JP6863121B2 - 推定器及び推定器システム - Google Patents

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Description

本発明は、冷却用オイルで冷却され、ステータコイルを有する回転電機に対し、ステータコイルの温度を推定する推定器及び推定器システムに関する。
モータまたは発電機である回転電機は、ステータコイルを有する。このような回転電機では、ステータコイルのコイル温度が過度に上昇すると、回転電機の性能低下を招くおそれがある。これにより、ステータコイルを冷却用オイルで冷却することが考えらえる。また、温度センサを用いてコイル温度を計測することが行われる。例えば、走行用モータを有する電気自動車、またはハイブリッド車両において、モータのステータコイルの近傍にセンサを取り付けることにより、コイル温度を計測することが行われる。
特許文献1には、回転電機のステータに複数の流路から1つが選択されて冷却用オイルを供給することにより、回転電機が搭載される車体の傾斜状態に関係なく、回転電機の重力方向の略真上から中心軸方向に冷却用オイルを落下させる構成が記載されている。
特開2010−28887号公報
ステータコイルに取り付けた温度センサによりコイル温度を計測する構成では、オイルが温度センサにかかると、温度センサがオイル温度に近い温度を計測する可能性がある。これにより、温度センサにオイルがかかるか否かに応じて温度センサの出力が異なり、コイル温度が高精度に推定できない可能性がある。このことから、コイル電流を制御する場合に、大きな安全率を持ってコイルを保護する必要があり、ステータコイルの物理的な許容上限温度より大幅に低い温度に達した場合でも、安全率からコイル電流の低下によりモータ出力を低下させることが行われる。これにより回転電機の出力を効果的に発揮できないおそれがある。
一方、特許文献1に記載された構成において、回転電機のコイル温度を温度センサにより計測する構成が考えられる。この場合、モータが搭載される車体の傾斜にかかわらず温度センサへの冷却用オイルのかかり方が一定になる可能性はある。しかしながら、この構成では流路構造がかなり複雑になる。
本発明の目的は、推定器及び推定器システムにおいて、冷却用オイルで冷却される回転電機の流路構造を複雑化することなく、回転電機のコイル温度を高精度に推定できる構成を提供することである。
本発明に係る推定器は、冷却用オイルで冷却され、ステータコイルを有する回転電機に対し、前記ステータコイルの温度を推定する推定器であって、入力信号、及び対象モデルを表す関係式を用いて状態量を計算するモデル部と、前記状態量を補正するための補正信号を計測する補正信号計測用センサと、前記補正信号により前記状態量を補正するための値をモデル部に出力する補正部と、前記モデル部を、前記冷却用オイルの流れの変化に関係するオイル流れ関係値に応じて変更するモデル変更部とを備える。そして、前記補正信号計測用センサは、前記ステータコイルを構成するコイル導線、または前記コイル導線に接続された端子、または前記コイル導線及び前記端子の間に接続された動力線を構成する金属部材上であって、前記冷却用オイルがかからない位置に接触して配置される。
また、本発明に係る推定器システムは、複数の推定器と、前記複数の推定器で推定されたステータコイルの温度から前記ステータコイルの最高温度を選択する選択手段とを備え、前記複数の推定器のそれぞれは請求項1の推定器である。
本発明に係る推定器及び推定器システムによれば、冷却用オイルで冷却される回転電機の流路構造を複雑化することなく、コイル温度を高精度に推定できる。これにより、ステータコイルを大きな安全率で保護する必要がなくなるので、例えば回転電機がモータである場合に、物理的にステータコイルが許容する温度上限近くまでモータの出力を発生させることができる。
本発明に係る実施形態の推定器を適用するモータにおいて、推定器を構成する補正信号計測用センサの取付位置を示す図である。 実施形態の推定器における信号処理を示すブロック図である。 実施形態の推定器を構成するオブザーバの概念図である。 実施形態の推定器に用いたコイルの熱抵抗モデルの1例を示す図である。 車両の前後方向加速度がモータを冷却するオイルの流れに与える影響を示す模式図である。 車両の前後方向に対する傾斜角度がオイルの流れに与える影響を示す模式図である。 車両の傾きと、コイルの最高温度との関係を求めた実験結果を示す図である。 コイルにおいて温度が最高になる位置での温度と、端子台における端子温度との相関関係を表すコヒーレンス関数について、コヒーレンス関数及びモータトルクの関係を示す図(a)と、コヒーレンス関数及びオイル流量の関係を示す図(b)とである。 実施形態の推定器に用いたコイルの熱抵抗モデルの別例を示す図である。 実施形態の推定器における、比較例の温度推定装置に対するコイル温度の推定値についての誤差の割合を求めた実験結果を示す図であって、比較例の誤差を1として示す図である。 実施形態の推定器において、コイル温度の推定誤差とモータトルクとの関係を求めた実験結果を示す図(a)と、コイル温度の推定誤差とオイル流量との関係を求めた実験結果を示す図(b)である。 本発明に係る実施形態の推定器システムの構成を示す図である。 モータにおいて、図12の推定器システムを構成する複数の推定器が配置される複数の範囲を示す図である。
以下、図面を用いて本発明の実施形態を説明する。以下で説明する形状、材料、及び個数は、説明のための例示であって、推定器及び推定器システムの仕様に応じて適宜変更することができる。以下において複数の実施形態や、変形例などが含まれる場合、それらを適宜組み合わせて実施することができる。以下ではすべての図面において同等の要素には同一の符号を付して説明する。また、本文中の説明においては、必要に応じてそれ以前に述べた符号を用いるものとする。以下では、回転電機がモータである場合を説明するが、回転電機は発電機としてもよい。
図1は、実施形態の推定器10を適用する回転電機としてのモータ50において、推定器10を構成する補正信号計測用センサである補正センサ12の取付位置を示す図である。まず、モータ50を説明する。モータ50は、ステータ52と、ロータ(図示せず)とを備える。ステータ52は、環状のステータコア53に3相のステータコイル54u、54v、54wが取り付けられる。
3相のステータコイル54u、54v、54wの一部は、ステータコア53から外側に導出されて3本の動力線56u、56v、56wを形成する。以下、動力線56u、56v、56wは総称して、動力線56と記載する。また、ステータコイル54u、54v、54wは総称してコイル54と記載する。各動力線56の一端には端子58が、その端子58の一部をかしめることにより動力線56との接触部が密着状態となるように固定される。これにより動力線56と端子58との間の熱抵抗は十分に低くなる。なお、動力線と端子とは、溶接またははんだ付けにより、熱抵抗が十分に低い状態で密着させて固定してもよい。各端子58は端子台(図示せず)に固定され、端子台を介して、電源側のインバータに接続された3相の電線(図示せず)に接続される。
ロータは、ステータ52の径方向内側に対向するように配置され、回転軸(図示せず)の外径側に固定される。ロータは、ロータコアの周方向複数位置に配置された磁石を含んで構成される。なお、モータを誘導電動機とする場合には、ロータコアにロータコイルが配置される。モータ50は、ステータコイルが通電されることによりステータに磁界を発生させ、ロータの磁石との間での磁気的相互作用によりロータを回転させる。
ステータの軸方向端部には、環状のコイルエンド59が形成される。モータ50では、図1に矢印αで示すように、モータ50の軸方向端部の上側に配置された滴下部60から冷却用オイルを滴下することにより、コイルエンド59の表面に図1に矢印βで示すように冷却用オイルを流す。これにより、モータ50が冷却される。コイルエンド59の表面を流れた冷却用オイルは、下側のオイル溜まり(図示せず)から回収された後、オイル経路(図示せず)を流れて滴下部60に戻る。
このようなモータ50は、電気自動車またはハイブリッド車等の車両に搭載されて使用される。ハイブリッド車は、車輪の駆動源としてエンジン及びモータを含む。例えば、モータ50は走行用モータであり、走行用モータから車輪に動力を伝達することにより、車輪を駆動させる。
このようなモータ50において、比較例として、図1の二点鎖線Gで示すコイル温度推定用のセンサを、動力線とは異なるコイルの近傍位置に取り付けることが考えられる。比較例では、センサの検出信号が制御装置に送信されて、制御装置がコイルの最高温度を推定する。このような比較例では、オイルがセンサにかかり、かつ、車両の傾き、または車両の前後方向加速度等によってオイルのかかり状態が変化する可能性がある。例えば、モータ50の駆動状態、または車両の運動状態に応じてコイルにおける最高温度を示す位置は変化する可能性がある。これにより、センサによるコイルの推定温度の推定精度が悪化する可能性がある。一方、オイルのかかり状態がコイル温度の推定に影響を与えないように、オイルがかからないように、ステータコア53付近のコイルから大きく離れた位置にセンサを取り付けることも考えられる。このとき、コイルから大きく離れた位置で温度を推定することになり、コイル温度の推定精度が悪化する可能性がある。
実施形態の推定器10は、このような不都合を解消することを目的として発明されたものである。以下で説明するように、推定器10は、オブザーバ22(図2、図3)を含む。オブザーバ22は、コイル54の熱抵抗モデルを表す関係式をオブザーバ22の内部に持ち、コイル温度を計算によって推定する。このとき、オブザーバ22は、常にモデル化誤差、センサ誤差等の誤差を補正するための補正信号を必要とする。この補正信号は、コイル温度と相関がない信号であればオブザーバ22に利用することができない。相関が高い信号を得るために、コイル近傍の温度を補正信号として用いることが考えられるが、その場合にはオイルがかかりやすくなる。そこで、本発明者は、熱の伝達経路が異なる部分も含めて実測によりコイル温度との相関がある位置を調査した。その結果、コイルから離れた端子及び動力線でもコイルに対し温度の相関が高いことが分かった。以下では、実施形態のオブザーバ22として、端子を構成する金属部材上で計測された温度を表す補正信号を用いる場合を説明する。なお、動力線56において、オイルがかからない位置の温度を表す補正信号を用いることもできる。
図2は、推定器10における信号処理を示すブロック図である。図3は、推定器10を構成するオブザーバ22の概念図である。
推定器10は、コイル54のコイル温度、例えばコイル54の最高温度を推定する。推定器10は、制御装置20と、補正信号計測用センサとしての補正センサ12(図1、図2)とを備える。制御装置20は、オブザーバ22を含む。オブザーバ22は、モデル部23と、補正部24と、モデル変更部としてのオイル滴下位置推定部26とを有する。図3では、モデル変更部を直線矢印Hで示している。
モデル部23は、入力信号、及び対象モデルを表す関係式を用いて状態量としてのコイル54の最高温度の推定値である推定最高コイル温度Tmと、補正信号の推定値である推定端子温度Trとを計算する。
図4を用いて対象モデルである熱抵抗モデルの具体例を説明する。図4は、推定器10に用いたコイル54の熱抵抗モデルの1例を示す図である。熱抵抗モデルは、熱抵抗Rrで接続されたコイル54及び被検出部としての端子58を含む。コイル54は推定最高コイル温度Tmを有し、端子58は補正信号推定値としての推定端子温度Trを有する。コイル54及び端子58には雰囲気温度Taを有する部分が熱抵抗Ra、Rbでそれぞれ接続される。オイル温度Toを有する冷却用オイルはコイル54に熱抵抗Roで接続される。推定最高コイル温度Tmを発生する部分への流入熱流量として、銅損RIと鉄損KeIωとが入力される。また、端子58への流入熱流量として、銅損RcIが入力される。
図4に示す熱抵抗モデルは、次の(1)式、(2)式の関係式で表される。
Figure 0006863121
Figure 0006863121
(1)式、(2)式において、Ctはコイル54の熱容量であり、Rはコイル54の電気抵抗、Iはコイルを流れる電流であるモータ電流、Keは渦電流損係数である鉄損係数であり、ωはモータ回転数である。また、Crは端子58の熱容量であり、Rcは端子58の電気抵抗である。なお、(1)式において、鉄損は、ヒステリシス損が大きい材料では、材料によるヒステリシス損係数をKhとして、KhIωで見積もる場合もある。
このような熱抵抗モデルでは、(1)式から理解されるように、コイル54を構成する導線は、モータ電流による銅損RI、及び磁場変化によるステータコア53の鉄損KeIωで生じる熱によって温度上昇する。一方、(2)式から理解されるように、端子58では、磁場変化がほとんど影響しないので、銅損RcIが大きく影響して温度上昇する。
図4を参照して、導線などで生じた発熱により、導体としてのコイル54及び端子58の熱マスの温度が上昇する。一方、オイルによりコイル54が冷却されることにコイル54はオイルによって熱が奪われる。これとともに、ステータコア53と、ステータ52が固定されるモータケース(図示せず)等を通じて、エンジンルーム内にも熱が逃げる。このため、雰囲気温度Taが上昇する。また、コイル54の熱マスと、端子58の熱マスの間でも、導体等を介して熱の授受がある。このときの発熱と熱の授受とによって、熱マスの温度が決定される。
(1)式、(2)式では、入力信号として、モータ電流I、モータ回転数ω、オイル温度To、雰囲気温度Taが入力されることにより、推定最高コイル温度Tm及び推定端子温度Trが計算される。
図2に戻って、モデル部23には入力信号として、冷却用オイルのオイル温度To、モータ電流I、モータ回転数ω、モータ50の制御に用いられるキャリア周波数fc、モデル雰囲気温度Taのうち、1つまたは複数を表す信号が入力される。例えば、図4の熱抵抗モデルの場合には、入力信号として、オイル温度To、モータ電流I、モータ回転数ω、モデル雰囲気温度Taがモデル部23に入力される。
具体的には、推定器10は、冷却オイル温検出手段であるオイル温度センサ30、モータ電流センサ31、モータ回転数センサ32、及び雰囲気温度センサ33を備える。オイル温度センサ30は、冷却用オイルの温度を検出する。モータ電流センサ31は、コイルに入力される電流量を検出する。モータ回転数センサ32は、単位時間当たりのロータの回転数を検出する。雰囲気温度センサ33は、対象モデルの雰囲気温度であるモデル雰囲気温度Taを検出する。オイル温度センサ30、モータ電流センサ31、モータ回転数センサ32及び雰囲気温度センサ33の検出信号は、モデル部23に入力される。モータ回転数センサ32は、ロータの回転速度を検出するモータ回転速度センサとしてもよい。
補正センサ12は、補正信号が表わす端子温度Traを計測する温度センサである。補正センサ12は、コイル54を構成するコイル導線に接続された端子58(図1)を構成する金属部材上であって、冷却用オイルがかからない位置に接触して配置される。補正センサ12は、補正信号を補正部24に出力する。
補正部24は、端子温度Traを表す補正信号により状態量を補正する。状態量は、コイル54の最高温度の推定値である推定最高コイル温度Tmと、補正信号の推定値である推定端子温度Trとである。
補正センサ12は、端子58に配置する場合に限定せず、例えば、コイル導線を構成する金属部材上であって、冷却用オイルがかからない位置に接触して配置されてもよい。このとき、コイル導線の一部が動力線を形成してもよい。
補正センサ12は、コイル導線及び端子58の間に動力線が別部材として接続される場合に、動力線を構成する金属部材上であって、冷却用オイルがかからない位置に補正センサ12が接触して配置されてもよい。
モデル部23は、推定最高コイル温度Tm及び推定端子温度Trを出力する。このうち、推定端子温度Trは、補正部24に入力される。補正部24には、補正信号が表わす端子温度Traも入力され、端子温度Traと推定端子温度Trとの差分に対応して算出されるコイル温度差が、モデル部23に入力される。差分は状態量を補正するためのものである。モデル部23では、一般的なオブザーバ22と同様に、コイル温度差に対応するゲインによって、推定最高コイル温度Tm及び推定端子温度Trを補正する。これにより、補正部24は、補正信号により、端子温度Traと推定端子温度Trとの差分に対応する値をモデル部23に出力することにより、状態量としての推定最高コイル温度Tm及び推定端子温度Trを補正する。
さらに、推定器10は、モデル変更部としてのオイル滴下位置推定部26を備える。以下、オイル滴下位置推定部26は、オイル位置推定部26と記載する。オイル位置推定部26は、モデル部23を冷却用オイルの流れの変化に関係するオイル流れ関係値に応じて変更する。例えば、オイル位置推定部26は、オイル流れ関係値として、車両の前後方向に対する傾き、車両の前後方向加速度である前後加速度、及び冷却用オイルの流量の1つまたは2つ以上の組み合わせでモデル部23を変更する。
図2では、推定器10は、傾斜角センサ35と前後加速度センサ36とを備える。傾斜角センサ35は、車両の前後方向に対する傾斜角度を検出する。前後加速度センサ36は、車両の前後加速度を検出する。傾斜角センサ35及び前後加速度センサ36の検出信号はオイル位置推定部26に入力される。オイル位置推定部26は、傾斜角センサ35及び前後加速度センサ36の検出信号から、車両の傾き及び車両の加速度の組み合わせでモデル部23を変更する。具体的には、オイル位置推定部26は、車両の傾き及び車両の加速度の組み合わせから、オイル滴下位置を推定する。そして、オイル位置推定部26は、その推定滴下位置から予め定めた関係またはマップを用いて、モデル部23を表す関係式の係数、例えば熱抵抗Roを変更する。これによりモデル部23が変更される。
図5は、車両70の前後加速度がモータを冷却するオイルの流れに与える影響を示す模式図である。図6は、車両の前後方向に対する傾斜角度がオイルの流れに与える影響を示す模式図である。図5では、車両が前進方向(図5の矢印γ方向)に加速する際に、滴下部60(図1)から滴下されたオイルが流れる方向を模式的に矢印P1で示している。図5から明らかなように、オイルは前進加速時に後側に傾斜する方向に流れる。これにより、オイルの滴下位置が変化する。また、図6に示すように、車両70が坂道に位置する場合のように車両70が傾斜した場合には、オイルは、車両70の後側に傾斜する方向(矢印P2方向)に流れる。これによっても、オイルの滴下位置が変化する。
図7は、車両の傾きと、コイルの最高温度との関係を求めた実験結果を示す図である。図7では、モータ電流、モータ回転数、オイル流量、及びオイル温度は一定としている。図7に示すように、オイルがモータ50の上方からかかる状態で、車両が傾斜する場合に、その傾斜角度の変化に応じてコイルの最高温度が変化し、傾斜角度と最高温度との間に高い相関があることが分かる。
オイル位置推定部26は、図5〜図7で説明した関係から、車両の傾き及び車両の加速度の組み合わせを用いてオイルの滴下位置を推定し、推定した位置に応じてモデル部23を変更する。
図2では、モデル変更部として、オイル位置推定部26を用いたが、他の構成でもよい。例えば推定器10がオイル流量を検出するオイル流量センサ37(図2)を備え、オイル流量センサ37の検出信号からモデル部23を変更する構成としてもよい。また、モデル変更部は、車両の傾き、車両の加速度、及び冷却用オイルのオイル流量の3つの組み合わせからモデル部23を変更する構成としてもよい。
上記の推定器10によれば、コイル温度を高精度に推定できる。これにより、コイル54を大きな安全率で保護する必要がなくなるので、例えばモータ50では、物理的にコイル54が許容する温度上限近くまでモータ50の出力を発生させることができる。また、推定器10によれば、特許文献1に記載された構成と異なり、オイルで冷却されるモータ50の流路構造を複雑化することがない。
推定器10によりコイル温度を高精度に推定できる理由は、温度センサである補正センサ12の位置とモデルの変更とにある。まず、補正センサ12の位置について、実施形態と異なり、コイル近傍に温度センサが配置される場合には、温度センサにオイルがかかる可能性が高い。そして、温度センサにオイルがかかると、温度センサの検出温度がコイル温度よりオイルの温度に近い値となるので、コイル温度を精度よく推定することが困難である。
一方、上記のように温度センサである補正センサ12を、コイル54から離れて、かつオイルがかからない位置に配置された端子58を構成する金属上に接触して配置する場合には、コイル54の温度と端子温度との相関が高いことが分かった。これにより、オブザーバ22では、オイルがかからない端子58の温度を用いることによりコイル温度を高精度に推定できる。
図8(a)は、コイルにおいて温度が最高になる位置での温度と、端子台における端子温度との相関関係を表すコヒーレンス関数について、コヒーレンス関数及びモータトルクの関係を示す図である。図8(b)は、端子温度についてのコヒーレンス関数及びオイル流量の関係を示す図である。
コヒーレンス関数は、コイル温度と端子温度とのそれぞれの信号のスペクトルの所定周波数成分を掛け合わせて平均化したクロススペクトルの絶対値の二乗を測定入力及び系の出力のそれぞれのパワースペクトルで割り算したものである。コヒーレンス関数が高いことは、コイル温度と端子温度との相関が高いことを表す。
図8に示した結果から、パラメータとしてモータトルク及びオイル流量を用いた場合でも、それらの変化に関係なくコヒーレンス関数をほぼ0.8以上と高くできた。これにより、端子温度をオブザーバ22に利用可能であることを確認できた。
また、モデルの変更について、オイルをコイルに滴下する冷却方式では、コイルの冷却の程度がオイルの流れ状態に大きく依存する。オイルの流れ状態を支配する最大の要因は、車両のピッチ運動によるモータの前後方向に対する傾きである。実施形態では、車両の傾きをパラメータにしてモデル部を変更するため、コイル温度の推定精度を向上できる。
図9は、実施形態の推定器10に用いたコイルの熱抵抗モデルの別例を示す図である。図9に示す別例では、図4に示したモデルにおいて、雰囲気温度を有する部分から端子58への熱伝達経路を省略している。図9に示すモデルは、ステータコア53(図1)及びモータケース等を通じてエンジンルーム内への熱の移動が小さい場合に有効に適用できる。このため、図9のモデルを表す関係式では、(1)式及び(2)式において、雰囲気温度Ta、熱抵抗Ra、Rbを含む項が省略される。また、図2において、雰囲気温度センサ33が省略される。その他の構成及び作用は、図1〜図4に示した構成と同様である。
図10、図11は、実施形態によるコイル温度の推定精度を確認した結果を示している。図10は、実施形態の推定器における、比較例の温度推定装置に対するコイル温度の推定値についての誤差の割合を求めた実験結果を示す図であって、比較例の誤差を1として示す図である。図10の横軸は複数の実験パターンの整理番号を示している。比較例では、図1に二点鎖線Gで示す位置に温度センサを配置して、温度センサにより検出した温度からコイル温度を推定する。実施形態は、図1〜3で示した構成を用いた。図10において、太線C1が比較例を示しており、細線C2が実施形態を示している。図10に示す結果から明らかなように、実施形態では比較例に比べて大幅にコイル温度の推定誤差を低減できた。
図11は、実施形態の推定器10において、コイル温度の推定誤差とモータトルクとの関係を求めた実験結果を示す図(a)と、コイル温度の推定誤差とオイル流量との関係を求めた実験結果を示す図(b)である。図11に示す結果から明らかなように、実施形態ではモータトルク及びオイル流量が変化した場合でも、コイル温度の推定誤差の増大を抑えることができる。
図12は、実施形態の推定器システム40の構成を示す図である。図13は、モータ50において、推定器システム40を構成する複数の推定器41,42,43,44が配置される複数の範囲を示す図である。
推定器システム40は、4つの推定器41,42,43,44と、選択手段45とを備える。4つの推定器41,42,43,44のそれぞれの構成は、上記の図1から図3に示した推定器10と同様である。図13に示すように、モータ50のステータコイルは、周方向の同じ長さの範囲J1,J2,J3,J4によって、複数の熱マスに分けることができる。複数の推定器10は、複数の熱マスの最高温度T1,T2,T3,T4をそれぞれ推定する。具体的には、4つの推定器41,42,43,44は、それぞれコイルの4つの熱マスJ1,J2,J3,J4の最高温度を推定する。各推定器10で異なる熱モデルを持つことができる。推定最高温度T1,T2,T3,T4は選択手段45に入力される。
選択手段45は、4つの推定器41,42,43,44で推定されたコイルの推定最高温度T1,T2,T3,T4からコイルの最高温度を選択する。これにより、モータ50は熱の分布を表すモデルとなり、コイルの熱の分布を求めることもできる。このとき、(1)式及び(2)式において、コイルの熱容量Ct、推定最高コイル温度Tm、熱抵抗Rr、Raは行列となる。
このような推定器システム40では、モデル部23の状態量を増加させることにより、コイルの温度分布を知ることができ、局部的な昇温まで考慮した制御が可能になる。これにより熱によるモータ50の劣化を抑制できる。
なお、上記の(1)式において、モータの制御で用いられるキャリア周波数fcを考慮した鉄損を入れてもよい。この場合の損失は、(1)式のKeIωの代わりにキャリアによる電流リプル量Ic、比例定数ne、キャリア周波数fcを用いて、渦電流損としてのneIcfc、もしくは比例定数nhを用いて、ヒステリシス損としてのnhIcfcが用いられる。このとき、キャリア周波数算出部38(図2)で算出されたキャリア周波数fcが、オブザーバ22で用いられる入力信号として用いられてもよい。したがって、推定器10で用いられる入力信号は、オイル温度To、モータ電流I、モータ回転数ω、キャリア周波数fc、及び雰囲気温度Taのうち、1つまたは複数を表す信号とすることができる。
10 推定器、12 補正センサ、20 制御装置、22 オブザーバ、23 モデル部、24 補正部、26 オイル滴下位置推定部、30 オイル温度センサ、31 モータ電流センサ、32 モータ回転数センサ、33 雰囲気温度センサ、35 傾斜角センサ、36 前後加速度センサ、37 オイル流量センサ、38 キャリは周波数算出部、40 推定器システム、41,42,43,44 推定器、45 選択手段、50 モータ、52 ステータ、53 ステータコア、54u、54v、54w ステータコイル、56u、56v、56w 動力線、58 端子、59 コイルエンド、60 滴下部。

Claims (4)

  1. 冷却用オイルで冷却されステータコイルを有する回転電機に対し、前記ステータコイルの冷却用オイルがかかる部分の温度を推定する推定器であって、
    前記ステータコイルの温度に関係する入力信号から対象の熱抵抗モデルを表す関係式を用いて、前記ステータコイルの温度推定値を含む状態量を計算するモデル部と、
    ステータコイル関係部分の温度を計測し、計測温度を表し、前記状態量を補正するための補正信号を出力する温度センサと、
    前記補正信号に基づく補正値を前記モデル部に出力する補正部と、
    前記モデル部を、前記冷却用オイルの流れの変化に関係するオイル流れ関係値に応じて変更するモデル変更部とを備え、
    前記温度センサは、前記ステータコイル関係部分の温度として、前記ステータコイルを構成するコイル導線、または前記コイル導線に接続された端子、または前記コイル導線及び前記端子の間に接続された動力線を構成する金属部材上であって、前記冷却用オイルがかからない位置の温度を計測するように前記位置に接触して配置される、
    推定器。
  2. 請求項1の推定器において、
    前記温度センサが前記金属部材としての前記端子上に配置され、
    前記モデル変更部は、前記オイル流れ関係値として、前記回転電機が搭載された車両の傾き、前記車両の加速度、及び前記冷却用オイルの流量の1つまたは2つ以上の組み合わせで前記モデル部を変更する、推定器。
  3. 請求項1または請求項2に記載の推定器において、
    前記推定器で用いられる前記入力信号が、前記冷却用オイルの温度、回転電機電流、回転電機回転数、前記回転電機の制御に用いられるキャリア周波数、前記熱抵抗モデルの雰囲気温度のうち、1つまたは複数を表す信号である、推定器。
  4. 複数の推定器と、
    前記複数の推定器で推定されたステータコイルの温度から前記ステータコイルの最高温度を選択する選択手段とを備え、
    前記複数の推定器のそれぞれは、冷却用オイルで冷却され、前記ステータコイルを有する回転電機に対し、前記ステータコイルの温度を推定する推定器であって、
    入力信号、及び対象モデルを表す関係式を用いて状態量を計算するモデル部と、
    前記状態量を補正するための補正信号を計測する補正信号計測用センサと、
    前記補正信号により前記状態量を補正するための値をモデル部に出力する補正部と、
    前記モデル部を、前記冷却用オイルの流れの変化に関係するオイル流れ関係値に応じて変更するモデル変更部とを備え、
    前記補正信号計測用センサは、前記ステータコイルを構成するコイル導線、または前記コイル導線に接続された端子、または前記コイル導線及び前記端子の間に接続された動力線を構成する金属部材上であって、前記冷却用オイルがかからない位置に接触して配置される、推定器システム。

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