(ダイカストマシンの全体構成)
図1は、本開示の実施形態に係るダイカストマシン1(成形機の一例)の要部の構成を示す、一部に断面図を含む側面図である。
ダイカストマシン1は、溶解されて液状となった金属材料(溶湯。成形材料の一例)を金型101内(キャビティCa等の空間)へ射出し、溶湯を金型101内で凝固させることにより、ダイカスト品(成形品、製品)を製造するものである。金属は、例えば、アルミニウム又はアルミニウム合金である。
金型101は、例えば、固定金型103及び移動金型105を含んでいる。本実施形態の説明では、便宜上、固定金型103又は移動金型105の断面を1種類のハッチングで示すが、これらの金型は、直彫り式のものであってもよいし、入れ子式のものであってもよい。また、固定金型103及び移動金型105には、中子などが組み合わされてもよい。
ダイカストマシン1は、例えば、成形のための機械的動作を行うマシン本体部3と、マシン本体部3の動作を制御する制御ユニット5とを有している。
マシン本体部3は、例えば、金型101の開閉及び型締めを行う型締装置7と、金型101内に溶湯を射出する射出装置9と、ダイカスト品を固定金型103又は移動金型105(図1では移動金型105)から押し出す押出装置11とを有している。マシン本体部3の構成は、公知の種々の構成と同様とされてよい。
成形サイクルにおいて、型締装置7は、移動金型105を固定金型103へ向かって移動させ、型閉じを行う。さらに、型締装置7は、タイバー(符号省略)の伸長量に応じた型締力を金型101に付与して型締めを行う。型締めされた金型101内には成形品と同一形状のキャビティCaが構成される。射出装置9は、そのキャビティCaへ溶湯を射出・充填する。キャビティCaに充填された溶湯は、金型101に熱を奪われて冷却され、凝固する。これにより、成形品が形成される。その後、型締装置7は、移動金型105を固定金型103から離れる方向へ移動させて型開きを行う。この際又はその後、押出装置11は、移動金型105から成形品を押し出す。
制御ユニット5は、例えば、各種の演算を行って制御指令を出力する制御装置13(図2参照)と、画像を表示する表示装置15と、オペレータの入力操作を受け付ける入力装置17とを有している。また、別の観点では、制御ユニット5は、例えば、電源回路及び制御回路等を有する不図示の制御盤と、ユーザインターフェースとしての操作部19とを有している。
制御装置13は、例えば、不図示の制御盤及び操作部19に設けられている。制御装置13は、適宜に分割乃至は分散して構成されてよい。例えば、制御装置13は、型締装置7、射出装置9及び押出装置11毎の下位の制御装置と、この下位の制御装置間の同期を図るなどの制御を行う上位の制御装置とを含んで構成されてよい。
表示装置15及び入力装置17は、例えば、操作部19に設けられている。操作部19は、例えば、型締装置7の固定的部分に設けられている。表示装置15は、例えば、液晶表示ディスプレイ乃至は有機ELディスプレイを含んだタッチパネルによって構成されている。入力装置17は、例えば、機械式のスイッチ及び前記のタッチパネルによって構成されている。
なお、ダイカストマシン1のうち射出装置9に着目する場合において、制御ユニット5は、射出装置9の一部として捉えられてよい。制御ユニット5の構成要素(制御装置13、表示装置15又は入力装置17)についても同様である。以下では、制御装置13、表示装置15及び/又は入力装置17について、射出装置9の一部として説明することがある。
(射出装置の全体構成)
図2は、射出装置9の要部の構成を示す模式図である。なお、既に述べたように、ダイカストマシン1(射出装置9)の機械的動作を行う部分は、公知の種々の構成と同様とされてよく、図2に示す構成は、一例に過ぎない。
射出装置9は、例えば、キャビティCaに連通するスリーブ21と、スリーブ21内の溶湯をキャビティCaへ押し出すプランジャ23と、プランジャ23を駆動する駆動部25と、駆動部25を制御する制御装置13とを有している。これらの構成は、例えば、以下のとおりである。
スリーブ21は、例えば、固定金型103に挿通された筒状部材である。プランジャ23は、スリーブ21内を前後方向に摺動可能なプランジャチップ23aと、プランジャチップ23aに固定されたプランジャロッド23bとを有している。スリーブ21の上面に形成された給湯口21aから溶湯がスリーブ21内に供給され、プランジャチップ23aがスリーブ21内をキャビティCaに向かって摺動する(前進する)ことにより、溶湯はキャビティCaに射出される。
駆動部25は、例えば、プランジャ23に連結された射出シリンダ27と、射出シリンダ27に対する作動液(例えば油)の供給等を行う液圧装置29とを有している。
射出シリンダ27は、例えば、いわゆる直結形の増圧式シリンダによって構成されている。具体的には、例えば、射出シリンダ27は、シリンダ部31と、シリンダ部31の内部を摺動可能な射出ピストン33及び増圧ピストン35と、射出ピストン33に固定され、シリンダ部31から延び出るピストンロッド37とを有している。
シリンダ部31は、例えば、射出シリンダ部31aと、射出シリンダ部31aの後端に接続された増圧シリンダ部31bとを有している。射出シリンダ部31a及び増圧シリンダ部31bは、例えば、内部の断面形状が円形の筒状体である。射出シリンダ部31aは、例えば、径が長手方向において一定である。増圧シリンダ部31bは、例えば、射出シリンダ部31a側の小径シリンダ部31baと、その反対側に位置し、小径シリンダ部31baよりも径が大きい大径シリンダ部31bbとを有している。
射出ピストン33は、射出シリンダ部31a内に配置されている。射出シリンダ部31aの内部は、射出ピストン33により、ピストンロッド37が延び出る側のロッド側室31rと、その反対側のヘッド側室31hとに区画されている。ロッド側室31r及びヘッド側室31hに選択的に作動液が供給されることにより、射出ピストン33は射出シリンダ部31a内を前後方向に摺動する。
増圧ピストン35は、小径シリンダ部31baを摺動可能な小径ピストン部35aと、大径シリンダ部31bbを摺動可能な大径ピストン部35bとを有している。大径シリンダ部31bbの内部は、大径ピストン部35bにより、小径シリンダ部31ba側の前側室31fと、その反対側の後側室31gとに区画されている。
従って、前側室31fの圧抜きを行うと、小径ピストン部35aのヘッド側室31hにおける受圧面積と、大径ピストン部35bの後側室31gにおける受圧面積との差に起因して、増圧ピストン35は、後側室31gの作動液から受ける圧力よりも高い圧力をヘッド側室31hの作動液に加えることが可能である。これにより、射出シリンダ27は、増圧機能を発揮する。
射出シリンダ27は、プランジャ23に対して同軸的に配置されている。そして、ピストンロッド37は、プランジャ23にカップリング(符号省略)を介して連結されている。シリンダ部31は、不図示の型締装置などに対して固定的に設けられている。従って、射出ピストン33のシリンダ部31に対する移動により、プランジャ23はスリーブ21内を前進又は後退する。
液圧装置29は、例えば、作動液を貯留するタンク39と、タンク39の作動液を送出可能なポンプ41と、蓄圧された作動液を放出可能な速度アキュムレータ43A及び増圧アキュムレータ43B(以下、両者を区別せずに、単にアキュムレータ43ということがある。)と、これら及び射出シリンダ27を互いに接続する複数の流路(第1流路45A〜第6流路45F)と、当該複数の流路における作動液の流れを制御する複数のバルブ(第1バルブ47A〜第5バルブ47E)とを有している。
図2では、図示の都合上、複数個所にタンク39及びポンプ41を示している。実際には、これらの複数のタンク39及びポンプ41は、一のタンク39及び一のポンプ41に統合されていてよい。図2では、液圧装置29の有する代表的な流路及びバルブを例示しており、実際には、液圧装置29は不図示の他の流路及びバルブを有している。
第1流路45Aは、ポンプ41と速度アキュムレータ43Aとを接続している。これにより、例えば、ポンプ41から速度アキュムレータ43Aへ作動液を供給して速度アキュムレータ43Aを蓄圧することができる。
第2流路45Bは、ポンプ41と増圧アキュムレータ43Bとを接続している。これにより、例えば、ポンプ41から増圧アキュムレータ43Bへ作動液を供給して増圧アキュムレータ43Bを蓄圧することができる。
第3流路45Cは、速度アキュムレータ43Aとヘッド側室31hとを接続している。これにより、例えば、速度アキュムレータ43Aからヘッド側室31hへ作動液を供給して、射出ピストン33を前進させることができる。
第4流路45Dは、増圧アキュムレータ43Bと後側室31gとを接続している。これにより、例えば、増圧アキュムレータ43Bから後側室31gへ作動液を供給し、増圧ピストン35によってヘッド側室31hの作動液を加圧することができる。
第5流路45Eは、ロッド側室31rとタンク39とを接続している。これにより、例えば、射出ピストン33の前進に伴ってロッド側室31rから排出される作動液をタンク39に収容することができる。
第6流路45Fは、前側室31fとタンク39とを接続している。これにより、例えば、前側室31fを圧抜きし、増圧ピストン35による増圧作用を得ることができる。
複数の流路は、適宜に一部が共通化されてよい。例えば、図2の例では、第1流路45A及び第3流路45Cは、速度アキュムレータ43A側の一部が共通化され、第2流路45B及び第4流路45Dは、増圧アキュムレータ43B側の一部が共通化され、第5流路45E及び第6流路45Fは、タンク39側の一部が共通化されている。
第1バルブ47Aは、第1流路45Aに設けられており、例えば、ポンプ41から速度アキュムレータ43Aへの作動液の供給の許容及び禁止、並びに速度アキュムレータ43Aからタンク39への作動液の排出の許容及び禁止に寄与する。
第2バルブ47Bは、第2流路45Bに設けられており、例えば、ポンプ41から増圧アキュムレータ43Bへの作動液の供給の許容及び禁止、並びに増圧アキュムレータ43Bからタンク39への作動液の排出の許容及び禁止に寄与する。
第3バルブ47Cは、第3流路45Cに設けられおり、例えば、速度アキュムレータ43Aからヘッド側室31hへの作動液の供給の許容及び禁止、並びにヘッド側室31hから速度アキュムレータ43Aへの作動液の逆流防止に寄与する。
第4バルブ47Dは、第4流路45Dに設けられており、例えば、増圧アキュムレータ43Bから後側室31gへの作動液の供給の許容及び禁止に寄与する。
第5バルブ47Eは、第5流路45Eに設けられており、例えば、ロッド側室31rからタンク39への作動液の流量の制御に寄与する。この流量の制御により、射出ピストン33の前進速度が制御される。すなわち、第5バルブ47Eは、いわゆるメータアウト回路を構成している。
(射出装置のセンサ)
射出装置9は、例えば、ヘッド側室31hの圧力を検出するヘッド側圧力センサ49H、ロッド側室31rの圧力を検出するロッド側圧力センサ49R、金型101内(例えばキャビティCa内)の圧力を検出する金型内圧力センサ49D(以下、これらを区別せずに、単に「圧力センサ49」ということがある。)、プランジャ23(ピストンロッド37)の位置を検出する位置センサ51を有している。
制御装置13は、ヘッド側圧力センサ49Hの検出圧力、ロッド側圧力センサ49Rの検出圧力、射出ピストン33の径(断面積)、ピストンロッド37の径(断面積)及びプランジャチップ23aの径(断面積)に基づいて、成形材料の圧力を算出することができる。換言すれば、ヘッド側圧力センサ49H及びロッド側圧力センサ49Rは、成形材料の圧力を検出可能である。
ロッド側室31rがタンク圧とされている状態においては、制御装置13は、ヘッド側圧力センサ49Hの検出圧力(及び上記の各種の断面積)のみに基づいて成形材料の圧力を近似的に算出することができる。従って、ロッド側圧力センサ49Rは、設けられなくてもよい。
金型内圧力センサ49Dは、金型内の成形材料の圧力を直接的に検出する。なお、上記のように、ヘッド側圧力センサ49H等の検出圧力に基づいて成形材料の圧力を算出(検出)することができるから、金型内圧力センサ49Dは、設けられなくてもよい。
以下において、溶湯(成形材料)の圧力という場合、特に断りがない限りは、ヘッド側圧力センサ49H(及び必要に応じてロッド側圧力センサ49R)によって検出されるもの、及び金型内圧力センサ49Dによって検出されるもののいずれでもよいものとする。換言すれば、マシン側のセンサ(49H)によって検出される溶湯の圧力と、金型側のセンサ(49D)によって検出される溶湯の圧力とを区別しないことがある。
各種の圧力センサ49の構成は、抵抗式、静電容量式、振動式等の適宜な方式のものとされてよい。また、特に図示しないが、プランジャ23に直列にロードセルが設けられ、ロードセルが実質的に圧力センサとして機能してもよい。
位置センサ51は、例えば、シリンダ部31に対するピストンロッド37の位置を検出し、プランジャ23の位置を間接的に検出する。位置センサ51の構成は適宜なものとされてよい。例えば、位置センサ51は、不図示のスケール部とともに磁気式又は光学式のリニアエンコーダを構成するものであってもよいし、ピストンロッド37に固定された部材との距離を計測するレーザー測長器によって構成されてもよい。位置センサ51、又は制御装置13は、検出位置の微分値であるプランジャ23の速度(射出速度)を取得(検出)することも可能である。
(射出装置の基本的な動作)
射出装置9は、例えば、低速射出、高速射出、減速射出、増圧(昇圧)及び保圧を順に行う。各工程は、例えば、以下のとおりである。
(低速射出)
射出装置9は、射出の初期段階において、比較的低速(例えば1m/s未満)の低速射出速度でプランジャ23を前進させ、低速射出を行う。低速であることにより、例えば、溶湯による空気の巻き込みが抑制される。具体的には、例えば、制御装置13は、速度アキュムレータ43Aからヘッド側室31hへ作動液を供給し、プランジャ23を前進させるように液圧装置29を制御する。このときのプランジャ23の速度は、例えば、第5バルブ47Eによって制御される。
(高速射出)
射出装置9は、所定の高速切換条件が満たされると、プランジャ23の速度を上記の低速射出速度から比較的高速(例えば1m/s以上)の高速射出速度に切り換え、高速射出を行う。高速であることにより、例えば、溶湯の凝固に遅れずに速やかに溶湯がキャビティCaに充填される。具体的には、例えば、制御装置13は、低速射出に引き続いて速度アキュムレータ43Aからヘッド側室31hへ作動液を供給しつつ、第5バルブ47Eの開度を大きくするように液圧装置29を制御する。高速切換条件は、例えば、プランジャ23が所定の高速切換位置に到達したことであり、位置センサ51の検出値又は射出開始からの経過時間等に基づいて、高速切換位置への到達の有無が判定される。
(減速射出)
射出装置9は、所定の減速開始条件が満たされると、プランジャ23の速度を減速させる。減速により、例えば、溶湯が金型101内に概ね充填されるときに生じる急激な圧力の上昇が抑制される(サージ圧が抑制される)。具体的には、例えば、制御装置13は、高速射出に引き続いて速度アキュムレータ43Aからヘッド側室31hへ作動液を供給しつつ、第5バルブ47Eの開度を小さくするように液圧装置29を制御する。減速開始条件は、例えば、プランジャ23が所定の減速開始位置に到達したことであり、位置センサ51の検出値又は射出開始からの経過時間等に基づいて、減速開始位置への到達の有無が判定される。なお、減速制御が行われずに、金型101内に溶湯が概ね充填されることによって上昇した溶湯の圧力によって減速がなされてもよい。
(増圧及び保圧)
射出装置9は、所定の増圧開始条件が満たされると、溶湯の圧力が所定の鋳造圧力まで上昇するようにプランジャ23によって溶湯に圧力を付与する増圧を行う。増圧により、例えば、ヒケの発生が抑制される。具体的には、例えば、制御装置13は、増圧アキュムレータ43Bから後側室31gへ作動液を供給する。増圧開始条件は、例えば、プランジャ23の位置が所定の増圧開始位置に到達したこと、溶湯の圧力が所定の増圧開始圧力に到達したこと、又はプランジャ23の速度が所定の増圧開始速度まで低下したことである。
増圧を行っているときの昇圧曲線(溶湯の圧力の経時変化が描く曲線)は、例えば、第5バルブ47Eの開度の調整により調整可能である。鋳造圧力は、ロッド側室31rをタンク圧にすることによってヘッド側室31hの圧力(増圧アキュムレータ43Bの圧力)によって実現してもよいし、第5バルブ47Eを適宜な時期に閉じることにより、ロッド側室31r及びヘッド側室31hの圧力によって実現してもよい。増圧の後、射出装置9は、鋳造圧力が得られたときの状態を維持して保圧を行い、溶湯の凝固を待つ。
(条件設定)
以上の動作を規定する条件(種々のパラメータの値等)は、例えば、オペレータが入力装置17に対する操作によって設定する。当該操作によって設定される条件は、例えば、低速射出速度、高速射出速度、高速切換条件(高速切換位置)、低速射出速度から高速射出速度への加速時間、減速開始条件(減速開始位置)、増圧開始条件、鋳造圧力、及び/又は増圧開始から鋳造圧力に至るまでの時間(昇圧時間)である。これらの条件は、その条件の値自体が入力されてもよいし、関連する値が入力されてもよい。また、後述するように、これらの条件は、制御装置13によって適宜に変更されてもよい。
(表示画像の例)
図3は、表示装置15の画面に表示される画像151の例を模式的に示す図である。画像151は、例えば、射出装置9において射出が行われる毎に表示(別の観点では更新)される。
画像151においては、例えば、横軸153及び縦軸155が描かれている。横軸153は、当該軸に沿って右へ行くほど時間tが経過することを示す時間軸である。縦軸155は、速度軸、位置軸及び圧力軸に兼用されている。速度軸は、当該軸に沿って上へ行くほど速度Vが速くなることを示している。位置軸は、当該軸に沿って上へ行くほど所定位置からの距離Dが大きくなることを示している。圧力軸は、当該軸に沿って上へ行くほど圧力Pが大きくなることを示している。
横軸153及び縦軸155に関して、目盛の有無、目盛に付随する数字の有無、軸の表示範囲(画像151内に表示される軸上の最小値及び最大値)、並びに軸を示す線の色・太さ・線種等の具体的な表現態様は適宜に設定されてよい。図3は、理解を容易にする模式図であることから、各軸は、原点から本実施形態の説明に必要な範囲で示され、また、目盛及びこれに付随する数字は省略されている。横軸153に付されたt0〜t4及びTs0は、説明の便宜上のものである。ただし、t0〜t4及びTeに相当する値を示す数字が画像151に描かれていてもよい。
また、画像151においては、線Ln1〜Ln3が描かれている。線Ln1は、位置センサ51によって検出されたプランジャ23の速度Vの経時変化を示している。線Ln2は、圧力センサ49(図示の例では金型内圧力センサ49D)によって検出された成形材料の圧力Pの経時変化を示している。線Ln3は、位置センサ51によって検出されたプランジャ23の位置Dの経時変化を示している。位置Dの原点は、例えば、プランジャ23の射出開始時点(時点t0)の位置である。これらの線の具体的な表現態様も適宜に設定されてよい(後述する他の線も同様。)。
線Ln1〜Ln3の形状(波形)は、上述した射出装置9の基本動作を反映している。例えば、時点t0〜t1の期間は低速射出に対応しており、当該期間においては速度Vは比較的低速である。時点t1〜t2の期間は高速射出に対応しており、当該期間においては速度Vは比較的高速である。時点t2以後かつ時点t3よりも前の期間は減速射出に対応しており、当該期間において速度Vは低下している。時点t2よりも後かつ時点t4以前の期間は増圧に対応しており、当該期間において圧力Pは上昇している。時点t4よりも後の期間は保圧に対応しており、当該期間において圧力Pは一定である。
(バリ吹き限界曲線の表示)
画像151では、更に、バリが吹く目安となる溶湯の圧力(バリが生じない圧力Pの上限値)の経時変化を示す線Ln4(バリ吹き限界曲線。圧力曲線の一例)も描画されている。すなわち、線Ln2で示される圧力が、バリ吹き限界曲線(Ln4)を超える時点においては、バリが発生する蓋然性が高い。
従って、例えば、このようなバリ吹き限界曲線が圧力波形(Ln2)と共通の時間軸(横軸153)及び圧力軸(縦軸155)に対して描画されることにより、オペレータは、現在の射出条件がバリの発生に関して適切か否か判断することができる。ひいては、射出条件をより適切なものに変更するオペレータの作業が容易化される。図3の例では、線Ln2で示される圧力は、バリ吹き限界曲線(Ln4)で示される圧力を超えることはなく、バリが生じる蓋然性は低い。
なお、ここで想定しているバリは、後述するように、成形材料が金型101を開こうとする型開力が型締力よりも小さくても生じ得るものである。そして、このバリは、溶湯の凝固状態(別の観点では経過時間)によって発生のしやすさが変化する。具体的には、時間が経過するほど、バリ吹き限界曲線(Ln4)が示す圧力は大きくなる。
図4(a)〜図4(c)は、それぞれ、図3とは異なる射出条件及び計測結果の場合における画像151を示している。ただし、これらの図では、図解を容易にするために、速度波形(線Ln1)及び位置曲線(線Ln3)の図示は省略している。また、これらの図では、図3とは異なり、圧力波形(線Ln2)は、ヘッド側圧力センサ49H(及び必要に応じてロッド側圧力センサ49R)の検出値を示している。
図4(a)の例では、矢印y1で示すように、溶湯が金型101内に概ね充填されたときに生じるサージ圧がバリ吹き限界曲線(Ln4)を超えている。従って、例えば、このような画像151が表示された場合においては、オペレータは、バリの発生のおそれを低減するために、サージ圧を下げるような射出条件の変更が必要であることを認識できる。
図4(b)の例では、矢印y2で示すように、増圧が行われているときに検出圧力がバリ吹き限界曲線(Ln4)を超えている。従って、例えば、このような画像151が表示された場合においては、オペレータは、増圧に係る条件の変更が必要であることを認識できる。
図4(c)の例では、検出圧力は、バリ吹き限界曲線(Ln4)を超えていない。ここで、線Ln6は、型締力を成形材料の圧力に換算したものである。そして、矢印y3で示すように、検出圧力は、型締力相当の圧力を超えている。従って、この例では、型開きによってバリが生じ得る。なお、線Ln6は、画像151において描画されてもよいし、描画されなくてもよい。
(凝固時間の表示)
図3に戻って、画像151では、更に、キャビティCa内の所定部分において成形材料が凝固するまでの時間Ts0を示す図形(図示の例では線Ln5。画像151においては文字も図形の一種とする。)も描画されてよい。この場合、例えば、オペレータは、時間Ts0が到来するまでに線Ln2で示される圧力が鋳造圧力に到達しているか否かにより、射出条件が適切か否か判断することができる。時間Ts0の判定基準となる上記所定部分の例については後述する。
(バリ吹き限界曲線の求め方)
バリ吹き限界曲線(Ln4)は、例えば、時間tの値に対応する圧力の値が計算式によって算出されることによって描画されてもよいし、実験によって得られた、時間tの値と圧力の値との対応関係を示すデータに基づいて描画されてもよい。以下では、バリ吹き限界曲線の計算式について説明する。
図5は、バリが発生する様子を説明するための模式図であり、より具体的には、金型101の一部の断面図である。
この図に示される部位においては、キャビティCaは、固定金型103及び移動金型105の互いに当接すべき合わせ面103a及び105aを横切るように形成されている。合わせ面103a及び105aは、隙間C(以下において、Cはこの隙間の大きさを指すこともある。)で互いに離間している。このような隙間Cは、例えば、溶湯が型開きをしようとする型開力が型締力よりも小さくても、金型101の熱膨張等に起因して生じ得る。キャビティCaにおいて形成される成形品のうち、図示の範囲において形成される部分は、肉厚tmである。なお、図5では、隙間Cの直下における部分の肉厚を代表して肉厚tmとして示している。
キャビティCaに充填された溶湯は、金型101の内面に当接した部分から金型101に熱を奪われて凝固していく。図5は、その凝固過程の途中を示しており、キャビティCa内にドットのハッチングで示された領域は、溶湯(凝固前の金属)を示しており、その周囲において比較的細かいハッチングで示された領域は、溶湯の凝固によって形成された凝固層121を示している。凝固層121は、隙間C側(紙面上方)及びその反対側(紙面下方)のいずれにおいても、概ね厚さtxであると仮定できる。
このような状態において、溶湯の圧力をPとすると、凝固層121のうち、隙間Cの直下における部分121aと、当該部分121aに隣接する部分との間で生じるせん断応力τは、下記式で表わされる。
τ=P・C/(2tx) (1)
せん断応力τが大きくなるとバリが発生する。すなわち、バリが発生しないせん断応力の上限値をτ0として、τ≦τ0ならば、バリは発生しない。このτ0と上記(1)式から、バリが吹かない圧力Pの条件として、以下の式が導かれる。
P≦2tx・τ0/C (2)
凝固完了時点では、凝固層121は、隙間C側(紙面上方)から成長した部分と、その反対側(紙面下方)から成長した部分とが互いに接する。従って、下記式が成り立つ。
2tx≦tm (3)
一方、肉厚tmと、その肉厚tmの部分が凝固するまでの凝固時間Tsとの間には、次の経験式が成り立つことが知られている。
Ts=K・tm 2 (4)
tm=√(Ts/K) (5)
ただし、Kは定数である。
上記の(2)、(3)及び(5)式から、バリが吹かない圧力Pの条件として、以下の式が導かれる。
P≦τ0/C×√(Ts/K) (6)
従って、凝固時間Tsを変数としての時間tとし、バリ吹き限界曲線の圧力をPbとすれば、バリ吹き限界曲線の式は、以下のようになる。
Pb=τ0/C×√(t/K)
=a×√t (7)
ただし、aは定数であり、a=τ0/C×√(1/K)である。
τ0、C及びKそれぞれの値は、実験等によって求めることが可能である。τ0は、基本的に溶湯の材料によって決まる値であり、例えば、溶湯(凝固層121)と同一の材料からなる試料にせん断破壊を生じさせる種々の試験によって特定可能である。Cは、例えば、実際に鋳造に用いられる金型101又はモデルとなる金型で鋳造を行い、バリの厚さを測定することにより求めることができる。Kは、例えば、基本的に、溶湯の材料、溶湯温度及び金型温度により決まる値であり、例えば、鋳造時の溶湯温度を再現した溶湯を鋳造時の金型温度を再現した金型に触れさせる実験により求めることができる。
これらのτ0、C及びKそれぞれの値、又はこれらに基づいて算出されたaの値は、例えば、制御装置13に書き換え不可能に予め記憶されており(射出装置9の製造者によって設定されており)、オペレータがこれらの値を入力することはない。ただし、これらの定数の全て又は一部について、オペレータがその値を設定可能であったり、複数の値の候補から選択可能であってもよい。
また、(2)式において、厚さtxを定数として扱うことにより、τ0/Cの値を実験により求めることもできる。具体的には、溶湯は、金型101への充填の初期において金型101に接する部分が急冷されて、いわゆるチル層を構成する。このチル層の厚さは、鋳造条件を多少変えても概ね一定の値であることが知られている。また、バリが発生する主たる要因はサージ圧であり、また、サージ圧が生じる時期においては、チル層がバリの発生抑制に大きく寄与する。従って、実際に鋳造に用いられる金型101又はモデルとなる金型で鋳造を行い、バリが発生するサージ圧の下限(Pe)又はバリが発生しないサージ圧の上限(Pe)を特定し、その特定した圧力Peを(2)式の圧力Pとして代入し、txにチル層の厚みを代入すれば、τ0/Cの値を求めることができる。すなわち、(7)式のaの値を下記式により求めてもよい。
a=Pe×1/(2×tx×√K) (8)
これらのPe、tx及びKそれぞれの値、又はこれらに基づいて算出されたaの値は、例えば、制御装置13に書き換え不可能に予め記憶されており(射出装置9の製造者によって設定されており)、オペレータがこれらの値を入力することはない。ただし、これらの定数の全て又は一部について、オペレータがその値を設定可能であったり、複数の値の候補から選択可能であってもよい。
例えば、tx及びKは製造者が予め制御装置13に書き換え不可能に記憶させておき、Peは、オペレータが入力装置17を介して入力する。オペレータによる入力前は、製造者が予め制御装置13に設定したPeの初期値が用いられてもよい。オペレータは、例えば、金型交換等を行った後に行われるトライアルの成形において、バリの発生を確認したときは、そのときのサージ圧をPeとして入力する。さらに、トライアルを継続しているときに、バリの発生を確認し、そのときのサージ圧が現在のPeよりも低ければ、そのサージ圧でPeの値を更新する。すなわち、オペレータは、特別な実験等を行う必要はない。圧力Peとしてサージ圧を例に挙げたが、射出装置9の構成及び制御によっては、サージ圧が抑制されることがある。このような場合においては、例えば、位置センサ51の検出値からキャビティCaに溶湯が概ね充填された時点を特定し、その時点の圧力を用いればよい。
なお、チル層の厚みは、0.3mm程度であることが知られている。ただし、チル層の厚みは、溶湯温度、金型温度及び溶湯の材料によって変動し得るから、これらの条件を変えてチル層の複数の厚みを特定して制御装置13に書き換え不可能に記憶させ(射出装置9の製造者によりチル層の複数の厚みを設定し)、算出に用いるチル層の厚みをオペレータが選択できるようにしたり、オペレータがチル層の厚みを調べて入力できるようにしたりしてもよい。チル層の厚みは、例えば、断面観察で特定可能である。
(7)式により算出される圧力Pbを画像151の時間軸tに対してプロットするに際して、(7)式のt=0の時点は、例えば、時間軸tにおいて、溶湯が金型101のゲートに到達する時点とされてよい。溶湯は、ゲートを超えて金型101内に流入することによって急冷され、キャビティCa内面にチル層を形成すること、(4)式の経験式は溶湯がゲートに到達するときを凝固時間Tsの開始時点として運用されることが多いことなどからである。なお、確認的に記載すると、ゲートは、製品を形成するキャビティCaと、キャビティCaへ溶湯を導くための湯道との境界部分であり、通常、断面積が絞られている。
溶湯がゲートに到達する時点は適宜に特定されてよい。例えば、オペレータは、溶湯の充填質量M、プランジャチップ23aの径及び溶湯の材料を入力装置17に入力する。充填質量Mは、金型101のうちゲートよりも先の空間(キャビティCa及び湯だまり)に充填される溶湯の質量である。制御装置13は、入力されたプランジャチップ23aの径からプランジャチップ23aの断面積Sを算出することができる。また、制御装置13は、予め保持しているデータに基づいて、入力された溶湯の材料に対応する溶湯の密度ρを特定することができる。従って、制御装置13は、溶湯がゲートに到達してからのプランジャ23の移動距離d=M/(ρ×S)を算出することができる。また、オペレータは、ビスケット厚を入力装置17に入力し、この情報から制御装置13は溶湯の金型101に対する充填完了時のプランジャ23の位置を算出することができる。そして、制御装置13は、この充填完了時の位置から距離dだけ後方の位置を溶湯がゲートに到達するときのプランジャ23の位置Dgとして特定することができる。そして、制御装置13は、画像151を描画する際には、検出位置の経時変化(Ln3)に基づいて、位置Dgに対応する時間軸t上の時点を特定し、この時点を(7)式におけるt=0の時点としてバリ吹き限界曲線(Ln4)を時間軸tに対して描画する。
なお、図3及び図4(a)〜図4(c)では、高速切換位置と位置Dgとが一致している場合を例示している。オペレータは、高速切換位置が位置Dgになるように高速切換位置の設定を行うことが多い。このような運用を前提として、オペレータが設定した高速切換位置を位置Dgとして用いてもよい。また、別の観点では、オペレータは、バリ吹き限界曲線の圧力が0であるときの時点と、速度Vが上昇する時点とを比較して、高速切換位置が適切か否か判断することができる。
(凝固時間の求め方)
図3の線Ln5で示される凝固時間Ts0の値は、(4)式に肉厚tmの具体的な値を代入して得られる凝固時間Tsの値である。ここで、凝固時間Ts0を求めるための肉厚tm(tm0とする)の値(凝固時間Ts0の算出の基準となるキャビティCa内の部位)は、適宜に選択されてよい。例えば、肉厚tm0は、金型101の合わせ面(隙間C)の直下の肉厚のうち最小のものとされてよいし、製品の一部又は全部の肉厚の平均値とされてもよい。
(制御装置による射出条件の変更)
上記の説明では、オペレータが画像151を視認して射出条件の良否を判断し、射出条件の変更を行う態様について説明した。しかし、制御装置13が圧力波形(Ln2)とバリ吹き限界曲線(Ln4)とを比較して射出条件の良否を判定し、射出条件の変更を行ってもよい。以下の説明では、このような態様についても併せて説明する。
(射出装置の制御系の構成)
図6は、上記のような動作を実現する射出装置9の制御系の構成を示すブロック図である。
制御装置13のCPUがROM及び/又は外部記憶装置に記憶されているプログラムを実行することによって、制御装置13には、各種の動作を行う複数の機能部(55、57、59、61、63、65及び67)が構築される。複数の機能部の動作は、例えば、以下のとおりである。
条件設定部55は、オペレータの入力装置17に対する入力操作に基づいて射出条件を設定する。射出条件は、例えば、既述の低速射出速度、高速射出速度及び高速切換位置等である。
駆動制御部57は、条件設定部55が設定した射出条件に基づいて、各種のセンサの検出値を参照しつつ駆動部25の制御を行う。これにより、射出が行われる。
圧力算出部59は、バリ吹き限界曲線(Ln4)の圧力Pbを算出する。その算出方法は、(7)式等を参照して既に述べたとおりであり、圧力算出部59は、入力装置17から入力された値及び/又は記憶部69に記憶されている値に基づいて圧力Pbを算出する。なお、圧力算出部59を省略し、時間tの値と圧力Pbの値とを対応付けたデータを記憶部69に記憶させておくことも可能である。
時間算出部61は、凝固時間Ts0を算出する。その算出方法は、(4)式等を参照して既に述べたとおりであり、時間算出部61は、入力装置17から入力された値及び/又は記憶部69に記憶されている値に基づいて凝固時間Ts0を算出する。なお、例えば、凝固時間Ts0(線Ln5)の描画を行わない態様においては、時間算出部61は省略されてよい。
表示制御部63は、画像151(図3)の画像データを生成するとともに、画像151を表示装置15の画面に表示させるように画像データを表示装置15に出力する(別の観点では表示装置15を制御する。)。画像データの生成においては、例えば、位置センサ51の検出値、圧力センサ49の検出値、圧力算出部59の算出値及び時間算出部61の算出値が利用される。
支援処理部65は、圧力センサ49によって検出された圧力波形(Ln2)と、圧力算出部59によって特定されたバリ吹き限界曲線(Ln4)との比較に基づいて、射出条件の良否を判定し、必要に応じて各種の処理を行う。各種の処理は、例えば、(表示制御部63を介して)表示装置15の画面に所定の警告画像を表示させる処理、及び/又は(条件設定部55を介して)射出条件を変更する処理である。なお、支援処理部65は、省略されても構わない。
バリ認識部67は、バリの発生の有無を認識し、その認識結果を支援処理部65に出力する。支援処理部65は、その認識結果も踏まえて各種の処理を行う。バリ認識部67がバリの発生の有無を認識する方法は適宜なものとされてよい。例えば、バリ検出部71が設けられ、このバリ検出部71からの信号に基づいてバリの発生の有無を認識してもよい。また、例えば、オペレータが目視によりバリの有無を判定し、入力装置17を介してバリの有無の情報を入力してもよい。
バリ検出部71は、例えば、成形品を撮像してその画像をバリ認識部に入力する。バリ認識部は、その画像と、予め入力されている金型101(別の観点では製品)の情報とを比較して、バリの有無を判定する。なお、バリ認識部67及びバリ検出部71は省略されても構わない。
(処理手順)
図7は、射出装置9(制御装置13)が実行するメイン処理の手順の一例を示すフローチャートである。この処理は、例えば、ダイカストマシン1に電源が投入されたときに開始される。なお、ここでは、射出に係る手順のみを抽出して示しており、型締め等に係る手順は省略されている。
ステップST1〜ST5は、バリ吹き限界曲線(線Ln4)及び凝固時間Ts0(線Ln5)を描画するための準備ステップである。このフローチャートでは、(8)式によって定数aを求める場合を例に取っている。
ステップST1では、制御装置13は、バリが吹いたときの圧力Peの値を取得する。当該値は、例えば、既に述べたように、オペレータにより入力装置17に入力される。
ステップST2では、制御装置13は、ステップST1で取得した圧力Peの値を(8)式に代入して定数aの値を算出する。なお、tx及びKの値、又は1/(2×tx×√K)の値は、製造者により記憶部69に記憶させてもよいし、オペレータにより入力装置17に入力されてもよい。
ステップST3では、制御装置13(圧力算出部59)は、ステップST2で算出した定数aの値を用いて、(7)式によりバリ吹き限界曲線(Ln4)の圧力を算出する。なお、ここでは、定数aの値を算出し、この値を用いて変数tの種々の値についてa×√tの値を算出する手順で説明しているが、実際の計算は、例えば、Pe、tx及びKの値を用いて変数tの種々の値についてPe×1/(2×tx×√K)×√tを算出するようなもの(ステップST2及びST3が一体化したもの)でも構わない。他の式についても同様である。
ステップST4では、制御装置13は、凝固時間Ts0(線Ln5)を算出するための肉厚tm0の値を取得する。この値は、例えば、オペレータにより入力装置17に入力されてもよいし、金型101のCADデータを取得して、このCADデータから制御装置13が特定してもよい。
ステップST5では、制御装置13(時間算出部61)は、ステップST4で取得した肉厚tm0の値を(4)式に代入して凝固時間Ts0を算出する。
ステップST6では、制御装置13(条件設定部55)は、入力装置17に対するオペレータの入力操作に基づいて射出条件を設定する。なお、図7におけるステップST1〜ST6の順番は、図示の便宜上のものである。実際には、いずれのステップが先に実行されてもよいし、オペレータの入力操作に応じてステップの実行順が決定されたり、オペレータの入力操作に応じていずれかのステップが再実行されたりしてよい。
ステップST7は、オペレータが入力装置17に対して成形サイクルの開始を指示することによって開始される。制御装置13(駆動制御部57)は、ステップST6で設定された射出条件に基づいて射出サイクル(成形サイクル)を実行するように射出装置9(ダイカストマシン1)の各部の制御を行う。また、射出サイクルにおいては、ステップST1〜ST5で特定した情報等に基づいて、画像151の生成及び表示も行われる。
ステップST8では、制御装置13は、所定のサイクル終了条件が満たされたか否か判定し、満たされていないと判定したときは、ステップST7を繰り返し、満たされたと判定したときは、メイン処理を終了し、又はステップST1に戻る。サイクル終了条件は、例えば、実行したサイクル数がステップST6で設定されたサイクル数に到達したことである。
なお、この図では、ステップST1〜ST3が射出サイクルの繰り返し前に行われている。ただし、ステップST1〜ST3は、射出サイクルの繰り返し中の適宜な時期に適宜な回数で行われてもよい。この場合、射出サイクルの繰り返し中の適宜な時期に、圧力Peの値がオペレータによって入力されたり、圧力センサ49の検出値及びバリ認識部67の認識結果に基づいて制御装置13によって圧力Peの値が特定されたりしてよい。
図8は、図7のステップST7において制御装置13が実行するサイクル処理の手順の一例を示すフローチャートである。
ステップST11では、制御装置13(駆動制御部57)は、ステップST6で設定された射出条件に基づいて射出を行うように射出装置9の各部の制御を行う。この際、制御装置13は、位置センサ51の検出値及び圧力センサ49の検出値を所定のサンプリング周期で継続的に取得し、速度V、位置D及び圧力Pの時系列データを生成する。
ステップST12では、制御装置13(表示制御部63)は、ステップST11で取得した時系列データ、ステップST3で算出したバリ吹き限界曲線(Ln4)の圧力Pbの時系列データ、及びST5で算出した凝固時間Ts0の値に基づいて、画像151の画像データを生成する。そして、制御装置13は、画像151を表示するように表示装置15に画像データを出力する。
ステップST13では、制御装置13(支援処理部65)は、圧力センサ49によって検出された圧力P(Ln2)がバリ吹き限界曲線(Ln4)の圧力Pbを超える時点が存在するか否か判定する。そして、制御装置13は、肯定判定のときはステップST13の第1処理を実行し、否定判定のときはステップST15に進む。
ステップST15では、制御装置13(支援処理部65及びバリ認識部67)は、バリが発生したか否か判定する。すなわち、ステップST13の否定判定を経由したステップST15では、検出圧力がバリ吹き限界曲線を超えていないにも関わらず、バリが発生したか否かが判定される。この場合、例えば、図5を参照して説明した理論とは別の要因によってバリが発生している蓋然性が高い。そして、制御装置13は、肯定判定のときはステップST16の第2処理を実行し、否定判定のときはステップST16をスキップする。
図9は、図8のステップST14において制御装置13(支援処理部65)が実行する第1処理の手順の一例を示すフローチャートである。
ステップST21では、制御装置13は、所定の警告画像を表示するように表示装置15を制御する。これにより、オペレータは、検出圧力がバリ吹き限界曲線を超えたことを認識しやすくなる。警告画像は、検出圧力がバリ吹き限界曲線を超えていないときに表示されないもの(別の観点では検出圧力がバリ吹き限界曲線を超えていないときの画像とは少なくとも一部が異なる画像)であればよく、所定の文字(文章)を表示するものであってもよいし、所定の図形を表示するものであってもよい。また、警告画像は、単に検出圧力がバリ吹き限界曲線を超えたことを示す画像であってもよいし、検出圧力が下がるような対策を示すものであってもよい。
ステップST22〜ST26では、制御装置13は、検出圧力がバリ吹き限界曲線を超えないように射出条件を変更する。この変更は、例えば、どのような時期に検出圧力がバリ限界曲線を超えたかによって、その内容が決定される。これにより、例えば、検出圧力がバリ吹き限界曲線を超えた要因に応じて射出条件が変更されることになる。具体的には、以下のとおりである。
ステップST22では、制御装置13は、検出圧力がバリ吹き限界曲線を超えた時点が、高速射出中(図3の時点t1以後かつ時点t3よりも前)であるか否か判定する。なお、ステップST22は、溶湯の検出圧力が、金型内圧力センサ49Dによるものではなく、駆動部25に設けられた圧力センサ49(本実施形態ではヘッド側圧力センサ49H(及び必要に応じてロッド側圧力センサ49R))によって検出されるものであることを前提としている。
高速射出中か否かは、例えば、オペレータの設定した高速射出におけるプランジャ23の移動区間を、検出位置の時系列データ(又は時々刻々と行う位置制御用の時系列データ)に基づいて期間に変換し、その期間に検出圧力がバリ吹き限界曲線を超えたか否かを判定すればよい。高速射出と増圧とで制御に相違がない態様においては、例えば、検出速度が所定の閾値まで低下したときを高速射出の終期としてもよい。
そして、制御装置13は、肯定判定のときはステップST23に進み、否定判定のときはステップST24に進む。
ステップST23では、制御装置13は、例えば、射出条件を変更するための処理(条件変更1)を行う。具体的には、例えば、高速射出において検出圧力がバリ吹き限界曲線を超える場合、充填抵抗が高いと考えられる。そこで、制御装置13は、例えば、射出速度が低速射出速度から高速射出速度まで上昇する間の時間(高速加速時間)を長くしたり、及び/又は高速射出速度を下げたりする。
ステップST24では、制御装置13は、バリ吹き限界曲線を超えた検出圧力がサージ圧であるか否か判定する。なお、圧力がサージ圧であるか否かは、例えば、その圧力が検出されたときのプランジャ23の位置が充填完了時の位置から所定範囲内にあるか否か、及び/又はその圧力の前の所定時間内の圧力上昇量及びその圧力の後の所定の時間内の圧力下降量が所定の閾値を超えているか否か(すなわち、その圧力が急激な圧力変化を伴って現れた極大値であるか否か)によって判定されてよい。
そして、制御装置13は、肯定判定のときはステップST25に進み、否定判定のときはステップST26に進む。
ステップST25では、制御装置13は、例えば、射出条件を変更するための処理(条件変更2)を行う。具体的には、制御装置13は、例えば、高速射出速度を下げたり、(減速制御を行っていなかった場合は)減速制御を行うように設定したり、(減速制御を行っていた場合は)減速制御の減速区間を長くしたり、減速制御における速度を低くしたり、及び/又は(本実施形態のように低速・高速射出と増圧とでアキュムレータが分けられている場合は)速度アキュムレータ43Aの射出開始前の圧力を下げたりする。
ステップST26は、結果として、増圧(図3の時点t2よりも後かつ時点t4以前)において、サージ圧以外の要因で検出圧力がバリ吹き限界曲線を超えた場合に対応する。別の観点では、ステップST22及びST24の組み合わせは、実質的に増圧中か否かの判定に相当する。
ただし、検出圧力がバリ吹き限界曲線を超えた時点が増圧中であるか否かを直接的に判定するステップが確認的にステップST26の前に挿入されてもよい。増圧中か否かは、
例えば、オペレータの設定した増圧開始条件(例えばプランジャ23の位置)を、検出値(例えば検出位置)の時系列データに基づいて増圧開始時点に変換し、検出圧力がバリ吹き限界曲線を超えた時点がその増圧開始時点以降であるか否かを判定すればよい。高速射出と増圧とで制御に相違がない態様においては、例えば、検出圧力が所定の閾値まで上昇したときを増圧の始期としてもよい。
ステップST26では、制御装置13は、例えば、射出条件を変更するための処理(条件変更3)を行う。具体的には、制御装置13は、例えば、増圧開始から溶湯圧力が鋳造圧力に到達するまでの増圧時間を長くする。
条件変更1、2及び3は、基本的に互いに異なる処理である。ここでいう互いに異なる処理は、例えば、互いに異なる条件について変更を行うもの、変更する条件の組み合わせが互いに異なるもの、互いに同一の条件について互いに異なる変更量の決定方法で変更を行うものである。なお、条件変更1、2及び3において、一部において共通する条件変更が含まれていてもよい。
このフローチャートでは、警告画像は、圧力がバリ吹き限界曲線を超えた時点がいずれの時期であるかに関わらず表示されている。ただし、ステップST23、ST25及びST26の条件変更と同様に、ステップST22及びST24の判定結果によって異なる警告画像が表示されてもよい。また、この場合において、ステップST23、ST25及びST26の条件変更の処理を行わずに、当該条件変更の処理で説明したような条件変更を促す画像が警告画像に含まれてもよい。
特に図示しないが、図8のステップST16の第2処理は、警告画像を表示したり、及び/又はバリが生じないように射出条件(又は射出条件以外の成形条件)を変更する処理である。第2処理は、第1処理とは異なる処理である。ここでいう異なる処理は、例えば、条件変更1、2及び3の相違で述べたようなもの、及び/又は警告画像の表示内容が異なるものである。ステップST16で表示される警告画像は、ステップST21と同様に、文字であってもよいし、図形であってもよいし、バリの発生を示すものであってもよいし、対策を示すものであってもよい。
検出圧力がバリ吹き限界曲線を超えていないにも関わらずバリが発生している場合、例えば、金型101の隙間Cが熱膨張によって大きくなったことが考えられる。従って、例えば、第2処理では、制御装置13は、金型101の温度を下げるように、金型101に冷媒を流している冷却装置及び/又を金型101に離型剤等を噴出するスプレイ装置の制御条件の設定を変更する。また、例えば、型締力として型締装置7の最大型締力が設定されていない場合においては、制御装置13は、型締力を大きくするように型締装置7の制御条件の設定を変更してもよい。
以上のとおり、本実施形態では、金型101内に成形材料を射出する射出装置9は、溶湯の圧力を検出する圧力センサ49と、画像を表示可能な表示装置15と、表示装置15に画像151を表示させる表示制御部63とを有している。画像151では、圧力センサ49が検出した圧力の経時変化を示す圧力波形(線Ln2)と、バリが吹かない溶湯の圧力の上限値の経時変化を示すバリ吹き限界曲線(線Ln4)とが共通の時間軸(横軸153)及び共通の圧力軸(縦軸155)に対して描画されている。
従って、既に述べたように、例えば、オペレータは、圧力波形とバリ吹き限界曲線とを比較して、射出条件の適否を判断することができる。その結果、例えば、オペレータの負担が軽減される。別の観点では、経験の浅いオペレータであっても、適切な射出条件を設定することができる。特に、減速制御における減速区間及び減速速度の設定において、オペレータの負担が軽減される。近年、溶湯の充填が完了する直前に減速を行うことによってバリの発生を抑制することが行われているが、過減速は品質の低下を招くこと、減速の効果が十分に把握されていないことなどからである。
また、本実施形態では、バリ吹き限界曲線(Ln4)は、tを経過時間、aを定数としたときに、a×√tで表わされる曲線である。
従って、例えば、バリ吹き限界曲線は、図5を参照して説明した理論に基づく普遍性を有している。その結果、例えば、種々の射出装置9及び/又は金型101に対して適用可能であり、また、圧力波形とバリ吹き限界曲線との関係に対する射出条件の変更方法についてノウハウを蓄積することができる。また、例えば、このようなバリ吹き限界曲線は、定数aの値をトライアルの射出又は実験に基づいて適切に設定できれば、時間tを変数として演算によって求めることができるから、バリ吹き限界曲線そのもの(圧力Pbの時系列データ)を実験等によって得る場合に比較して、バリ吹き限界曲線を求めるための負担が軽減される。
また、本実施形態では、射出装置9は、圧力Pe(例えば、バリが吹いたときのサージ圧の最小値、又はバリが吹かなかったときのサージ圧の最大値)の値の入力操作を受け付け可能な入力装置17と、入力装置17に入力された圧力Peの値と所定の値(本実施形態では1/(2×tx×√K))との積を定数aの値としてa×√tの値を算出する圧力算出部59と、を更に有している。表示制御部63は、圧力算出部59により算出されたa×√tの値に基づいてバリ吹き限界曲線が描画された画像151を表示装置15に表示させる。
従って、例えば、バリ吹き限界曲線は、バリが吹いたとき等の圧力Peを入力(更新)するだけで、実際に用いられている金型101等の事情が加味されたものとなる。すなわち、バリ吹き限界曲線の精度が向上する。その結果、例えば、オペレータは、より適切に射出条件を設定することができる。
また、本実施形態では、射出装置9は、溶湯が凝固する時間が製品の肉厚tmの2乗に比例するとしたときの比例定数であるKの値、及びチル層の厚さtxの値を記憶している記憶部69を更に有している。圧力算出部59は、Pe×1/(2×tx×√K)の値を定数aの値としてa×√tの値を算出する。
従って、例えば、実測値が比較的蓄積されている値を用いて、上記の実際に用いられている金型101等の事情を加味した定数aを求めることができる。図5を参照して説明した理論に即していることから、バリ吹き限界曲線の精度が向上することも期待される。
また、本実施形態では、射出装置9は、金型101により形成される製品の所定部位(製品の一部又は全体)の肉厚tm0の値を取得し、その取得した値と、記憶部69が記憶している定数Kの値とを用いて、時間Ts0=K×tm0 2の値を算出する時間算出部61を更に有している。画像151では、溶湯が金型101のゲートに到達してから時間Ts0が経過した時点を示す線Ln5が描画されている。
従って、例えば、オペレータは、所定部位に対応する溶湯が凝固するまでに検出圧力が鋳造圧力に到達したか否かを容易に判断することができる。その結果、射出条件を好適に設定する負担が軽減される。
また、本実施形態では、射出装置9は、圧力波形(Ln2)により示されている圧力がバリ吹き限界曲線(Ln4)により示されている圧力を超える超過時点が存在した場合(ステップST13で肯定判定がなされた場合)に、第1処理(ステップST14)を行う支援処理部65を更に有していてもよい。なお、第1処理は、別の観点では、超過時点が存在しない場合(ステップST13で否定判定がなされた場合)には行われない処理である。
この場合においては、例えば、ステップST14で説明したように、オペレータは、圧力がバリ吹き限界曲線を超えたことを容易に把握したり、及び/又は自ら射出条件を判断及び変更する必要がなくなる。従って、さらにオペレータの負担が軽減される。
また、本実施形態では、射出装置9は、バリの発生を認識するバリ認識部67を更に有している。支援処理部65は、上記の超過時点が存在せず、かつバリ認識部67によってバリの発生が認識されている場合に、バリ認識部によってバリの発生が認識されていない場合(ステップST15で否定判定がなされた場合)、及び上記の超過時点が存在する場合(ステップST13で肯定判定がなされた場合)のいずれにおいても行われない第2処理(ステップST16)を行う。
従って、例えば、オペレータは、図5を参照して説明した理論とは別の事由によってバリが生じていることを容易に把握できたり、及び/又は自ら射出条件等を判断及び変更する必要がなくなる。従って、さらにオペレータの負担が軽減される。
本発明は、以上の実施形態及び変形例に限定されず、種々の態様で実施されてよい。
成形機(成形機)は、ダイカストマシンに限定されない。例えば、成形機は、他の金属成形機であってもよいし、樹脂を成形する射出成形機であってもよいし、木粉に熱可塑性樹脂等を混合させた材料を成形する成形機であってもよい。また、成形機は、横型締横射出に限定されず、例えば、縦型締縦射出、横型締縦射出、縦型締横射出であってもよい。また、成形材料は、液状のものに限定されず、固液共存状態のものであってもよい。
射出装置は、液圧式のものに限定されない。すなわち、プランジャを駆動する駆動部は、射出シリンダに限定されない。例えば、射出装置(駆動部)は、射出シリンダと電動機とを含むハイブリッド式のものであってもよいし、液圧機器を含まない電動式のものであってもよい。電動機は、リニアモータであってもよいし、回転式のものであってもよい。また、射出シリンダは、増圧式のものに限定されず、増圧シリンダ部及び増圧ピストンを有さない単胴式のものであってもよい。アキュムレータは、速度用と増圧用とに分かれていなくてもよい。
射出は、低速射出及び高速射出を有するものに限定されず、例えば、射出開始から増圧開始まで、射出速度が一定であったり、連続的に上昇したりするものであってもよい。また、低速射出又は高速射出等において、多段変速が行われてもよい。
実施形態で示した計算式によってバリ吹き限界曲線が算出される場合において、そのバリ吹き限界曲線で求められた圧力に対して適宜な補正係数が乗じられたり、補正定数が加算されたりしてもよい。また、計算式の内部に適宜な補正係数及び補正定数が導入されてもよい。
実施形態では、バリ吹き限界曲線が表示装置に表示された。ただし、バリ吹き限界曲線を表示せずに、検出圧力がバリ吹き限界曲線を超えたときに所定の警告画像を表示したり、射出条件を変更したりすることも可能である。