(ダイカストマシンの全体構成)
図1は、本開示の実施形態に係るダイカストマシン1の要部の構成を示す、一部に断面図を含む側面図である。なお、紙面上下方向は鉛直方向であり、紙面左右方向及び紙面貫通方向は水平方向である。
ダイカストマシン1は、未硬化状態の金属材料を金型101内(キャビティCa等の空間。以下同様。)へ射出し、金属材料を金型101内で凝固させることにより、ダイカスト品(成形品)を製造するものである。未硬化状態は、例えば、液状又は固液共存状態である。固液共存状態は、液状から凝固が進んだ半凝固状態、又は固体状から溶融が進んだ半溶融状態である。金属は、例えば、アルミニウム又はアルミニウム合金である。なお、以下では、未硬化の金属材料として、溶湯(液状の金属材料)を例に取ることがある。
金型101は、例えば、固定金型103及び移動金型105を含んでいる。本実施形態の説明では、便宜上、固定金型103又は移動金型105の断面を1種類のハッチングで示すが、これらの金型は、直彫り式のものであってもよいし、入れ子式のものであってもよい。また、固定金型103及び移動金型105には、中子などが組み合わされてもよい。
ダイカストマシン1は、例えば、成形のための機械的動作を行うマシン本体3と、マシン本体3の動作を制御する制御ユニット5とを有している。
マシン本体3は、例えば、金型101の開閉及び型締めを行う型締装置7と、金型101内に溶湯を射出する射出装置9と、ダイカスト品を固定金型103又は移動金型105(図1では移動金型105)から押し出す押出装置11とを有している。射出装置9を除いて、マシン本体3は、公知の種々の構成と同様とされてよい。
成形サイクルにおいて、型締装置7は、移動金型105を固定金型103へ向かって移動させ、型閉じを行う。さらに、型締装置7は、タイバー(符号省略)の伸長量に応じた型締力を金型101に付与して型締めを行う。型締めされた金型101内には成形品と同一形状のキャビティCaが構成される。射出装置9は、そのキャビティCaへ溶湯を射出・充填する。キャビティCaに充填された溶湯は、金型101に熱を奪われて冷却され、凝固する。これにより、成形品が形成される。その後、型締装置7は、移動金型105を固定金型103から離れる方向へ移動させて型開きを行う。この際、又はその後、押出装置11は、移動金型105から成形品を押し出す。
制御ユニット5は、例えば、各種の演算を行って制御指令を出力する制御装置13(図2参照)と、画像を表示する表示装置15と、オペレータの入力操作を受け付ける入力装置17とを有している。また、別の観点では、制御ユニット5は、例えば、電源回路及び制御回路等を有する不図示の制御盤と、ユーザインターフェースとしての操作部19とを有している。
制御装置13は、例えば、不図示の制御盤及び操作部19に設けられている。制御装置13は、適宜に分割乃至は分散して構成されてよい。例えば、制御装置13は、型締装置7、射出装置9及び押出装置11毎の下位の制御装置と、この下位の制御装置間の同期を図るなどの制御を行う上位の制御装置とを含んで構成されてよい。
表示装置15及び入力装置17は、例えば、操作部19に設けられている。操作部19は、例えば、型締装置7の固定的部分に設けられている。表示装置15は、例えば、液晶表示ディスプレイ乃至は有機ELディスプレイを含んだタッチパネルによって構成されている。入力装置17は、例えば、機械式のスイッチ及び前記のタッチパネルによって構成されている。
なお、ダイカストマシン1のうち射出装置9に着目する場合において、制御ユニット5は、射出装置9の一部として捉えられてよい。制御ユニット5の構成要素(制御装置13、表示装置15又は入力装置17)についても同様である。以下では、制御装置13等について、射出装置9の一部として説明することがある。
(射出装置の全体構成)
射出装置9の機械的部分は、公知の種々の構成と同様とされてよい。例えば、射出装置9は、金型101内に通じるスリーブ21と、スリーブ21内を摺動可能なプランジャ23と、プランジャ23を駆動する射出駆動部25とを有している。なお、射出装置9の説明においては、金型101側を前方、その反対側を後方ということがある。
スリーブ21は、例えば、固定金型103に連結された筒状部材であり、上面には溶湯をスリーブ21内に受け入れるための供給口21aが開口している。プランジャ23は、例えば、スリーブ21内を前後方向に摺動可能なプランジャチップ23aと、先端がプランジャチップ23aに固定されたプランジャロッド23bとを有している。
なお、本開示の説明において2つの部材が固定されているという場合、特に断りがない限り、2つの部材は、一体的に形成されることによって固定されていてもよいし、互いに接合されていてもよいし、ねじなどによって分離可能に連結されていてもよい。
型締装置7による金型101の型締めが完了すると、不図示の給湯装置によって1ショット分の溶湯が供給口21aからスリーブ21内へ注がれる。そして、プランジャ23が図示の位置からスリーブ21内を前方へ摺動することにより、スリーブ21内の溶湯が金型101内に押し出される(射出される)。
(射出駆動部)
図2は、射出装置9の構成(特に射出駆動部25、制御装置13及び各種センサ)を示す模式図である。
射出駆動部25は、例えば、液圧式のものとされており、プランジャ23を駆動する射出シリンダ27と、射出シリンダ27に対する作動液(例えば油)の供給等を行う液圧装置29とを有している。
(射出シリンダ)
射出シリンダ27は、例えば、いわゆる直結形の増圧式シリンダによって構成されている。具体的には、例えば、射出シリンダ27は、シリンダ部31と、シリンダ部31の内部を摺動可能な射出ピストン33及び増圧ピストン35と、射出ピストン33に固定され、シリンダ部31から延び出るピストンロッド37とを有している。
シリンダ部31は、例えば、射出シリンダ部31aと、射出シリンダ部31aの後端(ピストンロッド37の延び出る側とは反対側)に接続された増圧シリンダ部31bとを有している。射出シリンダ部31a及び増圧シリンダ部31bは、例えば、内部の断面形状が円形の筒状体である。増圧シリンダ部31bは、射出シリンダ部31aよりも大径に形成されている。
射出ピストン33は、射出シリンダ部31a内に配置されている。射出シリンダ部31aの内部は、射出ピストン33により、ピストンロッド37が延び出る側のロッド側室31rと、その反対側のヘッド側室31hとに区画されている。ロッド側室31r及びヘッド側室31hに選択的に作動液が供給されることにより、射出ピストン33はシリンダ部31内を前後方向に摺動する。
増圧ピストン35は、射出シリンダ部31aの後端部内(図示の例ではヘッド側室31h)を摺動可能な小径部35aと、増圧シリンダ部31bの内部を摺動可能な大径部35bとを有している。増圧シリンダ部31bの内部は、大径部35bにより、射出シリンダ部31a側の前側室31fと、その反対側の後側室31eとに区画されている。
従って、前側室31fの圧抜きを行うと、小径部35aのヘッド側室31hにおける作用面積と、大径部35bの後側室31eにおける作用面積との差に起因して、増圧ピストン35は、後側室31eの作動液から受ける圧力よりも高い圧力をヘッド側室31hの作動液に加えることが可能である。これにより、射出シリンダ27は、増圧機能を発揮する。
射出シリンダ27は、プランジャ23に対して同軸的に配置されている。そして、ピストンロッド37は、プランジャ23にカップリング(符号省略)を介して連結されている。シリンダ部31は、不図示の型締装置などに対して固定的に設けられている。従って、射出ピストン33のシリンダ部31に対する移動により、プランジャ23はスリーブ21内を前進又は後退する。
(液圧装置)
液圧装置29は、例えば、作動液を貯留するタンク39と、タンク39の作動液を送出可能なポンプ41(液圧源)と、蓄圧された作動液を放出可能なアキュムレータ43(液圧源)と、これら及び射出シリンダ27を互いに接続する複数の流路45A~45Dと、当該複数の流路における作動液の流れを制御する複数のバルブ47A~47Dとを有している。
液圧装置29においては、例えば、タンク39が収容している作動液がポンプ41によって流路45A及びバルブ47Aを介してアキュムレータ43に供給されることによって、アキュムレータ43が蓄圧される。なお、ポンプ41は、この他、不図示の流路を介して射出シリンダ27(例えばロッド側室31r及び/又は前側室31f)への作動液の供給に寄与してもよい。
また、例えば、アキュムレータ43から流路45B及びバルブ47Bを介してヘッド側室31hへ作動液が供給されることによって、射出ピストン33が前進する。このとき、ロッド側室31rの作動液は、例えば、流路45D及びバルブ47Dを介してタンク39に排出される。バルブ47Dは、例えば、圧力補償付流量制御弁(流量調整弁)であるとともにサーボバルブであり、バルブ47Dによってロッド側室31rから排出される作動液の流量が制御されることによって、射出ピストン33(プランジャ23)の速度が制御される。
また、例えば、アキュムレータ43から流路45C及びバルブ47Cを介して後側室31eへ作動液が供給されることによって、増圧ピストン35による増圧が行われる。このとき、前側室31fは、不図示の流路を介してタンク39に接続される。また、ロッド側室31rの作動液は、流路45D及びバルブ47Dを介してタンク39に排出される。ヘッド側室31hからの作動液の排出はバルブ47Bによって禁止される。
(各種のセンサ)
射出装置9は、射出駆動部25等の動作を把握するために種々のセンサを有している。例えば、射出装置9は、プランジャ23の位置及び速度を検出するための位置センサ49と、液圧系の種々の位置における液圧を検出するための種々の圧力センサとを有している。圧力センサとしては、例えば、アキュムレータ43の圧力を検出するACC圧力センサ51、ヘッド側室31hの圧力を検出するヘッド側圧力センサ53、及びロッド側室31rの圧力を検出するロッド側圧力センサ55が設けられている。
位置センサ49は、例えば、シリンダ部31に対するピストンロッド37の位置を検出し、プランジャ23の位置を間接的に検出する。位置センサ49の構成は適宜なものとされてよい。例えば、位置センサ49は、ピストンロッド37に固定的に設けられ、ピストンロッド37の軸方向に延びる不図示のスケール部とともに磁気式又は光学式のリニアエンコーダを構成するものであってもよいし、ピストンロッド37に固定された部材との距離を計測するレーザー測長器によって構成されてもよい。位置センサ49又は制御装置13は、検出されたプランジャ23の位置を微分することにより、プランジャ23の速度を取得(検出)することが可能である。
ACC圧力センサ51は、例えば、アキュムレータ43の気体室及び液体室のうち、液体室の圧力を検出する。射出装置9は、例えば、射出開始前に、ACC圧力センサ51の圧力が所定の圧力に到達するまでポンプ41からアキュムレータ43へ作動液を供給する。これにより、射出開始時のアキュムレータ43の圧力は、複数の成形サイクルに亘って一定とされる。
ヘッド側圧力センサ53及びロッド側圧力センサ55は、例えば、溶湯をキャビティCaに射出するときにプランジャ23が溶湯に加える圧力(射出圧力)等のプランジャ23が溶湯に加える圧力を間接的に検出することに利用される。例えば、制御装置13は、ヘッド側圧力センサ53の検出値と、ロッド側圧力センサ55の検出値と、射出ピストン33のヘッド側室31hにおける受圧面積と、射出ピストン33のロッド側室31rにおける受圧面積と、プランジャ23の溶湯に対する接触面積とに基づいて、プランジャ23が溶湯に付与する圧力を算出可能である。
なお、本開示の説明においては、射出圧力は、プランジャ23が溶湯(成形材料)に付与する圧力とする。従って、例えば、射出圧力の値は、金型101への溶湯の充填が完了する前等において、金型101内の圧力センサが検出する溶湯の圧力の値とは相違する。また、ヘッド側圧力センサ53及びロッド側圧力センサ55の組み合わせは、射出圧力を検出することになるから、以下の説明では、この組み合わせを「射出圧センサ57」ということがある。
(制御装置)
制御装置13は、例えば、CPU59、メモリ61、入力回路63、及び、出力回路65を含むコンピュータ58によって構成されている。
メモリ61は、例えば、ROM、RAM及び外部記憶装置を含んでいる。ROM及び/又は外部記憶装置には、例えば、品質管理プログラム67等のプログラムが記憶されている。CPU59がメモリ61に記憶されているプログラムを実行することにより、後述する各種の機能部(図5参照)が構築される。各種の機能部は、入力回路63を介して入力される入力信号に基づいて、各部を制御するための制御信号(制御指令)を出力回路65を介して出力する。
入力回路63に信号を入力する要素は、例えば、入力装置17、位置センサ49(信号S1参照)、ACC圧力センサ51(信号P1参照)、ヘッド側圧力センサ53(信号P2参照)、ロッド側圧力センサ55(信号P3参照)、バルブ47D(信号S2参照)、及びポンプ41を駆動する電動機42がサーボモータである場合における電動機42のエンコーダ(不図示)である。
出力回路65が信号を出力する要素は、例えば、表示装置15、電動機42を駆動する不図示のドライバ、サーボバルブとしてのバルブ47D、及びその他バルブ(47A~47C)へのパイロット圧の導入を制御する液圧回路である。
(射出装置の動作の概要)
図3は、射出装置9の動作の一例を説明するための図である。
この図において、横軸は、時間tを示しており、紙面右側ほど後の時刻であることを示している。紙面左側の縦軸は、射出速度V(プランジャ23の速度)及び射出圧力Pを示しており、紙面上方ほど値が大きいことを示している。紙面右側の縦軸は、プランジャ23の位置Dを示しており、紙面上方ほど金型101に近いことを示している。なお、本開示の説明において、位置Dは、金型101に近いほど値が大きいものとする(金型101側を正側とする)。線Ln1は、射出速度Vの経時変化を示している。線Ln2は、射出圧力Pの経時変化を示している。線Ln3は、プランジャ23の位置Dの経時変化を示している。
射出装置9は、例えば、概観すると、低速射出(概ね時点t0~t1)、高速射出(概ね時点t1~t2)、増圧(概ね時点t3~t4)及び保圧(概ね時点t4以降)を順に行う。
射出の初期段階において、比較的低速でプランジャ23を前進させる低速射出(t0~t1)が行われることによって、例えば、溶湯による空気の巻き込みが抑制される。続いて、比較的高速でプランジャ23を前進させる高速射出(t1~t2)が行われることによって、例えば、溶湯の凝固に遅れずに速やかに溶湯が金型101内に充填される。溶湯が金型101内に概ね充填された後、溶湯の圧力を上昇させる増圧(t3~t4)及び増圧した圧力を維持する保圧(t4~)が行われることにより、例えば、成形品のヒケが低減される。
各工程における射出装置9の動作は、具体的には、例えば、以下のとおりである。
(低速射出:t0~t1)
低速射出の開始直前において、射出装置9は、図1及び図2に示す状態となっている。すなわち、射出シリンダ27の射出ピストン33及び増圧ピストン35は、後退限等の初期位置に位置している。このときのプランジャ23の位置Dは、図3において位置D0で示されている。各種のバルブ47A~47Dは閉じられている。
制御装置13は、所定の射出開始条件が満たされたか否か判定し、満たされたと判定すると、低速射出を開始する。具体的には、制御装置13は、バルブ47Bを開いてアキュムレータ43からヘッド側室31hへ作動液を供給するとともに、バルブ47Dを開いてロッド側室31rからの作動液の排出を許容する。射出開始条件は、例えば、固定金型103及び移動金型105の型締が終了し、不図示の給湯装置によるスリーブ21への溶湯の供給が完了したことなどである。
低速射出中のプランジャ23の速度は、例えば、位置センサ49により検出されるプランジャ23の速度に基づいてフィードバック制御される。より具体的には、バルブ47Dの開度がフィードバック制御される。なお、時々刻々と更新される目標位置に対する位置フィードバック制御によって実質的に速度フィードバック制御が行われてもよい。
プランジャ23の速度は、例えば、一定の低速射出速度VLとされる。低速射出速度VLの値は、入力装置17を介してオペレータによって適宜に設定されてよく、例えば、1m/s未満である。なお、多段制御が行われてもよい。低速射出中の射出圧力は、射出速度が比較的低速であることから、比較的低圧に維持される。
(高速射出:t1~t2)
制御装置13は、所定の高速切換条件が満たされると、プランジャ23の速度を上記の低速射出速度VLよりも高速の高速射出速度VHに切り換え、高速射出を行う。具体的には、例えば、制御装置13は、低速射出に引き続いてアキュムレータ43からヘッド側室31hへ作動液を供給しつつ、バルブ47Dの開度を大きくする。高速射出においても、低速射出に引き続いて速度のフィードバック制御が行われる。高速射出が行われている間の射出圧力は、低速射出が行われている間の射出圧力よりも高くなる。
高速切換条件は、例えば、プランジャ23が所定の高速切換位置Dsに到達したことである。制御装置13は、位置センサ49の検出値又は射出開始からの経過時間に基づいて高速切換条件が満たされたか否かを判定してよい。又は、そのような判定が行われず、所定の時間刻みで設定された目標速度の時系列又は目標位置の時系列に従ってフィードバック制御が行われた結果として高速切換が行われてもよい。高速切換位置Ds及び高速射出速度VHは、入力装置17を介してオペレータによって適宜に設定される。高速射出速度VHは、例えば、1m/s以上である。
一般には、及び/又は理想的には、図3において示しているように、高速射出が行われている間、射出速度及び射出圧力は一定に維持される。ただし、後述するように、射出速度及び/又は射出圧力は一定に保たれない場合もある。
(減速射出:t2~t3)
溶湯がキャビティCaにある程度充填されると、プランジャ23は、その充填された溶湯から反力を受けて減速され、その一方で、射出圧力は、急激に上昇していく。なお、プランジャ23が所定の減速位置に到達するなど所定の減速開始条件が満たされたときにバルブ47Dの開度を小さくするなど、適宜な減速制御がなされてもよい。減速制御によって、例えば、充填完了時の衝撃が緩和される。
(増圧:t3~t4)
制御装置13は、所定の増圧開始条件が満たされたか否か判定し、満たされたと判定すると、増圧を開始する。具体的には、例えば、制御装置13は、まず、第1の条件が満たされるとバルブ47Cを開く。これにより、アキュムレータ43から後側室31eへ作動液が供給される。ひいては、増圧ピストン35が前進を開始する。次に、制御装置13は、第2の条件が満たされると、バルブ47Dの開度を増圧用のものにする。すなわち、制御装置13は、速度制御を終了し、圧力制御を開始する。なお、ヘッド側室31hからの作動液の排出は、パイロット式の逆止弁であるバルブ47Bが自閉することによって禁止される。このような動作により、射出圧力は、上昇していき、所定の鋳造圧力(終圧)に到達する。
第1条件は、充填が完了する前に満たされるような条件とされてよく、例えば、充填完了位置よりも手前の所定の増圧発進位置にプランジャ23が到達したこととされてよい。第2条件は、充填が概ね完了するときに満たされる条件とされてよく、例えば、射出速度が一定の速度まで低下したこと、又は射出圧力が一定の圧力まで上昇したこととされてよい。これらの条件は、入力装置17を介してオペレータによって適宜に設定されてよい。終圧は、入力装置17を介してオペレータによって適宜に設定される。増圧中のバルブ47Dの制御は適宜なものとされてよい。例えば、バルブ47Dの開口度は、予め定められた一定の開口度とされる。あるいは、バルブ47Dの開口度は、所望の昇圧曲線が得られるように、射出圧センサ57の検出値に基づいてフィードバック制御されてもよい。
(保圧:t4~)
制御装置13は、増圧後、射出圧力が終圧となっている状態を維持する。この間に、溶湯は冷却されて凝固する。溶湯が凝固すると、制御装置13は、アキュムレータ43から後側室31eへの液圧の供給を停止し、保圧を終了する。その後、既述のように、型開きが行われ、成形品が押し出される。
(充填時間の概念及び誤差)
上記のような動作において、背景技術の欄においても述べたように、品質管理等のために充填時間が計測されることがある。充填時間は、一般には、及び/又は理想的には、溶湯が金型101のゲートに到達してから溶湯が金型内に概ね行き渡るまでの時間である。確認的に記載すると、ゲートは、金型101のキャビティCa(製品に対応する部分)への入口(スリーブ21側の湯道とキャビティCaとの境界部分)であり、通常、その前後の部分に対して最も断面積が小さくなっている。
図3を参照して説明したように、低速射出及び高速射出を含む射出が行われる場合、一般には、高速切換位置は、溶湯がゲートに到達するときの位置になるように設定される。また、既に述べたように、溶湯が金型101内に概ね充填されると、射出速度は急激に低下し、射出圧力は急激に上昇していく。従って、図3の例において、充填時間は、概ね、時点t1~t3に対応している。
従って、例えば、射出圧センサ57が検出する射出圧力が、低速射出時の射出圧力よりも高く設定された計測開始圧力を超えてから、高速射出時の射出圧力よりも高く設定された計測終了圧力を超えるまでの時間を充填時間として計測することが考えられる。しかし、このような計測方法では、射出圧力の変動(圧力波形の振動)及び/又はばらつき(誤差)によって、適切に充填時間を計測できないおそれがある。
図4は、図3の例とは異なる射出波形の例を示す図である。この図では、図3で示した期間のうち、時点t1よりも少し前から時点t4よりも少し前までの期間(高速射出開始の少し前から保圧開始の少し前までの期間)を示している。
この図において、横軸及び縦軸が示す物理量は図3と同様である。また、線Ln11は、射出速度Vの経時変化を示している。線Ln12は、射出圧力Pの経時変化を示している。線Ln13は、プランジャ23の位置Dの経時変化を示している。
この例では、時点t1(高速切換位置Ds)において低速射出から高速射出へ制御が切り換えられると、射出圧力は、一旦上昇し、次に下降し、再度上昇し、再度下降する。その後、既述のように、溶湯が金型101内に概ね充填されることなどによって、射出圧力は急激に上昇していく。なお、射出速度も、図3とは異なり、高速射出への切換え後から高速射出の終了前までの間に、一旦速度が低下している。
このような射出波形は、例えば、溶湯がゲートに到達する前に高速射出が開始されるゲート前高速が行われる場合(溶湯がゲートに到達するときのプランジャ23の位置よりも手前に高速切換位置Dsが設定される場合)に生じる。1つ目(時点t1直後)の圧力上昇は、射出速度の上昇に伴うものである。2つ目の圧力上昇は、溶湯がゲートに到達して溶湯の金型101内への流入が制限されることによるものである。従って、溶湯がゲートに到達する時は、1つ目の射出圧力の上昇時ではなく、2つ目の射出圧力の上昇時である。
なお、高速射出終了時の射出圧力の低下は、例えば、減速制御によるもの、及び/又は増圧制御の制御遅れによるものである。溶湯がゲートに到達したときに高速射出が開始される場合(ゲート高速)、及び溶湯がゲートに到達した後に高速射出が開始される場合(ゲート後高速)においては、図3を参照して説明したように、基本的には、高速射出への切換えによって1つの射出圧力の山(上昇)が生じる。また、ゲート前高速によって、例えば、製品の外観(鋳肌)が向上する。ゲート後高速によって、例えば、製品の強度が向上する。
図4に示すような射出波形が生じる場合においては、単純に射出圧力が所定の圧力を超えたときに充填時間の計測を開始すると、溶湯がゲートに到達する前に(1つ目の圧力上昇で)充填時間の計測を開始することになり、充填時間を正確に計測することができない。特に図示しないが、低速射出中に、チップかじりによって射出圧力のリップルが生じることがあり、このような要因によっても充填時間の開始時点に誤差が生じるおそれがある。
また、高速射出から増圧への移行時において、急激な減速がなされることにより、プランジャ23が停止してから射出圧力が上昇するまでに遅延が生じるおそれがある。この場合、溶湯が金型101内に概ね行き渡る時点と、射出圧力が所定の圧力に到達する時点とがずれる。すなわち、充填時間の計測終了時点に誤差が生じる。
(充填時間の計測方法の概要)
そこで、本実施形態においては、以下のように充填時間TFの計測開始時点である充填開始時点tFSと、充填時間TFの計測終了時点である充填終了時点tFEとを特定し、充填時間TFを計測する。
まず、位置センサ49の検出値に基づいて、射出の進行に伴ってプランジャ23が所定のゲート到達時位置DGに到達したゲート到達時点tGが特定される。ゲート到達時位置DGは、溶湯がゲートに到達すると予測されるプランジャ23の位置である。そして、ゲート到達時点tGを含む監視期間TM(監視開始時点tMS~監視終了時点tME)が設定される。
次に、射出圧センサ57の検出値に基づいて、射出の進行に伴って射出圧力が所定の充填開始圧力PSを上回った時点が充填開始時点tFSとして特定される。この特定は、監視期間TM内の時点に限られる。これにより、例えば、低速射出中のリップルの影響が低減される。
また、充填開始時点tFSは、射出の進行に伴って射出圧力が充填開始圧力Psを上回った時点のうち、最も監視終了時点tMEに近いものとされる。これにより、例えば、ゲート前高速が行われた場合の1つ目の圧力上昇を、溶湯がゲートに到達したことによる圧力上昇として特定してしまうおそれが低減される。
また、位置センサ49の検出値に基づいて、射出の進行に伴って射出速度が所定の停止検出速度VEを下回った時点が充填終了時点tFEとして特定される。これにより、例えば、プランジャ23の(略)停止に昇圧が遅れても、充填時間の終了時点は、遅れることなく特定される。
(射出装置の信号処理系の構成)
図5は、射出装置9の信号処理系の構成を示す機能ブロック図である。
上述したように、制御装置13においては、CPU59がメモリ61に記憶されているプログラム(例えば品質管理プログラム67)を実行することによって、各種の機能部(69、71、73、75、77、79、81、83、85及び87)が構築される。これらの機能部によって、例えば、上述した充填時間の計測が実現される。また、これらのうちデータ生成部71によって、射出速度及び射出圧力の時系列データ89が生成される。
なお、別の観点では、制御装置13が以下に述べるフローチャートの各ステップを実行するとき、制御装置13は、各機能部として機能する。従って、各機能部の動作については、以下のフローチャートの説明と共に説明する。
(射出装置の動作のフローチャート)
図6は、制御装置13が実行する射出処理の手順の一例を示すフローチャートである。なお、このフローチャートの説明では、射出装置9の動作に着目し、型締装置7等の動作については基本的に省略する。この処理は、例えば、ダイカストマシン1(射出装置9)の電源投入時から開始される。
ステップST1では、制御装置13(成形条件設定部85)は、成形条件の初期設定を行う。具体的には、例えば、制御装置13は、入力装置17を介してオペレータの情報入力を受け付ける。このステップにより、例えば、低速射出速度VL、高速射出速度VH及び高速切換位置Ds等の成形条件が設定される。また、例えば、ヘッド側圧力センサ53及びロッド側圧力センサ55の検出した圧力を合成して射出圧力を特定するために必要な既述の種々の情報、及び充填時間の計測に必要な種々の情報(後述)も入力される。
ステップST2では、制御装置13(ゲート到達時位置特定部69)は、既述のゲート到達時位置DGを特定(予測)する。ゲート到達時位置DGは、例えば、下記の(1)式に基づいて特定されてよい。
DG=Dx-d-W/(ρ×Sa)-C (1)
ただし、Dxは、プランジャ23の最も金型101側の位置(空打ちしたときの最も金型101側の位置)、Wは、金型101のゲートよりも奥に充填される溶湯の質量、Saは、プランジャ23のチップ断面積(溶湯に対する接触面積)、ρは、溶湯の密度、dは、ビスケット厚、Cは、補正定数である。
質量Wは、例えば、金型101によって成形される製品の質量をWa、金型101内のオーバーフロー部における溶湯の質量をWbとしたときに、W=Wa+Wbとされてよい。また、W/(ρ×Sa)-Cは、高速区間(溶湯がゲートに到達してからのプランジャ23の移動距離)に概ね相当する。
位置Dxは、例えば、射出装置9が空打ちを行い、この際に位置センサ49によって計測されてよい。質量W(又はWa及びWb)並びにビスケット厚dは、例えば、入力装置17を介して入力される。チップ断面積Saは、例えば、入力装置17を介してプランジャチップ23aの径が入力され、この値に基づいて制御装置13が算出してよい。溶湯の密度ρは、例えば、入力装置17を介して溶湯の材料の種類が入力され、予め用意されたデータベースに基づいて、入力された材料の種類に応じた密度が特定されてよい。補正定数Cは、例えば、射出装置9の製造者において予め制御装置13に記憶されてよい。
なお、上記の(1)式は、そのままの形で演算される必要は無く、(1)式の演算に等価な演算が行われればよい。また、補正定数Cは、省略されてもよいし、逆に、他の適宜な補正定数又は補正乗数が組み込まれてもよい。
ステップST3~ST11では、制御装置13は、成形サイクルを繰り返し行う。複数回の成形サイクルは、例えば、オペレータの入力装置17に対する所定の操作をトリガとして開始される。
ステップST3では、制御装置13(駆動制御部87)は、図3を参照して説明した射出を行う。すなわち、制御装置13は、低速射出、高速射出、増圧及び保圧を行う。また、射出が行われている間、制御装置13(データ生成部71)は、位置センサ49の検出値及び射出圧センサ57の検出値に基づいて、プランジャ23の位置、射出速度及び射出圧力の時系列データ89を生成する。
なお、時系列データ89のサンプリング周期は、フィードバック制御のためのサンプリング周期と同一であってもよいし、異なっていてもよい。また、記録される値は、センサからの信号強度を示す値であってもよいし、位置、射出速度又は射出圧力に変換された値であってもよい。プランジャ23の位置及び射出速度は、いずれか一方のみが記録され、他方は時系列データ89の参照時に算出されてもよい。射出圧力は、ヘッド側圧力センサ53及びロッド側圧力センサ55のそれぞれの検出値であってもよいし、合成された後の検出値であってもよい。プランジャ23の位置、射出速度及び射出圧力は、時点に対して共に対応付けられて記録されてもよし(1つの時系列データとされてもよいし)、時点に対して別々に対応付けられて記録されてもよい(別々の時系列データとされてもよい。)。
ステップST4では、制御装置13(ゲート到達時点特定部73)は、時系列データ89を参照して、位置センサ49の検出したプランジャ23の位置が、ステップST2で特定したゲート到達時位置DGに到達した時点を既述のゲート到達時点tGとして特定する。
より具体的には、例えば、制御装置13は、時系列データ89から、プランジャ23の位置のデータを射出開始の時点のものから順次取得し、取得した位置がゲート到達時位置DG以上か否か順次判定していく。そして、制御装置13は、取得した位置がゲート到達時位置DG以上と判定したときは、その取得した位置に時系列データ89において対応づけられている時点をゲート到達時点tGとする。
なお、上記の説明から理解されるように、プランジャ23の位置がゲート到達時位置DGに到達した時点は、厳密にはゲート到達時位置DGを超えた時点であってよい。また、例えば、プログラム上は、プランジャ23の位置がゲート到達時位置DG以上か否かの判定を行っていても、ゲート到達時位置DGよりも若干小さい値を概念上のゲート到達時位置として捉えれば、プランジャ23の位置がゲート到達時位置を超えたか否かの判定を行っていることになる。このような事情から、本開示においては、判定対象の値が閾値よりも低い値から閾値に到達することと、閾値を上回ることとは同義のものとして扱い、また、判定対象の値が閾値よりも高い値から閾値に到達することと、閾値を下回ることとは同義のものとして扱うことがある。
また、ゲート到達時点tGの特定では、直接的に参照されているのは、時系列データ89であって、位置センサ49からの信号ではない。しかし、時系列データ89に保持されているプランジャ23の位置は、位置センサ49の検出値であるから、上記の特定は、位置センサ49の検出値に基づく特定に他ならない。同様に、後述する他のステップにおける、時系列データ89の射出速度又は射出圧力に基づく特定も、位置センサ49又は射出圧センサ57の検出値に基づく特定に他ならない。このように、本開示においては、センサの検出値に基づくと表現する場合、その検出値の時系列データに基づくことを含む。
また、特に図示しないが、ゲート到達時点tGの特定は、時系列データ89を参照せずに、ステップST3の射出中に、位置センサ49の検出値を直接に参照してリアルタイムで行うことも可能である。
ステップST5では、制御装置13は、ステップST4で特定したゲート到達時点tGに基づいて、監視期間TM(別の観点では監視開始時点tMS及び監視終了時点tME)を設定する。監視期間TMは、例えば、監視開始時点tMSがゲート到達時点tG以前の時点であり、監視終了時点tMEがゲート到達時点tG以後の時点であり、監視開始時点tMSから監視終了時点tMEまでの時間長さが0を超えるように適宜に設定されてよい。
例えば、監視開始時点tMSは、ゲート到達時点tGよりも前の時点であり、監視終了時点tMEはゲート到達時点tGよりも後の時点である。その時間差は、ゲート到達時点tGの前(tG-tMS)と後(tME-tG)とで同一であってもよいし、異なっていてもよい。図4の例では、両者は同一である。監視期間TMは、適宜な時間長さで設定されてよく、例えば、高速射出の時間長さ(例えば時点t1から時点t2までの時間長さ)以下、又はその1/2以下に設定されてよい。
制御装置13は、具体的には、例えば、
tMS=tG-dt1、及びtME=tG+dt2
の演算によって監視開始時点tMS及び監視開始時点tMSを特定する。
時間差dt1及びdt2は、射出装置9の製造者が設定しておいてもよいし、オペレータが入力装置17を介して設定してもよい。また、時間差dt1及びdt2は、製造者及び/又はオペレータが設定した他の値から算出されてもよい。例えば、監視期間TMの時間長さ、及び/又はdt1:dt2の比率が製造者及び/又はオペレータによって設定され、これらの値からdt1及びdt2の値を制御装置13が算出してよい。例えば、図4の例では、dt1:dt2=1:1であり、制御装置13がdt1=dt2=TM/2を算出してよい。
ステップST6では、制御装置13(充填開始時点特定部75)は、時系列データ89を参照して、図4を参照して説明したように、ステップST5で設定された監視期間TM内で、充填開始時点tFSを特定する。この特定方法については、後に図7を参照して説明する。
ステップST7では、制御装置13(充填終了時点特定部77)は、時系列データ89を参照して、図4を参照して説明したように、位置センサ49の検出した射出速度が、射出の進行に伴って停止検出速度VEを下回った時点を充填終了時点tFEとして特定する。
より具体的には、例えば、制御装置13は、射出速度のデータを時間が経過する方向へ順次取得し、その取得した射出速度が停止検出速度VE未満であるか否か順次判定していく。そして、制御装置13は、取得した射出速度が停止検出速度VE未満と判定したときは、その取得した射出速度に時系列データ89において対応付けられている時点を充填終了時点tFEとする。
射出速度が停止検出速度VEを下回った時点の探査は、所定の時点以後においてのみ行われるようにしてよい。これにより、例えば、充填完了による速度低下とは異なる速度低下に関して、充填終了時点tFEを特定してしまうおそれが低減され、また、無駄な処理による制御装置13の負担増大のおそれも低減される。この所定の時点としては、例えば、監視終了時点tMEを用いることができる。
停止検出速度VEは、射出装置9の製造者によって設定されていてもよいし、オペレータによって入力装置17を介して設定されてもよい。停止検出速度VEの具体的な値は、適宜に設定されてよく、例えば、0m/sに近くてもよいし、低速射出速度VLと同程度(例えば1m/s未満)であってもよいし、これよりも速くてもよい。
なお、特に図示しないが、充填終了時点tFEの特定は、時系列データ89を参照せずに、ステップST3の射出中に、位置センサ49の検出値を直接に参照して、リアルタイムで行うことも可能である。
ステップST8では、制御装置13(充填時間特定部79)は、ステップST6で特定した充填開始時点tFSと、ステップST7で特定した充填終了時点tFEとに基づいて、充填時間TFを算出する。
ステップST9では、制御装置13(品質評価部81)は、ステップST8で得られた充填時間TFに基づいて、成形品の品質を評価する。例えば、制御装置13は、充填時間TFが所定の下限値と所定の上限値との間(許容範囲)に収まっているか否か判定し、収まっていると判定したときは良品と判定し、収まっていないときは不良品と判定する。なお、品質評価は、このような二者択一の良否判定ではなく、成形品を複数の品質レベルに分類するものであってもよい。
ステップST10では、制御装置13(表示制御部83)は、例えば、ステップST8で得られた充填時間TF、及び/又はステップST9における品質評価結果を表示装置15に表示させる。なお、表示は、文字(数字含む)でなされてもよいし、図形(グラフ等)でなされてもよい。また、充填時間TF及び/又は品質評価結果は以前の成形サイクルの結果と共に示されてもよい。
ステップST11では、制御装置13(成形条件設定部85)は、ステップST8で得られた充填時間TF、及び/又はステップST9における品質評価結果に基づいて、成形条件の一部を変更する。この変更は、充填時間TFが上記の許容範囲に収まっていない場合のみ行われてもよい。
具体的には、例えば、制御装置13は、充填時間TFが下限値よりも短ければ、一定値だけ、又は充填時間TFと下限値との差に応じて特定される値だけ、高速射出速度VHを低く再設定する。逆に、制御装置13は、充填時間TFが上限値よりも長ければ、一定値だけ、又は充填時間TFと上限値との差に応じて特定される値だけ、高速射出速度VHを高く再設定する。
ステップST11の後、制御装置13は、ステップST3に戻り、成形サイクルを繰り返す。特に図示しないが、成形サイクルの繰り返しは、予め設定された回数で成形サイクルが繰り返されたときに、又はオペレータによって成形サイクルの繰り返しを停止する操作が入力装置17に対してなされたときに終了する。また、制御装置13は、ステップST8の後、充填時間TFと許容範囲との乖離が大きい場合に、成形サイクルの繰り返しを停止してもよい。
(充填開始時点を特定する動作のフローチャート)
図6のステップST6における充填開始時点tFSを特定する処理では、例えば、制御装置13(充填開始時点特定部75)は、図4において矢印y1で示すように、監視終了時点tMEから時間を遡る方向へ時系列データ89を探査する。そして、制御装置13は、時間を遡ったと考えたときに射出圧力が充填開始圧力Psを下回る時点を、射出の進行(時間経過)に伴って射出圧力が充填開始圧力Psを上回る充填開始時点tFSとして特定する。具体的には、例えば、以下のとおりである。
図7は、上記の動作を説明するフローチャートである。すなわち、図7は、制御装置13(充填開始時点特定部75)が図6のステップST6において実行する充填開始時点特定処理の手順の一例を示すフローチャートである。
ステップST21では、制御装置13は、時系列データ89から、監視終了時点tMEに対応する射出圧力のデータを取得する。
ステップST22では、制御装置13は、ステップST21で取得したデータの射出圧力Pが充填開始圧力PSよりも低いか否か判定する。そして、制御装置13は、肯定判定のときはステップST23に進み、否定判定のときはステップST24に進む。
ステップST23では、制御装置13は、ステップST22で充填開始圧力PSよりも低いと判定された射出圧力に時系列データ89において対応付けられている時点を充填開始時点tFSとして特定する。そして、制御装置13は、図7の処理を終了する。
ステップST24では、制御装置13は、ステップST22で充填開始圧力PSよりも低くないと判定された射出圧力に時系列データ89において対応付けられている時点が、監視開始時点tMS以前の時点であるか否か判定する。そして、制御装置13は、否定判定のときはステップST25に進み、肯定判定のときはステップST26に進む。
ステップST25では、ステップST24で監視開始時点tMS以前の時点か否か判定された時点よりも1つ前の時点のデータを時系列データ89から取得する。そして、ステップST22に戻る。
ステップST22、ST24及びST25が繰り返されることにより、時間を遡る方向へ時系列データ89の探査が行われる。そして、ステップST22の肯定判定により、時間を遡ったときに充填開始圧力PSを下回る射出圧力のデータが特定される。なお、図7の例では、上述のようにステップST22で肯定判定がなされたときは、ステップST23を経て図7の処理は終了し、探査は終了する。従って、ステップST22の肯定判定が初めてなされたときの射出圧力の時点が充填開始時点TFSとして特定される。
ステップST26では、異常時処理を行う。ステップST24において肯定判定がなされたということは、監視期間TM内において、射出の進行に伴って射出圧力が充填開始圧力Psを上回る時点が見つからなかったということだからである。
異常時処理では、例えば、表示制御部83が所定の警告画像を表示装置15に表示させる。警告画像は、文字及び/又は図形を含んでよい。また、異常時処理は、成形サイクルの繰り返しを停止するものであってもよい。
以上のとおり、本実施形態では、射出装置9は、位置センサ49と、射出圧センサ57と、制御装置13とを有している。位置センサ49は、金型101内に通じるスリーブ21内を摺動可能なプランジャ23の位置を検出する。射出圧センサ57は、プランジャ23がスリーブ21内の溶湯に付与する射出圧力を検出する。制御装置13は、ゲート到達時点特定部73と、充填開始時点特定部75とを有している。ゲート到達時点特定部73は、位置センサ49の検出値に基づいて、射出の進行に伴ってプランジャ23が所定のゲート到達時位置DGに到達したゲート到達時点tGを特定する。充填開始時点特定部75は、射出圧センサ57の検出値に基づいて、ゲート到達時点tGを含む所定の監視期間TM内における、射出の進行に伴って射出圧力が所定の充填開始圧力Psを上回った充填開始時点tFSを特定する。別の観点では、品質管理プログラム67は、コンピュータ58を、上記のようなゲート到達時点特定部73及び充填開始時点特定部75として機能させる。
従って、例えば、充填開始時点を正確かつ安定的に特定することができる。具体的には、例えば、既述のように、低速射出時のチップかじりによって、射出圧センサ57が検出する射出圧力にリップルが生じたとしても、そのようなリップルを充填開始による圧力上昇として特定してしまうおそれが低減される。このような充填開始時点は、例えば、それ自体、品質を示す指標値、及び/又はオペレータが成形条件(例えば高速切換位置Ds)を再設定するときの判断材料として利用可能であるし、実施形態のように充填時間TFを特定することに利用することもできる。また、一般に、射出装置9は、制御等のために位置センサ49及び射出圧センサ57を有しているから、充填開始時点を特定するためだけに、特別なセンサ(例えば特許文献1におけるゲート付近の通電センサ)を設ける必要はない。
また、本実施形態では、制御装置13は、射出圧センサ57の検出値に基づいて射出圧力の時系列データ89を生成するデータ生成部71を更に有している。監視期間TMは、ゲート到達時点tGよりも前の監視開始時点tMSから、ゲート到達時点tGよりも後の監視終了時点tMEまでの期間である。充填開始時点特定部75は、時系列データ89に基づいて、射出の進行に伴って射出圧力が充填開始圧力Psを上回った時点のうち、最も監視終了時点tMEに近いものを、充填開始時点tFSとして特定する。
従って、例えば、充填開始時点を正確かつ安定的に特定することができる効果が向上する。具体的には、例えば、既述のように、ゲート前高速を行ったことによって、監視期間TM内に、高速切換えに伴う圧力上昇と、その後の充填開始による圧力上昇との2回の圧力上昇が生じても、前者を後者として特定してしまうおそれが低減される。ゲート高速及びゲート後高速を行った場合は、監視開始時点tMS内の圧力上昇は基本的には1回であり、当然に、正確に充填開始時点tFSが特定される。従って、別の観点では、例えば、ゲート前高速、ゲート高速及びゲート後高速のいずれを行っても、これらの相違を考慮した特別な設定変更を要することなく、正確かつ安定的に充填開始時点を特定することができる。
また、本実施形態では、充填開始時点特定部75は、時系列データ89に対して、監視終了時点tMEから監視開始時点tMSへ、射出圧力が前記充填開始圧力Psよりも低いか否か順に判定していき、低いと初めて判定したときの射出圧力の時点を充填開始時点tFSとして特定する。
従って、例えば、射出の進行に伴って射出圧力が充填開始圧力Psを上回る時点のうち、監視終了時点tMEに最も近いものを簡便に特定することができる。かつ、それ以前の期間について探査を行う動作が省かれて、制御装置13の負担が軽減される。
また、本実施形態では、制御装置13は、ゲート到達時位置特定部69を更に有している。ゲート到達時位置特定部69は、金型101のゲートよりも奥へ充填される溶湯の質量W、プランジャ23のチップ断面積Sa、溶湯の密度ρ、空打ちしたときのプランジャ23の最も金型101側の位置Dx、及びビスケット厚dの値を用いて、Dx-d-W/(ρ×Sa)と等価な演算を含む演算を行い、ゲート到達時位置DGを特定する。
従って、例えば、金型101に応じたゲート到達時位置DGが自動的に特定される。その結果、例えば、オペレータが入力装置17を介してゲート到達時位置DGを入力する態様(当該態様も本開示に係る技術に含まれる。)に比較して、オペレータの負担が低減される。
また、本実施形態では、制御装置13は、充填終了時点特定部77と、充填時間特定部79と、を更に有している。充填終了時点特定部77は、金型101内への溶湯の充填が終了した充填終了時点tFEを特定する。充填時間特定部79は、充填開始時点tFSから充填終了時点tFEまでの充填時間TFを算出する。
従って、上記のように正確かつ安定的に得られた充填開始時点tFSを用いて、品質管理に有用な充填時間TFを得ることができる。
また、本実施形態では、充填終了時点特定部77は、位置センサ49の検出値に基づいて、射出の進行に伴って射出速度が所定の停止検出速度VEを下回った時点を充填終了時点tFEとして特定する。
従って、例えば、既述のように、プランジャ23の停止に昇圧が遅れ、昇圧のタイミングにばらつきが生じたとしても、正確かつ安定的に充填終了時点tFEを決定することができる。ひいては、正確かつ安定的に充填時間TFを得ることができる。
また、本実施形態では、射出装置9は、画像を表示する表示装置15を更に有している。制御装置13は、充填時間TF、及び充填時間TFに基づく成形品の品質評価結果の少なくとも一方を表示装置15に表示させる表示制御部83を更に有している。また、表示制御部83は、充填開始時点特定部75により充填開始時点tFSが存在しないと判定されたときに(ステップST24の肯定判定)、所定の警告画像を表示装置15に表示させる(ステップST26)。
従って、例えば、オペレータは、表示装置15に表示された充填時間TF、品質評価結果及び/又は警告画像に基づいて、成形条件の調整又は成形サイクルの停止等の適切な操作をダイカストマシン1(射出装置9)に対して行うことができる。
また、制御装置13は、一のサイクルで得られた充填時間TFに基づいて、前記一のサイクルよりも後に行われる予定の他のサイクルの成形条件を前記一のサイクルの成形条件から変更する(ステップST11)成形条件設定部85を更に有している。
従って、例えば、充填時間TFに基づく成形条件の好適化に際してオペレータの負担が軽減される。充填時間TFが正確かつ安定的に得られることから、このような制御が現実的になっている。
なお、以上の実施形態において、ダイカストマシン1は成形機の一例である。溶湯は成形材料の一例である。
本開示に係る技術は、上述した実施形態に限定されず、種々の態様で実施されてよい。
成形機は、ダイカストマシンに限定されない。例えば、成形機は、他の金属成形機であってもよいし、樹脂を成形する射出成形機であってもよいし、木粉に熱可塑性樹脂等を混合させた材料を成形する成形機であってもよい。また、成形機は、横型締横射出に限定されず、例えば、縦型締縦射出、横型締縦射出、縦型締横射出であってもよい。
射出装置は、液圧式のものに限定されず、電動機によってプランジャを駆動する電動式のものであってもよいし、液圧式と電動式とを組み合わせたハイブリッド式のものであってもよい。
射出装置が電動式のものであってよいことからも明らかなように、射出圧センサは、射出シリンダの液圧を検出する圧力センサに限定されない。例えば、射出圧センサは、プランジャと射出駆動部との間に設けられるロードセルであってもよい。また、射出装置が液圧式である場合において、射出圧センサは、ロッド側圧力センサとヘッド側圧力センサとの組み合わせによって構成されるものに限定されず、ヘッド側圧力センサのみによって構成されるものであってもよい。
同様に、位置センサも、プランジャの位置を検出するものに限定されない。例えば、回転式の電動機の駆動力が並進運動に変換されてプランジャに伝達される構成の射出装置において、位置センサは、電動機の回転を検出するエンコーダ又はレゾルバであってもよい。
射出装置の動作は、低速射出及び高速射出を行うものに限定されない。例えば、射出開始から充填完了まで概ね一定の速度を保つ射出に対しても、本開示に係る技術は適用可能である。
充填開始時点の特定において、充填開始圧力を上回る圧力上昇時点のうち、監視終了時点に最も近い時点を充填開始時点として選択する動作は、行われなくてもよい。例えば、監視期間を適切に設定することにより、そのような選択を省くことは可能であるし、また、ゲート前高速が行われないことを前提として、そのような選択を省くことができる。また、そのような選択が行われる場合において、時間を遡る探査ではなく、時間に沿って探査が行われた後、監視終了時点に近い圧力上昇時点を選択してもよい。
充填終了時点及び充填時間は特定されなくてもよい。これらを特定せずに、充填開始時点自体が品質評価等に利用されてよい。また、充填終了時点が特定される場合において、充填終了時点は、射出速度に基づいて特定されるのではなく、例えば、射出圧力に基づいて特定されてもよい。
充填開始時点(充填時間)に基づく、表示及び成形条件の変更は行われなくてもよい。例えば、充填開始時点等の情報は、ネットワークを介して成形機とは別の品質管理サーバへ送信されるだけであってもよい。