JP6856342B2 - 銅または銅合金板材およびその製造方法、ならびに端子 - Google Patents

銅または銅合金板材およびその製造方法、ならびに端子 Download PDF

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Description

本発明は、銅または銅合金板材およびその製造方法、ならびに端子に関する。
近年、自動車の機能向上および燃費向上を目的として、ワイヤーハーネスに使用される銅電線が、アルミニウム電線に置き換えられている。
一方、電線に接続される端子については、性能面からアルミニウム材への切替は進まず、Snめっき付き銅または銅合金が使用されている。
前記アルミニウム電線と銅系端子とを圧着加工により接続する場合、電位差の大きな異種金属接触による電池腐食反応が生じる可能性があるため、圧着加工部は樹脂防食(被覆)が実用化されている。
しかし、前記圧着加工部に樹脂被覆すると生産性が落ち、コストが高くなってしまうことから、圧着加工のみで電池腐食反応を抑制できる技術の提供が求められている。
例えば、圧着加工後に樹脂被覆以外の対策をとる技術について提案されている(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。
また、圧着加工前にめっき層を形成する技術についても提案されている(例えば、特許文献3参照)。
特開2013−182860号公報 特開2015−191776号公報 特開2013−134891号公報
しかし、前記特許文献1は、銅または銅合金からなる基材上にスズメッキ層からなる最外層が形成され、基材と最外層との間にニッケルメッキ層等を積層させる技術であるが、端子接続部の信頼性や電線の被覆の信頼性を確保した上でNiを積層させることは、前処理および後処理を考慮すると、比較的安価に製造することは困難である。
また、前記特許文献2は、圧着加工後に溶射を行う技術であるが、本発明者の検討によると、圧着加工後にそのまま溶射を行っても溶射部が容易に取れてしまうことが確認できている。
また、前記特許文献3は、圧着加締め時にめっき層が破壊されるほど薄く管理することになっており、腐食に対する十分な延命効果が得られないという問題がある。
本発明は、従来における前記問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、圧着加工後に特殊な加工を必要とせず、腐食反応を抑制し延命効果が高く、圧着加工時に表面被覆層の剥がれが発生しない、端子用材料として好適な銅または銅合金板材およびその製造方法、ならびに端子を提供することを目的とする。
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 最表層としてSn層を有する銅または銅合金素材からなる板材の表面を、被処理面積率が75%以上であり、かつ算術平均粗さRaが0.2μm以上3.0μm以下となるようにブラスト処理するブラスト処理工程と、
前記ブラスト処理されたSn層の表面に、溶射により、平均厚さが5μm以上80μm以下となるようにZnまたはZn合金層を形成する溶射工程と、
を含むことを特徴とする銅または銅合金板材の製造方法である。
<2> 前記ブラスト処理が、ホワイトアルミナを用いたエアーブラスト処理であることを特徴とする前記<1>に記載の銅または銅合金板材の製造方法である。
<3> 前記溶射が、アーク溶射であることを特徴とする前記<1>または<2>に記載の銅または銅合金板材の製造方法である。
<4> 前記ブラスト処理工程を行う前に、脱脂工程および酸洗浄工程の少なくともいずれかを行うことを特徴とする前記<1>から<3>のいずれかに記載の銅または銅合金板材の製造方法である。
<5> 銅または銅合金素材からなる板材と、前記銅または銅合金素材からなる板材上に形成されたSn層と、前記Sn層上に形成されたZnまたはZn合金層とを有し、
前記ZnまたはZn合金層の平均厚さが5μm以上80μm以下であり、
前記ZnまたはZn合金層を外側に向けたR/t=2.0の180°曲げ試験において、折り曲げ部外側表面で前記ZnまたはZn合金層の剥がれが生じないことを特徴とする銅または銅合金板材である。
<6> 前記ZnまたはZn合金層が溶射皮膜であることを特徴とする前記<5>に記載の銅または銅合金板材である。
<7>前記ZnまたはZn合金層が、前記銅または銅合金素材からなる板材の片面のみに形成されていることを特徴とする前記<5>または<6>に記載の銅または銅合金板材である。
<8> 前記ZnまたはZn合金層が、前記銅または銅合金素材からなる板材の板幅の半分以下の領域に形成されていることを特徴とする前記<5>から<7>のいずれかに記載の銅または銅合金板材である。
<9> 前記銅または銅合金素材からなる板材と前記Sn層の間に、CuSn合金層を有することを特徴とする前記<5>から<8>のいずれかに記載の銅または銅合金板材である。
<10> 前記銅または銅合金素材からなる板材と前記CuSn合金層の間に、Ni層、Ni合金層、およびCu層の少なくともいずれかの層を有することを特徴とする前記<9>に記載の銅または銅合金板材である。
<11> 前記<5>から<10>のいずれかに記載の銅または銅合金板材を用いて作製された、電線と圧着加工により接続されることを特徴とする端子である。
<12> 前記電線がAlまたはAl合金であることを特徴とする前記<11>に記載の端子である。
<13> 自動車用途に用いられることを特徴とする前記<11>または<12>に記載の端子である。
本発明によると、従来における諸問題を解決でき、圧着加工後に特殊な加工を必要とせず、腐食反応を抑制し延命効果が高く、圧着加工時に表面被覆層の剥がれが発生しない、端子用材料として好適な銅または銅合金板材およびその製造方法、ならびに端子を提供することができる。
実施例1の片面ブラスト処理後の、Sn層表面のレーザー顕微鏡写真である。 比較例1のブラスト処理を行っていない、Sn層表面のレーザー顕微鏡写真である。 比較例3の片面ブラスト処理後の、Sn層表面のレーザー顕微鏡写真である。
(銅または銅合金板材の製造方法)
本発明の銅または銅合金板材の製造方法は、最表層としてSn層を有する銅または銅合金素材からなる板材の表面を、ブラスト処理工程と、溶射工程とを含み、ブラスト処理工程または溶射工程の前に脱脂工程および酸洗浄工程の少なくともいずれかを含むことが好ましく、さらに必要に応じてその他の工程を含む。
<ブラスト処理工程>
前記ブラスト処理工程は、最表層としてSn層を有する銅または銅合金素材からなる板材の表面を、被処理面積率が75%以上であり、かつ算術平均粗さRaが0.2μm以上3.0μm以下となるようにブラスト処理する工程である。
−銅または銅合金素材からなる板材−
前記銅または銅合金素材からなる板材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、圧延後の平板状の板材(条材)、プレス打抜き等の加工を行った後の板材(条材)または端子形状に加工された板材などが挙げられる。
前記銅または銅合金素材における銅または銅合金としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、純銅(C1020、C1100)、リン脱酸銅(C1220)等のCu系;丹銅、黄銅(C2600、C2680等)、Sn入り黄銅(C44250等)等のCu−Zn系;リン青銅系(C5110、C5191、C5210、C5240等)、Cu−Ni−Sn−P系(C19020、C19025等)、Cu−Ni−Si系(C7025、C64745等)、Cu−Fe系(C194、C19220、C19010、C19720等)などが挙げられる。
前記銅または銅合金素材に被覆する膜は、最表面をSn層で仕上ればよく、その下地には、密着性強化、素材成分の拡散抑制によるウイスカ抑制、および耐熱性向上の観点から、単純にSnを1層形成する他に、中間層や下地層としてCu層を設けたり、Ni層を設けたりすることができる。より耐熱性を向上させるための手段として、Ni層、Cu層、およびSn層の順に被覆を行うことが好ましい。
前記Sn層の形成方法としては、例えば、電気めっき、無電解めっき、溶融浸漬、蒸着、スパッタリングなどが挙げられる。これらの中でも、電気めっきが特に好ましい。
前記電気めっきとしては、例えば、アルカリ性浴、硫酸浴、塩酸浴、スルフォン酸浴、シアン性浴、ピロリン酸浴、ほうふっ化浴などの浴で行うことが好ましい。
なお、めっき浴には、光沢剤を添加することもできる。
前記Sn層の平均厚さは、電着時間により調整することができるが、例えば、0.1μm以上5μm以下が好ましく、0.5μm以上3μm以下であることがより好ましい。
前記Sn層等を形成した銅または銅合金素材は、リフロー炉に投入してリフロー処理(加熱によるSn層等の溶融凝固処理)を行うことが好ましい。
前記リフロー処理して、Snを溶融させた後に冷却することにより、銅合金素材上にCuSn合金層が形成され、CuSn合金層上にSn層が形成される。
なお、銅または銅合金層の表面にSn層を形成した場合、リフロー処理をしなくても経時変化により、SnとCuの拡散でCuSn合金層が形成される。
前記CuSn合金層の平均厚さは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.1μm以上3μm以下が好ましく、0.1μm以上2.0μm以下がより好ましい。
前記最表層としてSn層を有する前述の銅または銅合金素材からなる板材としては、適宜製造したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。前記市販品としては、例えば、商品名:NB−109、C2600(いずれも、DOWAメタルテック株式会社製)などが挙げられ、また、表面(最表層)にリフローSnめっきや光沢Snめっき等のSn層が形成されている銅または銅合金素材からなる板材も市販されている。
−ブラスト処理−
前記ブラスト処理は、圧縮空気により投射材を投射する手法でありエアーブラストと呼ばれる。
主に空気流の負圧により投射材を気流に乗せる吸引式と圧縮空気に直接投射材を混合して噴射する直圧式とに大別できる。
前記投射材(ブラスト砥粒)としては、例えば、(ホワイト)アルミナ、炭化ケイ素、シリカ、ガラスなどが挙げられる。
前記ブラスト砥粒の平均粒径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、50μm以上500μm以下が好ましい。
ブラスト圧については、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.2MPa以上3MPa以下が好ましい。
ブラスト時間については、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.2秒以上10秒以下が好ましい。
前記ブラスト処理によりSn層の表面粗さが大きくなるので、ブラスト処理前のSn層(リフローSnめっき層、光沢Snめっき層等)の表面と比べて光沢が減少する。
前記ブラスト処理による被処理面積率は、75%以上であり、90%以上が好ましい。
前記ブラスト処理による被処理面積率が、75%以上であると、溶射されたZnの密着性を確保することができるという利点がある。
前記ブラスト処理による被処理面積率は、例えば、ブラスト処理前後の表面をレーザー顕微鏡を使用して観察し、ブラスト処理による被処理面積率を求める。
まず、ブラスト処理前の板材の所定の領域を前記レーザー顕微鏡で観察し、観察視野内を分割した各ピクセルの光量のデータを得、各ピクセルの光量の大きい方から99%に入るピクセルのうち最小の光量を有するピクセルの光量を下限しきい値と設定する。次にブラスト処理後の前記板材を、前記レーザー顕微鏡で同様に観察して各ピクセルの光量のデータを得、観察視野内の総ピクセルから前記下限しきい値よりも小さい光量を有するピクセルを抽出し、「(下限しきい値より小さい光量を有するピクセル数/総ピクセル数)×100」を算出し、ブラスト処理による被処理面積率(%)とする。
前記ブラスト処理後の算術平均粗さRaは、0.2μm以上3.0μm以下である。
前記ブラスト処理後の算術平均粗さRaが、0.2μm未満であると、密着性が悪くなり、3.0μmを超えると、銅素材が反り等の変形をおこしてしまうという不具合が生じる。
前記ブラスト処理後の算術平均粗さRaは、例えば、レーザー顕微鏡(株式会社キーエンス製、VK−X100)で観察(100倍)後、解析アプリケーション(株式会社キーエンス製、VK−H1XA)を用いて(JIS B0601(2001)に基づき)測定することができる。
<溶射工程>
前記溶射工程は、前記ブラスト処理されたSn層の表面に、溶射により、平均厚さが5μm以上80μm以下となるようにZnまたはZn合金層を形成する工程である。
前記ZnまたはZn合金層の平均厚さは、5μm以上80μm以下であり、10μm以上50μm以下が好ましい。
前記ZnまたはZn合金層の平均厚さを、5μm未満に制御して形成することは難しく、80μmを超えると、圧着時にZn被覆が割れる場合がある。
前記ZnまたはZn合金層の平均厚さは、例えば、Zn被覆前後の板厚をマイクロメーターにより測定し、その差を算出することにより、測定することができる。
前記溶射としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、アーク溶射が好ましい。
前記アーク溶射は、連続的に送給される2本の溶射材料(金属線材、ワイヤ)の先端間で直流電流のアーク放電(電気スパーク)を発生させ、この放電エネルギーにより熔融(溶融)した金属の溶滴を、圧縮空気等を用いた気流(アトマイジング・ジェット)により微粒化しながら被射体(基材)に向けて吹き付け、この被射体の表面に、金属被膜(溶射皮膜)を連続的に製膜(成膜)する表面処理法である。
前記溶射材料としては、ZnまたはZn合金であり、例えば、亜鉛(Zn)線、亜鉛(Zn)−アルミニウム(Al)合金線、亜鉛(Zn)−銅(Cu)合金線などが挙げられる。
溶射距離(溶射ガンのノズル先端と被処理材との距離)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、30mm以上300mm以下が好ましい。
溶射時間としては、前記ZnまたはZn合金層の平均厚さに形成することができれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
<脱脂工程>
前記脱脂工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、溶剤脱脂、アルカリ浸漬脱脂、電解脱脂などが挙げられる。
<酸洗浄工程>
前記酸洗浄工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、表面の酸化皮膜等の腐食生成物を除去して清浄な表面を露出させる工程である。
前記酸としては、例えば、塩酸、硫酸などが挙げられ、必要に応じて、腐食抑制剤、酸洗促進剤などを添加してもよい。
<その他の工程>
前記その他の工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、Ni層形成工程、Cu層形成工程、乾燥工程、水洗工程などが挙げられる。Ni層、Cu層を形成する場合は、製造コストの低い電気めっきで実施することが好ましい。
(銅または銅合金板材)
本発明の銅または銅合金板材は、銅または銅合金素材からなる板材と、前記銅または銅合金素材からなる板材上に形成されたSn層と、前記Sn層上に形成されたZnまたはZn合金層とを有し、前記ZnまたはZn合金層の平均厚さは、5μm以上80μm以下であり、前記ZnまたはZn合金層を外側に向けたR/t=2.0の180°曲げ試験において、折り曲げ部外側表面で前記Zn層またはZn合金層の剥がれが生じないことを特徴とする。
前記ZnまたはZn層が溶射皮膜であることが好ましく、前記ZnまたはZn合金層の平均厚さは10μm以上50μm以下が好ましい。
前記ZnまたはZn合金層は、前記銅または銅合金素材の片面のみに形成されていることが、本発明の銅または銅合金板材を端子に加工した場合、端子の嵌合部にはZnは不要であるため、嵌合部側の銅合金板材の表面はSnのままとして、その反対側の面にのみZnを形成して耐食性を確保することができるために好ましい。
前記ZnまたはZn合金層は、前記銅または銅合金素材からなる板材の板幅の半分以下の領域に形成されていることが、本発明の銅または銅合金板材を端子に加工した場合、端子の嵌合部にはZnは不要であるため、嵌合部となる銅合金板材の領域(板幅の半分以上)の表面はSn層のままとして、残りの領域(板幅の半分以下)にのみZnまたはZn合金層を形成するのが好ましい。
前記銅または銅合金素材からなる板材(表面)と前記Sn層の間に、CuSn合金層を有することが好ましい。
前記銅または銅合金素材からなる板材(表面)と前記CuSn合金層の間に、Ni層、Ni合金層、およびCu層の少なくともいずれかの層を有することが、素材からの成分拡散の防止・抑制、端子に加工したときの接点の耐熱性向上の点から好ましい。
前記Ni層の平均厚さは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.05μm以上2.0μm以下が好ましい。
前記Ni合金層の平均厚さは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.05μm以上2.0μm以下が好ましい。
前記Cu層の平均厚さは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.05μm以上2.0μm以下が好ましい。
前記Ni層、前記Ni合金層、および前記Cu層の形成方法としては、例えば、電気めっき、無電解めっき、溶融浸漬、蒸着、スパッタリングなどが挙げられる。これらの中でも、電気めっきが特に好ましい。
前記銅合金板材は、ZnまたはZn合金層を外側に向けたR/t=2.0の180°曲げ試験において、折り曲げ部外側表面でZn被覆の剥がれが生じないことが好ましい。ここで、Rは曲げ試験時の内側の曲げ半径(mm)、tは素材試験片の板厚(mm)を示し、R/tの値が小さい方が曲げ加工性が良好である。
本発明の銅合金板材は、例えば、自動車、携帯電話、パソコン等の制御基板、コネクタ、リードフレーム、リレー、スイッチ等に用いられる端子、バスバー材等の電気・電子部品として好適であり、以下に説明する端子として特に好適である。
(端子)
本発明の端子は、本発明の銅または銅合金板材を用いて作製された端子が、電線と圧着加工により接続される。前記電線がAlまたはAl合金であることが好ましく、前記端子は、自動車用途に用いられることが好ましい。
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
(実施例1)
<銅合金板材の作製>
まず、端子用途に広く使用されている、市販のリフローSnめっき付きのDOWAメタルテック株式会社製、商品名NB−109(Cu−1.0質量%Ni−0.9質量%Sn−0.05質量%P、CDA番号C19025)EH 厚さ0.25mm×幅30mm、算術平均粗さRaが0.05μmの銅合金条を用いた。
この銅合金条を切断して断面を電界放射型オージェ電子分析装置(FE−AES:日本電子株式会社製、JAMP−9500F)で分析したところ、基材表面にCu−Sn合金層が形成され、Cu−Sn合金層の表面(最表層)に純Sn層が形成されていた。また、前記Cu−Sn合金層とSn層の厚さを電解式膜厚計(株式会社中央製作所製のThickness Tester TH−11)により測定したところ、Cu−Sn合金層の平均厚さは0.6μm、Sn層の平均厚さは0.7μmであった。
次に、前処理として、5質量%のNaOHを含有する水溶液に浸漬し、10A/dm、10秒間で電解脱脂を行った後に水洗し、その後、5質量%のHSOを含有する水溶液(希硫酸)で5秒間酸洗浄した後に水洗した。
次に、以下のようにして、銅合金条の表面にブラスト処理を行った。
<ブラスト処理>
ブラスト処理としてショットブラスト(エアーブラスト)処理を行った。
ブラスト設備としてニューマブラスター(株式会社不二製作所製)を用いて、ブラスト砥粒の種類はホワイトアルミナ、ブラスト砥粒の番手は#120、ブラストガン(ノズル先端)と銅合金条表面との距離(ブラスト距離)は50mm、ブラスト圧は1MPa、ブラスト時間は1秒の条件で、Snめっき付き条材の片側の表面にブラスト処理を行った。
次に、前記ブラスト処理後、エアーパージで砥粒を除去した。
次に、ブラスト処理後の銅または銅合金素材の表面に、以下のようにして、アーク溶射を行った。
<アーク溶射>
アーク溶射設備としてメタライゼーション(Metallisation)社製、電源S700−ICC、ガンARC528を使用し、溶射材としてZn線、直径1.6mm(ジンクエクセル株式会社製)を用いて、アーク電流を100A、溶射距離を50mm、大気雰囲気(25℃)で、溶射時間を0.3秒として溶射処理を行い、平均厚さ30μmのZn溶射層を形成した。
以上により、実施例1の銅合金板材を作製した。表1〜表3に上記銅合金素材、ブラスト処理条件、溶射処理条件などを示す。
(実施例2)
実施例2の銅合金素材としては、光沢めっきSn層が両面に形成されている、商品名NB−109(DOWAメタルテック株式会社製)の厚さ0.25mm×幅30mmの銅合金条を用いた。この銅合金条のCu−Sn合金層の平均厚さは0.2μm、最表層のSn層の平均厚さは0.9μmであった。ブラスト砥粒番手を#60、ブラスト圧を2MPa、ブラスト時間を2秒、溶射時間を0.2秒とし、平均厚さ20μmのZn溶射層を形成した以外は、実施例1と同様にして、銅合金板材を作製した。
(実施例3)
実施例3の銅合金素材としては、リフローSn層が形成されている、商品名NB−109(DOWAメタルテック株式会社製)の厚さ0.40mm×幅30mmの銅合金条を用いた。この銅合金条のCu−Sn合金層の平均厚さは0.6μm、最表層のSn層の平均厚さは0.7μmであった。また、ブラスト圧を2MPa、ブラスト時間を3秒とし、溶射材をZnAl線、溶射時間を0.1秒とし、平均厚さ10μmのZnAl合金溶射層を形成した以外は、実施例1と同様にして、銅合金板材を作製した。なお、前記ZnAl線としては、ジンクエクセル株式会社製のZn−6質量%Al、直径1.6mmを用いた。
(実施例4)
実施例4の銅合金素材としては、リフローSn層が両面に形成されている、黄銅材C2600(DOWAメタルテック株式会社製、Zn−70.0質量%Cu)の厚さ0.25mm×幅30mmの銅合金条を用いた。この銅合金条には平均厚さ0.6μmのCu−Sn合金層、平均厚さ0.7μmの最表層であるSn層が形成され、さらにCu−Sn合金層と素材との間に平均厚さ0.7μmのCu層が形成されていた。
また、ブラスト砥粒番手を#180、ブラスト圧を2MPa、ブラスト時間を3秒とし、溶射時間を0.1秒とし、平均厚さ10μmのZnAl合金溶射層を形成した以外は、実施例1と同様にして、銅合金板材を作製した。
(比較例1)
比較例1は、ブラスト処理とZn溶射を実施しない以外は、実施例1と同様にして、銅合金板材を作製した。
(比較例2)
比較例2は、ブラスト処理を実施しなかった以外は、実施例1と同様にして、銅合金板材を作製した。
(比較例3)
比較例3は、ブラスト距離を100mm、ブラスト圧を1.5MPa、ブラスト時間を0.1秒とした以外は、実施例1と同様にして、銅合金板材を作製した。
(比較例4)
比較例4は、厚地鉄工株式会社製BA−2直圧式のブラスト設備を用い、ブラスト砥粒番手を#36、ブラスト距離を100mm、ブラスト圧を0.5MPaとした以外は、実施例1と同様にして、銅合金板材を作製した。
(比較例5)
比較例5は、溶射時間を1秒として平均厚さ100μmのZn溶射層を形成した以外は、実施例1と同様にして、銅合金板材を作製した。
次に、実施例1〜4および比較例1〜5において、以下のようにして、諸特性を評価した。結果を表4に示した。
<ブラスト処理による被処理面積率>
ブラスト処理前後の表面をレーザー顕微鏡(株式会社キーエンス製、VK−X100)及びその解析アプリケーション(株式会社キーエンス製、VK−H1XA)を使用して観察し、ブラスト処理後の表面の被処理面積率を以下の手順で求めた。
まず、上記実施例1〜4、比較例3〜5の条材を切断したブラスト処理前の板材の1.35mm×1.012mmの領域(観察視野;面積1.3662mm)を、前記レーザー顕微鏡でそれぞれ観察し、観察視野内を分割した各ピクセルにおける光量(反射光量:Intensity)のデータを得た。各ピクセルの光量の大きい方から99%に入るピクセルのうち、最小の光量を有するピクセルの光量をDCL(Dark Cut Level:下限しきい値)として設定した。
次に、上記板材をそれぞれの条件でブラスト処理した後、前記レーザー顕微鏡で同様に観察して各ピクセルの光量のデータを得た。次いで、観察視野内の総ピクセルのうち前記DCLよりも小さい光量を有するピクセルを抽出してその数を数え、「(DCLより小さい光量を有するピクセル数/総ピクセル数)×100」を算出し、ブラスト処理による被処理面積率(%)とした。これらは前記アプリケーションの機能を利用して求めた。
なお、ブラスト処理を実施しない比較例1、2のブラスト処理による被処理面積は0%とする。
被処理面積率の測定例(測定の基となる写真)として図1は、実施例1の最表層にSn層が形成された銅合金素材からなる板材の片面ブラスト処理後の、Sn層表面のレーザー顕微鏡写真である。リフローSnめっきの光沢はほとんど確認できず、ほぼ全表面にわたってブラスト処理されていることがわかる。
図2は、比較例1の最表層にSn層が形成された銅合金素材からなる板材のブラスト処理をしていないSn層表面のレーザー顕微鏡写真であり、ブラスト処理をしていないため表面の全面にリフローSnめっきの光沢が見られる(被処理面積率0%)。
図3は、比較例3の最表層にSn層が形成された銅合金素材からなる板材の片面ブラスト処理後の、Sn層表面のレーザー顕微鏡写真である。表面にリフローSnめっきの光沢が30%残っており、ブラスト被処理面積としては70%であった。
<ブラスト処理後のSn層表面の算術平均粗さRa>
ブラスト処理後のSn層表面の算術平均粗さRaは、レーザー顕微鏡(株式会社キーエンス製、VK−X100)で観察(100倍)した後、解析アプリケーション(株式会社キーエンス製、VK−H1XA)を用い、JIS B0601(2001)に基づいて測定した。
<ZnまたはZn合金層の平均厚さ>
Zn被覆前後の板厚を任意に5箇所マイクロメーターにより測定し、Zn被覆前後の板厚差を算出し、平均を計算することにより、ZnまたはZn合金層の平均厚さを測定した。
<板材の反り>
溶射処理後の板材である幅30mm×長さ100mmの試験片を、幅反りの凸部が上側になるようにしてストーンテーブル(定盤)上に置き、前記試験片とストーンテーブルとの隙間を隙間ゲージで測定し、反り高さとした。なお、ブラスト処理した側の面が延びるので、凸部の上側の面は必ずブラスト処理およびZn溶射を行った面となる。
[評価基準]
○:幅30mmに対して反り高さが0.5mm以下のもの
×:幅30mmに対して反り高さが0.5mmを超えるもの
<180°曲げ試験(密着性評価)>
Zn層またはZnAl層を形成した各銅合金板材から切り出した30mm×100mmの大きさの試験片の長手方向に直角な方向を曲げ軸として、Zn層またはZnAl層を外側にして前記試験片の中央部をR/t=2.0として180°曲げ試験を行って曲げ戻した後、折り曲げ部外側表面のZn層またはZnAl層の表面に粘着テープ(ニチバン株式会社製のセロハンテープ)を貼り付けて、テープピーリングテストを行い、Zn層またはZnAl層の剥離の有無を目視によって観察し、下記基準で評価した。
〔評価基準〕
○:剥離がなかった
×:剥離が生じた
<腐食試験(耐食性):ガス発生開始時間>
Zn層またはZnAl層を形成した各銅合金板材から切り出した30mm×100mmの大きさの試験片のZn層またはZnAl層(の形成部)を内側(Zn層またはZnAl層がAl線と接触)または外側(Zn層またはZnAl層がAl線と接触せず、Sn層とAl線が接触)にして、この銅合金板材により直径0.8mm、長さ30mmの純アルミニウム単線(A1070)を加締めた後、5質量%のNaCl水溶液中に浸漬し、ガルバニック腐食(卑な金属が溶解する異種金属接触腐食)によるガスの発生開始時間によって耐食性を評価した。なお、ガス発生開始時間は24時間以上が合格レベルである。
Figure 0006856342
Figure 0006856342
−ブラスト砥粒番手−
#36:425〜500μm
#60:212〜250μm
#120:90〜106μm
#180:53〜63μm
Figure 0006856342
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*腐食試験のZn、ZnAl層付着面とは、腐食試験においてAl線とZn層またはZnAl層を接触させたものを内側とし、接触させなかったものを外側とした。
表4の結果から、実施例1〜4は、比較例1〜5に比べて、Zn層またはZnAl層と銅合金素材の密着性が良好であり、板反りも小さく、耐食性に優れていることがわかった。
本発明の銅または銅合金板材は、例えば、自動車、携帯電話、パソコン等の民生機器の制御基板、コネクタ、リードフレーム、リレー、スイッチに用いられる端子、バスバー材などに好適に用いられる。

Claims (13)

  1. 最表層としてSn層を有する銅または銅合金素材からなる板材の表面を、被処理面積率が75%以上であり、かつ算術平均粗さRaが0.2μm以上3.0μm以下となるようにブラスト処理するブラスト処理工程と、
    前記ブラスト処理されたSn層の表面に、溶射により、平均厚さが10μm以上30μm以下となるようにZnまたはZn合金層を形成する溶射工程と、
    を含むことを特徴とする銅または銅合金板材の製造方法。
  2. 前記ブラスト処理が、ホワイトアルミナを用いたエアーブラスト処理であることを特徴とする請求項1に記載の銅または銅合金板材の製造方法。
  3. 前記溶射が、アーク溶射であることを特徴とする請求項1または2に記載の銅または銅合金板材の製造方法。
  4. 前記ブラスト処理工程を行う前に、脱脂工程および酸洗浄工程の少なくともいずれかを行うことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の銅または銅合金板材の製造方法。
  5. 銅または銅合金素材からなる板材と、前記銅または銅合金素材からなる板材上に形成されたSn層と、前記Sn層上に形成されたZnまたはZn合金層とを有し、
    前記ZnまたはZn合金層の平均厚さが10μm以上30μm以下であり、
    前記ZnまたはZn合金層を外側に向けたR/t=2.0の180°曲げ試験において、折り曲げ部外側表面で前記ZnまたはZn合金層の剥がれが生じないことを特徴とする銅または銅合金板材。
  6. 前記ZnまたはZn合金層が溶射皮膜であることを特徴とする請求項5に記載の銅または銅合金板材。
  7. 前記ZnまたはZn合金層が、前記銅または銅合金素材からなる板材の片面のみに形成されていることを特徴とする請求項5または6に記載の銅または銅合金板材。
  8. 前記ZnまたはZn合金層が、前記銅または銅合金素材からなる板材の板幅の半分以下の領域に形成されていることを特徴とする請求項5から7のいずれかに記載の銅または銅合金板材。
  9. 前記銅または銅合金素材からなる板材と前記Sn層の間に、CuSn合金層を有することを特徴とする請求項5から8のいずれかに記載の銅または銅合金板材。
  10. 前記銅または銅合金素材からなる板材と前記CuSn合金層の間に、Ni層、Ni合金層、およびCu層の少なくともいずれかの層を有することを特徴とする請求項9に記載の銅または銅合金板材。
  11. 請求項5から10のいずれかに記載の銅または銅合金板材を用いて作製された、電線と圧着加工により接続されることを特徴とする端子。
  12. 前記電線がAlまたはAl合金であることを特徴とする請求項11に記載の端子。
  13. 自動車用途に用いられることを特徴とする請求項11または12に記載の端子。
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