(ダイカストマシンの全体構成)
図1は、本開示の実施形態に係るダイカストマシン1の要部の構成を示す、一部に断面図を含む側面図である。
ダイカストマシン1は、未凝固状態の金属材料を金型101内へ射出し、金属材料を金型101内で凝固させることにより、ダイカスト品(製品)を製造するものである。金属は、例えば、アルミニウム若しくはマグネシウム又はこれらの合金である。未凝固状態は、液状又は固液共存状態である。固液共存状態は、液状から凝固した半凝固状態、又は固体から溶融した半溶融状態である。
金型101は、例えば、固定金型103及び移動金型105を含んでいる。本実施形態の説明では、便宜上、固定金型103又は移動金型105の断面を1種類のハッチングで示すが、これらの金型は、直彫り式のものであってもよいし、入れ子式のものであってもよい。また、固定金型103及び移動金型105には、中子などが組み合わされてもよい。金型101内の空間は、例えば、製品に対応する部分であるキャビティCa、キャビティCaに金属材料を導く湯道(符号省略)、キャビティCaと湯道との境界であるゲートGt(図2参照)、及び先走りの金属材料を引き込む湯だまり(不図示)を含んでいる。
ダイカストマシン1は、例えば、鋳造のための機械的動作を行うマシン本体部3と、マシン本体部3の動作を制御する制御ユニット5とを有している。
マシン本体部3は、例えば、金型101の開閉及び型締めを行う型締装置7と、金型101内に金属材料を射出する射出装置9と、ダイカスト品を固定金型103又は移動金型105(図1では移動金型105)から押し出す押出装置11とを有している。マシン本体部3の構成は、射出装置9の構成を除いて、公知の種々の構成と同様とされてよい。
鋳造サイクルにおいて、型締装置7は、移動金型105を固定金型103へ向かって移動させ、型閉じを行う。さらに、型締装置7は、タイバー(符号省略)の伸長量に応じた型締力を金型101に付与して型締めを行う。型締めされた金型101内にはキャビティCaが構成される。射出装置9は、そのキャビティCaへ金属材料を射出・充填する。キャビティCaに充填された金属材料は、金型101に熱を奪われて冷却され、凝固する。これにより、製品が形成される。その後、型締装置7は、移動金型105を固定金型103から離れる方向へ移動させて型開きを行う。この際又はその後、押出装置11は、移動金型105から製品を押し出す。
制御ユニット5は、例えば、各種の演算を行って制御指令を出力する制御装置13(図2参照)と、画像を表示する表示装置15と、オペレータの入力操作を受け付ける入力装置17とを有している。また、別の観点では、制御ユニット5は、例えば、電源回路及び制御回路等を有する不図示の制御盤と、ユーザインターフェースとしての操作部19とを有している。
制御装置13は、例えば、不図示の制御盤及び操作部19に設けられている。制御装置13は、適宜に分割乃至は分散して構成されてよい。例えば、制御装置13は、型締装置7、射出装置9及び押出装置11毎の下位の制御装置と、この下位の制御装置間の同期を図るなどの制御を行う上位の制御装置とを含んで構成されてよい。
表示装置15及び入力装置17は、例えば、操作部19に設けられている。操作部19は、例えば、型締装置7の固定的部分に設けられている。表示装置15は、例えば、液晶表示ディスプレイ乃至は有機ELディスプレイを含んだタッチパネルによって構成されている。入力装置17は、例えば、機械式のスイッチ及び前記のタッチパネルによって構成されている。
なお、ダイカストマシン1のうち射出装置9に着目する場合において、制御ユニット5は、射出装置9の一部として捉えられてよい。制御ユニット5の構成要素(制御装置13、表示装置15又は入力装置17)についても同様である。以下では、制御装置13、表示装置15及び/又は入力装置17について、射出装置9の一部として説明することがある。
(射出装置の全体構成)
図2は、射出装置9の要部の構成を示す模式図である。
射出装置9は、例えば、キャビティCaに連通するスリーブ21と、スリーブ21内の金属材料をキャビティCaへ押し出すプランジャ23と、プランジャ23を駆動する駆動部25と、駆動部25を制御する制御装置13とを有している。これらの構成は、例えば、以下のとおりである。
スリーブ21は、例えば、固定金型103に挿通された筒状部材である。プランジャ23は、スリーブ21内を前後方向に摺動可能なプランジャチップ23aと、プランジャチップ23aに固定されたプランジャロッド23bとを有している。スリーブ21の上面に形成された給湯口21aから金属材料がスリーブ21内に供給され、プランジャチップ23aがスリーブ21内をキャビティCaに向かって摺動する(前進する)ことにより、金属材料はキャビティCaに射出される。
(駆動部の構成)
駆動部25は、例えば、電動式のものであり、回転式の電動機27と、電動機27の回転を伝達するプーリ・ベルト機構29と、プーリ・ベルト機構29によって伝達された回転を並進運動に変換するねじ機構31と、ねじ機構31とプランジャ23との間に介在する中継部材33と、を有している。
電動機27は、特に図示しないが、界磁及び電機子の一方を構成するステータと、界磁及び電機子の他方を構成し、ステータに対して回転するロータとを有している。電動機27は、適宜な形式のものとされてよく、例えば、直流電動機であってもよいし、交流電動機であってもよいし、同期電動機であってもよいし、誘導電動機であってもよいし、ブレーキ付のものであってもよい。
電動機27には、ドライバ35によって電力が供給される。ドライバ35は、例えば、電動機27の回転を検出する不図示のセンサ(例えばエンコーダ)の検出値に基づいて、回転数のフィードバック制御を行うことが可能である。また、ドライバ35は、例えば、電動機27に流れる電流を検出し、その検出値に基づいてトルクのフィードバック制御を行うことが可能である。
プーリ・ベルト機構29は、例えば、電動機27の出力軸に固定された第1プーリ37と、第1プーリ37に掛けられたベルト39と、ベルト39が掛けられた第2プーリ41とを有している。ベルト39は、例えば、歯付ベルトであってもよいし、歯が付いていないものであってもよい。電動機27の回転は、第1プーリ37からベルト39を経由して第2プーリ41に伝えられる。
ねじ機構31は、例えば、ボールねじ機構又は滑りねじ機構によって構成されている。ねじ機構31は、例えば、第2プーリ41に同軸に固定されたねじ軸43と、ねじ軸43に螺合するナット45とを有している。ねじ軸43は、例えば、不図示の軸受により、軸回りの回転が許容されているとともに軸方向の移動が規制されている。一方、ナット45は、例えば、不図示のガイドによって、軸回りの回転が規制されているとともに軸方向の移動が許容されている。従って、電動機27の回転がねじ軸43に伝達されると、ナット45がその軸方向に移動する。
中継部材33は、例えば、概略筒状の形状であり、内部にねじ軸43を収容しつつ後端がナット45に固定されている。また、中継部材33の前端は、プランジャ23の後端に固定されている。従って、ナット45が前進すると、その駆動力は中継部材33を介してプランジャ23に伝達され、プランジャ23も前進する。
中継部材33とプランジャ23との固定は、例えば、カップリング47を介してなされている。カップリング47は、例えば、一般的な油圧式射出装置において射出シリンダのピストンロッドとプランジャ23とを連結するものと同様でよい。中継部材33の先端には、特に符号を付さないが、射出シリンダのピストンロッドの先端と同様に、軸部とフランジとからなる連結部が構成されている。
(射出装置のセンサ)
射出装置9は、例えば、プランジャ23の位置を検出する位置センサ49と、プランジャ23に付与している力を検出する力センサ51とを有している。
位置センサ49の構成は適宜なものとされてよい。例えば、位置センサ49は、中継部材33に設けられた不図示のスケール部とともに磁気式又は光学式のリニアエンコーダを構成するものであってもよいし、プランジャ23に固定的な部材との距離を計測するレーザー測長器によって構成されてもよい。
位置センサ49、又は制御装置13は、検出位置の微分値であるプランジャ23の速度(射出速度)を取得(検出)することも可能である。この観点においては、位置センサ49は、速度センサとして捉えられてもよい。
力センサ51は、例えば、ロードセルを含んで構成されており、中継部材33とナット45との間に介在し、ナット45から中継部材33へ伝えられる力(圧縮力および引張力)を検出する。ロードセルの構成は適宜なものとされてよく、例えば、歪ゲージ式である。その他、ロードセルは、ばね式、圧電式、磁歪式、静電容量式又はジャイロ式であってもよい。
制御装置13は、力センサ51の検出した力及びプランジャチップ23aの径(断面積)に基づいて、プランジャ23が金属材料に付与している圧力(射出圧力)を算出することができる。この観点においては、力センサ51は、圧力センサと捉えられてもよい。また、プランジャ23の径は、鋳造サイクル中に変化することはないから、本開示において、射出圧力の検出値は、力の検出値と同義であるものとする。
(制御装置)
制御装置13においては、例えば、CPUがROM及び/又は外部記憶装置に記憶されているプログラムを実行することによって、各種の動作を行う複数の機能部が構築される、複数の機能部は、例えば、速度制御部53及び圧力制御部55である。
速度制御部53は、例えば、位置センサ49の検出値に基づいて、射出速度が所望の値に収束するように電動機27を制御する。圧力制御部55は、例えば、力センサ51の検出値に基づいて、射出圧力が所望の値に収束するように電動機27を制御する。なお、制御量(射出速度又は射出圧力)を所望の値に収束させるフィードバック制御は、制御遅れ等に起因して、制御量が所望の範囲に収まるように制御しているように見える結果(例えば上限値を規制しているかのように見える結果)を招いても構わない。
(射出装置の動作)
図3(a)〜図3(c)は、射出装置9の動作を説明するための模式図である。これらの図は、図2の状態から、図3(a)、図3(b)、図3(c)の順で、射出工程が進行していく様子を示している。
スリーブ21に未凝固の金属材料Mが供給されると、射出装置9は、図3(a)、図3(b)及び図3(c)に示すように、プランジャ23を前進させていく。これにより、金属材料Mは、ゲートGtよりも手前にある状態(図3(a))から、ゲートGtを超えてキャビティCaに流れ込んでいる状態(図3(b))を経由して、キャビティCaに対する充填が完了した状態(図3(c))へと移行していく。
一般的な射出装置においては、図3(a)及び図3(b)の状態においては、射出速度を所望の値に維持する速度制御が行われる。そして、図3(c)の状態に至ると、例えば、射出圧力を最終的な鋳造圧力(終圧)に至らせるための制御が行われる。
本実施形態に係る射出装置9においては、金属材料がゲートGtに到達する前は、図3(a)において速度制御部53から電動機27への指令を矢印で示しているように、従来と同様に、速度制御が行われる。しかし、従来とは異なり、図3(b)において圧力制御部55から電動機27への指令を矢印で示しているように、金属材料がキャビティCaに充填される前に、射出圧力を所望の値にするための圧力制御を開始する。なお、図3(c)に示すように、充填完了以後には、終圧(及び必要に応じて終圧に至るまでの所望の昇圧曲線)を得るための圧力制御が行われる。
(射出波形の例)
図4は、射出装置9における射出波形の例を示す図である。
この図において、横軸は、時間t(射出開始からの経過時間)を示す軸である。縦軸は、プランジャ23の位置D(射出開始時からの距離D)、射出速度V及び射出圧力Pの値を示す軸である。線L1は、位置Dの経時変化を示している。線L2は、射出速度Vの経時変化を示している。線L3は、射出圧力Pの経時変化を示している。
図4では、溶湯を層流充填するときの射出波形、又は固液共存金属を充填するときの射出波形を例に取っている。以下の説明も同様である。この図は、基本的には、位置D、速度V及び圧力Pの検出値の波形を示している。ただし、速度制御が行われている間の速度V、及び圧力制御が行われている間の圧力Pについては、目標値の波形が示されていると捉えられてもよい。後述する図5(a)〜図5(e)においても同様である。
時点t0は、射出開始時点である。射出の初期段階(時点t0〜時点t1)においては、速度Vは、例えば、概ね一定の値に制御される。位置Dの値は、速度Vに応じた量で増加する。圧力Pの値は0に近い値に維持される。
時点t1は、金属材料がゲートGtに到達したときに概ね対応している。金属材料がゲートGtに到達すると、ゲートGtの断面積が湯道の断面積よりも絞られていることなどから、速度Vは低下し始め、また、圧力Pは上昇し始める。位置Dは、速度Vの低下に伴って増加率が小さくなる。
時点t2は、金属材料のキャビティCaへの充填が概ね完了したときに対応している。金属材料は、オーバーフロー等を除いて、基本的には行き場を失うから、速度Vは略0になり、圧力Pは比較的急激に上昇する。位置Dは、速度Vが0になることに伴って一定値となる。
(充填工程中の制御)
金属材料がゲートGtに到達してから金属材料のキャビティCaへの充填が完了するまで(時点t1〜t2)の工程を充填工程というものとする。図の下部には、制御の種類が速度制御又は圧力制御のいずれであるかが矢印によって示されている。図3(b)を参照して既に述べたように、一般には、充填工程において速度制御が行われるところ、本実施形態では、充填工程において圧力制御を行う。
オペレータは、例えば、入力装置17を介して、速度制御における目標速度及び圧力制御における目標圧力を経過時間又はプランジャ23の位置に対して設定する。なお、充填工程中の目標圧力については、制御装置13が自動的に設定してもよい。例えば、制御装置13は、オペレータが設定した最終的な鋳造圧力(終圧)に対して所定の割合(<1)を乗じた値を充填工程中の目標圧力として設定してよい。
(圧力制御の開始時期)
圧力制御は、充填工程の少なくとも一部において行われればよい。従って、圧力制御の開始時点は、時点t1よりも前であってもよいし、時点t1であってもよいし(図示の例)、時点t1よりも後(ただし、時点t2よりも前)であってもよい。
なお、本開示において、圧力制御が充填工程の少なくとも一部において行われているという動作には、充填完了時に圧力制御を開始する思想でありながら、制御の誤差又は制御遅れの補償等のために充填完了前に圧力制御が開始されるものは含まれないものとする。その判別は、圧力制御の開始条件等から可能であるが、単純に、圧力制御の開始時点と充填完了時点とを比較して判別してもよい。例えば、充填完了時よりも充填工程の長さの10%以上または50%以上前から圧力制御が開始されていれば、本実施形態のように充填工程の少なくとも一部において圧力制御が行われていると判定されてよい。
射出装置9(制御装置13)は、圧力制御の開始時点が到来したか否かを適宜に判断してよい。
例えば、プランジャ23が所定位置まで前進すると、金属材料がゲートGtに到達し、充填が開始される。従って、制御装置13は、位置センサ49の検出値が所定値Dtに到達したときに圧力制御を開始してよい。
また、例えば、金属材料がゲートGtに到達すると、射出速度が低下する。従って、制御装置13は、位置センサ49の検出値に基づく射出速度の検出値が所定値Vtまで低下したときに圧力制御を開始してよい。
また、例えば、金属材料がゲートGtに到達すると、射出圧力が上昇する。従って、制御装置13は、力センサ51の検出値に基づく射出圧力の検出値が所定値Ptまで上昇したときに圧力制御を開始してよい。
また、例えば、時々刻々と変化する目標位置にプランジャ23を位置させる位置制御によって実質的に速度制御を行っている場合においては、射出開始から所定の時間が経過すると金属材料がゲートGtに到達する。従って、制御装置13は、時間tが所定値(例えば時点t1)に到達したときに圧力制御を開始してよい。
図4では、所定値Dt、Vt及びPt等として、充填開始付近の値を例示している。ただし、これらは充填開始付近の値のものでなくてもよく、例えば、充填がある程度進行したときの値であってもよい。また、所定値Dt、Vt及びPtに加えて、又は代えて、これらの値の変化率が考慮されてもよい。
所定値Dt、Vt又はPt等は、例えば、オペレータによって入力装置17を介して制御装置13に入力され、保持される。また、例えば、制御装置13が鋳造条件に基づいて自動的に設定してもよい。
例えば、制御装置13は、入力装置17を介して入力された、ゲートGtから先の金属材料の充填質量、プランジャチップ23aの径、金属材料の種類(密度)及びビスケット厚(充填完了時の位置D)に基づいて、金属材料がゲートGtに到達する位置を算出し、この算出した位置を所定値Dtとして設定してよい。
また、例えば、制御装置13は、入力装置17を介して設定された、充填工程直前の射出速度の目標値に基づいて、所定値Vtを算出してよい。より具体的には、例えば、目標値に所定の割合(<1)を乗じた値を所定値Vtとしてよい。
また、例えば、制御装置13は、入力装置17に介して設定された、充填工程中又は充填工程後の射出圧力の目標値に基づいて、所定値Ptを算出してよい。より具体的には、例えば、目標値に所定の割合(<1)を乗じた値を所定値Ptとしてよい。
(圧力波形の例)
図5(a)〜図5(e)は、充填工程における圧力波形の種々の例を示す図である。これらの図では、図4の時点t1〜t2までの期間を中心として、圧力Pの経時変化が示されている。
図5(a)は、充填工程の概ね全体に亘って射出圧力が一定に維持される態様を例示している。図5(b)は、充填工程の概ね全体に亘って射出圧力を線形に増加させていく態様を例示している。図5(c)は、充填工程の概ね全体に亘って射出圧力の経時変化が上方へ膨らむ曲線状になる態様を例示している。図5(d)は、充填工程の概ね全体に亘って射出圧力の経時変化が下方へ凹む曲線状になる態様を例示している。図5(e)は、充填工程中に射出圧力が多段に変化する態様を例示している。このように、充填工程中の圧力波形は、種々設定されてよい。
(処理手順)
図6は、射出装置9(制御装置13)が金属材料を金型101内に射出するために実行する射出処理の手順の例を示すフローチャートである。この処理は、ダイカストマシン1において鋳造サイクルが行われる度に実行される。
ステップST1では、制御装置13は、射出開始条件が満たされたか否か判定する。射出開始条件は、例えば、不図示の給湯装置によってスリーブ21に1ショット分の金属材料が供給されたことなどである。そして、制御装置13は、肯定判定の場合は、ステップST2に進み、否定判定のときは、待機してステップST1を繰り返す。
ステップST2では、制御装置13(速度制御部53)は速度制御を行う(図4の時点t0〜t1)。具体的には、例えば、制御装置13は、位置センサ49の検出速度に基づいて、射出速度が目標速度に収束するように電動機27の回転数を制御する。すなわち、制御装置13は、速度フィードバック制御を行う。既に述べたように、位置センサ49の検出位置に基づいて、時々刻々変化する目標位置へ位置制御が行われ、実質的に速度フィードバック制御が行われてもよい。
ステップST3では、制御装置13は、速度制御から圧力制御へ切り換える切換条件が満たされたか否か判定する。切換条件は、図4を参照して説明したように、例えば、位置Dが所定値Dtに到達したこと、速度Vが所定値Vtまで降下したこと、圧力Pが所定値Pまで上昇したこと等である。そして、制御装置13は、肯定判定の場合は、ステップST4に進み、否定判定のときは、ステップST2に戻り、速度制御を継続する。
ステップST4では、制御装置13(圧力制御部55)は圧力制御を行う(図4の時点t1〜)。具体的には、例えば、制御装置13は、力センサ51が検出する力に基づいて、射出圧力が目標圧力に収束するように電動機27のトルクを制御する。すなわち、制御装置13は、圧力フィードバック制御を行う。この圧力制御においては、例えば、充填工程中の圧力制御(時点t1〜t2)に続いて、充填工程後の増圧及び保圧(時点t2〜)のための制御も行われる。保圧は、電動機27の圧力制御ではなく、ブレーキによってなされてもよい。
ステップST5では、制御装置13は、射出終了条件が満たされたか否か判定する。射出終了条件は、例えば、所定時点(例えば射出開始時点又は終圧が得られた時点)から所定の時間が経過したことである。そして、制御装置13は、肯定判定の場合は圧力制御(具体的には保圧)を終了し、否定判定のときは、ステップST4に戻り、圧力制御を継続する。
以上のとおり、本実施形態では、射出装置9は、金型101内に通じるスリーブ21内を摺動可能なプランジャ23を駆動可能な電動機27と、金型101のキャビティCaに液状又は固液共存状態の金属材料が行き渡る前の、キャビティCaに金属材料が充填されている充填工程の少なくとも一部に亘って、射出圧力Pの検出値に基づいて電動機27を制御する圧力制御を行う制御装置13と、を有している。
従って、例えば、圧力制御によって射出速度が好適に調整され、品質を向上させることが可能である。具体的には、以下のとおりである。
例えば、キャビティCaに細い部分(例えば断面積がゲートGtの断面積よりも小さい部分)がある場合、金属材料が当該細い部分に到達すると、プランジャ23の速度V(射出速度)が一定であっても、当該細い部分における金属材料の速度は上昇する。その結果、例えば、焼き付きが生じてしまう。その一方で、射出速度を遅くすれば、巣の一種であるブリスターが生じてしまう。
一般に、充填工程中の射出速度は一定とされている。ここで、充填工程中の目標速度をプランジャ23の位置に応じて種々の値に変化させることによって、上記のような問題を解決することが考えられる。しかし、そのような目標速度の設定は、オペレータにとって非常に困難であり、また、オペレータに多大な負担を強いることになる。さらに、金型が交換される度に、そのような困難又は負担が大きい設定をしなければならない。
一方、本実施形態の射出装置においては、圧力制御を行っていることから、例えば、目標圧力が一定値の場合、金属材料が細い部分に到達して射出圧力が上昇しようとすると、射出圧力の上昇を抑制するように電動機27のトルクが減じられる。その結果、細い部分に流れ込む金属材料の速度の上昇も抑制される。すなわち、キャビティCaの形状及び金属材料のキャビティCa内における到達状況に応じた速度調整が自動的になされることになる。その結果、例えば、焼き付き及びブリスターが抑制される。
なお、上記のような効果は、目標圧力が一定値である場合だけでなく、目標圧力が時間経過(プランジャ23の位置)に応じて変化している場合においても同様に奏される。例えば、目標圧力が経過時間に対して上昇していたとしても、その上昇量が、射出速度を一定にする速度制御を行った場合の圧力上昇量に比較して小さければ、焼き付きは抑制される。
制御装置13は、プランジャ23の位置Dの検出値が所定値Dtに到達したときに圧力制御を開始してよい。この場合、例えば、金属材料のゲートGtへの到達に遅れることなく圧力制御を開始することができる。圧力制御の開始の判定に、金属材料がゲートGtに到達することによる射出速度又は射出圧力の変化が不要であることから、金属材料がゲートGtに到達する前に圧力制御を開始することも容易である。
また、制御装置13は、射出圧力Pの検出値が所定値Ptまで上昇したときに圧力制御を開始してもよい。この場合、例えば、金属材料がゲートGtに到達したときの他、金属材料がキャビティCaの細い部分に到達したようなときに圧力制御を開始することも可能である。また、例えば、射出圧力を基準とすることから、圧力制御への切換前後における圧力波形を滑らかにすることが容易である。
また、制御装置13は、射出速度Vの検出値が所定値Vtまで降下したときに圧力制御を開始してもよい。この場合、例えば、金属材料がゲートGtに到達したときの他、金属材料がキャビティCaの細い部分に到達したようなときに圧力制御を開始することも可能である。また、例えば、射出速度を基準とすることから、圧力制御開始前に減速制御を行って、圧力制御開始前の速度波形を滑らかにすることが可能である。
(射出処理の第1変形例)
図7は、第1変形例に係る射出処理の手順の例を示すフローチャートであり、図6に相当するものである。
図6の射出処理では、射出の初期段階においては速度制御が行われ、その後、所定の切換条件が満たされると、圧力制御が行われた。一方、図7の射出処理では、射出開始から基本的に圧力制御が行われる。この場合、金属材料がゲートGtに到達して射出圧力が上昇する前においては、射出速度が必要以上に上昇するおそれがある。そこで、射出速度が所定の上限速度に到達したときは、一時的に圧力制御に優先して、射出速度を上限速度以下に規制する制御を行う。具体的には、以下のとおりである。
ステップST11は、図6のステップST1と同様であり、当該ステップでは、射出開始条件が満たされたか否か判定される。ただし、肯定判定がなされた場合、図6とは異なり、圧力制御(ステップST12)が行われる。すなわち、射出開始から圧力制御が行われる。ステップST12自体は、例えば、図6のステップST4と同様である。
ステップST13では、制御装置13は、位置センサ49の検出速度が所定の上限速度Vmaxを超えたか否か判定する。そして、制御装置13は、肯定判定のときはステップST14に進み、否定判定のときはステップST12に戻り、圧力制御を継続する。
なお、上限速度Vmaxは、オペレータが設定してもよいし、射出装置9の製造者が予め設定しておいてもよいし、制御装置13が種々の条件に基づいて設定してもよい。また、ステップST13で肯定判定がなされるのは、基本的には、金属材料がゲートGtに到達して充填抵抗が上昇する前(充填工程前)である。
ステップST14では、制御装置13は、射出速度を上限速度以下に規制するための制御を行う。この制御は、例えば、上限速度又は上限速度よりも所定量で低い速度を目標速度として、図6のステップST2と同様の速度フィードバック制御を所定時間だけ行うものであってよい。また、例えば、速度制御ではなく、予め定められた量で、又は予め定められた圧力へ、一時的に目標圧力が下げられて、圧力制御が継続されてもよい。また、例えば、予め定められた量で操作量(電圧、電流及び又は周波数)が下げられてもよい。
なお、ステップST14においてどのような制御が行われていても、ステップST13及びST14の全体では射出速度の上限を規制しているので、ステップST13及びST14の全体は、速度制御と捉えられてもよい。また、ステップST14で圧力制御が行われていても、本開示においては、ステップST12の圧力制御とは別のものとして表現する。
ステップST15は、図6のステップST5と同様であり、当該ステップでは、射出終了条件が満たされたか否か判定される。否定判定がなされた場合、制御装置13は、ステップST12に戻る。
ステップST12〜ST15により、射出終了条件が満たされるまでの間、射出速度Vが上限速度Vmaxを超えない限り、図6のステップST4と同様に、圧力制御が継続されることになる。そして、充填工程中の圧力制御、増圧及び保圧が順次行われ、保圧が行われている間に、ステップST15の肯定判定がなされ、処理が終了することになる。
以上のように、圧力制御は、速度制御の後に開始されるのではなく、射出開始から行われてもよい。第1変形例によれば、例えば、圧力制御の開始時点を設定しなくてもよく、オペレータの負担が軽減される。なお、第2変形例では、制御装置13の制御によって射出速度が上限速度以下に規制されているが、機械的に規制がなされてもよい。
(射出処理の第2変形例)
図8は、第2変形例に係る射出処理の手順の例を示すフローチャートであり、図6に相当するものである。
実施形態では、圧力制御は、射出圧力を目標圧力に収束させる制御であった。これに対して、第2変形例では、圧力制御は、射出圧力を所定の上限圧力以下(所定の範囲内)に規制する制御である。具体的には、以下のとおりである。
ステップST21及びST22は、図6のステップST1及びST2と同様である。すなわち、射出の初期段階において速度制御が行われる。
ステップST23では、制御装置13は、力センサ51の検出圧力Pが所定の上限圧力Pmaxを超えたか否か判定する。そして、制御装置13は、肯定判定のときはステップST24に進み、否定判定のときはステップST24をスキップする。
なお、上限圧力Pmaxは、オペレータが設定してもよいし、射出装置9の製造者が予め設定しておいてもよいし、制御装置13が種々の条件に基づいて設定してもよい。また、ステップST23で肯定判定がなされるのは、基本的には、金属材料がゲートGtに到達して射出抵抗が上昇した後(充填工程開始以後)である。
ステップST24では、制御装置13は、射出圧力を上限圧力以下に規制するための制御を行う。この制御は、例えば、上限圧力又は上限圧力よりも所定量で低い圧力を目標圧力として、図6のステップST4と同様の圧力フィードバック制御を所定時間だけ行うものであってよい。また、例えば、圧力制御ではなく、予め定められた量で、又は予め定められた速度へ、一時的に目標速度が下げられて、速度制御が継続されてもよい。また、例えば、予め定められた量で操作量(電圧、電流及び又は周波数)が下げられてもよい。
なお、ステップST24においてどのような制御が行われていても、ステップST23及びST24の全体では射出圧力の上限を規制しているので、ステップST23及びST24の全体は、圧力制御と捉えられてよい。この圧力制御も、本開示にいう、充填工程の少なくとも一部に亘って行われる圧力制御の一例である。
ステップST25では、制御装置13は、所定の増圧開始条件が満たされたか否か判定する。そして、制御装置13は、肯定判定のときは、ステップST25に進み、否定判定のときはステップST22に戻り、速度制御を継続する。
増圧開始条件は、オペレータが入力装置17を介して設定してもよいし、製造者が予め設定していてもよいし、制御装置13が種々の条件に基づいて設定してもよい。例えば、増圧開始条件は、金属材料がキャビティCaに充填されたとき(充填工程完了時)に概ね一致するように設定される。より具体的には、増圧開始条件は、例えば、プランジャ23の位置Dが所定位置に到達したこと、射出圧力が所定値まで上昇したこと、又は射出速度が所定値まで降下したことである。
ステップST26では、制御装置13は、増圧及び保圧のための圧力制御を行う。このステップは、図6のステップST4の圧力制御のうち、充填工程完了後の部分に相当する。
ステップST27は、図6のステップST5と同様であり、当該ステップでは、射出終了条件が満たされたか否か判定される。ただし、否定判定がなされた場合、制御装置13は、ステップST26に戻り、増圧又は保圧のための圧力制御を行う。
以上のように、充填工程中の圧力制御は、速度制御において、射出圧力の上限を規制するものであってもよい。第2変形例によれば、例えば、オペレータは、一般的な射出装置と同様に、充填工程完了までの速度及び増圧開始後の圧力を設定することができる。
(圧力制御処理の変形例)
実施形態では、図5(e)を参照して、目標圧力が多段に設定されてよいことについて述べた。また、実施形態では、目標圧力は、オペレータの入力装置17に対する入力によって(又は制御装置13によって)、経過時間又はプランジャ23の位置に対して設定されてよいことについて述べた。換言すれば、制御装置13は、圧力制御中に経過時間又はプランジャ23の位置に応じて目標圧力を変化させてよいことについて述べた。本変形例では、制御装置13は、検出圧力に応じて目標圧力を変化させる。
図9は、第3変形例に係る圧力制御処理の手順の例を示すフローチャートである。この処理は、例えば、図6のステップST4又は図7のステップST12において実行される。ここでは、検出圧力が2段の目標圧力(第1目標圧力P1及び第1目標圧力P1よりも高い第2目標圧力P2)に追従するように制御される場合を例に取る。
ステップST31では、制御装置13は、力センサ51の検出圧力Pが、予め設定されている第1目標圧力P1に追従するように電動機27のトルクを制御する。すなわち、制御装置13は、圧力フィードバック制御を行う。
フィードバック制御が行われているから、理想的には、検出圧力Pは、一定であり(第1目標圧力に追従しており)、変動しない。しかし、実際には、例えば、既に述べたように、金属材料がキャビティCaの細い部分に到達すると、検出圧力Pは急激に上昇しようとする。そして、制御の時間遅れによって、検出圧力Pは変動し得る。
ステップST32では、制御装置13は、検出圧力Pの所定時間内における変化量ΔPが、所定の閾値ΔPhを超えたか否か判定する。そして、制御装置13は、否定判定のときは、ステップ31に戻り、検出圧力Pを第1目標圧力P1へ追従させる制御を継続し、肯定のときは、ステップST33に進む。
ステップST33では、制御装置13は、力センサ51の検出圧力Pが、予め設定されている第2目標圧力P2に追従するように電動機27のトルクを制御する。すなわち、制御装置13は、圧力フィードバック制御を行う。
このように、本変形例では、検出圧力Pの所定時間内における変化量ΔPが閾値Phを超えたときに、目標圧力を第1目標圧力P1から第2目標圧力P2へ切り換える。換言すれば、制御装置13は、金属材料が所定位置(キャビティCa内の細い部分)に到達したときに、目標圧力を切り換える。
以上の変形例では、例えば、まず、実施形態と同様に、充填工程において圧力制御を行っていることから、充填工程において速度制御を行う場合に比較して、金属材料のキャビティCa内における進行状況に応じて自動的に金属材料の速度が調整され、焼き付き及びブリスターが抑制される。
また、例えば、充填工程において射出圧力を多段に変化させる(例えば大きくする)ことにより、例えば、比較的低い一定の射出圧力を継続する場合に比較して、金属材料をキャビティCaの各部に行き渡らせ、確実に製品の形状に圧縮することが容易化される。また、例えば、比較的高い一定の射出圧力を継続する場合に比較して、不必要に高速で射出がなされ、空気の巻き込み及び/又は焼き付きが生じるおそれが低減される。
さらに、変化量ΔPに応じて目標圧力を切り換えることにより、金属材料のキャビティCa内における進行状況に応じて射出圧力を上昇させることができる。すなわち、プランジャ23の位置に対する金属材料のキャビティCa内における進行状況を予測する等の困難かつ煩雑な作業を要することなく、適切なタイミングで射出圧力の多段制御を行うことができる。
充填工程において速度制御を行い、かつ目標速度を金属材料の圧力に応じて自動的に切り換える態様が考えられる。この場合、制御装置13は、例えば、金属材料に圧力上昇が生じた場合、その影響が電動機27の検出位置に現れ、ひいては、電動機27の検出位置から算出したトルクに変化が生じたときに、圧力上昇を検知することになる。一方、本変形例では、制御装置13は、圧力制御に検出圧力を利用していることから、この検出圧力に基づいて即座に圧力上昇を検知することができる。その結果、より精度の高い制御が可能になる。
なお、所定時間内の変化量ΔPの所定時間、及び/又は閾値ΔPhは、例えば、オペレータが入力装置17を介して適宜に設定してもよいし、制御装置13が目標圧力に基づいて自動的に設定してもよい。また、所定時間は、例えば、制御遅れ等を考慮して適宜に設定されてよく、また、フィードバック制御の時間刻みよりも短くてもよいし、同等でもよいし、長くてもよい。
特に図示しないが、圧力制御開始時の比較的大きな偏差によってステップST32において肯定判定がなされないように、経過時間及び/又はプランジャ23の位置が所定値を超えたか否か等の判定がステップST32に組み合わされてよい。
上記では2段制御を例示したが、3段以上の制御であってもよい。また、例えば、図5(b)〜図5(d)のように目標圧力を徐々に変化させる態様において、検出圧力に応じて変化率(傾き)を切り換えてもよい。なお、この変化率を変化させる動作も、広い意味では目標圧力を変化させる動作である。
本発明は、以上の実施形態及び変形例に限定されず、種々の態様で実施されてよい。
ダイカストマシンは、横型締横射出に限定されず、例えば、縦型締縦射出、横型締縦射出、縦型締横射出であってもよい。射出装置以外(型締装置及び押出装置等)の構成は任意である。例えば、ダイカストマシン内の駆動部は、射出装置の駆動部を除いて、油圧式であってもよいし、電動式であってもよい。また、例えば、型締装置は、トグル式であってもよいし、型開閉と型締めとが別個の駆動部によって行われる複合式であってもよい。
射出装置は、プランジャを駆動可能な電動機を含み、射出圧力を検出可能な構成であればよく、実施形態の構成は一例に過ぎない。
例えば、射出装置の駆動部は、射出の進行に伴って順次駆動される(一部の期間が重複していてもよい)、互いに性能が異なる複数の電動機を有していてもよいし、共に同様の制御がなされる同種の複数の電動機を有していてもよい。
電動機は、回転式のものに限定されず、リニアモータであってもよい。また、回転式の電動機の回転を直線運動に変換する変換機構は、ねじ機構に限定されず、例えば、ラック・ピニオン機構又はリンク機構であってもよい。ねじ機構は、ねじ軸及びナットの役割(いずれが回転又は直線運動するか)が、実施形態とは逆であってもよい。電動機の回転を変換機構(例えばねじ軸)に伝達する伝達機構は設けられなくてもよい。また、当該伝達機構は、プーリ・ベルト機構に限定されず、例えば、歯車機構であってもよいし、プーリ・ベルト機構以外の巻掛伝動機構(例えばスプロケット・チェーン機構)であってもよい。
射出波形は、層流充填用又は固液共存金属用のものに限定されない。例えば、一般的な、低速射出、高速射出、減速射出(減速制御を行うもの、又は減速制御は行われないが、金属材料の圧力によって減速されるもの)、増圧及び保圧を順次行うものであってもよい。この場合であっても、例えば、減速射出において実施形態と同様に圧力制御を開始したり、増圧開始前において第2変形例と同様に圧力制御を行ったりしてよい。
実施形態で説明したような、圧力制御によって速度を自動調整し、これにより焼き付き及びブリスターを低減する効果は必ずしも奏されなくてもよい。例えば、第3変形例において、第2目標圧力P2は、ステップST32で肯定判定がなされたときの速度を維持したときの圧力上昇量よりも大きい圧力差で、第1目標圧力P1よりも大きい値であってもよい。この場合であっても、例えば、金属材料のキャビティ内における進行状況に応じて(適切なタイミングで)目標圧力を変化させることができるという効果が奏される。