このとき、そのモータが回転することにより生ずる回生電力に基づいて、車両のバッテリー65を充電する機能を備えている(図2参照)。
即ち、本実施形態のパワースライドドア装置30は、例えば、バッテリー65が消耗している場合等、その利用者となる車両の乗員が、手動によりスライドドア1を開閉操作する。また、本実施形態のドアECU20は、このとき、電源リレー68を接続状態(オン)にして、その移動するスライドドア1に連動して回転するモータ10に生じた回生電流がバッテリー65に還流可能な状態とする。そして、本実施形態のパワースライドドア装置30は、これにより、車両が停車状態にある場合においても単独で、そのバッテリー65を充電することが可能となっている。
詳述すると、本実施形態のドアECU20は、手動でスライドドア1を開閉操作することによりバッテリー65の充電を可能とするドア充電制御時、駆動回路50の各FET60a〜60fをオン/オフすることにより、そのスライドドア1に連動して回動するモータ10に生じた回生電力の電圧Vcを昇圧する。具体的には、本実施形態のドアECU20は、駆動回路50を構成する各FET60a〜60fのうち、その上段側の各FET60a,60c,60eを全てオフにする。また、ドアECU20は、この状態で下段側の各FET60b,60d,60fをPWM制御することにより、これらの各FET60b,60d,60fを同じタイミングでオン/オフする。尚、このドア充電制御時においてもまた、モータ制御部40の出力するモータ制御信号に基づいて、その駆動回路50を構成する各FET60a〜60fの作動が制御される。そして、本実施形態のドアECU20は、これにより、より多くの充電電流量(Ic)を確保する構成になっている。
即ち、駆動回路50における下段側の各FET60b,60d,60fを全てオンとして各相のモータコイル10u,10v,10wを短絡することにより、これらの各モータコイル10u,10v,10wには、その回転するモータ10の誘導起電力に基づいた回生電流(短絡電流)が流れる。更に、この状態から下段側の各FET60b,60d,60fを全てオフすることで、そのモータ10の回転角θに応じて各相のモータコイル10u,10v,10wに発生する誘起電圧が自己誘導作用により昇圧されることになる。そして、本実施形態のパワースライドドア装置30は、これにより、その昇圧された各相の誘起電圧に基づいて、駆動回路50における上段側の各FET60a,60c,60eと並列に設けられた各還流ダイオード64a,64c,64eから、それぞれ、そのモータ10に発生した回生電流がバッテリー65に流れ込む構成になっている。
さらに詳述すると、図3に示すように、移動するスライドドア1に連動して回転するモータ10に生ずる回生電力に基づいたバッテリー65の充電電流量Icは、スライドドア1の移動速度Vdrに応じて変化する。そして、この充電電流量Icは、その回生電力の電圧Vcを昇圧すべくPWM制御によりオン/オフされる駆動回路50のスイッチング素子、即ち本実施形態のパワースライドドア装置30においては、その下段側の各FET60b,60d,60fのオンデューティ比Dによっても変化する。
尚、図3中の各波形α0〜α9は、ドア充電制御時、PWM制御によりオン/オフされる下段側の各FET60b,60d,60fのオンデューティ比D(D0〜D9)毎に、そのスライドドア1の移動速度Vdrとバッテリー65の充電電流量Icとの関係を示している。そして、これらの各波形α0〜α9は、その符号の数字「0〜9」が大きいものほど、より高いオンデューティ比Dで各FET60b,60d,60fがオン/オフされた場合を示すものとなっている(D0<D1<D2<D3<D4<D5<D6<D7<D8<D9、例えば、D9≧95%以上)。
即ち、各相のモータコイル10u,10v,10wに生ずる誘起電圧は、モータ10の回転速度が速いほど高くなる。そして、下段側の各FET60b,60d,60fを全てオンとして、その回転するモータ10の誘導起電力に基づいた短絡電流を各相のモータコイル10u,10v,10wに流す時間が長いほど、より多くの回生エネルギーを各モータコイル10u,10v,10wに蓄えることができる。
この点を踏まえ、本実施形態のドアECU20は、ドア充電制御時には、スライドドア1の移動速度Vdrが速いほど、そのPWM制御によりオン/オフされる各FET60b,60d,60fに低いオンデューティ比Dを設定する。つまり、スライドドア1の移動速度Vdrが遅い場合には、PWM制御によりオン/オフする各FET60b,60d,60fのオンデューティ比Dに高い値を設定することで、そのモータ10の回転により生ずる回生電力の電圧Vcをバッテリー65の出力電圧Vbより高くすることができる。一方、スライドドア1の移動速度Vdrが速い場合には、各FET60b,60d,60fに設定するオンデューティ比Dが低くとも、その回生電力の電圧Vcがバッテリー65の出力電圧Vbよりも高くなる。つまり、これにより、その昇圧によるエネルギー損失を抑えることができる。そして、本実施形態のパワースライドドア装置30は、これにより、効率よく、そのスライドドア1の移動によりモータ10に生ずる回生電力に基づいて、車両のバッテリー65を充電することが可能になっている。
具体的には、図4に示すように、本実施形態のドアECU20は、モータ10の回生電力に基づくバッテリー65の充電電流量Icが最大となるように、そのスライドドア1の移動速度Vdrに応じた各FET60b,60d,60fのオンデューティ比Dを設定する高速充電モードM1を備えている。
即ち、図3に示すように、モータ10の回転速度を規定するスライドドア1の移動速度Vdrに応じて、そのモータ10の回生電力に基づいたバッテリー65の充電電流量Icが最大となる各FET60b,60d,60fのオンデューティ比Dが存在する。そして、このバッテリー65の充電電流量Icが最大となるオンデューティ比Dは、そのスライドドア1の移動速度Vdrが速いほど、より低くなる傾向がある。
例えば、図4に示すように、スライドドア1が移動速度Vdr1で開閉動作する場合には、同図中、波形α6に表されるように、各FET60b,60d,60fをオンデューティ比D6でPWM制御した場合に、そのバッテリー65の充電電流量Icが最大となる。また、この移動速度Vdr1よりも速い移動速度Vdr2でスライドドア1が開閉動作する場合には、同図中、波形α5に表されるように、各FET60b,60d,60fを、より低いオンデューティ比D5でPWM制御した場合に、そのバッテリー65の充電電流量Icが最大となる。そして、スライドドア1の移動速度Vdrが「Vdr3」「Vdr4」と速くなるに従って、そのバッテリー65の充電電流量Icが最大となる各FET60b,60d,60fのオンデューティ比Dもまた、それぞれ、同図中、波形α4に表されるオンデューティ比D4、波形α3に表されるオンデューティ比D3のような、次第に低い値となる。
本実施形態のパワースライドドア装置30においては、このようなバッテリー65の充電電流量Icが最大となる各FET60b,60d,60fのオンデューティ比Dとスライドドア1の移動速度Vdrとの関係が、マップ形式で、そのドアECU20の記憶領域20mに保持されている(図1参照、マップ70a)。即ち、本実施形態のドアECU20は、この高速充電用のマップ70aを用いることにより、その検出されたスライドドア1の移動速度Vdrに応じて各FET60b,60d,60fのオンデューティ比Dを決定する。そして、本実施形態のパワースライドドア装置30は、これにより、高速充電モードM1においては、図4中、一点鎖線に示す波形β1に表されるようなスライドドア1の移動速度Vdrに応じた最大の充電電流量Icが得られる構成になっている。
また、本実施形態のドアECU20は、スライドドア1の移動速度Vdrに応じて、上記高速充電モードM1よりも低い値に各FET60b,60d,60fのオンデューティ比Dを設定する低負荷充電モードM2を備えている。そして、この低負荷充電モードM2と高速充電モードM1とを選択的に切り替える構成になっている。
即ち、ドア充電制御時、回生電力の電圧Vcを昇圧すべく駆動回路50の各FET60b,60d,60fをPWM制御することにより、これらの各FET60b,60d,60fが全てオンとなる状態においては、各相のモータコイル10u,10v,10wが短絡されることによって、そのモータ10にブレーキ力が発生することになる。
つまり、図5に示すように、スライドドア1の移動速度Vdrが同じである場合、上記各FET60b,60d,60fに対し、より低いオンデューティ比Dを設定した方が、これらの各FET60b,60d,60fをPWM制御することにより生ずるモータ10のブレーキ力Fを小さく抑えることができる。例えば、スライドドア1の移動速度Vdrが「Vdr1」である場合、図5中、波形α7に表されるオンデューティ比D7を設定したときよりも、波形α4に表されるオンデューティ比D4を設定したときの方が、そのモータ10に生ずるブレーキ力Fが小さくなる。そして、これにより、より小さな操作力でスライドドア1を開閉操作することができるようになる。
この点を踏まえ、本実施形態のドアECU20は、上記高速充電用のマップ70aとの比較において、より低い各FET60b,60d,60fのオンデューティ比Dが決定されるように、そのオンデューティ比Dとスライドドア1の移動速度Vdrとの関係が規定された低負荷充電用のマップ70bを記憶領域20mに保持する(図1参照)。そして、低負荷充電モードM2においては、この低負荷充電用のマップ70bを用いることにより、その検出されたスライドドア1の移動速度Vdrに応じて各FET60b,60d,60fのオンデューティ比Dを決定する。
例えば、図4に示すように、スライドドア1の移動速度Vdrが「Vdr2」である場合、高速充電モードM1においては、同図中、波形α5に表されるオンデューティ比D5で各FET60b,60d,60fがPWM制御されるのに対し、低負荷充電モードM2では、波形α2に表されるオンデューティ比D2が設定される。そして、スライドドア1の移動速度Vdrが「Vdr4」である場合、高速充電モードM1においては、同図中、波形α3に表されるオンデューティ比D3が設定されるのに対し、低負荷充電モードM2では、波形α0に表されるオンデューティ比D0(=0%)が設定される。
また、低負荷充電モードM2においては、このように高速充電モードM1よりも低いオンデューティ比Dが設定されることで、図4中、破線に示す波形β2に表されるように、そのスライドドア1の移動速度Vdrに応じて得られるバッテリー65の充電電流量Icもまた、その高速充電モードM1により得られる最大値(波形β1)よりも低くなる。
しかしながら、図5に示すように、これにより、駆動回路50の各FET60b,60d,60fをPWM制御することにより生ずるモータ10のブレーキ力Fは、高速充電モードM1を選択した場合に取りうる値の範囲(同図中の領域γ1)よりも、その低負荷充電モードM2を選択した場合に取りうる値の範囲(同図中の領域γ2)の方が低くなる。そして、本実施形態のパワースライドドア装置30は、これにより、例えば、女性や子供等、スライドドア1を操作する力の弱い利用者であっても、円滑に、そのスライドドア1の開閉操作によって、バッテリー65の充電を行うことが可能になっている。
次に、本実施形態のドアECU20が実行するドア充電制御の処理手順について説明する。
図6のフローチャートに示すように、本実施形態のドアECU20は、そのドア充電制御において、先ず、スライドドア1の駆動中であるか否かを判定する(ステップ101)。また、ドアECU20は、スライドドア1の駆動中ではない場合(ステップ101:NO)には、続いて、バッテリー65を充電するために、そのスライドドア1を開閉操作しようとする利用者の操作意思を確認する。具体的には、本実施形態のパワースライドドア装置30において、その利用者がスライドドア1の作動要求を行うための上記操作入力部33には、ドア充電スイッチ71が設けられている(図1参照)。そして、本実施形態のドアECU20は、このドア充電スイッチ71がオンである場合(ステップ102:YES)に、そのバッテリー65を充電すべくスライドドア1を開閉操作しようとする利用者の操作意思を検知する。
次に、ドアECU20は、駆動回路50とバッテリー65との間の電力供給経路67に設けられた電源リレー68をオンにする(ステップ103)。そして、これにより、モータ10に生じた回生電流がバッテリー65に還流できる状態とすることで、そのモータ10の回生電力に基づいたバッテリー65の充電を開始する。
更に、本実施形態のドアECU20は、上記ドア充電スイッチ71とともにスライドドア1の操作入力部33に設けられた低負荷スイッチ72(図1参照)がオンとなっているか否かを判定する(ステップ104)。そして、低負荷スイッチ72がオンとなっていない場合(ステップ104:NO)には、上記高速充電モードM1でバッテリー65の充電を実行し(ステップ105)、低負荷スイッチ72がオンとなっている場合(ステップ104:YES)には、低負荷充電モードM2でバッテリー65の充電を実行する構成になっている(ステップ106)。
以上、本実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)駆動制御部80aとしてのドアECU20は、モータ10を駆動源として車両に設けられた開閉体としてのスライドドア1を開閉動作させる。また、電力回生部80bとしてのドアECU20は、外力により移動するスライドドア1に連動してモータ10が回転することにより生ずる回生電力に基づき車両のバッテリー65を充電する。更に、ドアECU20は、バッテリー65とモータ10との間の電力供給経路67に設けられた駆動回路50において下段側のスイッチング素子を構成する各FET60b,60d,60fをオン/オフすることにより回生電力の電圧Vcを昇圧する。そして、ドアECU20は、スライドドア1の移動速度Vdrが速いほど、回生電力の電圧Vcを昇圧すべくオン/オフされる各FET60b,60d,60fに低いオンデューティ比Dを設定する。
上記構成によれば、利用者となる車両の乗員が手動でスライドドア1を開閉操作することにより、そのスライドドア1に連動して回転するモータ10の回生電力に基づいて、車両が停車状態にある場合においても、単独で、そのバッテリー65を充電することができる。
また、スライドドア1の移動速度Vdrが遅い場合には、モータ10の回転により生ずる回生電力の電圧Vcを昇圧すべくオン/オフする各FET60b,60d,60fのオンデューティ比Dに高い値を設定することで、その回生電力の電圧Vcをバッテリー65の出力電圧Vbより高くすることができる。一方、スライドドア1の移動速度Vdrが速い場合には、これらの各FET60b,60d,60fに設定するオンデューティ比Dが低くとも、その回生電力の電圧Vcがバッテリー65の出力電圧Vbよりも高くなる。そして、これにより、その昇圧によるエネルギー損失を抑えることができる。従って、上記構成によれば、効率よく、そのスライドドア1の移動によりモータ10に生ずる回生電力に基づいて、車両のバッテリー65を充電することができる。
(2)ドアECU20は、回生電力に基づいたバッテリー65の充電電流量Icが最大となるようにスライドドア1の移動速度Vdrに応じたオンデューティ比Dを設定する高速充電モードM1を備える。
即ち、モータ10の回転速度を規定するスライドドア1の移動速度Vdrに応じて、その回生電力に基づいたバッテリー65の充電電流量Icが最大となる各FET60b,60d,60fのオンデューティ比Dが存在する。そして、このバッテリー65の充電電流量Icが最大となるオンデューティ比Dは、そのスライドドア1の移動速度Vdrが速いほど、より低くなる傾向がある。従って、上記構成によれば、より効率的に、車両のバッテリー65を充電することができる。
(3)ドアECU20は、スライドドア1の移動速度Vdrに応じて高速充電モードM1よりも低いオンデューティ比Dを設定する低負荷充電モードM2を備える。そして、切替制御部80cとしてのドアECU20は、その高速充電モードM1と低負荷充電モードM2とを選択的に切り替える。
即ち、モータ10の回転により生ずる回生電力の電圧Vcを昇圧すべく駆動回路50の各FET60b,60d,60fをオン/オフすることにより、これらの各FET60b,60d,60fが全てオンとなる状態においては、各相のモータコイル10u,10v,10wが短絡されることによって、そのモータ10にブレーキ力Fが発生する。そして、これにより、そのスライドドア1を開閉動作させるために必要な操作力が増大することになる。
しかしながら、スライドドア1の移動速度Vdrが同じである場合、上記各FET60b,60d,60fに対し、より低いオンデューティ比Dを設定した方が、そのモータ10に発生するブレーキ力Fを小さく抑えることができる。従って、上記構成によれば、その低負荷充電モードM2を選択することで、女性や子供等、スライドドア1を操作する力の弱い利用者であっても、円滑に、そのスライドドア1の開閉操作によって、バッテリー65の充電を行うことができる。
(4)ドアECU20は、実行スイッチとしてのドア充電スイッチ71がオンであるか否かを判定する(ステップ102)。そして、このドア充電スイッチ71がオンである場合(ステップ102:YES)に、そのバッテリー65を充電すべくスライドドア1を開閉操作しようとする利用者の操作意思を検知して、そのモータ10の回生電力に基づいたバッテリー65の充電を開始する。
上記構成によれば、利用者が必要と判断した状況にのみ、そのスライドドア1の開閉操作によるバッテリー65の充電が行われる。そして、これにより、そのバッテリー65の充電を必要としない通常時には、より小さな力でスライドドア1の開閉操作することができる。
(5)ドアECU20は、利用者が選択入力を行うための選択スイッチとして設けられた低負荷スイッチ72がオンであるか否かを判定する。そして、この低負荷スイッチ72がオンとなっていない場合(ステップ104:NO)には、高速充電モードM1でバッテリー65の充電を実行し(ステップ105)、低負荷スイッチ72がオンとなっている場合(ステップ104:YES)には、低負荷充電モードM2でバッテリー65の充電を実行する(ステップ106)。
上記構成によれば、スライドドア1の開閉操作によるバッテリー65の充電を行う際、利用者の選択により、その充電速度、及びスライドドア1を開閉するために必要な操作力を切り替えることができる。そして、これにより、利用者の利便性を向上させることができる。
[第2の実施形態]
以下、車両用開閉体制御装置をパワースライドドア装置に具体化した第2の実施形態を図面に従って説明する。尚、説明の便宜上、上記第1の実施形態と同様の構成については、同一の符号を付して、その説明を省略することとする。
図7のフローチャートに示すように、本実施形態のドアECU20は、スライドドア1の移動位置Xが、その全閉位置と全開位置との間の開閉途中位置にある場合に(ステップ201:YES)、車両のエンジンがクランキングされる旨のクランキング信号Secを受信したか否かを判定する(ステップ202)。そして、クランキング信号Secを受信した場合(ステップ202:YES)には、その駆動源であるモータ10の回生ブレーキ作用を利用したスライドドアの制動制御を実行する(ステップ203〜ステップ206)。
具体的には、回生制動部80dとしてのドアECU20は、モータ10によるスライドドア1の駆動中である場合(ステップ203:YES)には、そのモータ駆動を停止する(ステップ204)。また、ドアECU20は、続いて、そのスライドドア1が移動しているか否かを判定する(ステップ205)。そして、スライドドア1が移動していると判定した場合(ステップ205:YES)には、上記第1の実施形態における高速充電モードM1と同一のPWM制御で駆動回路50の各FET60b,60d,60fをオン/オフさせることにより、車両のバッテリー65に充電しつつ、そのスライドドア1に制動力を付与する(ステップ206)。
即ち、上記のように、スライドドア1に連動して回転するモータ10の回生電力に基づきバッテリー65に充電することによっても、その移動するスライドドア1に制動力(ブレーキ力F)を付与することができる(図5参照)。従って、上記構成によれば、エンジンのクランキング時、そのセルモータ以外の電装部品に対する電力供給が遮断された場合であっても、例えば、車両が坂道にある場合等、外力により移動するスライドドア1の移動速度Vdrを抑制することができる。そして、このとき、モータ10の回生電力に基づいたバッテリー65の充電電流量Icが最大となるようにスライドドア1の移動速度Vdrに応じたオンデューティ比Dで駆動回路50の各FET60b,60d,60fをPWM制御することで、そのスライドドア1の運動エネルギーを有効に利用することができる。
なお、上記各実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記各実施形態では、車両の側面に設けられたスライドドア1を開閉体とするパワースライドドア装置30に具体化した。しかし、これに限らず、駆動源となるモータ10の回生電力に基づきバッテリー65に充電することが可能であれば、その開閉体は、車両後部に設けられたバックドアやスイング式のサイドドア等であってもよい。そして、ドア以外の開閉体を対象とする車両用開閉体制御装置に適用してもよい。
・また、バッテリー65を充電すべくスライドドア1を手動操作する方向は、開閉何れかの動作方向に限定してもよい。例えば、開動作方向に限定することで、挟み込みの発生を抑制することができる。そして、これにより、高い安全性を確保することができる。
・上記各実施形態では、電源リレー68をオンにすることにより、単純に、そのモータ10に生じた回生電流がバッテリー65に還流できる状態とすることとしたが、充電専用の回路に切り替える構成であってもよい。
・上記第1の実施形態では、ドア充電スイッチ71がオンであるか否かを判定する(図6参照、ステップ102)。そして、これにより、バッテリー65を充電すべくスライドドア1を開閉操作しようとする利用者の操作意思を検知することにより、そのモータ10の回生電力に基づいたバッテリー65の充電を開始することとした。しかし、これに限らず、例えば、ハンドモーション等、カメラに映る画像を解析する、或いは音声認識等により利用者の操作意思を検知して、そのドア充電制御を開始する構成としてもよい。
・また、バッテリー65の出力電圧Vbに基づいて、自動的に、そのドア充電制御を開始し、及び終了する構成としてもよい。
例えば、図8のフローチャートに示すように、ドア充電制御の実行中であることを示すドア充電フラグがセットされているか否かを判定し(ステップ301)、このドア充電フラグがセットされていない場合(ステップ301:NO)には、バッテリー65の出力電圧Vbが第1の閾値TH1以下であるか否かを判定する(ステップ302)。そして、バッテリー65の出力電圧Vbが第1の閾値TH1以下であると判定した場合(Vb≦TH1、ステップ302:YES)には、そのドア充電フラグをセットして(ステップ303)、ドア充電制御を実行する(ステップ304)。
また、バッテリー65の出力電圧Vbが第2の閾値TH2以上であるか否かを判定する(ステップ305)。そして、このバッテリー65の出力電圧Vbが第2の閾値TH2以上となった場合(Vb≧TH2、ステップ305:YES)に、そのドア充電フラグをクリアする構成とするとよい(ステップ306)。
尚、上記第2の閾値TH2は、上記第1の閾値TH1よりも大きな値に設定される。また、上記ステップ301において、既にドア充電フラグがセットされている場合(ステップ301:YES)には、上記ステップ302及びステップ303の処理は実行しない。そして、上記ステップ302において、バッテリー65の出力電圧Vbが第1の閾値TH1よりも大きい場合(Vb>TH1、ステップ302:NO)には、ステップ303〜ステップ306の各処理を実行しない。
このような構成を採用することで、車両の乗員がバッテリー65の出力電圧Vbが低下していることに気が付く前に、いち早く、そのスライドドア1の手動操作によるバッテリー65の充電を開始することができる。そして、これに併せ、手動でスライドドア1を開閉した場合の操作力が変化することによって、利用者である車両の乗員に、そのバッテリー65の出力電圧Vbが低下している事実を知らしめることができる。
・上記第1の実施形態では、利用者が選択入力を行うための選択スイッチとして設けられた低負荷スイッチ72がオンであるか否かを判定する。そして、このドア充電スイッチ71のオン/オフ状態に基づいて、その高速充電モードM1と低負荷充電モードM2との切替が行われることとした。しかし、これに限らず、例えば、ハンドモーション等、カメラに映る画像を解析する、或いは音声認識等により利用者の選択入力を検知して、その高速充電モードM1と低負荷充電モードM2とを選択的に切り替える構成としてもよい。これにより、その利便性の向上を図ることができる。
・更に、操作力判定部80eとしてのドアECU20が、バッテリー65を充電すべくスライドドアを開閉操作する利用者の操作力を判定する。そして、この操作力の判定結果に基づいて、自動的に、その高速充電モードM1と低負荷充電モードM2とを切り替える構成としてもよい。
例えば、図9のフローチャートに示すように、撮像部80f及び操作力判定部80eとしてのドアECU20は、バッテリー65を充電すべくスライドドア1を開閉操作する利用者の姿がカメラにより撮像されている場合(ステップ401:YES)、その利用者の撮影画像を解析する(ステップ402)。具体的には、その画像解析により推定される性別や体格、或いは年齢等に基づいて、そのスライドドア1を開閉操作する利用者の操作力を判定する。そして、この利用者の操作力が弱いと判定された場合(ステップ403)、例えば、女性等の負荷軽減対象である場合(ステップ403:YES)には、その低負荷充電モードM2でバッテリー65の充電を実行する構成とすればよい(ステップ405)。これにより、より一層、利便性を向上させることができる。そして、スライドドア1を開閉操作する際の初速等に基づいて、その利用者の操作力を判定する構成であってもよい。
・また、図4中、二点鎖線に示す波形β3に示されるように、スライドドア1の移動速度Vdrが速いほど、その移動速度Vdrに応じて設定するオンデューティ比Dの値が高速充電モードM1において設定される値に近づくように、低負荷充電モードM2´を構成してもよい。尚、この場合、高速充電モードM1及び低負荷充電モードM2´で設定される互いのオンデューティ比Dが近くなることについての判断基準は、その相対的な値の差でも比率の差であってもよい。
即ち、スライドドア1の移動速度Vdrが速い場合には、その利用者がスライドドア1を速く操作する力を有していると考えられる。従って、このような構成を採用することにより、簡素な構成にて、利用者の負荷を軽減しつつ、速やかにバッテリー65を充電することができる。
・上記第1の実施形態では、電力回生部80bとしてのドアECU20は、高速充電モードM1及び低負荷充電モードM2の2つの充電モードを備えることとした。しかし、これに限らず、充電設定モードは、一つでもよく、3つ以上の複数の充電モードを選択的に切り替える構成であってもよい。例えば、利用者がスライドドア1を操作するために必要な力が異なる複数の充電モードを備えるとよい。そして、このように複数の充電モードを切替可能な構成とする場合には、これらの各充電モードが、互いに異なるプロフィールで、それぞれ、スライドドア1の移動速度Vdrに応じたオンデューティ比Dを設定する構成にするとよい。
即ち、図4中の波形β1,β2に表される高速充電モードM1及び低負荷充電モードM2と同様、これらの各充電モードのプロフィールもまた、スライドドア1の移動速度Vdrとオンデューティ比Dとが関連付けられたマップ形式に表すことができる。そして、切替制御部80gとしてのドアECU20は、その充電モード毎に設けられた複数のマップを切り替えることにより、これら各充電モードの何れか一つを選択的に実行する構成とすればよい。
・上記第2の実施形態では、クランキング信号Secを受信した場合、モータ10の回生電力に基づいたバッテリー65の充電電流量Icが最大となるようにスライドドア1の移動速度Vdrに応じたオンデューティ比Dで駆動回路50の各FET60b,60d,60fをオン/オフすることとした。しかし、これに限らず、例えば、スライドドア1の移動速度Vdrに応じて、モータ10が最大のブレーキ力を発生するようなオンデューティ比Dを各FET60b,60d,60fに設定する等、そのクランキング信号Secの受信時に実行するスライドドア1の制動及びバッテリー65の充電制御のプロフィールは、任意に変更してもよい。
・上記各実施形態では、ドアECU20は、ドア充電制御時、駆動回路50を構成する各FET60a〜60fのうち、その上段側の各FET60a,60c,60eを全てオフした状態で、PWM制御により下段側の各FET60b,60d,60fを同じタイミングでオン/オフすることにより、その回生電力の電圧Vcを昇圧することとした。しかし、これに限らず、下段側の各FET60b,60d,60fのうちの一つ又は2つをPWM制御によりオン/オフすることで、回生電力の電圧Vcを昇圧する構成としてもよい。そして、下段側の各FET60b,60d,60fを全てオフした状態で、PWM制御により上段側の各FET60a,60c,60eの少なくとも何れか一つをオン/オフすることにより、その回生電力の電圧Vcを昇圧する構成としてもよい。
・上記各実施形態では、スライドドア1の駆動源となるモータ10には、ブラシレスモータが用いられることとした。しかし、これに限らず、ブラシ付きの直流モータをスライドドア1の駆動源とするものにおいて、上記のようなドア充電制御を実行する構成としてもよい。
例えば、図10に示すパワースライドドア装置30Bにおいて、駆動回路50Bは、直列に接続された一対のFET60a,60bを有する第1のスイッチングアーム61と、同じく直列に接続された一対のFET60c,60dを有する第2のスイッチングアーム62とが二列並列に接続された所謂Hブリッジ型の構造を有している。更に、その第1のスイッチングアーム61における各FET60a,60bの接続点61x、及び第2のスイッチングアーム62における各FET60c,60dの接続点62xが、それぞれ、ブラシ付きの直流モータとしての構成を有したモータ10Bに対する出力端子を構成する。そして、この駆動回路50Bもまた、モータ制御部40Bの出力するモータ制御信号に基づいて、その各FET60a〜60fがオン/オフする構成になっている。
このような構成において、モータ10Bの回転により生ずる回生電力の電圧Vcを昇圧してバッテリー65に充電する場合もまた、ドアECU20Bは、その駆動回路50Bを構成する各FET60a〜60dのうち、上段側の各FET60a,60cをオフした状態で、PWM制御により下段側の各FET60b,60dをオン/オフする。更に、そのモータ10Bの回転方向に応じて下段側のFET60b,60dのうちの何れか一方をPWM制御によりオン/オフする構成としてもよい。そして、下段側の各FET60b,60dをオフした状態で、PWM制御により上段側の各FET60a,60cをオン/オフする構成としてもよい。
次に、以上の実施形態から把握することのできる技術的思想を効果とともに記載する。
(イ)前記バッテリーを充電すべく前記開閉体を開閉操作する利用者に操作される実行スイッチを備えること、を特徴とする車両用開閉体制御装置。これにより、構成簡素、且つ容易な操作で、利用者が必要と判断した状況にのみ、その開閉体の手動操作によるバッテリーの充電を行うことができる。
(ロ)前記利用者が前記選択入力を行うための選択スイッチを備えること、を特徴とする車両用開閉体制御装置。これにより、構成簡素、且つ容易な操作で、利用者の選択により、その充電速度、及び開閉体を開閉するために必要な操作力を切り替えることができる。
(ハ)前記電力回生部は、前記バッテリーの出力電圧が第2の閾値以上となった場合に、前記回生電力に基づいた前記バッテリーの充電を終了すること、を特徴とする車両用開閉体制御装置。これにより、その開閉体の手動操作によるバッテリーの充電を自動的に終了することで、利便性の向上を図ることができる。
(ニ)前記利用者を撮像する撮像部を備え、前記操作力判定部は、前記利用者の撮影画像に基づいて該利用者の前記操作力を判定すること、を特徴とする車両用開閉体制御装置。上記構成によれば、精度よく、自動的に、その利用者の操作力を判定することができる。
(ホ)前記開閉体は、車両前後方向に移動することによりドア開口部を開閉するスライドドアであること、を特徴とする車両用開閉体制御装置。即ち、耐久性及び操作性に優れたスライドドアを用いることで、容易且つ安全に、効率よく、その手動操作によるバッテリーの充電を行うことができる。